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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
管理番号 1353211
異議申立番号 異議2019-700304  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-17 
確定日 2019-07-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6408796号発明「レーザ顕微鏡装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6408796号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6408796号(請求項の数12。以下,「本件特許」という。)に係る出願は,平成26年6月11日の出願であって,平成30年9月28日に特許権の設定登録がされたものである。
平成30年10月17日に本件特許について特許掲載公報の発行がなされたところ,平成31年4月17日に特許異議申立人(以下,「申立人」という。)より請求項1ないし12に係る特許について本件特許異議の申立てがされた。


2 本件特許の各請求項に係る発明
本件特許の請求項1ないし12に係る発明(以下,それぞれを「本件特許発明1」ないし「本件特許発明12」といい,これらを総称して「本件特許発明」という。)は,それぞれ,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,当該請求項1ないし12の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
標本からの光を集光する対物レンズと,
該対物レンズにより集光された光を検出する複数の検出要素を有する光検出部と,
該光検出部に入射する光のビーム径と前記複数の検出要素による前記光検出部の有効検出領域とを略一致させる調整機構とを備え,
前記検出要素が,検出する光の強度に関わらず一定の強度信号を出力し,
前記光検出部が,各前記検出要素の出力の和を強度信号として出力するレーザ顕微鏡装置。
【請求項2】
前記調整機構が,前記対物レンズの射出NAに応じて前記ビーム径を調整する請求項1に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項3】
前記調整機構が,前記対物レンズにより集光された光を略平行光束にするコリメートレンズと,
前記対物レンズの射出NAに応じて予め決められた光軸方向の所定の位置に前記コリメートレンズを移動させる制御部とを備える請求項2に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項4】
前記調整機構が,前記対物レンズにより集光された光を略平行光束にする複数群の光学系からなるコリメートレンズ群と,
前記対物レンズの射出NAに応じて予め決められた光軸方向の所定の位置に,少なくとも1群以上の前記光学系を移動させる制御部とを備える請求項2に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項5】
光軸方向における前記光学系間の距離間隔が異なる複数のコリメートレンズ群を切り替え可能な切替機構を備え,
前記制御部が,前記対物レンズの射出NAに応じて予め決められた前記コリメートレンズ群に切り替える請求項4に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項6】
前記調整機構が,前記対物レンズにより集光された光を略平行光束にするコリメートレンズと,
該コリメートレンズと前記光検出部との間に光軸方向に移動可能に配され,前記コリメートレンズにより略平行光束に変換された光を略均一な強度分布で発散させる均一照明素子と,
前記対物レンズの射出NAに応じて予め決められた光軸方向の所定の位置に前記均一照明素子を移動させる制御部と備える請求項2に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項7】
前記所定の位置が前記対物レンズの射出NAにおける波長依存性を考慮して決められている請求項3から請求項6のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項8】
前記調整機構が,前記コリメートレンズにより略平行光束になった光を発散させる発散素子と,
該発散素子により発散した光を内面反射して前記光検出部の有効検出領域内に集光させる内面反射素子とを備える請求項3に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項9】
複数の前記光検出部が光軸に交差する方向にアレイ状に配列されている検出装置を備え,
前記調整機構が,前記検出装置に入射する光のビーム径と前記複数の光検出部による前記検出装置の有効検出領域とが略一致するよう,前記光のビーム径に応じて駆動させる前記光検出部を切り替える請求項1に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項10】
前記調整機構が,前記対物レンズの射出NAに応じて予め決められた前記光検出部を駆動させる請求項9に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項11】
前記光検出部が,前記検出装置の有効検出領域の中心部に配される前記検出要素ほど大きさが細かくなるように形成され,前記検出装置の有効検出領域の周辺部に配される前記検出要素ほど大きさが粗くなるように形成されている請求項9または請求項10に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項12】
前記光検出部が,PPD(Pixelated Photon Detector)である請求項1から請求項11のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。」


3 特許異議申立書に記載された申立の理由の概要
申立人が特許異議申立書において主張する,本件特許発明に係る特許を取り消すべき理由は,概略,次のとおりである。
本件特許発明1ないし12は,甲1に記載された発明と同一であって,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,その特許は同項の規定に違反してされたものである。(以下,当該理由を「申立理由1」という。)
また,本件特許発明1ないし4,7,11,12は,甲1に記載された発明,甲2に記載された技術,甲3又は甲4に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件特許発明5は,甲1に記載された発明,甲2に記載された技術,甲3又は甲4に記載された技術,甲7又は甲8に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件特許発明6,8は,甲1に記載された発明,甲2に記載された技術,甲3又は甲4に記載された技術,甲5に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件特許発明9,10は,甲1に記載された発明,甲2に記載された技術,甲3又は甲4に記載された技術,甲6に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,それらの特許は同条2項の規定に違反してされたものである。(以下,当該理由を「申立理由2」という。)

申立人が提出した証拠は,次のとおりである。(甲第1号証ないし甲第9号証を「甲1」ないし「甲9」という。)
甲1:国際公開第2013/135487号
甲2:Mike Hodges 外1名,“Single-Photon-Avalanche-Dioden”,Laser+Photonik,3|2013,独国,Carl Hanser Verlag,2013年,p30-33
甲3:Claus B.M[u]ler(決定注:ウムラウト記号付きのuを「[u]」と表示した。) 外1名,“Image Scanning Microscopy”,PHYSICAL REVIEW LETTERS,104,198101(2010),米国,The American Physical Society,2010年5月14日,p198101-1-198101-2
甲4:C.J.R.Sheppard,“Super-resolution in Conforcal Imaging”,Optok-International Journal for Light and Electron Optics,80(2):53 February 1988,独国,Wissenchaftliche Verlagsgesellchaft mbH,p53-54
甲5:特開平8-62039号公報
甲6:特開2012-133368号公報
甲7:特表2013-501951号公報
甲8:特開2006-313311号公報
甲9:特開2010-91694号公報


4 申立人が提出した甲1ないし甲4
(1)甲1
ア 甲1の記載
甲1(国際公開第2013/135487号)は,本件特許に係る出願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該甲1には,次の記載がある。(訳文中の下線は,後述する「甲1発明」の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「

