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審決分類 審判 一部申し立て 4項(134条6項)独立特許用件  B41J
審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B41J
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B41J
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B41J
審判 一部申し立て 判示事項別分類コード:857  B41J
審判 一部申し立て 2項進歩性  B41J
管理番号 1353176
異議申立番号 異議2017-701070  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-14 
確定日 2019-06-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6205900号発明「カートリッジの製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6205900号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項[4,6,11?13],[5,7?10]について訂正することを認める。 特許第6205900号の請求項4、6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6205900号の特許は,平成25年6月28日に特許出願され,平成29年9月15日にその特許権の設定登録がされ,平成29年10月4日に特許掲載公報が発行された。
その後,その請求項4及び6に係る特許について,平成29年11月14日に特許異議申立人 高橋邦夫(以下,「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ,当審において平成30年6月5日付けで異議申立人に対し審尋し,その指定期間内である同年7月13日付けで異議申立人より回答書が提出された。
そして,同年9月3日付けで特許権者に対して取消理由が通知され,その指定期間内である同年11月2日付けで特許権者から意見書の提出,及び訂正の請求がなされ,これに対して当審より同月14日付けで訂正拒絶理由を通知し,その指定期間内である同年12月13日付けで特許権者から意見書が提出され,さらにその後に,平成31年1月7日付けで,取消理由通知(決定の予告)が特許権者に対して通知され,その指定期間内である同年3月6日付けで特許権者から,意見書の提出,及び訂正の請求(以下,「本件訂正請求」という。)がなされ,平成31年4月17日付けで異議申立人より,意見書が提出されたものである。
なお,本件訂正請求がされたことにより,平成30年11月2日付けでされた訂正の請求は,特許法第120条の5第7項の規定により,取り下げられたものとみなされる。

第2 本件訂正請求による訂正の適否についての判断
1 本件訂正請求の内容
本件訂正請求は,その請求の趣旨を「特許第6205900号の特許請求の範囲を,本件訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項4?13について訂正することを求める。」とするものであり,その内容はつぎのとおりのものである。 (下線は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項4に,「・・・付勢部材と,を有するカートリッジの製造方法であって,前記収容部を減圧した後,前記印刷材を前記供給口から前記収容部内に注入する,」とあるのを,「・・・付勢部材と,前記ケースと前記シート部材との間に設けられた大気室と,前記ケースに設けられ,前記ケースの外側から前記大気室に通じる大気連通孔と,前記ケースの外側に設けられ,前記供給口を囲む周壁と,前記周壁で囲まれた領域内に設けられ,前記周壁で囲まれた領域内と前記大気室とを連通させる連通孔と,を有するカートリッジの製造方法であって,前記連通孔を塞ぎ,前記収容部を減圧した後,前記印刷材を前記供給口から前記収容部内に注入する,」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5の記載を独立形式に改め,「ケースと,前記ケースの内部に設けられ,印刷材が収容される収容部と,前記収容部の内側から前記ケースの外側に通じ,前記収容部内の前記印刷材を前記ケースの外側に導出する供給口と,可撓性を有し,前記収容部の少なくとも一部を構成するシート部材と,前記ケースの内部に設けられ,前記収容部の容積を拡張する向きに前記シート部材を付勢する付勢部材と,を有し,前記ケースと前記シート部材との間に大気室が設けられたカートリッジの製造方法であって,前記大気室を密閉空間にした後,前記カートリッジを減圧雰囲気に置くことで前記収容部を減圧した後,前記供給口を印刷材に浸した状態で,前記カートリッジを大気圧雰囲気に戻すことで,前記印刷材を前記供給口から前記収容部内に注入する,ことを特徴とするカートリッジの製造方法。」に訂正する。

(3)訂正事項3
上記訂正事項1による請求項4の訂正に伴い,請求項4を引用する請求項6を,訂正事項1と同様に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7の記載を独立形式に改め,「ケースと,前記ケースの内部に設けられ,印刷材が収容される収容部と,前記収容部の内側から前記ケースの外側に通じ,前記収容部内の前記印刷材を前記ケースの外側に導出する供給口と,可撓性を有し,前記収容部の少なくとも一部を構成するシート部材と,前記ケースの内部に設けられ,前記収容部の容積を拡張する向きに前記シート部材を付勢する付勢部材と,を有するカートリッジの製造方法であって,前記シート部材を外側から押圧することで,前記収容部を減圧した後,前記印刷材を前記供給口から前記収容部内に注入する,ことを特徴とするカートリッジの製造方法。」に訂正する。

(5)訂正事項5
ア 訂正事項5-1
特許請求の範囲の請求項8のうち,請求項4及び6以外の請求項に従属するものについて,請求項4及び6の記載を引用しないものとする。
イ 訂正事項5-2
上記アの訂正に伴い,特許請求の範囲の請求項8のうち,請求項4及び請求項6に従属するものについて,別の請求項11とした上で,訂正事項1と同様に訂正する。

(6)訂正事項6
ア 訂正事項6-1
特許請求の範囲の請求項9のうち,請求項4及び6以外の請求項に従属するものについて,請求項4及び6の記載を引用しないものとする。
イ 訂正事項6-2
上記アの訂正に伴い,特許請求の範囲の請求項9のうち,請求項4及び請求項6に従属するものについて,別の請求項12とした上で,訂正事項1と同様に訂正する。

(7)訂正事項7
ア 訂正事項7-1
特許請求の範囲の請求項10のうち,請求項4及び6以外の請求項に従属するものについて,請求項4及び6の記載を引用しないものとする。
イ 訂正事項7-2
上記アの訂正に伴い,特許請求の範囲の請求項10のうち,請求項4及び請求項6に従属するものについて,別の請求項13とした上で,訂正事項1と同様に訂正する。

なお,特許権者は,本件訂正請求にあたり,訂正後の請求項5,7ないし10については,これらの請求項についての訂正が認められる場合には,一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。

