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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C10M
管理番号 1353956
審判番号 不服2018-14335  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-30 
確定日 2019-08-27 
事件の表示 特願2014-188419「省燃費エンジン油組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月 2日出願公開、特開2015- 61906、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2014年(平成26年)9月17日(パリ条約による優先権主張 2013年9月23日、米国)を出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は、概略以下のとおりのものである。
平成30年 7月23日付け:拒絶理由通知書
同年 8月30日 :手続補正書・意見書
同年 9月28日付け:拒絶査定
同年10月30日 :審判請求書

第2 原査定の概要

原査定の概要は、本願の請求項1?15に係る発明は、以下の引用文献1、2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
<引用文献>
1.特開2013-133453号公報
2.特開2000-273481号公報

第3 本願発明

本願の請求項1?15に係る発明は、平成30年8月30日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された、以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
a.主要量の潤滑粘度の基油、
b.C_(10)?C_(30)アルカン1,2-ジオール及びC_(10)?C_(30)アルケン1,2-ジオールからなる群から選択される摩擦緩和剤、
c.3.0未満の金属比を有する過塩基性アルキルヒドロキシ安息香酸アルカリ土類金属塩清浄剤、並びに
d.3.5以上の金属比を有する過塩基性アルキルスルホン酸カルシウム又は過塩基性アルキルヒドロキシ安息香酸カルシウム
を含む潤滑油組成物。
【請求項2】
摩擦緩和剤が、式R_(1)-CH(OH)CH_(2)(OH)から選択され、式中、R_(1)は8?28個の炭素原子を含有するアルキルである、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
摩擦緩和剤が、14?18個の炭素原子を含有する直鎖状アルキルから誘導されるC_(10)?C_(30)アルカン1,2-ジオールである、請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
摩擦緩和剤が、潤滑油組成物の全重量に対して0.02?5.0重量%の量である、請求項3に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
3.0未満の金属比を有する過塩基性アルキルヒドロキシ安息香酸アルカリ土類金属塩清浄剤が、14?18個の炭素原子のアルキル鎖長を有する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
3.5以上の金属比を有する過塩基性アルキルスルホン酸カルシウム又は過塩基性アルキルヒドロキシ安息香酸カルシウムが、20?28個の炭素原子のアルキル鎖長を有する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
20?28個の炭素原子のアルキル鎖長を有し、3.5以上の金属比を有する過塩基性アルキルスルホン酸カルシウムが選択される、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
20?28個の炭素原子のアルキル鎖長を有し、3.5以上の金属比を有する過塩基性アルキルヒドロキシ安息香酸カルシウムが選択される、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
潤滑粘度の基油が110よりも大きい粘度指数を有する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
潤滑油の基油が、ASTM D4683によって測定される150℃において2.9mPa・s未満のHTHS粘度を有する、請求項9に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
SAE粘度グレード0W20を満たすように処方される、請求項10に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
ASTM D4683によって測定される150℃において2.6mPa・s未満のHTHS粘度を有する、請求項9に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
ASTM D4683によって測定される150℃において2.3mPa・s未満のHTHS粘度を有する、請求項9に記載の潤滑油組成物。
【請求項14】
3重量%未満の粘度指数向上剤成分を含有する、請求項13に記載の潤滑油組成物。
【請求項15】
a.主要量の潤滑粘度の基油、
b.0.1?3質量%の量のC_(10)?C_(30)ヒドロカルビル1,2-ジオール、
c.アルカリ土類金属含有量に基づいて0.01?0.4質量%の量の、3.0未満の金属比を有する過塩基性アルキル(C_(14)?C_(18))ヒドロキシ安息香酸アルカリ土類金属塩清浄剤、
d.カルシウム含有量に基づいて0.01?0.4質量%の量の、3.5以上の金属比を有する過塩基性アルキル(C_(20)?C_(28))スルホン酸カルシウム又は過塩基性アルキル(C_(20)?C_(28))ヒドロキシ安息香酸カルシウム、
e.窒素含有量換算で0.01?0.3質量%の窒素含有分散剤、
f.リン含有量換算で0.01?0.1%の量のジアルキルジチオリン酸亜鉛、
g.フェノール系酸化防止剤又はジフェニルアミン系酸化防止剤からなる群から選択される、0.1?7質量%の量の酸化抑制剤
を含み、質量%は潤滑油組成物の総量に基づくものである、内燃機関用潤滑油組成物。」
(以下、各請求項に記載された発明を項番号に合わせて「本願発明1」?「本願発明15」という。)