」(1ページ1行ないし3ページ末)
(日本語訳)
「高解像度走査型顕微鏡

本発明は,試料を照射するための照射装置と,試料上に点スポットもしくは線スポットを走査させるための,及び,点スポットもしくは線スポットを,撮像倍率のもとで検出平面内に回折限界の静止単一画像に撮像するための撮像装置と,撮像倍率を考慮して回折限界の単一画像の半値幅の少なくとも2倍の大きさである空間分解能で,様々な走査位置について検出平面内の単一画像を捕捉するための検出装置と,検出装置のデータから走査位置の単一画像の回折構造を評価するための,及び,回折限界を超えて高められた分解能を有する試料の画像を生成するための評価装置と,を備えた試料の高分解能走査顕微鏡検査のための顕微鏡に関する。また,本発明は,試料の高分解能走査顕微鏡検査のための方法に関し,この方法では,試料を照射し,試料上を走査するように導かれる点スポットもしくは線スポットを単一画像に撮像し,その際,スポットを撮像倍率のもとで,回折限界で単一画像に撮像し,単一画像が検出平面内に静止しており,様々な走査位置について,撮像倍率を考慮して回折限界の単一画像の半値幅の少なくとも2倍の大きさの空間分解能で単一画像を捕捉することにより,単一画像の回折構造を捕捉し,各走査位置について単一画像の回折構造を評価し,回折限界を超えて高められた分解能を有する試料の画像を生成する。

このような顕微鏡あるいは顕微鏡検査方法が,例えば,C.ミュラー及びJ.エンダーライン,Physical Review Letters,104,198101(2010)より,もしくは従来技術に関してさらなる例証を挙げている欧州特許出願公開第2317362号明細書より知られている。

この手法では,スポットを回折限界で検出平面上に撮像することによって,分解能の向上が達成される。回折限界の撮像は,点スポットをエアリー・ディスクとして撮像する。この回折ディスクは,その構造が分解可能となるように検出平面内で捕捉される。したがって,顕微鏡の撮像性能に関して,検出側でオーバーサンプリングが行われる。点スポットの撮像の際に,エアリー・ディスクの形状が分解される。前述の文献に記載の,これに関するその開示が本明細書に完全に含まれる,回折構造の適切な評価によって,回折限界の2倍の分解能向上が達成される。

しかし,その際,検出側では必然的に,このようにして試料上でサンプリングされる各点について,従来のレーザ走査顕微鏡(以下では,LSMとも略される)と比べて,何倍もの量の画像情報を有する単一画像を撮影しなければならない。スポットの単一画像の構造を,例えば16ピクセルで捕捉するとすれば,スポットごとに16倍のデータ量を有するだけでなく,通常のピンホール検出の場合にはLSMの検出器上に落ちるであろう放射強度の,平均して16分の1しか個々のピクセルが受けない。当然ながら,放射強度は単一画像の構造,例えばエアリー・ディスクにわたって均一には分配されないので,実際にはそれどころか,この構造の縁部に落ちる放射強度はnピクセルの場合の1/nの平均値よりも著しく小さくなる。

したがって,検出側において高分解能で放射量を捕捉可能にするという課題に直面する。通常顕微鏡検査で使用される従来のCCDアレイでは十分なSN比を達成できないので,画像撮影時間の延長はそれ自体が既にこの用途において不利であるが,そうしたとしても助けにはならない。APDアレイもまた暗騒音が大きいという問題があるので,測定時間を延長したとしても,不十分なSN比しか得られない。CMOS検出器についても同様であるが,この場合はさらに,スポットの回折限界の単一画像が落ちるピクセルが少な過ぎるので,検出素子のサイズの点でも不利である。PMTアレイは同様の設置空間の問題を伴っている。同様にPMTアレイではピクセルが大き過ぎる。特にこの設置空間の問題は,存在するLSM構造への統合が可能である場合のみ,装置の分配のような開発努力によって実現可能であることによる。しかし,ここでは単一画像の所定のサイズが与えられている。面積がより大きい検出器は,画像を再度有意義に,つまり数倍に拡大する光学系が追加的に設けられている場合のみ実現可能であろう。回折限界の構造をさらなる撮像誤差を含めずに得ようとすれば,このような光学系は構成するのが非常に高価である。
・・・(中略)・・・
したがって,本発明の基礎となる課題は,同様に高分解能を達成することが可能な顕微鏡もしくは顕微鏡検査方法を提示することである。特に,高分解能顕微鏡において高速の画像獲得が可能になる。」

(イ) 「

」(4ページ1行ないし5ページ5行)
(日本語訳)
「本発明は,冒頭に挙げた種類の顕微鏡を用いてこの課題を解決する。この顕微鏡では,検出装置が,ピクセルを備えており単一画像よりも大きい検出器アレイと,検出器アレイの上流に配置され,検出平面からの放射線を非撮像的に検出器アレイのピクセル上に分配する非撮像の再分配素子とを備えている。

本発明は,冒頭に挙げた種類の方法を用いてこの課題を解決する。この方法では,ピクセルを備えており単一画像よりも大きい検出器アレイを設け,検出平面からの単一画像の放射線を非撮像的に検出器アレイのピクセル上に再分配する。

検出平面は試料内のスポットの平面と共役であり,通常のLSMのピンホール平面に相当する。

本発明の枠内では,試料上でサンプリングされるスポットが検出平面内に静止して撮像される。その後,検出平面からの放射線は非撮像的に再分配されて検出器アレイに導かれる。その際,「非撮像的」という概念は,検出平面内に存在する単一画像に関するものである。当然ながら,それにもかかわらず,この単一画像の個々の面領域を撮像原理に従って撮像することができる。その限りでは,検出器アレイと再分配素子との間には,完全に撮像する光学系が位置していてもよい。しかし,検出平面内に存在する単一画像は,再分配の際にそのようなものとして得られない。

回折限界という概念は,アッベの理論による回折限界に限定されるものではなく,実際の不十分さ又は制限によって理論上の最大値を20%下回る場合も含まれる。その場合も,単一画像はここでは回折構造と呼ばれる構造を有している。この構造がオーバーサンプリングされる。

