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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1353996
審判番号 不服2018-10510  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-02 
確定日 2019-08-08 
事件の表示 特願2014-177753「燃料噴射弁」拒絶査定不服審判事件〔平成28年4月11日出願公開、特開2016-50552〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年9月2日の出願であって、平成29年10月27日付け(発送日:同年11月7日)で拒絶理由が通知され、同年12月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年5月8日付け(発送日:同年5月15日)で拒絶査定がされ、これに対して同年8月2日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。

第2 平成30年8月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成30年8月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1 本願補正発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前(平成29年12月7日の手続補正書)の請求項1に、
「【請求項1】
弁体が接離する弁座の下流側に設けられた燃料噴射孔と、前記燃料噴射孔の入口が底面に開口し前記底面の周囲が内周壁によって囲まれ前記入口の周囲に燃料の旋回流路が形成された旋回室と、一方の側壁が前記内周壁の旋回燃料の流れ方向における上流側に接続され他方の側壁が前記内周壁の下流側に接続されて前記内周壁に開口し前記旋回室に燃料を供給する横方向通路と、前記横方向通路が形成されたノズルプレートと、を有する燃料噴射弁において、
前記横方向通路は、複数の横方向通路が前記ノズルプレートの中心側から外周側に向かって径方向に延設されると共に、それぞれの横方向通路の一端部に前記旋回室が設けられ、
それぞれの横方向通路は、他端部において、隣接する側壁同士が直接接続されて、放射状に形成され、
前記横方向通路の前記一方の側壁に接し且つ前記一方の側壁に沿って延長した第一の延長線と、前記横方向通路の前記他方の側壁に接し且つ前記他方の側壁に沿って延長した第二の延長線とを仮想し、前記燃料噴射孔、前記旋回室、前記横方向通路、前記第一の延長線及び前記第二の延長線を燃料噴射弁の中心軸線に垂直な平面に投影した場合、前記燃料噴射孔の入口開口の投影図が前記第二の延長線の投影図を越えて前記一方の側壁の投影図側又は前記第一の延長線の投影図側に位置することを特徴とする燃料噴射弁。」
とあったものを、
「【請求項1】
弁体が接離する弁座の下流側に設けられた燃料噴射孔と、前記燃料噴射孔の入口が底面に開口し前記底面の周囲が内周壁によって囲まれ前記入口の周囲に燃料の旋回流路が形成された旋回室と、一方の側壁が前記内周壁の旋回燃料の流れ方向における上流側に接続され他方の側壁が前記内周壁の下流側に接続されて前記内周壁に開口し前記旋回室に燃料を供給する横方向通路と、前記横方向通路が形成されたノズルプレートと、を有する燃料噴射弁において、
前記横方向通路は、複数の横方向通路が前記ノズルプレートの中心側から外周側に向かって径方向に延設されると共に、それぞれの横方向通路の一端部に前記旋回室が設けられ、
それぞれの横方向通路は、他端部において、隣接する側壁同士が直接接続されて、放射状に形成され、
前記横方向通路の前記一方の側壁に接し且つ前記一方の側壁に沿って延長した第一の延長線と、前記横方向通路の前記他方の側壁に接し且つ前記他方の側壁に沿って延長した第二の延長線とを仮想し、前記燃料噴射孔、前記旋回室、前記横方向通路、前記第一の延長線及び前記第二の延長線を燃料噴射弁の中心軸線に垂直な平面に投影した場合、前記燃料噴射孔の入口開口の投影図は、前記第二の延長線の投影図を越えて前記一方の側壁の投影図側又は前記第一の延長線の投影図側に位置し、
前記横方向通路から前記旋回室に流入する燃料を、前記第二の延長線の投影図を越えて前記一方の側壁の投影図側又は前記第一の延長線の投影図側に位置する前記燃料噴射孔の入口開口の投影図の部分に、前記旋回流路を旋回することなく流入させ、
前記第二の延長線の投影図を越えて前記一方の側壁の投影図側又は前記第一の延長線の投影図側に位置する前記燃料噴射孔の入口開口の投影図の部分に流入する燃料により噴霧角度が小さくペネトレーションの長い燃料噴霧を形成し、
前記旋回流路を旋回して前記燃料噴射孔に流入する燃料により噴霧角度が大きくペネトレーションの短い燃料噴霧を形成することを特徴とする燃料噴射弁。」
と補正することを含むものである(下線は補正箇所を示すために請求人が付した。)。

