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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G04C 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 G04C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G04C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G04C |
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管理番号 | 1353165 |
異議申立番号 | 異議2018-700887 |
総通号数 | 236 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-08-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-11-06 |
確定日 | 2019-06-07 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6334027号発明「車の角度位置を検出するデバイスを有する電気機械式計時器用ムーブメント。」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6334027号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6334027号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6334027号の請求項1-6に係る特許についての出願は、平成29年4月25日(パリ条約による優先権主張 2016年5月4日 欧州)に出願され、平成30年5月11日にその特許権が設定登録され、平成30年5月30日に特許掲載公報が発行された。その後、平成30年11月6日に特許異議申立人一條淳により特許異議の申立てがされ、平成31年1月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成31年3月14日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人一條淳から平成31年4月24日付けで意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。 特許請求の範囲の請求項1に「前記可動部品(25)は、前記歯列が前記所与の空欠部に入り込んでいるときに前記歯列が動いて弾性要素を押すように、前記弾性要素の高さレベルに少なくとも部分的に位置している歯列を有する」と記載されているのを、「前記可動部品(25)は、前記可動部品(25)の歯列が前記所与の空欠部に入り込んでいるときに前記可動部品(25)の歯列が動いて弾性要素を押すように、前記弾性要素の高さレベルに少なくとも部分的に位置している歯列を有する」に訂正する(以下、「訂正事項」という。)。 本件訂正請求は、一群の請求項〔1-6〕に対して請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正の目的について 訂正事項は、訂正前の請求項1に「前記歯列」という記載があることにより、請求項1に係る発明の「車の歯列(23)」が「前記歯列(23)の2つの隣接歯(34、35)の間の1つの所与の空欠部(32)」に入り込む、すなわち、「車の歯列(23)」がそれ自身の一部である「2つの隣接歯(34、35)」の間に入り込むという不合理を生じていたものを、「前記歯列」を「前記可動部品(25)の歯列」と訂正することによって正すものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (2)新規事項の有無について 訂正事項は、明細書の段落【0018】の「図4の断面図において示しているように、ピニオン24の歯列25は、少なくとも部分的にワイヤーばね上にあり、これによって、歯列が弾性要素を押す。すなわち、ここにおいて、歯列が所与の空欠部32に入り込むときに、ワイヤーばねの曲がり部を押す。」との記載、並びに、図2及び図4の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定を満たすものである。 (3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正前の請求項1に記載された「前記可動部品(25)は、前記歯列が前記所与の空欠部に入り込んでいるときに前記歯列が動いて弾性要素を押すように」は、 「前記所与の空欠部」が、「前記歯列(23)の2つの隣接歯(34、35)の間の1つの所与の空欠部(32)」であり、「弾性要素」が、「1つの所与の空欠部(32)の少なくとも内側に延在する」ものであるから、 「前記歯列」が、「前記歯列(23)の2つの隣接歯(34、35)の間の1つの所与の空欠部(32)」に入り込み、「前記歯列」が、「1つの所与の空欠部(32)の少なくとも内側に延在する」「弾性要素」を押すことを意味することとなる。 