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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
管理番号 1353191
異議申立番号 異議2019-700191  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-03-08 
確定日 2019-07-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6391098号発明「製紙スラッジの脱水方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6391098号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 I 手続の経緯
特許第6391098号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成27年6月25日に出願され、平成30年8月31日にその特許権の設定登録がされ、同年9月19日に特許掲載公報が発行されたものである。その後、その全特許に対し、平成31年3月8日に特許異議申立人冨永道治(以下、単に「異議申立人」という。)から、特許異議の申立てが行われた。

II 特許請求の範囲の記載
特許第6391098号の請求項1?4の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
下記一般式(1)及び/又は下記一般式(2)で表されるカチオン性単量体、非イオン性単量体、及び下記一般式(3)で表されるアニオン性単量体1?8モル%の単量体混合物を重合した両性水溶性高分子であり、当該両性水溶性高分子の25℃における0.2質量%水溶液をAQV、0.5質量%の4質量%食塩水溶液中粘度をSLVとすると、両方の比が10≦AQV/SLV<30であり、SLVが20?100mPa・sの範囲である両性水溶性高分子を製紙スラッジに添加し脱水処理することを特徴とする製紙スラッジの脱水方法。
【化1】



一般式(1)
R_(1)は水素又はメチル基、R_(2)及びR_(3)は炭素数1?3のアルキル基あるいはヒドロキシアルキル基、R_(4)は水素、炭素数1?3のアルキル基、アルコキシル基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素又はNH、Bは炭素数2?4のアルキレン基又はアルコキシレン基、X_(1)は陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】



一般式(2)
R_(4)は水素又はメチル基、R_(5)、R_(6)は炭素数1?3のアルキル基あるいはヒドロキシアルキル基、X_(2)^(-)は陰イオンをそれぞれ表す。
【化3】



一般式(3)
R_(8)は水素又はCH_(2)COOY_(2)、QはSO_(3)、C_(6)H_(5)SO_(3)、CONHC(CH_(2))_(2)CH_(2)SO_(3)、C_(6)H_(5)COOあるいはCOO、R_(9)は水素、メチル基又はCOOY_(2)であり、Y_(1)、Y_(2)は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
【請求項2】
前記両性水溶性高分子が、前記単量体混合物の水溶液を調製した後、界面活性剤により水に非混和性有機液体を連続相、該単量体混合物水溶液を分散相となるよう乳化し、重合して製造された油中水型エマルジョンであることを特徴とする請求項1に記載の製紙スラッジの脱水方法。
【請求項3】
前記単量体混合物に対し、質量換算で架橋性単量体を5?20ppm共存させ重合した両性水溶性高分子であることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の製紙スラッジの脱水方法。
【請求項4】
前記製紙スラッジが、再生紙系であることを特徴とする請求項1?3の何れかに記載の製紙スラッジの脱水方法。」
[当審注:請求項1の一般式(2)の説明における「R_(4)」「R_(5)」「R_(6)」は、「R_(5)」「R_(6)」「R_(7)」の誤記(本件明細書の【0010】における一般式(2)の単量体の例を参照)であり、また、請求項1の「0.2質量%水溶液をAQV」についても、「0.2質量%水溶液粘度をAQV」の誤記(本件明細書の【0020】参照)であることは明らかであるので、以下、これらを「R_(5)」「R_(6)」「R_(7)」及び「0.2質量%水溶液(粘度)をAQV」と表記することとする。]

III 申立理由の概要
異議申立人は、主たる証拠として特開2014-233647号公報(以下、「文献1」という。)及び従たる証拠として、「文部省、社団法人日本化学会、学術用語集(増訂2版)、社団法人日本化学会発行、平成7年6月20日、p.189、261、603」(以下、「文献2」という。)、「社団法人日本化学会、標準化学用語辞典、丸善株式会社発行、平成3年3月30日、p.83、320、791」(以下、「文献3」という。)、「和田洋六、【ポイント解説】用水・排水の産業別処理技術(第1版1刷)、東京電機大学出版局発行、2011年5月10日、p.242-245」(以下、「文献4」という。)を提出し、請求項1?4に係る発明は、文献1に記載された発明であり、また、文献1に記載された発明に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものであるので、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである旨主張する。

IV 文献の記載
(1)文献1の記載
(a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集処理剤及びその凝集処理剤を使用した汚泥の脱水方法に関するものであり、詳しくは、特定の構造単位を有するカチオン性水溶性高分子の存在下、特定の水溶性単量体混合物を乳化重合し製造した油中水型エマルジョンからなる凝集処理剤及びその凝集処理剤を使用した汚泥の脱水方法に関する。」

