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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1354396
審判番号 不服2018-8557  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-21 
確定日 2019-08-15 
事件の表示 特願2016-209662「レーザー光源及び該レーザー光源の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月19日出願公開、特開2017- 17365〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年12月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理平成19年12月21日・平成20年3月6日、独国)を国際出願日とする特願2010-538338号の一部を平成27年2月13日に新たな特許出願とした特願2015-26613号の一部を平成28年10月26日に新たな特許出願としたものであって、その主な手続の経緯は次のとおりである。
平成28年11月11日 :手続補正書
平成29年 9月 4日付け:拒絶理由通知書
平成29年12月 5日 :意見書・手続補正書
平成30年 2月28日付け:拒絶査定(平成30年3月5日謄本送達)
平成30年 6月21日 :審判請求書・手続補正書

なお、平成30年6月21日提出の手続補正書は、本願の特許請求の範囲の請求項1を補正するものではない。

第2 本願発明の認定
本願の請求項1?18に係る発明は、平成30年6月21日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?18に記載されたとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「半導体層列と、
フィルタ構造部とを含み、
前記半導体層列は、活性領域とビーム出力結合面を備え、前記ビーム出力結合面は第1の部分領域と、該第1の部分領域とは異なる第2の部分領域を有している、レーザー光源において、
前記活性領域は、動作モード中に、第1の波長領域のコヒーレントな第1の電磁ビームと、第2の波長領域のインコヒーレントな第2の電磁ビームとを生成し、
前記第2の波長領域は第1の波長領域を含んでおり、
前記コヒーレントな第1の電磁ビームは、前記第1の部分領域から放射方向に沿って放射され、
前記インコヒーレントな第2の電磁ビームは、前記第1の部分領域と前記第2の部分領域から放射され、
前記フィルタ構造部は、前記活性領域から放射された前記インコヒーレントな第2の電磁ビームを放射方向に沿って少なくとも部分的に減衰するように構成されており、
前記フィルタ構造部は、第1のフィルタ素子、第2のフィルタ素子、および、第3のフィルタ素子の内の少なくとも1つ、又は、その組み合わせを有しており、
前記第1のフィルタ素子は、前記放射方向で見て前記半導体層列の後方に配置され、そして、前記第1のフィルタ素子は、電磁ビームに対して非透過性の材料を有する少なくとも1つの層を有し、前記非透過性の材料は少なくとも部分的に前記第2の部分領域上に配置され、かつ、前記第1のフィルタ素子は、前記基板の表面の全体に適用されており、
前記第2のフィルタ素子は、前記放射方向と平行な方向に延在し、かつ、基板から離間した、前記半導体層列の領域上に配置され、そして、前記第2のフィルタ素子は、少なくとも1つのトレンチとして構造化された少なくとも1つの凹部を有する表面構造を有しており、かつ、前記トレンチは、前記基板まで延在しており、
前記第3のフィルタ素子は、前記放射方向と平行な方向に延在する、前記半導体層列の領域上に配置され、そして、前記第3のフィルタ素子は、粗面を有した表面構造と、非透過性材料を有した少なくとも1つの層との組み合わせを有しており、かつ、前記第3のフィルタ素子の少なくとも1つの層は、基板と、前記活性領域から離間した基板表面上の電気コンタクト層との間に配置された非透過性材料を有している
ことを特徴とするレーザー光源。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。
本願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
本願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2001-68784号公報
引用文献2:特開2003-198065号公報

第4 引用文献の記載事項等の認定
1 引用文献1
(1)原査定が引用した、本願の優先日前に前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1(特開2001-68784号公報)には、次の記載がある(下線は、当審が付した。以下同じ。)。
ア 【特許請求の範囲】、
「基板上に形成された第1導電型の窒化物半導体からなる第1のクラッド層と、前記第1のクラッド層の上に形成された窒化物半導体からなる活性層と、前記活性層の上に形成された第2導電型の窒化物半導体からなる第2のクラッド層とを有するレーザ素子本体を備え、前記レーザ素子本体における前記活性層のレーザ光出射部を除く出射端面と該出射端面と反対側の反射端面とに、前記活性層から放出される自然放出光を吸収又は反射する自然放出光防止膜が形成されていることを特徴とする半導体レーザ装置。」(【請求項8】)、
「基板上に形成された第1導電型の窒化物半導体からなる第1のクラッド層と、前記第1のクラッド層の上に形成された窒化物半導体からなる活性層と、前記活性層の上に形成された第2導電型の窒化物半導体からなる第2のクラッド層と、前記第2のクラッド層の上に形成され、前記活性層に対してストライプ状に電流を注入する電極とを備え、前記活性層におけるストライプ状の電流注入領域の側方には、該電流注入領域に沿って溝部が形成され、前記溝部には、前記活性層から放出される自然放出光を吸収する自然放出光吸収材が充填されていることを特徴とする半導体レーザ装置。」(【請求項11】)

