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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A24F
管理番号 1353978
審判番号 不服2018-8804  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-27 
確定日 2019-08-07 
事件の表示 特願2016-110370「喫煙材を加熱するための断熱された装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月13日出願公開、特開2016-178937〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2012年8月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年9月6日、ロシア(RU) 2012年4月23日、英国(GB))を国際出願日とする特願2014-519586号の一部を平成28年6月1日に新たな特許出願としたものであって、平成28年6月2日に手続補正書が提出され、平成29年4月28日付けで通知された拒絶の理由に対して、平成29年10月24日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年2月23日付けで拒絶査定され、これに対して平成30年6月27日に拒絶査定不服審判が請求され、平成30年7月23日に審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし27に係る発明は、上記平成29年10月24日の手続補正書により補正された特許請求の範囲と明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし27に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。このうち、請求項1に係る発明を本願発明という。

「 【請求項1】
喫煙材の少なくとも1つの成分を揮発させるために喫煙材を加熱するように構成された装置であって、該装置は、中心領域を有する断熱材領域を含み、この中心領域は、断熱材の外部より低い圧力に減圧されており、かつ高真空である装置。
【請求項2】
前記真空が超高真空であることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
中心領域内の圧力は、約0.1?約0.001ミリバールであることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項4】
中心領域内の圧力は、10^(-7)トール程度であることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項5】
断熱材は、加熱された喫煙材からの熱損失を減少させるために喫煙材加熱チェンバーと装置の外部の間に位置することを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項記載の装置。
【請求項6】
断熱材は、加熱チェンバーの周囲に同軸に位置することを特徴とする請求項5記載の装置。
【請求項7】
喫煙材加熱チェンバーは、実質的に管状の加熱チェンバーであり、断熱材は、この管状の加熱チェンバーの長手方向に延びた面の周囲に位置することを特徴とする請求項5または6記載の装置。
【請求項8】
断熱材は、加熱チェンバーの周囲に位置する実質的に管状の断熱材からなる胴体部であることを特徴とする請求項7記載の装置。
【請求項9】
喫煙材加熱チェンバーは、断熱材とヒーターの間に位置していることを特徴とする請求項5乃至8いずれか1項記載の装置。
【請求項10】
ヒーターが喫煙材加熱チェンバーと断熱材の間に位置していることを特徴とする請求項5または6記載の装置。
【請求項11】
断熱材は、ヒーターの外部に位置していることを特徴とする請求項10記載の装置。
【請求項12】
ヒーターは、加熱チェンバーの周囲で同軸に位置し、断熱材は、ヒーターの周囲で同軸に位置していることを特徴とする請求項10または11記載の装置。
【請求項13】
断熱材は、断熱材を介した赤外線放射の伝搬を減少させるために赤外線放射反射材を含むことを特徴とする請求項1乃至12いずれか1項記載の装置。
【請求項14】
断熱材は、中心領域を囲む外壁を含むことを特徴とする請求項1乃至13いずれか1項記載の装置。
【請求項15】
壁の内面は、中心領域内の赤外線放射を反射するための赤外線放射反射コーティングを含むことを特徴とする請求項14記載の装置。
【請求項16】
壁は、厚さが少なくとも約100ミクロンのステンレススチールの層を含むことを特徴とする請求項14または15記載の装置。
【請求項17】
中心領域の両側の壁部分は、接合壁部によって連結し、この接合壁部は、中心領域の両側の壁部分の間の間接経路に続くことを特徴とする請求項14乃至16いずれか1項記載の装置。
【請求項18】
中心領域の両側の壁部分は、密閉された気体出口に向かって収束していることを特徴とする請求項14または15記載の装置。
【請求項19】
前記これらの壁部分は、断熱材の端部領域に収束していることを特徴とする請求項18記載の装置。
【請求項20】
断熱材の厚さは、約1mm未満であることを特徴とする請求項18または19記載の装置。
【請求項21】
断熱材の厚さは、約0.1mm未満であることを特徴とする請求項18または19記載の装置。
【請求項22】
断熱材の厚さは、約1mm?0.001mmであることを特徴とする請求項18または19記載の装置。
【請求項23】
断熱材の熱伝達係数は、断熱材の温度が100℃?250℃の範囲にある場合、約1.10W/(m^(2)K)?1.40W/(m^(2)K)であることを特徴とする請求項1乃至22いずれか1項記載の装置。
【請求項24】
中心領域は、多孔性材であることを特徴とする請求項1乃至23いずれか1項記載の装置。
【請求項25】
請求項1乃至24いずれか1項記載の装置と共に使用する喫煙材。
【請求項26】
請求項1乃至24いずれか1項記載の装置と該装置と共に使用される喫煙材を含むシステム。
【請求項27】
吸引のために喫煙材の少なくとも一つの成分を揮発させるために喫煙材を加熱することを含む請求項1乃至24いずれか1項記載の装置の使用方法。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された特表2009-501537号公報に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

