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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01R
管理番号 1352751
審判番号 不服2018-7134  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-25 
確定日 2019-07-16 
事件の表示 特願2013-266750「プロテクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 2日出願公開、特開2015-122272、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年12月25日の出願であって、平成29年8月24日付けで拒絶理由が通知がされ、同年9月25日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ、平成30年1月22日付けで拒絶理由(最後の拒絶理由)が通知がされ、同年2月9日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、同年4月23日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年5月25日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
なお、平成30年2月9日の手続補正は、明細書の段落【0006】の誤記を補正するだけのものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1?7に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献
1.実願平1-99750号(実開平3-38920号)のマイクロフィルム
2.特開平2-148584号公報
3.特開2013-12457号公報
4.特開平5-315028号公報
5.特開2011-44327号公報
6.特開平11-176520号公報
7.特開平11-67367号公報

なお、原査定は、引用文献3を主引用例としている。


第3 本願発明
本願請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明3」という。)は、平成29年9月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりである。
「 【請求項1】
電子機器の外周を被うプロテクタであって、
合成樹脂材より形成された樹脂本体部と、導電性材より形成され、前記樹脂本体部の内面に設けられた導電性皮膜層とを備え、
前記樹脂本体部の取付部には、ボルト挿通穴を有するカラーが埋設され、
前記カラーは、導電性材より形成され、前記樹脂本体部側の表面より突出し、
前記カラーの内面にも前記導電性皮膜層が形成されたことを特徴とするプロテクタ。
【請求項2】
請求項1記載のプロテクタであって、
前記樹脂本体部は、着色された合成樹脂材より形成されたことを特徴とするプロテクタ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のプロテクタであって、
前記電子機器は、コネクタ装置であることを特徴とするプロテクタ。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。
「前記ケース21は、例えばプラスチック成形による下ケース31と上ケース32とからなり、少なくとも内面には高周波をシールドするための導電被覆33を施している。」(明細書18ページ3行?6行)(下線は当審で付与した。以下同様。)

2 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「本発明は、シールド導体を備えるケーブルを、ボードに接続するEMI対策用コネクタにおいて、
プラスチックに金属のメッキを施して成り、前記ケーブルを収容し、前記ケーブルのシールド導体と電気的に接触するコネクタカバーと、
プラスチックに金属のメッキを施して成り、前記コネクタカバーを前記ボードに案内し、前記ボードのアースに接触しているロケーティングハウジングと、
弾性体に金属のメッキを施して成り、前記コネクタカバーと前記ロケーティングハウジングを確実に、電気的に接触させるばねとを有することを特徴としている。」(2ページ左下欄2行?14行)

(2)「コネクタカバー23,24は、プラスチックを成型したものである。そして、コネクタカバー23,24の全体に無電解ニッケルメッキ又は電気ニッケルメッキが施してあり、コネクタカバー23,24が導電性をもっている。」(2ページ右下欄17行?3ページ左上欄1行)

3 引用文献3
原査定の拒絶の理由において、主引用例として引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0006】
上述の従来のシールドコネクタ付き電線101では、・・・(中略)・・・また、機器や車両の振動等により編組140が他の部品に衝突した場合、強度的に金属板製のシールドシェル112、122などより弱い編組140が損傷するおそれがあった。」

(2)「【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 可撓性を有する電線の両端に、前記電線の導体に接続された端子と、該端子を保持する絶縁材料製のハウジングと、該ハウジングの外側を覆うシールドシェルとからなるシールドコネクタが取り付けられると共に、これら両端のシールドコネクタ間の前記電線の外側を覆うようにシールドカバーが設けられたシールドコネクタ付き電線において、
前記電線の外側を覆うシールドカバーとして、2つの筒状の金属板製のシールドカバーが使用され、該2つの筒状のシールドカバーの各一端が、前記電線の両端の各シールドコネクタのシールドシェルにそれぞれ固着され、これらシールドカバーの各他端がそれぞれ自由端とされ、これらシールドカバーの自由端が互いに突き合わせられるか、あるいは、相互にラップさせられることにより、両方の筒状のシールドカバーの自由端間のシールド性が確保されていることを特徴とするシールドコネクタ付き電線。」

(3)「【0032】
このシールドコネクタ付き電線1は、可撓性を有する電線30の両端に、電線30の導体に接続された端子16、26と、端子16、26を保持する絶縁材料製のハウジング11、21と、ハウジング11、21の外側を覆うシールドシェル12、22とからなるシールドコネクタ10、20を取り付け、これら両端のシールドコネクタ10、20間に露出した電線30の外側を覆うようにシールドカバー13、23を設けたものである。」

