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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 E06B 審判 全部申し立て 2項進歩性 E06B |
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管理番号 | 1354113 |
異議申立番号 | 異議2019-700243 |
総通号数 | 237 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-09-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-03-28 |
確定日 | 2019-08-02 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6425151号発明「建具施工構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6425151号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6425151号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成24年9月28日に出願した特願2012-215681号(以下、「親出願」という。)の一部を、平成28年11月10日に新たな特許出願とした特願2016-219449号(以下、「子出願」という。)の一部を、平成29年12月15日に新たな特許出願としたものであって、平成30年11月2日にその特許権の設定登録がされ、平成30年11月21日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成31年3月28日に特許異議申立人 加藤 浩志(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。 2 本件発明 特許第6425151号の請求項1及び2の特許に係る発明(以下、「本件発明1」等といい、全体を「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 建物の開口部に固定され、上枠と両側の縦枠とを有した建具用枠に建具を建て付けた建具施工構造であって、 前記建具用枠の上枠が固定される上枠下地によって構成される前記開口部の天面は、天井面よりも上側に位置するように設けられ、前記開口部内に嵌め込み固定された前記建具用枠の上枠の見込み方向両側に沿うように、かつ前記開口部の幅方向に架け渡されるように天井パネル下地用の桟材がそれぞれ固定され、これら両側の桟材の下面に天井パネルが固定され、前記天井面近傍に至る上下寸法とされた前記建具が前記建具用枠に建て付けられていることを特徴とする建具施工構造。 【請求項2】 請求項1において、 前記両側の桟材は、前記開口部を構成する上枠下地及び縦枠下地の両方または一方に固定されていることを特徴とする建具施工構造。」 3 申立理由の概要 (1)取消理由1(新規性要件違反) 本件発明1及び2は、甲第7号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、請求項1及び2に係る特許は、取り消されるべきものである。 (2)取消理由2(進歩性要件違反) 本件発明1及び2は、甲第1号証ないし甲第7号証に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1及び2に係る特許は、取り消されるべきものである。 [証拠] 甲第1号証:「住宅建築」2007年4月号 No.384、株式会社建築資料研究社、平成19年4月1日、第126頁 甲第2号証:特許第4722790号公報 甲第3号証:特開平8-326427号公報 甲第4号証:特開2004-308327号公報 甲第5号証:登録実用新案第3000551号公報 甲第6号証:伊礼智、「伊礼智の住宅設計」、株式会社エクスナレッジ、2012年4月28日、第47?57、70?73、197?209頁 甲第7号証:特開2014-70370号公報 4 証拠の記載事項 (1)甲第1号証 ア 甲第1号証の記載 (ア)第126頁上図 「 」 第126頁上図から以下のことが読み取れる。 「洗面所と浴室の間に開口部が設けられ、当該開口部に建具が設けられていること。」 (イ)第126頁下図 「 」 第126頁下図から以下のことが読み取れる。 