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審決分類 審判 査定不服 産業上利用性 特許、登録しない。 B42D
管理番号 1353443
審判番号 不服2018-11249  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-20 
確定日 2019-07-12 
事件の表示 特願2016-222113「作文及び言語表現学習用シート」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月24日出願公開,特開2018- 79594〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る特願2016-222113号(以下,「本件出願」という。)は,平成28年11月15日の特許出願であって,平成30年3月13日付けで拒絶理由が通知され,同年5月13日に意見書が提出されたが,同月17日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,同年8月20日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書(以下,当該手続補正書による補正を「本件補正」という。)が提出された。


2 本件出願の請求項1に係る発明
本件出願の請求項1ないし4に係る発明は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定されるものと認められるところ,請求項1の記載は次のとおりである。

「作文及び言語表現の課題を表示する課題表示領域と,
前記課題表示領域の周縁に配された,作文及び言語表現する項目を表示して作文及び言語表現をガイドする複数の項目ガイド表示域と,
前記複数の項目ガイド表示域に結ばれた複数の記入域と,を備え,
前記複数の項目ガイド表示域は,
前記課題に関する前提事実を表示する前提事実ガイド表示域と,前記課題に対する結論を表示する結論ガイド表示域とを含み,
前記課題表示領域の周縁に,前記前提事実ガイド表示域から前記結論ガイド表示域に向けて,時計回り又は反時計回りに配列されている,
ことを特徴とする作文及び言語表現学習用シート。」(以下,「本件発明」という。)


3 原査定の拒絶の理由の概要
本件発明は,本件補正前の請求項4に係る発明のうち,請求項1の記載を引用する請求項3の記載を引用するものに相当するところ,当該請求項4に係る発明に対する原査定の拒絶の理由は,概略,次のとおりである。

請求項4に係る発明は,自然法則を利用した技術的思想の創作でなく,発明に該当しない点で,特許法29条1項柱書に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。


4
4 判断
(1)特許法2条1項所定の「発明」の意義について
特許法2条1項は「この法律で『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定義する。そして,同法29条1項柱書は「産業上利用できる発明をした者は,・・・(中略)・・・その発明について特許を受けることができる。」と規定する。
しかるに,請求項に記載された特許を受けようとする発明が,同法2条1項に規定する「発明」といえるか否かは,前提とする技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らし,全体として考察した結果,「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するといえるか否かによって判断すべきものと解される。そして,請求項に記載された特許を受けようとする発明が,そこに何らかの技術的思想が提示されているとしても,前記のとおり,その技術的意義に照らし,全体として考察した結果,その課題解決に当たって,専ら,人の精神活動,意志決定,抽象的な概念や人為的な取決めそれ自体に向けられ,自然法則を利用したものといえない場合には,同法2条1項に所定の「発明」に該当するとはいえないと解される。(知財高裁平成28年2月24日判決(平成27年(行ケ)第10130号),知財高裁平成27年1月22日判決(平成26年(行ケ)第10101号))
そこで,以上の観点から,本件発明の発明該当性について,以下,判断する。

