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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12N
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C12N
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C12N
管理番号 1353124
異議申立番号 異議2018-700451  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-05 
確定日 2019-05-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6242525号発明「ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6242525号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1、2〕、〔3、4〕について訂正することを認める。 特許第6242525号の請求項1及び3に係る特許を維持する。 特許第6242525号の請求項2及び4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6242525号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成29年5月1日に特許出願され、平成29年11月17日にその特許権の設定登録がされ、平成29年12月6日に特許掲載公報が発行された。その後の手続は以下のとおりである。
平成30年 6月 5日 特許異議申立人 中谷 浩美より特許異議の
申立
平成30年 7月27日付け 取消理由通知
平成30年10月 1日 特許権者より意見書の提出及び訂正の請求
平成30年11月13日付け 特許異議申立人 中谷 浩美により意見書の
提出
平成30年11月21日付け 取消理由通知(決定の予告)
平成31年 1月25日 特許権者より意見書の提出及び訂正の請求
平成31年 3月 8日付け 特許異議申立人 中谷 浩美より意見書の提出


第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成31年1月25日付け訂正請求(本件訂正請求)による訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)?(4)のとおりである。
(1) 請求項1に「培養液中のユーグレナ細胞濃度を調整する工程を含む」と記載されているのを、「培養液中のユーグレナ細胞濃度を培養中に渡って2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に維持するように調整する工程を含む」に訂正する。
(2) 請求項2を削除する。
(3) 請求項3に「培養液中のユーグレナ細胞濃度を調整する工程を含む」と記載されているのを、「培養液中のユーグレナ細胞濃度を培養中に渡って2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に維持するように調整する工程を含む」に訂正する。
(4) 請求項4を削除する。
上記(1)、(2)の訂正は一群の請求項〔1、2〕に対して請求されたものであり、上記(3)、(4)の訂正は一群の請求項〔3、4〕に対して請求されたものである。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(1)、(3)の訂正事項に関連する記載として、発明の詳細な説明の段落【0055】には「例えば、培地の種類や、培地に含まれる成分の構成比、培養液のpH、培養温度、培養期間、培養液への光照射などの条件を適宜調整することで、培養液中のユーグレナ細胞濃度を調整すればよい。」と記載され、段落【0090】には
「(試験3の結果及び考察)
図21は、培養液中のユーグレナ細胞濃度と、ユーグレナ細胞に含まれるパラミロンの含量率の関係を示すグラフである。細胞濃度が薄い場合に、細胞濃度が濃い場合よりもパラミロン含有率が多くなることがわかった。」と記載されており、図21のグラフの横軸には、2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満の範囲を含む細胞濃度が示されており、この範囲ではそれよりも高い細胞濃度の場合よりもパラミロン含有量が高いことが示されていると認められる。
そして、ユーグレナのパラミロン含有量を増加させるために、上記の範囲内に細胞濃度を培養中に渡って維持することは、発明の詳細な説明および図面の記載から明らかである。
したがって、上記(1)、(3)の訂正は、明細書に記載された事項の範囲内において、細胞濃度を調整する工程が、細胞濃度を培養中に渡って維持するように調整する工程であること、及び調整する細胞濃度について具体的に限定したものといえるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3、4〕について訂正することを認める。


第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1及び3に係る発明(以下「本件発明1及び3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
本件発明1
「ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法であって、
ユーグレナにおけるパラミロン合成酵素の発現量を増加させるパラミロン合成酵素発現量制御工程を行い、
前記パラミロン合成酵素発現量制御工程は、培養液中のユーグレナ細胞濃度を培養中に渡って2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に維持するように調整する工程を含むことを特徴とするユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法。」
本件発明3
「ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法であって、
培養液中のユーグレナ細胞濃度を培養中に渡って2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に維持するように調整する工程を含むことを特徴とするユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法。」

2.特許異議申立の理由の概要
特許異議申立の理由の概要は以下のとおりである。
(1)特許法第36条第6項第2号
請求項1?4には意味が不明な発明特定事項があるので、請求項1?4に係る発明は明確でない。
(2)特許法第36条第6項第1号
請求項1?4に係る発明は、本件特許発明の課題(パラミロン含有率を増加させうること)が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
(3)特許法第29条第1項第3号
請求項1?4に係る発明は、甲第1?5号証に記載の発明に該当する。
(4)特許法第29条第2項
請求項1?4に係る発明は、甲第1?5号証に記載の発明から容易想到である。

