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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01M
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1353421
審判番号 無効2018-800015  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-02-09 
確定日 2019-06-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5836501号発明「カーボン紙を有するフロー電池」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5836501号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、5?6、8?9〕、2、〔3?4〕、〔10?13〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 特許第5836501号の請求項6に係る特許についての本件審判の請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

1 本件審判請求前の手続の経緯

(1)本件特許第5836501号(以下、「本件特許」という。)は、2011年(平成23年)12月20日を国際出願日とする出願(特願2014-548751号)であって、その請求項1?13に係る発明について、平成27年11月13日に特許権が設定登録され、同年12月24日に特許掲載公報が発行された。

(2)その後、平成28年6月23日付けで請求項1?13に係る本件特許に対し、特許異議申立人である奥村一正によって特許異議の申立てがされ、上記特許異議の申立ては、異議2016-700563号として審理され、平成29年8月10日付けで「特許第5836501号の請求項7に係る特許を取り消す。 請求項1ないし6、8ないし9、10ないし13に係る特許を維持する。」という結論の決定がされたところ、上記決定の謄本は同年8月21日に被請求人に送達され、上記決定は同年12月19日に確定した。

2 本件審判請求の手続の経緯

本件無効審判(無効2018-800015号)は、前記「1」「(2)」の異議決定確定後に請求されたものであり、審判請求以降の手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成30年 2月 9日付け 無効審判請求
(請求人:住友電気工業株式会社)
3月27日付け 手続補正書(方式)(請求人)
同年 7月26日付け 審判事件答弁書、訂正請求書
(被請求人:ユナイテッド テクノロジーズ
コーポレイション)
同年10月 4日付け 審理事項通知書
同年10月18日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年11月16日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年12月13日 口頭審理
同年12月26日付け 上申書(請求人)
同年12月27日付け 上申書(被請求人)

第2 訂正請求について

1 請求の趣旨

平成30年7月26日付け訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は「特許第5836501号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6、8?13について訂正することを求める。」というものである。

2 訂正事項

本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1?7のとおりである。なお、下線は、訂正箇所を示すために当審が付したものである。

(1)訂正事項1

請求項1の「電気化学的活性種を含む電解液と、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間された第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極は、前記電解液を、該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、60?85体積%の範囲の非圧縮孔隙率と、を画定するカーボン紙を含むことを特徴とする、フロー電池。」という記載を、
「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極は、前記電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、60?85体積%の範囲の非圧縮孔隙率と、を画定するカーボン紙を含み、
前記カーボン紙が、1?10重量%の炭素粒子を含み、
前記カーボン紙が、150?400μmの厚さを有する、
ことを特徴とする、レドックスフロー電池。」という記載に訂正する。

(2)訂正事項2

「前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、を備えるとともに、その厚さに亘って孔隙率が均一となるように、炭素粒子が均一に分散されることを特徴とする請求項1に記載のフロー電池。」と記載された請求項2を独立形式に改め、
「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極は、前記電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、60?85体積%の範囲の非圧縮孔隙率と、を画定するカーボン紙を含み、
前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、を備えるとともに、その厚さに亘って孔隙率が均一となるように、炭素粒子が均一に分散されることを特徴とするレドックスフロー電池。」という記載に訂正する。

(3)訂正事項3

ア 「前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、を備えるとともに、その厚さに亘って前記流れ場板側からその反対側へと孔隙率が漸減するように、炭素粒子が分散されることを特徴とする請求項1に記載のフロー電池。」と記載された請求項3を独立形式に改め、
「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極は、前記電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、60?85体積%の範囲の非圧縮孔隙率と、を画定するカーボン紙を含み、
前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、を備えるとともに、その厚さに亘って前記流れ場板側からその反対側へと孔隙率が漸減するように、炭素粒子が分散されることを特徴とするレドックスフロー電池。」という記載に訂正する。

イ 前記「ア」の訂正に伴って、請求項3を引用する請求項4の末尾にある「フロー電池。」という記載を、「レドックスフロー電池。」という記載に訂正する。

(4)訂正事項4

ア 訂正事項1に係る本件訂正に伴って、請求項1を引用する請求項5の「炭素粒子」という記載を「前記炭素粒子」に訂正するとともに、請求項5の末尾にある「フロー電池。」という記載を「レドックスフロー電池。」という記載に訂正する。

イ 前記「ア」の訂正に伴って、請求項5を引用する請求項8の末尾にある「フロー電池。」という記載を「レドックスフロー電池。」という記載に訂正する。

(5)訂正事項5

請求項6を削除する。

(6)訂正事項6

請求項9の「前記カーボン紙が、150?400μmの厚さを有することを特徴とする請求項1に記載のフロー電池。」という記載を、
「前記カーボン紙が、150?250μmの厚さを有することを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池。」という記載に訂正する。

(7)訂正事項7

ア 請求項10の「電気化学的活性種を含む電解液と、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間された第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極は、前記電解液を、該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、150?400μmの平均厚さと、0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、65?85体積%の非圧縮孔隙率と、を有するカーボン紙を含むことを特徴とする、フロー電池。」という記載を、
「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間された第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極は、前記電解液を、前記第1の流れ場流路と前記第2の流れ場流路との間の圧力勾配によって、該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、150?400μmの平均厚さと、0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、65?85体積%の非圧縮孔隙率と、1?10重量%の炭素粒子と、を有するカーボン紙を含むことを特徴とする、レドックスフロー電池。」という記載に訂正する。

イ 前記「ア」の訂正に伴って、請求項10を引用する請求項11、12及び13の末尾にある「フロー電池。」という記載を「レドックスフロー電池。」という記載に訂正するとともに、請求項12及び13の「炭素粒子」という記載を「前記炭素粒子」という記載に訂正する。

3 一群の請求項について

本件訂正前の1?6、8、9は、請求項2?6、8、9が、本件訂正請求の対象である請求項1を引用する関係にあり、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、一群の請求項である。
また、本件訂正前の10?13は、請求項11?13が、本件訂正請求の対象である請求項10を引用する関係にあり、請求項10の訂正に連動して訂正されるものであるから、一群の請求項である。
したがって、本件訂正は、一群の請求項1?6、8、9、及び、一群の請求項10?13について請求されたものであるから、特許法第134条の2第3項の規定に適合する。

4 訂正要件の検討

(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について

ア 訂正事項1について

(ア)訂正の目的の適否

訂正事項1に係る本件訂正は、
a 「電気化学的活性種を含む電解液」「を備え」る「フロー電池」を、「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池」と訂正することにより、「フロー電池」が「レドックスフロー電池」であることを限定するとともに、当該「レドックスフロー電池」の動作を具体的に限定し、
b 「第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間された第2の流れ場流路と、を含む流れ場板」を、「第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含む流れ場板」と訂正することにより、「第2の流れ場流路」が「第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する」ことを限定するとともに、
「前記電解液を、該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させる」という記載を、「前記電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させる」という記載に訂正することにより、「電解液」の前記「貫流」が「前記圧力勾配により」生じるものであることを限定し、
c 「カーボン紙」が、「1?10重量%の炭素粒子を含み、」「150?400μmの厚さを有する」ことを限定するものである。
したがって、訂正事項1に係る本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無

a 本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)には、以下の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を表す(以下同様)。

(a)「レドックスフロー電池・・・として知られるフロー電池」(【0002】)
「基本的なフロー電池は・・・電気化学的に可逆的なレドックス反応を生じさせる。」(【0003】)
「図1は、電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出する一例のフロー電池20の選択された部分を示す。」(【0008】)
「フロー電池20は、電気化学的活性種24を有する電解液22を含み、その電解液は、更なる電解液26および電気化学的活性種30に対するレドックス対として機能する。」(【0009】)
「電解液22,26は、それぞれ、貯蔵タンク32,34に収容される。」(【0010】)
「電解液22,26は、それぞれ、供給管38を通して一つまたは複数のセル36に供給(例えば、ポンプ輸送)され、戻り管40により一つまたは複数のセル36から貯蔵タンク32,34へと戻される。」(【0011】)
「【図1】



(b)「図2は、セル36の一例を示す。・・・図示のように、セル36は第1の流れ場板50と、該第1の流れ場板50から離間された第2の流れ場板52と、を含む。」(【0013】)
「第1および第2の電極62,64は、それぞれ、第1および第2の流れ場板50,52に隣接して配置され、リブ58を越えて流れる電解液22または電解液26が対応する電極62または64を貫流するようにされる。」(【0015】)
「図示の実施例では、電極62,64の一方または両方が、カーボンファイバペーパなどのカーボン紙68を含み、このカーボン紙は、電解液22および/または電解液26に対して触媒活性を有する。」(【0016】)
「第2の流れ場流路56は第1の流れ場流路54の下流にあり、その結果、第2の流れ場流路56の電解液22/26は圧力損失により、第1の流れ場流路54の電解液22/26よりも低圧である。その圧力差により、流路54と流路56との間に圧力勾配がもたらされ、それにより電解液22/26の少なくとも一部がリブ58を越えて流路60内を第1の流れ場流路54から第2の流れ場流路56へと流入するように推進される。」(【0018】)
「【図2】



(c)「カーボン紙68の特性は、性能および耐久性を向上させるように流路54および流路56の『混成流』設計に応じて選択される。例えば、カーボン紙68は、0.8MPaの圧縮応力で所定の20%未満の圧縮ひずみを有し、60?85%の範囲の非圧縮孔隙率、および150?400μmの範囲の厚さ(t)を有する。」(【0019】)
「更なる実施例では、圧縮強度は、10%の圧縮ひずみにおいて0.8MPaよりも大きく、厚さは150?250μmである。」(【0020】)
「一例では・・・カーボン紙168は1?10重量%の炭素粒子172を含む。」(【0021】)

b 前記「a」によれば、本件明細書等には、前記「(ア)訂正の目的の適否」の「a」?「c」のそれぞれに対応して、以下の事項が記載されているものと認められる。

(a)「フロー電池」は「レドックスフロー電池」として知られ(【0002】)、電気化学的に可逆的なレドックス反応により、電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するものであって(【0003】【0008】)、電気化学的活性種を有する電解液と、当該電気化学的活性種に対してレドックス対として機能する別の電気化学的活性種を有する電解液が(【0009】図1)、各々の供給管を通じて一つ又は複数のセルに供給され、その後、戻り管を通じて、各々の貯蔵タンクに戻されることによって動作する(【0010】【0011】、図1)。

(b)一つ又は複数のセルに含まれる第1及び第2の「流れ場板」は(【0013】図2)、「第1の流れ場流路」と、その下流にある「第2の流れ場流路」を含み、「第2の流れ場流路」の電解液は、「第1の流れ場流路」の電解液よりも低圧であるため、その圧力差により、両者の間に圧力勾配がもたらされ、それによって電解液の一部は、「第1の流れ場流路」と「第2の流れ場流路」の間にあるリブを超えて、「流れ場板」に隣接して配置された「電極」内を貫流する(【0015】【0018】図2)。

(c)「電極」は「カーボン紙」を含み、電解液に対して触媒活性を有するものであるところ(【0016】)、上記「カーボン紙」の特性は、性能及び耐久性を向上させるように流路の「混成流」設計に応じて選択され、例えば、0.8MPaの圧縮応力で所定の20%未満の圧縮ひずみを有し、60?85%の範囲の非圧縮孔隙率、及び150?400μmの範囲の厚さを有し(【0019】)、さらには、150?250μmの範囲の厚さを有するように選択され(【0020】)、一例として、1?10重量%の炭素粒子を含む(【0021】)。

c 以上によれば、訂正事項1に係る本件訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項1に係る本件訂正は、請求項1に係る発明の各発明特定事項を限定するものであって、新規事項を追加するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

イ 訂正事項2について

(ア)訂正の目的の適否

訂正事項2に係る本件訂正は、請求項1を引用する請求項2を独立形式に改める際に、
a 請求項1の「電気化学的活性種を含む電解液」「を備え」る「フロー電池」を、「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池」と訂正することにより、「フロー電池」が「レドックスフロー電池」であることを限定するとともに、当該「レドックスフロー電池」の動作を具体的に限定し、
b 請求項1の「第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間された第2の流れ場流路と、を含む流れ場板」を、「第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含む流れ場板」と訂正することにより、「第2の流れ場流路」が「第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する」ことを限定するとともに、
請求項1の「前記電解液を、該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させる」という記載を、「前記電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させる」という記載に訂正することにより、「電解液」の前記「貫流」が「前記圧力勾配により」生じるものであることを限定するものである。
したがって、訂正事項2に係る本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第4号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項1に係る本件訂正と同様の理由(前記「ア 訂正事項1について」「(イ)新規事項の有無」)により、訂正事項2に係る本件訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 訂正事項3について

(ア)訂正の目的の適否

訂正事項3に係る本件訂正は、請求項1を引用する請求項3を独立形式に改める際に、
a 請求項1の「電気化学的活性種を含む電解液」「を備え」る「フロー電池」を、「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池」と訂正することにより、「フロー電池」が「レドックスフロー電池」であることを限定するとともに、当該「レドックスフロー電池」の動作を具体的に限定し、
b 請求項1の「第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間された第2の流れ場流路と、を含む流れ場板」を、「第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含む流れ場板」と訂正することにより、「第2の流れ場流路」が「第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する」ことを限定するとともに、
請求項1の「前記電解液を、該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させる」という記載を、「前記電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させる」という記載に訂正することにより、「電解液」の前記「貫流」が「前記圧力勾配により」生じるものであることを限定するものである。
したがって、訂正事項3に係る本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第4号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項1に係る本件訂正と同様の理由(前記「ア 訂正事項1について」「(イ)新規事項の有無」)により、訂正事項3に係る本件訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項4について

(ア)訂正の目的の適否

訂正事項4に係る本件訂正のうち、「ア」の訂正は、請求項5の記載を、本件訂正後の請求項1の記載に整合するように訂正するものであり、「イ」の訂正は、請求項8の記載を本件訂正後の請求項5の記載に整合するように訂正するものであるから、訂正事項4に係る本件訂正は、いずれも、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項4に係る本件訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

オ 訂正事項5について

(ア)訂正の目的の適否

訂正事項5に係る本件訂正は、請求項6を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項5に係る本件訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

カ 訂正事項6について

(ア)訂正の目的の適否

訂正事項6に係る本件訂正は、カーボン紙の厚さの上限を400μmから250μmに訂正して、本件訂正前のカーボン紙の厚さの数値範囲をさらに狭い範囲に限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

前記「ア 訂正事項1について」「(イ)新規事項の有無」「b」「(c)」にあるとおり、本件明細書等には、カーボン紙を150?250μmの範囲の厚さを有するように選択することが記載されているから、訂正事項6に係る本件訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

キ 訂正事項7について

(ア)訂正の目的の適否

a 訂正事項7に係る本件訂正のうち、「ア」の訂正は、
(a)「電気化学的活性種を含む電解液」「を備え」る「フロー電池」を、「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池」と訂正することにより、「フロー電池」が「レドックスフロー電池」であることを限定するとともに、当該「レドックスフロー電池」の動作を具体的に限定し、
(b)「前記電解液を、該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させる」という記載を、「前記電解液を、前記第1の流れ場流路と前記第2の流れ場流路との間の圧力勾配によって、該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させる」という記載に訂正することにより、「電解液」の前記「貫流」が「前記第1の流れ場流路と前記第2の流れ場流路との間の圧力勾配によって」生じるものであることを限定し、
(c)「カーボン紙」が、「1?10重量%の炭素粒子」「を有する」ことを限定するものである。
したがって、訂正事項7に係る本件訂正のうち、「ア」の訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

b 訂正事項7に係る本件訂正のうち、「イ」の訂正は、請求項11、12及び13の記載を、本件訂正後の請求項10の記載に整合するように訂正するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項1に係る本件訂正と同様の理由(前記「ア 訂正事項1について」「(イ)新規事項の有無」)により、訂正事項7に係る本件訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2)独立特許要件

本件訂正請求は、いずれも特許無効審判の請求がされた請求項である本件訂正前の請求項1?6、8?12に対してされているので、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

4 小括

以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第3項、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、本件訂正後の請求項2及び請求項3?4については、請求項1との引用関係を解消する求めがされている。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、請求項〔1、5?6、8?9〕、2、〔3?4〕、〔10?13〕をそれぞれ訂正の単位として訂正することを認める。

第3 本件発明

前記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1?6、8?13に係る発明(以下、順に「本件発明1」?「本件発明6」、「本件発明8」?「本件発明13」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?6、8?13に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極は、前記電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、60?85体積%の範囲の非圧縮孔隙率と、を画定するカーボン紙を含み、
前記カーボン紙が、1?10重量%の炭素粒子を含み、
前記カーボン紙が、150?400μmの厚さを有する、
ことを特徴とする、レドックスフロー電池。
【請求項2】
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極は、前記電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、60?85体積%の範囲の非圧縮孔隙率と、を画定するカーボン紙を含み、
前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、を備えるとともに、その厚さに亘って孔隙率が均一となるように、炭素粒子が均一に分散されることを特徴とするレドックスフロー電池。
【請求項3】
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極は、前記電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、60?85体積%の範囲の非圧縮孔隙率と、を画定するカーボン紙を含み、
前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、を備えるとともに、その厚さに亘って前記流れ場板側からその反対側へと孔隙率が漸減するように、炭素粒子が分散されることを特徴とするレドックスフロー電池。
【請求項4】
前記カーボン紙の、前記流れ場板近傍の側の孔隙率が最大となることを特徴とする請求項3に記載のレドックスフロー電池。
【請求項5】
前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、前記カーボンファイバに堆積された前記炭素粒子と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池。
【請求項6】
(削除)
【請求項8】
前記炭素粒子が、多様な粒度分布を有することを特徴とする請求項5に記載のレドックスフロー電池。
【請求項9】
前記カーボン紙が、150?250μmの厚さを有することを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池。
【請求項10】
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間された第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極は、前記電解液を、前記第1の流れ場流路と前記第2の流れ場流路との間の圧力勾配によって、該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、150?400μmの平均厚さと、0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、65?85体積%の非圧縮孔隙率と、1?10重量%の炭素粒子と、を有するカーボン紙を含むことを特徴とする、レドックスフロー電池。
【請求項11】
前記厚さが、150?250μmであることを特徴とする請求項10に記載のレドックスフロー電池。
【請求項12】
前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、を備えるとともに、前記厚さに亘って前記流れ場板側からその反対側へと孔隙率が漸減するように、前記炭素粒子が分散されることを特徴とする請求項10に記載のレドックスフロー電池。
【請求項13】
前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、前記カーボンファイバに堆積された前記炭素粒子と、を含むことを特徴とする請求項10に記載のレドックスフロー電池。」

第4 請求人の主張の概要及び証拠方法

本件無効審判の請求人である住友電気工業株式会社(以下、「請求人」という。)は、請求の趣旨を「(1)特許第5836501号の特許請求の範囲の請求項1?6及び8?13に記載された発明についての特許を無効とする(2)審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求める。」として、平成30年3月27日付け手続補正書(方式)によって補正された審判請求書(以下、「審判請求書」という。)、口頭審理陳述要領書及び上申書を提出するとともに、証拠方法として、下記の甲第1号証?甲第3号証及び甲第5号証?甲第19号証を審判請求書に添付して、甲第20号証?甲第25号証をその後提出された書面に添付して提出し、本件特許には以下の無効理由1?5があることを主張している。

第1の無効理由(明確性要件違反)
本件特許の請求項1?6及び8?13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである(審判請求書第10頁下から第4行?第11頁第2行)。

第2の無効理由(進歩性欠如)
本件特許の請求項1?6及び8?13に係る発明は、甲第9号証、甲第11号証及び甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである(審判請求書第11頁第3?8行)。

第3の無効理由(進歩性欠如)
本件特許の請求項1?6及び8?13に係る発明は、甲第16号証、甲第17号証、甲第11号証及び甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである(審判請求書第11頁第9?14行)。

第4の無効理由(進歩性欠如)
本件特許の請求項1?6及び8?13に係る発明は、甲第17号証、甲第15号証、甲第11号証及び甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである(審判請求書第11頁第15?20行)。