第4 引用文献1、2の記載、及び引用文献1に記載された発明

1 引用文献1、2の記載
(1)引用文献1
引用文献1には、次の記載がある。
・「【請求項1】
相対的に多量の潤滑油基油及び過塩基性金属含有清浄剤とモリブデン含有摩擦低減剤とを含む相対的に少量の潤滑油添加剤を含有する内燃機関用潤滑油組成物であって、過塩基性金属含有清浄剤が、平均炭素原子数が14?18の範囲にあって、かつ炭素原子数が14?18の範囲にあるアルキル基が60モル%以上であるアルキル基を持つカルシウムサリシレートと平均炭素原子数が20?24の範囲にあって、かつ炭素原子数が20?24の範囲にあるアルキル基が60モル%以上であるアルキル基を持つカルシウムスルホネートもしくは平均炭素原子数が20?28の範囲にあって、かつ炭素原子数が20?28の範囲にあるアルキル基が60モル%以上であるアルキル基を持つカルシウムサリシレートとを含むことを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用の潤滑油組成物として用いた場合に高い省燃費性を示すガソリンエンジン、ディーゼルエンジンあるいはガスエンジンなどの特に陸上で用いる内燃機関の潤滑に有用な潤滑油組成物に関する。」
・「【0009】
本発明は、これまでに優れた摩擦低減特性を示す潤滑油添加剤であり、省燃費性の向上に有効であることが知られているモリブデン含有摩擦低減剤を含む潤滑油組成物であって、さらに優れた省燃費性を示す潤滑油組成物を提供することを、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者は、上記の課題を解決するために、モリブデン含有摩擦低減剤に対する、これまでに多数知られている各種の潤滑油添加剤の併用効果を検討した。その結果、モリブデン含有摩擦低減剤を含有する潤滑油組成物に、平均炭素原子数が14?18の範囲にあって、かつ炭素原子数が14?18の範囲にあるアルキル基が60モル%以上であるアルキル基を持つカルシウムサリシレートと平均炭素原子数が20?24の範囲にあって、かつ炭素原子数が20?24の範囲にあるアルキル基が60モル%以上であるアルキル基を持つカルシウムスルホネート及び/又は平均炭素原子数が20?28の範囲にあって、かつ炭素原子数が20?28の範囲にあるアルキル基が60モル%以上であるアルキル基を持つカルシウムサリシレートとを組合せた過塩基性金属含有清浄剤(組成物)を配合することにより、高い省燃費性を示す潤滑油組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。」
・「【0053】
本発明の潤滑油組成物はさらに、各種の補助的な添加剤を含んでいてもよい。そのような補助的な添加剤の例としては、酸化防止剤あるいは摩耗防止剤として、亜鉛ジチオカーバメート、メチレンビス(ジブチルジチオカーバメート)、油溶性銅化合物、硫黄系化合物(例、硫化オレフィン、硫化エステル、ポリスルフィド)、リン酸エステル、亜リン酸エステル、チオリン酸エステル、有機アミド化合物(例、オレイルアミド)などを挙げることができる。また金属不活性剤として機能するベンゾトリアゾール系化合物やチアジアゾール系化合物などの化合物を添加することもできる。また、防錆剤あるいは抗乳化剤として機能するポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体などのポリオキシアルキレン非イオン性の界面活性剤を添加することもできる。また、摩擦調整剤として機能する各種アミン、アミド、アミン塩、およびそれらの誘導体、あるいは多価アルコールの脂肪酸エステル、あるいはそれらの誘導体を添加することもできる。さらにまた、消泡剤や流動点降下剤として機能する各種化合物を添加することもできる。なお、これらの補助的な添加剤は、潤滑油組成物に対して、それぞれ3質量%以下(特に、0.001?3質量%の範囲)の量にて使用することが望ましい。」
・「【実施例】
【0054】
[実施例1]?[実施例3]、[比較例1]?[比較例3]
(1)潤滑油組成物の製造