この原理によって,単一画像にサイズが適合しない検出アレイを使用することが可能になる。検出器アレイの少なくとも1つの面積は,捕捉対象の単一画像より大きい,もしくは小さい。様々な幾何学的構成という概念には,検出器アレイの様々な面積だけでなく,検出平面内の単一画像の寸法の高さ及び幅に関して様々なアスペクト比を有する配置も含まれる。追加的に,検出器アレイのピクセルは,要求される分解能に対して大き過ぎてもよい。検出器アレイのピクセル配置の輪郭が,検出平面内で単一画像が有する輪郭と基本的に異なっていることも許容される。最後に,本発明によれば,検出器アレイは検出平面内の単一画像とサイズが異なっている。この方法における再分配あるいは顕微鏡における再分配素子によって,単一画像とそのサイズによってもたらされる寸法の制限及びピクセル・サイズの制限を考慮する必要なく,検出器アレイを選定することが可能になる。特に,検出器アレイとして,検出器行を使用することができる。」

(ウ) 「

」(5ページ31行ないし6ページ30行)
(日本語訳)
「再分配あるいは再分配素子を実現するための1つの可能性は,光ファイバー束を使用することである。これを好適には,多モード光ファイバーとして形成してもよい。この束は,その輪郭が検出平面内の回折限界の単一画像の面積に足りる,検出平面内に配置された入口を有している。これに対して,光ファイバーの出口は,上流に検出器アレイが配置された,入口の幾何学的配置とは異なる幾何学的配置で設けられている。その際,光ファイバーの出口側端部を,検出器アレイのピクセル上に直接導いてもよい。検出器行,例えばAPD行又はPMT行に楽に差し込めるように,束の出口がプラグ内に束ねられていれば特に有利である。

本発明を理解する上で重要なことは,検出平面内の単一画像を分解するのに用いられる検出器アレイのピクセルと画像ピクセルとを区別することである。概して,各画像ピクセルは検出器アレイのピクセルに正確に割り当てられているが,これらの配置の点で両者は異なっている。中でも本発明の特徴は,検出平面において放射線が画像ピクセルに吸収され,この画像ピクセルがそのサイズ及び配置の点で単一画像のオーバーサンプリングを行うことである。このようにして,単一画像が回折限界で生成されることから回折構造となる,単一画像の構造が分解される。再分配素子は,画像ピクセルが設けられた入口側を有している。入口側は検出平面内に位置している。再分配素子は,各画像ピクセルの放射線を検出器アレイのピクセルへ導く。画像ピクセルから検出器アレイのピクセルへの割り当ては,画像構造を保持しないので,単一画像に関する再分配は非撮像的である。つまり,本発明はまた,汎用的な顕微鏡において,検出装置が,画像ピクセルによって放射線が吸収される,検出平面に位置する入口側を有する非撮像的な再分配素子を備えていることを特徴とする。再分配素子は,画像ピクセルにて吸収された放射線が検出器アレイのピクセルに導かれる出口側をさらに備えており,その際,単一画像に関して,放射線が入口側から出口側へ非撮像的に再分配される。同様に,本発明による方法は,汎用的な方法において,放射線が検出平面内で画像ピクセルによって吸収され,この放射線が単一画像に関して非撮像的に検出器アレイのピクセルに再分配されることを特徴とする。検出器アレイは,そのピクセルの配置及びサイズの点で,検出平面内の画像ピクセルの配置及び/もしくはサイズと異なっている。さらに,再分配素子の検出平面内の画像ピクセルは,回折限界に関して単一画像の回折構造がオーバーサンプリングされるように設けられる。」

(エ) 「

」(7ページ19ないし末行)
(日本語訳)
「LSMでは,所望の分解能に応じて様々な対物レンズが使用される。対物レンズの交換によって,検出平面内の単一画像の面積が変化する。そのため,撮像方向において検出平面の上流に,単一画像のサイズを検出装置のサイズに適合させるズーム光学系を配置することが好ましい。このようなズーム光学系は,大幅に100%に満たないパーセント範囲内で単一画像のサイズを変化させる。つまり,冒頭で不利であると説明した単一画像のサイズの増倍よりも,非常に容易に実行可能である。

好ましくは,試料の照射は,通常のLSMと同様に走査によって行われる。これは必須ではないが,そうすれば最大の分解能向上が得られる。試料を走査によって照射する場合は,照射装置と撮像装置とが共通の走査装置を有していることが目的に適っている。この走査装置は,試料上に照射スポットを導き,試料が撮像される,照射スポットと一致するスポットを,同時に検出器に関して再び走査するので,単一画像が検出平面に静止する。このような構成では,ズーム光学系を,照射装置及び撮像装置の共通部分に置くことができる。そうすれば,ズーム光学系によって,単一画像を検出平面内の検出器のサイズに適合させることが可能になるだけでなく,追加的に,利用可能な照射放射線を,対物レンズの選択に伴い変化し得る対物レンズ瞳に,エッジ損失なく完全に結合させることができる。」

(オ) 「

」(9ページ17ないし23行)
(日本語訳)
「図1は,高分解能顕微鏡検査のためのレーザ走査顕微鏡の概略図,
図2は,図1の顕微鏡の検出装置の拡大図,
・・・(中略)・・・
図5は,検出器フィールドのサイズを適合させるためのズーム光学系による,図1の顕微鏡の発展構成の図,
図6は,ズーム光学系に関して,及び多色撮像のための発展構成に関して,図5の顕微鏡の変形である図,」

(カ) 「

」(9ページ30行ないし11ページ25行)
(日本語訳)
「図1は,試料2の顕微鏡検査のために形成されたレーザ走査顕微鏡1の概略図である。レーザ走査顕微鏡(以下LSMと略する)1は,制御装置Cによって制御され,照射放射線経路3及び撮像放射線経路4を含んでいる。照射放射線経路は,試料2内のスポットを照射し,撮像照射経路4は,検出のためにこのスポットを回折限界で撮像する。照射放射線経路3及び撮像放射線経路4は多数の素子を共有している。しかし,このことは,試料2の走査によるスポット照射と同様に,それほど必須ではない。試料を広範囲照射してもよい。

LSM1では,試料2の照射が,それ以上には機能的に必要ではない偏向ミラー6及びレンズ7を介してミラー8上に結合されるレーザ光5を用いて行われる。ミラー8は,レーザ光5が,反射角度のもとで発光フィルタ9に落ちるようにする。図示を明確にするために,レーザ光5についてはその主軸のみが描かれている。

