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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H02J
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H02J
管理番号 1353190
異議申立番号 異議2019-700250  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-02 
確定日 2019-07-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6399479号発明「充電装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6399479号の請求項1ないし3、5及び15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6399479号の請求項1ないし3、5及び15に係る特許についての出願は、平成28年6月2日に出願され、平成30年9月14日にその特許権の設定登録がされ、同年10月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成31年4月2日に特許異議申立人宮川貴浩により、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6399479号の請求項1ないし3、5及び15に係る特許は、特許請求の範囲の請求項1ないし3、5及び15に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下「本件特許発明1ないし3、5及び15」という。)。
「 【請求項1】
空気を取りこむ吸気口と冷却風を排気する排気口とが形成されると共に、底部と、前記底部と対向する上部とを有し、電池パックが装着可能なケースと、
前記ケース内に冷却風を発生させるファンと、
前記ケース内に設けられて前記電池パックを充電するように構成され、前記電池パックの充電に伴い発熱する複数の発熱素子を有する充電回路部と、
前記ケース内に前記冷却風が通過する冷却風路を画成する風路画成部材と
を有し、
前記風路画成部材は、
前記上部と交差する第1方向となる上下方向に延びる第1画成部と、
前記第1画成部から前記第1方向と交差する第2方向となる前後及び左右方向に延びて、前記第1方向において前記上部と前記複数の発熱素子のうちの少なくとも1つの発熱素子との間に位置する第2画成部と、を備え、
前記冷却風の進行方向と交差する断面が略L字形状となるように構成され、
前記ファンの駆動により前記冷却風を前記発熱素子に導き、前記発熱素子を冷却可能とするように構成されていることを特徴とする充電装置。
【請求項2】
前記風路画成部材は、前記複数の発熱素子のうちの少なくとも1つの発熱素子の放熱用に設けられた放熱部材を備え、
前記放熱部材が前記略L字形状を有することを特徴とする請求項1に記載の充電装置。
【請求項3】
前記充電回路部は、前記複数の発熱素子が実装された回路基板を有し、
前記第1画成部は、前記回路基板と前記上部とのうちの一方から他方に向けて立設され、
前記冷却風路は、前記回路基板及び前記風路画成部材によって画成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の充電装置。
【請求項5】
前記複数の発熱素子は、ダイオード、FET、トランス及びコイルのうちの少なくとも1つであり、
前記発熱素子を前記吸気口又は前記排気口の近傍に配置することを特徴とする請求項1から4の何れか一に記載の充電装置。
【請求項15】
前記充電回路部は、前記電池パックを10A以上の充電電流で充電可能であって、前記ファンの風量、又は前記ファンによって前記ケース内に発生する風量が13m^3/hr以上であることを特徴とする請求項1又は12に記載の充電装置。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人宮川貴浩(以下「異議申立人」という。)は、本件特許の請求項1ないし3、5及び15に係る発明は、甲第1号証(特開2015-19535号公報)、甲第2号証(特開2008-125249号公報)、甲第3号証(特開平10-75079号公報)、甲第4号証(特開2002-233063号公報)、甲第5号証(「日立多機能充電器 ET 14DM2」取扱説明書)及び甲第6号証(日刊工業新聞社「エレクトロニクスのための熱設計完全入門」初版17刷、2008年7月25日、154-155頁)の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当し、同法第113条第2号により取り消されるべきものである旨主張する。
また、異議申立人は、本件特許の請求項1ないし3、5及び15に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるから、同法第36条第6項第1号の規定に違背するものであり、同法第113条第4号により取り消されるべきものである旨主張する。

第4 甲号証の記載
1.甲第1号証
甲第1号証には、「充電装置」に関して、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(1)「【0034】
以下、本発明の実施の形態による充電装置について図1乃至図9に基づき説明する。
・・・(中略)・・・
【0037】
次に充電装置1について説明する。図1及び図3乃至図6に示すように、充電装置1は、充電装置ケース10と、充電装置ケース10内部に収納された充電回路部31と、充電回路部31及び電池パック100を冷却する冷却風を発生させるファン4と、商用電源と接続し充電回路部31へ電源を供給する電源ケーブル7とにより構成されている。」

