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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B23Q
管理番号 1352945
審判番号 無効2017-800126  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-09-13 
確定日 2019-07-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第5337323号発明「位置検出装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5337323号の請求項1ないし7に係る発明についての出願の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成23年10月 7日 特願2011-222846号(以下「原出願
」という)の出願
平成25年 7月 5日 原出願の一部を新たに本件特許に係る特許出願
(特願2013-141658号、以下「本件
出願」という)として出願
平成25年 8月 9日 本件特許の特許権の設定登録
平成25年11月 6日 無効審判(無効2013-800210号)の
請求
平成26年 8月 4日 訂正請求書の提出
平成26年12月 8日付け審決(「請求のとおり訂正請求を認める。本件
審判の請求は、成り立たない。」との結論)
平成27年 2月12日 無効審判(無効2015-800025号)の
請求
平成28年 3月28日付け審決(「本件審判の請求は、成り立たない。」
との結論)
平成28年 4月28日 無効2015-800025号の審決の取消し
を求める訴訟(平成28年(行ケ)第1010
2号審決取消請求事件)を請求人が提起
平成29年 2月21日 「原告の請求を棄却する。」との主文の判決
平成29年 9月13日 本件無効審判の請求
平成29年12月25日 審判事件答弁書の提出
平成30年 1月26日付け審理事項の通知
平成30年 2月26日 請求人の口頭審理陳述要領書の提出
平成30年 2月26日 被請求人の口頭審理陳述要領書の提出
平成30年 3月13日 被請求人の口頭審理陳述要領書(2)の提出
平成30年 3月14日 請求人の口頭審理陳述要領書(2)の提出
平成30年 3月14日 口頭審理

第2 本件特許の請求項1ないし7に係る発明
上記「第1 手続の経緯」のとおり、平成26年8月4日の訂正請求を認めた平成26年12月8日付け審決は既に確定しているから、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下「本件特許発明1」等という)は、上記平成26年8月4日付け訂正請求の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
シリンダ本体と、このシリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と、この出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の油室とを有する油圧シリンダにおける前記出力部材の位置を検出する位置検出装置であって、
前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路と、このエア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備え、
前記開閉弁機構は、前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着された弁体と、前記油室の油圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する油圧導入室と、前記油室と前記油圧導入室とを連通させる油圧導入路とを備え、
前記出力部材が所定の位置に達したときに、前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え、前記エア通路のエア圧を介して前記出力部材が前記所定の位置に達したことを検知可能に構成したことを特徴とする位置検出装置。
【請求項2】
前記油室に油圧が供給され前記出力部材が所定の位置にない状態において、前記開閉弁機構は前記エア通路を外界に開放する開弁状態を維持し、
前記油室の油圧がドレン圧に切り換えられ且つ前記出力部材が前記所定位置に達した時に、前記開閉弁機構は、前記エア通路を閉じる閉弁状態に切り換えられ、当該切換えにより前記開閉弁機構に対して前記一端部側に位置する前記エア通路の圧力を上昇させ、当該圧力が設定圧以上に上昇したことに基づいて前記出力部材が所定の位置にあることが検知され、
前記出力部材が前記所定の位置から移動開始したときに、前記開閉弁機構は、前記エア通路を外界に開放する開弁状態に切換えられ、当該切換えにより前記開閉弁機構に対して前記一端部側に位置する前記エア通路の圧力を低下させることを特徴とする請求項1に記載の位置検出装置。
【請求項3】
前記開閉弁機構は、前記シリンダ本体に形成された前記装着孔に挿入螺合され且つ前記弁体が進退可能に挿入されたキャップ部材を備え、
前記キャップ部材に、前記エア通路の一部が形成され、前記キャップ部材と前記弁体との間に前記油圧導入室が形成されたことを特徴とする請求項2に記載の位置検出装置。
【請求項4】
前記開閉弁機構の油圧導入路は、前記弁体の軸心近傍部に貫通状に且つ前記弁体の装着方向と平行に形成されたことを特徴とする請求項2に記載の位置検出装置。
【請求項5】
前記弁体は、前記出力部材の進退方向と直交する方向に進退可能に設けられたことを特徴とする請求項2に記載の位置検出装置。
【請求項6】
前記弁体は、前記出力部材の進退方向に進退可能に設けられたことを特徴とする請求項2に記載の位置検出装置。
【請求項7】
前記所定の位置が、前記出力部材の上昇限界位置、下降限界位置のうちの何れかの位置であることを特徴とする請求項2に記載の位置検出装置。」

第3 当事者の主張
(以下、甲第○号証及び乙第○号証を、それぞれ「甲○」及び「乙○」という。また、行数により記載箇所を特定する場合には、空白行は行数に含めない。)

1. 請求人の主張する請求の趣旨及び理由
審判請求書、平成30年2月26日付け口頭審理陳述要領書(以下「請求人要領書」という)及び平成30年3月14日付け口頭審理陳述要領書(2)によれば、請求人の主張する請求の趣旨は、本件特許発明1ないし7についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めるものである。そして、その無効理由1の概要は、本件特許発明1ないし7は、甲3-1ないし甲3-4から把握される公然実施発明(以下「甲3発明」という)に甲4に記載された事項、甲5又は甲11に記載された事項並びに従来周知の事項を適用することで、当業者が容易に想到するものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反する無効理由がある、というものである。
以下、無効理由1について、請求人の主張をまとめて記載する。

(1) 本件特許発明1について
甲3-1ないし甲3-4によれば、請求人は、本件特許の原出願日(2011年10月7日)前である、2010年9月27日(甲3-3に記載された出荷日)には、以下の甲3発明を完成させ、公然に実施していた。
「シリンダ本体と、このシリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と、この出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の油室とを有する油圧シリンダにおける前記出力部材が所定の位置に達したであろうことを確認する確認バルブであって、
前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路と、このエア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備え、
前記開閉弁機構は、前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着された弁体と、前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持するバネを備え、
前記出力部材が所定の位置に達したであろうときに、前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え、前記エア通路のエア圧を介して前記出力部材が前記所定の位置に達したであろうことを確認可能に構成した
ことを特徴とする確認バルブ。」