発光フィルタ9での反射後,レーザ光5はスキャナ10によって2軸に偏向されて,レンズ11及び12によって対物レンズ13を通って試料2のスポット14に集束される。その際,スポットは図1の図示では点状であるが,線状のスポットも可能である。スポット14において励起された蛍光放射線が,対物レンズ13,レンズ11及び12を介して再びスキャナ10に到達し,その後,撮像方向において再び静止した光線が存在する。この光線は,スポット14の蛍光放射線をその波長に関して選択する機能,特に,例えば励起放射線として使用可能なレーザ光5の照射放射線から蛍光放射線を分離する機能を有する発光フィルタ9及び15を通って落ちる。レンズ16は,スポット14が全体として,検出平面18に位置する回折限界の画像17に撮像されるようにする。検出平面18は,試料2のスポット14が位置する平面と共役な平面である。スポット14の画像17は,検出平面18において,以下に図2から図4に基づいてより詳細に説明される検出装置19によって撮影される。ここで重要なことは,検出装置19が,検出平面18内のスポット14の回折限界の画像17を空間的に分解することである。

制御装置Cは,LSM1の全ての構成要素,特にスキャナ10及び検出装置19を制御する。制御装置は様々な走査位置について,各個々の画像17のデータを記録し,その回折構造を分析して試料2の高分解能の全体画像を生成する。

図1のLSMは,例示的に,試料上でサンプリングされる唯一のスポットを示している。しかし,例えば図1の紙面に対して垂直に延在する,線スポットによるサンプリングも可能である。また,図1のLSMを,試料内の隣接して位置する複数の点スポットがサンプリングされるように構成することも可能である。その場合,これらの点スポットに対応する単一画像17が,検出平面18内に同様に隣接することになる。その場合,検出装置19は,隣接して位置する単一画像17を検出平面18内で捕捉するために相応に構成されている。

図2では検出装置19が拡大されて図示されている。この検出装置は,検出器アレイ24に供給する光ファイバー束20から構成されている。光ファイバー束20は単一光ファイバー21から形成されている。光ファイバー21の両端は,検出平面18内に位置する光ファイバー束入口22を形成している。したがって,光ファイバー21の個々の端部は,スポット14の回折限界の画像17を撮影するのに用いられるピクセルである。図1の実施形態ではスポット14が例示的に点スポットであるので,画像17は,図1及び図2において検出平面18によって示されている円の内部にその面積が位置するエアリー・ディスクである。つまり,光ファイバー束入口22の面積は,エアリー・ディスクの面積が覆われる程の大きさである。光ファイバー束20内の個々の光ファイバー21の出口は,光ファイバー束入口22とは異なる幾何学的配置で,つまり,光ファイバー21の出口側の端部が内部に隣接して位置する,長さ方向に延在するプラグ23の形で配置されている。プラグ23は,検出器セル24の幾何学的配置に適合するように構成されている。すなわち,光ファイバー21の各出口側の端部が,検出器行のピクセル25のちょうど前に位置している。

再分配素子の幾何学的面積は非常に基本的である。すなわち,図4ではファイバー束によって行われているが,その実施方法に関わらず,再分配素子の幾何学的面積は,入口側で単一画像(あるいは,複数の点スポットの場合には隣接して位置する単一画像)の面積に適合している。再分配素子は,サンプリング原理の尺度で,単一画像17の強度分布が回折限界に関してオーバーサンプリングされるように,検出平面18から放射線を吸収する機能を有している。つまり再分配素子は,検出平面18内に位置するピクセル(図3の構成では光ファイバーの入口端部によって形成されている)を有しており,このピクセルが,検出平面18における撮像倍率を考慮して回折限界から得られる分解可能な最小構造の少なくとも2分の1倍の大きさである。」

(キ) 「

・・・(中略)・・・

」(12ページ29行ないし14ページ末行)
(日本語訳)
「図5は図1のLSM1の発展構成を示しており,このLSMでは検出平面18の上流にズーム光学系27が配置されている。図1の構成では検出平面18が配置されていた共役な平面が,今では中間像平面28を形成しており,この平面からズーム光学系27が放射線を吸収して検出平面18に導く。ズーム光学系27によって,画像17を最適に検出装置19の入口の面積に適合させることができる。

図6は図1のレーザ走査顕微鏡のさらなる変形を示している。まずここでは,ズーム光学系がズーム光学系29として,照射放射線経路3及び撮像放射線経路4によって通過される放射線経路の部分に位置するように配置されている。これにより,画像17のサイズを検出装置19の入口側に適合させることができるだけでなく,撮像放射線経路4に関して対物レンズ13の瞳の充填及びレーザ光5の利用を適合させることができるという利点が得られる。

追加的に図6では,放射線を2つの別々の色チャンネルに分離するビーム・スプリッタを発光フィルタ9の下流に配置することによって,LSM1が2つのチャンネルを持つように形成されている。色チャンネルの対応する素子はそれぞれ,図1のLSM1で撮像方向において発光フィルタ9の下流に配置されていた素子にそれぞれ対応している。図6の図示では,2つの色チャンネルが,符号の末尾「a」あるいは「b」によって区別されている。

もちろん,2つの色チャンネルを有する実施方法は,ズーム光学系29の使用とは無関係である。しかし,この組み合わせには,両方の色チャンネルにおいてそれぞれ独立して設けなければならず,それにより二重に利用可能となるズーム光学系27が,1度しか必要にならないという利点がある。しかし,当然ながら,ズーム光学系27を図1による構成においても使用して,ズーム光学系29を用いずに図6のLSM1を実現してもよい。
・・・(中略)・・・
図8は,図7の検出装置19の発展構成を示しており,この構成では,放射線を特に良好に検出器行上に分配する屈折素子35がレンズ32の上流に配置されている。

既に言及したように,検出器アレイ24は,その幾何学的形状に関して,さらなる制限なく選定することができる。その場合,当然ながら,検出装置19内の再分配素子を対応する検出器アレイに適合させなければならない。画像17を分解するのに用いられる個々のピクセルは,究極的にはそのサイズに関して,検出器アレイ24によって規定されるのではなく,検出平面18からの放射線の再分配を行う素子によって規定される。エアリー・ディスクの場合,回折限界の撮像ではディスクの直径が,公式によれば1.22・λ/NAであり,ここで,λは撮像される放射線の平均の波長,NAは対物レンズ13の開口数である。その場合,半値幅は0.15・λ/NAである。高分解能を達成するには,検出の際の空間分解能をこの半値幅の2倍の大きさにする,すなわち半値幅を2度サンプリングすることで足りる。したがって,ファセット素子31あるいは光ファイバー束入口22における光ファイバー21の端部は,回折限界の単一画像の半値幅の,最大で半分の大きさであってもよい。もちろんこれは,光学系が対物レンズ13に応じて作用する撮像倍率の考慮した場合に有効である。つまり,もっとも単純な場合には,半値幅当たり検出平面18内の4×4アレイのピクセルで十分過ぎる程であろう。

