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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06K
管理番号 1353718
審判番号 不服2018-5429  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-19 
確定日 2019-07-17 
事件の表示 特願2015-148741「生体認証有するマルチプルアプリケーションチップカード」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月 3日出願公開、特開2015-215918〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2010年12月16日に国際出願された特願2012-545379号(パリ条約による優先権主張2009年12月22日,フランス)の一部を平成27年7月28日に新たな特許出願としたものであって,同日付けで手続補正書が提出され,平成28年6月28日付けで拒絶の理由が通知され,平成29年1月4日に意見書とともに誤訳訂正書が提出されたものの,平成29年8月24日付け手続却下の処分により却下され,同年8月29日付けで拒絶の理由が通知され,同年9月8日に意見書とともに手続補正書が提出されたものの,同年12月8日付けで拒絶査定(謄本送達日同年12月19日。以下,「原査定」という。)がなされ,これに対して平成30年4月19日に審判請求がなされたものである。なお,審判請求時には手続補正書は提出されていない。


第2 本願発明について

本願請求項1乃至9に係る発明は,平成29年9月8日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載された事項により特定される発明であり,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
複数のアプリケーション回路であって、各アプリケーション回路は、デバイス内に安全に含まれる少なくとも1つのアプリケーションサービスと関連しており、そして、各アプリケーション回路が、少なくとも1つの環境検出器を含み、そして前記デバイスの外部環境から受領した外部信号によって励起することができ、更に前記デバイスの外部環境の任意の物理現象に対して選択的に感知するものとする、複数の前記アプリケーション回路と;
前記の励起されたアプリケーション回路と、この励起されたアプリケーション回路に関連する前記アプリケーションサービスとを同定することが可能であり、そして、アクティブ化オーソリゼーションに応えて前記アプリケーションサービスをアクティブ化することが可能である、制御ユニットと;
前記アクティブ化オーソリゼーションを生じさせるためにユーザーを認証するバイオメトリック回路と;
フレキシブルであるか又はフレキシブルでない、そして、再充電可能であるか又は再充電可能でない動力用電池と;
を含み、
前記デバイスが、フレキシブルであるか又はフレキシブルでない、そして、再充電可能であるか又は再充電可能でない電池によって動力を供給され、そして
前記デバイス内の前記制御ユニット及び前記バイオメトリック回路に結合される前記複数のアプリケーション回路の少なくとも1つが、前記任意の物理現象に基づく前記外部信号を検出する、保護通信デバイス。」


第3 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1乃至9に係る発明は,本願の原出願の第1国出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1乃至3に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1.特開2009-31877号公報
引用文献2.特開2006-12026号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3.特開2005-293485号公報(周知技術を示す文献)


第4 引用例

1 引用例1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の原出願(特願2012-545379号)の第一国出願前に既に公知である,特開2009-31877号公報(平成21年2月12日公開。以下,これを「引用例1」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。(下線は,当審で説明のために付加。以下同様。)

A 「【0002】
近年、磁気カードについてはスキミングや偽造キャッシュカード等の不正引出しが問題になる一方で、非接触ICカードおよびその機能を取込んだ携帯端末装置は、ICチップへの不正データの書き込みや内部データの読み出し改ざん等のリスクが暗号機能などのセキュリティ機能により極めて少なく、その普及が加速している。
【0003】
電子マネー「Edy(エディ)」やJRが発行する「Suica(スイカ)」、「ICOCA(イコカ)」などの非接触認証(RFID:Radio Frequency IDentification)技術を利用した各種非接触ICカード、あるいは携帯電話会社がサービスする「おサイフケータイ」などの電子マネー機能を有する携帯端末装置等がそれである(ここで、Edy,Suica,ICOCA,おサイフケータイ,は登録商標である)。
【0004】
これらICカード或いは携帯端末装置は、安全性を高めるための高度な暗号技術を扱えるICチップを搭載して、カード用リーダ/ライタとの間で相互の認証やデータの読出し書き込みを行なっている。例えば、「FeliC a(登録商標)」(某先行メーカの開発技術)などでは、非接触カードとカード用リーダ/ライタ間の通信の傍受を防ぐため共通鍵暗号方式を採用しており、一定程度、安全である。更にセキュリティレベルを上げるため公開鍵暗号方式を使用する方式もある。
【0005】
そのため、ICチップに保存された秘密鍵が解読される危険性も零ではないが、磁気カードに比べて内部データが改ざんされたりするリスクは極めて少なく、カードのコピーやクローンを作り出すことも極めて困難である。
【0006】
しかし、これらが盗難や紛失により所有者以外の他人の手に渡ってしまった場合には、これらカード等には正当な所有者か否かを確認する本人認証機能が無いため、他人でも容易に本人に成りすまして使用できるという危険性がある。」

B 「【0009】
これまで進められてきた1枚のカードで複数のアプリケーションないしサービスを扱えるマルチアプリケーション対応の技術開発は、無線周波数などのRFインタフェース形式は一つのものであった。非接触型ICカードといっても、通信距離(無線周波数に依存する)の違いにより密着型(低周波),近接型(短波),近傍型(中波),又は遠隔型(マイクロ波)といった異なったタイプの方式が存在し、サービス毎に使い分けが行なわれている。これら無線周波数などのRFインタフェース形式が異なるサービスをも、1枚のカードに統合できれば利便性は向上する。」

C 「【0011】
上述したように、これまでの非接触ICカードやその機能を取込んだ携帯端末装置は、例えば盗難や紛失などにより他人の手に渡ってしまった場合に簡単に本人に成りすまして使用できるというセキュリティ上の問題を抱えていた。また、サービスが多様化するにつれ、RFインタフェース形式の違い等から複数のICカードや携帯端末装置を携帯しなければならない不便さも目立ってきた。
【0012】
〔発明の目的〕
本発明は、上記問題点に鑑み、RFインタフェース形式の異なるサービスにも高いセキュリティ機能の下に使用できるようにし、これによって利便性の向上を図った非接触ICカード、携帯端末装置、起動制御方法、および起動制御プログラムを提供することを、その目的とする。」