3.取消理由の概要
平成30年10月1日の訂正請求により訂正された請求項1?4に係る発明に対して、平成30年11月21日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)請求項1ないし4に係る発明は明確でない。よって、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)請求項1ないし4に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものでない。よって、請求項1ないし4に係る特許は、同法第36条第6項第1号に規定する要件をを満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に該当する。よって、請求項1ないし4に係る特許は、同法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

4.甲号証の記載
(1)甲第1号証、引用発明
本件特許出願の日前に頒布された刊行物である、末永智幸、外6名、「Euglena gracilis のパラミロン含量および分子量に及ぼす培養条件の影響」、第66回日本生物工学会大会講演要旨集、公益社団法人日本生物工学会、2014年8月5日発行、p.47、1P-119(甲第1号証)には、Euglenaが産生するパラミロンがプラスチックの原料として有用であることが記載されており、多くのパラミロンを得ようとすることは当業者にとって自明の課題であるといえる。
そして、甲第1号証には、「流加培養によりEuglenaの細胞収量は飛躍的に向上し細胞内パラミロン含量も増加したため、パラミロンの生産性は大幅に向上した。」と記載されていることから、甲第1号証には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「Euglenaを流加培養して、Euglena細胞内パラミロン含量を増加させる方法。」

(2)甲第2号証
本件特許出願の日前に頒布された刊行物である、特開平7-67620号公報(甲第2号証)、には、Euglena gracilis を流加培養することが記載されている。

(3)甲第3号証
本件特許出願の日前に頒布された刊行物である、特開2017-42131号公報(甲第3号証)、には、ユーグレナ属微細藻類を流加培養することが記載されている。

(4)甲第4号証
本件特許出願の日前に頒布された刊行物である、特開2017-29057号公報(甲第4号証)、には、液体に含まれたユーグレナ属微細藻類を流加培養することが記載されている。

(5)甲第5号証
本件特許出願の日前に頒布された刊行物である、特許2777418号公報(甲第5号証)には、ユーグレナの培養に関して記載されており、3種の異なる撹拌羽根を用いた3通りの線速度でユーグレナを4?7日間培養して、表2(第3頁)、表3(第4頁)に示される藻体数(cell/ml)の培養液を得たことが記載されていると認められる。

5.判断
(1) 取消理由通知に記載した取消理由について
ア 特許法第36条第6項第2号
取消理由通知における、平成30年10月1日付けで訂正された請求項1、3の「培養液中のユーグレナ細胞濃度を2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に調整する工程を含む」の記載が「培養液中のユーグレナ細胞濃度を2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満」という細胞濃度条件をユーグレナ培養中に渡って維持すること(前者)を特定しているのか、それとも、ユーグレナ培養中に該細胞濃度条件とする工程が一度でも存在すること(後者)を特定しているのか明らかでないとの指摘に対して、平成31年1月25日付けで訂正された請求項1、3には「培養液中のユーグレナ細胞濃度を培養中に渡って2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に維持するように調整する」と記載されており、同日付け意見書には、訂正により(前者)を意味することを特定したと記載されている。
そうすると、「培養液中のユーグレナ細胞濃度を培養中に渡って2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に維持するように調整する」の記載は、「ユーグレナ細胞濃度を2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満」という細胞濃度条件を、培養開始から培養終了までの培養の全期間に渡って維持することを特定していることは明らかである。
したがって、本件発明1、3は、明確に特定されていると認められる。

イ 特許法第36条第6項第1号
本件発明1及び3の解決しようとする課題は、ユーグレナのパラミロン含有量を増加させることができる方法の提供であると認められる。
本件の図21に示されている細胞濃度は、本件特許明細書の段落0086の(ユーグレナの培養)に記載される培養を行い、培養が終了した培養液を用いて細胞濃度とパラミロンを定量したものと解するのが相当である。そして、通常、ユーグレナの培養を行うと細胞が増殖して細胞濃度が上昇すると考えられるところ、段落0086には培養中に培養液に新たな培地や水を添加したことは記載されていないから、段落0086の培養では、培養中は培養終了時の細胞濃度よりも低い細胞濃度で培養が行われたと認められる。
そして、図21の記載から、 2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満の細胞濃度の範囲では、それよりも高い細胞濃度である場合より、パラミロン含有率(%)が高いことが読み取れるから、図21の記載から、培養液中のユーグレナ細胞濃度を2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に維持することで、ユーグレナのパラミロン含有量を増加させることができることが理解できる。
訂正後の請求項1、3には「培養液中のユーグレナ細胞濃度を培養中に渡って2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に維持するように調整する工程を含む」ことが特定されているから、本件発明1及び3は、本件特許明細書、特に図21の記載から、上記課題が解決できることを理解することができるといえる。