イ 「この自然放出光は、位相が揃ったレーザ光ではないため、レーザ光に混入すると種々の悪影響を及ぼす。例えば、レーザ装置を光ディスクの光ピックアップとして用いる場合には、自然放出光成分はレーザ光の雑音となり、情報読み取り動作時のSN比を低下させる。また、レーザチップのレーザ出射端面以外から放出される自然放出光は、レーザチップが光検出器又は電子回路と集積されてなる光電子集積素子における光検出器に対するバイアス光となって検出動作に悪影響を及ぼすこととなる。」(【0010】)

ウ 「本発明に係る第4の半導体レーザ装置は、基板上に形成された第1導電型の窒化物半導体からなる第1のクラッド層と、第1のクラッド層の上に形成された窒化物半導体からなる活性層と、活性層の上に形成された第2導電型の窒化物半導体からなる第2のクラッド層とを有するレーザ素子本体を備え、レーザ素子本体における活性層のレーザ光出射部を除く出射端面と該出射端面と反対側の反射端面とに、活性層から放出される自然放出光を吸収又は反射する自然放出光防止膜が形成されている。」(【0023】)、
「第4の半導体レーザ装置によると、レーザ素子本体における活性層のレーザ光出射部を除く出射端面と該出射端面と反対側の反射端面とに、活性層から放出される自然放出光を吸収又は反射する自然放出光防止膜が形成されているため、自然放出光防止膜が活性層から第2のクラッド層の上に設けられた電極側へ放出される自然放出光の外部への漏出を防止する。なお、本明細書においてレーザ素子(チップ)本体とは、基板上に形成された共振器構造を含む複数の半導体層部分をいう。」(【0024】)

エ 「本発明に係る第6の半導体レーザ装置は、基板上に形成された第1導電型の窒化物半導体からなる第1のクラッド層と、第1のクラッド層の上に形成された窒化物半導体からなる活性層と、活性層の上に形成された第2導電型の窒化物半導体からなる第2のクラッド層と、第2のクラッド層の上に形成され、活性層に対してストライプ状に電流を注入する電極とを備え、活性層におけるストライプ状の電流注入領域の側方には、該電流注入領域に沿って溝部が形成され、溝部には、活性層から放出される自然放出光を吸収する自然放出光吸収材が充填されている。」(【0028】)、
「第6の半導体レーザ装置によると、電流注入領域の側方に該電流注入領域に沿って設けられた溝部を有し、該溝部に活性層から放出される自然放出光を吸収する自然放出光吸収材が充填されているため、自然放出光吸収材が活性層からレーザ素子本体の側面方向へ放出される自然放出光の外部への漏出を防止する。」(【0029】)、
「第6の半導体レーザ装置において、自然放出光吸収材が、シリコン又は金を含む金属からなることが好ましい。」(【0030】)

オ 「前述したように、窒化物半導体レーザ装置1Aのp側電極21及びn側電極14に対して電流を注入すると、活性層17からは、しきい値電流を超える電流が注入されている場合であっても、レーザ発振に寄与しない自然放出光が周囲に放出され続ける。さらに、発振波長が410nm程度の放出光は、サファイアからなる基板11、AlGaNからなるn型及びp型クラッド層16,18並びにGaNからなるn型及びp型コンタクト層13,19に対していずれも透明であるため、活性層17の周囲のすべての方向にわたって放出される。」(【0049】)

