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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E04H
審判 全部申し立て 2項進歩性  E04H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E04H
管理番号 1354116
異議申立番号 異議2019-700459  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-05 
確定日 2019-08-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6433803号発明「屋根構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6433803号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6433803号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成27年2月5日に出願され、平成30年11月16日にその特許権の設定登録がされ、平成30年12月5日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和元年6月5日に特許異議申立人 中川 賢治(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

2 本件発明
特許第6433803号の請求項1及び2の特許に係る発明(以下、「本件発明1」等といい、全体を「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
フィールドの周囲に配置される観客席と、
前記観客席における背面側の角部を平面視にて斜めに横切る支持梁と、前記支持梁を支持する一対の支持柱と、を有し、前記観客席の幅方向両側に配置される一対の支持架構と、
前記角部の外側に配置される角柱と、
前記角柱と前記一対の支持柱とをそれぞれ連結して組柱を形成する連結梁と、
前記一対の支持架構の前記支持梁間に掛け渡され、屋根を支持する屋根梁と、
を備える屋根構造。
【請求項2】
前記屋根梁は、前記屋根上に配置されると共に、前記支持梁の長手方向の中央部間に掛け渡される、
請求項1に記載の屋根構造。」

3 申立理由の概要
(1)取消理由1(新規性要件違反)
本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、請求項1及び2に係る特許は、取り消されるべきものである。
(2)取消理由2(進歩性要件違反)
本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1及び2に係る特許は、取り消されるべきものである。
(3)取消理由3(明確性要件違反)
本件発明1及び2は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであり、請求項1及び2に係る特許は、取り消されるべきものである。
(4)取消理由4(サポート要件違反)
本件発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて請求するものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、請求項1及び2に係る特許は、取り消されるべきものである。

[証拠]
甲第1号証:奥出 久人ほか, 「三方向メガトラスを用いた大空間免震屋根の構造設計(その1)」?「三方向メガトラスを用いた大空間免震屋根の構造設計(その5)」,2014年度大会(近畿)学術講演梗概集 建築デザイン発表梗概集(DVD),一般社団法人日本建築学会,2014年7月20日,p.899?908
甲第2号証:「市立吹田サッカースタジアム」,新建築,株式会社新建築社,2015年12月1日,第90巻 第15号,p.68?79

4 証拠の記載事項
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載
(ア)「1.はじめに
本編では、三方向メガトラス構造(以下「3Dトラス構造」と呼ぶ)を用いた大空間屋根を、免震支承で支持した大規模スタジアムの構造設計について報告する。本トラス構造を適用した吹田市立スタジアムは、・・・サッカー専用スタジアムである。・・・
2.建物概要および構造計画
建物の平面形状は、長軸約210m、短軸約160mである。(図2)地上6階建のRC造フレーム柱頭に設置された免震支承上に「3Dトラス構造屋根」を設定している。(図3)
屋根架構は、長辺(X)方向と短辺(Y)方向に対して45°方向に架ける最大トラスせい9mの4本の台形型T1トラス(青色)、T1トラス間にX方向、Y方向に架ける平行弦のT2トラス(赤色)、T3トラス(黄色)が各2本の合計4本、T1トラスから隅角部に架ける8本の三角形T4トラス(緑色)により構成される。」(第899頁左欄第1行?第18行)

(イ)第899頁 図2 3階平面図



第899頁 図2から以下のことが看て取れる。
「フィールドの周囲に、4つの台形状のスタンド(ホームスタンド、バックスタンド、アウェイスタンド、メインスタンド)が配置されていること。」

(ウ)第899頁 図4 屋根モデル



上記(ア)の記載も合わせてみると第899頁 図4から以下のことが看て取れる。
「一対のT1トラスが、スタジアムの長辺(X)方向または短辺(Y)方向の両側に配置されていること。」