a「吊りレールにより開閉可能に吊られた建具が設けられ、 当該吊りレールの洗面所側の側面には吊りレール側方部材が設けられ、吊りレール及び吊りレール側方部材の上面には吊りレール上部材が設けられ、 吊りレール側方部材及び吊りレール上部材の両側面に横部材が設けられており、 吊りレール側方部材及び横部材の下面には、サワラ縁甲板が設けられている、建具施工構造。」 b「建具がレール吊り上部材の下面に至る上下寸法とされていること。」 イ 甲第1号証に記載された発明 上記アより、甲第1号証には、下記の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「洗面所と浴室の間の開口部に吊りレールにより開閉可能に吊られた建具が設けられ、 当該吊りレールの洗面所側の側面には吊りレール側方部材が設けられ、吊りレール及び吊りレール側方部材の上面には吊りレール上部材が設けられ、 吊りレール側方部材及び吊りレール上部材の両側面に横部材が設けられており、 吊りレール側方部材及び横部材の下面には、サワラ縁甲板が設けられており、 建具は、吊りレール上部材の下面に至る上下寸法とされている、建具施工構造。」 (2)甲第2号証 ア 甲第2号証の記載 (ア)「【0001】 本発明は、建具に関し、詳しくは、上レールに吊り下げ支持された複数の面材が連動して左右スライド開閉可能な建具に関する。」 (イ)「【0017】 〔第1実施形態〕 図1は、本発明の第1実施形態に係る建具である可動間仕切り1を示す縦断面図である。図2および図3は、それぞれ可動間仕切り1の横断面図であり、図2は、可動間仕切り1を閉じた状態(全閉位置)を示し、図3は、可動間仕切り1を開放した状態(全開位置)を示すものである。 図1?図3において、可動間仕切り1は、天井2、床3および左右の壁4で囲まれた開口部5に設けられて空間を左右に仕切るパーティションであって、天井2位置に設けられた上枠11と、壁4に設けられた左右の縦枠12と、上枠11に吊り下げ支持される3枚の面材としての障子20とを備えて構成されている。 【0018】 上枠11は、天井2の下地材6に固定される上枠ベース11Aと、この上枠ベース11Aに取り付けられて3条のレールを有した上レール材11Bとを有して構成されている。上レール材11Bに形成された3条のレールは、それぞれ上レール材11Bの長手方向に延びる中空部の下面部をスリット状に開口して形成されている。そして、上レール材11Bの中空部内には、それぞれ長手方向に転動自在なローラー11Cが支持され、これらのローラー11Cには、上レール材11Bのスリット部分を通って下方に延びるロッドが連結され、このロッドを介して各障子20が上枠11に吊り下げ支持されている。そして、各障子20は、ローラー11Cが上レール材11Bに沿って転動することで、左右スライド開閉可能に構成されている。 また、縦枠12は、壁4に沿って上下に延びて取り付けられており、この縦枠12に当接した障子20の縦框23と磁着して障子20の移動を規制する磁着部12Aを有して構成されている。」 (ウ)図1 「 」 図1から以下のことが看て取れる。 「天井下地材6の両側に、天井2に下面が接するように天井仕上材横部材が設けられていること。」 「天井下地材6の下面は、天井面よりも上側にあること。」 イ 甲第2号証に記載された発明 上記アから、甲第2号証には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「可動間仕切り1が、天井2、床3および左右の壁4で囲まれた開口部5に設けられて空間を左右に仕切るパーティションであって、 天井2位置に設けられた上枠11と、壁4に設けられた左右の縦枠12と、上枠11に吊り下げ支持される3枚の面材としての障子20とを備えて構成されており、 上枠11は、天井2の下地材6に固定される上枠ベース11Aと、この上枠ベース11Aに取り付けられて3条のレールを有した上レール材11Bとを有して構成されていて、 天井下地材6の下面は、天井面よりも上側にあり、天井下地材6の両側には、天井2に下面が接するように天井仕上材横部材が設けられている、可動間仕切り1。」 (3)甲第3号証 ア 甲第3号証の記載 (ア)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、浴室と洗面所等のような隣接する部屋同士の間の間仕切となる建具の取付構造に関する。」 (イ)「【0016】ピット2の両側部に対応し両部屋R1、R2間に亘って設けられた図示せぬ壁と壁の間には、夫々縦長の支持板6を介してアルミサッシ等で形成した取付枠7を固定する。この取付枠7内に摺動自在の2枚の引戸(建具)8、8を設けることで、両部屋R1、R2同士の間を間仕切りしている。尚、引戸8は2枚に限らず、何枚で構成しても良い。 【0017】取付枠7は図示せぬ天井にビスで固定される上枠9と、上枠9に固定された左右の縦枠10、10とからなる三方枠になっている。