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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F17C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F17C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F17C
審判 全部申し立て 2項進歩性  F17C
管理番号 1353182
異議申立番号 異議2018-700941  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-22 
確定日 2019-06-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6327404号発明「中空成形品および中空成形品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6327404号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕、〔8-9〕について訂正することを認める。 特許第6327404号の請求項1ないし3、5ないし9に係る特許を維持する。 特許第6327404号の請求項4に対する特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許に係る手続の経緯は、以下のとおりである。
平成28年 9月13日 日本国受理の優先基礎出願1?3(この日を以下「本件優先日」という。)
平成29年 3月23日 日本国受理の優先基礎出願4
平成29年 8月21日 上記出願1?4の優先権を主張した国際出願
平成30年 4月27日 本件特許権の設定登録
平成30年 5月23日 特許掲載公報の発行
平成30年11月22日 合同会社SAS(以下「申立人」という。)により特許異議の申立て
平成31年 2月20日付 取消理由通知
平成31年 3月18日 訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正の内容を「本件訂正」という。)及び意見書の提出
平成31年 4月26日 申立人から意見書(以下「申立人意見書」という。)の提出

第2 本件訂正について
1 訂正前の発明及び訂正の内容
(1)訂正前の請求項1?9の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】
2つ以上の分割体を溶着により接合した接合箇所を有する中空成形品であって、前記中空成形品は、前記中空成形品の表面から500μm内側の部分における平均球晶サイズが20μm以下であり、前記中空成形品の接合箇所を含む試験片の引張強度が、前記中空成形品の接合箇所を含まない試験片の引張強度に対して80%以上であることを特徴とする、高圧水素に触れる中空成形品。
【請求項2】
前記中空成形品が、中空成形品表面から700μm内側の部分における平均球晶サイズと中空成形品表面から200μm内側の部分における平均球晶サイズとの比が1以上2以下であることを特徴とする請求項1に記載の中空成形品。
【請求項3】
前記中空成形品を16分割したそれぞれの中空成形品の表面から500μm内側の部分における平均球晶サイズの標準偏差が6以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の中空成形品。
【請求項4】
前記中空成形品がポリアミド樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の中空成形品。
【請求項5】
前記中空成形品が中空成形品表面から100μm内側の部分のラマン分析においてα型結晶に由来するラマンバンドとγ型結晶に由来するラマンバンドとの強度比が2.5以下であることを特徴とする請求項4記載の中空成形品。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂組成物が、ポリアミド6樹脂(A)100重量部に対し、アミド系ワックス(B)を0.01?10重量部配合してなるポリアミド樹脂組成物であることを特徴とする請求項4または5に記載の中空成形品。
【請求項7】
前記ポリアミド樹脂組成物が、ポリアミド6樹脂(A)、および、DSC測定による融点が245℃以下であり、光散乱測定において温度250℃から20℃/分の速度で冷却して測定した際のインバリアントQの立ち上がり時間がポリアミド6樹脂(A)のインバリアントQの立ち上がり時間よりも短いポリアミド樹脂(C)を配合してなるポリアミド樹脂組成物であって、前記ポリアミド6樹脂(A)100重量部に対して、前記ポリアミド樹脂(C)を0.01?5重量部配合してなるポリアミド樹脂組成物であることを特徴とする請求項4?6のいずれかに記載の中空成形品。
