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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1353754
審判番号 不服2018-2711  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-26 
確定日 2019-07-25 
事件の表示 特願2016-530290「電力制御方法、ユーザ装置及び通信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月 5日国際公開、WO2015/013866、平成28年 9月 8日国内公表、特表2016-527819〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2013年(平成25年)7月29日を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年6月10日 手続補正書の提出
平成29年4月25日付け 拒絶理由通知書
平成29年7月 7日 意見書,及び手続補正書の提出
平成29年11月28日付け 拒絶査定
平成30年2月26日 拒絶査定不服審判の請求,及び手続補正書の提出


第2 平成30年2月26日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の結論の決定]
平成30年2月26日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の概要
(1)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の平成29年7月7日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1は次のとおりである。

「電力制御方法であって、
ユーザ装置が、2つ以上のコネクティビティのために電力制御パラメータをそれぞれ構成するステップと、
前記電力制御パラメータに基づいて対応するコネクティビティにおける信号の電力を制御するステップと、を含み、
前記電力制御パラメータは、経路損失補償係数を含む、方法。」

(2)本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は次のとおり補正された。(下線は補正箇所を示す。)

「電力制御方法であって、
ユーザ装置が、ユーザ装置間のリンクを含む2つ以上のリンクのために電力制御パラメータをそれぞれ構成するステップと、
前記電力制御パラメータに基づいて対応するリンクにおける信号の送信電力を制御するステップと、を含み、
各リンクのために構成された前記電力制御パラメータは、経路損失補償係数を含む、方法。」


2 補正の適否
(1)新規事項の有無,シフト補正の有無,補正の目的要件
上記補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「2つ以上のコネクティビティ」を,「ユーザ装置間のリンクを含む2つ以上のリンク」に限定するとともに,「対応するコネクティビティにおける信号の電力を制御する」を,「対応するリンクにおける信号の送信電力を制御する」ことに限定し,更に「前記電力制御パラメータ」を,「各リンクのために構成された前記電力制御パラメータ」に限定する補正であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
したがって,上記補正は特許法17条の2第5項2号(補正の目的)に規定された事項を目的とするものである。また,同法17条の2第3項(新規事項)及び同法17条の2第4項(シフト補正)の規定に違反するところはない。

(2)独立特許要件
上記補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本件補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否かについて,以下に検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は,上記第2[理由]1(2)に記載したとおりのものと認める。

イ 引用例の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された米国特許出願公開第2011/0275382号明細書(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに以下の記載がある。(下線は当審が付与。)