性能評価に供する潤滑油組成物(試験油)として、下記の添加剤成分を基油に添加して、表1に記載の処方により、本願発明に従う潤滑油組成物([実施例1]?[実施例3])と比較用の潤滑油組成物([比較例1]?[比較例3])を製造した。潤滑油組成物は、粘度指数向上剤の添加により、0W20のSAE粘度グレードであって、100℃での動粘度が7.7?7.8mm^(2)/sとなるように調整した。
【0055】
(2)基油及び添加剤
1)基油
スラックワックスを原料として水素化、分留、脱蝋の各プロセスを経て製造した鉱油系基油(100℃での動粘度:4.1mm^(2)/s、粘度指数:137)
2)添加剤
【0056】
[窒素含有無灰分散剤]
数平均分子量が約2300のポリブテンから誘導されたビスタイプのこはく酸イミドをエチレンカーボネートで後処理して得たこはく酸イミド系分散剤(N含量:1.0質量%)
【0057】
[金属含有清浄剤]
a)過塩基性Ca-サリシレート(1)[Ca-サリ-1]:炭素原子数14?18のアルキル基を持つ(但し、炭素原子数が14?18の範囲にあるアルキル基はアルキル基全体の約80モル%である)カルシウム・モノアルキルサリシレート(Ca:6.1質量%、S:0.1質量%、TBN:170mg KOH/g、過塩基化度:2.3)
b)過塩基性Ca-スルホネート[Ca-スル-1]:炭素原子数20?24のアルキル基を持つ(但し、炭素原子数が20?24の範囲にあるアルキル基はアルキル基全体の約80モル%である)カルシウム・アルキルトルエンスルホネート(Ca:16.0質量%、S:1.6質量%、TBN:423mg KOH/g、過塩基化度:17)
c)過塩基性Ca-サリシレート(2)[Ca-サリ-2]:炭素原子数20?28のアルキル基を持つ(但し、炭素原子数が20?28の範囲にあるアルキル基はアルキル基全体の約80モル%である)カルシウム・モノアルキルサリシレート(Ca:11.4質量%、S:0.2質量%、TBN:320mg KOH/g、過塩基化度:8.2)
d)低塩基性Ca-スルホネート[Ca-スル-2]:炭素原子数14?24のアルキル基を持つ(但し、炭素原子数が14?24の範囲にあるアルキル基はアルキル基全体の約80モル%である)カルシウム・アルキルベンゼンスルホネート(Ca:2.4質量%、S:2.9質量%、TBN:17mg KOH/g、過塩基化度:0.34)
【0058】
[モリブデン含有摩擦低減剤]
硫化オキシモリブデンジチオカーバメート(Mo-DTC、Mo:10質量%、S:11質量%)
【0059】
[リン酸亜鉛酸化防止剤]
ジ(第二アルキル)ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP-1、P:7.2質量%、Zn:7.8質量%、S:14質量%)
ジ(第一アルキル)ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP-2、P:7.3質量%、Zn:8.4質量%、S:14質量%)
[酸化防止剤]
アミン系酸化防止剤:ジアルキルジフェニルアミン
[こはく酸イミド硫黄含有モリブデン錯体]
硫黄を含有するオキシモリブデン-こはく酸イミド錯体化合物(Mo含有錯体、Mo:5.5質量%、S:0.2質量%、N:1.6質量%、TBN:10mg KOH/g)
[粘度指数向上剤]
ポリメタクリレート系粘度指数向上剤
【0060】
(3)潤滑油組成物の評価
a)試験方法
直列4気筒、排気量1.8Lのガソリンエンジン(動弁機構はローラータイプ)を用い、トルクメーターを介しクランクシャフトを電動モーターで駆動し、回転トルクを測定した。ただし、ピストンのポンピング損失の影響を最小限にするために、点火プラグをはずし、大気開放の状態で試験を実施した。油温を100℃に維持し、各回転数で150秒間の試験を実施し、試験の開始から30秒間経過した後の120秒間に測定されたトルクから平均トルク値を算出した。
また、モリブデン含有摩擦低減剤を添加しないで作製した参照油(SAE粘度グレード:0W20、100℃での動粘度:8.9mm^(2)/s)を調製し、この参照油のトルク値と上記の平均トルク値から、各試験油のトルク低減率(%)を求めて、表1に記載した。
【0061】
b)試験結果
上記の試験方法による試験結果を表1に示す。
【0062】