【請求項8】
中空成形品の製造方法であって、2つ以上の分割体を熱板溶着、赤外線溶着、および赤外線にて溶着部を温めた後に振動溶着を行う赤外線/振動溶着より選ばれたいずれかの溶着方法により接合して中空成形品を形成する工程を含み、前記中空成形品は、前記中空成形品の表面から500μm内側の部分における平均球晶サイズが20μm以下であり、前記中空成形品の接合箇所を含む試験片の引張強度が、前記中空成形品の接合箇所を含まない試験片の引張強度に対して80%以上であることを特徴とする、高圧水素に触れる中空成形品の製造方法。
【請求項9】
前記中空成形品を構成する2つ以上の分割体を射出成形法および押出成形法より選ばれた成形法で成形することを特徴とする請求項8記載の中空成形品の製造方法。」
(2)本件訂正の訂正事項は以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「2つ以上の分割体を溶着により接合した接合箇所を有する中空成形品」とあるのを、「2つ以上の分割体を溶着により接合した接合箇所を有するポリアミド樹脂組成物からなる中空成形品」と訂正する(請求項1を引用する請求項2、3、5?7も同様に訂正する)。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「請求項4記載の」とあるのを、「請求項1?3のいずれかに記載の」と訂正する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「請求項4または5に記載の」とあるのを、「請求項1?3、5のいずれかに記載の」と訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「請求項4?6のいずれかに記載の」とあるのを、「請求項1?3、5?6のいずれかに記載の」と訂正する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に「中空成形品の製造方法であって」とあるのを、「ポリアミド樹脂組成物からなる中空成形品の製造方法であって」と訂正する(請求項8を引用する請求項9も同様に訂正する)。
2 訂正要件についての判断
(1)一群の請求項についての判断
ア 訂正前の請求項2?7は、いずれも直接または間接に訂正前の請求項1を引用しており、訂正前の請求項1?7は、一群の請求項を構成する。
イ 訂正前の請求項9は、請求項8を引用するから、訂正前の請求項8?9は、一群の請求項を構成する。
ウ 上記訂正事項1?5は、訂正前の請求項1?7からなる一群の請求項を訂正するものであり、上記訂正事項6は、訂正前の請求項8?9からなる一群の請求項を訂正するものであるから、本件訂正は、一群の請求項ごとになされた訂正であると解され、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項1についての判断
ア 訂正の目的
訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項「2つ以上の分割体を溶着により接合した接合箇所を有する中空成形品」を訂正後は、「2つ以上の分割体を溶着により接合した接合箇所を有するポリアミド樹脂組成物からなる中空成形品」とすることにより、中空成形品をより具体的に特定し、更に限定しているものといえる。したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。
イ 実質上の拡張変更の有無
上記アに記載したとおり、訂正後の請求項1の記載は、訂正前の請求項1に記載の中空成形品をより具体的に特定し、更に限定するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 新規事項追加の有無
上記訂正事項1における「ポリアミド樹脂組成物」は、訂正前の請求項4に記載されており、また、明細書の段落【0095】以下に実施例として記載されているものであるから、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項2についての判断
ア 訂正の目的
訂正事項2は、請求項4を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上の拡張変更の有無
上記アに記載したとおり、訂正事項2は請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 新規事項追加の有無
上記アに記載したとおり、訂正事項2は請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項3?5についての判断
ア 訂正の目的