(2)「【0038】
図1に示すように、充電装置1のハウジングである充電装置ケース10は、左右方向に長尺な略直方体をなしており、上ケース2(上側ハウジング)と、下ケース3(下側ハウジング)とにより構成されている。これらケースは、電気的に絶縁性を備えた耐熱性樹脂材料によって構成される。なお、図1における上ケース2と下ケース3間の方向を上下方向、上ケース2、下ケース3の長尺方向を左右方向、それらと直交する方向を前後方向と定義する。」

(3)「【0039】
上ケース2は、充電装置ケース10の上側半分を形成し、その上面には電池接続部21が設けられており、左側面から上面に跨って排気孔2aが複数個形成されている。電池接続部21は、上ケース2の上面の右側に電池パック100と接続可能に設けられており、上ケース2の上面の面積の約半分を占めている。電池接続部21には連通孔21aが形成されており、端子接続部21A、スライド係合部21Bが設けられている。」

(4)「【0040】
連通孔21aは、前後方向に延び、左右方向に並んだ複数の長孔であって、電池接続部21の後部に位置している。電池パック100と充電装置1とが電池接続部21において接続された場合に、連通孔21aは、電池パック100の排出孔101cと対向する。連通孔21aは、電池パック100を充電装置1に接続したときに、吸入孔101aから流入した外気を排出孔101cを介して充電装置ケース10内に取り込む孔である。
・・・(中略)・・・
【0043】
排気孔2aは、上下方向に延び、前後方向に並んだ複数の長孔であって、充電装置ケース10内で連通孔21aと連通しており、電池パック100の吸入孔101aから取り込んだ外気を排出孔101c及び連通孔21aを介して充電装置ケース10の外部に排出する孔である。
・・・(中略)・・・
【0051】
また、図4及び図6に示すように、閉鎖部材固定ネジ25Cを閉鎖部材固定孔25aに挿通させ、閉鎖部材固定部24に螺合させることで、閉鎖部材25はリブ部23に固定される。リブ部23に閉鎖部材25が固定されることで、リブ部23と、閉鎖部材25と、上ケース2の下側面とによりダクト6が形成される。」

(5)「【0052】
ダクト6は、連通孔21aからファン4に至る風路を提供しており、電池パック100内の吸入孔101aから排出孔101cまでの図示せぬ風路とダクト6と排気孔2aとにより電池冷却風路5(第2の冷却風路)が形成される。電池冷却風路5は、外気が吸入孔101aから流入し排出孔101c及び連通孔21aを介して排気孔2aに排出される風路である。
【0053】
図9に示すように、段差部25bとリブ部23とが嵌合した状態でリブ部23に閉鎖部材25が固定されており、互いに嵌合している面は屈曲しているので、リブ部23と閉鎖部材25との接触面積が大きくなり、ダクト6内の密閉性を高く保つことができる。」

(6)「【0054】
下ケース3は、充電装置ケース10の下側半分を形成し、図5(a)及び(b)に示すように吸気孔3aと、第2ケース固定部32と、第2ファン支持部33とが形成されている。また下ケース3の内部空間には、充電回路部31が設けられている。
・・・(中略)・・・
【0058】
充電回路部31は主に、基板31Eと、ラインフィルタ31Aと、放熱フィンが取り付けられたFET31Bと、トランス31Cと、放熱フィンが取り付けられたダイオード31Dとにより構成されている。充電回路部31には、電池パック100と電気的に接続するための接続線21Dが接続されている。充電回路部31は電池パック100の充電時に充電電流、充電電圧等を所定の条件に応じて調整、制御することで電池パック100の充電を安全且つ迅速に行っている。
【0059】
基板31Eは、平面視略長方形状であって吸気孔3aと第2ファン支持部33との間に配置されており、その上面に左端部から右端部にむかってラインフィルタ31A、FET31B、トランス31C、ダイオード31Dの順に配置されている。これらは充電時に特に発熱する素子である。」

