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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F16D
管理番号 1353172
異議申立番号 異議2018-700454  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-05 
確定日 2019-06-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6250524号発明「湿式摩擦材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6250524号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6250524号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6250524号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成26年11月20日に出願され、平成29年12月1日にその特許権の設定登録がされ、平成29年12月20日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年6月5日に特許異議申立人岡野眞人(以下、「異議申立人」という。)により全請求項に対して特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年8月10日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成30年10月12日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、当審は、平成30年10月31日付けで訂正請求があった旨を異議申立人に通知し、異議申立人は、平成30年12月1日に意見書を提出した。当審は、平成31年1月9日付けで取消理由<決定の予告>を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成31年3月15日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。当審は、平成31年3月20日付けで訂正請求があった旨を異議申立人に通知し、指定期間を設定して意見書の提出を促したが、指定期間内に異議申立人から意見書の提出はなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成31年3月15日の訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)?(4)のとおりである。(平成31年3月15日付け訂正請求書の「7 請求の理由(2)訂正事項」の、「イ 訂正事項2」ないし「エ 訂正事項4」の「LB_(1)」及び「LB_(2)」は、「L_(B1)」及び「L_(B2)」の誤記であり、「エ 訂正事項4」の「前記回L_(T)転中心」及び「特徴とする湿式摩擦材」は、「前記回転中心」及び「特徴とする湿式摩擦材。」の誤記と認める。下線は当審で付した。以下同様。)
なお、平成30年10月12日の訂正請求は特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記仮想線分L_(B)のうちの一群の仮想線分L_(B1)が、他群の仮想線分L_(B2)より長くなるように前記複数の摩擦部が形成されており、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部の内周縁が、前記コアプレートの内周縁よりも外周側に位置されている」と記載されているのを、「前記仮想線分L_(B)のうちの一群の仮想線分L_(B1)が、他群の仮想線分L_(B2)より長くなるように前記複数の摩擦部が形成されており、前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、且つ、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、前記第1群の摩擦部F_(1)の径方向の幅が前記第2群の摩擦部F_(2)の径方向の幅より小さく、且つ、前記第2群の摩擦部F_(2)の前記内周縁が、前記コアプレートの内周縁よりも外周側に位置されており、更に、前記第1群の摩擦部F_(1)は、前記内周縁、前記一端側縁及び前記他端側縁の各縁が接続された角部がR加工又は面取り加工されており、更に、前記複数の摩擦部の前記外周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(T)を想定した場合に、前記仮想線分L_(T)のうちの一群の仮想線分L_(T1)が、他群の仮想線分L_(T2)より短くなるように前記複数の摩擦部が形成されている」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2,3,4も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、前記摩擦部F_(1)と、これに隣り合う前記摩擦部F_(2)との間の前記油溝が、内周側より外周側が広がるように、前記摩擦部F_(1)の前記一端側縁及び/又は前記他端側縁が前記摩擦部F_(2)から遠ざかるように傾斜されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の湿式摩擦材。」とあるうち、請求項1を引用する発明について、単数項を引用する記載形式に改め、「前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、前記摩擦部F_(1)と、これに隣り合う前記摩擦部F_(2)との間の前記油溝が、内周側より外周側が広がるように、前記摩擦部F_(1)の前記一端側縁及び/又は前記他端側縁が前記摩擦部F_(2)から遠ざかるように傾斜されていることを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、前記摩擦部F_(1)と、これに隣り合う前記摩擦部F_(2)との間の前記油溝が、内周側より外周側が広がるように、前記摩擦部F_(1)の前記一端側縁及び/又は前記他端側縁が前記摩擦部F_(2)から遠ざかるように傾斜されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の湿式摩擦材。」とあるうち、請求項1及び請求項2を引用する発明について、単数項を引用する記載形式に改め、「前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、前記摩擦部F_(1)と、これに隣り合う前記摩擦部F_(2)との間の前記油溝が、内周側より外周側が広がるように、前記摩擦部F_(2)の前記一端側縁及び/又は前記他端側縁が前記摩擦部F_(1)から遠ざかるように傾斜されており、更に、前記摩擦部F_(1)の前記一端側縁及び/又は前記他端側縁が前記摩擦部F_(2)から遠ざかるように傾斜されていることを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。」と記載し、請求項1のみを引用する新たな請求項4として訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に、「前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、前記第1群の摩擦部F_(1)のうちの1以上の摩擦部が、前記仮想線分L_(T1)を有するように形成されていることを特徴とする請求項4に記載の湿式摩擦材。」と記載されているのを、「平板なリング形状をなし、そのリング形状の中心を回転中心とするコアプレートと、前記コアプレートにリング状に配置された複数の摩擦部と、前記複数の摩擦部間に油溝を備えた湿式摩擦材において、本湿式摩擦材を平面視した場合に、前記複数の摩擦部は、前記回転中心から近い側に内周縁を有し、前記回転中心から遠い側に外周縁を有し、更に、前記内周縁の一端と前記外周縁の一端とを繋ぐ一端側縁と、前記内周縁の他端と前記外周縁の他端とを繋ぐ他端側縁とを有し、且つ、前記内周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(B)を想定した場合に、前記仮想線分L_(B)のうちの一群の仮想線分L_(B1)が、他群の仮想線分L_(B2)より長くなるように前記複数の摩擦部が形成されており、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部の内周縁が、前記コアプレートの内周縁よりも外周側に位置されており、前記複数の摩擦部の前記外周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(T)を想定した場合に、前記仮想線分L_(T)のうちの一群の仮想線分L_(T1)が、他群の仮想線分L_(T2)より短くなるように前記複数の摩擦部が形成されており、前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、前記第1群の摩擦部F_(1)のうちの1以上の摩擦部が、前記仮想線分L_(T1)を有するように形成されていることを特徴とする湿式摩擦材。」と訂正する。

