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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1353816
審判番号 不服2018-10919  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-08 
確定日 2019-07-31 
事件の表示 特願2013-246715「容器詰めレモン果汁含有飲料及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月 8日出願公開、特開2015-104323〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年11月28日の出願であって、平成29年9月25日付けで拒絶理由が通知され、同年12月14日に意見書及び手続補正書が提出され、同年同月15日に手続補足書が提出され、平成30年4月4日付けで拒絶査定され、同年8月8日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年9月13日付けで手続補正書(方式)が提出され、同年同月14日に手続補足書が提出され、平成31年4月5日に上申書が提出されたものである。
なお、本願に対して、平成27年8月25日付け及び同年9月9日付けで刊行物等提出書が提出されている。

第2 平成30年8月8日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年8月8日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
平成30年8月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、平成29年12月14日付け手続補正により補正した特許請求の範囲の請求項1?5には存在しなかった
「【請求項2】
製品の充填後の保持時間を15分以内とすることを特徴とする、請求項1に記載の方法。」を追加する補正を含むものである。

2 補正の適否
(1)目的要件について
ア 上記補正は、特許請求の範囲に新たな請求項2
「【請求項2】
製品の充填後の保持時間を15分以内とすることを特徴とする、請求項1に記載の方法。」を追加するものであるが、「製品の充填後の保持時間」という補正前の請求項の発明特定事項として全く存在しなかった事項を追加したものであり、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮に該当せず、請求項の削除、誤記の訂正、明りようでない記載の釈明に該当しないことは明らかであるから、特許法第17条の2第5項に掲げるいずれの目的にも合致するものとはいえない。

イ 目的要件についてのまとめ
本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

(2)上記のとおり本件補正は目的要件に違反するものであるが、仮に、発明を特定する事項である本件補正前の請求項4の「方法」に関して、「製品の充填後の保持時間を15分以内とすること」と限定したものであって、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとして、補正後の請求項2に係る発明(以下「本件補正発明2」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するか否か)について検討する。

ア 特許法第36条第6項第2号について
(ア)判断
請求項2は、請求項1を引用したものであるため、請求項1の記載に基づき書き下して示すと以下のとおりである。

「濃縮レモン果汁を100%レモン果汁に還元する際に用いる水を脱気又は不活性ガス置換し、製造工程で使用するタンク内を脱酸素状態とし、1対以上の金属製の平行平板電極に挟まれた密閉系の通電ユニットを用いて交流電圧を印加させて液体を殺菌する交流高電界殺菌処理工程を経て、容器詰め殺菌レモン果汁含有飲料中の5-ヒドロキシメチルフルフラール含有量を2.0ppm以下とすることを特徴とし、製品の充填後の保持時間を15分以内とすることを特徴とする100%レモン果汁からなる常温流通される容器詰め殺菌レモン果汁含有飲料の製造方法。」

上記請求項2に係る発明の特定事項である「製品の充填後の保持時間を15分以内とすること」との記載は、「保持」がどのような技術的事項を意味するのか明確でなく、請求項2の他の発明特定事項とどのような関係にあるのか不明確である。
そして、「製品」とは結局何を指すのか、「製品の充填後の保持時間」「15分以内」とは、どのように充填した後、どのように保持する時間が15分以内であること意味するのか不明であり、発明の詳細な説明を参照しても、その定義の記載もなく、本願出願時の技術常識から明らかであるともいえないので、その技術的意味は不明確であるといえる。

(イ)小括
したがって、本件補正発明2に関して、特許を受けようとする発明が明確であるということはできないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。

イ 特許法第36条第6項第1号について
上記アのとおり、特許を受けようとする発明が明確であるということはできないが、特定事項の記載をそのまま一応理解し、特許法第36条第6項第1号についても検討する。

(ア)本件補正発明2の記載
補正された請求項2に係る発明(本件補正発明2)は以下のとおりのものであると認める。

「濃縮レモン果汁を100%レモン果汁に還元する際に用いる水を脱気又は不活性ガス置換し、製造工程で使用するタンク内を脱酸素状態とし、1対以上の金属製の平行平板電極に挟まれた密閉系の通電ユニットを用いて交流電圧を印加させて液体を殺菌する交流高電界殺菌処理工程を経て、容器詰め殺菌レモン果汁含有飲料中の5-ヒドロキシメチルフルフラール含有量を2.0ppm以下とすることを特徴とし、製品の充填後の保持時間を15分以内とすることを特徴とする100%レモン果汁からなる常温流通される容器詰め殺菌レモン果汁含有飲料の製造方法。」

(イ)発明の詳細な説明の記載
100%レモン果汁からなる常温流通される容器詰め殺菌レモン果汁含有飲料の製造方法について、本願明細書には、製品の充填後の保持時間に関して、以下の記載がある。
(イa)「【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】100%レモン果汁飲料を交流高電界殺菌処理(殺菌温度が105℃、殺菌 装置への通液回数が1回、3回、4回の3種類)してビン容器にホットパックした直後(0分)、及び、それらを85℃で15分保持した後の製品の5-ヒドロキシメチルフルフラール含有量(ppm:上段)と官能評価結果(○(好適品質)、△(品質許容限界)、×(品質不可)の3段階で評価:下段)を示す。
【図2】100%レモン果汁飲料を交流高電界殺菌処理(殺菌温度が117℃、殺菌装置への通液回数が1?5回の5種類)してビン容器にホットパックした直後(0分)、及び、それらを85℃で5分、10分、15分保持した後の製品の5-ヒドロキシメチルフルフラール含有量(ppm:上段)と官能評価結果(○(好適品質)、△(品質許容限界)、×(品質不可)の3段階で評価:下段)を示す。」

(イb)「【実施例1】
【0026】
容器詰め100%レモン果汁飲料製造において、UHT殺菌処理を行った場合と交流高電界殺菌処理を行った場合とで得られる飲料の品質の差異を確認するため、以下の試験を行った。
【0027】
まず、レモン濃縮果汁とレモン香料を混合した。なお、脱酸素区分(脱O2)では不活性ガス雰囲気下でこの処理を行った。これらを100%レモン果汁となるようにゲージアップし(脱酸素区分は不活性ガス雰囲気下で脱気水使用)、調合液とした。この時のBrixは9.4であった。これらの調合液を、UHT殺菌区分は108℃60秒の条件、交流高電界殺菌区分は原液流量1030ml/分、使用電極間隔4mm、印加電界時間0.088秒、保持時間1.73秒、殺菌温度105℃、印加電圧766V/cmの条件で殺菌処理を行った。なお、このUHT殺菌処理条件と交流高電界殺菌処理条件は殺菌強度が同じとなるように設定し、保持時間によるF値(85℃でのF値で、Z値7.8)はUHT殺菌処理が888.62、交流高電界殺菌処理が10.56であった。」