2 本件訂正請求による訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は,「・・・付勢部材と,を有するカートリッジの製造方法であって,前記収容部を減圧した後,前記印刷材を前記供給口から前記収容部内に注入する,」を「・・・付勢部材と,前記ケースと前記シート部材との間に設けられた大気室と,前記ケースに設けられ,前記ケースの外側から前記大気室に通じる大気連通孔と,前記ケースの外側に設けられ,前記供給口を囲む周壁と,前記周壁で囲まれた領域内に設けられ,前記周壁で囲まれた領域内と前記大気室とを連通させる連通孔と,を有するカートリッジの製造方法であって,前記連通孔を塞ぎ,前記収容部を減圧した後,前記印刷材を前記供給口から前記収容部内に注入する,」と訂正することにより,請求項4に係る発明の「製造方法」が製造する「カートリッジ」について,「前記ケースと前記シート部材との間に設けられた大気室と,前記ケースに設けられ,前記ケースの外側から前記大気室に通じる大気連通孔と,前記ケースの外側に設けられ,前記供給口を囲む周壁と,前記周壁で囲まれた領域内に設けられ,前記周壁で囲まれた領域内と前記大気室とを連通させる連通孔と,を有する」ものに限定するとともに,さらに,請求項4に係る発明の製造方法における印刷材を収容部内に注入する手順について,収容部の減圧を「連通孔を塞ぎ」行う点,及び,印刷材を収容部内に「供給口から注入する」点を限定するものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項1が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「第2 本件訂正請求による訂正の適否についての判断」において,それぞれ,「本件特許明細書」,「本件特許請求の範囲」,「本件特許図面」という。)に記載された事項の範囲内か否かについて
(ア)本件特許明細書の段落【0059】の「弁ユニット101は,凹部65の内側に設けられている。シート部材107は,凹部65を弁ユニット101ごと覆っている。シート部材107の弁ユニット101に重なる部位には,通気孔111が形成されている。また,第2ケース63には,大気連通孔113が設けられている。そして,シート部材107と第2ケース63との間の空間は,大気連通孔113を介してカートリッジ7の外側と連通している。このため,シート部材107と第2ケース63との間の空間には,大気が介在している。」との記載及び段落【0060】の「なお,シート部材107と第2ケース63との間の空間は,大気室115と呼ばれる。大気連通孔113は,大気室115に通じている。本実施形態では,連通孔91が大気室115に通じている。つまり,本実施形態では,周壁86によって囲まれた空間は,連通孔91から大気室115を介して大気連通孔113に通じている。」との記載によれば,本件特許明細書には,上記訂正事項1のうち,「カートリッジ」が「前記ケースと前記シート部材との間に設けられた大気室」及び「前記ケースに設けられ,前記ケースの外側から前記大気室に通じる大気連通孔」を有する点が記載されているものと認められる。
(イ)さらに,本件特許明細書の段落【0052】の「また,第2壁72には,供給口85が設けられている。収容部109内に収容されたインクは,供給口85からカートリッジ7の外に排出される。供給口85は,図7(a)に示すように,第2壁72に設けられた周壁86を備える。周壁86は,第2壁72の凹部65側とは反対側,すなわち第2壁72の外側に設けられている。また,周壁86は,第2壁72から第3壁73側とは反対側(-Z軸方向側)に向かって突出している。また,第2壁72には,収容部109と供給口85とを連通させる連通孔85Aが設けられている。収容部109内に収容されたインクは,この連通孔85Aを介して,供給口85へ送出される。」との記載によれば,本件特許明細書には,上記訂正事項1のうち「カートリッジ」が「前記ケースの外側に設けられ,前記供給口を囲む周壁」を有する点が記載されているものと認められ,本件特許明細書の段落【0054】の「第2壁72において,周壁86によって囲まれた領域内で且つ供給口85のフィルター135の外側の領域に,連通孔91が設けられている。」との記載,同段落【0060】の「連通孔91が大気室115に通じている。」との記載によれば,上記訂正事項1のうち「カートリッジ」が「前記周壁で囲まれた領域内に設けられ,前記周壁で囲まれた領域内と前記大気室とを連通させる連通孔」を有する点が記載されているものと認められる。
(ウ)本件特許明細書の段落【0126】の「図30に示した例では,連通孔91からインクや大気が流入しないように,連通孔91を栓93などで塞ぐ。そして,供給口85をインク漕95に浸す。その後,加減圧装置97を大気連通孔113に取り付け,図30中に矢印で示したように,大気連通孔113を介してカートリッジ内部を加圧する。すると,大気室115が加圧され,収容部109の容積が圧縮される。この力によって収容部109内の物質,たとえばインクや空気などが供給口85から排出される。次に,加減圧装置97によってカートリッジ内部を減圧する。具体的には,図30の状態から加圧を解除して,大気室115を大気圧に戻す。すると,図31中に矢印で示したように,大気室115が減圧され,シート部材107が収容部109の容積を拡張する向きに引っ張られる。そして,この力によって,インクIKがフィルター135を介して供給口85から収容部109内に引き込まれる。」との記載によれば,本件特許明細書には,上記訂正事項1のうち「前記連通孔を塞ぎ,前記収容部を減圧した後,前記印刷材を前記供給口から前記収容部内に注入する」点が記載されているものと認められる。
(エ)以上によれば,訂正事項1は,本件特許明細書に記載された事項の範囲内の訂正であるから,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであるかについて
訂正事項1は,上記アのとおり,請求項4に係る発明のカートリッジを具体的に限定し,印刷材を収容部内に注入する手順を限定するものであって,特許請求の範囲を拡張または変更するものではないから,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に規定する要件に適合するものである。
なお,請求項4に係る発明は,特許異議申立の対象とされた請求項に係る発明であるから,特許法第120条の5第9項で読み替えて準用される同法第126条第7項に規定するいわゆる独立特許要件は課されない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は,訂正前の引用形式の請求項5の記載を独立形式に改めるものであって,特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当するものであって,その訂正の前後で発明特定事項を実質的に変更するものではないから,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は,請求項4を引用する請求項6に係る訂正であって,請求項4に係る訂正事項1による訂正に伴う訂正であるから,上記(1)のとおり,特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。
なお,請求項6に係る発明は,特許異議申立の対象とされた請求項に係る発明であるから,特許法第120条の5第9項で読み替えて準用される同法第126条第7項に規定するいわゆる独立特許要件は課されない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は,訂正前の引用形式の請求項7の記載を独立形式に改めるものであって,特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当するものであって,その訂正の前後で発明特定事項を実質的に変更するものではないから,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。

(5)訂正事項5について
ア 訂正事項5-1は,上記1の(5)アのとおり,訂正前の請求項8が請求項1ないし7を引用するものであったものを,請求項4及び6を引用しないものとするものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮,及び,同項ただし書き第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当し,かつ,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合することは明らかである。
イ 訂正事項5-2は,上記1の(5)イのとおり,訂正前の請求項8について,請求項4及び6のみを引用する引用形式の請求項11として,その他の請求項を引用するものと独立したものとし,その上で訂正事項1と同様の訂正をするものである。
そして,訂正事項1は,上記(1)イのとおり,本件特許明細書に記載された事項の範囲内でする訂正であって特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するものであり,上記(1)ウのとおり,特許請求の範囲を拡張または変更するものではなく,特許法第120条の5第9項で準用する126条第6項に規定する要件に適合するものであるから,それと同様の訂正をする訂正事項6は,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。
ウ 上記のとおりであるから,訂正事項5は,特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮,及び,同項ただし書き第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当し,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合する。
エ 独立特許要件について
(ア)訂正事項5により訂正された訂正後の請求項8に係る発明について
甲1発明は,後述する第3の3(1)ウで認定したとおりのものであり,甲2発明は,後述する第4の1(1)イ(イ)で認定したとおりのものであるところ,これらの発明には,本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明の「大気室を減圧する」(以下,「請求項1発明に係る相違点」という。)こと,請求項5に係る発明の「大気室を密閉空間にした後,前記カートリッジを減圧雰囲気に置くことで前記収容部を減圧する」(以下,「請求項5発明に係る相違点」という。),請求項7に係る発明の「シート部材を外側から押圧することで,前記収容部を減圧する」(以下,「請求項7発明に係る相違点」という。)ことについては特定されていない。
そして,請求項1発明に係る相違点及び請求項5発明に係る相違点について,異議申立人の提出するその他の証拠(甲3号証ないし甲12号証)には記載されていない。
また,甲1発明及び甲2発明は,いずれも,ケース内部に可撓性フィルムが収容されているものであり,蓋部材で覆われているから,「シート部材を外側から押圧することで,前記収容部を減圧する」技術を採用することに阻害要因があるものであることからすれば,請求項7発明に係る相違点を容易に想到し得るものということはできない。
してみると,訂正事項5により訂正された訂正後の請求項8に係る発明が独立特許要件を満たさないとする理由はない。
(イ)訂正事項5により訂正された訂正後の請求項11に係る発明について
本件訂正後の請求項11は,本件訂正発明4を引用するものであるところ,本件訂正発明4は,取消理由及び特許異議申立理由によって取り消すことができないことは,第3及び第4で検討したとおりであるから,本件訂正後の請求項11に係る発明が独立特許要件を満たさないとする理由はない。