【0063】
注:表1に記載の添加剤の添加量は、酸化防止剤とMo含有錯体については、そのもの自体の添加量(単位:質量%)であって、窒素含有無灰分散剤、Ca含有清浄剤(Ca-サリ-1、Ca-スル-1、Ca-サリ-2、Ca-スル-2)、MoDTC、そして亜鉛含有化合物(ZnDTP-1、ZnDTP-2)については、それぞれN量、Ca量、Mo量、Zn量そしてP量の換算値(単位:質量%)である。」

(2)引用文献2
引用文献2には、次の記載がある。
・「【請求項1】 一般式(1)

[式中、R^(1)は炭素数12?20のアルキル基を表す。]で表されるアルカン-1,2-ジオール、一般式(2)

[式中、R^(2)は炭素数14?20のアルキル基を表す。]で表されるグリセリンモノアルキルエーテル、一般式(3)

[式中、R^(3)は炭素数12?18のアルキル基を表す。]で表されるグリセリンモノアルキレ-トからなる群から選択される1種又は2種以上の有機系摩擦低減剤と、全塩基価が60以上の塩基性又は過塩基性金属清浄剤とを、予め混合して濃厚物とし、該濃厚物を、粘度指数80?150の基油に希釈溶解してなる潤滑油組成物。
・・・(中略)・・・
【請求項4】 有機系摩擦低減剤が、一般式(1)で表されるアルカン-1,2-ジオールである請求項1に記載の潤滑油組成物。」
・「【0005】これまで摩擦低減剤としては、有機モリブデン化合物の効果が大きいとして、主にエンジン油において各種検討されてきている。しかしながら、有機モリブデン化合物は初期の摩擦低減の効果に優れる一方で、油の劣化に伴い効果の持続性が悪いこと、及びそれ自身の価格が高く、また必要添加量が多いため潤滑油へのコスト負荷が大きくなるという欠点を有する。そのため、安価で、かつ、少量の添加により効果を発揮すると考えられる有機系の摩擦低減剤が望まれ、例えば、グリセリンモノアルキレート、グリセリンモノオレエート、脂肪酸アミド、グリセリンモノアルキルエーテル、アルカン-1,2-ジオールなどが検討されてきた。
・・・(中略)・・・
【0008】更に、鉱油においては近年の低燃費化に伴い、低粘度化で高粘度指数(高VI)の油が注目を浴びているが、芳香族成分が少なくパラフィン成分が多いため、上記有機系の摩擦低減剤は溶解性において厳しい条件となっている。そのことにより、高VI基油によく溶けて有機モリブデン化合物に替わるものはないと考えられてきた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、有機系摩擦低減剤の粘度指数80以上の基油への溶解性を大幅に向上させることにより、低温での貯蔵安定性に優れ、且つ摩擦低減効果に優れた潤滑油組成物を提供することを目的とする。」

