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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B23D |
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管理番号 | 1353944 |
審判番号 | 不服2018-14284 |
総通号数 | 237 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-09-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-10-29 |
確定日 | 2019-08-29 |
事件の表示 | 特願2016-130950「コンポジット材用チップソー」拒絶査定不服審判事件〔平成30年1月11日出願公開、特開2018-1335、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成28年6月30日の出願であって、その主な手続の経緯は、以下のとおりである。 平成29年12月27日付け:拒絶理由通知 平成30年 1月25日 :意見書及び手続補正書の提出 同 年 4月13日付け:拒絶理由通知 同 年 6月13日 :意見書及び手続補正書の提出 同 年 9月10日付け:拒絶査定 同 年 10月29日 :審判請求 第2.原査定の概要 原査定(平成30年9月10日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。 本願請求項1ないし4に係る発明は、以下の引用文献1ないし3に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2015-168008号公報 2.実願昭58-25144号(実開昭59-132723号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献) 3.特開昭61-203219号公報(周知技術を示す文献) 第3.本願発明 本願請求項1ないし4に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本願発明1」などという。)は、平成30年6月13日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 円板状台金の外周に台座が所定間隔をあけて形成され、各台座に単体のチップが固着されたチップソーにおいて、前記チップは、その逃げ面が、当該チップソーの回転方向側から見て、左端から右端へ下る傾斜面と右端から左端に下る傾斜面とで構成された左端と右端が交互に先鋭状の千鳥刃となされ、且つすくい面が、当該チップソーの径方向側から見て、左端から右端へ下る傾斜面と右端から左端に下る傾斜面とで構成された左端と右端が交互に先鋭状の千鳥刃なされ、前記逃げ面と前記すくい面とが複合千鳥状となされており、各チップのすくい面は台金の中心から外周方向に伸びる中心線を基準として当該チップソーの回転方向と反対方向へ傾いたマイナス角度となされ、且つチップの逃げ面がその全長にわたって同一幅となされている、コンポジット材用チップソー。 【請求項2】 台座は、側面から見て凹弧状であり、チップは、側面から見て略扇形であって、前側の半径部がすくい面となされ、後側の半径部が逃げ面となされ、両半径部をつなぐ凸弧部が前記台座に固着されている、請求項1記載のコンポジット材用チップソー。 【請求項3】 台座は、側面から見て略L字状であって、円板状台金の外周に所定間隔をあけて一体に延成された鋸刃に設けられており、チップは、側面から見て略方形であって、前側部がすくい面となされ、頂部が逃げ面となされ、チップ後側部およびチップ底部が前記台座に固着されている、請求項1記載のコンポジット材用チップソー。 【請求項4】 外周部分に一定幅の脱水素型DLCコーティングが施された、請求項1?請求項3のうちのいずれか一項記載のコンポジット材用チップソー。」 第4.引用文献の記載及び引用発明 1.引用文献1の記載事項 平成30年4月13日付けの拒絶の理由に引用された引用文献1の7ないし16ページには、図面(特に【図1】ないし【図9】を参照。)とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。 (1)「【0001】 本発明は、特に、熱可塑性樹脂をマトリックスとし、炭素繊維等をフィラーとした繊維強化プラスチック(CFRP)等の複合材料の切断に使用することができるチップソーに関する。」(12ページ) (2)「【0009】 本発明の目的は、前述した種々の問題を一挙に解消し、繊維強化プラスチック材の切断が可能な複合材料用チップソーを提供することにある。」(13ページ) (3)「【0014】 請求項1および請求項2記載の本発明に係るチップソーによれば、台金の外周における鋸刃に固着されたチップが千鳥刃となされているため、被切削材である複合材料の切断箇所において、常に外側のフィラーを切断しながら、内側のマトリックスを切削していくこととなるため、表層剥離が発生しない切削が可能となる。しかも、本発明のチップソーでは、チップのすくい面は台金の中心から外周方向に伸びる中心線を基準として当該チップソーの回転方向と反対方向へ傾いたマイナス角度となされていることで、このような刃先角度によってCFRP(炭素繊維強化プラスチック)等の複合材料に対して、刃先が75°?105°の範囲で切削を行い、且つ必ず90°(直角)で切り込む箇所がある。その結果、フィラー(繊維)の剥がれや毛羽立ちが発生せず、これが前述した千鳥刃による連続的な切削作用と相まって、複合材料中のフィラーを逃さずに鋭く切断することが可能となり、そのためCFRPの切削も確実に行えるという格別の効果が得られる。」(13ないし14ページ) (4)「【0020】 (実施形態1) 【0021】 図1?図3に示すように、本実施形態に係る複合材料用チップソー1は、円板状台金2の外周に鋸刃3が一定間隔あけて形成され、各鋸刃3に形成された台座4にチップ5が固着されたものであって、前記チップ5が千鳥刃となされ、且つ各チップ5のすくい面5aは台金2の中心から外周方向に伸びる中心線CLを基準として当該チップソー1の回転方向Aと反対方向へ傾いたマイナス角度αとなされている。 【0022】 図2に示すように、前記台座4は、外方に膨出した鋸刃3に、側面から見て略L字状に形成されている。 【0023】 図2および図3に示すように、チップ5は、略縦長方形であって、台金2の一側から他側にかけて傾斜し且つ隣り合う鋸刃3において、刃先B1・B2が互いに反対側となされ、前側部が前記すくい面5aとなされ、頂部5bが逃げ面となされ、後側部5cおよび底部5dが前記台座4に接合されており、且つ隣り合う鋸刃間のピッチPが4.0mm以上となされている。」(15ページ) (5)「【0031】 また、図8に示すように、前述した構成のチップソー21でCFRP等の複合材料Wを切削する際、複合材料Wに対して、刃先が75°?105°の範囲で切削を行い、且つチップ25のすくい面25aが直角に切れ込む箇所があるため、この箇所において複合材料W中の繊維の剥離が防止されつつ、複合材料Wが切削される。 【0032】 更に、図6に示すように、前記複合材料Wの切削の際、チップ25は千鳥刃型となされているため、左右の刃先B1・B2によって、交互に切り込みがバランス良く行われ、且つ先鋭状の刃先B1・B2が協働して、複合材料Wのフィラー(繊維)を切断しつつ、更に切り込んでマトリックス(樹脂)を切削するため、毛羽立ちや表層剥離が完全に防止される。このような点は、前記実施形態1のチップソー1においても同様である。 【0033】 図9に示すように、チップソー31は、本実施形態に係る前記チップソー21について、その外周部分に一定幅の脱水素型DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング29を施したものである。また、該コーティング29は、前記実施形態1のチップソー1においても同様に行われ得る。」(16ページ) 2.引用文献1に記載された技術的事項 これらの記載及び図面から、引用文献1には、以下の(1)及び(2)の技術的事項が記載されているということができる。 (1)段落【0014】の「台金の外周における鋸刃に固着されたチップが千鳥刃となされている」との記載、段落【0023】の「チップ5は、略縦長方形であって、台金2の一側から他側にかけて傾斜し且つ隣り合う鋸刃3において、刃先B1・B2が互いに反対側となされ、前側部が前記すくい面5aとなされ、頂部5bが逃げ面となされ」との記載、及び段落【0032】の「前記複合材料Wの切削の際、チップ25は千鳥刃型となされているため、左右の刃先B1・B2によって、交互に切り込みがバランス良く行われ」との記載、並び【図2】、【図3】及び【図6】の図示事項によれば、チップ5は、その頂部5bが、チップソー1の回転方向A側から見て、左端から右端へ下る傾斜面と右端から左端に下る傾斜面とで構成された左端と右端が交互に先鋭状の千鳥刃となされていることが分かる。 (2)【図2】及び【図3】を併せてみれば、【図3】の図示事項から、チップ5の頂部5bがその全長にわたって同一幅となされていることが見て取れる。 3.引用発明 上記1.の記載事項、及び2.の技術的事項を整理すると、引用文献1には次の発明が記載されていると認められる。 「円板状台金2の外周に台座4が所定間隔をあけて形成され、各台座4に単体のチップ5が固着されたチップソー1において、前記チップ5は、その頂部5bが、当該チップソー1の回転方向側から見て、左端から右端へ下る傾斜面と右端から左端に下る傾斜面とで構成された左端と右端が交互に先鋭状の千鳥刃となされ、各チップ5のすくい面5aは円板状台金2の中心から外周方向に伸びる中心線CLを基準として当該チップソー1の回転方向と反対方向へ傾いたマイナス角度となされ、且つチップ5の頂部5bがその全長にわたって同一幅となされている、複合材料用のチップソー。」 (以下、「引用発明」という。) 2.引用文献2の記載事項 平成30年4月13日付けの拒絶の理由に周知技術を示す文献として引用された引用文献2には、図面(特に第2図(a)ないし(d)を参照。)とともに次の事項が記載されている(以下、「引用文献2に記載された事項」という)。 「1.交互左右刃部あるいは交互左右刃部と平刃部の組合せの鋸歯を有するチツプソーにおいて、各左右刃部の先端傾斜角αと横スクイ角βをそれぞれ鋸歯の左右面における歯高の低い側が円周回転方向で先行する厚肉側となるように形成したチップソー。」(実用新案登録請求の範囲) 3.引用文献3の記載事項 平成30年4月13日付けの拒絶の理由に周知技術を示す文献として引用された引用文献3には、図面(特に第7図、第9図、第11図、第13図を参照。)とともに次の事項が記載されている(以下、「引用文献3に記載された事項」という。)。 「その後、ブランク40の上部表面54(第4図,第5図)は上部傾斜角fをもつように研削され、第7図において左から右へまた第8図においては右から左へと下向きにそしてプランク40の内方方向に向けて傾斜する。これから明らかなようにブランク40の上部表面54は第5図に示すように当初は上部逃げ角cを成すように製作される。それ故、研削作業後において上部表面54は複合角cとfをもつように形成され、第8図に描かれた複合角上部表面58を形成する。上部傾斜角fを形成することにより、前部表面42と上部表面58に共通する縁辺が形成され、これによって前部及び上部の各表面は隣接的関係位置を以って形成される。 上部傾斜角fの形成時において、研削車(図示せず)は第7図において左から右に向ってブランク40の内方方向に向けて上部表面54を研削する。この研削作業工程は切削刃先端60を成形することになり、更に前部表面42と上部表面58間に形成された共通縁辺の少くとも一部分に沿って延在する切削縁辺62を形成せしめる結果となる。上記研削車は研削工程中ブランク40の内方方向に向けて曲げられ側部表面40に向って運動するから、該研削車は前部表面42の凹面状表面の継続的な内方部分を研削する。このような態様において切削刃先端62を含む共通縁辺は前部表面42の凹面状表面を横切り側部表面40における後側端60にいたる間に形成される。切削縁辺62は第7図にみる如く角度fだけ下向きに傾いているばかりでなく、ブランク40の内方方向或は後方方向に曲げられて第9図の前部傾斜角gを形成する。かくして前部傾斜角gは上部傾斜角fの形成時において形成され、そして前部表面42の凹部表面曲率と上部表面54の上部傾斜角fの大きさの合流に直接関係して決定される。」(公報7ページ右下欄2行ないし8ページ左上欄16行) 第5.対比及び判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「円板状台金2」は、その構造及び機能からみて、本願発明1の「円板状台金」に相当し、以下、同様に、「台座4」は「台座」に、「チップ5」は「チップ」に、「頂部5b」は「逃げ面」に、「チップソー1」は「チップソー」に、「すくい面5a」は「すくい面」に、「中心線CL」は「中心線」に、「複合材料用のチップソー」は「コンポジット材用チップソー」に、それぞれ相当する。 よって、本願発明1と引用発明は、次の点で一致及び相違する。 <一致点> 「円板状台金の外周に台座が所定間隔をあけて形成され、各台座に単体のチップが固着されたチップソーにおいて、前記チップは、その逃げ面が、当該チップソーの回転方向側から見て、左端から右端へ下る傾斜面と右端から左端に下る傾斜面とで構成された左端と右端が交互に先鋭状の千鳥刃となされ、各チップのすくい面は台金の中心から外周方向に伸びる中心線を基準として当該チップソーの回転方向と反対方向へ傾いたマイナス角度となされ、且つチップの逃げ面がその全長にわたって同一幅となされている、コンポジット材用チップソー。」 <相違点1> 本願発明1は、「すくい面が、チップソーの径方向側から見て、左端から右端へ下る傾斜面と右端から左端に下る傾斜面とで構成された左端と右端が交互に先鋭状千鳥刃なされ、」「逃げ面と前記すくい面とが複合千鳥状となされて」いるの対し、引用発明では、すくい面が、チップソーの径方向側から見て、左端から右端へ下る傾斜面と右端から左端に下る傾斜面とで構成された左端と右端が交互に先鋭状千鳥刃とはなされていないから、逃げ面と前記すくい面とが複合千鳥状となされていない点で相違する。 (2)相違点1についての判断 上記引用文献2に記載された事項、及び引用文献3に記載された事項によれば、「逃げ面が、当該チップソーの回転方向側から見て、左端から右端へ下る傾斜面と右端から左端に下る傾斜面とで構成された左端と右端が交互に先鋭状の千鳥刃となされ、且つすくい面が、チップソーの径方向側から見て、左端から右端へ下る傾斜面と右端から左端に下る傾斜面とで構成された左端と右端が交互に先鋭状千鳥刃となされことにより、前記逃げ面と前記すくい面とが複合千鳥状となされるようなチップソー。」は周知(以下、「周知技術」という。)であると解することはできる。 しかしながら、引用発明1は、複合材料用のチップソーに関するものであるのに対し、周知技術を示す文献として提示された引用文献2や引用文献3は、複合材料用というチップソーの用途が開示されているものではなく、複合材料への使用も示唆されておらず、また、引用発明1の課題は、「フィラー(繊維)の剥がれや毛羽立ちの発生の防止」であるのに対し、引用文献2の課題は、「切削時の振動や挽曲の防止」、引用文献3の課題は、「摩擦作用と焼けの発生の防止」であるから、引用発明と周知技術を示す文献として提示された引用文献2や引用文献3とでは、解決しようとする課題も異なる。 そうすると、引用発明1に、周知技術を示す文献として提示された引用文献2や引用文献3に記載された事項を適用するという動機付けを見出すことはできない。 したがって、引用発明1に、周知技術を示す文献として提示された引用文献2や引用文献3に記載された事項を適用することはできない。 そして、仮に、周知技術を示す文献として提示された引用文献2や引用文献3に記載された事項を引用発明1に適用できたとしても、引用文献2や引用文献3に記載されたチップソーは、チップの逃げ面がその全長にわたって同一幅となされているものではないから、引用発明1に、周知技術を示す文献として提示された引用文献2や引用文献3に記載された事項を適用した場合に、「チップの逃げ面がその全長にわたって同一幅となされているものではない。」という、本願発明1との新たな相違点が生ずることとなる。 そして、本願発明1は、相違点1に係る発明特定事項を有することにより、本願明細書の段落【0017】に記載された「すくい面が、当該チップソーの径方向側から見て、左端から右端へ下る傾斜面と右端から左端に下る傾斜面とで構成された左端と右端が交互に先鋭状の千鳥刃となされているため、コンポジット材の切削・切断時にその切粉がチップの厚さ中心方向へ移動することとなり、その結果、切削中に切粉が被切削材に衝突して該部分に傷がつくことを確実に防止することができるという実用的利点を有する。すなわち、リード角を千鳥にすることにより切削直後の切粉が被切削材の切断面に擦れずに中心側へ移動することで前記切断面が綺麗に維持でき、また角度がつくことにより、すくい面の摩擦が低下することでも切削抵抗が下がるのである。そして、このような効果が前述した千鳥状の逃げ面による効果と相俟って更なる相乗的な切削・切断性能の向上が実現される。」旨の効果を奏するものである。 (3)小活 したがって、本願発明1は、引用発明並びに周知技術を示す文献として提示された引用文献2及び引用文献3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 2.本願発明2ないし4について 本願発明2ないし4は、本願発明1を引用するものであって,本願発明1の発明特定事項を有するから、上記1.(2)に示す理由と同様の理由により,本願発明2ないし4は,引用発明並びに周知技術を示す文献として提示 された引用文献2及び引用文献3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 第6.むすび 以上のとおり、原査定の拒絶理由によって、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-08-19 |
出願番号 | 特願2016-130950(P2016-130950) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B23D)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 中川 康文 |
特許庁審判長 |
刈間 宏信 |
特許庁審判官 |
中川 隆司 青木 良憲 |
発明の名称 | コンポジット材用チップソー |
代理人 | 河野 修 |