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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1354057
異議申立番号 異議2018-700790  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-28 
確定日 2019-06-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6302693号発明「中空封止用樹脂シート及び中空パッケージの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6302693号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6302693号の請求項1、3ないし5に係る特許を維持する。 特許第6302693号の請求項2に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6302693号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成26年2月7日(優先権主張 平成25年3月28日)に特許出願され、平成30年3月9日にその特許権の設定登録がされ、同年3月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、同年9月28日に特許異議申立人 益川 教親により特許異議の申立てがされた。そして、同年12月12日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成31年2月14日付けで特許権者により意見書の提出がされ、同年3月5日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年4月22日付けで特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされたものである。

第2.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成31年4月22日付けの訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下の訂正事項のとおりである。なお、下線は訂正部分を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に

「 無機充填剤を70体積%以上90体積%以下の含有量で含み、
レーザー回折散乱法により測定した前記無機充填剤の粒度分布において、1μm以上10μm以下の粒径範囲に頻度分布のピークが少なくとも1つ存在し、かつ10μmを超えて100μm以下の粒径範囲に頻度分布のピークが少なくとも1つ存在し、
前記無機充填剤のBET比表面積が2m^(2)/g以上5m^(2)/g以下である中空封止用樹脂シート。」

と記載されているのを、

「 無機充填剤を70体積%以上90体積%以下の含有量で含み、
レーザー回折散乱法により測定した前記無機充填剤の粒度分布において、1μm以上10μm以下の粒径範囲に頻度分布のピークが少なくとも1つ存在し、かつ10μmを超えて100μm以下の粒径範囲に頻度分布のピークが少なくとも1つ存在し、
前記無機充填剤のBET比表面積が2m^(2)/g以上5m^(2)/g以下であり、
硬化前の80℃における動的粘度が5000Pa・s以上30000Pa・s以下である中空封止用樹脂シート。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の引用請求項を「請求項1」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4の引用請求項を「請求項1又は3」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5の引用請求項を「請求項1、3又は4」に訂正する。


2.訂正要件についての判断
(1)一群の請求項要件
訂正前の請求項1-5において、請求項2-5は訂正する請求項1を引用しているものであるから、請求項1-5は特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「中空封止用樹脂シート」が、「硬化前の80℃における動的粘度が5000Pa・s以上30000Pa・s以下である」として特性を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲又は図面(以下、単に「本件特許明細書等」という。)の段落【0010】には、「当該中空封止用樹脂シートでは、硬化前の80℃における動的粘度が5000Pa・s以上30000Pa・s以下であることが好ましい。これにより、中空構造の確保と中空構造以外の部分(基板表面やチップ)での凹凸追従性とをより良好に両立させることができる。なお、動的粘度の測定方法は実施例の記載による。」と記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、訂正事項1は特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

イ.訂正事項2について
訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。


ウ.訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項2によって請求項2を削除するのにともない、請求項3の引用請求項数を減少するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

エ.訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項2によって請求項2を削除するのにともない、請求項4の引用請求項数を減少するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

オ.訂正事項5について
訂正事項5は、訂正事項2によって請求項2を削除するのにともない、請求項5の引用請求項数を減少するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正を認める。


第3.特許異議の申立について
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
無機充填剤を70体積%以上90体積%以下の含有量で含み、
レーザー回折散乱法により測定した前記無機充填剤の粒度分布において、1μm以上10μm以下の粒径範囲に頻度分布のピークが少なくとも1つ存在し、かつ10μmを超えて100μm以下の粒径範囲に頻度分布のピークが少なくとも1つ存在し、
前記無機充填剤のBET比表面積が2m^(2)/g以上5m^(2)/g以下であり、
硬化前の80℃における動的粘度が5000Pa・s以上30000Pa・s以下である中空封止用樹脂シート。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記無機充填剤がシリカ粒子、アルミナ粒子又はこれらの混合物である請求項1に記載の中空封止用樹脂シート。
【請求項4】
前記無機充填剤が球状である請求項1又は3に記載の中空封止用樹脂シート。
【請求項5】
被着体上に配置された1又は複数の電子デバイスを覆うように請求項1、3又は4に記載の中空封止用樹脂シートを前記電子デバイス上に前記被着体と前記電子デバイスとの間の中空部を維持しながら積層する積層工程、及び
前記中空封止用樹脂シートを硬化させて封止体を形成する封止体形成工程
を含む中空パッケージの製造方法。」


2.取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1、3-5に係る発明についての特許に対して平成31年3月5日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

1.本件出願の請求項1、3-5に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1、3-5に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
2.本件出願の請求項1、3-5に係る発明は、下記の引用文献1、2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3-5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

引用文献1:特開2006-19714号公報 (甲第1号証)
引用文献2:DENKA 溶融シリカ 製品カタログ Version7.1 電気化学工業株式会社 2002年10月1日発行(甲第2号証)

(2)引用文献の記載
ア.引用文献1の記載事項
引用文献1には、図面と共に以下の事項が記載されている。(下線は、当審において付加した。以下、同様。)

a.「【0005】
上述の現状に鑑みて、本発明は、弾性表面波デバイス等の中空モールドをゲル状硬化性樹脂シートを用いて基板上で一括樹脂封止する際に、中空部の成形性に優れ、チップ抜け基板等の場合にもボイドの発生を低減でき、上述の問題を解決できる、信頼性と生産性に優れた製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、意外にも、真空下でゲル状硬化性樹脂シートを配置した後、熱ロールによる成形を組み合わせることにより、上記不良の発生を大幅に低減できることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成した。
すなわち、本発明は、配線基板上に、上記配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を、上記複数の配列された機能素子を覆うように上記配線基板上に配置されたゲル状硬化性樹脂シートを加熱硬化させて、上記配線基板と上記機能素子との間を中空に保ちつつ、一括樹脂封止する電子部品の製造方法であって、少なくとも、以下の工程(a)、(b)、(c)及び(d)を有する電子部品の製造方法である:
(a)配線基板上に上記配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を覆うように、上記配線基板上にゲル状硬化性樹脂シートを配置する工程、
(b)上記複数の配列された機能素子がその内部に含まれている上記ゲル状硬化性樹脂シートと上記配線基板とで囲まれた閉空間領域を、真空にする工程、
(c)上記閉空間領域を真空に維持しつつ、熱ロールで上記ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度未満に加熱し流動させながら封止樹脂表面を平坦に成形する工程、及び、
(d)上記ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度に加熱して硬化させる工程。」

b.「【0010】
上記ゲル状硬化性樹脂シートは、たとえば液状または固状の硬化性組成物とゲル化剤として作用する熱可塑性樹脂パウダーとの混合物をシート化することにより製造することができる。なお、固状の硬化性組成物に対するゲル化剤というのは、加熱し、溶融する条件にした場合にもゲル状にすることができるようにするためのものである。
【0011】
上記液状または固状の硬化性組成物の具体例としては、たとえばエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂、ポリイミド樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、キシレン樹脂、ケイ素樹脂などの熱硬化性樹脂を樹脂成分として含有する硬化性組成物などがあげられる。これらは1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのうちでは、エポキシ樹脂組成物が、低粘度で、フィラー充填など他の機能を付与するのに適する点から好ましい。
【0012】
上記エポキシ樹脂組成物は、一般に、エポキシ樹脂、硬化剤および(または)潜在性硬化促進剤、必要により使用されるシリカ、アルミナなどのフィラー、その他の添加剤(ゲル化剤を除く)などを含有する組成物である。」