D 「【0019】
まず、図1において、符号100は非接触ICカードを示し、符号10,11は前述した非接触ICカード100の使用時に当該非接触ICカード100に対応して配置されるカード用リーダ/ライタを示す。非接触ICカード100は、カード用リーダ/ライタ10,11により形成される電磁界を介して非接触で電力供給を取り込む機能を有し、更に当該カード用リーダ/ライタ10,11との間で相互に通信を行う機能を備えている。
【0020】
この非接触ICカード100は、上述した電磁界の無線周波数等の異なるRFインタフェース形式が複数種類ある場合、その何れかのRFインタフェース形式を備えた前記カード用リーダ/ライタ10,11に接近したとき正常に動作するための複数のアンテナ構造体21と、このアンテナ構造体21からの電力供給により作動して生体認証による本人確認を行なう生体認証判定部23と、前述したアンテナ構造体21からの電力供給を受けかつ前記生体認証判定部23が本人認証した場合のみ各機能部への電力を供給制御する電力供給制御部としてのパワー制御部22Aとを備えている。
【0021】
ここで、前述したアンテナ構造体21は本実施形態では複数の巻き線から成る巻線構造によって形成されている。そして、この巻き線構造の前記アンテナ構造体21には、前述した巻き線構造を必要に応じて切り替える切替え制御部(巻線切替制御部)22Bが併設されている。即ち、前述したアンテナ構造体21がマルチRFインタフェース形式に対応する複数のアンテナ特性を形成するように、前述した切替え制御部22Bが前記アンテナ構造体21の前述した巻き線構造の接続制御および切断(遮断)制御を実行する制御機能を備えた構成となっている。符号22は主制御部を示す。この主制御部22は、本第1実施形態では前述したパワー制御部22Aと切替え制御部(巻線切替制御部)22Bとを主たる構成要素として構成されている。」

E 「【0023】
本ICカード100は、RFインタフェース形式の違うカード用リーダ/ライタ10,11の通信距離内にあるとどちらとも通信できるように構成されている。ここで、図1には、同時に両方のカード用リーダ/ライタ10,11と通信しているように表示しているが、カード用リーダ/ライタ10,11に対してはサービスに依存しており、その設置状況も多様であり、必要に応じて又は外部からの指令によりどちらか一方のカード用リーダ/ライタ10又は11に対して通信を許容するように構成してもよい。
【0024】
本ICカード100は、前述したように、カード用リーダ/ライタ10,11から供給される電磁波を受けるアンテナ構造体21(具体的には複数のアンテナ21A,21B)と、このアンテナ21A,21Bからの交流電流を整流して電力を得かつ供給制御を行なう電力供給制御部として機能するパワー制御部22と、パワー制御部22から一次電源を得て本人認証を行なう生体認証判定部23とを備えている。この生体認証判定部23での本人認証で本人が確認されると、生体認証判定部23は直ちに機能してパワー制御部22に必要な各構成ユニットへの電源供給を許可し、その後、所定の認証手順に準拠してICカードの認証手続きが開始される。
ここで、前記アンテナ21Aは巻数Aのアンテナコイルにより構成され、前記アンテナ21Bは巻数Bのアンテナコイルにより構成されている(図1参照)。」

F 「【0028】
CPU24は、本人認証が完了し電力供給がなされて各構成機能部が動作を始めると、先ず、カード用リーダ/ライタ10からのICカード100に対する起動要求信号を対応するインタフェース28Aを経由して受信し、メモリ部26と協働して情報処理を行ない、応答を再びインタフェース28A経由でカード用リーダ/ライタ10側へ通知する。非接触ICカード100とカード用リーダ/ライタ10間の制御手順は、標準化された暗号化認証処理手順によって行う。ここで、カード用リーダ/ライタ10,11に対応してインタフェース28A,28Bが装備され、このインタフェース28Aとインタフェース28Bとにより、インタフェース28が構成されている。」

G 「【0036】
本ICカード100を起動状態に設定し(ステップS101)、当該本ICカード100をカード用リーダ/ライタ10,11に近づけると、本ICカード100はカード用リーダ/ライタ10,11から電磁波を検出する(ステップS102)。パワー制御部22はアンテナ21からの交流電流を整流し直流電力を得た後(ステップS103)、本人認証動作に入る(認証動作工程)。」

H 「【0039】
生体情報が入力された場合は、予め登録されている本人の生体情報データとの認証判定を行い(ステップS108)、その認証結果が異なる場合も初期状態へ移行する。以上が「本人認証工程」である。
【0040】
次に、生体認証結果から本人確認が出来た場合(S111)は、生体認証判定部23からパワー制御部22に対して給電許可(ステップS113)が行われ、給電許可信号が送出される(給電許可信号送出工程)。
そして、この給電許可信号に基づいてパワー制御部22においては、CPU24、暗号プロセッサ25,メモリ部26,インタフェース28A,28B等の各ユニットへの通電を行い(電力供給工程)、本ICカード100とカード用リーダ/ライタ10,11間の通常の暗号による相互認証処理を行なわれる(ステップS114)。本人確認が出来ない場合(ステップS110)には、初期状態へ移行する。」