そして、訂正前の請求項1に「前記モーターによって回転駆動される車(22)と、前記車と噛み合う可動部品(24)」及び「前記車の歯列(23)」と記載されていることから、「前記歯列(23)の2つの隣接歯(34、35)の間の1つの所与の空欠部(32)」に入り込む「前記歯列」は、「前記可動部品(25)の歯列」のことであり、「1つの所与の空欠部(32)の少なくとも内側に延在する」「弾性要素」を押す「前記歯列」は、「前記可動部品(25)の歯列」のことであることが、訂正前の請求項1の記載から読み取れる。 そうすると、訂正事項は、「前記歯列」という記載があることによって生じていた不合理を、訂正前の請求項1の記載から読み取れる範囲内で正すものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定を満たすものである。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1-6に係る発明(以下「本件発明1」-「本件発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1-6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 ステッピングモーター(4)と、前記モーターによって回転駆動される車(22)と、 前記車と噛み合う可動部品(24)と、及び前記車の角度位置を検出する検出デバイスとを有する電気機械式計時器用ムーブメントであって、 前記検出デバイスによって、前記車及び前記可動部品によって定められる基準角度(αref)を通り抜ける前記車の基準半軸(42)の通過を判断することができ、このために、前記車及び前記可動部品が前記モーターによってステッピング運動をするように駆動されるときに瞬間的に発生する追加の抵抗性トルクを検出することができる電子回路(16)を有し、 前記追加の抵抗性トルクは、前記車と一体化された弾性要素(28)によって発生し、 前記弾性要素(28)は、前記車の歯列(23)が位置している前記車の一般平面(40)上への射影において、 前記歯列(23)の2つの隣接歯(34、35)の間の1つの所与の空欠部(32)の少なくとも内側に延在するように構成しており、 前記弾性要素は、前記所与の空欠部の底部まで前記車の半径方向に実質的に弾性変形可能であり、 前記可動部品(25)は、前記可動部品(25)の歯列が前記所与の空欠部に入り込んでいるときに前記可動部品(25)の歯列が動いて弾性要素を押すように、前記弾性要素の高さレベルに少なくとも部分的に位置している歯列を有する ことを特徴とする電気機械式計時器用ムーブメント。 【請求項2】 前記弾性要素は、前記一般平面上への射影において、前記所与の空欠部の内側よりも少ない程度しか前記所与の空欠部に隣接している2つの空欠部(36、37)の一方及び/又は他方の内側に入り込まないように、又は前記隣接している2つの空欠部の内側に入り込まないように、構成している ことを特徴とする請求項1に記載の電気機械式計時器用ムーブメント。 【請求項3】 前記弾性要素は、周部に前記歯列を有する前記車のプレート上において配置されており、 前記弾性要素は、前記歯列の前記所与の空欠部に重なり合った部分を有する ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気機械式計時器用ムーブメント。 【請求項4】 前記弾性要素は、その2つの端の少なくとも一方(29)において車に取り付けられているワイヤーばね(28)によって形成される ことを特徴とする請求項3に記載の電気機械式計時器用ムーブメント。 【請求項5】 前記ワイヤーばねは、その主な曲がりから突出している曲がり部(30)を有し、 前記曲がり部は、前記車の前記歯列の前記所与の空欠部に重なり合っている ことを特徴とする請求項4に記載の電気機械式計時器用ムーブメント。 【請求項6】 前記可動部品は、当該計時器用ムーブメントの歯車列を前記車と形成するピニオン又は別の車である ことを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の電気機械式計時器用ムーブメント。」 2 取消理由通知に記載した取消理由について (1)取消理由の概要 訂正前の請求項1-6に係る特許に対して平成31年1月25日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 請求項1-6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 (2)当審の判断 訂正事項により、請求項1に「前記可動部品(25)は、前記歯列が前記所与の空欠部に入り込んでいるときに前記歯列が動いて弾性要素を押すように、前記弾性要素の高さレベルに少なくとも部分的に位置している歯列を有する」と記載されているのを、「前記可動部品(25)は、前記可動部品(25)の歯列が前記所与の空欠部に入り込んでいるときに前記可動部品(25)の歯列が動いて弾性要素を押すように、前記弾性要素の高さレベルに少なくとも部分的に位置している歯列を有する」に訂正することにより、本件発明1-6は明確になった。 