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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G02B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G02B |
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管理番号 | 1354108 |
異議申立番号 | 異議2018-700509 |
総通号数 | 237 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-09-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-06-20 |
確定日 | 2019-07-29 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6249616号発明「レーザ顕微鏡」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6249616号の請求項1?請求項15に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 特許第6249616号の請求項1?請求項15に係る特許についての出願は,平成25年3月19日(優先権主張 平成24年3月23日)に出願され,平成29年12月1日にその特許権の設定の登録がされたものである(以下,請求項1?請求項15に係る特許を,それぞれ「本件特許1」?「本件特許15」といい,総称して「本件特許」という。)。 本件特許について,平成29年12月20日に特許掲載公報が発行されたところ,その発行の日から6月以内である平成30年6月20日に,特許異議申立人 カール ツァイス マイクロスコピー ゲーエムベーハー(以下「特許異議申立人」という。)から,本件特許に対して特許異議の申立てがされた。 その後の手続等の経緯は以下のとおりである。 平成30年11月20日付け:取消理由通知書 平成31年 1月21日付け:意見書(特許権者) 平成31年 4月 3日付け:(特許異議申立人に対し)審尋 令和 元年 7月 3日付け:回答書(特許異議申立人) 2 本件特許発明 本件特許の請求項1?請求項15に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明15」という。)は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1?請求項15に記載された事項によって特定されるとおりの,以下のものである。 「【請求項1】 レーザ光源から発せられたレーザ光を標本に照射する対物レンズと, 該対物レンズの瞳位置と光学的に共役な位置に配置されて前記レーザ光源により発せられたレーザ光の位相を変調する位相変調型空間光変調器を有する刺激光学系と, 前記レーザ光源により発せられたレーザ光を前記標本上で観察用照明光として走査させる走査部と前記対物レンズにより集光された前記標本からの観察光を検出する検出部とを有する観察光学系と, 該観察光学系が光軸方向に異なる観察面の観察画像を取得することにより前記標本の3次元的な画像を構築する画像構築部と, 該画像構築部により構築された3次元的な画像上において,前記刺激光学系により前記レーザ光を刺激光として照射する前記標本の刺激箇所を光軸方向に異なる複数個所に設定する位置設定部と, 前記刺激光学系により照射する前記レーザ光の強度を,前記位置設定部により設定された複数の刺激箇所のそれぞれに対して設定可能な強度設定部とを備え, 前記位置設定部により設定された各刺激箇所に前記レーザ光が照射されるように前記空間光変調器が前記レーザ光の変調動作を行い, 前記強度設定部が,前記レーザ光が照射される照射位置の深さに関わらず一定の強度で前記標本を刺激するように,前記レーザ光の強度を調節するレーザ顕微鏡。 【請求項2】 前記刺激光学系により照射される前記レーザ光の前記標本における照射パターンを前記位置設定部に設定される所期の照射パターンに略一致させるように,前記空間光変調器による前記レーザ光の位相の変調を制御する相関補正部を備える請求項1に記載のレーザ顕微鏡。 【請求項3】 レーザ光源から発せられたレーザ光を標本に照射する対物レンズと, 該対物レンズの瞳位置と光学的に共役な位置に配置されて前記レーザ光源により発せられたレーザ光の位相を変調する位相変調型空間光変調器を有する刺激光学系と, 前記レーザ光源により発せられたレーザ光を前記標本上で観察用照明光として走査させる走査部と前記対物レンズにより集光された前記標本からの観察光を検出する検出部とを有する観察光学系と, 該観察光学系が光軸方向に異なる観察面の観察画像を取得することにより前記標本の3次元的な画像を構築する画像構築部と, 該画像構築部により構築された3次元的な画像上において,前記刺激光学系により前記レーザ光を刺激光として照射する前記標本の刺激箇所を光軸方向に異なる複数個所に設定する位置設定部と, 前記刺激光学系により照射される前記レーザ光の前記標本における照射パターンを前記位置設定部に設定される所期の照射パターンに略一致させるように,前記空間光変調器による前記レーザ光の位相の変調を制御する相関補正部と, 前記刺激箇所ごとに刺激する強度と時間をユーザに入力させる入力部と, 前記刺激光学系により照射する前記レーザ光の強度を,前記位置設定部により設定された複数の刺激箇所のそれぞれに対して設定可能な強度設定部とを備え, 前記位置設定部により設定された各刺激箇所に前記レーザ光が照射されるように前記空間光変調器が前記レーザ光の変調動作を行い, 各前記刺激箇所に対して前記入力部により入力された前記強度と前記時間で前記レーザ光が照射されるように,前記刺激箇所ごとに入力された前記強度と前記時間に応じて,前記強度設定部が前記レーザ光源の出力を制御するとともに前記相関補正部により前記空間光変調器による前記レーザ光の位相の変調を制御するレーザ顕微鏡。 【請求項4】 前記観察光学系またはこれと別に設けられた標本画像取得部が,前記空間光変調器により生成される規定の照射パターンで前記レーザ光が照射された前記標本の観察画像を取得し, 前記相関補正部が,前記標本へ照射した規定の照射パターンと前記取得された観察画像における前記照射パターンとの差分を相殺するように,前記空間光変調器による前記レーザ光の位相の変調を制御する請求項2または請求項3に記載のレーザ顕微鏡。 【請求項5】 前記相関補正部が,前記刺激光学系により照射するレーザ光の前記標本における深さ位置と前記観察光学系によりレーザ光が照射されて取得された前記標本の前記3次元的な画像上の深さ位置とを対応付ける請求項2から請求項4のいずれかに記載のレーザ顕微鏡。 【請求項6】 前記相関補正部が,前記レーザ光の波長ごとに,前記刺激光学系により照射される前記標本における深さ位置と前記観察光学系によりレーザ光が照射されて得られる前記標本の前記3次元的な画像上の深さ位置とを対応付ける相関テーブルを有し,該相関テーブルに基づいて前記レーザ光の波長ごとに前記空間光変調器による位相の変調を制御する請求項2から請求項5のいずれかに記載のレーザ顕微鏡。 