2 引用発明

ア 上記記載事項Aの,「近年、磁気カードについてはスキミングや偽造キャッシュカード等の不正引出しが問題になる一方で、非接触ICカードおよびその機能を取込んだ携帯端末装置は、ICチップへの不正データの書き込みや内部データの読み出し改ざん等のリスクが暗号機能などのセキュリティ機能により極めて少なく、その普及が加速している。」との記載,「電子マネー「Edy(エディ)」やJRが発行する「Suica(スイカ)」、「ICOCA(イコカ)」などの非接触認証(RFID:Radio Frequency IDentification)技術を利用した各種非接触ICカード、あるいは携帯電話会社がサービスする「おサイフケータイ」などの電子マネー機能を有する携帯端末装置等がそれである(ここで、Edy,Suica,ICOCA,おサイフケータイ,は登録商標である)。」との記載,「これらICカード或いは携帯端末装置は、安全性を高めるための高度な暗号技術を扱えるICチップを搭載して、カード用リーダ/ライタとの間で相互の認証やデータの読出し書き込みを行なっている。」との記載,「ICチップに保存された秘密鍵が解読される危険性も零ではないが、磁気カードに比べて内部データが改ざんされたりするリスクは極めて少なく、カードのコピーやクローンを作り出すことも極めて困難である。」との記載,及び「しかし、これらが盗難や紛失により所有者以外の他人の手に渡ってしまった場合には、これらカード等には正当な所有者か否かを確認する本人認証機能が無いため、他人でも容易に本人に成りすまして使用できるという危険性がある。」との記載から,引用例1には,“非接触ICカードは,ICチップへの不正データの書き込みや内部データの読み出し改ざん等のリスクが暗号機能などのセキュリティ機能により極めて少なく,電子マネー「Edy(エディ)」やJRが発行する「Suica(スイカ)」,「ICOCA(イコカ)」などの非接触認証(RFID:Radio Frequency IDentification)技術を利用した各種非接触ICカードのサービスがあり,これらICカードは,安全性を高めるための高度な暗号技術を扱えるICチップを搭載して,カード用リーダ/ライタとの間で相互の認証やデータの読出し書き込みを行なっていて,磁気カードに比べて内部データが改ざんされたりするリスクは極めて少なく,カードのコピーやクローンを作り出すことも極めて困難であるが,これらが盗難や紛失により所有者以外の他人の手に渡ってしまった場合には,これらカード等には正当な所有者か否かを確認する本人認証機能が無いため,他人でも容易に本人に成りすまして使用できるという危険性があ”ることを背景とすることが記載されているといえる。

イ 上記記載事項Bの,「これまで進められてきた1枚のカードで複数のアプリケーションないしサービスを扱えるマルチアプリケーション対応の技術開発は、無線周波数などのRFインタフェース形式は一つのものであった。非接触型ICカードといっても、通信距離(無線周波数に依存する)の違いにより密着型(低周波),近接型(短波),近傍型(中波),又は遠隔型(マイクロ波)といった異なったタイプの方式が存在し、サービス毎に使い分けが行なわれている。これら無線周波数などのRFインタフェース形式が異なるサービスをも、1枚のカードに統合できれば利便性は向上する。」との記載から,引用例1には,“従来,非接触型ICカードは,無線周波数に依存する通信距離の違いにより密着型(低周波),近接型(短波),近傍型(中波),又は遠隔型(マイクロ波)といった異なったタイプの方式が存在し,サービス毎に使い分けが行なわれていて,これら無線周波数などのRFインタフェース形式が異なるサービスを,1枚のカードに統合できれば利便性は向上するものであること”も背景とすることが記載されているといえる。

ウ 上記記載事項Cの,「上述したように、これまでの非接触ICカードやその機能を取込んだ携帯端末装置は、例えば盗難や紛失などにより他人の手に渡ってしまった場合に簡単に本人に成りすまして使用できるというセキュリティ上の問題を抱えていた。また、サービスが多様化するにつれ、RFインタフェース形式の違い等から複数のICカードや携帯端末装置を携帯しなければならない不便さも目立ってきた。」との記載から,引用例1には,“非接触ICカードは,盗難や紛失などにより他人の手に渡ってしまった場合に簡単に本人に成りすまして使用できるというセキュリティ上の問題を抱えており,また,サービスが多様化するにつれ,RFインタフェース形式の違い等から複数のICカードを携帯しなければならない不便さがあることが解決しようとする課題”であることが記載されているといえる。
また,同じく記載事項Cの,「本発明は、上記問題点に鑑み、RFインタフェース形式の異なるサービスにも高いセキュリティ機能の下に使用できるようにし、これによって利便性の向上を図った非接触ICカード、携帯端末装置、起動制御方法、および起動制御プログラムを提供することを、その目的とする。」との記載から,引用例1には,“RFインタフェース形式の異なるサービスにも高いセキュリティ機能の下に使用できるようにして利便性の向上を図ることのできる非接触ICカード”について記載されているといえる。

エ 上記記載事項Dの,「非接触ICカード100は、カード用リーダ/ライタ10,11により形成される電磁界を介して非接触で電力供給を取り込む機能を有し、更に当該カード用リーダ/ライタ10,11との間で相互に通信を行う機能を備えている。」との記載,及び「この非接触ICカード100は、上述した電磁界の無線周波数等の異なるRFインタフェース形式が複数種類ある場合、その何れかのRFインタフェース形式を備えた前記カード用リーダ/ライタ10,11に接近したとき正常に動作するための複数のアンテナ構造体21と、このアンテナ構造体21からの電力供給により作動して生体認証による本人確認を行なう生体認証判定部23と、前述したアンテナ構造体21からの電力供給を受けかつ前記生体認証判定部23が本人認証した場合のみ各機能部への電力を供給制御する電力供給制御部としてのパワー制御部22Aとを備えている。」との記載から,引用例1には,“非接触ICカード100は,カード用リーダ/ライタ10,11により形成される電磁界を介して非接触で電力供給を取り込む機能を有し,前記電磁界の無線周波数等の異なるRFインタフェース形式が複数種類ある場合,その何れかのRFインタフェース形式を備えた前記カード用リーダ/ライタ10,11に接近したとき正常に動作するための複数のアンテナ構造体21と,このアンテナ構造体21からの電力供給により作動して生体認証による本人確認を行なう生体認証判定部23と,前記アンテナ構造体21からの電力供給を受けかつ前記生体認証判定部23が本人認証した場合のみ各機能部への電力を供給制御する電力供給制御部としてのパワー制御部22Aとを備え”ることが記載されているといえる。

