• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C12N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12N
管理番号 1353174
異議申立番号 異議2018-700111  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-14 
確定日 2019-06-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6188435号発明「脈管周囲の間葉系前駆細胞」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6188435号の特許請求の範囲を平成31年2月22日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?30]について訂正することを認める。 特許第6188435号の請求項1、2、4?13、16?20及び23?30に係る特許を維持する。 特許第6188435号の請求項3、14、15、21、22に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6188435号の請求項1?30に係る特許についての出願は、平成16年3月29日(パリ条約による優先権主張 2003年3月28日 オーストラリア)を国際出願日とする特願2006-503989号の一部を新たな特許出願とした特願2010-274732号の一部を、さらに新たな特許出願として平成25年6月11日に出願したものであって、平成29年8月10日にその特許権の設定登録がされ、平成29年8月30日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年 2月14日付け 特許異議申立人成田隆臣(以下、単に「特 許異議申立人」という。)による請求項1 ?30に係る特許に対する特許異議の申立
平成30年 5月15日付け 取消理由通知書
平成30年 8月16日付け 特許権者による意見書及び訂正請求書
平成30年10月 9日付け 特許異議申立人による意見書
平成30年11月20日付け 取消理由通知書
平成31年 2月22日付け 特許権者による意見書及び訂正請求書
なお、特許異議申立人から指定期間内に意見書は提出されなかった。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成31年2月22日付け訂正請求書において特許権者が請求する訂正(以下、「本件訂正」又は単に「訂正」という。)は、一群の請求項[1?30]について訂正事項1?13の訂正を求める、次のとおりのものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において「表面マーカー3G5、MUC18/CD146及びSTRO-1のうち1つ以上に対して陽性である」と記載されているのを、「表面マーカー3G5に対して陽性である」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7において「請求項1から6のいずれか一項に記載の細胞集団」と記載されているのを、「請求項1、2および4から6のいずれか一項に記載の細胞集団」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8?12において「マーカーSTRO-1^(bri)、3G5またはMUC18/CD146のうち1種または複数を高レベルで発現する」と記載されているのを、「マーカー3G5を高レベルで発現する」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項13において「前記脂肪組織において発現されるマーカー3G5またはMUC18/CD146またはSTRO-1の存在に基づいて」と記載されているのを、「前記脂肪組織において発現されるマーカー3G5の存在に基づいて」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項14を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項15を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項16において「請求項13、14または15に記載の方法」と記載されているのを、「請求項13に記載の方法」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項21を削除する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項22を削除する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項23?25において「マーカーSTRO-1^(bri)、3G5またはMUC18/CD146のうち1種または複数を発現する」と記載されているのを、「マーカー3G5を発現する」に訂正する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項26及び27において「マーカーSTRO-1^(bri)、3G5またはMUC18/CD146のうち1種または複数を高レベルで発現する」と記載されているのを、「マーカー3G5を高レベルで発現する」に訂正する。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項23?29において「請求項20、21または22に記載の方法」と記載されているのを、「請求項20に記載の方法」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)一群の請求項
訂正前の請求項2?30は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1により訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、請求項[1?30]は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、本件訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1
訂正事項1は、訂正前請求項1に記載された「表面マーカー3G5、MUC18/CD146及びSTRO-1のうち1つ以上」を「表面マーカー3G5」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 訂正事項2
訂正事項2は、訂正前請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 訂正事項3
訂正事項3は、訂正前請求項7が引用する請求項である「請求項1から6のいずれか一項」を「請求項1、2および4から6のいずれか一項」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 訂正事項4
訂正事項4は、訂正前請求項8?12に記載された「マーカーSTRO-1^(bri)、3G5またはMUC18/CD146のうち1種または複数」を「マーカー3G5」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
オ 訂正事項5
訂正事項5は、訂正前請求項13に記載された「マーカー3G5またはMUC18/CD146またはSTRO-1」を「マーカー3G5」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
カ 訂正事項6
訂正事項6は、訂正前請求項14を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
キ 訂正事項7
訂正事項7は、訂正前請求項15を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ク 訂正事項8
訂正事項8は、訂正前請求項16が引用する請求項である「請求項13、14または15」を「請求項13」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ケ 訂正事項9
訂正事項9は、訂正前請求項21を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
コ 訂正事項10
訂正事項10は、訂正前請求項22を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
サ 訂正事項11
訂正事項11は、訂正前請求項23?25に記載された「マーカーSTRO-1^(bri)、3G5またはMUC18/CD146のうち1種または複数」を「マーカー3G5」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
シ 訂正事項12
訂正事項12は、訂正前請求項26及び27に記載された「マーカーSTRO-1^(bri)、3G5またはMUC18/CD146のうち1種または複数」を「マーカー3G5」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ス 訂正事項13
訂正事項13は、訂正前請求項23?29が引用する請求項である「請求項20、21または22」を「請求項20」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。したがって、訂正後の請求項[1?30]について訂正を認める。