図5及び図6に基づいて説明したズーム光学系によって,スポット14の回折限界の画像17の回折分布が検出装置19の入口面を最適に満たすような適合が可能になる他,さらに別の運用形式,つまり,検出平面18内に2つ以上のエアリー・ディスクが撮像される運用形式もまた可能になる。検出装置19上に2つ以上のエアリー・ディスクが撮像される測定では,試料2のさらなる深さ平面からの光を,検出装置19の外側のピクセルにおいて検出する。その際,画像を処理する過程で,LSM1の深さ分解能に影響を与えることなく,追加的な信号強度が得られる。したがって,ズーム光学系27あるいは29によって,画像のSN比と深さ分解能との間の妥協点を設定することが可能になる。」

(ク) 「

」(15ページ1ないし23行)
(日本語訳) 「特許請求の範囲

1.試料(2)の高分解能走査顕微鏡検査のための顕微鏡であって,
- 該試料(2)を照射するための照射装置(3)と,
- 該試料(2)上に少なくとも1つの点スポットもしくは線スポット(14)を走査させるための,及び,該点スポットもしくは線スポット(14)を,撮像倍率のもとで検出平面(18)内に回折限界の静止単一画像(17)に撮像するための撮像装置(4)と,
- 該撮像倍率を考慮して該回折限界の単一画像(17)の半値幅の少なくとも2倍の大きさである空間分解能で,様々な走査位置について該検出平面(18)内の該単一画像(17)を捕捉するための検出装置(19)と,
- 該検出装置(19)のデータから,該走査位置の該単一画像の回折構造を評価するための,及び,回折限界を超えて高められた分解能を有する該試料(2)の画像を生成するための評価装置(C)とを備えた顕微鏡において,
- 該検出装置(19)が,
- ピクセル(25)を備えており該単一画像(17)より大きい検出器アレイ(24)と,
- 該検出器アレイ(24)の上流に配置され,該検出平面(18)からの放射線を非撮像的に該検出器アレイ(24)の該ピクセル(25)上に分配する非撮像の再分配素子(20?21;30?34;30?35)とを備えている,顕微鏡。」

(ケ) 「

・・・(中略)・・・



イ 甲1の記載から把握される発明
前記(ア)ないし(ケ)で摘記した甲1の記載から,請求項1に係る顕微鏡の実施形態としての図5に示されたレーザ走査顕微鏡1を把握できるところ,当該図5に示されたレーザ走査顕微鏡1が,ズーム光学系27を設け,蛍光放射線が,レンズ16,ズーム光学系27を通って,検出平面18にスポット14の回折限界の画像17であるエアリー・ディスクが形成されるように構成したこと以外は,図1に示されたレーザ走査顕微鏡1と同じ構成を有していることは,図1及び図5による図示等から明らかである。
したがって,甲1には,図5に示されたレーザ走査顕微鏡1に関して,次の発明が記載されていると認められる。

「スキャナ10と,レンズ11及び12と,対物レンズ13と,発光フィルタ9及び15と,レンズ16と,ズーム光学系27と,検出装置19と,制御装置Cとを有し,
試料2の照射がレーザ光5を用いて行われ,前記レーザ光5は前記スキャナ10によって2軸に偏向され,前記レンズ11及び12によって前記対物レンズ13を通って前記試料2上の点状のスポット14に集束され,前記スポット14において励起された蛍光放射線が,前記対物レンズ13,前記レンズ11及び12を介して再び前記スキャナ10に到達し,その後,レーザ光5から蛍光放射線を分離する機能を有する前記発光フィルタ9及び15を通った後,前記レンズ16,前記ズーム光学系27を通って,検出平面18に前記スポット14の回折限界の画像17であるエアリー・ディスクが形成され,前記エアリー・ディスクを前記検出装置19によって撮影し,前記制御装置Cが,様々な走査位置について,各個々のエアリー・ディスクのデータを記録し,その回折構造を分析して試料2の高分解能の全体画像を生成するよう構成された,レーザ走査顕微鏡1であって,
前記検出装置19は,複数の光ファイバー21により形成された光ファイバー束20と,検出器アレイ24とから構成され,
前記光ファイバー束20の入口22は,前記検出平面18内に位置し,その面積が前記エアリー・ディスクの面積が覆われる程の大きさであり,
前記光ファイバー束20の入口22における各光ファイバー21の端部は,それぞれ,前記エアリー・ディスクの半値幅の最大で半分の大きさを有し,前記エアリー・ディスクを撮影するのに用いられるピクセルであり,
前記光ファイバー束20の各光ファイバー21の出口側の端部は,それぞれ,前記検出器アレイ24の各ピクセル25のちょうど前に位置し,
前記対物レンズ13が交換されても,前記ズーム光学系27によって,前記エアリー・ディスクの面積を前記光ファイバー束20の入口22の面積に適合させることができ,
回折構造の適切な評価によって,回折限界の2倍の分解能が達成できる,
レーザ走査顕微鏡1。」(以下,「甲1発明」という。)

(2)甲2の記載
甲2(“Single-Photon-Avalanche-Dioden”)は,本件特許に係る出願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該甲2には,次の記載がある。
ア 「