第5の無効理由(進歩性欠如)
本件特許の請求項1?6及び8?13に係る発明は、甲第18号証、甲第11号証及び甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。
なお、本件訂正が認められたことに伴い、当初主張されていた第5の無効理由(審判請求書第11頁第21?第12頁第5行)のうち、請求項1及び9?11に係る発明に対する甲第18号証に記載された発明に基づく新規性欠如の無効理由は、上記のとおり、請求項1及び9?11に係る発明に対する甲第18号証、甲第11号証及び甲第14号証に記載された発明に基づく進歩性欠如の無効理由となった(第1回口頭審理調書「請求人」「7」)。

[証拠方法]

・甲第1号証:JNTG CO.,LTD.,「Gas Diffusion Layer(GDL) for Fuel Cell and 2nd Battery」,作成年月日不明,第1?2頁

・甲第2号証:AvCarb Material Solutions,「AvCarb Gas Diffusion Systems for Fuel Cells」,作成年月日不明,第1?2頁

・甲第3号証:FREUDENBERG,「FREUDENBERG GAS DIFFUSION LAYERS TECHNICAL DATA」,作成年月日不明,第1?2頁

・甲第5号証:ASTM INTERNATIONAL,「Standard Test Method for Thickness of Nonwoven Fabrics」,ANNUAL BOOK OF ASTM STANDARDS 2002 SECTION SEVEN Textiles,2002年,第837?840頁

・甲第6-1号証:株式会社島津テクノリサーチ試験解析事業部 分析計測センター 山本孝之,「試験報告書 MAM-01629(46302528)」,平成30年1月22日,第1?2頁

・甲第6-2号証:株式会社島津テクノリサーチ試験解析事業部 分析計測センター 山本孝之,「試験報告書 MAM-01632(46400244)」,平成30年1月22日,第1?3頁

・甲第6-3号証:株式会社島津テクノリサーチ試験解析事業部 分析計測センター 山本孝之,「試験報告書 MAM-01636(46400241)」,平成30年1月22日,第1?3頁

・甲第7号証:J.Kleemann 外2名,「Characterisation of mechanical behaviour and coupled electrical properties of polymer electrolyte membrane fuel cell gas diffusion layers」,Journal of Power Sources 190(2009),2008年9月18日,第92?102頁

・甲第8号証:Sylvie Escribano 外4名,「Characterization of PEMFCs gas diffusion layers properties」,Journal of Power Sources 156(2006),2005年10月17日,第8?13頁

・甲第9号証:Adam Z. Weber 外5名,「Redox flow batteries: a review」,Journal of Applied Electrochemistry (2011)41,2011年9月2日,第1137?1164頁

・甲第10号証:根岸明,「レドックスフロー電池」,燃料電池 VOL.2 NO.4 2003,2003年4月,第69?74頁

・甲第11号証:特開平10-81575号公報

・甲第12号証:Dae-Young Kim 外3名,「High-yield carbonization of cellulose by sulfuric acid impregnation」,Cellulose March 2001 Volume 8 Issue 1,2001年3月,第29?33頁

・甲第13号証:Satish M Manocha 外2名,「Development of carbon foam from phenolic resin via template route」,Indian Journal of Engineering & Materials Sciences,Vol.17 October 2010,2010年10月,第338?342頁

・甲第14号証:特許第3594533号公報

・甲第15号証:財団法人日本自動車研究所,「平成17年度 燃料電池自動車に関する調査報告書」,平成18年3月,第426?430頁

・甲第16号証:Xuanli Luo 外6名,「Influences of Permeation of Vanadium Ions through PVDF-g-PSSA Membranes on Performances of Vanadium Redox Flow Batteries」,Journal of Physical Chemistry B 2005 Vol.109 No.43,2005年10月8日,第20310?20314頁

・甲第17号証:国際公開第2011/075135号(国際公開日:2011年6月23日)

・甲第18号証:V.Livshits 外2名,「High-power H_(2)/Br_(2) fuel cell」,Electrochemistry Communications 8(2006),2006年7月26日,第1358?1362頁

・甲第19号証:Trung Nguyen 外1名,「Flow Batteries」,The Electrochemical Society Interface,Fall 2010,vol.19,issue3,第54?56頁

・甲第20号証:ISO(International Organization for Standardization),「INTERNATIONAL STANDARD ISO 4046-3,First Edition,Paper,board,pulps and related terms-Vocabulary- Part3:Paper-making terminology」,2002年10月1日,第i?vi頁,第1?25頁

・甲第21号証:TAPPI(Technical Association of Pulp and Paper Industry),「T411 om-97 Thickness(caliper) of paper,paperboard, and combined board」(http://grayhall.co.uk/BeloitResearch/tappi/t411.pdf),1997年,第1?4頁

・甲第22号証:David Leckey,意見書(European Patent No.2795696(11877784.6) Regional Phase of PCT Application PCT/US2011/066149 United Technologies Corporation),2017年11月20日,第1?13頁

・甲第23号証:Ballard Material Products,Inc.,「AvCarb Gas Diffusion Systems for Fuel Cells」(http://www.fuelcellsetc.com/store/DS/avcarb-carbon-paper-specifications.pdf),2011年4月,第1?2頁

・甲第24号証:Jacob LaManna,「Determination of effective water vapor diffusion coefficient in PEMFC gas diffusion layers」(https://scholarworks.rit.edu/theses/5891/),Rochester Institute of Technology,2010年6月1日,第C-1?C-9頁

・甲第25号証:Q.Ye 外2名,「The role of under-rib convection in mass transport of methanol through the serpentine flow field and its neighboring porous layer in a DMFC」,Electrochimica Acta Volume 51 Issue 25,2006年3月29日,第5420?5429頁

(以下、甲第1号証?甲第3号証、甲第5号証?甲第25号証を、それぞれ「甲1」?「甲3」、「甲5」?「甲25」という。)

第5 被請求人の主張の概要及び証拠方法

本件無効審判請求に対し、被請求人であるユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション(以下、「被請求人」という。)は、答弁の趣旨を「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」として、審判事件答弁書、訂正請求書、口頭審理陳述要領書及び上申書を提出するとともに、証拠方法として、下記の乙第1号証?乙第11号証を提出し、請求人が主張する無効理由1?5には、いずれも理由がないと主張している。

[証拠方法]

・乙第1号証:特開2017-143002号公報

・乙第2号証:特開昭60-25163号公報

・乙第3号証:特許第6066141号公報

・乙第4号証:特開2017-50297号公報

・乙第5号証:特開2017-10809号公報

・乙第6号証:特許第6040489号公報

・乙第7号証:ISO(International Organization for Standardization),「INTERNATIONAL STANDARD ISO 534 Fourth Edition Paper and board-Determination of thickness,density and specific volume」,2011年11月15日,第i?iv頁,第1?13頁

・乙第8号証:TESTING MACHINES,INC.,「Digital Micrometer ISO 534 49-86」(https://www.testingmachines.com/standard/iso-534),2018年7月5日印刷,第1?2頁

・乙第9号証:Dr.Adam Z.Weber,「IN THE MATTER OF: Invalidation Trial: Japanese Patent No.5836501 DECLARATION OF DR.ADAM Z.WEBER」,2018年6月19日,第1?3頁

・乙第10号証:European Patent Office,「Decision rejecting the opposition (Art.101(2)EPC)」,2018年11月23日,第1?31頁

・乙第11号証:M.F.Mathias 外3名,「Handbook of Fuel Cells Fundamentals Technology and Applications VOLUME 3 Fuel Cell Technology and Applications: Part 1」,2003年,John Wily & Sons Ltd,第517?537頁

(以下、乙第1号証?乙甲第11号証を、それぞれ「乙1」?「乙11」という。)

第6 各甲号証の記載

請求人が証拠方法として提出した各甲号証には、以下の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を表す(以下同様)。

1 甲1(JNTG CO.,LTD.,「Gas Diffusion Layer(GDL) for Fuel Cell and 2nd Battery」)

甲1は、作成年月日が不明であるJNTG社のガス拡散層(Gas Diffusion Layer:GDL)のカタログであり、第2頁の「Carbon Paper」(カーボン紙)の項目に掲載された表には、JNT12、20、30、40、60の各品番のカーボン紙について、25kPa(0.025MPa)の応力を加えた状態の厚さが記載されている。

2 甲2(AvCarb Material Solutions,「AvCarb Gas Diffusion Systems for fuel Cells」)

甲2は、作成年月日が不明であるAvCarb社の燃料電池用ガス拡散システム(Gas Diffusion Layer:GDL)のカタログであり、第1頁には「AvCarb Gas Diffusion Systems are based upon carbon fiber paper」(当審訳:AvCarbガス拡散システムはカーボンファイバ紙に基づく。)と記載され、第2頁の表には、EP40T、P50T、P75Tの各品番のカーボン紙について、1psi(0.7N/cm^(2))及び7.3psi(5.1N/cm^(2))の2種類の応力を加えた状態の厚さが記載されている。

3 甲3(FREUDENBERG,「FREUDENBERG GAS DIFFUSION LAYERS TECHNICAL DATA」)

甲3は、作成年月日が不明であるFREUDENBERG社のガス拡散層(Gas Diffusion Layers)のテクニカルデータ(TECHNICAL DATA)であり、第1頁の表には、H14、H15、H23・H24の各品番のガス拡散層について、0.025MPa及び1MPaの2種類の応力を加えた状態の厚さが記載されている。

4 甲5(ASTM INTERNATIONAL,「Standard Test Method for Thickness of Nonwoven Fabrics」)

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲5には、ASTMが定めた「不織布の厚さについての標準試験方法」(当審訳)が記載されており、以下の記載がある。

(5a)「Thickness is usually determined as the distance between an anvil, or base, and a presser foot used to apply the specified pressure.」(第837頁左欄最下行?右欄第2行)
(当審訳:厚さは、通常、アンビル(又はベース)と所定の応力を印加するための押さえ金との間の距離により決定される。)

(5b)「5.3 The thickness values of most nonwoven fabrics will vary considerably depending on the pressure applied to the specimen at the time the thickness measurement is taken. In all cases, the apparent thickness varies inversely with the pressure applied. For this reason, it is essential that pressure be specified when discussing or listing any thickness value.」(第837頁右欄下から第3行?第838頁左欄第3行)
(当審訳:ほとんどの不織布の厚さの値は、測定時に印加される応力により大幅に変動する。全ての場合において、見かけの厚さは、印加される応力に反比例して変化する。この理由のために、厚さの値を議論する又は列挙するためには、応力が特定される必要がある。)

5 甲6-1(「試験報告書 MAM-01629(46302528)」)

甲6-1の試験報告書には、島津微小強度評価試験機 MST-I type HR を使用し、カーボンペーパー(TGP_H_060)の圧縮試験を行った際の測定誤差について記載されている。

6 甲6-2(「試験報告書 MAM-01632(46400244)」)

甲6-2の試験報告書には、島津微小強度評価試験機 MST-I type HR を使用し、カーボンペーパー(TGP-H060)の繰り返し圧縮試験を行った際の試験結果について記載されている。

7 甲6-3(「試験報告書 MAM-01636(46400241)」)

甲6-3の試験報告書には、島津微小強度評価試験機 MST-I type HR を使用し、カーボンペーパー(TGP_H_030、TGP_H_060、TGP_H_090、TGP_H_120)の圧縮試験を行った際の試験結果について記載されている。

8 甲7(「Characterisation of mechanical behaviour and coupled electrical properties of polymer electrolyte membrane fuel cell gas diffusion layers」)

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲7は、「高分子電解質膜燃料電池のガス拡散層の機械的挙動と付随する電気的特性の評価」(当審訳)と題する学術論文であり、以下の記載がある。

(7a)「


(当審訳:(縦軸)「厚さ/μm」、(横軸)「圧縮応力/MPa」、(標題)「図5 異なるサンプルについて測定した圧縮応力に対するガス拡散層厚さの測定値」)

9 甲8(「Characterization of PEMFCs gas diffusion layers properties」)

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲8は、「プロトン交換膜燃料電池(PEMFCs)のガス拡散層の評価」(当審訳)と題する学術論文であり、以下の記載がある。

(8a)「The experiments have been conducted on samples described in Table 1. The carbon cloth, felt and paper supports are respectively supplied by Zoltek, Freudenberg and Toray.」(第9頁左欄第25?27行)
(当審訳:実験は表1(当審注:摘記省略)に記載のサンプルに対して行われた。カーボン布、カーボンフェルト及びカーボン紙は、Zoltec社、Freudenberg社及び東レ社によってそれぞれ供給された。)

(8b)「


(当審訳:(縦軸)「厚さ(mm)」、(横軸)「圧縮応力(MPa)」、(図1(a)の凡例)上から順に「布12%PTFE 第1回圧縮」「布12%PTFE 第2回圧縮」、(図1(b)の凡例)上から順に「フェルト10%PTFE 第1回圧縮」「フェルト10%PTFE 第2回圧縮」、(図1(c)の凡例)上から順に「紙10%PTFE 第1回圧縮」「紙10%PTFE 第2回圧縮」、(標題)「耐水炭素の厚さ対圧縮応力(a)布、(b)フェルト、(c)紙。2回の0から10MPaまで連続して圧縮応力を印加した際の挙動」)

(8c)「


(当審訳:(縦軸)「圧縮ひずみ及び残留ひずみ」、(横軸)左から順に「布12%」「フェルト10%」「紙10%」、(図中の凡例)上から順に「ひずみ@10MPa 第1回圧縮」「ひずみ@2.5MPa 第1回圧縮」「第1回圧縮後の残留ひずみ」、(標題)「図2 3種類の材料に対する第1回圧縮ひずみ及び第1回圧縮後の残留ひずみ」)

10 甲9(「Redox flow batteries: a review」)

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲9は、「レドックスフロー電池:概説」(当審訳)と題する学術論文であり、以下の記載がある。

(9a)「


(当審訳:(標題)図1 回路内の電子の移動、電解液中及びイオン交換膜を通過するイオンの移動、活性種の相互作用、及び電極内の物質の移動を備えるレドックスフロー電池の模式図)

(9b)「Figure 1 shows a generic RFB system. In the discharge mode, an anolyte solution flows through a porous electrode and reacts to generate electrons, which flow through the external circuit. The charge-carrying species are then transported to a separator(typically an ion-exchange membrane(IEM)), which serves to separate the anolyte and catholyte solutions.」(第1140頁右欄第9?16行)
(当審訳:図1は、一般的なRFBシステムを示している。放電モードにおいては、陰極液は多孔質電極を通して流れることで反応して、電子を発生させ、発生した電子は外部回路を流れる。電荷運搬種は、セパレータ(典型的にはイオン交換膜)に輸送され、当該セパレータは陽極液と陰極液との分離を行う。)

(9c)「The arrangement of a typical cell is shown in Fig.3」(第1141頁左欄第27?28行)
(当審訳:典型的なセルの配置は図3に示されるとおりである。)

(9d)「


(当審訳:(標題)図3 標準的なRFBセル構造の模式図)

(9e)「Typical RFB carbon-fiber-paper or carbon-felt electrode materials have a porosity around 0.8, a fiber diameter of approximately 10μm and a permeability of 20×10^(-8) cm^(2).」(第1150頁右欄第35?38行)
(当審訳:典型的なRFBカーボンファイバ紙又はカーボンフェルトの電極材料は、約0.8の孔隙率と、約10μmのファイバ径と、20×10^(-8)cm^(2)の透過率を有する。」)

11 甲10(「レドックスフロー電池」)

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲10は、「レドックスフロー電池」と題する解説記事であり、以下の記載がある。

(10a)「レドックスフロー電池の流通型電解セル(スタック)は・・・正極(炭素繊維電極材料)、イオン交換膜、負極(炭素繊維電極材料)炭素-炭素複合材あるいは炭素-プラスチックス複合材料製の複極式集電板(バイポーラプレート)をそれぞれ積層してセル(単セルともいう)を構成し、さらに複数のセルを直列に積層してスタックを構成する。また、正・負極液はセル枠(フレーム)に設けられたマニホールドを介して各セルに供給される。このような構成方法と材料は固体高分子型燃料電池、特に燃料溶解型の直接メタノール燃料電池と酷似しており、本誌とも非常に関係のある電池であると言える。」(第70頁左欄第3?13行)

(10b)「4.1 電極
電極には炭素繊維からなる布やフェルト状の炭素材料が使用されている。これは以下にあげる電池電極に要求される性能を満足しているためである。
電池性能に大きく影響する電極材料は使用する電解液や様々な仕様における運転条件のもとで以下の特性が要求される
○1(当審注:丸数字の1を表す。以下、同様。) 電極触媒特性(電池反応の電極活性と選択性)が優れていること。
○2 表面活性な電極面積が大きいこと
○3 電極自身の電気伝導が良いこと
○4 機械的強度が良好で取扱いやすいこと
○5 電解液に対して耐食性があること
○6 液の流動に対して圧損失が少ないこと
○7 軽量であること
○8 安価であること
炭素繊維材料は炭素のもつ導電性、耐食性や触媒的機能など基本的特性とフェルトなどの集合組織を構成できるところから電極材料として優れている。」(第71頁左欄下から第11行?右欄第8行)

12 甲11(特開平10-81575号公報)

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲11には、以下の記載がある。

(11a)「【請求項1】活性炭素粉末1?18重量%、炭素粉末1?18重量%、セルロース質繊維25?60重量%、フェノール樹脂(固形分)25?60重量%からなるグリーン成形体を焼成炭化することを特徴とする多孔質炭素材の製造方法。」

(11b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は・・・レドックスフロー二次電池・・・等の流体透過型電池用の電極板に好適な多孔質炭素材の製造方法に関するものである。」

(11c)「【0002】
【従来の技術】レドックスフロー二次電池は鉄イオン、クロムイオン、バナジウムイオン等の電解質液を循環させてなる二次電池である。対向する電極間にイオン交換膜が設けられ電池活物質を含んだ溶液、電解質液が電極内部を透過する際に鉄、クロム、バナジウム等のイオン価が変わることにより充放電が行われる。この単電池が不浸透性導電板を介し複数個積層締圧されて大容量電池となる。電極は・・・従来は活性炭素繊維フェルト、活性炭素繊維マット、活性炭素繊維織布等が使用されてきた・・・
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の活性炭素繊維等を使用した電極は、崇高であるため反発力があり電池の積層時に電極を押しつぶしながら組立を行わねばならず、組立作業が煩雑である。又、活性炭素繊維等は・・・電気抵抗が大きく、高価であるという欠点を有する。さらに・・・電池として長期間使用すると、締圧によるクリープ変形や厚みの減少が発生し接触電気抵抗の増加をもたらす。
【0004】そしてこのような活性炭素繊維等を使用した電極は、活性炭素繊維間が結着処理が施されていないため粘度の高い電解液が透過する際、炭素繊維集合体内の液流路が部分的に押拡げられ偏流が発生し易く電池の充放電特性が低下する。」

(11d)「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の種々の問題点を鑑みなされたものである。すなわち本発明の要旨は、活性炭素粉末1?18重量%、炭素粉末1?18重量%、セルロース質繊維25?60重量%、フェノール樹脂(固形分)25?60重量%からなるグリーン成形体を焼成炭化することを特徴とする多孔質炭素材の製造方法である。」
「【0009】活性炭素粉末の配合量は1?18重量%の配合が好ましい。配合量が1重量%以下であると流体透過型電池用電極板として必要な比表面積が確保できない。又18重量%以上では流体透過性が低下し電池の充放電効率が低下する。
【0010】炭素粉末は電気比抵抗を改善するために添加する。・・・」
「【0012】炭素粉末の配合量は、1?18重量%の配合が好ましい。配合量が1重量%以下であると、電気比抵抗が十分に下がらず好ましくない。又18重量%以上であると活性炭素粉末の場合と同様に流体透過性が低下する。」