したがって、本件発明1-6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているから、同法第113条第4号により取り消すことはできない。 (3)特許異議申立人の意見について ア 訂正要件違反 特許異議申立人は、本件特許の明細書及び図面の記載から明らかなように、「車」と「可動部品」とはそもそも異なる部材であるから、「車の歯列(23)」であるところの「前記歯列」と、「(前記)可動部品(25)の歯列」とは、前者が後者を概念上包含するという関係には立たず、「車の歯列(23)」であるところの「前記歯列」を「前記可動部品(25)の歯列」に訂正することは、実質上特許請求の範囲を変更するものである旨を主張している(平成31年4月24日付け意見書の第3頁)。 しかしながら、上記「第2 2 (3)」で述べたように、訂正事項は、「前記歯列」という記載があることによって生じていた不合理を、「前記歯列」を「前記可動部品(25)の歯列」と訂正することによって、訂正前の請求項1の記載から読み取れる範囲内で正すものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 よって、特許異議申立人の主張を採用することができない。 イ 明確性要件違反 特許異議申立人は、発明特定事項において前提とされる「前記可動部品(25)の歯列」と、該発明特定事項において初めて「前記可動部品(25)は、・・・歯列を有する」と特定される「歯列」と、2種類の「歯列」が登場するが、「可動部品(25)」の構成において両者が如何なる関係に立つのか明らかではなく、本件訂正発明1は明確でない旨を主張している(平成31年4月24日付け意見書の第4頁)。 しかしながら、「前記可動部品(25)は、・・・歯列を有する」と特定されている「歯列」は、「前記可動部品(25)」の「歯列」であり、本件訂正発明1は明確である。 よって、特許異議申立人の主張を採用することができない。 3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)申立て理由の概要 理由2 特許異議申立人は、請求項1-6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないので、同法第113条第4号により取り消されるべきである旨主張している。 理由3 特許異議申立人は、主たる証拠として甲第1号証を提出し、請求項1-3、6に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。 理由4 特許異議申立人は、主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として甲第2号証、甲第3号証を提出し、請求項1-6に係る特許は第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。 <証拠方法> 甲第1号証:実用新案登録第2547357号公報 甲第2号証:特許第4566201号公報 甲第3号証:特開2016-57270号公報 (2) 甲各号証の記載 ア 甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。 「【0001】 【産業上の利用分野】本考案は指針表示式電子時計の時計情報を表示駆動する表示回転部材の位置検出機構に関するものである。」 「【0025】 【実施例】以下、本考案の実施例を図面に基づいて詳述する。図1は本考案による実施例の時計ムーブメントの平面図、図2は時計ブロック図の第1実施例を示し、図3は図1の要部断面図、図4(a)は表示回転部材である指針車と前段車との全体の噛み合いの第1実施例を示し、図4(b)は図4(a)の指針車の負荷変化部と前段車の噛み合いによる負荷変化機構の第1実施例を示す要部拡大図である。」 「【0027】16はモーター駆動回路やモーター回転検出回路等を構成しているICチップ16a、基準発振器である水晶振動子16bを回路基板16cに搭載してなる回路ブロックである。17は前記回路ブロック16から送信されるモーター駆動パルスにより毎秒1ステップづつ回転するステップモーターであり、コイル15、ステータ18、モーター回転子19より構成されている。 【0028】前記モーター回転子19は指針輪列に回転力を伝えるカナ19aを有し、該カナ19aはすでに周知の指針輪列である五番車20、四番車(秒針を固着)21を介し、三番車22、中心車(分針を固着)23、さらに日ノ裏車24、筒車(時針を固着)25を回転させる。」 「【0033】前記モーター駆動回路33は通常モーター駆動用パルスの他にモーター回転検出パルスを生成し、輪列負荷の影響によるモーター回転子19の動作状態を負荷検出回路36で検出し、後述する指針位置検出機構が働いて輪列負荷が一時的に増大しモーター回転子19が非回転となった場合には、負荷検出回路36からの信号を受けて通常モーター駆動パルス幅より大きな補正パルスを出力しモーター回転子19の動作を保証する。 