(b)「「【0011】
本発明の油中水型エマルジョンからなる凝集処理剤を製造する際に架橋性単量体を共存させることができる。架橋性単量体を含有させて重合した油中水型エマルジョンからなる凝集処理剤、即ち架橋性水溶性高分子は、直鎖性高分子に比べて水中における分子の広がりが抑制される。そのためにより「密度の詰まった」分子形態として存在する。架橋性高分子が汚泥中に添加されると懸濁粒子に吸着し、粒子同士の接着剤として作用し結果として粒子の凝集が起こる。この時「密度の詰まった」分子形態であるため懸濁粒子表面と多点で結合し巨大フロック化せず、より締った強度の高いフロックを形成すると推定される。しかも強度の高いフロックが形成され汚泥脱水性の改善が発現する。
【0012】
架橋性単量体としては、メチレンビスアクリルアミドやエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの複数の重合性二重結合を有する単量体、あるいはN、N-ジメチルアクリルアミド単量体などの熱架橋性単量体がその一例である。添加率としては単量体混合物全質量に対し0.0005?0.1%であり、好ましくは0.001?0.05%であり、更に好ましくは0.001?0.03%である。また、重合度を調節するためイソプロピルアルコールを対単量体0.1?5質量%併用すると効果的である。」

(c)「【0034】
本発明の油中水型エマルジョンからなる凝集処理剤の適用可能な汚泥は、製紙排水、化学工業排水、食品工業排水などの生物処理したときに発生する余剰汚泥、あるいは都市下水、し尿、産業排水の処理で生じる有機性汚泥(いわゆる生汚泥、余剰汚泥、混合生汚泥、消化汚泥、凝沈・浮上汚泥およびこれらの混合物)に水に希釈することなく原液のままで添加される。汚泥に対する添加率は、汚泥種、脱水機種によっても異なるが、通常汚泥固形分に対し0.005?2.0質量%、好ましくは0.01?2.0質量%である。対象とする汚泥に特に限定されないが、繊維分の少ない汚泥、有機分含有量(VSS/SS)の高い汚泥、腐敗度の高い汚泥に対し特に有効であり好ましい。又、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、PAC、硫酸バンドなどの無機系凝集剤と併用しても良い。」

(d)「【実施例1】
【0037】
(合成例1)
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素導入管を備えた4つ口500mlセパラブルフラスコに沸点190℃ないし230℃のイソパラフィン137.5gにポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレート15.0gを仕込み溶解させた。別に、脱イオン水71.98g、80質量%アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(以下、DMQと略記)113.1g、80質量%メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(以下、DMCと略記)2.43g、80質量%アクリル酸(以下、AACと略記)4.2g、50質量%アクリルアミド(以下、AAMと略記)58.43g、ギ酸ナトリウム0.08g(対単量体0.06質量%)、N,N'-メチレンビスアクリルアミド0.0015g(対単量体0.0012質量%)、及びカチオン性水溶性高分子として35質量%ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(重量平均分子量50万)92.86g(対液6.4質量%)を各々採取し添加した。油と水溶液を混合し、ホモジナイザーにて8000rpmで2分間攪拌乳化した。この時の単量体組成は、DMQ/DMC/AAC/AAM=50/1/5/44(モル%)である。
【0038】
得られたエマルジョンを単量体溶液の温度を40?43℃に保ち、窒素置換を30分行なった後、ジメチル-2,2-アゾビスイソブチレート(和光純薬製V-601)1.9g(対液0.37質量%)を加え、重合反応を開始させた。42±2℃で12時間重合させ反応を完結させた。重合後、生成した油中水型エマルジョンに転相剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル10.0g(対液1.9質量%)、油溶性高分子として50質量%アクリル酸2-エチルへキシル/ジメチルアミノエチルメタクリレート(70/30モル%)共重合物を5.0g(対液0.5質量%)添加混合した。この分散液は、顕微鏡観察の結果、1?30μmの粒子であり製品粘度は300mPa・s 、0.2質量%水溶液粘度は499mPa・s、0.5質量%塩水溶液粘度は28.5mPa・sであった。これを試作品Aとする。」