(イc)「【実施例3】
【0038】
容器詰め100%レモン果汁飲料製造において、交流高電界殺菌処理の殺菌温度、殺菌装置への通液回数及び保持時間と飲料の品質との関連性を確認するため、以下の試験を行った。
【0039】
実施例1と同様の方法で調製した100%レモン果汁を交流高電界殺菌処理し、殺菌後の液を充填品温85℃になるようにビンに充填して、充填後に85℃の湯煎で所定時間(0分、5分、10分、15分)保持した。交流高電界殺菌条件は、殺菌温度は105℃と117℃の2区分で、殺菌装置への通液回数は105℃区分で1回通液、3回通液、4回通液の3パターン、117℃区分で1?5回通液の5パターンを行った。なお、1回通液あたりの印加電界時間は0.044秒、保持時間は0.865秒とし、その他の条件は実施例1の交流高電界殺菌処理と同様とした。
【0040】
各所定時間保持後のこれら製品について、HMF含有量の測定、及び、訓練された5名のパネラーによる官能評価を実施した。官能評価は、香り(レモン本来のフレッシュな香り立ち、加熱臭の強さ)、味(酸味のまろやかさ、後味の苦味・雑味)、外観(レモン果汁特有の色調を有しているか)をポイントとし、パネラーによるディスカッションにより、殺菌温度105℃、1回通液、保持時間0分の区分を基準として、基準とほぼ同等で本発明が所望する品質であるものを好適品質(○)、基準より劣るものの本発明の所望する品質の許容範囲であるものを品質許容限界(△)、基準よりも明らかに品質が異なり本発明の所望する品質よりも劣るものを品質不可(×)として、この3段階で評価を行った。
殺菌温度105℃での結果を図1に、殺菌温度117℃での結果を図2に示した。なお、HMF含有量は実施例1と同じ方法で測定した。
【0041】
この結果、殺菌温度105℃においては3回通液、4回通液の製品を15分保持したものが品質許容限界レベルであること、殺菌温度117℃においては1?3回通液の製品を15分保持したもの、4回通液の製品を10分保持したもの、及び、5回通液の製品を5分保持したものが基準と比べ品質許容限界範囲であること、4回通液の製品を15分保持したもの及び5回通液の製品を10、15分保持したものが所望する品質よりも劣り品質不可であることが明らかとなった。つまり、容器詰め100%レモン果汁飲料において、HMF含有量が2.0ppm以下となれば本発明が所望する品質レベルを維持することができ、好ましくは1.8ppm以下となるのが好適であることが示された。
【0042】
以上より、容器詰め100%レモン果汁飲料において、交流高電界殺菌処理を用いて殺菌処理を行って該飲料中のHMF含有量を2.0ppm以下、好ましくは1.8ppm以下とすることで、高品質な容器詰め100%レモン果汁飲料を得ることができ、且つ、経時的な変化も少なくすることができることが示された。



(ウ)判断
(i)本件補正発明2に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、上記の前提で検討する。

(ii)本件補正発明2の解決しようとする課題
本件補正発明2の解決しようとする課題は、その記載からみて、明細書全体の記載も参酌して、5-ヒドロキシメチルフルフラール含有量が2.0ppm以下である、レモン果汁本来の香味、風味、色調などが維持された100%レモン果汁からなる常温流通される容器詰め殺菌レモン果汁含有飲料を製造することができる方法の提供であると認められる。

(iii)判断
a 本願明細書の記載、特に実施例3の記載から、実施例1で採用された脱酸素条件下(段落【0027】)、図1、図2に示された、交流高電界殺菌装置における殺菌温度(105℃、117℃)及び殺菌装置への通液回数(1?5回)の条件(殺菌条件)と、ビン容器に充填後の85℃湯煎における保持時間(0?15分)の条件(保持条件)を変化させて、各種の容器詰め殺菌レモン果汁飲料を製造したことが理解され、そのうち特定の殺菌条件と保持時間を採用して製造された容器詰め殺菌レモン果汁飲料は、含有される5-ヒドロキシメチルフルフラールの含有量が2.0ppm以下であり、そして、5-ヒドロキシメチルフルフラールの含有量が2.0ppm以下である容器詰め殺菌レモン果汁飲料は、レモン果汁の本来の香味、風味、色調などがある程度維持されたものであることが理解される。

b そうすると、本件補正発明2に記載される「濃縮レモン果汁を100%レモン果汁に還元する際に用いる水を脱気又は不活性ガス置換し、製造工程で使用するタンク内を脱酸素状態とし、1対以上の金属製の平行平板電極に挟まれた密閉系の通電ユニットを用いて交流電圧を印加させて液体を殺菌する交流高電界殺菌処理工程」、及び「製品の充填後の保持時間を15分以内とすること」を含む方法のうち、図1、図2に示される、容器詰め殺菌レモン果汁に含有される5-ヒドロキシメチルフルフラールの含有量が2.0ppm以下となるような殺菌条件及び保持条件を満足する方法(図1、図2において5-ヒドロキシメチルフルフラールの含有量が2.0ppm以下である条件を採用した方法)については、上記課題を解決できると認められる。

c しかしながら、本件明細書の記載及び出願時の技術常識からみて、HMFの生成量や飲料の香味、風味、色調が、殺菌条件や保持条件、例えば、殺菌時の温度や加熱時間、保持する際の温度に依存するといえるところ、本件補正発明2には、それらの殺菌条件や保持条件について、例えば、殺菌時の温度や、加熱時間、保持する際の温度が、具体的に特定されていないから、本件補正発明2の全体において上記発明の課題が解決できることを本願明細書の記載から合理的に理解することができない。
また、本件補正発明の課題が解決できると認識できる本願出願時点の技術常識もない。
したがって、本件補正発明2は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると認められる。
よって、本件補正発明2は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

(エ)小括
したがって、本件補正発明2に関して、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるということはできないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1項に適合するものではない。

エ 独立特許要件についてのまとめ
したがって、その余の理由を検討するまでもなく、本件補正発明2は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものである。

3 補正却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項に違反し、また特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明の認定
第2で検討したとおり、平成30年8月8日付け手続補正は却下されることとなったので、この出願の請求項3に係る発明は、平成29年12月14日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、請求項3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

「【請求項3】
1対以上の金属製の平行平板電極に挟まれた密閉系の通電ユニットを用いて交流電圧を印加させて液体を殺菌する交流高電界殺菌処理工程を経て、容器詰め殺菌レモン果汁含有飲料中の5-ヒドロキシメチルフルフラール含有量を2.0ppm以下とすることを特徴とする、100%レモン果汁からなる常温流通される容器詰め殺菌レモン果汁含有飲料の製造方法。」

第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、以下のとおりのものと認める。
この出願の請求項1?7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献7、6,8?10に記載された発明及び技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

拒絶査定の対象となった、平成29年12月14日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項3である本願発明は、拒絶理由通知の対象となった、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項6に対応する。

引用文献7:特開2007-29014号公報
引用文献6:Journal of Food Science,1986年,Vol.51,No.1,p.184-187
引用文献8:特開平6-141825号公報
引用文献9:特開平4-365464号公報
引用文献10:特開平6-292546号公報

第5 当審の判断
当審は、原査定の拒絶の理由のとおり、本願発明は、前記刊行物1に記載された発明及び本願出願時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,と判断する。
理由は以下のとおりである。