甲3発明と本件特許発明1とは、下記の点で相違し、その余の構成は一致している。
<相違点1>
開閉弁機構の使用目的について、本件特許発明1は「出力部材が所定の位置に達したことを検知可能に構成したことを特徴とする位置検出装置」であるのに対し、甲3発明は「出力部材が所定の位置に達した(出力部材が下降限界位置に動作した)であろうことを確認可能に構成したことを特徴とする確認バルブ」であること。
<相違点2>
弁部材を出力部材側に進出させる構成について、本件特許発明1は「(油室から油圧導入路を介して導入した圧油による)油圧導入室の油圧力」により弁体を進出させるのに対し、甲3発明は「バネ力」のみで弁体を進出させていること。

相違点1については、被請求人は、本件特許に基づく侵害訴訟(大阪地方裁判所平成27年(ワ)第3134号)において、甲3発明と同様の「ロック動作確認バルブ」等を備える請求人製品について、当該「ロック動作確認バルブ」等が本件特許の「位置検出装置」に相当すると主張し(甲19:訴状 15頁22?25行)、大阪地方裁判所も、当該主張を認める暫定的な判断をしている。
よって、被請求人において、甲3発明の「確認バルブ」と、本件特許発明の「位置検出装置」とが異なる技術事項であると主張することは、信義則に反して許されない。
以上から、相違点1は、実質的に存在しないと判断するほかない。

相違点2については、甲4の図11の弁機構の構成は、弁体を出力部材側に進出させる構成について、「(油室から油圧導入路を介して導入した圧油による)油圧導入室の油圧力」により弁体を進出させるものであり、相違点2における本件発明と同一の構成である。
すなわち、甲4には、下記の技術事項(以下「甲4事項」という)が開示されている。
「開閉弁機構の弁部材を出力部材側に進出させる構成について、「(油室から油圧導入路を介して導入した圧油による)油圧導入室の油圧力」により弁体を進出させ、
前記開閉弁機構の油圧導入路は、前記弁体の軸心近傍部に貫通状に且つ前記弁体の装着方向と平行に形成されたこと」
他方、甲4の図10の弁機構の構成は、弁体を出力部材側に進出させる構成について、「バネ」により弁体を進出させるものであり、相違点2における甲3発明と同一の構成である。
また、甲4には、「前記の二方パイロット弁100,101は、図10に示すように、バネ[翻訳注記:図10に示されたバネ(参照数字なし)]の押し力が、ピストン[翻訳注記:図10のパイロット弁100のピストン(参照数字なし)]の反対側に作用する圧力に基づく力よりも大きくなるように構成すればよい。上記バネの押し力に代えて、図11に示されたような差圧ピストン[翻訳注記:図11のパイロット弁100のピストン(参照数字なし)]の作用に基づく復帰動作を備えたスライド弁を使用可能である。」との記載がある(甲4 訳文6ページ24?29行)。
そして、甲4事項と、甲3発明及び本件特許発明1とは、いずれも、弁機構によって開閉される流路の圧力変化を介して出力部材の動作を確認する、または、位置を検出するという点で技術分野が同一であり、シリンダ本体に組み込まれた「弁体」をシリンダ内部の出力部材側に進出させるという課題も同一である。
さらに、甲4には、前述のとおり、弁体をシリンダの油室に進出させるために、バネ力のみを利用することも(図10)、上記の油圧のみを利用すること(差圧ピストン)も可能である(図11)と明示している。
すなわち、甲3発明(バネ力のみによる弁体の進出)を甲4の上記技術事項(油圧シリンダの油圧による弁体の進出)に置換する具体的な示唆がある。
以上の次第であるから、甲4には、相違点2に係る本件特許発明1と同一の構成が開示されており、当業者は、甲3発明に甲4事項を適用する具体的な動機づけがあるから、相違点2の構成に容易に想到する。

以上から、当業者は、甲3発明に甲4事項を適用して、本件特許発明1に容易に想到するから、本件特許発明1には、特許法第29条第2項に違反する無効理由がある。
(請求書12ページ3行?32ページ11行)

甲3-2に記載の「検出ロッド」を有する弁機構に代え、甲4の図11に記載の弁機構を適用するにあたり、検出ロッドの大径部の下側に油圧導入室を設けるとともに、その検出ロッドに油圧導入路を設ける必要があるが、当業者にとって、どこにどのように油圧導入室及び油圧導入路を設けるかは単に設計事項にすぎない。
また、上記の適用を行うための課題が周知であることは、審判請求書で主張したとおりである。
甲3発明に甲4事項を適用すると、甲3の検出ロッド(弁体)の断面積の最も大きいところに作動流体を導入させ、弁体を進出させることを容易に想到する。
また、甲4と同様に弁体の下方に油圧導入室を設けると考えたとしても、甲4の図11と同様に、エア通路の一部として、弁体の外周に開閉用の溝を設けることに容易に想到する。
そもそもエア通路は流体の通路である以上、設計ないしは改造に伴って適宜所望の位置に設けることは、技術常識であり、当業者であれば当然に想到する。
それゆえ、本件発明においてもシリンダ本体内にエア通路が形成されていることは発明特定事項となっているものの、具体的なエア通路の形状やルート(取り回し)は特定されていないのである。
(請求人要領書4ページ最終行?7ページ下から5行)

(2) 本件特許発明2について
甲3発明と本件特許発明2との間には、上記(1)で指摘した相違点1及び相違点2と同一の相違点が存在し、その余の構成は一致している。
以上から、本件特許発明1と同様に、当業者は、甲3発明に甲4事項を適用して、本件特許発明2に容易に想到するから、本件特許発明2には、特許法第29条第2項に違反する無効理由がある。
(請求書32ページ12?19行)

(3) 本件特許発明3について
甲3発明と本件特許発明3との間には、上記(1)で指摘した相違点1及び相違点2に加えて、下記の相違点3が存在し、その余の構成は一致している。
<相違点3>
本件特許発明3は「弁体が進退可能に挿入され、エア通路の一部が形成されたキャップ部材」を備えているのに対し、甲3発明は、弁体が進退可能に挿入され、エア通路が形成されているのが、シリンダ本体であり、別部材(キャップ部材)となっていない点。

