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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1353212
異議申立番号 異議2019-700306  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-17 
確定日 2019-07-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6412316号発明「トリアジン環含有ポリマーを含む組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6412316号の請求項1?12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6412316号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成26年2月3日(優先権主張 平成25年10月1日)に特許出願され、平成30年10月5日にその特許権の設定登録がされ、同年10月24日に特許公報が発行されたものである。
その後、平成31年4月17日に、本件特許の請求項1?12に係る特許に対して、特許異議申立人である青山敬子(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?12に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

「【請求項1】
下記第1成分、第2成分、第3成分及びUV硬化開始剤を含む組成物。
第1成分:屈折率が1.70以上2.10以下である、下記式(3)?(7)のいずれかで表されるトリアジン環含有線状ポリマー
第2成分:ヘテロ原子として酸素原子のみを含む有機溶媒
第3成分:下記式(8)で表される化合物又はその重合体
【化1】

(式(3)?(7)中、前記式(4)、(5)及び(7)のR^(7)は、2価の脂肪族炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基、又は1以上の2価の脂肪族炭化水素基及び1以上の2価の芳香族炭化水素基から選択される1以上と、単結合、-S-、-O-、-NH-、-NR^(13)-、-(CO)-NH-、-(CO)-O-及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる2価の基を表す。前記式(3)及び(6)のR^(7)は、2価の脂肪族炭化水素基、又は1以上の2価の脂肪族炭化水素基と、単結合、-S-、-O-、-NH-、-NR^(13)-、-(CO)-NH-、-(CO)-O-及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる2価の基を表す。R7はさらに置換基によって置換されていてもよい。
R^(8)は、それぞれ水素原子、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は1以上の脂肪族炭化水素基及び1以上の芳香族炭化水素基から選択される1以上と、単結合、-S-、-O-、-NH-、-NR^(13)-、-(CO)-NH-、-(CO)-O-及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる基を表す。R^(8)はさらに置換基によって置換されていてもよい。
R^(9)は、水素原子、アセチル基、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基を有する脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基と単結合、-S-、-O-、-NH-、-NR^(13)-、-(CO)-NH-、-(CO)-O-及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる基を有する脂肪族炭化水素基を表す。R^(9)はさらに置換基によって置換されていてもよい。
R^(10)は、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基を有する脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基と単結合、-S-、-O-、-NH-、-NR^(13)-、-(CO)-NH-、-(CO)-O-及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる基を有する脂肪族炭化水素基を表す。R^(10)はさらに置換基によって置換されていてもよい。
Arは2価の芳香族炭化水素基を表す。
Yはヘテロ原子含有置換基を表す。mは1?5の整数を表す。
Zは2価のヘテロ原子含有基(ただし、-N(R^(8))-を除く)である。
R^(11)は、水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1?10の脂肪族炭化水素基又は置換もしくは無置換の環形成炭素数6?10の芳香族炭化水素基を表す。
R^(12)は置換もしくは無置換の炭素数1?4の脂肪族炭化水素基を表す。
R^(13)は、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は1以上の脂肪族炭化水素基及び1以上の芳香族炭化水素基から選択される2以上の組み合わせからなる基である。
nはポリマーにおける繰り返し構造の繰り返し数を表し、5以上5,000以下の整数である。)
【化2】

(式(8)中、R^(5)は、水素原子、炭素数1?20のアルキル基、炭素数3?10の単環状又は多環状のシクロアルキル基、炭素数7?20のアラルキル基、炭素数6?10の芳香族炭化水素基、又は炭素数4?10の複素環基を表す。
R^(6)は、水素原子、炭素数1?20の脂肪族炭化水素基、炭素数3?10の単環状又は多環状の環状脂肪族炭化水素基、炭素数1?20の脂肪族炭化水素基と炭素数6?10の芳香族炭化水素基を組み合わせからなる炭素数7?20の基、炭素数6?10の芳香族炭化水素基、炭素数4?10の複素環基、又はヘテロ原子として窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選択される少なくとも1つの原子を含む炭素数1?40の基を表す。
nは1?3の整数を表す。)
【請求項2】
前記トリアジン環含有線状ポリマーの重量平均分子量が3,000以上300,000以下である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記第2成分が、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒又はケトン系溶媒である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アルコール系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒又はケトン系溶媒が、
水酸基、アルコキシル基及びカルボニル基から選択される2種以上の基をそれぞれ1以上含む有機溶媒
水酸基、アルコキシル基及びカルボニル基から選択される基を少なくとも1つと炭素炭素間二重結合とを含む有機溶媒、又は
水酸基、アルコキシル基及びカルボニル基から選択される基を少なくとも1つ含む環状構造を有する有機溶媒
である請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
下記第4成分を含む請求項1?4のいずれかに記載の組成物。
第4成分:ヘテロ原子として酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選択される少なくとも1つを含み、常温常圧において液体又は固体である有機化合物(但し、前記第4成分がヘテロ原子として酸素原子を含み、常温常圧において液体である有機化合物である場合、前記ヘテロ原子として酸素原子を含み、常温常圧において液体である有機化合物は、前記第2成分のヘテロ原子として酸素原子のみを含む有機溶媒とは異なる。)
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の組成物から得られる薄膜、又は前記薄膜を含む多層膜。
【請求項7】
請求項6に記載の薄膜又は多層膜、及び支持体として透明樹脂又は透明ガラスを含む透明フィルム又は透明板。
【請求項8】
請求項1?5のいずれかに記載の組成物から得られる膜厚10nm?1mmの薄膜を1以上及び前記薄膜とは異なる異種膜を1以上含む多層膜又は前記多層膜及び支持体を含む透明フィルム又は透明板であって、
前記多層膜が、
前記薄膜のうち1層の表面及び裏面に異種膜をそれぞれ1以上含む多層膜、
前記薄膜のうち1層を前記多層膜の最表面に含み、前記最表面の薄膜の裏面に異種膜を1以上含む多層膜、又は
前記薄膜のうち1層を前記多層膜の最裏面に含み、前記最裏面の薄膜の表面に異種膜を1以上含む多層膜
である透明フィルム又は透明板。
【請求項9】
前記支持体が透明樹脂又は透明ガラスからなる請求項8に記載の透明フィルム又は透明板。
【請求項10】
前記異種膜のうち少なくとも1つが透明導電材料を含む膜である請求項8又は9に記載の透明フィルム又は透明板。
【請求項11】
請求項7?10のいずれかに記載の透明フィルムを含む、光学透明フィルム又は透明導電フィルム。
【請求項12】
請求項11に記載の光学透明フィルム又は透明導電フィルムを含む、電子デバイス、発光デバイス、光学デバイス、又は表示デバイス。 」
(以下、式(3)?(8)は省略する。)

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、下記の甲第1?6号証(以下、それぞれ「甲1」等という。)を提出し、本件発明1?12は、下記のとおりの取消理由があるから、請求項1?12に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである旨を主張する。

・申立理由1-1(新規性):本件発明1?7、11及び12は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

・申立理由1-2(新規性):本件発明1?7、11及び12は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

・申立理由2-1(進歩性):本件発明1?12は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲1に記載された発明、並びに甲1及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

・申立理由2-2(進歩性):本件発明1?12は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲2に記載された発明、並びに、甲1?3、甲5及び甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

甲1:国際公開第2010/128661号
甲2:特開2012-92261号公報
甲3:国際公開第2010/100824号
甲4:「科学と工業」, vol.86, no.2, p.43-48 (2012)
甲5:Ji Yun Kwon et al., "Polarizing Group Attached Acrylates and Polymers Viewing High Refractive Index", Macromolecular Research, vol.15, no.6, pp.533-540 (2007)
甲6:Muchchintala Maheswara et al., "High refractive index of transparent acrylate polymers functionalized with alkyl sulfur groups", Polymer Journal, vol.42, p.249-255 (2010)

