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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04H
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04H
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04H
管理番号 1352961
審判番号 不服2018-4636  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-05 
確定日 2019-06-28 
事件の表示 特願2013-258855「免震ピロティ等建築物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月22日出願公開、特開2015-113689〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年12月16日に出願した特願2013-258855号であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年11月 5日付け:拒絶理由通知書
(平成27年12月1日発送)
平成28年 1月21日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年 8月25日付け:拒絶理由通知書
(平成28年9月27日発送)
平成28年11月25日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 4月28日付け:拒絶理由通知書
(平成29年5月30日発送)
平成29年 7月28日 :意見書の提出
平成29年12月18日付け:拒絶査定
(平成30年1月16日発送)
平成30年 4月 5日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成30年12月26日付け:補正却下の決定
(平成31年1月18日発送)(平成30年4月5日付け手続補正を却下)
平成30年12月26日付け:拒絶理由通知書
(平成31年1月8日発送)
平成31年 2月25日 :面接
平成31年 3月 8日 :意見書、手続補正書の提出


第2 平成31年3月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年3月8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正は、特許請求の範囲の補正を含むものであり、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)

「【請求項1】
ビルのピロティー等下部構造と上部構造を分離し、前記分離部に免震構造エレベータを設け、且つ上下階を移動できる建築物において、前記エレベータはエレベータ上部シャフトおよびエレベータ下部シャフトで分離した前記エレベータ上部シャフトを前記上部構造と一体とし、ピロティー部と地面と分離し、前記エレベーターはピロティの外部に設けたことを特徴とする免震ピロティ等建築物」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
平成30年4月5日付け手続補正書による補正は、平成30年12月26日付け補正却下の決定により却下されているから、本件補正前の特許請求の範囲の記載は、平成28年11月25日付け手続補正書により補正された、次のとおりである。

「【請求項1】
ビルのピロティ等下部構造と上部構造を分離し、前記分離部に免震構造を設け、且つ上下階を移動できる免震ピロティ等建築物において、エレベータ全体を前記上部構造と一体とし、ピロティ部と地面と分離し、前記エレベータはピロティの外側に設けたことを特徴とする免震ピロティ等建築物。」


2 補正の適否その1-補正目的
(1)軽微な記載の不統一・誤記について
本件補正後の請求項1では、補正前における「ピロティ」の記載の一部が「ピロティー」へと変更され、「ピロティ」と「ピロティー」の記載が混在することとなっている。しかしこの点については、本件明細書に「ピロティー」の記載はなく、明細書を参照しても請求項1における「ピロティ」と「ピロティー」とを区別する根拠もないので、「ピロティ」と「ピロティー」とは同じ趣旨と解することとし、当該軽微な表記の不統一をもって本件補正目的の適否を否定的に判断することは、ひとまず控えることとする。
また、本件補正後の請求項1では、補正前における「エレベータ」の記載の一部が「エレベーター」へと変更され、「エレベータ」と「エレベーター」の記載が混在することとなっている。しかし、「エレベーター」には「前記」が付されており先に記載される「エレベータ」を指すと解されるとともに、請求項1の文脈上も、また本件明細書を参照しても、請求項1における「エレベータ」と「エレベーター」とを区別する根拠もない。そのため、「エレベーター」は「エレベータ」の誤記と解することとし、当該軽微な誤記をもって本件補正目的の適否を否定的に判断することは、ひとまず控えることとする。
さらに、本件補正後の請求項1では、本件補正前の「免震ピロティ等建築物において、」の記載が、「建築物において、」と変更されている。しかしこの点については、本件補正後の請求項1の末尾が「免震ピロティ等建築物」とされていることから、「おいて」部分の記載が「建築物」と簡略化されても、当該記載は補正前の「免震ピロティ等建築物において」と同じ趣旨と解することとし、「建築物において」の部分における「免震ピロティ等」の記載の削除によって、本件補正目的の適否を否定的に判断することは、ひとまず控えることとする。
また、本件補正後の請求項1では、本件補正前の請求項1の末尾に存在した「。」が削除されているが、当該「。」の削除が請求項1に係る発明の認定に影響するものではないので、この点について本件補正目的の適否を否定的に判断することは控えることとする。
そして、本件補正後の請求項1では、補正前の「ピロティの外側に設けた」の記載が、「ピロティの外部に設けた」と変更されている。これに関して、本件明細書等には「ピロティの外部」の記載はなく、本件補正後の「ピロティの外部」を本件補正前の「ピロティの外側」と異なる趣旨と解すべき根拠も見いだせないから、「ピロティの外側」を「ピロティの外部」と補正した点については、特段発明特定事項を変更する趣旨ではないと扱い、当該些細な表記の変更によって本件補正目的の適否を否定的に判断することは、ひとまず控えることとする。
なお、簡便のため、以下では「ピロティ」及び「ピロティー」をいずれも「ピロティ」と表記し、「エレベータ」及び「エレベーター」をいずれも「エレベータ」と表記することとする。