【0034】また、負荷検出回路36は前記補正パルス出力命令信号をモーター駆動回路33に発すると同時に、ゼロ検出回路37にも負荷検出信号P36を出力する。ゼロ検出回路37は負荷検出回路36からの負荷検出信号P36を受けてゼロ位置を認知すると共に、カウンター38のゼロ位置とゼロ検出回路37のゼロ位置の一致を検知するために計数一致回路39に信号を送信し、もし、不一致な場合はゼロ検出回路37とのズレ量を検出して計数一致回路39よりモーター駆動回路33の出力信号の制御信号が出力される。」 「【0040】四番歯車21a外周には、通常時計の指針輪列等に広く用いられている円弧歯形が形成されている。該歯形の中の一部の歯底には、他の歯形の歯底よりも外周側へ突出した歯底を上げた変形部21bが形成されている。さらに、該歯底を上げた変形部21bと回転中心を結ぶ仮想線に対して略左右同形状した異形穴21cが設けてあり、前記歯底を上げた変形部21b周辺部に微小な弾性力が生じるようにフランジ部21dが施されている。」 「【0042】前記五番カナ20aと四番歯車21aの噛み合いは、前記歯底を上げた変形部21b以外では通常広く用いられている指針輪列の歯形と同様な噛み合い状態を維持するが、歯底を上げた変形部21bでは図4(b)に示す五番カナ20aの歯先直径20cと歯底を上げた変形部21bとで形成する極わずかな干渉量ΔAにより、まず、五番車20と四番車21の各軸受12b、12cのホゾのガタ量だけ互いの回転中心位置が離反する。 【0043】次に、前記四番歯車21aのフランジ部21dは干渉量ΔAより前記ホゾのガタ量を除いたタワミ量により微小な弾性変形を生じながらその力の作用方向は四番車21の略回転中心方向にたわむ。 【0044】ここで、五番車20は五番カナ20aの歯形の略歯先で前記四番歯車21aのフランジ部21dに生じた弾性力の反力を受けるので輪列回転負荷が増し、五番車20を駆動するモーター回転子19は通常のモーター駆動パルスでは非回転となる。」 上記記載事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる(括弧内は、甲第1号証の記載箇所を示す。)。 「コイル15、ステータ18、モーター回転子19より構成されているステップモーター17と、 モーター駆動回路やモーター回転検出回路等を構成しているICチップ16aと(【0027】)、 五番車20、四番車(秒針を固着)21とを有する指針表示式電子時計の時計ムーブメントであって(【0001】、【0025】、【0028】)、 前記モーター回転子19は、五番車20、四番車(秒針を固着)21を回転させ(【0028】)、 四番歯車21a外周には、円弧歯形が形成され、該歯形の中の一部の歯底には、他の歯形の歯底よりも外周側へ突出した歯底を上げた変形部21bが形成され、さらに、該歯底を上げた変形部21bと回転中心を結ぶ仮想線に対して略左右同形状した異形穴21cが設けてあり、前記歯底を上げた変形部21b周辺部に微小な弾性力が生じるようにフランジ部21dが施されており(【0040】)、 五番カナ20aと四番歯車21aの噛み合いは、歯底を上げた変形部21bでは、五番カナ20aの歯先直径20cと歯底を上げた変形部21bとで形成する極わずかな干渉量ΔAにより、まず、五番車20と四番車21の各軸受12b、12cのホゾのガタ量だけ互いの回転中心位置が離反し(【0042】)、 前記四番歯車21aのフランジ部21dは干渉量ΔAより前記ホゾのガタ量を除いたタワミ量により微小な弾性変形を生じながらその力の作用方向は四番車21の略回転中心方向にたわみ(【0043】)、 五番車20は五番カナ20aの歯形の略歯先で前記四番歯車21aのフランジ部21dに生じた弾性力の反力を受けるので輪列回転負荷が増し、五番車20を駆動するモーター回転子19は通常のモーター駆動パルスでは非回転となり(【0044】)、 モーター回転子19の動作状態を負荷検出回路36で検出し、モーター回転子19が非回転となった場合には、負荷検出回路36は、ゼロ検出回路37に負荷検出信号P36を出力し、 ゼロ検出回路37は負荷検出回路36からの負荷検出信号P36を受けてゼロ位置を認知する(【0033】、【0034】) 指針表示式電子時計の時計ムーブメント。」 イ 甲第2号証には、以下の事項が記載されている。 「【0022】 さらに、約270°の角度にわたる円弧状の弾性ストリップからなるスプリング40は、その一端部44を介して、公知の手段で、車36のプレートに固定されている。自由端である、スプリング40の他端部46は、肘部46aに成っている。この肘部46aは、車36の外側に向かって屈曲し、かつ、休止状態においては、開口42の近傍で長アーム38aに接して配置されている。したがって、他端部46は、レバーを弾性ストリップの端部44に向かって押圧した状態を保持している。」 ウ 甲第3号証には、以下の事項が記載されている。 「【0056】 図4に示すように、曜ジャンパ30は、曜車28の回転方向の位置を規制すると共に、曜車28の回転を補助する時計部品であって、地板20の裏側に固定されたベース部30aと、ベース部30aに基端部が固定され、先端部が自由端とされた弾性変形可能な曜アーム部30bと、を備えている。 