1 引用刊行物
刊行物1:特開2007-29014号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7)
刊行物2:Journal of Food Science,1986年,51(1),p.184-187(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6)
刊行物3:特開平6-292546号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献10)
刊行物4:Agric.Biol.Chem.,1988年,52(9),p.2231-2234
刊行物5:日本食品科学工学会誌,2007年4月,第54巻 第4号,195-199頁
刊行物6:Journal of Food Engineering,2006年,74,p.211-216
刊行物7:特開平6-141825号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献8)
刊行物8:特開平4-365464号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献9)
刊行物9:特開2008-193933号公報
刊行物10:特開2010-189310号公報

なお、刊行物2?10は、本願出願日時点の技術常識を示す文献である。

2 引用刊行物の記載
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2007-29014号公報には、以下の記載がある。
(1a)「【請求項1】
1対以上の金属製の電極に挟まれた通電ユニットを用いて電気伝導性を有する液体食品である果汁を殺菌する方法であって、通電ユニットは密閉系にするとともに、通電ユニットの電極には交流電源を接続し、電圧を印加した通電ユニットに未殺菌果汁を連続的に通液することによって微生物を殺菌すること、且つ、この交流高電界殺菌処理に先立ち、未殺菌果汁を1又はそれ以上の回数濾過処理すること、を特徴とする果汁の殺菌方法。
【請求項2】
通電ユニット内部は、その中を通液する果汁自体によって加圧されてなること、を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記濾過処理において、850μm以上の粒子を除去すること、を特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
濾過処理が、濾布による濾過、20メッシュをこえるポアサイズの金属フィルタによる濾過、遠心分離、精密濾過から選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
時間当たり60L高電界処理した場合に、電極に1.0kV/cm以上の電圧を印加し、品温を120℃以上となること、を特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
印加電界時間が1秒以内であること、を特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
果汁中に含まれる香気成分を防止ないし抑制するものであること、を特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
脱酸素条件下で実施すること、を特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の方法。
・・・」(特許請求の範囲)

(1b)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、液体食品中で腐敗や変敗などの問題となる微生物(耐熱性芽胞菌を含む)を効果的に殺菌して、液体食品の保存性を向上させ、微生物制御のために使用する添加物量の削減や加熱殺菌に伴う加熱劣化の防止や抑制、例えば、色調の変化の抑制、有効成分(リモネン等)の分解などの防止や抑制を目的とするものである。更に殺菌の効率化を目的とするものである。
・・・
【0005】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、各方面から検討の結果、化学的方法ではなく電気的方法に着目するに至り、食品の加熱に伴う有効成分の変化の防止や制御、香気成分の変化の防止や制御、微生物制御の為の各種添加物の削減を目指し、交流電源を用いて電圧を印加する事により電界を発生させたところ上記有効成分の変化や香気成分の変化を制御し、更に効果的に微生物を連続的に殺菌することができ、しかも通常の方法では簡単に殺菌することのできない耐熱性芽胞菌も短時間に効率的に連続殺菌できることをはじめて見出し、この有用新知見に基づき、交流高電界殺菌処理システムに関する発明を完成し、その成果を先に特願2005-61139として特許出願したところである。
・・・
【0007】
そこで各方面から検討を行い、濾過処理に着目した。そこで交流高電界殺菌処理前の工程に濾過工程(不溶性固形物を除去する工程)を設けて果汁を殺菌処理したところ、電極内でスパークによる短絡が防止、抑制されて、電圧が一定し、その結果、殺菌が安定的に行われること、及び、長期保存しても二次凝集の発生が抑制され、更に、果汁の変色が防止、抑制されるだけでなく、リモネンといった香気成分等有用成分の変質や分解が防止、抑制されるという著効、しかも果汁に特に有用な著効が奏されることをはじめて発見した。なお、通常、完全に「抑制」された場合が「防止」となるが、本明細書においては、「防止」が不完全な「抑制」を意味する場合もある。果汁には野菜汁も包含される。
【0008】
本発明は、これらの有用新知見に基づいてなされたものであって、交流高電界殺菌を実施する前に濾過工程を1回以上実施することを特徴とする果汁の殺菌方法を基本的技術思想とするものである。交流高電界殺菌は、先に出願した特願2005-61139(2005年3月4日出願)にしたがって行う。
【0009】
すなわち本発明は、1対以上の金属製の電極に挟まれた通電ユニットを用いて電気伝導性を有する液体食品である果汁を殺菌する方法であって、通電ユニットは密閉系にするとともに、通電ユニットの電極には交流電源を接続し、電圧を印加した通電ユニットに未殺菌果汁を連続的に通液することによって微生物を殺菌すること、且つ、この交流高電界殺菌処理に先立ち、未殺菌果汁を1又はそれ以上の回数濾過処理すること、を特徴とする果汁の殺菌方法を提供するものである。」

(1c)「【0012】
また、本発明は、果汁色調の褐変防止ないし抑制及び有効成分(例えばリモネンといった香気成分)の分解を防止ないし抑制することを特徴とする殺菌方法、及び、脱酸素条件下における殺菌方法も提供するものである。
【0013】
更に本発明は、果汁、野菜汁のほか、これらを含有する各種果汁を包含する果汁を殺菌する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、通電ユニット内の電界中に液体食品を通過させることにより、液体食品を連続的に殺菌することができる。しかもその際、少なくとも通電ユニットの内部を加圧することによって、通常の微生物はもとより耐熱性微生物、特に耐熱性芽胞菌等も1秒以内というきわめて短い時間で殺菌でき、そのため、液体食品の風味、品質の劣化や有効成分の減少や変質も防止でき、液体食品の殺菌システムとして特に好適である。
【0015】
また、装置の面からは、通電ユニットのほか各装置や手段はパイプで連結し且つ密閉系となすことにより、これらの内部はポンプによって送液される液体食品自体の圧力によって加圧されるため、装置全体を圧力容器内に収容する必要がなく、装置はコンパクトとなり、操作は格段に簡素化され、きわめて効率的に殺菌処理を達成することができる。
【0016】
液体食品、特にペットボトルに充填したオレンジジュースといった容器入り液体食品は、自動販売機で販売されることが多く、その際は製造から一定期間経過後に消費されることになるが、殺菌処理しても、耐熱性芽胞菌が残っていると、その間にこれが繁殖して腐敗や品質の劣化を生じる。しかしながら、このような微生物を完全に殺菌するには、高温、且つ高圧でしかも長時間処理せざるを得ず、コストアップや液体食品の風味、品質の劣化は避けられない。
【0017】
本発明はこれらの点を一挙に解決するのにはじめて成功したものであって、特に飲食品の技術分野に適合した殺菌方法である。しかも、大型で複雑な加圧装置を使用する必要がないので、コスト面、操作面及び作業安全性の面からもすぐれており、小さな装置で非常に高い殺菌効果が得られる点においても、液体飲食品の殺菌システムとして特に卓越している。」

