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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H05K
管理番号 1353154
異議申立番号 異議2018-700557  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-10 
確定日 2019-06-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6258290号発明「フレキシブルプリント配線板用補強部材、フレキシブルプリント配線板、及び、シールドプリント配線板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6258290号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり〔1-7〕、〔8-13〕について訂正することを認める。 特許第6258290号の請求項1、5乃至7、8、12、13に係る特許を維持する。 特許第6258290号の請求項2乃至4及び9乃至11に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6258290号の請求項1乃至13に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)2月25日(優先権主張 平成25年2月26日)を国際出願日とする出願であって、平成29年12月15日にその特許権の設定登録がされ、平成30年1月10日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、同年7月10日に特許異議申立人 渡辺 広基により特許異議の申立てがされた。そして、同年9月20日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年11月22日付けで特許権者により意見書の提出がされ、同年12月25日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成31年3月7日付けで特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年4月5日付けで訂正請求があった旨の通知がされ、それに対し、その指定期間内である令和1年5月9日付けで特許異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成31年3月7日付けの訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下の訂正事項のとおりである。なお、下線は訂正部分を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に

「プリント配線板におけるグランド用配線パターンの所定部分に対向配置され、対向する一方面が前記グランド用配線パターンの前記所定部分に導電性組成物層で導通されると共に、他方面がグランド電位の外部グランド部材に導通されるプリント配線板用補強部材であって、
導電性を有した金属基材と、
前記一方面および前記他方面の一部を構成するように前記金属基材の表面に形成された表面層と、
を有し、
前記表面層が、前記金属基材の導電性及び耐食性よりも高い導電性及び耐食性を有し、
前記表面層の厚みが0.005?0.2μmであることを特徴とするフレキシブルプリント配線板用補強部材。」と記載されているのを、

「プリント配線板におけるグランド用配線パターンの所定部分に対向配置され、
対向する一方面が前記グランド用配線パターンの前記所定部分に導電性組成物層で導通されると共に、他方面がグランド電位の外部グランド部材に導通されるプリント配線板用補強部材であって、
導電性を有した金属基材と、
前記一方面および前記他方面の一部を構成するように前記金属基材の表面に形成された表面層と、
を有し、
前記表面層が、前記金属基材の導電性及び耐食性よりも高い導電性及び耐食性を有し、
前記表面層の厚みが0.005?0.2μmであり、
前記表面層は、前記金属基材の表面に直接形成されており、
前記表面層は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びこれらを主成分とした合金からなる群から選択される少なくとも1種により形成されており、
前記金属基材はステンレス鋼であることを特徴とするフレキシブルプリント配線板用補強部材。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項5、6及び7も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5が引用する請求項を「請求項1」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6が引用する請求項を「請求項1又は5」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7が引用する請求項を「請求項1、5又は6の何れか1項」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に

「絶縁フィルムを有するプリント配線板と、前記プリント配線板の前記絶縁フィルム上に絶縁層とこの絶縁層の下に形成された導電層とを有するシールドフィルムと、電子部品の実装部位に対向する前記シールドフィルムの絶縁層上に一方面が配置され、外部グランド部材に他方面が導通されるフレキシブルプリント配線板用補強部材と、を有するシールドプリント配線板であって、
前記フレキシブルプリント配線板用補強部材は、
導電性を有した金属基材と、
前記一方面および前記他方面の一部を構成するように前記金属基材の表面に形成された表面層と、
を有し、
前記表面層が、前記金属基材の導電性及び耐食性よりも高い導電性及び耐食性を有し、
前記表面層の厚みが0.005?0.2μmであり、
前記補強部材の一方面に設けた導電性接着剤によって、この導電性接着剤に含まれる導電性粒子を前記シールドフィルムの前記絶縁層を突き破ることで前記導電層と接触させるようにして、前記一方面で前記シールドフィルムの前記絶縁層と接着されることを特徴とするシールドプリント配線板。」と記載されているのを、

「絶縁フィルムを有するプリント配線板と、前記プリント配線板の前記絶縁フィルム上に絶縁層とこの絶縁層の下に形成された導電層とを有するシールドフィルムと、電子部品の実装部位に対向する前記シールドフィルムの絶縁層上に一方面が配置され、外部グランド部材に他方面が導通されるフレキシブルプリント配線板用補強部材と、を有するシールドプリント配線板であって、
前記フレキシブルプリント配線板用補強部材は、
導電性を有した金属基材と、
前記一方面および前記他方面の一部を構成するように前記金属基材の表面に形成された表面層と、
を有し、
前記表面層が、前記金属基材の導電性及び耐食性よりも高い導電性及び耐食性を有し、
前記表面層の厚みが0.005?0.2μmであり、
前記補強部材の一方面に設けた導電性接着剤によって、この導電性接着剤に含まれる導電性粒子を前記シールドフィルムの前記絶縁層を突き破ることで前記導電層と接触させるようにして、前記一方面で前記シールドフィルムの前記絶縁層と接着され、
前記表面層は、前記金属基材の表面に直接形成されており、
前記表面層は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びこれらを主成分とした合金からなる群から選択される少なくとも1種により形成されており、
前記金属基材はステンレス鋼であることを特徴とするシールドプリント配線板」に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項12及び13も同様に訂正する)。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項11を削除する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項12が引用する請求項を「請求項8」に訂正する。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項13が引用する請求項を「請求項8又は12」に訂正する。


2.訂正要件についての判断
(1)一群の請求項要件
訂正前の請求項1-7は、請求項2-7が、訂正の対象である請求項1を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、これらの請求項は訂正前において一群の請求項に該当する。
また、訂正前の請求項8-13は、請求項9-13が、訂正の対象である請求項8を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、これらの請求項は訂正前において一群の請求項に該当する。

したがって、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法120条の5第4項に規定する要件を満たす。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「表面層」を、「前記表面層は、前記金属基材の表面に直接形成されており、前記表面層は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びこれらを主成分とした合金からなる群から選択される少なくとも1種により形成され」るとして形成位置、材質を限定し、また、「金属基材」を、「前記金属基材はステンレス鋼であ」るとして材質を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、請求項5?7は請求項1を引用するものであるから、請求項5?7においても、同様の限定を行うものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項1の「前記表面層は、前記金属基材の表面に直接形成されて」に関して、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲又は図面(以下、単に「本件特許明細書等」という。)の段落【0076】及び【0086】には、基材に対して電界めっき処理をして表面層が形成されることが記載されており、特段他の層を形成する旨の記載はないから、表面層は金属基材に直接形成されているものと認められる。なお、図1にも、金属基材と表面層との間に他の層が形成されていることは示されていない。
また、、訂正事項1の「前記表面層」が「、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びこれらを主成分とした合金からなる群から選択される少なくとも1種により形成され」ること関しては、本件特許明細書等の段落【0047】に、「表面層135b、135cは、貴金属により形成されている。これによって補強部材135は、ステンレス鋼で形成された基材135aだけで構成した場合よりも導電性が高くかつ耐食性が高く形成されている。表面層135b、135cの材料として使用可能な貴金属としては、例えば、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)があり、本実施形態では、金を使用している。また、貴金属を主成分とした合金を材料として表面層135b、135cを形成してもよい。」と記載されている。
さらに、、訂正事項1の「前記金属基材はステンレス鋼であ」ること関しては、本件特許明細書等の段落【0045】に「本実施形態では、基材135aは、ステンレス鋼により形成されており、これによって、補強部材135の強度を高めている。なお、基材135aは、ステンレス鋼であることが耐食性や強度等の点で好ましいが、これに限定されるものではなく、その他の種類の金属であってもよい。例えば、基材135aは、ニッケル、銅、銀、錫、金、パラジウム、アルミニウム、クロム、チタン、亜鉛、および、これらの材料の何れか、または2つ以上を含む合金により形成されていても良い。」と記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項1は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