【請求項7】 前記対物レンズ,該対物レンズと前記空間光変調器との間に配置される光学系の収差,および/または,前記標本の屈折率ミスマッチによる影響を補正するように,前記空間光変調器による前記レーザ光の位相の変調を制御する収差補正部を備える請求項1から請求項6のいずれかに記載のレーザ顕微鏡。 【請求項8】 前記空間光変調器が配置される前記刺激光学系の刺激光路と前記走査部が配置される前記観察光学系の観察光路とが別個に設けられ, これらの刺激光路と観察光路とを合成して,前記刺激光学系のレーザ光と前記観察光学系のレーザ光とを共通の前記対物レンズに入射させる光路合成部を備える請求項1から請求項7のいずれかに記載のレーザ顕微鏡。 【請求項9】 前記対物レンズにより集光された前記標本からの観察光を撮影して該標本の2次元画像を取得する標本画像取得部を備える請求項1から請求項8のいずれかに記載のレーザ顕微鏡。 【請求項10】 前記強度設定部が,前記標本において照射された前記レーザ光が減光する減光関数を記憶する記憶部と,該記憶部に記憶されている前記減光関数に基づいて前記レーザ光源の出力を調節する出力調節部とを備える請求項1に記載のレーザ顕微鏡。 【請求項11】 前記強度設定部が,前記標本の深さに対する前記レーザ光の散乱率および吸収率に関するテーブルを記憶する記憶部と,該記憶部に記憶されている前記テーブルに基づいて前記レーザ光源の出力を調節する出力調節部とを備える請求項1に記載のレーザ顕微鏡。 【請求項12】 前記レーザ光源が赤外パルスレーザである請求項1から請求項11のいずれかに記載のレーザ顕微鏡。 【請求項13】 レーザ光源から発せられたレーザ光を標本に照射する対物レンズと, 該対物レンズの瞳位置と光学的に共役な位置に配置されて前記レーザ光源により発せられたレーザ光の位相を変調する位相変調型空間光変調器が配置された刺激光路を有する刺激光学系と, 前記レーザ光源により発せられたレーザ光を前記標本上で観察用照明光として走査させる走査部が配置された観察光路と前記対物レンズにより集光された前記標本からの観察光を共焦点ピンホールを介して検出する検出部とを有する観察光学系と, 前記刺激光路と前記観察光路とを合成して,前記刺激光学系のレーザ光と前記観察光学系のレーザ光とを共通の前記対物レンズに入射させる光路合成部と, 該観察光学系が光軸方向に異なる観察面の観察画像を取得することにより前記標本の3次元的な画像を構築する画像構築部と, 該画像構築部により構築された3次元的な画像上において,前記刺激光学系により前記レーザ光を刺激光として照射する前記標本の刺激箇所を光軸方向に異なる複数個所に設定する位置設定部と, 前記刺激光学系により照射される前記レーザ光の前記標本における照射パターンを前記位置設定部に設定される所期の照射パターンに略一致させるように,前記空間光変調器による前記レーザ光の位相の変調を制御する相関補正部とを備え, 前記位置設定部により設定された各刺激箇所に前記レーザ光が照射されるように前記空間光変調器が前記レーザ光の変調動作を行い, 前記空間光変調器により生成される規定の照射パターンで前記レーザ光が照射された前記標本からの光を,前記観察光学系が前記走査部を作動させて前記検出部により前記共焦点ピンホールを介して検出することにより,前記規定の照射パターンが照射された標本の観察画像を取得し, 前記相関補正部が,前記標本へ照射した規定の照射パターンと前記取得された観察画像における前記照射パターンとの差分を相殺するように,前記空間光変調器による前記レーザ光の位相の変調を制御するレーザ顕微鏡。 【請求項14】 前記刺激光学系が,前記レーザ光を前記標本上で刺激光として走査させる刺激光走査部を前記刺激光路上に備える請求項13に記載のレーザ顕微鏡。 【請求項15】 観察用照明光としての前記レーザ光を出力する第1のレーザ光源と, 刺激光としての前記レーザ光を出力する第2のレーザ光源とを備える請求項1から請求項14のいずれかに記載のレーザ顕微鏡。」 3 取消しの理由の概要 平成30年11月20日付け取消理由通知書において通知した取消しの理由は,概略,本件特許発明1?5及び9?12は,本件特許の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲6に記載された発明,並びに,甲2,甲7及び甲8に記載された技術に基づいて,本件優先日前にその発明の属する技術の分野の通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許1?5及び9?12は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである,というものである。 甲2:F Helmchen 他1名,「Deep tissue two-photon microscopy」,NATURE METHODS,Nature Publishing Group,2005年12月,VOL.2 NO.12,932?940頁 甲6:特開2011-128572号公報 甲7:特開2011-99986号公報 甲8:特開2011-64892号公報 4 特許異議申立人が提出した証拠 特許異議申立人は,前記3で述べた証拠に加えて,以下の証拠も提出している。 甲1:V Nikolenko 他5名,「SLM microscopy: scanless two-photon imaging and photostimulation with spatial light modulators」,Frontiers in Neural Circuits,Frontiers,2008年12月19日,Volume 2 Article 5,1?14頁 甲3:独国特許出願公開第102004034998号明細書 甲4:米国特許出願公開第2006/0012874号明細書 甲5:M D Maschio 他5名,「Simultaneous two-photon imaging and photo-stimulation with structured light illumination」,OPTICS EXPRESS,OSA Publishing,2010年8月30日,Vol.18 No.18,18720?18731頁 甲9:特表2012-503798号公報 甲10:国際公開第2010/036972号 第2 取消しの理由についての判断 1 甲号証の記載及び甲号証記載の発明 (1) 甲6の記載 取消しの理由において引用され,本件優先日前に頒布された刊行物である甲6には,以下の事項が記載されている。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は,ホログラム像投影方法およびホログラム像投影装置に関するものである。 【背景技術】 【0002】 従来,標本上の複数箇所に同時に光を照射するために,ホログラムを利用することが知られている(例えば,非特許文献1参照。)。 この方法においては,蛍光顕微鏡等によって標本の蛍光画像を取得し,取得した蛍光画像内において光刺激等をすべき複数の注目部位を特定することにより刺激光の照射パターンを生成し,当該照射パターンをフーリエ変換することによりホログラムの位相パターンを作成することとしている。そして,作成した位相パターンを波面変調素子に付与し,この波面変調素子に対して光源から導いてきた略平行光からなるレーザ光を入射させることにより,レーザ光を変調し,変調されたレーザ光を対物レンズによって集光している。