(2)「免震構造」と「免震構造エレベータ」とについて
本件補正後の請求項1では、本件補正前の「前記分離部に免震構造を設け、」の記載が、「前記分離部に免震構造エレベータを設け、」と変更された。この点について、本件補正前の「免震構造」は、本件明細書の段落【0009】に「本発明においては、ピロティ部3とその上の構造物2を分離独立した構造とし、前記両者の間に免震構造7を入れる。この免震構造7により、上部の建物2を支持すると共に、地震発生時に2次元方向に移動し、高層建物部分2に地震のエネルギーが到達しないように吸収する。」と記載されるように、ビルの下部構造と上部構造とを免震分離するための免震構造であったと解される。これに対して、本件補正後の「免震構造エレベータ」は、その文言から、免震構造が施されたエレベータであって、建物の上部構造を支持しつつ下部構造から免震分離する、本件補正前の「免震構造」とは異なるものと解される。
そのため、本件補正後の「免震構造エレベータ」が、仮に「免震構造」の誤記でなく、免震構造が施されたエレベータ自体を指す趣旨とすれば、本件補正は同補正前の請求項1に記載された分離部に設ける「免震構造」をさらに限定するものではなく、建物の免震構造から免震構造を有するエレベータへと変更するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものではない。また、本件補正前の「免震構造」の記載は明りようであるから、この点についての補正は同項第1号に掲げる請求項の削除、同項第3号に掲げる誤記の訂正、及び同項第4号に掲げる明りようでない記載の釈明の、いずれを目的としたものでもない。

(3)「エレベータ」について
本件補正前の請求項1では、「エレベータ全体を前記上部構造と一体とし、ピロティ部と地面と分離し、」と記載されていたから、本件補正前の請求項1に係る発明のエレベータは、「ピロティ等下部構造」と「上部構造」とが分離されたビルにおいて、「エレベータ全体」が「上部構造と一体」であり、かつ「エレベータ全体」が「ピロティ部と地面と分離」しているものであった。
これに対して、本件補正後の請求項1では、「エレベータはエレベータ上部シャフトおよびエレベータ下部シャフトで分離した前記エレベータ上部シャフトを前記上部構造と一体とし、ピロティ部と地面と分離し、」と記載されているから、本件補正後の請求項1に係る発明におけるエレベータでは、ビルの「ピロティ等下部構造」から分離された「上部構造」と「一体」であると特定されるのは、エレベータのうち「エレベータ上部シャフト」のみであり、「ピロティ部と地面と分離」していると特定されるのも、エレベータのうち「エレベータ上部シャフト」のみである。
すなわち、請求項1に係る発明におけるエレベータは、本件補正前には「エレベータ全体」がビルの「上部構造と一体」であり「ピロティ部と地面と分離」しているものであったのに対し、本件補正後にはビルの「上部構造と一体」であり「ピロティ部と地面と分離」していると特定されるのは「エレベータ全体」ではなくその一部である「エレベータ上部シャフト」のみへと変更された。また、本件補正後の「エレベータ下部シャフト」は、ビルの「上部構造と一体」である「エレベータ上部シャフト」と「分離」しているから、エレベータ全体のうち「エレベータ上部シャフト」に該当しない部分については、本件補正前にはビルの「上部構造と一体」であったところ、本件補正後にはビルの「上部構造と一体」であることを要さないものとなった。
このような変更は、「エレベータ全体」がビルの「上部構造と一体」であり「ピロティ部と地面と分離」しているエレベータを設けた本件補正前の請求項1に係る「免震ピロティ等建築物」について、発明を特定するための事項をさらに限定するものではなく、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものではない。
また、かような「エレベータ」の構造、及び「エレベータ」とビルの「上部構造」及び「ピロティ部と地面」との関係について、補正前の請求項1に係る発明の特定内容を変更した本件補正は、同項第1号に掲げる請求項の削除、同項第3号に掲げる誤記の訂正、及び同項第4号に掲げる明りようでない記載の釈明の、いずれを目的としたものでもない。
なお、請求人は平成31年3月8日付け意見書において、当該補正について、本件補正前の「エレベータ全体を」の記載は、エレベータのカゴがエレベータを取り囲む壁の中を間隔を保ち走行するものであるから、上部構造と一体化するのはエレベータシャフトであり、「全体」の文言の不明瞭な記載を明確にしたと主張している。そして同意見書において、エレベータシャフトがエレベータ上部シャフトと下部シャフトとが分離しているという構成にしたから、その点が発明の減縮であると主張している(同意見書「2.(2)補正の根拠」欄参照)。しかしながら、エレベータのカゴが周囲の壁から間隔を保ち走行するから、上部構造と一体化するのがエレベータのカゴでなくエレベータシャフトであることは是認できるとしても、この事情から本件補正前の「エレベータ全体」が「上部構造」と一体であるという特定事項を明瞭化したと言い得るのは、「エレベータ全体」を「エレベータシャフト全体」と補正する場合までと解される。これに対して、本件補正の如く、エレベータシャフトのうちエレベータ上部シャフト以外について、上部構造と一体等の発明特定事項の対象外とする補正については、上述したとおり、本件補正前の請求項1に係る発明をさらに限定して減縮したものとも、また明りようでない記載の釈明を目的としたものとも、言うことが出来ない。
したがって、請求人の意見書による主張を検討しても、本件補正は特許法第17条の2第5項第1号ないし第4号に掲げるいずれの事項を目的としたものとも言うことが出来ない。