相違点3については、開閉弁機構において、弁体をシリンダ本体に直接配置せず、別部材(弁ケースとしての「キャップ部材」)を介してシリンダ本体に配置することは、甲5や甲11に開示された技術事項と同様であるとともに、本件出願前から当業者において周知の技術事項である。
よって、当業者は、甲3発明に、(i)甲5に開示された技術事項のキャップ部材を介して甲4事項を適用することを容易に想到する。また、(ii)甲11に開示された技術事項のキャップ部材を介して甲4事項を適用することを容易に想到する。さらに、(iii)周知技術であるキャップ部材を介して甲4事項を適用することを容易に想到する。
以上から、当業者は、甲3発明に、甲4事項並びに甲5や甲11に開示された技術事項又は周知技術を適用して、本件特許発明3に容易に想到するから、本件特許発明3には、特許法第29条第2項に違反する無効理由がある。
(請求書32ページ下から4行?38ページ4行)

(4) 本件特許発明4について
甲3発明と本件特許発明4との間には、上記(1)で指摘した相違点1及び相違点2に加えて、下記の相違点4が存在し、その余の構成は一致している。
<相違点4>
本件特許発明4は「前記開閉弁機構の油圧導入路は、前記弁体の軸心近傍部に貫通状に且つ前記弁体の装着方向と平行に形成された」を備えているのに対し、甲3発明は、そのような油圧導入路が存在しない点。

相違点4については、甲4の図11から明らかなように、甲4事項の油圧導入路は、弁体の軸心近傍部に貫通状に且つ前記弁体の装着方向と平行に形成されたものであり、当該構成は相違点4と同一である。よって、甲3発明に甲4事項を適用した場合、当該発明は当然に相違点4の構成となる。
以上から、当業者は、甲3発明に、甲4事項を適用して、本件特許発明4に容易に想到するから、本件特許発明4には、特許法第29条第2項に違反する無効理由がある。
(請求書38ページ5?最終行)

(5) 本件特許発明5について
甲3発明と本件特許発明5との間には、上記(1)で指摘した相違点1及び相違点2に加え、下記相違点5が存在し、その余の構成は一致している。
<相違点5>
本件特許発明5は「前記弁体は、前記出力部材の進退方向と直交する方向に進退可能に設けられ」ているのに対し、甲3発明は、「弁体は、前記出力部材の進退方向に進退可能に設けられ」ている点。

相違点5については、甲3発明は、出力部材により弁体を移動させ、開閉弁機構の開閉を行うものであるから、弁体を「出力部材の進退方向に進退可能」に設けるか、「出力部材の進退方向と直交する方向に進退可能」に設けるかは、当業者が、適宜選択可能な設計事項に過ぎない。
また、進退可能な方向を「出力部材の進退方向」としても、「出力部材の進退方向と直交する方向」としても、作用効果に何ら変わりはない。このことは、本件特許発明5の弁体が進退可能な方向が、「出力部材の進退方向に進退可能」とされていることからも明らかである。
以上から、当業者は、甲3発明に甲4事項を適用するに際して、弁体が進退可能な方向を「出力部材の進退方向と直交する方向」として、本件特許発明5に容易に想到するから、本件特許発明5には、特許法第29条第2項に違反する無効理由がある。
(請求書39ページ1行?40ページ2行)

(6) 本件特許発明6について
甲3発明と本件特許発明6との間には、上記(1)で指摘した相違点1及び相違点2が存在し、その余の構成は一致している。
以上から、当業者は、甲3発明に甲4事項を適用して、本件特許発明6に容易に想到するから、本件特許発明6には、特許法第29条第2項に違反する無効理由がある。
(請求書40ページ3?10行)

(7) 本件特許発明7について
甲3発明と本件特許発明7との間には、上記(1)で指摘した相違点1及び相違点2が存在し、その余の構成は一致している。
以上から、当業者は、甲3発明に甲4事項を適用して、本件特許発明7に容易に想到するから、本件特許発明7には、特許法第29条第2項に違反する無効理由がある。
(請求書40ページ11?18行)

2. 請求人の証拠方法
請求人は審判請求書とともに、証拠方法として以下の甲1ないし甲19を提出している。また、請求人要領書とともに、甲3-4-2、甲20及び甲21を提出している。
甲1:本件特許公報(特許第5337323号)
甲2:先の無効審判(無効2013-800210号)における平成26年8月4日付け訂正請求書の写し
甲3-1:平成29年第193号事実実験公正証書(公証人下野恭裕作成)
甲3-2:図面(LL-RM/RN リニアシリンダ断面構造図)、2010年(平成22年)6月3日作成の写し
甲3-3:平成29年第156号事実実験公正証書(公証人杉垣公基作成)
甲3-4:リニアシリンダカタログ、株式会社コスメック、2010年(平成22年)5月作成、表紙、5?6ページ、23?24ページ、27?28ページ、45?46ページ、裏表紙の写し
甲3-4-2:リニアシリンダカタログ、株式会社コスメック、2010年(平成22年)5月作成、19?22ページの写し
甲4:英国特許出願公開第1140216号明細書
甲5:実公昭60-39526号公報
甲6:実願昭62-102171号(実開昭64-6373号)のマイクロフィルム
甲7:実願昭58-108200号(実開昭60-16063号)のマイクロフィルム
甲8:実公昭59-18165号公報
甲9:特開平11-30201号公報
甲10:米国特許第2949098号明細書
甲11:特開昭61-45106号公報
甲12:米国特許第3348803号明細書
甲13:米国特許第4632018号明細書
甲14:米国特許第3530896号明細書
甲15:実願昭57-202286号(実開昭59-103875号)のマイクロフィルム
甲16:実公平1-42643号公報
甲17:特許第2554476号公報
甲18:特開昭60-227001号公報
甲19:訴状(大阪地方裁判所平成27年(ワ)第3134号)の写し
甲20:特開昭60-129410号公報
甲21:図面(LL-M/N リニアシリンダ断面構造図)、2006年(平成18年)12月13日作成の写し

3. 被請求人の主張する答弁の趣旨
平成29年12月25日付け審判事件答弁書(以下「答弁書」という)、平成30年2月26日付け口頭審理陳述要領書及び平成30年3月13日付け口頭審理陳述要領書(2)によれば、被請求人の答弁の趣旨は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めるもので、その主張の概要は以下のとおりである。