上記補正は、燃料噴射弁について、「前記横方向通路から前記旋回室に流入する燃料を、前記第二の延長線の投影図を越えて前記一方の側壁の投影図側又は前記第一の延長線の投影図側に位置する前記燃料噴射孔の入口開口の投影図の部分に、前記旋回流路を旋回することなく流入させ、前記第二の延長線の投影図を越えて前記一方の側壁の投影図側又は前記第一の延長線の投影図側に位置する前記燃料噴射孔の入口開口の投影図の部分に流入する燃料により噴霧角度が小さくペネトレーションの長い燃料噴霧を形成し、前記旋回流路を旋回して前記燃料噴射孔に流入する燃料により噴霧角度が大きくペネトレーションの短い燃料噴霧を形成する」との限定を付したものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて検討する。

2 引用文献、引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された米国特許出願公開第2003/0141385号明細書(以下、「引用文献」という。)には、「燃料噴射スワールノズル組立体」に関して、図面(特に、図1ないし5及び7を参照。)とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。

ア 「[0006] FIG. 4 is a top view of the nozzle plate where the orifice holes are in a circular pattern;
[0007] FIG. 5 is a side cross-sectional view of the nozzle plate taken along line A-A of FIG. 4 shown where an axis of the orifice holes is parallel to a supply axis of the assembly; 」
(当審仮訳)
「[0006] 図4は、オリフィス孔が円環状に配置されたノズルプレートの平面図である。
[0007] 図5は、オリフィス孔の軸線を、組み立て体の供給軸線と平行としたノズルプレートの図4におけるA-A横断面図である。」

イ 「[0009]FIG. 7 is top view of one swirl chamber and channel showing the fuel flow patterns therein;」
(当審仮訳)
「[0007] 図7は、一つの渦流室及び流路における燃料の流れパターンを示す平面図である。」

ウ 「 [0014] Referring to FIGS. 1 and 2 , a fuel injector nozzle assembly of the preferred embodiment of the present invention is shown generally at 10. The fuel injector nozzle assembly 10 includes an injector body 12 which defines a supply axis 14 through which fuel flows. A distal end of the injector body 12 defines a valve seat 16. The valve seat 16 has a supply passage 18 through which fuel flows outward from the injector body 12. An upper surface 20 of the valve seat 16 is adapted to engage a valve 22 to selectively seal the supply passage 18 to block the flow of fuel from the injector body 12.
[0015] Referring to FIGS. 3-6, a nozzle plate 24 is mounted onto the valve seat 16. The nozzle plate 24 includes a top surface 26 and a bottom surface 28. The top surface 26 includes a recess 30 formed therein such that fuel flows from the supply passage 18 into the recess 30. The top surface 26 of the nozzle plate 24 also includes a plurality of swirl chambers 32 formed therein. Each of the swirl chambers 32 includes a conical orifice hole 34 extending downward from the swirl chamber 32 to the bottom surface 28 of the nozzle plate 24. A plurality of channels 38 formed within the top surface 26 of the nozzle plate 24 interconnect the swirl chambers 32 to the recess 30. In the preferred embodiment, the nozzle plate 24 is made from metal, and is welded onto the valve seat 16. Specifically, the nozzle plate 24 is preferably made from stainless steel, and is attached to the valve seat 16 by laser welding. 」
(当審仮訳)
「[0014] 図1及び図2において、本発明の、好ましい実施形態の燃料噴射ノズル組立体が10で示されている。燃料噴射ノズル組立体10は、燃料が流れる供給軸線14を有する噴射器本体12を含む。噴射器本体12の遠位端は、弁座16を規定する。弁座16は、燃料が噴射器本体12から外方に流れる供給通路18を有している。弁座16の上面20は、弁22と係合して、選択的に供給通路18を封止して噴射器本体12からの燃料の流れを遮断するように構成されている。
[0015] 図3-6を参照すると、ノズルプレート24は、弁座16上に取り付けられている。ノズルプレート24には上面26と底面28がある。上面26には凹部30が形成され、燃料が供給通路18から凹部30内に流れるようになっている。ノズルプレート24の上面26は複数の渦流室32も形成されている。渦流室32の各々は、渦流室32からノズルプレート24の底面28に向かって下方に延びる円錐形オリフィス孔34を備えている。ノズルプレート24の上面26に形成されたチャネル38は渦流室32と凹部30を相互接続する。好ましい実施形態では、ノズルプレート24は、金属製であり、弁座16に溶接されている、ノズルプレート24は、好ましくはステンレス鋼から作製され、レーザ溶接により、弁座16に取り付けられている。」