4 引用刊行物等
(1) 本願の出願(優先日)前に日本国内又は外国において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特表2009-501537号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
無煙シガレット用のシガレット本体であって、シガレット本体(12)が一方の前面において空気吸入口を、かつ他方の前面において排気口を有する円筒形の本体(24)、空気吸入口と排気口を結びつける通気管および通気管を通り流れる空気加熱用の加熱装置(26)を保持し、かつ摂取品(58)用のデポを保持し、吸引口(18)を保持し形成されている円筒形のマウスピース(10)の前面に排気口を保持し形成されている前面を取り付けることができ、これにより摂取品が通気管を通りマウスピースの吸引口上へ運ばれた加熱空気の低圧により気化し、空気とともに吸引口から排気される無煙シガレット用のシガレット本体において、
本体(24)が本体の一方の軸末端において空気吸入口を貫いてアクセス可能であり、本体の他方の軸末端において熱伝導設備内の摂取品(58)における熱を良好に伝導する材から構成される本体を軸方向に横切る熱伝導体(26)を保持し、かつ本体が本体の放射状に外側へと延びる表面が熱伝導体(26)に対して断熱されている構造を保持することを特徴とするシガレット本体。
【請求項2】
本体(24)が断熱材を含むことを特徴とする請求項1に記載のシガレット本体。」

イ 「【0021】
シガレット本体12は、例えば銅である熱を良好に伝導する材料から成るヒートパイプ26を含む例えばセラミックス材料から成る断熱材の円筒形の外被または本体24を有する。図1に基づくヒートパイプ26の左末端は、本体24から突出しており、この突出域28の外形状は凹部20の形状にほぼ相当する。突出域28の前面は開いており、突出域の円筒形の内壁内には優先的に通過口30が形成される。前面は閉じ、かつ少なくとも通過口をさらに一つ設けて形成することも可能である。」

ウ 「【0028】
すなわち、マウスピース10は凹部20の内側において、例えば香りおよび/または味覚物質を加えたニコチンのような揮発性摂取品58により被覆されている。納品状態においてはこのマウスピース10は摂取品58が気化しないよう、例えばプラスチックホイルで包まれている。マウスピース10はこのプラスチックホイルを取り除いた後、シガレット本体12の突出域28に差し込まれ、これにより従来のシガレット(シガレット本体付きのマウスピース)の外観を有する一つのアセンブリが生じる。
【0029】
「点火」するにはシガレット本体12の図1による右末端をアダプタ14の挿入口36に挿入する。次いで、挿入構成材38を有するアダプタ14をライター44の突出部48に押し付ける。最初にアダプタ14をライター44に押し付けることもでき、かつこれに引き続きシガレットを挿入口36に挿入し得ることも理解できる。シガレット本体12のシェル34内およびライターの突出部48の挿入構成材38内への相互挿入運動は、アダプタ14に形成されているストッパにより制限され、これにより炎54が所定の形を有する場合には、ライターからシガレット本体12への、かつこれにより炎54のヒートパイプ26への幾何学的配置が規定されていることが好ましい。このようにしてヒートパイプ26の加熱に対するバイメタル金属板42の変形、かつこれによる摂取品58および手に保持されるシガレット本体12の外側の加熱も調整され、これにより?シガレット本体の熱伝導性が適切に調整されている際には?摂取品58が例えば50℃から60℃の溶解または気化温度に確実に達しているにもかかわらず、その外面はわずかに加熱されるだけである。」

