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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03F
管理番号 1353743
審判番号 不服2018-10111  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-24 
確定日 2019-07-24 
事件の表示 特願2016-569702「送信機デジタルアナログ変換器(DAC)-ベースバンドフィルタ(BBF)共通モードインターフェース」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月 3日国際公開、WO2015/183740、平成29年 6月22日国内公表、特表2017-517212〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯及び本願発明
1 手続の経緯
本願は,2015年(平成27年)5月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年5月29日,2015年1月22日,いずれも米国)を国際出願日とする出願であって,平成30年3月20日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年7月24日に拒絶査定不服審判が請求され,その後,当審より同年8月24日付けで拒絶理由が通知されたところ,同年10月9日に意見書及び手続補正書が提出され,さらに,当審より同年10月31日付けで拒絶理由が通知されたところ,平成31年2月5日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は,平成31年2月5日付けの手続補正書における特許請求の範囲に記載された,次のとおりのものである。
「【請求項1】
デジタルアナログ変換器(DAC)からの相補電流信号のペアから共通モード電流を除去するための送信機のインターフェース回路であって,
少なくとも第1の電流信号と第2の電流信号とを備える前記相補電流信号のペアの共通モード電圧を生成するように構成された生成器ユニットと,
差分電圧を測定し,出力するように構成された測定ユニットと,
前記送信機の前記DACの出力に直接結合された第1の電流除去ユニットおよび第2の電流除去ユニット,前記第1の電流除去ユニットおよび前記第2の電流除去ユニットは,前記DACからの前記第1の電流信号および前記第2の電流信号の出力のうちのそれぞれ1つを受信するように構成され,それぞれ第1および第2のトランジスタを備え,前記DACからの前記共通モード電流を除去するために,前記測定ユニットの前記差分電圧を用いて前記第1および第2のトランジスタのゲートを駆動する構成される,と
を備え,
ここにおいて,前記差分電圧は,前記生成器ユニットによって生成された前記共通モード電圧と共通モード基準電圧との間の差分に基づき,
前記相補電流信号のペアは,前記DACからの出力であり,ベースバンドフィルタへの入力であり,前記ベースバンドフィルタは,前記相補電流信号のペアを受信し,出力信号を出力するオペアンプを備え,前記オペアンプは,前記出力信号から生成された出力共通モード電圧と前記共通モード基準電圧との差分を測定する組込み共通モードフィードバックセンサーを備える,回路。」

第2 当審の拒絶理由通知書の概要
1 当審が通知した平成30年10月31日付けの拒絶理由のうちの理由1(明確性)の概要は,次のとおりである。
請求項1に「前記オペアンプは,前記出力信号から生成された出力共通モード電圧と前記共通モード基準電圧との差分を測定する組込み共通モードフィードバックセンサーを備える」と記載されているが,「オペアンプ」が「組込み共通モードフィードバックセンサーを備える」とは,「オペアンプ」と「組込み共通モードフィードバックセンサー」とがどのような関係にあることを指すのか不明であるとともに,「組込み共通モードフィードバックセンサー」との発明特定事項の「フィードバック」が,どのような意味のフィードバックであるのか不明である。
そして,それらの点は,本願明細書等(例えば,段落【0018】,【0023】の記載や図3A,図4)を参酌しても明らかでない。
よって,請求項1に係る発明は明確でない。

2 また,同じく理由2(実施可能要件・委任省令要件)の概要は,次のとおりである。
請求項1の「前記オペアンプは,前記出力信号から生成された出力共通モード電圧と前記共通モード基準電圧との差分を測定する組込み共通モードフィードバックセンサーを備える」との記載に関し,発明の詳細な説明において,その構成を当業者が実施することができる程度に記載されていない。
段落【0018】の記載が,仮に,オペアンプ322の出力信号に,組込み共通モードフィードバックセンサー324で測定される出力共通モード電圧と共通モード基準電圧(Vcm_ref)との間の差分の測定結果を反映させるという趣旨ならば,それをどのようにして実現するのか,具体的に説明されておらず不明であり,この点は,図3Aを参照しても明らかとならない。この点は,段落【0023】の記載及び図4についても同様に不明である。
また,発明の詳細な説明において,上記構成を含む請求項1に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていない。
段落【0018】の記載が上記の趣旨で記載されているとした場合に,オペアンプ322の出力信号に,組込み共通モードフィードバックセンサー324で測定される出力共通モード電圧と共通モード基準電圧(Vcm_ref)との間の差分の測定結果を反映させることの技術上の意義が不明であり,この点は,段落【0023】の記載及び図4についても同様に不明である。
段落【0018】の記載が,仮に,オペアンプ322の中に,組込み共通モードフィードバックセンサー324が存在するという趣旨で記載されているにすぎないならば,後者の測定結果は前者で何ら利用されないことになるから,オペアンプ322の中に組込み共通モードフィードバックセンサー324が存在することの技術上の意義は極めて不明である。
よって,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない(実施可能要件)。
また,この出願の発明の詳細な説明は,請求項1に係る発明について,経済産業省令で定めるところにより記載されたものでない(委任省令要件)。