(1d)「【0027】
通電ユニット内は、開放系としてもよいが、密閉系とすることにより、通電ユニット内を加圧可能とすることができる。通電ユニット内は、それ自体を密閉系とすることにより、通電ユニットを加圧容器に収容することなく加圧することができる。例えば、通電ユニットは密閉されているため、その中に加圧ガスを供給してもよいし、通電ユニット内をポンプで通液する液体の圧力だけでも加圧状態とすることができる。
・・・
【0029】
図1は、本発明に係る液体食品殺菌装置の実施例を図示したものであり、上段が第1実
施例、中段が第2実施例、下段が第3実施例である。なお、図1において、濾過工程を除いた装置が先願に係る液体食品の連続殺菌装置、つまり交流高電界殺菌装置である。なお、本発明は全体又は一部を、脱酸素状態(不活性ガス雰囲気下、不活性ガス置換等)で実施することも可能である。
・・・
【0032】
通電ユニット(図面においては、高電界電極と表示)には、液体の供給口から供給される液体が流れる流路が形成され、この流路には交流電源(高周波交流電源)に接続される少なくとも一対の電極が臨んだ構成となっている。具体的には、この通電ユニットの電極には交流電源が接続され、接続される電極は、絶縁体に覆われた金属の電極を最低1対以上臨んだ構成にする事により殺菌できる。更に、電極を覆う絶縁体は、加圧出来る様に密閉状態である。
【0033】
電極の種類としては、電気伝導性を有する金属であれば問題無いが、電極の腐食など劣化防止の為には、チタン製、白金製もしくはステンレス製が望ましい。また、通電ユニットの電極は絶縁体を複数枚重ねる事により、電極を何枚も積層させる事が出来る。」

(1e)「【0047】
本発明は、果汁を処理対象とするものであるが、果汁には、果実のジュースだけでなく、野菜のジュースである野菜汁も含まれ、これらの混合物も広く包含するものである。また、果汁や野菜汁を少量でも含有するものも本発明の果汁や野菜汁に含まれる。
果汁の種類: オレンジ、レモン、グレープフルーツ、みかん、柚子などの柑橘類及びアップル、パインアップル、トマト、キャロット、ぶどう等の搾汁液が使用できる。果汁としては、濃縮する前の果汁、濃縮還元果汁、希釈果汁、混濁果汁、透明果汁など何れのタイプでも良い。・・・」

(1f)「【0050】
圧力の影響
図1の装置を用いて(但し、濾過工程を除く)上記微生物を用い通電ユニット内を0.4、0.6、0.8、0.95MPaに加圧し、電気伝導性を付与する為に0.01%食塩水中に微生物をケン濁した物を通液した。使用した電極は6mm(幅)×32mm(高さ)×電極間間隔1mm及び6mm(幅)×16mm(高さ)×電極間間隔1mmを用い、ポンプを使用して、流速1L/分で通液した。それぞれの電極の交流電界印加時間は、0.011秒及び0.006秒で印加電界は8000V/cm及び8500V/cmで処理(周波数20kHz)を行った。そのときの品温は、115℃であった。処理後1秒以内に常温まで冷却を行い、生残菌数(対数)-初期芽胞菌数(対数)にて示す(図2)。この数値の正数値が死滅菌数を示す。
・・・
【0052】
(実施例2)
印加電界時間及び印加電圧の影響
実施例1で用いた微生物を用い通電ユニット内を0.9MPaに加圧し、使用した電極は6mm(幅)×32mm(高さ)×電極間間隔1mm、2mm及び4mmび及び6mm(幅)×24mm(高さ)×電極間間隔2mm及び4mmを用い、周波数20kHz、流速1L/分にて通液した。それぞれの電極の交流電界印加時間を下記表1に示す。
【0053】



イ 刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物2には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(2a)「貯蔵中のレモンジュースのアスコルビン酸の減成及び褐色化に関する初期溶存酸素レベルの効果

36℃で貯蔵されたレモンジュースにおける質の悪化(アスコルビン酸の減成、褐色化、ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)とフルフラールの生成)の速度に関する、異なる初期溶存酸素濃度(0.41,1.44,3.74mg/L)の効果が調査された。
アスコルビン酸の減成やフルフラール生成の速度は、酸素レベルが異なっても大きな変化はなかった。アスコルビン酸の変成は支配的に嫌気性であると考えられた。褐色化の前の遅滞期間が酸素レベルに依存して増加した。ゼロ次、一次、二次、動力学的モデルが、レモンジュース貯蔵中に生じる種々の減成に適合した。高い相関関係が褐色化指標、HMF形成、フルフラール形成との間で得られ、3つ全てがレモンジュースの貯蔵温度の適切でないことの化学指標として適していることが示された。」(タイトル及び要約)

(2b)「この研究では、貯蔵中のレモンジュースの質変化に関する異なる初期溶存酸素の決定がなされた。貯蔵中に生じた質低下の動力学(アスコルビン酸の減成、褐色化、フルフラール及びHMFの生成)も調査された。

材料及び方法
ジュースサンプル
新鮮に絞られたレモンジュースは、パスツール法で低温殺菌(80℃30秒)され、だだちに、以下のように製造された。
・・・
分析
・・・
フルフラール及びヒドロキシメチルフルフラール(HMF)
・・・HMFは、チオバルビチュリック酸(TBA)のHMFとの色反応を基礎としたMeydavとBerk(1978)の色彩計法によって決定した。」(1頁右欄下から6行?2頁左欄42行)

(2c)「表1-36℃で貯蔵したレモンジュースのアスコルビン酸(AA)の変化量、褐色化指標(BI)、ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)とフルフラール

^(a)初期アスコルビン酸濃度=476mg/L
^(b)ND=決定せず
」(2頁表1)

(2d)「高い重要な相関一致が褐色化指標とHMFの形成とフルフラールの形成との間で得られ、三つすべてがレモンジュースの貯蔵温度が不適切であることの化学的指標として適していることを示唆している。」(4頁右欄11?14行)

ウ 刊行物3
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物3には、以下の記載がある。
(3a)「
【請求項1】原果汁をプレコート材を用いずにセラミック膜濾過器で加圧除菌濾過し、かくして細菌類を除去して無菌生果汁を得ることを特徴とする果汁の製造方法。
【請求項2】原果汁をプレコート材を用いずにセラミック膜濾過器で加圧除菌濾過して細菌類を除去し、次いで透過果汁中の酸素を脱気除去して無菌生果汁を得ることを特徴とする果汁の製造方法。
【請求項3】原果汁をプレコート材を用いずにセラミック膜濾過器で酸素を含まないガス雰囲気下に加圧除菌濾過し、かくして細菌類を除去して無菌生果汁を得ることを特徴とする果汁の製造方法。
【請求項4】原果汁をプレコート材を用いずにセラミック膜濾過器で酸素を含まないガス雰囲気下に加圧除菌濾過して細菌類を除去し、さらに透過果汁中の酸素を脱気除去して無菌生果汁を得ることを特徴とする果汁の製造方法。
・・・
【請求項11】該酸素を含まないガスが窒素ガスである請求項3または4に記載の方法。
【請求項12】該加圧ガスが窒素ガスである請求項5記載の方法。
【請求項13】原果汁が柑きつ類の果汁を含む請求項1ないし12のいずれかに記載の方法。・・・」(【特許請求の範囲】)

(3b)「【0018】あるいは、除菌濾過した果汁を容器に充填する前に脱気を行うことにより、果汁に溶解した酸素を除去してもよい。脱気工程を追加することにより、厳密に不活性ガス雰囲気下で除菌濾過を行わなくとも、プロセス全体としてビタミンCなどの酸化や仁果類の果汁の褐変をかなり抑制することができるし、また原果汁自体にもともと含まれていた酸素を除去できるため本プロセスの後の酸化がさらに防止されるという効果も得られる。もちろん不活性ガス雰囲気下で除菌濾過を行い、かつ脱気工程を設けることが、酸化や褐変の防止という観点からは最も好ましい。 」