(5)一群の請求項について
訂正前の請求項1?5は、請求項2?5が、訂正の対象である請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、上記訂正請求(1)?(4)は、一群の請求項〔1-5〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の「複数の摩擦部」について「一群の仮想線分L_(B1)を有する」「第1群の摩擦部F_(1)の径方向の幅」を「他群の仮想線分L_(B2)を有する」「第2群の摩擦部F_(2)の径方向の幅より小さく」し、「第1群の摩擦部F_(1)」の内周側の「角部がR加工又は面取り加工されて」おり、さらに、「前記複数の摩擦部の前記外周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(T)を想定した場合に、前記仮想線分L_(T)のうちの一群の仮想線分L_(T1)が、他群の仮想線分L_(T2)より短くなる」ことを特定しようとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項1は、「他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部」を「第2群の摩擦部F_(2)」と定めた訂正後の請求項1の記載との整合を図るため、訂正前の請求項1の「前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部の内周縁が、前記コアプレートの内周縁よりも外周側に位置されて」との記載を「前記第2群の摩擦部F_(2)の前記内周縁が、前記コアプレートの内周縁よりも外周側に位置されて」に訂正するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものでもある。
そして、訂正事項1は、明細書の段落【0023】及び【0044】、訂正前の特許請求の範囲の請求項2?請求項4並びに図面【図4】に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
さらに、訂正事項1は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項3が、請求項1又は請求項2を引用する多数項引用形式で記載されていたところ、そのうち請求項1を引用する発明について訂正後の請求項3とするためのものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、訂正事項2は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないし、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合する。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3が、請求項1又は請求項2を引用する多数項引用形式で記載されていたところ、そのうち請求項1及び請求項2を引用する発明について新たに訂正後の請求項4とするためのものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、訂正事項4は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないし、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合する。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項5が、訂正前の請求項4の記載を引用し、当該訂正前の請求項4が請求項1ないし3を引用する多数項引用形式で記載されていたところ、そのうち請求項4の記載及び請求項4が引用する請求項1を引用する発明について、請求項間の引用関係を解消し、それら請求項を引用しないものとし、独立形式の請求項へと改めるためのものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、訂正事項4は、訂正前の請求項5が引用する訂正前の請求項4に関し、その請求項4が引用する請求項の数を減少させる訂正であることから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正でもある。
さらに、訂正事項4は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないし、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合する。
そして、訂正前の請求項1?5に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項4に関して特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 小括
したがって、本件訂正請求に係る訂正事項1?4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?5に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

本件発明1「平板なリング形状をなし、そのリング形状の中心を回転中心とするコアプレートと、
前記コアプレートにリング状に配置された複数の摩擦部と、前記複数の摩擦部間に油溝を備えた湿式摩擦材において、
本湿式摩擦材を平面視した場合に、前記複数の摩擦部は、前記回転中心から近い側に内周縁を有し、前記回転中心から遠い側に外周縁を有し、更に、前記内周縁の一端と前記外周縁の一端とを繋ぐ一端側縁と、前記内周縁の他端と前記外周縁の他端とを繋ぐ他端側縁とを有し、且つ、前記内周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(B)を想定した場合に、前記仮想線分L_(B)のうちの一群の仮想線分L_(B1)が、他群の仮想線分L_(B2)より長くなるように前記複数の摩擦部が形成されており、
前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、且つ、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、
前記第1群の摩擦部F_(1)の径方向の幅が前記第2群の摩擦部F_(2)の径方向の幅より小さく、且つ、前記第2群の摩擦部F_(2)の前記内周縁が、前記コアプレートの内周縁よりも外周側に位置されており、更に、
前記第1群の摩擦部F_(1)は、前記内周縁、前記一端側縁及び前記他端側縁の各縁が接続された角部がR加工又は面取り加工されており、更に、
前記複数の摩擦部の前記外周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(T)を想定した場合に、前記仮想線分L_(T)のうちの一群の仮想線分L_(T1)が、他群の仮想線分L_(T2)より短くなるように前記複数の摩擦部が形成されていることを特徴とする湿式摩擦材。」

本件発明2「前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、前記摩擦部F_(1)と、これに隣り合う前記摩擦部F_(2)との間の前記油溝が、内周側より外周側が広がるように、前記摩擦部F_(2)の前記一端側縁及び/又は前記他端側縁が前記摩擦部F_(1)から遠ざかるように傾斜されていることを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。」

本件発明3「前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、前記摩擦部F_(1)と、これに隣り合う前記摩擦部F_(2)との間の前記油溝が、内周側より外周側が広がるように、前記摩擦部F_(1)の前記一端側縁及び/又は前記他端側縁が前記摩擦部F_(2)から遠ざかるように傾斜されていることを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。」

本件発明4「前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、前記摩擦部F_(1)と、これに隣り合う前記摩擦部F_(2)との間の前記油溝が、内周側より外周側が広がるように、前記摩擦部F_(2)の前記一端側縁及び/又は前記他端側縁が前記摩擦部F_(1)から遠ざかるように傾斜されており、更に、
前記摩擦部F_(1)の前記一端側縁及び/又は前記他端側縁が前記摩擦部F_(2)から遠ざかるように傾斜されていることを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。」

本件発明5「平板なリング形状をなし、そのリング形状の中心を回転中心とするコアプレートと、
前記コアプレートにリング状に配置された複数の摩擦部と、前記複数の摩擦部間に油溝を備えた湿式摩擦材において、
本湿式摩擦材を平面視した場合に、前記複数の摩擦部は、前記回転中心から近い側に内周縁を有し、前記回転中心から遠い側に外周縁を有し、更に、前記内周縁の一端と前記外周縁の一端とを繋ぐ一端側縁と、前記内周縁の他端と前記外周縁の他端とを繋ぐ他端側縁とを有し、且つ、前記内周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(B)を想定した場合に、前記仮想線分L_(B)のうちの一群の仮想線分L_(B1)が、他群の仮想線分L_(B2)より長くなるように前記複数の摩擦部が形成されており、
前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部の内周縁が、前記コアプレートの内周縁よりも外周側に位置されており、
前記複数の摩擦部の前記外周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(T)を想定した場合に、前記仮想線分L_(T)のうちの一群の仮想線分L_(T1)が、他群の仮想線分L_(T2)より短くなるように前記複数の摩擦部が形成されており、
前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、前記第1群の摩擦部F_(1)のうちの1以上の摩擦部が、前記仮想線分L_(T1)を有するように形成されていることを特徴とする湿式摩擦材。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?3に係る特許に対して、当審が平成31年1月9日付けで特許権者に通知した取消理由<決定の予告>の要旨は、次のとおりである。
(1)請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)請求項2及び3に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献1及び2に記載された事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項2及び3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
引用文献1:特開2011-127687号公報(異議申立人の甲第2号証)
引用文献2:特開2003-90370号公報(異議申立人の甲第3号証)

