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審決分類 審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する B23B
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する B23B
審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する B23B
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する B23B
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する B23B
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する B23B
審判 訂正 判示事項別分類コード:857 訂正する B23B
管理番号 1354377
審判番号 訂正2019-390061  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2019-05-28 
確定日 2019-07-22 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4325254号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4325254号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。  
理由 1.手続きの経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第4325254号は、平成15年3月31日に出願され、平成21年6月19日に設定登録がされ、平成21年9月2日に特許掲載公報が発行され、令和1年5月28日に本件訂正審判の請求がされたものである。

2.請求の趣旨
本件審判の請求の趣旨は、特許第4325254号の明細書を、審判請求書に添付した訂正明細書のとおり、すなわち、以下の(1)ないし(14)に示す訂正事項のとおり訂正することを求めるものである。(なお、下線部は、訂正の前後での訂正箇所を意味する。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「弾性体はオーリングであり」と記載されているところを「弾性体はフッ素ゴム製オーリングであり」と訂正した上で、請求項1を引用する請求項2を下記のように独立項形式に書き下す(請求項2を直接的または間接的に引用する請求項3及び4においても同様に訂正する。)。
「回転自在な回転軸と、外輪がハウジングに固定されると共に内輪が前記回転軸の一端に外嵌する固定側軸受と、前記回転軸の他端側に配設され前記ハウジングに嵌合して前記回転軸の軸方向に移動可能とされたスリーブと、内輪が前記回転軸の他端に外嵌すると共に外輪が前記スリーブに固定されて前記固定側軸受と共働して前記回転軸を回動自在に支持する自由側軸受と、を備え、前記回転軸の他端を軸方向に変位可能としたスピンドルユニットであって、
前記ハウジングと前記スリーブとの嵌合面に前記ハウジングと前記スリーブとの間をシールする弾性体を備えると共に、前記弾性体に圧力を負荷する流体を供給して前記弾性体を変形する手段を備え、前記弾性体の変形による剛性の変化を利用して自励振動の減衰率を変更するように構成し、
前記弾性体はフッ素ゴム製オーリングであり、前記流体は圧縮空気であって、複数本配設された前記オーリングの間に前記圧縮空気を供給して前記オーリングに圧力を負荷するようにしたことを特徴とするスピンドルユニット。」

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の「請求項1又は」との記載を削除する(請求項3を直接的に引用する請求項4についても同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4の「請求項1から請求項3」との記載を「請求項2又は請求項3」と訂正する。

(5)訂正事項5
明細書段落【0008】の「請求項1に」との記載を「請求項2に」と訂正する。

(6)訂正事項6
明細書段落【0010】の「また、本発明に係る請求項2に記載したスピンドルユニットは、請求項1に記載のスピンドルユニットであって、前記弾性体はオーリングであり、前記流体は圧縮空気であって、複数本配設された前記オーリングの間に前記圧縮空気を供給して前記オーリングに圧力を負荷するようにしたことを特徴としている。」との記載を「また、本発明に係る請求項2に記載したスピンドルユニットは、前記弾性体はフッ素ゴム製オーリングであり、前記流体は圧縮空気であって、複数本配設された前記オーリングの間に前記圧縮空気を供給して前記オーリングに圧力を負荷するようにしたことを特徴としている。」と訂正する。

(7)訂正事項7
明細書段落【0012】の「請求項1又は」との記載を削除する。

(8)訂正事項8
明細書段落【0016】の「請求項1から請求項3」との記載を「請求項2又は請求項3」に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書段落【0023】の「また、弾性体は、オーリング10に限定されるものではなく、シール性を有するゴムパッキンや金属製パッキンなどであってもよい。」との記載を削除する。

(10)訂正事項10
明細書段落【0030】の「A)ニトリルゴム」との記載を削除する。

(11)訂正事項11
明細書段落【0032】の【表1】からニトリルゴムに関する記載を削除し、下記のように訂正する。



(12)訂正事項12
明細書段落【0034】の【表2】からニトリルゴムに関する記載を削除し、下記のように訂正する。



(13)訂正事項13
明細書段落【0037】の「また、締め代の変化量に対するラジアル剛性の変化量は、ニトリルゴム製オーリングよりフッ素ゴム製オーリングのほうが大きい。」との記載を削除する。

(14)訂正事項14
明細書段落【0038】の「また、締め代が小さい方が圧縮空気供給によるラジアル剛性の変化量が大きい。更に、圧縮空気供給によるラジアル剛性の変化量は、フッ素ゴム製オーリングの方がニトリルゴム製オーリングより大きくなっている。」との記載を削除する。

3.当審の判断
(1)特許法第126条第1項、第5項ないし第7項について
上記の各訂正事項に係る訂正が、特許法第126条第1項、第5項ないし第7項に適合するかどうかについて、以下に検討する。

ア.訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前特許請求の範囲の【請求項1】を削除するものであり、特許法第126条第1項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、単に請求項1を削除するものに過ぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たす。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、単に請求項1を削除するものに過ぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかであり、特許法第126条第6項に規定する要件を満たす。

(エ)独立特許要件について
訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるところ、訂正後における特許請求の範囲に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとする理由を発見しないから、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合するものである。

イ.訂正事項2について
(ア)訂正の目的について
訂正前請求項2は訂正前請求項1を引用するものであったところ、訂正事項1により訂正前請求項1を削除することに伴い、独立項形式に書き下すものであるから、訂正事項2は、特許法第126条第1項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、訂正前請求項2の発明特定事項のうち「弾性体はオーリングであり」との記載を「弾性体はフッ素ゴム製オーリングであり」と特定するものであるから、訂正事項2は、特許法第126条第1項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正でもある。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2のうち、他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正は、実質的な内容の変更を伴わないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかである。
訂正事項2のうち、オーリングをフッ素ゴム製オーリングに特定する訂正は、訂正前明細書段落【0029】乃至【0040】に記載の実施例において用いられているオーリング材質がフッ素ゴムであることに基づくから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第5項に規定する要件を満たす。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2のうち、他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正は、実質的な変更を伴わないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかである。
訂正事項2のうち、オーリングをフッ素ゴム製オーリングに特定する訂正は、訂正前の発明特定事項である「オーリング」をさらに「フッ素ゴム製オーリング」に特定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第6項に規定する要件を満たす。

(エ)独立特許要件について
訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものであるところ、訂正後における特許請求の範囲に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとする理由を発見しないから、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合するものである。

ウ.訂正事項3及び4について
(ア)訂正の目的について
訂正事項3及び4は、訂正事項1による請求項1の削除に伴い、削除された請求項1を引用しなくなることにより、請求項3及び4の内容が減縮されるから、特許法第126条第1項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする。また、訂正事項1による訂正前請求項1の削除に伴い、削除された請求項1を請求項3及び4が引用することは明瞭でない記載となるから、訂正事項3及び4は、特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正でもある。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3及び4は、引用関係を整理するものであって、実質的な内容の変更を伴わないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかである。
したがって、訂正事項3及び4は、特許法第126条第5項に規定する要件を満たす。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3及び4は、引用関係を整理するものであって、実質的な内容の変更を伴わないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかである。
したがって、訂正事項3及び4は、特許法第126条第6項に規定する要件を満たす。

(エ)独立特許要件について
訂正事項3及び4に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものであるところ、訂正後における特許請求の範囲に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとする理由を発見しないから、訂正事項3及び4に係る訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合するものである。

エ.訂正事項5、7及び8について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1による訂正前請求項1の削除に伴い、明細書中の請求項1に関連する記載が訂正後特許請求の範囲との関係で不明瞭になる。訂正事項5、7及び8は、発明の詳細な説明の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるものであり、特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5、7及び8は、訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるべく、発明の詳細な説明の記載を訂正するものに過ぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかである。
したがって、訂正事項5、7及び8は、特許法第126条第5項に規定する要件を満たす。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5、7及び8は、訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるべく、発明の詳細な説明の記載を訂正するものに過ぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかである。
したがって、訂正事項5、7及び8は、特許法第126条第6項に規定する要件を満たす。

オ.訂正事項6について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1による訂正前請求項1の削除に伴い、訂正前明細書段落【0010】の「請求項1に記載のスピンドルユニットであって」との記載が訂正後特許請求の範囲との関係で不明瞭になる。また、訂正事項2による訂正前請求項2の発明特定事項のうち「オーリング」を「フッ素ゴム製オーリング」に特定したから、単なる「オーリング」との記載は訂正後特許請求の範囲との関係で不明瞭になる。
訂正事項6は、発明の詳細な説明の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるものであり、特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項6は、訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるべく、発明の詳細な説明の記載を訂正するものに過ぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかである。
したがって、訂正事項6は、特許法第126条第5項に規定する要件を満たす。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項6は、訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるべく、発明の詳細な説明の記載を訂正するものに過ぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかである。
したがって、訂正事項6は、特許法第126条第6項に規定する要件を満たす。

カ.訂正事項9ないし14について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2により、訂正後請求項2において「弾性体」を「フッ素ゴム製オーリング」に特定したことに伴い、その他の材料製のオーリングに関する記載は、訂正後特許請求の範囲との関係で不明瞭になる。
訂正事項9ないし14は、発明の詳細な説明の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるものであり、特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項9ないし14は、訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるべく、弾性体がフッ素ゴム製オーリング以外であってもよい旨の記載を削除するものに過ぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかである。
したがって、訂正事項9ないし14は、特許法第126条第5項に規定する要件を満たす。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項9ないし14は、訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるべく、発明の詳細な説明の記載を訂正するものに過ぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかである。
したがって、訂正事項9は、特許法第126条第6項に規定する要件を満たす。

4.むすび
したがって、本件審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
スピンドルユニット
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
回転自在な回転軸と、外輪がハウジングに固定されると共に内輪が前記回転軸の一端に外嵌する固定側軸受と、前記回転軸の他端側に配設され前記ハウジングに嵌合して前記回転軸の軸方向に移動可能とされたスリーブと、内輪が前記回転軸の他端に外嵌すると共に外輪が前記スリーブに固定されて前記固定側軸受と共働して前記回転軸を回動自在に支持する自由側軸受と、を備え、前記回転軸の他端を軸方向に変位可能としたスピンドルユニットであって、
前記ハウジングと前記スリーブとの嵌合面に前記ハウジングと前記スリーブとの間をシールする弾性体を備えると共に、前記弾性体に圧力を負荷する流体を供給して前記弾性体を変形する手段を備え、前記弾性体の変形による剛性の変化を利用して自励振動の減衰率を変更するように構成し、
前記弾性体はフッ素ゴム製オーリングであり、前記流体は圧縮空気であって、複数本配設された前記オーリングの間に前記圧縮空気を供給して前記オーリングに圧力を負荷するようにしたことを特徴とするスピンドルユニット。
【請求項3】
前記弾性体に圧力を負荷する前記流体の圧力は、可変であることを特徴とする請求項2に記載のスピンドルユニット。
【請求項4】
前記弾性体は、複数個の弾性体によって1セットとなる弾性体セットが複数セット配置されると共に、両端に配置された前記弾性体セットは、一方の前記弾性体セットが前記スリーブに配設され、他方の前記弾性体セットが前記ハウジングに配設されたことを特徴とする請求項2又は請求項3のいずれかに記載のスピンドルユニット。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、スピンドルユニットに関し、より詳細には、高速回転するスピンドルユニットの剛性を高めて回転軸の振動を低減できるスピンドルユニットに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、スピンドルユニットは、高速回転時の発熱等によって回転軸が軸方向に伸縮したとき、該軸方向変位を吸収できるように、一方の軸受(自由側軸受)が、ハウジングに嵌合して軸方向に移動可能とされたスリーブに固定されている。ハウジングとスリーブとの嵌合は、単純なはめあいとした滑り面方式や軸方向に移動可能なボールブッシュを用いたボールスライド方式、等が知られている。回転軸の自由端側を支持するスリーブには、スライド性と共に、ラジアル剛性及びアキシャル方向の振動減衰性が要求される。
【0003】
ハウジングとスリーブとの嵌合が滑り面方式の場合、発熱に伴って嵌合隙間が減少するので、初期嵌合隙間を大きく設定する必要がある。これは、スピンドルユニット回転時に回転軸の振動を増大させる一因となっていた。また、ボールブッシュを用いた嵌合のボールスライド方式の場合、発熱によって締め代が増大してスリーブの滑らかな軸方向移動が阻害されたり、アキシャル剛性が低く、回転軸のびびりと呼ばれる自励振動が生じる場合があった。
【0004】
また、回転軸の自励振動を減衰させるため、ハウジングとスリーブの間に複数枚の皿ばねを積層して配置してアキシャル剛性を高めると共に、皿ばねの摩擦によって自励振動を防止するようにしたものが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】
特開平11-138305号公報(第2-3頁、第1図)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記特許文献1に開示されているスピンドル装置は、皿ばねの摩擦によって自励振動を減衰させるようになっており、減衰力は、皿ばねのバネ常数、枚数、設置方向、等で決まる。これらの事項は、スピンドル装置の組付け時に設定されてしまうので、スピンドル装置を分解するなどして皿ばねを組み替えない限り一定不変である。言い換えると、例えば減衰率等を運転条件に最適な値に再設定するなど、回転条件に応じて特性を変更することは困難であった。
近年、スピンドルユニットの高速化が著しく、該高速化に伴って発生熱量も多くなっていることから、これに対抗し得る、より高度な回転軸の支持方法が求められている。
【0007】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い剛性を有し、かつ良好な減衰特性、スライド性に優れたスピンドルユニットを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前述した目的を達成するために、本発明に係る請求項2に記載したスピンドルユニットは、回転自在な回転軸と、外輪がハウジングに固定されると共に内輪が前記回転軸の一端に外嵌する固定側軸受と、前記回転軸の他端側に配設され前記ハウジングに嵌合して前記回転軸の軸方向に移動可能とされたスリーブと、内輪が前記回転軸の他端に外嵌すると共に外輪が前記スリーブに固定されて前記固定側軸受と共働して前記回転軸を回動自在に支持する自由側軸受と、を備え、前記回転軸の他端を軸方向に変位可能としたスピンドルユニットであって、
前記ハウジングと前記スリーブとの嵌合面に前記ハウジングと前記スリーブとの間をシールする弾性体を備えると共に、前記弾性体に圧力を負荷する流体を供給して前記弾性体を変形する手段を備え、前記弾性体の変形による剛性の変化を利用して自励振動の減衰率を変更するように構成したことを特徴としている。
【0009】
前記構成のスピンドルユニットによれば、ハウジングと、該ハウジングに嵌合して回転軸の軸方向に移動可能とされたスリーブとの嵌合面に弾性体を配置したので、該弾性体によってラジアル剛性を高めると共に、アキシャル方向の減衰率を向上させて回転軸の自励振動を防止することができる。また、弾性体に圧力を負荷する流体を供給するようにしたので、弾性体を変形させて、更にラジアル剛性を高めると共に、アキシャル方向の減衰率を向上させて回転軸の自励振動抑制効果を高めることができる。
【0010】
また、本発明に係る請求項2に記載したスピンドルユニットは、前記弾性体はフッ素ゴム製オーリングであり、前記流体は圧縮空気であって、複数本配設された前記オーリングの間に前記圧縮空気を供給して前記オーリングに圧力を負荷するようにしたことを特徴としている。
【0011】
前記構成のスピンドルユニットによれば、弾性体はオーリングとし、また流体は圧縮空気として複数本配設されたオーリングの間に圧縮空気を供給してオーリングに圧力を負荷するようにしたので、高いスライド性を維持したままラジアル剛性を高めて効果的に回転軸の自励振動を防止することができる。また、オーリングは、加工性や汎用性に富むため、複雑な製造工程を必要とせず高性能のスピンドルユニットを製作することができる。
【0012】
また、本発明に係る請求項3に記載したスピンドルユニットは、請求項2に記載のスピンドルユニットであって、前記弾性体に圧力を負荷する前記流体の圧力は、可変であることを特徴としている。
【0013】
前記構成のスピンドルユニットによれば、弾性体に圧力を負荷する流体の圧力を可変としたので、スピンドルユニットの使用条件に応じて圧力を変えて、流体の圧力による弾性体の変形量を変えることができる。また、弾性体のラジアル剛性や減衰率を使用条件に最適な値に設定して効果的に回転軸の自励振動を防止することができる。また、弾性体のラジアル剛性や減衰率の変更は、供給する流体の圧力を変えるだけで可能であり、極めて容易に変更することができる。
【0016】
また、本発明に係る請求項4に記載したスピンドルユニットは、請求項2又は請求項3のいずれかに記載のスピンドルユニットであって、前記弾性体は、複数個の弾性体によって1セットとなる弾性体セットが複数セット配置されると共に、両端に配置された前記弾性体セットは、一方の前記弾性体セットが前記スリーブに配設され、他方の前記弾性体セットが前記ハウジングに配設されたことを特徴としている。
【0017】
前記構成のスピンドルユニットによれば、複数個の弾性体によって構成した弾性体セットを、複数セット配置し、両端に配置された弾性体セットは、一方の弾性体セットをスリーブに、また他方の弾性体セットをハウジングに配設したので、組み立てが容易で、オーリングの損傷の心配が少ない。なお、スピンドルユニットに種々の負荷が作用した場合のスリーブの移動を均一且つ安定して行わせる効果は、弾性体をスリーブにのみ配設した場合及びハウジングにのみ配設した場合と同等である。さらに、スピンドルユニットに2個の弾性体を、一方はスリーブに、他方はハウジングに配設し、その弾性体の間に流体を供給する構成としても良い。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るスピンドルユニットの一実施形態を図1?図4に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態であるスピンドルユニットの縦断面図、図2は図1におけるスリーブ部を拡大して示す縦断面図、図3は図2における供給される流体の圧力によって弾性体が変形する状態を示す要部拡大断面図、図4はスリーブ部の各種特性を測定するための試験装置の要部縦断面図である。
【0019】
図1及び図2に示すように、本実施形態のスピンドルユニット1は、回転軸2と、固定側軸受である一対の転がり軸受3,4と、スリーブ5と、自由側軸受である一対の転がり軸受6,7と、ハウジング8と、スリーブハウジング9とを備えている。スリーブハウジング9は、ハウジング8に固定されており、実質的にハウジング8の一部として機能する。
【0020】
一対の転がり軸受3,4は、外輪3a,4aがハウジング8に固定されると共に内輪3b、4bが回転軸2の一端に嵌合、固定されてハウジング8との相対位置が固定された固定側軸受となっており、回転軸2を回転自在に支持している。
【0021】
スリーブ5は、回転軸2の他端側に配設されたスリーブハウジング9の孔9aに嵌合し、軸方向に移動可能に配設されている。スリーブ5とスリーブハウジング9の孔9aとの隙間Cは、スリーブ寸法、要求される剛性、回転軸2の回転に伴う発熱による熱膨張等を考慮して決められ、1?200μmの範囲から適宜選択して設計される。隙間Cが小さ過ぎると熱膨張によってスリーブ5とスリーブハウジング9の孔9aとが接触する可能性がある。また、大き過ぎるとスリーブ5の中心位置が不安定となる傾向がある。
【0022】
スリーブ5とスリーブハウジング9の孔9aとの嵌合面には、弾性体の一例であるオーリング10が両端部に2本ずつ、合計4本のオーリング10が配設されている。オーリング10は、複数本がまとめられて1つのセットを構成している。本実施形態においては、2セットのオーリング10がスリーブ5の外周面5aの両端に配置されている。
すなわち、固定側軸受に近い側に配置された2本のオーリング10は、スリーブハウジング9の孔9aに設けられたオーリング溝9bに装着される。また、固定側軸受から遠い側に配置された2本のオーリング10は、スリーブ5の外周面5aに設けられたオーリング溝5bに装着されている。なお、本実施形態の配置とは逆に、固定側軸受に近い側のスリーブ外周面にオーリング溝を設け、固定側軸受から遠い側のスリーブハウジングにオーリング溝を設ける構成も可能である。また、スリーブ外周面のみにオーリング溝を設ける構成やスリーブハウジングのみにオーリング溝を設ける構成も可能である。
【0023】
オーリング10の締め代は、オーリングの使用標準値以下、且つ使用標準値の10%以上とするのがよく、例えば内径84.5mm、太さ2mmのオーリングの場合の締め代は、0.05mm以上、0.5mm以下とするのがよい(使用標準値は通常オーリングメーカーより推奨値として提供されており、前記オーリングは約0.5mmである)。好ましくは、0.2mm?0.45mmとするのがよい。
【0024】
ここで、締め代の上限値を使用標準値以下としたのは、これより大きくすると、スリーブ5のスライド性が悪くなり、またオーリング10の変形量が大きくなってオーリング10の寿命が短くなる可能性がある。また、締め代の下限値を使用標準値の10%以上としたのは、これより小さくなるとオーリング10のシール性能が悪くなるからである。
【0025】
一対の転がり軸受6,7は、内輪6b,7bが回転軸2の他端に外嵌すると共に、外輪6a,7aがスリーブ5に嵌合し、外輪押え11によってスリーブ5に固定されており、スリーブ5と共に回転軸2の軸方向に移動可能とされた自由側軸受となっている。そして、固定側軸受3,4と共働して回転軸2を回動自在に支持している。予圧ばね12は、スリーブハウジング9と外輪押え11との間に装着されており、外輪押え11を介してスリーブ5を後方に引っ張って転がり軸受6,7及び転がり軸受3,4に予圧をかけている。なお、定圧予圧の場合、定位置予圧で予圧ばねのない場合もある。
【0026】
スリーブハウジング9には、夫々の一対のオーリング10の間に流体供給口9cが開口する流体供給路9dが設けられており、該流体供給路9dは、スピンドルユニット1の外部に配設された圧縮流体供給装置(図示せず)に接続されて、該圧縮流体供給装置から圧縮流体を供給されて一対のオーリング10の間に圧縮流体を供給するようになっている。圧縮流体供給装置は、例えばコンプレッサであり、流体は、例えば空気である。
【0027】
本実施形態の作用を説明する。本発明の一実施形態であるスピンドルユニット1は、図1及び図2に示すように、回転軸2が高速回転すると、発生する摩擦熱などによって温度が上昇する。これによって、回転軸2は軸方向に伸びるが、自由側軸受である一対の転がり軸受6,7がスリーブ5と共に軸方向(図1において右方向)に移動して熱による回転軸2の伸びを吸収する。同時に、スリーブ5は熱膨張して外径が大きくなってスリーブハウジング9との隙間Cが小さくなるので、熱膨張を予め予測して隙間Cが、例えば10μm程度に設定されている。隙間Cが大きいと、ラジアル剛性が低下するが、実際にはスリーブ5とスリーブハウジング9との間に複数本のオーリング10が締め代分、潰された状態で配設されているので、オーリング10によってラジアル剛性が高められ、回転軸2の振動が抑制されている。
【0028】
図3に示すように、圧縮流体供給装置であるコンプレッサから圧縮空気を流体供給路9dを介して矢印A方向に圧送し、一対のオーリング10の間に供給すると、オーリング溝5bに嵌合して装着されている一対のオーリング10は、互いに離れる方向に押圧されて潰れる(圧縮量c)。これによって、一対のオーリング10の剛性が更に高くなり、スリーブ5のラジアル剛性及びアキシャル剛性が高くなる。一対のオーリング10の剛性は、圧縮空気の圧力を調整してオーリング10の潰し量を調整することによって、任意の剛性を得ることができる。また、両方のオーリング10に作用する圧力は、どちらのオーリング10にも均一に作用するので、その潰し量も均一とすることができ、両方のオーリング10の剛性のバランスを維持したまま高めることができる。
【0029】
【実施例】
次に、試験装置20(一例として要部を図4に示す)を用いて行った剛性の測定結果について説明する。
試験装置20は、実機のスピンドルユニット1と同一寸法、外径85mmとしたダミースリーブ5Aに、内径85mmとしたダミーハウジング9Aを嵌合隙間150μmを持たせて嵌合して配置されている。ダミーハウジング9Aの固定軸受側(図4において左側)には2本のオーリング溝9bが設けられ、ダミースリーブ5Aの自由軸受側(図4において右側)には、同様に2本のオーリング溝5bが平行に設けられており、夫々のオーリング溝5b,9bに内径84.5mm、太さ2mmのオーリング10が装着されている。また、ダミーハウジング9Aの外周面9Aeには、電気マイクロメータのピックアップが取り付けられており、ダミーハウジング9Aの外周面9Aeの半径方向変位量(ダミーハウジング9Aの中心の変位量でもある)を電気マイクロメータ21で検出できるようになっている。
【0030】
このように構成された試験装置20に、エアシリンダ(図示せず)によってダミーハウジング9Aの外周面を矢印B方向に押圧して荷重を付与した。
上述した以外の各試験条件は以下のようである。
オーリングの素材:
B) フッ素ゴム
オーリングの締め代:A) 0.300mm
B) 0.275mm
C) 0.250mm
圧縮空気の圧力:A) 0 MPa
B) 0.49MPa
エアシリンダによるオーリング2個の負荷荷重:A) 50N
B) 100N
試験方法: オーリングの素材、オーリングの締め代、圧縮空気の圧力、エアシリンダによる荷重、の各条件をランダムに変更して試験し、その時のダミーハウジング9Aの外周面9Aeの変位量(中心の変位量)を電気マイクロメータ21で測定した。夫々の測定は、5回ずつ測定して、その平均値を測定結果とした。
【0031】
(試験結果)
圧縮空気の圧力を0MPaとしたとき(つまり圧縮空気の供給がないとき)のオーリング剛性の測定結果を、エアシリンダでダミーハウジング9Aに負荷した荷重と、中心の変位量との比として表1に示す。なお、単位は、N/μmであり数値が大きいほどラジアル剛性が大きいことを示している。
【0032】
【表1】

【0033】
圧縮空気の圧力を0.49MPaとしたときのオーリング剛性の測定結果を、エアシリンダでダミーハウジング9Aに負荷した荷重と、中心の変位量の比として表2に示す。なお、単位は、N/μmであり数値が大きいほどラジアル剛性が大きいことを示している。
【0034】
【表2】

【0035】
また、締め代0.250mmに設定したフッ素ゴム製オーリング10をランダムな装着順で装着してダミーハウジング9Aの中心位置のずれを5回測定した。そのばらつき(最大値-最小値)を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
表1から分かるように、オーリング10に圧縮空気を供給しない場合、オーリング10の締め代が大きい方がラジアル剛性が高い。
【0038】
表1及び表2から、オーリング10に圧縮空気を供給することによって、ラジアル剛性を高められることが分かる。これは、圧縮空気によってオーリング10が潰され(図3参照)、オーリング10自身の剛性が高くなったことによる。
【0039】
表3から分かるように、ダミーハウジング9Aの中心位置のずれ量のばらつきは、圧縮空気を供給しない場合は56μmであるのに対して、圧縮空気を供給すると22μmと小さくなっており、圧縮空気を供給することによって、オーリング10の形状や姿勢が安定することが分かる。
【0040】
以上の試験結果から、ハウジング8とスリーブ5の間に、複数のオーリング10を配設すると共に、オーリング10間に圧縮空気を供給することによって、ラジアル剛性を高めることができ、且つ圧縮空気の圧力を調整することにより、ラジアル剛性を任意の硬さに調整できることが理解できる。
【0041】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように本発明のスピンドルユニットによれば、ハウジングと、該ハウジングに嵌合して回転軸の軸方向に移動可能とされたスリーブとの嵌合面に弾性体を配置したので、該弾性体によってラジアル剛性を高めると共に、アキシャル方向の減衰率を向上させて回転軸の自励振動を防止することができる。また、弾性体に圧力を負荷する流体を供給するようにしたので、弾性体を変形させて、ラジアル剛性を高めると共に、アキシャル方向の減衰率を向上させて回転軸の自励振動抑制効果を高めることができる。よって、オーリングの剛性を適度に高めてスライド性を維持したまま、ラジアル剛性及びアキシャル減衰性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態であるスピンドルユニットの縦断面図である。
【図2】図1におけるスリーブ部を拡大して示す縦断面図である。
【図3】図2における供給される流体の圧力によって弾性体が変形する状態を示す要部拡大断面図である。
【図4】本発明のスリーブ部の各種特性を測定するための試験装置の要部縦断面図である。
【符号の説明】
1 スピンドルユニット
2 回転軸
3,4 固定側軸受
3a,4a 固定側軸受の外輪
3b,4b 固定側軸受の内輪
5 スリーブ
6,7 自由側軸受
6a,7a 自由側軸受の外輪
6b,7b 自由側軸受の内輪
8 ハウジング
9 スリーブハウジング
10 オーリング(弾性体)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-06-20 
結審通知日 2019-06-25 
審決日 2019-07-10 
出願番号 特願2003-96503(P2003-96503)
審決分類 P 1 41・ 857- Y (B23B)
P 1 41・ 841- Y (B23B)
P 1 41・ 853- Y (B23B)
P 1 41・ 856- Y (B23B)
P 1 41・ 851- Y (B23B)
P 1 41・ 855- Y (B23B)
P 1 41・ 854- Y (B23B)
最終処分 成立  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 小川 悟史
栗田 雅弘
登録日 2009-06-19 
登録番号 特許第4325254号(P4325254)
発明の名称 スピンドルユニット  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

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