訂正事項3?5は、訂正前の請求項5?7に、請求項1?3を引用する請求項4を引用する記載が存在したところ、上記訂正事項1により請求項4の記載が請求項1に加入され、上記訂正事項2により請求項4が削除されたため、請求項1?3を引用し、請求項4を引用しないものとするための訂正である。したがって、訂正事項3?5は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定された「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものと解される。
イ 実質上の拡張変更の有無
上記アに記載したとおり、請求項4の記載が請求項1に加入され、請求項4自体は削除されたことに伴い、請求項5?7の記載を請求項4が引用していた請求項1?3を引用するものとし、削除された請求項4を引用しないものとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 新規事項追加の有無
上記アに記載したとおり、請求項4の記載が請求項1に加入され、請求項4自体は削除されたことに伴い、請求項5?7の記載を請求項4が引用していた請求項1?3を引用するものとし、削除された請求項4を引用しないものとするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(5)訂正事項6についての判断
ア 訂正の目的
訂正前の請求項8に係る発明の発明特定事項「中空成形品の製造方法であって」を訂正後は、「ポリアミド樹脂組成物からなる中空成形品の製造方法であって」とすることにより、中空成形品をより具体的に特定し、更に限定しているものといえる。したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。
イ 実質上の拡張変更の有無
上記アに記載したとおり、訂正後の請求項8の記載は、訂正前の請求項8に記載の中空成形品をより具体的に特定し、更に限定するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 新規事項追加の有無
上記訂正事項6における「ポリアミド樹脂組成物」は、訂正前の請求項4に記載されており、また、明細書の段落【0095】以下に実施例として記載されているものであり、上記訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
3 小括
上記のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に適合するものであり、また、訂正事項1?6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕〔8、9〕について訂正することを認める。

第3 取消理由について
1 本件発明
本件訂正後の請求項1?9に係る発明(以下「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
2つ以上の分割体を溶着により接合した接合箇所を有するポリアミド樹脂組成物からなる中空成形品であって、前記中空成形品は、前記中空成形品の表面から500μm内側の部分における平均球晶サイズが20μm以下であり、前記中空成形品の接合箇所を含む試験片の引張強度が、前記中空成形品の接合箇所を含まない試験片の引張強度に対して80%以上であることを特徴とする、高圧水素に触れる中空成形品。
【請求項2】
前記中空成形品が、中空成形品表面から700μm内側の部分における平均球晶サイズと中空成形品表面から200μm内側の部分における平均球晶サイズとの比が1以上2以下であることを特徴とする請求項1に記載の中空成形品。
【請求項3】
前記中空成形品を16分割したそれぞれの中空成形品の表面から500μm内側の部分における平均球晶サイズの標準偏差が6以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の中空成形品。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記中空成形品が中空成形品表面から100μm内側の部分のラマン分析においてα型結晶に由来するラマンバンドとγ型結晶に由来するラマンバンドとの強度比が2.5以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の中空成形品。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂組成物が、ポリアミド6樹脂(A)100重量部に対し、アミド系ワックス(B)を0.01?10重量部配合してなるポリアミド樹脂組成物であることを特徴とする請求項1?3、5のいずれかにに記載の中空成形品。
【請求項7】