第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立理由1-1?2-2によっては、本件特許の請求項1?12に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1-1(新規性)及び申立理由2-1(進歩性)について
(1)甲1?甲6に記載された事項
ア 甲1に記載された事項及び甲1発明
甲1には、次の記載がある。
(ア) 「(請求の範囲)
[請求項1] 下記式(1)または(2)で表される繰り返し単位構造を含むことを特徴とするトリアジン環含有重合体。
[化1]

{式中、RおよびR′は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアラルキル基を表し、R”は、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルアミノ基、アルコキシシリル基含有アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基またはアリールオキシ基を表し、Arは、式(3)?(19)で示される群から選ばれる少なくとも1種を表す。
[化2]

〔式中、R^(1)?R^(128)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、
W^(1)は、単結合、C=OまたはNR^(129)(R^(129)は、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基を表す。)を表し、
W^(2) およびW^(3)は、互いに独立して、単結合、CR^(130)R^(131)(R^(130)およびR^(131)は、互いに独立して、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基(ただし、これらは一緒になって環を形成していてもよい。)を表す。)、C=O、O、S、SO、SO_(2)、またはNR^(129)(R^(129)は前記と同じ意味を表す。)を表し、
X^(1)およびX^(2)は、互いに独立して、単結合、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基、または式(20)
[化3]
(合議体注:式は省略)
(式中、R^(132)?R^(135)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、
Y^(1)およびY^(2)は、互いに独立して、単結合または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基を表す。) で示される基を表す。〕}
[請求項2] 前記Arが、式(6)?(12)で示される群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のトリアジン環含有重合体。
・・・
[請求項13] 請求項1?12のいずれか1項記載のトリアジン環含有重合体を含む膜形成用組成物。
[請求項14] 請求項1?12のいずれか1項記載のトリアジン環含有重合体を含む膜。
[請求項15] 基材と、この基材上に形成された請求項14記載の膜とを備える電子デバイス。
[請求項16] 基材と、この基材上に形成された請求項14記載の膜とを備える光学部材。」

(イ) 「[0025] アリールアミノ基の具体例としては、フェニルアミノ基、メトキシカルボニルフェニルアミノ基、エトキシカルボニルフェニルアミノ基、ナフチルアミノ基、メトキシカルボニルナフチルアミノ基、エトキシカルボニルナフチルアミノ基、アントラニルアミノ基、ピレニルアミノ基、ビフェニルアミノ基、ターフェニルアミノ基、フルオレニルアミノ基等が挙げられる。」

(ウ) 「[0050] 本発明における重合体の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、500?500,000が好ましく、さらに500?100,000が好ましく、より耐熱性を向上させるとともに、収縮率を低くするという点から、2,000以上が好ましく、より溶解性を高め、得られた溶液の粘度を低下させるという点から、50,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましく、さらに10,000以下が好ましい。
なお、本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCという)分析による標準ポリスチレン換算で得られる平均分子量である。」

(エ) 「[0070] 上述した本発明の重合体は、他の化合物と混合した組成物として用いることができ、例えば、レベリング剤、界面活性剤、架橋剤、樹脂等との組成物が挙げられる。
これらの組成物は、膜形成用組成物として用いることができ、各種の溶剤に溶かした膜形成用組成物(ポリマーワニスともいう)として好適に使用できる。
重合体を溶解するのに用いる溶剤は、重合時に用いた溶媒と同じものでも別のものでもよい。この溶剤は、重合体との相溶性を損なわなければ特に限定されず、1種でも複数種でも任意に選択して用いることができる。
[0071] このような溶剤の具体例としては、トルエン、p-キシレン、o-キシレン、m-キシレン、エチルベンゼン、スチレン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコ-ルモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、1-オクタノール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、トリメチレングリコール、1-メトキシ-2-ブタノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、γ-ブチロラクトン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルノーマルブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ノーマルプロピル、酢酸イソブチル、酢酸ノーマルブチル、乳酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert-ブタノール、アリルアルコール、ノーマルプロパノール、2-メチル-2-ブタノール、イソブタノール、ノーマルブタノール、2-メチル-1-ブタノール、1-ペンタノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-エチルヘキサノール、1-オクタノール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、トリメチレングリコール、1-メトキシ-2-ブタノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、N-シクロヘキシル-2-ピロリジノン等が挙げられるが、ポリマーの溶解性および保存安定性の観点から、より好ましくは、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテル、シクロヘキサノン等が挙げられる。」

(オ) 「[0093] 本発明の重合体は、樹脂(熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂)との組成物として用いてもよい。
樹脂の具体例としては、特に限定されるものではない。熱可塑性樹脂としては、例えば、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVA(エチレン-酢酸ビニル共重合体)、EEA(エチレン-アクリル酸エチル共重合体)等のポリオレフィン系樹脂;PS(ポリスチレン)、HIPS(ハイインパクトポリスチレン)、AS(アクリロニトリル-スチレン共重合体)、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、MS(メタクリル酸メチル-スチレン共重合体)等のポリスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;塩化ビニル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;PMMA(ポリメチルメタクリレート)等の(メタ)アクリル樹脂;PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、PLA(ポリ乳酸)、ポリ-3-ヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート/アジペート等のポリエステル樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;変性ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;ポリグルコール酸;変性でんぷん;酢酸セルロース、三酢酸セルロース;キチン、キトサン;リグニンなどが挙げられ、熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
これらの樹脂は、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよく、その使用量は、上記重合体100質量部に対して、1?10,000質量部が好ましく、より好ましくは1?1,000質量部である。
[0094] 例えば、(メタ)アクリル樹脂との組成物は、(メタ)アクリレート化合物と上記重合体とを混合し、(メタ)アクリレート化合物を重合させて得ることができる。
(メタ)アクリレート化合物の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカニルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシプロピル(メタ)アクリレート、トリス-2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス-2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、グリセリンメタクリレートアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸ビニル、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
[0095] これらの(メタ)アクリレート化合物の重合は、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤の存在下、光照射または加熱により行うことができる。
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーのベンゾイルベンゾエート、アミロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイドおよびチオキサントン類等が挙げられる。
特に、光開裂型の光ラジカル重合開始剤が好ましい。光開裂型の光ラジカル重合開始剤については、最新UV硬化技術(159頁、発行人:高薄一弘、発行所:(株)技術情報協会、1991年発行)に記載されている。
市販の光ラジカル重合開始剤としては、例えば、チバ・ジャパン(株)製 商品名: イルガキュア 184、369、651、500、819、907、784、2959、CGI1700、CGI1750、CGI1850、CG24-61、ダロキュア 1116、1173、BASF社製 商品名:ルシリン TPO、UCB社製 商品名:ユベクリル P36、フラテツリ・ランベルティ社製 商品名:エザキュアー KIP150、KIP65LT、KIP100F、KT37、KT55、KTO46、KIP75/B等が挙げられる。」

(カ) 「[0104] [実施例5]高分子化合物[5]の合成

[0105] 2,4,6-トリクロロ-1,3,5-トリアジンに代えて、4,6-ジクロロ-N-フェニル-1,3,5-トリアジン-2-アミン[4](6.48g、0.018mol)、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン[2](6.48g、0.018mol)、アニリン(5.64g、0.06mol)を用いて合成を行い、目的とする線状高分子化合物[5](以下、L-TF39と略す)10.8gを得た。L-TF39の^(1)H-NMRスペクトルの測定結果を図5に示す。得られたL-TF39は式(2)で表される構造単位を有する化合物である。L-TF39のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは3,900、多分散度Mw/Mnは1.78であった。
[0106] <被膜形成用組成物の調製>
[実施例6] 空気下、10mLナスフラスコに、実施例1で得られたHB-TFA90 1.0000gを加え、溶媒としてシクロヘキサノン3.9950gを加えた。次いで、商品名メガファックR-30(DIC(株)製)の5質量%シクロヘキサノン溶液0.0100gを加え、溶液が均一になるまで3時間撹拌した。撹拌後、溶質は完全に溶解し、薄黄色透明溶液として、固形分の総質量%が10質量%のポリマーワニス(以下、HB-TFA90Vと略す)を得た。」