エ 「【0031】
マウスピース10およびシガレット本体12から構成されるシガレットはアダプタ14を引き抜いた後、摂取品58がヒートパイプ26によりその高い熱容量により十分長い時間において気化に十分な温度に保持されるため、普通のシガレットのように摂取し得る。吸引口18を通して空気を吸引する際に、空気がこのヒートパイプ26と摂取品58が被覆または浸されている凹部20の表面域に沿った通過口30を通過し、これにより空気は口内または吸引により摂取し得る摂取品58の気化成分とその他の揮発成分を摂取する。」

オ 「【0033】
本発明は多様な方法で変更することができる。例えばマウスピース10は強制的にフィルタ材を保持する必要はない。凹部20はシガレット本体12内に形成することができ、これによりマウスピースはこれに相当する突出部を有しながら形成される。本体24およびヒートパイプ26は、外被を例えば内側はできるだけ高い熱容量を有する高い熱伝導性の材料、かつ外側は低い熱伝導性を有する材料のものにしながら単一構造に構成され得る。あるいは、本体24を各層間が真空である多層のサーモ容器のように形成することもできる。」

カ これらの記載事項によれば、引用例には、次の発明が記載されていると認めることができる(以下、この発明を「引用発明」という。)。

「空気加熱用の加熱装置を保持し、例えば香りおよび/または味覚物質を加えたニコチンのような揮発性摂取品が通気管を通りマウスピースの吸引口上へ運ばれた加熱空気の低圧により気化し、空気とともに吸引口から排気される無煙シガレットであって、該無煙シガレットは、そのシガレット本体が断熱されている構造を保持し、各層間が真空である多層のサーモ容器のように形成したシガレット本体である無煙シガレット。」

(2) 本願の出願(優先日)前に日本国内又は外国において頒布された特開2002-58605号公報(以下「周知例1」という。)には、次の事項が記載されている。

キ 「【0022】[第1の製造方法]本発明のガラス製の真空断熱容器1の第1の製造方法について、図3を参照して説明する。なお、図3において図1及び図2と共通する構成部は、同一符号を付して、詳細な説明は省略する。
(内外容器の製作)先ず内容器2を所望する形状に成形加工すると共に、内容器2を空隙部4を隔てて収容し得る寸法で、内容器とほぼ相似の外容器3を成形加工した後、口部3aを含む上部外容器3-1と、底部排気用チップ管6を含む下部外容器3-2とを分割して製作する。
(透視可能な輻射熱防止膜の形成)次いで、内容器2の外面2bに、設計仕様に従い上記した金属酸化物の膜及び金属膜を適宜選択して、前記した如きコーティング法や、蒸着法、スパッタリング法に従い塗膜し、透視可能な輻射熱防止膜5を、又は図2に図示する如き1部に透視可能な輻射熱防止膜5を有する非透視輻射熱防止膜12を形成する。
【0023】(内外容器の組立)引き続き、上部外容器3-1内に内容器2の口部2aを覆うようにして、パッド15を介在せしめて等間隔の空隙部4を隔てて配置収容して、それぞれの口部2aと3aとを気密に結合する。次いで下部外容器3-2を、内容器2の底部よりこれを被包するようにして挿入し、これらを空隙部4を隔てて配置して、上部外容器結合部3-1cと下部外容器結合部3-2cとを溶着結合して一体化し、二重壁容器とする。
(真空排気・封止)そして、最後に排気用チップ管6を介して、空隙部4を真空排気し、所定の真空度133.3×10^(-3)Pa以下に達したら、前記排気用チップ管6を溶着して真空封止する。」