(e)「【実施例2】
【0039】
(合成例2)
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素導入管を備えた4つ口500mlセパラブルフラスコに沸点190℃ないし230℃のイソパラフィン137.5gにポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレート15.0gを仕込み溶解させた。別に、脱イオン水2.34g、80質量%アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(DMQと略記)113.1g、80質量%メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(DMCと略記)2.43g、80質量%アクリル酸(AACと略記)4.2g、50質量%アクリルアミド(AAMと略記)58.43g、ギ酸ナトリウム0.08g(対単量体0.06質量%)、N,N'-メチレンビスアクリルアミド0.0015g(対単量体0.0012質量%)及びカチオン性水溶性高分子として20質量%ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(重量平均分子量50万)162.5g(対液6.4質量%)を各々採取し添加した。油と水溶液を混合し、ホモジナイザーにて8000rpmで2分間攪拌乳化した。この時の単量体組成は、DMQ/DMC/AAC/AAM=50/1/5/44(モル%)である。
【0040】
得られたエマルジョンを単量体溶液の温度を40?43℃に保ち、窒素置換を30分行なった後、ジメチル-2,2-アゾビスイソブチレート(和光純薬製V-601)1.9g(対液0.37質量%)を加え、重合反応を開始させた。42±2℃で12時間重合させ反応を完結させた。重合後、生成した油中水型エマルジョンに転相剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル10.0g(対液1.9質量%)、油溶性高分子として50質量%アクリル酸2-エチルへキシル/ジメチルアミノエチルメタクリレート(70/30モル%)共重合物を5.0g(対液0.5質量%)添加混合した。この分散液は、顕微鏡観察の結果、1?30μmの粒子であり、製品粘度は347mPa・s、0.2質量%水溶液粘度は964mPa・s、0.5質量%塩水溶液粘度は33.3mPa・sであった。これを試作品Bとする。」

(2)文献2の記載
文献2(p.189、261、603)には、汚泥はスラッジ(sludge)であることの記載がある。

(3)文献3の記載
文献3(p.83、320、791)には、汚泥は、文部科学省「学術用語集化学編(増訂2版)」に収録されている用語であり、また、汚泥はスラッジ(sludge)と同義語であり、さらに、(2)スラッジには、種々の水処理施設の沈殿槽などにおいて水から分離除去された汚泥物との意味があることの記載がある。

(4)文献4の記載
文献4(p242-245)には、木材や古紙からセルロースを取り出してパルプとすること、また、製紙工場排水の処理フロート[丸数字の1]では、沈殿槽の凝集沈殿及び余剰汚泥はスラッジ貯槽に入り、凝集剤を用いて、脱水機により、脱水スラッジが生成されることの記載がある。

V 文献1に記載の発明
上記「IV(1)」で示した文献1の記載事項の「(a)」ないし「(d)」からして、文献1には、『製紙排水を生物処理したときに発生する汚泥』の脱水方法として、
「単量体組成が、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(DMQ)/メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(DMC)/アクリル酸(AAC)/アクリルアミド(AAM)=50/1/5/44(モル%)である単量体組成物を、架橋性単量体としてのN,N'-メチレンビスアクリルアミドを用いて重合することで形成した重合体と、カチオン性水溶性高分子と、転相剤と、油溶性高分子とを含有する分散液を用いて『製紙排水を生物処理したときに発生する汚泥』の脱水方法であって、分散液の0.5質量%塩水溶液粘度が28.5mPa・sで、0.2質量%水溶液粘度が499mPa・sである、『製紙排水を生物処理したときに発生する汚泥』の脱水方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

VI 当審の判断
VI-1 請求項1に係る発明について
VI-1-1 特許法第29条第1項第3号について
請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)と引用発明とを対比する。
○引用発明の「『製紙排水を生物処理したときに発生する汚泥』」は、文献2?4の記載事項からして、「製紙スラッジ」であるといえるので、本件発明1の「製紙スラッジ」に相当する。

○引用発明の「アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(DMQ)」は、本件発明1の「一般式(1)で表されるカチオン性単量体」「【化1】




一般式(1)
R_(1)は水素又はメチル基、R_(2)、R_(3)は炭素数1?3のアルキルあるいはヒドロキシアルキル基、R_(4)は水素、炭素数1?3のアルキル基、炭素数7?20のアルキル基あるいはアリール基であり、同種でも異種でも良い、Aは酸素またはNH、Bは炭素数2?4のアルキレン基を表わす、X_(1)^(-)は陰イオンをそれぞれ表わす。」に相当する。

○引用発明の「メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(DMC)」は、本件発明1の「一般式(2)で表されるカチオン性単量体」「【化2】




一般式(2)
R_(5)は水素又はメチル基、R_(6)、R_(7)は炭素数1?3のアルキル基あるいはヒドロキシアルキル基、X_(2)^(-)は陰イオンをそれぞれ表す。」に相当する。