(キ) 「[0110] [実施例10]
実施例5で得られたL-TF39を用いた以外は、実施例6と同様にポリマーワニスを調製し、薄黄色透明溶液として、固形分の総質量%が10質量%のポリマーワニス(以下、L-TF39Vと略す)を得た。
[0111] 実施例6?10で得たポリマーワニスは、完全に溶質が溶解し、均一なワニスであった。また、23℃55RH%の条件で1ヶ月放置しても、溶質が析出することはなく、保存安定性が優れていた。」

(ク) 「[0128] [実施例27]
実施例10で得られたL-TF39Vをシリコン基板上にスピンコーターを用いて500nm狙いでスピンコートし、150℃のホットプレートで2分間の焼成を行い、被膜(以下、L-TF39F1と略す)を得た。」

(ケ) 「[0132] 上記実施例11?30で作製した各被膜について、屈折率および膜厚を測定した。その結果を表1に示す。
[0133]

[0134] 表1の結果から、実施例11におけるHB-TFA90F1の屈折率は波長550nmで1.7250、波長633nmで1.7025であり、ポリマー単体として非常に高屈折率であることがわかった。
さらに、実施例11?14を比較すると、大気中、300℃で5分間の焼成工程を加えても、屈折率が低下せず、熱時の屈折率の安定性が非常に高いことが証明された。また、実施例12と実施例14の膜厚を比較しても、200℃から300℃までの工程の間に514.5nmから509.8nmしか膜厚の変化がないことから、体積収縮率が極めて低いことがわかった。
実施例15?18、実施例19?22、実施例23?26、実施例27?30においても、焼成温度の上昇とともに、大きな屈折率の低下は確認されず、体積収縮率に関しても、低体積収縮率であることがわかった。
また、ポリマーの分子量に対する屈折率の変化は、実施例12、実施例16、実施例20および実施例24を比較すると、屈折率は波長550nmでそれぞれ1.7287、1.7300、1.7335、1.7377であり、分子量が低いポリマーが高い屈折率を発現する傾向であることがわかった。
高分岐構造を有するポリマーを用いた実施例19と直線構造を有するポリマーを用いた実施例27とを比較すると、屈折率は波長550nmでそれぞれ1.7277、1.7322であり、直線構造を有するポリマーが高い屈折率を発現する傾向であることがわかった。」

(コ) 「[0151] [実施例47]
実施例10で得られたL-TF39Vを石英基板上にスピンコーターを用いて500nm狙いでスピンコートし、150℃のホットプレートで2分間の焼成を行い、L-TF39F1を得た。L-TF39F1の透過率を測定した結果を図22に示す。」

(サ) 「[0155] 実施例31?34、実施例35?38、実施例39?42、実施例43?46、および実施例47?50で得られた被膜について、可視光領域である400?800nmの透過率を比較すると、透過率は焼成温度の上昇とともに低下することなく、90%以上を保持していることがわかった。また、屈折率が高いため、透過率はハンチングしているが、これらの透過率の平均透過率をとると、95%以上となり極めて良好な透明性を発現していることがわかる。」

(シ) 「[0174] [実施例65]
実施例1で得られたHB-TFA90を用いて硬化膜を作製した。多官能アクリレートとしてトリシクロデカンジメタノールジアクリレート(0.15g、新中村化学工業(株)製)、HB-TFA90(0.15g)、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(9.0mg、製品名イルガキュア907、チバ・ジャパン(株)製)を加え、シクロヘキサノン(2.7g)に溶解させた。その調製した溶液をガラス基板上にスピンコーターを用いて200rpmで5秒、1,000rpmで30秒スピンコートし、120℃で20分加熱して溶媒を除去した。その後、UVランプにより光照射(100W 高圧水銀ランプ(セン特殊光源(株)、HL-100、照射時間:20分、光源からの距離:5cm、室温で実施))を行い、160℃で5分焼成し、HB-TFA90を混合した硬化膜を得た。
得られた硬化膜の屈折率を測定したところ、550nmにおける屈折率は1.7162であった。
また、得られた被膜の400?800nmの透過率測定を行った。結果を図35に示す。」

(ス) 「[0176] 実施例65,66と、実施例11とを比較すると、低屈折率である多感能アクリレート系モノマーに添加した場合でも、HB-TFA90単膜に近い、高い屈折率を示すことがわかった。一般的に多官能アクリレート系モノマーとの組成物は屈折率を低下させる傾向にあるが、本発明では、著しい屈折率の低下を招くことのない高屈折率材料として用いることができることが証明された。」

(セ) 「[0263] <被膜形成用組成物の調製>
[実施例135]
実施例125で得られたHB-TSdA1.00gを10mLの1つ口丸底フラスコに秤量し、N-メチルピロリドン(NMPと略す)9.00gを加え、23℃で24時間撹拌し、完全に溶解させ、10%NMP溶液を調製した。5mLの1つ口丸底フラスコに、HB-TSdAの10%NMP溶液0.50gを秤量し、次いで、架橋剤としてNK-オリゴ UA-53H(新中村化学工業(株)製)をシクロヘキサノン(CHNと略す)で希釈した20%溶液を0.0750g(ポリマーの固形分を100質量部としたのに対して30質量部)加え、界面活性剤として、メガファック R-30(DIC(株)製)をCHNで希釈した1%溶液0.0250g(ポリマーの固形分を100質量部としたのに対して0.05質量部)加え、さらに、CHN0.2353gを加えた。23℃で1時間撹拌し、溶液が均一になったのを確認し、固形分総量8.0質量%のワニス(HB-TSdAV1と略す)を調製した。」

甲1の摘記ア(ア)には、請求項1を引用する請求項2に係る発明、及び請求項1を引用する請求項2を更に引用する請求項13に係る発明を独立形式で表現すると、次の発明が記載されている。

「下記式(1)または(2)で表される繰り返し単位構造を含むトリアジン環含有重合体。

{式中、RおよびR′は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアラルキル基を表し、R”は、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルアミノ基、アルコキシシリル基含有アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基またはアリールオキシ基を表し、Arは、式(6)?(12)で示される群から選ばれる少なくとも1種を表す。
[化2]
(合議体注:式は省略)
〔式中、R^(1)?R^(128)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、
W^(1)は、単結合、C=OまたはNR^(129)(R^(129)は、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基を表す。)を表し、
W^(2) およびW^(3)は、互いに独立して、単結合、CR^(130)R^(131)(R^(130)およびR^(131)は、互いに独立して、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基(ただし、これらは一緒になって環を形成していてもよい。)を表す。)、C=O、O、S、SO、SO_(2)、またはNR^(129)(R^(129)は前記と同じ意味を表す。)を表し、
X^(1)およびX^(2)は、互いに独立して、単結合、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基、または式(20)
[化3]
(合議体注:式は省略)
(式中、R^(132)?R^(135)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、
Y^(1)およびY^(2)は、互いに独立して、単結合または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基を表す。) で示される基を表す。〕}」(以下、「甲1発明A」という。)

「下記式(1)または(2)で表される繰り返し単位構造を含むトリアジン環含有重合体を含む膜形成用組成物。
(合議体注:式(1)及び(2)は省略)
{式中、RおよびR′は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアラルキル基を表し、R”は、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルアミノ基、アルコキシシリル基含有アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基またはアリールオキシ基を表し、Arは、式(6)?(12)で示される群から選ばれる少なくとも1種を表す。
[化2]
(合議体注:式は省略)
〔式中、R^(1)?R^(128)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、
W^(1)は、単結合、C=OまたはNR^(129)(R^(129)は、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基を表す。)を表し、
W^(2) およびW^(3)は、互いに独立して、単結合、CR^(130)R^(131)(R^(130)およびR^(131)は、互いに独立して、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基(ただし、これらは一緒になって環を形成していてもよい。)を表す。)、C=O、O、S、SO、SO_(2)、またはNR^(129)(R^(129)は前記と同じ意味を表す。)を表し、
X^(1)およびX^(2)は、互いに独立して、単結合、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基、または式(20)
[化3]
(合議体注:式は省略)
(式中、R^(132)?R^(135)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、
Y^(1)およびY^(2)は、互いに独立して、単結合または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基を表す。) で示される基を表す。〕}」(以下、「甲1発明B」という。)