(3c)「【0020】本発明の方法の対象となる果汁としては、温州みかん、オレンジ、グレープフルーツなどの柑きつ類、りんご、なしなどの仁果類、あるいはぶどう、キウイ、いちご、ももなどの果汁のように加熱により異臭味成分が生成されるものが主として含まれるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、これまで加熱殺菌が必要であるとされてきたあらゆる飲料製品の製造に対して本発明の方法が適用できることは言うまでもない。また、本発明の方法は、容器に充填された形で流通経路にのって需要者に提供されるもののみならず、除菌濾過した後にそのままレストラン等で客に提供されるような飲料製品をも対象とする。」

(3d)「【0021】
【実施例】
実施例1
図1は本発明の方法を実施するための好適な装置のプロセスフローの一例を示すものである。図1において、果実の搾汁等により得られた原液は原液タンク1に入れられ、循環ポンプ2およびセラミック膜濾過器3を経てふたたび原液タンクに戻るという循環が行なわれる。セラミック膜濾過器3では当該原液の除菌濾過が行なわれ、透過液は充填器4で容器に充填されて製品となる。なお、前記循環路を循環する原液の一部が多管式熱交換器5を通過して冷却される。前記循環路およびセラミック膜濾過器3から充填器4までの透過液の流路は密閉され、原液タンク1内に窒素ガスが導入されて当該密閉系が加圧下に保たれる。この装置は熱に弱い部材を使用していないので、装置全体を蒸気で殺菌処理することが可能である。」

(3e)「【0027】実施例7
以下の条件に従い、窒素加圧により膜分離法で搾汁直後のりんご果汁を除菌濾過し、加熱殺菌することなく、そのまま窒素雰囲気下で透過果汁を内容量100ミリリットルのガラス製の瓶に充填した。
原液タンク: 50リットル
膜濾過器: 日本碍子製
材質アルミナ
モノリス型、長さ1000mm、外径30mmφ
内径3mmφ×37個
膜面積0.35m^(2)
操作圧力: 170kPa
膜面流速: 3m/s
膜孔径: 0.1ミクロン
この透過果汁について、標準寒天培地を用いた平板法で一般細菌、MRS培地を用いた平板法で乳酸菌、ポテトデキストロース培地で酵母数を計数した結果、表1に示すように細菌類は検出されなかった。
【表1】
・・・
また、この透過果汁について、果糖より合成され悪い風味を有する不純物として知られるヒドロキシメチルフルフラール(HMF)の濃度を島津製作所製液体クロマトグラフィ装置で分析したところ、HMFは検出されなかった。一方、市販の濃縮還元100%りんご果汁では4.7ppmのHMFが検出され、同じく市販の30%りんご果汁では6.4ppmのHMFが検出された。なお、他の成分を含めた分析結果を表2に示す。
【表2】
・・・
【0028】
【発明の効果】本発明によれば、複雑な組成を持つ果汁から細菌類を信頼性高く除去することが可能であり、これにより果汁の加熱殺菌処理が省略ないし簡略化されることから、熱による異臭味物質の生成が抑制ないし防止され、さらにプレコート材を用いないためにそれぞれの果汁に特有の香や風味を与える成分が除去されず、従来にないフレッシュな香味の果汁を製造することができる。」

エ 刊行物4
本願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物5には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(4a)「素早く便利な柑橘類のジュース中のフルフラール(FUR)と5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)の量の決定がHPLCによってなされた。・・・FURとHMFの標準添加法による回復率は平均で99.6%であった。・・・

柑橘類ジュースの製造時及び貯蔵時の加熱により、味や色が変化する。フルフラール(FUR)と5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)はしばしば、柑橘類産業の品質低下指標として使用されてきた。」(要約及び2231頁左欄1?5行)

(4b)「材料及び方法
材料 次の6種類の柑橘類が高知果樹実験場から提供された:
・・・レモン」(2231頁右欄1?8行)

オ 刊行物5
本願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物5には、以下の記載がある。
(5a)「植村ら^(7)8))は、液状食品の高品質な殺菌を行う交流高電界技術を開発した。交流高電界技術とは液状食品に交流の高電界を短時間印加することにより,ジュール加熱による急速加熱と高電界による微生物破壊の相乗効果で微生物を瞬間的な殺菌を可能とするものである。本研究ではこの交流高電界技術を用いることにより,柑橘果汁(レモン)中に含まれるPEを効果的に失活させ,熱による劣化の少ない高品質な果汁を製造することを目的とし,交流高電界処理によるPE失活の応用,その失活メカニズムの検討,マイクロ波加熱との比較を行った。同時に,果汁の酵素失活処理後の5-ヒドロキシメチルフランの生成量の測定をすることにより交流高電界処理による熱劣化について検討した。」(195頁左欄最終行?右欄11行)

(5b)「


6.加熱による成分変化
図7は交流高電界処理(・・・)したレモン果汁および温浴加熱(・・・)したものに含まれる5-HMF量を測定した結果を示した。・・・
交流高電界処理をした試料に含まれる5-HMF量は未処理のものと同程度であった・・・。この結果より交流高電界処理を行った試料は、ほとんど熱劣化を受けていないことを示しており、交流高電界処理を用いることにより、従来の加熱処理のものよりも高品質な果汁を製造することができるものと考えられた。」(199頁左欄下から13行?最下行)」

カ 刊行物6
本願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物6には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(6a)「28℃,37℃,45℃で8週間貯蔵した柑橘類ジュース濃縮物(オレンジ、レモン、グレープフルーツ、ミカン)のアスコルビン酸減成の動力学が調査された。アスコルビン酸の各温度での減少は一次動力学モデルに従った。・・・ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)はアスコルビン酸減成の分解化合物の一つであるから、その形成も調査された。HMF蓄積量は、ゼロ次動力学モデルに適合し、・・・重要な一致が、全ての貯蔵温度、全ての柑橘類濃縮物において、HMF蓄積量とアスコルビン酸損失との間で得られた。」(要約)

(6b)「1.緒言
貯蔵時の食品の栄養上の質はますます重要な問題となってきている。
柑橘類のビタミンC濃度は、貯蔵時に破壊されることは経験されており・・・、アスコルビン酸(ビタミンC)ような栄養の消失は、柑橘類ジュース濃縮物のような製品の陳列期間の決定的な要因といってもよい・・・ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)はアスコルビン酸の分解生成物のひとつである・・・」(緒言)

キ 刊行物7
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物7には、以下の記載がある。
(7a)「
【請求項1】 構成成分である水として、脱気された水を使用することを特徴とする果汁または清涼飲料水の製造方法。
【請求項2】 脱気された水の溶存気体濃度が、1.0ppm以下である請求項1記載の清涼飲料水の製造方法。
【請求項3】 脱気された水の溶存酸素濃度が、0.3ppm以下である請求項1記載の清涼飲料水の製造方法。
【請求項4】 膜式真空脱気法により脱気された水を使用する請求項1、2または3記載の清涼飲料水の製造方法。
【請求項5】 脱気された水と他の成分とを窒素雰囲気下で混合する請求項1?4のいずれか1つに記載の清涼飲料水の製造方法。」(【特許請求の範囲】)