カ 「(第2の実施形態)以下、本発明の第2の実施形態について図面を参照しながら説明する。」(【0078】)、
「図5は本発明の第2の実施形態に係る窒化物半導体レーザ装置の断面構成を示している。図5において、図1に示す構成部材と同一の構成部材には同一の符号を付すことにより説明を省略する。本実施形態においては、第1の実施形態のように自然放出光吸収層をエピタキシャル層中に設けるのではなく、レーザチップ本体の外面上に自然放出光防止膜を設ける構成とする。」(【0079】)、
「図5に示すように、本実施形態に係る窒化物半導体レーザ装置1Eは、サファイアからなる基板11の素子形成面と反対側の面(裏面)に、活性層17からの自然放出光を吸収するか又は反射する自然放出光防止膜31Aが形成されている。」(【0080】)、
「ここで、InGaNからなる活性層17から放出される自然放出光を吸収する材料として、自然放出光のエネルギーよりも小さいエネルギーギャップを有する結晶シリコン又はアモルファスシリコンを用いる。このシリコン(Si)膜は、例えばスパッタ法等を用いて形成する。なお、Siに限らず、エネルギーギャップが自然放出光のエネルギーよりも小さく且つプロセスになじみやすい材料であればよい。」(【0081】)、
「また、活性層17から放出される自然放出光を高度に反射する材料として、例えば、Au膜、又はAuと他の金属とを積層した、例えば、Ti/Pt/Auからなる積層膜が好ましい。これらの金属膜又は積層膜は電子ビーム蒸着法又は抵抗加熱蒸着法等を用いる。」(【0082】)、
「また、自然放出光防止膜31Aの材料として、Au、Ti及びPt以外にも、Cr、Sn、Cu、Fe、Ag又はIn等の金属、又はこれらの積層膜、合金(例えば、AuとSn等)を用いる。」(【0083】)、
「さらに、吸収膜と高反射膜とを組み合わせても良く、例えば、Siからなる吸収膜の上にAuからなる高反射膜を積層すると一層効果的である。」(【0084】)、
「このように、本実施形態によると、窒化物半導体レーザ装置1Eがサブマウント2に実装された状態では、活性層17の基板11側に放出される自然放出光の漏出を防止できるため、窒化物半導体レーザ装置1Eにおける基板11側の周辺部に配置される光素子に対する光学的ノイズを除去できる。」(【0085】)

キ 「(第2の実施形態の第1変形例)以下、本発明の第2の実施形態の第1変形例について図面を参照しながら説明する。」(【0086】)、
「図6は本実施形態の第1変形例に係る窒化物半導体レーザ装置の外観を示している。図6において、図1に示す構成部材と同一の構成部材には同一の符号を付すことにより説明を省略する。図6に示すように、本変形例に係る窒化物半導体レーザ装置1Fは、レーザチップ本体における活性層のレーザ光出射部を除く出射端面上と該出射端面と反対側の反射端面上とに、活性層から放出される自然放出光を吸収又は反射する自然放出光防止膜31Bが形成されている。」(【0087】)、


「レーザ光出射部のスポットサイズは5μm角程度である。また、反射端面から例えばモニター用のレーザ光を取り出さないような場合には反射端面の全面に自然放出光防止膜31Bを形成することが好ましい。このようにすると、発振しきい値をより低減できる。」(【0088】)、
「吸収膜としては、第2の実施形態と同様にSi膜が好ましい。また、高反射膜としては、前述の金属膜でよいが、ただし、金属等の導電性膜を設ける場合には、各半導体層の電気的な短絡を防ぐため、あらかじめSiO_(2 )等からなる絶縁膜を下地層として形成しておく必要がある。」(【0089】)、
「ここで、本変形例に係る自然放出光防止膜31Bは、レーザチップ本体におけるレーザ光の共振方向と垂直な方向の端面に設けられているため、吸収膜とするよりは、反射膜とするほうが好ましい。このようにすると、自然放出光防止膜31Bで反射される自然放出光がレーザ発振に寄与できるからである。」(【0090】)、
「また、高反射膜は、例えば、SiO_(2 )/TiO_(2 )のように共に誘電体からなる積層膜を用いてもよい。この場合は、自然放出光の波長の1/4に相当する膜厚を有するSiO_(2 )膜とTiO_(2 )膜とを交互に積層することにより、例えば、6層構造とすると94%までの反射率を得ることができる。」(【0091】)、
「このように、本変形例によると、活性層17から共振器に対してほぼ平行な方向に放出される自然放出光の漏出を防止できるため、窒化物半導体レーザ装置1Fにおけるレーザ光の出射方向又は該出射方向と反対方向の周辺部に配置される光素子に対する光学的ノイズを除去できる。」(【0092】)