同様に、請求項1を引用する請求項2を更に引用する請求項14?16に係る発明を独立形式で表現すると、次の発明が記載されている。

「甲1発明Aを含む膜」(以下、「甲1発明C」という。)

「基材と、この基材上に形成された甲1発明Cとを備える電子デバイス又は光学部材」(以下、「甲1発明D」という。)

イ 甲2に記載された事項
(ア) 「【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位構造を含むことを特徴とするトリアジン環含有重合体。

{式中、RおよびR′は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアラルキル基を表し、Ar^(1)は、アリール基を示し、Ar^(2)は、式(2)?(13)で示される群から選ばれる少なくとも1種を表す。

〔式中、R^(1)?R^(92)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、R^(93)およびR^(94)は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアラルキル基を表し、W^(1)およびW^(2)は、互いに独立して、単結合、CR^(95)R^(96)(R^(95)およびR^(96)は、互いに独立して、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基(ただし、これらは一緒になって環を形成していてもよい。)を表す。)、C=O、O、S、SO、SO_(2)、またはNR^(97)(R^(97)は、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基を表す。)を表し、X^(1)およびX^(2)は、互いに独立して、単結合、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基、または式(14)
【化3】
(合議体注:式は省略)
(式中、R^(98)?R^(101)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、Y^(1)およびY^(2)は、互いに独立して、単結合または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基を表す。)で示される基を表す。〕}
【請求項2】
前記Ar^(2)が、式(2)、(12)および(13)で示される群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のトリアジン環含有重合体。
【請求項3】
前記Ar^(1)が、式(15)で示される請求項1または2記載のトリアジン環含有重合体。

(式中、R^(102)?R^(106)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表す。)
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項記載のトリアジン環含有重合体を含む膜形成用組成物。
【請求項5】
請求項1?3のいずれか1項記載のトリアジン環含有重合体を含む膜。
【請求項6】
基材と、この基材上に形成された請求項5記載の膜とを備える電子デバイス。」

(イ) 「【0018】
上記アリール基の炭素数としては特に限定されるものではないが、6?40が好ましく、ポリマーの耐熱性をより高めることを考慮すると、炭素数6?16がより好ましく、6?13がより一層好ましい。
アリール基の具体例としては、フェニル基、o-クロルフェニル基、m-クロルフェニル基、p-クロルフェニル基、o-フルオロフェニル基、p-フルオロフェニル基、o-メトキシフェニル基、p-メトキシフェニル基、p-ニトロフェニル基、p-シアノフェニル基、α-ナフチル基、β-ナフチル基、o-ビフェニリル基、m-ビフェニリル基、p-ビフェニリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基等が挙げられる。」

(ウ) 「【0028】
上記Ar^(1)は、アリール基であり、その具体例としては、上述したアリール基と同様のものが挙げられるが、本発明においては、式(15)で示される基が好適である。
【化9】
(合議体注:式は省略)
【0029】
上記R^(102)?R^(106)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表す。
これらハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基としては上記と同様のものが挙げられる。
R^(102)?R^(106)としては、好ましくは水素原子である。」

(エ) 「【0038】
上述した本発明のトリアジン環含有重合体は、他の化合物と混合した組成物として用いることができ、例えば、レベリング剤、界面活性剤、架橋剤、樹脂等との組成物が挙げられる。
これらの組成物は、膜形成用組成物として用いることができ、各種の溶剤に溶かした膜形成用組成物(ポリマーワニスともいう)として好適に使用できる。
重合体を溶解するのに用いる溶剤は、重合時に用いた溶媒と同じものでも別のものでもよい。この溶剤は、重合体との相溶性を損なわなければ特に限定されず、1種でも複数種でも任意に選択して用いることができる。
【0039】
このような溶剤の具体例としては、トルエン、p-キシレン、o-キシレン、m-キシレン、エチルベンゼン、スチレン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコ-ルモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、1-オクタノール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、トリメチレングリコール、1-メトキシ-2-ブタノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、γ-ブチロラクトン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルノーマルブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ノーマルプロピル、酢酸イソブチル、酢酸ノーマルブチル、乳酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert-ブタノール、アリルアルコール、ノーマルプロパノール、2-メチル-2-ブタノール、イソブタノール、ノーマルブタノール、2-メチル-1-ブタノール、1-ペンタノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-エチルヘキサノール、1-メトキシ-2-プロパノール、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、N-シクロヘキシル-2-ピロリジノン等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。」

(オ) 「【0066】
[実施例1]高分子化合物[1]の合成

【0067】
100mL四口フラスコに、m-フェニレンジアミン(1.35g、12.44mmol、東京化成工業(株)製)を入れ、ジメチルアセトアミド(以下、DMAc)17mLに溶解して、オイルバスで100℃に加熱した。その後、DMAc26mLに溶解した、合成例1で得られたモノマー化合物(3.00g、12.44mmol)を加えて重合を開始した。2時間反応を行い、室温まで放冷後、28%アンモニア水溶液(2.27g)を水160mLおよびメタノール54mLに溶解した混合溶液中に再沈殿させた。沈殿物をろ過し、ジメチルホルムアミド(以下、DMF)35mLに再溶解させ、イオン交換水170mLに再沈殿した。得られた沈殿物をろ過し、減圧乾燥機で120℃、6時間乾燥し、目的とする高分子化合物[1]2.25gを得た。^(1)H-NMRスペクトルの測定結果を図1に示す。得られた高分子化合物[1]は式(1)で表される構造単位を有する化合物である。高分子化合物[1]のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは3,100、多分散度Mw/Mnは1.60であった。また、TG-DTAによる5%重量減少温度は、340℃であった。
【0068】
〈被膜の作製と屈折率測定〉
実施例1で得られた高分子化合物[1]を10質量%となるようにシクロヘキサノン/イオン交換水(96/4(質量部/質量部))に溶解させ、ガラス基板上にスピンコーターを用いてスピンコートし、150℃のホットプレートで2分間の仮焼成を行い、次いで、大気下、250℃のホットプレートで5分間の本焼成を行い、被膜を得た。得られた被膜の屈折率および膜厚を測定したところ、550nmにおける屈折率は1.7507、633nmにおける屈折率は1.7330、膜厚は260nmであった。
【0069】
[実施例2]高分子化合物[2]の合成
【化15】

【0070】
100mL四口フラスコに、4,4’-ジアミノベンズアニリド(2.27g、10.0mmol、東京化成工業(株)製)を入れ、DMAc17mLに溶解して、オイルバスで100℃に加熱した。その後、DMAc30mLに溶解した、合成例1で得られたモノマー化合物(2.40g、10.0mmol)を加えて重合を開始した。3時間反応を行い、室温まで放冷後、28%アンモニア水溶液(1.27g)を水276mLおよびメタノール94mLに溶解した混合溶液中に再沈殿させた。沈殿物をろ過し、DMF47mLに再溶解させ、イオン交換水276mLに再沈殿した。得られた沈殿物をろ過し、減圧乾燥機で120℃、6時間乾燥し、目的とする高分子化合物[2]3.23gを得た。^(1)H-NMRスペクトルの測定結果を図2に示す。得られた高分子化合物[2]は式(2)で表される構造単位を有する化合物である。高分子化合物[2]のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは5,000、多分散度Mw/Mnは3.97であった。また、TG-DTAによる5%重量減少温度は、346℃であった。
【0071】
〈被膜の作製と屈折率測定〉
実施例2で得られた高分子化合物[2]を5質量%となるようにN-メチルピロリドン/ブチルセルロース(98/2(質量部/質量部))に溶解させ、ガラス基板上にスピンコーターを用いてスピンコートし、150℃のホットプレートで2分間の仮焼成を行い、次いで、大気下、250℃のホットプレートで5分間の本焼成を行い、被膜を得た。得られた被膜の屈折率および膜厚を測定したところ、550nmにおける屈折率は1.8532、633nmにおける屈折率は1.8233、膜厚は46nmであった。」