ク 「空隙部真空度133.3×10^(-3)Pa以下とした真空断熱二重壁容器」

(3) 本願の出願(優先日)前に日本国内又は外国において頒布された特開平9-276155号公報(以下「周知例2」という。)には、次の事項が記載されている。

ケ 「【0018】〔第2実施例〕本発明の第2実施例を図3を参照して説明する。図3に示す本実施例の金属製断熱容器Bは、炭素鋼、ステンレス鋼やチタンなどの金属材料からなる内容器21と外容器23とを、空隙S2を保ってそれぞれの口元部同士を口元接合部25で一体に接合して形成した二重壁構造の容器である。上記空隙S2は真空とされ、外部との熱交換を遮断する断熱層34とされている。外容器23は、外筒22と、この外筒22下端部に底部接合部33で溶接された底部材24とから構成されている。底部材24には、空隙S2側に突出し、上面がほぼ平坦な外容器底凸部30が形成されている。また、内容器21の底部には、空隙S2側に突出し、下面がほぼ平坦な内容器底凸部29が設けられている。この外容器底凸部30の上面と内容器底凸部29の下面とは密着部31において互いに当接し、スポット溶接、プロジェクション溶接等により接合されている。
【0019】この密着部31には、内容器21と底部材24とを貫通して、電気配線などを挿通させるための貫通孔32が設けられている。この貫通孔32は、その口径が、0.5?15.0mmとなるよう形成されている。この口径が0.5mm未満であると、この貫通孔32に電気配線などを挿通させるのが困難となる。一方、この口径が15mmを越えると、ドリル等で簡単に孔が設けられないばかりでなく、断熱性能の劣化を招くこととなる。また、底部材24の空隙S2側にはゲッター材27が溶接されている。また、底部材24にはその下面側に、断熱層形成時に空隙S2内の空気を排出するためのチップ管28が取り付けられている。このチップ管28は、その下端部が圧着されて閉止されている。
【0020】上記のように構成された金属製断熱容器Bを製造するには、まず、ステンレス鋼やチタンなどの金属材料で内容器21と、好ましくは同一材料にて外筒22と、チップ管28を有する底部材24とをプレス、絞り加工等により成形加工する。この際、底部材24に、その内面側に突出する外容器底凸部30を設け、また、内容器21の底部に、その外面側に突出する内容器底凸部29を設ける。次いで、別途作製したゲッター材27を底部材24内面側に溶接する。
【0021】続いて、内容器21を外筒22内に配置し、これらの口元部同士を口元接合部25で溶接する。次いで外筒22の下端部に底部材24を配し、これらを底部接合部33で溶接する。この際、外容器底凸部30上面と内容器底凸部29下面とが互いに当接するようにする。次いで外容器底凸部30と内容器底凸部29とをスポット溶接、プロジェクション溶接等により、密着部31の全面に亙って溶接し、この溶接された密着部31の一部、好ましくはほぼ中央に、口径が0.5?15.0mmの貫通孔32をドリル等により形成する。以上のように各部材を組み立てて二重壁容器を作製する。
【0022】この二重壁容器の空隙S2内の空気を、図示しない真空排気装置により空隙S2内の空気を、その気圧がl×10^(-3)Pa以下となるまでチップ管28を通して排気する。排気終了後、チップ管28の先端を圧着して封止し、空隙S2を真空断熱層34とする。以上のようにして、断熱層34を有する金属製断熱容器Bを得る。
【0023】この実施例では、先の第1実施例と同じく、別部材を用いることなく電気配線などを挿通する貫通孔32を形成することができる。よって、容易に、かつ低コストで高い保温力を有する金属製断熱容器を製造することが可能である。また、貫通孔形成が容易である。さらにこの実施例では、内容器および外容器の両方に、空隙S2側に突出する内容器底凸部29および外容器底凸部30を設け、これらが、二重壁容器組立て時に互いに密着する密着部31を形成する構成としたので、貫通孔を金属製断熱容器の底部の任意の位置に、容易に設けることができる。」