前記ポリアミド樹脂組成物が、ポリアミド6樹脂(A)、および、DSC測定による融点が245℃以下であり、光散乱測定において温度250℃から20℃/分の速度で冷却して測定した際のインバリアントQの立ち上がり時間がポリアミド6樹脂(A)のインバリアントQの立ち上がり時間よりも短いポリアミド樹脂(C)を配合してなるポリアミド樹脂組成物であって、前記ポリアミド6樹脂(A)100重量部に対して、前記ポリアミド樹脂(C)を0.01?5重量部配合してなるポリアミド樹脂組成物であることを特徴とする請求項1?3、5?6のいずれかに記載の中空成形品。
【請求項8】
ポリアミド樹脂組成物からなる中空成形品の製造方法であって、2つ以上の分割体を熱板溶着、赤外線溶着、および赤外線にて溶着部を温めた後に振動溶着を行う赤外線/振動溶着より選ばれたいずれかの溶着方法により接合して中空成形品を形成する工程を含み、前記中空成形品は、前記中空成形品の表面から500μm内側の部分における平均球晶サイズが20μm以下であり、前記中空成形品の接合箇所を含む試験片の引張強度が、前記中空成形品の接合箇所を含まない試験片の引張強度に対して80%以上であることを特徴とする、高圧水素に触れる中空成形品の製造方法。
【請求項9】
前記中空成形品を構成する2つ以上の分割体を射出成形法および押出成形法より選ばれた成形法で成形することを特徴とする請求項8記載の中空成形品の製造方法。」
2 当審からの取消理由の概要及び検討
(1)平成31年2月20日付取消理由通知の概要は以下のとおりである。
上記取消理由通知は、前記第2、1(1)に示した訂正前の本件発明に対して通知されたものである。
ア 本件明細書の発明の詳細な説明における段落【0014】等の記載では、樹脂材料であれば、本件特許の課題が解決できるとも記載されているが、本件請求項1及び8に規定された「前記中空成形品の表面から500μm内側の部分における平均球晶サイズが20μm以下」であって、かつ「中空成形品の接合箇所を含む試験片の引張強度が、前記中空成形品の接合箇所を含まない試験片の引張強度に対して80%以上」という条件を満たすことにより、高圧水素の充填および放圧を繰り返しても溶着部での亀裂の発生を抑制できる特性を有することで従来技術における課題を解決できることは、ポリアミド樹脂組成物においてのみ実証されている。
イ また、本件明細書の発明の詳細な説明の全体からも、ポリアミド樹脂組成物以外の樹脂組成物を主成分とすることには、具体的な言及はされておらず、ポリアミド樹脂組成物を用いた発明以外は認識できるとはいえない。 ウ そうすると、本件特許の請求項4及び引用する5?7を除く、本件特許の請求項1?3及び8?9に係る発明は、特許法第36条第6項第1号のサポート要件を満たさないことになる。
(2)当審の判断
ア 前記第2において検討したように、本件訂正により、本件発明1?3、5?9は、全て「ポリアミド樹脂組成物」をその発明特定事項とするものに訂正された。
イ そうすると、前記(1)の特許法第36条第6項第1号のサポート要件を満たさないとする取消理由は、本件訂正により解消したといえる。
ウ 小括
以上から、当審からの取消理由通知に示した理由によっては、本件発明1?3、5?9に係る特許を取り消すことができない。

第4 特許異議の申立て理由及び申立人意見書における申立人の主張について
1 証拠関係
(1)特許異議の申立て時に提出された証拠の一覧
なお、以下、甲第1号証を甲1などという。
甲1:特表2014-501818号公報
甲2:国際公開第2009/157444号
甲3:セン 茂盛(当審注:「セン」はJISコード9627の漢字) 外3名、「ナイロン6/ポリアミドエラストマーアロイの高次構造とモルフォロジー」(1995年5月)、高分子論文集、Vol.52、No.5、272?280頁
甲4:株式会社東レリサーチセンター、「異種材料の接着?界面の分析評価?」と題するウェブサイト、(平成26年12月11日)
甲5:渋谷 光夫、「高圧水素ガスバリア材の開発」(2015年)、日本ゴム協会誌、Vol.88、No.8、336?341頁
甲6:邱 建輝 外3名、「結晶性高分子材料の熱板溶着における界面構造と溶着強度の関係」(2008年3月)、高分子論文集、Vol.65、No.3、235?241頁
(2)申立人意見書と同時に提出された資料の一覧
参考資料1:横浜ゴム株式会社、「水素インフラ用可撓性配管実用化に関する研究開発」、(2005年)、第1回「水素安全利用等基盤技術開発」(中間評価)分科会、資料6(5)
参考資料2:国際公開第2016/136025号
参考資料3:特開2009-191871号公報
2 証拠等の記載事項
(1)甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。
ア「【請求項1】
i.ポリアミドAと、
ii.ポリマー組成物の総量を基準として少なくとも0.001重量パーセントの量の成核剤と、
iii.前記ポリマー組成物の総量を基準として少なくとも1重量パーセントの量の耐衝撃性改良剤と
を含むポリマー組成物を含有する、ガス貯蔵タンク用ライナー。」