2 引用文献1に記載された発明(引用発明1)の認定
引用文献1には、その請求項1に記載されているように、「相対的に多量の潤滑油基油及び過塩基性金属含有清浄剤とモリブデン含有摩擦低減剤とを含む相対的に少量の潤滑油添加剤を含有する内燃機関用潤滑油組成物であって、過塩基性金属含有清浄剤が、平均炭素原子数が14?18の範囲にあって、かつ炭素原子数が14?18の範囲にあるアルキル基が60モル%以上であるアルキル基を持つカルシウムサリシレートと平均炭素原子数が20?24の範囲にあって、かつ炭素原子数が20?24の範囲にあるアルキル基が60モル%以上であるアルキル基を持つカルシウムスルホネートもしくは平均炭素原子数が20?28の範囲にあって、かつ炭素原子数が20?28の範囲にあるアルキル基が60モル%以上であるアルキル基を持つカルシウムサリシレートとを含むことを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物」の発明が記載されている。
また、その実施例1には、添加剤として「Ca-サリ-1」、「Ca-スル-1」、および「Mo-DTC」を基油に添加して製造した潤滑油組成物が記載されている。ここで、「Ca-サリ-1」は炭素原子数14?18のアルキル基を持つ(但し、炭素原子数が14?18の範囲にあるアルキル基はアルキル基全体の約80モル%である)過塩基性カルシウム・モノアルキルサリシレート(Ca:6.1質量%、S:0.1質量%、TBN:170mg KOH/g、過塩基化度:2.3)、「Ca-スル-1」は、炭素原子数20?24のアルキル基を持つ(但し、炭素原子数が20?24の範囲にあるアルキル基はアルキル基全体の約80モル%である)過塩基性カルシウム・アルキルトルエンスルホネート(Ca:16.0質量%、S:1.6質量%、TBN:423mg KOH/g、過塩基化度:17)、「Mo-DTC」は硫化オキシモリブデンジチオカーバメート(Mo:10質量%、S:11質量%)であるモリブデン含有摩擦低減剤である。
そうすると、引用文献1には
「相対的に多量の潤滑油基油及び過塩基性金属含有清浄剤と硫化オキシモリブデンジチオカーバメート(Mo:10質量%、S:11質量%)であるモリブデン含有摩擦低減剤とを含む相対的に少量の潤滑油添加剤を含有する内燃機関用潤滑油組成物であって、過塩基性金属含有清浄剤が、炭素原子数14?18のアルキル基を持つ(但し、炭素原子数が14?18の範囲にあるアルキル基はアルキル基全体の約80モル%である)過塩基性カルシウム・モノアルキルサリシレート(Ca:6.1質量%、S:0.1質量%、TBN:170mg KOH/g、過塩基化度:2.3)と、炭素原子数20?24のアルキル基を持つ(但し、炭素原子数が20?24の範囲にあるアルキル基はアルキル基全体の約80モル%である)過塩基性カルシウム・アルキルトルエンスルホネート(Ca:16.0質量%、S:1.6質量%、TBN:423mg KOH/g、過塩基化度:17)とを含む内燃機関用潤滑油組成物」(以下、「引用発明1」という)が記載されていると認められる。