(7b)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、果汁および清涼飲料水の改良された製造方法に関する。本発明の対象となる飲料は、飲料を果汁、清涼飲料水、乳飲料、炭酸飲料、アルコール飲料に分類した場合の果汁および清涼飲料水であり、かつ水を原料の一部として添加する飲料をいう。例えば、濃縮還元果汁、果汁飲料、水に着味物質,着香料,甘味料,着色剤,乳飲料原料,乳酸飲料原料,ビタミン,ミネラル,カフェイン含有物などを添加した飲料、スポーツ飲料などが挙げられ、ドリンク剤(医薬品)も本発明の対象となる清涼飲料水に含まれる。
【0002】
【従来の技術】果汁や清涼飲料水を製造するに当り、これらの原料の一部として、例えば濃縮果汁の還元や希釈、清涼飲料水の原料即ち着香料,甘味料,着色剤,ミネラル,乳原料、乳酸原料、果汁原料などの溶解・希釈に水が使用される。しかしながらこれまでは、炭酸飲料を別とすれば、原料水の溶存気体濃度がコントロールされることはなく、通常、空気飽和の水が使用されている。果汁や清涼飲料水の加熱殺菌工程での加熱により、溶存気体が一部抜ける場合があるが、溶存気体が抜けるには時間を要するため、果汁や清涼飲料水は実質的には溶存気体存在下で加熱されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】果汁や清涼飲料水は製造時の加熱殺菌や製造後の時間経過により、着色、退色、色相変化、フレーバーの減少、オフフレーバーの増加などの品質低下が生じるという問題がある。このため、ビタミンCなどの酸化防止剤を添加したり、容器内を窒素シールするなどして、これらの変質の抑制に努めているが、完全なものではなく、また酸化防止剤自体の酸化物が着色、色相変化、風味変化の原因となっている。さらに、ビタミンEなどを添加した飲料ではこれらの高価な成分の分解・減少が生じる欠点を有している。」

(7c)「【0015】例えば、あらかじめ容器に窒素や炭酸ガスを充填した後、濃縮果汁などと脱気水、あるいはその混合物を注入する方法や、無酸素気体を容器に供給しつつ、脱気水あるいはその混合物を充填する方法を採ることができる。無酸素雰囲気の酸素濃度は、1%以下が好ましく、0.5%以下が更に好ましく、0.1%以下が最も好ましい。タンクや容器への脱気水の注入を、特に、酸素濃度が比較的高い雰囲気、即ち酸素濃度が1?20%の気体中で行う場合には、脱気水の注入口を容器の底に近くし、メニスカス下に脱気水を注入することが好ましい。」

(7d)「【0029】
【発明の効果】本発明により、果汁や清涼飲料水などの飲料は製造時の加熱殺菌や製造後の経時による変質、即ち着色、退色、色相変化、フレーバーの減少、風味の変化が抑制され、品質が向上する。また、ビタミンCやビタミンEなどの還元剤の添加が不要となるかまたは減少させることができ、ビタミンEなどの高価な成分を添加する場合は残存量が増す。」

ク 刊行物8
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物8には、以下の記載がある。
(8a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 加熱工程及び希釈工程のうちの少なくとも1つの工程を含むアスコルビン酸含有溶液の処理方法において、上記1つの工程の前工程として膜脱気工程を設けたことを特徴とするアスコルビン酸含有溶液の処理方法」

(8b)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、ビタミンCでもあるアスコルビン酸を含む溶液の処理方法、特に上記アスコルビン酸の酸化防止を目的としたアスコルビン酸含有溶液の処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】上記のアスコルビン酸を含む溶液としては、果汁・野菜ジュース、清涼飲料水、機能性飲料、栄養剤、注射剤等多種多様なものがある。
【0003】これらアスコルビン酸含有溶液の製造工程には、各種添加物の溶解度を高める工程の他、殺菌のための加熱工程や、所定の濃度に調整するための希釈工程等が含まれる。例えば、果汁・野菜ジュースは、第2図に示すような各工程を経て製造されているが、この場合は、果汁類と香料・酸味料・糖類等と希釈水を調合し、高温殺菌・充填等の各工程を経て製品とされる。
【0004】上記のような果汁・野菜ジュースの製造工程における、希釈水は、通常、濾過・イオン交換等の工程を経て調合工程に供給し、そこでそれら混合物を均質化した後、真空脱気等により溶存酸素を除去し、後工程及び製品保管時のアスコルビン酸の酸化を防止しているが、上記希釈水中に相当量の溶存酸素が存在すると、調合の時点で先にアスコルビン酸が酸化してしまう。そのため、従来は調合時にアスコルビン酸を添加したり、酸化防止剤を添加する等の処理が必要であって、製品のコストが高くなりがちである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】発明者等は、多くの実験や試策の中から溶液中のアスコルビン酸の酸化は、溶存酸素によるものであることを知得し、この溶存酸素を連続的に除去(残存濃度、約 0.5ppm 以下にすれば、上記の問題点を解決することができる上、酸化防止剤等の添加剤の減少、生産効率向上が図れることを見出したものである。」

(8c)「【0020】
【発明の効果】以上説明したように、この発明においては、製造工程中並びに製品保管時のアスコルビン酸の酸化分解を極めて低レベルに抑えることができるため、所定のアスコルビン酸含有率の製品を提供することが可能となる。このことは、ビタミンCとしてのアスコルビン酸を含むレモン、蜜柑等の果汁飲料や、栄養剤(経口、経腸、経静脈栄養剤等)において、栄養価の高い製品を提供できることになる。更に従来のような酸化防止剤の添加が不要になるため、風味や栄養価(ビタミンC)を損なうことがない。」

ケ 刊行物9
本願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物9には、以下の記載がある。
(9a)「【0002】・・・これまで研究されてきた食品中の5-HMFは、食品を不適切な環境で長期に保存したり、高温に加熱することによって産生する不純物としての産物であった。」

コ 刊行物10
本願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物10には、以下の記載がある。
(10a)「【請求項14】乳酸中の5-ヒドロキシメチルフルフラールが2ppm以下であることを特徴とする請求項13に記載の乳酸」

3 刊行物1記載の発明
摘記(1a)には、1対以上の金属製の電極に挟まれた通電ユニットを用いて電気伝導性を有する液体食品である果汁を殺菌する方法であって、通電ユニットは密閉系にするとともに、通電ユニットの電極には交流電源を接続し、電圧を印加した通電ユニットに未殺菌果汁を連続的に通液することによって微生物を殺菌すること、且つ、この交流高電界殺菌処理に先立ち、未殺菌果汁を1又はそれ以上の回数濾過処理する果汁の殺菌方法が記載され(請求項1)、請求項1を引用した請求項8には、脱酸素条件下で実施する方法であることも記載されている。
そして、特許請求の範囲請求項8に係る発明に対応して【0005】【0008】【0009】【0027】【0029】【0032】【0052】に記載されるように、その発明は発明の詳細な説明に実態を伴って記載されたものである。