(11e)「【0023】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、発明はこれらの実施例に限定されるものでない。
【0024】〔抄紙シートの作製〕セルロース質繊維原料として・・・レーヨン繊維78重量%と・・・木材パルプ(NBKP)15重量%、炭素粉末として・・・人造黒鉛微粉UFG-30(平均粒径10μm)を7重量%、抄紙用繊維状バインダーとしてPVA繊維・・・を外割3重量%配合し混合分散した。ついでこの混合分散液に潤滑紙増強剤としてエポキシ樹脂・・・をセルロール質繊維に対し0.4重量%(固形分)の割合で添加し、2.5%のスラリーとした。この原料スラリーを水で希釈し抄紙した。得られた紙は米坪量100g/m^(2)、厚さ0.51mmで地合の良い均一な紙であった。
【0025】(実施例1)前記抄紙シートにフェノール樹脂・・・に活性炭素粉末・・・を2重量%配合した混合溶液を含浸した。含浸済の抄紙シートは100℃、2分間予備乾燥し、10枚積層したものを180℃で20分間加熱圧着しグリーン成形体とした。・・・得られたグリーン成形体を黒鉛板で挟持し、窒素雰囲気下毎分1℃ずつ900℃まで昇温し15hrs焼成した。
【0026】(実施例2)フェノール樹脂に活性炭素粉末を4重量%配合した混合溶液を使用した以外は、実施例1と同一の条件で製作した。炭素体をさらにアチソン炉で2000℃まで8hrs再加熱し黒鉛化した。
【0027】(実施例3)フェノール樹脂に活性炭素粉末を7重量%配合した混合溶液を使用した以外は、実施例1と同一の条件で製作した。
【0028】(実施例4)フェノール樹脂に活性炭素粉末を10重量%配合した混合溶液を使用し、積層枚数を8枚とした以外は実施例2と同一の条件で製作した。
【0029】(実施例5)フェノール樹脂に活性炭素粉末を15重量%配合した混合溶液を使用し、積層枚数を8枚とした以外は実施例1と同一の条件で製作した。
【0030】(実施例6)フェノール樹脂に活性炭素粉末を22重量%配合した混合溶液を使用し、積層枚数を8枚とした以外は実施例2と同一の条件で製作した。
【0031】(比較例1)前記抄紙シートにフェノール樹脂を含浸した以外は、実施例1と同一の条件で製作した。
【0032】表1に各実施例、比較例の各成分の含有量を示す。表2には各特性値を示した。本発明の実施例はいずれも電気比抵抗値の値が15000μΩ・cm以下で比表面積も20m^(2)/g以上である。さらにガス透過性が4000ml・mm/hr/cm^(2)/mmAq以上であった。
【0033】次に、これら多孔質炭素板を機械加工して100mm×100mm×2mmの板とし、さらに幅0.5mm、深さ1mm、ピッチ5mmの溝を賦した。前記溝付炭素板を電極とし、ガラス状不浸透炭素板(昭和電工(株)製、SGカーボン)/電極/陽イオン交換膜(米国デュポン社製、ナフィヨン膜)/電極/ガラス状不浸透炭素板の構成として500g/cm^(2)の締圧をかけて電池を作りバナジウム電解質液を循環させて電池性能を評価した。
【0034】尚、比較例2として従来の活性炭素繊維フェルト(商品名ファインガード、比表面積700m^(2)/g)を用いたものを表3に示す。
【0035】表3の結果より本発明による多孔質炭素溝付電極は、レドックスフロー二次電池用電極板としてセル抵抗が低く充放電効率が高い。また従来は比表面積が極めて大きく、且つ高価な活性炭素繊維を電極として使用してきたがレドックスフロー二次電池用電極としては数百m^(2)/g以上のような活性炭素繊維程の比表面積は不要であることが本実験で明らかとなった。
【0036】

【0037】

【0038】



13 甲12(「High-yield carbonization of cellulose by sulfuric acid impregnation」)

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲12は、「硫酸含浸によるセルロースの高収率炭化」(当審訳)と題する学術論文であり、以下の記載がある。

(12a)「When we treated cellulose at above 800℃, the weight loss was even greater depending on the type of cellulose and heating conditions, giving final yields of as low as 12%.」(第29頁左欄第15?19行)
(当審訳:我々がセルロースを800℃以上の温度で処理した際、質量減少は、セルロースのタイプと加熱条件により大きく依存し、最終的な収率は12%と低いものであった。)

(12b)Further increases in sulfuric acid addition, 7.8% and 10%, result in slight decreases in yield. The maximum yield here, 38%, corresponds to 86% of the theoretical yield of 44.4%」(第31頁左欄第1?4行)
(当審訳:さらに硫酸の添加量を7.8%、10%と増やすと、収率の低下はわずかのものとなった。ここで収率の最大値は38%であり、収率の理論値44%の86%に相当する。)

14 甲13(「Development of carbon foam from phenolic resin via template route」)

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲13は、「テンプレート経路によるフェノール樹脂からの炭素発泡体の開発」(当審訳)と題する学術論文であり、以下の記載がある。

(13a)「The phenolic resin gives 60% yield after pyrolysis as shown in Fig.3.」(第339頁右欄第15?17行)
(当審訳:図3に示されるとおり、熱分解後のフェノール樹脂の残存量は60%であった。)

15 甲14(特許第3594533号公報)

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲14(発明の名称:燃料電池)には、以下の記載がある。

(14a)「【請求項1】
電解質膜の一方の面にカソード、他方の面にアノードが配され、前記カソードの外側に多孔性を有し、導電性粒子を含み前記カソードに接する第一層と前記第一層よりも厚い第二層とを備えるカソード側のガス拡散層と、前記アノードの外側に多孔性のアノード側のガス拡散層とが配されてなるセル構成を有し、前記カソード側のガス拡散層の前記第二層表面に沿って酸化剤、前記アノード側のガス拡散層表面に沿って燃料がそれぞれ流通されることにより発電する燃料電池であって、
前記第二層の気孔の平均孔径は、前記第一層の気孔の平均孔径よりも大きく、
前記第二層に含まれる前記導電性粒子の平均比表面積は、前記第一層に含まれる前記導電性粒子の平均比表面積よりも小さい
構成であることを特徴とする燃料電池。」

(14b)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は固体高分子型燃料電池や直接メタノール型燃料電池などの燃料電池において、セル内における固体高分子膜の湿潤性と、ガス拡散性を維持するための改良技術に関する。」

(14c)「【0008】
・・・
本発明・・・の目的は固体高分子型などの燃料電池において、ガス拡散性と固体高分子膜の湿潤性を良好に保つことにより、安定した発電が可能な燃料電池を提供することにある。」

(14d)「【0016】
・・・
図1は・・・本実施の形態の固体高分子型燃料電池を構成するセルユニット10の組立図である。本図に示すように、セルユニット10は全体として、カソード側チャネルプレート60とアノード側チャネルプレート50との間にセル20を配した構成を持つ。」
【0017】
セル20は固体高分子膜21、電極22、23(カソード22、アノード23)、カソード側ガス拡散層24、アノード側ガス拡散層25等で構成される。なお図1において、アノード23は固体高分子膜21の下面側にあるので破線で表示している。
このセル20のカソード22側が、ガスケット40を介してカソード側チャネルプレート60に重ねられている。また、アノード23側はガスケット30を介してアノード側チャネルプレート50に重ねられている。これらアノード22とカソード23は、触媒担持粒子(白金担持カーボン)を含んでなるシート状成型体であって、触媒層あるいは反応層などと呼ばれる。
【0018】
カソード22とカソード側チャネルプレート60の間、並びにアノード23とアノード側チャネルプレート50との間には、前記各ガス拡散層24、25がそれぞれ介挿されている。これら各ガス拡散層24、25は、電極22、23とチャネルプレート50、60との電流の流れを確保するものであって集電体層とも称される。
・・・」
「【0024】
各ガス拡散層24、25は、繊維状の多孔性基体であるカーボンペーパー(例えば厚みが約200μm)に、撥水性樹脂(テトラフルオロエチレンーヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP))が塗布されたのち、この多孔性基体に導電性粒子であるカーボン粒子が充填された構成を有する。
ここにおいて、図2はカソード側ガス拡散層24を中心とするセルの部分断面図である。当図に示されるように本実施の形態の特徴は、カソード側ガス拡散層24が、固体高分子膜21と接する主面側からその厚み方向(z方向)に沿って、平均孔径の比較的小さい(例えば10μm未満の)第一層241と、平均孔径の比較的大きい(例えば10μm以上の)第二層242に分けられている点にある。さらに第一層241には平均比表面積が100?1000cm^(2)/gのカーボン粒子241b、第二層242には平均比表面積が100cm^(2)/g未満のカーボン粒子242aがそれぞれ含まれている。すなわち、第一層241はカーボン粒子241bがカーボン繊維241aに付着してなり、これにカーボン粒子242bが被覆するように付着して第二層242が構成されている。
【0025】
このように本実施の形態では、カソード側ガス拡散層24を厚み方向に沿って平均孔径のサイズに差を持たせ、層内部のカーボン粒子の比表面積を変化させた構成により、カソード側ガス拡散層24では、カソードガスの拡散性が第一層241よりも第二層242で高く、保水性が第二層242よりも第一層241で高い構成になっている・・・。」




16 甲15(「平成17年度 燃料電池自動車に関する調査報告書」)

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲15の429頁、表XX-1には、以下の東レ製カーボンペーパーの物性表が記載されている。

(15a)「



17 甲16(「Influences of Permeation of Vanadium Ions through PVDF-g-PSSA Membranes on Performances of Vanadium Redox Flow Batteries」)

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲16は、「バナジウムイオンによるPVDF-g-PSSA膜の透過がバナジウムレドックスフロー電池の性能に及ぼす影響」(当審訳)と題する学術論文であり、以下の記載がある。

(16a)「The preparation and physical characterization of a poly(vinylidene fluoride)-graft-poly(styrene sulfonic acid)(PVDF-g-PSSA) membrane prepared by a solution-grafting method were describe.」(第20310頁抄訳第1?2行)
(当審訳:溶液グラフト法により調製されたポリ(フッ化ビニリデン)-グラフト-ポリ(スチレンスルホン酸)(PVDF-g-PSSA)膜の調製及び物理的特性が記載されている。)

(16b)「It is the first time the PVDF-g-PSSA membrane was employed as a separator in VRB, and the cell performance is also evaluated.」(第20310頁右欄第3?5行)
(当審訳:PVDF-g-PSSA膜がVRB(バナジウムレドックスフロー電池)のセパレーターとして用いられ、セルの性能が評価されるのは、今回が初めてである。)

(16c)「The VRBs used in the charge/discharge tests were fabricated by sandwiching the membrane between two pieces of carbon paper (Toray TGPH-120, thickness is 0.35 mm) electrodes and then clamping the sandwich between two graphite polar plates which were graved with flow channels」(第20311頁右欄第12?16行)
(当審訳:充電/放電テストに用いられたバナジウムレドックスフロー電池は、その膜(PVDF-g-PSSA膜)を2枚のカーボン紙(東レ TGPH-120、厚さは0.35mm)電極で挟み込み、複数のフローチャネルが刻み込まれたグラファイト極板でクランプすることにより製造された。)

(16d)「At the beginning of charge/discharge cycles, 40mL of 2mol/L V(IV) in 3.0 mol/L H_(2)SO_(4) solution was pumped into the cathode side and 40mL of 2mol/L V(III) in 3.0mol/L H_(2)SO_(4) solution was pumped into the anode side, respectively.」(20311頁右欄第17?21行)
(当審訳:充電/放電サイクルの開始時には、それぞれ、2mol/Lのバナジウム(IV)を含む3.0mol/Lの硫酸水溶液40mLが正極側にポンプで供給され、2mol/Lのバナジウム(III)を含む3.0mol/Lの硫酸水溶液40mLが負極側にポンプで供給される。)

(16e)「


(当審訳:(標題)バナジウムレドックスフロー電池の模式図)

18 甲17(国際公開第2011/075135号)

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲17(発明の名称:FLOW BATTERY WITH INTERDIGITATED FLOW FIELD(当審訳:櫛形流れ場を有するフロー電池))には、以下の記載がある。

(17a)「[0003] A basic flow battery includes a redox flow cell having a negative electrode and a positive electrode separated by an ion-exchange membrane. A negative electrolyte is delivered to the negative electrode and a positive electrolyte is delivered to the positive electrode to drive an electrochemically reversible redox reaction.」
(当審訳:[0003]基本的なレドックスフロー電池は、イオン交換膜により隔てられた負極及び正極を含む。電気化学的に可逆的なレドックス反応を駆動するために、負極電解液は負極に輸送され、正極電解液は正極に輸送される。)

(17b)「[0016] Figure 1 illustrates selected portions of an example flow battery 20 for selectively storing and discharging electrical energy.」
(当審訳:[0016]図1は、電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出する一例のフロー電池20の選択された部分を示す。)

(17c)「[0017] In this example, the flow battery 20 includes a first liquid-porous electrode 22, a second liquid-porous electrode 24 spaced apart from the first liquid-porous electrode, and an ion-exchange membrane 26 arranged between the first liquid-porous electrode 22 and the second liquid-porous electrode 24. A first flow field 28 is located adjacent the first liquid- porous electrode 22 and a second flow field 30 is located adjacent to the second liquid-porous electrode 24. In some examples, multiple repetitions of the flow field/electrode/membrane/electrode/flow field "cell" may be considered to be a cell unit and may be used in a stacked arrangement. The flow battery 20 may also include a positive electrolyte storage tank 32a that is in fluid communication with the first flow field 28, and a negative electrolyte storage tank 32b that is in fluid communication with the second flow field 30.」
(当審訳:[0017]この例においては、フロー電池20は、第1の液体多孔質電極22と、第1の液体多孔質電極22から離間して配置される第2の液体多孔質電極24と、第1の液体多孔質電極22と第2の液体多孔質電極24との間に配置されるイオン交換膜26とを含む。第1の流れ場28は、第1の液体多孔質電極22に隣接して配置され、第2の流れ場30は、第2の液体多孔質電極24に隣接して配置される。いくつかの例においては、流れ場/電極/膜/電極/流れ場からなる「セル」が単位セルとされ、この単位セルが積層されて用いられる。フロー電池20は、第1の流れ場28と液体的につながる正極電解液タンク32aと、第2の流れ場30と液体的につながる負極電解液タンク32bを含む。)

(17d)「[0018] The first liquid-porous electrode 22 and the second liquid-porous electrode 24 may be porous carbon members. For example, the porous carbon members may be fibrous carbon structures with catalytically active surfaces. In some cases, the catalytically active surfaces may be considered to be the carbon surfaces of the fibers because there is not a large energy barrier to the redox reactions of the cell. In other examples, a catalytic material 21, such as a noble metal or alloy, may be deposited onto the porous carbon member as the catalytically active surface.」
(当審訳:[0018]第1の液体多孔質電極22及び第2の液体多孔質電極24は、多孔質炭素部材であってもよい。例えば、多孔質炭素部材は、触媒活性な表面を有する繊維状炭素構造であってもよい。いくつかの例において、セルのレドックス反応に対する大きなエネルギー障壁はないため、触媒活性な表面は、繊維の炭素表面であると考えられる。他の例において、例えば貴金属及び合金のような触媒材料21が触媒活性な面として多孔質炭素部材に堆積されてもよい。)

(17e) 「[0020] Referring to Figure 2, each of the first and second flow fields 28 and 30 include first channels 34 and second channels 36 for delivering the electrolyte liquids to the respective electrodes 22 and 24. In this case, each of the first and second flow fields 28 and 30 are bipolar plates that define ribs 38 such that each channel 34 and 36 includes a flow passage 40 that extends between a bottom wall 42, two sidewalls 44, and an open top 46 that is directly adjacent to the respective electrode 22 or 24.」
(当審訳:[0020]図2を参照して、第1の流れ場28及び第2の流れ場30のそれぞれは、電極22及び電極24のそれぞれに電解液を供給する第1のチャネル34及び第2のチャネル36を含む。この場合、第1の流れ場28及び第2の流れ場30のそれぞれは、チャネル34及びチャネル36が底面42、2つの側壁44及び電極22又は電極24に直接隣接する開いた上部46の間に延在する流路20を含むようにリブ38が画定された双極板である。)

(17f)「[0021] Figure 3 illustrates a view of the first flow field 28 according to the section shown in Figure 2.」
(当審訳:[0021]図3は、図2に示される断面を有する第1の流れ場28の平面図である。)

(17g)「[0023] In operation, the liquid electrolyte flows into the inlets 50 of the first channels 34 and, to a lesser extent, into the second channels 36 through the inlets 54. The first obstruction members 60 of the first channels 34 restrict flow out of the first channels 34 and thereby force flow of the liquid electrolyte under the ribs 38 into adjacent second channels as represented generally by flow arrows 39 (see also Figure 2). The liquid electrolyte thereby flows through the liquid-porous electrode 22 or 24. The liquid electrolyte then flows into the second channels 36 and exits from the outlets 56. The flow of the liquid electrolyte under the ribs 38 thereby provides a lower pressure drop than if the flow was entirely through the electrode (i.e., a no channel, flow-through arrangement), but still has the benefit of enhanced exposure of the liquid-electrolyte to the electrode via the forced flow under the ribs 38. Thus, since the electrodes 22 and 24 do not have to accommodate the full flow of the electrolytes, the electrodes 22 and 24 may be made relatively thin and may be less than 2 millimeters thick, or even 0.25-0.75 millimeters in thickness. The flow of the liquid electrolyte under the ribs 38 also provides improved transport of the liquid-electrolyte to the electrodes 22 or 24 relative to cells that use open flow channels adjacent to the electrode (i.e., a bipolar plate with open channels known as a flow-by arrangement). The example configuration thereby enables relatively thin electrodes 22 or 24 (with reasonable pressure drop) and forced convective transport of the reactants through the electrodes 22 or 24, and both of these features enable cells with higher performance.」
(当審訳:[0023]動作においては、液体電解質は第1のチャネル34の流入口50に流入するとともに、より少ない程度で、流入口54を通して第2のチャネル36に流入する。第1のチャネル34の第1の障壁部材60は、第1のチャネル34からの液体電解質の流出を制限し、これによって、一般的に流れの矢印39に示されるように、リブ38の下での液体電解液が隣接する第2のチャネルに流れるようにその流れを強制する(図2参照)。これにより、液体電解質は、液体多孔質電極22又は24を流れる。そして、液体電解質は第2のチャネルに流れ込み、流出口56から流出する。これにより、リブ38の下での液体電解質の流れは、電極の全範囲で流れが電極を乗り越えて流れる場合(すなわち、チャネルがないフロースルー配置の場合)よりも低い圧力降下を提供するが、リブ38の下での強制された流れを介した液体電解質の電極への高められた露出の利点を依然保持している。このように、電極22及び電極24は電解液の流れの全てに対応する必要はないため、電極22及び電極24は、相対に薄くてもよく、2mm厚未満、又はさらには、0.25?0.75mm厚であってもよい。また、リブ38の下での液体電解質の流れは電極22及び電極24に隣接して開いた流れチャネル(すなわち、フローバイ配置として知られる開いたチャネルを有する双極板)を用いるセルと比較して相対的に改善された液体電解質の電極への輸送を提供する。この例示的な構成は、(合理的な圧力降下を有する)相対的に薄い電極22及び24並びに電極22及び電極24を通じた強制された反応物の対流輸送を可能とし、この2つの特性はより高いセルの性能達成を可能とする。)

(17h)「



19 甲18(「High-power H_(2)/Br_(2) fuel cell」)

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲18は、「高出力H_(2)/Br_(2)燃料電池」(当審訳)と題する学術論文であり、以下の記載がある。

(18a)「Maximum power densities of above 1.5 W/cm^(2) have been achieved in a 5 cm^(2) NP-PCM-based H_(2)/Br_(2) fuel cell under dry-hydrogen feed at 80 ℃. The energy-conversion efficiency of this cell is very high - close to 90% (above twice that of the hydrogen/air cell).」(第1358頁 abstract 第3?5行)
(当審訳:NP-PCMベースのH_(2)/Br_(2)燃料電池において、乾燥水素の80℃供給下で、1.5W/cm^(2)を超える最大出力密度を達成した。このセルのエネルギー変換効率は非常に高く、90%に近い(水素/空気セルの2倍を上回る。)。)