c.「【0037】
上記ゲル状硬化性樹脂シートは、低ガラス転移温度、低線膨張率であることが、硬化物を低応力化(低ソリ化)することができるので好ましく、さらに、原料を高純度化したものであることが、不純物イオンが少なく、弾性表面波チップ表面の汚染を防ぐことができるので好ましく、さらに、ゲル状硬化性樹脂シートの弾性率(25℃)が10^(3)?10^(9)Pa、さらには10^(4)?10^(8)Paで、硬化時の溶融粘度が10?10^(5)Pa・s、さらには10^(3)?10^(4)Pa・sであることが、熱ロールすることにより、封止樹脂層形成前のデバイスに弾性表面波電極面と配線パターンが形成された面とがバンプの高さのぶん隔てられた部分が中空構造を保つように封止樹脂層を形成するうえで好ましい。また、軟化温度は、50℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上である。
【0038】
上述のように、上記ゲル状硬化性樹脂シートにおいては、低ガラス転移温度であるか、及び/又は、低線膨張率であることが、硬化物を低応力化(低ソリ化)するうえで好ましい。低ガラス転移温度としては、ゲル状硬化性樹脂シートの硬化物のTgが100℃以下が好ましく、さらには60℃以下であることがより好ましい。また低ソリ化・流動性調整・電子部品の高信頼化等のために低熱膨張率を得るためには、ゲル状硬化性樹脂シートは無機フィラー(例えば溶融シリカなど)を好ましくは50重量%以上、より好ましくは75重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上含有している。フィラーを高充填したシートの場合は、熱膨張率が低くなり低ソリ化できるので、信頼性を考慮するとTgは高い方が好ましく、例えば100℃以上が好ましく、より好ましくは150℃以上であるが、これに限定されるものではなく、用途に応じて調整可能である。」

d.「【0040】
なお、最内層のシートの軟化温度を他のシートより高くする場合、軟化温度は、最内層の軟化温度が5℃以上高いことが好ましく、より好ましくは10℃以上高いことが、製造方法上好ましい。ここで、軟化温度とは、シートを加熱軟化させながら電子部品を封止するという観点から、封止性を損なうことのない温度、すなわちシートの粘度が十分下がった温度を軟化点と定義し、例えば、弾性率G′の温度変化のグラフから外挿線の交点を求める方法で測定することができ、例えば、グラフにおいて、温度上昇とともにG′が下降する曲線の勾配が最大になる点で引いた接線とG′が充分低下した領域において引いた接線との交点の温度とすることができる。また上記ゲル状硬化性樹脂シートを複数枚積層する方法としては、ラミネート方法が好ましい。例えば、2枚以上積層する方法としては、加熱することが可能な2本のローラーを備えたラミネーターを用いて行うことができる。ラミネートする温度は、25?120℃が、シートの軟化点及び粘度の変化なく確実にラミネートできるので好ましい。」

e.「【0045】
上記熱ロールは、ゲル状硬化性樹脂シートの軟化点以上、硬化温度未満の範囲で、好ましくは60?250℃、さらには60?180℃の温度で行なわれるのがより好ましく、80?120℃がさらに好ましい。熱ロール温度がゲル状硬化性樹脂シートの軟化点未満の場合、流動性が不足し、封止樹脂の未充填をおこしたり、チップが破損したりしやすくなり、250℃をこえる場合、封止樹脂が硬化の際に発泡をおこしやすくなる。
【0046】
上記熱ロールとして上下2本ロールを使用する場合は、熱ロールは、樹脂に接する高温の第一のロールと、配線基板に接する低温の第二のロールとから構成されることが好ましい。上記高温の熱ロールは、封止樹脂の軟化点以上で硬化温度未満に設定し、上記低温のロールは、封止樹脂の軟化点未満、例えば、室温(25℃)に設定する。こうすると、封止樹脂の表面側がより高温になり、流動性が高まり成形性が向上するとともに、配線基板側で低温になり、樹脂の流動性が低くなりチップ下への流入を一層抑えることができる。また、上記熱ロールとして1本ロール構成とすることもできる。この場合、成形は、封止すべき上記配線基板を支持台に載置したうえで上記ゲル状硬化性樹脂シートの上から熱ロールをかけて行う。この場合も、支持台は室温であるので、やはり配線基板側で低温になり、樹脂の流動性が低くなりチップ下への流入を一層抑えることができる。」

f.「【0051】
実施例1?5及び比較例1?2
表1の配合でワニスを作成し、このワニスを、離型処理された75μm厚さのPETフィルムの離型処理された面に塗布して乾燥後、樹脂層が300μm厚になるように調整し、PETフィルム上にゲル状エポキシ樹脂シート(軟化点50℃)を形成した。
【0052】
得られたシートの軟化温度(℃)、軟化時の弾性率(Pa)、軟化時の動的複素粘度(Pa・s)を測定した。また、硬化物(150℃、3時間、オーブン硬化)のTg(℃)、線膨張係数(ppm)、曲げ弾性率(25℃、150℃;GPa)を測定した。
測定方法:
軟化温度、弾性率、粘度:ARES粘弾性測定装置(TA)、動的粘弾性測定(Temp Ramp、周波数1HZ、Ramp Rate2.5℃/min)
曲げ弾性率:DMA6100(SEIKO)、動的粘弾性測定(Temp Ramp、周波数1Hz、Ramp Rate2℃/min)
線膨張係数:TMA120C(SEIKO)、(Ramp Rate2.5℃/min)
【0053】
得られたシートを適当な大きさに切断したものを、200μm×30mm×50mmのガラエポ基板上に、高さ50μmのバンプで接続された400μm×2mm×2mmのダミーチップを7行7列に2mm間隔で49個形成した保護層形成前のデバイスの上に、一番外側配列のチップから2mm外側までをカバーするようにのせた。このものを、実施例及び比較例に供した。
【0054】
実施例1では、配合1で得られたシートをデバイスに真空ラミネーター(25℃、5秒間、シートタックを利用してシート外周部を基板に貼付け)で真空ラミネートした。実施例2では、配合1で得られたシートをのたせデバイスを、50℃、10秒間、0.1MPaで真空プレスしてプリフォームした。比較例では、いずれも、配合1で得られたシートをデバイスにのせたものをそのまま熱プレス又は熱ロールにかけた。実施例、比較例とも、熱ロールは、上ロール(100℃、ゴムロール)、下ロール(25℃、金属ロール)の間を0.77mmに設定し、0.3m/分の速度で行った。この後、それぞれのサンプルを、150℃、3時間、オーブン硬化した。また、比較例の熱プレスは、150℃で5分間、0.1MPaで行い、硬化させた。
【0055】
実施例3?5では、配合2及び配合3(実施例3)、配合2及び配合4(実施例4)又は配合3及び配合4(実施例5)を、それぞれ、1枚ずつ2枚をラミネートした。上記実施例3?5でシートを2枚積層する方法としては、加熱することが可能な2本のローラーを備えたラミネーター(自社製)を用いて行った。ラミネートする温度は100℃で行った。
【0056】
なお、表1中の略号は以下のとおりである。
LSAC6006:旭化成エポキシ(株)製、変性(プロピレンオキサイド付加)エポキシ樹脂、エポキシ当量250g/eq
DAL-BPFD:本州化学工業(株)製、ジアリルビスフェノールF
HX3088:旭化成エポキシ(株)製、変性イミダゾール、活性温度約80℃
F301:日本ゼオン(株)製、アクリルパウダー、粒径2μm、軟化温度80?100℃のポリメチルメタクリレート
FB201S:電気化学工業(株)製、充填用シリカ
A187:日本ユニカー(株)製、エポキシシラン
IXE600:東亞合成(株)製、ビスマスアンチモン、イオンキャッチャー
RY200:日本アエロジル(株)製、微粉シリカ、揺変性発現剤
RE304S:日本化薬(株)製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量170g/eq
ELM100:住友化学(株)製、アミノエポキシ樹脂、エポキシ当量105g/eq
EPPN-502H:日本化薬(株)、多官能エポキシ樹脂、エポキシ当量170g/eq
MEH7500:明和化成(株)、多官能フェノール、フェノール当量105g/eq
2P4MHZ:四国化成工業(株)、変性イミダゾール
【0057】
【表1】