○引用発明の「アクリル酸(AAC)」「5」「(モル%)」は、本件発明1の「一般式(3)で表されるアニオン性単量体1?8モル%」「【化3】




一般式(3)
R_(8)は水素又はCH_(2)COOY_(2)、QはSO_(3)、C_(6)H_(5)SO_(3)、CONHC(CH_(2))_(2)CH_(2)SO_(3)、C_(6)H_(5)COOあるいはCOO、R_(9)は水素、メチル基又はCOOY_(2)であり、Y_(1)、Y_(2)は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。」に相当する。

○引用発明の「アクリルアミド(AAM)」は、本件発明1の「非イオン性単量体」に相当する。

○引用発明の「単量体組成が、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(DMQ)/メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(DMC)/アクリル酸(AAC)/アクリルアミド(AAM)」「である単量体組成物を」「重合することで形成した重合体」は、本件発明1の「一般式(1)及び/又は一般式(2)で表されるカチオン性単量体、非イオン性単量体、及び一般式(3)で表されるアニオン性単量体」「の単量体混合物を重合した両性水溶性高分子」に相当する。

上記より、両発明は、
「下記一般式(1)及び/又は下記一般式(2)で表されるカチオン性単量体、非イオン性単量体、及び下記一般式(3)で表されるアニオン性単量体1?8モル%の単量体混合物を重合した両性水溶性高分子であり、両性水溶性高分子を製紙スラッジに添加し脱水処理する製紙スラッジの脱水方法。
【化1】




一般式(1)
R_(1)は水素又はメチル基、R_(2)、R_(3)は炭素数1?3のアルキルあるいはヒドロキシアルキル基、R_(4)は水素、炭素数1?3のアルキル基、炭素数7?20のアルキル基あるいはアリール基であり、同種でも異種でも良い、Aは酸素またはNH、Bは炭素数2?4のアルキレン基を表わす、X_(1)^(-)は陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】




一般式(2)
R_(5)は水素又はメチル基、R_(6)、R_(7)は炭素数1?3のアルキル基あるいはヒドロキシアルキル基、X_(2)^(-)は陰イオンをそれぞれ表す。
【化3】



一般式(3)
R_(8)は水素又はCH_(2)COOY_(2)、QはSO_(3)、C_(6)H_(5)SO_(3)、CONHC(CH_(2))_(2)CH_(2)SO_(3)、C_(6)H_(5)COOあるいはCOO、R_(9)は水素、メチル基又はCOOY_(2)であり、Y_(1)、Y_(2)は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。」という点で一致し、
本件発明1は、両性水溶性高分子が「25℃における0.2質量%水溶液(粘度)をAQV、0.5質量%の4質量%食塩水溶液中粘度をSLVとすると、両方の比が10≦AQV/SLV<30であり、SLVが20?100mPa・sの範囲である」という物性(以下、単に「物性」という。)を有するものであるのに対して、引用発明は、「重合体(両性水溶性高分子)と、カチオン性水溶性高分子と、転相剤と、油溶性高分子とを含有する」「分散液の0.5質量%塩水溶液粘度が28.5mPa・sで、0.2質量%水溶液粘度が499mPa・sであ」って、両性水溶性高分子そのものの粘度を明らかにするものではない、つまり、両性水溶性高分子の上記「物性」を特定するものではない点で相違する。
以下、引用発明の両性水溶性高分子が、上記「物性」を有するものであるか否かについて検討する。
この検討にあたり、本件明細書の「【0020】
本発明における両性水溶性高分子は、25℃における0.2質量%水溶液粘度をAQV、前記両性水溶性高分子の0.5質量%の4質量%食塩水溶液中粘度をSLVとすると、両方の比が、
10≦AQV/SLV<30
の範囲である必要がある。この数値は架橋の度合いを表すのに使用することができる。架橋型のイオン性水溶性高分子は、分子内で架橋しているために、水中においても分子が広がり難い性質を有し、直鎖型高分子に較べれば水中での広がりは小さいはずであるが、架橋度が増加するに従い、B型粘度計(回転粘度計の一種)に測定した場合の粘度は大きくなる。この原因はB型粘度計のローター(測定時の回転子)と溶液との摩擦かあるいは絡み合いによるものと推定されるが正確には不明である。一方、架橋型のイオン性水溶性高分子の塩水中の粘度は、架橋度が増加するに従い低下していく。架橋によって分子が収縮しているので、塩水の多量のイオンによってその影響をより大きく受けるものと考えられる。従ってこれらの理由によって二つの粘度測定値の比、AQV/SLVは、架橋度が高くなるに従い大きくなる(架橋がさらに進み水不溶性になった場合は、この関係は成り立たない)。本発明における両性水溶性高分子では、この値は10以上、30未満の範囲であり、好ましくは10以上、25以下である。直鎖型水溶性高分子では、この値が10未満、架橋度が高い水溶性高分子では30以上であることを考慮すると、本発明における両性水溶性高分子は、架橋度が低い水溶性高分子であることが分かる。尚、AQVは、B型粘度計において2号ローター、30rpm(25℃)、SLVは、1号ローター、60rpm(25℃)で測定した値である。B型粘度計としては東京計器製B8M等が使用される。」をみてみると、本件発明1の両性水溶性高分子の上記「物性」は、架橋度が低い両性水溶性高分子であることに基くものであるといえる。
これに対して、引用発明は、上記で示したように、本件発明1と同じく「一般式(1)及び/又は一般式(2)で表されるカチオン性単量体、非イオン性単量体、及び一般式(3)で表されるアニオン性単量体1?8モル%の単量体混合物を重合した両性水溶性高分子」を用いるものであり、また、「架橋性単量体としてのN,N'-メチレンビスアクリルアミドを用い」て両性水溶性高分子を形成するものであるものの、文献1は、両性水溶性高分子の架橋度の程度について記載ないし示唆をするものではない。
そうすると、引用発明の両性水溶性高分子は、架橋度が低い両性水溶性高分子であることに基く上記「物性」を有するものであるとはいい難い。
したがって、上記相違点は、実質的な相違点であるといえるので、本件発明1は、文献1に記載された発明ではない。
よって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