(2)本件出願の明細書の記載
本件出願の明細書及び図面(以下,図面を含めて「本件明細書」という。)には,次の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,作文や会話による言語表現を学習するための作文及び言語表現学習用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
幼児及び小学生が学習するものの中で,作文及び言語表現は,他のものにはない特殊性を有する。具体的には,正解がありそれを出力するものではないということである。・・・(中略)・・・
【0004】
・・・(中略)・・・作文の課題には,『いかなる出力をすればよいか』という正解が存在しない。自己の考えを表現すればよいものであり,固定された正解に到達することを求められていない。例えば『遊園地に行ったときのことを作文する』という課題について,遊園地の乗り物に乗って楽しかった旨を作文することでも,遊園地に設けられたお化け屋敷が怖くてもう行きたくないと思った旨を作文することでもよい。
【0005】
また,作文を構成する個々の文章についても,語彙を適切に使用する必要があるが,そこにも『どの言葉を使えばよいか』という正解が存在しない。内容の充実した作文を書くためには,色,情景などの多様な要素に基づいて,自分が言いたいことを言語化し,表現する必要があるが,どの要素を使い,どの言葉を選ぶかということにも正解はない。例えば,遊園地に咲いている花について『チューリップが赤い』と言うこともできれば,『チューリップがきれい』と言うこともできる。
【0006】
このため,問題を表示して回答欄を設ける形式の算数学習用シートのような形式は,作文を学習する(作文力を上げる)教材としての作文学習用シートとして使用することはできないと考えられていた。そして,作文の学習用シートとして確立した様式は知られていなかった。言語表現についても,作文と同様であった。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は,作文や会話の際の思考を補助する作文及び言語表現学習用シートを提供することを課題とする。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0012】
作文(会話)に当たっては,何を書くか(話すか),どういう順序で書くか(話すか)ということについて決定することが,小学生(以下,これに限らず,学習者一般を意味するものとする)にとって困難である。むろん,書く(話す)内容及び順序が決定された後に文章を作成することも小学生が学ぶべきことではあるが,この点については,各々の小学生が有する能力であり,本発明の課題ではない。
【0013】
そこで,何を書くか(話すか),どういう順序で書くか(話すか)ということをガイドし,何を書くか(話すか)については小学生が自らの考えで決定する作文及び言語表現学習用シートを提供する。
【0014】
作文において,どういう順序で書くかについては,広く受け入れられている順序が存在する。課題に関する一般的な事実(大前提)を書き,自己の経験した事実(小前提)を書き,最後に自己の主張又は感想(結論)を書くものである。そこで,何を書くかについて,この順序をガイドする作文学習用シートを提供する。
【0015】
小学生は,本発明の作文及び言語表現学習用シートを使用しての作文を繰り返し練習することで,何を書くか,どういう順序で書くかに習熟し,作文及び言語表現学習用シートを使用せずに良い作文を書くことができるようになる。(また,会話を繰り返し練習することで,良い会話をすることができるようになる。)習熟のレベルに応じて,後述する項目ガイド表示域及び記入内容ガイド表示域のガイド内容を調整することができる。特に,習熟度の高い小学生に向けては,記入内容ガイド表示域を設けないこととしてもよい。
【0016】
また,言語要素をこれから学習する幼児(以下,これに限らず,学習者一般を意味するものとする)や,習熟度の低い小学生においては,作文や会話において,ある物事について,どのような言語要素や単語を使って表現するかを学ぶ必要がある。
【0017】
そこで,どの要素を使うか,どの単語を選ぶかをガイドし,幼児や小学生が自らの考えで決定する作文及び言語表現学習用シートを提供する。
【0018】
本発明の作文及び言語表現学習用シートは,
作文及び言語表現の課題を表示する課題表示領域と,
前記課題表示領域の周縁に配された,作文及び言語表現する項目を表示して作文及び言語表現をガイドする複数の項目ガイド表示域と,
前記複数の項目ガイド表示域に結ばれた複数の記入域と,
を備えることを特徴とする。
【0019】
ここで,課題表示領域及び項目ガイド表示域には,作文及び言語表現のいずれか一方,又は両方に係る課題及び項目ガイドを表示することができる。教育の目的に応じていずれかを選択すればよい。
【0020】
この特徴によれば,複数の項目ガイド表示域にそれぞれ表示された項目により,複数の項目ガイド表示域に結ばれた複数の記入域に「何を書くか」または「何を言うか」をガイドすることができる。
・・・(中略)・・・
【0023】
本発明の作文及び言語表現学習用シートは,
前記項目ガイド表示域は,前記課題に関する前提事実を表示する前提事実ガイド表示域と,前記課題に対する結論を表示する結論ガイド表示域とを含むことを特徴とする。
【0024】
この特徴によれば,前提事実ガイド表示域に表示された課題に関する前提事実により,大前提に関することを記入するようにガイドすることができ,結論ガイド表示域により思ったこと又は考えたことなどの結論に関することを記入するようにガイドすることができ,すなわち作文の最初の部分と最後の部分の記入をガイドすることができる。これにより,小学生は,大前提から結論への流れを理解しやすくなる。
【0025】
本発明の作文及び言語表現学習用シートは,
前記複数の項目ガイド表示域は,前記課題表示領域の周縁に,前記前提事実ガイド表示域から前記結論ガイド表示域に向けて,時計回り又は反時計回りに配列されていることを特徴とする。
【0026】
この特徴によれば,複数の項目ガイド表示域の配列により,『どういう順序で書くか』についてガイドすることができる。」