イ.訂正事項2について
訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項を追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

ウ.訂正事項3について
訂正事項3は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項を追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

エ.訂正事項4について
訂正事項4は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、規事事項を追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

オ.訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項5が請求項1乃至4を引用する記載であったものを、訂正事項2乃至4に応じて引用する請求項から請求項2乃至4を除外するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項を追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

カ.訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項6が請求項1乃至5を引用する記載であったものを、訂正事項2乃至4に応じて引用する請求項から請求項2乃至4を除外するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項を追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

キ.訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項7が請求項1乃至6を引用する記載であったものを、訂正事項2乃至4に応じて引用する請求項から請求項2乃至4を除外するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項を追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

ク.訂正事項8について
訂正事項8は、訂正前の請求項8の「表面層」を、「前記表面層は、前記金属基材の表面に直接形成されており、前記表面層は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びこれらを主成分とした合金からなる群から選択される少なくとも1種により形成され」るとして形成位置、材質を限定し、また、「金属基材」を、「前記金属基材はステンレス鋼であ」るとして材質を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、請求項12、13は請求項8を引用するものであるから、請求項12、13においても、同様の限定を行うものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項8の「前記表面層は、前記金属基材の表面に直接形成されて」に関して、本件特許明細書等の段落【0076】及び【0086】には、基材に対して電界めっき処理をして表面層が形成されることが記載されており、特段他の層を形成する旨の記載はないから、表面層は金属基材に直接形成されているものと認められる。なお、図1にも、金属基材と表面層との間に他の層が形成されていることは示されていない。
また、訂正事項8の「前記表面層」が「、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びこれらを主成分とした合金からなる群から選択される少なくとも1種により形成され」ること関しては、本件特許明細書等の段落【0047】に、「表面層135b、135cは、貴金属により形成されている。これによって補強部材135は、ステンレス鋼で形成された基材135aだけで構成した場合よりも導電性が高くかつ耐食性が高く形成されている。表面層135b、135cの材料として使用可能な貴金属としては、例えば、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)があり、本実施形態では、金を使用している。また、貴金属を主成分とした合金を材料として表面層135b、135cを形成してもよい。」と記載されている。
さらに、、訂正事項8の「前記金属基材はステンレス鋼であ」ること関しては、本件特許明細書等の段落【0045】に「本実施形態では、基材135aは、ステンレス鋼により形成されており、これによって、補強部材135の強度を高めている。なお、基材135aは、ステンレス鋼であることが耐食性や強度等の点で好ましいが、これに限定されるものではなく、その他の種類の金属であってもよい。例えば、基材135aは、ニッケル、銅、銀、錫、金、パラジウム、アルミニウム、クロム、チタン、亜鉛、および、これらの材料の何れか、または2つ以上を含む合金により形成されていても良い。」と記載されている。
したがって、訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項8は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

ケ.訂正事項9について
訂正事項9は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項を追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

コ.訂正事項10について
訂正事項10は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項を追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

サ.訂正事項11について
訂正事項11は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項を追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

シ.訂正事項12について
訂正事項12は、訂正前の請求項12が請求項8乃至11を引用する記載であったものを、訂正事項9乃至11に応じて引用する請求項から請求項9乃至11を除外するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項を追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

ス.訂正事項13について
訂正事項13は、訂正前の請求項13が請求項8乃至12を引用する記載であったものを、訂正事項9乃至11に応じて引用する請求項から請求項9乃至11を除外するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項を追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1乃至7〕、〔8乃至13〕について訂正を認める。


第3.特許異議の申立について
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1乃至13に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」乃至「本件発明13」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1乃至13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
プリント配線板におけるグランド用配線パターンの所定部分に対向配置され、対向する一方面が前記グランド用配線パターンの前記所定部分に導電性組成物層で導通されると共に、他方面がグランド電位の外部グランド部材に導通されるプリント配線板用補強部材であって、
導電性を有した金属基材と、
前記一方面および前記他方面の一部を構成するように前記金属基材の表面に形成された表面層と、
を有し、
前記表面層が、前記金属基材の導電性及び耐食性よりも高い導電性及び耐食性を有し、
前記表面層の厚みが0.005?0.2μmであり、
前記表面層は、前記金属基材の表面に直接形成されており、
前記表面層は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びこれらを主成分とした合金からなる群から選択される少なくとも1種により形成されており、
前記金属基材はステンレス鋼であることを特徴とするフレキシブルプリント配線板用補強部材。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】 (削除)
【請求項4】 (削除)
【請求項5】
さらに、前記金属基材の前記一方面側に配置された導電性組成物層を有することを特徴とする請求項1に記載のフレキシブルプリント配線板用補強部材。
【請求項6】
前記表面層は、複数の線及び/又は点の集合により形成されていることを特徴とする請求項1又は5に記載のフレキシブルプリント配線板用補強部材。
【請求項7】
ベース部材と、
前記ベース部材に形成されたグランド用配線パターンと、
前記グランド用配線パターンの所定部分に対向配置される請求項1、5及び6の何れか1項に記載のプリント配線板用補強部材と、
を有することを特徴とするフレキシブルプリント配線板。
【請求項8】
絶縁フィルムを有するプリント配線板と、前記プリント配線板の前記絶縁フィルム上に絶縁層とこの絶縁層の下に形成された導電層とを有するシールドフィルムと、電子部品の実装部位に対向する前記シールドフィルムの絶縁層上に一方面が配置され、外部グランド部材に他方面が導通されるフレキシブルプリント配線板用補強部材と、を有するシールドプリント配線板であって、
前記フレキシブルプリント配線板用補強部材は、
導電性を有した金属基材と、
前記一方面および前記他方面の一部を構成するように前記金属基材の表面に形成された表面層と、
を有し、
前記表面層が、前記金属基材の導電性及び耐食性よりも高い導電性及び耐食性を有し、
前記表面層の厚みが0.005?0.2μmであり、
前記補強部材の一方面に設けた導電性接着剤によって、この導電性接着剤に含まれる導電性粒子を前記シールドフィルムの前記絶縁層を突き破ることで前記導電層と接触させるようにして、前記一方面で前記シールドフィルムの前記絶縁層と接着され、
前記表面層は、前記金属基材の表面に直接形成されており、
前記表面層は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びこれらを主成分とした合金からなる群から選択される少なくとも1種により形成されており、
前記金属基材はステンレス鋼であることを特徴とするシールドプリント配線板
【請求項9】 (削除)
【請求項10】 (削除)
【請求項11】 (削除)
【請求項12】
さらに、前記金属基材の前記一方面側に配置された導電性組成物層を有することを特徴とする請求項8に記載のシールドプリント配線板。
【請求項13】
前記表面層は、複数の線及び/又は点の集合により形成されていることを特徴とする請求項8又は12に記載のシールドプリント配線板。」


2.取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1-13に係る発明についての特許に対して平成30年12月25日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