オ 上記記載事項Eの,「本ICカード100は、RFインタフェース形式の違うカード用リーダ/ライタ10,11の通信距離内にあるとどちらとも通信できるように構成されている。」との記載,及び「カード用リーダ/ライタ10,11に対してはサービスに依存しており、その設置状況も多様であり、必要に応じて又は外部からの指令によりどちらか一方のカード用リーダ/ライタ10又は11に対して通信を許容するように構成してもよい。」との記載から,引用例1には,“前記非接触ICカード100は,RFインタフェース形式の違うカード用リーダ/ライタ10,11の通信距離内にあるとどちらとも通信できるように構成され,前記カード用リーダ/ライタ10,11に対してはサービスに依存し,どちらか一方の前記カード用リーダ/ライタ10又は11に対して通信を許容”することが記載されているといえる。
また,同じく記載事項Eの,「本ICカード100は、前述したように、カード用リーダ/ライタ10,11から供給される電磁波を受けるアンテナ構造体21(具体的には複数のアンテナ21A,21B)と、このアンテナ21A,21Bからの交流電流を整流して電力を得かつ供給制御を行なう電力供給制御部として機能するパワー制御部22と、パワー制御部22から一次電源を得て本人認証を行なう生体認証判定部23とを備えている。」との記載のうち,「パワー制御部22」は,上記記載事項Dの,「電力供給制御部としてのパワー制御部22A」との記載,及び「符号22は主制御部を示す。この主制御部22は、本第1実施形態では前述したパワー制御部22Aと切替え制御部(巻線切替制御部)22Bとを主たる構成要素として構成されている。」との記載からすると,「パワー制御部22A」の誤記と認められるから,引用例1には,“前記カード用リーダ/ライタ10,11から供給される電磁波を受けるアンテナ21A,21Bと,前記アンテナ21A,21Bからの交流電流を整流して電力を得かつ供給制御を行なう電力供給制御部として機能するパワー制御部22Aと,前記パワー制御部22Aから一次電源を得て本人認証を行なう生体認証判定部23とを備え”ることが記載されているといえる。

カ 上記記載事項Fの,「CPU24は、本人認証が完了し電力供給がなされて各構成機能部が動作を始めると、先ず、カード用リーダ/ライタ10からのICカード100に対する起動要求信号を対応するインタフェース28Aを経由して受信し、メモリ部26と協働して情報処理を行ない、応答を再びインタフェース28A経由でカード用リーダ/ライタ10側へ通知する。」との記載から,引用例1には,“CPU24は,本人認証が完了し電力供給がなされて各構成機能部が動作を始めると,先ず,カード用リーダ/ライタ10からのICカード100に対する起動要求信号を対応するインタフェース28Aを経由して受信し,メモリ部26と協働して情報処理を行ない,応答を再びインタフェース28A経由でカード用リーダ/ライタ10側へ通知”することが記載されているといえる。
また,同じく上記記載事項Fの,「ここで、カード用リーダ/ライタ10,11に対応してインタフェース28A,28Bが装備され、このインタフェース28Aとインタフェース28Bとにより、インタフェース28が構成されている。」との記載から,引用例1には,“カード用リーダ/ライタ10,11に対応してインタフェース28A,28Bが装備され,このインタフェース28Aとインタフェース28Bとにより,インタフェース28が構成され”ることが記載されているといえる。

キ 上記記載事項Gの,「本ICカード100を起動状態に設定し(ステップS101)、当該本ICカード100をカード用リーダ/ライタ10,11に近づけると、本ICカード100はカード用リーダ/ライタ10,11から電磁波を検出する(ステップS102)。パワー制御部22はアンテナ21からの交流電流を整流し直流電力を得た後(ステップS103)、本人認証動作に入る(認証動作工程)。」との記載及び当該記載のうち,「パワー制御部22」及び「アンテナ21」については,上記エにおける「アンテナ構造体21」に関する認定と,上記オにおける,「パワー制御部22」に関する認定を踏まえ,引用例1には,“前記非接触ICカード100を起動状態に設定し,当該非接触ICカード100を前記カード用リーダ/ライタ10,11に近づけると,前記非接触ICカード100は前記カード用リーダ/ライタ10,11から電磁波を検出し,前記パワー制御部22Aは前記アンテナ構造体21からの交流電流を整流し直流電力を得た後,本人認証動作に入”ることが記載されているといえる。

ク 上記記載事項Hの,「生体情報が入力された場合は、予め登録されている本人の生体情報データとの認証判定を行い(ステップS108)、その認証結果が異なる場合も初期状態へ移行する。以上が「本人認証工程」である。」との記載から,引用例1には,“生体情報が入力された場合は,予め登録されている本人の生体情報データとの認証判定を行”うことが記載されているといえる。
また,同じく上記記載事項Hの,「次に、生体認証結果から本人確認が出来た場合(S111)は、生体認証判定部23からパワー制御部22に対して給電許可(ステップS113)が行われ、給電許可信号が送出される(給電許可信号送出工程)。」との記載及び「そして、この給電許可信号に基づいてパワー制御部22においては、CPU24、暗号プロセッサ25,メモリ部26,インタフェース28A,28B等の各ユニットへの通電を行い(電力供給工程)、本ICカード100とカード用リーダ/ライタ10,11間の通常の暗号による相互認証処理を行なわれる(ステップS114)。」との記載のうち,「パワー制御部22」は,上記オに示したとおり,「パワー制御部22A」の誤記と認められるから,引用例1には,“生体認証結果から本人確認が出来た場合は,前記生体認証判定部23から前記パワー制御部22Aに対して給電許可信号が送出され,前記給電許可信号に基づいて前記パワー制御部22Aは,前記CPU24,暗号プロセッサ25,メモリ部26,前記インタフェース28A,28B等の各ユニットへの通電を行”うことが記載されているといえる。