ク 「(第3の実施形態)以下、本発明の第3の実施形態について図面を参照しながら説明する。」(【0100】)、
「図9は本発明の第3の実施形態に係る窒化物半導体レーザ装置の断面構成を示している。図9において、図5に示す構成部材と同一の構成部材には同一の符号を付すことにより説明を省略する。図9に示すように、本実施形態に係る窒化物半導体レーザ装置1Hは、レーザチップ本体におけるp側電極21から電流が注入される電流注入領域(いわゆるストライプ領域)の側方の領域であって、p型コンタクト層19からn型コンタクト層13にまで達することにより活性層17を共振器の長手方向に分断すると共に、電流注入領域とほぼ平行に延びる溝部26がエッチングにより形成されていることを特徴とする。」(【0101】)、


「また、基板11の素子形成面と反対側の面上には、例えばシリコンからなる自然放出光防止膜31Aが形成されている。」(【0102】)、
「溝部26の壁面上には、シリコン酸化膜等からなる絶縁膜27が形成されており、溝部26は、絶縁膜27上に、例えば金(Au)のように自然放出光を吸収可能な自然放出光吸収材28が蒸着等により充填されている。」(【0103】)、
「MOVPE法によって積層されたレーザチップ本体は、総膜厚が約5μmと小さいものの、積層体からなるため、各半導体層から基板面の面内方向に放出される自然放出光も無視できない。」(【0104】)、
「本実施形態によると、レーザチップ本体における電流注入領域の側方の領域に、自然放出光吸収材28が充填された溝部26により活性層17を分断する自然放出光吸収領域が形成されているため、基板11の面内方向に放出される自然放出光を吸収させることができる。」(【0105】)、
「なお、自然放出光吸収材28としてAuを用いたが、これに限らず、Ti、Cr、Sn、Cu、Fe、Ag、Pt若しくはIn等の金属、又はこれらのうちの複数の金属(例えば、Ti/Au等)を含む積層膜や合金を用いてもよい。また、単結晶シリコン又はアモルファスシリコン等のエネルギーギャップが比較的小さい半導体を用いてもよい。」(【0106】)、
「また、本実施形態においては、レーザチップ本体における電流注入領域に対してn側電極14と反対側の領域にのみ自然放出光吸収材28を設けたが、電流注入領域に対してn側電極14側の領域に設けてもよい。」(【0107】)、
「なお、図9に示すように、電流注入領域に対してn側電極側の領域に溝部26を設けない場合でも、n側電極14とn側端子電極25との間に介在させた半田材24によって、自然放出光は吸収され得る。また、Pb及びSn等を含む半田材22の代わりに、自然放出光を吸収可能な材料、例えば、導電性接着材又は銀ペースト材を用いてもよい。」(【0108】)、
「また、この溝部26は、活性層17から導波路以外に放出される自然放出光を抑制すればよく、必ずしも電流注入領域に平行に設けられる必要はない。」(【0109】)、
「本実施形態に係る窒化物半導体レーザ装置における注入電流に対する光出力特性は、図8に示す曲線3とほぼ同等の特性を示すことを観察している。」(【0110】)、
「このように、本実施形態によると、レーザチップ本体の内部に設けられた自然放出光吸収材28、及び基板11の素子形成面と反対側の面上に設けられた自然放出光防止膜31Aにより、レーザチップから放出される自然放出光が低減されるため、コヒーレントなレーザ光を確実に得ることができる。また、光出力モニタ用のフォトダイオードに対する自然放出光の影響を小さくできるため、レーザ光の光出力の制御性を向上させることができる。」(【0111】)

ケ 「前述したように、半導体レーザチップ74の基板に、サファイア、SiC又はGaNを用いる、発振波長が400nm付近のInGaAlN系レーザ装置においては、基板が自然放出光を吸収しないため、半導体レーザチップ74から漏れる自然放出光が、発振波長が650nm程度の赤色レーザ装置の場合よりも多い。従って、本実施形態のように、半導体レーザチップ74と光出力モニタ用のフォトダイオード75との間に、自然放出光における遮光板76の通過後の減衰量が、後方光L_(b)における遮光板76の通過後の減衰量よりも多くなるように設けられた遮光板76を有する構成は極めて効果が大きい。」(【0162】)

