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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A61K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K |
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管理番号 | 1354049 |
異議申立番号 | 異議2018-700528 |
総通号数 | 237 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-09-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-06-29 |
確定日 | 2019-06-14 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6310708号発明「固形状組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6310708号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6310708号の請求項1及び3に係る特許を維持する。 特許第6310708号の請求項2及び4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6310708号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成26年1月28日に出願され、平成30年3月23日にその特許権の設定登録がされ、同年4月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、同年6月29日に、特許異議申立人金山愼一(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、平成31年1月4日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年3月7日付けで意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、異議申立人より、同年4月23日に意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 平成31年3月7日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 請求項1に「ケルセチン及び/又はケルセチン配糖体」と記載されているのを、「ケルセチン又はルチン 10?60質量%」と訂正する。 (2)訂正事項2 請求項1に「炭酸塩」と記載されているのを、「炭酸塩 10?25質量%」と訂正する。 (3)訂正事項3 請求項1に「固形状組成物」と記載されているのを、「チュアブル錠」と訂正する。 (4)訂正事項4 請求項2を削除する。 (5)訂正事項5 請求項3に「固形状組成物中」と記載されているのを、「チュアブル錠中」と訂正する。 (6)訂正事項6 請求項3に「請求項1又は2記載の」と記載されているのを、「請求項1記載の」と訂正する。 (7)訂正事項7 請求項3に「固形状組成物」と記載されているのを、「チュアブル錠」と訂正する。 (8)訂正事項8 請求項4を削除する。 本件訂正は、訂正前に引用関係を有する請求項1ないし4に対して請求されたものであるから、本件訂正は、一群の請求項ごとに請求されている。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0008】【0010】の記載に基づいて、請求項1の「ケルセチン及び/又はケルセチン配糖体」を「ケルセチン又はルチン 10?60質量%」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、本件明細書の【0012】の記載に基づいて、請求項1の「炭酸塩」を「炭酸塩 10?25質量%」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3、5、7について 訂正事項3、5、7は、本件明細書の【0018】の記載に基づいて、請求項1及び3の「固形状組成物」、請求項3の「固形状組成物中」を、それぞれ、「チュアブル錠」、「チュアブル錠中」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)訂正事項4、8について 訂正事項4、8は、それぞれ請求項2、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (5)訂正事項6について 訂正事項6は、訂正事項4による請求項2の削除に伴い、請求項3において引用する請求項を「請求項1又は2」から「請求項1」に減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 次の成分(A)、(B)及び(C): (A) ケルセチン又はルチン 10?60質量%、 (B)炭酸塩 10?25質量%、 (C)有機酸、 を含有し、成分(A)と成分(B)の含有質量比[(B)/(A)]が0.2以上1以下であり、且つ成分(C)と成分(B)の当量比[(C)の当量/(B)の当量]が0.7?4である、チュアブル錠。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 チュアブル錠中の(C)有機酸の含有量が5.5?50質量%である請求項1記載のチュアブル錠。 【請求項4】 (削除) 」 第4 当審が通知した取消理由について 1 訂正前の請求項1ないし4に係る特許に対して、当審が平成31年1月4日付け取消理由通知において特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (取消理由1:特許法第29条第2項、同法第113条第2号) 請求項1ないし4に係る発明は、甲1?甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (取消理由2:特許法第36条第6項第1号、同法第113条第4号) 「後味に残る金属味」の評価方法が理解できないから、請求項1ないし4の発明の課題を解決できたことを確認することができず、また、ケルセチン無水物とルチン三水和物よりも、格段に水溶性が高い酵素処理ケルセチン配糖体を使用した場合には、請求項1ないし4に係る発明の(B)/(A)の数値範囲において、後に残る金属味と苦味を押さえることを当業者は認識できないから、請求項1ないし4に係る発明は、当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものということができず、発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 異議申立人が提出した証拠方法 異議申立人は、証拠方法として以下の甲1?甲10を提出した。 甲1:特開平4-327526号公報 甲2:国際公開第2013/132668号 甲3:特開2010-215520号公報 甲4:電子情報通信学会誌,Vol.95,No.5,p.427?431(2012) 甲5:Journal of Food Engineering , 100(2010) 208-218 甲6:特許第4826740号公報 甲7:東洋精糖株式会社のインターネット情報、平成30年6月(出力日) (http://www.toyosugar.co.jp/item/agrutin.html) 甲8:特表2013-539768号公報 甲9:特開2001-8666号公報 甲10:特許第2523384号公報 なお、上記の甲1?甲7は特許異議申立書とともに、甲8?甲10は意見書とともに提出されたものである。 3 甲各号証の記載 (1)甲1について ア 甲1には、次の事項が記載されている。 「【請求項1】不快な味を有する物質に対して、口腔内溶解時に発泡する発泡剤を配合したことを特徴とする経口用固形製剤。」 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、医薬品あるいは食品等の分野における経口用固形製剤、例えば錠剤、散剤、顆粒剤などにおける味覚の改善に関する。」 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、苦み等の不快な味を有する成分の本来の溶解性を損なうことなく、服用感に優れ不快な後味がない経口用固形製剤を提供するものである。 【0005】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、苦み等の不快な味をマスキングし、かつ、不快感のある後味を解消する効果を向上させるべく鋭意探求した結果、固形製剤が口腔内において溶解すると同時に発泡させることにより、上記目的が達成しうることを見い出した。 【0006】すなわち、本発明の経口用固形製剤は、不快な味を有する物質に対して、口腔内溶解時に発泡する発泡剤を配合したことを特徴とする。」 「【0007】 【発明の実施態様】本発明において用いられる口腔内溶解時に発泡する発泡剤としては、分解して炭酸ガスを発生する成分と、この分解剤との組み合わせが好適であり、例えば、炭酸塩と有機酸等の還元剤との組み合わせが挙げられる。 … 【0009】炭酸塩と有機酸との反応は、有機酸のもつ水素原子が炭酸塩を還元し、その結果有機酸はナトリウム塩等の塩になり、炭酸塩は水と二酸化炭素を放出する。製剤が口腔内で溶解するときこの反応は促進されるが、放出される二酸化炭素が発泡という状態をとることにより、不快な味が効果的にマスキングされる。 【0010】本発明の対象となる苦みを有する物質としては、無水カフェイン、カフェイン、ジプロフィリン、サリチル酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ピリドキシン、ジメンヒドリナート、塩酸メクリジン、塩酸メチルエフェドリン、グアヤコールスルホン酸カリウム、グアイフェネシン、塩酸クロルヘキシジンが代表的である。 【0011】また、本発明の対象となる苦みを有する他の物質として、リン酸ジヒドロコデイン、塩酸エフェドリン、スピロノラクトン、テガフール、ステアリン酸エリスロマイシン、アラセプリル、パルプロ酸ナトリウム、塩酸メクロフェノキサート、クロラムフェニコール、アミノフィリン、エリスロマイシン、ホパテン酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、フェノバルビタール、シメチジン、塩酸エチレフリン、塩酸ピレンゼピン、塩酸ブチルスコポラミン、塩酸ジルチアゼム、エノキサシン、ピロミド酸三水和物、塩酸プロプラノロール、フルフェナム酸、クロルプロマジン、ジギトキシン、塩酸プロメタジン、塩酸メトクロプラミド、オフロキサシン、スルピリン、アセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェンなどがある。 【0012】さらに、渋味(収斂性)を有する物質として、塩酸ペンジダミン、塩酸アルプレノロール、塩酸ビフェメラン、リドカイン、塩酸ジフェンヒドラミン、トルメチンナトリウム、塩酸ノルトリプチリン、塩酸ロペラミドなどが挙げられる。これらの物質は、一般に苦みを併せもっている。」 「【0014】本発明において発泡剤として用いる炭酸水素ナトリウムは、固形製剤中に0.5?20重量%、好ましくは1?10重量%、有機酸は1?40重量%、好ましくは3?20重量%用いられる。1種あるいは2種以上の不快味を有する成分の配合量は、通常1?30重量%である。」 「【0017】炭酸塩と有機酸が通常の状態で反応性を有する場合、錠剤であれば、例えば炭酸水素ナトリウムを第1層に、クエン酸を第3層に含有させ非接触的に配合した多層錠としたり、顆粒剤、散剤であれば、例えば炭酸水素ナトリウムとクエン酸を別個の包装としたり、あるいは結晶セルロースなどの化学的不活性物質で倍散させ、両者の接触機会を極力小さくすることにより製剤中での反応の進行を回避することができる。」 「【0018】 【発明の効果】本発明にしたがうと、苦み等の不快な味を有する成分を含有する医薬品製剤のマスキングに効果的であり、内服薬の服用感向上に好適である。さらに、苦みのマスキングのみならず、味覚的に不快感を有する成分を含む組成物の嗜好性の向上に本発明の方法を採用してもよく、これは医薬品のみならず食品等の分野にも広く応用することができる。」 「【0019】 【実施例】 実施例1 苦み成分としてカフェイン1部をとり、キシリトール、炭酸水素ナトリウム、アスコルビン酸、クエン酸、酒石酸を様々な混合比で加え乳糖で全量100部とした組成物につき、苦みマスキングの効果を評価した(表1参照)。 【0020】効果は、27人のパネルによる官能テストにより、口腔内で溶解開始後5分以内に苦みを感じないを-、ほとんど感じないを±、弱いを+、強いを++とした。