VI-1-2 特許法第29条第2項について
上記「VI-1-1」で示したように、本件発明1の両性水溶性高分子の上記「物性」は、架橋度が低い両性水溶性高分子であることに基くものであるところ、文献1は、両性水溶性高分子の架橋度の程度について記載ないし示唆をするものではなく、また、文献2?4については、そもそも、両性水溶性高分子について何ら記載するものではなく、さらに、架橋度が低い両性水溶性高分子であることに基く上記「物性」が本件特許の出願前の周知事項であるともいえない。
そうすると、引用発明に、文献1?4の記載事項及び本件特許の出願前の周知事項を適用したとしても、上記相違点に係る本件発明1の両性水溶性高分子の上記「物性」を導き出すことはできない。
したがって、本件発明1は、文献1に記載された発明に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものではない。
よって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

VI-1-3 追加の検討
上記「IV(1)」で示した文献1の記載事項の「(e)」(【実施例2】(合成例2))の記載を基に発明(以下、「引用発明’」という)を認定した場合、
本件発明1は、両性水溶性高分子が「25℃における0.2質量%水溶液(粘度)をAQV、0.5質量%の4質量%食塩水溶液中粘度をSLVとすると、両方の比が10≦AQV/SLV<30であり、SLVが20?100mPa・sの範囲である」という物性(上記「物性」)を有するものであるのに対して、引用発明’は、「重合体(両性水溶性高分子)と、カチオン性水溶性高分子と、転相剤と、油溶性高分子とを含有する」「分散液の0.5質量%塩水溶液粘度が33.3mPa・sで、0.2質量%水溶液粘度が964mPa・sであ」って、両性水溶性高分子そのものの粘度を明らかにするものではない、つまり、両性水溶性高分子の上記「物性」を特定するものではない点で相違しているといえるところ、この場合であっても、上記「VI-1-1」及び「VI-1-2」で示した理由と同じ理由より、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではない、こととなる。

VI-1-4 小括
上記「VI-1-1」ないし「VI-1-3」からして、本件発明1について、異議申立人のする主張に理由はない。

VI-2 請求項2?4に係る発明について
請求項2?4に係る発明(以下、「本件発明2」?「本件発明4」という。)は、請求項1を引用するものであって、上記「VI-1」で示した相違点を有するものである。
そうすると、本件発明2?4は、本件発明1と同じく、文献1に記載された発明ではなく、また、文献1に記載された発明に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものでもないので、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではない。
したがって、本件発明2?4についても、異議申立人のする主張に理由はない。

VII むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-06-27 
出願番号 特願2015-127152(P2015-127152)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C02F)
P 1 651・ 121- Y (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 富永 正史  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 豊永 茂弘
櫛引 明佳
登録日 2018-08-31 
登録番号 特許第6391098号(P6391098)
権利者 ハイモ株式会社
発明の名称 製紙スラッジの脱水方法  

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