(4)補正目的-小括
上記(2)及び(3)で指摘の点で、本件補正は、特許法17条の2第5項の規定に違反している。


3 補正の適否その2-新規事項
(1)本件補正後のエレベータ構造
本件補正後の請求項1では、「エレベータ」はビルの「上部構造と一体」とした「エレベータ上部シャフト」、及び「エレベータ上部シャフト」と「分離」した「エレベータ下部シャフト」を有したうえで、「前記エレベータ」は「ピロティの外部に設けた」ものとなっている。

(2)請求人が補正の根拠と主張する箇所の記載の検討
この補正について、請求人は平成31年3月8日付け意見書において、当初明細書の段落【0019】及び【0022】を根拠として、エレベータ上部シャフトとエレベータ下部シャフトとが分離した構成を導入したものである旨を主張している(同意見書「2.(2)補正の根拠」欄参照)。
これに関して、請求人が当該補正の根拠と主張する当初明細書の段落【0019】には、次の記載がある。
「【0019】
図7は本発明第7の実施例で、上記構造部エレベータピット13と下部構造又はピロティ部,地下部エレベータピット1を免震部分7で分離したものである。エレベータケーブル15は上下連続して繋がっているので、カゴ1は地下から最上階まで上下できる。」
また、請求人が同じく当該補正の補正の根拠と主張する段落【0022】には、次の記載がある。
「【0022】
・・・(中略)・・・・
13 本発明エレベータ上部シャフト(上部構造用)
14 本発明エレベータ下部シャフト(ピロティ及び地下用)
・・・(中略)・・・・
16 本発明エレベータカゴ
・・・(中略)・・・・」
さらに、上記段落【0019】中で言及される【図7】には、次の図示がある。



上記図7の図示、及び段落【0022】における図番の説明から、段落【0019】の「上記構造部エレベータピット13」、「地下部エレベータピット1」、「カゴ1」は、それぞれ「エレベータ上部シャフト13」、「エレベータ下部シャフト14」、「エレベータカゴ16」の誤記と認められる。
そのため、本件当初明細書には、第7の実施例のエレベータがエレベータ上部シャフト及びエレベータ下部シャフトを備えることについては、記載されているということができる。
しかしながら、当該段落【0019】及び同段落が言及する【図7】の図示を併せて検討しても、分離されたエレベータ上部シャフトとエレベータ下部シャフトとを有するエレベータを、本件補正後の請求項1に係る発明の如く、ピロティの外部に設けることは、記載されていない。