第3 当審の判断
1 本願の発明の詳細な説明の記載事項
本願の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
(1)「【0010】
[0015]デジタルアナログ変換器(DAC)の相補出力電流の範囲が可変であるので,出力電流は,送信機信号経路の利得を制御するために使用され得る。上記で説明したように,相補DAC電流(I+/I-またはQ+/Q-)は共通モード電流と差動モード電流とを含み,これらは以下のように表され得る。
【0011】
I+=Icm+Idm (1)
I-=Icm-Idm (2)
Q+=Qcm+Qdm (3)
Q-=Qcm-Qdm (4)
[0016]さらに,差動モード電流は,これらの電流が変調情報を搬送するので,ベースバンドフィルタ(BBF)に流れ込み,有用な信号電圧を生成する。しかしながら,共通モード電流がBBFフィードバック抵抗器に流れ込むことにより,入力共通モード電圧が出力共通モード電圧とは異なることがある。したがって,DAC共通モード電流が,BBFに流れ込み,BBF入力において高い電圧を潜在的に引き起こすのを防ぐことが望ましい。」

(2)「【0018】
[0023]図3Aは,本開示の一実施形態による,DAC330から相補DAC電流を受信するベースバンドフィルタ(BBF)320に結合された共通モード電流除去ユニット310の詳細な概略図である。図3Aの図示の実施形態では,図は,DAC330と,BBF320と,共通モード電流除去ユニット310とを含む。動作中,DAC330は相補電流(たとえば,I+およびI-)を供給し,それらの各々は共通モード電流(Icm)と差動モード電流(Idm)とを含む(上記に示した式(1)および式(2)参照)。BBF320は,オペアンプ322と,フィードバック抵抗器326,328と,フィードバックキャパシタ360,362とを含む。オペアンプ322は,(各々が値Rcmを有する共通モード抵抗器350,352によって与えられた)出力共通モード電圧と共通モード基準電圧(Vcm_ref)との間の差分を測定する組込み共通モードフィードバックセンサー324を含む。
【0019】
[0024]図3Aの図示の実施形態では,共通モード電流除去ユニット310は,相補DAC電流(たとえば,I+およびI-)の各々から共通モード電流を除去するように構成される。共通モード電流除去ユニット310は,生成器ユニット340と,電流除去ユニット314,316のペアと,演算増幅器(オペアンプ)312で構成された測定ユニットとを含む。図3Aに示されている一実施形態では,生成器ユニット340は,相補電流信号のペアの共通モード電圧を生成するように構成された抵抗器342,344のペアを含む。動作中,オペアンプ312は,(各々が値Rcmを有する)共通モード抵抗器342,344によってオペアンプ312の正入力端子において与えられた入力共通モード電圧(Vcm_input)とオペアンプ312の負入力端子において与えられた共通モード基準電圧(Vcm_ref)との間の差分を測定する。オペアンプ312は,次いで,それぞれ,相補DAC電流I+およびI-の各々から共通モード電流(Icm)を除去またはシンクするために,電流除去ユニット314,316のペアを駆動する。
【0020】
[0025]一実施形態では,共通モード電流除去ユニット310は,相補電流信号のペアから共通モード電流を除去するための回路として一般化され得,それは,生成器ユニット340と,第1の電流除去ユニット314と第2の電流除去ユニット316とのペアと,測定ユニット312とを含む。生成器ユニット340は,フィルタ(たとえばBBF320)に入力される(第1の(I+)電流信号と第2の(I-)電流信号とを含む)相補電流信号のペアの共通モード電圧を生成するように構成される。測定ユニット312は,生成器ユニット340によって生成された共通モード電圧(Vcm_input)と共通モード基準電圧(Vcm_ref)との間の差分信号を測定し,出力するように構成される。測定ユニット312の出力における差分信号は,第1の電流信号(I+)から共通モード電流を除去するために第1の電流除去ユニット314を駆動し,第2の電流信号(I-)から共通モード電流を除去するために第2の電流除去ユニット316を駆動する。」