・上記aの段落【0006】には、配線基板上に、上記配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を覆うように上記配線基板上に配置し加熱硬化させて、上記配線基板と上記機能素子との間を中空に保ちつつ、一括樹脂封止するゲル状硬化性樹脂シート、が記載されている。
・上記bの段落【0010】、【0011】には、上記ゲル状硬化性樹脂シートが硬化性組成物としてのエポキシ樹脂組成物とゲル化剤からなることが記載されている。

・上記fの段落【0051】には、上記ゲル状硬化性樹脂シートの実施例を作成するために【0057】の【表1】の配合1-配合4でゲル状エポキシ樹脂シートを作成することが記載されている。
そして、上記fの段落【0056】、及び【0057】の【表1】には、「配合4」として、FB201S(電気化学工業(株)製、充填用シリカ)を81重量%含ませること、また、軟化温度が75℃であり、軟化時の動的複素粘度が5×10^(5)Pa・sであることが記載されている。
また、上記fの段落【0052】には、動的複素粘度をARES粘弾性測定装置(TA)で測定することが記載されている。

したがって、配合4のゲル状エポキシ樹脂シートに着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を覆うように上記配線基板上に配置し加熱硬化させて、上記配線基板と上記機能素子との間を中空に保ちつつ、一括樹脂封止するゲル状硬化性樹脂シートにおいて、
充填用シリカとして、FB201S(電気化学工業(株)製)を81重量%含み、
軟化温度は75℃であって、
ARES粘弾性測定装置(TA)で測定した軟化時の動的複素粘度が5×10^(5)Pa・sである、
ゲル状硬化性樹脂シート。」


イ.引用文献2の記載事項
取消理由で通知した電気化学工業(株)の製品カタログである引用文献2には、シリカ「FB201S」に関して以下の事項が記載されている。

・4頁の上欄の表には、FB201Sは球状溶融シリカであって、比表面積(m^(2)/g)が3.1であること、および、Cilas920による粒径(μm)1、1.5、2、3、4、6、8、12、16、24、32、48、64、96、128、192における粒度分布(%)が、それぞれ5.7、9.3、12.7、19.6、26.6、37.2、43.2、48.3、51.7、61.8、71.0、85.6、94.4、99.8、100.0、100.0であることが記載されている。

・さらに、4頁の下欄のFB201SのCilas920による粒度分布をグラフにした図の縦軸には「累積重量%」と記載されており、Cilas920による粒度分布は累積の重量%を記載しているといえる。
そして、該グラフから、粒径5、7、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100μmにおける、粒度分布がそれぞれ32、41、45、46、57、70、80、86、93、94、96、98、100重量%であることが読み取れる。
また、FB201Sは球状シリカのみから構成され、重量%と体積%は一致するものである。

してみると、引用文献2には、以下の技術事項(以下、「引用文献2に記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「FB201Sは、球状シリカであって、比表面積(m^(2)/g)が3.1であり、以下の粒度分布を有する。

粒径(μm) 体積(体積%) 粒径(μm)体積(体積%)
1 5.7 20 57
2 12.7 30 70
3 19.6 40 80
4 26.6 50 86
5 32.0 60 93
6 37.2 70 94
7 41.0 80 96
8 43.2 90 98
9 45.0 100 100
10 46.0


(3)当審の判断
ア.理由1について(特許法第29条第1項第3号)

(ア)本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比すると以下のとおりである。

a.引用発明の「ゲル状硬化性樹脂シート」は、配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を、上記配線基板と上記機能素子との間を中空に保ちつつ、一括樹脂封止するものでるから、本件発明1の「中空封止用樹脂シート」に相当する。

b.引用発明の「FB201S」は、充填用シリカであるから、本件発明1の「無機充填剤」に相当する。
また、引用発明では「FB201S」を81重量%含むものである。
ここで、重量%と体積%の関係について樹脂シートに含まれる各成分の比重から検討する。
シリカの比重と、樹脂シートにおけるシリカ以外の他の成分全体の比重との比をRとする。

シリカの比重/他の成分全体の比重=R

本件特許の明細書の実施例1での無機充填剤(シリカ)の含有量は重量%で示すと88.0重量%であるので、他の成分の含有量は合計で12.0重量%となる。また、シリカの含有量を体積%で示すと80体積%であるので、下記の式(イ)からRの値を求めるとR=11/6となる。

シリカの体積の割合=(シリカの重量%/シリカの比重)/(シリカの重量%/シリカの比重+他の成分全体の重量%/他の成分全体の比重)
Rを使うと、
シリカの体積の割合=(シリカの重量%/R)/(シリカの重量%/R+他の成分全体の重量%) ・・・(イ)

0.8=(88/R)/(88/R+12)

次に、引用文献1でのシリカの比重及びシリカ以外の他の成分全体の比重が本件特許の実施例と同じである前提で、同様に引用文献1のシリカの体積%で示した含有量を求める。
まず、引用文献1の配合4ではシリカ(「FB201」)が800重量部含まれており、配合成分全体では989重量部であるので、上記式(イ)によれば

シリカの体積の割合=(800/989×100×R)/(800/989×100×R+189/989×100)

ここで、Rは11/6なので、

シリカの体積の割合=0.699

また、本件発明1において「無機充填剤」の値は「70体積%以上90体積%以下」と整数で記載されており、通常であれば、有効桁は1の位までであり、小数点以下の値は四捨五入されるものと認められるから、無機充填剤(シリカ)の体積%で示した含有量は「70体積%」となる。
してみると、引用発明における「FB201S」の81重量%を体積%で示した際には、70体積%となるものと認められる。
したがって、引用発明の「充填用シリカとして、FB201S(電気化学工業(株)製)を81重量%含」むことは、本件発明1の「無機充填剤を70体積%以上90体積%以下の含有量で含」むことに相当する。