ケ 以上上記ア乃至クより,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「非接触ICカードは,ICチップへの不正データの書き込みや内部データの読み出し改ざん等のリスクが暗号機能などのセキュリティ機能により極めて少なく,電子マネー「Edy(エディ)」やJRが発行する「Suica(スイカ)」,「ICOCA(イコカ)」などの非接触認証(RFID:Radio Frequency IDentification)技術を利用した各種非接触ICカードのサービスがあり,これらICカードは,安全性を高めるための高度な暗号技術を扱えるICチップを搭載して,カード用リーダ/ライタとの間で相互の認証やデータの読出し書き込みを行なっていて,磁気カードに比べて内部データが改ざんされたりするリスクは極めて少なく,カードのコピーやクローンを作り出すことも極めて困難であるが,これらが盗難や紛失により所有者以外の他人の手に渡ってしまった場合には,これらカード等には正当な所有者か否かを確認する本人認証機能が無いため,他人でも容易に本人に成りすまして使用できるという危険性があり,
従来,非接触型ICカードは,無線周波数に依存する通信距離の違いにより密着型(低周波),近接型(短波),近傍型(中波),又は遠隔型(マイクロ波)といった異なったタイプの方式が存在し,サービス毎に使い分けが行なわれていて,これら無線周波数などのRFインタフェース形式が異なるサービスを,1枚のカードに統合できれば利便性は向上するものであることを背景とし,
非接触ICカードは,盗難や紛失などにより他人の手に渡ってしまった場合に簡単に本人に成りすまして使用できるというセキュリティ上の問題を抱えており,また,サービスが多様化するにつれ,RFインタフェース形式の違い等から複数のICカードを携帯しなければならない不便さがあることが解決しようとする課題であり,
RFインタフェース形式の異なるサービスにも高いセキュリティ機能の下に使用できるようにして利便性の向上を図ることのできる非接触ICカード100であって,
前記非接触ICカード100は,カード用リーダ/ライタ10,11により形成される電磁界を介して非接触で電力供給を取り込む機能を有し,前記電磁界の無線周波数等の異なるRFインタフェース形式が複数種類ある場合,その何れかのRFインタフェース形式を備えた前記カード用リーダ/ライタ10,11に接近したとき正常に動作するための複数のアンテナ構造体21と,このアンテナ構造体21からの電力供給により作動して生体認証による本人確認を行なう生体認証判定部23と,前記アンテナ構造体21からの電力供給を受けかつ前記生体認証判定部23が本人認証した場合のみ各機能部への電力を供給制御する電力供給制御部としてのパワー制御部22Aとを備え,
前記非接触ICカード100は,RFインタフェース形式の違うカード用リーダ/ライタ10,11の通信距離内にあるとどちらとも通信できるように構成され,前記カード用リーダ/ライタ10,11に対してはサービスに依存し,どちらか一方の前記カード用リーダ/ライタ10又は11に対して通信を許容し,
前記カード用リーダ/ライタ10,11から供給される電磁波を受けるアンテナ21A,21Bと,前記アンテナ21A,21Bからの交流電流を整流して電力を得かつ供給制御を行なう電力供給制御部として機能するパワー制御部22Aと,前記パワー制御部22Aから一次電源を得て本人認証を行なう生体認証判定部23とを備え,
CPU24は,本人認証が完了し電力供給がなされて各構成機能部が動作を始めると,先ず,カード用リーダ/ライタ10からのICカード100に対する起動要求信号を対応するインタフェース28Aを経由して受信し,メモリ部26と協働して情報処理を行ない,応答を再びインタフェース28A経由でカード用リーダ/ライタ10側へ通知し,
前記カード用リーダ/ライタ10,11に対応してインタフェース28A,28Bが装備され,このインタフェース28Aとインタフェース28Bとにより,インタフェース28が構成され,
前記非接触ICカード100を起動状態に設定し,当該非接触ICカード100を前記カード用リーダ/ライタ10,11に近づけると,前記非接触ICカード100は前記カード用リーダ/ライタ10,11から電磁波を検出し,前記パワー制御部22Aは前記アンテナ構造体21からの交流電流を整流し直流電力を得た後,本人認証動作に入り,
生体情報が入力された場合は,予め登録されている本人の生体情報データとの認証判定を行い,生体認証結果から本人確認が出来た場合は,前記生体認証判定部23から前記パワー制御部22Aに対して給電許可信号が送出され,前記給電許可信号に基づいて前記パワー制御部22Aは,前記CPU24,暗号プロセッサ25,メモリ部26,前記インタフェース28A,28B等の各ユニットへの通電を行う
非接触ICカード100。」

3 引用例2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の原出願の第一国出願前に既に公知である,特開2005-293485号公報(平成17年10月20日公開。以下,これを「引用例2」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

I 「【0002】
従来、電池を内蔵したアクティブ型のICタグが知られている。この種のICタグは、CPUなどからなる処理部、外部とデータ通信を行うデータ通信部、および内蔵電池を、僅かなスペースに組み込んで形成される。
…(後略)」