コ 「真空断熱層空隙の気圧をl×10^(-3)Pa以下とした断熱二重壁容器」

5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、用語の意味、機能または作用等からみて、引用発明の「無煙シガレット」は、本願発明の「装置」に相当する。
また、本願発明の「喫煙材の少なくとも1つの成分を揮発させるために喫煙材を加熱するように構成された」態様と引用発明の「空気加熱用の加熱装置を保持し、例えば香りおよび/または味覚物質を加えたニコチンのような揮発性摂取品が通気管を通りマウスピースの吸引口上へ運ばれた加熱空気の低圧により気化し、空気とともに吸引口から排気される」態様とについて検討すると、本願明細書の段落【0031】の「本明細書中で使用する「喫煙材」なる用語は、加熱することによって含む揮発した成分を供するあらゆる材料を含み、あらゆるタバコ含有材を含み、例えばタバコ、タバコ派生物、膨張タバコ、再生タバコまたはタバコ代替え品の内の1つ以上を含んでもよい。」との記載を考慮すると、引用発明の「空気加熱用の加熱装置を保持し、例えば香りおよび/または味覚物質を加えたニコチンのような揮発性摂取品が通気管を通りマウスピースの吸引口上へ運ばれた加熱空気の低圧により気化し、空気とともに吸引口から排気される」態様は、技術常識から「ニコチン」が「喫煙材の少なくとも1つの成分」といえるし、そのような揮発性摂取品が加熱空気により気化するのであるから、喫煙材の少なくとも1つの成分を揮発させるために喫煙材を加熱するように構成されているといえるので、結局、引用発明の「空気加熱用の加熱装置を保持し、例えば香りおよび/または味覚物質を加えたニコチンのような揮発性摂取品が通気管を通りマウスピースの吸引口上へ運ばれた加熱空気の低圧により気化し、空気とともに吸引口から排気される」態様は本願発明の「喫煙材の少なくとも1つの成分を揮発させるために喫煙材を加熱するように構成された」態様に相当する。
そして、本願発明の「中心領域を有する断熱材領域を含み、この中心領域は、断熱材の外部より低い圧力に減圧されており、かつ高真空である」態様と引用発明の「そのシガレット本体が断熱されている構造を保持し、各層間が真空である多層のサーモ容器のように形成したシガレット本体である」とについて検討すると、引用発明の「そのシガレット本体が断熱されている構造を保持し、各層間が真空である多層のサーモ容器のように形成したシガレット本体である」態様は、各層間が真空である多層のサーモ容器のように形成した断熱されている構造が「中心領域を有する断熱材領域」といえるし、それが「断熱材の外部より低い圧力に減圧されており、かつ真空である」といえるので、結局、本願発明の「中心領域を有する断熱材領域を含み、この中心領域は、断熱材の外部より低い圧力に減圧されており、かつ高真空である」態様と引用発明の「そのシガレット本体が断熱されている構造を保持し、各層間が真空である多層のサーモ容器のように形成したシガレット本体である」とは「中心領域を有する断熱材領域を含み、この中心領域は、断熱材の外部より低い圧力に減圧されており、かつ真空である」態様の限りにおいて一致している。
したがって、両者は、

「喫煙材の少なくとも1つの成分を揮発させるために喫煙材を加熱するように構成された装置であって、該装置は、中心領域を有する断熱材領域を含み、この中心領域は、断熱材の外部より低い圧力に減圧されており、かつ真空である装置。」
である点で一致し、次の点で相違している。