曜アーム部30bの先端部には、曜星車40の外周縁側に向けて膨らむように形成された躍制部36が形成されている。曜アーム部30bは、躍制部36を曜星車40側に予め押しつけるように取り付けられており、躍制部36を曜星車40の曜歯40aに対して係合させている。」 (3)当審の判断 ア 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項について (ア)本件発明1 a 対比 本件発明1と引用発明を対比する。 (a)引用発明の「ステップモーター17」は、本件発明1の「ステッピングモーター(4)」に相当する。 (b)引用発明は「前記モーター回転子19は、五番車20、四番車(秒針を固着)21を回転させ」ており、「五番カナ20aと四番歯車21a」は「噛み合」うので、引用発明の「五番車20」と「四番車(秒針を固着)21」は、本件発明1の「前記モーターによって回転駆動される車(22)と、前記車と噛み合う可動部品(24)」に相当する。 (c)引用発明は「負荷検出回路36」で、「四番歯車21a外周」の「歯底を上げた変形部21b」により「輪列回転負荷が増し」、「モーター回転子19が非回転となった場合」を検出し、「ゼロ検出回路37」で「ゼロ位置を認知する」ものである。 そして、「負荷検出回路36」及び「ゼロ検出回路37」は、「モーター駆動回路やモーター回転検出回路等を構成しているICチップ16a」内にあることは明らかであり、引用発明の「ゼロ位置」は、「四番車(秒針を固着)21」の角度位置といえるので、 引用発明の、「四番歯車21a外周」の「歯底を上げた変形部21b」及び「モーター駆動回路やモーター回転検出回路等を構成しているICチップ16a」は、本件発明1の「前記車の角度位置を検出する検出デバイス」に相当する。 (d)上記(a)?(c)を踏まえると、引用発明の「コイル15、ステータ18、モーター回転子19より構成されているステップモーター17と、モーター駆動回路やモーター回転検出回路等を構成しているICチップ16aと、五番車20、四番車(秒針を固着)21とを有する指針表示式電子時計の時計ムーブメント」は、本件発明1の「ステッピングモーター(4)と、前記モーターによって回転駆動される車(22)と、前記車と噛み合う可動部品(24)と、及び前記車の角度位置を検出する検出デバイスとを有する電気機械式計時器用ムーブメント」に相当する。 (e)引用発明において「モーター回転子19が非回転とな」るのは、「四番車21」と「五番車20」によって定められる基準角度を「歯底を上げた変形部21b」が通り抜けるときであるので、引用発明は、「歯底を上げた変形部21b」及び「ICチップ16a」によって、「四番車21」と「五番車20」によって定められる基準角度を通り抜ける「歯底を上げた変形部21b」の通過を判断することができる。 そして、引用発明の「歯底を上げた変形部21b」の存在する「四番歯車21a」の半軸は、「ゼロ位置を認知する」ためのものであるから、「四番歯車21a」の基準半軸であるといえるので、引用発明は、「歯底を上げた変形部21b」及び「ICチップ16a」によって、「四番車21」と「五番車20」によって定められる基準角度を通り抜ける「四番歯車21a」の基準半軸の通過を判断することができる。 したがって、引用発明の「歯底を上げた変形部21b」及び「ICチップ16a」によって、「歯底を上げた変形部21b」の通過を判断することができることは、本件発明1の「前記検出デバイスによって、前記車及び前記可動部品によって定められる基準角度(αref)を通り抜ける前記車の基準半軸(42)の通過を判断することができ」ることに相当する。 (f)引用発明は、「ステップモーター17」の「モーター回転子19」が、「五番車20、四番車(秒針を固着)21を回転させ」るものであるから、引用発明の「モーター回転子19が非回転となった場合」を検出することができる「ICチップ16a」と、本件発明1の「前記車及び前記可動部品が前記モーターによってステッピング運動をするように駆動されるときに瞬間的に発生する追加の抵抗性トルクを検出することができる電子回路(16)」とは、「前記車及び前記可動部品が前記モーターによってステッピング運動をするように駆動されるときの動作状態の変化を検出することができる電子回路(16)」である点で共通する。 (g)引用発明は「四番歯車21a外周に」「歯底を上た変形部21bが形成され、さらに」「前記歯底を上げた変形部21b周辺部に微小な弾性力が生じるようにフランジ部21dが施されて」、「四番歯車21aのフランジ部21dに」「弾性力」が生じるので、引用発明の「四番歯車21a外周」の「歯底を上げた変形部21b」及び「四番歯車21aのフランジ部21d」は、「四番歯車21a」と一体化された弾性要素であるといえる。 