(7)「【0060】
また、図6に示されるように、下ケース3に上ケース2が固定された状態で充電回路部31の上側に閉鎖部材25が位置するため、電池冷却風路5と回路冷却風路8とは互いに独立している。
・・・(中略)・・・
【0069】
ファン4は、吸気孔3a及び電池パック100の吸入孔101aから外気を吸入し排気孔2aから排出するように回転し、その外気の吸入から排出の過程において、電池冷却風路5と回路冷却風路8との2つの冷却風路を用いて、それぞれ電池パック100内の二次電池及び充電回路部31を冷却する。
【0070】
具体的には、図4及び図6に示すように、電池冷却風路5は、電池パック100の吸入孔101aから排出孔101c及び連通孔21aを経由して排気孔2aに至る経路である。ファン4が回転を開始すると、当該経路内に負圧が生じて、外気が電池パック100の吸入孔101aから電池パック100内に流入し、電池パック100内に流入した外気は、電池パック100内の図示せぬ二次電池を冷却した後に、排出孔101cから排出される。排出孔101cから排出された外気は、連通孔21aから充電装置1内に流入してダクト6を介してファン4に到達し、排気孔2aから充電装置1の外部に排出される。
【0071】
図5及び図6に示すように、回路冷却風路8は、充電装置1の吸気孔3aから排気孔2aに至る経路であり、ファン4が回転を開始すると、外気はまず吸気孔3aから充電装置1内に流入する。充電装置1内に流入した外気は、充電回路部31を冷却した後にファン4に到達し、排気孔2aから充電装置1の外部に排出される。
・・・(中略)・・・
【0073】
このように、連通孔21aと電池パック100の排出孔101cとが連通しているため、ファン4の回転により外気を電池パック100の吸入孔101aから電池パック100内に流入させることができ、電池パック100内の二次電池を冷却することができる。また、ファン4の回転により吸気孔3aから排気孔2aに向かう回路冷却風路8によって、充電回路部31も冷却することができる。そのため、充電回路部31を形成するトランス31Cやダイオード31D等の発熱体を耐熱仕様にする必要がなく、コストを削減することができる。更に、ダクト6を用いることで、回路冷却風路8と電池冷却風路5とは互いに仕切られて独立しており、電池パック100及び充電回路部31のそれぞれに対応した専用の冷却風路が提供されているため、電池パック100及び充電回路部31のどちらか一方を冷却した冷却風によって他方を冷却しなければならない事態を回避することがでる。このため、両者を十分に冷却することができ、温度上昇に起因する電池パック100内の二次電池の劣化及び充電回路部31を形成する素子の故障を抑制することができる。
・・・(中略)・・・
【0077】
また、ファン4は、吸気孔3a及び吸入孔101aから外気を吸引し排気孔2aから排出するように回転し、冷却風が流れる方向において排気孔2a側であって充電回路部31よりも下流側に位置しているため、ファン4は外気を吸気孔3aから吸い込む過程で充電回路部31を冷却し、また吸入孔101aから吸い込む過程で電池パック100を冷却して、排気孔2aから冷却風を排出することになる。このため、ファンから送り出した冷却風によって充電回路部31及び電池パック100を冷却する場合と比較して、外気の吸い込みから排出までが効率良く行われ、充電回路部31の冷却効率が上昇する。さらに、電池冷却風路5におけるダクト6は、段差部25bとリブ部23とのインロー構造により密閉性が高く保持されているため、ファン4による外気の吸入が効率よく行われる。
【0078】
また、ファン4は、充電回路部31に関して吸気孔3aの反対側に位置しているため、回路冷却風路8上において充電回路部31の一端側から他端側まで確実に冷却することができ、効率良く充電回路部31を冷却することができる。」

・上記(1)によれば、充電装置は、充電装置ケースと、充電装置ケース内部に収納された充電回路部と、充電回路部を冷却する冷却風を発生させるファンとにより構成されるものである。
・上記(2)によれば、充電装置ケースは、上ケースと下ケースとにより構成されている。そして図1及び6によれば、上ケースは、下ケースと対向するものである。
・上記(3)によれば、 上ケースは、電池接続部が設けられており、排気孔が形成されている。また、電池接続部は、電池パックと接続可能に設けられており、連通孔が形成されている。
・上記(4)によれば、 連通孔は、外気を取り込むものである。
・上記(5)によれば、 ダクトは、電池冷却風路を形成するものである。そして図4及び6によれば、電池冷却風路は、充電装置ケース内を通過するものである。
・上記(6)によれば、 下ケース3の内部空間に充電回路部が設けられ、充電回路部は電池パックの充電を行うものである。また、充電回路部は、FETとトランスとダイオード等により構成され、FETとトランスとダイオードは充電時に発熱する素子である。
・上記(7)によれば、 排気孔は、冷却風を排出するものである。