第3 本件訂正発明
本件特許の請求項1、2、4?13、16?20及び23?30に係る発明は、本件訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4?13、16?20及び23?30に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(なお、上記第2のとおり、請求項3、14、15、21及び22は削除された。)
「【請求項1】
脂肪組織に由来し、多能であり、表面マーカー3G5に対して陽性である、細胞集団。
【請求項2】
中胚葉起源の少なくとも3種の分化した細胞型を形成するように分化する能力を有する、請求項1に記載の細胞集団。
【請求項4】
哺乳動物から単離される、請求項1に記載の細胞集団
【請求項5】
前記哺乳動物がヒトである、請求項4に記載の細胞集団。
【請求項6】
少なくとも骨芽細胞、軟骨、または脂肪細胞のうち1種または複数を含む細胞を形成するように分化するよう誘導される能力を有する、請求項1に記載の細胞集団。
【請求項7】
増殖している、請求項1、2および4から6のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項8】
マーカー3G5を高レベルで発現する細胞を少なくとも0.1%含む、請求項7に記載の細胞集団。
【請求項9】
マーカー3G5を高レベルで発現する細胞を少なくとも1%含む、請求項7に記載の細胞集団。
【請求項10】
マーカー3G5を高レベルで発現するMPCを少なくとも2%含む、請求項7に記載の細胞集団。
【請求項11】
マーカー3G5を高レベルで発現する細胞を少なくとも5%含む、請求項7に記載の細胞集団。
【請求項12】
マーカー3G5を高レベルで発現する細胞を少なくとも10%含む、請求項7に記載の細胞集団。
【請求項13】
請求項1に記載の細胞集団を得るための方法であって、脂肪組織から単細胞懸濁物を調製するステップおよび前記脂肪組織において発現されるマーカー3G5の存在に基づいて前記細胞集団を富化するステップを含む、方法。
【請求項16】
前記細胞集団を富化するステップが、1種または複数のマーカーのさらなる存在に基づく、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記富化した細胞集団が、少なくとも骨芽細胞、軟骨、または脂肪細胞のうち1種または複数を含む細胞へと分化することが可能である、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記脂肪組織が哺乳動物由来である、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記脂肪組織がヒト由来である、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞集団を富化するステップがマーカー3G5の存在に基づき、前記集団を増殖するステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記増殖された集団が、マーカー3G5を発現する細胞を少なくとも0.1%含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記増殖された集団が、マーカー3G5を発現する細胞を少なくとも1%含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記増殖された集団が、マーカー3G5を発現する細胞を少なくとも2%含む、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記増殖された集団が、マーカー3G5を高レベルで発現する細胞を少なくとも5%含む、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記増殖された集団が、マーカー3G5を高レベルで発現する細胞を少なくとも10%含む、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
前記増殖された集団が、少なくとも骨芽細胞、軟骨、または脂肪細胞のうち1種または複数の細胞を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
増殖因子を補充した培地中で前記細胞集団を培養することにより前記集団を増殖させる、請求項20に記載の方法。
【請求項30】
前記増殖因子が、PDGF、EGF、FGF、IGF、VEGFおよびLIFを含むがこれらに限定されない群から選択される、請求項29に記載の方法。」
(以下、それぞれ「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」等という。まとめて「本件訂正発明」ということもある。)

第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が訂正前請求項1?30に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の概要及び証拠方法は、次のとおりである。(なお、特許異議申立書第10頁には、申立ての根拠条文として特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第2号も記載されているが、具体的な理由は述べられなかった。)