第5 対比

本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「非接触ICカード100」は,「RFインタフェース形式の異なるサービスにも高いセキュリティ機能の下に使用できるようにして利便性の向上を図る」ものであって,「生体認証による本人確認を行なう生体認証判定部23」を有し,「生体情報が入力された場合は,予め登録されている本人の生体情報データとの認証判定を行い,生体認証結果から本人確認が出来た場合」に,「パワー制御部22A」によって「CPU24,暗号プロセッサ25」などに対して通電が行われるように構成されていることから,本願発明の「保護通信デバイス」に対応するといえる。

(2)引用発明の「非接触ICカード100」は,「従来,非接触型ICカードは,無線周波数に依存する通信距離の違いにより密着型(低周波),近接型(短波),近傍型(中波),又は遠隔型(マイクロ波)といった異なったタイプの方式が存在し,サービス毎に使い分けが行なわれていて,これら無線周波数などのRFインタフェース形式が異なるサービスを,1枚のカードに統合できれば利便性は向上する」ことを背景とし,「RFインタフェース形式の異なるサービスにも高いセキュリティ機能の下に使用できるようにして利便性の向上を図ることのできる」ものである。そして,当該「RFインタフェース形式の異なるサービス」とは,例えば引用発明の背景として示されている,「電子マネー「Edy(エディ)」やJRが発行する「Suica(スイカ)」,「ICOCA(イコカ)」などの非接触認証(RFID:Radio Frequency IDentification)技術を利用した各種非接触ICカードのサービス」といったサービスが想定されているところ,これら「サービス」は,「RFインタフェース形式の違うカード用リーダ/ライタ10,11」との通信によって提供されるものである。
また,引用発明は,これらの「RFインタフェース形式の違う」サービスに対応して,「カード用リーダ/ライタ10,11から供給される電磁波を受けるアンテナ21A,21B」及び「インタフェース28A,28B」が設けられており,「アンテナ21A」及び「インタフェース28A」をまとめて,「RFインタフェース形式の違う」サービスに対応した“アプリケーション回路”といい得るものであって,また当該「RFインタフェース形式の違う」サービスは,「電子マネー」などの機能を提供する“アプリケーションサービス”といい得るものである。そしてその“アプリケーションサービス”は,「安全性を高めるための高度な暗号技術を扱えるICチップを搭載して,カード用リーダ/ライタとの間で相互の認証やデータの読出し書き込みを行なっていて,磁気カードに比べて内部データが改ざんされたりするリスクは極めて少なく」なるように,引用発明の「非接触ICカード100」によって提供されるものであるから,引用発明の「非接触ICカード100」と本願発明の「保護通信デバイス」とは,“複数のアプリケーション回路”を有し,“各アプリケーション回路は、デバイス内に安全に含まれる少なくとも1つのアプリケーションサービスと関連して”いる点で共通しているといえる。

(3)引用発明の「非接触ICカード100」は,「カード用リーダ/ライタ10,11により形成される電磁界を介して非接触で電力供給を取り込む機能を有」し,「複数のアンテナ構造体21」は,「前記電磁界の無線周波数等の異なるRFインタフェース形式が複数種類ある場合,その何れかのRFインタフェース形式を備えた前記カード用リーダ/ライタ10,11に接近したとき正常に動作するための」ものである。
そして,引用発明の「カード用リーダ/ライタ10,11により形成される電磁界」,換言するならば当該「カード用リーダ/ライタ10,11」により発せされる,「無線周波数」の電磁波は,“デバイスの外部環境から受領される外部信号”といい得るものであり,「非接触ICカード100」を「カード用リーダ/ライタ10,11に近づけると,前記非接触ICカード100は前記カード用リーダ/ライタ10,11から電磁波を検出し」,「パワー制御部22A」が,「アンテナ構造体21からの交流電流を整流し直流電力を得た後,本人認証動作に入」ることから,上記(2)において検討した,“アプリケーション回路”に相当する例えば「アンテナ21A」及び「インタフェース28A」は,当該電磁波によって“励起”されているといい得る。
また,上記「アンテナ21A」は,上記「電磁波」を受信すると,その電磁誘導作用によって,当該「電磁波」の存在を検出するものであることから,“環境検出器”といい得て,したがって引用発明は,“各アプリケーション回路が、少なくとも1つの環境検出器を含”むものであるといえる。

(4)上記(2)で検討したように,引用発明の「アンテナ21A,21B」及び「インタフェース28A,28B」は,「RFインタフェース形式の違う」サービスに対応して設けられていて,「非接触ICカード100」は,「RFインタフェース形式の違うカード用リーダ/ライタ10,11の通信距離内にあるとどちらとも通信できるように構成され,前記カード用リーダ/ライタ10,11に対してはサービスに依存し,どちらか一方の前記カード用リーダ/ライタ10又は11に対して通信を許容」するとともに,「カード用リーダ/ライタ10,11により形成される電磁界…(中略)…の無線周波数等の異なるRFインタフェース形式が複数種類ある場合,その何れかのRFインタフェース形式を備えた前記カード用リーダ/ライタ10,11に接近したとき正常に動作するための複数のアンテナ構造体21」を有するものである。
また,本願明細書段落31の,「チップカード1は多数のアプリケーション回路を含むことができ、…(中略)…各アプリケーション回路は、カードが位置している環境を特徴付ける任意の物理現象に対して感知することができる。これらの物理現象としては、熱、触覚(接触)、光、嗅覚、音、圧力、電磁場などを挙げることができる。」との記載から,「環境を特徴づける任意の物理現象」の1つとして,「電磁場」が例示されていて,上記「カード用リーダ/ライタ10,11により形成される電磁界」が本願発明の「デバイスの外部環境の任意の物理現象」に相当するといえ,「アンテナ21A」及び「インタフェース28A」,「アンテナ21B」及び「インタフェース28B」は,それぞれ異なる「無線周波数」の「電磁界」のいずれかを検出することから,引用発明は更に,“デバイスの外部環境の任意の物理現象に対して選択的に感知するもの”といえる。