2 引用文献の記載・引用発明
(1)引用文献1の記載事項及び引用発明
平成31年1月9日付け取消理由通知において引用した引用文献1(特開2011-127687号公報:異議申立人の甲第2号証)には、湿式多板摩擦クラッチ装置に関し、以下の事項が記載されている。

ア「【0006】
しかしながら、クラッチ摩擦板とクラッチプレートとの間にクラッチオイルが介在する所謂湿式多板摩擦クラッチ装置においては、クラッチ摩擦板とクラッチプレートとの間で生じる引き摺りトルクの低減は常に求められるものであり、上記従来技術によって満足されるものではない。」

イ「【0024】
クラッチ摩擦板110は、詳しくは図2に示すように、平板環状の芯金111上に摩擦材112aおよび油溝115を備えて構成されている。芯金111は、クラッチ摩擦板110の基部となる部材であり、SPCC(冷間圧延鋼板)材からなる薄板材を略環状に打ち抜いて成形されている。このクラッチ摩擦板110における前記クラッチプレート103に対向する側面、すなわち、芯金111におけるクラッチプレート103に対向する側面には、複数の小片状の摩擦材112aの集合で構成された摩擦材群112と、同複数の摩擦材112aによって形成される油溝115とがそれぞれ設けられている。なお、図においては、摩擦材112aにハッチングを施して示している(他の図においても同様)。」

ウ「【0025】
摩擦材112aは、前記クラッチプレート103に対する摩擦力を向上させるものであり、紙材を芯金111における環状部の径方向の幅に対応する長さの長辺からなる略長方形状に形成して構成されている。この摩擦材112aは、芯金111の内周側から外周側に亘って延びる方向に5つの摩擦材112aが所定の隙間を介して互いに平行に配置されて1つの摩擦材群112を構成している。また、互いに平行配置された摩擦材112a相互間の隙間は、摩擦材112aにおける芯金111の周方向の幅より短い幅に設定されており、これら互いに隣り合う摩擦材112aによって1つの小溝113aが形成されている。すなわち、1つの摩擦材群112内には、5つの摩擦材112aによって4つの小溝113aからなる1つの小溝群113が形成されている。」

エ「【0026】
この摩擦材群112は、芯金111の周方向に沿って8つの摩擦材群112が所定の間隔を介してそれぞれ等間隔に配置されている。これにより、芯金111の表面には、摩擦材群112が略放射状に配置され形成されるとともに、互いに隣り合う摩擦材群112によって芯金111の内側から外側に向かって広がる8つの扇状溝114がそれぞれ形成される。この場合、互いに隣り合う摩擦材群112における芯金111の最も内側部分での隙間、換言すれば、扇状溝114の最内周側の幅は、摩擦材群112を構成する摩擦材112a相互間の隙間(換言すれば、小溝113aの幅)と同程度である。これら小溝群113および扇状溝114によって油溝115が形成されている。」

オ「【0042】
例えば、上記実施形態においては、クラッチ摩擦板110において油溝115を構成する扇状溝114は、芯金111の最内周側から外周側に向かって幅広になるように形成した。しかし、本発明者らによる実験によれば、扇状溝114は、芯金111の最内周部から外周部に向かって延びるとともに、最内周部と最外周部との略中間位置から最内周部までの範囲内の位置から外周部に向かって幅広に形成されていれば引き摺りトルクの実質的な低減が可能である。例えば、図9には、芯金111の最内周部から外周部に向かって延びるとともに、最内周部と最外周部との略中間位置から外周部に向かって幅広に形成した扇状溝124を有するクラッチ摩擦板120を示している。この図9に示したクラッチ摩擦板120においては、本発明者らによる実験によれば、上記基準となるクラッチ摩擦板200の引き摺りトルクに対して約‐20%の引き摺りトルクの低減が可能である。この実験結果によれば、扇状溝114は、芯金111の最内周側から外周側に向かって幅広に形成する程、引き摺りトルクの低減効果が大きいものと考えられる。」

カ「【0049】
なお、図17は、クラッチ摩擦板210,230,150,110,160,170における各引き摺りトルクの増減率(丸印)と摩擦材212,232,152a,112a,162a,172aの総面積(四角印)とをグラフ化したものである。図17によれば、クラッチ摩擦板150,110,160,170において摩擦材152a,112a,162a,172aが略同じであるにも関わらず、引き摺りトルクの増減率には大きな差異認められる。このことからも、前記した通り、引き摺りトルクの大きさは、クラッチ摩擦板に設けられる摩擦材の総面積に加えて、同摩擦材の配置位置や形状および同摩擦材の配置位置や形状によって規定される油溝の配置位置や形状にも依存すると言える。」

キ「【0051】
図18は、本発明者らによる実験結果を示しており、従来技術に係るクラッチ摩擦板200を基準として、上記実施形態に係るクラッチ摩擦板110およびクラッチ摩擦板180における各引き摺りトルク(Nm)の増減率をグラフ化したものである。この場合、クラッチ摩擦板180は、図19に示すように、クラッチ摩擦板180における小溝群183を構成する4つの小溝183aにおける芯金181の内周側端部を芯金111の周方向に沿って千鳥状に配置することにより、互いに隣接する小溝183a間で芯金181の径方向における互いに異なる位置に形成して構成されている。」
(なお、「芯金111」とあるのは「芯金181」の誤記であると認められる。)