(3)当初明細書等における、その余の箇所の記載の検討
そこで、エレベータをピロティの外部に設けることについて、本件当初明細書のその余の記載を、さらに検討する。
本件当初明細書の段落【0017】-【0018】、【0022】及び【図6】には、次の記載及び図示がある。
「【0017】
第の実施例は、図6の右側の如く、本発明エレベータ10全体を上部構造物2と一体にして、ピロティ部3と地面と分離し、ピロティ部3の外側にあり、上部構造物2と一体にエレベータ10が揺れ動き、破壊されない。
【0018】
本発明第5の実施例は、地下までエレベータを通す場合で図6の右破線の如くエレベータシャフト11を上層部2、ピロティ3及び地下5まで一体として地下まで入れてなるもので、この場合、エレベータ11は地底から浮いておりピロティ3や地下5の中で水平に移動する。第6の実施例としてエレベータ11の下端の地下底に免震装置12を設けてもよい。
・・・・(中略)・・・・
【0022】
1 公知の高層ビル
2 ピロティ上部高層ビル
3 ピロティ支持柱
4 地震の横揺れ
5 地下室
6 公知免震構造物
7 本発明免震構造物
8 ピロティスジカイ
9 ピロティに入る車
10 本発明エレベータシャフト(ピロティ外)
11 本発明エレベータ(ピロティ及び地下室)
12 同上地下免震装置
13 本発明エレベータ上部シャフト(上部構造用)
14 本発明エレベータ下部シャフト(ピロティ及び地下用)
15 本発明エレベータケーブル
16 本発明エレベータカゴ
20 本発明上部構造用エレベータ
21 本発明ピロティエスカレータ
22 本発明地下室用エスカレータ
23 上下構造物の下の構造
24 下部構造25の上の構造
25 下部構造
71 本発明免震装置
72 本発明免震装置
73 本発明免震装置」




以上の記載を検討すると、本件当初明細書には、図6の右側に示されるエレベータシャフト10の実施例については、ピロティ部3の外側に設けることが記載されている。しかしながら、当該図6右側のエレベータシャフト10は、段落【0017】に記載されるように、「本発明エレベータ10全体を上部構造物2と一体にして、ピロティ部3と地面と分離し」たことで、一体となった上部構造に支持されて、「ピロティ部3の外側」に配置することが可能となったものと解される。そのため、本件補正において「外側」を「外部」と変えた趣旨は明りようでないが、「外部」が「外側」と同じ趣旨とすれば、図6の右側に示される全体を上部構造物2と一体にしたエレベータ10については、ピロティの外部に設けることが記載されていたと言い得る。
これに対して、本件補正後の請求項1に係る発明の如く、上部構造物と一体となったエレベータ上部シャフトと、エレベータ上部シャフトとは分離されたエレベータ下部シャフトとを有するエレベータを、ピロティ部の外部に配置する場合、当該エレベータ下部シャフトは、段落【0019】が言及する【図7】に示されるエレベータ下部シャフト14のように、ピロティ部3の中に配置するわけにはいかない。そのため、本件補正後の請求項1に係る発明のエレベータ下部シャフトは、【図7】及び段落【0019】に示されるエレベータ下部シャフト14とは異り、【図6】のエレベータシャフト10の如くピロティ部3の外部に配置しながら、しかも【図6】のエレベータシャフト10のようにエレベータ全体を一体とすることなく、エレベータ上部シャフト部から分離することが必要となる。
けれども、そのようにエレベータ下部シャフトをエレベータ上部シャフトから分離しつつ、しかもピロティの外部に設置するためには、エレベータ上部シャフトから分離されかつピロティの内部から離れた場所にエレベータ下部シャフトをどうやって設置するかという点に関して技術的変更を要するところ、本件当初明細書及び図面には、かような技術的変更について記載はない。また本件当初明細書及び図面には、そのような技術的変更を要するにもかかわらず、【図6】の右側のエレベータシャフト10をエレベータ上部シャフトとエレベータ下部シャフトとに分離したり、あるいは【図7】のエレベータ上部シャフト13及びエレベータ下部シャフト14からなるエレベータをピロティの外部に移設することについて、示唆もされていない。そのため、単に【図6】右側に示される、エレベータシャフト10全体が上部構造物と一体化しピロティ部3の外側に配置された実施例と、【図7】に示される、エレベータ上部シャフト13及び当該エレベータ上部シャフト13と分離されたエレベータ下部シャフト14とを有するが、ピロティ部3の外部には配置されていないエレベータの実施例とが、それぞれ個別に記載されていることをもって、これらの記載の総合から、両実施例を融合し、エレベータ下部シャフトをエレベータ上部シャフトから分離したうえで、しかも当該エレベータをピロティ外部に設置することが、本件当初明細書等に記載されていたに等しいということはできない。
したがって、本件補正後の請求項1に記載される如く、ビルの上部構造と一体となったエレベータ上部シャフトと、エレベータ上部シャフトとは分離されたエレベータ下部シャフトとを有するエレベータを、ピロティの外部に配置する、というエレベータの構造を、発明特定事項として導入する本件補正は、当初明細書等に記載された事項の総合にない、新たな技術的事項を追加導入するものである。
なお、本件補正後の請求項1に記載される「ピロティの外部」が、仮に本件補正前に記載された「ピロティの外側」とは異る趣旨とすれば、本件当初明細書等には「ピロティの外部」という記載もないから、「外側」と異なる「外部」という記載の導入についても、補正の根拠が不明であるとともに、補正の適否についてもさらなる疑義が生じることが懸念される。