(18b)「Our interest in the H_(2)/Br_(2) fuel cell was triggered by the development in our group of a new nanoporous protonconducting membrane (NP-PCM) [10-14] for a direct methanol fuel cell (DMFC), and other direct-oxidation fuel cells.
The use of the NP-PCM in the DMFC offers several advantages over the Nafion-based DMFC」(第1359頁左欄第23?29行)
(当審訳:我々がH_(2)/Br_(2)燃料電池に関心を持った契機は、我々のグループが新たなナノポーラスプロトン伝導膜(NP-PCM)[10-14]を直接メタノール型燃料電池(DMFC)や他の直接酸化型の燃料電池用に開発したことであった。NP-PCMを用いると、ナフィオンベースのDMFCよりも、いくつかの点で有利である。)

(18c)「The test vehicle was a 5 cm^(2) FC(Figs. 1 and 2) operating at 0-2 atm(g) dry-hydrogen pressure at the anode and 0.3-0.9M Br_(2) and 1 or 5 M HBr solution at the cathode. The fuel-cell housing was built from synthetic graphite blocks(Poco Inc.), in which flow fields were engraved. The composition of the 100μ-thick membrane was 30%(v/v) Poly-vinylidene-difluoride(PVDF), 10% SiO_(2), and 60% pore volume (that is filled with the same solution as that flowing through the cathode compartment). It was produced on a semi-industrial coater(Dixon) at a rate 15m^(2)/h. The cathode ink was prepared from 60% Pt-Ru(1:1 atomic) or 60% Pt on XC72(Johnson Matthey) and spread over un-teflonated Toray paper. In both cases, the cathode loading was 1.5 mg Pt/cm^(2). An E-TEK electrode with 1 mg Pt/cm^(2)(30% Pt on XC72) was used as the anode. The membrane electrode assembly(MEA) was hot-pressure at 100℃ and at a pressure of 24kg/cm^(2).」(第1359頁右欄第4?21行)
(当審訳:試験用ビークルは、負極における0-2atmの乾燥水素並びに正極における0.3-0.9MのBr_(2)及び1又は5MのHBrの水溶液で動作する5cm^(2)の燃料電池である(図1及び2)。燃料電池のハウジングは、合成グラファイト製ブロック(Poco社)で形成され、これには流れ場が刻まれている。100μm厚の膜の組成は、30%(v/v)のポリフッ化ビニリデン(PVDF)、10%の二酸化珪素、60%の空隙体積(正極部分を通過して流れるものと同一の溶液で満たされている。)である。これは準工業用コータ(Dixon社製)上で15m^(2)/hの速度で生産される。正極インクは、XC72上の60%Pt-Ru(原子比1:1)(Johnson Matthey社製)又は60%のPt-Ru(原子数比1:1)から準備され、テフロン化されていない東レ製ペーパーの上に塗布される。いずれの正極インクを用いる場合も、正極に搭載されるPtの量は1.5mg/cm^(2)である。Ptの量が1mg/cm^(2)(XC72上の30%のPt)を有するE-TEK電極が、負極として用いられる。膜電極接合体(MEA)は100℃で24kg/cm^(2)の圧力で熱プレスされる。)

(18d)「


(当審訳:(標題)燃料電池セル構成部材の模式図)

20 甲19(「Flow Batteries」)

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲19は、「フロー電池」(当審訳)と題する学術論文であり、以下の記載がある。

(19a)「Systems in which all the electro-active materials are dissolved in a liquid electrolyte are called redox (for reduction/oxidation) flow batteries(RFBs).」(第54頁第3欄第14?18行)
(当審訳:全ての電気活性物質が液体電解質中に溶解したシステムは、レドックス(還元/酸化)フロー電池(RFBs)と呼ばれる。)

(19b)「Other true flow batteries might have a gas species (e.g., hydrogen, chlorine) and liquid species (e.g., bromine). Rechargeable fuel cells like H_(2)-Br_(2) and H_(2)-Cl_(2) could be thought of as true flow batteries.」(第54頁第3欄第20?25行)
(当審訳:他の真性フロー電池は、気体種(水素、塩素等)と液体種(臭素等)を用いるものといえる。再充電可能なH_(2)-Br_(2)やH_(2)-Cl_(2)のような電池は、真性フロー電池と考えられる。)

(19c)「


(当審訳:(標題)表1 いくつかのフロー電池システムの特徴)

21 甲20(「INTERNATIONAL STANDARD ISO 4046-3 First Edition Paper,board,pulps and related terms-Vocabulary- Part3:Paper-making terminology」)

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲20には、ISOが定めた「紙、厚紙、パルプ及び関連する用語-語彙-第3部 製紙用語」(当審訳)が記載されており、以下の記載がある。

(20a)「paper
generic term for a range of materials in the form of a coherent sheet or web, excluding sheets or laps of pulp as commonly understood for paper making or dissolving purposes and non-woven products, made by deposition of vegetable, mineral, animal or synthetic fibres, or their mixtures, from a fluid suspension onto a suitable forming device, with or without the addition of other substances」(第14頁左欄第15?23行)
(当審訳:紙
植物、鉱物、動物又は合成繊維若しくはそれらの混合物に他の物質を添加して(又は添加せずに)、適切な形成装置上に懸濁液を堆積させて製造した枚葉状態又は巻取状態の素材(ただし、紙用パルプ又は溶解パルプのシート及びラップ並び不織布は除外する)に対する一般的な用語。)

(20b)「NOTE1 Papers may be coated, impregnated or otherwise converted, during or after their manufacture, without necessarily losing their identity as paper.」(第14頁左欄第25?27行)
(当審訳:注1 紙は、紙としての本質を必然的に失わせることがない限り、製造中又は製造後に被覆、含浸、その他の変性が行われてもよい。)

22 甲21(「T411 om-97 Thickness(caliper) of paper,paperboard, and combined board」)

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲21には、TAPPIが定めた「紙、板紙、複合板紙の厚さ」(当審訳)が記載されており、以下の記載がある。

(21a)「Pressure foot, when lowered, exerting steady pressure on the specimen of 50±2 kPa (approximately 7.3 psi) for 2±1s)」(第2頁第20?21行)
(当審訳:押さえ部材は、押し下げられた際に、試験片に50±2kPaの安定した応力を2±1秒間加える。)

23 甲22(意見書(European Patent No.2795696(11877784.6) Regional Phase of PCT Application PCT/US2011/066149 United Technologies Corporation))

本件特許に対応する欧州特許の特許異議申立手続における特許権者の主張内容が記載された意見書である甲22には、以下の記載がある。

(22a)「In the present case, the claimed compressive strain characteristic of the electrode does not determine whether or not the invention can be put into practice. Rather, it is merely a property of the electrode, and is not determinate for carrying out the invention」(第4頁第10?12行)
(当審訳:本件では、クレームされた電極の圧縮ひずみ特性は、本件発明が実現可能か否かを決定しない。むしろ、それは単なる電極の特性にすぎず、本件発明を実施する上で決定的なことではない。)

24 甲23(「AvCarb Gas Diffusion Systems for Fuel Cells」)

甲23は、本件特許の出願前に頒布された「AvCarb社製燃料電池用ガス拡散システム」(当審訳)のカタログであり、第2頁第1?2行には「AvCarb Gas Diffusion Systems are fuel cell gas diffusion layers combining a carbon fiber paper substrate, a PTFE coating, and a surface microporous layer of PTFE and carbon particles.」(当審訳:AvCarbガス拡散システムは、燃料電池用のガス拡散層であり、炭素繊維紙からなる基材、PTFE被覆、PTFEからなる表面微細孔層及び炭素粒子からなる。)と記載され、第2頁の表には、各ガス拡散層の「Nominal Thickness」(当審訳:公称厚さ)の値が「5.00N/cm^(2)」の圧力を印加して測定したものであることが記載されている。

25 甲24(「Determination of effective water vapor diffusion coefficient in PEMFC gas diffusion layers」)

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲24は、「PEMFCのガス拡散層における有効水蒸気拡散係数の決定」(当審訳)と題する学術論文であり、「APPENDIX C」(当審訳:付録C)として付けられた、SIGRACET社のガス拡散層である「GDL 34 & 35 Series」の特性を記載した表(C-4頁)には、「Thickness▲」(当審訳:厚さ▲)の項目について「▲Under 0.25N/cm^(2)」(当審訳:0.25N/cm^(2)の応力下)の注記がされており、同様に「GDL 10 Series」の特性を記載した表(C-6頁)には、「Thickness▲」(当審訳:厚さ▲)の項目について「▲Under 0.45N/cm^(2)」(当審訳:0.45N/cm^(2)の応力下)の注記がされている。

26 甲25(「The role of under-rib convection in mass transport of methanol through the serpentine flow field and its neighboring porous layer in a DMFC」)

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲25は、「直接メタノール型燃料電池における蛇行流れ場とその隣接多孔質層を通るメタノール移動におけるリブ下の対流の役割」(当審訳)と題する学術論文であって、以下の記載がある。

(25a)「direct methanol fuel cells (DMFC)」(第5420頁左欄第2行)
(当審訳:直接メタノール型燃料電池(DMFC))

(25b)「porous transport layer(PTL)」(第5421頁左欄下から第8行)
(当審訳:多孔質輸送層(PTL))

(25c)「K is the permeability」(5422頁左欄第23?24行)
(当審訳:Kは透過率である)

(25d)「methanol solution feed rate(MFR)」(第5424頁左欄第7?8行)
(当審訳:メタノール溶液供給速度(MFR))

(25e)「Under-rib convection arises from the pressure difference between two adjacent channel segments.」(第5426頁右欄第3?4行)
(当審訳:リブ下の対流は、隣接する2つのチャネルセグメント間の圧力差から生じる。)

(25f)「When the MFR increases, the pressure gradient in the flow channel becomes larger, enhancing the effect of under-rib convection」(第5426頁右欄第7?9行)
(当審訳:MFR(メタノール溶液供給速度)が増加したときには、フローチャネル中の圧力勾配が大きくなり、リブ下の対流効果を促進する。)

(25g)「Fig.9d shows that the distribution of methanol in the PTL region continues improving as a result of further enhancement in under-rib convection by increasing the MFR to 2.0 ml min^(-1). At the highest MFR of 10ml min^(-1), Fig.9e shows methanol concentration approaches the inlet concentration and has rather small gradient in both channel region and PTL region, which is due to the fact that under-rib convection becomes the predominant mechanism in transporting methanol in the PTL」(第5427頁左欄第19行?右欄第2行)
(当審訳:図9dは、PTL領域におけるメタノールの分配量が、MFRを2.0ml min^(-1)まで増加させることでリブ下の流れがさらに促進されることの結果として、改善され続けていることを示している。最も高い10ml min^(-1)のMFRでは、図9eのとおり、メタノール濃度が入口における濃度に到達していること、及びチャネル領域及びPTL領域の双方において、むしろ小さい勾配を有していることを示しており、このことは、リブ下の流れがPTL中のメタノールの輸送における支配的なメカニズムになっていることによる。)

(25h)「


(当審訳:(標題)図9 計算領域の代表的な断面におけるメタノール濃度の分布)

第7 当審の判断

1 第1の無効理由(明確性要件違反)について

(1)請求人の主張

第1の無効理由(明確性要件違反)に関し、請求人は以下の主張をしている。

ア 本件発明の「カーボン紙」が備える「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみ」について、上記「圧縮ひずみ」は、(カーボン紙の当初の厚さから0.8MPaの圧縮応力を印加した際の厚さに至るまでの変形量)÷(カーボン紙の当初の厚さ)×100(%)で算出されるものであると考えられるところ、本件明細書等には、カーボン紙の当初の厚さ(以下、「当初厚さ」という。)をどのように測定するのかについて記載がないが、当初厚さを測定する際にカーボン紙に応力を印加する必要があることは当業者の共通認識であった一方で、印加する応力値は様々で慣用的に定まった値は存在しないから(甲1?3、6-1、23、24)、当初厚さは測定時にカーボン紙に印加する応力値の選択によって変化することになり、一義的に特定することはできない。
また、被請求人は、上記「圧縮ひずみ」は、2つのプレート間にカーボン紙を配置し、2つのプレートの間隔を徐々に狭めてカーボン紙に応力を印加し、印加した応力の関数として変化するカーボン紙の厚さを測定する試験の結果に基づいて算出されるものであり、このうち、当初厚さは「測定可能な範囲内でできるだけ『0』に近い応力下での厚さ」(試験装置が検知した最小の応力での厚さの測定値を平均したもの)であって、上記試験を離れて別途に測定したものではないことを主張する一方で、高い精度の試験装置(検知可能な最小の応力が小さい装置)を用いた場合と、低い精度の試験装置(検知可能な最小の応力が大きい装置)を用いた場合とでは、当初厚さの値が異なり得ることを認めている(「第1回口頭審理調書」「被請求人」「5」及び「6」)。
以上によれば、当業者であっても、上記「圧縮ひずみ」を算出する際に必要な当初厚さを一義的に特定することはできないから、本件発明は明確であるとはいえない。

イ カーボン紙の圧縮応力下における圧縮ひずみは、カーボン紙の圧縮履歴によって変化するにもかかわらず(甲6-2、8)、本件明細書等には、どのような圧縮履歴のカーボン紙に対して圧縮ひずみを測定するのかについて記載がなく、この点について慣用的な手法も存在しないから、当業者であっても、前記「ア」の「圧縮ひずみ」を一義的に算出することはできず、本件発明は明確であるとはいえない。

(2)検討

ア 前記「(1)」「ア」の主張について

(ア)本件明細書等には記載がないが、燃料電池等のガス拡散層として用いられるカーボン紙の圧縮特性は、2つのプレート間にカーボン紙を配置し、2つのプレートの間隔を徐々に狭めてカーボン紙に応力を印加し、印加した応力の関数として変化するカーボン紙の厚さを測定する試験によって求められることは、例えば、乙11に「To characterize the compressive properties, one places the diffusion media between two flat plates and measures deflection as a function of compressive force.」(第528頁右欄第26?28行)(当審訳:圧縮特性を特徴付けるために、拡散用媒体を2つの平らなプレートの間に置き、圧縮力の関数として変位を測定する。)と記載され、同様の試験による測定結果が、甲7の図5(7a)や甲8の図1(c)(8b)にも記載されているとおり、本件特許の出願時における当業者の技術常識であったものと認められる。

(イ)そして、カーボン紙の圧縮ひずみを算出するのに必要となる当初厚さは、理論的・理想的には、応力を印加しない変形量が0の非接触の状態で測定したカーボン紙の厚さである必要があると考えられるが、レドックスフロー電池等の技術分野では、本件特許の出願時において、前記「(ア)」の試験は知られていたものの、応力を印加せずに非接触の状態でカーボン紙の厚さを測定する方法が知られていたことを裏付ける技術常識や証拠の存在は認められないから、当初厚さは、前記「(ア)」の試験において、測定可能な範囲で、できる限り0に近い応力を印加した場合のカーボン紙の厚さ(試験装置が検知した最小の応力下での厚さの測定値を平均したもの)を意味すると解するのが相当であると認められる。
そうすると、当初厚さは、試験装置が特定されれば一義的に定まることになるから、0.8MPaの圧縮応力下でのカーボン紙の厚さも併せて用いれば、当該圧縮応力下での圧縮ひずみも一義的に算出できることになる。

(ウ)仮に、本件特許の出願時において、高い測定精度の試験装置(検知可能な最小の応力が小さい装置。当初厚さは相対的に大きな値となるため、圧縮ひずみは相対的に大きな値となる。)と、低い測定精度の試験装置(検知可能な最小の応力が大きい装置。当初厚さは相対的に小さな値となるため、圧縮ひずみは相対的に小さな値となる。)が存在し、このような試験装置の測定精度の高低によって、当初厚さの測定値が変動し、そのために、圧縮ひずみが20%未満であるか否かの判定が変化することがあるとしても、このようなことが生じるのは、圧縮ひずみが20%前後の近傍である境界領域の値になる場合であり、上記境界領域から離れた値の場合には、安定して一義的に上記判定ができるといえる。
他方、圧縮ひずみが上記境界領域の値となる場合については、試験装置の測定精度によって上記判定の結果が異なる場合もあり得るが、このような場合が実際に生じるか否かは、本件特許の出願時において直ちには明らかではなく、生じたとしても圧縮ひずみの値は20%前後近傍のごく狭い領域に限られるものと考えられるから、このようなごく狭い領域の不安定さがあることのみをもって、本件発明に、当業者が許容できず、第三者に不測の不利益を与える程の不明確さがあるとはいえない。

(エ)また、本件特許の出願時において、上記の試験装置に依存して生じる差が、0.8MPaの圧縮応力下での圧縮ひずみの値が、20%未満であるか否かの判定に影響を及ぼす程度に有意に異なるものになる事情、すなわち、高い測定精度の試験装置の測定結果に基づいて算出した0.8MPaの圧縮応力下での圧縮ひずみの値が20%以上となり、低い測定精度の試験装置の測定結果に基づいて算出した0.8MPaの圧縮応力下での圧縮ひずみの値が20%未満となる事情があったとしても、そのような場合は、本件発明の「圧縮ひずみ」が、「本件特許の出願時における最も高い測定精度の試験装置の測定結果に基づいて算出した圧縮ひずみ」を意味すると解すれば、上記の高い測定精度の試験装置の測定結果に基づいて算出した0.8MPaの圧縮応力下での圧縮ひずみの値が20%以上となり、低い測定精度の試験装置の測定結果に基づいて算出した0.8MPaの圧縮応力下での圧縮ひずみの値が20%未満となるカーボン紙は、本件発明の「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみ」を有する「カーボン紙」には該当しないことになる。

(オ)さらに、本件発明の「カーボン紙」が「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみ」を有することの技術的意義について検討すると、本件明細書等の【0019】には、
a 「相対的に、フロー電池に通常用いられる炭素フェルトは、相対的に柔軟であり、流路内に侵入して流れを制限し、一貫性の無い性能をもたらしうる。相対的に硬いカーボン紙68は、侵入を低減し、それにより流れの制限を低減させ、性能の一貫性を向上させる。」
b 「炭素フェルトはまた相対的に厚く、スタックサイズ、およびイオンがイオン交換膜に到達するために移動する必要のある平均距離を増加させる。相対的に薄いカーボン紙68は、スタックサイズ、およびイオン移動の平均距離を低下させる。」
c 「さらに、カーボン紙68は、フェルトに比べて圧縮が小さく、高い積層圧縮を必要としないため、スタック耐久性が向上する。」
d 「さらに、炭素フェルトはリブに亘って圧縮され、それにより流速分布を生じさせる一貫性の無い孔隙率を有する。カーボン紙68は相対的に圧縮が小さく、したがってより均一な圧縮と流速分布を提供する。」
と記載されており、以上の記載によれば、本件発明のレッドスフロー電池は電極材料に「炭素フェルト」より硬くて薄く、圧縮の小さい「カーボン紙」を用いることによって、電極材料に「炭素フェルト」を用いた従来のレドックスフロー電池と比較して、上記a?dの点で優れていることが分かる。
したがって、本件発明の「カーボン紙」が「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみ」を有することの技術的意義は、「本件発明のレドックスフロー電池を製造する際に使用するカーボン紙の目安となる硬さを提供すること」にある。

(カ)以上によれば、本件発明の「圧縮ひずみ」は、試験装置が特定されれば一義的に定まるものであるし、仮に、試験装置の測定精度の違いによる差違があったとしても、圧縮ひずみが20%近傍のごく狭い領域にある場合に判定が変化することがあるということにとどまるものであり、さらに、本件発明の「圧縮ひずみ」が「0.8MPaの圧縮応力で20%未満」であることは、「本件発明のレドックスフロー電池を製造する際に使用するカーボン紙の目安となる硬さを提供する」との技術的意義を有することが明らかであるから、本件発明は、当業者が許容できず、第三者に不測の不利益を与える程に不明確であるとはいえない。
よって、前記「(1)」「ア」の主張は根拠を欠くものであり、これを採用することはできない。