したがって、刊行物1には、請求項8に係る発明として、以下の発明が記載されていると認められる(以下「刊行物1発明」という。)。

「1対以上の金属製の電極に挟まれた通電ユニットを用いて電気伝導性を有する液体食品である果汁を殺菌する方法であって、通電ユニットは密閉系にするとともに、通電ユニットの電極には交流電源を接続し、電圧を印加した通電ユニットに未殺菌果汁を連続的に通液することによって微生物を殺菌すること、且つ、この交流高電界殺菌処理に先立ち、未殺菌果汁を1又はそれ以上の回数濾過処理し、脱酸素条件下で実施する果汁の殺菌方法」

4 対比・判断
(1)対比
刊行物1発明の「密閉系に」した「1対以上の金属製の電極に挟まれた通電ユニット」は、本願発明の「1対以上の金属製の平行平板電極に挟まれた密閉系の通電ユニット」と、
「1対以上の金属製の電極に挟まれた密閉系の通電ユニット」である限りにおいて一致している。
また、刊行物1発明の「液体食品である果汁を殺菌する方法」及び「果汁の殺菌方法」は、該果汁の殺菌方法によって、液体食品である殺菌果汁飲料が製造されていることに他ならないのであるから、本願発明の「100%レモン果汁からなる常温流通される容器詰め殺菌レモン果汁含有飲料の製造方法」と、「殺菌果汁含有飲料の製造方法」である限りにおいて一致している。
さらに、刊行物1発明の「通電ユニットは密閉系にするとともに、通電ユニットの電極には交流電源を接続し、電圧を印加した通電ユニットに未殺菌果汁を連続的に通液することによって微生物を殺菌すること」及び「この交流高電界殺菌処理」との特定は、本願発明の「密閉系の通電ユニットを用いて交流電圧を印加させて液体を殺菌する交流高電界殺菌処理工程を経」ることに該当するといえる。
また、刊行物1発明においては、「この交流高電界殺菌処理に先立ち、未殺菌果汁を1又はそれ以上の回数濾過処理」することや「脱酸素条件下で実施する」ことをさらに特定しているが、本願明細書【0018】や【0019】?【0021】にそのような条件下で実施することが望ましいとの記載があるように、本願発明との対比において相違点となるものではない。

そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、
「1対以上の金属製の電極に挟まれた密閉系の通電ユニットを用いて交流電圧を印加させて液体を殺菌する交流高電界殺菌処理工程を経て、果汁含有飲料の製造方法。」 である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:1対以上の金属製の電極の形状配置に関して、本願発明においては、平行平板電極であると特定しているのに対して、刊行物1発明では、その形状配置が明らかでない点

相違点2:果汁含有飲料に関して、本願発明においては、100%レモン果汁からなる常温流通される容器詰め殺菌レモン果汁含有飲料と特定されているのに対して、刊行物1発明では、果汁の種類及び使用態様が特定されていない点

相違点3:本願発明は、「容器詰め殺菌レモン果汁含有飲料中の5-ヒドロキシメチルフルフラール含有量を2.0ppm以下とする」と特定しているのに対して、刊行物1発明では、そのような特定のない点

(2)相違点の判断
上記相違点について検討する。

ア 相違点1について
刊行物1【0033】には、電極を何枚も積層させることの記載があり、【0050】や【0053】の【表1】には、使用した電極の幅、高さ、電極間間隔で条件を特定した記載があり、これらの記載からみて1対以上の金属製の電極の形状配置が、平行平板電極のタイプを想定していることは明らかである。また、電界処理装置において、一対の平行平板電極を用いることは周知慣用技術である。
したがって、刊行物1発明において、1対以上の金属製の電極の形状配置を平行平板電極であると特定することは当業者が容易になし得る技術的事項である。

イ 相違点2について
刊行物1摘記(1e)には、「本発明は、果汁を処理対象とするものであるが、果汁には、果実のジュースだけでなく、野菜のジュースである野菜汁も含まれ、これらの混合物も広く包含するものである。また、果汁や野菜汁を少量でも含有するものも本発明の果汁や野菜汁に含まれる。
果汁の種類: オレンジ、レモン、グレープフルーツ、みかん、柚子などの柑橘類及びアップル、パインアップル、トマト、キャロット、ぶどう等の搾汁液が使用できる。果汁としては、濃縮する前の果汁、濃縮還元果汁、希釈果汁、混濁果汁、透明果汁など何れのタイプでも良い。・・・」との記載があり、刊行物1発明の果汁含有飲料の種類として、レモンの濃縮する前の果汁、濃縮還元果汁 つまり100%レモン果汁を選択することは、当業者が容易になし得る技術的事項であり、飲料である以上、流通時に何らかの容器詰めをされることは当然である。
また、刊行物1摘記(1b)には、【0007】に殺菌後長期保存しても、二次凝集の発生、果汁の変色、有用成分の変質や分解を防止できることが記載され、摘記(1c)には、【0016】に自動販売機で製造から一定期間後に消費することを前提にした記載もあるのであるから、常温流通されることを特定することは、刊行物1においても示唆されている技術的事項である。
したがって、刊行物1発明において、容器詰めされて常温流通されることや、濃縮還元果汁を含めた100%レモン果汁に種類を特定することは、当業者であれば容易になし得る技術的事項にすぎない。

ウ 相違点3について
刊行物1は、摘記(1b)(1c)に記載されるように、液体食品の加熱殺菌に伴う加熱劣化の防止や抑制、色調の変化の抑制、有効成分(リモネン等)の分解などの防止や抑制を目的とするものであることが記載され、果汁色調の褐変防止ないし抑制及び有効成分(例えばリモネンといった香気成分)の分解を防止ないし抑制する殺菌方法であることが示されている。
また、液体食品の加熱殺菌に伴う加熱劣化や貯蔵時の劣化の指標として5-ヒドロキシメチルフルフラール含有量を用いることは、刊行物2?6,9に記載されるように当業者にとって周知の技術的事項である(刊行物2(摘記(2a)(2b))刊行物3(摘記(3c)(3e))刊行物4(摘記(4a)(4b))刊行物5(摘記(5a)(5b))刊行物6(摘記(6a)(6b))刊行物9(摘記(9a)))。
そして、5-ヒドロキシメチルフルフラール含有量を2.0ppm程度以下とすることについても、刊行物2(摘記(2c)),刊行物3(摘記(3e)),刊行物5(摘記(5b)),刊行物10(摘記(10a))に示される5-ヒドロキシメチルフルフラール含有量の数値からみて、製造時や貯蔵の結果生じる不純物の上限を設定しただけの通常の数値範囲の設定にすぎないといえる。