(6)訂正事項6について
ア 訂正事項6-1は,上記1の(6)アのとおり,訂正前の請求項9が請求項1ないし7を引用するものであったものを,請求項4及び6を引用しないものとするものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮,及び,同項ただし書き第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当し,かつ,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合することは明らかである。
イ 訂正事項6-2は,上記1の(6)イのとおり,訂正前の請求項9について,請求項4及び6のみを引用する引用形式の請求項12として,その他の請求項を引用するものと独立したものとし,その上で訂正事項1と同様の訂正をするものである。
そして,訂正事項1は,上記(1)イのとおり,本件特許明細書に記載された事項の範囲内の訂正であるから,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するものであり,上記(1)ウのとおり,特許請求の範囲を拡張または変更するものではないから,特許法第120条の5第9項で準用する126条第6項に規定する要件に適合するものであるから,それと同様の訂正をする訂正事項6は,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。
ウ 上記のとおりであるから,訂正事項6は,特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮,及び,同項ただし書き第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当し,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合する。
エ 独立特許要件について
上記(5)のエにおいて検討したとおりであるから,本件訂正後の請求項9及び請求項12に係る発明が独立特許要件を満たさないとする理由はない。

(7)訂正事項7について
ア 訂正事項7-1は,上記1の(7)アのとおり,訂正前の請求項10が請求項1ないし7を引用するものであったものを,請求項4及び6を引用しないものとするものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮,及び,同項ただし書き第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当し,かつ,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合することは明らかである。
イ 訂正事項7-2は,上記1の(7)イのとおり,訂正前の請求項10について,請求項4及び6のみを引用する引用形式の請求項13として,その他の請求項を引用するものと独立したものとし,その上で訂正事項1と同様の訂正をするものである。
そして,訂正事項1は,上記(1)イのとおり,本件特許明細書に記載された事項の範囲内の訂正であるから,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するものであり,上記(1)ウのとおり,特許請求の範囲を拡張または変更するものではないから,特許法第120条の5第9項で準用する126条第6項に規定する要件に適合するものであるから,それと同様の訂正をする訂正事項6は,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。
ウ 上記のとおりであるから,訂正事項7は,特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮,及び,同項ただし書き第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当し,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合する。
エ 独立特許要件について
上記(5)のエにおいて検討したとおりであるから,本件訂正後の請求項10及び請求項13に係る発明が独立特許要件を満たさないとする理由はない。

3 小括
上記1及び2のとおりであるから,特許第6205900号の特許請求の範囲を,本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項[4,6,11?13],[5,7?10]について訂正することを認める。

第3 取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由について
1 取消理由通知(決定の予告)の概要
平成31年1月7日付けで当審が特許権者に通知した取消理由通知(以下,単に「本件取消理由通知」という。)の取消理由の概要は次のとおりのものである。
本件特許の請求項4及び6に係る発明(以下,「本件特許発明4及び6」という。)は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許発明4及び6に係る特許は,いずれも特許法第29条第2項に違反してされたものである点で同法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。



甲1号証:特開2007-230188号公報
周知例1:特開2004-66490号公報(甲3号証)
周知例2:特開2003-53988号公報(甲4号証)

2 本件訂正請求による訂正後の本件特許発明4及び6
上記第2の本件訂正請求による訂正の適否についての判断において説示したように,本件訂正請求による請求項4及び6の訂正は,上記のとおり認められるから,本件特許発明4及び6は,それぞれ本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項4及び6に記載された事項により特定されるつぎのとおりのものである(以下,「本件訂正発明4」,「本件訂正発明6」という。)
「【請求項4】
ケースと,
前記ケースの内部に設けられ,印刷材が収容される収容部と,
前記収容部の内側から前記ケースの外側に通じ,前記収容部内の前記印刷材を前記ケースの外側に導出する供給口と,
可撓性を有し,前記収容部の少なくとも一部を構成するシート部材と,
前記ケースの内部に設けられ,前記収容部の容積を拡張する向きに前記シート部材を付勢する付勢部材と,
前記ケースと前記シート部材との間に設けられた大気室と,
前記ケースに設けられ,前記ケースの外側から前記大気室に通じる大気連通孔と,
前記ケースの外側に設けられ,前記供給口を囲む周壁と,
前記周壁で囲まれた領域内に設けられ,前記周壁で囲まれた領域内と前記大気室とを連通させる連通孔と,
を有するカートリッジの製造方法を有するカートリッジの製造方法であって,
前記連通孔を塞ぎ,前記収容部を減圧した後,前記印刷材を前記供給口から前記収容部内に注入する,
ことを特徴とするカートリッジの製造方法。