エ 「Preferably, the channels 38 are straight, as shown in FIG. 7,」(第2欄第2行ないし第3行)
(当審仮訳)
「好ましくは、図7に示されるように、横方向流路38は真っ直ぐである。」

オ 上記ア(段落[0006]の「図4は、オリフィス孔が円環状に配置されたノズルプレートの平面図である。」との記載)及び上記イから、図4及び図7は、円錐形オリフィス孔34、渦流室32及びチャネル38を、燃料噴射ノズル組立体10の供給軸線14に垂直な平面に投影した場合の位置関係を示しているといえる。そして、上記ア(図5は、図4のA-A横断面図であるという旨の記載)及び図7から、チャネル38の他方の側壁に接し且つ他方の側壁に沿って延長した第二の延長線と円錐形オリフィス孔34の入口開口とは、交差していることが分かる。
以上のことから、「チャネル38の一方の側壁に接し且つ一方の側壁に沿って延長した第一の延長線と、前記チャネル38の他方の側壁に接し且つ他方の側壁に沿って延長した第二の延長線とを仮想し、円錐形オリフィス孔34、渦流室32、チャネル38、前記第一の延長線及び前記第二の延長線を燃料噴射ノズル組立体10の中心軸線に垂直な平面に投影した場合、前記円錐形オリフィス孔34の入口開口の投影図は、前記第二の延長線の投影図を越えて前記一方の側壁の投影図側又は前記第一の延長線の投影図側に位置」しているといえる。

上記記載事項、認定事項及び図面の図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「弁22が接離する弁座16の下流側に設けられた円錐形オリフィス孔34と、前記円錐形オリフィス孔34の入口が底面に開口し前記底面の周囲が内周壁によって囲まれ前記入口の周囲に燃料の旋回流路が形成された渦流室32と、一方の側壁が前記内周壁の旋回燃料の流れ方向における上流側に接続され他方の側壁が前記内周壁の下流側に接続されて前記内周壁に開口し前記渦流室32に燃料を供給するチャネル38と、前記チャネル38が形成されたノズルプレート24と、を有する燃料噴射ノズル組立体10において、
前記チャネル38は、複数のチャネル38が前記ノズルプレート24の中心側から外周側に向かって径方向に延設されると共に、それぞれのチャネル38の一端部に前記渦流室32が設けられ、
それぞれのチャネル38は、他端部において、凹部30に接続されて、放射状に形成され、
前記チャネル38の前記一方の側壁に接し且つ前記一方の側壁に沿って延長した第一の延長線と、前記チャネル38の前記他方の側壁に接し且つ前記他方の側壁に沿って延長した第二の延長線とを仮想し、前記円錐形オリフィス孔34、前記渦流室32、前記チャネル38、前記第一の延長線及び前記第二の延長線を燃料噴射ノズル組立体10の供給軸線14に垂直な平面に投影した場合、前記円錐形オリフィス孔34の入口開口の投影図は、前記第二の延長線の投影図を越えて前記一方の側壁の投影図側又は前記第一の延長線の投影図側に位置する燃料噴射ノズル組立体10。」

3 対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「弁22」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明の「弁体」に相当し、以下同様に、「弁座16」は「弁座」に、「円錐形オリフィス孔34」は「燃料噴射孔」に、「渦流室32」は「旋回室」に、「チャネル38」は「横方向通路」に、「ノズルプレート24」は「ノズルプレート」に、「供給軸線14」は「中心軸線」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明の「それぞれのチャネル38は、他端部において、凹部30に接続されて、放射状に形成され、」と、本願補正発明の「それぞれの横方向通路は、他端部において、隣接する側壁同士が直接接続されて、放射状に形成され、」とは、「それぞれの横方向通路は、接続されて、放射状に形成され、」という限りにおいて一致している。

したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
〔一致点〕
「弁体が接離する弁座の下流側に設けられた燃料噴射孔と、前記燃料噴射孔の入口が底面に開口し前記底面の周囲が内周壁によって囲まれ前記入口の周囲に燃料の旋回流路が形成された旋回室と、一方の側壁が前記内周壁の旋回燃料の流れ方向における上流側に接続され他方の側壁が前記内周壁の下流側に接続されて前記内周壁に開口し前記旋回室に燃料を供給する横方向通路と、前記横方向通路が形成されたノズルプレートと、を有する燃料噴射弁において、
前記横方向通路は、複数の横方向通路が前記ノズルプレートの中心側から外周側に向かって径方向に延設されると共に、それぞれの横方向通路の一端部に前記旋回室が設けられ、
それぞれの横方向通路は、接続されて、放射状に形成され、
前記横方向通路の前記一方の側壁に接し且つ前記一方の側壁に沿って延長した第一の延長線と、前記横方向通路の前記他方の側壁に接し且つ前記他方の側壁に沿って延長した第二の延長線とを仮想し、前記燃料噴射孔、前記旋回室、前記横方向通路、前記第一の延長線及び前記第二の延長線を燃料噴射弁の中心軸線に垂直な平面に投影した場合、前記燃料噴射孔の入口開口の投影図は前記第二の延長線の投影図を越えて前記一方の側壁の投影図側又は前記第一の延長線の投影図側に位置する燃料噴射弁。」

〔相違点1〕
本願補正発明においては、それぞれの横方向通路は、「他端部において、隣接する側壁同士が直接接続されて、」放射状に形成されているのに対して、引用発明においては、それぞれの横方向通路は、「他端部において、凹部30に接続されて、」放射状に形成されている点。

〔相違点2〕
本願補正発明においては、「前記横方向通路から前記旋回室に流入する燃料を、前記第二の延長線の投影図を越えて前記一方の側壁の投影図側又は前記第一の延長線の投影図側に位置する前記燃料噴射孔の入口開口の投影図の部分に、前記旋回流路を旋回することなく流入させ、前記第二の延長線の投影図を越えて前記一方の側壁の投影図側又は前記第一の延長線の投影図側に位置する前記燃料噴射孔の入口開口の投影図の部分に流入する燃料により噴霧角度が小さくペネトレーションの長い燃料噴霧を形成し、前記旋回流路を旋回して前記燃料噴射孔に流入する燃料により噴霧角度が大きくペネトレーションの短い燃料噴霧を形成する」のに対して、引用発明においては、かかる事項を備えるのか不明な点。

上記相違点1について検討する。
燃料噴射弁において、一端部に旋回室が設けられたそれぞれの横方向通路を、他端部において、隣接する側壁同士を直接接続し、放射状に形成することは、本願出願前に周知の技術である(以下、「周知技術」という。例えば、特開2014-31758号公報(公開日:平成26年2月20日)の段落【0028】並びに図18及び19、特開2002-98028号公報(公開日:平成14年4月5日)の図3ないし5を参照。)。
引用発明において周知技術を参酌し、上記相違点1に係る本願補正発明の特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