ウ 「【発明の効果】
【0031】
本発明の作文及び言語表現学習用シートによれば,作文や会話の際の思考を補助することができ,幼児及び小学生の作文及び言語表現能力を向上させることができる。」

エ 「【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は,作文及び言語表現学習用シートを示す図である。
【図2】図2は,作文学習のために,教師により,図1の作文及び言語表現学習用シートの項目ガイド表示域に作文の項目及び記入内容ガイド表示域に作文の小項目が記入された状態を示す。
【図3】図3は,小学生により,図2の作文及び言語表現学習用シートの記入域に内容が記入された状態を示す。
【図4】図4は,言語表現学習のために,教師により,図1の作文及び言語表現学習用シートの項目ガイド表示域に言語表現の項目及び記入内容ガイド表示域に言語表現の小項目が記入された状態を示す。
【図5】図5は,小学生により,図4の作文及び言語表現学習用シートの記入域に内容が記入された状態を示す。」

オ 「【発明を実施するための形態】
【0033】
以下,本発明の作文及び言語表現学習用シートの構成,並びに,作文学習及び言語表現学習における活用について説明する。
【0034】
(作文及び言語表現学習用シートの構成)
図1に,作文及び言語表現学習用シート10を示す。作文及び言語表現学習用シート10は,任意の紙材からなるシート9の表面に図柄を印刷することで構成され,その図柄により,課題表示領域1,複数の項目ガイド表示域2,複数の記入内容ガイド表示域3,及び複数の記入域4を備える。・・・(中略)・・・
【0035】
課題表示領域1は,作文及び言語表現の課題を表示する領域であり,一例として円形状の領域としてシート9の中央に描かれている。なお,課題表示領域1の形状は円形に限らず,楕円,矩形等,任意の形状としてよい。作文及び言語表現の課題は,例えば教師(これに限らず,小学生に作文及び言語表現を教える者を意味するものとする)により記入することができる。・・・(中略)・・・
【0036】
複数の項目ガイド表示域2は,作文及び言語表現する項目を表示する領域であり,一例として円形状の領域として課題表示領域1の周縁に一部を重ねて描かれている。本実施形態では,項目ガイド表示域2の数は一例として4とするが,2以上の任意の数としてよい。また,項目ガイド表示域2の形状は円形に限らず,楕円,矩形等,任意の形状としてよい。作文及び言語表現する項目は,作文及び言語表現をガイドする役割を担うものであり,教師により或いは小学生自らにより記入することができる。
【0037】
複数の項目ガイド表示域2は,少なくとも前提事実ガイド表示域2a及び結論ガイド表示域2bを含む。
【0038】
前提事実ガイド表示域2aは,課題に関する前提事実を表示する領域であり,課題表示領域1の右上に配置されている。
【0039】
結論ガイド表示域2bは,課題に対する結論を表示する領域であり,課題表示領域1の左上に配置されている。
【0040】
その他の項目ガイド表示域2は,課題表示領域の周縁に,前提事実ガイド表示域2aから結論ガイド表示域2bに向けて,書くべき順番に従って,時計回りに配列されている。複数の項目ガイド表示域2の配列により,小学生を,『どういう順序で書くか(又は表現するか)』についてガイドすることができる。なお,項目ガイド表示域2の位置は,前提事実ガイド表示域2aから結論ガイド表示域2bに向けて反時計回りであってもよい。
【0041】
以上により,前提事実ガイド表示域に表示された課題に関する前提事実により,小学生を,課題に関する一般的事実(大前提)に関することを記入するようにガイドすることができ,結論ガイド表示域により,小学生を,思ったこと又は考えたことなど(結論)に関することを記入するようにガイドすることができる。すなわち作文及び言語表現の最初の部分と最後の部分の記入をガイドすることができる。
【0042】
また,その他の項目ガイド表示域2により,大前提から結論に向けての作文(説明)の流れをガイドすることができる。すなわち,小学生を,『どういうことをどういう順序で書くか』についてガイドすることができる。
【0043】
以上の全体として,作文及び言語表現において書くべきこと(又は表現すべきこと)及びその流れを,わかりやすくガイドすることができる。
【0044】
複数の記入内容ガイド表示域3は,作文及び言語表現の小項目を表示する領域であり,複数の項目ガイド表示域2の外側に,特に複数の項目ガイド表示域2と複数の記入域4を結ぶ曲線の周囲に配置されている。記入内容ガイド表示域3及び記入域4の数,配置,形状等は任意である。ただし,記入内容ガイド表示域3と記入域4とを1対1または1対多に対応させ,記入内容ガイド表示域3によって記入域4に記入すべきことをガイドすることが好ましい。
【0045】
特に『何を書くか(又は何を表現するか)』を思い至れない小学生に,複数の項目ガイド表示域2に表示された項目に対応して後述する複数の記入域4に記入する内容をガイドする役割を,記入内容ガイド表示域3が担う。
【0046】
複数の記入域4は,作文及び言語表現の内容を記載する領域であり,複数の項目ガイド表示域2のいずれかに結ばれて,課題表示領域1から見て複数の項目ガイド表示域2の外周側,すなわち複数の記入内容ガイド表示域3の外側に時計回りに配列されている。小学生は,複数の項目ガイド表示域2にそれぞれ表示された項目及び複数の記入内容ガイド表示域3にそれぞれ表示された小項目によりガイドされて,複数の記入域に『何を作文(又は言語表現)するか』を記入することができる。」