(エ)第905頁 図2 解析モデル




第905頁 図2は、「解析モデル」ではあるものの、実物の屋根架構をモデル化していると解される。
(ア)の記載も合わせてみると、以下のことが看て取れる。
「屋根架構が、隅角部に設けられる隅柱と、T1トラスを支持する一対の主柱により支持されていること。」

イ 甲第1号証に記載された発明
上記アより、甲第1号証には、下記の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「フィールドの周囲に4つの台形状のスタンドが配置されたスタジアムであって、
屋根架構が、スタジアムの長辺(X)方向または短辺(Y)方向両側に配置される、X方向とY方向に対して45°方向に架ける一対のT1トラスと、T1トラス間にX方向、Y方向に架けるT2トラス、T3トラスとを有し、T1トラスを支持する一対の主柱と、屋根架構の隅角部に設けられる隅柱により支持されている、
スタジアム。」

5 当審の判断
(1)特許法第29条第1項第3号について
ア 本件発明1について
(ア)対比
a 甲1発明における「スタンド」は、本件発明1の「観客席」に相当する。
b 甲1発明において、「台形状」のスタンドには、角部があることは明らかである。そして、甲1発明において、スタンドと屋根架構の位置関係は特定されていないが、「台形状」のスタンドの角部も、「X方向とY方向に対して45°方向に架けるT1トラス」も、スタジアムの四隅部にあることに鑑みれば、「T1トラス」は、本件発明1のように、「観客席における背面側の角部を平面視にて斜めに横切」っている蓋然性が高い
してみると、甲1発明の「X方向とY方向に対して45°方向に架けるT1トラス」は、本件発明1の「観客席における背面側の角部を平面視にて斜めに横切る支持梁」に相当する。
c 甲1発明における「T1トラスを支持する一対の主柱」は、本件発明1の「支持梁を支持する一対の支持柱」に相当し、以下同様に、「T1トラス」と「主柱」を合わせたものは、「支持架構」に相当する。
そして、甲1発明において、「スタジアムの長辺(X)方向または短辺(Y)方向」は「観客席の幅方向」であり、一対の「T1トラス」が「スタジアムの長辺(X)方向または短辺(Y)方向両側」に配置されていることから、本件発明1のように、「一対の支持機構」が「観客席の幅方向両側に配置され」ていると解される。
d 甲1発明において、スタンドと屋根架構の位置関係は特定されていないが、隅柱は、スタンドからの視界を考慮してスタンドの後方外側に配置されることが一般的であるから、「屋根架構の隅角部に設けられる隅柱」は、本件発明1のように、「角部の外側に配置され」ていると考えるのが自然である。
e 甲1発明における「T1トラス間にX方向、Y方向に架けるT2トラス、T3トラス」は、屋根を支持していることは明らかであるから、本件発明1の「一対の支持架構の前記支持梁間に掛け渡され、屋根を支持する屋根梁」に相当する。
f 甲1発明における「スタンド」と「屋根架構」と「隅柱」と「主柱」を合わせたものは、本件発明1の「屋根構造」に相当する。

してみると、本件発明1と甲1発明は、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「フィールドの周囲に配置される観客席と、
前記観客席における背面側の角部を平面視にて斜めに横切る支持梁と、前記支持梁を支持する一対の支持柱と、を有し、前記観客席の幅方向両側に配置される一対の支持架構と、
前記角部の外側に配置される角柱と、
前記一対の支持架構の前記支持梁間に掛け渡され、屋根を支持する屋根梁と、
を備える屋根構造。」

(相違点)
本件発明1が、「前記角柱と前記一対の支持柱とをそれぞれ連結して組柱を形成する連結梁」を有するのに対し、甲1発明では、そのような構成が特定されていない点。