請求項1乃至7に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明及び、引用文献1、引用文献2、引用文献3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1乃至7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項8乃至13に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明及び、引用文献2、引用文献3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項8乃至13に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項1乃至13に係る特許は、取り消されるべきものである。

引用文献1:特解2012-156457号公報(甲第1号証)
引用文献2:特開2001-127190号公報(甲第6号証)
引用文献3:特開2000-228450号公報(甲第7号証)

(2)引用文献の記載
ア.引用文献1の記載事項
引用文献1には、図面と共に以下の事項が記載されている。(下線は、当審において付加した。以下、同様。)

a.「【0003】
例えば、図5は、従来のシールドプリント配線板100を示した図である。図5に示すように、シールドプリント配線板100は、グランド用配線パターン114、115が形成されたベース部材112と、グランド用配線パターン114、115を覆うようにして接着剤層113を介してベース部材112上に設けられた絶縁フィルム111と、を備えたプリント配線板110を有している。また、シールドプリント配線板100の絶縁フィルム111上には、導電材123、導電層122、および絶縁層121を順に備えたシールドフィルム120が設けられている。ここで、プリント配線板110の絶縁フィルム111および接着剤層113にはグランド用配線パターン114を露出させるための穴部140が形成されている。この穴部140にシールドフィルム120の導電材123が充填されることによって、導電層122とグランド用配線パターン114とが導通し、双方を同電位に保っている。これにより、シールドフィルム120によって、プリント配線板110に対する電磁波90aを遮蔽することができるようになっている。さらに、プリント配線板110の下面に設けられた実装部位には、電子部品150が接続されるようになっている。そして、プリント配線板110上における電子部品150の実装部位に対向する位置には、補強部材135が設けられる。
【0004】
ここで、プリント配線板110やそれに接続される電子部品150には、外部から電磁波90bなどのノイズの影響を受ける場合があり、この電子部品150が実装される部位にもシールド効果をもたせる必要がある。そこで、補強部材135に導電性を有する材料を用いて、補強部材135にシールド効果をもたせ、補強部材135に補強効果とシールド効果の2つの機能を享受させていた。
【0005】
ここで、補強部材135に十分なシールド効果をもたせるためには、補強部材135をグランド用配線パターン114、115と同電位に保つ必要がある。そのため、従来では、シールドプリント配線板100の外部に図示しないグランド用部材を別途設け、そのグランド用部材を介して、補強部材135とグランド用配線パターン114、115とを同電位に保っていた。しかしながら、シールドプリント配線板100の外部にグランド用部材を設けた場合、補強部材135とグランド用部材とを接続させるための配線などが必要になり、その分だけシールドプリント配線板の面積が大きくなり、設計自由度が狭くなってしまうなどの問題があった。
【0006】
そこで、従来のシールドプリント配線板100では、補強部材135の直下にグランド用配線パターン115を配置し、そのグランド用配線パターン115が露出するように絶縁フィルム111および接着剤層113に穴部160を形成し、樹枝状(審判注:「樹脂状」の誤記と認められる。)の導電性接着剤130をその穴部160に充填することによって、補強部材135とグランド用配線パターン115とを同電位に保っていた。
【0007】
上記のような方法を用いて補強部材とグランド用配線パターンとを同電位に保つものとして、例えば特許文献1に開示されたフレキシブルプリント配線板がある。このフレキシブルプリント配線板は、グランド回路を露出させる開口に導電性接着剤を充填して、金属補強板とグランド回路とを同電位に保ち、金属補強板にシールド効果をもたせている。」

b.「【0021】
【図1】本実施形態に係るシールドプリント配線板の一部断面図である。
・・・ 中略・・・・
【図5】従来のシールドプリント配線板の一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
(シールドプリント配線板1の全体構成)
先ず、図1を用いて、本実施形態のシールドプリント配線板1について説明する。図1に示すように、シールドプリント配線板1は、プリント配線板10と、シールドフィルム20と、補強部材35と、を有している。そして、プリント配線板10の下面に設けられた実装部位には電子部品50が接続されるようになっている。また、シールドフィルム20は、プリント配線板10上に設けられており、電子部品50が接続される実装部位に対向する領域まで配置されている。これにより、シールドフィルム20を利用して電子部品50の実装部位に対する外部からの電磁波90bなどのノイズを遮蔽している。
【0024】
さらに、補強部材35は、シールドフィルム20上に設けられており、電子部品50が接続される実装部位に対向配置されている。補強部材35は、導電性接着剤30に接触状態に接着されており、その導電性接着剤30によって、シールドフィルム20の絶縁層21上に貼り付けられている。ここで、図1の拡大部aは、補強部材35に接触状態に接着された導電性接着剤30が、シールドフィルム20の絶縁層21に接着されている様子を拡大した図である。拡大部aに示すように、導電性接着剤30に含まれる導電性粒子32は、導電性接着剤30に含まれる接着剤31から突出している。そして、導電性接着剤30の上面に接触状態に接着された補強部材35は、導電性粒子32と接触している。一方、導電性接着剤30の下面から突出した導電性粒子32は、シールドフィルム20の絶縁層21を突き破り、その下の導電層22に接触している。これにより、導電性接着剤30の導電性粒子32を介して補強部材35とシールドフィルム20の導電層22とが導通状態になり、導電性を有する補強部材35と導電層22とを同電位にすることができる。従って、導電性を有する補強部材35にシールド効果をもたせることができるようになっている。

・・・ 中略・・・・
【0027】
(プリント配線板10)
プリント配線板10は、図示しない信号用配線パターンやグランド用配線パターン14などの複数の配線パターンが形成されたベース部材12と、ベース部材12上に設けられた接着剤層13と、接着剤層13に接着された絶縁フィルム11と、を有している。

・・・・ 中略・・・・
【0032】
(補強部材35)
補強部材35は、導電性を有する材料、例えばステンレス材によって形成されている。また、補強部材35は、シールドフィルム20上において、電子部品50の実装部位に対向配置されており、電子部品50の実装部位を補強することによって、曲げなどに起因して実装部位に生じる歪みなどを防いでいる。なお、補強部材35は、ステンレス材に限らず、実装部位を補強でき、且つ導電性を有する材料であれば何れのものを用いても良いが、補強に適した硬さで耐食性に優れるため、ステンレス材を用いた方がより効果的に、電子部品50の実装部位を補強しつつ、実装部位に対してシールド効果をもたらすことができる。さらに、補強部材35の電気的接続を向上させるため、ステンレス材の表面にニッケルメッキを施している方が好ましい。なお、補強部材35の厚みは、0.05mm?1mmであり、構成により適宜決定される。
・・・ 中略・・・・
【0043】
導電層22は、メイン基板から送出される電気信号からの不要輻射や外部からの電磁波などのノイズを遮蔽するシールド効果を有する。導電層22は、ニッケル、銅、銀、錫、金、パラジウム、アルミニウム、クロム、チタン、亜鉛、および、これらの材料の何れか、または2つ以上を含む合金により形成された金属層である。なお、金属材料としては、求められるシールド効果に応じて適宜選択すればよいが、銅は大気に触れると酸化しやすいという問題があり、金は高価であることから、安価なアルミまたは信頼性の高い銀が好ましい。また、膜厚は、求められるシールド効果および繰り返し屈曲・摺動耐性に応じて適宜選択すればよいが、0.01μm?10μmの厚さが好ましい。厚さが0.01μm未満では、十分なシールド効果が得られず、10μmを超えると屈曲性が問題となる。さらに、導電層22の形成方法としては、真空蒸着、スパッタリング、CVD法、MO(メタルオーガニック)、メッキ、箔などがあるが、量産性を考慮すれば真空蒸着が望ましく、安価で安定した導電層22を得ることができる。なお、前述したように、導電材23が等方導電性の接着剤により形成される場合、導電層22は設けなくてもよい場合がある。」