ク 上記記載事項イ及びウに照らせば、【図2】からは、クラッチ摩擦板110における小溝群113を構成する4つの小溝113aを形成する摩擦材群112について、互いに隣接する摩擦材群112aの内周側端部が、芯金111の回転中心から等しい距離となるように形成した構成が見て取れる。

ケ クラッチ摩擦板180を平面視した【図19】からは、芯金181に環状に配置された複数の小片状の摩擦材182aの各々に関して、芯金181の回転中心から近い側に内周側縁部を有し、前記回転中心から遠い側に外周側縁部を有し、前記内周側縁部の一端と前記外周側縁部の一端とを繋ぐ一端側縁部と、前記内周側縁部の他端と前記外周側縁部の他端とを繋ぐ他端側縁部とを有し、小溝183a及び扇状溝184から油溝185が形成された構成が見て取れる。

コ 上記記載事項キ及び上記クの【図2】の図示内容に照らせば、【図19】からは、クラッチ摩擦板180における小溝群183を構成する4つの小溝183aを形成する摩擦材群182の内周側端部を、芯金181の周方向に沿って千鳥状に配置することにより、互いに隣接する摩擦材182aの内周側端部を、芯金181の回転中心から互いに異なる距離となるように形成した構成が見て取れる。そして、摩擦材群182を構成する5つの摩擦材182aのうち、中央及び両端の3つの摩擦材182aの内周側端部と、他の2つの摩擦材182aの内周側端部とに注目すると、前記他の2つの摩擦材182aの内周側端部と前記芯金181の回転中心との距離は、前記中央及び両端の3つの摩擦材182aの内周側端部と前記芯金181の回転中心との距離よりも長く、前記他の2つの摩擦材182aの径方向の幅が前記3つの摩擦材182aの径方向の幅より小さく、前記3つの摩擦材182aの内周側縁部が、前記芯金181の内周側縁部よりも外周側に位置されていることが見て取れる。

上記記載事項、認定事項及び図示内容から、本件発明1の記載振りに則って整理すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「平板環状をなし、その環状の中心を回転中心とする芯金181と、
前記芯金181に環状に配置された複数の小片状の摩擦材182aと、前記複数の小片状の摩擦材182a間に小溝183a及び扇状溝184からなる油溝185を備えた湿式のクラッチ摩擦板180において、
本湿式のクラッチ摩擦板180を平面視した場合に、前記複数の小片状の摩擦材182aは、前記回転中心から近い側に内周側縁部を有し、前記回転中心から遠い側に外周側縁部を有し、更に、前記内周側縁部の一端と前記外周側縁部の一端とを繋ぐ一端側縁部と、前記内周側縁部の他端と前記外周側縁部の他端とを繋ぐ他端側縁部とを有し、且つ、前記内周側縁部と前記回転中心との距離を想定した場合に、摩擦材群182を構成する5つの摩擦材182aのうち、中央及び両端の3つの摩擦材182aを除く他の2つの摩擦材182aの前記距離が、中央及び両端の3つの摩擦材182aの前記距離より長くなるように前記複数の小片状の摩擦材182aが形成されており、
前記他の2つ摩擦材182aの径方向の幅が前記3つの摩擦材182aの径方向の幅より小さく、且つ、
前記3つの摩擦材182aの内周側縁部が、前記芯金181の内周側縁部よりも外周側に位置されている湿式のクラッチ摩擦板180。」

(2)引用文献2に記載された事項について
平成31年1月9日付け取消理由通知において引用した引用文献2(特開2003-90370号公報:異議申立人の甲第3号証)には、湿式多板クラッチ、湿式多板ブレーキ等の湿式フリクションプレートに関し、以下の事項が記載されている。
「【0018】このように油路4b…の入口4cを絞り、油路4b…の出口4d側を大きく開放すると、油路4b…に導入されようとする潤滑油は、油路4b…の入口4cの絞りに対応した一定の抵抗を受け、油路4b…内の潤滑油にはフリクションプレート4の回転速度に対応した遠心力が作用する。ここで、油路4b…の路幅を半径方向内側から外側に向かって順次大きくすると、油路4b…内での潤滑油の流速は低下するが、油路4b…の両側面の静圧もまた低下して両側面に対する摩擦力が減少し、潤滑油の排出方向の圧力も結果として低下する。このため、油路4b…を直線状に形成した場合と比較して油路4b…から潤滑油を排出させるための遠心力が小さくても油路4b…から潤滑油がスムースに排出され、潤滑油の残留に起因するフリクションプレート4と前記したセパレータプレート5との連れ回りが防止される。また、油路4b…内に導入されようとする潤滑油は、油路4b…の入口4cの絞りによって一定の抵抗を受け、入口4cより手前側に常に必要最少限の潤滑油が滞留するため、フリクションプレート4と前記したセパレータプレート5との焼付きが防止される。」

(3)引用文献3に記載された事項について
平成30年8月10日付け取消理由通知において引用した実願平3-14204号(実開平5-87341号)のCD-ROM(異議申立人の甲第1号証:以下、引用文献3という)には、湿式摩擦板に関し、図面(特に図4参照)とともに、以下の事項が記載されている
「 図4の第4実施例の摩擦板16は、コアプレート20上に摩擦材38を隣接するセグメントの間隙又は径方向位置を異ならしめて配置したもので、これにより冷却油の乱流化が促され、冷却効果が増す。」(第8頁第8行-第10行)

(4)周知技術について
ア 引用文献4の記載事項
異議申立人が提出した意見書に甲第5号証として添付された、特開2009-68689号公報(以下、引用文献4という)には、湿式摩擦材に関し、次の事項が記載されている。
(ア)「【0007】
更に、特許文献3に記載の発明においては、セグメントタイプ摩擦材においてセグメントピースの内周側の角を所定角度で切り落とすことによって、ATに組み込まれた場合に非締結状態においてセグメントタイプ摩擦材が回転したとき、内周側から供給されるATFがセグメントピースの切り落とされた部分に当接することによって、ATFが積極的に摩擦材基材の摩擦面に供給されて、セパレータプレートと摩擦面との接触が抑制され、ATFによる引き摺りトルクが大幅に低減されるとしている。
【0008】
また、特許文献4においては、セグメントタイプ摩擦材において、セグメントピースの側面(油溝を構成する面)に当接するATFの油圧が大きくなってセグメントピースが剥がれるのを防止するために、セグメントピースの4箇所のコーナーにRを付け、またはセグメントピースの4箇所のコーナーを面取りする発明について開示している。これによって、耐剥離性が大きく向上するとともに、4箇所のコーナーの形状が適切な場合には、ATFによる引き摺りトルクが低減されるという効果も得られるものと考えられる。
【特許文献1】特開2001-295859号公報
【特許文献2】特開2005-069411号公報
【特許文献3】特開2005-282648号公報
【特許文献4】特開2004-150449号公報」