但し、本件発明1では、「レーザー回折散乱法により測定した前記無機充填剤の粒度分布において、1μm以上10μm以下の粒径範囲に頻度分布のピークが少なくとも1つ存在し、かつ10μmを超えて100μm以下の粒径範囲に頻度分布のピークが少なくとも1つ存在し、前記無機充填剤のBET比表面積が2m^(2)/g以上5m^(2)/g以下である」のに対して、引用発明では、そのような特定がされていない点で相違する。

また、本件発明1では、「硬化前の80℃における動的粘度が5000Pa・s以上30000Pa・s以下である」のに対して、引用発明では、軟化温度が75℃であって、ARES粘弾性測定装置(TA)で測定した軟化時の動的複素粘度が5×10^(5)Pa・sである点で相違する。

そうすると、本件発明1と引用発明は、以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「無機充填剤を70体積%以上90体積%以下の含有量で含む、
中空封止用樹脂シート。」

(相違点1)
本件発明1では、「レーザー回折散乱法により測定した前記無機充填剤の粒度分布において、1μm以上10μm以下の粒径範囲に頻度分布のピークが少なくとも1つ存在し、かつ10μmを超えて100μm以下の粒径範囲に頻度分布のピークが少なくとも1つ存在し、前記無機充填剤のBET比表面積が2m^(2)/g以上5m^(2)/g以下である」のに対して、引用発明では、そのような特定がされていない点。

(相違点2)
本件発明1では、「硬化前の80℃における動的粘度が5000Pa・s以上30000Pa・s以下である」のに対して、引用発明では、軟化温度が75℃であって、ARES粘弾性測定装置(TA)で測定した軟化時の動的複素粘度が5×10^(5)Pa・sである点。

各相違点について検討する。
(相違点1)について
引用発明で用いられる電気化学工業(株)製のFB201Sに関して、引用文献2には、以下の技術事項が記載されている。

「FB201Sは、球状シリカであって、比表面積(m^(2)/g)が3.1であり、以下の粒度分布を有する。
粒径(μm) 体積(体積%) 粒径(μm)体積(体積%)
1 5.7 20 57
2 12.7 30 70
3 19.6 40 80
4 26.6 50 86
5 32.0 60 93
6 37.2 70 94
7 41.0 80 96
8 43.2 90 98
9 45.0 100 100
10 46.0 」

ここで、上記粒度分布は累積の体積%を表すのであるから、各粒径間で差をとることで各粒径間の頻度分布を求めると以下のようになる。

粒径(μm) 体積(体積%) 粒径(μm)体積(体積%)
0?1 5.7 10?20 11
1?2 7.0 20?30 13
2?3 6.9 30?40 10
3?4 7.0 40?50 6
4?5 5.4 50?60 7
5?6 5.2 60?70 1
6?7 3.8 70?80 2
7?8 2.2 80?90 2
8?9 1.8 90?100 2
9?10 1.0

してみると、FB201Sは、1μm以上10μm以下の2?4μmに頻度分布のピークが少なくとも1つ存在し、かつ10μmを超えて100μm以下の20?30μmに粒径範囲に頻度分布のピークが少なくとも1つ存在するといえる。
さらに、FB201Sの比表面積はBET比表面積とは特定されていないが2m^(2)/g以上5m^(2)/g以下の3.1m^(2)/gであって、範囲の下限・上限から十部に離れた値であるから測定法による誤差が存在するとしても、比表面積はBET比表面積で2m^(2)/g以上5m^(2)/g以下であると認められる。

したがって、引用発明に含まれるFB201Sは、レーザー回折散乱法により測定した前記無機充填剤の粒度分布において、1μm以上10μm以下の粒径範囲に頻度分布のピークが少なくとも1つ存在し、かつ10μmを超えて100μm以下の粒径範囲に頻度分布のピークが少なくとも1つ存在し、前記無機充填剤のBET比表面積が2m^(2)/g以上5m^(2)/g以下であることから、上記相違点1では本件発明1と引用発明とは実質的に相違するものではない。

(相違点2)について
引用発明は、軟化温度が75℃であって、ARES粘弾性測定装置(TA)で測定した軟化時の動的複素粘度が5×10^(5)Pa・sである。
そして、引用発明の「ゲル状硬化性樹脂シート」は、引用文献1の段落【0006】に記載されるように、熱ロールで加熱し流動(軟化)させた後、硬化温度に加熱して硬化させるものであるから、引用発明の軟化温度は硬化前の温度といえる。
また、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0087】には「(中空封止用樹脂シートの動的粘度の測定) 熱硬化前の中空封止用樹脂シートの80℃での動的粘度を測定した。動的粘度は、TAインスツルメント社製粘弾性測定装置ARESを用いて、パラレルプレート法により測定した値とした。・・・」と記載されており、引用発明と本件発明1では、同じ装置を使って粘度を測定していることから、引用発明の「動的複素粘度」と、本件特許発明1の「動的粘度」は同じ物性値と認められる。
してみると、引用発明では硬化前の75℃の動的粘度が5×10^(5)Pa・sであって、硬化前の80℃における動的粘度が5000Pa・s以上30000Pa・s以下ではない。
また、硬化前の80℃における動的粘度が5000Pa・s以上30000Pa・s以下とすることが自明であるとはいえない。

したがって、本件発明1は引用発明と相違点2において相違するものであることから、引用文献1に記載された発明ではない。

(イ)本件発明3ないし5について
本件発明3及び4は、本件発明1の発明特定事項を全て含むとともに、無機充填剤についてさらに限定したものであるから、本件発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明ではない。
本件発明5は、本件発明1の中空封止用樹脂シートを用いた中空パッケージの製造方法であるから、本件発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明ではない。


イ.理由2について(特許法第29条第2項)
(ア)本件発明1について
本件発明1と引用発明を対比すると、上記「ア.」の「(ア)本件発明1について」で記したように、上記相違点2で相違する。

そして、相違点2に関して、引用文献2には、硬化前の80℃における動的粘度に関する記載はされておらず、さらに、硬化前の80℃における動的粘度が5000Pa・s以上30000Pa・s以下とすることが周知技術であるとも認められない。
したがって、本件発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

(イ)本件発明3ないし5について
本件発明3及び4は、本件発明1の発明特定事項を全て含むとともに、無機充填剤についてさらに限定したものであるから、本件発明1と同じ理由により、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
本件発明5は、本件発明1の中空封止用樹脂シートを用いた中空パッケージの製造方法であるから、本件発明1と同じ理由により、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。