イ 前記「(1)」「イ」の主張について

カーボン紙の圧縮ひずみに履歴があるとしても、本件特許明細書には繰り返しの応力に対する圧縮ひずみについて考慮すべき特段の事情は記載されておらず、前記「ア」「(オ)」で検討したとおり、本件発明の電極材料としてカーボン紙が採用されているのは、炭素フェルトとの比較において硬くて薄い材料であることによるものであるから、本件発明は圧縮履歴を経たカーボン紙を対象にしているものではないと認められる。
よって、前記「(1)」「イ」の主張は根拠を欠くものであり、これを採用することはできない。

(3)小括

以上のとおりであるから、第1の無効理由(明確性要件違反)には、理由がない。

2 第2の無効理由(甲9、甲11及び甲14に基づく進歩性欠如)について

(1)甲9記載の発明

ア 前記第6の記載(9a?9e)によれば、甲9には以下の事項が記載されている。

(ア)図1のレドックスフロー電池の概略図には、イオン交換膜(Ion exchange membrane)の一方の面に正極(Cathode)領域が配置され、他方の面に負極(Anode)領域が配置されたレドックスフロー電池セルと、正極電解液(Catholyte)が正極電解液貯蔵槽(Electrolyte reservoir)から上記レドックスフロー電池セルの正極(Cathode)領域に供給された後に上記正極電解液貯蔵層に戻ること、負極電解液(Anolyte)が負極電解液貯蔵槽(Electrolyte reservoir)から上記レドックスフロー電池セルの負極(Anode)領域に供給された後に上記負極電解液貯蔵層に戻ることが記載されている(9a、9b)。

(イ)図3の標準的なレドックスフロー電池セルの概略図には、イオン交換膜の一方の面に正極多孔質電極(porous electrodes)及び正極フローチャネル(cathode flow channel)が順に配置され、上記イオン交換膜の他方の面に負極多孔質電極(porous electrodes)及び負極フローチャネル(anode flow channel)が順に配置され、上記正極多孔質電極に面する上記正極フローチャネルの面、及び上記負極多孔質電極に面する上記負極フローチャネルの面には、それぞれ、蛇行形状の流路が形成されたレドックスフロー電池セルが記載されており(9d)、前記(ア)の正極電解液及び負極電解液が、それぞれ、上記正極フローチャネル及び負極フローチャネルに形成された上記蛇行形状の流路に供給されることは技術的に明らかである。
また、上記正極多孔質電極及び負極多孔質電極の材料としては、約0.8の孔隙率と、約10μmのファイバ径と、20×10^(-8)cm^(2)の透過率を有するカーボンファイバ紙又はカーボンフェルトを用いることができる(9e)。

イ 前記アによれば、甲9には、正極多孔質電極及び負極多孔質電極の材料としてカーボンファイバ紙を用いた場合に基づいて認定した以下の「甲9発明」が記載されているものと認められる。

(甲9発明)
イオン交換膜の一方の面に正極多孔質電極及び正極フローチャネルが順に配置され、上記イオン交換膜の他方の面に負極多孔質電極及び負極フローチャネルが順に配置されたセルを含むレドックスフロー電池であって、
上記正極多孔質電極に面する上記正極フローチャネルの面、及び上記負極多孔質電極に面する上記負極フローチャネルの面には、それぞれ、蛇行形状の流路が形成され、
正極電解液が、正極電解液貯蔵槽から上記正極フローチャネルに形成された上記蛇行形状の流路に供給された後に、上記正極電解液貯蔵層に戻り、負極電解液が、負極電解液貯蔵槽から上記負極フローチャネルに形成された上記蛇行形状の流路に供給された後に上記負極電解液貯蔵層に戻り、
上記正極多孔質電極及び負極多孔質電極は、約0.8の孔隙率と、約10μmのファイバ径と、20×10^(-8)cm^(2)の透過率を有するカーボンファイバ紙からなる、
上記レドックスフロー電池。

ウ 請求人の主張について

請求人は、甲9の図3に関し、「電極に電解液が流れない部分を残さないよう設計を行うことは技術常識ですので、当業者は、甲第9号証の図3に示された蛇行形状の溝は、第1部分(審決注:上流部分)を流れる電解液の圧力と第2部分(審決注:下流部分)を流れる電解液の圧力差に起因して第1部分を流れている電解液の一部が第1部分と第2部分との間にあるリブを乗り越えて第2部分へと流れるように構成されていると理解します。」(平成30年12月26日付け上申書第4頁下から第9?5行)などと主張している。
しかし、甲9には、図3のレドックスフロー電池セルに関し、「典型的なセルの配置は図3に示されるとおりである。」(9c)と記載されるのみで、フローチャネルから多孔質電極に供給された電解液が多孔質電極内をどのように流れるのかについては何らの記載もされていない。
そして、電極に電解液が流れない部分を残さないよう設計を行うことが当業者の技術常識であるとしても、上記電解液は、蛇行形状の流路に接する部分から多孔質電極内を「拡散」することによって、多孔質電極内の流路に接する部分よりも広い範囲を流れるものと考えられ、その範囲を電極全体に拡げることは、蛇行形状の流路の各部の寸法や多孔質電極の材料(透過率)や厚さ、電解液の濃度や流量等の条件によって調整可能であると考えられるから(例えば、甲25の図9(b)(c)(25a?25h)においても、濃度が低い部分があったとしても、メタノール溶液が多孔質輸送層(PTL)の全体に「拡散」していることを看取することができる。)、電解液が、例えば、甲25の図9(d)(e)に示されるように、隣接する流路の間にあるリブを乗り越えて上流側の流路から下流側の流路に流れるようにすることが可能であったとしても、そのようにしなければ、電極に電解液が流れない部分を残さないように設計を行うことができないとまではいえない。
したがって、甲9に記載のレドックスフロー電池セルにおいて、隣接する流路の間にあるリブを乗り越えて上流側の流路から下流側の流路に流れるようにすることが必須の事項として設計されていたとまではいえない。
以上のとおり、請求人の上記主張は根拠を欠くものであるから、これを採用することはできない。

(2)対比・判断

ア 本件発明1と甲9発明との対比・判断

(ア)対比

a 本件発明1と甲9発明とを対比すると、甲9発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、「可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出する」ものであって、甲9発明の「正極電解液」及び「負極電解液」は、本件発明1の「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液」に相当する。
また、甲9発明の「正極電解液貯蔵槽」及び「負極電解液貯蔵槽」は、本件発明1の「2つの電解液」の「各々の貯蔵タンク」に相当する。

b 甲9発明の「正極フローチャネル」及び「負極フローチャネル」は、電解液の流路を含む点において、本件発明1の「流れ場板」と共通する。

c 甲9発明の「カーボンファイバ紙」と、本件発明1の「カーボン紙」は、「カーボン紙」である点で一致し、甲9発明の「約0.8の孔隙率」は、非圧縮状態の孔隙率が約0.8であることを意味するから、甲9発明の「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」は、それぞれが「正極フローチャネル」及び「負極フローチャネル」に隣接して配置される点、及び「約0.8の孔隙率」「を有するカーボンファイバ紙からなる」点において、本件発明1の「80体積%の範囲の非圧縮孔隙率」「を画定するカーボン紙を含」む「流れ場板に隣接して配置された電極」と共通する。
また、甲9発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、甲9発明の「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」は、触媒活性を有しているものと認められる。

d よって、本件発明1と甲9発明との一致点及び2つの相違点(以下「相違点1」及び「相違点2」という。)は、以下のとおりである。

(一致点)
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
流路を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、80体積%の非圧縮孔隙率を画定するカーボン紙を含む、
レドックスフロー電池。

(相違点1)
本件発明1の「流れ場板」は、「第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含」み、「電極は、」「電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され」ているのに対して、
甲9発明の「正極フローチャネル」及び「負極フローチャネル」は、「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」のそれぞれに面する面に「蛇行形状の流路が形成され」るが、「正極電解液」及び「負極電解液」が、それぞれ「正極多孔質電極」内及び「負極多孔質電極」内をどのように流れるのかは特定されていない点。

(相違点2)
本件発明1の「電極が、」「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみ」「を画定するカーボン紙を含み、 前記カーボン紙が、1?10重量%の炭素粒子を含み、 前記カーボン紙が、150?400μmの厚さを有する」のに対して、
甲9発明の「正極多孔質電極及び負極多孔質電極は、」「約10μmのファイバ径と、20×10^(-8)cm^(2)の透過率を有するカーボンファイバ紙からなる」点。

(イ)相違点2についての判断

a 事案に鑑み相違点2について検討すると、前記第6の記載(11a?11e)によれば、甲11には以下の事項が記載されている。

(a)本発明は、レドックスフロー二次電池等の流体透過型電池用の電極板に好適な多孔質炭素材の製造方法に関する(11b)。

(b)従来、レドックスフロー二次電池の電極材料として、活性炭素繊維フェルト、活性炭素繊維マット、活性炭素繊維織布等が使用されてきたが、これらの材料を使用した電極は、崇高であるため反発力があり電池の積層時に電極を押しつぶしながら組立を行わねばならず、組立作業が煩雑であった上に、電気抵抗が大きく、高価であるという欠点を有していた。また、電池として長期間使用すると、締圧によるクリープ変形や厚みの減少が発生し接触電気抵抗の増加をもたらすものであった。
さらに、活性炭素繊維間が結着処理が施されていないため粘度の高い電解液が透過する際、炭素繊維集合体内の液流路が部分的に押し広げられ偏流が発生し易く電池の充放電特性が低下していた(11c)。

(c)本発明は、前記(b)の種々の問題点を鑑みなされたものであり、その要旨は、活性炭素粉末1?18重量%、炭素粉末1?18重量%、セルロース質繊維25?60重量%、フェノール樹脂(固形分)25?60重量%からなるグリーン成形体を焼成炭化することを特徴とする多孔質炭素材の製造方法である。
活性炭素粉末の配合量が1重量%以下であると流体透過型電池用電極板として必要な比表面積が確保できず、18重量%以上では流体透過性が低下し電池の充放電効率が低下する。
炭素粉末は電気比抵抗を改善するために添加し、配合量が1重量%以下であると、電気比抵抗が十分に下がらず、18重量%以上では流体透過性が低下する(11a、11d)。

(d)実施例については、セルロース質繊維原料、炭素粉末、抄紙用繊維バインダー(PVA繊維)、潤滑紙補強剤(エポキシ樹脂)からなる原料スラリーを水で希釈し抄紙し、抄紙シートを得た。抄紙シートは米坪量100g/m^(2)、厚さ0.51mmで地合の良い均一な紙であった。
その後、上記抄紙シートにフェノール樹脂に活性炭素粉末を配合した混合溶液を含浸させ、予備乾燥し、これを8枚又は10枚積層したものを加熱圧着してグリーン成形体とし、次いで、これを黒鉛板で挟持し、窒素雰囲気下毎分1℃ずつ900℃まで昇温し15hrs焼成して多孔質炭素板とした。
次に、これら多孔質炭素板を機械加工して100mm×100mm×2mmの板とし、さらに幅0.5mm、深さ1mm、ピッチ5mmの溝を賦して電極とし、「ガラス状不浸透炭素板/電極/陽イオン交換膜/電極/ガラス状不浸透炭素板」の構成として500g/cm^(2)の締圧をかけてレドックスフロー2次電池を作り、バナジウム電解質液を循環させて電池性能を評価した。

b 前記「a」によれば、甲11には、グリーン成形体を焼成炭化して形成した「多孔質炭素板」に機械加工(実施例では100mm×100mm×2mmの板形状)を施し、その後、溝を賦したものを、レドックスフロー2次電池の電極として、陽イオン交換膜を直接挟むように用いることが記載されていると認められるが、焼成炭化後の「多孔質炭素基板」にどの程度の割合で炭素粒子が含まれているのかは、示唆も含め何らの記載もされていない。

c 以上のとおり、レドックスフロー2次電池の電極として甲11に記載された「多孔質炭素板」は、機械加工や溝の賦与が可能な硬さや厚さを備えるものであって、甲9発明の「カーボン紙」とは明らかに異なるものであり、その厚さも実施例では2mmと「カーボン紙」の厚さよりも大幅に厚く、甲9発明で「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」として用いられる「カーボンファイバ紙」と異なり、溝を賦与して用いるものであって、その上、どの程度の割合で炭素粒子が含まれているのかも不明なのであるから、甲11の記載事項は、甲9発明の「カーボンファイバ紙」からなる「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」に炭素粒子を含有させるか否か、含有させる場合にその含有量をどの程度にするかについての指針にはならない。

d 仮に、甲11の記載事項が、甲11の記載事項は、甲9発明の「カーボンファイバ紙」からなる「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」に炭素粒子を含有させるか否か、含有させる場合にその含有量をどの程度にするかの指針になり得るとしても、焼成後の炭素粒子の含有量を算出するためには、焼成前のグリーン成形体中に含まれていた「セルロース繊維」及び「フェノール樹脂」の炭化収率の値が必要になるところ、甲12に記載されたセルロースに対する12?38%の炭化収率は、硫酸含浸したセルロースに対するものであり(12a?12b)、甲13に記載されたフェノール樹脂に対する60%の炭化収率も、テンプレートを用いたフェノール樹脂に対するものであり(13a)、これらの値が甲11の「多孔質炭素板」にそのまま妥当するものであるのかは直ちに明らかとはいえない。
その上で、予備的に、甲12、13の記載に基づいて、セルロースの炭化収率を12%、フェノール樹脂の炭化収率を60%として、甲11に記載された全ての実施例(実施例1?6)について、焼成炭化後の炭素粒子(活性炭素粉末及び炭素粉末)の割合を算出してみても、その値は、被請求人が答弁書に添付して提出した「表1」にあるとおり、12.67重量%(実施例1)?33.87重量%(実施例6)となり、本件発明1の「1?10重量%」の範囲の値にはならない。
さらに、甲11の請求項1の「活性炭素粉末1?18重量%、炭素粉末1?18重量%、セルロース質繊維25?60重量%、フェノール樹脂(固形分)25?60重量%からなるグリーン成形体を焼成炭化する」(11a)という記載に基づいて、「活性炭素粉末」及び「炭素粉末」の含有量を実施例1?6よりも少なくすることが可能であったとしても、焼結後の炭素粒子の含有量に着目し、その値を1?10重量%の範囲内の値にすることを根拠付ける記載は、甲11にはなく、これを裏付ける技術常識の存在も認められない。

e また、甲14は「燃料電池」に関するものであって、レドックスフロー電池の正極又は負極として用いられるカーボン紙において、炭素粒子の含有量等をどのようにするのかについての記載は何らされていない。

f したがって、甲11及び甲14に記載された事項を勘案しても、甲9発明において、相違点2に係る本件発明1の特定事項のうち、「カーボン紙が、1?10重量%の炭素粒子を含」むようにすることは、当業者であっても容易に想到することができたものではない。

(ウ)以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲9、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2と甲9発明との対比・判断

(ア)対比

a 本件発明2と甲9発明とを対比すると、甲9発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、「可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出する」ものであって、甲9発明の「正極電解液」及び「負極電解液」は、本件発明2の「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液」に相当する。
また、甲9発明の「正極電解液貯蔵槽」及び「負極電解液貯蔵槽」は、本件発明2の「2つの電解液」の「各々の貯蔵タンク」に相当する。

b 甲9発明の「正極フローチャネル」及び「負極フローチャネル」は、電解液の流路を含む点において、本件発明2の「流れ場板」と共通する。

c 甲9発明の「カーボンファイバ紙」と、本件発明2の「カーボン紙」は、「カーボン紙」である点で一致し、甲9発明の「約0.8の孔隙率」は、非圧縮状態の孔隙率が約0.8であることを意味するから、甲9発明の「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」は、それぞれが「正極フローチャネル」及び「負極フローチャネル」に隣接して配置される点、及び「約0.8の孔隙率」「を有するカーボンファイバ紙からなる」点において、本件発明2の「80体積%の範囲の非圧縮孔隙率」「を画定するカーボン紙を含」む「流れ場板に隣接して配置された電極」と共通する。
また、甲9発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、甲9発明の「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」は、触媒活性を有しているものと認められる。

d よって、本件発明2と甲9発明との一致点及び2つの相違点(以下「相違点3」及び「相違点4」という。)は、以下のとおりである。

(一致点)
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
流路を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、80体積%の非圧縮孔隙率を画定するカーボン紙を含む、
レドックスフロー電池。

(相違点3)
本件発明2の「流れ場板」は、「第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含」み、「電極は、」「電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され」ているのに対して、
甲9発明の「正極フローチャネル」及び「負極フローチャネル」は、「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」のそれぞれに面する面に「蛇行形状の流路が形成され」るが、「正極電解液」及び「負極電解液」が、それぞれ「正極多孔質電極」内及び「負極多孔質電極」内をどのように流れるのかは特定されていない点。

(相違点4)
本件発明2の「電極が、」「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみ」「を画定するカーボン紙を含み、 前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、を備えるとともに、その厚さに亘って孔隙率が均一となるように、炭素粒子が均一に分散される」のに対して、
甲9発明の「正極多孔質電極及び負極多孔質電極は、」「約10μmのファイバ径と、20×10^(-8)cm^(2)の透過率を有するカーボンファイバ紙からなる」点。

(イ)相違点4についての判断

a 事案に鑑み相違点4について検討すると、前記「ア 本件発明1と甲9発明との対比・判断」「(イ)相違点2についての判断」「a」にあるとおり、甲11には、セルロース質繊維原料、炭素粉末、抄紙用繊維バインダー、潤滑紙補強剤からなる原料スラリーを水で希釈し抄紙し、抄紙シートを得た後、フェノール樹脂に活性炭素粉末を配合した混合溶液を含浸させ、予備乾燥し、これを8枚又は10枚積層したものを加熱圧着してグリーン成形体とした後、このグリーン成形体を焼成炭化して「多孔質炭素板」を形成し、これに機械加工(実施例では100mm×100mm×2mmの板形状)を施し、その後、溝を賦したものを、レドックスフロー2次電池の電極として、陽イオン交換膜を直接挟むように用いることが記載されていると認められるが、焼成炭化後の「多孔質炭素基板」において、孔隙率と厚さ方向の炭素粒子の分散との関係に着目し、これを制御することに関しては、示唆も含め何らの記載もされていない。
また、「多孔質炭素基板」の上記各製造工程を考慮しても、厚さ方向の孔隙率の分布がどのようなものであり、炭素粒子がどのように分散しているのかは不明のままである。

b 以上のとおり、レドックスフロー2次電池の電極として甲11に記載された「多孔質炭素板」は、機械加工や溝の賦与が可能な硬さや厚さを備えるものであって、甲9発明の「カーボン紙」とは明らかに異なるものであり、その厚さも実施例では2mmと「カーボン紙」の厚さよりも大幅に厚く、甲9発明で「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」として用いられる「カーボンファイバ紙」と異なり、溝を賦与して用いるものであって、その上、厚さ方向の孔隙率の分布がどのようなものであり、炭素粒子がどのように分散しているのかも不明なのであるから、甲11の記載事項は、甲9発明の「カーボンファイバ紙」からなる「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」について、孔隙率との関係から、炭素粒子を含有させるか否か、含有させる場合にその厚さ方向の分散をどのようなものにするのかについての指針にはならない。

c また、甲14は「燃料電池」に関するものであって、レドックスフロー電池の正極又は負極として用いられるカーボン紙において、孔隙率との関係から、炭素粒子の厚さ方向の分散等をどのようにするのかについての記載は何らされていない。

d したがって、甲11及び甲14に記載された事項を勘案しても、甲9発明において、相違点4に係る本件発明1の特定事項のうち、「その厚さに亘って孔隙率が均一となるように、炭素粒子が均一に分散される」ようにすることは、当業者であっても容易に想到することができたものではない。

