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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B21D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B21D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B21D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B21D
管理番号 1354051
異議申立番号 異議2018-700175  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-27 
確定日 2019-06-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6191420号発明「ホットスタンプ鋼材の製造方法及びホットスタンプ鋼材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6191420号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第6191420号の請求項2?6に係る特許を維持する。 特許第6191420号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6191420号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成25年12月2日に出願され、平成29年8月18日にその特許権の設定登録がされ、平成29年9月6日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年 2月27日 :特許異議申立人JFEスチール株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)による請求項1?6に係る特許に対する特許異議の申立て
平成30年 6月22日付け:取消理由通知書
平成30年 8月24日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成30年11月 6日 :特許異議申立人による意見書の提出
平成31年 2月13日付け:取消理由通知書(決定の予告)
平成31年 4月 9日 :特許権者との面接
平成31年 4月15日 :特許権者による意見書の提出
平成31年 4月25日付け:審尋
令和 元年 6月 3日 :特許異議申立人による回答書の提出

2 訂正の適否
(1)訂正の内容
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「請求項1に記載のホットスタンプ鋼材の製造方法であって、
前記めっき層は、前記第1及び第2のめっき層を含み、
前記めっき層を形成する工程は、
鋼板上に電気亜鉛めっき層、溶融亜鉛めっき層及び合金化溶融亜鉛めっき層のいずれかである亜鉛めっき層を形成する工程と、
前記亜鉛めっき層上に、前記亜鉛めっき層よりも高い融点を有する高融点めっき層を形成する工程とを含む、ホットスタンプ鋼材の製造方法。」
とあるのを、独立形式に改め、
「質量%で、C:0.05?0.4%、Si:0.5%以下、Mn:0.5?2.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.01%以下、B:0?0.005%、Ti:0?0.1%、Cr:0?0.5%、Nb:0?0.1%、Ni:0?1.0%、及び、Mo:0?0.5%を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する鋼板を準備する工程と、
前記鋼板に対して電気めっき処理又は溶融めっき処理を実施して、前記鋼板上にZnとZnよりも高融点の元素とを含有するめっき層を形成する工程と、
前記めっき層が形成された前記鋼板をAc_(3)点?950℃の熱処理温度に加熱した後、前記鋼板を前記熱処理温度から780℃以下まで、前記鋼板に応力を付与することなく冷却した後、金型を用いて前記鋼板をプレスしながら焼入れしてホットスタンプ鋼材を成形する工程とを備え、
前記めっき層は、前記第1及び第2のめっき層を含み、
前記めっき層を形成する工程は、
鋼板上に電気亜鉛めっき層、溶融亜鉛めっき層及び合金化溶融亜鉛めっき層のいずれかである亜鉛めっき層からなる前記第1のめっき層を形成する工程と、
前記亜鉛めっき層上に、前記亜鉛めっき層よりも高い融点を有する高融点めっき層からなる前記第2のめっき層を形成する工程とを含み、
前記ホットスタンプ鋼材を成形する工程では、めっき層の融点から前記熱処理温度まで前記鋼板を加熱し、さらに、前記熱処理温度から前記鋼板を冷却して780℃に至るまでの時間を20秒以下にし、前記めっき層の融点は、より融点が低いめっき層の融点である、ホットスタンプ鋼材の製造方法。」
に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3及び4も同様に訂正する。)。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1に記載のホットスタンプ鋼材の製造方法であって、
前記めっき層は、亜鉛ニッケル合金めっき層からなる、ホットスタンプ鋼材の製造方法。」
とあるのを、独立形式に改め、
「質量%で、C:0.05?0.4%、Si:0.5%以下、Mn:0.5?2.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.01%以下、B:0?0.005%、Ti:0?0.1%、Cr:0?0.5%、Nb:0?0.1%、Ni:0?1.0%、及び、Mo:0?0.5%を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する鋼板を準備する工程と、
前記鋼板に対して電気めっき処理又は溶融めっき処理を実施して、前記鋼板上にZnとZnよりも高融点の元素とを含有するめっき層を形成する工程と、
前記めっき層が形成された前記鋼板をAc_(3)点?950℃の熱処理温度に加熱した後、前記鋼板を前記熱処理温度から780℃以下まで、前記鋼板に応力を付与することなく冷却した後、金型を用いて前記鋼板をプレスしながら焼入れしてホットスタンプ鋼材を成形する工程とを備え、
前記めっき層は、亜鉛ニッケル合金めっき層からなり、
前記ホットスタンプ鋼材を成形する工程では、めっき層の融点から前記熱処理温度まで前記鋼板を加熱し、さらに、前記熱処理温度から前記鋼板を冷却して780℃に至るまでの時間を20秒以下にする、ホットスタンプ鋼材の製造方法。」
に訂正する。