第5 対比・判断

1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「相対的に多量の潤滑油基油」は、本願発明1の「主要量の潤滑粘度の基油」に相当する。
引用発明1の「硫化オキシモリブデンジチオカーバメート(Mo:10質量%、S:11質量%)であるモリブデン含有摩擦低減剤」と、本願発明1の「C_(10)?C_(30)アルカン1,2-ジオール及びC_(10)?C_(30)アルケン1,2-ジオールからなる群から選択される摩擦緩和剤」とは、「摩擦緩和剤」である点で共通する。
引用発明1の「炭素原子数14?18のアルキル基を持つ(但し、炭素原子数が14?18の範囲にあるアルキル基はアルキル基全体の約80モル%である)過塩基性カルシウム・モノアルキルサリシレート(Ca:6.1質量%、S:0.1質量%、TBN:170mg KOH/g、過塩基化度:2.3)」は、本願発明1の「過塩基性アルキルヒドロキシ安息香酸アルカリ土類金属塩清浄剤」に相当する。
引用発明1の「炭素原子数20?24のアルキル基を持つ(但し、炭素原子数が20?24の範囲にあるアルキル基はアルキル基全体の約80モル%である)過塩基性カルシウム・アルキルトルエンスルホネート(Ca:16.0質量%、S:1.6質量%、TBN:423mg KOH/g、過塩基化度:17)」は、本願発明1の「過塩基性アルキルスルホン酸カルシウム」に相当する。
引用発明1の「内燃機関用潤滑油組成物」は、本願発明1の「潤滑油組成物」に相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明1とは、
「a.主要量の潤滑粘度の基油、b.摩擦緩和剤、c.過塩基性アルキルヒドロキシ安息香酸アルカリ土類金属塩清浄剤、並びにd.過塩基性アルキルスルホン酸カルシウムを含む潤滑油組成物」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1)
「摩擦緩和剤」について、本願発明1は「C_(10)?C_(30)アルカン1,2-ジオール及びC_(10)?C_(30)アルケン1,2-ジオールからなる群から選択される」のに対し、引用発明1は「硫化オキシモリブデンジチオカーバメート(Mo:10質量%、S:11質量%)であるモリブデン含有摩擦低減剤」である点
(相違点2)
「過塩基性アルキルヒドロキシ安息香酸アルカリ土類金属塩清浄剤」、「過塩基性アルキルスルホン酸カルシウム」について、本願発明1はそれぞれ「3.0未満の金属比を有する」、「3.5以上の金属比を有する」と規定しているのに対し、引用発明1はそれぞれ「TBN:170mg KOH/g、過塩基化度:2.3」、「TBN:423mg KOH/g、過塩基化度:17」と規定している点