(ウ)以上のとおりであるから、相違点3について検討するまでもなく、本件発明2は、甲9、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明3と甲9発明との対比・判断

(ア)対比

a 本件発明3と甲9発明とを対比すると、甲9発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、「可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出する」ものであって、甲9発明の「正極電解液」及び「負極電解液」は、本件発明3の「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液」に相当する。
また、甲9発明の「正極電解液貯蔵槽」及び「負極電解液貯蔵槽」は、本件発明3の「2つの電解液」の「各々の貯蔵タンク」に相当する。

b 甲9発明の「正極フローチャネル」及び「負極フローチャネル」は、電解液の流路を含む点において、本件発明3の「流れ場板」と共通する。

c 甲9発明の「カーボンファイバ紙」と、本件発明3の「カーボン紙」は、「カーボン紙」である点で一致し、甲9発明の「約0.8の孔隙率」は、非圧縮状態の孔隙率が約0.8であることを意味するから、甲9発明の「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」は、それぞれが「正極フローチャネル」及び「負極フローチャネル」に隣接して配置される点、及び「約0.8の孔隙率」「を有するカーボンファイバ紙からなる」点において、本件発明3の「80体積%の範囲の非圧縮孔隙率」「を画定するカーボン紙を含」む「流れ場板に隣接して配置された電極」と共通する。
また、甲9発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、甲9発明の「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」は、触媒活性を有しているものと認められる。

d よって、本件発明3と甲9発明との一致点及び2つの相違点(以下「相違点5」及び「相違点6」という。)は、以下のとおりである。

(一致点)
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
流路を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、80体積%の非圧縮孔隙率を画定するカーボン紙を含む、
レドックスフロー電池。

(相違点5)
本件発明3の「流れ場板」は、「第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含」み、「電極は、」「電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され」ているのに対して、
甲9発明の「正極フローチャネル」及び「負極フローチャネル」は、「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」のそれぞれに面する面に「蛇行形状の流路が形成され」るが、「正極電解液」及び「負極電解液」が、それぞれ「正極多孔質電極」内及び「負極多孔質電極」内をどのように流れるのかは特定されていない点。

(相違点6)
本件発明3の「電極が、」「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみ」「を画定するカーボン紙を含み、 前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、を備えるとともに、その厚さに亘って前記流れ場板側からその反対側へと孔隙率が漸減するように、炭素粒子が分散される」のに対して、
甲9発明の「正極多孔質電極及び負極多孔質電極は、」「約10μmのファイバ径と、20×10^(-8)cm^(2)の透過率を有するカーボンファイバ紙からなる」点。

(イ)相違点6についての判断

a 前記「イ 本件発明2と甲9発明との対比・判断」「(イ)相違点4についての判断」「b」で検討したとおり、レドックスフロー2次電池の電極として甲11に記載された「多孔質炭素板」は、機械加工や溝の賦与が可能な硬さや厚さを備えるものであって、甲9発明の「カーボン紙」とは明らかに異なるものであり、その厚さも実施例では2mmと「カーボン紙」の厚さよりも大幅に厚く、甲9発明で「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」として用いられる「カーボンファイバ紙」と異なり、溝を賦与して用いるものであって、その上、厚さ方向の孔隙率の分布がどのようなものであり、炭素粒子がどのように分散しているのかも不明なのであるから、甲11の記載事項は、甲9発明の「カーボンファイバ紙」からなる「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」について、孔隙率との関係から、炭素粒子を含有させるか否か、含有させる場合にその厚さ方向の分散をどのようなものにするのかについての指針にはならない。

b また、甲14は「燃料電池」に関するものであって、レドックスフロー電池の正極又は負極として用いられるカーボン紙において、孔隙率との関係から、炭素粒子の厚さ方向の分散等をどのようにするのかについての記載は何らされていない。
具体的には、甲14には、電解質膜の一方の面に配されたカソードの外側に、導電性粒子を含みカソードに接する多孔性の第一層と、第一層よりも厚い第二層とを備えるガス拡散層を有し、第二層の気孔の平均孔径が第一層の気孔の平均孔径よりも大きく、第二層に含まれる導電性粒子の平均比表面積は、第一層に含まれる導電性粒子の平均比表面積よりも小さい燃料電池が記載され(14a)、第一層及び第二層を繊維状の多孔性基体であるカーボンペーパーで形成することも記載されている(14d【0024】)。
しかし、上記燃料電池は、このようにすることで、カソードガスの拡散性が第一層よりも第二層で高く、保水性が第二層よりも第一層で高くなるようにして(14d【0025】)、固体高分子型等の燃料電池において、ガス拡散性と固体高分子膜の湿潤性を良好に保つことにより、安定した発電が可能な燃料電池を提供するという課題(14c)を解決するものであり、上記課題は燃料電池特有のもので、正極及び負極のそれぞれに正極電解液及び負極電解液が循環して供給される甲9発明には該当しないから、甲14の記載事項は、甲9発明の「カーボンファイバ紙」からなる「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」について、孔隙率との関係から、炭素粒子を含有させるか否か、含有させる場合にその厚さ方向の分散をどのようなものにするのかについての指針にはならない。

c したがって、甲11及び甲14に記載された事項を勘案しても、甲9発明において、相違点6に係る本件発明1の特定事項のうち、「その厚さに亘って前記流れ場板側からその反対側へと孔隙率が漸減するように、炭素粒子が分散される」ようにすることは、当業者であっても容易に想到することができたものではない。

(ウ)以上のとおりであるから、相違点5について検討するまでもなく、本件発明3は、甲9、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明4、5、8、9について

引用によって、本件発明4は、本件発明3の全ての特定事項を備え、本件発明5、8、9は、本件発明1の全ての特定事項を備えるから、前記「ウ」及び「ア」で本件発明3及び本件発明1について検討したのと同様の理由により、本件発明4、5、8、9は、甲9、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件発明10と甲9発明との対比・判断

(ア)対比

a 本件発明10と甲9発明とを対比すると、甲9発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、「可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出する」ものであって、甲9発明の「正極電解液」及び「負極電解液」は、本件発明10の「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液」に相当する。
また、甲9発明の「正極電解液貯蔵槽」及び「負極電解液貯蔵槽」は、本件発明10の「2つの電解液」の「各々の貯蔵タンク」に相当する。

b 甲9発明の「流路」は、本件発明10の「流れ場流路」に相当し、甲9発明の「蛇行形状の流路が形成され」た「正極フローチャネル」及び「負極フローチャネル」は、隣接する流路がリブによって離間されているといえるから、本件発明10の「第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間された第2の流れ場流路と、を含む流れ場板」に相当する。

c 甲9発明の「カーボンファイバ紙」と、本件発明10の「カーボン紙」は、「カーボン紙」である点で一致し、甲9発明の「約0.8の孔隙率」は、非圧縮状態の孔隙率が約0.8であることを意味するから、甲9発明の「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」は、それぞれが「正極フローチャネル」及び「負極フローチャネル」に隣接して配置される点、及び「約0.8の孔隙率」「を有するカーボンファイバ紙からなる」点において、本件発明10の「80体積%の非圧縮孔隙率と、」「を有するカーボン紙を含む」「流れ場板に隣接して配置された電極」と共通する。
また、甲9発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、甲9発明の「正極多孔質電極」及び「負極多孔質電極」は、触媒活性を有しているものと認められる。

d よって、本件発明10と甲9発明との一致点及び2つの相違点(以下「相違点7」及び「相違点8」という。)は、以下のとおりである。

(一致点)
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間された第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、80体積%の非圧縮孔隙率を有するカーボン紙を含む、
レドックスフロー電池。

(相違点7)
本件発明10の「電極は、前記電解液を、前記第1の流れ場流路と前記第2の流れ場流路との間の圧力勾配によって、該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され」ているのに対して、
甲9発明では、「正極電解液」及び「負極電解液」が、それぞれ「正極多孔質電極」内及び「負極多孔質電極」内をどのように流れるのかは特定されていない点。

(相違点8)
本件発明10の「電極が、」「150?400μmの平均厚さと、0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、」「1?10重量%の炭素粒子と、を有するカーボン紙を含む」のに対して、
甲9発明の「正極多孔質電極及び負極多孔質電極は、」「約10μmのファイバ径と、20×10^(-8)cm^(2)の透過率を有するカーボンファイバ紙からなる」点。

(イ)相違点8についての判断

事案に鑑み相違点8について検討すると、前記「ア 本件発明1と甲9発明との対比・判断」「(イ)相違点2についての判断」で検討したのと同様の理由により、甲11及び甲14に記載された事項を勘案しても、甲9発明において、相違点8に係る本件発明10の特定事項のうち、「電極が、」「1?10重量%の炭素粒子」「を有するカーボン紙を含む」むようにすることは、当業者であっても容易に想到することができたものではない。

(ウ)以上のとおりであるから、相違点7について検討するまでもなく、本件発明10は、甲9、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件発明11、12、13について

引用によって、本件発明11、12、13は、本件発明10の全ての特定事項を備えるから、前記「オ」で本件発明10について検討したのと同様の理由により、本件発明11、12、13は、甲9、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括

以上のとおりであるから、第2の無効理由(甲9、甲11及び甲14に基づく進歩性欠如)には、理由がない。

3 第3の無効理由(甲16、甲17、甲11及び甲14に基づく進歩性欠如)について

(1)甲16記載の発明

ア 前記第6の記載(16a?16e)によれば、甲16には以下の事項が記載されている。

(ア)図1のバナジウムレドックスフロー電池の概略図には、直列に接続された3個のバナジウムレドックスフロー電池セルが記載され、各セルは、イオン交換膜(Ion Exchange Membrane)を2枚のカーボン紙(Carbon Paper)で挟み込み、さらに、その両側をグラファイト板(Graphite plate)で挟み込んだ構造になっており、正極、負極の電解液(Electrolyte)が、正極、負極の電解液貯蔵槽から上記各セルの正極、負極の各領域に供給された後に、正極、負極の電解液貯蔵槽に戻ることが記載されている(16e)。

(イ)充電/放電テストに用いられたバナジウムレドックスフロー電池は、イオン交換膜(セパレーター)として、今回初めて用いられたPVDF-g-PSSA膜(ポリ(フッ化ビニリデン)-グラフト-ポリ(スチレンスルホン酸)膜)を2枚のカーボン紙(東レ TGPH-120、厚さは0.35mm)電極で挟み込み、複数のフローチャネルが刻み込まれたグラファイト極板でクランプすることにより製造された(16a?16c)。
そして、前記(ア)の正極電解液が正極電解液貯蔵槽から上記2枚のグラファイト極板の一方のフローチャネルに供給され、負極電解液が負極電解液貯蔵槽から上記2枚のグラファイト極板の他方のフローチャネルに供給されることは、技術的に明らかである。

イ 前記アによれば、甲16には、以下の「甲16発明」が記載されているものと認められる。

(甲16発明)
PVDF-g-PSSA膜からなるイオン交換膜を2枚のカーボン紙電極で挟み込み、さらに、その両側を複数のフローチャネルが刻まれた2枚のグラファイト極板で挟み込んだセルを含むバナジウムレドックスフロー電池であって、
正極電解液が正極電解液貯蔵槽から上記2枚のグラファイト極板の一方のフローチャネルに供給された後に上記正極電解液貯蔵層に戻り、負極電解液が負極電解液貯蔵槽から上記2枚のグラファイト極板の他方のフローチャネルに供給された後に上記負極電解液貯蔵層に戻り、
上記2枚のカーボン紙電極は、厚さ0.35mmの東レ社製TGPH-120である、
上記バナジウムレドックスフロー電池。

(2)対比・判断

ア 本件発明1と甲16発明との対比・判断

(ア)対比

a 本件発明1と甲16発明とを対比すると、甲16発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、「可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出する」ものであって、甲16発明の「正極電解液」及び「負極電解液」は、本件発明1の「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液」に相当する。
また、甲16発明の「正極電解液貯蔵槽」及び「負極電解液貯蔵槽」は、本件発明1の「2つの電解液」の「各々の貯蔵タンク」に相当する。

b 甲16発明の「複数のフローチャネルが刻まれた2枚のグラファイト極板」は、電解液の流路を含む点において、本件発明1の「流れ場板」と共通する。

c 甲16発明の「厚さ0.35mmの東レ社製TGPH-120である」「2枚のカーボン紙電極」と、本件発明1の「カーボン紙」は、「カーボン紙」である点で一致し、甲15(15a)によれば、東レ社製TGP-H-120(当審注:表記が異なるが甲16の「TGPH-120」を意味すると認められる。)の気孔率は78%である。そして、この「気孔率」は非圧縮状態のものであり、「孔隙率」と同義であると認められる。
したがって、甲16発明の「厚さ0.35mmの東レ社製TGP-H-120である」「2枚のカーボン紙電極」は、それぞれが「グラファイト極板」に隣接して配置される点、及び、厚さが0.35mm(350μm)であり、気孔率が78%である点において、本件発明1の「78体積%の非圧縮孔隙率」「を画定するカーボン紙を含み、」「前記カーボン紙が、350μmの厚さを有する」「流れ場板に隣接して配置された電極」と共通する。
また、甲16発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、甲16発明の「東レ社製TGPH-120である」「2枚のカーボン紙電極」は、触媒活性を有しているものと認められる。

d よって、本件発明1と甲16発明との一致点及び2つの相違点(以下「相違点9」及び「相違点10」という。)は、以下のとおりである。

(一致点)
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
流路を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、78体積%の非圧縮孔隙率を画定するカーボン紙を含み、
前記カーボン紙が、350μmの厚さを有する、
レドックスフロー電池。

(相違点9)
本件発明1の「流れ場板」は、「第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含」み、「電極は、」「電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され」ているのに対して、
甲16発明の「2枚のグラファイト極板」は、「複数のフローチャネルが刻まれ」ているが、「正極電解液」及び「負極電解液」のそれぞれが、「東レ社製TGPH-120である」「2枚のカーボン紙電極」内をどのように流れるのかは特定されていない点。

(相違点10)
本件発明1の「電極が、」「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみ」「を画定するカーボン紙を含み、 前記カーボン紙が、1?10重量%の炭素粒子を含」むのに対して、
甲16発明の「2枚のカーボン紙電極」は、「東レ社製TGPH-120である」点。

(イ)相違点10についての判断

a 事案に鑑み相違点10について検討すると、甲16発明の「2枚のカーボン紙電極」は、「東レ社製TGPH-120である」ものの、炭素粒子を含むのか否か、含むとした場合に、その含有量がどの程度であるのかについては不明である。
そして、相違点10は、本件発明1の特定事項のうち、「カーボン紙が、1?10重量%の炭素粒子を含」む点で、相違点2と共通するから、相違点2について検討したのと同様の理由により、甲11及び甲14に記載された事項を勘案しても、甲16発明において、相違点10に係る本件発明1の特定事項のうち、「カーボン紙が、1?10重量%の炭素粒子を含」むようにすることは、当業者であっても容易に想到することができたものではない。

b また、甲17には、レドックスフロー電池の多孔質電極として、多孔質炭素部材を用いてもよいことは記載されているが(17d)、当該多孔質炭素部材に炭素粒子を含有させるのか否か、含有させる場合にその量をどの程度にするのか等については、指針となる記載は何らされていない。

(ウ)以上のとおりであるから、相違点9について検討するまでもなく、本件発明1は、甲16、甲17、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2と甲16発明との対比・判断

(ア)対比

a 本件発明2と甲16発明とを対比すると、甲16発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、「可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出する」ものであって、甲16発明の「正極電解液」及び「負極電解液」は、本件発明2の「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液」に相当する。
また、甲16発明の「正極電解液貯蔵槽」及び「負極電解液貯蔵槽」は、本件発明2の「2つの電解液」の「各々の貯蔵タンク」に相当する。

b 甲16発明の「複数のフローチャネルが刻まれた2枚のグラファイト極板」は、電解液の流路を含む点において、本件発明2の「流れ場板」と共通する。

c 甲16発明の「厚さ0.35mmの東レ社製TGPH-120である」「2枚のカーボン紙電極」と、本件発明2の「カーボン紙」は、「カーボン紙」である点で一致し、甲15(15a)によれば、東レ社製TGP-H-120(当審注:表記が異なるが甲16の「TGPH-120」を意味すると認められる。)の気孔率は78%である。そして、この「気孔率」は非圧縮状態のものであり、「孔隙率」と同義であると認められる。
したがって、甲16発明の「厚さ0.35mmの東レ社製TGP-H-120である」「2枚のカーボン紙電極」は、それぞれが「グラファイト極板」に隣接して配置される点、及び、厚さが0.35mm(350μm)であり、気孔率が78%である点において、本件発明2の「78体積%の非圧縮孔隙率」「を画定するカーボン紙を含み、」「前記カーボン紙が、350μmの厚さを有する」「流れ場板に隣接して配置された電極」と共通する。
また、甲16発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、甲16発明の「東レ社製TGPH-120である」「2枚のカーボン紙電極」は、触媒活性を有しているものと認められる。

d よって、本件発明2と甲16発明との一致点及び2つの相違点(以下「相違点11」及び「相違点12」という。)は、以下のとおりである。

(一致点)
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
流路を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、78体積%の非圧縮孔隙率を画定するカーボン紙を含み、
前記カーボン紙が、350μmの厚さを有する、
レドックスフロー電池。

(相違点11)
本件発明2の「流れ場板」は、「第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含」み、「電極は、」「電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され」ているのに対して、
甲16発明の「2枚のグラファイト極板」は、「複数のフローチャネルが刻まれ」ているが、「正極電解液」及び「負極電解液」のそれぞれが、「東レ社製TGPH-120である」「2枚のカーボン紙電極」内をどのように流れるのかは特定されていない点。

(相違点12)
本件発明2の「電極が、」「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみ」「を画定するカーボン紙を含み、」「前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、を備えるとともに、その厚さに亘って孔隙率が均一となるように、炭素粒子が均一に分散される」のに対して、
甲16発明の「2枚のカーボン紙電極」は、「東レ社製TGPH-120である」点。

(イ)相違点12についての判断

a 事案に鑑み相違点12について検討すると、甲16発明の「2枚のカーボン紙電極」は、「東レ社製TGPH-120である」ものの、厚さ方向の孔隙率の分布がどのようなものであり、炭素粒子を含むのか否か、含むとした場合に、厚さ方向にどのように分散しているのかは不明である。
そして、相違点12は、本件発明1の特定事項のうち、「カーボン紙が」「その厚さに亘って孔隙率が均一となるように、炭素粒子が均一に分散されること」ことを含む点で、相違点4と共通するから、相違点4について検討したのと同様の理由により、甲11及び甲14に記載された事項を勘案しても、甲16発明において、相違点12に係る本件発明2の特定事項のうち、「カーボン紙が」「その厚さに亘って孔隙率が均一となるように、炭素粒子が均一に分散される」ようにすることは、当業者であっても容易に想到することができたものではない。

b また、甲17には、レドックスフロー電池の多孔質電極として、多孔質炭素部材を用いてもよいことは記載されているが(17d)、当該多孔質炭素部材において、孔隙率との関係から、炭素粒子の厚さ方向の分散等をどのようにするのか等については、指針となる記載は何らされていない。

(ウ)以上のとおりであるから、相違点11について検討するまでもなく、本件発明2は、甲16、甲17、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明3と甲16発明との対比・判断