(イ)「【0094】
また、図8に示される他のパラメータについては、油溝4の最も細い部分の幅γ=1mm,セグメントピース3の横幅δ=13mm、セグメントピース3の縦幅ε=5mmとして、試験条件としては、ATF油温=40℃、ATF油量=500mL/min(軸芯潤滑なし)、ディスクサイズが外周φ1=185mm,内周φ2=175mmにおいて試験し、ディスク枚数=7枚(したがって、相手材の鋼板ディスクは8枚)、パッククリアランス=0.25mm/枚、で行った。」

イ 引用文献5の記載事項
異議申立人が提出した意見書に甲第6号証として添付された、特開2004-150449号公報(以下、引用文献5という)には、セグメントタイプ摩擦材に関し、次の事項が記載されている。
(ア)「【0025】
図1に示されるように、実施例1のセグメントタイプ摩擦材1は、平板リング形状の芯金2にセグメントピース3を接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝分の間隔4を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けている。ここで、セグメントピース3の4箇所のコーナーはR形状5となっている。そして、両面から230℃?250℃の熱プレスで30秒?90秒加圧して芯金2にセグメントピース3を固着させ、完成品(セグメントタイプ摩擦材1)を得た。」

(イ)「【0029】
図2に示されるように、実施例2のセグメントタイプ摩擦材6は、平板リング形状の芯金2にセグメントピース7を接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝分の間隔8を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けている。ここで、セグメントピース7の4箇所のコーナーは面取り9が施されている。そして、両面から230℃?250℃の熱プレスで30秒?90秒加圧して芯金2にセグメントピース7を固着させ、完成品(セグメントタイプ摩擦材6)を得た。」

(ウ)「【0055】
請求項4の発明にかかるセグメントタイプ摩擦材は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの構成において、前記セグメントピースの4箇所のコーナーにRを付けたものである。
【0056】
これによって、セグメントピースの外周部の2箇所のコーナーにより大きなRを付ければ、外周開口部の幅を内周開口部の幅よりも大きくすることができ、外周部の開口部におけるATFの流れがスムースになって、外周部に発生する油圧が抑制され、セグメントピースが飛躍的に剥がれにくくなる。」
ウ 引用文献6の記載事項
異議申立人が提出した意見書に甲第7号証として添付された、特開2005-69411号公報(以下、引用文献6という)には、セグメントタイプ摩擦材に関し、次の事項が記載されている。
「【0023】
請求項5の発明にかかるセグメントタイプ摩擦材においては、セグメントピースの4箇所のコーナーにRを付けている。これによって、セグメントピースの外周部の2箇所のコーナーにより大きなRを付ければ、外周開口部の幅を内周開口部の幅よりも大きくすることができ、外周部の開口部におけるATFの流れがスムースになって、引き摺りトルクの低減効果が顕著に表れる。」

上記ア?ウの記載事項から、湿式の摩擦材の技術分野において、摩擦部の縁にある角部に、R加工や面取り加工をすることで、引き摺りトルクを減少させることは周知技術であるといえる。

3 当審の判断(特許法第29条第2項について)
(1)本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比すると、
引用発明の「平板環状」は本件発明1の「平板なリング形状」に相当し、以下同様に、
「その環状」は「そのリング形状」に、
「芯金181」は「コアプレート」に、
「小片状の摩擦材182a」は「摩擦部」に、
「小片状の摩擦材182a間」は「摩擦部間」に、
「小溝183a及び扇状溝184からなる油溝185」は「油路」に、
「湿式のクラッチ摩擦板180」は「湿式摩擦材」に、
「内周側縁部」は「内周縁」に、
「外周側縁部」は「外周縁」に、
「一端側縁部」は「一端側縁」に、
「他端側縁部」は「他端側縁」に、それぞれ相当する。

また、引用発明の「前記内周側縁部と前記回転中心との距離」は本件発明1の「前記内周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(B)」の長さに相当するから、
引用発明の「前記内周側縁部と前記回転中心との距離を想定した場合に、摩擦材群182を構成する5つの摩擦材182aのうち、中央及び両端の3つの摩擦材182aを除く他の2つの摩擦材182aの前記距離が、中央及び両端の3つの摩擦材182aの前記距離より長くなるように前記複数の小片状の摩擦材182aが形成されて」いることは、
本件発明1の「前記内周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(B)を想定した場合に、前記仮想線分L_(B)のうちの一群の仮想線分L_(B1)が、他群の仮想線分L_(B2)より長くなるように前記複数の摩擦部が形成されて」いることに相当する。

そして、本件発明1は「前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、且つ、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とし」ているから、
引用発明の「他の2つの摩擦材182a」は
本件発明1の「第1群の摩擦部F_(1)」に相当し、
引用発明の「中央及び両端の3つの摩擦材182a」は、
本件発明1の「第2群の摩擦部F_(2)」に相当し、
引用発明の「前記他の2つの摩擦材182aの径方向の幅が前記3つの摩擦材182aの径方向の幅より小さ」いことは、
本件発明1の「前記第1群の摩擦部F_(1)の径方向の幅が前記第2群の摩擦部F_(2)の径方向の幅がより小さ」いことに相当し、
引用発明の「前記3つの小片状の摩擦材182aの内周側縁部が、前記芯金181の内周側縁部よりも外周側に位置されている」ことは、
本件発明1の「前記第2群の摩擦部F_(2)の内周縁が、前記コアプレートの内周縁よりも外周側に位置されて」いることに相当する。