コ 図6から、出射端面に形成された自然放出光防止膜31Bが、基板11の側面の全体に適用されていることが見て取れる。

(2)上記(1)によれば、引用文献1には、次の2つの発明(以下「引用発明1A」及び「引用発明1B」という。)が記載されていると認められる。なお、参考までに、引用発明の認定に用いた引用文献の記載箇所等を、括弧内に示してある(以下同じ)。

[引用発明1A]
「基板上に形成された第1導電型の窒化物半導体からなる第1のクラッド層と、前記第1のクラッド層の上に形成された窒化物半導体からなる活性層と、前記活性層の上に形成された第2導電型の窒化物半導体からなる第2のクラッド層とを有するレーザ素子本体を備え、前記レーザ素子本体における前記活性層のレーザ光出射部を除く出射端面と該出射端面と反対側の反射端面とに、前記活性層から放出される自然放出光を反射する自然放出光防止膜が形成されている半導体レーザ装置であって、(請求項8)
自然放出光防止膜としての高反射膜としては、金属膜を用い、(【0089】)
出射端面に形成された自然放出光防止膜31Bが、基板11の側面の全体に適用されており、(上記(1)コ)
レーザ素子本体とは、基板上に形成された共振器構造を含む複数の半導体層部分をいう、(【0024】)
半導体レーザ装置。」

[引用発明1B]
「基板上に形成された第1導電型の窒化物半導体からなる第1のクラッド層と、前記第1のクラッド層の上に形成された窒化物半導体からなる活性層と、前記活性層の上に形成された第2導電型の窒化物半導体からなる第2のクラッド層と、前記第2のクラッド層の上に形成され、前記活性層に対してストライプ状に電流を注入する電極とを備え、前記活性層におけるストライプ状の電流注入領域の側方には、該電流注入領域に沿って溝部が形成され、前記溝部には、前記活性層から放出される自然放出光を吸収する自然放出光吸収材が充填されている半導体レーザ装置。(【請求項11】)」

2 引用文献2
(1)原査定が引用した、本願の優先日前に前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2(特開2003-198065号公報)には、次の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】」、
「窒化物半導体より成るレーザ素子であって、素子内の電流路のうちレーザ光を生成する活性層に達する一方の部分が、活性層における光の共振方向に対して垂直な方向に狭窄しているものにおいて、活性層で生成されるレーザ光の波長を含む波長範囲の光を吸収する特性を有し、電流路の狭窄した部分から僅かに離間して活性層における光の共振方向に延びる光吸収部を備えることを特徴とするレーザ素子。」(【請求項1】)、
「電流路の狭窄した部分を形成するために、活性層における光の共振方向に延びるリッジ構造と、リッジ構造の側方に位置してリッジ構造に接する絶縁膜を備え、絶縁膜と活性層との間の層が溝を有し、光吸収部が絶縁膜と活性層との間の層の溝を埋めていることを特徴とする請求項1に記載のレーザ素子。」(【請求項3】)

イ 「【従来の技術】」、
「次世代の光記録再生装置用の光源には、高記録密度の実現のため、より集光径を小さくすることが可能な短波長の光を発するものが用いられる。しかし、コスト低減のために、光記録再生装置におけるレンズや記録媒体である光ディスク等に安価なプラスチック系の材料を用いることが望ましく、一般にそのような材料は吸収端が390nm程度であるため、光源が発する光の波長を400nm前後とすることが求められる。このような短波長光源には、窒化ガリウムに代表される窒化物より成る半導体レーザ素子が適する。」(【0002】)、
「窒化物半導体レーザ素子の代表的な構造は特開平9-289358号に開示されており、図13に示したようになっている。このレーザ素子は、基板側から順に、N電極111、SiC基板101、AlNバッファ層102、n-GaN層103、n-AlGaNクラッド層104、InGaN活性層105、p-AlGaNクラッド層106、p-GaNコンタクト層107、Al_(2)O_(3)保護膜109、P電極110、SiO_(2)絶縁膜112を有する。InGaNより成る活性層105を有するこのレーザ素子が発するレーザ光の波長は405nm程度である。なお、レーザ素子の上部には、素子内を流れる電流の流路を活性層105における光の共振方向に対して垂直な方向に狭窄するために、一般の長波長のレーザ素子と同様に、リッジ構造(p-クラッド層の凸部)が形成され、その傍らに絶縁性のSiO_(2)膜112が設けられている。」(【0003】)