c.「【0056】
また、本実施形態に係るシールドプリント配線板1において、補強部材35は、ステンレス材によって形成されている。
【0057】
上記の構成によれば、ステンレス材は補強に適した硬さで耐食性に優れるため、より効果的に、電子部品50の実装部位を補強しつつ、実装部位に対してシールド効果をもたらすことができる。
【0058】
なお、本実施形態において、補強部材35は、さらにグランド用配線パターン14と同電位に保たれた外部のグランド用部材に接続されていてもよい。つまり、グランド用配線パターン14と同電位のグランド用部材を外部に別途用意し、配線などを用いて補強部材35とグランド用部材とをさらに接続するようにしてもよい。これによれば、補強部材35が導電性接着剤30に含まれる導電性粒子32を介して内部でグランド用配線パターン14と同電位に保たれると共に、外部のグランド用部材を介してもグランド用配線パターン14と同電位に保たれるため、よりシールド効果を向上させることができる。」

d.図1


e.図5




上記a、及び図5(上記e)の記載によれば、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「シールドプリント配線板100のプリント配線板110の下面に設けられた実装部位に電子部品150が接続され、該プリント配線板110上における電子部品150の実装部位に対向する位置に設けられる補強部材135において、
前記補強部材135はシールド効果をもたせるために導電性を有する材料からなり、
前記プリント配線板110は、グランド用配線パターン114、115が形成されたベース部材112と、グランド用配線パターン114、115を覆うようにして接着剤層113を介してベース部材112上に設けられた絶縁フィルム111と、を備えるものであって、
前記補強部材135の直下にグランド用配線パターン115を配置し、該グランド用配線パターン115が露出するように絶縁フィルム111および接着剤層113に穴部160を形成し、樹脂状の導電性接着剤130をその穴部160に充填することによって、補強部材135とグランド用配線パターン115とを同電位に保った、
補強部材135。」

さらに、上記b、c、及び図1(上記d)の記載によれば、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「プリント配線板10と、シールドフィルム20と、補強部材35と、を有しているシールドプリント配線板1において、
前記プリント配線板10の下面に設けられた実装部位には電子部品50が接続され、
前記シールドフィルム20は、プリント配線板10上に設けられており、電子部品50が接続される実装部位に対向する領域まで配置されており、
前記補強部材35は、導電性を有するステンレス材によって形成され、シールドフィルム20上に設けられており、電子部品50が接続される実装部位に対向配置され、導電性接着剤30で接触状態に接着されており、その導電性接着剤30によって、シールドフィルム20の絶縁層21上に貼り付けられ、さらに、グランド用配線パターン14と同電位に保たれた外部のグランド用部材に接続され、
前記プリント配線板10は、信号用配線パターンやグランド用配線パターン14などの複数の配線パターンが形成されたベース部材12と、ベース部材12上に設けられた接着剤層13と、接着剤層13に接着された絶縁フィルム11と、を有するものであって、
前記導電性接着剤30に含まれる導電性粒子32は、導電性接着剤30に含まれる接着剤31から突出し、導電性接着剤30の上面に接触状態に接着された補強部材35と接触し、一方、導電性接着剤30の下面から突出した導電性粒子32は、シールドフィルム20の絶縁層21を突き破り、その下の導電層22に接触している、
シールドプリント配線板1。」

また、上記c(特に、段落【0058】)の記載によれば、引用文献1には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「補強部材をグランド用配線パターンに加え外部のグランド用部材に接続すると、よりシールド効果が向上する。」


イ.引用文献2の記載事項
引用文献2には、図面と共に以下の事項が記載されている。

a.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、基板本体から露出した金属層を有する基板の製造方法に関し、特に、露出した金属層の表面に、酸化防止などの目的から、Niメッキ層及びその上に形成されたAuメッキ層を有する基板の製造方法に関する。」

b.「【0024】次に、補強板接着工程において、図4に示すように、基板本体2の主面2Aに、開口14Cと有する略口字形状のスティフナ(補強板)14を接着する。このスティフナ14は、公知の手法により、圧延されてなる銅板の中央付近をプレスで打ち抜いて略口字形状とし、Niメッキ層(厚さ約4μm)及びその上にAuメッキ層(厚さ約0.03?0.1μm)を全面に形成したものである。基板本体2とスティフナ14は、接着材(図示しない)を介して重ね、減圧下で、170℃、60分間加熱して、接着材を硬化させることにより両者を接着させる。その際、熱により、電極パッド5上の下地のNiメッキ層9中のNiが、Auメッキ層10表面にしみ出し、酸化して褐色に変色することもある。この工程でも、電極パッド5上のAuメッキ層10が極薄い(0.05μm)ために、下地のNiメッキ層9のNiがAuメッキ層10の表面にしみ出して、変色の不具合が生じやすい。」

引用文献2には、以下の技術事項(以下、「引用文献2記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「銅板からなる補強板の表面に酸化防止のための表面層として、Niメッキ層及びその上に厚さ0.03?0.1μmのAuのメッキを設けること。」


ウ.引用文献3の記載事項
引用文献3には、図面と共に以下の事項が記載されている。

a.「【0026】このうち補強板12は、その表面に厚さ3?5μmのNiメッキ(図示しない)、及びその上に厚さ0.1μmのAuメッキ(図示しない)が形成された銅板からなり、第1主面12A(図1(b)では図中上方)と第2主面12B(図1(b)では図中下方)とを有する40×40×0.7mmの略口字状板である。その略中央には、搭載するフリップチップ型集積回路チップ(図示しない)に対応して、17.5×17.5mmの略正方形状の透孔13が形成されている。また、第2主面12Bには、接着層25の外周縁25D及び内周縁25Eと略一致した形状の第1凹溝15及び第2凹溝16がそれぞれ形成されている。第1凹溝15及び第2凹溝16は、それぞれ第2主面12B上で幅が30μm、深さが30μmの略V字型に形成されている。また、補強板12の外周の角部12Gは、C面取りされている。」

引用文献3には、以下の技術事項(以下、「引用文献3記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「銅板からなる補強部材の表面に表面層として、Niメッキ層及びその上に厚さ0.1μmのAuのメッキを設けること。」


(3)当審の判断
ア.本件発明1について
本件発明1と引用発明1を対比する。
a.引用発明1 の「シールドプリント配線板100」、「グランド用配線パターン115」、「導電性接着剤130」、「補強部材135」は、各々、本件発明1の「プリント配線板」、「グランド用配線パターン」、「導電性組成物層」、「プリント配線板用補強部材」に相当する。
そして、引用発明1では「補強部材135の直下にグランド用配線パターン115を配置」されるものであるから、補強部材135の一方の面とグランド用配線パターン115は対向配置しているものと認められる。
また、引用発明1は「グランド用配線パターン115が露出するように絶縁フィルム111および接着剤層113に穴部160を形成し、樹脂状の導電性接着剤130をその穴部160に充填することによって、補強部材135とグランド用配線パターン115とを同電位に保った」ものであるから、補強部材135の一方の面とグランド用配線パターン115は導電性接着剤130で導通されるものと認められる。
したがって、引用発明1の「補強部材135の直下にグランド用配線パターン115を配置し、該グランド用配線パターン115が露出するように絶縁フィルム111および接着剤層113に穴部160を形成し、樹枝状の導電性接着剤130をその穴部160に充填することによって、補強部材135とグランド用配線パターン115とを同電位に保った、補強部材135」は、本件発明1の「プリント配線板におけるグランド用配線パターンの所定部分に対向配置され、対向する一方面が前記グランド用配線パターンの前記所定部分に導電性組成物層で導通されるプリント配線板用補強部材」に相当する。