【請求項6】
前記供給口から前記収容部内を吸引することで,前記収容部を減圧する,
ことを特徴とする請求項4に記載のカートリッジの製造方法。」

3 甲各号証の記載
(1)甲1号証について (各記載において,一部改行を省略している。)
ア 甲1号証には次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 インクを収容可能なインク収容室を内部に備える共に,前記インク収容室内のインクを外部へ供給可能な筐体を備えたインクタンクにおいて,
前記インク収容室の少なくとも一部を形成し,外部へのインク供給に伴って前記インク収容室の容積を減少させる方向に移動する可撓性部材と,
前記可撓性部材部材との対向位置に設けられ,インク収容室内のインク残量が一定値以下に達した時点で,前記可撓性部材の内面に接触する接触部とを有し,
前記可撓性部材は,少なくとも前記接触部との接触位置が透光性部材によって形成され,
前記筐体部には,少なくとも前記可撓性部材と前記接触部との接触箇所を外部より透視可能な透光部が形成されていることを特徴とするインクタンク。」
(イ)「【請求項6】 前記インク収容室を拡張させる方向へと前記可撓性部材を付勢して前記インク収容室内に負圧を発生させる付勢手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のインクタンク。」
(ウ)「【0024】 図1に示すように,本実施形態のインクタンク10は,側面部が開口する中空箱状のケース部材1と,その開口部を閉塞する蓋部材4とにより,ほぼ直方体形状の外観を呈し,その内部にはインクを収容する後述のインク収容室Rが設けられている。蓋部材4は,矩形形状をなす枠体部4aとこの枠体部4a内の開口部を閉塞する透光部4bとにより構成されている。従って,図1示すように,この透光部4bを介してインクタンクの内部構造を視認することができるようになっている。また,インクタンク10の底面には,インク収容室R内に収納されたインクを,不図示の記録ヘッドに供給するためのインク供給口9が設けられている。なお,このインク供給口9とインク収容室Rとの間は,不図示のインク流路によって連通している。
【0025】 一方,インクタンク1の内部構造は,図2および図3に示すようになっている。ここで,図2はこのインクタンクの分解斜視図,図3は,図1に示すインクタンクのIII-III線断面図である。なお,図3は,ケース部材とフィルムによって形成されるインク収容室にインクが満たされる前の状態を示している。
【0026】 各図に示すように,ケース部材1と蓋部材4とにより形成される空間内には,バネ部材(付勢手段)8,板部材1,可撓性フィルム(可撓性部材)3が設けられている。また,ケース部材1の底面には,メニスカス形成部材6および押え板5が設けられている。
ケース部材1に形成される開口部端面には,容器状に屈曲させた透光な可撓性フィルム3の周縁部が溶着されており,この可撓性フィルム3とケース部材1とによってインク収容室Rが形成されている。なお,ケース部材1は,その材料として,例えば,ポリプロピレンなどによって形成されている。また,可撓性フィルムは,例えば,ポリプロピレンの薄膜を含むフィルム部材(厚み30?100μm程度)によって形成することができる。
【0027】 インク収容室R内に設けられたバネ部材8は,円錐台形状をなすコイルスプリングによって形成されている。このバネ部材8は,ケース部材1の底部内面との間に圧縮された状態で挿入されており,板部材2を介して常に可撓性フィルム3の底部を蓋部材4に向けて付勢している。板部材2の中央部には,円形の開口部2aが形成されており,その周囲前記バネ部材8の一端部が均等に付勢している。また,ケース部材1の内面中央には円形の平面形状を有する凸部(接触部)7が突設されている。この凸部7は,板部材2の開口部2aとの対向位置に設けられ,開口部2a内に挿通可能な外径を有している。そして,後述のように,インク収容室R内のインクを使い切った段階で,凸部7の端面は,板部材2の開口部2aを通過し,可撓性フィルム3に密接し得るようになっている。なお,バネ部材と板部材は,ステンレス材料や樹脂材料により形成されている。
【0028】 また,ケース部材1の底部に形成された供給口9には,ケース部材1の底部に形成された開口部(図示せず)と,その開口部を覆うメニスカス形成部材6と,このメニスカス形成部材6を保持する枠状の押え部材5とが備えられている。押え部材5は,ケース部材1の底部外面に溶着されている。メスカス(当審注:「メニスカス」の誤記と認める。)形成部材6は,ポリプロピレンの繊維材料から形成された所定の毛細管力を有する毛管部材や,この毛管部材とフィルター部材(透過寸法15?30μm程度,材質はステンレス材料やプリプロピレン(当審注:「ポリプロピレン」の誤記と認める。)とを組み合わせたものなどが用いられる。そして,メニスカス形成部材6とインク収容室Rとの間は,不図示のインク流路によって連通させてあり,後述のインク収容室に外部から気泡が侵入しないようにインクでメニスカスを形成している。」
(エ)「【0029】 次に,以上の構成を有するインクタンクの作用を説明する。
図4ないし図9は,内部のインクを消費する前の初期状態から使い切るまでの,各段階におけるインクタンク内の状態を示す断面図および側面図を示している。
図4は,初期状態におけるインクタンクの断面図,図5は側面図をそれぞれ示している。
【0030】 インクが消費されていない初期状態においても,バネ部材8は自然長より圧縮された状態にあるため,可撓性フィルム3は板部材2を介して蓋部材1側へと付勢されている。このため,インク収容室R内には適度な負圧が発生している。ここでいう,適度な負圧とは,記録ヘッドのインク吐出部(以下,ノズルともいう)に形成されるメニスカスの保持力と平衡して,記録ヘッドの吐出動作が可能となる範囲内の負圧を意味する。
【0031】 また,この初期状態においては,板部材2とケース部材1の凸部7との間隔は広く,その間隔には多量のインクが充填されている。従って,蓋部材4の透光部4bからインクタンク10の内部を観た場合,板部材2の開口部2aの色は,インク収容室R内に収容されている「インク色」となる。つまり,イエローのインクが収容されているインクタンクにおいて,開口部2aの色は「イエロー」となり,シアンのインクが収容されているインクタンクでは「シアン」となる。このように,開口部2a内の色が「インク色」であることを確認することにより,ユーザーは,インク収容室R内に十分にインクが残留していることを容易に判断することができる。
【0032】 図6および図7は,上記の初期状態からインクタンク内のインクが使用され,かつさらにインクを供給可能な状態(使用途中の状態)を示している。
記録ヘッドからインクが吐出されると,記録ヘッド内の負圧が上昇し,その負圧によってインク収容室R内のインクがインク供給口9を経て記録ヘッド内へと供給される。このインク供給動作により,可撓性フィルム4(当審注:「3」の誤記と認める。)はバネ部材8に抗してケース部材1の内壁側へと移動する。この際,可撓性フィルム4(当審注:「3」の誤記と認める。)の蓋部材4に設けられた大気連通部4cからは外気が導入されるため,可撓性フィルム4(当審注:「3」の誤記と認める。)と蓋部材4との間の空間は常時大気圧に保たれる。 」

(オ) 図1


(カ) 図2


(キ) 図4


(ク)上記(ア)ないし(キ)の記載から,「側面部が開口する中空箱状のケース部材とその開口部を閉塞する蓋部材とによりほぼ直方体形状の外観を呈し,ケース部材と蓋部材とにより形成される空間内には,可撓性フィルムとケース部材によりインク収容室が形成されており,インク収容室内には,可撓性フィルムの底部を蓋部材に向けて付勢することで,インク収容室を拡張させる方向へと前記可撓性フィルムを付勢して前記インク収容室内に負圧を発生させるバネ部材が設けられ,可撓性フィルムと蓋部材との間の空間は,蓋部材に設けられた大気連通部4cから外気が導入されて常時大気圧に保たれており,インクタンクの底面には,ケース部材の底部に形成された開口部と,その開口部を覆うメニスカス形成部材とこのメニスカス形成部材を保持する枠状の押え部材とからなるインク供給口が設けられており,インク供給口は,インク収容室内に収納されたインクを記録ヘッドに供給するために設けられたものであり,インク供給口とインク収納室の間はインク流路によって連通しているインクタンク」が記載されているものと認められる。

イ ここで,本件特許に係る出願の出願日前において,甲1号証に記載されているようなインクジェットプリンタにインクを供給するためのインクタンクの製造にあたっては,何らかの手順を用いて,インク収容室にインクを注入することが必要であることは,当業者であれば,当然認識し得ることであるし,インクタンクを製造するにあたって,インク収容室にインクを注入する手順が用いられることは技術的必然であるといえる。

ウ 上記イを前提とすれば,当業者であれば,甲1号証の記載に基づいて,つぎの発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されているものと認識するものというべきである。
「側面部が開口する中空箱状のケース部材とその開口部を閉塞する蓋部材とによりほぼ直方体形状の外観を呈し,ケース部材と蓋部材とにより形成される空間内には,可撓性フィルムとケース部材によりインク収容室が形成されており,インク収容室内には,可撓性フィルムの底部を蓋部材に向けて付勢することで,インク収容室を拡張させる方向へと前記可撓性フィルムを付勢して前記インク収容室内に負圧を発生させるバネ部材が設けられ, 可撓性フィルムと蓋部材との間の空間は,蓋部材に設けられた大気連通部から外気が導入されて常時大気圧に保たれており,
インクタンクの底面には,ケース部材の底部に形成された開口部と,その開口部を覆うメニスカス形成部材とこのメニスカス形成部材を保持する枠状の押え部材とからなるインク供給口が設けられており,インク供給口は,インク収容室内に収納されたインクを記録ヘッドに供給するために設けられたものであり,インク供給口とインク収納室の間はインク流路によって連通しているインクタンクの製造方法であって,インク収容室にインクを注入するインクタンクの製造方法」

(2)周知例1(甲3号証)について
周知例1として引用する甲3号証の段落【0170】には,エアー抜き用減圧ポンプに連通したエアー抜き用中空針502をインク供給孔260のインク供給用ゴム栓262に刺すことで,インク供給孔260を介してインク収容部300内のエアーを抜いて内部を真空状態とした後,インク注入孔270にインクを注入する手法が記載されるとともに,段落【0175】において,インクカートリッジに設けた一つの孔によりインク収容部内のバキューム,インク注入及びインク供給の全てを行うことについても記載されている。

(3)周知例2(甲4号証)について
同じく周知例2として引用する甲4号証の段落【0030】及び【0031】には,インクタンク収容室130内の空気を排出することによって,インクタンク収容室130内を減圧して,インクタンク127内の負圧を高めることを可能とし,インクタンク収容室130内の減圧と増圧を繰り返すことにより,第2インク129からインクタンク127内にインクを自動的に吸引補給することができる点について記載されている。