ウ 甲3に記載された事項
(ア)「
[0036] 図1は、本発明に従ったフォトダイオードの構成を示す図であり、フォトダイオード形成部分の構成を断面図で示している。

[0037] 図1において、1は、ガラス等より成る基板であり、表示装置を駆動するためのアクティブ素子であるTFT等が形成される基板と同一の基板であって、アクティブマトリックス基板とも称されるものである。TFT等のアクティブ素子は、図1には記載されていない。基板1の上には、遮光膜2が設けられている。図1に示す実施例では、遮光膜2は、後で説明するフォトダイオードを形成する領域内に形成されているが、この遮光膜2は必ずしも必要としていない。

[0038] 3はベースコート絶縁膜であり、このベースコート絶縁膜3の上にフォトダイオード10が設けられている。フォトダイオード10は、接合形成のための少なくとも1つの伝導形の半導体膜を有する。本実施形態では、p型半導体領域11、i型半導体領域12、及びn型半導体領域13を有しており、ラテラル型のPIN型フォトダイオードとして構成されている。p型半導体領域11、i型半導体領域12、及びn型半導体領域13は、基板1上当該基板1の面方向に沿って順に形成されている。

[0039] 上記フォトダイオード10のp型半導体領域11、及びn型半導体領域13は、ゲート絶縁膜4、層間絶縁膜5、平坦化層6に形成されたコンタクトホールに設けられた配線7、7を介して、ソース配線膜8、8に接続されている。平坦化層6は、通常、絶縁体で構成され、絶縁層としての機能をも有している。ソース配線膜8、8は、フォトダイオード10の駆動用の引き出し電極となる。

[0040] ここで、ゲート絶縁膜4とは、図5を用いた従来例の説明でも述べたとおり、TFT等のアクティブ素子を形成する際のゲート絶縁層形成と同時に形成された絶縁膜であることを意味しており、ソース配線膜8とは、TFT等のアクティブ素子のソース配線層及びドレイン配線層の形成と同時に形成された配線層の一部を配線膜として用いていることを意味しており、便宜上、ドレイン配線層の形成でもある点を省略して、ソース配線膜と記載している。ソース配線膜8上には平坦化層としても機能する保護膜9が設けられている。

[0041] 図1に示すとおり、保護膜9は、フォトダイオードの受光部となる箇所の上部において取り除かれており、大きく凹んだ形状と成っている。保護膜9が取り除かれる領域は、少なくともフォトダイオード10のi型半導体領域12に相当する部分、即ち、ダイオードの受光部分であることが好ましいが、もちろん、多少の誤差があっても良い。このように保護膜の除去部分をフォトダイオードの受光部となる部分に限ることにより、保護膜の除去部分を最小限に保つことができ、表面の平坦化に悪影響を及ぼすことがなくなるという効果を奏する。また、フォトダイオードの受光部分の近傍に開口を設けたことにより、開口部の壁面などから僅かながら光の反射が起き、受光効率が高まるという効果を奏している。

[0042] フォトダイオード10の前面の保護膜9が除かれた領域を含めて保護膜9の上に透明電極膜25が設けられている。透明電極膜25は、表示装置の画素電極の成膜時に設けられる透明電極膜であり、ITOやIZOが用いられている。」

(イ)




エ 甲4に記載された事項


」(第43頁右欄2行?第44頁左欄7行)

オ 甲5に記載された事項
(ア) 「

」(第537頁右欄第29?40行)

(合議体訳:Dimer-Arは、芳香環を含んでいるため、脂肪族のTrimerよりも屈折率が高いと理解されている。アミノ電子供与基が結合したモノマーは、Dimer-Arよりも、明らかに高い指数を示すことで指数の増加に貢献している。Dimer-CNを用いた50/50のコポリマーは、用意したモノマーのうち最も高い屈折率を示した。一般的に、コポリマーの屈折率は、例えば、使用する成分、組成比、UV硬化時間等のパラメーターを変化させることで、調整することができる。予想どおり、二極性構造は、一極性構造や芳香族基を有する構造よりも高屈折率を達成するのにより効果的である。)

(イ) 「

」(第537頁表1)

(ウ)「

」(第538頁左欄第8?13行)

(合議体訳:Dimer-Amino及びDimer-Arについて、850nmにおける屈折率は、それぞれ1.538及び1.564と計算された。Dimer-CNのホモポリマーの850nmにおける屈折率は、1.595であった。この指数の上昇傾向は、測定した波長すべてにおいて、ホモポリマーについて明確に観測された。)

(エ)「

」(第539頁右欄16?19行)

(合議体訳:Dimer-CNとDimer-Aminoとの比較から、極性構造よりも二極性構造の方が屈折率を向上させるのにより効果的であることが示された。)

カ 甲6に記載された事項
“In previous study, the dipolar acrylate with amino-donating and cyano-withdrawing groups increased the refractive index of acrylic polymer films,^(5) The cyano group can be placed with a nitro group of better polarizing power.”(252頁左欄30行?右欄1行)

(合議体訳)「以前の研究^(5)によれば、アミノ電子供与基とシアノ電子吸引基とを有する二極性アクリレートは、その膜の屈折率が高くなった。シアノ基は、より大きい分極力を有するニトロ基に置換することができる。」

(2) 本件発明1について
ア 甲1発明Bとの対比及び判断
本件発明1の式(4)と甲1発明Bの式(2)に着目して、本件発明1と甲1発明Bとを対比する。

本件発明1の式(4)は、トリアジン環の2位炭素原子と4位炭素原子にモノアミンである-N(R^(8))-が結合しており、2位炭素原子に結合する窒素原子と、隣接するトリアジン環の4位炭素原子に結合する窒素原子とが、2価の芳香族炭化水素基である-R^(7)-を介して結合する線状骨格を有するものである。
一方、甲1発明Bの式(2)は、トリアジン環の2位炭素原子に、2つのモノアミンの窒素原子が、式(6)?(12)で示されるArを介して結合した芳香族ジアミンである-N(R)-Ar-N(R')-が結合しており、-N-(R')がArに結合する代わりに、トリアジン環の4位炭素原子に結合する構造と同じ線状重合体であることは明らかであって、本件発明1の上記直鎖骨格を有し、「トリアジン環含有線状ポリマー」であるといえる。

また、甲1発明Bのトリアジン環の2位炭素原子に結合した窒素原子に結合する「R」は、「互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアラルキル基を表」すものであるのに対して、本件発明1のトリアジン環の2位炭素原子に結合した窒素原子に結合する「R^(8)」は、「それぞれ水素原子、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は1以上の脂肪族炭化水素基及び1以上の芳香族炭化水素基から選択される1以上と、単結合、-S-、-O-、-NH-、-NR^(13)-、-(CO)-NH-、-(CO)-O-及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる基を表す。R^(8)はさらに置換基によって置換されていてもよい」ものである。
そうすると、甲1発明Bの式(2)における「R」の「水素原子」、「アルキル基」及び「アリール基」は、本件発明1の式(4)における「R^(8)」の「水素原子」、「脂肪族炭化水素基」及び「芳香族炭化水素基」にそれぞれ相当し、甲1発明Bの式(2)における「R」の「アルコキシ基」及び「アラルキル基」は、本件発明1の式(4)における「R^(8)」の「1以上の脂肪族炭化水素基」と「-O-」「との組み合わせからなる基」、及び「1以上の脂肪族炭化水素基及び1以上の芳香族炭化水素基」と「単結合」「との組み合わせからなる基」にそれぞれ相当するから、甲1発明Bの式(2)における「R」は、本件発明1の式(4)における「R^(8)」に相当するといえる。そして、甲1発明Bにおける式(2)の「R'」も同様に、本件発明1における式(4)の「R^(8)」に相当する。