ただし、「プリント配線板用補強部材」について、本件発明1は、「他方面がグランド電位の外部グランド部材に導通される」と特定しているのに対して、引用発明1はそのような特定がされていない点で相違する。

b.引用発明1の「補強部材135」は、シールド効果を持たせるために導電性を有する材料からなるものであるから、本件発明1の「導電性を有した金属基材」に相当する。

ただし、 「プリント配線板用補強部材」について、本件発明1は、「前記一方面および前記他方面の一部を構成するように前記金属基材の表面に形成された表面層と、を有し、前記表面層が、前記金属基材の導電性及び耐食性よりも高い導電性及び耐食性を有し、前記表面層の厚みが0.005?0.2μmであり、前記表面層は、前記金属基材の表面に直接形成されており、前記表面層は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びこれらを主成分とした合金からなる群から選択される少なくとも1種により形成されており、前記金属基材はステンレス鋼であ」ると特定しているのに対して、引用発明1はそのような特定がされていない点で相違する。

そうすると、本件発明1と引用発明1は、以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「プリント配線板におけるグランド用配線パターンの所定部分に対向配置され、対向する一方面が前記グランド用配線パターンの前記所定部分に導電性組成物層で導通されるプリント配線板用補強部材であって、
導電性を有した金属基材、
を有するフレキシブルプリント配線板用補強部材。」

(相違点1)
「プリント配線板用補強部材」について、本件発明1は、「他方面がグランド電位の外部グランド部材に導通される」と特定しているのに対して、引用発明1はそのような特定がされていない点。

(相違点2)
「プリント配線板用補強部材」について、本件発明1は、「前記一方面および前記他方面の一部を構成するように前記金属基材の表面に形成された表面層と、を有し、前記表面層が、前記金属基材の導電性及び耐食性よりも高い導電性及び耐食性を有し、前記表面層の厚みが0.005?0.2μmであり、前記表面層は、前記金属基材の表面に直接形成されており、前記表面層は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びこれらを主成分とした合金からなる群から選択される少なくとも1種により形成されており、前記金属基材はステンレス鋼であ」ると特定しているのに対して、引用発明1はそのような特定がされていない点。

まず、相違点2について検討する。
補強部材をステンレス鋼で形成することは常套手段である。
また、引用文献2、引用文献3には、銅板からなる補強部材の表面に酸化防止のための表面層として、Niメッキ層及びその上に厚さ0.03?0.1μmのAuのメッキを設けることが記載されている。
しかしながら、引用文献2、3の補強部材はステンレス鋼からなるものではなく銅板からなるものであって、さらに、補強部材に直接Auのメッキを設けるものでもない。
したがって、引用発明1において、補強部材の金属基材をステンレス鋼で形成しても、引用文献2、3に記載される技術事項を適用する理由が存在しない。また、仮に、適用しても表面層はNiメッキ層介して金のメッキ層が形成されるものであって、金属基材に直接金のメッキ層が形成されるものでもない。
よって、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に採用し得たものではない。

したがって、本件発明1は、上記相違点1を検討するまでもなく、引用発明1及び引用文献1?3に記載された技術事項から容易に発明することができたものではない。

なお、特許異議申立人は、令和1年5月9日付け意見書において、
本件発明1の「前記表面層は、前記金属基材の表面に直接形成されており」(以下、「構成要件C3」という)に関して、構成要件C3は引用文献1?3には明記されていないものの、特許権者も何らこの点について主張していないことを考慮すると、引用文献1?3から容易に想到できる程度のものであることは明らかである旨を主張している。(意見書9頁第23-26行)
しかしながら、引用文献1?3を含む異議申立人が提出した甲第1号証?甲第11号証には、金属基材(ステンレス鋼)の表面に表面層を直接形成することに関しては何ら記載されていないことから、特許権者が何らこの点について主張していないことを理由に、引用文献1?3から容易に想到できる程度のものであるとはいえず、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

イ.本件発明5乃至7について
本件発明1を引用する本件発明5乃至7は、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1と同じ理由により、引用発明1及び引用文献1?3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

ウ.本件発明8について
本件発明8と引用発明2を対比する。
a.引用発明2の「絶縁フィルム11」は、本件発明8の「絶縁フィルム」に相当する。
そして、引用発明2 の「信号用配線パターンやグランド用配線パターン14などの複数の配線パターンが形成されたベース部材12と、ベース部材12上に設けられた接着剤層13と、接着剤層13に接着された絶縁フィルム11と、を有する」「プリント配線板10」は、本件発明8の「絶縁フィルムを有するプリント配線板」に相当する。

b.引用発明2の「絶縁層21」、「導電層22」は、各々、本件発明8の「絶縁層」、「導電層」に相当する。
また、引用発明2の「シールドフィルム20」は、絶縁層21とその下の導電層22を有するものである。
したがって、引用発明2の「プリント配線板10上に設けられており、電子部品50が接続される実装部位に対向する領域まで配置されて」いる「シールドフィルム20」は、本件発明8の「前記プリント配線板の前記絶縁フィルム上に絶縁層とこの絶縁層の下に形成された導電層とを有するシールドフィルム」に相当する。

c.引用発明2の「電子部品50」、「外部のグランド用部材」は、各々、本件発明8の「電子部品」、「外部グランド部材」に相当する。
また、引用発明2の「補強部材35」は、電子部品50が接続される実装部位に対向配置され、シールドフィルム20の絶縁層21上に貼り付けられるものであって、さらに、外部のグランド用部材に接続されるものである。 したがって、引用発明2の「シールドフィルム20の絶縁層21上に貼り付けられ」、「外部のグランド用部材に接続される」「補強部材35」は、本件発明8の「電子部品の実装部位に対向する前記シールドフィルムの絶縁層上に一方面が配置され、外部グランド部材に導通されるフレキシブルプリント配線板用補強部材」に相当する。

ただし、「外部グランド部材に導通されるフレキシブルプリント配線板用補強部材」について、本件発明8は、「他方面が導通される」と特定しているのに対して、引用発明2はそのような特定がされていない点で相違する。

d.そして、引用発明2の「プリント配線板10と、シールドフィルム20と、補強部材35と、を有しているシールドプリント配線板1」は、本件発明8の「絶縁フィルムを有するプリント配線板と、前記プリント配線板の前記絶縁フィルム上に絶縁層とこの絶縁層の下に形成された導電層とを有するシールドフィルムと、電子部品の実装部位に対向する前記シールドフィルムの絶縁層上に一方面が配置され、外部グランド部材に導通されるフレキシブルプリント配線板用補強部材と、を有するシールドプリント配線板」に相当する。

e.引用発明2の「前記補強部材35は、導電性を有するステンレス材によって形成され」ることは、本件発明8の「前記フレキシブルプリント配線板用補強部材は、導電性を有した金属基材」であること、及び、「前記金属基材はステンレス鋼であ」ることに相当する。