4 対比・検討
(1)本件訂正発明4について
ア 本件訂正発明4と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「側面部が開口する中空箱状のケース部材とその開口部を閉塞する蓋部材」,「インク」は,それぞれ本件訂正発明4の「ケース」,「印刷材」に相当し,甲1発明の「インク収容室」は,「ケース部材と蓋部材とにより形成される空間内に形成され」るものであるから,本件訂正発明4の「前記ケースの内部に設けられ印刷材が収納される収容部」に相当する。
(イ)甲1発明の「インク供給口」は,「インクタンクの底面」に設けられており,「インク収容室内に収納されたインクをインクヘッドに供給する」ものであって,「インク収納室」と「インク流路によって連通して」いるから,本件訂正発明4の「前記収容部の内側から前記ケースの外側に通じ,前記収容部内の前記印刷材を前記ケースの外側に導出する供給口」に相当する。
また,甲1発明の「インク供給口」を構成する「枠状の押え部材」は,「開口部を覆うメニスカス形成部材を保持する」ものであり,図5によれば,ある程度の厚みを有するものであるから,本件訂正発明4の「ケースの外側に設けられ」,「供給口を囲む周壁」に相当するものといえる。
(ウ)甲1発明の「可撓性フィルム」は,「ケース部材」とにより「インク収容室」を形成するものであるから,本件訂正発明4の「可撓性を有し,前記収納部の少なくとも一部を構成するシート部材」に相当するものである。
(エ)甲1発明の「バネ部材」は,「インク収容室内に」設けられており,「可撓性フィルムの底部を蓋部材に向けて付勢することで,インク収容室を拡張させる方向へと前記可撓性フィルムを付勢して前記インク収容室内に負圧を発生させる」ものであるから,本件訂正発明4の「前記ケース内部に設けられ,前記収納部の容積を拡張する向きに前記シート部材を付勢する付勢部材」に相当するものである。
(オ)甲1発明の「可撓性フィルムと蓋部材との間の空間」は,「蓋部材に設けられた大気連通部から外気が導入されて常時大気圧に保たれて」いるものであるから,本件訂正発明4の「前記ケースと前記シート部材との間に設けられた大気室」に相当し,甲1発明の「蓋部材に設けられた大気連通部」は,本件訂正発明4の「前記ケースに設けられ,前記ケースの外側から前記大気室に通じる大気連通孔」に相当する。
(カ)そして,本件訂正発明4の「前記収容部を減圧した後,前記印刷部材を前記供給口から前記収容部内に注入する」ことと甲1発明の「インク収容室にインクを注入する」こととは,「前記印刷部材を前記収容部内に注入する」という手順である点で共通するものといえる。

イ 以上のことから,本件訂正発明4と甲1発明とは,
「ケースと,
前記ケースの内部に設けられ,印刷材が収容される収容部と,
前記収容部の内側から前記ケースの外側に通じ,前記収容部内の前記印刷材を前記ケースの外側に導出する供給口と,
可撓性を有し,前記収容部の少なくとも一部を構成するシート部材と,
前記ケースの内部に設けられ,前記収容部の容積を拡張する向きに前記シート部材を付勢する付勢部材と,
前記ケースと前記シート部材との間に設けられた大気室と,
前記ケースに設けられ,前記ケースの外側から前記大気室に通じる大気連通孔と,
前記ケースの外側に設けられ,前記供給口を囲む周壁と,を有するカートリッジの製造方法であって,
前記印刷材を前記収容部内に注入する
カートリッジの製造方法。」
である点で一致し,つぎの相違点1及び2で相違するものである。

<相違点1>
本件訂正発明4が「ケースの外側に設けられた供給口を囲む」「周壁で囲まれた領域内に設けられ,前記周壁で囲まれた領域内と前記大気室とを連通させる連通孔」を備えるものであるのに対して,甲1発明の「インク供給口」を構成する「枠状の押え部材」が大気室と連通させる連通孔を備えることについては特定されない点

<相違点2>
本件訂正発明4が「前記連通孔を塞ぎ,前記収容部を減圧した後,前記印刷材を前記供給口から前記収容部に注入する」手順を有するものであるのに対して,甲1発明の「インク収容室にインクを注入する」手順がそのような内容を有するか否かが不明な点。

ウ 上記相違点1について検討する。
(ア)異議申立人の本件訂正発明4の相違点1に係る構成が周知であるとすることについて
異議申立人が新たに提出した甲第7号証(特開2012-35489号公報)の段落【0007】には,「流体が収容される流体収容室を内部に有し,外面の一部に突出部が形成された筐体」と,「突出部に設けられ流体収容室に収容された流体を外部に供給する流体供給口」と,「突出部に設けられ,流体収容室と大気とを連通する大気連通口」とを備える流体収容容器」が記載されていることから,甲第7号証には,「突出部に設けられ,流体収容室に収容された流体を外部に供給する流体供給口と,流体収容室と大気とを連通する大気連通口とを備えるインクカートリッジ」が記載されているものと認められるものの,当該「大気連通口」は,「流体収容室」と「大気」とを連通させるものであって,流体収容室は本件訂正発明4の「大気室」に相当するものではないから,甲7号証の「大気連通口」は,本件訂正発明4の「ケースの外側に設けられた供給口を囲む」「周壁で囲まれた領域内に設けられ,前記周壁で囲まれた領域内と前記大気室とを連通させる連通孔」に相当するものとはいえない。
また,異議申立人が新たに提出した甲第8号証(特表2002-505212号公報)の段落【0015】及び段落【0028】並びに図3及び図16には,「ケースの外側に設けられ液出口を囲む周壁45」と,「周壁内に設けられた液出口30」と「周壁内に設けられた空気入口28」とを備える「インク容器12」が記載されていることから,甲第8号証には,「ケースの外側に設けられ供給口を液出口を囲む周壁で囲まれた領域内に液出口と空気入口」が設けられたインク容器」が記載されているものと認められるものの,甲第8号証の段落【0010】において,「インク容器の空気入口28」は,「外部シェル24を空気で加圧する管路18」に接続されるものであることが記載されており,同段落【0047】及び【0049】において,「空気入口28」は,ニードル158を隔壁128に突き刺すことにより,圧力チャンバ132が大気に通気される」ことが記載されていることからすれば,甲第8号証の「空気入口」は,「圧力チャンバ132」に通じているものであり,「圧力チャンバ」には「大気連通孔」が設けられていないことから本件訂正発明4の「大気室」とはいえないし,通常時「空気入口」は「隔壁128」により塞がれているものであることからみても,甲8号証の「空気入口」は,本件訂正発明4の「ケースの外側に設けられた供給口を囲む」「周壁で囲まれた領域内に設けられ,前記周壁で囲まれた領域内と前記大気室とを連通させる連通孔」に相当するものとはいえない。
甲9号証(特表2002-510253号公報)も甲8号証と同様である。
してみると,甲7号証ないし甲9号証には,いずれも「ケースの外側に設けられた供給口を囲む」「周壁で囲まれた領域内に設けられ,前記周壁で囲まれた領域内と大気室とを連通させる連通孔」を備える構成が開示されているとはいえないから,当該構成が周知であるとは認めることができない。
また,周知例1(甲3号証)及び周知例2(甲4号証)においても,当該構成は記載されていない。
さらに,甲5号証(特開2003-53989号公報)及び甲6号証(特開2003-53991号公報)並びに,甲10号証(特開2006-82318号公報),甲11号証(特開2007-301962号公報)及び甲12号証(特開平11-48490号公報)においても,当該構成は記載されていない。
(イ)上記のとおり,甲1発明の「供給口」は,「ケース部材の底部に形成された開口部と,その開口部を覆うメニスカス形成部材とこのメニスカス形成部材を保持する枠状の押え部材とからなる」ものであるところ,メニスカス形成部材により覆われた開口部に「大気室と連通させる挿通孔」を設けることは,通常想定されるものではない。
(ウ)以上のとおりであるから,異議申立人の提出した甲3ないし12号証を考慮しても,上記相違点1を当業者が容易に想到し得るものということはできない。