そして、甲1発明Bのトリアジン環の2位炭素原子に結合した窒素原子に結合する「Ar」は、「式(6)?(12)で示される群から選ばれる少なくとも1種を表」し、式(6)?(12)はいずれも2価の芳香族炭化水素基であり、本件発明1のトリアジン環の2位炭素原子に結合した窒素原子に結合する「R^(7)」は、2価の芳香族炭化水素基であってよいから、甲1発明Bの式(2)における「Ar」は、本件発明1の式(4)における「R^(7)」に相当する。

更に、本件発明1の式(4)は、トリアジン環の6位炭素原子に芳香族アミンの置換基「-N(R^(9))-Ar-(Y)m」を有するのに対して、甲1発明Bの式(2)は、トリアジン環の6位炭素原子に置換基-R”を有するから、両者は、トリアジン環の6位炭素原子に何らかの置換基を有する限りにおいて一致する。

そうすると、本件発明1と甲1発明Bとは、トリアジン環の6位炭素原子に何らかの置換基を有する「トリアジン環含有線状ポリマー」「を含む組成物」であって、
トリアジン環の2位炭素原子に結合した窒素原子に結合するR^(7)及びR^(8)、4位炭素原子に結合した窒素原子に結合するR^(8)は、
「R^(7)は、2価の脂肪族炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基、又は1以上の2価の脂肪族炭化水素基及び1以上の2価の芳香族炭化水素基から選択される1以上と、単結合、-S-、-O-、-NH-、-NR^(13)-、-(CO)-NH-、-(CO)-O-及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる2価の基を表す。R^(7)はさらに置換基によって置換されていてもよい。」
「R^(8)は、それぞれ水素原子、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は1以上の脂肪族炭化水素基及び1以上の芳香族炭化水素基から選択される1以上と、単結合、-S-、-O-、-NH-、-NR^(13)-、-(CO)-NH-、-(CO)-O-及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる基を表す。R^(8)はさらに置換基によって置換されていてもよい。」の点で一致し、次の点で相違する。

・相違点1A:本件発明1は、式(4)のトリアジン環における6位炭素原子の置換基が「-N(R^(9))-Ar-(Y)m」であり、
「R^(9)は、水素原子、アセチル基、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基を有する脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基と単結合、-S-、-O-、-NH-、-NR^(13)-、-(CO)-NH-、-(CO)-O-及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる基を有する脂肪族炭化水素基を表す。R^(9)はさらに置換基によって置換されていてもよい。」
「Arは、2価の芳香族炭化水素基を表す。」
「Yはヘテロ原子含有置換基を表す。mは1?5の整数を表す。」
「nはポリマーにおける繰り返し構造の繰り返し数を表し、5以上5,000以下の整数である。」のに対して、
甲1発明Bは、トリアジン環における6位炭素原子の置換基R”が、「アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルアミノ基、アルコキシシリル基含有アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基またはアリールオキシ基を表」し、式(2)の繰り返し構造の繰り返し数は特定されていない点。

・相違点1B:本件発明1は、第1成分の「屈折率が1.70以上2.10以下である」のに対して、甲1発明Bは、トリアジン環含有重合体の屈折率が不明である点。

・相違点1C:本件発明1は、第2成分として、「ヘテロ原子として酸素原子のみを含む有機溶媒」を含むのに対して、甲1発明Bは、そのような特定がない点。

・相違点1D:本件発明1は、第3成分として、「下記式(8)で表される化合物又はその重合体」を含むのに対して、甲1発明Bは、そのような特定がない点。

・相違点1E:本件発明1は、「UV硬化開始剤」を含むのに対して、甲1発明Bは、そのような特定がない点。

まず、相違点1Aについて検討する。
甲1発明Bの「R”」はアリールアミノ基であってもよく、甲1の摘記(1)ア(イ)には、アリールアミノ基の具体例として、メトキシカルボニルフェニルアミノ基、エトキシカルボニルフェニルアミノ基、メトキシカルボニルナフチルアミノ基、エトキシカルボニルナフチルアミノ基が記載されているから、甲1には、「R”」の選択肢として、本件発明1の-N(R^(9))-Ar-(Y)mと同じ化学構造の置換基が記載されているとはいえる。
このように、甲1には、一般的な記載の中に、本件発明1のトリアジン環の6位炭素原子に結合する置換基が選択肢としてそれぞれ記載されているといえるが、本件発明1の式(4)で表されるポリマーが、具体的な化合物の形で記載されていないし、これを用いた実施例も記載されていない。そして、甲1発明Bの具体例として、フェニルアミノ基を有する線状高分子化合物[5]を用いた実施例があるが(摘記(1)ア(カ)?(ス))、これは本件発明1の-N(R^(9))-Ar-(Y)mを有するポリマーではない。また、甲1には、重合体の重量平均分子量は記載されているが(摘記(1)ア(ウ))、繰り返し構造の繰り返し数は記載されていない。このような甲1の記載から、本件発明1のトリアジン環含有線状ポリマーを当業者が把握できるとはいえない。
そうすると、甲1には、本件発明1における式(4)のトリアジン環含有線状ポリマーが記載されているとはいえず、相違点1Aは実質的な相違点である。
したがって、本件発明1、及び、これを直接又は間接的に引用する本件発明2?7、11及び12は、相違点1B?1Eを検討するまでもなく、甲1に記載された発明ではない。

次に、相違点1Aの容易想到性について検討する。

上述のように、甲1には、甲1発明Bの式(2)の「R”」として、本件発明1の式(4)の「-N(R^(9))-Ar-(Y)m」と同じ化学構造である特定のアリールアミノ基が一般的な記載の中に例示されているに留まり、甲1発明Bの実施例はトリアジン環の6位炭素原子にフェニルアミノ基を有する線状高分子化合物[5]が一種類あるのみである。
また、甲1には、式(2)の「R”」として、「アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルアミノ基、アルコキシシリル基含有アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基またはアリールオキシ基」という選択肢の中からアリールアミノ基を選択して、更に、アリールアミノ基の中から、本件発明1の「-N(R^(9))-Ar-(Y)m」に包含される上記メトキシカルボニルフェニルアミノ基等を選択することが動機付けられる記載は何ら見当たらない。
そうすると、甲1発明Bにおいて、本件発明1の式(4)で表されるトリアジン環含有線状ポリマーを用いることが動機付けられるとはいえないし、本件発明1の式(3)、(5)?(7)で表されるトリアジン環含有線状ポリマーを用いることも当業者が容易に想到し得ない。
また、甲3を見ても、甲1発明Bにおいて、トリアジン環の6位炭素原子の置換基を、本件発明1の「-N(R^(9))-Ar-(Y)m」とすることを動機付けられる記載や示唆はない。
そして、本件明細書の記載(段落【0011】、【0092】?【0109】)によれば、本件発明1は、式(3)?(7)のいずれかで表される繰り返し単位を含むことにより、高屈折率材料が均一に溶解、相溶した組成物が提供できるという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、相違点1B?1Eの容易想到性について検討するまでもなく、甲1に記載された発明、並びに、甲1及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。