「[0027] The non-limiting examples detailed below exhibit a more comprehensive power measurement and power control approach that is particularly useful for D2D communications, though of course not limited only to D2D links.
(中略)
[0040] For ready reference to the more detailed descriptions below, FIG.1 illustrates the general arrangement of a network access node or BS relative to the UEs which engage in D2D communications. The description below uses examples of D2D 'pairs' shown at FIG.1 as UE 1 and UE 2 . The 'pair' terminology is for clarity of explanation and any D2D 'pair' detailed below may include more than only two UE devices engaging in D2D communications among themselves. The link between UE 1 and the BS is shown as 102 in FIG.1 , and the link between UE 2 and the BS is shown there as 104 . Where relevant, direction for those links 102 , 104 is stated below as UL or DL. The D2D link can be considered as two different links depending on direction. FIG.1 shows the D2D link from UE 1 to UE 2 as 106 a, abbreviated below as D2D (1→2). FIG.1 also shows the D2D link from UE 2 to UE 1 as 106 b, abbreviated below as D2D (2→1).
(中略)
[0048] In LTE Release 8/9, the UEs send sounding reference signals to the eNB which enables the eNB can accurately measure the UL channel on which it receives those SRSs. Exemplary embodiments detailed herein adapt a similar SRS procedure for use in power control for D2D communications.
(中略)
[0054] Further at FIG. 4 the CQIs for the D2D links are then accumulated at the eNB. At message 410a, UE1 sends the CQI it measured at block 407b for the D2D (UE2→UE1) link 106b to the eNB on a PUCCH. At message 410b, UE2 sends the CQI it measured at block 407a for the D2D (UE1→UE2) link 106a to the eNB on a PUCCH. Alternatively, either or both of these messages 410a, 410b may be sent on a PUSCH where the respective CQI is included with the UE's UL data.
[0055] However the eNB receives them, based on those two different D2D link CQls the eNB computes at block 412 a power offset for the D2D links (D2D power offset), which in an exemplary embodiment will be the same offset for both opposed D2D links between the same UE pair UE 1 , UE 2 . At messages 414 a and 414 b the eNB distributes the D2D power offset that it computed to the UEs. FIG. 4 shows the specific case in which the power offsets for the opposed D2D links are different; the eNB only needs to distribute the relevant power offset to the respective one of the UEs that is to transmit on that D2D link. At messages 414 a UE 1 transmits on the D2D (UE 1→UE 2 ) link 106 a with the power offset for that link which it received at message 414 a. Similarly at messages 414 b UE 2 transmits on the D2D (UE 2→UE 1 ) link 106 b with the power offset for that link which it received at message 414 b.
[0056] The eNB computes the D2D transmission power offset for UL D2D transmission power control to allow maximum D2D transmission power without creating interference to UL cellular transmissions. This may allow spatial re-use of resources for simultaneous D2D and cellular communications on the UL. In an exemplary embodiment there is a new DCI format to indicate the D2D transmission power offset by PDCCH at messages 414a, 414b.
[0057] SRS-based UL power control for the device pair. In the network controlled D2D operation such as that shown by example at FIG. 4 , it can be assumed that the eNB/network configures the measurement procedure for the D2D pair. Furthermore, the D2D devices UE 1 , UE 2 would follow certain power control algorithm and rules known and parameterized by the eNB in order to control interference from D2D communications at the eNB's own receiver as well as at neighbor cells' receivers. In accordance with an embodiment of the invention, the D2D devices UE 1 , UE 2 implement an uplink power control algorithm (which may even be a prior art procedure such as the LTE Release 8/9 power control algorithm). But in this exemplary embodiment the eNB configures an additional power offset, D2D_power_offset, to control the contribution of the certain D2D pair into the cumulative interference seen by the eNB.
[0058] As an example consider the following general definitions for power settings:
[0059] power_in_cellular_mode?P_0+PL;
[0060] power_in_SRS_transmission?P_0+PL+SRS_offset;
[0061] power_in_D2D_mode?P_0+PL+D2D_power_offset;
where P_0 is the base power setting, PL is the path loss between the device UE1 or UE2 and the serving eNB, SRS_offset is controlled by the eNB so its received power from multiple UEs is roughly equal, and D2D_power_offset is described at FIG. 4 but as defined immediately above power_in_D2D_mode takes into account the cumulative power seen by the eNB.」