(3)「【0023】
[0028]図4は,本開示の別の実施形態による,DAC430から相補DAC電流を受信するベースバンドフィルタ(BBF)420に結合された共通モード電流除去ユニット410の詳細な概略図である。図4の図示の実施形態では,図は,DAC430と,BBF420と,共通モード電流除去ユニット410とを含む。DAC430は相補電流(たとえば,I+およびI-)を供給し,それらの各々は共通モード電流と差動モード電流とを含む(式(1)および式(2)参照)。BBF420は,オペアンプ422と,フィードバック抵抗器426,428と,フィードバックキャパシタ460,462とを含む。オペアンプ422は,(各々が値Rcmを有する共通モード抵抗器450,452によって与えられた)出力共通モード電圧と共通モード基準電圧(Vcm_ref)との間の差分を測定する組込み共通モードフィードバックセンサー424を含む。
【0024】
[0029]図4の図示の実施形態では,共通モード電流除去ユニット410は,相補DAC電流(たとえば,I+およびI-)の各々から共通モード電流を除去するように構成される。共通モード電流除去ユニット410では,(各々が同じ値Rcmを有する)2つの抵抗器212および214は,それぞれ,相補DAC電流I+およびI-の各々から共通モード電流(Icm)を除去またはシンクするように構成される。したがって,抵抗器412は,DAC電流I+から共通モード電流Icmをシンクするように構成され,抵抗器414は,DAC電流I-から共通モード電流Icmをシンクするように構成される。抵抗器412,414の値は,DAC電流から所望の量の共通モード電流を引き出すために,共通モード基準電圧に基づいて選択される。」

(4)図3A


(5)図4


2 判断
(1)特許法第36条第6項第2号(明確性)について
ア 請求項1に,「ベースバンドフィルタ」が備える「オペアンプ」に関して「前記オペアンプは,前記出力信号から生成された出力共通モード電圧と前記共通モード基準電圧との差分を測定する組込み共通モードフィードバックセンサーを備える」と記載されている。
しかしながら,「オペアンプ」が「組込み共通モードフィードバックセンサーを備える」とは,「オペアンプ」と「組込み共通モードフィードバックセンサー」とがどのような関係にあることを指すのか不明であり,「オペアンプ」が「組込み共通モードフィードバックセンサー」が測定した差分を演算する等によって後者の測定結果が前者の出力信号に反映されるのか,あるいは,「オペアンプ」でそのような反映がなされるのではなく,単に「組込み共通モードフィードバックセンサー」として「差分を測定する」部分が存在するのみであるのか,といった点は,請求項1の記載からは明らかでない。

イ また,請求項1には,オペアンプの出力信号から生成された出力共通モード電圧に基づいて差分を測定した結果が,オペアンプの出力信号に反映されることを特定する記載がないため,「組込み共通モードフィードバックセンサー」との発明特定事項の「フィードバック」が,どのような意味のフィードバックであるものとして記載されているのかという点も,不明である。