したがって、本件発明1と引用発明とは
「平板なリング形状をなし、そのリング形状の中心を回転中心とするコアプレートと、
前記コアプレートにリング状に配置された複数の摩擦部と、前記複数の摩擦部間に油溝を備えた湿式摩擦材において、
本湿式摩擦材を平面視した場合に、前記複数の摩擦部は、前記回転中心から近い側に内周縁を有し、前記回転中心から遠い側に外周縁を有し、更に、前記内周縁の一端と前記外周縁の一端とを繋ぐ一端側縁と、前記内周縁の他端と前記外周縁の他端とを繋ぐ他端側縁とを有し、且つ、前記内周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(B)を想定した場合に、前記仮想線分L_(B)のうちの一群の仮想線分L_(B1)が、他群の仮想線分L_(B2)より長くなるように前記複数の摩擦部が形成されており、
前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、且つ、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、
前記第1群の摩擦部F_(1)の径方向の幅が前記第2群の摩擦部F_(2)の径方向の幅より小さく、且つ、前記第2群の摩擦部F_(2)の内周縁が、前記コアプレートの内周縁よりも外周側に位置されている湿式摩擦材。」の点で一致し、以下の相違点1及び相違点2で相違する。

[相違点1]
本件発明1は「前記第1群の摩擦部F_(1)は、前記内周縁、前記一端側縁及び前記他端側縁の各縁が接続された角部がR加工又は面取り加工されている」のに対し、引用発明がそのような構成を有しない点。

[相違点2]
本件発明1は「前記複数の摩擦部の前記外周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(T)を想定した場合に、前記仮想線分L_(T)のうちの一群の仮想線分L_(T1)が、他群の仮想線分L_(T2)より短くなるように前記複数の摩擦部が形成されている」のに対し、引用発明がそのような構成を有しない点。

先に、相違点1について検討する。
上記2(4)に説示のとおり、摩擦部の縁にある角部に、R加工や面取り加工をすることで、引き摺りトルクを減少させることは周知技術であると認められる。
そして、引き摺りトルクを減少させるという湿式の摩擦材に共通する課題を解決するために、引用発明において、内周側縁部と、一端側縁部及び他端側縁部との間の角部について、上記周知技術を適用し、R加工や面取り加工をすることは、当業者が容易になし得たことである。

次に、相違点2について検討する。
本件発明1は、仮想線分L_(T1)を持つ摩擦部の外周の凹部(領域X_(3))を通過した潤滑油を仮想線分L_(T2)を持つ摩擦部へ誘導する機能を有するとともに、仮想線分L_(B1)を有する摩擦部の内周の凹部(領域X_(1))を通過した潤滑油を仮想線分L_(B2)を持つ摩擦部へ誘導する機能を有すると認められる。そして、領域X_(1)を通過した潤滑油と領域X_(3)を通過した潤滑油とが、摩擦部の縁部にある油溝内でぶつかることで、潤滑油を摩擦部上に積極的に流す作用が期待でき、それにより、潤滑油が少なくて引き摺りトルクが発生する場合でも、引き摺りトルクを低減するという効果を奏する(本件明細書段落【0039】参照。)ものと認められる。
これに対し、引用文献2及び3のいずれにも、凹部を通過した潤滑油同士を油溝内でぶつけることで、潤滑油を摩擦部上に積極的に流すことについて記載も示唆もされていない。また、このように潤滑油を摩擦部上に積極的に流す手法が従来から慣用されていたとも認められない。したがって、当業者であっても、引用発明に引用文献2,3に記載された事項を組み合わせて上記相違点2に係る本件発明1の構成に至ることはできない。

そして、本件発明1は、相違点2に係る構成によって、上記のとおり、潤滑油が少なくて引き摺りトルクが発生する場合でも引き摺りトルクを低減するという効果を奏する(本件明細書段落【0039】参照。)ものと認められ、かかる効果は当業者にとって予測できたものに過ぎないということはできない。

したがって、本件発明1は、引用発明、引用文献2及び3に記載された事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1は、特許法第29条第2項に違反して特許されたものとはいえない。

(2)本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を加えた発明であるので、上記(1)で示したと同様の理由により、本件発明2ないし4は、引用発明、引用文献2及び3に記載された事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1は、特許法第29条第2項に違反して特許されたものとは言えない。

(3)本件発明5について
本件発明5と引用発明とを対比すると、
「平板なリング形状をなし、そのリング形状の中心を回転中心とするコアプレートと、
前記コアプレートにリング状に配置された複数の摩擦部と、前記複数の摩擦部間に油溝を備えた湿式摩擦材において、
本湿式摩擦材を平面視した場合に、前記複数の摩擦部は、前記回転中心から近い側に内周縁を有し、前記回転中心から遠い側に外周縁を有し、更に、前記内周縁の一端と前記外周縁の一端とを繋ぐ一端側縁と、前記内周縁の他端と前記外周縁の他端とを繋ぐ他端側縁とを有し、且つ、前記内周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(B)を想定した場合に、前記仮想線分L_(B)のうちの一群の仮想線分L_(B1)が、他群の仮想線分L_(B2)より長くなるように前記複数の摩擦部が形成されており、
前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部の内周縁が、前記コアプレートの内周縁よりも外周側に位置されている湿式摩擦材。」の点で一致し、以下の相違点3で相違する。

[相違点3]
本件発明5は「前記複数の摩擦部の前記外周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(T)を想定した場合に、前記仮想線分L_(T)のうちの一群の仮想線分L_(T1)が、他群の仮想線分L_(T2)より短くなるように前記複数の摩擦部が形成されており、
前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、前記第1群の摩擦部F_(1)のうちの1以上の摩擦部が、前記仮想線分L_(T1)を有するように形成されている」のに対し、引用発明がそのような構成を有しない点。