ただし、「プリント配線板用補強部材」について、本件発明8は、「前記一方面および前記他方面の一部を構成するように前記金属基材の表面に形成された表面層と、を有し、前記表面層が、前記金属基材の導電性及び耐食性よりも高い導電性及び耐食性を有し、前記表面層の厚みが0.005?0.2μmであり、前記表面層は、前記金属基材の表面に直接形成されており、前記表面層は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びこれらを主成分とした合金からなる群から選択される少なくとも1種により形成されて」いると特定しているのに対して、引用発明2ではそのような特定がされていない点で相違する。

f.引用発明2の「導電性接着剤30」、「導電性粒子32」は、各々、本件発明8の「導電性接着剤」、「導電性粒子」に相当する。
そして、引用発明2の「前記導電性接着剤30に含まれる導電性粒子32は、導電性接着剤30に含まれる接着剤31から突出し、導電性接着剤30の上面に接触状態に接着された補強部材35と接触し、一方、導電性接着剤30の下面から突出した導電性粒子32は、シールドフィルム20の絶縁層21を突き破り、その下の導電層22に接触している」ことは、本件発明8の「前記フレキシブルプリント配線板用補強部材は、・・・、前記補強部材の一方面に設けた導電性接着剤によって、この導電性接着剤に含まれる導電性粒子を前記シールドフィルムの前記絶縁層を突き破ることで前記導電層と接触させるようにして、前記一方面で前記シールドフィルムの前記絶縁層と接着される」ことに相当する。

そうすると、本件発明8と引用発明2は、以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
絶縁フィルムを有するプリント配線板と、前記プリント配線板の前記絶縁フィルム上に絶縁層とこの絶縁層の下に形成された導電層とを有するシールドフィルムと、電子部品の実装部位に対向する前記シールドフィルムの絶縁層上に一方面が配置され、外部グランド部材に導通されるフレキシブルプリント配線板用補強部材と、を有するシールドプリント配線板であって、
前記フレキシブルプリント配線板用補強部材は、
導電性を有した金属基材を有し、
前記補強部材の一方面に設けた導電性接着剤によって、この導電性接着剤に含まれる導電性粒子を前記シールドフィルムの前記絶縁層を突き破ることで前記導電層と接触させるようにして、前記一方面で前記シールドフィルムの前記絶縁層と接着されており、
前記金属基材はステンレス鋼であるシールドプリント配線板。

(相違点3)
「外部グランド部材に導通されるフレキシブルプリント配線板用補強部材」について、本件発明8は、「他方面が導通される」と特定しているのに対して、引用発明2はそのような特定がされていない点。

(相違点4)
「プリント配線板用補強部材」について、本件発明8は、「前記一方面および前記他方面の一部を構成するように前記金属基材の表面に形成された表面層と、を有し、前記表面層が、前記金属基材の導電性及び耐食性よりも高い導電性及び耐食性を有し、前記表面層の厚みが0.005?0.2μmであり、前記表面層は、前記金属基材の表面に直接形成されており、前記表面層は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びこれらを主成分とした合金からなる群から選択される少なくとも1種により形成されて」いると特定しているのに対して、引用発明2はそのような特定がされていない点。

上記相違点4について検討する。
相違点4は上記相違点2から金属基材がステンレス鋼である点を除き同様のものである。したがって、相違点2と同様の理由により、上記相違点4に係る本件発明8の構成は、引用発明2及び引用文献2?3に記載された技術事項から当業者が容易に採用し得たものではない。

したがって、本件発明8は、上記相違点3を検討するまでもなく、引用発明2及び引用文献2?3に記載された技術事項から容易に発明することができたものではない。

エ.本件発明12、13について
本件発明8を引用する本件発明12、13は、本件発明8をさらに減縮したものであるから、本件発明8と同じ理由により、引用発明2及び引用文献2?3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。


3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
訂正前の請求項1-7に係る発明について、甲第2号証又は甲第3号証に記載され発明と甲第4号証乃至甲第11号証の技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第2号証 特開2009-212247号公報
甲第3号証 特開2009-218443号公報
甲第4号証 特開平7-154038号公報
甲第5号証 特開2000-322754号公報
甲第6号証 特開2001-127190号公報(引用文献2)
甲第7号証 特開2000-228450号公報(引用文献3)
甲第8号証 特開2003-86729号公報
甲第9号証 特開2000-232260号公報
甲第10号証 特開2004-197224号公報
甲第11号証 特開2006-245220号公報

(2)甲号証の記載
ア.甲第2号証の記載事項
a.「【0049】
図7は、本発明の第1の実施例における片面FPCの絶縁ベースと金属補強板の貼り合わせ工程図である。図7(a)に示すように、絶縁ベース1の一面にグラウンド回路2がパターニングされていて、そのグラウンド回路2の必要箇所には絶縁皮膜がコーティングされてカバーレイ層3が形成されている。そして、絶縁ベース1の他面がダイス4の上に置かれている。このダイス4には、円筒状のパンチ5が所望のクリアランスで貫通するための開口部4aが設けられている。ここで、パンチ5の径とダイス4の開口部4aの径とのクリアランスは通常は3?5μmであるが、絶縁ベース1の厚みの50?95%ぐらいまで広げることができる。尚、図7においては、本実施例に係る要部のみを示しているため、絶縁ベース1の一面に形成された電子部品回路等については省略されている。」

b.「【0055】
このようにして、図7(a)、(b)に示すように、片面FPCの絶縁ベース1側を下側(ダイス4側)にして、部品実装面側を上側にし、打ち抜く材料の厚みの50?95%をクリアランス寸法とした円筒状のパンチ5で金属補強板7と導通をとる部分のグラウンド回路2を打ち抜く。そして、図7(c)に示すように、絶縁ベース1側を上側にして、導電性接着剤6と金属補強板7をこの順に重ね合わせ、図示しないプレス装置で加熱しながら押圧して金属補強板7を貼り合わせる。これによって、図7(d)に示すように積層されたFPCが形成される。このような製造工程をとることにより、導電性接着剤6による層間導通によって金属補強板7とグラウンド回路2との電気的接続がとれると共に、エアの残留も回避される。」

c.


・上記b、及び上記cの図7(c)、(d)の記載によれば、片面FPCのグラウンド回路2が設けられない側の絶縁ベース1の面に導電性接着剤6によって金属補強板7が張り合わされている。

・上記b、及び上記cの図7(c)、(d)の記載によれば、片面FPCのグラウンド回路2と金属補強板7は、絶縁ベース1にパンチ5で設けられた穴に導電性接着剤6が充填されることで電気的に接続されている。

甲第2号証には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「片面FPCの絶縁ベースに貼り合わせられる金属補強板であって、
片面FPCは、絶縁ベース1の一面にグラウンド回路2がパターニングされていて、そのグラウンド回路2の必要箇所には絶縁皮膜がコーティングされてカバーレイ層3が形成されており、
片面FPCのグラウンド回路2が設けられない側の絶縁ベース1の面に導電性接着剤6によって金属補強板7が張り合わされており、
片面FPCのグラウンド回路2と金属補強板7は、絶縁ベース1にパンチ5で設けられた穴に導電性接着剤6が充填されることで電気的に接続されている、
金属補強板7。」