ウ 特許法第29条第1項第3号、同法同条第2項
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明には「培養液中のユーグレナ細胞濃度を培養中に渡って2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に維持するように調整する」こと(相違点A)は特定されておらず、甲第1号証にはこの点に関する記載や示唆はない。
したがって、本件発明1は引用発明と同一ではない。
また、甲第2?5号証には、上記相違点Aの事項について記載も示唆もされてない。
そして、当該事項により、本件発明1は、培養されたユーグレナのパラミロン含有量が増加するという顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は引用発明及び甲第2?5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
また、本件発明3についても、同様に、引用発明と同一ではなく、引用発明及び甲第2?5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

エ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は平成31年3月8日付け意見書において、本件発明1、3の「培養液中のユーグレナ細胞濃度を培養中に渡って2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に維持するように調整する」の記載は明確でないと主張しているが、上記アで述べたとおり、この記載が「ユーグレナ細胞濃度を2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満」という細胞濃度条件を、培養開始から培養終了までの培養の全期間に渡って維持することを特定していることは明らかである。
また、特許異議申立人は、培養液中のユーグレナ細胞濃度を調整する方法が不明であるとも主張しているが、培養液を希釈すること、濃縮することなど、当業者に周知の方法で細胞濃度が調整できることは技術常識からみて明らかであり、当業者であれば細胞濃度を「2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満」の範囲内となるように調整しながら培養を行うことができるといえる。
したがって、「培養液中のユーグレナ細胞濃度を培養中に渡って2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に維持するように調整する」の記載が明確でないとは認められない。

(2)取消理由通知に記載しなかった特許異議申立理由について
ア 甲第5号証に基づく新規性違反
本件発明1及び3は、いずれも「ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法」に係るものであり、この方法は、ユーグレナの培養を行った結果、培養されたユーグレナの単位細胞に含有されるパラミロンの含有割合が増加することを特定するものであって、ユーグレナの培養を行った結果、ユーグレナの細胞が増殖してユーグレナの細胞収量が増加すること特定するものではない。
特許異議申立人は平成31年3月8日付け意見書において、「培養液中のユーグレナ細胞濃度を培養中に渡って2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に維持するように調整する工程」は、実質的には「ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法」でもあるなどと主張しているが、この主張は誤りである。本件発明1及び3は、「培養液中のユーグレナ細胞濃度を培養中に渡って2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に維持するように調整する」ことが「ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる」ことを見出した点を特徴とする発明であると認められる。
甲第5号証には、表2、表3に3通りの線速度でユーグレナを回分培養したときの4?7日目の藻体数について記載されており、藻体数が4日目で8.2×10^(5)、6日目で1.1×10^(7)であったことなどが記載され、また、工業規模においては流加培養を行うこと(第4頁右欄10?11行)なども記載されているが、甲第5号証には、「ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる」ことや、「培養液中のユーグレナ細胞濃度を培養中に渡って2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に維持するに調整する」ことに関する記載や示唆はない。
したがって、本件発明1及び3は、甲第5号証に記載された発明であるとはいえない。

イ 甲第2号証ないし甲第4号証に基づく新規性違反
甲第2号証ないし甲第4号証には、「ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる」ことや、「培養液中のユーグレナ細胞濃度を培養中に渡って2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に維持するように調整する」ことに関する記載や示唆はない。
したがって、本件発明1及び3は、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明と同一ではない。

ウ 甲第1号証ないし甲第5号証に基づく進歩性違反
甲第1?5号証には、「ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる」ことや、「培養液中のユーグレナ細胞濃度を培養中に渡って2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に維持するように調整する」ことは記載も示唆もされていないから、本件発明1及び3は、甲第1?5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)特許異議申立人が平成30年11月13日付け意見書で示した甲第6号証、甲第7号証に基づく理由について
特許異議申立人は下記の甲第6号証及び甲第7号証を示して、訂正後の請求項1、3に係る発明についての新規性違反、進歩性違反の理由を主張しているが、特許異議申立人の主張する理由は、訂正により生じたものに該当するとは認められないから、採用することができない。