次に、相違点3について検討する。
本件発明5は、仮想線分L_(T1)を持つ「第1群の摩擦部F_(1)のうち1以上の摩擦部」の外周の凹部(領域X_(3))を通過した潤滑油を仮想線分L_(T2)を持つ摩擦部へ誘導する機能を有するとともに、仮想線分L_(B1)を有する第1群の摩擦部F_(1)の内周の凹部(領域X_(1))を通過した潤滑油を仮想線分L_(B2)を持つ摩擦部へ誘導する機能を有すると認められる。そして、領域X_(1)を通過した潤滑油と領域X_(3)を通過した潤滑油とが、「第1群の摩擦部F_(1)のうち1以上の摩擦部」の縁部にある油溝内でぶつかることで、潤滑油を「第1群の摩擦部F_(1)のうち1以上の摩擦部」に隣接する摩擦部上に積極的に流す作用が期待でき、それにより、潤滑油が少なくて引き摺りトルクが発生する場合でも、引き摺りトルクを低減するという効果を奏する(本件明細書段落【0039】参照。)ものと認められる。
これに対し、引用文献2及び3のいずれにも、凹部を通過した潤滑油同士を油溝内でぶつけることで、潤滑油を摩擦部上に積極的に流すことについて記載も示唆もされていない。また、このように潤滑油を摩擦部上に積極的に流す手法が従来から慣用されていたとも認められない。したがって、当業者であっても、引用発明に引用文献2及び3に記載された事項を組み合わせて上記相違点3に係る本件発明5の構成に至ることはできない。

そして、本件発明5は、相違点3に係る構成によって、上記のとおり、潤滑油が少なくて引き摺りトルクが発生する場合でも引き摺りトルクを低減するという効果を奏する(本件明細書段落【0039】参照。)ものと認められ、かかる効果は当業者にとって予測できたものに過ぎないということはできない。

したがって、本件発明5は、引用発明、引用文献2及び3に記載された事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明5は、特許法第29条第2項に違反して特許されたものとはいえない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第1項第3号(新規性)について
(1)引用文献1(甲第2号証)について
異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、引用文献1(甲第2号証)に記載された発明と同一である旨を主張する。
しかしながら、上記第4で検討したように、引用文献1に記載された発明は、上記第4 3(1)の相違点1及び2に係る本件発明1の構成に相当する構成を有しておらず、また、上記第4 3(3)の相違点3に係る本件発明5の構成に相当する構成を有していない。
そうすると、引用文献1に記載された発明は、訂正後の請求項1ないし5に係る発明のいずれとも同一の発明ではない。

したがって、異議申立人のかかる主張は、採用することができない。

(2)引用文献3(甲第1号証)について
異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明は、引用文献3(甲第1号証)に記載された発明と同一である旨を主張する。

しかしながら、引用文献3に記載された発明は、本件発明1?4の特定事項である「前記内周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(B)を想定した場合に、前記仮想線分L_(B)のうちの一群の仮想線分L_(B1)が、他群の仮想線分L_(B2)より長くなるように前記複数の摩擦部が形成されており、
前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、且つ、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、
前記第1群の摩擦部F_(1)の径方向の幅が前記第2群の摩擦部F_(2)の径方向の幅より小さく、且つ、前記第2群の摩擦部F_(2)の前記内周縁が、前記コアプレートの内周縁よりも外周側に位置されて」に相当する構成を有していない。

また、引用文献3に記載された発明は、本件発明5の特定事項である「前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、前記第1群の摩擦部F_(1)のうちの1以上の摩擦部が、前記仮想線分L_(T1)を有するように形成されている」に相当する構成を有していない。

そうすると、引用文献3に記載された発明は、訂正後の請求項1ないし5に係る発明のいずれとも同一の発明ではない。

したがって、異議申立人のかかる主張は、採用することができない。

2 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)引用文献3について
異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1?5に関し、請求項1?5に係る発明は、引用文献3に記載された発明に基いて、あるいは、引用文献3に記載された発明及び引用文献1ないし引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張する。

しかしながら、引用文献3に記載された発明は、本件発明1?4の特定事項である「前記内周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(B)を想定した場合に、前記仮想線分L_(B)のうちの一群の仮想線分L_(B1)が、他群の仮想線分L_(B2)より長くなるように前記複数の摩擦部が形成されており、
前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、且つ、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、
前記第1群の摩擦部F_(1)の径方向の幅が前記第2群の摩擦部F_(2)の径方向の幅より小さく、且つ、前記第2群の摩擦部F_(2)の前記内周縁が、前記コアプレートの内周縁よりも外周側に位置されて」に相当する構成を有していない。
また、引用文献3に記載された発明は、本件発明5の特定事項である「前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、前記第1群の摩擦部F_(1)のうちの1以上の摩擦部が、前記仮想線分L_(T1)を有するように形成されている」に相当する構成も有していない。

そして、引用文献3に記載された発明は、乱流化を促す構成であるものの、潤滑油を摩擦部上に積極的に流すものではなく、本件発明1及び5でいうところの、仮想線分L_(T2)を有する摩擦部は仮想線分L_(B1)を有する摩擦部となり、仮想線分L_(B2)を有する摩擦部は仮想線分L_(T1)を有する摩擦部となっているから(引用文献3の図4参照)、内周に凹部のある摩擦部と外周に凹部のある摩擦部とは1つも一致しないため、「領域X_(1)を通過した潤滑油」と「領域X_(3)を通過した潤滑油」とが摩擦部の縁部にある油溝内でぶつからない発明となっている。このため、引用文献3に記載された発明に、引用文献1又は2に記載された事項を適用して本件発明1?5の構成することは困難であると認められる。
そうすると、訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし5に関し、引用文献3に記載された発明に基いて、あるいは、引用文献3に記載された発明及び引用文献1ないし引用文献2に記載された事項並びに上記第4 2(4)に記載の周知技術に基いて、本件発明1?5を当業者が容易に発明をすることができたとは認められないので、本件発明1?5は特許法第29条第2項に違反して特許されたとはいえない。

したがって、異議申立人のかかる主張は、採用することができない。

(2)甲第4号証について
異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項4及び5に係る発明は、引用文献1に記載された発明又は引用文献3に記載された発明と、実願昭57-125253号(実開昭59-29429号)のマイクロフィルム(異議申立人の甲第4号証)に記載された事項とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張する。