ウ 「【発明が解決しようとする課題】」、
「上記レーザ素子における窒化物半導体層102?107およびSiC基板101は、発振波長に対してほとんど透明であって、レーザ発振時に発生する自然放出光の吸収が少ない。基板としてサファイアを使用することも一般的であり、また、窒化物半導体の光ガイド層で活性層を上下から挟む構造とすることもあるが、これらも同様である。そのため、レーザ素子の出射端面からレーザ光と共に出射する自然放出光の割合が高い。本発明者が上記構造のレーザ素子を作製して、一方の出射端面からの出力強度を測定したところ、自然放出光成分の強度は0.5?1mWであった。」(【0004】)、
「自然放出光は波長範囲(スペクトル幅)が広いため雑音が大きい。このため、レーザ素子を例えば10mW以下の低出力で動作させるときには、自然放出光成分が相対的に多くなって、全体の雑音も大きくなる。また、レーザ光の出力をステム等と共にパッケージングされたモニター用PD(フォトダイオード)の検知電流によって制御する場合、自然放出光成分の割合が大きいと、出力の揺らぎが大きくなって制御が困難になる。レーザ素子の後方に直接設置される内部PDでは、自然放出光を多く受光することになり、レーザ素子の前方に集光光学系を介して設置される外部PDでは、相対的に雑音が高くなるからである。さらに、ホログラムレーザにおいては、レーザ素子の側面等から出射する自然放出光が迷光となって、制御が困難になることもある。」(【0005】)、
「リッジ構造を有する窒化物半導体レーザ素子においては、リッジ構造の側方に設けられる絶縁膜の屈折率は一般に窒化物半導体の屈折率よりも小さく、このため、活性層からリッジ構造の側方に向かう自然放出光は、絶縁膜と窒化物半導体層の界面で反射され易い。例えば、屈折率の大きいGaNから屈折率の小さいSiO2に光が入射する場合、入射角が40゜程度以上になると全反射する。こうして反射された自然放出光は活性層側に戻ることになり、本来のレーザ光と共に出射端面から出射し易い。」(【0006】)

エ 「【課題を解決するための手段】」、
「上記目的を達成するために、本発明では、窒化物半導体より成るレーザ素子であって、素子内の電流路のうちレーザ光を生成する活性層に達する一方の部分が、活性層における光の共振方向に対して垂直な方向に狭窄しているものにおいて、活性層で生成されるレーザ光の波長を含む波長範囲の光を吸収する特性を有し、電流路の狭窄した部分から僅かに離間して活性層における光の共振方向に延びる光吸収部を備えるようにする。」(【0009】)、
「このレーザ素子では、活性層から全方位に向かう自然放出光の一部は、光吸収部に入射して吸収される。しかも、光吸収部は電流路の狭窄した部分に近接しており、したがって活性層のうち光を共振させてレーザ光とする部分に近いから、光吸収部に入射する自然放出光は多く、レーザ素子の外部に出る自然放出光は少ない。また、光吸収部はレーザ光の波長を含む波長範囲の光を吸収するから、レーザ素子の外部に出る自然放出光のうち、レーザ光と同じ波長のものは特に少ない。したがって、レーザ光の利用に際して悪影響を及ぼし易い自然放出光が大きく低減される。」(【0010】)、
「電流路の狭窄した部分を形成するために、活性層における光の共振方向に延びるリッジ構造と、リッジ構造の側方に位置してリッジ構造に接する絶縁膜を備え、絶縁膜と活性層との間の層が溝を有し、光吸収部が絶縁膜と活性層との間の層の溝を埋めている構成とすることもできる。この構成では、絶縁膜と活性層との間の層の溝を深くすることにより、光吸収部を活性層に近づけて、活性層に対する角度の小さい自然放出光も吸収することが可能になる。」(【0012】)

オ 「レーザ発振の際には共振せずに活性層16からあらゆる方向に出る自然放出光も生じるが、レーザ素子1では、その一部を吸収膜22によって吸収する。吸収膜22はMoで作製されており、レーザ光の波長を含む波長範囲に対して所定の吸収率を有する。また、Moより成る吸収膜22はAlGaNより成るp-クラッド層19よりも屈折率が大きい。吸収膜22の屈折率がp-クラッド層19の屈折率よりも小さいと、両者の界面での反射率が高くなり、入射角が大きければ全反射も生じるが、このように吸収膜22の屈折率をp-クラッド層19の屈折率と同等以上とすることで、そのような反射を防止することができる。」(【0020】)

カ 「第3の実施形態のレーザ素子3の構成を図9の縦断面図に模式的に示す。レーザ素子3は、N電極50、n-GaN基板51、n-GaN層52、n-InGaNクラック防止層53、n-AlGaNクラッド層54、n-GaNガイド層55、n-InGaN活性層56、p-AlGaNバリア層57、p-GaNガイド層58、p-AlGaNクラッド層59、p-GaNコンタクト層60、絶縁膜61、吸収壁62、およびP電極63より成る。吸収膜22に代えて吸収壁62を備えたことを除き、レーザ素子3の各構成要素の材料や配置は第1の実施形態のレーザ素子1と同様である。」(【0055】)、


「p-クラッド層59およびp-ガイド層58には電流狭窄領域に沿って2本の溝が形成されており、これらの溝を充填するように吸収壁62が設けられている。溝は、20μmの幅を有し、p-クラッド層59の上面からp-ガイド層58の半ばまで達している。吸収壁62は、TiO_(2)で作製されており、絶縁体である。」(【0056】)、
「レーザ素子3はレーザ素子1とほぼ同様にして製造することができる。すなわち、p-クラッド層59を成長させた段階で、エッチングにより上記の溝を形成し、吸収壁62を設ける際に、溝に対向する窓を有するマスクを用いればよい。」(【0057】)、
「吸収壁62とリッジ構造の下端との離間距離Dを0.8μmとしたレーザ素子3について特性を調べたところ、雰囲気温度25℃において40mAで連続発振し、発振波長は405±5nmであった。また、発振モードは基本モードであった。レーザ発振時の自然放出光は0.5mW以下であり、出力を2mWとしたときの雑音特性は、RIN_(max)<-125dB/Hzであった。」(【0058】)、
「さらに、第1の実施形態と同様にして、離間距離Dや吸収壁62の材料の異なる種々のレーザ素子3を製造して、それらが特性に及ぼす影響を調べた。その結果、レーザ素子1と同じく、離間距離DがD≧0.3μmを満たし、発振波長に対する吸収壁62の吸収係数κがκ≧0.1を満たせば、レーザ発振時の自然放出光は0.5mW以下となり、出力が2mWのときの雑音特性も、RIN_(max)<-125dB/Hzとなることが判った。」(【0059】)、
「絶縁壁62が活性層56に近いため、レーザ素子3では、活性層56に対する角度の小さい自然放出光を吸収することができる。絶縁壁62の下端の位置(溝の深さ)に制限はなく、活性層56に達していてもよい。ただし、活性層56に達する絶縁壁62は必ず絶縁体としなければならない。このような変形例を図10に示す。この構成は、吸収壁62が活性層56を貫通してn-GaNガイド層55にまで達するようにしたものである。なお、活性層56に達しない場合は、吸収壁62を絶縁体とする必要はなく、n型半導体としてもよい。」(【0060】)、


「吸収壁62の幅にも制限はなく、いくら幅を広くしてもよい。このような変形例を図11に示す。この構成では、吸収壁62がレーザ素子3の側面まで達しており、p-クラッド層59はリッジ構造と電流狭窄領域の周囲に存在するだけになっている。」(【0061】)、
「なお、反射を防止するために、吸収壁62の屈折率をこれに接する各層の屈折率と同程度以上にするのが望ましいことは前述のとおりであるが、吸収壁62の屈折率がリッジ構造と吸収壁62の間の垂直モード屈折率以上であれば、その条件は満たされる。」(【0062】)