結果は次の表1の通りであった。 【0021】 【表1】 【0022】実施例2 上記実施例1の比較例7を検体A、比較例3を検体B、実施例1を検体Cとし、これらの組成物の苦み知感を6人のパネラーによって比較した。 【0023】各パネラーは、組合せ(A,B)、(A,C)、(B,C)を1回ずつ7点法の尺度により判断を行なった。その結果を表2に示す。一対比較法の解析により、苦みのマスキングはC,B,Aの順に良好で、その差は有意(p<0.05)であった。 【0024】 【表2】 【0025】以下に、本発明における製剤での実施例を示す。苦みのマスキング効果、服用性および嗜好性について、これらの各実施例は、下記に示す全ての比較例に対し極めて良好なものであった。 【0026】実施例3 ジメンヒドリナート 5.5(部) 無水カフェイン 4.0 炭酸水素ナトリウム 6.0 アスコルビン酸 12.0 キシリトール 50.0 ヒドロキシプロピルセルロース 2.0 結晶セルロース 20.0 ステアリン酸マグネシウム 0.5 香料 微量 【0027】上記配合量で通常の方法により錠剤を調製し、鎮うん薬とする。また、上記配合成分のうち炭酸水素ナトリウム、アスコルビン酸を乳糖に置き換えたものを比較例1とする。 【0028】実施例4 マレイン酸クロルフェニラミン 0.2(部) ジプロフィリン 3.0 塩酸ピリドキシン 0.5 炭酸水素ナトリウム 8.0 クエン酸 4.0 コハク酸 4.0 ショ糖 60.0 ヒドロキシプロピルセルロース 3.0 乳糖 13.0 トウモロコシデンプン 4.3 【0029】上記配合量で通常の方法により錠剤を調製し、鎮うん薬とする。また、上記配合成分のうち炭酸水素ナトリウム、クエン酸、コハク酸を乳糖に置き換えたものを比較例2とする。 【0030】実施例5 カフェイン 1.5(部) サリチル酸ジフェンヒドラミン 2.3 1-メントール 0.02 炭酸水素ナトリウム 8.0 リンゴ酸 5.0 酒石酸 5.0 マンニトール 40.0 サッカリン 0.68 結晶セルロース 30.0 乳糖 7.0 ステアリン酸マグネシウム 0.5 【0031】上記配合量で通常の方法により錠剤を調製し、鎮うん薬とする。また、上記配合成分のうち炭酸水素ナトリウム、リンゴ酸、酒石酸を乳糖に置き換えたものを比較例3とする。 【0032】実施例6 サリチル酸ジフェンヒドラミン 4.0(部) ジプロフィリン 2.5 炭酸水素ナトリウム 5.0 コハク酸 6.0 リンゴ酸 8.0 キシリトール 30.0 サッカリン 1.0 ヒドロキシプロピルセルロース 3.5 乳糖 25.0 トウモロコシデンプン 15.0 【0033】上記配合量で通常の方法により顆粒剤を調製し、鎮うん薬とする。また、上記配合成分のうち炭酸水素ナトリウム、コハク酸、リンゴ酸を乳糖に置き換えたものを比較例4とする。 【0034】実施例7 デキストロメトルファンフェノールフタリン塩 2.0(部) グアイフェネシン 5.3 塩酸クロルヘキシジン 0.3 炭酸水素ナトリウム 5.0 アスコルビン酸 4.0 酒石酸 4.0 マンニトール 30.4 キシリトール 40.0 タルク 3.3 ステアリン酸マグネシウム 1.5 トウモロコシデンプン 4.2 香料 微量 【0035】上記配合量で通常の方法によりトローチ剤を調製し、鎮咳去痰薬とする。また、上記配合成分のうち炭酸水素ナトリウム、アスコルビン酸、酒石酸を乳糖に置き換えたものを比較例5とする。 【0036】実施例8 リン酸ジヒドロコデイン 0.5(部) d1-塩酸メチルエフェドリン 1.4 ノスカピン 1.1 塩化リゾチーム 1.1 マレイン酸クロルフェニラミン 0.2 グアヤコールスルホン酸カリウム 4.0 炭酸水素ナトリウム 8.0 クエン酸 14.0 ソルビトール 30.7 ヒドロキシプロピルセルロース 3.0 乳糖 18.0 トウモロコシデンプン 18.0 【0037】上記配合量で通常の方法により顆粒剤を調製し、鎮咳去痰薬とする。また、上記配合成分のうち炭酸水素ナトリウム、クエン酸を乳糖に置き換えたものを比較例6とする。」 イ 上記アによれば、甲1には、次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「苦味等の不快な味を有する物質(成分(A))に対して、口腔内溶解時に発泡する発泡剤(成分(B)及び(C))を配合した、錠剤、散剤、顆粒剤等の経口用固形製剤であって、 次の成分(A)、(B)、(C)を含有する経口用固形製剤。 (A)苦味等の不快な味を有する成分:1?30重量%、 (B)炭酸塩:0.5?20重量%、 (C)有機酸:1?40重量% 」 (合議体注:甲1における「苦み」は、「苦味」として記載した。) (2)甲2について 甲2には、次の事項が記載されている。 「[請求項1]イミダゾールペプチドとケルセチン配糖体とを含有する組成物。 … [請求項5]組成物が飲食物である、請求項1?4のいずれか1項に記載の組成物。 [請求項6]飲食物が固形製剤である、請求項5記載の組成物。 [請求項7]固形製剤が錠剤または顆粒剤である、請求項6に記載の組成物。」 「[0001] 本発明は、イミダゾールペプチドとケルセチン配糖体を含有する組成物に関する。具体的には、ケルセチン配糖体に起因する異味が改善された組成物に関する。また、本発明は、ケルセチン配糖体の異味を改善する方法に関する。」 「背景技術 [0002] …ケルセチンおよびその配糖体に関して、これまで、抗炎症作用、抗酸化作用、血管収縮作用、毛細血管壁を強くする作用などが報告されており、食品、医薬品、化粧品などの用途において使用されている。 … [0006] 上述のように、独特の香味、特に苦味を有するケルセチン配糖体については、経口での摂取においてはその香味や嗜好性がしばしば問題となる。特にサプリメントなどの機能性食品として日常的にケルセチン配糖体を経口摂取しようとする場合は、ケルセチン配糖体に特有の香味を抑制する必要があり、ケルセチン配糖体に起因する香味が抑制された飲食物の開発が求められている。 [0007] 本発明の課題は、コンドロイチン硫酸を含有する軟骨水系溶媒抽出物によらないケルセチン配糖体に由来する香味が抑制された飲食物を提供すること、およびケルセチン配糖体に由来する香味を抑制する方法を提供することである。 課題を解決するための手段 [0008] 本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、イミダゾールペプチドを配合することによって、ケルセチン配糖体の苦味を効果的にマスキングできることを見出し、本発明を完成させた。」 