なお、訂正前の請求項1?5は、請求項2?5が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1?5について請求されている。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、請求項の削除であるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項2
訂正事項2に係る請求項2?4についての訂正は、特許請求の範囲の請求項2について請求項1との引用関係を解消するものであるから、引用関係の解消を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ 訂正事項3
訂正事項3に係る請求項5についての訂正は、特許請求の範囲の請求項5について請求項1との引用関係を解消するものであるから、引用関係の解消を目的としており、また、併せてめっき層が2層の場合を除外しているのであるから特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)小括
上記のとおり、訂正事項1?3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。

3 取消理由の概要
訂正前の請求項5及び6に係る特許に対して、当審が平成31年2月13日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

(1)請求項5に係る発明は、実施例が存在しない。
よって、請求項5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)請求項6に係る発明は、実施例が存在しない。
よって、請求項6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

4 当審の判断
(1)取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
ア 訂正後の請求項1?6に係る発明
上記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1?6に係る発明(以下「本件発明1」などという。)は、次のとおりのものである。

【請求項1】(削除)

【請求項2】
質量%で、C:0.05?0.4%、Si:0.5%以下、Mn:0.5?2.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.01%以下、B:0?0.005%、Ti:0?0.1%、Cr:0?0.5%、Nb:0?0.1%、Ni:0?1.0%、及び、Mo:0?0.5%を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する鋼板を準備する工程と、
前記鋼板に対して電気めっき処理又は溶融めっき処理を実施して、前記鋼板上にZnとZnよりも高融点の元素とを含有するめっき層を形成する工程と、
前記めっき層が形成された前記鋼板をAc_(3)点?950℃の熱処理温度に加熱した後、前記鋼板を前記熱処理温度から780℃以下まで、前記鋼板に応力を付与することなく冷却した後、金型を用いて前記鋼板をプレスしながら焼入れしてホットスタンプ鋼材を成形する工程とを備え、
前記めっき層は、前記第1及び第2のめっき層を含み、
前記めっき層を形成する工程は、
鋼板上に電気亜鉛めっき層、溶融亜鉛めっき層及び合金化溶融亜鉛めっき層のいずれかである亜鉛めっき層からなる前記第1のめっき層を形成する工程と、
前記亜鉛めっき層上に、前記亜鉛めっき層よりも高い融点を有する高融点めっき層からなる前記第2のめっき層を形成する工程とを含み、
前記ホットスタンプ鋼材を成形する工程では、めっき層の融点から前記熱処理温度まで前記鋼板を加熱し、さらに、前記熱処理温度から前記鋼板を冷却して780℃に至るまでの時間を20秒以下にし、前記めっき層の融点は、より融点が低いめっき層の融点である、ホットスタンプ鋼材の製造方法。

【請求項3】
請求項2に記載のホットスタンプ鋼材の製造方法であって、
前記高融点めっき層は、Ni、Co及びFeからなる群から選択される1種以上の元素を総量で10質量%以上含有する、ホットスタンプ鋼材の製造方法。

【請求項4】
請求項3に記載のホットスタンプ鋼材の製造方法であって、
前記高融点めっき層は、Ni及び不純物からなり、
前記高融点めっき層を形成する工程では、前記高融点めっき層の付着量を6g/m2以下にする、ホットスタンプ鋼材の製造方法。

【請求項5】
質量%で、C:0.05?0.4%、Si:0.5%以下、Mn:0.5?2.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.01%以下、B:0?0.005%、Ti:0?0.1%、Cr:0?0.5%、Nb:0?0.1%、Ni:0?1.0%、及び、Mo:0?0.5%を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する鋼板を準備する工程と、
前記鋼板に対して電気めっき処理又は溶融めっき処理を実施して、前記鋼板上にZnとZnよりも高融点の元素とを含有するめっき層を形成する工程と、
前記めっき層が形成された前記鋼板をAc_(3)点?950℃の熱処理温度に加熱した後、前記鋼板を前記熱処理温度から780℃以下まで、前記鋼板に応力を付与することなく冷却した後、金型を用いて前記鋼板をプレスしながら焼入れしてホットスタンプ鋼材を成形する工程とを備え、
前記めっき層は、亜鉛ニッケル合金めっき層からなり、
前記ホットスタンプ鋼材を成形する工程では、めっき層の融点から前記熱処理温度まで前記鋼板を加熱し、さらに、前記熱処理温度から前記鋼板を冷却して780℃に至るまでの時間を20秒以下にする、ホットスタンプ鋼材の製造方法。