」(甲2-1)
(日本語訳)
「単一光子アバランシェ・ダイオード
改良されたAPDデザインは効果的な単一光子検出器を実現する
25年前はほとんど誰も21世紀における単一光子検出器の意義を想像することができなかった。今日では研究者及びエンジニアは,弱い光信号を検出するために,この技術を信頼している。
Mike Hodges
Stephanie Grabher
伝統的な検出器が中間信号と雑音をもはや見分けることができない用途において,単一光子検出器は活性になる。この顕著な例は,量子暗号化技術,スペクトロスコピー,LIDAR用途,DNA分析,粒子測定,蛍光顕微鏡又は単一分子検出である。
かかる場合に検出される信号強度のオーダーを考慮すると,なぜ単一光子検出について論ずるのかが明らかになる。ある光出力に相応する秒毎の甲指数は,以下の式で表される:
N(λ)=5.03×10^(15)・λ・P
ここで,Pはワットでの光出力,λはnmでの波長に相当する。したがって,405nmの波長における1fWは,毎秒2000光子に相当する(図1)。
上述の用途はそれらの主題において大きく異なるが,それらは1つの共通点を有する:非常に低い背景雑音を同時に有する非常に効率的な単一光子カウンターを必要とすることである。この目的のために,以下では,単一光子検出器のための種々の技術が紹介される。
光電子増倍管
光電子増倍管(PMT)は,入射した光子が二次電子増倍管(SEV)を介した内部増幅を用いて電気信号に変換される真空管の特別な形態である。その際,SEVの端部におけるアノードに測定可能な電気的利得をもたらす雪崩状効果が生じる。PMTの作動のために,1?3kVの範囲の著しく高い電圧が必要とされる。PMTの模式的な構成は図2に表されている。

イ 「

」(甲2-2)
(日本語訳)
「個別の光子を検出するために,PMTはいわゆる「ガイガーモード」でも作動されることができる。もっとも,ここでは,著しく高い内部電流のために,装置は各光子発生後にゼロに設定されなければならない。このことは,さらなる光子が検出されることができないムダ時間をもたらす。
種々のスペクトル特性を有する異なるカソード材料は,好ましいスペクトル領域に応じて使用される。これらの材料はまず青又はUVは超領域において最も敏感である一方で,今日では,IR感度が向上したPMTもユーザーに提供されている。通常の場合は,PMTは比較的大きな活性面積(75mm直径まで)を備えており,非常に高い暗カウントレートを回避するために,この活性面積を冷却する必要がある。さらに,PMTは外部磁界に対して敏感であり,「アフターパルス」が多くなる傾向にある:検出されるべき信号に直接関係しない出力パルスを生成する効果である。
APDアレイ
フォトダイオードはまた,電子正孔対及び関連する光電流を生成するために光電子効果を起こす。最近,CMOS技術に基づき,ガイガーモードで作動される「マルチピクセル・アバランシェ・ダイオード」が開発された。「シリコン光電子増倍管」とも称されるこれらの検出器は,その低コスト,低作動電圧,大きな活性領域を有するコンパクトな設計及び良好な時間分解能によって特徴付けられる。しかしながら,今日までまだ,APDアレイの未解決の欠点がある:それは,従来のガイガーモードの単一光子アバランシェ・ダイオードより数桁高い,高い暗カウントレートと,より長い波長での低い量子効率である。
PMT・APDハイブリッド
最近は,入射光子がフォトカソード上で電子を誘発するPMT・APDハイブリッドシステムも存在するが,これは従来のPMTのようにSEVに入らず,APD上に直接衝突する。この原理からもたらされる主な利点は,アフターパルスがほとんど存在しないことである。さらなる長所は,mm範囲の大きい活性面積及び良好な時間分解能である。その反面の欠点は,これらのハイブリッド製品(フォトカソードで8000V以上)の困難な取扱いや,制限されたスペクトル範囲,及び低暗カウントレートに重点を置いている低ノイズの下流電子機器が必要なことである。
単一光子アバランシェ・ダイオード
通常のPINダイオードとは異なり,アバランシェ・フォトダイオード(APD)は,内部増幅及びより高い感度を獲得するためにアバランシェ降伏を利用する。このための前提条件は,高い逆電圧である:」

ウ 「

」(甲2-3)
(日本語訳)
「これはAPDの吸収領域を広げ,したがって,衝突電離による電子正孔対の十分な性酸を可能にする。生成された電子は,その後,高電圧によって増倍ゾーンに向かって加速され,さらなる衝突電離によって雪崩効果を生じさせる(図3参照)。APDが降伏電圧以下で作動されると,雪崩は半導体内の摩擦損失のために非常に早く治まる。一方,特別に設計されたAPDを使用して,降伏電圧を超えて作動する場合(ガイガーモード)は,単一光子アバランシェ・ダイオード(SPAD)になる。これらのSPADによれば10^(8)までの内部増幅を達成する。なぜなら電荷雪崩が保たれたままだからである。
かかる作動モードは,制御下に維持されなければならないSPADの内部において大電流をもたらす。なぜなら,さもなければ,ダイオードが導通状態を保持したり,又は損傷を受けたりするからである。最も単純な場合には,電圧を降下させる直列抵抗によって実現され(パッシブ・クエンチング),それによってSPADは再び遮断状態に移行する。いずれにせよ,係るシステムは著しく高いムダ時間を有し,それによって最大カウントレートを制限する[1]。したがって,市販入手可能なほとんどのSPADモジュールは,降伏電流が検出されてから数ナノ秒以内に逆電圧を下げる専用の電子機器(アクティブ・クエンチ)を使用している。それにより,最大カウントレートを10MHz以上に増加させる50nsオーダーの短いムダ時間が生じる。
さらに新しいSPADは,熱電冷却部を備えており,したがって,10c/s以下の顕著に低い暗カウントレートを有する。図4はファイバー接続を有するレーザ部品のカウントモードのブロック図を示す。」

(3)甲3の記載
甲3(“Image Scanning Microscopy”)は,本件特許に係る出願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該甲3には,次の記載がある。
ア 「

」(甲3-1)
(日本語訳)
「EM CCD状の励起領域の画像は16×16ピクセル未満のサイズを有していたため,強度記録と読み出しをこの領域をカバーするROIに制限した。図2は,2つの近接して置かれたビーズの画像を示し,3つのパネルが示されている。左パネルは,EM CCDの記録された全ROIに渡る強度を合計することにより得られた従来のCLSM画像に対応し,したがってEM CCDを点検出器として効果的に使用している。真ん中のパネルは,式(10)に従って計算された有効画像I_(eff)を示す。」

(4)甲4の記載
甲4(“Super-Resolution in Conforcal Imaging”)は,本件特許に係る出願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該甲4には,次の記載がある。
ア 「