イ「【0006】
用語「ガス」は、本明細書において、種々のガスを含むものと理解されるが、しかしながらこれは、貯蔵中においては液体部分を含み得る。ガスの例としては、バイオガスおよび天然ガスが挙げられる。具体例としては、水素、メタン、ブタン、プロパン、ヘリウム、窒素および酸素が挙げられる。」
ウ「【0009】
[ポリアミドA]
ポリマー組成物を含有するライナー中のポリアミドAは、任意の半結晶質ポリアミドまたはそのブレンド、ならびにコポリアミドであり得る。
【0010】
「半結晶質ポリアミド」は、本明細書において、結晶域および非晶域を有するポリアミドを包含すると理解される。好適なポリアミドとしては、脂肪族ポリアミド(例えば、PA6、PA66、PA46、PA410、PA610、PA11、PA12、PA412)およびそのブレンドが挙げられるが、さらに半芳香族ポリアミドも挙げられる。好適な半芳香族ポリアミドとしては、テレフタル酸ベースのポリアミド(PA6T、PA9T、PA4TおよびPA6T6I、PA10TならびにPAMXD6およびPAMXDTなど)、およびそのコポリアミド、ならびにそれらのブレンド、ならびに脂肪族ポリアミドおよび半芳香族ポリアミドのブレンドが挙げられる。」
エ「【0027】
本発明に従うライナーは、必要に応じて、他の添加剤(例えば、充填剤、着色剤、分岐剤、離型剤および滑剤)を含み得る。」
オ「【0029】
[ライナーの調製]
ライナーは、ブロー成形または射出成形により調製され得る。射出成形は、好ましくは2シェル成形(two-shell molding)の形態で行われ、その後、それらのシェルが溶着されてライナーになる。ブロー成形により調製される場合は、ライナーはまた、好ましくは、ポリマー組成物についてより高い粘性を可能にする分岐剤も含む。」
カ「【表1】


(2)甲2の記載事項
甲2には、次の記載がある。
ア「[0002] 従来、光ファイバとしては、広い波長領域にわたって優れた光伝送を行うことができる石英系光ファイバが幹線系を中心に実用化されているが、この石英系光ファイバは高価で加工性が低い。そのため、より安価で軽量、大口径であり、端面加工や取り扱いが容易である等の長所を有するプラスチック光ファイバ(以下、POFと略する。)が、ライティング用途やセンサー用途、あるいはFA、OA、LAN等の屋内配線用途の分野で実用化されている。
・・・
[0004] 上記のようなPOFケーブルが自動車内において使用される場合、環境温度が100?105℃付近に達することから、耐熱性に優れることが要求されている。特に、エンジン近傍等のような高温環境下に敷設される場合には、オイルや電解液、ガソリン等の引火性物質が存在するため、耐熱性と同時に耐薬品性に優れることも要求される。そのため、POFケーブルの被覆材として、耐熱性、耐薬品性等に優れるナイロン11やナイロン12、ナイロン6/12、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66等のポリアミド系樹脂(ナイロン系樹脂)を用いる技術が数多く提案されている。」
イ「[0132] ナイロン系樹脂組成物の酸素透過率を低くするための方法としては、結晶化度を特定の範囲に制御する方法や、球晶サイズを特定の範囲に制御する方法を用いることが好ましい。」
ウ「[0135] 本発明において、機能被覆層を形成するナイロン系樹脂組成物は、顕微鏡観察による球晶サイズの平均直径が0.01μm以上40μm以下の範囲にあることが好ましい。
[0136] ここで、球晶サイズは、POFケーブルの機能被覆層から超薄切片を作製し、その切片を顕微鏡で観察し、球晶の写真を撮影した後、画像解析装置で球晶の直径の数平均を算出して得られる値である。」
エ「[0137] 球晶サイズが小さすぎると、POFケーブルの機械的強度(特に、引っ張り強度)が低下する傾向がある。また、球晶サイズが大きすぎると、所望の酸素透過率が得られないため、POFケーブルが105℃の環境下に長期間置かれた場合に伝送損失が増加したり、POFケーブルの耐熱寸法安定性が損なわれたりする傾向がある。この球晶サイズ(平均直径)の好ましい範囲の下限側は1.0μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましく、上限側は30μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましく、10μm以下が特に好ましい。」
(3)甲3?甲6の記載事項
ア 甲3の記載事項
甲3の279頁右欄4?9行(空行を除く)には、次の記載がある。
「球晶形態はエラストマーと相溶剤の影響を受ける。すなわち単純なナイロン6では球晶の径は不均一であり,エラストマーを添加したアロイでは均一な大きさの球晶が生成し,相溶化剤の添加で球晶は最も小さくなる.またエラストマー含有量の増加につれて球晶が小さくなり結晶化度は低下する.」