(1) 「シリンダ本体内に形成されたエア通路」を備えない
請求人は、甲3発明の「ボディ」、「キャップ」、および「マニホールド」を本件特許発明の「シリンダ本体」に対応させ(12頁(2)項)、甲3発明の「マニホールド」内に形成された通路を本件特許発明の「シリンダ本体内に形成されたエア通路」に相当するものと主張している(16頁(3)項)。
しかし、甲3発明の「マニホールド」は「シリンダ本体」に相当するものではない。よって、「マニホールド」内に形成された通路は「シリンダ本体」内に形成されたものとはいえず、甲3発明は、「シリンダ本体内に形成されたエア通路」を備えるものではない。
(答弁書6ページ5行?12ページ3行)

(2) 請求人の主張する一致点、相違点の主張は以下の点において失当である
ア 相違点1は存在しない。
甲3発明は、「ピストンが引側端に達したことを検知可能に構成した」ものであり、「位置検出装置」に該当するものである。よって、請求人の認定する相違点1は存在しない。
(答弁書12ページ下から4行?最終行)

イ 甲3発明は「シリンダ本体内に形成したエア通路」を備えない。
請求人は、甲3発明の「マニホールド」を本件発明の「シリンダ本体」に相当するものとして、当該「マニホールド内に形成したエア通路」が本件発明でいうところの「シリンダ本体内に形成したエア通路」に相当すると主張する。しかし、上述のとおり、甲3発明の「マニホールド」は本件発明の「シリンダ本体」に該当するものではない。そして、甲3発明の「ボディ」および「キャップ」に「エア通路」は形成されていない。よって、甲3発明は「シリンダ本体に形成したエア通路」を備えない点でも本件発明1と相違するというべきである。
(答弁書13ページ1?9行)

(3) 本件発明1を容易に想到し得ない
主引例である甲3発明を出発点として、当業者が本件特許発明1を容易に想到し得ない。
ア 組合せの動機付けの不存在、阻害要因
請求人は、甲3発明(主引例)に甲4発明(副引例1)および周知技術を組み合わせて相違点2に係る構成を容易に想到し得るとしているが、甲3発明に甲4発明を適用する動機付けがなく、むしろ阻害要因が存在するというべきである。
(答弁書13ページ10行?15ページ下から4行)

イ 組合わせても「シリンダ本体内に形成したエア通路」は得られない
甲3発明が「シリンダ本体内に形成されたエア通路」を備えるものではないことは上述のとおりであるが、当該構成は甲4発明にも示されていない。よって、仮に甲3発明に甲4発明の「油圧導入室」を適用することを当業者が容易に想到し得たとしても、その組合せによって「シリンダ本体内に形成したエア通路」の構成を得ることはできない。
(答弁書15ページ下から3行?16ページ3行)

4. 被請求人の証拠方法
被請求人は答弁書とともに、証拠方法として乙1ないし乙4を提出している。
乙1:越後亮三外4名編、「機械工学辞典」、株式会社朝倉書店、1996年9月20日発行、454ページ及び964ページの写し
乙2:(財)日本規格協会編、「JIS工業用語大辞典【第4版】」、(財)日本規格協会、1996年2月15日発行、851?852ページ及び1861ページの写し
乙3:財団法人法曹会編、「最高裁判所判例解説 民事篇 平成三年度」、財団法人法曹会、平成6年2月25日発行、28?51ページの写し
乙4:平成28年(行ケ)第10102号審決取消請求事件の平成29年2月21日付け知的財産高等裁判所判決

第4 当審の判断
1. 各書証の記載、各書証記載の発明及び記載の事項
(1) 甲3-1ないし甲3-4
ア 甲3-1
甲3-1は、株式会社コスメックが製作し、株式会社牧野フライス製作所厚木事業所藤塚工場に納入したLL-RM型リニアシリンダの製品を、分解及びその組成部品を確認する事実実験の現場に立会いの上、目撃した事実を録取した公正証書である。
甲3-1の記載内容からは、株式会社牧野フライス製作所の厚木事業所藤塚工場に納入した株式会社コスメック製LL-RM型リニアシリンダ(型番LL0360-CARM-015 シリアル番号SER.0109003)の製品が、甲3-2の「LL-RM/RN リニアシリンダ 断面構造図」(DWG.NO 4L89988-00)の図面に記載されたものであることが確認できる。

イ 甲3-2
甲3-2は、「LL-RM/RN リニアシリンダ 断面構造図」(DWG.NO 4L89988-00)という名称の図面であり、当該図面に記載されているのは、株式会社コスメックが製造するLL-RM型リニアシリンダの構造断面図である。
甲3-2の図面を見ると、技術常識を勘案して、以下の事項が認定できる。
(ア) リニアシリンダは、その構成部材として、ピストン、ボディ、キャップ、マニホールド、検出ロッド及びバネを有している。
(イ) ピストンは、その軸線方向に進退駆動が可能となるようにボディに装備されている。
(ウ) ボディには油圧ポートが設けられており、該油圧ポートから延びている通路が、ボディの上部に破線で、ボディの下部に実線で、それぞれ記載されていることからみて、ボディ及びキャップで囲まれた空間は、ピストンを駆動する為の油室を形成するものである。
(エ) キャップに形成した孔に検出ロッドが軸線方向に進退可能に装着され、マニホールドに形成した孔に、検出ロッドをピストン側に進出した状態に押圧保持するバネが装着されている。
(オ) マニホールド内には、引側端確認用ポート(エア)及びエア排気ポートが形成され、両ポートから延びたエア通路が、検出ロッドが装着されているキャップの孔及びバネが装着されたマニホールドの孔で形成された空間に接続されている。
(カ) リニアシリンダは「後退端エアセンサ対応」のものであり、キャップ、マニホールド、検出ロッド及びバネを組み合わせることで、該後退端エアセンサの、エア排気ポートの開閉弁機構を構成している。


ウ 甲3-3
甲3-3は、株式会社コスメックが製作したLL型リニアシリンダが、株式会社牧野フライス製作所厚木事業所藤塚工場に設置された機械装置に組み込まれていた事実、及び、当該シリンダを搬出するために梱包する作業過程等について目撃した事実を、録取した公正証書である。
甲3-3の記載内容からは、株式会社コスメックが製作し平成22年(2010年)9月27日にマキノジェイ株式会社に出荷されたLL型リニアシリンダ(型番LL0360-CARM-015 シリアル番号SER.0109003)の製品を、平成23年(2011年)10月7日よりも前に株式会社牧野フライス製作所が受け入れ、同社の厚木事業所藤塚工場に設置されたカム加工装置内のワーク固定具に組み込んだ後、内部部品の交換やその他の改変を一切行っていないことが確認できる。