(イ)判断
甲第1号証において、角柱と支持柱の位置が示されている上記4(1)ア(エ)をみても、「前記角柱と前記一対の支持柱とをそれぞれ連結して組柱を形成する連結梁」は記載されておらず、また相違点に係る構成は技術常識でもない。
また、甲第1号証には、「角柱」と「支持柱」が屋根架構を構成する他の部材(屋根小梁や外周梁)を介して連結されていることについては説明がなく、仮に、「角柱」と「支持柱」が、屋根架構を構成する他の部材を介して連結されているとしても、その部材の強度について解析されておらず、「組柱を形成する」といえるほどの構造上の強度や機能を有するものとはいえない。
してみると、相違点に係る構成は、甲第1号証に記載されたものではない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、相違点に係る構成について、異議申立書の第16頁に下記のとおり図示して、甲第1号証には連結梁が記載されている旨主張する。

上記図面によれば、「隅柱」が連結された屋根架構の外周梁の、ややフィールド側において、「主柱」がT1トラスと連結されているように見受けられるため、申立人の主張するように、屋根架構の外周梁に「主柱」が連結されているとは認められない。
仮に、申立人の主張するように、「隅柱」と「主柱」が、屋根架構の外周梁によって連結されているとしても、上述のとおり、屋根架構の外周梁は、「組柱を形成する」といえるほどの構造上の強度や機能を有するものとは限らないから、申立人の主張は採用できない。

イ 本件発明1についてのまとめ
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。

ウ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに構成を限定したものであるから、上記アに示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明ではない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるということはできない。

(2)特許法第29条第2項について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明は、上記(1)における相違点と同様の一致点及び相違点を有する。

(イ)判断
相違点に係る構成について記載された証拠はなく、また、該構成は証拠を示すまでもない周知技術とは認められない。
また、本件発明1の相違点に係る構成により、本件発明の発明の詳細な説明の段落【0035】のように、「角柱38と一対の支持柱34A,34Bとを連結梁40によってそれぞれ連結することにより、支持架構32がより安定する。そのため、支持架構32を観客席14から構造的に切り離して独立させることができる。」との技術的効果を奏するものであるから、該構成は設計的事項ではない。。

してみると、甲1発明において、相違点に係る構成を得ることは、当業者であっても容易であるとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、異議申立書の第20頁第16行?第18行において、「他に相違部分があるとしても、当該相違部分は微差にすぎず、設計上の都合で当業者が適宜採用する程度の相違にすぎず、甲1発明をもとに、周知技術を適用することで当業者が容易に想到することができる」と主張するが、上記(イ)で説示したとおり、相違点に係る構成は設計的事項ではないから、申立人の主張は採用できない。

イ 本件発明1についてのまとめ
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに構成を限定したものであるから、上記アに示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。

(3)特許法第36条第6項第2号について
ア 申立人は、明確性要件について、以下のとおり主張している。
(ア)「本件特許発明1には、「観客席における背面部の角部を平面視にて斜めに横切る支持梁」と記載されているが、「背面部の角部」がどの部分を指すのか不明確である。」(異議申立書第24頁第10行?第11行)。
なお、上記について、申立人は、異議申立書第22頁において、下記図面とともに、「本来、上記図2の青丸印部分を、支持梁36が横切っていなければならないのに、そのようになっていない。」(異議申立書第22頁第15行?第16行)と説明している。

(イ)「本件特許発明1は、「屋根構造」に係る発明であるところ、「観客席」を備えることを必須の要件としているため、「屋根構造」の意味内容が不明確となっている(観客席を備えるものを屋根構造とは呼ばない)。」(異議申立書第24頁第21行?第22行)。

(ウ)「本件特許発明2は、「中央部」との文言が用いられているが、これが「中央」のみ指しているのか、それとも「中央」近傍をも含むのか不明である」(異議申立書第25頁第2行?第3行)。