このようにして,ホログラム像を標本に投影し,複数箇所同時に刺激光を集光させるようになっている。 【先行技術文献】 【非特許文献】 【0003】 【非特許文献1】Volodymyr Nikolenko et al, "SLM microscopy: scanless two-photon imaging and photostimulation with spatial light modulators", Frontiers in Neural Circuits, Vol 2, Article 5, 19 December 2008,p1-15」 イ 「【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかしながら,従来の方法においては,対物レンズの焦点面に存在する複数の注目部位に対しては同時に光を集光させることができるものの,焦点面から光軸方向にずれた位置に配置されている注目部位には集光させることができないという不都合がある。 【0005】 本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって,標本内の深さ方向に異なる位置に配置されている注目部位に同時に光を集光させることができるホログラム像投影方法およびホログラム像投影装置を提供することを目的としている。 …(省略)… 【発明を実施するための形態】 【0022】 本発明の第1の実施形態に係るホログラム像投影装置およびホログラム像投影方法について,図1および図2を参照して以下に説明する。 本実施形態に係るホログラム像投影装置1は,顕微鏡システムであって,図1に示されるように,レーザ光を発生する光源装置2と,該光源装置2から入射されたレーザ光を標本Aに照射する顕微鏡装置3と,光源装置2から顕微鏡装置3に入射させるレーザ光の波面を調節する調節装置4とを備えている。」 (当合議体注:図1は以下の図である。) ウ 「【0023】 光源装置2は,レーザ光を発生するレーザ光源5と,該レーザ光源5から発せられたレーザ光をコリメート光に変換するコリメータレンズ6と,コリメート光からなるレーザ光の波面を変調する波面変調部7と,リレーレンズ8,10と,レーザ光を走査するスキャナ9とを備えている。 波面変調部7は,レーザ光を反射するプリズム11と,該プリズム11により反射されたレーザ光を反射し,その際に,位相パターンによりレーザ光の波面を変調してプリズム11に戻す反射型の波面変調素子12とを備えている。 【0024】 プリズム11により反射されたレーザ光は波面変調素子12によって同じプリズム11に戻るように光路が折り返され,レーザ光源5からのレーザ光と同軸の光路に戻されるようになっている。 波面変調素子12は,後述する調節装置4によって,その表面形状を任意に変化させることができるセグメントタイプのMEMSミラーによって構成されている。この場合,MEMSミラーの各セグメントの凹凸により形成される表面形状が,レーザ光の波面を変調するための位相パターンとなる。波面変調素子12と対物レンズ13の入射瞳位置とは,光学的に共役な位置関係に配置されている。 【0025】 スキャナ9は,相互に交差する方向に配置された軸線回りに揺動可能な2枚のガルバノミラー9a,9bを近接して配置した,いわゆる近接ガルバノミラーであり,入射されるレーザ光を2次元的に走査することができるようになっている。 【0026】 顕微鏡装置3は,ステージ14上に配置した標本Aに対し,レーザ光を集光させる一方,標本Aからの光を受光する対物レンズ13と,該対物レンズ13により受光された光を検出する光電子増倍管からなる光検出器15と,標本Aにおける蛍光像を撮影するCCD等のカメラ16と,光検出器15またはカメラ16への光路を切り替えるように光路に挿脱されるミラー17とを備えている。符号18?20は集光レンズ,符号21はダイクロイックミラーである。対物レンズ13は,既知の全系に係る特性データを有し,ステージ14との間の光軸方向の距離を変更可能に設けられている。ここで,対物レンズ13の全系の特性データとしては,対物レンズ13の全系の焦点距離,開口数,入射瞳の径等がある。 【0027】 波面変調素子12における表面形状を平坦な反射面形状に設定しておくことにより,平面波からなる波面を有するレーザ光を対物レンズ13の入射瞳位置に入射させることができる。これによって,該対物レンズ13の焦点面にレーザ光を集光させることができるようになっている。 ミラー17を光検出器15側(破線で示す光路から取り外された位置)に切り替えた状態で,レーザ光源5からレーザ光を出射させ,スキャナ9を駆動して,標本A内の焦点面に集光しているレーザ光を2次元的に走査させつつ,各集光位置において発生した蛍光を光検出器15によって検出することにより,対物レンズ13の焦点面に沿って広がる標本Aの2次元的な蛍光像を取得することができるようになっている。 【0028】 そして,対物レンズ13とステージ14との距離を相対的に移動させて,対物レンズ13の焦点面の位置を変化させながら2次元的な蛍光像(スライス画像)を複数取得していくことにより,標本Aの3次元的な蛍光像を取得することができるようになっている。 【0029】 調節装置4は,図1に示されるように,対物レンズ13の全系の特性データおよび標本Aの屈折率を記憶する記憶部22と,標本Aにおけるレーザ光の集光点の3次元位置情報を設定する入力部(位置情報設定部)23と,入力部23により設定された各集光点の位置情報,記憶部22に記憶されている対物レンズ13の全系の特性データおよび標本Aの屈折率に基づいて各集光点に対応する,対物レンズ13の入射瞳位置における波面を算出する波面算出部24と,全ての集光点について算出された波面を合成する波面合成部25と,該波面合成部25により合成された合成波面に基づいて波面変調素子12に付与する位相パターンを設定する位相パターン設定部26とを備えている。 【0030】 入力部23は,観察者がレーザ光を集光させたい位置,すなわち集光点をモニタ(図示略)上において指定することにより,各集光点の3次元的な位置情報を設定するようになっている。ここで,各集光点の深さ方向の位置情報は,標本Aの所定の深さの面を基準面としたときの該基準面からの相対的な深さ情報として設定されるようになっている。この基準面は,好ましくは標本Aに対して対物レンズ13を所定の位置に固定したときの対物レンズ13の焦点面に設定されるが,これに限定されるものではない。 また,標本Aにおける集光点は,任意の位置に設定される場合と,光刺激に応答する位置に設定される場合とがある。集光点を光刺激に応答する位置に設定したい場合には,観察者が集光点を指定しやすいように,モニタ(図示略)が顕微鏡装置3により取得された2次元画像又は3次元画像を表示していることが好ましい。 【0031】 波面算出部24は,設定された各集光点について,入力部23から設定された位置情報と,記憶部22に記憶されている対物レンズ13の全系の特性データおよび標本Aの屈折率とを用いて,各集光点に対応する波面を算出する。 具体的には,集光点について設定された位置情報によって特定される位置に点光源を仮定し,該点光源から対物レンズ13の入射瞳位置まで,標本Aの屈折率および対物レンズ13の全系の特性データを用いて,レーザ光の逆光線追跡を行うことにより波面を算出するようになっている。