【請求項6】
ホットスタンプ鋼材であって、
質量%で、C:0.05?0.4%、Si:0.5%以下、Mn:0.5?2.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.01%以下、B:0?0.005%、Ti:0?0.1%、Cr:0?0.5%、Nb:0?0.1%、Ni:0?1.0%、及び、Mo:0?0.5%を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する母材と、
前記母材上に形成され、Feと、Feに固溶したZnとを含有する固溶体層と、
前記固溶体相上に形成され、Znと、Znよりも高融点の元素とを含有する合金層と、
前記合金層上に形成され、50体積%以上のZnOを含有する酸化物層とを備え、
前記ホットスタンプ鋼材の前記酸化物層が形成された表面と垂直な断面において、前記酸化物層を10μmピッチで複数の酸化物層領域に区分した場合、前記複数の酸化物層領域のうち、少なくとも一部に表面と垂直な方向に1μm以上の隙間が形成されており、前記表面と垂直な方向に1μm以上の隙間が形成された前記酸化物層領域の割合は60%以下である、ホットスタンプ鋼材。

イ 特許法第36条第6項第1号について
(ア)本件発明5の鋼板組成及びめっき層に関する特定事項に対応する実施例としては、試験番号20及び21のみである。
そして、本件発明5は、「めっき層の融点から前記熱処理温度まで前記鋼板を加熱し」と記載されており、「加熱」する工程が含まれていることが必須であるところ、試験番号20及び21の融点は、表2に881℃であることが記載されている一方、明細書の段落【0114】には「870℃に加熱した」と記載されている。
そうすると、「870℃に加熱した」としても、融点を超えないという矛盾が発生していることになる。
しかしながら、特許権者が平成31年4月15日に提出した意見書に参考図として記載している「Zn-Ni2元系平衡状態図」には、Zn-12%Ni、Zn-14%Niの場合には、いずれも870℃以下で液相として存在しうること、すなわち、Niの割合が12%の合金めっき、14%の合金めっきの融点は870℃を下回る融点であることが示されている。
よって、試験番号20及び21は、本件発明5の実施例でないと断定することはできない。
したがって、本件発明5は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものとはいえない。

(イ)本件発明6の実施例は、明細書の【表2】における1-29の試験番号のうち、浮上率が60%以下である、試験番号6-28である旨、特許権者は平成31年4月15日提出の意見書において主張している。
その前提で、各試験番号のめっき層中のZnの含有量をみると、試験番号28がZnが最も少なく78%程度で残余はFe及びNiということになる。
これらが、そのままの割合で酸化物になるとすれば、ZnOもまた78%程度ということになり、ZnよりもFeやNiが酸化しやすいという事実も認められないことから、酸化物層はZnOを主体としていることは明らかである。
そうすると、「50体積%以上のZnOを含有する」実施例が存在することは明らかであるから、本件発明6は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものとはいえない。

ウ 特許異議申立人の意見について
上記イ(ア)に関して、特許異議申立人は、令和元年6月3日提出の回答書において、電気めっきで形成される亜鉛ニッケル合金はγ相の形態であり、一般的にその融点は甲第2号証に記載のごとく881℃であると当業者に認識されているのであるから、試験番号20及び21の融点が870℃未満であることは自明ではないと主張している。
しかしながら、上記「Zn-Ni2元系平衡状態図」中にも、γ相の形態の亜鉛ニッケル合金として、融点が881℃を示すNi含有率の範囲と、融点が881℃を下回り、870℃未満を確認できる範囲のものが存在することが示されているところ、γ相の形態である亜鉛ニッケル合金の融点が、Ni含有量に拘わらず同一の融点であるとの立証は尽くされていないので、上記主張は採用することはできない。
また、上記イ(イ)に関して、特許異議申立人は、上記回答書において、50%体積%以上のZnOができることはない旨の技術的な主張はされておらず、十分な裏付けを有しているとはいえない。