(当審訳:「[0027] 以下に示す非限定的な例では,D2D通信のために有用である,より包括的な電力測定,及び電力制御のアプローチを示しているが,当然のことながらD2Dリンクに限定されるものではない。
(中略)
[0040] 以下の詳細な説明を参照するために、以下の説明を参照されたい。図1は、D2D通信に使用されるUEに対する,ネットワークアクセスノードまたはBSの一般的な構成を示す。以下の説明は、図1に示したUE1とUE2としてのD2Dペアの例を使用する。’ペア’の用語は、説明を明瞭にするためであり、以下に詳述するD2Dペアは、それら自身の間でD2D通信に係る2個以上のUEデバイスを含むことができる。図1において,UE1とBSとの間のリンクは、102として示されており,UE2とBSとの間のリンクは、ここでは104として示されている。該当する場合,これらリンク102、104の方向は、ULまたはDLとして以下に述べられる。D2Dリンクは、方向に応じて2つの異なるリンクと考えることができる。図1は,106aとしてD2D (1→2)と略されるUE1からUE2へのD2Dリンクを示している。さらに図1は,106bとしてD2D (2→1)と略されるUE2からUE1へのD2Dリンクも示している。
(中略)
[0048] LTEリリース8/9では、UEは,eNBがULチャンネルを正確に測定できるようにするための,サウンディング参照信号を送信する。本明細書で詳述された例示的な実施形態では、D2D通信のための電力制御に使用される同様なSRS手順を適合させている。
(中略)
[0054] また、図4では、D2DリンクのCQIがeNBで蓄積される。メッセージ410aにおいて、UE1は、D2D(UE2→UE1)リンク106bのためにブロック407bで測定されたCQIをPUCCH上でeNBに送信する。メッセージ410bでは、UE2は、D2D(UE1→UE2)リンク106aのためにブロック407aで測定されたCQIをPUCCH上でeNBに送信する。あるいは、これらのメッセージ410a、410bの一方または両方について,それぞれのCQIは、UEのULデータと共にPUSCH上で送られ得る。
[0055] しかしながら、eNBは,それらを受信すると、それらの2種類のD2DリンクCQIに基づいて,当該D2Dリンクについての電力オフセット(D2D power offset)をブロック412で計算する。例示的な実施形態では、UE1、UE2間の対向する両方向のD2Dリンクに対して同一のオフセットを有することになる。メッセージ414a及び414bでは,eNBは、UEに対して計算されたD2D power offsetを分配する。図4は,対向するD2Dリンクに対する電力オフセットが異なる場合を示しており,eNBはD2Dリンク上で送信しているUEのそれぞれに対する電力オフセットを分配する必要がある。UE1は、メッセージ414aで受信した電力オフセットを用いてD2D (UE 1→UE 2 )リンク106a上で送信する。同様に,UE2は,メッセージ414bで受信した電力オフセットを用いてD2D (UE 2→UE 1)リンク106b上で送信する。
[0056] eNBはUL D2D送信電力制御のためのD2D送信電力オフセットを計算し、ULセルラー送信への干渉を生成することなく最大のD2D送信電力を可能にする。これは、ULにおける同時D2Dおよびセルラー通信のためのリソースの空間再使用を可能にすることができる。例示的な実施形態では、メッセージ414a、414bのPDCCHによるD2D送信電力オフセットを示すための新しいDCIフォーマットが存在する。
[0057] デバイスペアのSRSベースのUL電力制御。例えば、図4で図示されるようなネットワーク制御されるD2D動作においては、eNB/ネットワークは、D2Dペアのための測定手続を構成すると仮定することができる。さらに、D2DデバイスUE1、UE2は、eNB自身の受信機におけるD2D通信からだけでなく、隣接セルの受信機で干渉を制御するために、eNBによって知られ、パラメータ化された特定の電力制御アルゴリズムおよび発見的な規則に従う。本発明の一実施形態では、D2DデバイスUE1、UE2は、アップリンク電力制御アルゴリズム(LTEリリース8/9の電力制御アルゴリズムのような従来技術の手続かもしれない)を実装する。しかし、この例示的な実施形態では、eNBは、観測される累積干渉に対するD2Dペアの寄与を制御するために,追加的な電力オフセット,D2D_power_offsetを構成する。
[0058] 一例として、電力設定のための以下の一般的な定義を考える:
[0059] power_in_cellular_mode?P_0+PL;
[0060] power_in_SRS_transmission?P_0+PL+SRS_off set;
[0061] power_in_D2D_mode?P_0+PL+D2D_power_offset;
ここで、P_0は、基本電力設定であり、PLは、装置UE1またはUE2とサービングeNBとの間の経路損失を示す。SRS_offsetは,eNBによって,複数のUEからの受信電力がほぼ等くなるように制御される。D2D_power_offsetは、図4で説明されており,ただしpower_in_D2D_modeはeNBで観測される累積電力を考慮している。」
(FIG.1は省略する。))

上記記載及び当業者の技術常識を考慮すると,引用例1には,次の技術事項が記載されている。

a 上記段落0027,0055の記載によると,UEにおける電力制御方法が記載されているといえる。

b UEとeNBとの間のリンクは,セルラー通信を行うものであることが,当業者の技術常識であるところ,上記段落0040,FIG.1の記載によると,UEは,該UEと他のUEとの間でD2D通信を行うD2Dリンク,及び該UEとeNBとの間のリンクを備えているから,引用例1には,UEは,D2D通信を行うD2Dリンクとセルラー通信を行うリンクとを備えることが記載されているといえる。

c 上記段落0059-0061における,power_in_cellular_mode?P_0+PLは,セルラー通信の送信電力設定,及び上記0061のpower_in_D2D_mode?P_0+PL+D2D_power_offsetは,D2D通信の送信電力設定であり,それぞれの送信電力設定に基づいて,対応する通信の送信電力を制御することが明らかである。
また,送信電力制御を行うためには,UEがP_0,PL,及びD2D_power_offset等の各パラメータを構成する必要があることは明らかであるから,上記段落0059-0060に記載された,D2Dリンクのための送信電力設定,あるいは,セルラー通信を行うリンクのための送信電力設定によって,対応する通信の送信電力の制御を行うために,UEは,それぞれの送信電力設定に含まれる各パラメータを構成しているといえる。
そして,上記bのとおり,UEは,セルラー通信のリンクと,D2D通信のリンクとを備えていることから,引用例1には,UEは,D2Dリンクのための送信電力設定とセルラー通信を行うリンクのための送信電力設定との,それぞれの送信電力設定に基づいて,対応するリンクにおける信号の送信電力を制御することが記載されているといえる。