「発明の効果 [0010] 本発明によれば、ケルセチン配糖体を含む組成物にイミダゾールペプチドを配合することによって、ケルセチン配糖体に特有の異味を効果的に抑制することが可能になる。また、本発明の組成物は、ケルセチン配糖体に起因する異味が抑制されているため、継続的な摂取が容易となる。」 「[0025]ii.ケルセチン配糖体 本発明の組成物は、ケルセチン配糖体を含む。 [0026] 後述するようにケルセチン配糖体は抗炎症作用を有するとされ、コンドロイチン硫酸と同時に摂取することによって、関節痛などの痛みをより効果的に低減できると考えられる。本発明においてケルセチン配糖体とは、フラボノイドの一種であるケルセチン(クエルセチンともよばれる)の配糖体であり、例えば、ルチン、クエルシトリン、イソクエルシトリン、モリン、ミリシトリン、ミリセチン、ヘスペリジン、ナリンギン、タンゲリジンなどを挙げることができ、こういったケルセチン配糖体の酵素処理物も包含される。」 「[0032] …さらに、飲食物へのケルセチン配糖体の配合割合は、組成物全体に対して、0.1?95重量%、好ましくは0.5?80重量%、より好ましくは1.0?10重量%とすることができる。」 「[0051]v.組成物 本発明の組成物は、食品、医薬品、化粧品、食品用添加物として使用することができる。本発明の組成物は、ケルセチン配糖体に起因する苦味が抑制されるため無理なく日常的に摂取することができ、いわゆる機能性食品などの食品として使用することに適する。 [0052] 飲食物としての組成物は、イミダゾールペプチドによってケルセチン配糖体に起因する異味が抑制されるため、経口投与に適した形態、例えば、錠剤、カプセル、顆粒剤、粉末、またはトローチ等の形態をとることが好ましい。中でも、本発明の飲食物は、異味成分であるケルセチン配糖体を含有することから、錠剤または顆粒剤であることが好ましい。また、イミダゾールペプチドとして水系溶媒抽出イミダゾールペプチド含有物を用いることも可能であることから、液剤であることも好ましい。 ・・・ [0054] 本発明の組成物の摂取対象は、特に制限されず、ヒトであっても、ヒト以外の動物であってもよい。投与対象に応じて組成物の剤形を適宜選択することができ、例えば、ヒトを対象とする場合、筋力低下が認められる中高年層においては錠剤の嚥下が困難な場合があるため、製剤を顆粒剤、チュアブル錠とすることが好ましい。また、本発明の製剤に糖衣、フィルムコーティングなどのコーティングを施してもよい。さらに、ヒトを除く動物においては嗜好性が投与の容易性に大きな影響を与えるため、本発明の製剤は動物投与に好適である。例えば、口中で錠剤を噛んでしまう傾向がある愛玩動物(特に、イヌやネコ)に対しては、剤形としてチュアブル錠を選択することが好ましい。」 (3)甲3について 甲3には、次の事項が記載されている。 「【請求項1】 ケルセチン配糖体、水抽出コンドロイチンおよびミルク香料を含んでなる経口投与用固形製剤。 【請求項2】 前記固形製剤が錠剤である、請求項1に記載の経口投与用固形製剤。 【請求項3】 前記錠剤がチュアブル錠である、請求項2に記載の経口投与用固形製剤。」 「【0003】 しかしながら、ケルセチン配糖体には独特の香味、特に苦味があり、経口での摂取においてはその香味や嗜好性がしばしば問題となる。特にサプリメントなどの機能性食品として日常的にケルセチン配糖体を経口摂取しようとする場合、ケルセチン配糖体に特有の香味を抑制することによって継続的な摂取や長期的な摂取が容易になるため、ケルセチン配糖体に起因する香味が抑制された経口投与用製剤の開発が求められている。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 以上のような状況に鑑み、本発明の課題は、ケルセチン配糖体に由来する香味を抑制する方法、および、ケルセチン配糖体に由来する香味が抑制された経口用固形製剤を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは、上記課題について鋭意研究を行った結果、水抽出コンドロイチンとミルク香料によってケルセチン配糖体の苦味を効果的にマスキングできることを見出し、本発明を完成させた。」 「【発明を実施するための形態】 【0014】 本発明の経口投与用固形製剤は、水抽出コンドロイチン、ケルセチン配糖体およびミルク香料を含んでなり、獣医薬用途を含む医薬用途、サプリメントを含む食品用途、化粧・美容用途などに用いることができる。 【0015】 (ケルセチン配糖体) 本発明の固形製剤は、ケルセチン配糖体を含んでなる。本発明においてケルセチン配糖体とは、フラボノイドの一種であるケルセチン(クエルセチンともよばれる)の配糖体であり、例えば、ルチン、クエルシトリン、イソクエルシトリン、モリン、ミリシトリン、ヘスペリジン、ナリンギン、タンゲリジンなどを挙げることができ、こういったケルセチン配糖体の酵素処理物も包含される。」 「【0021】 本件発明の固形製剤へのケルセチン配糖体の配合量は、酵素処理ルチンの摂取量が一個体あたり、1日1?500mg、好ましくは5?300mgとなることを目安として、決めることができる。また、体重1kgあたりの摂取量は、例えば0.015?8.5mg/kg、より好ましくは0.080?5.0mg/kgとすることができる。さらに、錠剤へのケルセチン配糖体の配合割合は、錠剤全体に対して、0.1?95重量%、好ましくは1?80重量%とすることができる。」 「【0039】 (製剤) 本発明は固形製剤であり、水抽出コンドロイチンとミルク香料によってケルセチン配糖体に起因する異味が抑制されるため、特に経口投与用の固形製剤として適する。本発明の固形製剤は、経口投与に適した形態、例えば、錠剤、カプセル、顆粒、粉末またはロゼンジの形態をとることが好ましい。中でも、本発明の固形製剤は、異味成分であるケルセチン配糖体を含有することから、錠剤であることが好ましい。 【0040】 本発明の固形製剤の投与対象は、特に制限されず、ヒトであっても、ヒト以外の動物であってもよい。投与対象に応じて製剤の剤形を適宜選択することができ、例えば、ヒトを対象とする場合、関節炎発症のリスクが高い中高年層においては錠剤の嚥下が困難な場合があるため、本発明の固形製剤を顆粒剤、チュアブル錠とすることが特に好ましい。また、子供などを投与対象とする場合、本発明の固形製剤を糖衣錠などにしてもよい。さらに、ヒトを除く動物においては、嗜好性が投与の容易性に大きな影響を与えるため、ケルセチン配糖体の異味が改善された本件発明の固形製剤は動物投与に好適である。