(2)取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について

ア 特許法第36条第4項第1号について
上記訂正により請求項1に係る発明が削除され、請求項2及び5が独立形式となったことにより、本件発明2?5に対応する試験番号が明確となった。
したがって、本件発明2?5は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反して特許されたものとはいえない。

イ 特許法第36条第6項第2号について
上記訂正により請求項1に係る発明が削除され、第1のめっき層及び第2のめっき層の2層のめっき層であることが明確となり、一つのめっき層に「ZnとZnよりも高融点の元素」の両方が含まれると理解せざるを得ない状況がなくなり、2層のめっき層全体として、「ZnとZnよりも高融点の元素」の両方が含まれていればよいことが、明確となった。
したがって、本件発明2?4は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反して特許されたものとはいえない。

ウ 特許法第36条第6項第1号について
上記イにより、本件発明2?4が明確になったことに伴い、試験番号19以外の実施例が本件発明2?4の実施例となることになったので、本件発明2?4は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものとはいえない。

エ 特許法第29条第1項3号及び第29条第2項について
(ア)本件発明1
上記訂正により、本件発明1は削除されたので、対象となる請求項が存在しなくなった。

(イ)本件発明2?4
本件発明2?4について、甲第3号証又は甲第4号証を主引例とした特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項を理由とする特許異議の申立てがされているが、甲第3号証及び甲第4号証のいずれにも、「前記めっき層が形成された前記鋼板をAc_(3)点?950℃の熱処理温度に加熱した後、前記鋼板を前記熱処理温度から780℃以下まで、前記鋼板に応力を付与することなく冷却した後、金型を用いて前記鋼板をプレスしながら焼入れしてホットスタンプ鋼材を成形する工程」及び「前記熱処理温度から前記鋼板を冷却して780℃に至るまでの時間を20秒以下に」する点が記載されておらず、他の甲号証にも記載されていないことから、本件発明2?4は、甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明ではなく、甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明5
本件発明5について、甲第1号証又は甲第2号証を主引例とした特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項を理由とする特許異議の申立てがされているが、甲第1号証及び甲第2号証には、「前記めっき層が形成された前記鋼板をAc_(3)点?950℃の熱処理温度に加熱した後、前記鋼板を前記熱処理温度から780℃以下まで、前記鋼板に応力を付与することなく冷却した後、金型を用いて前記鋼板をプレスしながら焼入れしてホットスタンプ鋼材を成形する工程」及び「前記熱処理温度から前記鋼板を冷却して780℃に至るまでの時間を20秒以下に」する点が記載されておらず、他の甲号証にも記載されていないことから、本件発明5は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明ではなく、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)本件発明6
本件発明6について、甲第1号証、第3号証、第4号証及び甲第5号証を主引例として特許異議の申立てがされている。
ここで、本件発明6は「前記酸化物層を10μmピッチで複数の酸化物層領域に区分した場合、前記複数の酸化物層領域のうち、少なくとも一部に表面と垂直な方向に1μm以上の隙間が形成されており、前記表面と垂直な方向に1μm以上の隙間が形成された前記酸化物層領域の割合は60%以下である」という事項を有しており、「表面と垂直な方向に1μm以上の隙間が形成」されていることを前提として、その割合が60%以下であることを規定している。
したがって、60%以下という数値について論じる前に、引用発明には、表面と垂直な方向に1μm以上の隙間が形成されていることが必要となるが、甲第1号証、第3号証、第4号証及び甲第5号証において、表面と垂直な方向に1μm以上の隙間が必ず形成されると認めるに足りる記載は見受けられない。
よって、本件発明6は、甲第1号証、第3号証、甲第4号証又は甲第5号証に記載された発明ではなく、甲第1号証、第3号証、甲第4号証又は甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 むすび
以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項2?6に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に本件請求項2?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項1に係る特許は、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人がした特許異議の申立てについて、請求項1に係る申立ては、対象となる請求項が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