したがって,引用例1には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「電力制御方法であって、
UEは,D2D通信を行うD2Dリンクとセルラー通信を行うリンクとを備え,
それぞれの送信電力設定に含まれる各パラメータを構成し,
前記それぞれの送信電力設定に含まれるパラメータに基づいて,対応するリンクにおける信号の送信電力を制御する、方法。」


ウ 周知例の記載事項及び周知技術
a 原査定の拒絶の理由で引用された,国際公開第2010/022773号(以下,「引用例3」という。)には,以下の記載がある。

「In order to improve the performance for high quality radio links the standard specifications for LTE telecommunication networks define a power control with a "fractional pathloss compensation". This is in contrast to a "full pathloss compensation", wherein the pathloss is supposed to be completely compensated by adapting the radio transmitting power such that all UEs are received by the base station with the same reception power. The "fractional pathloss compensation" means that close UEs are received with a slightly higher reception power than the UEs being located far away from the base station. This allows at least to some extent to achieve higher SINRs for the close UE users. Thereby, the transmitting power P_(PUSCH) for a UE is described by the following equation (1) :

P_(PUSCH)=min{P_(MAX),10log_(10)M_(PUSCH)+P_(0_PUSCH)+α・PL+Δ_(TF)(TF)+f}

Thereby, P_(MAX) is the maximum transmitting power of the respective UE, i.e. the UE cannot transmit with a higher power. The second expression in the curly brackets represents the target value for the UE ' s transmitting power.

Within the second expression in the curly brackets M_(PUSCH) represents the number of Physical Resource Blocks (PRBs), which are assigned to the respective radio data link. The other terms of the target value represent power control values respectively for one PRB. P_(0_PUSCH) and α are the above described power control settings, wherein P_(0_PUSCH) represents a reference transmitting power and α represents the slope for a "fractional pathloss compensation". PL is the pathloss, which is estimated by the respective UE from downlink (DL) measurements. The terms "Δ(TF)" and "f" are used for a fine tuning of the transmitting power P_(PUSCH) for instance with respect to a current spectral efficiency (the higher the spectral efficiency is the higher is the transmitting power) and with respect to a currently used modulation coding scheme. Since for the invention described in this application this fine tuning is not relevant here, it will not be described in further detail.」(4ページ1行-5ページ2行)

(当審訳:「高品質の無線リンクの性能を向上させるために、LTE通信ネットワークのための標準仕様は、「部分経路損失補償」の電力制御を定義する。これは、全てのUEが同じ受信電力で基地局によって受信されるように無線送信電力を適合させることによって損失が完全に補償される「全損失補償」とは対照的である。「部分経路損失補償」は、基地局から近いUEは,遠いUEよりもわずかに高い受信電力で受信することを意味する。これは、少なくともある程度,近いUEユーザのためにより高いSINRを達成できるようにする。これによって、UEのための送信パワーP_(PUSCH)は、次式(1)によって記述される。

P_(PUSCH)=min{P_(MAX),10log_(10)M_(PUSCH)+P_(0_PUSCH)+α・PL+Δ_(TF)(TF)+f}

これにより、P_(MAX)は、UEの最大送信電力であり、すなわち、UEは高い電力で送信することができない。中括弧内の第2の式は、UEの送信電力の目標値を示す。

中括弧内の第2式のM_(PUSCH)は、物理リソースブロック(PRB)の数を表し、各無線データリンクに割り当てられている。目標値の他の項は、1つの物理リソースブロックPRBに対するそれぞれの電力制御値を表している。上記電力制御設定で示されるP_(0_PUSCH)とαは、P_(0_PUSCH)は、基準送信電力であり、αは「部分経路損失補償」の傾きを表す。また、PLは経路損失を表し,ダウンリンク(DL)測定結果から各UEによって推定される。”Δ(TF)”および”f”は、現在のスペクトル効率性(スペクトルの効率性がより高い送信電力である)に関して、現在用いている変調・符号化方式に関しては、例えば、送信電力P_(PUSH)の微調整のために使用される。この出願に記載されている本発明のこの微調整は本発明とは関係ないので、これ以上詳細には説明しない。」)

b Bilal Muhammad, Abbas Mohammed, "Uplink Closed Loop Power Control for LTE System",IEEE,[online],2010年11月15日掲載,page88-93,インターネット (以下,「引用例4」という。)には,以下の事項が記載されている。

