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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A41D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A41D
審判 全部申し立て 2項進歩性  A41D
管理番号 1354124
異議申立番号 異議2019-700230  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-03-25 
確定日 2019-08-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6397826号発明「マスク」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6397826号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6397826号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成26年11月27日(優先権主張 平成25年11月29日 日本国)を国際出願日とする特許出願であって、平成30年 9月 7日にその特許権の設定登録(特許掲載公報平成30年 9月26日発行)がされた。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成31年 3月25日 :特許異議申立人山口利男(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和 1年 5月27日付け:取消理由通知
同年 7月26日 :特許権者による意見書の提出

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」
ないし「本件発明10」といい、これらをあわせて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
マスク本体と、該マスク本体の横方向両端部に形成された耳掛け部と、を備え、前記マスク本体の一部が重なることで複数のプリーツが形成されたマスクであって、
前記複数のプリーツは、ヒートシールによって形成された溶着部で止められており、
前記溶着部は、前記マスク本体の横方向両側で縦方向に等間隔で直線状に形成され、
隣り合う前記溶着部の間隔が3mm以上であることを特徴とするマスク。
【請求項2】
前記マスク本体の横方向両端部は、サイドテープによって覆われていることを特徴とする請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
前記サイドテープは、前記耳掛け部と同じ素材からなり、
前記耳掛け部が、前記サイドテープに取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載のマスク。
【請求項4】
前記溶着部は、前記サイドテープと前記マスク本体とを重ね合わせてヒートシールすることで形成されたことを特徴とする請求項2又は3に記載のマスク。
【請求項5】
前記サイドテープで覆われた前記マスク本体の横方向両端部には、前記複数のプリーツがヒートシールによって仮止めされた仮溶着部が、前記溶着部よりも前記マスク本体の横方向で外側に形成されており、
前記縦方向における、前記仮溶着部の数は、前記溶着部の数よりも少ないことを特徴とする請求項2?4のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項6】
前記仮溶着部の少なくとも一部は、前記溶着部と前記縦方向においてオーバーラップしていることを特徴とする請求項5に記載のマスク。
【請求項7】
前記縦方向における、隣り合う前記仮溶着部の最小間隔は、前記溶着部の間隔よりも大きいことを特徴とする請求項5又は6に記載のマスク。
【請求項8】
前記マスク本体の上端部及び下端部には、前記マスク本体の横方向に延びる、ヒートシールによって形成された横方向溶着部が形成され、
前記縦方向における前記溶着部の間隔は、前記横方向における前記横方向溶着部の間隔よりも大きいことを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項9】
前記マスク本体には、前記マスク本体の着用者の顔面に当接する側の横方向両端部に前記顔面と前記マスク本体との隙間を覆うようにサイドブロックが設けられていることを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項10】
前記マスク本体には、前記マスク本体の着用者の顔面に当接する側の下端部に前記着用者の顎部を収容する顎部収容ポケットが設けられていることを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載のマスク。

第3 取消理由の概要
1 通知した取消理由
令和 1年 5月27日付けの取消理由通知書で通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由
取消理由通知で採用しなかった特許異議申立書の申立理由の概要は以下のとおりである。
(1)特許法第29条第2項(進歩性)
甲第1号証 実用新案登録第3150339号公報
甲第2号証 特開2014-128387号公報
甲第3号証 特開2009-200号公報
甲第4号証 特開2000-189528号公報
甲第5号証 特開2012-161370号公報
甲第6号証 特開2010-63675号公報
(以下甲第1ないし6号証を、それぞれ「甲1」ないし「甲6」という。)
本件発明1ないし10は、甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)及び甲2ないし甲6の記載事項及び従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、実施例1、2について仮溶着部の特徴や、溶着部及び仮溶着部の大きさや形状が具体的に記載されておらず、当該技術分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が本件発明1ないし10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第4 当審の判断
1 通知した取消理由(特許法第36条第6項第1号:サポート要件)
(1)上記取消理由は、具体的には「個々の溶着部の形状(例えば、大きさ、長さ等)により、マスク横方向端部の柔らかさは変化することが明らかであるから、単に、間隔が3mm以上であることを特定するだけでは、マスク横方向端部が柔らかいことを意味するとは直ちにはいえず、本件発明1ないし10は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。」というものである。