したがって、引用発明の「モーター回転子19」の「非回転」は、「四番歯車21a外周に」「歯底を上げた変形部21bが形成され、さらに」「前記歯底を上げた変形部21b周辺部に微小な弾性力が生じるようにフランジ部21dが施されて」、「四番歯車21aのフランジ部21dに生じた弾性力」によって発生することと、本件発明1の「前記追加の抵抗性トルクは、前記車と一体化された弾性要素(28)によって発生し」とは、「前記動作状態の変化は、前記車と一体化された弾性要素(28)によって発生」する点で共通する。 すると、本件発明1と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「ステッピングモーター(4)と、前記モーターによって回転駆動される車(22)と、前記車と噛み合う可動部品(24)と、及び前記車の角度位置を検出する検出デバイスとを有する電気機械式計時器用ムーブメントであって、 前記検出デバイスによって、前記車及び前記可動部品によって定められる基準角度(αref)を通り抜ける前記車の基準半軸(42)の通過を判断することができ、このために、前記車及び前記可動部品が前記モーターによってステッピング運動をするように駆動されるときの動作状態の変化を検出することができる電子回路(16)を有し、 前記動作状態の変化は、前記車と一体化された弾性要素(28)によって発生する 電気機械式計時器用ムーブメント。」 (相違点1) 本件発明1は、「電子回路(16)」が、「追加の抵抗性トルク」を検出するのに対して、引用発明は、「ICチップ16a」が、「モーター回転子19が非回転となった場合」を検出する点。 (相違点2) 本件発明1は、「前記弾性要素(28)は、前記車の歯列(23)が位置している前記車の一般平面(40)上への射影において、前記歯列(23)の2つの隣接歯(34、35)の間の1つの所与の空欠部(32)の少なくとも内側に延在するように構成しており、前記弾性要素は、前記所与の空欠部の底部まで前記車の半径方向に実質的に弾性変形可能であり、前記可動部品(25)は、前記可動部品(25)の歯列が前記所与の空欠部に入り込んでいるときに前記可動部品(25)の歯列が動いて弾性要素を押すように、前記弾性要素の高さレベルに少なくとも部分的に位置している歯列を有する」のに対して、引用発明は、弾性要素が、「四番歯車21a外周」の「歯底を上た変形部21b」及び「四番歯車21aのフランジ部21d」である点。 b 判断 (a)特許法第29条第1項第3号について 上記「a 対比」で検討したように、上記相違点1及び上記相違点2に係る本件発明1の構成は、引用発明に記載されておらず実質的な相違点であるから、本件発明1は、引用発明であるとはいえない。 (b)特許法第29条第2項について 上記相違点2について検討する。 引用発明の弾性要素は、四番歯車21aの一部に形成された、「四番歯車21a外周」の「歯底を上げた変形部21b」及び「四番歯車21aのフランジ部21d」であるが、これを、四番歯車21aの2つの隣接歯の間の空欠部の内側に延在するように構成する理由はないし、そもそも、どのようにすればそのように構成できるのか不明である。 また、甲第2号証及び甲第3号証にも、歯列の2つの隣接歯の間の空欠部の内側に延在するように構成した、弾性要素は記載されていない。 したがって、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、引用発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、本件発明1は、上記相違点1について検討するまでもなく、引用発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (イ)本件発明2、3、6 本件発明1を、直接又は間接的に引用する本件発明2、3、6は、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1と同様の理由によって、引用発明であるとはいえず、かつ、引用発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (ウ)本件発明4、5 本件発明1を、直接又は間接的に引用する本件発明4、5は、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1と同様の理由によって、引用発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (エ)まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1-3、6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるということができず、同法第113条第2号により取り消すことができない。 また、本件発明1-6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということができず、同法第113条第2号により取り消すことができない。 よって、特許異議申立人のかかる主張は、採用することができない。 