ウ そして,これらの点は,本願明細書等を参酌しても明らかでない。具体的には,以下のとおりである。
まず,上記1(1)の「共通モード電流がBBFフィードバック抵抗器に流れ込むことにより,入力共通モード電圧が出力共通モード電圧とは異なることがある。したがって,DAC共通モード電流が,BBFに流れ込み,BBF入力において高い電圧を潜在的に引き起こすのを防ぐことが望ましい。」(段落【0011】)という記載は,DAC共通モード電流がBBFに流れ込むことを防ぐという,発明の解決しようとする課題を記載したものと解される。しかしながら,この記載及び上記1(2)の「図3Aの図示の実施形態では,共通モード電流除去ユニット310は,相補DAC電流(たとえば,I+およびI-)の各々から共通モード電流を除去するように構成される。」(段落【0019】)等の記載によれば,「共通モード電流除去ユニット310」が上記課題の解決手段であることが理解できるものの,「組込み共通モードフィードバックセンサー」と上記課題との関係は不明であり,上記1(1)は「組込み共通モードフィードバックセンサー」についての記載であるとはいえない。
次に,上記1(2)の「オペアンプ322は,(各々が値Rcmを有する共通モード抵抗器350,352によって与えられた)出力共通モード電圧と共通モード基準電圧(Vcm_ref)との間の差分を測定する組込み共通モードフィードバックセンサー324を含む。」(段落【0018】)との記載からは,オペアンプ322が組込み共通モードフィードバックセンサー324を含むということが理解できるにすぎず,組込み共通モードフィードバックセンサー324で測定された差分がオペアンプ322で演算されるのか否か等については記載されていない。
また,その結果,上記差分がオペアンプ322の出力に反映されるのか否かが特定できないところ,仮に反映されないとすれば,フィードバックループが構成されていないことからフィードバックが行われるとはいえないため,「共通モードフィードバックセンサー324」の「フィードバック」が,どのような意味のフィードバックであるのかを把握することはできない。
一方,図3A(上記1(4),以下同様。)から,オペアンプ322の中に共通モードフィードバックセンサー324のブロックが存在し,当該ブロックに,抵抗器350,352の出力及びVcm_refが入力されることが読み取れるが,当該ブロックの出力が示されておらず,当該出力がオペアンプ322の出力に反映されるのか否かを読み取ることはできない。
したがって,本願明細書等を参酌しても,請求項1の上記記載における「オペアンプ」と「組込み共通モードフィードバックセンサー」との関係や,「組込み共通モードフィードバックセンサー」との発明特定事項の「フィードバック」がどのような意味のフィードバックであるのかが,明らかになるものではない。
そして,この点は,上記1(3)の「組込み共通モードフィードバックセンサー424」についての記載(段落【0023】)及び図4(上記1(5),以下同様。)についても,同様である。

エ 以上のとおり,請求項1の「前記オペアンプは,前記出力信号から生成された出力共通モード電圧と前記共通モード基準電圧との差分を測定する組込み共通モードフィードバックセンサーを備える」という記載は技術的に不明であって,請求項1に係る発明は明確でないから,この出願は,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件・委任省令要件)について
ア 請求項1の「前記オペアンプは,前記出力信号から生成された出力共通モード電圧と前記共通モード基準電圧との差分を測定する組込み共通モードフィードバックセンサーを備える」との記載に関し,発明の詳細な説明において,その構成を当業者が実施することができる程度に記載されていない。
上記1(1)の記載は,上記(1)ウのとおり,「組込み共通モードフィードバックセンサー」についての記載であるとはいえない。
また,上記1(2)の「オペアンプ322は,(各々が値Rcmを有する共通モード抵抗器350,352によって与えられた)出力共通モード電圧と共通モード基準電圧(Vcm_ref)との間の差分を測定する組込み共通モードフィードバックセンサー324を含む。」(段落【0018】)という記載が,仮に,オペアンプ322の出力信号に,組込み共通モードフィードバックセンサー324で測定される出力共通モード電圧と共通モード基準電圧(Vcm_ref)との間の差分の測定結果を反映させるという趣旨ならば,組込み共通モードフィードバックセンサー324で測定された差分をオペアンプ322でどのように演算するのか等,その反映をどのようにして実現するのかが具体的に説明されておらず不明であり,この点は,図3Aを参照しても明らかとはならない。
そして,この点は,上記1(3)の「組込み共通モードフィードバックセンサー424」についての記載(段落【0023】)及び図4についても同様に不明である。

イ 発明の詳細な説明において,「前記オペアンプは,前記出力信号から生成された出力共通モード電圧と前記共通モード基準電圧との差分を測定する組込み共通モードフィードバックセンサーを備える」という構成を含む請求項1に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が,記載されていない。
上記(1)ウのとおり,「組込み共通モードフィードバックセンサー」と上記1(1)に記載されている発明の解決しようとする課題との関係は不明であるから,上記1(1)は,上記構成の技術上の意義を理解するために必要な事項であるとはいえない。
また,上記1(2)の段落【0018】の記載が,上記アで述べた趣旨で記載されているとした場合に,オペアンプ322の出力信号に,組込み共通モードフィードバックセンサー324で測定される出力共通モード電圧と共通モード基準電圧(Vcm_ref)との間の差分の測定結果を反映させることの技術上の意義(どのような課題を解決するのか,どのような作用効果が得られるのか等)については,発明の詳細な説明において,説明されていない。
一方,上記1(2)の段落【0018】の記載が,仮に,オペアンプ322の中に,組込み共通モードフィードバックセンサー324が存在するという趣旨で記載されているにすぎないならば,後者による差分の測定結果は前者で何ら利用されないことになるから,オペアンプ322の中に組込み共通モードフィードバックセンサー324が存在することの技術上の意義は極めて不明である。
そして,これらの点は,上記1(3)の「組込み共通モードフィードバックセンサー424」(段落【0023】)についての記載についても同様である。