(2)しかし、本件発明における個々の溶着部の形状については、以下ア?オの事項を踏まえて解釈する必要がある。
ア マスクの素材としては、一般に不織布が用いられているが、その主たる目的は、不織布の柔軟性にある。一方、本件発明のような複数のプリーツが形成されたマスクは、ヒートシールによって形成された溶着部で止められているが、該溶着部は不織布がヒートシールによって硬化するため、柔軟性が失われる。したがって、不織布の柔軟性をできるだけ維持するためには、溶着部を小さくする必要があることは明らかである。しかしながら、溶着部を小さくしすぎると、そもそもの溶着という機能を発揮できないので、溶着性を発揮しつつ、できるだけ小さな溶着部にする、すなわち溶着性及び柔軟性の観点から、溶着部の大きさや長さ等を必要最小限に抑えるというのが、当該技術分野における一般的な技術常識である。
イ そして、実際にマスクを製造する際には、不織布にプリーツを形成し、溶着ロールを回転させながら、溶着ロールの下を不織布を移動させて、連続的に溶着部を形成する方法が一般的である。その際に一定以上の長さの溶着部を形成するように連続溶着すると、溶着と移動により生じた不織布のたわみに逃げどころがなくなり、シワ、穴等の不良部を生じ、均一に溶着することができなくなる。これは、不織布には多くの素材において伸張性があることに加え、完全に平坦ではないことから生じる現象である。したがって、製造上の観点からも、溶着部の大きさや長さには一定の限度があり、シワや穴等の不良部を生じさせずに溶着性が発揮できるように、溶着部の長さ・大きさを必要最小限に抑えるというのが当該技術分野における一般的な技術常識である。
ウ このことは、本件特許明細書の【0042】?【0048】及び図9?13に比較例1?5として出願当時に市販されていたマスクについて記載されており、溶着部の長さや大きさについて直接の記載はないものの、写真を含めた各図面における溶着部の大きさや上記記載の内容を参酌すると、図9のマスクの溶着部の間隔d1は約2mm、図10のマスクの溶着部の間隔d1は約2mm、図11のマスクの溶着部の間隔d13は1mm、図12のマスクの溶着部の間隔d1は約1mm、図13のマスクの溶着部の間隔d1は約0.5mmであるとともに、これらのマスクの溶着部の大きさが図9?12のマスクについては溶着部の間隔と同程度であり、図13のマスクについては溶着部の間隔の数倍程度であることからも推認される。
エ この点、本件発明は、「装着したときにマスク本体の側部が顔面に良く密着し、マスク本体と顔面との間に隙間ができるのを抑制して、マスク内への微粒子の侵入を抑制可能なマスクを提供すること」(本件特許明細書【0006】)を課題として、これを解決するために、「隣り合う溶着部22の間隔d1をあえて広く、特に3mm以上となるように、隣り合う溶着部22の間隔を確保することにより、マスク横方向端部を柔らかく」(同【0019】)するものである。本件特許の各請求項には、個々の溶着部の形状について具体的に特定されていないが、これらが大きく長いものであれば上記課題を解決しないから、本件発明では個々の溶着部の長さや大きさがある程度小さいものに限られることは明らかである。
オ しかも、本件特許明細書の【0018】には、「この縦方向において隣り合う溶着部22の間隔d1は、少なくとも3mm以上、好ましくは4mm以上、さらに好ましくは5mm以上となるように形成されている。・・・また、隣り合う溶着部22間の中心間距離は5mm以上が好ましく、6mm以上がより好ましく、7mm以上がさらに好ましい。」と記載されている。当該記載について、隣り合う溶着部22の間隔d1の「少なくとも3mm以上」、「好ましくは4mm以上」、「さらに好ましくは5mm以上」の寸法は、隣り合う溶着部22間の中心間距離の「5mm以上が好ましく」、「6mm以上がより好ましく」、「7mm以上がさらに好ましい」の寸法にそれぞれ対応するものと解するのが自然であり、溶着部の長さは中心間距離と間隔との差に等しいことから、上記記載のいずれの寸法においても溶着部22の長さは2mmとなる。このことから、本件特許明細書の実施例のものでは、個々の溶着部の大きさとして2mm程度のものを想定していることが推認される。

(3)上記(2)ア?オで指摘した事項を総合すると、一般的に本件発明のような複数のプリーツが形成されてヒートシールによる溶着部で止められたマスクでは、個々の溶着部について必要最小限の大きさとすることが技術常識であり、本件発明の課題や本件特許明細書の記載もあわせて考慮すれば、本件発明の個々の「溶着部」は、必要以上に大きく、長いということはなく、その大きさ・長さは必要最小限の1mmや2mm程度のものを意味すると解される。したがって、本件発明1ないし10が、「溶着部の間隔が3mm以上であること」との発明特定事項により、マスク横方向端部を柔らかいものとして発明の課題を解決すること、すなわち発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものであることは明らかである。

(4)なお、特許法第36条第6項第1号の要件(サポート要件)について、申立人は本件特許異議申立書で以下のとおり主張している。
「本件特許明細書における比較例(図9-13)は、市販のマスクを使用するものである。これらのマスクは、溶着部のみならず、マスクの様々な部位の構造や材料が実施例1,2のそれとは異なると考えられる。・・・つまり、実施例1,2のマスクについては、市販品よりも優れた濡れ率を示した、ということはできても、間隔d1が約5mmとなるようにマスクを作製したから、市販品よりも優れた濡れ率を示したと結論づけることはできない。換言すると、本件特許発明1において、間隔d1を3mm以上と規定する根拠は見当たらない。・・・特許出願時の技術常識を以てしてもその数値の範囲内で課題を解決できると当業者が認識できる程度に実施例や説明が記載されているともいえない。」
上記主張について検討すると、本件発明の課題と解決手段は上記(2)エで指摘したとおりであり、本件特許明細書の【0019】にはさらに詳細に「本実施形態では、網目シールを採用せず、さらに隣り合う溶着部22の間隔d1をあえて広く、特に3mm以上となるように、隣り合う溶着部22の間隔を確保することにより、マスク横方向端部を柔らかくしている。溶着部22自体は一度溶けて固まっているため硬いが、その数を減らすことによって、マスク横方向端部の柔らかさを増すようにしている。このように、マスク横方向端部を柔らかくすることで、マスク本体10の着用者の顔面に対する形状馴染み性を良くすることができる。」と記載されている。この記載により、間隔d1を3mm以上と規定することでマスク横方向端部を柔らかくし、上記課題を解決することについての技術的根拠が明確に示されている。また、実施例1、2と比較例1?5との試験結果において、漏れ率の差異は必ずしも間隔d1の差異のみから生じているものとはいえないものの、溶着部の配置と漏れ率との関係から上記技術的根拠が一定程度確からしいことが推認できる。したがって、間隔d1を3mm以上と規定した本件発明が上記課題を解決できるものであることは、発明の詳細な説明の記載から当業者にとって明らかである

(5)以上のことから、本件発明1ないし10は、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するから、その特許は、同法第113条第4号に該当することを理由として取り消されるべきものではない。

2 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由
(1)特許法第29条第2項
ア 本件発明
本件発明1ないし10は、上記第2に記載したとおりである。

イ 文献の記載
(ア)甲1には、図面とともに次の記載がある。
a 「【0030】
本例のマスク5は、鼻部及び口部を覆うマスク本体6と、このマスク本体6の両側縁に備えた耳掛け部7と、マスク本体6に設けられ、液剤が含浸されるマスク用液剤含浸シート1を挿脱自在に収容するポケット部8とで構成されている。」
b 「【0038】
図5乃至図7は本発明に係るマスクの実施の形態の第2実施例を示したもので、図5は本例に係るマスクの裏面を示す平面図、図6は図5に示すマスクにおいてプリーツを広げた状態を示す斜視図、図7は図5のB-B線断面図である。第1実施例と同じ部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0039】
本例のマスク17は、基シート9にポケット用シート10が重ねられたマスク本体18に、所定幅で折り返されて横方向にプリーツ加工が施され、横方向に複数のプリーツ19が形成されている。本例では、マスク本体18の上半分と下半分とで逆方向に折り返されるようにして、マスク本体18へのプリーツ加工が施されている。また、基シート9とポケット用シート10とは、その下端縁及び両端縁を熱溶着又は超音波溶着からなる接着線11をもって接着されており、この両端部に形成された接着線11が、プリーツ19の広がりを押さえるプリーツ押さえ線20となっている。」
c 以上の記載を総合し、本件特許の請求項の記載ぶりに倣って整理すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「マスク本体18と、該マスク本体18の両側縁に形成された耳掛け部7と、を備え、前記マスク本体18が所定幅で折り返されて横方向に複数のプリーツ19が形成されたマスク17であって、前記複数のプリーツ19は、熱溶着によって形成された接着線11で接着されているマスク17。」
(イ)また、甲2ないし甲6には、マスクの具体的な構成が記載されている。

ウ 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「マスク本体18」は、その構成及び機能からみて、本件発明1の「マスク本体」に相当し、以下同様に、「マスク本体18の両側縁に形成された耳掛け部7」は「マスク本体の横方向両端部に形成された耳掛け部」に、「プリーツ19」は「プリーツ」に、「接着線11」は「溶着部」に、「マスク17」は「マスク」に相当する。
また、甲1発明の「前記マスク本体18が所定幅で折り返されて横方向に複数のプリーツ19が形成された」ことは、本件発明1の「前記マスク本体の一部が重なることで複数のプリーツが形成された」ことに相当する。
また、甲1発明の「前記複数のプリーツ19は、熱溶着によって形成された接着線11で接着されている」ことは、本件発明1の「前記複数のプリーツは、ヒートシールによって形成された溶着部で止められて」いることに相当する。
(イ)してみると、本件発明1と甲1発明との一致点・相違点は以下のとおりである。
【一致点】
「マスク本体と、該マスク本体の横方向両端部に形成された耳掛け部と、を備え、前記マスク本体の一部が重なることで複数のプリーツが形成されたマスクであって、前記複数のプリーツは、ヒートシールによって形成された溶着部で止められているマスク」である点。
【相違点】
溶着部について、本件発明1は「マスク本体の横方向両側で縦方向に等間隔で直線状に形成され、隣り合う前記溶着部の間隔が3mm以上である」のに対し、甲1発明は具体的な配置が明らかでない点。

エ 判断
上記相違点について検討する。
甲1発明の接着線11は、特に甲1の図5に示される接着線11の配置を参酌すれば、「マスク本体の横方向両側で縦方向に等間隔で直線状に形成され」たものといえるが、隣り合う接着線11の間隔については明らかでない。
そして、隣り合う接着線11の間隔を本件発明1のように3mm以上とすることについては、甲1ないし甲6のいずれにも記載されておらず、当業者にとって自明なものでもない。
また、本件発明1は上記のように特定されることで、マスク横方向端部を柔らかくし、装着したときにマスク本体の側部が顔面に良く密着し、マスク本体と顔面との間に隙間ができるのを抑制して、マスク内への微粒子の侵入を抑制可能なマスクを提供する、という格別の有利な効果(以下「本件発明の有利な効果」という。)を奏する。

オ 申立人の主張
申立人は本件特許異議申立書において、上記相違点について以下とおり主張している。
(ア)「本件特許発明1において溶着部の間隔を3mm以上とすることは臨界的な意義を有さず、進歩性のない単なる設計事項にすぎないことが明らかである。」(以下「主張1」という。)
(イ)「これら各号証からは、縦方向で隣り合う溶着部の間隔(間隔d1に相当するもの)が、甲第1,2,4,6号証では比較的に大きく、甲第5号証では比較的に小さくなっていることを看取できる。このことから、本件特許発明の出願時において、溶着部の間隔、すなわち間隔d1を大きくしたり、小さくしたりすることは、当業者にとって公知であったといえる。そうであれば、実験的に隣り合う溶着部どうしの間隔を大きくしたり小さくしたりして、濡れ率の調整を試みたりすることは、当業者の通常の創作能力の発揮であるということができる。」(以下「主張2」という。)
まず、上記主張1について検討すると、溶着部の間隔を広くする(3mm以上とする)ことにより、本件発明1の有利な効果(上記エ参照。)を奏するものであるから、上記溶着部の間隔の数値範囲には、一定程度の臨界的意義があるといえる。そして、このような効果は、甲1ないし6には記載されておらず、これらの文献とは異なる課題を解決した異質な効果であって、本件特許の出願時の技術水準から予測し得たものであったとも認められないから、本件発明1の進歩性は否定されるものではない。
次に上記主張2について検討すると、溶着部の間隔をある程度の範囲で選択できることが公知であったとしても、上記間隔を本件発明1の範囲とすることまで公知であったとはいえず、また、その範囲とすることで本件発明の有利な効果を奏するのであるから、これが当業者にとって容易であったとはいえない。
したがって、申立人の上記主張1及び2は当を得たものではなく、採用できない。

カ まとめ
以上のことから、本件発明1は、甲1発明及び甲1ないし甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、本件発明2ないし10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を直列的に加えたものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明及び甲1ないし甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明1ないし10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、その特許は、同法第113条第2号に該当することを理由として取り消されるべきものではない。

(2)特許法第36条第4項第1号
当該申立理由について、申立人は本件特許異議申立書で以下のとおり主張している。
ア 「実施例1,2において溶着部に接近して形成された仮溶着部がマスク横方向端部の柔らかさに影響しないとする根拠は、本件特許の明細書には見当たらない。それとは反対に、段落0029,0030には、仮溶着部36によって形状馴染み性が阻害される旨の記載がある。したがって、本件特許

発明は、仮溶着部の存在を無視して溶着部だけの間隔を規定するということのできないものである。」(以下「主張3」という。)
イ 「溶着部と仮溶着部の大きさと形状を特定することのできない実施例1,2は、当業者といえども実施することができない。」(以下「主張4」という。)

まず、上記主張3について検討する。本件特許明細書の【0029】【0030】の記載から、仮溶着部は形状馴染み性を阻害する可能性があるところ、数を少なくすることや溶着部と位置を一致させるように配置することで形状馴染み性の阻害を抑制できることが理解される。
また、実施例1、2の模式図である【図7】(b)及び【図8】(b)と、第2及び第3実施形態を示す【図3】?【図6】の仮溶着部36の配置とを照らし合わせれば、実施例1、2には第2及び第3実施形態と同様の仮溶着部が設けられたものと推認できる。そして、【0050】の【表1】で示されるとおり、この実施例1、2は漏れ率が低いことから、上記各図面で示される態様で仮溶着部を設けた場合には、本件発明の有利な効果を奏することが理解される。
してみると、仮溶着部を設ける場合であっても、上記【図3】?【図8】の仮溶着部の配置を参酌しつつ、【0029】や【0030】の記載に沿って仮溶着部の数や配置を調整することで、当業者が本件発明を実施し得たことは明らかである。
次に上記主張4について検討すると、溶着部の大きさや形状は、上記1で検討したとおり技術常識や本件明細書等の記載内容からおよその範囲を理解することができる。また、仮溶着部についても同様である。したがって、本件特許明細書に具体的な記載がないとしても、上記の理解に基づくおよその範囲をもとに、当業者が溶着部及び仮溶着部の大きさや形状を適宜調整して本件発明を実施し得たものである。
したがって、申立人の上記主張3及び4は当を得たものではなく、採用できない。

してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1ないし10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件に適合するから、その特許は、同法第113条第4号に該当することを理由として取り消されるべきものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立理由によっては、本件発明1ないし10に係る特許を取り消すことができない。また、他に本件発明1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-08-14 
出願番号 特願2015-551000(P2015-551000)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A41D)
P 1 651・ 537- Y (A41D)
P 1 651・ 536- Y (A41D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲高▼辻 将人  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 西尾 元宏
横溝 顕範
登録日 2018-09-07 
登録番号 特許第6397826号(P6397826)
権利者 興和株式会社 サンエムパッケージ 株式会社
発明の名称 マスク  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

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