(1)異議申立理由1(甲第1号証に基づく新規性欠如)
請求項1、2及び4?7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(2)異議申立理由2(甲第1?3号証に基づく進歩性欠如)
請求項3、8?13、15、17?19及び22?30に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第1?3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(3)異議申立理由3(甲第4及び5号証に基づく進歩性欠如)
請求項1、2及び4?7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第4及び5号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(4)異議申立理由4(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記ア及びイの点で発明の詳細な説明に記載したものということができないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 「多能」の点。
イ 「マーカーSTRO-1^(bri)」の点。

(5)証拠方法
甲第1号証:Mol.Biol.Cell, vol.13, pp.4279-4295 (2002)
甲第2号証:国際公開第01/04268号
甲第3号証:J.Bone Mineral Res., vol.18, pp.696-704 (2003)
甲第4号証:特表2002-537849号公報
甲第5号証:J.Cell.Physiol., vol.189, pp.54-63 (2001)

2 取消理由の概要
(1)当審が平成30年5月15日付け取消理由通知で通知した取消理由の概要
当審が、訂正前請求項1?30に係る特許に対して平成30年5月15日付け取消理由通知で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
ア 取消理由1、2(甲第1号証を主引用例とする新規性欠如、進歩性欠如)
請求項1?30に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるか、当該発明及び甲第2及び3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
イ 取消理由3(甲第5号証を主引用例とする新規性欠如)
請求項1、2、4?12に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第5号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ウ 取消理由4(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が「マーカーSTRO-1^(bri)」の点で発明の詳細な説明に記載したものということができないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(2)当審が平成30年11月20日付け取消理由通知で通知した取消理由の概要
当審が、平成30年8月16日付け訂正請求により訂正された請求項1、2、4?14、16?30に係る特許に対して平成30年11月20日付け取消理由通知で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。なお、請求項3、15及び22は、上記訂正請求により削除された。
ア 取消理由5(サポート要件違反)
特許請求の範囲の請求項13及びそれを引用する請求項の「マーカーMUC18/CD146の存在に基づいて前記細胞集団を富化するステップ」は発明の詳細な説明に記載したものということができないから、本件特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
イ 取消理由6(甲第5号証を主引用例とする進歩性欠如)
上記(1)イと同趣旨である。

第5 当審の判断
1 甲号証の記載事項
(1)甲第1号証(Mol.Biol.Cell, vol.13, pp.4279-4295 (2002))
甲第1号証は「ヒト脂肪組織は、多能性幹細胞の供給源である」と題し、「処理された脂肪吸引細胞(PLA細胞)」が多能性を有することを報告する学術論文であって、次の事項が記載されている。
ア 「処理された脂肪吸引細胞(PLA細胞)」を、未処理のヒト脂肪吸引物を洗浄、コラーゲナーゼ処理して得た。(第4280頁左欄下から第5行?右欄第8行)
イ PLA細胞及びヒト骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)は、両方とも、MSCマーカーを発現し、骨髄から多系列前駆細胞を単離するために使用されるマーカーであるSTRO-1も発現した。(第4282頁左欄第24?33行、表2)
ウ PLA細胞は、各種誘導培地での培養で、脂肪、骨、軟骨、筋肉、神経系への分化を示した。(図2?6)
エ 単離したPLAクローンも、骨形成遺伝子、脂肪生成遺伝子、軟骨形成遺伝子を発現し、多分化能を有する幹細胞であることを示唆した。(図7)

(2)甲第2号証(国際公開第01/04268号)
甲第2号証は、「間葉系前駆細胞」の発明を開示する国際公開公報であって、次の事項が記載されている。
ア STRO-1は、間葉系前駆細胞(MPC)特異的マーカーである。(第6頁第28?32行など)
イ STRO-1陽性ヒト骨髄単核細胞を、FACSでSTRO-1蛍光強度に応じて3つの画分に分類したところ、最も強い画分STRO-1^(bri)にMPCの大部分が含まれていた。(図1)
ウ ヒト骨髄由来STRO-1^(bri)/VCAM-1+細胞集団は、骨、軟骨、脂肪系への分化を示した。(図7)

(3)甲第3号証(J.Bone Mineral Res., vol.18, pp.696-704 (2003))
甲第3号証は、「ヒト骨髄及び歯髄における生後間葉系幹細胞の血管周囲」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。
ア ヒト骨髄吸引物及びヒト歯髄組織酵素消化物からSTRO-1(血管周囲細胞上の抗原を認識する抗体)を用いて、骨髄間質幹細胞(BMSSC)及び歯髄間質幹細胞(DPSC)を得た。(第696頁要約など)
イ BMSSC及びDPSCの両方がCD146陽性であり、DPSCの大部分及びBMSSCのわずかな部分が3G5陽性であった。(第696頁要約など)
ウ STRO-1^(bri)/CD146+細胞集団は、高いCFU-F形成を示した。(図1)
エ STRO-1は、髄線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞など種々の間質細胞型の前駆体に存在する。(第701頁左欄第41?45行)
オ BMSSC及びDPSCといった2種の異なる間葉系幹細胞集団が脈管周囲の間隙中に存在するという観察は、他の成体組織中の幹細胞集団を同定するためのさらなる暗示を有し得る。(第703頁左欄第22?25行)

(4)甲第4号証(特表2002-537849号公報)
甲第4号証は、「脂肪由来の幹細胞および格子」の発明を開示する公表公報であって、次の事項が記載されている。
ア 脂肪吸引液中の脂肪組織片から得た細胞をディッシュ上で培養して得られた、小さく単核で比較的無顆粒の線維芽細胞様細胞は、軟骨、脂肪、骨及び筋への分化能を有していた。(段落【0041】?【0051】)

(5)甲第5号証(J.Cell.Physiol., vol.189, pp.54-63 (2001))
甲第5号証は、「ヒト脂肪組織由来間質細胞の表面タンパク質の特徴付け」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。
ア ヒト骨髄間質細胞は、多数の中胚葉系列に分化することができる多能性細胞集団であり、ヒト脂肪組織は、多能性間質細胞の代替供給源を提示する。(第54頁要約)
イ ヒト脂肪組織由来間質細胞は、ヒト骨髄間質細胞と類似したタンパク質発現表現型を有し、CD146等を発現する。(第54頁要約、図3)
ウ ヒト脂肪組織由来間質細胞は、脂肪及び骨への分化を示した。(図4)

2 当審が通知した取消理由についての判断
(1)取消理由1、2(甲第1号証を主引用例とする新規性欠如、進歩性欠如)についての判断
上記1(1)によれば、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「ヒト脂肪組織に由来し、脂肪、骨、軟骨、筋肉、神経系への分化能を有し、表面マーカーSTRO-1に対して陽性である、細胞集団。」(以下、「甲1発明」という。)
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、両者は「脂肪組織に由来し、多能である、細胞集団」の点で一致し、前者は「表面マーカー3G5に対して陽性である」のに対して、後者は「表面マーカーSTRO-1に対して陽性である」点で相違する。
上記相違点について検討すると、表面マーカー3G5とSTRO-1とは別の分子であって、細胞表面における両者の発現様式が同一であるなどの事情は認められないから、本件訂正発明1に係る細胞集団と甲1発明に係る細胞集団とが同一であるとは認めることができない。
また、甲第2号証及び甲第3号証には間葉系幹細胞集団が記載されているものの、表面マーカー3G5については記載も示唆もされていないから、甲1発明と組み合わせたとしても本件訂正発明1が導き出されることはない。本件訂正発明2及び4?12も「表面マーカー3G5に対して陽性である」ことを構成要件とし、本件訂正発明13、16?20及び23?30は「マーカー3G5の存在に基づいて前記細胞集団を富化するステップ」を構成要件とするものであるから、本件訂正発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1?3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
したがって、本件訂正発明に係る特許は取消理由1、2によって取り消されるべきものではない。

(2)取消理由3、6(甲第5号証を主引用例とする新規性欠如)についての判断
上記1(5)によれば、甲第5号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「ヒト脂肪組織に由来し、脂肪及び骨への分化能を有し、表面マーカーCD146に対して陽性である、細胞集団。」(以下、「甲5発明」という。)
本件訂正発明1と甲5発明とを対比すると、両者は「脂肪組織に由来し、多能である、細胞集団」の点で一致し、前者は「表面マーカー3G5に対して陽性である」のに対して、後者は「表面マーカーCD146に対して陽性である」点で相違する。
上記相違点について検討すると、表面マーカー3G5とCD146とは別の分子であって、細胞表面における両者の発現様式が同一であるなどの事情は認められないから、本件訂正発明1に係る細胞集団と甲5発明に係る細胞集団とが同一であるとは認めることができない。本件訂正発明2及び4?12も「表面マーカー3G5に対して陽性である」ことを構成要件とし、本件訂正発明13、16?20及び23?30は「マーカー3G5の存在に基づいて前記細胞集団を富化するステップ」を構成要件とするものであるから、本件訂正発明1と同様に、甲第5号証に記載された発明であるということはできない。
したがって、本件訂正発明に係る特許は取消理由3、6によって取り消されるべきものではない。

(3)取消理由4(サポート要件違反)についての判断
ア 取消理由の具体的内容
請求項1?30に係る発明は、脂肪組織に由来する細胞集団に関するものであるところ、請求項3、7?12、15、16及び23?27に係る発明は「マーカーSTRO-1^(bri)」の発現を構成要件としている。それに対して、発明の詳細な説明には、脂肪組織に由来し「マーカーSTRO-1^(bri)を発現する」細胞集団は記載されていない。
イ 判断
本件訂正により、特許請求の範囲から「マーカーSTRO-1^(bri)」の記載が削除されたから、本取消理由は解消した。

(4)取消理由5(サポート要件違反)についての判断
ア 取消理由の具体的内容
請求項13及びそれを引用する請求項に係る発明には、請求項1に記載の細胞集団(脂肪組織に由来し、多能で有り、表面マーカー3G5に対して陽性である、細胞集団)を「マーカーMUC18/CD146の存在に基づいて前記細胞集団を富化するステップ」によって得る方法が含まれている。しかし、発明の詳細な説明には、そのような方法は記載されていないし、マーカー3G5とマーカーMUC18/CD146の発現様式が同一であるなどの事情も認められない。
イ 判断
本件訂正により、請求項13及びそれを引用する請求項から「マーカーMUC18/CD146の存在に基づいて前記細胞集団を富化するステップ」の記載が削除されたから、本取消理由は解消した。

3 取消理由で採用しなかった特許異議申立理由についての判断
(1)異議申立理由3(甲第4及び5号証に基づく進歩性欠如)についての判断
甲第4及び5号証には、脂肪組織由来多能性細胞集団が記載されているが、それらが「表面マーカー3G5に対して陽性である」ことについては記載も示唆もされていないから、これらを組み合わせても本件訂正発明に至ることはない。
したがって、本件訂正発明に係る特許は異議申立理由3によって取り消されるべきものではない。

(2)異議申立理由4(サポート要件違反)のアについての判断
ア 異議申立理由の具体的内容
本件特許明細書の段落【0021】の記載及び甲第6号証に照らすと、請求項1?12に係る発明において「多能」とは、内胚葉、中胚葉及び外胚葉起源の全ての型の細胞に分化できることを意味すると解されるが、そのような性質を有する細胞集団は発明の詳細な説明に記載されていない。
イ 判断
本件特許明細書の段落【0017】?【0018】の記載によれば、本件において「多能」とは、全ての型の細胞ではなく、複数種類の細胞へと分化できる能力を意味すると解される。これは、甲第6号証(「分子細胞生物学辞典」(1997年3月10日東京化学同人発行)第496?497頁)に「多分化能[pluripotency] 多能性ともいう。2種類以上の細胞種に分化しうる細胞の分化能力をいう。」と記載されているとおり、技術常識にも合致するものである。そして、本件特許明細書には、脂肪組織に由来し、表面マーカー3G5に対して陽性の細胞集団が、幹細胞すなわち多能性細胞に共通する特徴である、接着性コロニー形成細胞(CFU-F)が高いことが具体的に示されている(図9、段落【0043】)。
一方、異議申立人が指摘する本件特許明細書の段落【0021】では、分化できる細胞の種類が例示されているにすぎず、「多能」が内胚葉、中胚葉及び外胚葉起源の全ての細胞種に分化することを意味すると定義付けられているわけではない。
したがって、「多能」な細胞集団は発明の詳細な説明に記載されているといえ、本件訂正発明に係る特許は異議申立理由4によって取り消されるべきものではない。