縦枠10、10間の寸法は、壁に固定された支持板6、6間の寸法に略等しくなっている。この左右の縦枠10、10の下端部間のグレーチング5…上に2枚の引戸8、8を夫々保持するチャンネル状の下枠11、11が固定されている。」 イ 甲第3号証に記載された技術事項 上記アから、甲第3号証には以下の技術事項(以下、「甲3技術事項」という。)が記載されていると認められる。 「間仕切となる建具の取付構造において、 取付枠7内に摺動自在の2枚の引戸(建具)8、8を設けることで両部屋R1、R2同士の間を間仕切りするものであり、 取付枠7は天井にビスで固定される上枠9と、上枠9に固定された左右の縦枠10、10とからなる三方枠となっていること。」 (4)甲第4号証 ア 甲第4号証の記載 (ア)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、間仕切り用の上レールの取付構造に関する。さらに詳しくは、室内を区画する吊り戸等、間仕切り用の板状体の上端部を保持する上レールを取付けるための、間仕切り用上レール取付構造に関する。」 (イ)「【0012】 上記上レール取付部Aは、図2、図3によく示されているように、金属製の中空角柱からなる2本の天井下地材3と、この天井下地材3に挟まれた木製の上レール保持部2とからなり、上レール保持部2と各々の天井下地材3とはビスB1によって固定されている。また、上レール保持部2は、その下面に凹設した溝部に、下方に開口した上レール1をビスB2を用いて装着、固定している。図4は、上記のように構成した上レール取付部Aに、さらに補強金具9をビスB3でビス留めすることにより補強し、上レール1の天井材載置部11に、天井材8を載置した状態を示す部分断面斜視図である。」 イ 甲第4号証に記載された技術事項 上記アから、甲第4号証には以下の技術事項(以下、「甲4技術事項」という。)が記載されていると認められる。 「間仕切り用の上レールの取付構造であって、上レール取付部Aは、金属製の中空角柱からなる2本の天井下地材3と、この天井下地材3に挟まれた木製の上レール保持部2とからなり、上レール保持部2と各々の天井下地材3とはビスB1によって固定されており、上レール1の天井材載置部11に、天井材8を載置すること。」 (5)甲第5号証 ア 甲第5号証の記載 (ア)「【0001】 【産業上の利用分野】 本考案は、一般住宅やマンションでの空間を仕切る簡易型の移動間仕切りに関するものである。」 (イ)「【0008】 【実施例】 図1は本考案に係る簡易型移動間仕切りを示した実施例であり、aは正面図をbはaにおけるA-A断面拡大図を表わしている。同図において、右端には開閉式のドア1が据え付けられ、該ドア1と同一面に移動壁2a、2b、2cが配置されている。そしてドア1の開閉が出来る間仕切り仕様となっていて、移動壁2cには戸当りエッジ3が取着されている。移動間仕切りとしての基本構造は従来と同じであり、移動壁2の上端両サイドには図2に示すように、吊車4、4を取着して天井レール5に吊設している。そして、移動壁2の下端にはシール材6を装着し、該シール材6は降下して床面に接して隙間を無くし、同時に移動壁2が揺れないように安定させる。また図1bから明らかなように、移動壁2の側端には上下に連続した凹部が形成され、該凹部にはジョイントエッジ19a、19bが取着され、隣接する移動壁2a,2b,2cのジョイントエッジ19a,19b…は互いに隙間なく噛み合っている。そして、これら各ジョイントエッジ19a、19bは移動壁2の表面には露出しない大きさとなっている。」 (ウ)「【0011】 前記図3は天井レール5を天井に取着している取着構造を示しているが、移動壁2が約20kg程度のものであるために、天井レール5は天井材11にネジ止めされて固定されているに過ぎない。そして、図4は天井レール5の連結形態を示しているが、各レールの分岐部には従来のような専用分岐レールを用いる必要はなく、接合部となる先端を適当な形状に切断して接合し、溶接するだけでよい。」 (エ)図3 「 」 図3から以下のことが看て取れる。 「天井材11の両側に、横部材が設けられており、天井材11及び横部材の下面は、天井板に接していること。」 イ 甲第5号証に記載された技術事項 上記アから、甲第5号証には以下の技術事項(以下、「甲5技術事項」という。)が記載されていると認められる。 「簡易型の移動間仕切りであって、 移動壁2は天井レール5に吊設されるものであり、 天井レール5は天井材11にネジ止めされて固定されており、 天井材11の両側に、横部材が設けられており、天井材11及び横部材の下面は、天井板に接していること」 (6)甲第6号証 ア 甲第6号証の記載 (ア)第57頁の「風除用の建具」である図5は、以下のとおりである。 「 」 第57頁上図の「鴨居、端まで通す」との記載、及び「鴨居ライン」の点線の位置から、鴨居の長さ方向両端には縦枠があり、上側と両端の縦枠とを有した建具用枠が、開口部に嵌め込み固定されていると解することができる。 よって、第57頁上図から、以下のことが読み取れる。 「廊下と入口の間の開口部に固定され、鴨居と両側の縦枠を有する建具用枠に風除用建具を建て付け、建具用枠が開口部内に嵌め込み固定されていること。」 また、第57頁下図から以下のことが読み取れる。 「建具用枠の鴨居の上に、鴨居下地が設けられ、 鴨居下地の見込み方向両側に鴨居下地横部材が設けられ、 これら両側の鴨居下地横部材と鴨居下地の下面にP.B9.5t下地が設けられ、 P.B9.5t下地近傍に至る上下寸法とされた風除用建具が建具用枠に建て付けられていること。」 (イ)第203頁の記載 「ある現場で「鴨居を天井に埋め込むのは手間が掛かる」と聞いた伊礼さんは、すぐさまその納まりを、野縁に枠を留めてから石膏ボードを張るディテールに変更しました。ところが、別の大工から、見た目にきれいなのは以前の方法だと提案があり、次の現場からは元に戻したことがありました。」 (ウ)第205頁の「2008年」の図は、以下のとおりである。 「 」 上記(イ)の記載を合わせてみると、以下のことが看て取れる。 「建具用枠の鴨居の上側に鴨居下地が配置され、 鴨居と鴨居下地の両側に鴨居横部材が配置され、 鴨居横部材の下面にP.B下地が固定され、 P.B下地近傍に至る上下寸法とされた引戸が建具用枠に建て付けられていること。」 イ 甲第6号証に記載された発明 上記ア(ア)から、甲第6号証には以下の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。 「廊下と入口の間の開口部に固定され、鴨居と両側の縦枠を有する建具用枠に風除用建具を建て付けた建具施工構造であって、 建具用枠は開口部内に嵌め込み固定されており、 建具用枠の鴨居の上に、鴨居下地が設けられ、 鴨居下地の見込み方向両側に鴨居下地横部材が設けられ、 これら両側の鴨居下地横部材と鴨居下地の下面にP.B9.5t下地が設けられ、 P.B9.5t下地近傍に至る上下寸法とされた風除用建具が建具用枠に建て付けられている、建具施工構造。」 ウ 甲第6号証に記載された事項 上記ア(イ)及び(ウ)から、甲第6号証には以下の技術事項(以下、「甲6技術事項」という。)が記載されていると認められる。 「建具施工構造において、建具用枠の鴨居の上側に鴨居下地が配置され、 鴨居と鴨居下地の両側に鴨居横部材が配置され、 鴨居横部材の下面にP.B下地が固定され、 P.B下地近傍に至る上下寸法とされた引戸が建具用枠に建て付けられていること。」 5 当審の判断 (1)特許法第29条第1項第3号について ア 分割要件について (ア)子出願が親出願に対し分割要件を満たすかについて 親出願の段落【0002】には、背景技術として、「上枠や上レールが大きく露出し、見栄え上の観点等から改善が望まれていた。」ことが記載されており、段落【0005】には、発明が解決しようとする課題として、「出入開口の見栄えを向上させながらも施工性を向上し得る開口構造及び開口施工方法を提供することを目的としている。」と記載されている。 上記の記載を参酌すれば、「上枠」を「大きく露出」させないことにより、「出入開口の見栄えを向上させ」るとの技術思想も含まれると解され、子出願の【請求項1】の記載、特に、「開口部の前記上枠下地によって構成される天面を天井面よりも上側に位置するように設け、前記上枠の長手方向両端に前記両側の縦枠をそれぞれ接合して前記建具用枠を三方枠状に枠組みした後に、該建具用枠を前記開口部内に嵌め込み固定し、前記建具用枠の上枠の見込み方向両側に沿わせるように、かつ前記開口部の幅方向に架け渡すように天井パネル下地用の桟材をそれぞれ固定し、これら両側の桟材の下面と下面が略同一平面状とされた他の天井下地及び前記桟材の下面に天井パネルを固定し」との記載により、「上レール」の構成が記載されていなくても、「上枠」を「大きく露出」させないことにより、「出入開口の見栄えを向上させ」るとの技術効果を有しているものと認められる。 してみると、子出願の記載は、新たな技術的事項を導入するものではないから、新規事項を含むものには該当せず、親出願に対し分割要件を満たすものと認められる。 (イ)孫出願である本件発明に係る出願が子出願に対し分割要件を満たすかについて 子出願には、「建具施工方法」の発明が記載されているが、それによってできた「建具施工構造」が存在するのは明らかであるから、「建具施工構造」が記載されているのは明らかである。 したがって、孫出願である本件発明に係る出願は、子出願に対し分割要件を満たす。 (ウ)孫出願である本件発明に係る出願が親出願に対し分割要件を満たすかについて 親出願の段落【0002】には、背景技術として、「上枠や上レールが大きく露出し、見栄え上の観点等から改善が望まれていた。」ことが記載されており、段落【0005】には、発明が解決しようとする課題として、「出入開口の見栄えを向上させながらも施工性を向上し得る開口構造及び開口施工方法を提供することを目的としている。」と記載されている。 上記の記載から参酌すれば、「上枠」を「大きく露出」させないことにより、「出入開口の見栄えを向上させ」るとの技術思想も含まれると解され、本件発明1の特定、特に、「前記建具用枠の上枠が固定される上枠下地によって構成される前記開口部の天面は、天井面よりも上側に位置するように設けられ」との特定により、「上レール」の構成が記載されていなくても、「上枠」を「大きく露出」させないことにより、「出入開口の見栄えを向上させ」るとの技術効果を有しているものと認められる。 してみると、孫出願である本件発明に係る出願は、新たな技術的事項を導入するものではないから、新規事項を含むものには該当せず、親出願に対し分割要件を満たすものと認められる。 (エ)上記(ア)ないし(ウ)により、孫出願である本件発明に係る出願は分割要件を満たすものであるから、親出願である特願2012-215681号の出願日である平成24年9月28日にされたものとみなす。 なお、申立人は、異議申立書の第30頁第2行?第13行において、「本件第1発明は、上レールを特定していないことから・・・新たな広範な発明を特定している。他方で本件特許に係る出願の原出願の原出願・・・の出願当初の明細書等には、そのような発明は記載されていない。すなわち、原々出願・・・には、上レール部の見栄えを改善することを発明の課題とし、上レールを必須の構成とする発明であることが一貫として記載されているのであり(当該明細書記載の全ての変形例も上レールの存在を前提としている)、上レールを含まず開口部に天井パネルのみ張られた発明は記載されていない。また、「建具施工構造」という事項は記載されていない。よって、本件第1発明に係る出願の出願日は、原々出願の発明日に遡及せず現実の出願日である2017年12月15日である・・・。」と主張するが、上記のとおり、「上レール」が特定されていなくても、新たな技術的事項を導入しているものとは認められない。また、親出願に「建具施工構造」との用語が記載されていなくても、建具を建て付けるために施工された構造が記載されているのは明らかであるから、分割要件を満たさないとはいえない。 よって、申立人の主張は採用できない。 イ まとめ 甲第7号証は、平成26年4月21日に公開されており、甲第7号証に記載された発明は、孫出願である本件発明に係る出願前に頒布された刊行物に記載された発明ではない。 よって、本件発明1及び2は、甲第7号証に記載された発明によっては新規性は否定されない。 (2)特許法第29条第2項について ア 本件発明1について (ア)甲1発明を主発明として a 対比 (a)甲1発明において、「洗面所と浴室の間の開口部」に「設けられ」る「建具」は、本件発明1の「建物の開口部」の「建具」に相当する。 (b)縁甲板は、天井パネルとして一般的に使われるものであるから、甲1発明における、「サワラ縁甲板」は、「天井パネル」であると解することができる。 (c)本件発明1の「天井面近傍に至る上下寸法とされた前記建具」との特定では、「建具」は、「天井面」のある程度近傍であればよいものと解されるから、甲1発明の「吊りレール上部材の下面に至る上下寸法とされている」「建具」も含まれると認められる。 すると、本件発明1と甲1発明は、以下の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「建物の開口部に建具を設けた建具施工構造であって、 天井面近傍に至る上下寸法とされた前記建具が設けられている、建具施工構造。」 (相違点1) 本件発明1では、「建物の開口部に固定され、上枠と両側の縦枠とを有した建具用枠に建具を建て付け」ており、「建具用枠の上枠が固定される上枠下地によって構成される前記開口部の天面は、天井面よりも上側に位置するように設けられ、」「建具用枠」は「開口部内に嵌め込み固定され」ているのに対し、甲1発明では、そのような構成が特定されていない点。 (相違点2) 本件発明1では、「前記建具用枠の上枠の見込み方向両側に沿うように、かつ前記開口部の幅方向に架け渡されるように天井パネル下地用の桟材がそれぞれ固定され、これら両側の桟材の下面に天井パネルが固定され」ているのに対し、甲1発明では、そのような構成が特定されていない点。 b 判断 (a)相違点1について 甲1発明において、「吊りレール上部材」の下方の「吊りレール側方部材」の「下面には、サワラ縁甲板が設けられて」いるから、甲1発明の「吊りレール上部材」の下面は、「天井面よりも上側に位置するように設けられ」ている。 しかしながら、甲1発明において、「吊りレール側方部材」と「吊りレール上部材」の構成、機能、他の部材との固定関係が不明であるため、「吊りレール側方部材」が「建具用枠の上枠」であることや、「吊りレール上部材」が「建具用枠の上枠が固定される上枠下地」であることまでは認定できない。 そして、甲第2号証や甲第3号証に記載されるように、「上枠と両側の縦枠とを有した建具用枠を建物の開口部に設けること」は周知事項であるとしても、甲1発明の「吊りレール側方部材」が「上枠」であり、「吊りレール上部材」が「上枠下地」であるかどうか不明である以上、甲1発明に、上記周知の建具用枠をどのように適用するかについて、当業者であっても明らかとはいえない。 してみると、甲1発明において、相違点1に係る構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 (b)相違点2について 甲第1号証の第126頁の各図によれば、「横部材」は、開口部の見込み方向両側に設けられ、下面には天井パネル設けられているとは認められるものの、「横部材」の長さ方向の構成や、天井パネルとの関係が不明であるため、「横部材」が、「開口部の幅方向に架け渡され」た「天井パネル下地用の桟材」であるかは不明であり、また、「天井パネルが固定され」ているかも不明である。 仮に、この点が当業者にとって自明の構成であるとしても、上記(a)で説示したとおり、「吊りレール側方部材」が、「建具用枠の上枠」であるかは不明であるため、甲第1号証に、「桟材」が、「前記建具用枠の上枠の見込み方向両側に沿うように」設けられているかは不明である。 してみると、相違点2は実質的な相違点であり、また、甲1発明において、「吊りレール側方部材」が、「建具用枠の上枠」であるか不明である以上、甲第2号証ないし甲第6号証を参酌しても、相違点2に係る構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 c 申立人の主張について 申立人は、異議申立書の第11頁第1行?第4行において、「以上の各図より、・・・吊りレールは上枠の凹溝に嵌め込まれ、当該上枠は上枠下地に固定されていることが看て取れる。」と主張するが、甲第1号証の第126頁の下図では、「レール側方部材」(申立人が「上枠」としているもの)に凹溝が設けられて吊りレールが嵌め込まれていることは認められない上、他にこれが「上枠」であると認める根拠もないから、申立人の主張は採用できない。 なお、甲1発明の第126頁の下図において、「レール側方部材」が「サワラ縁甲板」に接していることから、「天井下地材」である可能性もある。そうであるとすると、天井下地材と建具用枠の上枠は機能が異なるものであるから、上記周知技術を参酌しても、「レール側方部材」を、「開口部に嵌め込み固定」される「建具用枠の上枠」とすることは、当業者にとって容易とはいえない。 また、申立人は、異議申立書の第12頁第17行?第21行において、「他方で、甲1には、建物の開口部に設けられた上枠の見込み方向両側に沿って桟材が架け渡され、両側の桟材の下面に天井パネルが固定され、・・・第126頁下図の右側の天井パネルが右側の桟材で支持されていることから明らかである。」と主張するが、第126頁下図は見込み方向の断面を示したものに過ぎず、「横部材」(申立人が「桟材」としているもの)の長さ方向の構成や天井パネルとの関係まで看て取れるとはいえないから、申立人の主張は採用できない。 d 小括 本件発明1は、甲1発明、甲2発明及び甲3技術事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (イ)甲2発明を主発明として a 対比 (a)甲2発明の「開口部5」は、本件発明1の「開口部」に相当し、以下同様に「障子20」が「建具」に、「左右の縦枠」が「両側の縦枠」に、「上枠11」が「上枠」に、「天井下地材6」が「上枠下地」に相当する。 (b)天井を天井パネルから構成することは一般的なことであるから、甲2発明の「天井2」は、天井パネルを備えているものと認められる。 (c)本件発明1の「天井面近傍に至る上下寸法とされた前記建具」との特定では、「建具」は、「天井面」のある程度近傍であればよいものと解されるから、甲2発明の「天井2位置に設けられた上枠11」に設けられる「障子20」も含まれると認められる。 すると、本件発明1と甲2発明は、以下の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「建物の開口部に固定され、上枠と両側の縦枠とを有した建具用枠に建具を建て付けた建具施工構造であって、 前記建具用枠の上枠が固定される上枠下地によって構成される前記開口部の天面は、天井面よりも上側に位置するように設けられ 前記天井面近傍に至る上下寸法とされた前記建具が前記建具用枠に建て付けられている、建具施工構造。」 (相違点a) 本件発明1では、「前記開口部内に嵌め込み固定された前記建具用枠の上枠の見込み方向両側に沿うように、かつ前記開口部の幅方向に架け渡されるように天井パネル下地用の桟材がそれぞれ固定され」ているのに対し、甲2発明では、そのような構成が特定されていない点。 b 判断 甲2発明において、「天井仕上材横部材」の下面には天井パネルが設けられている。 しかしながら、甲1発明、甲4ないし甲6技術事項には、下記のとおり、上記相違点aに係る「開口部内に嵌め込み固定された前記建具用枠の上枠の見込み方向両側に沿うように、かつ前記開口部の幅方向に架け渡されるように天井パネル下地用の桟材がそれぞれ固定され」るとの構成が特定されていない。 甲1発明において、「吊りレール側方部材」が「上枠」であるとは認定できないから、「建具用枠の上枠」が特定されておらず、したがって、「天井パネル下地用の桟材」を、「建具用枠の上枠の見込み方向両側に沿うように」、かつ「開口部の幅方向に架け渡されるように」固定することは特定されていない。 また、甲4技術事項には、上レールを保持する「上レール保持部2」の両側に「天井下地材3」を設けることが特定されているのみであり、「上レール保持部2」は「建具用枠の上枠」とはいえないから、「建具用枠の上枠の見込み方向両側に沿うように」桟材を固定することは特定されていない。 また、甲5技術事項には、上レールを保持する部材「天井材11」の両側に「横部材」を設けることが特定されているのみであり、「天井材11」は「建具用枠の上枠」とはいえないから、「建具用枠の上枠の見込み方向両側に沿うように」固定される「天井パネル下地用の桟材」は特定されておらず、また、かつ「開口部の幅方向に架け渡されるように」固定されることも特定されていない。 また、甲6技術事項には、「建具用枠の上枠」(建具用枠の鴨居)の両側に鴨居横部材を配置することは特定されているものの、この鴨居横部材が、「開口部の幅方向に架け渡されるように」固定される「天井パネル下地用の桟材」であるかは特定されていない。 また、他の証拠にも上記相違点aに係る構成が記載されているとはいえない。 してみると、甲2発明において、相違点aに係る構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 c 申立人の主張について 申立人は、異議申立書の第19頁第19行?第21行において、「建具を建て付ける構造において、桟材を上枠に沿うように固定することは従来周知の技術であり・・・当業者が適宜選択しうる程度の設定的事項にすぎない。」と主張するが、上記のとおり、甲第1号証、甲第4号証ないし第6号証は、周知技術であることを示す証拠ではないから、申立人の主張は採用できない。 仮に、「開口部内に嵌め込み固定された」、「建具用枠の上枠の見込み方向両側に沿うように、かつ前記開口部の幅方向に架け渡されるように天井パネル下地用の桟材がそれぞれ固定され」ることが周知事項であったとしても、甲2発明において、「天井下地材6」は、天井下地材の機能を有する以上、「天井2」に接して設けられることが想定されているというべきであり、「天井下地横部材」が「上枠11」に沿うように「天井下地材6」を「天井2」から離間して設けることは、技術常識からみて、当業者が行い得ることではない。 d 小括 本件発明1は、甲2発明、甲1発明及び甲4ないし甲6技術事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)甲6発明を主発明として a 対比 (a)甲6発明における「廊下と入口の間の開口部」は本件発明1の「建物の開口部」に相当し、以下同様に、「鴨居」は「上枠」に相当し、「開口部内に嵌め込み固定され」る「鴨居と両側の縦枠を有する建具用枠」は「開口部内に嵌め込み固定された」「上枠と両側の縦枠とを有した建具用枠」に相当し、「鴨居下地」は「上枠下地」に、「風除用建具」は「建具」に相当する。 (b)甲6発明において、「P.B9.5t下地」は、プラスターボードの下地を意味することは明らかであるから、本件発明1の「天井パネル」に相当する。 (c)甲6発明において、「鴨居下地の下面にP.B9.5t下地が設けられ」ることは、本件発明1の「上枠下地によって構成される前記開口部の天面は、天井面よりも上側に位置するように設けられる」ことに相当する。 (d)甲6発明において、「風除用建具」が、「P.B9.5t下地近傍に至る上下寸法とされた」ことは、本件発明1の「建具」が、「天井面近傍に至る上下寸法とされた」ことに相当する。 すると、本件発明1と甲6発明は、以下の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「建物の開口部に固定され、上枠と両側の縦枠とを有した建具用枠に建具を建て付けた建具施工構造であって、 上枠下地によって構成される前記開口部の天面は、天井面よりも上側に位置するように設けられ、 建具用枠は、前記開口部内に嵌め込み固定されており、 前記天井面近傍に至る上下寸法とされた前記建具が前記建具用枠に建て付けられている、建具施工構造。」 (相違点A) 上枠下地について、本件発明1では、「建具用枠の上枠が固定される」のに対し、甲6発明ではその構成が特定されていない点。 (相違点B) 本件発明1では、「建具用枠の上枠の見込み方向両側に沿うように、かつ前記開口部の幅方向に架け渡されるように天井パネル下地用の桟材がそれぞれ固定され、これら両側の桟材の下面に天井パネルが固定され」るのに対し、甲6発明ではその構成が特定されていない点。 b 判断 (相違点Aについて) 建具用枠の上枠をどの部材に固定するかは、当業者が適宜決定し得ることであり、甲6発明において、上枠を上枠下地に固定して、相違点Aに係る構成を得ることは、当業者が適宜なし得ることである。 (相違点Bについて) 甲6発明において、「鴨居下地横部材」の下面には天井パネルが設けられている。 しかしながら、上記(イ)bにおいて説示したように、甲1発明、甲4ないし甲6技術事項には、「建具用枠の上枠の見込み方向両側に沿うように、かつ前記開口部の幅方向に架け渡されるように天井パネル下地用の桟材がそれぞれ固定され」ることは特定されていない。 また、他の証拠にも上記相違点Bに係る構成が記載されているとはいえない。 してみると、甲6発明において、相違点Bに係る構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 c 申立人の主張について 申立人は、異議申立書の第29頁第3行?第7行において、「しかしながら、・・・建具を建て付ける構造において、桟材を上枠に沿うように固定することは従来周知の技術であり(甲1、4、5、甲6(甲6:第205頁))、・・・当業者が適宜選択しうる程度の設定的事項にすぎない。」と主張するが、上記(イ)と同様に、甲第1号証、甲第4号証ないし第6号証は、周知技術であることを示す証拠ではないから、申立人の主張は採用できない。 仮に、「開口部内に嵌め込み固定された」、「建具用枠の上枠の見込み方 向両側に沿うように、かつ前記開口部の幅方向に架け渡されるように天井パネル下地用の桟材がそれぞれ固定され」ることが周知事項であったとしても、甲6発明において、「鴨居下地」の機能が不明であり、その下面と天井パネルの上面が同一面に設けられているという位置関係及び技術常識からみて、「鴨居下地」は天井下地材である蓋然性が高い以上、天井パネルに接する位置に設けられることが想定されているというべきであり、相違点Bに係る構成のように、「鴨居下地横部材」を「鴨居」に沿うように配置することも、「鴨居下地」を天井パネルから離間して設けることも当業者が行い得ることではない。 d 小括 本件発明1は、甲6発明、甲1発明及び甲4ないし甲6技術事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (エ)甲第7号証について 上記(1)で説示したとおり、甲第7号証は、平成26年4月21日に公開されており、甲第7号証に記載された発明は、孫出願である本件発明に係る出願前に頒布された刊行物に記載された発明ではない。 よって、本件発明1は、甲第7号証に記載された発明によっては進歩性は否定されない。 イ 本件発明1についてのまとめ 本件発明1は、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに構成を限定したものであるから、上記アに示した理由と同様の理由により、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によって、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-07-23 |
出願番号 | 特願2017-240142(P2017-240142) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(E06B)
P 1 651・ 113- Y (E06B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 新井 夕起子 |
特許庁審判長 |
秋田 将行 |
特許庁審判官 |
富士 春奈 住田 秀弘 |
登録日 | 2018-11-02 |
登録番号 | 特許第6425151号(P6425151) |
権利者 | パナソニックIPマネジメント株式会社 |
発明の名称 | 建具施工構造 |