イ 特許法第36条第6項第1号について 訂正事項により、請求項1に「前記可動部品(25)は、前記歯列が前記所与の空欠部に入り込んでいるときに前記歯列が動いて弾性要素を押すように、前記弾性要素の高さレベルに少なくとも部分的に位置している歯列を有する」と記載されているのを、「前記可動部品(25)は、前記可動部品(25)の歯列が前記所与の空欠部に入り込んでいるときに前記可動部品(25)の歯列が動いて弾性要素を押すように、前記弾性要素の高さレベルに少なくとも部分的に位置している歯列を有する」に訂正することにより、本件発明1-6は、発明の詳細な説明に記載したものとなった。 したがって、本件発明1-6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、同法第113条第4号により取り消すことはできない。 よって、特許異議申立人のかかる主張は、採用することができない。 第4 むすび したがって、請求項1-6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に請求項1-6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ステッピングモーター(4)と、前記モーターによって回転駆動される車(22)と、前記車と噛み合う可動部品(24)と、及び前記車の角度位置を検出する検出デバイスとを有する電気機械式計時器用ムーブメントであって、 前記検出デバイスによって、前記車及び前記可動部品によって定められる基準角度(α_(ref))を通り抜ける前記車の基準半軸(42)の通過を判断することができ、このために、前記車及び前記可動部品が前記モーターによってステッピング運動をするように駆動されるときに瞬間的に発生する追加の抵抗性トルクを検出することができる電子回路(16)を有し、 前記追加の抵抗性トルクは、前記車と一体化された弾性要素(28)によって発生し、 前記弾性要素(28)は、前記車の歯列(23)が位置している前記車の一般平面(40)上への射影において、 前記歯列(23)の2つの隣接歯(34、35)の間の1つの所与の空欠部(32)の少なくとも内側に延在するように構成しており、 前記弾性要素は、前記所与の空欠部の底部まで前記車の半径方向に実質的に弾性変形可能であり、 前記可動部品(25)は、前記可動部品(25)の歯列が前記所与の空欠部に入り込んでいるときに前記可動部品(25)の歯列が動いて弾性要素を押すように、前記弾性要素の高さレベルに少なくとも部分的に位置している歯列を有する ことを特徴とする電気機械式計時器用ムーブメント。 【請求項2】 前記弾性要素は、前記一般平面上への射影において、前記所与の空欠部の内側よりも少ない程度しか前記所与の空欠部に隣接している2つの空欠部(36、37)の一方及び/又は他方の内側に入り込まないように、又は前記隣接している2つの空欠部の内側に入り込まないように、構成している ことを特徴とする請求項1に記載の電気機械式計時器用ムーブメント。 【請求項3】 前記弾性要素は、周部に前記歯列を有する前記車のプレート上において配置されており、 前記弾性要素は、前記歯列の前記所与の空欠部に重なり合った部分を有する ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気機械式計時器用ムーブメント。 【請求項4】 前記弾性要素は、その2つの端の少なくとも一方(29)において車に取り付けられているワイヤーばね(28)によって形成される ことを特徴とする請求項3に記載の電気機械式計時器用ムーブメント。 【請求項5】 前記ワイヤーばねは、その主な曲がりから突出している曲がり部(30)を有し、 前記曲がり部は、前記車の前記歯列の前記所与の空欠部に重なり合っている ことを特徴とする請求項4に記載の電気機械式計時器用ムーブメント。 【請求項6】 前記可動部品は、当該計時器用ムーブメントの歯車列を前記車と形成するピニオン又は別の車である ことを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の電気機械式計時器用ムーブメント。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-05-29 |
出願番号 | 特願2017-85877(P2017-85877) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(G04C)
P 1 651・ 853- YAA (G04C) P 1 651・ 113- YAA (G04C) P 1 651・ 121- YAA (G04C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 深田 高義 |
特許庁審判長 |
小林 紀史 |
特許庁審判官 |
須原 宏光 梶田 真也 |
登録日 | 2018-05-11 |
登録番号 | 特許第6334027号(P6334027) |
権利者 | ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス |
発明の名称 | 車の角度位置を検出するデバイスを有する電気機械式計時器用ムーブメント。 |
代理人 | 山川 政樹 |
代理人 | 山川 茂樹 |
代理人 | 山川 茂樹 |
代理人 | 山川 政樹 |