例えば、口中で錠剤を噛んでしまう傾向がある愛玩動物(特に、イヌやネコ)に対しては、剤形としてチュアブル錠を選択することが特に好ましい。本発明は、ケルセチン配糖体に起因する苦味を配合面から改善するものであり、固形製剤自体に特殊な構造(多層構造など)を要求するものではない。したがって、口中で錠剤を噛んでしまうため、錠剤を単に糖衣錠とするだけでは嗜好性を向上させることのできない愛玩動物においても、本発明の固形製剤の嗜好性は高く、極めて有用である。」 「【実施例】 【0044】 以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、本明細書において、部および%などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。 【0045】 実施例1 ケルセチン配糖体を含有する組成物において、ケルセチン配糖体の異味を好適にマスキングする組成について検討を行った。具体的には、ケルセチン配糖体の異味をマスキングするための成分として、水抽出コンドロイチンとミルク香料(サンプル1?2、4?5)、水抽出コンドロイチン(サンプル3)、粉砕コンドロイチンとミルク香料(サンプル6?9)、デキストリン(サンプル10?13)を試験した。 【0046】 (材料) 使用した材料は以下のとおりである。 ・ケルセチン配糖体:サンエミックP15(三栄源エフエフアイ製、ケルセチン配糖体15%含有、酵素処理ルチン) … (評価方法) ケルセチン配糖体と各種マスキング成分を表1に示す組成で配合した混合粉末を調製した。調製した混合粉末1gを6名のパネラー(ヒト)が水とともに経口摂取し、ケルセチン配糖体由来の苦味の強さを以下の基準にしたがって評価した。 【0047】 3点:ほとんど苦味を感じない 2点:弱い苦味を感じる 1点:やや苦い 0点:苦い 6名のパネラーの評価を集計し、スコアの平均が3点以下2点超を○、2点以下1点超を△、1点以下0点を×とした。結果を表1に示す。 【0048】 【表1】 【0049】 表1の結果から明らかなように、水抽出コンドロイチン、あるいは、水抽出コンドロイチン硫酸とミルク香料を配合することによって、ケルセチン配糖体の苦味を効果的にマスキングすることができた。特に水抽出コンドロイチンとミルク香料を配合することによって、ケルセチン配糖体の苦味を効果的にマスキングすることができた。また、単にデキストリンを添加しただけではケルセチンに起因する苦味を十分にマスキングすることができなかったことから(サンプル10?13)、水抽出コンドロイチン硫酸を配合したことによるマスキング効果は、水抽出コンドロイチン硫酸製品(SCP:マルハニチロ食品製)に含まれるデキストリンに起因するものでなく、水抽出コンドロイチン硫酸に起因するものと考えられた。」 「【0056】 実施例3 ケルセチン配糖体含有組成物を錠剤化し、イヌの嗜好性を評価した。実施例2で示した配合および製造法にしたがって調製した錠剤を床に置き、11頭のイヌに自由に摂食させた。錠剤の嗜好性については、以下の評価基準にしたがって、飼い主が評価した。 … 【0058】 【表3】 【0059】 本実験においては、全てのイヌが錠剤を噛み砕いて摂取した。また、表3に示すとおり、水抽出コンドロイチンとミルク香料を配合したチュアブル錠(サンプル1)とすることによって、ケルセチン配糖体含有組成物のイヌにおける嗜好性が向上した。一方、水抽出コンドロイチンに代えて粉砕コンドロイチンを用いた錠剤(サンプル2)では、嗜好性を十分に改善することができなかった。特に、本発明の錠剤(サンプル1)はイヌに対する嗜好性が極めて良好で、モニターのイヌの多くが本発明の錠剤をよく食べた。」 (4)甲4について 甲4には、次の事項が記載されている。 「味は水溶性の低分子化合物が呈する生理活性で甘,塩,酸,苦,うま味の5基本味に分類される.」(427頁右欄9?10行) (5)甲5について 甲5には、次の事項に相当する英文が記載されている(訳文のみ記載する。) 「無水ケルセチンの水溶解度は、25℃の0.00215g/Lから140℃の0.665g/Lまで変化し、ケルセチン二水和物の水溶解度は、25℃の0.00263g/Lから140℃の1.49g/Lまで変化した。」(ABSTRACTの8?10行) (6)甲6について 甲6には、市販のルチン(フラボノール類、純度90%以上、和光純薬社製)100mgに超純水10mlを加えて80℃にて1時間撹拌し、次いで、10℃にて48時間平衡化させた後、遠心分離にて回収した上清中のOD254を測定することにより算出したルチン溶解量は、3.0mg/100mlであったことが記載されている(【0031】【0032】)。 (7)甲7について 甲7には、ルチンの溶解度は0.01g/水100g、酵素処理ルチン(商品名:αGルチン)の溶解度は120g/水100gであることが記載されている(「高い溶解性」の項)。 (8)甲8について 甲8には、次の事項が記載されている。 「【請求項1】 自由に流れる顆粒剤又はチュアブル錠の状態の腎不全患者の治療に使用される医薬組成物であって、少なくとも1種のリン酸塩結合性物質と、炭酸塩及び固体の食用有機酸又はその酸性塩を含む少なくとも1種の発泡剤とを含有し、水を加えずに経口投与される医薬組成物。」 「【0001】 (当初の状況と従来技術) 本発明は、リン酸塩結合剤を含む医薬組成物で、水なしで経口投与可能な医薬組成物に関する。本願明細書記載の医薬組成物は、発泡剤を含有する顆粒剤又はチュアブル錠剤であることが好ましい。」 (9)甲9について 甲9には、次の事項が記載されている。 「【請求項1】 オリゴ糖10?80重量%、発泡剤成分0.3?10重量%及び中和剤成分0.9?30重量%を含有し、発泡性チュアブル錠形態を有することを特徴とするオリゴ糖補給組成物。」 「【0007】本発明者らは、上記目的より鋭意研究を重ねた結果、製剤を発泡性チュアブル錠形態とすることによって、その摂取、服用時に口中での崩壊性・溶解性が良好となり、これによって噛み砕く際に歯に製剤が付着する欠点が抑えられ、かくして、食感低下を感じさせず、水なしでなめたり、噛んだりしながら味覚を楽しめる改良されたオリゴ糖補給製剤が提供できるという事実を見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。」 (10)甲10について 甲10には、次の事項が記載されている。 「【請求項1】(a)有機酸の結晶表面を当該結晶粒径の20%以下の粒径を有する水溶性低分子糖類100?300重量%で被覆してなる発泡用有機酸及び(b)炭酸塩を含有し、かつそのまま服用する剤型からなることを特徴とする発泡性製剤組成物。」 