(4)新規事項-小括
よって、本件補正後の請求項1には、当初明細書等の記載の総合にない新たな技術的事項が追加導入されており、本件補正は当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。


4 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同条同項の規定に違反するものである。
また、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、同法第159条1項の規定において読み替えて準用する同法第53条1項の規定により、却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成31年3月8日にされた手続補正は、上記のとおり却下され、また平成30年4月5日付け手続補正書による補正は、平成30年12月26日付け補正却下の決定により却下されているから、本件補正前の特許請求の範囲の記載は、平成28年11月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[補正の却下の決定の理由]1(2)に記載のとおりのものである。


2 当審拒絶理由通知書の拒絶の理由の概要
当審が通知した平成30年12月26日付けの拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
1)この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2)この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特許第3962758号公報(平成19年8月22日発行)


3 引用文献1の記載
(1)記載事項
当審の拒絶の理由で引用した引用文献1には、図面とともに次の記載がある(なお、下線は当審で付した。)
ア 課題を解決するための手段
「【0008】
本発明の中間免震建物は、 上部階と下部階との間に免震装置が設けられた中間層免震建物であって、 エレベータシャフト、及び、エレベータに出入りするのに用いられ玄関につながるエントランスホールを含む建物の1階部分が、前記上部階から吊り下げ支持されており、 前記エントランスホールと玄関との間に相対変位吸収部である免震エキスパンションが設けられており、 前記上部階から吊り下げ支持されている建物の1階部分の床と土間スラブ又は地中梁との間に上下方向のクリアランスが開けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、エントランスホールもエレベータシャフトや上部階とともに免震化でき、建物のより広い範囲の安全性を得られる。そして、エントランスホールと玄関との間に相対変位吸収部(免震エキスパンション)を設ける場合、両者の床が上下にオーバーラップするような簡単な構造で免震エキスパンションを構成できる。そのため、エントランスホールとエレベータシャフトとの間に免震エキスパンションを設ける場合に比べて、水平方向の干渉逃げスキマが不要となり、免震エキスパンションのためのデッドスペースが小さくなるという利点がある。
【0010】
・・・(中略)・・・・
【0013】
本発明においては、 駐車場、駐輪場、ゴミ置き場、盤室などが前記下部階に固定されていることとできる。」