エ 甲3-4
甲3-4は、株式会社コスメックの2010年5月発行のリニアシリンダのカタログであり、LL型リニアシリンダについても、寸法、形状、エアセンシングチャート等が記載されている。
甲3-4には、以下の事項も示されている。

(ア) 45ページ
「○エアセンシングチャート
(検出方式・・・RM(合議体注:□囲み付きの文字)後退端エアセンサ対応マニホールドタイプ/RN(合議体注:□囲み付きの文字)後退端エアセンサ対応配管タイプ)

「後退端エアセンサ対応タイプは引側のみの検出となります。」
「注意事項
*1.検出ノズル全閉時圧力になる位置はシリンダの構造上、許容差があります。
*2.エアキャッチセンサでON信号が出力される位置はセンサの設定により変化します。
*3.エア排気ポートは必ず大気開放とし、クーラント・切粉等が侵入しないようにしてください。」

(イ) 46ページ
「○エアセンサ対応タイプ(-RM/RN)を使用する場合
クランプの動作確認を行うためには、エアキャッチセンサが必要です。
エア消費量が22?25L/min(at 0.2MPa)以上のエアキャッチセンサをご使用ください。」
「エアキャッチセンサに供給するエア圧は0.2MPaとしてください。」

(ウ) 23ページ左下の図には、油圧ポートからの引き出し線に「油圧ポート(押側)」及び「油圧ポート(引側)」の表記があり、油圧ポートが押側及び引側の2箇所平行に設置されていることが認められる。

オ 甲3-1ないし甲3-4から把握される公然実施発明(甲3発明)
甲3-1ないし甲3-4からは、甲3-2に断面構造図として示された株式会社コスメック製「LL-RM/RN リニアシリンダ」(以下「LL型リニアシリンダ」という)が、本件特許の原出願日(平成23年10月7日)より前に製作販売され、公然実施されていたことが認められる。
また、上記イの認定事項(ア)ないし(カ)、上記エの記載事項(ア)及び(イ)並びに認定事項(ウ)を、技術常識を考慮して総合すると、甲3発明は以下のとおりと認められる。
「ボディ、キャップ及びマニホールドと、ボディに進退可能に装備されたピストンと、このピストンを押側端と引側端に駆動する為の油室とを有するリニアシリンダにおける後退端エアセンサであって、
マニホールド内に形成され且つ加圧エアが供給される引側端確認用ポートと大気開放されたエア排気ポートとに接続されたエア通路と、エア排気ポートを開閉可能な開閉弁機構とを備え、
前記開閉弁機構は、キャップに形成した孔に進退可能に装着された検出ロッドと、押圧することで前記検出ロッドを前記ピストン側に進出させた状態に保持するバネとを備え、
前記ピストンが後退端に達したときに、前記ピストンにより前記検出ロッドを移動させてエア排気ポートの開閉状態を切り換え、エアキャッチセンサによりクランプの動作確認を行う後退端エアセンサ。」

(2) 甲4
本件遡及出願日前に頒布された刊行物である甲4には以下の記載がある。

ア 「The present invention relates to improvements in reciprocating fluid pressure devices and particularly to a hydraulic or pneumatic continuously operated piston drive with reciprocatory movement especially a double acting pressure booster in which the movements of the low pressure piston reverse the control pressure in the end positions. Although the invention is not limited to pressure boosters but can be applied in the same way to hydraulically or pneumatically operated motors, reference will be made hereinafter maily only to a double acting pressure booster.」(1ページ9ないし22行)
(本発明は、往復する流体圧装置の改良に関し、詳しくいえば、油圧または空圧で連続的に往復移動されるピストンドライブに関し、特には、行程端位置での低圧ピストンの移動によって制御圧力を反転させる複動ブースタに関する。本発明は、圧カブースタに限定されるものではなく、油圧または空圧で駆動される作動器にも適用できるが、以下の記述では、主として複動式の圧カブースタに限定して説明する。)

イ 「A continuously operating piston drive, which in the constructional examples are hydraulic double acting pressure boosters, consists according to Fig. 1 of a low pressure cylinder 20 with working or main cylinder spaces 22 and 23 separated by a reciprocatory main or work piston 21, high pressure cylinders 24, 25 as well as high pressure pistons 26, 27 which in the case of a drive motor represent the piston rods. High pressure fluid is supplied through non-return valves 28 and 29 into pipes 30, 21 alternately to the point of use.
The high pressure pistons 26, 27 can draw pressure medium during their return strokes through non-return valves 32, 33 in pipes 34, 35 The pipes 34, 35 are adapted to be connected through a four-way valve36 (Fig. 1, 2, 4 and 5) or two three-way valves 37, 38 (Fig. 9, 12, 13, 15) alternately to a pressure fluid pipe 39 or returning pipe 40 leading to a collecting container 41. The main cylinder spaces 22, 23 of the low pressure cylinder 20 are connected alternately to the pressure pipe 39 and to the return pipe 40 through branch or feed pipes 42 and 43. To this extent all the circuit diagrams shown are the same. Further, In all diagrams the condition of the various spaces is marked p or o to indicate whether the pressure p or zero pressure o is operative.」(3ページ26行ないし55行)
(構造例に示された連続動作ピストンドライブは、油圧複動式の圧力ブースタであって、図1に示すように、次のように構成される。低圧シリンダ20は、往復するメイン又は作業ピストン21によって分割された作業空間またはメインシリンダ空間22及び23を備え、高圧シリンダ24,25が設けられると共に、この実施例ではモータ駆動におけるピストンロッドの役割を果たす高圧ピストン26,27が設けられる。高圧流体は、逆止弁28,29と配管30,31とを交互に通って消費ポイントに供給される。
高圧ピストン26,27は、戻りストローク中に、配管34,35内の逆止弁32,33を介して圧力媒体を吸い込む。上記配管34,35は、1つの四方弁36(図1,2,4,5)又は二つの三方弁37,38(図9,12,13,15)によって、圧力流体配管39と回収容器41へ延びる戻し配管40とに、交互に接続される。低圧シリンダ20の前記メインシリンダ空間22,23は、分岐または供給管42,43を通って、圧力配管39と戻し配管40とに、交互に接続される。この点は、全ての回路図で同様である。さらに、これらの回路図の全てにおいて、上記の種々の空間の状態は、参照文字「p」又は「0」によって示され、それらが正圧力「p」又は零圧力「0」であることを示している。)