3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
ア.取消理由1
訂正前の請求項1-5に係る発明について、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証及び甲第3号証に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ.取消理由2
訂正前の請求項1-5に係る発明について、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証-甲第9号証に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証: 特開2006-19714号公報 (引用文献1)
甲第2号証: DENKA 溶融シリカ 製品カタログ Version7.1 電気化学工業株式会社 2002年10月1日発行 (引用文献2)
甲第3号証: 球状シリカ/球状アルミナ 製品カタログ Ver.9 電気化学工業株式会社 2010年5月12日発行
甲第4号証: 特開2012-46657号公報
甲第5号証: 特開2010-3897号公報
甲第6号証: 特開2011-219726号公報
甲第7号証: 特開平3-62845号公報
甲第8号証: 特開2004-231768号公報
甲第9号証: 「エポキシ成形材料の流動性に及ぼす球形充填剤の粒度分布の影響」 討論会講演要旨 合成樹脂工業協会編集・発行 1993年43巻 141-144頁(https://www.jstage.jst.go.jp/article/networkpolymer1951/43/0/43_141/_article/-char/ja/)

(2)各甲号証の記載
甲第1号証及び甲第2号証の記載事項に関しては、各々、上記「2.」の「(2)引用文献の記載」の「ア.引用文献1の記載事項」及び「イ.引用文献2の記載事項」の記載のとおりである。

ア.甲第3号証の記載事項
電気化学工業株式会社の球状シリカ/球状アルミナの製品カタログである甲第3号証には、以下の事項が記載されている。

a.6頁上欄の表にはタイトルとして「球状シリカ/汎用グレードFB 55μmカットタイプ」と記載され、該表の第7列には「FB-9454FC」の「Cilas920粒度分布(%)」による粒度分布と、比表面積(m^(2)/g)が記載され、1μm以下の粒子が6.5%、8μm以下の粒子が36.6%、12μm以下の粒子が42.5%、96μm以下の粒子が100%であること、比表面積(m^(2)/g)が3.4であることが記載されている。
また、6頁下欄には上欄の各製品のCilas920による粒度分布(%)をグラフにしたものが記載されているが、縦軸に「累積重量%」と記載されていることから、上欄の表における「Cilas920粒度分布(%)」は重量%で示しているものと認められる。

以上を総合すると、甲第3号証には、以下の技術事項(以下、「甲3記載の技術事項」という。)が開示されていると認められる。

「電気化学工業(株)社製のFB-9454FCは、球状シリカであって、Cilas920による粒度分布(%)が、1μm以下の粒子が6.5重量%、8μm以下の粒子が36.6重量%、12μm以下の粒子が42.5重量%、96μm以下の粒子が100重量%であり、比表面積(m^(2)/g)は3.4である。」

イ.甲第4号証及び甲第5号証の記載事項
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。

a.「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の半導体封止用エポキシ樹脂成形材料及び蓄熱性成形体等が提供される。
1.下記に示すポリアルファオレフィンの架橋体(A)、エポキシ樹脂(B)、及び無機充填材(C)を混練してなり、前記ポリアルファオレフィンの架橋体を0.2?5質量%含有する半導体封止用エポキシ樹脂成形材料。
ポリアルファオレフィンの架橋体(A):炭素数が16以上36以下であるαオレフィン単量体を少なくとも1種用いて重合して得た重合体に、スチレン類をグラフトして得られ、下記(a),(b)の条件を満たす架橋体。
(a)25℃で濃度15質量%にて2-ブタノンに分散させた場合、2-ブタノン不溶成分が70質量%以上である。
(b)示差走査型熱量計(DSC)を用いた融解挙動測定において、融点が30℃以上80℃以下であり、ピーク温度が一つだけ観測される。
・・・中略・・・
5.前記無機充填材(C)を80質量%以上含有する1に記載の半導体封止用エポキシ樹脂成形材料。
6.前記ポリアルファオレフィンの架橋体(A)を、他の成分に溶融状態で噴霧して添加する工程を有する1に記載の半導体封止用エポキシ樹脂成形材料の製造方法。
7.上記1?5のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂成形材料からなる封止層と、前記封止層の片面又は両面に保護フィルムを有する半導体封止用エポキシ樹脂シート部材。
・・・以下略・・・ 」
b.「【0029】
(C)無機充填材
無機充填材としては、シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、タルク、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレイ、チタンホワイト等の粉体、ガラス、カーボン等の短繊維が例示される。これらの中で熱膨張率と熱伝導率の点から、シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素粉体が好ましく、特にシリカ粉体が好ましい。本発明の半導体封止用エポキシ樹脂成形材料は流動性に優れるが、シリカ粉体を含有するものであると、流動性の向上効果が顕著に得られる。さらに、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂成形材料の流動性を考えるとその形状は球状、又は球形と不定形の混合物が好ましい。上記シリカ粉体としては、例えば、半導体封止材料用として市販されている製品より任意に選択できる。具体的には、龍森、電気化学工業又はマイクロン社製のシリカ粉体を挙げることができ、粗粒を除去した熔射型球状品が主に用いられている。
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂成形材料は(C)無機充填材を80?98質量%含有するものが好ましく、85?95質量%含有するものがより好ましい。特に、封止材料が、粒径50μm以下のシリカを85質量%以上含有する場合には、従来では封止材料の粘度が極めて高くなり半導体装置の樹脂封止が困難であったところ、本願発明において用いられる封止材料はポリアルファオレフィンの架橋体を含むため、流動性に優れるという顕著な効果が発現する。」

c.「【0090】
[半導体封止用エポキシ樹脂シート部材]
実施例2-1
封止材料基準で85.5質量%の球状シリカ粉体(FB9454FD、粒径≦45μm、電気化学工業株式会社製)、エポキシ樹脂(YX4000H、ジャパンエポキシレジン株式会社製)7質量%、エポキシ樹脂硬化剤(MEH7800、明和化成株式会社製)5質量%、エポキシ樹脂硬化促進剤(TPP、ケイアイ化成株式会社製)0.2質量%及び改質剤(S530、チッソ株式会社製)0.3質量%をヘンシェル型混合機に入れ、製造例7で得られたCPAO-50MS(融点50℃)2質量%を、粒径が15±5μmとなるように調整しつつ、溶融噴霧しながら攪拌混合し、封止材料を得た。
CPAO-50MSの粒径は、透明フィルムにCPAO-50MSを噴霧しフィルム上の液滴の粒径を計測したところ、25μm以下であった。
次に、混合物を押出機(SK1、株式会社栗本鐵工所製)で混錬した後、製造例4で得られたCPAO-40MS2を溶融塗布した保護フィルム(PET、75μm厚、東レ株式会社製)に挟み込み半導体封止用エポキシ樹脂シート部材を得た。CPAO-40MS2の溶融塗布時の厚みは、6±3μmになるように調整した。
この部材の片面の保護フィルムを剥した後、模擬半導体基板(チップサイズ 10mm×10mmの176pinLQFP、外形24mm×24mm×1.4mm)を圧着成形(金型温度150℃、硬化時間3分)により封止し、剥離性、充填性、金線変形、外観について、下記の方法で評価した。尚、剥離性、充填性、金線変形、外観評価に用いた模擬半導体部品は、片面銅箔基板に半導体を整列配置する擬似回路配線を加工し、半導体は搭載せずに半導体相当部と外部接続用端子部を金線で結線したものである。」

d.「【0111】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂成形材料は、半導体封止用トランスファー成形材料として用いた場合に成形性に優れており、特に、一括封止法において抜群の性能を発揮する。成形時の諸問題のため実用化が困難であった最先端半導体装置の樹脂封止を可能とする成形材料であり、既存の設備を使用して最先端の半導体装置を工業的に生産することを可能にする。
また、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂シート部材は、半導体封止用圧着成形用シート部材として用いた場合に成形性に優れており、特に、一括封止法において抜群の性能を発揮する。成形時の諸問題のため実用化が困難であった最先端半導体装置の樹脂封止を可能とするシート部材であり、既存の設備を使用して最先端の半導体装置を工業的に生産することを可能にする。
本発明の蓄熱性成形体は、温度調整機能を有するため、体の周囲に接触又は非接触して用いて、体温に対して温度調節するのに適する。
具体的には、スキーウェア、レインウェア、ウェットスーツ等のスポーツ衣料、防寒衣料、靴下、パンティストッキング、シャツ、背広等の一般衣料、中綿等の寝具、手袋、靴材、家具用、自動車用人工レザー、保温、保冷が要求される食品包装材、建材等に使用でき、特に、繊維製品、家具及び自動車用レザー製品等に好適に使用できる。」

また、甲第5号証には、以下の事項が記載されている。

e.「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような状況下で、半導体素子の圧着成形による樹脂封止において、成形時の不良発生(未充填、金線変形、ボイド発生、半導体移動等)が極めて少ない優れた半導体封止用エポキシ樹脂シート部材、特に、圧着成形一括封止法に最適な半導体封止用エポキシ樹脂シート部材及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、好ましくは溶融状態で噴霧添加された特定の融点と粒径を有する結晶性ポリアルファオレフィンと、エポキシ樹脂及び無機充填材を溶融混練してなる半導体封止用エポキシ樹脂シート部材により、上記課題を解決し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明は、
1.少なくとも(A)融点が30?90℃の結晶性ポリアルファオレフィンの粒径50μm以下の粉体及び/又は霧状体、(B)エポキシ樹脂、並びに(C)無機充填材を溶融混練してなり、かつ、該結晶性ポリアルファオレフィンを0.2?5質量%含有する封止材料からなる封止層を有する半導体封止用エポキシ樹脂シート部材であって、さらに、該封止層の片面又は両面に保護フィルムを有する半導体封止用エポキシ樹脂シート部材、
2.前記結晶性ポリアルファオレフィンが、融点の-15℃以内で融解を開始し+3℃以内で融解を終了するものである上記1に記載の半導体封止用エポキシ樹脂シート部材、
3.前記保護フィルムの封止層側に、融点が30?90℃の結晶性ポリアルファオレフィンを含む厚さ0.1?10μmの剥離層を有する上記1又は2に記載の半導体封止用エポキシ樹脂シート部材、及び
4.融点が30?90℃の結晶性ポリアルファオレフィンを溶融状態で噴霧して封止材料を製造する工程と、保護フィルムに融点が30?90℃の結晶性ポリアルファオレフィンを溶融状態で塗布又は噴霧して剥離層を形成する工程とを含むことを特徴とする上記1?3のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂シート部材の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂シート部材は、半導体素子の圧着成形による樹脂封止において、成形時の不良発生(未充填、金線変形、ボイド発生、半導体移動等)が極めて少ない、優れた半導体封止用エポキシ樹脂シート部材である。」

f.「【0020】
上記(C)無機充填材としては、シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、タルク、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレイ、チタンホワイト等の粉体、ガラス、カーボン等の短繊維が例示される。これらの中で熱膨張率と熱伝導率の点から、シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素粉体が好ましく、特にシリカ粉体が好ましい。本発明の半導体封止用エポキシ樹脂シート部材に用いられる封止材料は流動性に優れるが、シリカ粉体を含有するものであると、流動性の向上効果が顕著に得られる。さらに、上記封止材料の流動性を考えるとその形状は球状、又は球形と不定形の混合物が好ましい。上記シリカとしては、例えば、半導体封止材料用として市販されている製品より任意に選択できる。具体的には、龍森、電気化学工業又はマイクロン社製のシリカ粉体を挙げることができ、粗粒を除去した熔射型球状品が主に用いられている。
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂シート部材に用いられる封止材料は(C)無機充填材を80?98質量%含有するものが好ましく、85?95質量%含有するものがより好ましい。特に、封止材料が、粒径50μm以下のシリカを85質量%以上含有する場合には、従来では封止材料の粘度が極めて高くなり半導体装置の樹脂封止が困難であったところ、本願発明において用いられる封止材料は結晶性ポリアルファオレフィンを含むため、流動性に優れるという顕著な効果が発現する。」

g.「【0037】
実施例1
封止材料基準で85.5質量%の球状シリカ粉体(FB9454FD、粒径≦45μm、電気化学工業株式会社製)、エポキシ樹脂(YX4000H、ジャパンエポキシレジン株式会社製)7質量%、エポキシ樹脂硬化剤(MEH7800、明和化成株式会社製)5質量%、エポキシ樹脂硬化促進剤(TPP、ケイアイ化成株式会社製)0.2質量%および改質剤(S530、チッソ株式会社製)0.3質量%をヘンシェル型混合機に入れ、製造例4で得られたCPAO-50(融点52℃)2質量%を、粒径が15±5μmとなるように調整しつつ、溶融噴霧しながら攪拌混合し、封止材料を得た。CPAO-50の粒径は、透明フィルムにCPAO-50を噴霧しフィルム上の液滴の粒径を計測したところ、25μm以下であった。つぎに、混合物を押出機(SK1、株式会社栗本鐵工所製)で混錬した後、製造例5で得られたCPAO-40を溶融塗布した保護フィルム(PET、75μm厚、東レ株式会社製)に挟み込み半導体封止用エポキシ樹脂シート部材を得た。CPAO-40の溶融塗布時の厚みは、6±3μmになるように調整した。この部材の片面の保護フィルムを剥した後、模擬半導体基板(チップサイズ 10mm×10mmの176pinLQFP、外形24mm×24mm×1.4mm)を圧着成形(金型温度150℃、硬化時間3分)により封止し、剥離性、充填性、金線変形、外観について、下記の方法で評価した。なお、剥離性、充填性、金線変形、外観評価に用いた模擬半導体部品は、片面銅箔基板に半導体を整列配置する擬似回路配線を加工し、半導体は搭載せずに半導体相当部と外部接続用端子部を金線で結線したものである。」

上記甲第4、5号証の記載及び図面、並びに技術常識を考慮すると、甲第4ないし5号証には、以下の技術事項(以下、「甲4、5記載の技術事項」という。)が開示されていると認められる。

「半導体封止用エポキシ樹脂シート部材に封止材料基準で85.5質量%含まれる球状シリカ粉体としてFB9454FD(粒径≦45μm、電気化学工業株式会社製)を用いること。」

ウ.甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。

a.「【0011】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、中空型デバイスの封止を確実、容易に、歩留まりよく行うことができ、耐吸湿リフロー性に優れ、さらに外観が良好な封止が行える、封止用エポキシ樹脂組成物シート及びこれを用いて封止した中空型デバイスを提供することを課題とする。【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0013】
即ち、本発明の封止用エポキシ樹脂組成物シートは、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、無機充填材を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、無機充填材の配合量が全エポキシ樹脂組成物中の70?90質量%であり、かつ平均粒子径が0.2?10μmである封止用エポキシ樹脂組成物を、半硬化状態のシート状樹脂層(A層)に成形したことを特徴とする。」

b.「【0029】
本発明で用いられる必須成分としての無機充填材としては、一般にエポキシ樹脂組成物に用いられるものであれば特に限定することなく用いることができる。例えば、溶融シリカ、球状シリカ、破砕シリカ、結晶シリカ、球状アルミナ、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等を挙げることができる。また、これらの他に、高誘電率性チタン酸バリウムや、酸化チタンのような高誘電率フィラーや、ハードフェライトのような磁性フィラー、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、グアニジン塩、ホウ酸亜鉛、モリブデン化合物、スズ酸亜鉛等の無機系難燃剤や、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、雲母粉等を用いることができる。そして、これらの無機充填材は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。」

c.「【0062】
これらの流動性は、シート状樹脂層(A層)、シート状樹脂層(B層)の配合成分の種類や配合割合を変えることにより調整することが可能である。例えば、無機充填材の種類や、配合割合、平均粒子径を変えたり、シート状樹脂層(A層)に配合されるエラストマー成分の重量平均分子量や配合量を変えることにより調整することができる。」

以上を総合すると、甲第6号証には、以下の技術事項(以下、「甲6記載の技術事項」という。)が開示されていると認められる。

「中空型デバイスの封止用エポキシ樹脂組成物シートの流動性は、無機充填材の種類や、配合割合、平均粒子径を変えたりすることで調整できること。」

エ.甲第7号証の記載事項
甲第7号証には、以下の事項が記載されている。

a.「 また前記無機充填剤の比表面積は、0.1?15m^(2)/g好ましくは0.5?10m^(2)/gである。比表面積が、0.1m^(2)/g未満であると充填剤の充填構造が悪くなり、成形性特にバリ性が悪化する。また15m^(2)/gを越えると、組成物の溶融時の流動性が低下してしまい問題を生ずる。」(公報3頁右上欄7-12行)

したがって、甲第7号証には、以下の技術事項(以下、「甲7記載の技術事項」という。)が開示されていると認められる。

「無機充填剤の比表面積は、0.1?15m^(2)/g好ましくは0.5?10m^(2)/gであること。」

オ.甲第8号証の記載事項
甲第8号証には、以下の事項が記載されている。
a.「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は高せん断力下で高粘性となり、低せん断力下で低粘性となるダイラタンシー性を示す液体に関する。このような液体は2個の近接して相対移動する物体間に配置され、高いずり速度のもとでは高いトルクを伝達し、低いずり速度のもとでは低いトルクを伝達するクラッチや防振装置などの作動液体として有用である。
【0002】
【従来の技術】
従来、微細粒子を分散した液体においては、せん断力を加えると、低いせん断力下では低い粘性を示すが、加えるせん断力を増加させると、急激に高い粘性を示す現象、即ち、ダイラタンシー性を示すことが知られている。このダイラタンシー性は、粒子のパックキング状態が急激な外力により、一時的に変化することから起こる現象である。いま簡単のために、同じ大きさの球形粒子の集合を考えると、最密パックキングでは空隙率は26%である。
【0003】
この状態では、粒子間の空間を埋めるに足りるだけの液体を吸収すれば球形粒子の集合体は静かに流動することができる。しかし、いま、これに急激に強い外力が加えられると、球形粒子の集合は疎なパックキング状態に移行する。例えば、最疎パックキングでは、空隙率は48%であるから、その増大した空間に、上記液体が全部内部に吸い込まれてもまだ足りず、液体に浸されないで、擦れ合う粒子ができる。
【0004】
ダイラタンシー性において、表面の液体が内部に吸い込まれて、体積が膨張し、流動性が失われて、脆い固体のような挙動をするのはこのためである。例を挙げれば、海岸の濡れた砂地を足で踏むと、砂粒の間隙が広がり、海水が砂の中へ吸い込まれて、砂地は乾いて見え、固くなる現象がこれであり、また、無機物の結晶沈澱を吸引濾過するときにもダイラタンシー現象が観察される。」

b.「【0011】
本発明を構成する(A)成分としての無機微粒子は一次粒子径が2nm?30μmであり、より好ましくは2?50nmである。
粒径が大きすぎると粒子の分散が不安定となり、沈降してしまい、分散媒体と分離してしまう。粒径が小さすぎるとゾル状態下での粘度が増加し、ダイラタンシー性を示さなくなるので好ましくない。
【0012】
本発明における無機微粒子の表面状態は凹凸が少なく平滑であり、より球状に近いほど好ましい。本発明における無機微粒子としては、シリカ、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、マイカ、カオリン、セリサイト、白雲母、合成雲母、金雲母、紅雲母、黒雲母、リチア雲母、ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸ストロンチウム、タングステン酸金属塩、ヒドロキシアパタイト、バーミキュライト、ハイジライト、ベントナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、ゼオライト、セラミックスパウダー、第二リン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ボロン等が挙げられるが、更に好ましくはシリカである。」

したがって、甲第8号証には、以下の技術事項(以下、「甲8記載の技術事項」という。)が開示されていると認められる。

「微細粒子を分散した液体においては、せん断力を加えると、低いせん断力下では低い粘性を示すが、加えるせん断力を増加させると、急激に高い粘性を示す現象、即ち、ダイラタンシー性を示すこと。」


カ.甲第9号証の記載事項
甲第8号証には、以下の事項が記載されている。

a.「1.緒言
充填剤を配合したエポキシ成形材料は、成形性や機械的強度に優れているため工業的に広く利用されている。特に樹脂封止型半導体では、素子の高信頼性化のため、熱膨張率の低い充填剤を配合し成形材料の熱膨張率を小さくすることが重要となっている。
エポキシ成形材料の低熱膨張化は、充填剤の配合量を大きくすることにより可能であるが、成形時の粘度上昇が問題となる。成形材料の流動性は、エポキシ樹脂の粘度と充填剤の粒子形状や粒径の分布が影響しているものと考えられる。
本研究では、エポキシ成形材料の低粘度化を目的に、流動性に及ぼす球形充填剤の粒度分布の影響を検討した。」(141頁)

b.「3.結果と考察
3.1 フィラの最大充填分布率φmの計算
フィラを充填した混濁液の流動性に関しては、様々な粘度式が提案されている。この中でMooneyの粘度式(7)は、実験値と良く再現することがしられている。
ln(η/η_(1))=Kφ/(1-φ/φ_(m))
η:viscosity of molding compounds
η_(1):viscosity of resins
φ:volume fraction of filler
φ_(m):maximum packing fraction of filler
K:Einstein facter
フィラに注目し低粘度化を考えると、Kを小さくすること、最大充填分率φ_(m)を大きくするが有効である。K値はフィラの形状や表面状態に関係した量で、表面が滑らかな球形フィラを用いることにより小さくできるものと考えられる。φ_(m)はフィラを理想的に充填したときの体積分布率を表し、例えばフィラが単一粒径のときφ_(m)は六方最密充填時に0.74となり、理論的にはフィラを74%まで配合することができる。一方、フィラに粒度分布がある場合、単一粒径の場合よりφ_(m)は大きくなるため、74vol%以上の高充填と、(7)式による低粘度が可能となるものと予想される。」(142-143頁)

c.Fig.3によれば、Filler B(21.98μm)、Filler C(8.68μm)、Filler G(0.68μm)を含み、かつFiller Cが30%以上、Filler Gが10%?20%の場合はφ_(m)が88%もしくは90%となることが記載されている。