イ 発明を実施するための形態
「【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る中間層免震建物の一階を模式的に示す図であり、図1(A)は平面図、図1(B)はB-B断面図である。
図2は、図1の建物の側面図である。
この建物1は、図1(A)に示すような、平面形状が略長方形の11階建てのマンションである(図2参照)。図1(A)に示すように、1階には、玄関R1、アプローチR2、風除室R3、エントランスホールR4、エレベータシャフトR5、管理人室R6、ゴミ置き場R7、盤室R8、駐車場や駐輪場R9などが設けられており、2階から11階までが居室となっている。
【0016】
建物1の四隅と、長辺の中間には、建物1の構造物(主な柱)3が立設されている。これらの柱3は、地盤に打ち込まれた杭4の上に配置された基礎5上に立設されている。各柱3は、地中で建物1の長手方向及び短手方向に地中梁6で連結されている。また、地中梁6同士も一部で地中梁6で連結されている。
【0017】
各柱3の1階の中間部分には、図2に示すように免震装置30(詳細後述)が設けられており、この免震装置30から上の構造物(上部階)が免震化されている(免震装置から下の構造物を下部階という)。詳しくは後述するが、1階のアプローチR2、風除室R3、エントランスホールR4、エレベータシャフトR5、管理人室R6(図1(A)の斜線で示す部分)は、上部階に吊り下げ支持されている。なお、図1(A)に示すように、平面で見ると、エントランスホールR4とエレベータシャフトR5は、柱3よりも外に張り出している。基礎5はこの張り出した部分にも設けられており、その周囲には擁壁7が設けられている。地震時には免震装置30から上の上部階が下部階に対して水平方向にせり出す(相対移動する)。このため、張り出した基礎5は、エントランスホールR4とエレベータシャフトR5よりも広く取られており、擁壁7とエレベータシャフト5との間には、干渉回避のためのスキマが開けられている。
【0018】
1階の下部階に相当する部分(玄関R1、盤室R8、駐車場や駐輪場R9、ゴミ置き場R7)では、地中梁6の上端面が、地面上に敷設された土間スラブ8で押えられて固定されている。一方、1階の上部階から吊り下げられた部分(アプローチR2、風除室R3、エントランスホールR4、エレベータシャフトR5、管理人室R6)では、下方に、地中梁6や擁壁7で囲まれた免震ピット10が設けられている。
【0019】
・・・(中略)・・・・・
【0029】
このような構造により、地震時には、免震装置30から上の上部階とともに、アプローチR2、風除室R3、エントランスホールR4、エレベータシャフトR5、管理人室R6が、同装置より下の下部階に対して水平方向に揺れる。この際、上下方向においては、アプローチR2、風除室R3、エントランスホールR4、エレベータシャフトR5、管理人室R6の床面は、下部階の土間スラブ8との間に免震スリットSが設けられているため、土間スラブ8と干渉しない。また、水平方向においても、周囲の柱3や壁、擁壁7との間にスキマが設けられているため、これらに干渉しない。そして、風除室R3と玄関R1との間も、前述の免震エキスパンション40により横揺れが吸収される。」

ウ 図面
「【図1】





(2)技術的事項
段落【0015】、【0017】及び図2より、引用文献1には、上部階と下部階との間に免震装置30が設けられた11階建てのマンションである中間層免震建物1、という技術的事項が記載されている。
段落【0015】及び【0016】より、引用文献1には、地盤に配置された基礎5上の、中間層免震建物1の略長方形の平面形状の四隅と長辺の中間となる位置に柱3を立設する、という技術的事項が記載されている。
段落【0017】より、引用文献1には、柱3の1階の中間部分に免震装置30を設け、免震装置30から上の構造物である上部階を免震化する、という技術的事項が記載されている。
段落【0013】、【0015】及び【0017】より、引用文献1には、免震装置30から下の構造物である1階の下部階には、ゴミ置き場R7、駐車場や駐輪場R9を固定して設ける、という技術的事項が記載されている。
段落【0017】及び図1より、引用文献1には、中間層免震建物1はエレベータシャフトR5を備え、エレベータシャフトR5は、平面で見て柱3に囲まれた略長方形の領域よりも外に設けるとともに、1階の部分も上部階に吊り下げ支持する、という技術的事項が記載されている。
段落【0029】より、引用文献1には、地震時には、エレベータシャフトR5は、免震装置30から上の上部階とともに、免震装置30から下の下部階に対して揺れる、という技術的事項が記載されている。

(3)引用文献1に記載された発明
上記(1)及び(2)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「上部階と下部階との間に免震装置30が設けられた11階建てのマンションである中間層免震建物1において、
地盤に配置された基礎5上の、中間層免震建物1の略長方形の平面形状の四隅と長辺の中間となる位置に柱3を立設し、
柱3の1階の中間部分に免震装置30を設け、免震装置30から上の構造物である上部階を免震化し、
免震装置30から下の構造物である1階の下部階には、ゴミ置き場R7、駐車場や駐輪場R9を固定して設けるとともに、
中間層免震建物1はエレベータシャフトR5を備え、エレベータシャフトR5は、平面で見て柱3に囲まれた略長方形の領域よりも外に設けるとともに、1階の部分も上部階に吊り下げ支持し、
地震時には、エレベータシャフトR5は、免震装置30から上の上部階とともに、免震装置30から下の下部階に対して揺れる、
中間層免震建物1。」