基準面である焦点面上に配される集光点については,入射瞳位置における波面は,基準面内における集光点の位置に応じて対物レンズ13の光軸に対する角度を異ならせた平面波である。 波面合成部25は,全ての集光点について算出された波面を合成するようになっている。本実施形態では,波面合成部25は,全ての集光点について算出された波面の線形和を算出するようになっている。 【0032】 位相パターン設定部26は,対物レンズ13の入射瞳位置において得られた合成波面に基づいて,波面変調素子12に付与すべき位相パターンを設定し,波面変調素子12に出力するようになっている。ここで,波面変調素子12は,対物レンズ13の入射瞳と共役な関係にあるため,波面変調素子12に付与される位相パターンは,対物レンズ13の入射瞳位置における合成波面と同一か又は位相ラッピング処理したものとなっている。位相ラッピング処理は,波面変調素子12における位相変調の範囲が2nπ(nは整数)に設定されている場合に,対物レンズ13の入射瞳位置における合成波面のうち2nπを超える位相差を有する部分について,その位相差から2nπを差し引くことにより行われる。本実施形態におけるセグメントタイプのMEMSミラーでは,通常は位相変調の範囲が2nπの範囲に設定されているので,必要に応じて位相ラッピング処理が行われる。 【0033】 このようにして,波面変調素子12が,入力された位相パターンに合わせた表面形状となるように調節される。これにより,波面変調素子12において反射されたレーザ光は,波面変調素子12の表面において対物レンズ13の入射瞳位置において得られた合成波面と同一の波面を有するように変調される。したがって,そのようなレーザ光が対物レンズ13によって集光されることにより,対物レンズ13を固定したままの状態で,設定された各集光点に同時に集光されるようになっている。」 エ 「【0034】 このように構成された本実施形態に係るホログラム像投影装置1を用いて標本A内の深さの異なる複数の位置に同時にレーザ光を集光させるようなホログラム像を投影するホログラム像投影方法について説明する。 まず,図2に示されるように,入力部23において,各集光点の位置情報が設定される(ステップS1)。」 (当合議体注:図2は以下の図である。) オ 「【0035】 ここで,集光点が標本Aにおいて光刺激に応答する位置に設定される場合には,調節装置4からの出力によって,波面変調素子12を平坦な反射面形状となる位相パターンに設定する。顕微鏡装置3においては,光路上からミラー17を退避させておく。そして,レーザ光源5からレーザ光を発生させ,スキャナ9によってレーザ光を2次元的に走査する。 【0036】 レーザ光源5から発せられたレーザ光は波面を変化させることなく光路を伝播されて,スキャナ9によって2次元的に走査された後,ダイクロイックミラー21によって反射されて対物レンズ13に入射され標本A内の焦点面に集光される。レーザ光の集光位置においては蛍光が発生し,発生した蛍光は対物レンズ13によって受光され,ダイクロイックミラー21を透過して集光レンズ18,19により集光され,光検出器15によって検出される。 【0037】 蛍光は対物レンズ13の焦点面近傍の極めて薄い領域のみにおいて発生するので,光検出器15より検出された蛍光の強度と,スキャナ9によるレーザ光の走査位置とを対応づけて記憶しておくことにより,焦点面に沿って広がる標本Aの蛍光像(スライス画像)を取得することができる。対物レンズ13と標本Aとを光軸方向に相対的に移動させつつ,複数枚のスライス画像を取得することにより,3次元的な蛍光画像を取得することができる。 【0038】 観察者は,図示しないモニタに表示された3次元的な蛍光画像において,レーザ光を集光させたい集光点の位置を指定する。例えば,標本Aが神経細胞であって,レーザ光による刺激を与えて挙動の観察を行う場合において,刺激を与えたい集光点は3次元的に分布している。この場合,観察者は,全ての集光点を指定することにより,集光点の3次元的な位置情報を設定する。 【0039】 標本Aに対して対物レンズ13を固定することにより,対物レンズ13の焦点面が標本Aに対して固定される。集光点の位置情報のうち,深さ情報については,標本Aの所定の深さの面を基準面としたときの該基準面からの深さ方向の相対的な距離を設定する。この基準面は,例えば,対物レンズ13の焦点面に設定される。 その一方で,集光点が標本Aにおける任意の位置に設定される場合には,このような3次元的な蛍光画像の取得は必要ない。 【0040】 次に,波面算出部24においては,入力部23により設定された位置情報,記憶部22に記憶されている対物レンズ13の全系の特性データおよび標本Aの屈折率を用いて,逆光線追跡が行われ,各集光点に仮定された点光源から発生したレーザ光の対物レンズ13の入射瞳位置における波面が算出される(ステップS2)。 【0041】 全ての集光点について対物レンズ13の入射瞳位置における波面が算出されると,波面合成部25によって波面の線形和が算出され,合成波面が生成される(ステップS3)。生成された合成波面は,位相パターン設定部26に入力されて,波面変調素子12に付与する位相パターンが対物レンズ13の入射瞳位置における合成波面と同一か又は位相ラッピング処理したパターンとなるように設定される(ステップS4)。そして,位相パターン設定部26により設定された位相パターンは,波面変調素子12に対して出力される。 これにより,標本Aに対して光刺激を行いながら観察するための準備が完了する。 【0042】 この状態で,顕微鏡装置3においては,ミラー17を光路上に挿入し(図中,実線で示す位置に配置し),対物レンズ13によって集光される蛍光が,集光レンズ20によって集光され,カメラ16によって撮影されるように設定しておく。そして,スキャナ9を原点位置に停止した状態で,レーザ光源5から発せられたレーザ光を波面変調部7に入射させると,波長変調素子12(当合議体注:「波長変調素子12」は,「波面変調素子12」の誤記である。)に表示されている位相パターンに従ってレーザ光の波面が変調される。変調されたレーザ光は,リレーレンズ8,スキャナ9およびリレーレンズ10を通過してダイクロイックミラー21により反射され,対物レンズ13の入射瞳に入射される(ステップS5)。 【0043】 対物レンズ13の入射瞳位置は波面変調素子12と光学的に共役な位置に配置されているので,入射瞳位置に入射されるレーザ光は,波面変調素子12により変調された時点における波面と同じ波面を有している。 そして,このようなレーザ光が対物レンズ13によって集光されることにより,深さ方向に異なる位置に配置されている複数の集光点に同時に集光させるような3次元的なホログラム像を標本A内に投影することができる。 【0044】 指定された複数の集光点に同時にレーザ光が照射されることにより,標本Aに刺激が与えられた状態で,標本Aから発せられる蛍光が対物レンズ13によって受光され,ダイクロイックミラー21を透過して,ミラー17により反射され,集光レンズ20によって集光されてカメラ16により撮影される。これにより,光刺激を与えたときの標本Aの蛍光画像を取得することができる。 【0045】 このように,本実施形態に係るホログラム像投影装置1およびホログラム像投影方法によれば,標本Aの深さ方向に異なる位置に配置される複数の注目部位に,同時にレーザ光を集光させることができる。