上記摘示事項及び図面を総合勘案すると、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

「下ケースと、下ケースと対向する上ケースとにより構成され、上ケースは、電池接続部が設けられ、冷却風を排出する排気孔が形成され、電池接続部は、電池パックと接続可能に設けられ、外気を取り込む連通孔が形成される、充電装置ケースと、
充電回路部を冷却する冷却風を発生させるファンと、
充電装置ケース内部に収納されて電池パックの充電を行い、充電時に発熱する素子であるFETとトランスとダイオード等により構成される充電回路部と、
充電装置ケース内を通過する電池冷却風路を形成するダクトと
により構成される充電装置。」

2.甲第2号証
甲第2号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(1)「【0043】
次に、本発明の電源装置における概略的な配置構成を、図4に基づき説明する。同図において、25は電源装置の外郭をなす筐体であって、この筐体25は長方形の対向する底板25Aおよび上板(図示せず)の間に、細長い左右の側板25Bと、正面側にある正面板25Cと、背面側にある背面板25Dとを配設して、全体が箱型矩形状に形成される。筐体25の一側すなわち正面側にある正面板25Cには、筐体25内に空気を取り入れるための吸気口26が設けられ、また吸気口26に対向して、筐体25の他側(図4では下側)にある背面板25Dには、筐体25内で熱を奪った空気を外部に排出するための排気口27が設けられる。当該吸気口26や排気口27の寸法形状や個数は、特に限定されない。また、電源装置を収容する被収容機器の筐体を利用して、吸気口26や排気口27を設けてもよい。」

(2)「【0050】
図5は、図4に対応して、より詳細な部品の配置を示したものである。また、図6?図7は、特にトランス3と出力側回路5に関する各部の構成を示したものである。図5において、トランス3,入力側回路4および出力側回路5は、共通の主プリント基板41上に実装される。この主プリント基板41は、この図では示していない筐体25の底板25A上に、隙間を有しつつ配置される。また、主プリント基板41の背面側には凹部41Aが形成され、ここに前記図4で示した矩形状の排気ファン28が装着される。したがって、ここでは主プリント基板41と排気ファン28が、筐体25の底板25Aをほぼ占有する形状に形成される。」