「本発明の発泡性製剤組成物は、通常、そのまま口中に入れて服用する発泡性製剤として使用されるチュアブル錠、顆粒剤、細粒剤、散剤等の剤型とすることができるが、有機酸の結晶表面を高分子等でコーチングしたものと異なり、有機酸の溶解が遅延することがないため、口中での発泡感を楽しむことができる。」(2頁左欄41?46行) 4 当審の判断 (1)取消理由1(特許法第29条第2項)について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 本件発明1の「ケルセチン又はルチン」と甲1発明の「苦味等の不快な味を有する成分」とは、「苦味等の不快な味を有する成分」である限りにおいて一致する。 また、本件発明1の「チュアブル錠」と甲1発明の「経口用固形製剤」とは、「経口用固形製剤」である限りにおいて一致する。 そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりである。 <一致点> 「 次の成分(A)、(B)及び(C): (A)苦味等の不快な味を有する成分、 (B)炭酸塩、 (C)有機酸、 を含有する、経口用固形製剤。」 <相違点1> 苦味等の不快な味を有する成分(A)が、本件発明1においては、「ケルセチン又はルチン」であるのに対し、甲1発明においては、対応する事項が特定されていない点。 <相違点2> 本件発明1においては、成分(A)が10?60質量%、成分(B)が10?25質量%、成分(A)と成分(B)の含有質量比[(B)/(A)]が0.2以上1以下であり、且つ成分(C)と成分(B)の当量比[(C)の当量/(B)の当量]が0.7?4であると特定されているのに対し、甲1発明においては、成分(A)が1?20重量%、成分(B)が0.5?20重量%、成分(C)が1?40重量%であると特定されている点。 <相違点3> 経口用固形製剤が、本件発明1においては、チュアブル錠であるのに対し、甲1発明においては、錠剤、散剤、顆粒剤等である点。 (イ)判断 a 相違点1について (a)甲1発明は、苦味等の不快な味を有する成分の本来の溶解性を損なうことなく、服用感に優れ不快な後味がない経口用固形製剤を提供するという課題を解決するために、苦味等の不快な味を有する成分に炭酸塩と有機酸を組み合わせた発泡剤を配合するという手段を採用したものであって、口腔内溶解時に二酸化炭素を放出し発泡させることにより不快な味を効果的にマスキングできることから、医薬品や食品等の分野において、苦味のマスキングのみならず、味覚的な不快感を有する成分を含む組成物の嗜好性の向上に用いられるものである(【請求項1】【0001】【0004】【0005】【0009】【0018】)。 甲1には、苦味を有する物質としてカフェインやリン酸ジヒドロコデイン等が、また、渋味(収斂性)を有する物質として塩酸ペンジタミン等が、多数例示されているものの、ケルセチン又はその配糖体については記載されていない(【0010】?【0012】)。 他方、甲2には、サプリメント等の機能性食品に含まれるルチン等のケルセチン配糖体には、独特の香味、特に苦味があることから、ケルセチン配糖体を含む組成物にイミダゾールペプチドを配合することによって、苦みを効果的にマスキングでき、ケルセチン配糖体に起因する異味を抑制することが可能となることが記載されている([請求項1][0001][0002][0006]?[0008][0010][0026])。 また、甲3には、サプリメント等の機能性食品に含まれるルチン等のケルセチン配糖体には、独特の香味、特に苦味があることから、ケルセチン配糖体を含む組成物に、水抽出コンドロイチン及びミルク香料を配合することにより、ケルセチン配糖体の苦味を効果的にマスキングでき、ケルセチン配糖体に起因する香味を抑制することが可能となることが記載されている(【請求項1】【0003】【0007】【0008】)。 (b)甲1、甲2及び甲3は、いずれも医薬品や食品等の分野における苦味等の不快な味をマスキングする技術に関するものであって、技術分野が共通している。 甲1には、二酸化炭素の発泡によりマスキングできる不快な味を有する成分として多数のものが挙げられており、また、発泡という物理的な状態を伴う現象により不快な味をマスキングしていることから、甲1発明において不快な味をマスキングできる成分は、甲1に具体的に例示されたものに限られず、他にも存在する可能があることを当業者は理解するといえる。 そうすると、甲2及び甲3に、ルチン等のケルセチン配糖体には苦味を含む独特の香味(異味)があり、それをマスキングする必要があることが記載されているのであるから、甲1?甲3の記載に接した当業者において、甲1発明における苦味等の不快な味を有する成分として、ルチン等のケルセチン配糖体を用いることにより、その苦味を含む独特の香味(異味)がマスキングできるかどうかを確認しようとする動機付けがあるといえる。 b 相違点2及び3について (a)本件発明1と甲1発明とは、成分(A)は10?30重量%、成分(B)は10?20重量%の範囲で、各成分の含有量は重複する。 また、甲1には、成分(A)と成分(B)の含有質量比[(B)/(A)]、及び、成分(C)と成分(B)の当量比[(C)の当量/(B)の当量]について一般的な記載はないものの、実施例3,6,7,8に記載された組成は、本件発明1の当該含有量比と当量比の範囲に含まれる。 しかしながら、甲1の実施例に記載された組成をみると、不快な味を有する成分(成分(A))は1質量%(実施例1)?9.5質量%(実施例3)の範囲、炭酸水素ナトリウム(成分(B))は5.0質量%(実施例1)?8.0重量%(実施例4)の範囲で用いられており、本件発明1と重複する上記範囲のように、成分(A)及び成分(B)を高濃度含有する実施例は記載されていない。 (b)甲2及び甲3には、ケルセチン配糖体を含み、それに起因する苦味を含む独特の香味(異味)がマスキングされた組成物の剤形として、チュアブル錠が記載され(甲2:[0054]、甲3:【請求項3】【0040】【0056】?【0059】)、また、発泡性のチュアブル錠も周知である(甲8?甲10)。 しかしながら、甲1には、経口用固形製剤の剤形として、錠剤、顆粒剤、散剤が記載されているものの(【0017】)、チュアブル錠とすることは記載されていない。 (c)一般に、苦味等の不快な味を有する成分の種類によって、マスキングが可能な、組成(当該成分、炭酸塩、有機酸の含有量等)や剤形等が異なるといえるところ、ケルセチン配糖体についても、甲1に例示されたカフェインやジプロフィリン等の成分と同様に、甲1に記載された各成分の含有量の範囲で苦味等の不快な味をマスキングできるかどうか、また、甲1に記載のない剤形とした場合においてもマスキングできるかどうかは、当業者において自明とはいえない。 (d)そうすると、甲1発明において、ルチン等のケルセチン配糖体の苦味等の不快な味をマスキングしようとした場合に、甲1に記載のない口内で噛み砕いて摂取する剤形であるチュアブル錠としたうえで、甲1の実施例に示された組成よりも高濃度のケルセチン配糖体(10?60重量%)と炭酸塩(10?25重量%)の含有量とし、さらに、ケルセチン配糖体と炭酸塩の含有比を0.2以上1以下、有機酸と炭酸塩の当量比を0.7?4の範囲とすることまで、当業者が容易に想到し得たということはできない。 甲4?甲10の記載を参照しても、同様である。 c 効果について そして、本件発明1は、相違点1?3の発明特定事項を備えることにより、ケルセチン特有の後に残る金属味と苦味が抑えられ、また、塩味と酸味のバランスがよく風味の良好なチュアブル錠となるという効果を奏する。 (ウ)したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲1?甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件発明3について 本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に、有機酸の含有量を特定したものである。 上記アのとおり、本件発明1は、甲1発明及び甲1?甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえないから、同様に、本件発明3も、甲1発明及び甲1?甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 異議申立人の主張について (ア)異議申立人は、意見書において、 (i)チュアブル錠について、 「甲第1号証の経口用固形製剤には、概念上及び実質的に、チュアブル錠が含まれている。」(2頁21?2行)、「発泡性チュアブル錠は周知技術であり、当業者には単なる設計事項にすぎず、訂正後の請求項1及び3の発明は、依然として甲第1号証に基づいて取消理由通知書に記載された取消理由1によって容易に想定できる。」(2頁下から2行?3頁1行)、 (ii)成分(A)と成分(B)の含有質量比について、 「実施例3、6?8の含有量比[(B)/(A)]である0.63?0.96の範囲と重複する、訂正後の請求項1に規定される含有量比[(B)/(A)]の0.2?1の範囲については、苦味抑制効果が優れることを甲第1号証が示唆していることを、特許権者が自認していることになる。」(3頁8?11行)、 と主張する。 しかしながら、上記ア及びイのとおり、甲1発明において、相違点1?3に係る本件発明1及び3の発明特定事項を、同時に備えるものとすることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。 したがって、異議申立人の主張は採用できない。 (イ)異議申立人は、意見書において、 「甲第1号証の発明は、…段落[0005]に、「苦み等の不快な味をマスキングし、かつ、不快感のある後味を解消する効果」が記載されている。すなわち、苦み又は渋味は、「不快感のある後味」をも有することが示されており、「不快感のある後味」は苦み又は渋味が残存するものに過ぎない。」(3頁下から8?3行)、 「「苦み」と「後に残る金属味」は独立して存在する異なる味覚ではなく、相互に関連する1つの一体的な味覚であることが明らかである。 以上より、苦味とは異質な成分(A)特有の「後に残る金属味」を低減できる効果に基づく特許権者の主張は、何の根拠も無く、技術常識に反する。」(4頁4?7行:表を除いた行による。)、 と主張する。 しかしながら、本件明細書の実施例においては、成分(A)を10?60質量%の高濃度含有するチュアブル錠について、専門パネル3名による官能評価を行い、苦味と後に残る金属味をそれぞれ異なる味としてその評点を決定しているから、本件明細書の記載から、苦味と後に残る金属味は区別できる味であり、本件発明1及び3はそれらの味を両方とも低減できるという効果を奏することを、当業者が理解できる。 そして、甲1の【0005】の記載は、ケルセチン配糖体が有する苦味についてものではなく、また、苦味と後に残る金属味とが、味として区別できないことを意味するものではないから、甲1の記載から、上記理解に反する技術常識があるとはいえない。 したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。 エ 小括 以上のとおり、本件発明1及び3は、甲1発明及び甲1?甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、請求項1及び3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。 (2)取消理由2(特許法第36条第6項第1号)について ア 「溶解度の違い」について 取消理由通知において、実施例で用いたものよりも各段に水溶性が高い酵素処理ケルセチン配糖体を使用した場合には、実施例よりも苦味等を強く感じることから、酵素処理ケルセチンも含まれる訂正前の本件発明1ないし4は、実施例と同様に、(B)/(A)の数値範囲において後に残る金属味と苦味を抑えることができるとは理解できず、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない旨を通知した。 これに対して、特許権者は、本件発明1及び3の成分(A)を、酵素処理ケルセチンを含まず、実施例で用いたケルセチンとルチン三水和物に対応するように「ケルセチン又はルチン」に訂正したことから、上記取消理由は解消した。 イ 「後に残る金属味」の評価方法について 取消理由通知において、従来、当業者が、苦味とは区別して認識していなかった「ケルセチン特有の後味の金属味」をどのようにして苦味と区別して評価することができることとなったのか、その評価の方法が当業者には理解できないから、訂正前の本件発明1ないし4は、「後に残る金属味、苦味が抑えられ、風味の良好なケルセチン及び/又はケルセチン配糖体を含有する固形状組成物を提供する」という発明の課題を解決できることを当業者が認識できる範囲のものではない旨を通知した。 