この結果,集光点が標本Aにおいて光刺激に応答する位置に設定されている場合には,光刺激直後に発生する標本Aの挙動を時間差なく正確に観察することができるという利点がある。」 カ 「【0046】 なお,本実施形態においては,波面合成部25における波面の合成は,波面の線形和を算出することによって行われていたが,これに代えて,各集光点について算出された複数の波面を領域分割したものを集光点の総数の逆数の割合で配列することにより行うこととしてもよい。 【0047】 具体的には,集光点の総数がn個の場合,各集光点について算出した波面の線形和を算出せずに,波長変調素子12上の領域を分割し,分割された各領域に対して複数の集光点のいずれかを対応付ける。このとき,各集光点の対応領域が集光点の総数nの逆数の割合で周期的に分布するように,対応付けを行うことが好ましい。また,各集光点の対応領域の分布は,モザイク状であってもよいし,同心円状であってもよい。このような対応付けをした上で,予め算出された各集光点からの波面のうち,波長変調素子12上での対応領域と重なる部分の波面要素を抽出し,抽出された波面要素を全領域にわたって配列して波面を合成する。このようにして得られた合成波面に基づいて,波長変調素子12に付与する位相パターンが設定される。」 キ 「【0049】 第1の実施形態においては,設定された各集光点から対物レンズ13の入射瞳位置まで逆光線追跡を行うことにより波面を生成することとしたが,本実施形態においては,これに代えて,各集光点から所定の基準面まで順光線追跡を行ってスポット像を求め,これを変換することにより波面を生成することとしている。 【0050】 本実施形態に係るホログラム像投影装置100は,図3に示されるように,調節装置4の構成が,第1の実施形態とは異なる。すなわち,調節装置4は,対物レンズ13の全系の特性データおよび標本Aの屈折率を記憶する記憶部22と,標本Aにおけるレーザ光の集光点の3次元位置情報を設定する入力部(位置情報設定部)23と,入力部23により設定された各集光点の位置情報,記憶部22に記憶されている対物レンズ13の全系の特性データおよび標本Aの屈折率に基づいて,各集光点を所定の基準面に投影した仮想像を生成する仮想像生成部27と,生成された仮想像をフーリエ変換して対物レンズ13の入射瞳位置における波面を算出する波面算出部28と,該波面算出部28により算出された波面に基づいて波面変調素子12に付与する位相パターンを設定する位相パターン設定部26とを備えている。 ここで,波面算出部28は,記憶部22に記憶されている対物レンズ13の全系の特性データおよび標本Aの屈折率を用いて,仮想像生成部27により生成された仮想像をフーリエ変換している。」 ク 「【0060】 また,上記第1および第2の実施形態においては,波面変調素子12として,その表面形状を変化させるセグメントタイプのMEMSミラーを例示したが,これに代えて,他の任意の波面変調素子12,例えば,液晶素子,デフォーマブルミラー等でもよい。液晶素子の場合は,液晶分子の配向による屈折率の分布が位相パターンとなり,デフォーマブルミラーの場合は,その表面形状が位相パターンとなる。」 (2) 甲6号証記載の発明 甲6には,【図1】及びその説明(【0022】?【0033】)に記載された装置によって,【図2】及びその説明(【0034】?【0045】)に記載された測定を行うことができる「第1の実施形態」として,次の発明が記載されている(以下「甲6発明」という。)。 「 光源装置2と,顕微鏡装置3と,調節装置4を備えた顕微鏡システムであって, 光源装置2は,レーザ光源5と,コリメータレンズ6と,波面変調部7と,リレーレンズ8,10と,スキャナ9を備え,波面変調部7は,プリズム11と,反射型の波面変調素子12を備え,波面変調素子12と対物レンズ13の入射瞳位置とは,光学的に共役な位置関係に配置され, 顕微鏡装置3は,対物レンズ13と,光検出器15と,カメラ16と,ミラー17を備え, 波面変調素子12における表面形状を平坦な反射面形状に設定しておき,ミラー17を光検出器15側に切り替えた状態で,レーザ光源5からレーザ光を出射させ,スキャナ9を駆動して,標本A内の焦点面に集光しているレーザ光を2次元的に走査させつつ,各集光位置において発生した蛍光を光検出器15によって検出することにより,対物レンズ13の焦点面に沿って広がる標本Aの2次元的な蛍光像を取得することができ,対物レンズ13とステージ14との距離を相対的に移動させて,対物レンズ13の焦点面の位置を変化させながら2次元的な蛍光像を複数取得していくことにより,標本Aの3次元的な蛍光像を取得することができ, 調節装置4は,記憶部22と,入力部23と,波面算出部24と,波面合成部25と,位相パターン設定部26を備え,入力部23は,モニタが顕微鏡装置3により取得された3次元画像を表示し,観察者が集光点をモニタ上において指定することにより,各集光点の3次元的な位置情報を設定するようになっており,波面算出部24は,集光点について設定された位置情報によって特定される位置に点光源を仮定し,レーザ光の逆光線追跡を行うことにより波面を算出し, 位相パターン設定部26により設定された位相パターンが波面変調素子12に対して出力され,ミラー17を光路上に挿入し,スキャナ9を原点位置に停止した状態で,レーザ光源5から発せられたレーザ光を波面変調部7に入射させると,波面変調素子12に表示されている位相パターンに従ってレーザ光の波面が変調され,レーザ光が対物レンズ13によって集光されることにより,深さ方向に異なる位置に配置されている複数の集光点に同時に集光させるような3次元的なホログラム像を標本A内に投影して,カメラ16により撮影され,光刺激を与えたときの標本Aの蛍光画像を取得することができる, 顕微鏡システム。」 (3) 甲8の記載 取消しの理由において引用され,本件優先日前に頒布された刊行物である甲8には,以下の事項が記載されている。なお,下線は当合議体が付したものであり,判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は,空間光変調装置の技術に関し,特に,レーザ光源とともに用いられる空間光変調装置の技術に関する。 【背景技術】 【0002】 従来から,パターン刺激装置などの顕微鏡や,レーザリペア装置,露光機などでは,光の空間的分布及び強度(以降,パターンと記す。)を任意に制御し,所望のパターンの光を対象物に照射する技術が必要とされている。そして,このような技術を実現するために空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)が広く利用されている。」 イ 「【0085】 図8Aは,実施例2に係る空間光変調装置が適用された,レーザ顕微鏡の構成を例示する概略図である。」 (当合議体注:図8Aは以下の図である。) ウ 「【0090】 レーザ顕微鏡58では,観察ユニットにより取得されモニタ67に表示される標本60の拡大画像に基づいて,操作盤68からレーザ光で刺激する範囲,期間,強度などが入力されることにより,標本60に照射すべき刺激パターンが指示される。そして,DMDドライバ78が指示された範囲に合わせてDMD75の空間光変調器領域82を駆動させる。