エ 上記相違点2について検討する。
(ア)甲1発明は,「周壁で囲まれた領域内と大気室を連通させる連通孔」を備えるものではなく,そのような「連通孔」を形成することは,技術的にみて通常想定されないこと,また,インクカートリッジにおいて「ケースの外側に設けられた供給口を囲む」「周壁内に設けられ,前記周壁で囲まれた領域内と大気室を連通させる連通孔」が周知であるとはいえず,甲1発明において,周壁内に,周壁で囲まれた領域内と大気室を連通させる連通孔を設けることが容易に想到し得ない以上,「前記連通孔」を塞ぐ手順を有する上記相違点2に係る本件訂正発明4の構成は,当業者が容易に想到し得るということはできない。
(イ)異議申立人は,甲10号証ないし甲12号証には,連通孔を塞ぎ,収容部を減圧した後,印刷材を供給口から収容部内に注入する」ことが開示されている旨主張している。
しかしながら,上記(ア)のとおり,甲1発明が「周壁で囲まれた領域内と大気室を連通させる連通孔」を備えるものではなく,甲1発明において,「周壁内に,周壁で囲まれた領域内と大気室を連通させる連通孔を設けることが容易に想到し得ない」以上,甲10号証ないし甲12号証の開示から「連通孔を塞ぎ,収容部を減圧した後,印刷材を供給口から収容部内に注入する」ことが周知技術であるとしても,相違点2を当業者が容易に想到し得るということはできない。
また,甲10号証の段落【0039】の記載によれば,甲10号証において塞がれる「大気連通孔42」は,「サブインクタンク20」の「大気連通孔42」であって,本件訂正発明4の「大気室と連通させる連通孔」に相当するものではないし,甲11号証において塞がれる「空気孔」(段落【0024】)及び甲12号証の「大気連通孔12」(段落【0103】,【0104】,図11)についても,同様に本件訂正発明4の「大気室と連通させる連通孔」に相当するものではないから,異議申立人が提出した甲10号証ないし甲12号証からは,本件訂正発明4の「大気室とを連通させる連通孔」を塞ぎ,収容部を減圧した後,印刷材を供給口から収容部内に注入する」ことが周知技術であるとも認めることができない。

オ 以上のとおりであるから,本件訂正発明4は,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件訂正発明6について
本件訂正発明6は,本件訂正発明4の「前記収容部を減圧」するに際して,「供給口から収容部内を吸引する」ものに限定したものである。
してみると,本件訂正発明6と甲1発明とは,上記(1)イの一致点で一致し,少なくとも相違点1及び相違点2で相違するものである。
そして,相違点1及び2が容易に想到し得るものではないことは上記(1)のウ及びエのとおりであるから,本件訂正発明6は,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

5 小括
上記4において説示したように,本件訂正発明4及び6に係る特許は,取消理由で通知した取消理由によっては,取り消すことができない。

第4 取消理由で採用しなかった異議申立理由について
1 甲1号証及び甲2号証に基づく進歩性の欠如について
(1)本件訂正発明4について
ア 本件訂正発明4と甲1発明とは,上記第3の(1)イの一致点で一致し,相違点1及び相違点2で相違するものである。

イ 甲2号証(特開2002-370370号公報)について
(ア)甲2号証には,次の事項が記載されている。
a 「【請求項1】 可撓性を有するインク袋と,インク袋を収める外箱と,インク袋内が負圧になるように付勢するばね部材とを備えているインク容器において,ばね部材が形状記憶合金製であることを特徴とするインク容器。
【請求項2】 ばね部材は,外箱内面とインク袋外面との間に設けられてこれらを互いに引き合う方向に付勢するものである請求項1のインク容器。」
b 「【0014】この発明によるインク容器(1)は,図1および図2に示すように,可撓性を有する扁平なインク袋(2)と,インク袋(2)を収める直方体の蓋(4)付きの外箱(3)と,蓋(4)内面とインク袋(2)外面との間に設けられて蓋(4)とインク袋(2)とを互いに引き合う方向に付勢する形状記憶合金製ばね部材(5)とを備えている。
【0015】インク袋(2)には,突出状のインク吐出部(2a)が設けられており,この吐出部(2a)が外箱(3)周壁に設けられた貫通孔(3a)から露出させられている。」
c 「【0023】図2に示した状態からインク容器(1)を下方に移動させて,これをインク充填装置(10)の容器載せ部(14)に載せると,充填時供給口を兼ねるインク吐出部(2a)とインク供給針(13)とが合わされて,インク供給針(13)がインク容器(1)内に差し込まれる。そして,インク供給針(13)がインク容器(1)内に差し込まれた後に充填ケース(11)の電源電極(15)とインク容器(1)の電極(7)とが接続され,これにより,ばね部材(5)に電流が流れ,ばね部材(5)が加熱される。この結果,ばね部材(5)が温度上昇によって元の状態に復帰して,容器(1)内が負圧になり,容器(1)内にインクが再充填される。」
d 図1


e 図2


(イ) 上記aないしeによれば,甲2号証には,つぎの発明が記載されているものと認められる。
「可撓性を有する扁平なインク袋と,インク袋を収める直方体の蓋付きの外箱と,蓋内面とインク袋外面との間に設けられて蓋とインク袋とを互いに引き合う方向に付勢する形状記憶合金製ばね部材と,インク袋に外箱周壁に設けられた貫通孔から露出させられた突出状のインク吐出部とを備えるインク容器であって,充填時供給口を兼ねるインク吐出部とインク供給針とが合わされて,インク供給針がインク容器内に差し込まれ,ばね部材が過熱された結果,温度上昇によって元の状態に復帰して容器内が負圧になり,容器内に,インク供給針からインクが再充填されるインク容器。」の発明(以下,「甲2発明」という。)

ウ 当審の判断
甲2号証には,本件訂正発明4の相違点1に係る構成である「ケースの外側に設けられ,供給口を囲む」「周壁で囲まれた領域内に設けられ,周壁で囲まれた領域内と大気室とを連通させる連通孔」が開示されているとはいえないし,相違点1が容易に想到し得るものといえないことは,上記第3の(1)ウで検討したとおりであるし,上記相違点1に係る構成が容易に想到し得るものではない以上,相違点2についても容易に想到し得るものではないことも,上記第3の(1)エで検討したとおりである。
したがって,本件訂正発明4は,甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件訂正発明6について
本件訂正発明6は,本件訂正発明4の「前記収容部を減圧」するに際して,「供給口から収容部内を吸引する」ものに限定したものであるから,本件訂正発明4が甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない以上,本件訂正発明6は,甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)小括
上記(1)及び(2)のとおりであるから,本件訂正発明4及び6に係る特許は,甲1号証及び甲2号証を根拠として,特許法第29条第2項に違反してされたものであるということはできない。