エ 本願発明の効果について
本願明細書には、【0012】に、「本発明によれば、常温流通可能なものを含む各種容器詰めレモン果汁含有飲料の製造時の褐変や風香味劣化を抑制するとともに、経時に伴う褐変、風香味劣化をも抑制し、嗜好性の高い高品質な容器詰めレモン果汁含有飲料を提供することができる」ことが記載され、実施例1?3には、交流高電界殺菌処理やタンク内不活性ガス置換や脱気水使用により、褐変度や5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)含有量の増加が抑制され、製造時の官能評価が充填後保持時間が15分以内であれば殺菌通液回数が少ない場合には、品質許容限界内となったことが示されている。
しかしながら、刊行物1には、すでに交流高電界殺菌処理を用いた殺菌の方が超高温加熱処理(UHT)より加熱劣化や色調変化が抑制されることは示されているのであり、刊行物2,3からみても、溶存酸素の量を減少させることで、HMF含有量を抑制できることは知られているのであるから(刊行物2の摘記(2a)、刊行物3の摘記(3e))、交流高電界殺菌処理を用いた刊行物1発明において、脱酸素技術を採用した結果として、本願発明の効果が当業者の予想を超える顕著なものと認めることはできない。
また、充填後保持時間に関する効果に関しては、充填後短時間で処理することが望ましいことは自明であるとともに、充填後保持時間の特定自体に関しては、特定の殺菌通液回数や保持温度を効果の前提とするものであるにもかかわらず、それら事項は本願発明の特定事項となっていないものであり、特許請求の範囲に基づかない効果であるともいえる。

したがって、本願発明の効果は、刊行物1記載の発明及び刊行物2?10に記載の本願出願日時点の技術常識からみて、当業者の予測を超える顕著なものとはいえない。

オ 請求人の主張について
(ア)刊行物1記載の発明からの動機付け及びHMF低下手段について
a 請求人は、平成30年8月8日付け審判請求書の同年9月13日付け手続補正書(方式)4?5頁において、刊行物1(原査定時の引用文献7)からHMFを一定以下とする動機付けがないし、HMFが飲料の指標であっても一定以下の飲料が作成できたこととは別である旨主張している。

b しかしながら、上述のとおり、刊行物1発明は、液体食品の加熱殺菌に伴う加熱劣化の防止や抑制、色調の変化の抑制、有効成分(リモネン等)の分解などの防止や抑制を目的とするものであるから、加熱劣化等の指標として、本願出願時周知のHMFを用い、さらに周知の脱酸素技術を用いてHMF含有量を低下させること、およびHMF含有量を2.0ppm程度以下とすることは、当業者が容易になし得た技術的事項である。

(イ)脱酸素製法について
a 請求人は、平成30年8月8日付け審判請求書の同年9月13日付け手続補正書(方式)5?6頁において、脱酸素製法は、酸化防止を目的としてなされており、加熱劣化としての効果は技術常識とはいえず、HMFを軽減できるという技術常識はない旨主張している。

b しかしながら、上述のとおり、刊行物2,3では、溶存酸素を低下させることで、HMF量が低下することが示されており、HMFが加熱劣化や貯蔵経時劣化の周知の指標である以上、脱酸素製法を用いて貯蔵経時劣化だけでなく加熱劣化によるHMF量を低下させることは、当業者が容易に想到し得る技術的事項に過ぎない。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。

(ウ)果汁の種類の相違について
a 請求人は、平成30年8月8日付け審判請求書の同年9月13日付け手続補正書(方式)6?7頁において、甲第2号証を提出し、褐変の主要因となる物質が異なることから、レモン果汁とオレンジ果汁と同一に論じられず、果汁の色が異なるのでレモン果汁は褐変が目立ちやすく褐変防止技術が異なる旨主張している。

b しかしながら、甲第2号証は、要約に示されるように、褐変の主要因がゆずの場合にHMFでないことを示しているだけで、刊行物2の「高い相関関係が褐色化指標、HMF形成、フルフラール形成との間で得られ、3つ全てがレモンジュースの貯蔵温度の適切でないことの化学指標として適していることが示された。」(摘記(2a))との記載にあるように、レモンの褐変がHMFと関連していることは知られている。
そして、甲第2号証においても、前提技術を説明した部分にも記載されるようにHMFが褐変と関連していることは説明されており、HMFが果汁製品の重要な品質指標として考えられてきたこと、及びHMFが加熱劣化の指標を示すことは周知の技術的事項であるのだから、上記のゆずの場合の主要因の検討結果が、刊行物1発明において、当業者がHMFを劣化指標として採用することを断念させるような事情とはならず、容易に想到するとの結論に変わりはない。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。

(エ)HMFの数値の意味や「常温流通される」との特定について
a 請求人は、平成30年8月8日付け審判請求書の同年9月13日付け手続補正書(方式)7頁において、刊行物2は、80℃30秒で殺菌されたレモン果汁を36℃で保管した特殊条件下での文献で加熱劣化の指標としてHMFを採用することを示したものであり、一般的な技術水準を示したものとはいえない旨主張している。
また、「常温流通される」との特定は、通常の飲料よりも長時間過酷な環境におかれる物であるという意味で、他の物と区別できる旨のことも主張している。

b しかしながら、請求人は、HMFの数値の意味が殺菌条件や保管条件が異なることを根拠に本願発明と異なる旨主張しているが、特許請求の範囲には保管条件は何ら特定されておらず、クレームに基づかない主張であるとともに、刊行物2のような低温殺菌条件が常温流通を想定した実験条件として特殊なものとはいえないし、加熱劣化の指標としてHMFを採用することは上述のとおり周知の技術的事項にすぎない。
また、「常温流通される」との特定に関して、刊行物1には、長期保存しても果汁の変色有用成分の変質が防止できることが示されており、刊行物2においても、溶存酸素に留意すれば36℃という常温以上の温度で貯蔵して、HMFが一定以下であるとの結果が得られている。
したがって、刊行物1及び刊行物2に記載された技術的事項から当業者であれば「常温流通される」との特定をすることに何ら困難性はないといえる。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。

(オ)以上のとおり、請求人の主張はいずれも採用できない。

5 請求項4に係る発明について
平成29年12月14日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項4に係る発明は、本願発明において、「濃縮レモン果汁を100%レモン果汁に還元する際に用いる水を脱気又は不活性ガス置換し、製造工程で使用するタンク内を脱酸素状態とすること」をさらに特定したものであるが、刊行物2(摘記(2a)?(2d)),刊行物3(摘記(3a)?(3c),刊行物7(摘記(7a)?(7d)),刊行物8(摘記(8a)?(8c))に記載されるとおり、濃縮果汁の還元に用いる水を脱気することや製造工程で使用するタンク内を脱酸素状態とすることは、酸化や品質劣化を抑制することが前提となる果汁の製造において、周知の技術的事項であり、この点を特定した請求項4に係る発明も、刊行物1記載の発明及び刊行物2?10の本願出願日時点の技術常識から当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、上記請求項4に係る発明は、補正却下された平成30年8月8日付け手続補正に係る特許請求の範囲の請求項1に係る発明と同内容である。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明および刊行物1に記載された技術的事項、及び本願出願日時点での技術常識に基いて、本願出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、請求項4に係る発明についても、刊行物1に記載された発明および刊行物1に記載された技術的事項、及び本願出願日時点での技術常識に基いて、本願出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明及び、本願特許請求の範囲の請求項4に係る発明は、本願の出願日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-05-17 
結審通知日 2019-05-28 
審決日 2019-06-10 
出願番号 特願2013-246715(P2013-246715)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (A23L)
P 1 8・ 121- Z (A23L)
P 1 8・ 575- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 晴絵  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 瀬良 聡機
冨永 保
発明の名称 容器詰めレモン果汁含有飲料及びその製造方法  
代理人 松本 久紀  
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