その後,レーザドライバ70が指示された強度に合わせてレーザコンバイナモジュール69の出力を調整し,指示された期間だけレーザコンバイナモジュール69のシャッターを開く。これにより,所望の刺激パターンのレーザ光が空間光変調装置74から射出され,標本60が刺激される。」 2 対比及び判断 (1) 対比 本件特許発明1と甲6発明を対比すると,以下のとおりとなる。 ア 刺激光学系 甲6発明は,「光源装置2と,顕微鏡装置3と,調節装置4を備えた顕微鏡システムであって」,「光源装置2は,レーザ光源5と,コリメータレンズ6と,波面変調部7と,リレーレンズ8,10と,スキャナ9を備え」,「波面変調部7は,プリズム11と,反射型の波面変調素子12を備え」,「波面変調素子12と対物レンズ13の入射瞳位置とは,光学的に共役な位置関係に配置され」,「顕微鏡装置3は,対物レンズ13と,光検出器15と,カメラ16と,ミラー17を備え」,「調節装置4は,記憶部22と,入力部23と,波面算出部24と,波面合成部25と,位相パターン設定部26を備え」,「位相パターン設定部26により設定された位相パターンが波面変調素子12に対して出力され」,「ミラー17を光路上に挿入し,スキャナ9を原点位置に停止した状態で,レーザ光源5から発せられたレーザ光を波面変調部7に入射させると,波面変調素子12に表示されている位相パターンに従ってレーザ光の波面が変調され,レーザ光が対物レンズ13によって集光されることにより,深さ方向に異なる位置に配置されている複数の集光点に同時に集光させるような3次元的なホログラム像を標本A内に投影して,カメラ16により撮影され,光刺激を与えたときの標本Aの蛍光画像を取得することができる」,「顕微鏡システム」である。 上記の構成からみて,甲6発明の「レーザ光源5」,「標本A」,「対物レンズ13」及び「位相パターンに従ってレーザ光の波面」を「変調」する「波面変調素子12」は,それぞれ本件特許発明1の「レーザ光源」,「標本」,「対物レンズ」及び「位相変調型空間光変調器」に相当する。また,甲6発明の「対物レンズ13」は,本件特許発明1の「対物レンズ」における,「レーザ光源から発せられたレーザ光を標本に照射する」という構成を具備する。さらに,甲6発明の「波面変調素子12」は,本件特許発明1の「位相変調型空間光変調器」における,「該対物レンズの瞳位置と光学的に共役な位置に配置されて前記レーザ光源により発せられたレーザ光の位相を変調する」という構成を具備する。 加えて,甲6発明の「顕微鏡システム」は,「位相パターン設定部26により設定された位相パターンが波面変調素子12に対して出力され」,「ミラー17を光路上に挿入し,スキャナ9を原点位置に停止した状態」において,本件特許発明1の,「該対物レンズの瞳位置と光学的に共役な位置に配置されて前記レーザ光源により発せられたレーザ光の位相を変調する位相変調型空間光変調器を有する刺激光学系」に相当する光学系を具備する。 イ 観察光学系 上記アで述べた構成に加えて,甲6発明の「顕微鏡システム」は,「波面変調素子12における表面形状を平坦な反射面形状に設定しておき,ミラー17を光検出器15側に切り替えた状態で,レーザ光源5からレーザ光を出射させ,スキャナ9を駆動して,標本A内の焦点面に集光しているレーザ光を2次元的に走査させつつ,各集光位置において発生した蛍光を光検出器15によって検出することにより,対物レンズ13の焦点面に沿って広がる標本Aの2次元的な蛍光像を取得することができ」る。 上記の構成からみて,甲6発明の「スキャナ9」,「標本A内の焦点面に集光しているレーザ光」,「各集光位置において発生した蛍光」及び「光検出器15」は,それぞれ本件特許発明1の「走査部」,「観察用照明光」,「前記標本からの観察光」及び「検出部」に相当する。また,甲6発明の上記構成からみて,甲6発明の「スキャナ9」は,本件特許発明1の「走査部」における,「前記レーザ光源により発せられたレーザ光を前記標本上で観察用照明光として走査させる」という構成を具備する。さらに,甲6発明の「光検出器15」は,本件特許発明1の「検出部」における,「前記対物レンズにより集光された前記標本からの観察光を検出する」という構成を具備する。 加えて,甲6発明の「顕微鏡システム」は,「波面変調素子12における表面形状を平坦な反射面形状に設定しておき,ミラー17を光検出器15側に切り替えた状態」において,本件特許発明1の「前記レーザ光源により発せられたレーザ光を前記標本上で観察用照明光として走査させる走査部と前記対物レンズにより集光された前記標本からの観察光を検出する検出部とを有する観察光学系」に相当する光学系を具備する。 ウ 画像構築部 甲6発明の「顕微鏡システム」は,上記イで述べた状態において,「対物レンズ13とステージ14との距離を相対的に移動させて,対物レンズ13の焦点面の位置を変化させながら2次元的な蛍光像を複数取得していくことにより,標本Aの3次元的な蛍光像を取得することができ」る。 そうしてみると,甲6発明の「2次元的な蛍光像」及び「標本Aの3次元的な蛍光像」は,それぞれ本件特許発明1の「観察面の観察画像」及び「前記標本の3次元的な画像」に相当する。また,甲6発明の「顕微鏡システム」は,本件特許発明1の「該観察光学系が光軸方向に異なる観察面の観察画像を取得することにより前記標本の3次元的な画像を構築する画像構築部」に相当する構成を具備する。 エ 位置設定部,変調動作 上記ウで述べた構成に加えて,甲6発明の「顕微鏡システム」は,「モニタが顕微鏡装置3により取得された3次元画像を表示し,観察者が集光点をモニタ上において指定することにより,各集光点の3次元的な位置情報を設定する」,「入力部23」を具備する。そして,甲6発明の「顕微鏡システム」は,上記アで述べた状態において,「波面変調素子12に表示されている位相パターンに従ってレーザ光の波面が変調され」,「深さ方向に異なる位置に配置されている複数の集光点に同時に集光させるような3次元的なホログラム像を標本A内に投影」する。 上記の構成からみて,甲6発明の「入力部23」は,本件特許発明1の「位置設定部」に相当する。また,甲6発明の「入力部23」は,本件特許発明1の「位置設定部」における,「該画像構築部により構築された3次元的な画像上において,前記刺激光学系により前記レーザ光を刺激光として照射する前記標本の刺激箇所を光軸方向に異なる複数個所に設定する」という構成を具備する。さらに,甲6発明の「顕微鏡システム」は,本件特許発明1の「レーザ顕微鏡」における,「前記位置設定部により設定された各刺激箇所に前記レーザ光が照射されるように前記空間光変調器が前記レーザ光の変調動作を行い」という構成を具備する。 オ レーザ顕微鏡 以上ア?エからみて,甲6発明の「顕微鏡システム」は,本件特許発明1の「レーザ顕微鏡」に相当する。 また,甲6発明の「顕微鏡システム」と本件特許発明1の「レーザ顕微鏡」は,「対物レンズと」,「刺激光学系と」,「観察光学系と」,「画像構築部と」,「位置設定部と」,「を備え」る点で共通する。 (2) 一致点及び相違点 ア 一致点 本件特許発明1と甲6発明は,次の構成で一致する。 