イ 甲4の記載事項
甲4には次の記載がある。
(ア)甲4の2頁右欄1?6行
「PETを融点以上(295℃)で
融解し、Al箔と融着後、
1○(当審注:○の中に数字が入っている。2以上も同様)急冷
2○急冷した試料をガラス転移温度以上(130℃)で1時間加熱
3○徐冷
の3試料を作製。」
(イ)甲4の2頁右欄中段下5行
「球晶が大きくなるほど接着強度は低下した。」
ウ 甲5の記載事項
甲5には次の記載がある。
(ア)336頁(56頁)右欄13行?337頁(57頁)左欄4行
「*水素耐性を有する樹脂開発に関わるポイント
a)耐ブリスタ性(樹脂内残留水素の気泡化による内部破壊)
b)耐水素脆性(樹脂表面よりクレーズ形成/クラックへの進展)
c)低温(-40℃など)下繰り返し応力負荷への耐久性
d)高圧水素下でのガスバリア性
2. 水素バリア性及び耐ブリスタについて
・・・このガスバリア性は,結晶構造だけでなく非晶構造にも大きく影響される.・・・分子間空隙サイズが高分子の酸素透過性を支配するパラメータであることが報告されている.・・・ 」
(イ)338頁(57頁)の図5



(ウ)341頁の表2



エ 甲6の記載事項
甲6には次の記載がある。
(ア)235頁右欄5?9行
「本研究は熱板溶着した製品の信頼性を確保するために,PPを用いて,その溶着部の微細構造,溶着強度および破壊機構に及ぼす溶着条件の影響を検討し,安定した高い溶着強度が得られる溶着条件を明らかにすることを目的とする.」
(イ)241頁左欄2?8行
「・・・以上の結果により,熱板溶着は適当な溶着条件の組合せによって未溶着材の降伏強度(約33MPa)とほぼ同じ溶着強度が得られることが可能である.ただし,溶着界面部に形成された結晶配向層が引張負荷に対してそれ程敏感ではないが,耐久性にかかわる疲労負荷のような動的負荷を受ける場合は十分に検討する必要があると思われる。」
(4)参考資料1の記載事項
参考資料1には、次の記載がある。
「第3頁 水素インフラ用ホース材料の要素技術開発

・・・」
3 新規性進歩性についての検討
(1)甲1発明
甲1の記載から、次の発明(以下「甲1発明」という。)が認定できる。
「成核剤を含むポリアミド樹脂組成物からなる2つ以上の分割体を溶着により接合した接合箇所を有する中空成形品であって、高圧水素に触れる中空成形品。」
(2)対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも次の相違点が認められる。
ア 相違点1
本件発明1においては、「中空成形品の表面から500μm内側の部分における平均球晶サイズが20μm以下」であるのに対し、甲1発明においてはこの点が明らかでない点。
イ 相違点2
本件発明1においては、「中空成形品の接合箇所を含む試験片の引張強度が、前記中空成形品の接合箇所を含まない試験片の引張強度に対して80%以上である」のに対して、甲1発明においては、この点が明らかでない点。
ウ 相違点2について
事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
(ア)ポリアミド樹脂組成物において、「中空成形品の接合箇所を含む試験片の引張強度が、前記中空成形品の接合箇所を含まない試験片の引張強度に対して80%以上である」ことが可能であることが、本件優先日前に知られていたことを示す証拠がなく、相違点2が本件優先日前に当業者が容易に想到し得たということはできない。また、甲1発明が相違点2に係る特性を有している蓋然性が高いと認めるに足る証拠もない。
(イ)申立人は、相違点2について、甲1に記載がなくとも、甲1発明は相違点2に係る構成を有している蓋然性が高いと主張する。
(ウ)また、申立人は、前記2(3)エ(イ)に摘記した甲6の「熱板溶着は適当な溶着条件の組合せによって未溶着材の降伏強度(約33MPa)とほぼ同じ溶着強度が得られることが可能である.」という記載から、甲1発明にこの点を適用することが容易である旨主張している。
(エ)しかしながら、甲6は、ポリプロピレン樹脂に関するものであるから、ポリアミド樹脂組成物からなる甲1発明にこの点を適用しても、引張強度が80%以上となる溶着が可能となるということができない。
(オ)そうすると、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2?6に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
エ 本件発明2、3、5?7について
本件発明2、3、5?7は、本件発明1を包含し、更に限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲2?6に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
オ 本件発明8について
本件発明8も、本件発明1と同様に「中空成形品の接合箇所を含む試験片の引張強度が、前記中空成形品の接合箇所を含まない試験片の引張強度に対して80%以上である」という発明特定事項を有するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲2?6に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
カ 本件発明9について
本件発明9は、本件発明8を包含し、更に限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲2?6に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(3)小括
以上から、本件発明1?3、5?9は、特許法第29条第1項第3号に規定される発明には該当せず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ではないから、特許法第113条第2号に該当するということはできず、本件発明1?3、5?9に係る特許を取り消すことはできない。
4 記載要件についての検討
(1)サポート要件及び実施可能要件について
ア 申立人は、特許異議申立書において、「本件実施例には、ポリアミド6を必須成分として、ポリアミド610、1種のアミド系ワックス、1種の無機核剤及び2種の耐衝撃剤を適宜選択して組み合わせた組成物しか開示されていない。」と主張し、本件訂正前の請求項1?3、5?9に係る発明がサポートされていない範囲を含み、サポート要件を満たさず、実施可能要件も満たさないと主張する。
イ また、申立人意見書において、本件発明1?3、5?9に対して、本件訂正により「ポリアミド樹脂組成物」と特定しても、前記2(4)で摘記した参考資料1に記載されているように、ポリアミドの種類によっては、水素透過率が異なるから、ポリアミド樹脂一般に拡張・一般化できないと主張する。
ウ しかしながら、本件発明1は、ポリアミド樹脂組成物からなることを前提として、「前記中空成形品の表面から500μm内側の部分における平均球晶サイズが20μm以下」であること(以下「本件物性要件1」という。)と、「中空成形品の接合箇所を含む試験片の引張強度が、前記中空成形品の接合箇所を含まない試験片の引張強度に対して80%以上である」こと(以下「本件物性要件2」という。)とを両立することを特定しているのであるから、全ての種類のポリアミドに拡張・一般化されているのではなく、本件物性要件1、2の両方を両立するポリアミドに拡張・一般化されているのであるから、サポート要件を満たし、実施可能要件を満たすといえるものである。
(2)特許法第36条第6項第1号(課題を解決できるか)について
ア 平成28年(行ケ)10189号(光学ガラス事件)に基づく主張
申立人は、特許異議申立書において、上記知財高裁判決の説示に基いて、本件発明1における「2つ以上の分割体を溶着により接合した接合箇所を有するポリアミド樹脂組成物からなる中空成形品」(以下「本件構造要件」という。)という要件で特定される中空成形体が、高い蓋然性をもって本件物性要件1、2を満たしうることを発明の詳細な説明の記載や示唆または本願出願時の技術常識から当業者が認識できることが必要と主張する。
イ しかしながら、上記平成28年(行ケ)10189号(光学ガラス事件)においては、技術分野が異なる上、12もの成分が含まれうる「本願組成要件」と「本願物性要件」との関係を説示したものであって、本件発明1には、当てはまらないものである。したがって、申立人の主張は採用できない。
ウ 申立人は、上記アを前提として、本件発明1には、いかなる組成のものも含まれるから、本件物性要件を満たさない範囲を含むことになり、サポート要件違背であると主張するが、前提において誤りがあり採用できない。
(3)特許法第36条第6項第2号について
ア 申立人は、特許異議申立書において、本件発明8、9について、本件物性要件1、2を実現するための手段が全て規定されていない本件発明8、9の製造方法は、技術的に十分に特定されておらず、不明確であると主張する。
イ しかしながら、本件発明8、9は、発明特定事項として、本件物性要件1、2を実現する製造方法の発明であって、不明確とはいえない。申立人の主張は、本件明細書の比較例5が本件発明8、9に含まれうるという主張と解されるが、主張自体失当である。
(4)小括