これに対して、特許権者は、本件発明1及び3において、ケルセチン又はルチンの含有量を10?60質量%に限定し、さらに固形状組成物をチュアブル錠に限定する訂正をした。 そして、本件明細書の実施例においては、本件発明1及び3に対応する成分(A)を10?60質量%の高濃度含有するチュアブル錠について、専門パネル3名による官能評価を行い、苦味と後に残る金属味をそれぞれ異なる味としてその評点を決定しているから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、苦味と後に残る金属味は区別できる味であり、本件発明1及び3はそれらの味を両方とも低減できるという効果を奏することを、当業者が理解できる。 そして、上記理解に反する技術常識があるとはいえない。 したがって、本件発明1及び3は、本件出願時の技術常識に照らし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。 ウ 異議申立人の主張について 異議申立人は、意見書において、「前記の通り、「苦み」と「後に残る金属味」は独立して存在する異なる味ではない。 それにも関わらず、本特許明細書の実施例で「苦味」と「後に残る金属味」を評価しているが、当業者が認識していなかった「ケルセチン特有の後味の金属味」をどのようにして「苦味」と区別して評価することができたか、その評価の方法が当業者には理解できない。」(5頁4?10行)と主張する。 しかしながら、上記イのとおり、成分(A)を10?60質量%の高濃度含有するチュアブル錠においては、苦味とは異なるタイミングで、後味の金属味が感じられるものであると理解するのが相当であり、これに反する技術常識があるともいえない。 したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。 エ 小括 以上のとおり、本件発明1及び3は、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、請求項1及び3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 異議申立人は、特許異議申立書において、特許法第36条第6項第1号についてと同じ理由により、訂正前の本件発明1ないし4について、発明の詳細な説明は、当業者が当該発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、訂正前の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきである旨を主張する。 2 特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明の記載は「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと規定している。物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから、物の発明については、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造し、使用することができるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。 以下、この観点に立って検討する。 3 本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例において、ケルセチン又はルチン三水和物、炭酸塩及び有機酸を所定量含有するチュアブル錠を製造したことが具体的に記載され、当該チュアブル錠について、専門パネル3人による官能評価が行われ、苦味と後味の金属味が低減され、酸味と塩味のバランスが良いという効果を奏することを確認している。 上記記載に基づいて、当業者は、本件発明1及び3に係るチュアブル錠を、過度な試行錯誤なく製造でき、それを使用することができる。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が当該発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 4 以上のとおり、請求項1及び3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、異議申立人の上記主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1及び3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1及び3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、請求項2及び4は、上記のとおり訂正により削除されたため、異議申立人による請求項2及び4についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 次の成分(A)、(B)及び(C): (A)ケルセチン又はルチン 10?60質量%、 (B)炭酸塩 10?25質量%、 (C)有機酸、 を含有し、成分(A)と成分(B)の含有質量比[(B)/(A)]が0.2以上1以下であり、且つ成分(C)と成分(B)の当量比[(C)の当量/(B)の当量]が0.7?4であるチュアブル錠。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 チュアブル錠中の(C)有機酸の含有量が5.5?50質量%である請求項1記載のチュアブル錠。 【請求項4】 (削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-06-03 |
出願番号 | 特願2014-13208(P2014-13208) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K) P 1 651・ 536- YAA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 六笠 紀子 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
藤原 浩子 小川 知宏 |
登録日 | 2018-03-23 |
登録番号 | 特許第6310708号(P6310708) |
権利者 | 花王株式会社 |
発明の名称 | 固形状組成物 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |