ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A61M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61M 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61M |
---|---|
管理番号 | 1354056 |
異議申立番号 | 異議2018-700860 |
総通号数 | 237 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-09-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-10-23 |
確定日 | 2019-06-20 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6315707号発明「バルーンカテーテル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6315707号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。 特許第6315707号の請求項1に係る特許についての本件特許異議申立てを却下する。 特許第6315707号の請求項2ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6315707号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成27年4月30日に出願され、平成30年4月6日にその特許権の設定登録がされ、平成30年4月25日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年10月23日に特許異議申立人藤田節により特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年12月18日に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成31年2月15日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、さらに平成31年3月12日に手続補正書を提出した。その訂正の請求(以下、この訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)に対して、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが,特許異議申立人は応答しなかった。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正の内容は、以下の訂正事項1,2のとおりである(下線は訂正箇所を示すため合議体が付した。)。 (1)訂正事項1 請求項1を削除する。 (2)訂正事項2 訂正前の請求項2に 「前記第1層は、第1の配向方向を有する第1の樹脂材料からなり、 前記第2層は、前記第1の配向方向と異なる第2の配向方向を有する第2の樹脂材料からなる 請求項1記載のバルーンカテーテル。」 と記載されているのを, 「軸方向に伸びる管状部材からなる先端側シャフトと、 前記先端側シャフトの先端に接続された多層バルーンと を備え、 前記多層バルーンは、少なくとも第1層および前記第1層の外表面を覆う第2層を有し、 前記第1層および前記第2層は、前記軸方向に沿って第1端部と中間部と第2端部とを順にそれぞれ有し、 前記第1層の前記第1端部と前記第2層の前記第1端部とが互いに固定され、 前記第1層の前記第2端部と前記第2層の前記第2端部とが互いに固定され、 前記第1層の前記中間部と前記第2層の前記中間部とは互いに固定されずに重なり合っており, 前記第1層は、前記多層バルーンの拡張時において第1の配向方向を有する第1の樹脂材料からなり、 前記第2層は、前記多層バルーンの拡張時において前記第1の配向方向と異なる第2の配向方向を有する第2の樹脂材料からなる バルーンカテーテル。」 に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3,4も同様に訂正する。)。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1に係る訂正は、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 また、この訂正は、請求項の削除であるから、本件訂正前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。そして、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であったのを、引用関係を解消して独立形式に改めるものであるから、この訂正は、引用関係の解消を目的とし,また,明細書の段落【0022】の「図2および図3は,いずれも拡張時におけるバルーン20を表している。」