(ア)対比

a 本件発明3と甲16発明とを対比すると、甲16発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、「可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出する」ものであって、甲16発明の「正極電解液」及び「負極電解液」は、本件発明3の「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液」に相当する。
また、甲16発明の「正極電解液貯蔵槽」及び「負極電解液貯蔵槽」は、本件発明3の「2つの電解液」の「各々の貯蔵タンク」に相当する。

b 甲16発明の「複数のフローチャネルが刻まれた2枚のグラファイト極板」は、電解液の流路を含む点において、本件発明3の「流れ場板」と共通する。

c 甲16発明の「厚さ0.35mmの東レ社製TGPH-120である」「2枚のカーボン紙電極」と、本件発明3の「カーボン紙」は、「カーボン紙」である点で一致し、甲15(15a)によれば、東レ社製TGP-H-120(当審注:表記が異なるが甲16の「TGPH-120」を意味すると認められる。)の気孔率は78%である。そして、この「気孔率」は非圧縮状態のものであり、「孔隙率」と同義であると認められる。
したがって、甲16発明の「厚さ0.35mmの東レ社製TGP-H-120である」「2枚のカーボン紙電極」は、それぞれが「グラファイト極板」に隣接して配置される点、及び、厚さが0.35mm(350μm)であり、気孔率が78%である点において、本件発明3の「78体積%の非圧縮孔隙率」「を画定するカーボン紙を含み、」「前記カーボン紙が、350μmの厚さを有する」「流れ場板に隣接して配置された電極」と共通する。
また、甲16発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、甲16発明の「東レ社製TGPH-120である」「2枚のカーボン紙電極」は、触媒活性を有しているものと認められる。

d よって、本件発明3と甲16発明との一致点及び2つの相違点(以下「相違点13」及び「相違点14」という。)は、以下のとおりである。

(一致点)
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
流路を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、78体積%の非圧縮孔隙率を画定するカーボン紙を含み、
前記カーボン紙が、350μmの厚さを有する、
レドックスフロー電池。

(相違点13)
本件発明3の「流れ場板」は、「第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含」み、「電極は、」「電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され」ているのに対して、
甲16発明の「2枚のグラファイト極板」は、「複数のフローチャネルが刻まれ」ているが、「正極電解液」及び「負極電解液」のそれぞれが、「東レ社製TGPH-120である」「2枚のカーボン紙電極」内をどのように流れるのかは特定されていない点。

(相違点14)
本件発明3の「電極が、」「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみ」「を画定するカーボン紙を含み、 前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、を備えるとともに、その厚さに亘って前記流れ場板側からその反対側へと孔隙率が漸減するように、炭素粒子が分散される」のに対して、
甲16発明の「2枚のカーボン紙電極」は、「東レ社製TGPH-120である」点。

(イ)相違点14についての判断

a 事案に鑑み相違点14について検討すると、甲16発明の「2枚のカーボン紙電極」は、「東レ社製TGPH-120である」ものの、厚さ方向の孔隙率の分布がどのようなものであり、炭素粒子を含むのか否か、含むとした場合に、厚さ方向にどのように分散しているのかは不明である。
そして、相違点14は、本件発明1の特定事項のうち、「カーボン紙が」「その厚さに亘って前記流れ場板側からその反対側へと孔隙率が漸減するように、炭素粒子が分散されること」を含む点で、相違点6と共通するから、相違点6について検討したのと同様の理由により、甲11及び甲14に記載された事項を勘案しても、甲16発明において、相違点14に係る本件発明1の特定事項のうち、「カーボン紙が」「その厚さに亘って前記流れ場板側からその反対側へと孔隙率が漸減するように、炭素粒子が分散される」ようにすることは、当業者であっても容易に想到することができたものではない。

b また、甲17には、レドックスフロー電池の多孔質電極として、多孔質炭素部材を用いてもよいことは記載されているが(17d)、当該多孔質炭素部材において、孔隙率との関係から、炭素粒子の厚さ方向の分散等をどのようにするのか等については、指針となる記載は何らされていない。

(ウ)以上のとおりであるから、相違点13について検討するまでもなく、本件発明2は、甲16、甲17、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明4、5、8、9について

引用によって、本件発明4は、本件発明3の全ての特定事項を備え、本件発明5、8、9は、本件発明1の全ての特定事項を備えるから、前記「ウ」及び「ア」で本件発明3及び本件発明1について検討したのと同様の理由により、本件発明4、5、8、9は、甲9、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件発明10と甲16発明との対比・判断

(ア)対比

a 本件発明10と甲16発明とを対比すると、甲16発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、「可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出する」ものであって、甲16発明の「正極電解液」及び「負極電解液」は、本件発明10の「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液」に相当する。
また、甲16発明の「正極電解液貯蔵槽」及び「負極電解液貯蔵槽」は、本件発明10の「2つの電解液」の「各々の貯蔵タンク」に相当する。

b 甲16発明の「フローチャネル」は、本件発明10の「流れ場流路」に相当し、甲16発明の「複数のフローチャネルが刻まれた2枚のグラファイト極板」は、隣接するフローチャネルがリブによって離間されているといえるから、本件発明10の「第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間された第2の流れ場流路と、を含む流れ場板」に相当する。

c 甲16発明の「厚さ0.35mmの東レ社製TGPH-120である」「2枚のカーボン紙電極」と、本件発明10の「カーボン紙」は、「カーボン紙」である点で一致し、甲15(15a)によれば、東レ社製TGP-H-120(当審注:表記が異なるが甲16の「TGPH-120」を意味すると認められる。)の気孔率は78%である。そして、この「気孔率」は非圧縮状態のものであり、「孔隙率」と同義であると認められる。
したがって、甲16発明の「厚さ0.35mmの東レ社製TGP-H-120である」「2枚のカーボン紙電極」は、それぞれが「グラファイト極板」に隣接して配置される点、及び、厚さが0.35mm(350μm)であり、気孔率が78%である点において、本件発明10の「350μmの平均厚さと、」「78体積%の非圧縮孔隙率と、」「を有するカーボン紙を含む」「流れ場板に隣接して配置された電極」と共通する。
また、甲16発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、甲16発明の「東レ社製TGPH-120である」「2枚のカーボン紙電極」は、触媒活性を有しているものと認められる。

d よって、本件発明10と甲16発明との一致点及び2つの相違点(以下「相違点15」及び「相違点16」という。)は、以下のとおりである。

(一致点)
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間された第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、350μmの平均厚さと、78体積%の非圧縮孔隙率と、を有するカーボン紙を含む、
レドックスフロー電池。

(相違点15)
本件発明10の「電極は、前記電解液を、前記第1の流れ場流路と前記第2の流れ場流路との間の圧力勾配によって、該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され」ているのに対して、
甲16発明では、「正極電解液」及び「負極電解液」のそれぞれが、「東レ社製TGPH-120である」「2枚のカーボン紙電極」内をどのように流れるのかは特定されていない点。

(相違点16)
本件発明10の「電極が、」「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、」「1?10重量%の炭素粒子と、を有するカーボン紙を含む」のに対して、
甲16発明の「2枚のカーボン紙電極」は、「東レ社製TGPH-120である」点。

(イ)相違点16についての判断

a 事案に鑑み相違点16について検討すると、甲16発明の「2枚のカーボン紙電極」は、「東レ社製TGPH-120である」ものの、炭素粒子を含むのか否か、含むとした場合に、その含有量がどの程度であるのかについては不明である。
そして、相違点16は、本件発明10の特定事項のうち、「1?10重量%の炭素粒子と、を有するカーボン紙を含む」む点で、相違点8と共通するから、相違点8について検討したのと同様の理由により、甲11及び甲14に記載された事項を勘案しても、甲16発明において、相違点16に係る本件発明10の特定事項のうち、「1?10重量%の炭素粒子と、を有するカーボン紙を含む」むようにすることは、当業者であっても容易に想到することができたものではない。

b また、甲17には、レドックスフロー電池の多孔質電極として、多孔質炭素部材を用いてもよいことは記載されているが(17d)、当該多孔質炭素部材に炭素粒子を含有させるのか否か、含有させる場合にその量をどの程度にするのか等については、指針となる記載は何らされていない。

(ウ)以上のとおりであるから、相違点15について検討するまでもなく、本件発明2は、甲16、甲17、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件発明11、12、13について

引用によって、本件発明11、12、13は、本件発明10の全ての特定事項を備えるから、前記「オ」で本件発明10について検討したのと同様の理由により、本件発明11、12、13は、甲9、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括

以上のとおりであるから、第3の無効理由(甲16、甲17、甲11及び甲14に基づく進歩性欠如)には、理由がない。

4 第4の無効理由(甲17、甲15、甲11及び甲14に基づく進歩性欠如)について

(1)甲17記載の発明

ア 前記第6の記載(17a?17h)によれば、甲17には以下の事項が記載されている。

(ア)レドックスフロー電池は、イオン交換膜により隔てられた負極及び正極を含み、電気化学的に可逆的なレドックス反応を駆動するために、負極電解液は負極に輸送され、正極電解液は正極に輸送される(17a)。

(イ)図1には、電気的エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池の一例が示されている(17b、17h)。
ここには、イオン交換膜の一方の面に第1の液体多孔質電極及び第1の流れ場が順に配置され、上記イオン交換膜の他方の面に第2の液体多孔質電極及び第2の流れ場が順に配置され配置されたレドックスフロー電池が記載されており、上記レドックスフロー電池は、上記第1の流れ場と液体的に接続された正極電解液タンクと、上記第2の流れ場と液体的に接続された負極電解液タンクとを含み(17c、17h)、上記第1及び第2の液体多孔質電極は、触媒活性な表面を有し、0.25?0.75mm厚の繊維状炭素部材であってもよい(17d、17g)。

(ウ)さらに、図2、3によれば、上記第1及び第2の流れ場は、上記第1及び第2の液体多孔質電極のそれぞれに正極電解液及び負極電解液を供給するための第1及び第2のチャネルを含み、上記第1及び第2のチャネルは、底面と、2つの側壁と、上記第1及び第2の液体多孔質電極に接触するリブとを備え、上記正極電解液及び負極電解液は、上記第1及び第2のチャネル内を流れるとともに、リブを超えて隣接するチャネル間を流れる(17e?17h)。

イ 前記アによれば、甲17には、以下の「甲17発明」が記載されているものと認められる。

(甲17発明)
イオン交換膜の一方の面に第1の液体多孔質電極及び第1の流れ場が順に配置され、上記イオン交換膜の他方の面に第2の液体多孔質電極及び第2の流れ場が順に配置され配置されたレドックスフロー電池であって、
上記第1の流れ場と液体的に接続された正極電解液タンクと、上記第2の流れ場と液体的に接続された負極電解液タンクとを含み、電気化学的に可逆的なレドックス反応を駆動するために、正極電解液は正極に輸送され、負極電解液は負極に輸送され、
上記第1及び第2の液体多孔質電極は、触媒活性な表面を有し、0.25?0.75mm厚の繊維状炭素部材からなり、
上記第1及び第2の流れ場は、上記第1及び第2の液体多孔質電極のそれぞれに正極電解液及び負極電解液を供給するための第1及び第2のチャネルを含み、上記第1及び第2のチャネルは、底面と、2つの側壁と、上記第1及び第2の液体多孔質電極に接触するリブとを備え、
上記正極電解液及び負極電解液は、上記第1及び第2のチャネル内を流れるとともに、リブを超えて隣接するチャネル間を流れる、
上記レドックスフロー電池。

(2)対比・判断

ア 本件発明1と甲17発明との対比・判断

(ア)対比

a 本件発明1と甲17発明とを対比すると、甲17発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、「可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出する」ものであり、甲17発明では、「電気化学的に可逆的なレドックス反応を駆動するために、正極電解液は正極に輸送され、負極電解液は負極に輸送され」るから、甲17発明の「正極電解液」及び「負極電解液」は、本件発明1の「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液」に相当する。
また、甲17発明の「正極電解液タンク」及び「負極電解液タンク」は、本件発明1の「2つの電解液」の「各々の貯蔵タンク」に相当する。

b 甲17発明の「第1の流れ場」及び「第2の流れ場」は、「底面と、2つの側壁と、」「第1及び第2の液体多孔質電極に接触するリブとを備え」る「第1及び第2のチャネル」を含み、「正極電解液及び負極電解液は、上記第1及び第2のチャネル内を流れるとともに、リブを超えて隣接するチャネル間を流れる」ものであるところ、「正極電解液及び負極電解液」が「リブを超えて隣接するチャネル間を流れる」のは、隣接するチャネル間に「圧力勾配」があるためであるといえる。
したがって、甲17発明の「底面と、2つの側壁と、」「第1及び第2の液体多孔質電極に接触するリブとを備え」る「第1及び第2のチャネル」を含む「第1の流れ場」及び「第2の流れ場」は、本件発明1の「第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含む流れ場板」に相当する。
また、甲17発明の「正極電解液及び負極電解液」が「リブを超えて隣接するチャネル間を流れる」ことは、甲1発明の「電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され」ることに相当する。

c また、甲17発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、甲17発明の「第1の液体多孔質電極」及び「第2の液体多孔質電極」は、触媒活性を有していると認められ、それぞれ、「第1の流れ場」及び「第2の流れ場」に隣接して配置されていることも明らかである。

d さらに、甲17発明の「0.25?0.75mm厚の繊維状炭素部材」からなる「第1及び第2の液体多孔質電極」と、本件発明1の「150?400μmの厚さを有する」「カーボン紙」は、250?400μm(0.25?0.40mm)の範囲で厚さが一致する。

e よって、本件発明1と甲17発明との一致点及び相違点(以下「相違点17」という。)は、以下のとおりである。

(一致点)
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された厚さが250?400μmの電極と、
を備え、
前記電極は、前記電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有する、
レドックスフロー電池。

(相違点17)
本件発明1では、「電極が、」「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、60?85体積%の範囲の非圧縮孔隙率と、を画定するカーボン紙を含み、 前記カーボン紙が、1?10重量%の炭素粒子を含」むのに対して、
甲17発明では、「第1及び第2の液体多孔質電極は、」「繊維状炭素部材からな」る点。

(イ)相違点17についての判断

a 相違点17について検討すると、相違点17は、本件発明1の特定事項のうち、「カーボン紙が、1?10重量%の炭素粒子を含」む点で、相違点2と共通するから、相違点2について検討したのと同様の理由により、甲11及び甲14に記載された事項を勘案しても、甲17発明において、相違点17に係る本件発明1の特定事項のうち、「カーボン紙が、1?10重量%の炭素粒子を含」むようにすることは、当業者であっても容易に想到することができたものではない。
また、甲15には、「東レ製カーボンペーパーの物性表」が記載されているのみであって(15a)、当該「カーボンペーパー」をレドックスフロー電池の電極として用いる際に炭素粒子を含有させるのか否か、含有させる場合にその量をどの程度にするのか等については、指針となる記載は何らされていない。

b さらに、別の観点から相違点17について検討すると、相違点17に係る本件発明1の特定事項の全てが記載された甲号証は存在しない。
したがって、甲17発明において、相違点17に係る本件発明1の特定事項を採用することが容易想到であるというためには、例えば、甲17発明における「触媒活性な表面を有し、0.25?0.75mm厚の繊維状炭素部材から」なる「第1及び第2の液体多孔質電極」の材料として、「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、60?85体積%の範囲の非圧縮孔隙率」を有する「カーボン紙」を選択することが容易想到であるとした上で、これを基準にしてさらに、当該「カーボン紙が、1?10重量%の炭素粒子を含」むようにすることが容易想到であることをいう2段階の論理構成に頼らざるを得ない。
しかし、上記の2段階の論理構成による容易想到性の判断は、いわゆる「容易の容易」の場合に相当し、このような論理構成によって相違点17に係る本件発明1の特定事項を想到することは、格別な努力を要し、当業者にとって容易であるとはいえないから、採用することができない。

(ウ)以上のとおりであるから、本件発明1は、甲17、甲15、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2と甲17発明との対比・判断

(ア)対比

a 本件発明2と甲17発明とを対比すると、甲17発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、「可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出する」ものであり、甲17発明では、「電気化学的に可逆的なレドックス反応を駆動するために、正極電解液は正極に輸送され、負極電解液は負極に輸送され」るから、甲17発明の「正極電解液」及び「負極電解液」は、本件発明2の「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液」に相当する。
また、甲17発明の「正極電解液タンク」及び「負極電解液タンク」は、本件発明2の「2つの電解液」の「各々の貯蔵タンク」に相当する。

b 甲17発明の「第1の流れ場」及び「第2の流れ場」は、「底面と、2つの側壁と、」「第1及び第2の液体多孔質電極に接触するリブとを備え」る「第1及び第2のチャネル」を含み、「正極電解液及び負極電解液は、上記第1及び第2のチャネル内を流れるとともに、リブを超えて隣接するチャネル間を流れる」ものであるところ、「正極電解液及び負極電解液」が「リブを超えて隣接するチャネル間を流れる」のは、隣接するチャネル間に「圧力勾配」があるためであるといえる。
したがって、甲17発明の「底面と、2つの側壁と、」「第1及び第2の液体多孔質電極に接触するリブとを備え」る「第1及び第2のチャネル」を含む「第1の流れ場」及び「第2の流れ場」は、本件発明2の「第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含む流れ場板」に相当する。
また、甲17発明の「正極電解液及び負極電解液」が「リブを超えて隣接するチャネル間を流れる」ことは、甲1発明の「電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され」ることに相当する。

c また、甲17発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、甲17発明の「第1の液体多孔質電極」及び「第2の液体多孔質電極」は、触媒活性を有していると認められ、それぞれ、「第1の流れ場」及び「第2の流れ場」に隣接して配置されていることも明らかである。

d よって、本件発明2と甲17発明との一致点及び相違点(以下「相違点18」という。)は、以下のとおりである。

(一致点)
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極は、前記電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有する、
レドックスフロー電池。

(相違点18)
本件発明2では、「電極が、」「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、60?85体積%の範囲の非圧縮孔隙率と、を画定するカーボン紙を含み、 前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、を備えるとともに、その厚さに亘って孔隙率が均一となるように、炭素粒子が均一に分散される」のに対して、
甲17発明では、「第1及び第2の液体多孔質電極は、」「0.25?0.75mm厚の繊維状炭素部材からな」る点。

(イ)相違点18についての判断

a 相違点18について検討すると、相違点18は、「カーボン紙が」「その厚さに亘って孔隙率が均一となるように、炭素粒子が均一に分散されること」ことを含む点で、相違点4と共通するから、相違点4について検討したのと同様の理由により、甲11及び甲14に記載された事項を勘案しても、甲17発明において、相違点18に係る本件発明1の特定事項のうち、「カーボン紙が」「その厚さに亘って孔隙率が均一となるように、炭素粒子が均一に分散される」ようにすることは、当業者であっても容易に想到することができたものではない。
また、甲15には、「東レ製カーボンペーパーの物性表」が記載されているのみであって(15a)、当該「カーボンペーパー」をレドックスフロー電池の電極として用いる際に炭素粒子を含有させるのか否か、含有させる場合に孔隙率との関係から、炭素粒子の厚さ方向の分散等をどのようにするのか等については、指針となる記載は何らされていない。

b さらに、別の観点から相違点18について検討すると、相違点18に係る本件発明2の特定事項の全てが記載された甲号証は存在しない。
したがって、甲17発明において、相違点18に係る本件発明2の特定事項を採用することが容易想到であるというためには、例えば、甲17発明における「触媒活性な表面を有し、0.25?0.75mm厚の繊維状炭素部材から」なる「第1及び第2の液体多孔質電極」の材料として、「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、60?85体積%の範囲の非圧縮孔隙率と、」「カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、」を有する「カーボン紙」を選択することが容易想到であるとした上で、これを基準にしてさらに、当該「カーボン紙が」「その厚さに亘って孔隙率が均一となるように、炭素粒子が均一に分散される」ようにすることをいう2段階の論理構成に頼らざるを得ない。
しかし、上記の2段階の論理構成による容易想到性の判断は、いわゆる「容易の容易」の場合に相当し、このような論理構成によって相違点18に係る本件発明2の特定事項を想到することは、格別な努力を要し、当業者にとって容易であるとはいえないから、採用することができない。

(ウ)以上のとおりであるから、本件発明2は、甲17、甲15、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明3と甲17発明との対比・判断