カ 「【0049】
(作文学習における活用)
作文及び言語表現学習用シート10の作文学習における使用方法について図2及び図3を用いて説明する。
【0050】
まず,教師により又は小学生本人により,作文の課題を決定する。ここでは,教師が『いきものをかったこと』を作文の課題として決定したものとする。
【0051】
次に,教師により,項目ガイド表示域2に作文する項目を記入する。教師は,図2に示すように,前提事実ガイド表示域2aに課題に関する前提事実『かったいきもの』,結論ガイド表示域2bに課題に対する結論『おもったこと』,その他の項目ガイド表示域2に前提事実及び結論を結ぶ項目『かっているきもち』及び『いきもののようす』を記入する。なお,小学生が作文に習熟している場合には本人により項目を決定し,項目ガイド表示域2に記入してもよい。
【0052】
小学生の作文力に依存し,項目ガイド表示域2の表示のみを見て,記入域4に記入することができる場合もある。以下,小学生の作文力が必ずしも高くなく,教師が記入内容ガイド表示域3を使用してさらにガイドする場合を示す。
【0053】
教師により,記入内容ガイド表示域3に作文の小項目を記入する。教師は,小項目を,項目ガイド表示域2のそれぞれに表示された項目に対応して記入域4に記入する内容をガイドするように決定し,記入内容ガイド表示域3に記入する。例えば,図2に示すように,前提事実ガイド表示域2aに表示された前提事実『いきものをかったこと』に対応して小項目『しゅるい』,『いつから』,『はじまり』,及び『なまえ』を記入し,項目ガイド表示域2『かっているきもち』に対応して小項目『よかったこと』及び『たいへんだったこと』を記入し,項目ガイド表示域2『いきもののようす』に対応して小項目『ふだん』,『えさをあげると』を記入し,また結論ガイド表示域2b『おもったこと』に対して『りゆう』及び『わたしは・・・おもいました』を選択し,それぞれ記入内容ガイド表示域3に記入する。なお,小学生が作文に習熟している場合には本人により小項目を決定し,記入内容ガイド表示域3に記入してもよい。
【0054】
次に,小学生により,記入域4に作文の内容を記入する。小学生は,項目ガイド表示域2にそれぞれ表示された項目及び記入内容ガイド表示域3にそれぞれ表示された小項目を参照して,記入域4に『何を書くか』を記入する。例えば,図3に示すように,前提事実ガイド表示域2aの前提事実『いきものをかったこと』及び記入内容ガイド表示域3の小項目『しゅるい』に対して『かぶとむし』,小項目『いつ』に対して『5がつ』,その他各々の小項目に対して,思いつくことをそれぞれ記入域4に記入する。
・・・(中略)・・・
【0057】
最後に,小学生により,作文学習用シート10の記入域4に記入した内容を参照して作文する。例えば,小学生は,以下の作文を,容易に書くことができる。『わたしは,かぶとむしをかっています。5がつに,ようちゅうをがっこうでもらってかいはじめました。『かぶとくん』というなまえをつけました。かぶとくんはげんきにそだって,かぶとむしになりました。よかったです。きゅうりはたべるけどなすはたべないのでえさをえらぶのがたいへんでした。かぶとくんは,ふだんはかごのなかでおとなしくしています。えさをあげると,よくうごいていっぱいたべます。わたしは,かぶとくんがこれからもげんきでそだってほしいとおもいました。かぶとくんがそだつとわたしもうれしくなるからです。』」