「 レーザ光源から発せられたレーザ光を標本に照射する対物レンズと, 該対物レンズの瞳位置と光学的に共役な位置に配置されて前記レーザ光源により発せられたレーザ光の位相を変調する位相変調型空間光変調器を有する刺激光学系と, 前記レーザ光源により発せられたレーザ光を前記標本上で観察用照明光として走査させる走査部と前記対物レンズにより集光された前記標本からの観察光を検出する検出部とを有する観察光学系と, 該観察光学系が光軸方向に異なる観察面の観察画像を取得することにより前記標本の3次元的な画像を構築する画像構築部と, 該画像構築部により構築された3次元的な画像上において,前記刺激光学系により前記レーザ光を刺激光として照射する前記標本の刺激箇所を光軸方向に異なる複数個所に設定する位置設定部と, 前記位置設定部により設定された各刺激箇所に前記レーザ光が照射されるように前記空間光変調器が前記レーザ光の変調動作を行う, レーザ顕微鏡。」 イ 相違点 本件特許発明1と甲6発明は,次の点で相違する。 (相違点) 本件特許発明1は,「前記刺激光学系により照射する前記レーザ光の強度を,前記位置設定部により設定された複数の刺激箇所のそれぞれに対して設定可能な強度設定部」を備え,「前記強度設定部が,前記レーザ光が照射される照射位置の深さに関わらず一定の強度で前記標本を刺激するように,前記レーザ光の強度を調節する」のに対して,甲6発明は,この構成を具備すると特定されたものではない点。 (3) 判断 甲6発明の「入力部23」は,「モニタが顕微鏡装置3により取得された3次元画像を表示し,観察者が集光点をモニタ上において指定することにより,各集光点の3次元的な位置情報を設定するようになって」いるものの,各集光点に照射するレーザ光の強度を各集光点のそれぞれに対して設定するようにはなっていない。また,甲6には,各集光点に照射するレーザ光の強度を,各集光点のそれぞれに対して設定する構成はもとより,これが必要又は望ましいことを示唆する,動機付けに関する記載もない。そうしてみると,当業者が甲6の記載に接したとしても,相違点に係る本件特許発明1の構成のうち,「前記刺激光学系により照射する前記レーザ光の強度を,前記位置設定部により設定された複数の刺激箇所のそれぞれに対して設定可能な強度設定部」の構成を採用することに,直ちに思い到るとはいえない。 ところで,本件優先日前の当業者ならば,甲8に記載された技術を心得ている。そして,甲8の【0090】には,「レーザ顕微鏡58では,観察ユニットにより取得されモニタ67に表示される標本60の拡大画像に基づいて,操作盤68からレーザ光で刺激する範囲,期間,強度などが入力されることにより,標本60に照射すべき刺激パターンが指示される。」と記載されている。 しかしながら,甲8の上記の記載は,レーザ顕微鏡において,レーザ光で刺激する強度を入力する技術までは開示するとしても,レーザ光で刺激する強度を各集光点のそれぞれに対して入力する技術まで開示するものではない。また,特許異議申立人が提出した他の証拠(甲1?甲5,甲7,甲9及び甲10)にも,この構成は開示されておらず,この構成が,本件優先日前の当業者において技術常識であったということもできない。 念のため,甲6発明を前提にして甲8の上記の【0090】の記載に接した当業者が,刺激光学系により照射するレーザ光の強度を,位置設定部により設定された複数の刺激箇所のそれぞれに対して設定可能とする構成を理解したと仮定する。 しかしながら,甲8の【0090】には,「DMDドライバ78が指示された範囲に合わせてDMD75の空間光変調器領域82を駆動させ」,「その後,レーザドライバ70が指示された強度に合わせてレーザコンバイナモジュール69の出力を調整」する技術が開示されており,この技術では,各集光点に対して同じ強度のレーザ光を照射することしかできない。したがって,令和元年7月3日付け回答書を検討してもなお,平成31年1月21日付け審尋で指摘した,「甲6に記載された発明を前提として,設定された(互いに異なる)レーザ強度で複数の刺激箇所を照射できるようにするための具体的な構成は,甲8には記載されていない」との,当合議体の判断は変わらない。 以上勘案すると,当業者が,甲6発明において,相違点に係る本件特許発明1の構成を採用することが,容易に発明できたことであるということはできない。 (4) 特許異議申立人の主張に対して 特許異議申立人は,当業者であれば,甲6発明の波面変調素子12に代えて又は加えて,甲1号証に開示されているように同様な効果を奏する空間光変調器を用いることは,当業者が容易になしえたものであると主張する(回答書3頁(3枚目)の下から8?2行)。 確かに,甲1の図3Bからは,甲1に開示された空間光変調器により,グレースケールパターン(サンティアゴ・ラモン・イ・カハル氏の横顔の像)を形成できることが開示されている。 (当合議体注:甲1の図3Bは以下の図である。) しかしながら,甲1の上記の記載は,甲1に開示された空間光変調器により,グレースケールパターンを照射できることを開示するとしても,相違点に係る本件特許発明1の「前記刺激光学系により照射する前記レーザ光の強度を,前記位置設定部により設定された複数の刺激箇所のそれぞれに対して設定可能な強度設定部」の構成を開示するものではない。かえって,甲1の図4においては,複数の刺激箇所のそれぞれに対して同じ強度のレーザ光が照射される構成を理解することができる。 (当合議体注:甲1の図4は以下の図である。) 以上のとおりであるから,特許異議申立人の主張は採用できない。 (5) 本件特許発明2?本件特許発明15について ア 本件特許発明2について 本件特許発明2は,本件特許発明1の構成に対して,さらに他の構成を付加したものであるから,相違点に係る本件特許発明1の構成を具備するものである。 したがって,本件特許発明1と同じ理由により,本件特許発明2は,甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 イ 本件特許発明3?本件特許発明5について これら発明は,いずれも,「前記刺激箇所ごとに刺激する強度と時間をユーザに入力させる入力部」(請求項3)の構成を具備する。 したがって,本件特許発明1と同様の理由により,本件特許発明3?本件特許発明5も,甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 ウ 本件特許発明6?本件特許発明12について これら発明は,いずれも本件特許発明1の構成に対して,さらに他の構成を付加したものであるか,本件特許発明3の構成に対して,さらに他の構成を付加したものである。 したがって,本件特許発明1又は本件特許発明3と同じ理由により,本件特許発明6?本件特許発明12も,甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 エ 本件特許発明13?本件特許発明15について これら発明は,「前記対物レンズにより集光された前記標本からの観察光を共焦点ピンホールを介して検出する検出部」(請求項13)の構成を具備する。 (当合議体注:共焦点ピンホールは,一般に,対物レンズの焦点面近傍の極めて薄い領域のみからの光を検出するための手段として用いられる。) しかしながら,甲6の【0037】には,「蛍光は対物レンズ13の焦点面近傍の極めて薄い領域のみにおいて発生する」と記載されている(甲6の【0003】において挙げられた非特許文献1,すなわち甲1に記載された技術と同様に,甲6発明は,2光子分光法を前提としたものである。)。 