イ.甲第3号証の記載事項
a.「【0022】
以下、本発明の金属補強板を備えたFPCの実施形態を図面を参照して説明する。
図1および図2において、FPC1の表面Sには、反対面に抵抗やコンデンサ等の部品2を実装している部分およびコネクタ3を実装している端末側に板厚が50μm?100μmの薄板ステンレス板からなる金属補強板5(図2中にクロス斜線で示す)をFPC1の幅方向の略全面に渡って貼り付けている。
【0023】
前記FPC1自体は周知の構成で、ポリイミドからなるベースフィルム4上にファインピッチで導体パターン6を設けている。ベースフィルム4の導体パターン6を設けた表面を絶縁層(以下、カバーレイと称す)7で被覆している。前記導体パターン6の一部またはFPC1がアース接続用FPCでは導体パターン6の全てがグランド回路8となる。本実施形態のFPCでは、幅方向にファインピッチで並設する導体パターン6の内の1本の回路がグランド回路8である。該グランド回路8を、後述するように、金属補強板5と導電性接着剤を介して導通して接着している。」

甲第3号証には、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

「抵抗やコンデンサ等の部品2を実装している部分とは反対面のFPC幅方向の略全面に渡って貼り付けられる薄板ステンレス板からなる金属補強板5であって、
FPC1は、ポリイミドからなるベースフィルム4上にファインピッチで導体パターン6を設けられ、ベースフィルム4の導体パターン6を設けた表面を絶縁層(以下、カバーレイと称す)7で被覆し、幅方向にファインピッチで並設する導体パターン6の内の1本の回路がグランド回路8であって、該グランド回路8を、金属補強板5と導電性接着剤を介して導通して接着している、
金属補強板5。」

ウ.甲第4号証の記載事項
a.「【請求項11】 部品実装部を有するフレキシブルな絶縁板と、この絶縁板上に配線されたグランド用の導体と、上記絶縁板の部品実装部に積層され、この部品実装部の平坦度を維持するためのリジッドな金属製の補強板とを有するフレキシブルプリント回路基板と、
このフレキシブルプリント回路基板を支持するとともに、上記導体が接する座部を有する導電性の筐体と、
上記フレキシブルプリント回路基板を座部に固定する導電性の固定手段と、を備えており、
この固定手段は、フレキシブルプリント回路基板を座部に固定した時に、上記補強板に接していることを特徴とする小型電子機器。」

b.「【0038】請求項11に記載した構成によれば、フレキシブルプリント回路基板を筐体の座部に固定すると、この座部に回路基板の導体が接触する。そして、回路基板を座部に固定する固定手段は、補強板に接しているので、この固定手段を介して補強板と筐体とが導通される。このため、格別なコネクタやリード線類を用いることなく補強板を接地させて、この補強板をシールド板として有効に利用することができ、ノイズの抑制対策を安価に実現できる。」

甲第4号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「フレキシブルプリント回路基板を筐体の座部に固定し、この座部に回路基板の導体を接触させ、そして、回路基板を座部に固定する固定手段が補強板に接していることで、固定手段を介して補強板と筐体とが導通し、補強板をシールド板として有効に利用すること。」

エ.甲第5号証の記載事項
a.「【0042】図3において、1はフレキシブルプリント配線板、1aはフレキシブルプリント配線板1の表面、1bはフレキシブルプリント配線板1の裏面、2は受発光素子、2aは受発光素子2の受発光面、2bは受発光素子の側面から突出し電気的な入出力をおこなうための金属製の端子、3は高周波重畳回路。14はフレキシブルプリント配線板の裏面に固着している第1の補強板、5はフレキシブルプリント配線板の裏面に固着している第2の補強板、6はシールドケース、7はシールドケース6とフレキシブルプリント配線板1にまたがって付着している半田である。11は光ヘッド本体、15はシールドケースと第1の補強板14との間にまたがって付着している半田である。
【0043】図4において、実施の形態1との相違点は、第1の補強板14が金属により構成されていることである。
【0044】また、第1の補強板14は半田15によりシールドケース6と短絡している。」

甲第5号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「補強板1を半田15でシールドケース6に短絡させること。」

オ.甲第8号証の記載事項
a.「【0026】このうち補強板12は、その表面に厚さ3?5μmのNiメッキ(図示しない)、及びその上に厚さ0.1μmのAuメッキ(図示しない)が形成された銅板からなり、第1主面12A(図1(b)では図中上方)と第2主面12B(図1(b)では図中下方)とを有する40×40×0.7mmの略口字状板である。その略中央には、搭載するフリップチップ型集積回路チップ(図示しない)に対応して、17.5×17.5mmの略正方形状の透孔13が形成されている。また、第2主面12Bには、接着層25の外周縁25D及び内周縁25Eと略一致した形状の第1凹溝15及び第2凹溝16がそれぞれ形成されている。第1凹溝15及び第2凹溝16は、それぞれ第2主面12B上で幅が30μm、深さが30μmの略V字型に形成されている。また、補強板12の外周の角部12Gは、C面取りされている。」

甲第8号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「表面に厚さ3?5μmのNiメッキ、及びその上に厚さ0.1μmのAuメッキが形成された銅板からなる補強板12。」

カ.甲第9号証の記載事項
a.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、スティフナを備えると共にコンデンサを備える配線基板やスティフナ、及びこれらの製造方法に関し、特に、剛性が高い配線基板、スティフナ、およびこれらの製造方法に関する。」

b.「【0010】ここで、スティフナ本体としては、配線基板本体の熱膨張率や、要求される剛性を勘案して、材質や寸法を決定すればよいが、例えば、銅、アルミニウム、42合金、コバール等の金属板を用いることができる。また、耐食性等を考慮して、表面にNiメッキと金メッキを施すなど、メッキやアルマイト処理等の各種の処理を施したものを用いても良い。」

甲第9号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「スティフナ本体に、耐食性等を考慮して、表面にNiメッキと金メッキを施すこと。」

キ.甲第10号証の記載事項
a.「【技術分野】
【0001】
本発明は、電気電子機器、特に携帯機器などのプリント基板などに実装される素子内蔵用低背化筐体等の電気電子部品(筐体、ケース、カバー、キャップなど)に適した金属材料に関する。」

b.「【0007】
本発明の電気電子部品用金属材料は、金属基材上の少なくとも一部に樹脂皮膜を有するものである。樹脂皮膜を有する部分は、絶縁を要する箇所であることが好ましい。一つの好ましい実施態様においては、樹脂皮膜は絶縁を要する箇所のみに設けられる。また、樹脂皮膜は耐熱性樹脂皮膜であることが好ましい。
また、本発明の金属材料が用いられる、「電気電子部品」とは、それに限定されるものではないが、例えば、筐体、ケース、カバー、キャップなどが挙げられ、素子内蔵用低背化筐体がさらに好ましい。本発明の金属材料は、例えば、筐体を形成する場合には、金属基材の耐熱性樹脂皮膜形成面を内側にして形成することが好ましい。
また、本発明の金属材料が用いられる電気電子部品が好ましく内蔵する部品としては、それに限定されるものではないが、例えば、携帯機器などのプリント基板などに実装されるセラミック発振子、水晶発振器、電圧制御発振器、SAWフィルター、ダイプレクサ、カプラ、バラン、LPF、BPF、誘電体デュプレクサなどの個別部品やこれら個々の素子を複数内蔵させた各種モジュール部品(アンテナスイッチモジュール、フロントエンドモジュール、RF一体型モジュール、Bluetoothモジュール、イメージセンサーモジュール、チューナーモジュールなど)や検出スイッチなどの部品などが挙げられる。」

c.「【0016】
本発明においては、金属基材上に金属層を少なくとも1層有し、かつ上記樹脂皮膜が上記金属基材上に、直接、または上記金属層の少なくとも1層を介して設けられていることも好ましい。」

d.「【0023】
前記電析法は、市販浴や公知のめっき液を用い、金属基材をカソードとし、可溶性または不溶性アノードとの間に適切な相対速度に前記めっき液を擁して、定電流電析により行われる。
金属層を部分的に設けるには、不要部分をマスキングする方法、必要部分のみにスポット的にめっき液を供給する方法などが適用できる。」