ウ 発明の詳細な説明の記載は,上記アのとおり,当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものなく,また,上記イのとおり,請求項1に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていないから,この出願は,発明の詳細な説明の記載が,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(3)請求人の主張について
ア 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
請求人は,平成31年2月5日付けの意見書において,本願明細書の段落[0010]-[0011]等の記載から,本願明細書には,DAC共通モード電流がBBFに流れ込むことを防ぐ必要があることが開示されており,そして,本願請求項1等に開示される組込み共通モードフィードバックセンサーは,出力共通モード電圧と共通モード基準電圧との差分を測定することが開示されていることから,出力共通モード電圧と共通モード基準電圧との差分を測定した結果,特定の値(例えば,DAC共通モード電流がBBFに流れるような状態)であれば,その値に基づいてBBFの入力信号または出力信号に働きかける(例えば,DAC共通モード電流がBBFに流れ込まないようにする)ことが開示されていることは明らかであり,したがって,本願請求項1等に開示されるベースバンドフィルタと組込み共通モードフィードバックセンサーとの関係は明確であり,さらに,本願請求項1には,出力信号から生成された出力共通モード電圧を組込み共通モードフィードバックセンサーが受け取ることが開示されており,この出力共通モード電圧がフィードバックを意味しているから,本願請求項1に記載されたフィードバックは明確である旨,主張する。
しかしながら,上記(1)ウのとおり,段落【0011】等の記載からは,「共通モード電流除去ユニット310」が,DAC共通モード電流がBBFに流れ込むことを防ぐという,発明の解決しようとする課題の解決手段であることが理解できるものの,当該記載に基づいて,請求項1の記載が,出力共通モード電圧と共通モード基準電圧との差分の測定値に基づいてBBFの入力信号または出力信号に働きかけることを意味することが理解できるとはいえない。
また,請求項1の記載から,出力共通モード電圧を組込み共通モードフィードバックセンサーが受け取ることが理解できるとしても,上記(1)イのとおり,請求項1には,オペアンプの出力信号から生成された出力共通モード電圧に基づいて差分を測定した結果が,オペアンプの出力信号に反映されることを特定する記載がないから,請求項1の記載では,「フィードバック」がどのような意味のフィードバックであるのかは不明であり,また,上記(1)ウのとおり,本願明細書等を参酌しても,「組込み共通モードフィードバックセンサー」の「フィードバック」が,どのような意味のフィードバックであるのかが明らかになるものではない。
よって,請求人の上記主張は採用できない。

イ 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件・委任省令要件)について
請求人は,平成31年2月5日付けの意見書において,本願明細書に記載された「組込み共通モードフィードバックセンサー」は,センサーであるため,測定結果に基づいて何らかの信号を出力することは技術常識であり,本願明細書の段落[0010]-[0011]の開示から,上記の何らかの信号が,DAC共通モード電流がBBFに流れ込まないように動作するのに寄与することは明らかであるから,組込み共通モードフィードバックセンサの技術上の意義は明らかである旨,主張する。
しかしながら,上記(1)ウのとおり,「共通モード電流除去ユニット310」が段落【0011】に記載されている課題の解決手段であることが理解できることから,「共通モード電流除去ユニット310」がDAC共通モード電流がBBFに流れ込まないように動作するのに寄与するとはいえるものの,「組込み共通モードフィードバックセンサー」がこれに寄与するとはいえない。
よって,請求人の上記主張は採用できない。

第4 むすび
以上のとおり,本願は,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-02-19 
結審通知日 2019-02-26 
審決日 2019-03-11 
出願番号 特願2016-569702(P2016-569702)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (H03F)
P 1 8・ 537- WZ (H03F)
P 1 8・ 121- WZ (H03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 緒方 寿彦  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 富澤 哲生
中野 浩昌
発明の名称 送信機デジタルアナログ変換器(DAC)-ベースバンドフィルタ(BBF)共通モードインターフェース  
代理人 岡田 貴志  
代理人 井関 守三  
代理人 福原 淑弘  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 中丸 慶洋  

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