(3)「【0051】
入力側回路4の構成について、一方の対称構造部34Aは、前述した整流用ダイオード9A,9Cや、スイッチ素子12Aや、コンデンサ13Aの他に、整流用ダイオード9A,9Cおよびスイッチ素子12Aの部品背面と熱的に接続されるヒートシンク43を備えている。同様に、他方の対称構造部34Bも、前述した整流用ダイオード9B,9Dや、スイッチ素子12Bや、コンデンサ13Bの他に、整流用ダイオード9B,9Dおよびスイッチ素子12Bの部品背面と熱的に接続されるヒートシンク44を備えている。一方のヒートシンク43は、前記空気の流れFを妨げない方向に複数のフィン43Aが設けられ、また他方のヒートシンク44も、空気の流れFを妨げない方向に複数のフィン44Aが設けられる。また、これらの対称構造部34Aの各構成部品と、対称構造部34Bの各構成部品は、対称構造部34A,34B間での熱的なアンバランスを極力防ぐために、排気ファン28による空気の流れFに沿った風洞29の中心線(すなわち、排気ファン29の軸流方向中心線)Cに対し、平面視で左右対称に向かい合うように配置される。したがって図5に示すように、例えばヒートシンク43のフィン43Aが、中心線Cに対して外向きに延びて形成されていれば、別なヒートシンク44のフィン44Aも、中心線Cに対して外向きに延びて形成される。これは、後述する出力側回路5の各構成部品についても同じことが言える。
・・・(中略)・・・
【0064】
こうして、出力側回路5やトランス3から発生する熱を奪った空気の流れFは、次に入力側回路4で発生する熱を奪う。この入力側回路4においても、ヒートシンク43,ヒートシンク44が、3つのほぼ均等な空気の流れFA,FB,FCを形成する分岐部として機能している。そして、整流用ダイオード9A,9Cやスイッチ素子12Aからの熱が、熱伝導性の良好な例えばアルミニウム製のヒートシンク43に速やかに伝導し、ここでフィン43Aを通過する空気の流れFAによって、効果的に熱放散することができる。また、別な整流用ダイオード9B,9Dおよびスイッチ素子12Bからの熱も、ヒートシンク44に速やかに伝導し、ここでフィン44Aを通過する空気の流れFBによって、効果的に熱放散することができる。さらに、出力インダクタ18やトランス3を通過した別な空気の流れFCも、非対称構造部34Cを構成する昇圧回路11の各部品から熱を奪いつつ、他の空気の流れFA,FBと共に、排気ファン28に向かって移動する。こうして、排気ファン28の入口側に集められた各空気の流れFA,FB,FCは、当該排気ファン28を通過してそのまま排気口27から筐体25の外部へと排出される。こうして、出力側回路5のみならず、トランス3や入力側回路4を含めて、筐体25の内部に配置された各構成部品(回路素子および配線路)から発生する熱を、回路的にも均一に且つ効果的に放散することが可能になる。
【0065】
以上のように、本実施例では、負荷に電力を伝送する主回路(トランス3,入力側回路4および出力側回路5)を備え、少なくともこの主回路として回路的に対称な一方の回路素子(整流用ダイオード9A,9Cと、スイッチ素子12Aと、コンデンサ13Aと、出力ダイオード16と、出力コンデンサ19)と他方の回路素子(整流用ダイオード9B,9Dと、スイッチ素子12Bと、コンデンサ13Bと、出力ダイオード17と、出力コンデンサ20)が存在する電源装置において、吸気口26から排気口27に向かう空気の流れFを形成する送風手段として排気ファン28を配設し、一方の回路素子を含む第1の対称構造部としての対称構造部34A,35Aと、前記他方の回路素子を含む第2の対称構造部としての対称構造部34B,35Bを、空気の流れFに対して直交に並べて配置している。」

・上記(1)によれば、電源装置の筐体は、底板及び上板の間に左右の側板と正面板と背面板とを配設して箱型矩形状に形成され、正面板に吸気口が設けられ、背面板に排気口が設けられている。
・上記(2)によれば、主プリント基板と排気ファンは、筐体の底板に形成される。
・上記(3)によれば、ヒートシンクは、空気の流れを形成する分岐部として機能するものである。また、ヒートシンクは、整流用ダイオードやスイッチ素子からの熱が伝導し空気の流れによって熱放散するものである。そして図5によれば、ヒートシンクは、上板の方向に延びる部分と、該部分から左右の側板と正面板と背面板の方向に延びて、上板と整流用ダイオードやスイッチ素子との間に位置する部分とを備えるものである。

上記摘示事項及び図面を総合勘案すると、甲第2号証には、「底板及び上板の間に左右の側板と正面板と背面板とを配設して箱型矩形状に形成され、正面板に吸気口が設けられ、背面板に排気口が設けられた電源装置の筐体において、筐体の底板に主プリント基板と排気ファンが形成され、ヒートシンクは、空気の流れを形成する分岐部として機能し、該ヒートシンクは、上板の方向に延びる部分と、該部分から左右の側板と正面板と背面板の方向に延びて、上板と整流用ダイオードやスイッチ素子との間に位置する部分とを備え、整流用ダイオードやスイッチ素子からの熱が伝導し空気の流れによって熱放散する」技術事項が記載されている。