4 対比・判断
引用発明1と本願発明とを対比する。
引用発明1における、「11階建てのマンションである中間層免震建物1」は、本願発明における「ビル」に相当する。
引用発明1における「下部階」は、「地盤に配置された基礎5上の、中間層免震建物1の略長方形の平面形状の四隅と長辺の中間となる位置に柱3を立設し」て形成され、「ゴミ置き場R7、駐車場や駐輪場R9を固定して設け」た、「免震装置30から下の構造物である1階の下部階」であるから、柱3を立設して形成されるという構造、及び駐車場R9等として利用されるという使用態様のいずれの面からも、本願発明における「ピロティ等下部構造」及び「ピロティ部」に相当する。また、引用発明1において、前述のような「下部階」を備える「中間層免震建物1」は、本願発明における「免震ピロティ等建築物」にも相当する。
引用発明1において、「免震装置30から上の構造物である上部階」は、本願発明における「上部構造」に相当し、引用発明1において「上部階」が「下部階との間」に設けた「免震装置30」により「免震化」されていることは、本願発明において「ビルのピロティ等下部構造と上部構造」が「分離」されていることに相当する。
引用発明1において、「上部階と下部階との間に免震装置30が設けられ」ていることは、本願発明において「分離部に免震構造を設け」たことに相当する。
引用発明1において、中間層免震建物1が「エレベータシャフトR5」を備えることは、本願発明において「上下階を移動できる」ことに相当する。また、引用発明1における「エレベータシャフトR5」が、「1階の部分も上部階に吊り下げ支持」されている構成から、引用発明1の中間層免震建物1では、エレベータシャフトR5が組み付けられ下部階から免震分離された上部階の高さ位置、及び、エレベータシャフトR5の1階部分が上部階から吊り下げられた下部階相当の高さ位置の間を、移動可能と解される。そのため、引用発明1において「エレベータシャフトR5」が「1階の部分も上部階に吊り下げ支持」されている構成は、本願発明における「且つ上下階を移動できる」構成を、分離された「ピロティ等下部構造」と「上部構造」との間を移動できる趣旨と解した場合にも、本願発明における当該構成に相当する。
引用発明1において、「エレベータシャフトR5」を「1階の部分も上部階に吊り下げ支持」し、かつ「地震時には、エレベータシャフトR5は、免震装置30から上の上部階とともに、免震装置30から下の下部階に対して揺れる」構成では、「エレベータシャフトR5」は、上部階の高さに位置する部分、及び上部階から吊り下げ支持された1階の部分のいずれもが、地震時には「上部階とともに」、「下部階」に対して、及び、該「下部階」を「柱3を立設」して「基礎5上」に形成した「地盤」に対して、「揺れる」こととなると解される。そのため、引用発明1における当該構成は、本願発明における「エレベータ全体を前記上部構造と一体とし、ピロティ部と地面と分離し」た構成に相当する。
引用発明1において、「エレベータシャフトR5」を、「平面で見て柱3に囲まれた略長方形の領域よりも外に設け」た構成は、本願発明1の「前記エレベータはピロティの外側に設けた」構成に相当する。
すなわち、引用発明1と本願発明との間に相違点はなく、両者は同一である。
また、仮に両者に若干の相違点があったとしても、当該相違点は設計事項程度であるから、本願発明は引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1と同一であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-04-11 
結審通知日 2019-04-16 
審決日 2019-05-07 
出願番号 特願2013-258855(P2013-258855)
審決分類 P 1 8・ 57- WZ (E04H)
P 1 8・ 121- WZ (E04H)
P 1 8・ 55- WZ (E04H)
P 1 8・ 113- WZ (E04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野 郁磨小池 俊次富士 春奈河内 悠佐藤 美紗子  
特許庁審判長 秋田 将行
特許庁審判官 西田 秀彦
有家 秀郎
発明の名称 免震ピロティ等建築物  

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