イ 上記アの主張について検討する。
(ア)申立人は、異議申立書第22頁において、青丸印部分を、上記ア(ア)における図面のとおり、「観客席における背面部の角部14K」として定めている。
しかしながら、本件発明の発明の詳細な説明を参酌しても、観客席の「背面14B」と「側面14C」の交点と「支持梁36」が近接している必要性は認められず、上記交点と「支持梁36」が離れていても、「支持梁36」が「観客席における背面部の角部」を構成する「背面14B」と「側面14C」の両方を斜めに横切れば良いものと解される。
してみると、申立人の「本来、上記図2の青丸印部分を、支持梁36が横切っていなければならないのに、そのようになっていない。」との主張は採用できないし、「観客席における背面部の角部」がどの部分を示すか明確でないとはいえない。
よって、上記ア(ア)の申立人の主張は採用できない。

(イ)「屋根構造」という発明において、どのようなものを特定事項に含めるかは、出願人が特許を受けようとする発明に応じて、出願人によって決められるべきものである。そして、「観客席を備えるものを屋根構造とは呼ばない」との申立人の主張には根拠がなく、また、「屋根構造」という発明に「観客席」という特定事項を含めてならない理由も見いだせない。
よって、上記ア(イ)の申立人の主張は採用できない。

(ウ)本件発明の発明の詳細な説明の段落【0034】には、「観客席14の幅方向両側に立てられた支持柱34Aに屋根梁を架け渡す場合と比較して、屋根梁50のスパンL_(1)を短くすることができる(L_(1)<L_(0))。したがって、屋根梁50の必要断面積や、屋根梁50に対する補強等が軽減されるため、屋根梁50の施工コストを削減することができる。」と記載され、段落【0043】には、「また、上記実施形態では、両側の支持梁36の長手方向の中央部36A1間に屋根梁50を架設した例を示したが、上記実施形態はこれに限らない。屋根梁50は、そのスパン(長手方向の長さ)が観客席14の幅よりも短くなるように一対の支持梁36間に架設されていれば良い。」と記載されている。
上記記載によれば、本件発明1が、屋根梁50のスパンを観客席14の幅よりも短くできるとの技術的効果が奏せられる程度に、屋根梁50と支持梁36が接続されている構成を含むのは明らかであるから、本件発明2において、「中央部」とは、中央のみならず、中央近傍も含むことは当業者にとって自明であるものと認められる。
よって、上記ア(ウ)の申立人の主張は採用できない。

ウ まとめ
本件発明1及び2が明確性要件違反であると認めることはできない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものである。

(4)特許法第36条第6項第1号について
ア 申立人は、サポート要件について、概略、以下のとおり主張している。
「本件特許発明1には、「観客席における背面側の角部を平面視にて斜めに横切る支持梁」と記載されているが、本件明細書において、支持梁は、「観客席における背面側の角部」を横切っていない。」(異議申立書第24頁第15行?第17行)

イ 上記アの主張について検討する。
上記(3)イ(ア)において説示したように、申立人が「観客席における背面側の角部」として定めている、上記(3)ア(ア)における図面の青印部分は、本件発明の発明の詳細な説明に基くものではなく、適切なものとはいえない。
そして、図2において、「支持梁36」が、「観客席における背面側の角部」を構成する、観客席の「背面14B」と「側面14C」の両方を斜めに横切っていることは明らかである。
よって本件発明の明細書には、本件発明1の、「支持梁」が「観客席における背面側の角部を平面視にて斜めに横切る」ことが記載されている。
したがって、申立人の主張は採用できない。

ウ まとめ
本件発明1及び2がサポート要件違反であると認めることはできない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。

6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によって、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-07-31 
出願番号 特願2015-21303(P2015-21303)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (E04H)
P 1 651・ 121- Y (E04H)
P 1 651・ 113- Y (E04H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 土屋 保光  
特許庁審判長 秋田 将行
特許庁審判官 住田 秀弘
富士 春奈
登録日 2018-11-16 
登録番号 特許第6433803号(P6433803)
権利者 株式会社竹中工務店
発明の名称 屋根構造  
代理人 加藤 和詳  
代理人 福田 浩志  
代理人 中島 淳  

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