3.甲第3号証
甲第3号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「【0003】放熱板5は、プリント基板3に略垂直をなすように立設される垂直片5aを備え、その下端に一対の取付脚5bが設けられて、その取付脚5bにより、プリント基板3の高周波回路部1の弱電回路部2と反対側の端部であって、高周波回路部1を構成する発熱部品である電子部品4の近傍に取り付けられている。なお、同図において6は、高周波回路部1と弱電回路部2とを電気的に接続する接続部を示す。」
「【0004】図3は、従来の別の点灯装置(第2の従来例)を示すもので、前記第1の従来例と異なる点は、放熱板5の垂直片の上端に、水平片5cを設けて、放熱板5を略L字状をなすように形成した点であって、他は前記第1の従来例と同様に構成されている。」

上記段落[0003]及び[0004]によれば、甲第3号証には、「点灯装置において、放熱板は、プリント基板に略垂直をなすように立設された垂直片と、垂直片の上端に設けられた水平片とを備え、略L字状をなすように形成され、発熱部品の近傍に取り付けられる」技術事項が記載されている。

4.甲第4号証
甲第4号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「【0056】次に、図2を参照して、図1の示す電池パック100の充電時の動作について説明する。ここでは、次のことを仮定する。抵抗器R1の抵抗値が50mΩであるとする。また、npn形バイポーラトランジスタQ2のベース-エミッタ間順方向バイアス電圧VF(Q2)が約0.6Vであるとする。更に、充電器400は、その充電電流Icとして12Aを越える過大電流を流す異常なものであるとする。」

上記段落[0056]によれば、甲第4号証には、「充電器はその充電電流として12Aを越える過大電流を流す異常なものであるとする」技術事項が記載されている。

5.甲第5号証
甲第5号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。



」(7頁)

上記事項によれば、甲第5号証には、「充電器は12Aの充電電流が選択可能である」技術事項が記載されている。

6.甲第6号証
甲第6号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。



」(155頁)

上記事項によれば、甲第6号証には、「機器内の空気の温度上昇を一定値以下にするために必要な風量の式」に関する技術事項が記載されている。

第5 当審の判断
1.特許法第29条第2項について
(1)請求項1に係る発明について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

ア.甲1発明の「下ケース」、「上ケース」、「排気孔」、「電池パックと接続可能な充電装置ケース」及び「連通孔」は、本件特許発明1の「底部」、「上部」、「排気口」、「電池パックが装着可能なケース」及び「吸気口」に相当する。よって、甲1発明の「下ケースと、下ケースと対向する上ケースとにより構成され、上ケースは、電池接続部が設けられ、冷却風を排出する排気孔が形成され、電池接続部は、電池パックと接続可能に設けられ、外気を取り込む連通孔が形成される、充電装置ケース」は、本件特許発明1の「空気を取りこむ吸気口と冷却風を排気する排気口とが形成されると共に、底部と、前記底部と対向する上部とを有し、電池パックが装着可能なケース」に相当する。

イ.甲1発明の「充電回路部を冷却する冷却風を発生させるファン」は、充電回路部が充電装置ケース内部に設けられているから、本件特許発明1の「前記ケース内に冷却風を発生させるファン」に相当する。

ウ.甲1発明の「充電装置ケース内部に収納されて電池パックの充電を行い、充電時に発熱する素子であるFETとトランスとダイオード等により構成される充電回路部」は、本件特許発明1の「前記ケース内に設けられて前記電池パックを充電するように構成され、前記電池パックの充電に伴い発熱する複数の発熱素子を有する充電回路部」に相当する。

エ.甲1発明の「充電装置ケース内を通過する電池冷却風路を形成するダクト」は、本件特許発明1の「前記ケース内に前記冷却風が通過する冷却風路を画成する風路画成部材」に相当する。

オ.本件特許発明1は「前記風路画成部材は、前記上部と交差する第1方向となる上下方向に延びる第1画成部と、前記第1画成部から前記第1方向と交差する第2方向となる前後及び左右方向に延びて、前記第1方向において前記上部と前記複数の発熱素子のうちの少なくとも1つの発熱素子との間に位置する第2画成部と、を備え、前記冷却風の進行方向と交差する断面が略L字形状となるように構成され、前記ファンの駆動により前記冷却風を前記発熱素子に導き、前記発熱素子を冷却可能とするように構成されている」のに対し、甲1発明にはその旨の特定はされていない。

そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「 空気を取りこむ吸気口と冷却風を排気する排気口とが形成されると共に、底部と、前記底部と対向する上部とを有し、電池パックが装着可能なケースと、
前記ケース内に冷却風を発生させるファンと、
前記ケース内に設けられて前記電池パックを充電するように構成され、前記電池パックの充電に伴い発熱する複数の発熱素子を有する充電回路部と、
前記ケース内に前記冷却風が通過する冷却風路を画成する風路画成部材と
を有する充電装置」の点で一致し、
以下の点で相違する。

<相違点>
本件特許発明1は「前記風路画成部材は、前記上部と交差する第1方向となる上下方向に延びる第1画成部と、前記第1画成部から前記第1方向と交差する第2方向となる前後及び左右方向に延びて、前記第1方向において前記上部と前記複数の発熱素子のうちの少なくとも1つの発熱素子との間に位置する第2画成部と、を備え、前記冷却風の進行方向と交差する断面が略L字形状となるように構成され、前記ファンの駆動により前記冷却風を前記発熱素子に導き、前記発熱素子を冷却可能とするように構成されている」のに対し、甲1発明にはその旨の特定はされていない点。

上記相違点について検討する。
異議申立人は、特許異議申立書にて「甲第1号証も甲第2号証もその明細書中に発熱部品の冷却を如何に行うかについての課題も記載されており、特に、甲第1号証には、
【0025】 上記構成において、該電池冷却風路は、該連通孔から該ファンに至るダクトで構成されていることが好ましい。このような構成によると、低コストかつ簡便な方法で回路冷却風路と電池冷却風路とを互いに独立させることができる。
と記載されるとおり、電池冷却風路をダクト以外のもので構成する可能性までも示唆されているので(好ましいとは、他のものでも良いという示唆である)、甲第1号証のダクトを他の構成、例えば甲第2号証や甲第3号証の構成に置換することも当業者が容易に実施し得たものである。従って、甲第1号証の引用発明に甲第2号証または甲第3号証に記載の発明を適用して、引用発明1(「本件発明1」の誤記と認められる。)を完成することは、当業者にとって何ら困難なことではない。」旨を主張している。
ここで甲第1号証の回路冷却風路と電池冷却風路について検討するに、甲第1号証(段落[0058]、[0059]及び[0071]並びに図6を参照。)に記載された回路冷却風路は、充電時に発熱する素子により構成される充電回路部を冷却するものである。他方、甲第1号証(段落[0070]及び[0073]並びに図6を参照。)に記載された電池冷却風路は、電池パック内の二次電池を冷却するものであり、回路冷却風路と独立している。してみると、甲第1号証に記載された電池冷却風路を形成する甲1発明のダクトは、ファンの駆動により冷却風を充電回路部に導き、該充電回路部を冷却するものではない。
よって、甲1発明のダクトを甲第2号証の空気の流れを形成するヒートシンクの構成又は甲第3号証の略L字状をなすように形成された放熱板の構成に置換したとしても、甲1発明のダクトは、ファンの駆動により冷却風を充電回路部に導くものではないため、上記相違点に係る本件特許発明1の、風路画成部材を冷却風の進行方向と交差する断面が略L字形状となるように構成し、ファンの駆動により冷却風を発熱素子に導くという構成にはなり得ない。