」(甲4-1)
(日本語訳)
「したがって,変位点検出器は,改善された解像度の画像を生成するが,光軸から変位した物体の点の画像を生成する。すべての検出器点からの信号を積分すると,光焦点画像に比べて解像度が低下することがわかる:従来の画像中の画像は,隣接する点からの情報を加算することによってぼやけてしまう。これは,共焦点イメージングにおいて,光が検出器に到達するのを阻止することによって解像度がどのように改善されるかを説明している。
同様に,解像度の向上や共焦点顕微鏡法を説明すること,これは解像度をさらに向上させる方法を示唆している。検出器アレイの全ての点からの信号が測定されるが,従来の画像化におけるように直接積分するのではなく,各信号はその特定の像点に対して再割り当てされる。」


5 判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
(ア) 技術的にみて,甲1発明の「試料2」,「対物レンズ13」,「ピクセル25」,「検出器アレイ24」及び「レーザ走査顕微鏡1」は,本件特許発明1の「標本」,「対物レンズ」,「検出要素」,「光検出部」及び「レーザ顕微鏡装置」にそれぞれ対応する。

(イ) 甲1発明において,「対物レンズ13」(本件特許発明1の「対物レンズ」に対応する。以下,「ア 対比」欄において,「」で囲まれた甲1発明の構成に付された()中の文言は,当該甲1発明の構成に対応する本件特許発明1の発明特定事項を表す。)は,「試料2」(標本)からの蛍光放射線を「集光」しているから,本件特許発明1の「対物レンズ」と甲1発明「対物レンズ13」は,「標本からの光を集光する」ものである点で一致する。

(ウ) 甲1発明において,「試料2」のスポット14において励起された蛍光放射線は,前記(イ)で述べたように,「対物レンズ13」(対物レンズ)により「集光」され,その後,レンズ12及び11,スキャナ10,発光フィルタ9及び15,レンズ16,ズーム光学系27を通って,検出平面18においてエアリー・ディスクが形成され,検出平面18に位置する各光ファイバー21の入口側端部に入射した蛍光放射線が,「検出器アレイ24」(光検出部)の各「ピクセル25」(検出要素)によって検出されるのであるから,当該「検出器アレイ24」(光検出部)は,「対物レンズ13」(対物レンズ)により「集光」された蛍光放射線を検出する複数の「ピクセル25」(検出要素)を有するものといえる。
したがって,本件特許発明1の「光検出部」と甲1発明の「検出器アレイ24」は,「対物レンズにより集光された光を検出する複数の検出要素を有する」ものである点で一致する。

(エ) 甲1発明では,対物レンズ13が交換されても,ズーム光学系27によって,検出平面18に形成されるエアリー・ディスクの面積を光ファイバー束20の入口22の面積に適合させることができ,光ファイバー束20の入口22に入射した蛍光放射線は,各光ファイバー21を通って,「検出器アレイ24」(光検出部)の各「ピクセル25」(検出要素)によって検出されるのであるから,甲1発明の「ズーム光学系27」は,「検出器アレイ24」(光検出部)に入射する蛍光放射線のビーム径を,光ファイバー束20の入口22に略一致させる「調整機構」といえる。
そうすると,本件特許発明1の「調整機構」と甲1発明の「ズーム光学系27」は,「光検出部に入射する光のビーム径と所定領域とを略一致させる」ものである点で共通するといえる。

(オ) 前記(ア)ないし(エ)に照らすと,本件特許発明1と甲1発明は,
「標本からの光を集光する対物レンズと,
該対物レンズにより集光された光を検出する複数の検出要素を有する光検出部と,
該光検出部に入射する光のビーム径と所定領域とを略一致させる調整機構とを備えるレーザ顕微鏡装置。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
調整機構(ズーム光学系27)が光検出部(検出器アレイ24)に入射する光のビーム径と一致させる「所定領域」が,
本件特許発明1では,複数の検出要素による光検出部の有効検出領域であるのに対して,
甲1発明では,光ファイバー束20の入口22である点。

相違点2:
本件特許発明1において,「検出要素」は,検出する光の強度に関わらず一定の強度信号を出力し,「光検出部」は,各検出要素の出力の和を強度信号として出力するのに対して,
甲1発明において,「ピクセル25」及び「検出器アレイ24」は,エアリー・ディスクの回折構造を分析できるような信号を出力するものであって,本件特許発明1のような信号を出力するものとはいえない点。

イ 申立理由1について
本件特許発明1と甲1発明の間に,相違点がある以上,両者を同一発明ということはできない。

ウ 申立理由2について
事案に鑑み,まず相違点2について判断する。
(ア) 甲1の3ページ33及び34行(前記4(1)ア(ア))には,「本発明の基礎となる課題は,同様に高分解能を達成することが可能な顕微鏡もしくは顕微鏡検査方法を提示することである。」と記載されている。そして,当該記載中の「同様に高分解能を達成する」とは,文脈上,1ページ25行ないし2ページ7行(前記4(1)ア(ア))に記載された,「C.ミュラー及びJ.エンダーライン,Physical Review Letters,104,198101(2010)」(申立人が提出した甲3である。)等が開示する手法(「点スポットをエアリー・ディスクとして撮像」することで,「その構造が分解可能となるように検出平面内で捕捉」され,「回折構造の適切な評価」をすることによって,「回折限界の2倍の分解能向上」を達成する手法。以下,便宜上「ISM法」という。)と同様に,回折限界を超える分解能を達成するとの意味と解される。(なお,甲1発明は,検出平面18に,スポット14の回折限界の画像17であるエアリー・ディスクを形成し,当該エアリー・ディスクを検出器アレイ24で検出し,回折構造の適切な評価によって,回折限界の2倍の分解能が達成できるものであるから,原理的には「ISM法」が適用された顕微鏡である。)
また,甲1の2ページ20ないし末行(前記4(1)ア(ア))には,概略,ISM法において,スポットの回折限界の画像(エアリー・ディスク)を検出器アレイで検出するには,SN比やサイズの点で課題があることが説明され,5ページ1ないし4行(前記4(1)ア(ア))には,「再分配素子」を用いることで,ピクセル・サイズ(SN比に影響する。)や寸法による制限を受けずに,検出器アレイを選定できる旨説明されているところ,甲1発明の「光ファイバー束20」は,当該「再分配素子」の一態様である。