ウ 「・・・This is obtained by the connections 98, 99 (Fig. 9).
The reversal of the pressure booster shortly before reaching its end position can be initiated
(a) by the release of pressure in the control chamber of one of the two three-way valves 37, 38;
(b) by the application of pressure to the control chamber of one of the two three-way vales.
In the first place the circuit of Fig. 9 will be explained to show how use is made of the possibility set out under (a) above. During the stroke of the work piston 21 towards the left the control chamber 96 of the three-way valve 38 is released from pressure through the pipes 94, 99, 43 while the control chamber 96 of the three-way valve 37 is at pressure p through the pipes 93, 98, 42. Since two associated two-way pilot valves 100, 101 remain closed by spring force during the stroke, the pipe 98, 99 ensure that this condition is maintained since they connect the control chambers to the respective feed pipes 42, 43 running to the low pressure cylinder 20 which have the same pressure.
The reversal in the left-hand end position of the work piston 21 is effected by mechanical operation of the pilot valve 100, by which operation the control chamber of the three-way valve 37 is released from pressure and the work chamber 23 receives the pressure p. At the same time the control chamber of the three-way valve 38 is placed under pressure through the pipe 99 whereby the valve is reversed and the work chamber 22 is released from pressure. After reversal of the movement the pilot valve 100 is returned to its rest position by spring pressure, but the control pipe 98 ensures that the control chamber of the three-way valve 37 remains without pressure up to the next reversal. The two-way pilot valves 100 and 101 can be constructed as shown in Fig. 10, but the spring force in each case must be greater than the pressure acting on the opposite side of the piston. Instead of spring force it is also possible to use a slide valve with a return action by a differential piston action as shown in Fig. 11.」(5ページ47ないし97行)
(・・・これは、連通部98,99(図9)によって確保される。
エンドポジションへ到達する直前における圧カブースタの反転動作は、以下のように開始される。
(a)2つの三方弁37,38のうちの一方の三方弁の制御室からの圧力の放出
(b)上記2つの三方弁のうちの一方の三方弁の上記制御室への圧力の付与
まず、上記(a)項の条件下で如何に動作し得るかを図9の回路で説明する。上記の作業用ピストン21が左方ヘストロークしているときには、三方弁38の制御室96及び管路94,99,43に圧力が無いのに対して、三方弁37の制御室96には管路93,98,42を介して圧力「p」が付与されている。連携された2つの二方パイロット弁100,101は、上記ストローク中にバネの押す力で閉じられたままであり、管路98,99が前記の制御室を低圧シリンダ20へ延びる分岐路42,43へ接続するので、上記の管路98,99が上記の圧力状態を確実に保持する。
上記の作業ピストン21の左端位置における反転動作は、前記パイロット弁100の機械的な操作によってなされ、これにより、前記三方弁37の制御室が圧抜きされると共に作業室23が圧力「p」を受け入れる。これと同時に、前記三方弁38の制御室に管路99を介して圧力が付与され、これにより、その弁が切換えられると共に作業室22が圧抜きされる。上記移動の反転後、前記パイロット弁100がバネの圧力によって休止位置へ復帰されるが、制御管路98は、前記三方弁37の制御室が次の反転までは圧力を受けないようしている。前記の二方パイロット弁100,101は、図10に示すように、バネの押し力が、ピストンの反対側に作用する圧力に基づく力よりも大きくなるように構成すればよい。上記バネの押し力に代えて、図11に示されたような差圧ピストンの作用に基づく復帰動作を備えたスライド弁を使用可能である。)

エ 図9、10及び11


オ 上記摘記事項ウの「前記の二方パイロット弁100,101は、図10に示すように、バネの押し力が、ピストンの反対側に作用する圧力に基づく力よりも大きくなるように構成すればよい。上記バネの押し力に代えて、図11に示されたような差圧ピストンの作用に基づく復帰動作を備えたスライド弁を使用可能である。」との記載と併せて図11をみると、図11には、二方パイロット弁100が低圧シリンダ20と一体になって形成されており、該低圧シリンダ20の本体内に、前記二方パイロット弁100を貫通するように、一端部が圧力制御配管39に接続され他端部が外界に開放する回収容器に連通した管路93と接続するための流体通路が形成されている構造が看取できる。
また、二方パイロット弁100の差圧ピストンが、小径軸部と、前記小径軸部に対して終端位置側に設けられた大径軸部とが一体形成された構造が、図11から看取できる。
さらに、二方パイロット弁100が、メインシリンダ空間23の油圧によって差圧ピストンを休止位置側に進出させた状態に保持する油圧導入室を備えた構造も看取できる。

2. 無効理由1についての検討
(1) 本件特許発明1について
ア 甲3発明との対比
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「ピストン」及び「リニアシリンダ」は、本件特許発明1の「出力部材」及び「油圧シリンダ」に相当する。
甲3発明の「ピストンを押側端と引側端に駆動する」ことは、本件特許発明1の「出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する」ことに相当する。
甲3発明の「後退端エアセンサ」は、「ピストン」が「後退端」に達したときに、「エアキャッチセンサにより引側端の確認を行う」ものであるが、「エアキャッチセンサ」はエア通路のエア圧を介して検知するものであるから、本件特許発明1の「出力部材」が「所定の位置」に達したときに、「エア通路のエア圧を介して出力部材が所定の位置に達したことを検知」する「位置検出装置」に相当する。
乙2の「JIS工業用語大辞典【第4版】」によると、一般的に「シリンダ」とは、「その中でピストンが往復運動をする円筒形の内面を形成する部分.」と説明されており、「シリンダ体」については「シリンダを形成する部品.」と説明されると共に、慣用的に「シリンダ本体」と呼ばれることも記載されている。そうすると、一般的に「シリンダ本体」とは、ピストンが往復運動をする円筒形の空間を形成する部品であると考えられるが、本件特許発明1の「シリンダ本体」も、本件特許明細書の段落【0030】の記載からみて、シリンダ部材11と、その上下端に固定された上端壁部材12及び下端壁部材13とで、出力部材4が往復移動するシリンダ本体10を形成しているから、上記一般的な意味と同様に解されるものである。そして、甲3発明のボディ及びキャップは、ボディにピストンが進退可能に装備され、ボディ及びキャップで囲まれた空間を油室としてシリンダを形成している部品であるから、本件特許発明1の「シリンダ本体」に相当する。しかし、甲3発明のマニホールドは、キャップに隣接してはいるものの、シリンダを形成している部品ではないから、本件特許発明1の「シリンダ本体」には含まれない。
甲3発明の「引側確認用ポート」及び「エア排気ポート」とを、それぞれエア通路の「一端部」及び「他端部」とみると、甲3発明の「加圧エアが供給される引側端確認用ポートと大気開放されたエア排気ポートとに接続されたエア通路」は、本件特許発明1の「一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路」に相当する。
甲3発明の「検出ロッド」及び「バネ」は、エア排気ポートの開閉弁機構を構成する部材であって、甲3発明の「検出ロッド」が本件特許発明1の「弁体」に相当する。そして、甲3発明の「バネ」は、弁体を出力部材側に進出させた状態に保持する手段という限りにおいて、本件特許発明1の「油圧導入室及び油圧導入路」と一致する。