(a)「The 3GPP specifications [1] defines the setting of the UE transmit power for PUSCH by the following equation
P_(PUSCH)=min{P_(max),10・log_(10)M + P_(0)+α・PL+δ_(mcs)+ f (Δ_(i))} (1)
where
- P_(max) is the maximum allowed transmit power.
- M is the number of physical resource blocks (PRB).
- P_(0) is cell/UE specific parameter. It is used to control SNR target and is signaled by the radio resource control(RRC). In this paper, it is assumed that P_(0) is cell-specific.
- α is the path loss compensation factor. It is a 3-bit cell specific parameter in the range [0-1] signaled by RRC.
- PL is the downlink path loss estimate. It is calculated in the UE based on the reference symbol received power(RSRP).
- δ_(mcs) is cell/UE specific modulation and coding scheme defined in the 3GPP specifications for LTE.
- f (Δ_(i)) is UE specific. Δ_(i) is a closed loop correction value and f is a function that permits to use accumulate or absolute correction value.」(88ページ右欄26行-89ページ左欄3行)

(当審訳:「3GPP仕様[1]は、PUSCHに対するUE送信電力の設定を、以下の式によって定義している。
P_(PUSCH)=min{P_(max),10・log_(10)M + P_(0)+α・PL+δ_(mcs)+ f (Δ_(i))} (1)
ここで、
-P_(max)は最大許容送信電力である。
-Mは、物理リソースブロック(PRB)の数である。
-P_(0)はセル/UE固有パラメータであり,SNR目標を制御するために使用され、無線リソース制御(RRC)によってシグナリングされる。この論文では、P_(0)はセル固有であると仮定される。
-αは、経路損失補償係数である。RRCによって通知された範囲[0-1]内の3ビットセル固有パラメータである。
-PLはダウンリンク経路損失推定値である。これは、基準シンボル受信電力(RSRP)に基づいて計算される。
-δ_(mcs)は、LTEの3GPP仕様で定義されているセル/UE特異的変調及び符号化方式である。
-f(Δ_(i))はUE特有である。Δ_(i)は閉ループ補正値であり、fは累積または絶対補正値の使用を可能にする関数である。」)

(b)「REFERENCES
[1] 3GPP “E-UTRA Physical layer procedures”, TS 36.213 V8.1.0」(93ページ左欄27-28行)

(当審訳:「参考文献
[1]3GPP”E-UTRA 物理層手続”,TS 36.213 V8.1.0」)

c 3GPP TS 36.213 V8.1.0(2007-11),3GPP,[online],2007年12月20日掲載,インターネット(以下,「引用例5」という。)には,以下の事項が記載されている。

「5.1.1 Physical uplink shared channel
5.1.1.1 UE behaviour
The setting of the UE Transmit power P_(PUSCH) for a physical uplink shared channel (PUSCH) transmission in subframe i is defined by

P_(PUSCH)(i)=min{P_(MAX),10log_(10)(M_(PUSCH)(i))+P_(o_PUSCH)(j)+α・PL+Δ_(MCS)(MCS(i))+f(i)} [dBm]
」(8ページ13行-17行)

(当審訳:「5.1.1 物理上りリンク共有チャネル
5.1.1.1 UEの挙動
サブフレームiの物理アップリンク共有チャネル(PUSCH)送信に対するUEの送信電力設定P_(PUSCH)は、以下のように定義される。

P_(PUSCH)(i)=min{P_(MAX),10log_(10)(M_(PUSCH)(i))+P_(o_PUSCH)(j)+α・PL+Δ_(MCS)(MCS(i))+f(i)} [dBm]
」)

引用例3-5のLTE仕様において,UEの送信電力を求める際にα・PLが用いられることは周知であり,引用例3,4によれば,αは経路損失補償係数であるから,引用例3-5の記載を総合すると,「UEの送信電力制御において,LTE仕様に規定された経路損失補償係数を用いる。」ことは,周知技術であると認められる。