(2)本件発明2?5
請求項2?5は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記(1)で述べたのと同じ理由により、本件発明2?5は、甲1に記載された発明でないし、甲1に記載された発明並びに甲1及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件発明6
本件発明6と甲1発明Cを対比する。
甲1発明Cは、重合体である甲1発明Aを含む膜であって(上記(1)ア)、甲1発明Aを含む組成物である甲1発明Bにより形成されるものであり(摘記(1)ア(エ)及び(ク))、本件の請求項6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明6と甲1発明Cとは、本件発明1と甲1発明Bの関係と同じく、少なくとも相違点1A?1Eと同様の相違点がある。
そして、本件発明1について上記(1)で述べたのと同じ理由により、本件発明6は、甲1に記載された発明でないし、甲1に記載された発明並びに甲1及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)本件発明7?12
本件発明7?12と甲1発明Dを対比する。
甲1発明Dは、膜である甲1発明Cを備える電子デバイス又は光学部材であり、本件の請求項7?12は請求項6又は請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明7?12と甲1発明Dとは、本件発明6と甲1発明Cの関係及び本件発明1と甲1発明Bの関係と同じく、少なくとも相違点1A?1Eと同様の相違点がある。
そして、本件発明1及び6について上記(1)及び(3)で述べたのと同じ理由により、本件発明7、11及び12は、甲1に記載された発明でないし、本件発明7?12は、甲1に記載された発明並びに甲1及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

2 申立理由1-2(新規性)及び申立理由2-2(進歩性)について
(1)甲2発明
甲2の摘記(1)イ(ア)には、請求項1を引用する請求項3を独立形式で表現すると、次の発明が記載されている。

「下記式(1)で表される繰り返し単位構造を含み、Ar^(1)が式(15)で示されるトリアジン環含有重合体。
【化1】
(合議体注:式は省略)
{式中、RおよびR′は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアラルキル基を表し、Ar^(1)は、アリール基を示し、Ar^(2)は、式(2)?(13)で示される群から選ばれる少なくとも1種を表す。
【化2】
(合議体注:式は省略)
〔式中、R^(1)?R^(92)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、R^(93)およびR^(94)は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアラルキル基を表し、W^(1)およびW^(2)は、互いに独立して、単結合、CR^(95)R^(96)(R^(95)およびR^(96)は、互いに独立して、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基(ただし、これらは一緒になって環を形成していてもよい。)を表す。)、C=O、O、S、SO、SO_(2)、またはNR^(97)(R^(97)は、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基を表す。)を表し、X^(1)およびX^(2)は、互いに独立して、単結合、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基、または式(14)
【化3】
(合議体注:式は省略)
(式中、R^(98)?R^(101)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、Y^(1)およびY^(2)は、互いに独立して、単結合または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基を表す。)で示される基を表す。〕}
【化4】
(合議体注:式は省略)
(式中、R^(102)?R^(106)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表す。)」(以下、「甲2発明A」という。)

同様に、請求項1を引用する請求項3を更に引用する請求項4?6を独立形式で表現すると、次の発明が記載されている。

「下記式(1)で表される繰り返し単位構造を含み、Ar^(1)が式(15)で示されるトリアジン環含有重合体を含む膜形成用組成物。
【化1】
(合議体注:式は省略)
{式中、RおよびR′は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアラルキル基を表し、Ar^(1)は、アリール基を示し、Ar^(2)は、式(2)?(13)で示される群から選ばれる少なくとも1種を表す。
【化2】
(合議体注:式は省略)
〔式中、R^(1)?R^(92)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、R^(93)およびR^(94)は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアラルキル基を表し、W^(1)およびW^(2)は、互いに独立して、単結合、CR^(95)R^(96)(R^(95)およびR^(96)は、互いに独立して、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基(ただし、これらは一緒になって環を形成していてもよい。)を表す。)、C=O、O、S、SO、SO_(2)、またはNR^(97)(R^(97)は、水素原子または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基を表す。)を表し、X^(1)およびX^(2)は、互いに独立して、単結合、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基、または式(14)
【化3】
(合議体注:式は省略)
(式中、R^(98)?R^(101)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表し、Y^(1)およびY^(2)は、互いに独立して、単結合または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキレン基を表す。)で示される基を表す。〕}
【化4】
(合議体注:式は省略)
(式中、R^(102)?R^(106)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表す。)」(以下、「甲2発明B」という。)

「甲2発明Aを含む膜。」(以下、「甲2発明C」という。)

「基材と、この基材上に形成された甲2発明Cとを備える電子デバイス。」(以下、「甲2発明D」という。)

(2)本件発明1について
ア 甲2発明Bとの対比及び判断
本件発明1の式(4)に着目して、本件発明1と甲2発明Bとを対比する。
本件発明1の式(4)は、トリアジン環の2位炭素原子と4位炭素原子にモノアミンである-N(R^(8))-が結合しており、2位炭素原子に結合する窒素原子と、隣接するトリアジン環の4位炭素原子に結合する窒素原子とが、2価の芳香族炭化水素基である-R^(7)-を介して結合する線状骨格を有するものである。
一方、甲2発明Bの式(1)は、トリアジン環の2位炭素原子に、2つのモノアミンの窒素原子がAr^(2)を介して結合した芳香族ジアミンである-N(R)-Ar-N(R')-が結合しており、-N-(R')がArに結合する代わりに、トリアジン環の4位炭素原子に結合する構造と同じ線状重合体であることは明らかであって、本件発明1の上記直鎖骨格を有し、「トリアジン環含有線状ポリマー」であるといえる。

また、甲2発明Bのトリアジン環の2位炭素原子に結合した窒素原子に結合する「R」は、「互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアラルキル基を表」すものであるのに対して、本件発明1のトリアジン環の2位炭素原子に結合した窒素原子に結合する「R^(8)」は、「それぞれ水素原子、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は1以上の脂肪族炭化水素基及び1以上の芳香族炭化水素基から選択される1以上と、単結合、-S-、-O-、-NH-、-NR^(13)-、-(CO)-NH-、-(CO)-O-及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる基を表す。R^(8)はさらに置換基によって置換されていてもよい」ものである。
そうすると、甲2発明Bの式(1)における「R」の「水素原子」、「アルキル基」及び「アリール基」は、本件発明1の式(4)における「R^(8)」の「水素原子」、「脂肪族炭化水素基」及び「芳香族炭化水素基」にそれぞれ相当し、甲2発明Bの式(1)における「R」の「アルコキシ基」及び「アラルキル基」は、本件発明1の式(4)における「R^(8)」の「1以上の脂肪族炭化水素基」と「-O-」「との組み合わせからなる基」、及び「1以上の脂肪族炭化水素基及び1以上の芳香族炭化水素基」と「単結合」「との組み合わせからなる基」にそれぞれ相当するから、甲2発明Bの式(1)における「R」は、本件発明1の式(4)における「R^(8)」に相当するといえる。そして、甲2発明Bにおける式(1)の「R'」も同様に、本件発明1における式(4)の「R^(8)」に相当する。

そして、甲2発明Bのトリアジン環の2位炭素原子に結合した窒素原子に結合する「Ar^(2)」は、「式(2)?(13)で示される群から選ばれる少なくとも1種を表」し、式(2)?(13)はいずれも2価の芳香族炭化水素基であり、本件発明1のトリアジン環の2位炭素原子に結合した窒素原子に結合する「R^(7)」は、2価の芳香族炭化水素基であってよいから、甲2発明Bの式(1)における「Ar^(2)」は、本件発明1の式(4)における「R^(7)」に相当する。

更に、本件発明1の式(4)は、トリアジン環の6位炭素原子に芳香族アミンの置換基「-N(R^(9))-Ar-(Y)m」を有するのに対して、甲2発明Bの式(1)は、トリアジン環の6位炭素原子に置換基「-NH-Ar^(1)」を有し、「Ar^(1)」は式(15)で示されるから、両者は、トリアジン環の6位炭素原子に何らかのアリールアミノ基を有する限りにおいて一致する。