(4)「【0033】
各シールドコネクタ10、20の端子16、26の基端部17、27は、圧着等の手段により電線30の導体の端末に接続されてハウジング11、21内部に収容され、端子16、26の先端側は、ハウジング11、21の外に露出して、機器側のコネクタ端子(図示せず)と相互に接続できるようになっている。また、シールドシェル12、22には、コネクタの取付孔を有するアース端子12a、22aが一体に設けられている。ここでは、図1?図3において、上側のシールドコネクタ10を上側コネクタ、下側のシールドコネクタ20を下側コネクタと呼んで区別する。図1及び図2(a)に示すように、上側コネクタ10は、図示しない機器側コネクタに対する接続方向を側方に向けて配置されており、下側コネクタ20は、図示しない機器側コネクタに対する接続方向を下方に向けて配置されている。また、両シールドコネクタ10、20間を接続する電線30は、途中でへの字状に屈曲している。」

(5)「【0034】
電線30の外側を覆うシールドカバーとしては、上側と下側の2つの筒状の金属板製のシールドカバー13、23が使用されている。上側のシールドカバー13の上端は、上側コネクタ10のシールドシェル12に固着されており、上側のシールドカバー13の下端は自由端とされている。また、下側のシールドカバー23の下端は、下側コネクタ20のシールドシェル22に固着されており、下側のシールドカバー23の上端は自由端とされている。そして、上側のシールドカバー13の下端である自由端と、下側のシールドカバー23の上端である自由端が、互いに突き合わせられるか、あるいは、相互にラップさせられることにより、上下に分割された上側と下側の筒状のシールドカバー13、23の自由端間のシールド性が確保されている。」

上記の記載事項及び図面の記載を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献3には、実施例として次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「電線30並びに電線30の導体に接続された端子16及び端子26の外側を覆う、取付孔を有するアース端子12a、22aが設けられた金属板製のシールドシェル12、22及び金属板製のシールドカバー13、23。」

4 引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0019】さらに、シェル1Aはプラスチック成型体の着色モールド加工により、図4(A)に示すように、表面に部品ナンバーや文字等の浮彫り1Eを形成することができる。また、シェル1Aの表面を着色することもできる。したがって、シェル1Aを確認するだけで、コネクタを視覚的に識別することができる。」

5 引用文献5
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0017】
シールドコネクタ40は、合成樹脂製のハウジング41、第一雄端子(本発明の端子に相当)61、第二雄端子81、シールリング120、シールドシェル140、ナット160などを備えている。ハウジング41は合成樹脂製であって、図3に示すように基部45と、基部45の表面側(図3の上面側)において上方に突出形成されたコネクタ嵌合部51、61と、基部45の裏面側(図3の下面側)において下方に突出形成された取付凸部100とを備え、これらを一体形成したものである。
【0018】
ハウジング41の基部45は、一定の厚みをもった平坦な形状をしている。基部45は平面方向から見ると、図4に示すように左右方向に長い横長な形状をしている。この基部45の左右両端部には、ボルト挿通孔47が形成されている。このボルト挿通孔47は、蓋部材20の螺子孔27に対応するものであり、内側に金属製のカラーCを取り付けている。尚、このカラーCの厚みは基部45の厚みに比べて、幾らか厚い寸法設定になっている。」

(2)前記「(1)」の「このカラーCの厚みは基部45の厚みに比べて、幾らか厚い寸法設定になっている。」との記載と、【図2】の記載から、金属製のカラーCは、ハウジング41の基部45の表面より突出していることがわかる。

6 引用文献6
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0008】この機器直付用シールドコネクタ1は、図1?図2の如く一対の円筒形のコネクタハウジング2と、コネクタハウジング2を突設した垂直壁3と、垂直壁3を立設したフランジ部4と、フランジ部4の下側に続く基台5とを含む合成樹脂製のハウジング本体6と、ハウジング本体6の各部位2,3,4の表裏面に形成された導電メッキ層7(図5,図6)と、フランジ部4の表面側に被着された導電金属製の薄板状の接触プレート(シールドプレート)8,9と、接触プレート8,9の上に被着された導電金属製の厚板状の補強プレート10,11とを備えている。」