エ 引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

a 本願補正発明の「ユーザ装置」と,引用発明の「UE」とは,表現が異なるのみであって差異はない。

b D2Dリンクは,「ユーザ装置間のリンク」に含まれることは明らかであるから,引用発明の「D2D通信を行うD2Dリンクとセルラー通信を行うリンク」は,本願補正発明の「ユーザ装置間のリンクを含む2つ以上のリンク」に対応する。
そうすると,引用発明の「UEは,D2D通信を行うD2Dリンクとセルラー通信を行うリンクとを備え,それぞれの送信電力設定に含まれる各パラメータを構成」することと,本願補正発明とは,「ユーザ装置が、ユーザ装置間のリンクを含む2つ以上のリンクのために電力制御パラメータをそれぞれ構成するステップ」で共通する。

c 引用発明の「前記それぞれの送信電力設定に含まれるパラメータに基づいて,対応するリンクにおける信号の送信電力を制御する」ことは,本願補正発明の「前記電力制御パラメータに基づいて対応するリンクにおける信号の送信電力を制御するステップ」に相当する。

したがって,本件補正発明と引用発明とは,両者は,以下の点で一致し,また,相違している。

[一致点]
「電力制御方法であって、
ユーザ装置が、ユーザ装置間のリンクを含む2つ以上のリンクのために電力制御パラメータをそれぞれ構成するステップと、
前記電力制御パラメータに基づいて対応するリンクにおける信号の送信電力を制御するステップと、を含む,方法」

[相違点]
本願補正発明は,「各リンクのために構成された前記電力制御パラメータは、経路損失補償係数を含む」のに対して,引用発明は,「各リンクのために構成された前記電力制御パラメータは、経路損失補償係数を含む」ことについて特定していない点。


オ 判断
上記相違点について検討する。
上記ウのとおり,「UEの送信電力制御において,LTE仕様に規定された経路損失補償係数を用いる。」ことは,周知技術である。そうすると引用発明において,LTE仕様に基づいて「各リンクのために構成された前記電力制御パラメータは、経路損失補償係数を含む」ことは,当業者が容易に想到できたことである。
そして,本件補正発明が奏する効果も,当業者が引用発明から容易に予想できる範囲内のものである。
したがって,本件補正発明は,引用例1に記載された発明,及び引用例3-5に記載された周知技術に基づき,当業者が容易に想到できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[請求人の主張について]
請求人は,審判請求書において,以下のとおり主張する。
「一方、引用文献1には、送信電力オフセット(transmission power offset)のみが開示され、本発明の「経路損失補償係数」について開示や示唆がない。(中略)
引用文献3には、無線送信リソースのためにそれぞれ構成された電力制御パラメータのみが開示され、本発明の「ユーザ装置間のリンクを含む2つ以上のリンクのために電力制御パラメータをそれぞれ構成する」及び「各リンクのために構成された前記電力制御パラメータ」について開示や示唆がない。
従って、引用文献1の電力制御パラメータと引用文献3の電力制御パラメータとは、電力制御パラメータ自体の意味が異なり、取得方法も異なる。このため、引用文献1に引用文献3の「pathloss compensation α」を適用することは、当業者が適宜なし得ることではない。」

しかしながら,上記相違点の検討で述べたように,UEの送信電力制御において,LTE仕様に規定された経路損失補償係数を用いることは,周知技術であるから,引用発明における送信電力制御において,前記経路損失補償係数を用いることには,格別困難なことではなく,また,阻害要因はない。
したがって,上記請求人の主張は採用できない。

なお,平成31年4月15日に提出された上申書の内容は,分割出願した場合の内容に関するものであり,本願及び本件補正発明と関係ないことについての主張であるため,採用できない。

3 本件補正についてのむすび
よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について

1 本願発明
平成30年2月26日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成29年7月7日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものと認める。


2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり,本願の請求項1に係る発明に対して,引用例1,及び引用例3(周知技術を示す文献)が引用されている。


3 引用発明,及び周知技術
引用発明,及び周知技術は,上記第2[理由]2(2)イ,ウの項で認定したとおりである。


4.対比・判断
本願発明は本件補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると,相違点は上記第2[理由]2(2)エの相違点であるところ,本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した本件補正発明が,上記第2[理由]2(2)の「独立特許要件」の項で検討したとおり,引用例に記載された発明,及び周知技術に基づき,当業者が容易に想到できたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用例に記載された発明,及び周知技術に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例に記載された発明,及び周知技術に基づき,当業者が容易に想到できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-05-15 
結審通知日 2019-05-21 
審決日 2019-06-05 
出願番号 特願2016-530290(P2016-530290)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04W)
P 1 8・ 575- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼木 裕子  
特許庁審判長 中木 努
特許庁審判官 脇岡 剛
羽岡 さやか
発明の名称 電力制御方法、ユーザ装置及び通信システム  
代理人 大竹 裕明  
代理人 高田 大輔  
代理人 平川 明  

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