(ア)対比

a 本件発明3と甲17発明とを対比すると、甲17発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、「可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出する」ものであり、甲17発明では、「電気化学的に可逆的なレドックス反応を駆動するために、正極電解液は正極に輸送され、負極電解液は負極に輸送され」るから、甲17発明の「正極電解液」及び「負極電解液」は、本件発明3の「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液」に相当する。
また、甲17発明の「正極電解液タンク」及び「負極電解液タンク」は、本件発明3の「2つの電解液」の「各々の貯蔵タンク」に相当する。

b 甲17発明の「第1の流れ場」及び「第2の流れ場」は、「底面と、2つの側壁と、」「第1及び第2の液体多孔質電極に接触するリブとを備え」る「第1及び第2のチャネル」を含み、「正極電解液及び負極電解液は、上記第1及び第2のチャネル内を流れるとともに、リブを超えて隣接するチャネル間を流れる」ものであるところ、「正極電解液及び負極電解液」が「リブを超えて隣接するチャネル間を流れる」のは、隣接するチャネル間に「圧力勾配」があるためであるといえる。
したがって、甲17発明の「底面と、2つの側壁と、」「第1及び第2の液体多孔質電極に接触するリブとを備え」る「第1及び第2のチャネル」を含む「第1の流れ場」及び「第2の流れ場」は、本件発明3の「第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含む流れ場板」に相当する。
また、甲17発明の「正極電解液及び負極電解液」が「リブを超えて隣接するチャネル間を流れる」ことは、甲1発明の「電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され」ることに相当する。

c また、甲17発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、甲17発明の「第1の液体多孔質電極」及び「第2の液体多孔質電極」は、触媒活性を有していると認められ、それぞれ、「第1の流れ場」及び「第2の流れ場」に隣接して配置されていることも明らかである。

d よって、本件発明3と甲17発明との一致点及び相違点(以下「相違点19」という。)は、以下のとおりである。

(一致点)
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極は、前記電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有する、
レドックスフロー電池。

(相違点19)
本件発明3では、「電極が、」「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、60?85体積%の範囲の非圧縮孔隙率と、を画定するカーボン紙を含み、 前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、を備えるとともに、その厚さに亘って前記流れ場板側からその反対側へと孔隙率が漸減するように、炭素粒子が分散される」のに対して、
甲17発明では、「第1及び第2の液体多孔質電極は、」「0.25?0.75mm厚の繊維状炭素部材からな」る点。

(イ)相違点19についての判断

a 相違点19について検討すると、相違点19は、「カーボン紙が」「その厚さに亘って前記流れ場板側からその反対側へと孔隙率が漸減するように、炭素粒子が分散される」ことを含む点で、相違点6と共通するから、相違点6について検討したのと同様の理由により、甲11及び甲14に記載された事項を勘案しても、甲17発明において、相違点19に係る本件発明1の特定事項のうち、「カーボン紙が」「その厚さに亘って前記流れ場板側からその反対側へと孔隙率が漸減するように、炭素粒子が分散される」ようにすることは、当業者であっても容易に想到することができたものではない。
また、甲15には、「東レ製カーボンペーパーの物性表」が記載されているのみであって(15a)、当該「カーボンペーパー」をレドックスフロー電池の電極として用いる際に炭素粒子を含有させるのか否か、含有させる場合に孔隙率との関係から、炭素粒子の厚さ方向の分散等をどのようにするのか等については、指針となる記載は何らされていない。

b さらに、別の観点から相違点19について検討すると、相違点19に係る本件発明3の特定事項の全てが記載された甲号証は存在しない。
したがって、甲17発明において、相違点19に係る本件発明3の特定事項を採用することが容易想到であるというためには、例えば、甲17発明における「触媒活性な表面を有し、0.25?0.75mm厚の繊維状炭素部材から」なる「第1及び第2の液体多孔質電極」の材料として、「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、60?85体積%の範囲の非圧縮孔隙率と、」「カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、」を有する「カーボン紙」を選択することが容易想到であるとした上で、これを基準にしてさらに、当該「カーボン紙が」「その厚さに亘って前記流れ場板側からその反対側へと孔隙率が漸減するように、炭素粒子が分散される」ことをいう2段階の論理構成に頼らざるを得ない。
しかし、上記の2段階の論理構成による容易想到性の判断は、いわゆる「容易の容易」の場合に相当し、このような論理構成によって相違点19に係る本件発明3の特定事項を想到することは、格別な努力を要し、当業者にとって容易であるとはいえないから、採用することができない。

(ウ)以上のとおりであるから、本件発明3は、甲17、甲15、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明4、5、8、9について

引用によって、本件発明4は、本件発明3の全ての特定事項を備え、本件発明5、8、9は、本件発明1の全ての特定事項を備えるから、前記「ウ」及び「ア」で本件発明3及び本件発明1について検討したのと同様の理由により、本件発明4、5、8、9は、甲17、甲15、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件発明10と甲17発明との対比・判断

(ア)対比

a 本件発明10と甲17発明とを対比すると、甲17発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、「可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出する」ものであり、甲17発明では、「電気化学的に可逆的なレドックス反応を駆動するために、正極電解液は正極に輸送され、負極電解液は負極に輸送され」るから、甲17発明の「正極電解液」及び「負極電解液」は、本件発明10の「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液」に相当する。
また、甲17発明の「正極電解液タンク」及び「負極電解液タンク」は、本件発明10の「2つの電解液」の「各々の貯蔵タンク」に相当する。

b 甲17発明の「第1の流れ場」及び「第2の流れ場」は、「底面と、2つの側壁と、」「第1及び第2の液体多孔質電極に接触するリブとを備え」る「第1及び第2のチャネル」を含み、「正極電解液及び負極電解液は、上記第1及び第2のチャネル内を流れるとともに、リブを超えて隣接するチャネル間を流れる」ものであるところ、「正極電解液及び負極電解液」が「リブを超えて隣接するチャネル間を流れる」のは、隣接するチャネル間に「圧力勾配」があるためであるといえる。
したがって、甲17発明の「底面と、2つの側壁と、」「第1及び第2の液体多孔質電極に接触するリブとを備え」る「第1及び第2のチャネル」を含む「第1の流れ場」及び「第2の流れ場」は、本件発明10の「第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間された第2の流れ場流路と、を含む流れ場板」に相当し、
甲17発明の「正極電解液及び負極電解液」が「リブを超えて隣接するチャネル間を流れる」ことは、甲1発明の「電解液を、前記第1の流れ場流路と前記第2の流れ場流路との間の圧力勾配によって、該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され」ることに相当する。

c また、甲17発明はレドックスフロー電池として機能するものであるから、甲17発明の「第1の液体多孔質電極」及び「第2の液体多孔質電極」は、触媒活性を有していると認められ、それぞれ、「第1の流れ場」及び「第2の流れ場」に隣接して配置されていることも明らかである。

d さらに、甲17発明の「0.25?0.75mm厚の繊維状炭素部材」からなる「第1及び第2の液体多孔質電極」と、本件発明10の「150?400μmの平均厚さ」を有する「カーボン紙」は、250?400μm(0.25?0.40mm)の範囲で厚さが一致する。

e よって、本件発明10と甲17発明との一致点及び相違点(以下「相違点20」という。)は、以下のとおりである。

(一致点)
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間された第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された厚さが250?400μmの電極と、
を備え、
前記電極は、前記電解液を、前記第1の流れ場流路と前記第2の流れ場流路との間の圧力勾配によって、該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有する、
レドックスフロー電池。

(相違点20)
本件発明10では、「電極が、」「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、65?85体積%の非圧縮孔隙率と、1?10重量%の炭素粒子と、を有するカーボン紙を含む」のに対して、
甲17発明では、「第1及び第2の液体多孔質電極は、」「繊維状炭素部材からな」る点。

(イ)相違点20についての判断

a 相違点20について検討すると、相違点20は、「1?10重量%の炭素粒子と、を有するカーボン紙を含む」点で、相違点8と共通するから、相違点8について検討したのと同様の理由により、甲11及び甲14に記載された事項を勘案しても、甲17発明において、相違点20に係る本件発明1の特定事項のうち、「1?10重量%の炭素粒子と、を有するカーボン紙を含む」ようにすることは、当業者であっても容易に想到することができたものではない。
また、甲15には、「東レ製カーボンペーパーの物性表」が記載されているのみであって(15a)、当該「カーボンペーパー」をレドックスフロー電池の電極として用いる際に炭素粒子を含有させるのか否か、含有させる場合にその量をどの程度にするのか等については、指針となる記載は何らされていない。

b さらに、別の観点から相違点20について検討すると、相違点20に係る本件発明10の特定事項の全てが記載された甲号証は存在しない。
したがって、甲17発明において、相違点20に係る本件発明10の特定事項を採用することが容易想到であるというためには、例えば、甲17発明における「触媒活性な表面を有し、0.25?0.75mm厚の繊維状炭素部材から」なる「第1及び第2の液体多孔質電極」の材料として、「0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、65?85体積%の非圧縮孔隙率と、」「を有するカーボン紙」を選択することが容易想到であるとした上で、これを基準にしてさらに、「1?10重量%の炭素粒子と、を有するカーボン紙を含む」ようにすることをいう2段階の論理構成に頼らざるを得ない。
しかし、上記の2段階の論理構成による容易想到性の判断は、いわゆる「容易の容易」の場合に相当し、このような論理構成によって相違点20に係る本件発明10の特定事項を想到することは、格別な努力を要し、当業者にとって容易であるとはいえないから、採用することができない。

(ウ)以上のとおりであるから、本件発明10は、甲17、甲15、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件発明11、12、13について

引用によって、本件発明11、12、13は、本件発明10の全ての特定事項を備えるから、前記「オ」で本件発明10について検討したのと同様の理由により、本件発明11、12、13は、甲17、甲15、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括

以上のとおりであるから、第4の無効理由(甲17、甲15、甲11及び甲14に基づく進歩性欠如)には、理由がない。

5 第5の無効理由(甲18、甲11及び甲14に基づく進歩性欠如)について

(1)甲18記載の発明

ア 前記第6の記載(18a?18b)によれば、甲18には以下の事項が記載されている。

(ア)高出力H_(2)/Br_(2)燃料電池は、プロトン伝導膜に新たなナノポーラスプロトン伝導膜(NP-PCM膜)を用いたもので、正極に0.3?0.9Mの臭素及び1又は5Mの臭化水素の水溶液が供給され、負極に0?2気圧の乾燥水素が供給されて動作する5cm^(2)の燃料電池であり、乾燥水素を80℃で供給することで、1.5W/cm^(2)を超える最大出力密度を達成した。エネルギー変換効率も非常に高く、水素/空気セルの2倍を上回る90%に近い値であった(18a?18c)。

(イ)高出力H_(2)/Br_(2)燃料電池のナノポーラスプロトン伝導膜(NP-PCM)は、(v/v)(体積パーセント)で、30%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)、10%の二酸化珪素、60%の空隙体積からなる(18c)。

(ウ)高出力H_(2)/Br_(2)燃料電池の正極は、テフロン化されていない東レ製ペーパー上にPt量が1.5mg/cm^(2)となるように正極インクが塗布されたものであり、負極は、Pt量が1mg/cm^(2)であるE-TEK電極であり、燃料電池のハウジングは、流れ場が刻まれた合成グラファイト製ブロックで形成される(18c)。

(エ)図2(18d)によれば、合成グラファイト製ブロックのハウジングに刻まれた流れ場が蛇行形状であることが看取できる。
また、(18c)の記載との整合性を考慮すれば、図2の「触媒化膜」(CATALYZED MEMBRANE)は、前記(イ)のナノポーラスプロトン伝導膜(NP-PCM)に対応し、その両側の「ガス拡散裏打ち層」(GAS DIFFUSION BACKINGS)は、前記(ウ)の正極及び負極に対応するものと認められる。

イ 前記アによれば、甲18には、以下の「甲18発明」が記載されているものと認められる。

(甲18発明)
負極に0?2気圧の乾燥水素が供給され、正極に0.3?0.9MのBr^(2)及び1又は5MのHBrの水溶液が供給されて動作し、
ナノポーラスプロトン伝導膜(NP-PCM膜)の一方の面に、Pt量が1.5mg/cm^(2)となるように正極インクが塗布されたテフロン化されていない東レ製ペーパーからなる正極が配置され、他方の面に、Pt量が1mg/cm^(2)であるE-TEK電極からなる負極が配置され、
さらに、その両側を蛇行形状の流れ場が刻まれた2枚の合成グラファイト製ブロックで挟み込んだ、
高出力H_(2)/Br_(2)燃料電池。

(2)対比・判断

ア 本件発明1と甲18発明との対比・判断

(ア)対比

a 本件発明1と甲18発明とを対比するにあたって、甲19を参照すると、(19a)によれば、全ての電気活性物質が液体電解質中に溶解したシステムは、レドックスフロー電池と呼ばれるのに対し、(19b)によれば、気体種と液体種を用いる再充電可能なH_(2)-Br_(2)系のような電池は、真性フロー電池と考えられる。
ここで、甲19の表1(19c)の「System」「Redox」の欄の上から5番目には「H_(2)-Br_(2)」が掲載されているところ、H_(2)-Br_(2)系の電池がレドックスフロー電池であると解することもできるが、(19b)の記載内容も踏まえれば、H_(2)-Br_(2)系の電池が直ちにレドックスフロー電池に該当すると断定することはできない。

b そうすると、本件発明1は「レドックスフロー電池」であるのに対して、甲18発明は「燃料電池」であるから、両者は「電池」である点では共通するものの、その種類は異なるものと認められる。
したがって、両者は、「電池である点」でのみ一致し、以下の「相違点21」で相違する。

(相違点21)
本件発明1は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された「レドックスフロー電池」であるのに対して、
甲18発明は、前記「(1)甲18記載の発明」「イ」に記載された「高出力H_(2)/Br_(2)燃料電池」である点。

(イ)相違点21についての判断

a 本件発明1が容易想到であるといえるためには、甲18発明において、相違点21に係る本件発明1の特定事項のうち、少なくとも、「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池」とすることが容易想到であるといえる必要がある。

b しかし、前記「(1)甲18記載の発明」「ア」「(ア)?(エ)」にあるとおり、甲18発明は、プロトン伝導膜として、新たに開発した「ナノポーラスプロトン伝導膜(NP-PCM膜)」を採用した上で、正極に0.3?0.9Mの臭素及び1又は5Mの臭化水素の水溶液を供給し、負極に0?2気圧の乾燥水素を供給して動作する燃料電池であって、このようにすることで、最大出力密度は1.5W/cm^(2)を超え、エネルギー変換効率も水素/空気セルの2倍を上回る90%に近い値が達成されるところ、上記の最大出力密度やエネルギー変換効率をさらに改善する等の観点から、敢えて、負極に供給する「0?2気圧の乾燥水素」を「レドックス対として機能する電気化学的活性種を含む電解液」に置き換えることを動機付ける記載は、示唆を含めて、いずれの甲号証にもされておらず、このことを動機付ける技術常識の存在も認められない。

(ウ)以上のとおりであるから、相違点21に係る本件発明1の他の特定事項について検討するまでもなく、本件発明1は、甲18、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2について

(ア)本件発明2は、本件発明1と同様に「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池」であることを特定事項として含む。

(イ)したがって、本件発明2は、本件発明1について検討したのと同様の理由により、甲18、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明3について

(ア)本件発明3は、本件発明1と同様に「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池」であることを特定事項として含む。

(イ)したがって、本件発明3は、本件発明1について検討したのと同様の理由により、甲18、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明4、5、8、9について

引用によって、本件発明4は、本件発明3の全ての特定事項を備え、本件発明5、8、9は、本件発明1の全ての特定事項を備えるから、前記「ウ」及び「ア」で本件発明3及び本件発明1について検討したのと同様の理由により、本件発明4、5、8、9は、甲18、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件発明10について

(ア)本件発明10は、本件発明1と同様に「レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池」であることを特定事項として含む。

(イ)したがって、本件発明10は、本件発明1について検討したのと同様の理由により、甲18、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件発明11、12、13について

引用によって、本件発明11、12、13は、本件発明10の全ての特定事項を備えるから、前記「オ」で本件発明10について検討したのと同様の理由により、本件発明11、12、13は、甲18、甲11及び甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括

以上のとおりであるから、第5の無効理由(甲18、甲11及び甲14に基づく進歩性欠如)には、理由がない。

第8 むすび

以上のとおり、本件発明1?5及び8?13に係る本件特許は、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、無効とすることができない。
そして、請求項6は本件訂正により削除されたから、本件発明6に係る本件特許に対する本件審判請求は、対象となる請求項が存在しないものとなった。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極は、前記電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、60?85体積%の範囲の非圧縮孔隙率と、を画定するカーボン紙を含み、
前記カーボン紙が、1?10重量%の炭素粒子を含み、
前記カーボン紙が、150?400μmの厚さを有する、
ことを特徴とする、レドックスフロー電池。
【請求項2】
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極は、前記電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、60?85体積%の範囲の非圧縮孔隙率と、を画定するカーボン紙を含み、
前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、を備えるとともに、その厚さに亘って孔隙率が均一となるように、炭素粒子が均一に分散されることを特徴とするレドックスフロー電池。
【請求項3】
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間されかつ前記第1の流れ場流路との間で圧力勾配を有する第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極は、前記電解液を、前記圧力勾配により該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、60?85体積%の範囲の非圧縮孔隙率と、を画定するカーボン紙を含み、
前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、を備えるとともに、その厚さに亘って前記流れ場板側からその反対側へと孔隙率が漸減するように、炭素粒子が分散されることを特徴とするレドックスフロー電池。
【請求項4】
前記カーボン紙の、前記流れ場板近傍の側の孔隙率が最大となることを特徴とする請求項3に記載のレドックスフロー電池。
【請求項5】
前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、前記カーボンファイバに堆積された前記炭素粒子と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池。
【請求項6】
(削除)
【請求項8】
前記炭素粒子が、多様な粒度分布を有することを特徴とする請求項5に記載のレドックスフロー電池。
【請求項9】
前記カーボン紙が、150?250μmの厚さを有することを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池。
【請求項10】
レドックス対として機能するようにそれぞれ電気化学的活性種を含む2つの電解液を備え、これら2つの電解液が各々の貯蔵タンクから供給されるとともに各々の貯蔵タンクへと戻り、可逆的なレドックス反応により電気エネルギーを選択的に貯蔵、放出するレドックスフロー電池であって、
第1の流れ場流路と、前記第1の流れ場流路からリブによって離間された第2の流れ場流路と、を含む流れ場板と、
前記流れ場板に隣接して配置された電極と、
を備え、
前記電極は、前記電解液を、前記第1の流れ場流路と前記第2の流れ場流路との間の圧力勾配によって、該電極内を通して前記第1および第2の流れ場流路の間の前記リブを越えて貫流させるように構成され、
前記電極が、前記電解液に対して触媒活性を有し、かつ、150?400μmの平均厚さと、0.8MPaの圧縮応力で20%未満の圧縮ひずみと、65?85体積%の非圧縮孔隙率と、1?10重量%の炭素粒子と、を有するカーボン紙を含むことを特徴とする、レドックスフロー電池。
【請求項11】
前記厚さが、150?250μmであることを特徴とする請求項10に記載のレドックスフロー電池。
【請求項12】
前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、を備えるとともに、前記厚さに亘って前記流れ場板側からその反対側へと孔隙率が漸減するように、前記炭素粒子が分散されることを特徴とする請求項10に記載のレドックスフロー電池。
【請求項13】
前記カーボン紙が、カーボンファイバと、カーボンバインダ残渣と、前記カーボンファイバに堆積された前記炭素粒子と、を含むことを特徴とする請求項10に記載のレドックスフロー電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-04-15 
結審通知日 2019-04-17 
審決日 2019-05-08 
出願番号 特願2014-548751(P2014-548751)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (H01M)
P 1 113・ 537- YAA (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小森 重樹  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 長谷山 健
▲辻▼ 弘輔
登録日 2015-11-13 
登録番号 特許第5836501号(P5836501)
発明の名称 カーボン紙を有するフロー電池  
代理人 深見 久郎  
代理人 木原 美武  
代理人 荒川 伸夫  
代理人 山田 裕文  
代理人 十河 陽介  
代理人 富岡 潔  
代理人 小林 博通  
代理人 富岡 潔  
代理人 日夏 貴史  
代理人 堀井 豊  
代理人 小林 博通  
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