そうすると、本件特許発明1と甲3発明とは、以下の点で一致し、かつ、相違する。
<一致点>
「シリンダ本体と、このシリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と、この出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の油室とを有する油圧シリンダにおける前記出力部材の位置を検出する位置検出装置であって、
一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路と、このエア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備え、
前記開閉弁機構は、前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着された弁体と、前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する手段とを備え、
前記出力部材が所定の位置に達したときに、前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え、前記エア通路のエア圧を介して前記出力部材が前記所定の位置に達したことを検知可能に構成した位置検出装置。」
<相違点1>
エア通路について、本件特許発明1では「前記シリンダ本体内に形成され」ているのに対し、甲3発明では「マニホールド内に形成され」ている点。
<相違点2>
弁体を出力部材側に進出させた状態に保持する手段について、本件特許発明1では、「前記油室の油圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する油圧導入室と、前記油室と前記油圧導入室とを連通させる油圧導入路」であるのに対し、甲3発明では、「押圧することで前記検出ロッドを前記ピストン側に進出させた状態に保持するバネ」である点。

イ 相違点に対する検討
(ア)相違点1について
相違点1は、そもそも甲3発明において、「キャップ」と「マニホールド」とが、別部材で構成されて分離していることから生じているものである。つまり、甲3発明において、シリンダを形成する「キャップ」とエア通路が形成された「マニホールド」とが分割して構成されているため、マニホールドは「シリンダ本体」とは見なされず、同時にマニホールド内に形成されたエア通路も、シリンダ本体内に形成されたものとは見なされないために、相違点1が生じるものである。
しかしながら、この相違は、開閉弁機構の弁体全体の収容空間を、本件特許発明1のようにシリンダ本体である下端壁部材13に装着孔56として形成したか、甲3発明のようにキャップ及びマニホールドの2体で半分ずつ囲って形成したかの違いに起因するものである。
そして、内部に収容空間がある部材を作成するのに、1つの部材に孔を設けるか、2つの分割部材のそれぞれに凹部を設けて組み立てるかは、一般的に設計事項の範疇であり、甲3発明において、キャップとマニホールドとを一体的に作成したとしても、シリンダを形成することに特段の支障は生じず、エア通路が奏する効果に格別の変化があるものでもない。
そうすると、甲3発明において、キャップとマニホールドとを一体構成することで、両者を併せて「シリンダ本体」に相当するようにし、シリンダ本体にエア通路が存在するようになすことは、当業者にとって困難性はない。

(イ)相違点2について
a 相違点2に係る油圧導入室及び油圧導入路については、上記1.(2)オで説示したように、甲4の図11に示されている。そして、上記1.(2)ウの「前記の二方パイロット弁100,101は、図10に示すように、バネの押し力が、ピストンの反対側に作用する圧力に基づく力よりも大きくなるように構成すればよい。上記バネの押し力に代えて、図11に示されたような差圧ピストンの作用に基づく復帰動作を備えたスライド弁を使用可能である。」という記載を勘案すると、甲3発明のバネによる検出ロッドの押圧手段に代えて、甲4の図11に示された二方パイロット弁の差圧ピストンの構成を適用することは、当業者であれば容易に想到し得ると一見考えられそうである。

b そこで、甲4の図11に示された二方パイロット弁の技術的意義を検討するために、甲4に記載されたピストンドライブについて考えると、図9において作業用ピストン21が左方へストロークする際には、管路42の流体の圧力pが、管路98及び管路93を経て三方弁37に付与されて、作業用ピストン21に押された(メインシリンダ空間23内の)圧力流体が管路43から戻し配管40へ流れる流体回路が維持される。そして、作業用ピストン21が左端位置に来ると、二方パイロット弁100が作業用ピストン21に押圧され、左方に移動し弁が開くことで管路93の流体の圧力が0になり、三方弁37が切り換えられて、圧力流体配管39からの圧力流体が管路43を経て作業用ピストン21を右方に押圧して反転移動させる。同時に管路99,94の流体圧力がpに変化し三方弁38を切り換えて、作業用ピストン21からの(メインシリンダ空間22内の)圧力流体が管路42から戻し配管40へ流れる流体回路が構成されるものである。
つまり、甲4に記載されたピストンドライブでは、二方パイロット弁100,101は、作業用ピストン21を反転動作させる三方弁の切り換えスイッチの役割を果たしているものであって、作業用ピストン21の位置を検知するセンサを構成するものではない。
他方、甲3発明の検出ロッドは、エアキャッチセンサでエア圧を測定することでピストンの後退端位置への到達を検知する機構に用いられるものである。
よって、甲3発明の検出ロッドと、甲4に記載された二方パイロット弁に設けられた差圧ピストンとは、用途・機能が異なる。したがって、甲3発明の検出ロッドに甲4に記載された二方パイロット弁に設けられた差圧ピストンを適用する動機付けがあるものとはいえない。