(5)以上,(2)乃至(4)において検討した内容を総合すると,引用発明と本願発明とは,“複数のアプリケーション回路であって,各アプリケーション回路は,デバイス内に安全に含まれる少なくとも1つのアプリケーションサービスと関連しており,そして,各アプリケーション回路が,少なくとも1つの環境検出器を含み,そして前記デバイスの外部環境から受領した外部信号によって励起することができ,更に前記デバイスの外部環境の任意の物理現象に対して選択的に感知するものとする,複数の前記アプリケーション回路”を含む点で一致するといえる。

(6)引用発明は,「非接触ICカード100を起動状態に設定し,当該非接触ICカード100を前記カード用リーダ/ライタ10,11に近づけると,前記非接触ICカード100は前記カード用リーダ/ライタ10,11から電磁波を検出し,前記パワー制御部22Aは前記アンテナ構造体21からの交流電流を整流し直流電力を得」て,「前記パワー制御部22Aから一次電源を得て本人認証を行なう生体認証判定部23」によって,「予め登録されている本人の生体情報データとの認証判定を行い,生体認証結果から本人確認が出来た場合」,「パワー制御部22A」は,「CPU24」などに対して「通電を行う」ものである。そして,当該「CPU24」は,「本人認証が完了し電力供給がなされて各構成機能部が動作を始めると,先ず,カード用リーダ/ライタ10からのICカード100に対する起動要求信号を対応するインタフェース28Aを経由して受信し,メモリ部26と協働して情報処理を行ない,応答を再びインタフェース28A経由でカード用リーダ/ライタ10側へ通知」するなどの処理を行う。ここにおいて,「情報処理」とは,所定の「RFインタフェース形式」に対応付けられた,“アプリケーション回路に関連”する“アプリケーションサービス”の処理の少なくとも一部を意味するものと解され,当該“アプリケーションサービス”の同定がなされているといえる。
また,その後に続く「応答を再びインタフェース28A経由でカード用リーダ/ライタ10側へ通知」するなどの処理を行うことは,これを行って当該“アプリケーションサービス”を提供すること,すなわち,“アプリケーションサービスをアクティブ化する”ことが可能なものであるといい得る。
引用発明の「生体認証判定部23」は,「生体情報が入力された場合は,予め登録されている本人の生体情報データとの認証判定を行い,生体認証結果から本人確認が出来た場合」に,「パワー制御部22Aに対して給電許可信号が送出」するものであり,当該「給電許可信号に基づいて」,「パワー制御部22A」が「前記CPU24,暗号プロセッサ25,メモリ部26,前記インタフェース28A,28B等の各ユニットへの通電を行」い,当該「通電」が行われることによって,上記“アプリケーションサービス”の“アクティブ化”がなされることから,引用発明の上記「給電許可信号」は,本願発明の“アクティブ化オーソリゼーション”と,“アプリケーションサービスをアクティブ化する”点で共通するものといえる。
そして引用発明の「CPU24」と本願発明の「制御ユニット」とは,所定の処理の制御を行う点で共通するから,引用発明と本願発明とは,下記の点(相違点1)で相違するものの,“前記励起されたアプリケーション回路に関連する前記アプリケーションサービスを同定することが可能であり、そして、アクティブ化オーソリゼーションに応えて前記アプリケーションサービスをアクティブ化することが可能である”点で一致する。

(7)上記(6)で検討したように,引用発明の「生体認証判定部23」は,「生体情報が入力された場合は,予め登録されている本人の生体情報データとの認証判定を行い,生体認証結果から本人確認が出来た場合」に,“アプリケーションサービスをアクティブ化する”ところの,“アクティブ化オーソリゼーション”を生じさせているから,引用発明の「生体認証判定部23」と本願発明の「バイオメトリック回路」とは,“前記アクティブ化オーソリゼーションを生じさせるためにユーザーを認証する”点で一致するといえる。

(8)引用発明の「非接触ICカード100」は,「カード用リーダ/ライタ10,11から電磁波を検出」しており,上記(3)において検討したとおり,「無線周波数」の電磁波は,“デバイスの外部環境から受領される外部信号”といい得るものであるから,引用発明と本願発明とは,“デバイスが、前記デバイス内の前記制御ユニット及び前記バイオメトリック回路に結合される前記複数のアプリケーション回路の少なくとも1つが、前記任意の物理現象に基づく前記外部信号を検出する”ものである点で一致する。

(9)以上,上記(1)乃至(8)の検討から,引用発明と本願発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
複数のアプリケーション回路であって、各アプリケーション回路は、デバイス内に安全に含まれる少なくとも1つのアプリケーションサービスと関連しており、そして、各アプリケーション回路が、少なくとも1つの環境検出器を含み、そして前記デバイスの外部環境から受領した外部信号によって励起することができ、更に前記デバイスの外部環境の任意の物理現象に対して選択的に感知するものとする、複数の前記アプリケーション回路と;
前記励起されたアプリケーション回路に関連する前記アプリケーションサービスを同定することが可能であり、そして、アクティブ化オーソリゼーションに応えて前記アプリケーションサービスをアクティブ化することが可能である、制御ユニットと;
前記アクティブ化オーソリゼーションを生じさせるためにユーザーを認証するバイオメトリック回路と;
を含み、
前記デバイスが、前記デバイス内の前記制御ユニット及び前記バイオメトリック回路に結合される前記複数のアプリケーション回路の少なくとも1つが、前記任意の物理現象に基づく前記外部信号を検出する、保護通信デバイス。

〈相違点1〉
本願発明の「制御ユニット」は,「励起されたアプリケーション回路に関連する前記アプリケーションサービス」のほかに,「励起されたアプリケーション回路」も同定するものであるのに対し,引用発明の「CPU24」は,本願発明の「励起されたアプリケーション回路」に相当する,例えば「アンテナ21A」及び「インタフェース28A」に対応するサービスである「非接触ICカードのサービス」は同定するといえるものの,当該「アンテナ21A」及び「インタフェース28A」を同定することは特定されていない点。