という記載および図3の第1の配向方向を示した矢印21Yおよび第2の配向方向を示した矢印22Yが異なる方向を示す記載に基づいて,「前記多層バルーンの拡張時において」との記載を追加することにより,「第1の配向方向」および「第2の配向方向」が異なるのは多層バルーンの拡張時であることを明確にするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)一群の請求項について 訂正前の請求項1ないし4について,請求項2ないし4はそれぞれ直前の請求項を引用するものであって,訂正事項1,2によって記載が訂正される請求項1,2に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1ないし4に対応する訂正後の請求項1ないし4は,一群の請求項である。 (4)まとめ 本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号,3号及び第4号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし4に係る発明(以下「本件発明1」などという。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 軸方向に伸びる管状部材からなる先端側シャフトと、 前記先端側シャフトの先端に接続された多層バルーンと を備え、 前記多層バルーンは、少なくとも第1層および前記第1層の外表面を覆う第2層を有し、 前記第1層および前記第2層は、前記軸方向に沿って第1端部と中間部と第2端部とを順にそれぞれ有し、 前記第1層の前記第1端部と前記第2層の前記第1端部とが互いに固定され、 前記第1層の前記第2端部と前記第2層の前記第2端部とが互いに固定され、 前記第1層の前記中間部と前記第2層の前記中間部とは互いに固定されずに重なり合っており, 前記第1層は、前記多層バルーンの拡張時において第1の配向方向を有する第1の樹脂材料からなり、 前記第2層は、前記多層バルーンの拡張時において前記第1の配向方向と異なる第2の配向方向を有する第2の樹脂材料からなる バルーンカテーテル。 【請求項3】 前記先端側シャフトは、前記第1の配向方向または第2の配向方向に沿って延在し、 前記第1の配向方向と前記第2の配向方向とは、実質的に直交する 請求項2記載のバルーンカテーテル。 【請求項4】 前記先端側シャフトは、前記第2の配向方向に沿って延在している 請求項3記載のバルーンカテーテル。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 訂正前の請求項1ないし4に係る特許に対して、当審が平成30年12月18日に特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 (1)請求項1に係る発明は,甲第2号証に記載された発明であるので,請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである(以下,「取消理由1」という。)。 (2)請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、請求項2に係る発明は,甲第2号証および甲第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項1および2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである(以下,「取消理由2」という。)。 (3)請求項2ないし4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第1号または第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである(以下,「取消理由3」という。)。 2 甲号証の記載 (1)甲第2号証(特表2009-519770号公報) ア 甲第2号証には,図面とともに,次の記載がある。 「【0029】 ・・・バルーン2は、カテーテルシャフト3の遠心端部に取り付けられ、インフレーションルーメン4を用いて膨張させられる。・・・」 「【0030】 ・・・このバルーン2は、バルーンの近接首部50とバルーンの遠心首部51との両方においてカテーテルシャフト3に付着する。また、このバルーン2は、本体部52を有し、それは、バルーン2が特定の医療処置中に患者の体内に配置された際に膨張及び収縮することができる。」 「【0069】 外部バルーン31は、近接首部50Bと遠心首部51Bとを有する。一実施形態では、外部バルーン31の近接首部50Bと遠心首部51Bは、内部バルーン30の近接首部50Aと遠心首部51Aより大きな寸法を有する。一実施形態では、内部バルーン30が実質的に外部バルーン31内に実質的に含まれるように、内部バルーン30は、外部バルーン31を通してそれを引っ張ることによって外部バルーン31に挿入することができる。・・・」 「【0070】 本発明の多層バルーン入れ子方法の一実施形態では、バルーン30、31が、バルーン30、31の本体部に沿った実質的に同一の形状及び大きさを有するように、内部バルーン30と外部バルーン31は、同一の型(別個の時間で行うのが好ましいが)でブロー成形される。