キ 「【0058】
(言語表現学習における活用)
作文学習ではなく言語表現学習における使用方法について図4及び図5を用いて説明する。
【0059】
まず,教師により又は幼児・小学生本人により,言語表現の課題を決定する。ここでは,教師が『かぶとむし』を言語表現の課題として決定したものとする。
【0060】
次に,教師により,項目ガイド表示域2に言語表現する項目を記入する。教師は,図2に示すように,課題表示領域1に課題に関する前提事実『かぶとむし』,項目ガイド表示域2に言語表現する項目『いろ・かたち』『なかま』『うごき・たべもの』及び『いるところ・とき』を記入する。
【0061】
幼児・小学生の言語表現力に依存し,項目ガイド表示域2の表示のみを見て,記入域4に記入することができる場合もある。以下,幼児・小学生の言語表現力が必ずしも高くなく,教師が記入内容ガイド表示域3を使用してさらにガイドする場合を示す。
【0062】
教師により,記入内容ガイド表示域3に言語表現の小項目を記入する。教師は,小項目を,項目ガイド表示域2のそれぞれに表示された項目に対応して記入域4に記入する内容をガイドするように決定し,記入内容ガイド表示域3に記入する。・・・(中略)・・・
【0063】
次に,幼児・小学生により,記入域4に言語表現の内容を記入する。幼児・小学生は,項目ガイド表示域2にそれぞれ表示された項目及び記入内容ガイド表示域3にそれぞれ表示された小項目を参照して,記入域4に『何と表現するか』を記入する。」

ク 「【0065】
以上詳細に説明したように,作文及び言語表現学習用シート10は,作文及び言語表現の課題を表示する課題表示領域1,課題表示領域1の周縁に配された,作文及び言語表現する項目を表示して作文及び言語表現をガイドする複数の項目ガイド表示域2,複数の項目ガイド表示域2に表示された項目に対応して,複数の記入域4に記入する内容をガイドする小項目を表示する複数の記入内容ガイド表示域3,及び複数の項目ガイド表示域2に結ばれた複数の記入域4を備える。複数の項目ガイド表示域2にそれぞれ表示された項目及び複数の記入内容ガイド表示域3にそれぞれ表示された小項目により,作文に『何を書くか』を思い至れない小学生及び,これから言語要素を学ぶ幼児や小学生に,複数の項目ガイド表示域に結ばれた複数の記入域に『何を書くか』『何と表現するか』をガイドすることができ,ガイドされて記入した記入域4の内容を参照して作文をすることができる。その結果,小学生は大きな苦労をせずに作文を書くことができる。これを繰り返すことで作文力が向上する。幼児・小学生は,言語表現の要素を学び,言葉として表現することを繰り返すことで,言語表現力が向上する。」