質量%で、C:0.05?0.4%、Si:0.5%以下、Mn:0.5?2.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.01%以下、B:0?0.005%、Ti:0?0.1%、Cr:0?0.5%、Nb:0?0.1%、Ni:0?1.0%、及び、Mo:0?0.5%を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する鋼板を準備する工程と、
前記鋼板に対して電気めっき処理又は溶融めっき処理を実施して、前記鋼板上にZnとZnよりも高融点の元素とを含有するめっき層を形成する工程と、
前記めっき層が形成された前記鋼板をAc_(3)点?950℃の熱処理温度に加熱した後、前記鋼板を前記熱処理温度から780℃以下まで、前記鋼板に応力を付与することなく冷却した後、金型を用いて前記鋼板をプレスしながら焼入れしてホットスタンプ鋼材を成形する工程とを備え、
前記めっき層は、第1及び第2のめっき層を含み、
前記めっき層を形成する工程は、
鋼板上に電気亜鉛めっき層、溶融亜鉛めっき層及び合金化溶融亜鉛めっき層のいずれかである亜鉛めっき層からなる前記第1のめっき層を形成する工程と、
前記亜鉛めっき層上に、前記亜鉛めっき層よりも高い融点を有する高融点めっき層からなる前記第2のめっき層を形成する工程とを含み、
前記ホットスタンプ鋼材を成形する工程では、前記めっき層の融点から前記熱処理温度まで前記鋼板を加熱し、さらに、前記熱処理温度から前記鋼板を冷却して780℃に至るまでの時間を20秒以下にし、前記めっき層の融点は、より融点が低いめっき層の融点である、ホットスタンプ鋼材の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のホットスタンプ鋼材の製造方法であって、
前記高融点めっき層は、Ni、Co及びFeからなる群から選択される1種以上の元素を総量で10質量%以上含有する、ホットスタンプ鋼材の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のホットスタンプ鋼材の製造方法であって、
前記高融点めっき層は、Ni及び不純物からなり、
前記高融点めっき層を形成する工程では、前記高融点めっき層の付着量を6g/m^(2)以下にする、ホットスタンプ鋼材の製造方法。
【請求項5】
質量%で、C:0.05?0.4%、Si:0.5%以下、Mn:0.5?2.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.01%以下、B:0?0.005%、Ti:0?0.1%、Cr:0?0.5%、Nb:0?0.1%、Ni:0?1.0%、及び、Mo:0?0.5%を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する鋼板を準備する工程と、
前記鋼板に対して電気めっき処理又は溶融めっき処理を実施して、前記鋼板上にZnとZnよりも高融点の元素とを含有するめっき層を形成する工程と、
前記めっき層が形成された前記鋼板をAc_(3)点?950℃の熱処理温度に加熱した後、前記鋼板を前記熱処理温度から780℃以下まで、前記鋼板に応力を付与することなく冷却した後、金型を用いて前記鋼板をプレスしながら焼入れしてホットスタンプ鋼材を成形する工程とを備え、
前記めっき層は、亜鉛ニッケル合金めっき層からなり、
前記ホットスタンプ鋼材を成形する工程では、前記めっき層の融点から前記熱処理温度まで前記鋼板を加熱し、さらに、前記熱処理温度から前記鋼板を冷却して780℃に至るまでの時間を20秒以下にする、ホットスタンプ鋼材の製造方法。
【請求項6】
ホットスタンプ鋼材であって、
質量%で、C:0.05?0.4%、Si:0.5%以下、Mn:0.5?2.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.01%以下、B:0?0.005%、Ti:0?0.1%、Cr:0?0.5%、Nb:0?0.1%、Ni:0?1.0%、及び、Mo:0?0.5%を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する母材と、
前記母材上に形成され、Feと、Feに固溶したZnとを含有する固溶体層と、
前記固溶体相上に形成され、Znと、Znよりも高融点の元素とを含有する合金層と、
前記合金層上に形成され、50体積%以上のZnOを含有する酸化物層とを備え、
前記ホットスタンプ鋼材の前記酸化物層が形成された表面と垂直な断面において、前記酸化物層を10μmピッチで複数の酸化物層領域に区分した場合、前記複数の酸化物層領域のうち、少なくとも一部に表面と垂直な方向に1μm以上の隙間が形成されており、前記表面と垂直な方向に1μm以上の隙間が形成された前記酸化物層領域の割合は60%以下である、ホットスタンプ鋼材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-06-14 
出願番号 特願2013-249547(P2013-249547)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (B21D)
P 1 651・ 113- YAA (B21D)
P 1 651・ 537- YAA (B21D)
P 1 651・ 121- YAA (B21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 豊島 唯  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 平岩 正一
小川 悟史
登録日 2017-08-18 
登録番号 特許第6191420号(P6191420)
権利者 日本製鉄株式会社
発明の名称 ホットスタンプ鋼材の製造方法及びホットスタンプ鋼材  
代理人 松本 悟  
代理人 アセンド特許業務法人  
代理人 奥井 正樹  
代理人 アセンド特許業務法人  

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