(2)相違点の検討
ア 相違点1について
はじめに、相違点1について検討する。
(ア)引用発明1の「硫化オキシモリブデンジチオカーバメート(Mo:10質量%、S:11質量%)」と、本願発明1の「C_(10)?C_(30)アルカン1,2-ジオール及びC_(10)?C_(30)アルケン1,2-ジオール」とは異なる物質であるところ、引用文献1を子細にみても、当該「C_(10)?C_(30)アルカン1,2-ジオール及びC_(10)?C_(30)アルケン1,2-ジオール」に関する記載は見当たらない。そして、引用発明1は「省燃費性を示す潤滑油組成物」(【0009】)に関するものであるところ、仮に、引用発明1において、上記「モリブデン含有摩擦低減剤」に替えて(一部を替える場合を含む)、又は、上記「モリブデン含有摩擦低減剤」に加えて、本願発明1の上記相違点1に係る摩擦緩和剤を含有させた場合に、得られた潤滑油組成物が、引用発明1と同様かそれ以上の省燃費性を示すものとなるかどうかは、本願発明1の上記相違点1に係る摩擦緩和剤と、引用発明1に含まれる過塩基性カルシウム・モノアルキルサリシレートや、過塩基性カルシウム・アルキルトルエンスルホネートとの相互作用が当業者にとって明らかでない以上、不明といわざるを得ない。
そうすると、引用発明1において、上記「モリブデン含有摩擦低減剤」に替えて、又は、上記「モリブデン含有摩擦低減剤」に加えて、本願発明1の上記相違点1に係る摩擦緩和剤を含有させる、積極的な動機付けはないというべきである。
(イ)そこで、引用文献2をみると、その【請求項4】には、有機系摩擦低減剤が、「一般式(1)で表されるアルカン-1,2-ジオール」である潤滑油組成物が記載され、当該「一般式(1)で表されるアルカン-1,2-ジオール」は、同【0005】、【0008】の記載によると、既存の有機モリブデン化合物に替わる有機系摩擦低減剤として用いられているものであることが分かる。そうすると、引用文献2には、有機モリブデン化合物に替わる有機系摩擦低減剤として、「一般式(1)で表されるアルカン-1,2-ジオール」を用いた潤滑油組成物に関する技術的事項(以下、「引用発明2」という。)が記載されているということができる。
しかしながら、以下に説示するとおり、引用発明2を、引用発明1に適用し、引用発明1における「モリブデン含有摩擦低減剤」を、引用発明2に係る「一般式(1)で表されるアルカン-1,2-ジオール」に替えること(一部を替える場合を含む)には、これを阻害する事情(容易想到性の論理付けを妨げる要因(阻害要因))が存するものと認められる。
すなわち、引用文献1の【0009】、【0010】の記載に照らすと、引用発明1は、「これまでに優れた摩擦低減特性を示す潤滑油添加剤であり、省燃費性の向上に有効であることが知られているモリブデン含有摩擦低減剤を含む潤滑油組成物」を前提とし、「さらに優れた省燃費性を示す潤滑油組成物を提供すること」を、目的(解決課題)としたものであって(【0009】)、当該モリブデン含有摩擦低減剤に対する、各種潤滑油添加剤の併用効果を検討してなされたものであることが理解できる(【0010】)。そうである以上、引用発明1における「モリブデン含有摩擦低減剤」を、引用発明2に係る「一般式(1)で表されるアルカン-1,2-ジオール」に替えることは、引用発明1の前提を覆すものであり、上記引用発明1の目的(解決課題)に反するものと解するのが合理的であるから、そこには阻害要因が存するものといわざるを得ない。
また、上記阻害要因の存在にかかわらず、本願発明1の上記相違点1に係る構成を容易想到の事項と論理付けるに足りる証拠は見当たらない。
(ウ)なお、引用発明2を、引用発明1に適用する態様としては、引用発明1における「モリブデン含有摩擦低減剤」の使用量を変えず、さらに「一般式(1)で表されるアルカン-1,2-ジオール」を加える態様も考えられるから、念のため、以下、この態様の容易想到性についても検討しておく。
引用文献1の【0053】には、「摩擦調整剤として機能する各種アミン、アミド、アミン塩、およびそれらの誘導体、あるいは多価アルコールの脂肪酸エステル、あるいはそれらの誘導体を添加することもできる」と記載されているから、引用発明1は、摩擦調整剤をさらに追加することを許容しているということができるものの、「アルカン-1,2-ジオール」に該当する物質をさらに添加することについての示唆はない。加えて、引用発明2に係る「一般式(1)で表されるアルカン-1,2-ジオール」は、上記のとおり、既存の有機モリブデン化合物に替わる有機系摩擦低減剤として用いられるのであるから、「既存の有機モリブデン化合物」に相当する引用発明1における「モリブデン含有摩擦低減剤」の使用量をそのままに、引用発明2に係る「一般式(1)で表されるアルカン-1,2-ジオール」を用いることは、引用発明2が予定するところでないと解するのが合理的である。したがって、上記態様についても、容易想到の事項ということはできない。
(エ)以上の点を併せて考えると、本願発明1の上記相違点1に係る構成は、引用発明2に照らしても、当業者が容易に想到し得るものと認められない。
(オ)そして、本願発明1は、本願発明1の発明特定事項をすべて具備することによりはじめて、本願明細書の実施例などから看取できる改善された摩擦性能という顕著な作用効果を奏するものである。
イ 小括
以上のとおり、本願発明1の上記相違点1に係る構成を容易想到の事項ということはできないから、上記相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

2 本願発明2?15について
本願発明2?14は、本願発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本願発明1と同様に、引用発明1、2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
本願発明15についても、本願発明1と同様に、「C_(10)?C_(30)ヒドロカルビル1,2-ジオール」を含むという発明特定事項を有しており、引用発明1、2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第6 むすび

以上のとおり、本願発明1?15は、引用文献1、2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-08-14 
出願番号 特願2014-188419(P2014-188419)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C10M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 青鹿 喜芳三須 大樹  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 川端 修
牟田 博一
発明の名称 省燃費エンジン油組成物  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  
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