(2)「【0013】フランジ部4と各接触プレート8,9と各補強プレート10,11との要所にはカラー挿通孔24?28が同心に設けられ、カラー挿通孔24?28に導電金属製のカラー29が圧入されている。それにより、カラー29と各プレート8,9,10,11とフランジ部4の導電メッキ層7とが導通し、カラー29が機器30側のアース導体(図示せず)に接触し、且つボルト締めされることで、強いアース接続性が発揮される。カラー29はボルト受け面兼機器側押圧用の上端鍔部29aを有している。各接触プレート8,9及び補強プレート10,11はカラー29の圧入で本係止され、カラー29に挿通したボルト(図示せず)でフランジ部4と共に機器30側に固定される。
【0014】また、フランジ部4の取付座面4a側には接触プレート8,9と一体の弾性接触片31(図示せず),32が設けられており、弾性接触片31,32が機器30側のアース導体に弾性的に接触することで、高いアース接続性が発揮される。勿論、フランジ部裏面の導電メッキ層7も同時にアース導体に接触し、導電メッキ層7と弾性接触片31,32との両方で確実なアース導通が行われる。
【0015】シールド経路は図1のシールドコンタクト13⇒シールドリング12⇒コネクタハウジング2⇒垂直壁3⇒両接触プレート8,9⇒両接触プレート8,9の弾性接触片31,32⇒機器30の順と、シールドコンタクト13⇒シールドリング12⇒コネクタハウジング2⇒垂直壁3⇒フランジ部4の導電メッキ層7⇒機器30の順の二経路で同時に行われる。これにより、経時的変化のない常に安定したアース接続が可能となる。」

(3)【図2】を参照すると、カラー29の上端鍔部29aは、合成樹脂製のハウジング本体6のフランジ部4の表面より突出していることがわかる。

7 引用文献7
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】複数の信号用の端子ピンと複数の金属製の導電体とを交互に配置して絶縁性の合成樹脂からなる保持体に貫通させてあり、
上記保持体の外面に上記各導電体に到達する穴部が設けてあり、
上記各導電体の突出部の周辺を含む上記保持体の外面及び上記各穴部の内周面及び上記各穴部の底面である上記各導電体の露出面にめっきが施されて導通してあることを特徴とする電子部品。」

(2)「【0002】
【従来の技術】近年、電子部品が用いられる電気機器の高性能化により信号回路の端子が多極化し、端子ピンの数も増え、また信号スピードも極めて早くなっているために、信号間に混線が発生する危険性が高まり、このノイズ対策が重要になっている。その対策の1つとして、信号用の端子ピンの間にアースピンを設け、この複数本のアースピンを全て導通させてクロストークの防止の効率を高めるようにしている。複数本のアースピンを全て導通させる構成として、端子ピン及びアースピンを支持している支持体の表面に、端子ピンの周辺を除いてめっきを施し、このめっきを介して複数本のアースピンの全てを導通させるものがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、前記の従来の構成では、アースピンとして金属製の導電体のピンが用いられることが多いので、例えば雌型のコネクタを着脱するに際して、アースピンの基部が金属の弾性変形により撓んで着脱され、コネクタの着脱の都度これが繰り返されるので、アースピンの基部に応力が集中することになり、めっきに亀裂を生じ、アースピンとめっきとの導通の信頼性が損なわれ、ひいては信号間にクロストークを生じるという問題点があった。」

(3)「【0006】
【発明の実施の形態】図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1及び図2に本発明に係る電子部品の一例としてのコネクタを示している。この構造は、3本の信号用の端子ピン2…と2本の金属製の導電体であるアースピン3…とを交互に配置し、この5本のピンを絶縁性の合成樹脂からなる保持体1に貫通してなるものである。図2に示すように、保持体1の裏面には穴部4,5が設けてあり、一方の穴部4は端子ピン2に到達し、他方の穴部5はアースピン3に到達するようにその深さが設定してある。
【0007】2本のアースピン3の両端は保持体1の外面に突出しているので、この突出端の周辺の保持体1の外面にめっき6を施すことにより、2本のアースピン3を導通させてある。 ・・・(後略)」

(4)「【0008】このような構成であるので、例えば図3において、端子ピン2及びアースピン3の右端部でこのコネクタが図示しない回路基板に実装された後で、端子ピン2及びアースピン3の上方へ突出している端部で2点鎖線で示しているようなコネクタCを着脱したとすると、アースピン3は金属製であるので弾性変形して、着脱に際してその基部で容易に撓み、コネクタCの雌型に挿入された後はその側壁に弾接して導通する。この着脱の際の撓みが繰り返されると、矢印aの個所に亀裂が入り、最後にはめっき6とアースピン3との導通がこの位置で断たれてしまう。しかし、めっき6bとアースピン3とは穴部5の底面の広い面積で導通しており、しかもこの位置ではアースピンが撓むことはないので、しっかりと元通りの導通状態が確保される。従って端子ピン2に信号が送信されると、端子ピン2から電磁波が漏れ出てしまい、アースピン3を間に設けていない場合にはクロストークを生じてしまうが、間に導通状態に保たれたアースピン3を介在させてあるので、この電磁波はアースピン3に確実に効率良く吸収され、クロストークの発生を防止することができる。」