この実施形態では、バルーン30、31は、好ましくは、図22A及び22Dに示されるように異なる大きさを有する近接首部及び遠心首部を有する。すなわち、内部バルーン30の近接及び遠心端部50A、51Aは、外部バルーン31の近接及び遠心首部50B、51Bより小さい直径を有する。」 「【0071】 図22Eを参照して、内部バルーン30が外部バルーン31のキャビティ内に挿入された後、潤滑剤32は、内部バルーン30と外部バルーン31との間に位置する空間に追加することができる。・・・」 「【0072】 図22Fに示されるように、入れ子にされたバルーン30、31は、次いで加熱され、伸ばされ、膨張され、内部バルーン30と外部バルーン31のそれぞれの本体部分が、同一又は実質的に同一の分子整列になる。・・・提供した実施形態は、バルーンを伸ばすように修正することができ、同様に、バルーンが最適な大きさ及び形状まで伸ばされているということを検証するために使用することもできる。他の実施形態は、ここに開示された多層バルーンを加熱し、伸ばし及び膨張するために使用することができる。」 「【0073】 入れ子方法の一実施形態では、バルーンを加熱し伸ばすことができ、次いで、バルーンを加熱し伸ばしながら、バルーンを膨張し始める。バルーンの膨張は、約30%の伸びが達成されたままである場合に開始することができる。このバルーンは、それらの初期長さの4から5倍まで伸びる。この伸びの量は、二軸分子位置合わせを最適化することを意味し、異なる方法が異なる用途において相応しいことは明らかであろう。」 「【0074】 図22Fを継続して参照すると、含有装置(containing apparatus)61は、潤滑剤32が溶接領域40に達することを防止するために使用することができる。バルーン30、31をシーリングした後、潤滑層32は、膨張中に十分に分布しない場合には、機械的手段によって均一に分布することができる。」 「【0075】 図22Gに示されるように、内部バルーン30と外部バルーン31とを有する多層バルーンは、カテーテルシャフトへの取り付けに備えて、溝付けし、包むことができる。一実施形態では、多層バルーンは、他のバルーンへの挿入に備えて、溝付けされ、包まれる。他の実施形態では、多層バルーンは、多層バルーンによって画定されるキャビティ内に挿入される他のバルーンを有することに備えて、溝付けされ、包まれる。」 「【0084】 ここで図24A及び24Bに移動すると、多層バルーンが完成する前に、一般的に、バルーンの構造層は、共に溶接される。潤滑層が同様に溶接されない限り、潤滑層は、好ましくは、多層バルーンの溶接領域40から離れて維持される。・・・多層共押し出しバルーンの構造層41、43は、溶接領域40で共に溶接することができる。・・・」 イ 上記アから,甲第2号証には,次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「軸方向に伸びる管状部材からなるカテーテルシャフト3と、 前記カテーテルシャフト3の遠心端部に接続されたバルーン2と を備え、 前記バルーン2は、内部バルーン30および前記内部バルーン30の外表面を覆う外部バルーン31を有し、 前記内部バルーン30および前記外部バルーン31は、前記軸方向に沿って近接首部と本体部と遠心首部とを順にそれぞれ有し、 前記内部バルーン30の前記近接首部50Aと前記外部バルーン31の前記近接首部50Bとが互いに溶接され、 前記内部バルーン30の前記遠心首部51Aと前記外部バルーン31の前記遠心端部51Bとが互いに溶接され、 前記内部バルーン30の前記本体部と前記外部バルーン31の前記本体部との間に潤滑層を介して重なり合っている バルーンカテーテルシステム1。」 (2)甲第4号証(特表2005-519649号公報) ア 甲第4号証には,図面とともに,次の記載がある。 「【0008】 本発明は、特に、血管内カテーテルおよびガイドワイヤなどの医療器具における使用に適したチューブ状の押出し部材を提供する。同押出しチューブ部材は、異なる方向において二軸螺旋配向を有する多層構造をなす。・・・2方向の螺旋配向を多層に付与することにより、チューブ部材の異なる層に所望の機械的特性を有することができる。・・・各実施例において、多層チューブは、異なる方向において二軸螺旋配向を有することにより、その機械的特性を強化する。」 「【0010】 図1は、・・・チューブ状のポリマー部材10は,複数の同軸チューブ状層12,14およびルーメン16を有し,図1の2-2線における断面図を示す図2において示される。例証のために、チューブ部材10は、2つの層、即ち内側層12および外側層14を有するように示される。」 「【0013】 ・・・バルーン36は、ブロー成形された多層チューブ部材10の少なくとも一部において形成されていてもよい。・・・」 イ 上記アから,甲第4号証には,次の技術事項(以下「甲4技術事項」という。)が記載されている。 「樹脂材料からなる多層バルーンにおいて,内側層と外側層が異なる方向の配向を有する。」 3 当審の判断 (1)特許法第29条第1項第3号(取消理由1)について ア 本件発明1について 取消理由1の対象となっていた本件発明1は、本件訂正により削除されたため、本件発明1に対する当該取消理由は存在しない。 (2)特許法第29条第2項(取消理由2)について ア 本件発明1について 取消理由2の対象となっていた本件発明1は、本件訂正により削除されたため、本件発明1に対する当該取消理由は存在しない。 イ 本件発明2について (ア)本件発明2と甲2発明との対比 a 甲2発明の「軸方向に伸びる管状部材からなるカテーテルシャフト3」は,本件発明2の「軸方向に伸びる管状部材からなる先端側シャフト」に相当する。 b 甲2発明の「前記カテーテルシャフト3の遠心端部に接続されたバルーン2」は,本件発明2の「前記先端側シャフトの先端に接続された多層バルーン」に相当する。 c 甲2発明の「前記バルーン2は、内部バルーン30および前記内部バルーン30の外表面を覆う外部バルーン31を有し」は,本件発明2の「前記多層バルーンは、少なくとも第1層および前記第1層の外表面を覆う第2層を有し」に相当する。 d 甲2発明の「前記内部バルーン30および前記外部バルーン31は、前記軸方向に沿って近接首部と本体部と遠心首部とを順にそれぞれ有し」は,本件発明2の「前記第1層および前記第2層は、前記軸方向に沿って第1端部と中間部と第2端部とを順にそれぞれ有し」に相当する。 e 甲2発明の「前記内部バルーン30の前記近接首部50Aと前記外部バルーン31の前記近接首部50Bとが互いに溶接され、前記内部バルーン30の前記遠心首部51Aと前記外部バルーン31の前記遠心端部51Bとが互いに溶接され」は,本件発明2の「前記第1層の前記第1端部と前記第2層の前記第1端部とが互いに固定され、前記第1層の前記第2端部と前記第2層の前記第2端部とが互いに固定され、」に相当する。 f 甲2発明の「前記内部バルーン30の前記本体部と前記外部バルーン31の前記本体部との間に潤滑層を介して重なり合っている」は,潤滑層を介しているので固定されていないことは明らかであるので,本件発明2の「前記第1層の前記中間部と前記第2層の前記中間部とは互いに固定されずに重なり合っている」に相当する。 g 甲2発明の「バルーンカテーテルシステム1」は,本件発明2の「バルーンカテーテル」に相当する。 (イ)以上のことから,本件発明2と甲2発明との一致点および相違点は,次の通りである。 【一致点】 「軸方向に伸びる管状部材からなる先端側シャフトと、 前記先端側シャフトの先端に接続された多層バルーンと を備え、 前記多層バルーンは、少なくとも第1層および前記第1層の外表面を覆う第2層を有し、 前記第1層および前記第2層は、前記軸方向に沿って第1端部と中間部と第2端部とを順にそれぞれ有し、 前記第1層の前記第1端部と前記第2層の前記第1端部とが互いに固定され、 前記第1層の前記第2端部と前記第2層の前記第2端部とが互いに固定され、 前記第1層の前記中間部と前記第2層の前記中間部とは互いに固定されずに重なり合っている バルーンカテーテル。」 【相違点】 本件発明2は,「前記第1層は、前記多層バルーンの拡張時において第1の配向方向を有する第1の樹脂材料からなり、前記第2層は、前記多層バルーンの拡張時において前記第1の配向方向と異なる第2の配向方向を有する第2の樹脂材料からなる」のに対して,甲2発明の内部バルーン30および外部バルーン31の材料および配向方向については不明な点。 (ウ)判断 甲第4号証の段落【0010】に「本件発明による押出し成形されたチューブ状のポリマー部材10」との記載があり,段落【0032】に「多層チューブ部材10を形成するための更なる押出しシステムは、・・・硬質および可撓性を有する部分の材料が、円滑に徐々に互いに楔入し、ステップ接合なしで材料間に分離不能の接着状態を作り出す」との記載があり,図4,5に2種類の材料をまとめて押出し成形する工程の概略図の記載がある。 すなわち,甲4技術事項において,多層バルーンを構成する内側層と外側層とが溶融して接着した状態であることは明らかであり,当然に両者が長手方向の中間部分において固定されていると解することができる。 さらに,甲第4号証に記載された「捻り剛性」や「突刺強度」などのパラメータ(段落【0012】参照)で表される機械的特性を向上させるには,甲4技術的事項における内側層と外側層とが溶融して接着した状態であることが必須なのは技術常識でもある。 一方,甲2発明において,バルーンを構成する内部バルーン30と外部バルーン31との間に潤滑層を設けることにより,内部バルーン30と外部バルーン31とが各々の長手方向の中間部分において固定されていないのは,甲第2号証の段落【0064】に記載されているように,両バルーン間の摩擦の低減を目的としているためである。 以上から,甲2発明において,内側層と外側層とが溶融して接着した状態である甲4技術事項を採用することは,両バルーン間の摩擦の低減という甲2発明の目的に反することになり,甲2発明において甲4技術事項を適用するうえで阻害要因があるといえる。 したがって、本件発明2は、甲2発明および甲4技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3) 特許法第36条第6項第1号または第2号(取消理由3)について ア 本件発明2について 訂正前の請求項2に係るバルーンカテーテルは,収縮し及び/又は折り畳まれた形態で,施術箇所にまで到達させる状態と,拡張させて外形を大きくした形態で,施術箇所で血管等に作用する状態の二つの形態を典型例として,その間の遷移状態を含めて,異なる形態を取り得る可能性があった。 