〈相違点2〉
本願発明の「保護通信デバイス」が,「フレキシブルであるか又はフレキシブルでない、そして、再充電可能であるか又は再充電可能でない動力用電池」を含み,当該「フレキシブルであるか又はフレキシブルでない、そして、再充電可能であるか又は再充電可能でない電池によって動力を供給され」るものであるのに対し,引用発明は,そのような電池を含むとの特定はなく,電力の供給は,「アンテナ構造体21からの電力供給を受け」,「各機能部への電力を供給制御する電力供給制御部としてのパワー制御部22A」によってなされる点。


第6 当審の判断

上記相違点につき検討する。

1 相違点1について
はじめに,「同定」に関しては,本願明細書段落20に,「制御ユニットは、励起が所定の閾値を達成する場合に、励起されたアプリケーション回路を同定するだけであることができる。暗号が分析された後に制御ユニットが励起を考慮するだけとなるように励起外部信号を暗号化することも見込まれる。この暗号を使用して、いくつかの見込まれるアプリケーションサービスの中から1つのアプリケーションサービスを同定することもできる。この暗号は、特に、音響検知器の場合では特定のメロディーの形態であり、光検知器の場合では特定の光信号波又は周波数の形態であり、そして、暗号化されたRFID信号などの形態であることができる。」との記載が認められる。この記載と,本願明細書段落31の,「アプリケーション回路は、アプリケーションサービスに関連しているトランシーバーからなることができる。各アプリケーション回路は、カードが位置している環境を特徴付ける任意の物理現象に対して感知することができる。」なる記載,及び同段落35の「アプリケーション回路2?4は、それぞれ、音響回路、熱回路及びRFID回路である。」なる記載も参酌すると,「励起されたアプリケーション回路」を「同定する」とは,各アプリケーション回路に対応した「デバイスの外部環境の任意の物理現象」が「感知」されて,複数あるアプリケーション回路のうち,どれが当該「物理現象」に対応したアプリケーション回路であるかということが認識されることを意味するものと解される。
一方,引用発明は,「電磁界の無線周波数等の異なるRFインタフェース形式が複数種類ある場合,その何れかのRFインタフェース形式を備えた前記カード用リーダ/ライタ10,11に接近したとき正常に動作するための複数のアンテナ構造体21」を有し,例えばある無線周波数の電磁波がカード用リーダ/ライタから発せされた場合,当該無線周波数に対応する例えばアンテナ21Aによってその電磁波を受信し,当該アンテナ21A「からの交流電流を整流して電力を得かつ供給制御を行なう電力供給制御部として機能するパワー制御部22A」による「一次電源を得て」,「生体認証判定部23」が「本人認証を行な」い,「CPU24」は,「本人認証が完了し電力供給がなされて各構成機能部が動作を始めると,先ず,カード用リーダ/ライタ10からのICカード100に対する起動要求信号を対応するインタフェース28Aを経由して受信し,メモリ部26と協働して情報処理を行ない,応答を再びインタフェース28A経由でカード用リーダ/ライタ10側へ通知」するといった一連の処理が行われるものである。
そうすると,引用発明においても,結局「アンテナ21A」及び「インタフェース28A」からなるアプリケーション回路を認識した上で,すなわち「同定」した上で,各処理を行っているといえることから,本相違は実質的な相違ではない。

2 相違点2について
引用例2の上記記載事項Iにあるように,本願の原出願の第1国出願前,「電池を内蔵したアクティブ型のICタグ」は周知であることに加え,本願発明において,「フレキシブルであるか又はフレキシブルでない、そして、再充電可能であるか又は再充電可能でない動力用電池」を設けることの技術的意義については,本願明細書段落24に,「本発明のデバイスは、フレキシブルである又はフレキシブルでない、再充電可能であるか又は再充電可能でない内蔵バッテリーによって又は好ましくは電池によって、動力を供給される。例えば、デバイスに内蔵される太陽電池を再充電するためのソーラーコレクターを使用することも見込まれる。他方で、例えば、移動性の乏しいデバイスを使用する場合には、外部電源を使用することができる。」とのみ記載され,「フレキシブルであるか又はフレキシブルでない、そして、再充電可能であるか又は再充電可能でない動力用電池」を設けること,すなわち内蔵する以外に,「外部電源を使用する」ことの示唆もあることから,このような「動力用電池」を採用することによってもたらされる格別顕著な効果は,本願明細書には開示されておらず,それを認めることはできない。また当該「動力用電池」を採用することによって解決される課題も本願明細書の記述の中には見いだせず,してみれば,本願の原出願の第1国出願前にすでに周知であった,電池を内蔵するアクティブ型ICタグにおける構成にならい,引用発明において相違点2に係る構成,すなわち,「フレキシブルであるか又はフレキシブルでない、そして、再充電可能であるか又は再充電可能でない動力用電池」を備えることは設計的事項であるといえ,特段の技術的困難性は無かったものである。

3 小括
以上検討したとおり,相違点1及び2はいずれも格別なものではなく,またそのことによる効果も,当業者であれば普通に想起し得る程度のことに過ぎない。
したがって,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものであり,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないものである。


第7 むすび

以上のとおり,本願発明は,本願の原出願の第1国出願前に頒布された引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-02-15 
結審通知日 2019-02-19 
審決日 2019-03-07 
出願番号 特願2015-148741(P2015-148741)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 正悟  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 須田 勝巳
山崎 慎一
発明の名称 生体認証有するマルチプルアプリケーションチップカード  
代理人 山口 健次郎  
代理人 長山 弘典  
代理人 森田 憲一  

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