2 甲2号証に基づく新規性欠如について
(1)本件訂正発明4について
ア 本件訂正発明4と甲2発明との対比
甲2発明は,上記1(1)イ(イ)で認定したとおりの発明であるところ,本件訂正発明4と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明の「インク」,「インク袋」,「外箱」,「ばね部材」,「インク吐出部」は,それぞれ本件訂正発明4の「印刷材」,「収容部」,「ケース」,「付勢手段」,「供給口」に相当する。
(イ)甲2発明の「外箱」は「インク袋を収める」ものであることが特定されていることからすれば,甲2発明の「可撓性を有する」「インク袋」と本件訂正発明4の「収容部」は,「ケースの内部に設けられ」ており,「可撓性を有する収容部を構成するシート部材」を備えるものである点で共通する。
(ウ)甲2発明の「ばね部材」は,「蓋内面とインク袋外面との間に設けられて蓋とインク袋とを互いに引き合う方向に付勢する」ものであるから,本件訂正発明4の「付勢部材」とは,「ケースの内部に設けられ,収容部の容積を拡張する向きにシート部材を付勢する」ものである点で共通する。
(エ)甲2発明の「インク吐出部」は,「インク袋に外箱周壁に設けられた貫通孔から露出させられたインク袋から突出状に設けられたもの」であるから,本件訂正発明4の「供給口」とは,「収容部の内側から」「ケースの外側に通じ」,「収容部内の」「印刷材を」「ケースの外側に導出する」ものである点でも共通するものである。
(オ)甲2発明は,「充填時供給口を兼ねるインク吐出部とインク供給針とが合わされて,インク供給針がインク容器内に差し込まれ,ばね部材が過熱された結果,温度上昇によって元の状態に復帰して容器内が負圧になり,容器内に,インク供給針からインクが再充填される」ものであるところ,インク供給針により,インク吐出部からインクがインク袋内に供給されるのであるから,本件訂正発明4の「連通孔を塞ぎ」,「収容部を減圧した後」,「印刷材を」「供給口から」「収容部内に注入する」ことと,甲2発明の「「充填時供給口を兼ねるインク吐出部とインク供給針とが合わされて,インク供給針がインク容器内に差し込まれ,ばね部材が過熱された結果,温度上昇によって元の状態に復帰して容器内が負圧になり,容器内に,インク供給針からインクが再充填される」こととは,「収容部を減圧した後」,「印刷材を」「供給口から」「収容部内に注入する」点で共通するものといえるし,インク充填手順を有する点で「インクカートリッジの製造方法」であることでも共通するものといえる。

してみると,本件訂正発明4と引用発明1とはつぎの一致点で一致し,各相違点で相違する。
<一致点>
「ケースと,
前記ケースの内部に設けられ,印刷材が収容される収容部と,
前記収容部の内側から前記ケースの外側に通じ,前記収容部内の前記印刷材を前記ケースの外側に導出する供給口と,
可撓性を有し,前記収容部の少なくとも一部を構成するシート部材と,
前記ケースの内部に設けられ,前記収容部の容積を拡張する向きに前記シート部材を付勢する付勢部材と,
を有するカートリッジの製造方法を有するカートリッジの製造方法であって,
前記収容部を減圧した後,前記印刷材を前記供給口から前記収容部内に注入する,
カートリッジの製造方法。」である点

<相違点3>
本件訂正発明4が「ケースとシート部材との間に設けられた大気室と,前記ケースに設けられ,前記ケースの外側から前記大気室に通じる大気連通孔と,前記ケースの外側に設けられ,前記供給口を囲む周壁と,前記周壁で囲まれた領域内に設けられ,前記周壁で囲まれた領域内と前記大気室とを連通させる連通孔とを有する」ものであるのに対して,甲2発明は,それらの構成を備えるものではない点

<相違点4>
本件訂正発明4が「連通孔を塞ぎ」,「収容部を減圧した後」,「印刷材」を「供給口から前記収容部内に注入する」手順を備えるのに対して,甲2発明は,「連通孔」を塞ぐ手順を有するものではない点

イ 当審の判断
上記のとおり,本件訂正発明4と甲2発明には,相違点3及び4が存在し,当該相違点は,実質的な相違点であるから,本件訂正発明4は甲2発明に該当するものではない。
また,少なくとも相違点3に係る本件訂正発明4の構成である「ケースの外側に設けられた供給口を囲む」「周壁内に設けられ,前記周壁で囲まれた領域内と大気室を連通させる連通孔」が周知であるとはいえないことから,甲2発明において,当該相違点3に係る本件訂正発明4の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到し得るものということはできないことも,上記第3の4において検討したとおりである。
以上のとおりであるから,本件訂正発明4は,甲2発明を根拠に,特許法第29条第1項第3号に該当するものということはできず,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるということもできない。

(2)本件訂正発明6について
本件訂正発明6は,本件訂正発明4の「前記収容部を減圧」するに際して,「供給口から収容部内を吸引する」ものに限定したものであるから,本件訂正発明4と甲2発明との間に相違点3及び4が存在し,少なくとも相違点3が容易に想到し得るものといえない以上,本件訂正発明6は,甲2発明を根拠に,特許法第29条第1項第3号に該当するものということはできず,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるということもできない。

(3)小括
上記(1)及び(2)のとおりであるから,本件訂正発明4及び6に係る特許は,甲2号証を根拠として,特許法第29条第1項第3号及び同条第2項に違反してされたものであるということはできない。

3 特許法第36条第6項第2号について
(1)異議申立人は,本件特許発明4では「前記収容部を減圧した後,前記印刷材を前記供給口から前記収容部に注入する」と特定されているところ,印刷材にどのように圧力を作用させて印刷材を供給口から収容部内に注入するのかが明確に特定されていないから,本件特許発明4は明確でないと主張しているので以下検討する。

(2)当審の判断
本件特許明細書には,つぎの記載がある。
ア「【0123】[実施例12]
上記実施例9に対して,収容部109を圧縮させる力を付与することで,排出工程S20を実施することが可能である。また,収容部109の容積を拡張させる力を付与することで,注入工程S30を実施することが可能である。このような力は,収容部109の外側の空間を加圧したり減圧したりすることによって,付与することが可能である。
【0124】 図30及び図32には,実施例9に対して,収容部109の外側の空間,すなわち大気室115を加圧することで,収容部109内の物質,たとえばインクや空気などを供給口85から排出する例を示している。
【0125】 また,図31及び図33には,実施例9に対して,収容部109の外側の空間,すなわち大気室115を減圧することで,収容部109にインクIKを注入する例を示している。
【0126】 図30に示した例では,連通孔91からインクや大気が流入しないように,連通孔91を栓93などで塞ぐ。そして,供給口85をインク漕95に浸す。その後,加減圧装置97を大気連通孔113に取り付け,図30中に矢印で示したように,大気連通孔113を介してカートリッジ内部を加圧する。すると,大気室115が加圧され,収容部109の容積が圧縮される。この力によって収容部109内の物質,たとえばインクや空気などが供給口85から排出される。次に,加減圧装置97によってカートリッジ内部を減圧する。具体的には,図30の状態から加圧を解除して,大気室115を大気圧に戻す。すると,図31中に矢印で示したように,大気室115が減圧され,シート部材107が収容部109の容積を拡張する向きに引っ張られる。そして,この力によって,インクIKがフィルター135を介して供給口85から収容部109内に引き込まれる。」
イ 本件訂正発明4の「連通孔を塞ぎ,前記収容部を減圧」するとは,上記アの「連通孔91からインクや大気が流入しないように,連通孔91を栓93などで塞ぐ。そして,供給口85をインク漕95に浸す。その後,加減圧装置97を大気連通孔113に取り付け,図30中に矢印で示したように,大気連通孔113を介してカートリッジ内部を加圧する。すると,大気室115が加圧され,収容部109の容積が圧縮される。この力によって収容部109内の物質,たとえばインクや空気などが供給口85から排出される。次に,加減圧装置97によってカートリッジ内部を減圧する。具体的には,図30の状態から加圧を解除して,大気室115を大気圧に戻す。すると,図31中に矢印で示したように,大気室115が減圧され,シート部材107が収容部109の容積を拡張する向きに引っ張られる」と記載されている手順を意味するものであると解することができる。
そもそも,本件訂正発明4においては,「供給口」は,「収容部の内側からケースの外側に通じ」るものであることが特定されていることかすれば,収容部が減圧されている状態で,供給口に印刷材を注入すれば,収容部内部に印刷材が注入されることとなるのは,当業者であれば理解できることでもある。
ウ 以上のことからすれば,本件訂正発明4は,本件特許明細書の記載に照らして,第三者に不測の不利益をもたらすほど不明確なものとはいえない。