上記相違点2について検討する。
上記相違点2に係る本願補正発明の特定事項に関して、本願明細書の段落【0069】には「本実施例では、燃料噴射孔220の入口開口220iが、側壁211iの延長線211ilを越えて、側壁211o側にはみ出すように構成されることにより、横方向通路211から旋回室212に流入する燃料がほとんど旋回室212を旋回しないまま燃料噴射孔220に流入する。すなわち、燃料が燃料噴射孔220に流入し易くなる。側壁211o側へのはみ出し量を変えることにより、燃料噴射孔220への燃料流れの流入のし易さを調整することができ、燃料噴射孔220に流入する燃料の流量、すなわち噴射量を調整することができる。通常、側壁211o側へのはみ出しを大きくするほど、燃料噴射孔220に流入する燃料の流量(噴射量)は増加する。」と記載され、段落【0071】には「本実施例では、図5に示すような噴霧形態となる。燃料が旋回室212を十分に旋回することなく燃料噴射孔220に流入した側501では、燃料噴射孔220の軸方向における燃料の流速(軸方向速度)が大きく、かつ貫徹力の強い燃料噴霧が形成される。また、501側では、噴霧角度が小さく、ペネトレーションが長くなる。一方、502側では、旋回室212を旋回した燃料流れが燃料噴射孔220に流入する。このため、502側では、501側と比べて、燃料の軸方向速度が小さく、貫徹力の弱い燃料噴霧が形成される。また、502側では、501側と比べて、旋回力が強いため、噴霧角度が大きく、ペネトレーションが短くなる。」と記載されている。
これらの記載からみて、本願補正発明において「前記横方向通路から前記旋回室に流入する燃料を、前記第二の延長線の投影図を越えて前記一方の側壁の投影図側又は前記第一の延長線の投影図側に位置する前記燃料噴射孔の入口開口の投影図の部分に、前記旋回流路を旋回することなく流入させ」るのは、「燃料噴射孔220の入口開口220iが、側壁211iの延長線211ilを越えて、側壁211o側にはみ出すように構成される」ことによるものと理解できる。
そうすると、引用発明の「前記第二の延長線の投影図を越えて前記一方の側壁の投影図側又は前記第一の延長線の投影図側に位置する」円錐形オリフィス孔34の入口開口の投影図の部分は、チャネル38の他方の側壁の延長線を越えて、一方の側壁側にはみ出すように構成されているから、円錐形オリフィス孔34の当該部分に、燃料が旋回流路を旋回することなく、あるいは、ほとんど旋回することなく流入することは、当業者が容易に理解できたことである。
そして、旋回方向の速度成分をほとんど持たずに燃料噴射孔の入口開口に流入した燃料は、噴霧角度が小さくペネトレーションの長い燃料噴霧を形成し、大きな旋回方向の速度成分を持って燃料噴射孔の入口開口に流入した燃料は、噴霧角度が大きくペネトレーションの短い燃料噴霧を形成することは本願出願前に周知の事項である(以下、「周知事項」という。例えば、特開2008-280981号公報の段落【0065】ないし【0077】及び図3及び4、特開2007-138746号公報の段落【0058】ないし【0064】及び図9を参照。)。
そうすると、引用発明において、チャネル38から渦流室32に流入する燃料を、前記第二の延長線の投影図を越えて前記一方の側壁の投影図側又は前記第一の延長線の投影図側に位置する円錐形オリフィス孔34の入口開口の投影図の部分に、前記旋回流路を旋回することなく流入させ、前記第二の延長線の投影図を越えて前記一方の側壁の投影図側又は前記第一の延長線の投影図側に位置する前記円錐形オリフィス孔34の入口開口の投影図の部分に流入する燃料により噴霧角度が小さくペネトレーションの長い燃料噴霧を形成し、前記旋回流路を旋回して前記円錐形オリフィス孔34に流入する燃料により噴霧角度が大きくペネトレーションの短い燃料噴霧を形成するように構成することは、当業者が容易になし得たことである。
よって、上記相違点2に係る本願補正発明の特定事項は、引用発明及び周知事項に基いて、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願補正発明が奏する効果は、全体としてみても、引用発明、周知技術及び周知事項から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、周知技術及び周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成29年12月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記「第2〔理由〕1」に補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定における拒絶の理由の概要は次のとおりである。

(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項1ないし5に対して:引用文献等1ないし3

<引用文献等一覧>
1.米国特許出願公開第2003/0141385号明細書
2.特開2014-31758号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2002-98028号公報(周知技術を示す文献)

3 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(米国特許出願公開第2003/0141385号明細書)、その記載事項及び引用発明は、前記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。

4 当審の判断
本願発明は、前記「第2〔理由〕」で検討した本願補正発明において、「前記横方向通路から前記旋回室に流入する燃料を、前記第二の延長線の投影図を越えて前記一方の側壁の投影図側又は前記第一の延長線の投影図側に位置する前記燃料噴射孔の入口開口の投影図の部分に、前記旋回流路を旋回することなく流入させ、前記第二の延長線の投影図を越えて前記一方の側壁の投影図側又は前記第一の延長線の投影図側に位置する前記燃料噴射孔の入口開口の投影図の部分に流入する燃料により噴霧角度が小さくペネトレーションの長い燃料噴霧を形成し、前記旋回流路を旋回して前記燃料噴射孔に流入する燃料により噴霧角度が大きくペネトレーションの短い燃料噴霧を形成する」との限定を省いたものである。
そうしてみると、本願発明の発明特定事項をすべて含んだものに実質的に相当する本願補正発明が、前記「第2〔理由〕3」に記載したとおり、引用発明、周知技術及び周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-06-05 
結審通知日 2019-06-11 
審決日 2019-06-24 
出願番号 特願2014-177753(P2014-177753)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02M)
P 1 8・ 575- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松永 謙一  
特許庁審判長 水野 治彦
特許庁審判官 金澤 俊郎
鈴木 充
発明の名称 燃料噴射弁  
代理人 ポレール特許業務法人  

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