第6 むすび
上記第5のとおり、請求項1、2、4?13、16?20及び23?30に係る特許は、当審が通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた特許異議申立理由によっては取り消すことができない。
また、他に請求項1、2、4?13、16?20及び23?30に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。
さらに、請求項3、14、15、21、22は本件訂正により削除され、それらに対して特許異議申立人がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しないこととなったため、却下する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪組織に由来し、多能であり、表面マーカー3G5に対して陽性である、細胞集団。
【請求項2】
中胚葉起源の少なくとも3種の分化した細胞型を形成するように分化する能力を有する、請求項1に記載の細胞集団。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
哺乳動物から単離される、請求項1に記載の細胞集団。
【請求項5】
前記哺乳動物がヒトである、請求項4に記載の細胞集団。
【請求項6】
少なくとも骨芽細胞、軟骨、または脂肪細胞のうち1種または複数を含む細胞を形成するように分化するよう誘導される能力を有する、請求項1に記載の細胞集団。
【請求項7】
増殖している、請求項1、2および4から6のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項8】
マーカー3G5を高レベルで発現する細胞を少なくとも0.1%含む、請求項7に記載の細胞集団。
【請求項9】
マーカー3G5を高レベルで発現する細胞を少なくとも1%含む、請求項7に記載の細胞集団。
【請求項10】
マーカー3G5を高レベルで発現するMPCを少なくとも2%含む、請求項7に記載の細胞集団。
【請求項11】
マーカー3G5を高レベルで発現する細胞を少なくとも5%含む、請求項7に記載の細胞集団。
【請求項12】
マーカー3G5を高レベルで発現する細胞を少なくとも10%含む、請求項7に記載の細胞集団。
【請求項13】
請求項1に記載の細胞集団を得るための方法であって、脂肪組織から単細胞懸濁物を調製するステップおよび前記脂肪組織において発現されるマーカー3G5の存在に基づいて前記細胞集団を富化するステップを含む、方法。
【請求項14】(削除)
【請求項15】(削除)
【請求項16】
前記細胞集団を富化するステップが、1種または複数のマーカーのさらなる存在に基づく、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記富化した細胞集団が、少なくとも骨芽細胞、軟骨、または脂肪細胞のうち1種または複数を含む細胞へと分化することが可能である、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記脂肪組織が哺乳動物由来である、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記脂肪組織がヒト由来である、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞集団を富化するステップがマーカー3G5の存在に基づき、前記集団を増殖するステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項21】(削除)
【請求項22】(削除)
【請求項23】
前記増殖された集団が、マーカー3G5を発現する細胞を少なくとも0.1%含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記増殖された集団が、マーカー3G5を発現する細胞を少なくとも1%含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記増殖された集団が、マーカー3G5を発現する細胞を少なくとも2%含む、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記増殖された集団が、マーカー3G5を高レベルで発現する細胞を少なくとも5%含む、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記増殖された集団が、マーカー3G5を高レベルで発現する細胞を少なくとも10%含む、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
前記増殖された集団が、少なくとも骨芽細胞、軟骨、または脂肪細胞のうち1種または複数の細胞を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
増殖因子を補充した培地中で前記細胞集団を培養することにより前記集団を増殖させる、請求項20に記載の方法。
【請求項30】
前記増殖因子が、PDGF、EGF、FGF、IGF、VEGFおよびLIFを含むがこれらに限定されない群から選択される、請求項29に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-06-03 
出願番号 特願2013-122605(P2013-122605)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C12N)
P 1 651・ 537- YAA (C12N)
P 1 651・ 113- YAA (C12N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小金井 悟  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 澤田 浩平
長井 啓子
登録日 2017-08-10 
登録番号 特許第6188435号(P6188435)
権利者 メゾブラスト,インコーポレーテッド
発明の名称 脈管周囲の間葉系前駆細胞  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  
代理人 村山 靖彦  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