ケ 「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】



(3)本件発明の技術的意義について
ア 前記(2)で摘記した本件明細書の記載によれば,幼児及び小学生(以下,「学習者」という。)が学習するものの中で,作文及び言語表現は,正解がありそれを出力するものではないという点で,他のものにはない特殊性を有するものであり,そのため,問題を表示して回答欄を設ける算数学習用シートのような形式のものは,作文や言語表現を学習する教材として使用することはできないことが,本件発明が「前提とする技術的課題」であると認められる(【0002】,【0006】)。
そして,本件発明は,前記「前提とする技術的課題」を解決し,作文や会話の際の思考を補助する作文及び言語表現学習用シートとするために(【0011】),「作文及び言語表現の課題を表示する課題表示領域と,前記課題表示領域の周縁に配された,作文及び言語表現する項目を表示して作文及び言語表現をガイドする複数の項目ガイド表示域と,前記複数の項目ガイド表示域に結ばれた複数の記入域と,を備え,前記複数の項目ガイド表示域は,前記課題に関する前提事実を表示する前提事実ガイド表示域と,前記課題に対する結論を表示する結論ガイド表示域とを含み,前記課題表示領域の周縁に,前記前提事実ガイド表示域から前記結論ガイド表示域に向けて,時計回り又は反時計回りに配列されている」という構成を「課題を解決するための技術的手段の構成」として採用した(請求項1)。
そして,本件発明は,前記「課題を解決するための技術的手段の構成」中の複数の項目ガイド表示域に表示された項目が,学習者に対して,各項目ガイド表示域に結ばれた複数の記入域に「何を書くか」又は「何を言うか」をガイドし(【0018】,【0020】),前記「課題を解決するための技術的手段の構成」中の前提事実ガイド表示域に表示された前提事実が,学習者に対して,大前提に関することを記入するようにガイドし,前記「課題を解決するための技術的手段の構成」中の結論ガイド表示域に表示された結論が,学習者に対して,思ったこと又は考えたことなどの結論に関することを記入するようにガイドし,すなわち作文の最初の部分と最後の部分の記入をガイドし(【0023】,【0024】),前記「課題を解決するための技術的手段の構成」中の前提事実ガイド表示域から結論ガイド表示域に向けて時計回り又は反時計回りに配列されているという複数の項目ガイド表示域の配列が,学習者に対して「どういう順序」で書く又は話すかについてガイドするので(【0025】,【0026】),学習者の作文及び言語表現能力を向上させることができるという「技術的手段の構成から導かれる効果」を奏するものと認められる(【0031】)。

イ そうすると,本件発明の技術的意義は,「作文及び言語学習用シート」という媒体に設けられた「前提ガイド表示域」,「結論ガイド表示域」及びそれら以外の「項目ガイド表示域」にそれぞれ表示される,文字として認識される「前提事実」,「結論」及びそれら以外の「作文及び言語表現する項目」と,複数の項目ガイド表示域の配列として認識される「順序」とを学習者である人に対して提示し,各「作文及び言語表現する項目」に結ばれた各「記入欄」に,対応する内容を記入させることによって,当該人が,作文又は言語表現をするにあたって書く内容又は話す内容とそれらの順序とを学習するという,専ら精神活動そのものに向けられたものであるということができる。

(4)本件発明の発明該当性について
前記(3)のとおり,本願発明が前提とする技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等に基づいて検討した本件発明の技術的意義に照らすと,本件発明は,その本質が専ら人の精神活動そのものに向けられているものであり,自然法則,あるいは,これを利用するものとはいえないから,全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」には該当しないというべきである。
以上によれば,本件発明は,特許法2条1項に規定する「発明」に該当しない。

(5)請求人の主張について
審判請求書において,請求人は,「本願発明の特徴は,項目ガイド表示域が前提事実ガイド表示域から結論ガイド表示域に向けて『時計回り又は反時計回りに配列される』ことによって,学習者が思考すべき流れに沿って項目ガイド表示域が並べられ,見やすくなるとともに,項目ガイド表示域に結ばれた記入域への記入が容易になるという点で,自然法則を利用した効果を伴うので,特許法第29条第1項柱書で言う発明に該当する(平成14年(ワ)第5502号判決 第4 1(2)イ第3段落参照)。」などと主張する。
しかしながら,仮に,本件発明が,前提事実ガイド表示域から結論ガイド表示域に向けて時計回り又は反時計回りに配列されているという複数の項目ガイド表示域の配列によって,見やすくなるとともに記入域への記入が容易になるという点で,自然法則を利用した効果を伴うものといえるとしても,前記(4)で述べたとおり,本件発明は,その本質が専ら人の精神活動そのものに向けられているものであり,自然法則,あるいは,これを利用するものとはいえないのであるから,全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」には該当しない。
したがって,請求人の主張は採用できない。

(6)まとめ
以上のとおりであるから,本件発明は,特許法2条1項に規定する「発明」に該当しないから,同法29条1項柱書に規定する要件を満たしていない。


5 むすび
本件発明は,特許法29条1項柱書に規定する要件を満たしていないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-05-17 
結審通知日 2019-05-20 
審決日 2019-05-31 
出願番号 特願2016-222113(P2016-222113)
審決分類 P 1 8・ 14- Z (B42D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 英一  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 藤本 義仁
清水 康司
発明の名称 作文及び言語表現学習用シート  
代理人 金子 宏  

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