したがって,本件優先日前の当業者が,甲6発明において,「前記対物レンズにより集光された前記標本からの観察光を共焦点ピンホールを介して検出する検出部」の構成を採用することが,容易に発明をすることができたものであるということはできない。 3 小括 本件特許(請求項1?請求項15に係る特許)は,いずれも平成30年11月20日付け取消理由通知書において通知した取消しの理由によっては取り消すことができない。 第3 採用しなかった特許異議申立ての理由について 1 甲1を主引用例とする特許異議の申立ての理由 特許異議申立人は,甲1を主引用例として,特許法29条1項3号及び29条2項の理由を主張する。 しかしながら,甲1には,本件特許発明1の「前記刺激光学系により照射する前記レーザ光の強度を,前記位置設定部により設定された複数の刺激箇所のそれぞれに対して設定可能な強度設定部」の構成,及び本件特許発明3の「前記刺激箇所ごとに刺激する強度と時間をユーザに入力させる入力部」の構成は,記載されていない。また,甲1はもとより,甲2?甲10においても,甲1に記載されたレーザ顕微鏡において,これら構成を採用することの動機付けとなる記載は存在しない。 したがって,本件特許発明1及び本件特許発明3は,甲1に記載された発明であるということはできず,また,本件優先日前の当業者が,甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。 この点に関して,特許異議申立人は,甲1の図3?図5及び図7には,これらに相当する構成が開示されていると主張する。 しかしながら,甲1の図3(前記「第2」2(4)参照。)には,空間光変調器によりグレースケールパターンを照射できることが開示されているにとどまる。また,甲1の図4(前記「第2」2(4)参照。)には,マウス新皮質切片の5箇所のアンケージング部位に,空間光変調器によって光を照射する様子が描かれているにとどまる。 (当合議体注:MNI-グルタミン酸(ケージド試薬)を解離させるための光強度は,同一と理解される。)。 甲1の図5には,2箇所(図5A),4箇所(図5B),1箇所(図5D)に刺激光を照射した結果が開示されているが,各箇所の光強度は不明である。 (当合議体注:甲1の図5A?図5Dは以下の図である。) 甲1の図7Bには,新皮質スライスの50箇所の細胞に観察光(当合議体注:刺激光ではない。)を照射するための,イメージファイルが開示されているにとどまる。 (当合議体注:甲1の図7Bは以下の図である。なお,図7C及び図7Eは,観察された蛍光像であり,観察光ではない。) 参考:図7C及び図7E 空間光変調器が,グレースケールパターンを照射できることそれ自体は,動作原理からみて明らかである。しかしながら,甲1の図4,図5及び図7には,複数の照射箇所のそれぞれに,異なる強度で光を照射することは開示されておらず,むしろ,少なくとも図4においては,複数の照射箇所の光強度は同一と理解される。そうしてみると,グレースケールパターンを照射できること(図3)と,複数の照射箇所に光を照射できること(図4,図5及び図7)を根拠にして,甲1に,複数の照射箇所のそれぞれに異なる強度の光を照射することが開示されていると理解することは後知恵であるから,当業者が,本件特許発明1の光強度設定部の構成や,本件特許発明3の入力部の構成に到ることはないといえる。 したがって,本件特許発明1の「前記刺激光学系により照射する前記レーザ光の強度を,前記位置設定部により設定された複数の刺激箇所のそれぞれに対して設定可能な強度設定部」の構成,及び本件特許発明3の「前記刺激箇所ごとに刺激する強度と時間をユーザに入力させる入力部」の構成は,甲1に記載されているとはいえないし,また,甲1に接した当業者が,これら構成を具備してなる本件特許発明1及び本件特許発明3のレーザ顕微鏡を容易に発明することができたということもできない。 甲2?甲10の記載を考慮しても,同様である。 本件特許発明2,本件特許発明4?本件特許発明12は,本件特許発明1又は本件特許発明3の上記構成のいずれかを具備し,さらに他の構成を具備したものである。したがって,本件特許発明2,本件特許発明4?本件特許発明12についても,同様である。 本件特許発明13?本件特許発明15は,「前記対物レンズにより集光された前記標本からの観察光を共焦点ピンホールを介して検出する検出部」の構成を具備する。 しかしながら,甲1に記載されたレーザ顕微鏡は,2光子分光法によるものである。 したがって,本件優先日前の当業者が,甲1に記載された発明において,「前記対物レンズにより集光された前記標本からの観察光を共焦点ピンホールを介して検出する検出部」の構成を採用することが,容易に発明をすることができたものであるということはできない。 2 甲9を主引用例とする特許異議申立ての理由について 特許異議申立人は,甲9を主引用例として,特許法29条1項3号及び29条2項の理由を主張する。 しかしながら,甲9は,甲1に記載された技術(当合議体注:特許異議申立人が主張するとおり,甲9は,甲1の論文に基づいてされた特許出願である。),及びその従来技術(空間光変調器ではなく,回折格子素子(DOE)を使用したレーザ顕微鏡(【図8】等)。)を開示するにとどまる。 前記1で述べたのと同様の理由により,本件特許発明1?本件特許発明15は,甲9に記載された発明であるということはできず,また,本件優先日前の当業者が,甲9に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。 3 甲10を主引用例とする特許異議申立ての理由について 特許異議申立人は,甲10を主引用例として,特許法29条1項3号及び29条2項の理由を主張する。 しかしながら,甲10は,甲9の国際公開である。 前記2で述べたのと同じ理由により,本件特許発明1?本件特許発明15は,甲10に記載された発明であるということはできず,また,本件優先日前の当業者が,甲10に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。 第4 むすび 以上のとおりであるから,請求項1?請求項15に係る特許は,平成30年11月20日付け取消理由通知書において通知した取消しの理由,及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては,取り消すことができない。 また,他に請求項1?請求項15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-07-19 |
出願番号 | 特願2013-56628(P2013-56628) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(G02B)
P 1 651・ 113- Y (G02B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 殿岡 雅仁 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
関根 洋之 樋口 信宏 |
登録日 | 2017-12-01 |
登録番号 | 特許第6249616号(P6249616) |
権利者 | オリンパス株式会社 |
発明の名称 | レーザ顕微鏡 |
代理人 | 上田 邦生 |
代理人 | 伊東 忠重 |
代理人 | 藤田 考晴 |
代理人 | 大貫 進介 |
代理人 | 伊東 忠彦 |