この点について、上記の訂正事項2により、前記異なる形態のうち,「前記多層バルーンの拡張時において」と形態(拡張時)を明確にしたのであるから,本件発明2が不明確であるとはいえない。また,「前記多層バルーンの拡張時において」という記載は,発明の詳細な説明(【0022】)および図3に記載されたものである。 よって,本件発明2は,特許法第36条第6項第1号または第2号に規定する要件を満たしている。 イ 本件発明3および4について 請求項3は請求項2を引用し、請求項4は請求項3を引用するものであるところ、請求項3および請求項4はいずれも請求項を引用しない他の部分に不明確な記載,または発明の詳細な説明に記載した範囲を超える記載があるとも認められないから、本件発明3および本件発明4は、特許法第36条第6項第1号または第2号に規定する要件を満たしている。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は、特許異議申立書において、取消理由通知において採用した甲第2号証を主引例とした取消理由1,2について,さらに甲第1号証(特許第5577343号公報)または甲第3号証(米国特許第7442190号明細書)を主引例とする場合を特許異議申立理由として主張している。 しかしながら,特許異議申立書に記載されているとおり,甲第1号証または甲第3号証に記載された発明は,甲2発明とほぼ同等の発明であるので,上記「第4の3(1)(2)」で検討したのと同様の理由で,本件発明2は、甲第1号証または甲第3号証に記載された発明および甲4技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 なお,本件発明1は、本件訂正により削除されたため、本件発明1に対する甲第1号証または甲第3号証を主引例とする特許異議申立理由は存在しない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項2ないし4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項2ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件訂正により本件特許の請求項1が削除された結果、同請求項1に係る特許についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため、特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により、請求項1に係る特許についての本件特許異議の申立ては却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】(削除) 【請求項2】 軸方向に伸びる管状部材からなる先端側シャフトと、 前記先端側シャフトの先端に接続された多層バルーンと を備え、 前記多層バルーンは、少なくとも第1層および前記第1層の外表面を覆う第2層を有し、 前記第1層および前記第2層は、前記軸方向に沿って第1端部と中間部と第2端部とを順にそれぞれ有し、 前記第1層の前記第1端部と前記第2層の前記第1端部とが互いに固定され、 前記第1層の前記第2端部と前記第2層の前記第2端部とが互いに固定され、 前記第1層の前記中間部と前記第2層の前記中間部とは互いに固定されずに重なり合っており、 前記第1層は、前記多層バルーンの拡張時において第1の配向方向を有する第1の樹脂材料からなり、 前記第2層は、前記多層バルーンの拡張時において前記第1の配向方向と異なる第2の配向方向を有する第2の樹脂材料からなる バルーンカテーテル。 【請求項3】 前記先端側シャフトは、前記第1の配向方向または第2の配向方向に沿って延在し、 前記第1の配向方向と前記第2の配向方向とは、実質的に直交する 請求項2記載のバルーンカテーテル。 【請求項4】 前記先端側シャフトは、前記第2の配向方向に沿って延在している 請求項3記載のバルーンカテーテル。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-06-12 |
出願番号 | 特願2015-92722(P2015-92722) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(A61M)
P 1 651・ 113- YAA (A61M) P 1 651・ 537- YAA (A61M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 鈴木 洋昭 |
特許庁審判長 |
内藤 真徳 |
特許庁審判官 |
井上 哲男 林 茂樹 |
登録日 | 2018-04-06 |
登録番号 | 特許第6315707号(P6315707) |
権利者 | 日本ライフライン株式会社 |
発明の名称 | バルーンカテーテル |
代理人 | 特許業務法人つばさ国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人つばさ国際特許事務所 |