しかしながら、甲第4号証の「溝18はフエーシング7の半径方向及び回転方向Rに対して傾斜しており、フエーシング7から生じた摩擦粉を排出すること等を目的として設けてある。2点鎖線18’の如く、溝18をフエーシング2の回転方向R前方に隣接させて設けると、フエーシング7の摩耗粉がフエーシング2の表面に付着することを効果的に防止できる。」(第5頁第20行?第6頁第7行)との記載等からみて、甲第4号証に記載されたクラッチディスクは乾式クラッチに関するものであって、引用発明あるいは引用文献3に記載された発明の湿式クラッチとは技術分野が異なるので、組み合わせる動機付けがないと認められる。
また、乾式クラッチ故にフェーシング7に潤滑油は介在しないことから、作用・効果も本件発明1?5のものと異なるから、仮に引用発明あるいは引用文献3に記載された発明に甲第4号証に記載された事項を組み合わせることができたとしても、本件発明1?5の作用・効果が奏されるとは認められない。
したがって、本件発明1?5は、引用発明又は引用文献3に記載された発明並びに甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

したがって、異議申立人のかかる主張は、採用することができない。

6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板なリング形状をなし、そのリング形状の中心を回転中心とするコアプレートと、
前記コアプレートにリング状に配置された複数の摩擦部と、前記複数の摩擦部間に油溝を備えた湿式摩擦材において、
本湿式摩擦材を平面視した場合に、前記複数の摩擦部は、前記回転中心から近い側に内周縁を有し、前記回転中心から遠い側に外周縁を有し、更に、前記内周縁の一端と前記外周縁の一端とを繋ぐ一端側縁と、前記内周縁の他端と前記外周縁の他端とを繋ぐ他端側縁とを有し、且つ、前記内周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(B)を想定した場合に、前記仮想線分L_(B)のうちの一群の仮想線分L_(B1)が、他群の仮想線分L_(B2)より長くなるように前記複数の摩擦部が形成されており、
前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、且つ、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、
前記第1群の摩擦部F_(1)の径方向の幅が前記第2群の摩擦部F_(2)の径方向の幅より小さく、且つ、前記第2群の摩擦部F_(2)の前記内周縁が、前記コアプレートの内周縁よりも外周側に位置されており、更に、
前記第1群の摩擦部F_(1)は、前記内周縁、前記一端側縁及び前記他端側縁の各縁が接続された角部がR加工又は面取り加工されており、更に、
前記複数の摩擦部の前記外周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(T)を想定した場合に、前記仮想線分L_(T)のうちの一群の仮想線分L_(T1)が、他群の仮想線分L_(T2)より短くなるように前記複数の摩擦部が形成されていることを特徴とする湿式摩擦材。
【請求項2】
前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、前記摩擦部F_(1)と、これに隣り合う前記摩擦部F_(2)との間の前記油溝が、内周側より外周側が広がるように、前記摩擦部F_(2)の前記一端側縁及び/又は前記他端側縁が前記摩擦部F_(1)から遠ざかるように傾斜されていることを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。
【請求項3】
前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、前記摩擦部F_(1)と、これに隣り合う前記摩擦部F_(2)との間の前記油溝が、内周側より外周側が広がるように、前記摩擦部F_(1)の前記一端側縁及び/又は前記他端側縁が前記摩擦部F_(2)から遠ざかるように傾斜されていることを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。
【請求項4】
前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、前記摩擦部F_(1)と、これに隣り合う前記摩擦部F_(2)との間の前記油溝が、内周側より外周側が広がるように、前記摩擦部F_(2)の前記一端側縁及び/又は前記他端側縁が前記摩擦部F_(1)から遠ざかるように傾斜されており、更に、
前記摩擦部F_(1)の前記一端側縁及び/又は前記他端側縁が前記摩擦部F_(2)から遠ざかるように傾斜されていることを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。
【請求項5】
平板なリング形状をなし、そのリング形状の中心を回転中心とするコアプレートと、
前記コアプレートにリング状に配置された複数の摩擦部と、前記複数の摩擦部間に油溝を備えた湿式摩擦材において、
本湿式摩擦材を平面視した場合に、前記複数の摩擦部は、前記回転中心から近い側に内周縁を有し、前記回転中心から遠い側に外周縁を有し、更に、前記内周縁の一端と前記外周縁の一端とを繋ぐ一端側縁と、前記内周縁の他端と前記外周縁の他端とを繋ぐ他端側縁とを有し、且つ、前記内周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(B)を想定した場合に、前記仮想線分L_(B)のうちの一群の仮想線分L_(B1)が、他群の仮想線分L_(B2)より長くなるように前記複数の摩擦部が形成されており、
前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部の内周縁が、前記コアプレートの内周縁よりも外周側に位置されており、
前記複数の摩擦部の前記外周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分L_(T)を想定した場合に、前記仮想線分L_(T)のうちの一群の仮想線分L_(T1)が、他群の仮想線分L_(T2)より短くなるように前記複数の摩擦部が形成されており、
前記一群の仮想線分L_(B1)を有する摩擦部を第1群の摩擦部F_(1)とし、前記他群の仮想線分L_(B2)を有する摩擦部を第2群の摩擦部F_(2)とした場合に、前記第1群の摩擦部F_(1)のうちの1以上の摩擦部が、前記仮想線分L_(T1)を有するように形成されていることを特徴とする湿式摩擦材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-05-31 
出願番号 特願2014-235986(P2014-235986)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (F16D)
P 1 651・ 113- YAA (F16D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山田 康孝佐々木 佳祐  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 尾崎 和寛
内田 博之
登録日 2017-12-01 
登録番号 特許第6250524号(P6250524)
権利者 アイシン化工株式会社
発明の名称 湿式摩擦材  
代理人 小島 清路  
代理人 鈴木 勝雅  
代理人 平岩 康幸  
代理人 小島 清路  
代理人 鈴木 勝雅  
代理人 平岩 康幸  

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