・甲第6号証:末永智幸、外4名、「ユーグレナ(ミドリムシ)によるバイオプラスチック生産への食品産業廃液の利用可能性」、宮崎大学 産学・地域連携センター 第21回「技術・研究発表交流会」、41番、平成26年9月4日(開催日)、[on line]、[出力日:平成30年11月13日]、インターネット<URL:http://www.miyazaki-u.ac.jp/crcweb/hpdata2010/sangaku/gijyutukenkyu/pdf/2014/2014.41.pdf>、<URL:https://www.miyazaki-u.ac.jp/crcweb/news/activity_report/139/>
・甲第7号証:特公平5-32019号公報

なお、仮に特許異議申立人の理由を検討したとしても、以下のとおり、訂正後の請求項1、3に係る発明は、特許を受けることができないものとはいえない。
甲第6号証には、[結果]の項に、バッチ培養と比較して流加培養では細胞収量が増加したことは記載されているが、培養されたユーグレナの単位細胞に含有されるパラミロンの含有割合が増加することは記載も示唆もされていない。
甲第7号証には、「細胞濃度が5×10^(6)cells/mlとなった時点から増殖安定期2日目までの期間内に、炭素濃度1.2?8.0g/l、窒素濃度0.07?4.5g/lの培地液を平均滞留時間が5?96時間となるように培養槽に送給することを特徴とするユーグレナの連続培養方法。」(特許請求の範囲)が記載され、「本発明による培養方法では、ユーグレナの対数増殖期の中間段階で細胞数濃度が5×10^(6)Cells/mlとなった時点以降で、細胞数が最高となる安定期となって2日目までの期間内に、炭素濃度が1.2?8.0g/l、窒素濃度が0.07?4.50g/lであるあらかじめ滅菌処理した培地液を液ポンプまたは加圧流出法等によって培養槽へ連続的に送入する。この時、培養槽での培地液の平均滞留時間を5?96時間の範囲内とすることにより、連続的にユーグレナ細胞を収穫することができる。炭素濃度が1.2g/未満では、細胞分裂に必要な炭素源が不足し、連続培養開始後1?2日目から培養槽内の細胞数が急激に低下する。炭素濃度が8g/lをこえると、細胞が炭素源を急速に体内蓄積し、貯蔵多糖のパラミロンに変換するが、逆に分裂は極度に阻害され、更に流出液中に炭素源が残留し、培地コストの経済性から好ましくない。また、平均滞留時間が5時間未満では、培養槽内からほとんどが流出し、96時間をこえると、ユーグレナ細胞の減衰期となり槽内細胞数濃度が5?6×10^(6)Cells/mlと非常に少なくなるため、得られる細胞収量も、回分培養法でのものと同程度となりメリツトがない。」(第4欄?第5欄1行)と記載されている。
そして、甲第7号証の記載から、ユーグレナの連続培養は回分培養よりも細胞収量が増加すること、培地の炭素濃度の調節が細胞数や貯蔵多糖と関連することなどは読み取れるものの、甲第7号証に培養液中の細胞濃度の調整により、ユーグレナの単位細胞に含有されるパラミロンの含有割合が増加することが記載ないし示唆されているとは認められない。

6.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法であって、
ユーグレナにおけるパラミロン合成酵素の発現量を増加させるパラミロン合成酵素発現量制御工程を行い、
前記パラミロン合成酵素発現量制御工程は、培養液中のユーグレナ細胞濃度を培養中に渡って2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に維持するように調整する工程を含むことを特徴とするユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法であって、
培養液中のユーグレナ細胞濃度を培養中に渡って2×10^(6)匹/ml以上1×10^(7)匹/ml未満に維持するように調整する工程を含むことを特徴とするユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法。
【請求項4】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-05-08 
出願番号 特願2017-91320(P2017-91320)
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (C12N)
P 1 651・ 537- YAA (C12N)
P 1 651・ 853- YAA (C12N)
P 1 651・ 121- YAA (C12N)
P 1 651・ 113- YAA (C12N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西 賢二小田 浩代  
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 常見 優
中島 庸子
登録日 2017-11-17 
登録番号 特許第6242525号(P6242525)
権利者 株式会社ユーグレナ 学校法人慶應義塾 国立大学法人島根大学
発明の名称 ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法  
代理人 秋山 敦  
代理人 城田 百合子  
代理人 秋山 敦  
代理人 城田 百合子  
代理人 城田 百合子  
代理人 秋山 敦  
代理人 城田 百合子  
代理人 秋山 敦  

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