c また、仮に、甲3発明の検出ロッドと甲4に記載された二方パイロット弁に設けられた差圧ピストンとの用途・機能が共通しているとしても、以下のとおり、結論を左右しない。
甲4で用いられる流体について検討すると、甲4に記載されたピストンドライブは、図9の管路42、43のように実線で示された管路を流れ、作業室22、23に流入して作業用ピストン21を往復動させる流体(以下「作動用流体」という)と、管路93、94のような破線で示された管路を流れて二方パイロット弁100、101を通過可能であるとともに三方弁37、38の制御室に圧力「p」又は「0」を付与する流体(以下「制御用流体」という)とを用いるものである。そして、甲4に記載されたピストンドライブは、低速運転でのピストン駆動の停止を防止するとともに、高速運転での弊害がない簡素な操作装置を提供することを目的とし、当該目的の達成のため、上記作動用流体と上記制御用流体について、圧力流体配管39から流入する流体を共通させることで、作業用ピストン21と三方弁37,38に同じ圧力pを作用させるものであるから、流体を共通のものとすることは必須の構成であるというべきである。
そうすると、甲4に記載された二方パイロット弁100,101は、作動用流体と制御用流体とが油圧なら油圧のみ、空圧なら空圧のみを用いるものに特定されており、作動用流体と制御用流体とで油圧と空圧のような別種類の流体をそれぞれ使用することは当初から考慮されていないと解される。
したがって、甲4に上記「バネの押し力に代えて、図11に示されたような差圧ピストンの作用に基づく復帰動作を備えたスライド弁を使用可能」という記載を当業者が見たとしても、甲4に記載された二方パイロット弁100,101を、作業用ピストンの位置検知に用いようとは考えないものと認められる。

d さらに、油圧とエア圧とを併用する甲3発明の検出ロッドに対して、甲4の図11に記載された作動用流体及び制御用流体ともに油圧流体を使用する差圧ピストンに置き換えようとしても、甲4に示された構造の差圧ピストンを、甲3発明の検出ロッドに単純に置き換えすることはできず、油圧流体の経路及びエア圧の経路の配置構成について、種々の複雑な変更を加える必要があることは明らかであり(請求人要領書の5ページ及び6ページに記載された図面を参照)、実際の適用に困難が伴うものと認められる。それに加え、検出ロッド又は差圧ピストンの構造やキャップ及びマニホールドの構造等にも大きな変更を加える必要があり、当業者がそのような装置の複雑な改造を積極的に行ってまで、検出ロッドに対して差圧ピストンの構造を適用することは考えにくい。

e なお、請求人は、審判請求書において、甲4に記載された事項(甲4事項)を甲3発明に適用する動機付けとして、甲3発明の弁機構と甲4に記載された弁機構とで技術分野が同一である、及び、課題が共通している、という理由を挙げてそれぞれ補足主張を行っているので、以下で検討する。

(a)技術分野の共通性に関する補足主張について
甲5のプランジャ13はプランジャばね21でヘッドカバー2側へ付勢され、甲6の衝合部材101’’、102’’はバネのような付勢部材を用いることが図示されており、甲7の位置検出弁3、4の内弁体15はばね21で付勢され、甲11の弁ピストン45は弁ばね44で付勢され、甲12の弁部材62はバネ84と高圧流体により付勢され、甲13のプランジャ126はバネ128により付勢され、甲14のスプール弁29は圧縮バネ35により付勢され、甲15の切換杆48、49は復帰ばね50、51により付勢されている。また、甲16の切換杆29、30、甲17の位置検出弁28、29、甲18の位置検出弁41、42は、それぞれバネのような付勢部材を用いて付勢されることが図示されている。さらに、甲20のリミットバルブ2の動作杆13はばね18により付勢されている。そうすると、これらの甲各号証には、主となる付勢手段としてバネのような付勢部材を用いることしか示されておらず、甲4の二方パイロット弁に設けられた差圧ピストンを位置検知の用途に転用することについては、記載も示唆もされていないものであるから、甲3発明に甲4に記載された事項を適用する動機付けを提示するものではない。
また、そもそも、往復動制御のための弁機構を位置検出弁として利用できることが周知であるとしても、甲4の二方パイロット弁が作業用ピストン21を反転動作させる制御のための弁機構であることに変わりはないから、上記bにおいて出した結論を左右するものではない。

(b)課題の共通性に関する補足主張について
甲8にはストローク端検出装置の検出ピストン7a、8aの付勢に、復帰ばねを用いずシリンダ本体1の油圧を利用するという事項が、甲9にはピストン位置検出装置の検出ロッド15の付勢に、スプリングではなくシリンダ1の油圧を利用するという事項が、甲10にはアクチュエータのスプール15の付勢に、弱い圧縮バネ35だけでなく圧力流体の圧力を主に用いるようにするという事項が、それぞれ記載されていると認められる。しかし、甲8ないし甲10に記載された検知装置は全て、ピストンの位置が移動したことをリミットスイッチの押圧により検知するものであり、ピストンを通過する流体の圧力の変化を検出する型の検出装置ではない。よって、甲8ないし甲10に示されたような差圧ピストンを用いる検出装置がたまたま存在したからといって、甲3発明の後退端エアセンサの検出ロッドの押圧手段として、バネに代えて甲4に記載された差圧ピストンを利用することの動機付けとはならない。
また、そもそも、甲3発明の検出ロッドについて、バネにより押圧されて保持されることに何らかの課題があり、その課題を解決するため、検出ロッドを流体圧力を用いて進出させることが周知であったとしても、甲4に記載された二方パイロット弁は、作業用ピストン21を反転動作させる制御用のものであり、且つ使用する流体が共通のものである以上、甲3発明の検出ロッドには組み合わせることはできないものである。

また、他に、上記相違点を構成することを可能としたり、甲3発明に甲4に記載された事項を適用する動機付けを提示するような甲号証はない。

ウ 本件特許発明1についての小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲3発明に甲4に記載された事項及び従来周知の事項を適用することで、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2) 本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明1で特定された事項を全て含み、さらなる限定事項を付加したものである。よって、本件特許発明2ないし7は、本件特許発明1と同様に、甲3発明に甲4に記載された事項及び従来周知の事項を適用することで、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 無効理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし7については、請求人が主張する無効理由1は成り立たない。

第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1ないし7に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-04-27 
結審通知日 2018-05-07 
審決日 2018-05-21 
出願番号 特願2013-141658(P2013-141658)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (B23Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五十嵐 康弘  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 近藤 裕之
栗田 雅弘
登録日 2013-08-09 
登録番号 特許第5337323号(P5337323)
発明の名称 位置検出装置  
代理人 佐々木 眞人  
代理人 高橋 智洋  
代理人 冨田 信雄  
代理人 別城 信太郎  
代理人 井上 裕史  
代理人 田上 洋平  
代理人 深見 久郎  
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