(イ) 甲1のこれらの記載及び特許請求の範囲の請求項1に記載された顕微鏡の構成(前記4(1)ア(ク))からみて,甲1発明が解決しようとする課題は,レーザー走査顕微鏡において,回折限界を超える分解能を達成するとともに,ピクセルのサイズや検出器アレイの寸法による制限を受けずに,検出器アレイを選定できるようにすることと認められる。
そして,当該課題を解決するために,甲1発明は,検出平面18に,試料2上の点状のスポット14の回折限界の画像17であるエアリー・ディスクを形成し,当該エアリ-・ディスクを,検出器アレイ24によって,エアリー・ディスクの半値幅の最大で半分の大きさを有するピクセル単位で撮影し,その回折構造を適切に評価するという「ISM法」を採用することで,回折限界の2倍の分解能を達成し,さらに,入口22が検出平面18内に位置し,各光ファイバー21の出口側の端部がそれぞれ検出器アレイ24の各ピクセル25のちょうど前に位置する光ファイバー束20を設けることで,ピクセルのサイズや検出器アレイの寸法による制限を受けずに,検出器アレイ24を選定できるようにしたものと理解される。

(ウ) しかるに,エアリー・ディスクの回折構造を評価するには,エアリー・ディスク上の各位置における蛍光放射線の強度についての情報が必要であるから,甲1発明において,検出器アレイ24が,各ピクセル25に入射した蛍光放射線の強度に応じた各ピクセル25ごとの強度信号をそれぞれ出力することは,回折限界を超える分解能を達成するという課題を解決するにあたって,欠くことのできない構成というべきである。仮に,甲1発明において,検出器アレイ24として,相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項に相当する構成のもの(各ピクセル25が蛍光放射線の強度に関わらず一定の強度信号を出力し,検出器アレイ24が各ピクセル25の出力の和を強度信号として出力する構成のもの)を用いた場合,このような検出器アレイ24の出力信号から,エアリー・ディスク上の各位置における蛍光放射線の強度についての情報は得られないから,エアリー・ディスクの回折構造を評価することができず,回折限界を超える分解能を達成するという課題を解決することができなくなってしまうことは明らかである。
そうすると,たとえ相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項に相当する構成の検出器アレイが,甲2ないし甲4によって,本件特許に係る出願の出願前に公知であったとしても,甲1発明において,そのような検出器アレイを適用することには阻害要因があるといわざるを得ない。
また,申立人が提出した他の証拠によっても,甲1発明を,相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項に相当する構成とすることが,当業者が容易に想到し得たことということはできない。
そして,本件特許発明1は,相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を具備することで,同時に複数のフォトンを数えることができ,標本からの光を検出可能な光強度入射範囲をより広げることができる(本件特許明細書の【0008】参照。)という効果を奏するものである。
以上のとおりであるから,本件特許発明1は,甲1に記載された発明,甲2に記載された技術,甲3又は甲4に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ) 申立人は,特許異議申立書の55及び56ページ「(構成要件Eについて)」の欄において,甲1には甲3を参照する旨の記載があり,甲3には光検出部が各検出要素の出力の和を強度信号として出力することが記載され,甲4にも光検出部が各検出要素の出力の和を強度信号として出力することが記載されているから,甲1に記載された発明において,甲3又は甲4に示された公知の技術を適用して,検出器アレイ24が各ピクセル25の出力の和を強度信号として出力するよう構成することは,当業者が容易に想到し得た旨,主張する。
そこで検討するに,甲3は,共焦点レーザー走査型顕微鏡において回折限界を超える分解能の蛍光画像を得るための「ISM法」についての論文である。当該甲3の3ページ右欄には,左側のパネルが「CLSM」画像を示し,真ん中のパネルがISM画像を示し,右側のパネルがフーリエ加重ISM画像を示す図2が示されている。そして,「CLSM」とは,2ページ左欄14及び15行の「a convential confocal-laser scanning microscope(CLSM)」という記載によれば,「従来の共焦点レーザー走査型顕微鏡」(すなわち,検出器平面に形成されるスポットの回折限界の画像を一つの検出器で検出するため,分解能が回折限界によって制限されるもの)のことを指している。しかるに,申立人が指摘する箇所は,「ISM法」を採用した共焦点レーザー走査型顕微鏡において,検出器アレイの各検出要素の出力を合計したもの(検出器平面に形成されるスポットの回折限界の画像を一つの検出器で検出したときの出力と等しい。)を用いることによって,図2の左側のパネルの「CLSM(従来の共焦点レーザー走査型顕微鏡)」画像を得たことを説明する記載であって,検出器アレイの各検出要素の出力を合計したものを用いることによって,回折限界を超える分解能の画像が得られることが記載されているのではない。
また,甲4について申立人が指摘する箇所も,甲3と同様に,すべての検出器点からの信号を積分すると,得られる画像の解像度が低下することが記載されているのであって,すべての検出器点からの信号を積分しても,高解像度の画像が得られることが記載されているのではない。
そうすると,甲3や甲4の記載に接した当業者は,甲1発明において,検出器アレイ24として,各ピクセル25の出力の和を強度信号として出力する構成のものを採用した場合,得られる画像の分解能が回折限界以下となってしまい,甲1発明が解決しようとする課題の一つである「回折限界を超える分解能を達成する」ことができなくなってしまうと認識するのであって,そのような構成の変更を行おうとすることはないというべきである。
したがって,申立人の主張は採用できない。

(2)本件特許発明2ないし12について
本件特許の請求項2ないし12は,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件特許発明2ないし12は,本件特許発明1の発明特定事項を全て有し,これに限定を加えたものに相当するから,前記(1)で述べたように,本件特許発明1が,甲1発明と同一でなく,かつ,甲1発明及び申立人提出の証拠に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本件特許発明2ないし12も,同様の理由で,甲1発明と同一でなく,かつ,甲1発明及び申立人提出の証拠に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)まとめ
本件特許発明1ないし12について,申立理由1及び申立理由2は成り立たない。


6 むすび
以上のとおりであるから,特許異議申立書に記載された申立理由1及び申立理由2によっては,本件特許の請求項1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-07-01 
出願番号 特願2014-120574(P2014-120574)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (G02B)
P 1 651・ 121- Y (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 殿岡 雅仁  
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 清水 康司
尾崎 淳史
登録日 2018-09-28 
登録番号 特許第6408796号(P6408796)
権利者 オリンパス株式会社
発明の名称 レーザ顕微鏡装置  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 藤田 考晴  
代理人 上田 邦生  
代理人 伊東 忠重  
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