[相違点] 「真空」の程度が、本願発明では、「高真空」であるのに対して、引用発明では、「高真空」であるか不明である点。

6 判断
上記相違点について検討すると、本願発明において「高真空」の具体的圧力が定義されておらず、どの程度の真空度を指すものか不明であるというほかないところ、特許請求の範囲の記載(【請求項3】及び【請求項4】)及び明細書の記載(【0071】及び【0075】)からすると、「約0.1?約0.001ミリバール」及び「10^(-7)トール程度」が含まれ得ると解せる。そこで、JISにおける「高真空」を含め、この範囲の圧力について検討する。
「約0.1?約0.001ミリバール」について、単位をPaに換算すると、0.1ミリバール=10Pa、0.001ミリバール=0.1Paであるし、「10^(-7)トール程度」について、同じく単位をPaに換算すると、10^(-7)トール=1.3332×10^(-5)Paであるから、単位Paで表すと、10^(1)Paないし10^(-5)Paの範囲と解せる。これはJISに定義される「中真空」(100?0.1Pa)及び「高真空」(0.1?10^(-5)Pa)の範囲に当たる。ところで、「空隙部真空度133.3×10^(-3)Pa以下とした真空断熱二重壁容器」(上記「ク」参照。)が本願の優先日前に周知であったことからすると、サーモ容器の真空層を0.1333Pa以下とすることは周知であったし、「真空断熱層空隙の気圧をl×10^(-3)Pa以下とした断熱二重壁容器」(上記「コ」参照。)が同じく周知であったことからすると、サーモ容器の真空層をl×10^(-3)Pa以下とすることは周知であったから、引用発明の「真空」の程度を0.1333Pa以下と設定することやl×10^(-3)Pa以下と設定することは当業者が適宜設定し得たことといえる。そして、真空断熱における真空度を高くすることで、その保温性能や断熱性能が向上することは技術常識といえるところ、真空断熱においてその断熱性能は真空の程度やその厚さ(断熱層の距離)等に依るものであって、必要な保温性能や断熱性能を得るために真空の程度を設定することは設計的事項といえる。そうすると、「約0.1?約0.001ミリバール」や「10^(-7)トール程度」の真空度とすることは、当業者にとって格別な困難性があるものとはいえない。
よって、引用発明をして上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明の効果は、本願明細書の記載をみても、具体的に必ずしも明らかとはいえないところ、その高真空の断熱材領域を含むことに係るものについて、本願明細書の段落【0071】等の記載からすると、全厚を小さくできることが挙げられているといえるが、その効果は当業者にとって格別予想外のものであるとはいえず、引用発明、上記周知の事項(周知例1記載事項及び周知例2記載事項)から予測し得る程度のものと認められる。なお、請求人は、平成30年7月23日に提出した手続補正書で補正した審判請求書の「3.(3)」において、本願発明における「喫煙材」は引用発明の「摂取品」とは異なる旨及び本願発明の「100?250℃」という温度は引用発明のそれとは異なることに係る主張をしているが、「喫煙材」に係る主張は、先に指摘したように本願明細書の段落【0031】における定義からして採用できないし、また、「100?250℃」という温度に係る主張は、上記「喫煙材」に係る主張が採用できないこと、及び本願発明において「温度」に係る特定が特段なされていないことから、採用できるものではない。

7 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、上記周知の事項(周知例1記載事項及び周知例2記載事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため、本願の他の請求項2ないし27に係る発明について検討するまでもなく拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-03-11 
結審通知日 2019-03-12 
審決日 2019-03-25 
出願番号 特願2016-110370(P2016-110370)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 豊島 ひろみ  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 田村 嘉章
井上 哲男
発明の名称 喫煙材を加熱するための断熱された装置  
代理人 森田 順之  
代理人 轟木 哲  

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