甲第10号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「金属基材上の金属層を部分的に設けること。」

ク.甲第11号証の記載事項
a.「【0007】
図1は、本発明の配線回路基板の一実施形態を示す要部断面図である。
図1において、この配線回路基板1は、ハードディスクドライブに搭載される回路付サスペンション基板であって、長手方向に延びる金属支持基板2の上に、金属薄膜3が形成され、その金属薄膜3の上に、金属箔4が形成され、その金属箔4の上に、絶縁層としてのベース絶縁層5が形成されており、そのベース絶縁層5の上に、導体パターン6が形成され、さらに必要に応じて、導体パターン6の上にカバー絶縁層7が形成されている。
【0008】
金属支持基板2は、平板状の金属箔や金属薄板からなる。金属支持基板2を形成する金属としては、例えば、ステンレス、42アロイなどが用いられ、好ましくは、ステンレスが用いられる。また、その厚みは、例えば、15?30μm、好ましくは、20?25μmである。
また、金属薄膜3は、金属支持基板2の表面において、金属箔4が形成されている部分に対向するように、パターンとして形成されている。金属薄膜3を形成する金属としては、例えば、クロム、金、銀、白金、ニッケル、チタン、ケイ素、マンガン、ジルコニウム、およびそれらの合金、またはそれらの酸化物などが用いられる。また、その厚みは、例えば、0.01?1μm、好ましくは、0.1?1μmである。」

甲第11号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「金属支持基板2の表面の金属薄膜3をパターンとして形成すること。」

(3)当審の判断
ア.本件発明1について
本件発明1と甲2発明及び甲3発明と対比すると、甲2発明の「金属補強板7」、及び甲3発明の「金属補強板5」が、本件発明1の「プリント配線板用補強部材」に相当する。
しかしながら、甲2発明の「金属補強板7」、及び甲3発明の「金属補強板5」は、いずれもその表面に表面層を有しておらず、少なくとも、本件発明1と、甲2発明及び甲3発明とは、「前記一方面および前記他方面の一部を構成するように前記金属基材の表面に形成された表面層とを有し、前記表面層が、前記金属基材の導電性及び耐食性よりも高い導電性及び耐食性を有し、前記表面層の厚みが0.005?0.2μmであり、前記表面層は、前記金属基材の表面に直接形成されており、前記表面層は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びこれらを主成分とした合金からなる群から選択される少なくとも1種により形成され」る点で相違している。
そして、甲第4号証?甲第11号証のいずれの証拠にも、補強板の表面に表面層を直接厚み0.005?0.2μmで形成することは記載されておらず、また、この点が周知技術とも認められない。
したがって、本件発明1は、甲2発明又は甲3発明、及び甲第4号証乃至甲第11号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

イ.本件発明5乃至7について
本件発明1を引用する本件発明5乃至7は、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲2発明又は甲3発明、及び甲第4号証乃至甲第11号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。


第4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立ての理由によっては、本件発明1、5乃至7、8、12、13に係る特許を取り消すことはできない。また、他に取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項2乃至4、9乃至11に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項2乃至4、9乃至11に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント配線板におけるグランド用配線パターンの所定部分に対向配置され、対向する一方面が前記グランド用配線パターンの前記所定部分に導電性組成物層で導通されると共に、他方面がグランド電位の外部グランド部材に導通されるプリント配線板用補強部材であって、
導電性を有した金属基材と、
前記一方面および前記他方面の一部を構成するように前記金属基材の表面に形成された表面層と、
を有し、
前記表面層が、前記金属基材の導電性及び耐食性よりも高い導電性及び耐食性を有し、
前記表面層の厚みが0.005?0.2μmであり、
前記表面層は、前記金属基材の表面に直接形成されており、
前記表面層は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びこれらを主成分とした合金からなる群から選択される少なくとも1種により形成されており、
前記金属基材はステンレス鋼であることを特徴とするフレキシブルプリント配線板用補強部材。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
さらに、前記金属基材の前記一方面側に配置された導電性組成物層を有することを特徴とする請求項1に記載のフレキシブルプリント配線板用補強部材。
【請求項6】
前記表面層は、複数の線及び/又は点の集合により形成されていることを特徴とする請求項1又は5に記載のフレキシブルプリント配線板用補強部材。
【請求項7】
ベース部材と、
前記ベース部材に形成されたグランド用配線パターンと、
前記グランド用配線パターンの所定部分に対向配置される請求項1、5及び6の何れか1項に記載のプリント配線板用補強部材と、
を有することを特徴とするフレキシブルプリント配線板。
【請求項8】
絶縁フィルムを有するプリント配線板と、前記プリント配線板の前記絶縁フィルム上に絶縁層とこの絶縁層の下に形成された導電層とを有するシールドフィルムと、電子部品の実装部位に対向する前記シールドフィルムの絶縁層上に一方面が配置され、外部グランド部材に他方面が導通されるフレキシブルプリント配線板用補強部材と、を有するシールドプリント配線板であって、
前記フレキシブルプリント配線板用補強部材は、
導電性を有した金属基材と、
前記一方面および前記他方面の一部を構成するように前記金属基材の表面に形成された表面層と、
を有し、
前記表面層が、前記金属基材の導電性及び耐食性よりも高い導電性及び耐食性を有し、
前記表面層の厚みが0.005?0.2μmであり、
前記補強部材の一方面に設けた導電性接着剤によって、この導電性接着剤に含まれる導電性粒子を前記シールドフィルムの前記絶縁層を突き破ることで前記導電層と接触させるようにして、前記一方面で前記シールドフィルムの前記絶縁層と接着され、
前記表面層は、前記金属基材の表面に直接形成されており、
前記表面層は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びこれらを主成分とした合金からなる群から選択される少なくとも1種により形成されており、
前記金属基材はステンレス鋼であることを特徴とするシールドプリント配線板。
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】(削除)
【請求項12】
さらに、前記金属基材の前記一方面側に配置された導電性組成物層を有することを特徴とする請求項8に記載のシールドプリント配線板。
【請求項13】
前記表面層は、複数の線及び/又は点の集合により形成されていることを特徴とする請求項8又は12に記載のシールドプリント配線板。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-05-27 
出願番号 特願2015-502927(P2015-502927)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H05K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 齊藤 健一  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 山田 正文
山澤 宏
登録日 2017-12-15 
登録番号 特許第6258290号(P6258290)
権利者 タツタ電線株式会社
発明の名称 フレキシブルプリント配線板用補強部材、フレキシブルプリント配線板、及び、シールドプリント配線板  
代理人 特許業務法人梶・須原特許事務所  
代理人 特許業務法人梶・須原特許事務所  
代理人 特許業務法人安富国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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