(3)小括
以上(1)及び(2)のとおり,異議申立人の主張する理由によっては,本件訂正発明4が明確でないということはできないから,本件訂正発明4に係る特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものということはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項4及び6に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項4及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
前記ケースの内部に設けられ、印刷材が収容される収容部と、
前記収容部の内側から前記ケースの外側に通じ、前記収容部内の前記印刷材を前記ケースの外側に導出する供給口と、
可撓性を有し、前記収容部の少なくとも一部を構成するシート部材と、
前記ケースの内部に設けられ、前記収容部の容積を拡張する向きに前記シート部材を付勢する付勢部材と、を有し、
前記ケースと前記シート部材との間に大気室が設けられた、カートリッジの製造方法であって、
前記大気室を減圧することによって、前記印刷材に圧力を作用させて、前記供給口から前記収容部内に印刷材を注入する、
ことを特徴とするカートリッジの製造方法。
【請求項2】
さらに、前記ケースに、前記ケースの外側から前記大気室に通じる大気連通孔が設けられた請求項1に記載のカートリッジの製造方法であって、
前記大気連通孔から前記大気室を減圧する、
ことを特徴とするカートリッジの製造方法。
【請求項3】
さらに、前記ケースの外側に、前記供給口を囲む周壁が設けられており、前記周壁で囲まれた領域内に、前記ケースの外側から前記大気室に通じる連通孔が設けられている、請求項1に記載のカートリッジの製造方法であって、
前記連通孔から前記大気室を減圧する、
ことを特徴とするカートリッジの製造方法。
【請求項4】
ケースと、
前記ケースの内部に設けられ、印刷材が収容される収容部と、
前記収容部の内側から前記ケースの外側に通じ、前記収容部内の前記印刷材を前記ケースの外側に導出する供給口と、
可撓性を有し、前記収容部の少なくとも一部を構成するシート部材と、
前記ケースの内部に設けられ、前記収容部の容積を拡張する向きに前記シート部材を付勢する付勢部材と、
前記ケースと前記シート部材との間に設けられた大気室と、
前記ケースに設けられ、前記ケースの外側から前記大気室に通じる大気連通孔と、
前記ケースの外側に設けられ、前記供給口を囲む周壁と、
前記周壁で囲まれた領域内に設けられ、前記周壁で囲まれた領域内と前記大気室とを連通させる連通孔と、
を有するカートリッジの製造方法であって、
前記連通孔を塞ぎ、前記収容部を減圧した後、前記印刷材を前記供給口から前記収容部内に注入する、
ことを特徴とするカートリッジの製造方法。
【請求項5】
ケースと、
前記ケースの内部に設けられ、印刷材が収容される収容部と、
前記収容部の内側から前記ケースの外側に通じ、前記収容部内の前記印刷材を前記ケースの外側に導出する供給口と、
可撓性を有し、前記収容部の少なくとも一部を構成するシート部材と、
前記ケースの内部に設けられ、前記収容部の容積を拡張する向きに前記シート部材を付勢する付勢部材と、
を有し、
前記ケースと前記シート部材との間に大気室が設けられたカートリッジの製造方法であって、
前記大気室を密閉空間にした後、前記カートリッジを減圧雰囲気に置くことで前記収容部を減圧した後、
前記供給口を印刷材に浸した状態で、前記カートリッジを大気圧雰囲気に戻すことで、前記印刷材を前記供給口から前記収容部内に注入する、
ことを特徴とするカートリッジの製造方法。
【請求項6】
前記供給口から前記収容部内を吸引することで、前記収容部を減圧する、
ことを特徴とする請求項4に記載のカートリッジの製造方法。
【請求項7】
ケースと、
前記ケースの内部に設けられ、印刷材が収容される収容部と、
前記収容部の内側から前記ケースの外側に通じ、前記収容部内の前記印刷材を前記ケースの外側に導出する供給口と、
可撓性を有し、前記収容部の少なくとも一部を構成するシート部材と、
前記ケースの内部に設けられ、前記収容部の容積を拡張する向きに前記シート部材を付勢する付勢部材と、
を有するカートリッジの製造方法であって、
前記シート部材を外側から押圧することで、前記収容部を減圧した後、前記印刷材を前記供給口から前記収容部内に注入する、
ことを特徴とするカートリッジの製造方法。
【請求項8】
前記印刷材を注入する前に、前記収容部内の物質の少なくとも一部を排出する、
ことを特徴とする請求項1から請求項3、請求項5、および請求項7のいずれか一項に記載のカートリッジの製造方法。
【請求項9】
前記ケースに加工を施すことなく、前記供給口から前記収容部内に印刷材を注入する、
ことを特徴とする請求項1から請求項3、請求項5、請求項7、および請求項8のいずれか一項に記載のカートリッジの製造方法。
【請求項10】
前記ケースは、前記シート部材が接合される第1ケースと、前記シート部材を覆うように前記第1ケースに取り付けられる第2ケースとを備える、請求項1から請求項3、請求項5、および請求項7から請求項9のいずれか一項に記載のカートリッジの製造方法であって、
前記第2ケースを除去する工程を含む、
ことを特徴とするカートリッジの製造方法。
【請求項11】
前記印刷材を注入する前に、前記収容部内の物質の少なくとも一部を排出する、
ことを特徴とする請求項4または請求項6に記載のカートリッジの製造方法。
【請求項12】
前記ケースに加工を施すことなく、前記供給口から前記収容部内に印刷材を注入する、
ことを特徴とする請求項4または請求項6に記載のカートリッジの製造方法。
【請求項13】
前記ケースは、前記シート部材が接合される第1ケースと、前記シート部材を覆うように前記第1ケースに取り付けられる第2ケースとを備える、請求項4または請求項6に記載のカートリッジの製造方法であって、
前記第2ケースを除去する工程を含む、
ことを特徴とするカートリッジの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-06-04 
出願番号 特願2013-136044(P2013-136044)
審決分類 P 1 652・ 537- YAA (B41J)
P 1 652・ 113- YAA (B41J)
P 1 652・ 851- YAA (B41J)
P 1 652・ 856- YAA (B41J)
P 1 652・ 857- YAA (B41J)
P 1 652・ 121- YAA (B41J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藏田 敦之  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 藤本 義仁
尾崎 淳史
登録日 2017-09-15 
登録番号 特許第6205900号(P6205900)
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 カートリッジの製造方法  
代理人 仲井 智至  
代理人 松岡 宏紀  
代理人 仲井 智至  
代理人 松岡 宏紀  
代理人 渡辺 和昭  
代理人 磯部 光宏  
代理人 渡辺 和昭  
代理人 磯部 光宏  

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