以上を総合すると、甲第9号証には、以下の技術事項(以下、「甲9記載の技術事項」という。)が開示されていると認められる。

「Filler B(21.98μm)、Filler C(8.68μm)、Filler G(0.68μm)を含み、かつFiller Cが30%以上、Filler Gが10%?20%の場合は最大充填分率φ_(m)が88%もしくは90%となり、低粘度のエポキシ成形材料を実現できること。」


(3)当審の判断
取消理由1、2について
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲第1号証に記載された発明(引用発明)を対比すると、上記「2.」の「(3)」の「ア.」の「(ア)本件発明1について」で記したように、上記相違点2で相違する。

そして、相違点2に関して、甲第2号証ないし甲第9号証には、硬化前の80℃における動的粘度に関する記載はされておらず、さらに、硬化前の80℃における動的粘度が5000Pa・s以上30000Pa・s以下とすることが周知技術であるとも認められない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証及び甲第3号証に基づいて当業者が容易に発明することができたものではなく、また、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証ないし甲第9号証に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、「硬化前の80℃における動的粘度が5000Pa・s以上30000Pa・s以下である」ことに関して、甲第1号証の段落【0037】には、「・・・、硬化時の溶融粘度が10?10^(5)Pa・s、さらには10^(3)?10^(4)Pa・sであることが、熱ロールすることにより、封止樹脂層形成前のデバイスに弾性表面波電極面と配線パターンが形成された面とがバンプの高さのぶん隔てられた部分が中空構造を保つように封止樹脂層を形成するうえで好ましい。また、軟化温度は、50℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上である。」と記載され、ここで、溶融粘度とは熱ロール時の温度を意図しており、そして、段落【0054】に「・・・。実施例、比較例とも、熱ロールは、上ロール(100℃、ゴムロール)、下ロール(25℃、金属ロール)の間を0.77mmに設定し、0.3m/分の速度で行った。・・・」と記載されているから、熱ロール時の温度は、概ね「硬化前の80℃」に対応する温度になると考えられ、このときの溶融粘度は、10?10^(5)Pa・s、さらには10^(3)?10^(4)Pa・sであり、「動的粘度が5000Pa・s以上30000Pa・s以下」であることと重複している旨を主張している。(特許異議申立書38頁19行-39頁22行)

しかしながら、通常、「硬化時」とは、既に硬化した状態を指すものであって硬化前とはいえないし、また、「溶融粘度」が「動的粘度」と同じ物性値を指しているかも不明であるから、甲第1号証における「硬化時の溶融粘度」が、本件発明の「硬化前」の「動的粘度」に相当するとはいえない。
また、仮に、相当するものであって、甲第1号証における「溶融粘度」が熱ロール時の温度を意図するとしても、樹脂シートの熱ロール時の温度は、甲第1号証に段落【0046】に「上記熱ロールとして上下2本ロールを使用する場合は、熱ロールは、樹脂に接する高温の第一のロールと、配線基板に接する低温の第二のロールとから構成されることが好ましい。上記高温の熱ロールは、封止樹脂の軟化点以上で硬化温度未満に設定し、上記低温のロールは、封止樹脂の軟化点未満、例えば、室温(25℃)に設定する。こうすると、封止樹脂の表面側がより高温になり、流動性が高まり成形性が向上するとともに、配線基板側で低温になり、樹脂の流動性が低くなりチップ下への流入を一層抑えることができる。」と記載されるように、樹脂シートの表面側から配線基板側に向けて温度が変化するものである。
してみると、上ロールを100℃、下ロールが25℃の際には、熱ロール時の樹脂シートの温度は配線基板側から表面側に向けて25?100度の範囲のとなるものであり、この温度範囲の溶融粘度が10?10^(5)Pa・s、さらには10^(3)?10^(4)Pa・sであるということはできても、熱ロール時の温度が概ね「硬化前の80℃」であって、この80℃のときの溶融粘度は、10?10^(5)Pa・s、さらには10^(3)?10^(4)Pa・sであるとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

(イ)本件発明3ないし5について
本件発明3及び4は、本件発明1の発明特定事項を全て含むとともに、無機充填剤についてさらに限定したものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証及び甲第3号証に基づいて当業者が容易に発明することができたものではなく、また、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証ないし甲第9号証に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
本件発明5は、本件発明1の中空封止用樹脂シートを用いた中空パッケージの製造方法であるから、本件発明1と同じ理由により、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証及び甲第3号証に基づいて当業者が容易に発明することができたものではなく、また、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証ないし甲第9号証に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。


第4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立ての理由によっては、本件請求項1、3ないし5に係る特許を取り消すことはできない。また、他に取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項2は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項2に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないから却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機充填剤を70体積%以上90体積%以下の含有量で含み、
レーザー回折散乱法により測定した前記無機充填剤の粒度分布において、1μm以上10μm以下の粒径範囲に頻度分布のピークが少なくとも1つ存在し、かつ10μmを超えて100μm以下の粒径範囲に頻度分布のピークが少なくとも1つ存在し、
前記無機充填剤のBET比表面積が2m^(2)/g以上5m^(2)/g以下であり、
硬化前の80℃における動的粘度が5000Pa・s以上30000Pa・s以下である中空封止用樹脂シート。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記無機充填剤がシリカ粒子、アルミナ粒子又はこれらの混合物である請求項1に記載の中空封止用樹脂シート。
【請求項4】
前記無機充填剤が球状である請求項1又は3に記載の中空封止用樹脂シート。
【請求項5】
被着体上に配置された1又は複数の電子デバイスを覆うように請求項1、3又は4に記載の中空封止用樹脂シートを前記電子デバイス上に前記被着体と前記電子デバイスとの間の中空部を維持しながら積層する積層工程、及び
前記中空封止用樹脂シートを硬化させて封止体を形成する封止体形成工程
を含む中空パッケージの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-06-05 
出願番号 特願2014-22306(P2014-22306)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 豊島 洋介  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 山澤 宏
井上 信一
登録日 2018-03-09 
登録番号 特許第6302693号(P6302693)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 中空封止用樹脂シート及び中空パッケージの製造方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  
代理人 特許業務法人ユニアス国際特許事務所  

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