したがって、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証又は甲第3号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明に対して、さらに「風路画成部材は、複数の発熱素子のうちの少なくとも1つの発熱素子の放熱用に設けられた放熱部材を備え、前記放熱部材が略L字形状を有する」という技術事項を追加したものである。よって、(1)に示した理由と同様の理由により、請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)請求項3に係る発明について
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明に対して、さらに「充電回路部は、複数の発熱素子が実装された回路基板を有し、第1画成部は、前記回路基板と上部とのうちの一方から他方に向けて立設され、冷却風路は、前記回路基板及び風路画成部材によって画成される」という技術事項を追加したものである。よって、(1)に示した理由と同様の理由により、請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)請求項5に係る発明について
請求項5に係る発明は、請求項1に係る発明に対して、さらに「複数の発熱素子は、ダイオード、FET、トランス及びコイルのうちの少なくとも1つであり、前記発熱素子を吸気口又は排気口の近傍に配置する」という技術事項を追加したものである。よって、(1)に示した理由と同様の理由により、請求項5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)請求項15に係る発明について
請求項15に係る発明は、請求項1に係る発明に対して、さらに「充電回路部は、電池パックを10A以上の充電電流で充電可能であって、ファンの風量、又は前記ファンによってケース内に発生する風量が13m^3/hr以上である」という技術事項を追加したものである。よって、(1)に示した理由と同様の理由により、請求項15に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.特許法第36条第6項第1号について
(1)請求項1に係る発明について
異議申立人は、特許異議申立書にて以下の主張をしている。
「第1画成部やその他の部材に関係して、その寸法や位置についての限定がないことから、発明の課題を解決するための手段が反映されていない。」、「第2画成部やその他の部材に関係して、その寸法や位置についての限定がないことから、発明の課題を解決するための手段が反映されていない。」、「第1画成部及び第2画成部に関して、吸気口と排気口に対する位置関係に関する限定がないことから、発明の課題を解決するための手段が反映されていない。」、「第1画成部と第2画成部が風路画成部材となるためには、発熱部材との関係で寸法が規定されるべきであるが、本件発明1にはそのような限定もなく、発明の課題を解決するための手段が反映されていない。」、「吸気口と排気口は、ケースの一側面とそれに直角に隣接して設けられた他の側面との間に配置されることが必要である。このことは、図8の実施の形態よりも明らかである。しかるに、この点についての限定がない本件発明1を定義する請求項1は、発明の課題を解決するための手段が反映されていない。」

そこで、異議申立人の主張を検討する。発明の詳細な説明には、「充電装置内部を効率良く冷却可能な充電装置を提供」するという課題が記載されている(本件特許明細書段落[0006]を参照。)。そうすると、第1画成部及び第2画成部の寸法や位置並びに吸気口及び排気口の位置についての限定がなくとも、請求項1に係る発明の風路画成部材により、風路画成部材がない場合と比較して、冷却風が発熱素子に導かれ効率の良い冷却ができるのは明らかである。よって、第1画成部及び第2画成部の寸法や位置並びに吸気口及び排気口の位置についての限定がないからといって、発明の課題を解決するための手段が反映されていないとすることはできない。したがって、請求項1に係る発明は、発明の課題を解決するための手段が反映されており、異議申立人の主張を採用することはできない。

また異議申立人は、特許異議申立書にて以下の主張をしている。
「本件発明1の構成要件E-3は、『前記冷却風の進行方向と交差する断面が略L字形状となるように構成され、』というものである。この点、進歩性に関して説明したように、『略L字形状』とは本件特許の実施形態に記載された平板状の第1画成部と第2画成部『のみ』からなる略L字形状そのものを示すのか、それとも断面に略L字形状を含む形状も含むのかが、不明である。例えば、下図に示す各断面形状は、何れもL字形状の部分を含むが、これらはL字形状とは言わず、T字、F字、7字、U字、ト字、十字、E字と呼ばれる。・・・(中略)・・・従って、『のみ』の限定がない本件発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。」

そこで、異議申立人の主張を検討する。請求項1に記載の「断面が略L字形状となるように構成され」るは、風路画成部材が略L字形状の断面に構成されることを特定するものであり、断面の一部に略L字形状を含む形状(T字、F字、7字、U字、ト字、十字、E字)を含むものではない。よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものではないため、異議申立人の主張を採用することはできない。

したがって、請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

(2)請求項2、3、5及び15に係る発明について
(1)に示した理由と同様の理由により、請求項1を直接又は間接的に引用した請求項2、3、5及び15に係る発明も、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3、5及び15に係る発明を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3、5及び15に係る発明を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-06-24 
出願番号 特願2017-526235(P2017-526235)
審決分類 P 1 652・ 537- Y (H02J)
P 1 652・ 121- Y (H02J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小池 堂夫  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 山田 正文
佐々木 洋
登録日 2018-09-14 
登録番号 特許第6399479号(P6399479)
権利者 工機ホールディングス株式会社
発明の名称 充電装置  
代理人 金 佳恵  
代理人 小泉 伸  
代理人 北澤 一浩  
代理人 福本 鉄平  
代理人 城臺 顕  

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