そうすると、本件発明1と甲2発明Bとは、トリアジン環の6位炭素原子に何らかのアリールアミノ基を有する「トリアジン環含有線状ポリマー」「を含む組成物」であって、
トリアジン環の2位炭素原子に結合した窒素原子に結合するR^(7)及びR^(8)、4位炭素原子に結合した窒素原子に結合するR^(8)は、
「R^(7)は、2価の脂肪族炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基、又は1以上の2価の脂肪族炭化水素基及び1以上の2価の芳香族炭化水素基から選択される1以上と、単結合、-S-、-O-、-NH-、-NR^(13)-、-(CO)-NH-、-(CO)-O-及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる2価の基を表す。R^(7)はさらに置換基によって置換されていてもよい。」
「R^(8)は、それぞれ水素原子、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は1以上の脂肪族炭化水素基及び1以上の芳香族炭化水素基から選択される1以上と、単結合、-S-、-O-、-NH-、-NR^(13)-、-(CO)-NH-、-(CO)-O-及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる基を表す。R^(8)はさらに置換基によって置換されていてもよい。」の点で一致し、次の点で相違する。

・相違点2A:本件発明1は、式(4)のトリアジン環における6位炭素原子の置換基が「-N(R^(9))-Ar-(Y)m」であり、
「R^(9)は、水素原子、アセチル基、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基を有する脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基と単結合、-S-、-O-、-NH-、-NR^(13)-、-(CO)-NH-、-(CO)-O-及び-(CO)-から選択される1以上との組み合わせからなる基を有する脂肪族炭化水素基を表す。R^(9)はさらに置換基によって置換されていてもよい。」
「Arは、2価の芳香族炭化水素基を表す。」
「Yはヘテロ原子含有置換基を表す。mは1?5の整数を表す。」
「nはポリマーにおける繰り返し構造の繰り返し数を表し、5以上5,000以下の整数である。」のに対して、
甲2発明Bは、トリアジン環における6位炭素原子の置換基が、「-NH-Ar^(1)」であり、「Ar^(1)」が式(15)で示され、繰り返し構造の繰り返し数は特定されていない点。

・相違点2B:本件発明1は、第1成分の「屈折率が1.70以上2.10以下である」のに対して、甲2発明Bは、トリアジン環含有重合体の屈折率が不明である点。

・相違点2C:本件発明1は、第2成分として、「ヘテロ原子として酸素原子のみを含む有機溶媒」を含むのに対して、甲2発明Bは、そのような特定がない点。

・相違点2D:本件発明1は、第3成分として、「下記式(8)で表される化合物又はその重合体」を含むのに対して、甲2発明Bは、そのような特定がない点。

・相違点2E:本件発明1は、「UV硬化開始剤」を含むのに対して、甲2発明Bは、そのような特定がない点。

まず、相違点2Aについて検討する。
甲2発明Bの「Ar^(1)」が式(15)で示され、式(15)のR^(102)?R^(106)は、「互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表す」から、「ハロゲン原子」、「カルボキシル基」、「スルホン基」、「炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基」であってもよいものであるし、甲2には、「Ar^(1)」のアリール基の具体例として、p-メトキシフェニル基、p-シアノフェニル基等が記載されているから(摘記(1)イ(イ))、甲2には、「-NH-Ar^(1)」の選択肢として、本件発明1の「-N(R^(9))-Ar-(Y)m」と同じ化学構造のアリールアミノ基が記載されているとはいえる。

このように、甲2には、「-NH-Ar^(1)」の「Ar^(1)」の置換基が選択肢としてそれぞれ記載されているといえるが、本件発明1の式(4)で表されるポリマーが、具体的な化合物の形で記載されていないし、これを用いた実施例も記載されていない。そして、甲2発明Bの具体例として、フェニルアミノ基を有する線状高分子化合物[1]及び[2]を用いた実施例はあるが(摘記(1)イ(オ))、これらは本件発明1の「-N(R^(9))-Ar-(Y)m」を有するポリマーではない。また、甲2には、繰り返し構造の繰り返し数は記載されていない。このような甲2の記載から、本件発明1のトリアジン環含有線状ポリマーを当業者が把握できるとはいえない。
そうすると、甲2には、本件発明1における式(4)のトリアジン環含有線状ポリマーが記載されているとはいえず、相違点2Aは実質的な相違点である。
したがって、本件発明1、及び、これを直接又は間接的に引用する本件発明2?7、11及び12は、相違点2B?2Eを検討するまでもなく、甲2に記載された発明ではない。

次に、相違点2Aの容易想到性について検討する。
上述のように、甲2には、甲2発明Bの「-NH-Ar^(2)」として、本件発明1の式(4)の「-N(R^(9))-Ar-(Y)m」と同じ化学構造であるアリールアミノ基が例示されているに留まり、甲2発明Bの実施例はトリアジン環の6位炭素原子にフェニルアミノ基を有する線状高分子化合物[1]及び[2]があるのみである。
また、甲2には、「-NH-Ar^(1)」の「Ar^(1)」として、「R^(102)?R^(106)としては、好ましくは水素原子である」し(摘記(1)イ(ウ))、ヘテロ原子含有置換基である「ハロゲン原子」、「カルボキシル基」、「スルホン基」、または「炭素数1?10の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基」を選択したり、上記p-メトキシフェニル基、p-シアノフェニル基等を選択したりすることが動機付けられる記載は何ら見当たらない。
そうすると、甲2発明Bにおいて、本件発明1の式(4)で表されるトリアジン環含有線状ポリマーを用いることが動機付けられるとはいえない。

また、甲1、3、5及び6を見ても、甲2発明Bにおいて、トリアジン環の6位炭素原子の置換基を、本件発明1の「-N(R^(9))-Ar-(Y)m」とすることを動機付けられる記載や示唆はない。
そして、本件明細書の記載(段落【0011】、【0092】?【0109】)によれば、本件発明1は、式(3)?(7)のいずれかで表される繰り返し単位を含むことにより、高屈折率材料が均一に溶解、相溶した組成物が提供できるという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、相違点2B?2Eの容易想到性について検討するまでもなく、甲2に記載された発明、並びに甲1?3、5及び6に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。

(2)本件発明2?5
請求項2?5は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記(1)で述べたのと同じ理由により、本件発明2?5は、甲2に記載された発明でないし、甲2に記載された発明並びに甲1?3、甲5及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件発明6
本件発明6と甲2発明Cを対比する。
甲2発明Cは、重合体である甲2発明Aを含む膜であって(上記(1)イ)、甲2発明Aを含む組成物である甲2発明Bにより形成されるものであり(摘記(1)イ(エ)及び(オ))、本件の請求項6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明6と甲2発明Cとは、本件発明1と甲2発明Bの関係と同じく、少なくとも相違点2A?2Eと同様の相違点がある。
そして、本件発明1について上記(1)で述べたのと同じ理由により、本件発明6は、甲2に記載された発明でないし、甲2に記載された発明並びに甲1?3、甲5及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)本件発明7?12
本件発明7?12と甲2発明Dを対比する。
甲2発明Dは膜である甲2発明Cを備える電子デバイス又は光学部材であり、本件の請求項7?12は請求項6又は請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明7?12と甲2発明Dとは、本件発明6と甲2発明Cの関係や本件発明1と甲2発明Bの関係と同じく、少なくとも相違点2A?2Eと同様の相違点がある。
そして、本件発明1及び6について上記(1)及び(3)で述べたのと同じ理由により、本件発明7、11及び12は、甲2に記載された発明でないし、本件発明7?12は、甲2に記載された発明並びに甲1?3、甲5及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?12に係る特許を取り消すことはできない。
他に、本件特許の請求項1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-07-02 
出願番号 特願2014-18958(P2014-18958)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 横山 法緒  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 井上 猛
近野 光知
登録日 2018-10-05 
登録番号 特許第6412316号(P6412316)
権利者 出光興産株式会社
発明の名称 トリアジン環含有ポリマーを含む組成物  
代理人 特許業務法人平和国際特許事務所  

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