本件特許請求の範囲は、特許法第36条第6項第1号及び第2号の規定を満たし、本件明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たすといえるから、特許法第113条第4号に該当するとはいえない。したがって、本件特許1?3、5?9を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本件発明1?3、5?9に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。また、他に本件発明1?3、5?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項4に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議の申立てについて、請求項4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の分割体を溶着により接合した接合箇所を有するポリアミド樹脂組成物からなる中空成形品であって、前記中空成形品は、前記中空成形品の表面から500μm内側の部分における平均球晶サイズが20μm以下であり、前記中空成形品の接合箇所を含む試験片の引張強度が、前記中空成形品の接合箇所を含まない試験片の引張強度に対して80%以上であることを特徴とする、高圧水素に触れる中空成形品。
【請求項2】
前記中空成形品が、中空成形品表面から700μm内側の部分における平均球晶サイズと中空成形品表面から200μm内側の部分における平均球晶サイズとの比が1以上2以下であることを特徴とする請求項1に記載の中空成形品。
【請求項3】
前記中空成形品を16分割したそれぞれの中空成形品の表面から500μm内側の部分における平均球晶サイズの標準偏差が6以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の中空成形品。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記中空成形品が中空成形品表面から100μm内側の部分のラマン分析においてα型結晶に由来するラマンバンドとγ型結晶に由来するラマンバンドとの強度比が2.5以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の中空成形品。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂組成物が、ポリアミド6樹脂(A)100重量部に対し、アミド系ワックス(B)を0.01?10重量部配合してなるポリアミド樹脂組成物であることを特徴とする請求項1?3、5のいずれかに記載の中空成形品。
【請求項7】
前記ポリアミド樹脂組成物が、ポリアミド6樹脂(A)、および、DSC測定による融点が245℃以下であり、光散乱測定において温度250℃から20℃/分の速度で冷却して測定した際のインバリアントQの立ち上がり時間がポリアミド6樹脂(A)のインバリアントQの立ち上がり時間よりも短いポリアミド樹脂(C)を配合してなるポリアミド樹脂組成物であって、前記ポリアミド6樹脂(A)100重量部に対して、前記ポリアミド樹脂(C)を0.01?5重量部配合してなるポリアミド樹脂組成物であることを特徴とする請求項1?3、5?6のいずれかに記載の中空成形品。
【請求項8】
ポリアミド樹脂組成物からなる中空成形品の製造方法であって、2つ以上の分割体を熱板溶着、赤外線溶着、および赤外線にて溶着部を温めた後に振動溶着を行う赤外線/振動溶着より選ばれたいずれかの溶着方法により接合して中空成形品を形成する工程を含み、前記中空成形品は、前記中空成形品の表面から500μm内側の部分における平均球晶サイズが20μm以下であり、前記中空成形品の接合箇所を含む試験片の引張強度が、前記中空成形品の接合箇所を含まない試験片の引張強度に対して80%以上であることを特徴とする、高圧水素に触れる中空成形品の製造方法。
【請求項9】
前記中空成形品を構成する2つ以上の分割体を射出成形法および押出成形法より選ばれた成形法で成形することを特徴とする請求項8記載の中空成形品の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-06-03 
出願番号 特願2017-545418(P2017-545418)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (F17C)
P 1 651・ 537- YAA (F17C)
P 1 651・ 121- YAA (F17C)
P 1 651・ 113- YAA (F17C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉澤 秀明  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 白川 敬寛
門前 浩一
登録日 2018-04-27 
登録番号 特許第6327404号(P6327404)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 中空成形品および中空成形品の製造方法  
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