(5)「【0015】(d)次に、図4(d)に示すように、めっき6,6a,6bを付けるに際して無電解銅めっきする。めっきに際して、奥野製薬工業株式会社のDPC-700無電解銅めっき液を使用した。このめっき液は、A液を100ml/l、B液を100ml/l、C液を2ml/lの割合で混合したものである。このめっき液を25℃に保ち、保持体1を20時間浸漬し、表裏両面に厚さ40μmの銅めっきを析出させた。この銅めっきは、めっきレジストが形成されていない保持体1の外面のめっき6から、穴部5の内周面のめっき6a及び穴部5の底面のアースピン3の露出面のめっき6bまで、さらには図3に示すようなアースピン3の両端の保持体1から突出している部分にまで施され、全て導通して形成されている。めっきを形成した後で強制乾燥する。「ザレック」の場合、この強制乾燥によりめっき密着力を格段に向上させることができる。」

(6)「【0020】複数の信号用の端子ピンと複数の金属製の導電体とが交互に配置されて絶縁性の合成樹脂からなる保持体に貫通し、複数の導電体はめっきを介して導通しているので、端子ピンから発した電磁波はアースピン3に確実に効率良く吸収され、クロストークの発生を防止することができる。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
本願の明細書の「図1?図3に示すように、電子機器であるコネクタ装置1は、第1コネクタ2と、第1コネクタ2に電線Wを介して接続された第2コネクタ10と、第1コネクタ2、電線W及び第2コネクタ10の外周を被うプロテクタ20とを備えている。」(段落【0014】)との記載に基づけば、本願発明1でいうところの「電子機器」は、電線を介して接続されたコネクタ装置を指すことから、引用発明の「電線30並びに電線30の導体に接続された端子16及び端子26」は、本願発明1の「電子機器」に相当する。
また、引用発明の「電線30並びに電線30の導体に接続された端子16及び端子26の外側を覆う」ことは、本願発明1の「電子機器の外周を被う」ことに相当し、
引用発明の「金属板製のシールドシェル12、22及び金属板製のシールドカバー13、23」は、本願発明1の「プロテクタ」に相当する。

以上のことから、本願発明1と引用発明とは次の点で一致する。
「電子機器の外周を被うプロテクタ。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点]
本願発明1においては、プロテクタが、「合成樹脂材より形成された樹脂本体部と、導電性材より形成され、前記樹脂本体部の内面に設けられた導電性皮膜層とを備え、前記樹脂本体部の取付部には、ボルト挿通穴を有するカラーが埋設され、前記カラーは、導電性材より形成され、前記樹脂本体部側の表面より突出し、前記カラーの内面にも前記導電性皮膜層が形成され」との構成を備えているのに対して、
引用発明においては、取付孔を有するアース端子12a、22aが設けられているシールドシェル12、22及びシールドカバー13、23は、金属板製であり、上記の構成を備えていない。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。

ア 引用文献1及び2について
引用文献1には、プラスチック成形による下ケース31及び上ケース32の内面に、導電性被覆33を設けることが記載されている。
また、引用文献2には、プラスチックを成形したコネクタカバー23、24に金属のメッキを施すことが記載されている。
すなわち、引用文献1及び2は、本願発明1の「合成樹脂材より形成された樹脂本体部と、導電性材より形成され、前記樹脂本体部の内面に設けられた導電性皮膜層とを備え」ることに相当する構成について開示している。

イ 引用文献4について
引用文献4には、プラスチック成形体からなるシェル1Aの表面を着色することが記載されている。

ウ 引用文献5について
引用文献5には、合成樹脂製のハウジング41の基部45に、金属製のカラーCを取り付けること、及びカラーCはハウジング41の基部45の表面より突出していることが記載されている。
引用文献6には、合成樹脂製のハウジング本体6のフランジ部4に、ボルトを挿通するカラー29が圧入され、導電性金属製のカラー29によりアース接続すること、及びカラー29の上端鍔部29aは、合成樹脂製のハウジング本体6のフランジ部4の表面より突出していることが記載されている。
すなわち、引用文献5及び6は、本願発明1の「前記樹脂本体部の取付部には、ボルト挿通穴を有するカラーが埋設され、前記カラーは、導電性材より形成され、前記樹脂本体部側の表面より突出し」ていることに相当する構成について開示している。

エ 引用文献7について
引用文献7には、絶縁性の合成樹脂からなる保持体1に支持された複数本のアースピン3を全て導通させるために、保持体1の表面にアースピン3に到達する穴部5が設けられ、保持体1の外面のめっき6、穴部5の内周面のめっき6a、及び穴部5の底面のアースピン3の露出面のめっき6bを導通させることが記載されており、合成樹脂製の本体の表面と複数のアース導体の表面とをめっき皮膜で覆い導通させることを開示しているといえる。

オ 相違点に係る本願発明1の構成の作用効果について
本願の明細書の段落【0020】?【0027】の記載によれば、相違点に係る本願発明1の構成について、それぞれ以下の作用効果を奏していると認められる。

すなわち、相違点に係る本願発明1の構成の「合成樹脂材より形成された樹脂本体部」及び「樹脂本体部の内面に設けられた導電性皮膜層」は、プロテクタを軽量化するとともに、その際のシールド性能を担保しているといえる(段落【0022】、【0023】参照)。
また、相違点に係る本願発明1の構成の「樹脂本体部の取付部には、ボルト挿通穴を有するカラーが埋設され、前記カラーは、導電性材より形成され、前記樹脂本体部側の表面より突出し」ている構成は、カラーのボルト挿通穴にボルトが挿通され、樹脂本体部が被取付部に固定されるときにボルト締結力等による樹脂本体部の割れを防止しているといえる(段落【0027】参照)。「カラー」の構成は、本体部が樹脂製であることを前提としたものといえる。
さらに、相違点に係る本願発明1の構成の「カラーの内面にも前記導電性皮膜層が形成され」ることは、導電性皮膜層から、カラー、ボルト、被取付部を介したアース経路を確保するためのものといえ(段落【0021】、【0027】)、当該構成は、樹脂本体部の内面に導電性皮膜層が設けられ、取付部にカラーが設けられていることを前提としたものといえる。

カ 引用発明に引用文献1、2及び4?7に記載された事項を適用することについて
引用発明の金属板製のシールドシェル12、22及びシールドカバー13、23を、引用文献1及び2に記載された事項に基づいて、樹脂製本体部とその内面に導電性皮膜層を設けた構成を採用することは、軽量化が一般的な課題であることを考慮すれば、当業者が容易に想到し得たといえるかもしれない。

次に、引用発明への、引用文献5及び6に記載された事項の適用を検討するに、引用発明のシールドシェル12、22及びシールドカバー13、23が金属板製であることから、引用文献5及び6に記載された、樹脂製本体部の取付部にボルト挿通孔を有するカラーを埋設するとの事項を直接適用することは、動機付けがあるとはいえず、引用発明に引用文献1及び2に記載の事項を適用し、樹脂製本体部の構成とした上で、引用文献5及び6に記載された事項を適用することになり、そのような適用は、もはや当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

同様に、引用発明への、引用文献7に記載された事項の適用は、引用発明に引用文献1及び2に記載の事項を適用したものに、引用文献5及び6に記載された事項を適用し、樹脂製本体部、その内面の導電性皮膜及び取付部にカラーを埋設する構成を得ることができた上で、引用文献7に記載された事項を適用することになり、そのような適用は、その適用可否を措くとしても、もはや当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

さらに、引用文献7に記載された事項は、複数のアース導体同士の導通を図るために、アース導体と樹脂製本体の表面とをめっき皮膜で覆うものであり、電磁波を遮蔽するためのシールドとなる導電性皮膜をアース接続することを示唆するものではなく、引用発明を、樹脂製本体部、その内面の導電性皮膜、及び、取付部のカラーを備えた構成とすることができたとしても、引用文献7に記載された事項を適用する動機付けはないといえる。

引用文献4は、プラスチック成型体の表面を着色することを示すだけであり、相違点に係る本願発明1の構成を示唆するものではない。

よって、引用発明を、相違点に係る本願発明1の構成とすることは、引用文献1、2及び4?7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

キ 小括
以上のとおりであるので、本願発明1は、引用発明、並びに引用文献1、2及び4?7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2及び3について
本願発明2及び3は、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同じ理由により、引用発明、並びに引用文献1、2及び4?7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?3は、引用発明、並びに引用文献1、2及び4?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-01 
出願番号 特願2013-266750(P2013-266750)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山田 由希子  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 小関 峰夫
内田 博之
発明の名称 プロテクタ  
代理人 三好 秀和  
代理人 三好 秀和  

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