キ 図10からは、絶縁壁62の下端の位置が活性層56を超えていることが、見て取れる。

(2)上記(1)によれば、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「窒化物半導体より成るレーザ素子であって、素子内の電流路のうちレーザ光を生成する活性層に達する一方の部分が、活性層における光の共振方向に対して垂直な方向に狭窄しているものにおいて、活性層で生成されるレーザ光の波長を含む波長範囲の光を吸収する特性を有し、電流路の狭窄した部分から僅かに離間して活性層における光の共振方向に延びる光吸収部を備えるレーザ素子であって、(【請求項1】)
電流路の狭窄した部分を形成するために、活性層における光の共振方向に延びるリッジ構造と、リッジ構造の側方に位置してリッジ構造に接する絶縁膜を備え、絶縁膜と活性層との間の層が溝を有し、光吸収部が絶縁膜と活性層との間の層の溝を埋めているものであり、(【請求項3】)
活性層から全方位に向かう自然放出光の一部は、光吸収部に入射して吸収されるものであり、(【0010】)
絶縁壁62の下端の位置(溝の深さ)に制限はなく、活性層56に達していてもよい、(【0060】)
レーザ素子。」

第5 対比・判断
本願発明は、「前記フィルタ構造部は、第1のフィルタ素子、第2のフィルタ素子、および、第3のフィルタ素子の内の少なくとも1つ、又は、その組み合わせを有して」いるものである。そうすると、本願発明は、「前記フィルタ構造部」が「第1のフィルタ素子」のみを備える態様(以下「第1態様」という。)であってもよく、また、「前記フィルタ構造部」が「第2のフィルタ素子」のみを備える態様(以下「第2態様」という。)であってもよいものと認められる。
これを踏まえ、当審は、本願発明が、引用発明1Aに基づき新規性を欠如するものであり、引用発明1Bに基づき進歩性を欠如するものであり、引用発明2に基づき進歩性を欠如するものであると判断する。その理由は次のとおりである。

1 引用発明1Aに基づく新規性欠如について
(1)本願発明と引用発明1Aとの対比
本願発明の第1態様を念頭において、本願発明と引用発明1Aとを対比する。

ア 本願発明の「半導体層列と、」との特定事項について
(ア)引用発明1Aの「基板上に形成された第1導電型の窒化物半導体からなる第1のクラッド層と、前記第1のクラッド層の上に形成された窒化物半導体からなる活性層と、前記活性層の上に形成された第2導電型の窒化物半導体からなる第2のクラッド層」は、本願発明の「半導体層列」に相当する。

(イ)よって、引用発明1Aは「本願発明の「半導体層列と、」との特定事項を備える。

イ 本願発明の「フィルタ構造部とを含み、」との特定事項について
(ア)引用発明1Aの「前記レーザ素子本体における前記活性層のレーザ光出射部を除く出射端面と該出射端面と反対側の反射端面とに」「形成されている」「前記活性層から放出される自然放出光を反射する自然放出光防止膜」は、本願発明の「フィルタ構造部」に相当する。

(イ)よって、引用発明1Aは、本願発明の「フィルタ構造部とを含み、」との特定事項を備える。

ウ 本願発明の「前記半導体層列は、活性領域とビーム出力結合面を備え、前記ビーム出力結合面は第1の部分領域と、該第1の部分領域とは異なる第2の部分領域を有している、」との特定事項について
(ア)引用発明1Aの「半導体層列」に相当する構成(上記ア(ア))は、「前記第1のクラッド層の上に形成された窒化物半導体からなる活性層」を備えるから、本願発明でいう「活性領域」を備えるといえる。

(イ)引用発明1Aは、「半導体レーザ装置」である以上、引用発明1Aの「半導体層列」に相当する構成が「ビーム出力結合面」を備えることは、明らかである。

(ウ)引用発明1Aの「前記レーザ素子本体における前記活性層のレーザ光出射部」は、上記(イ)を踏まえれば、本願発明の「前記ビーム出力結合面」が「有している」「第1の部分領域」に相当する。

(エ)引用発明1Aの「出射端面」は、「第1の部分領域」に相当する部位(上記(ウ))以外の部位をも備えると解されるところ、上記(イ)を踏まえれば、引用発明1Aは、「前記ビーム出力結合面」が「有している」「該第1の部分領域とは異なる第2の部分領域」を備えるといえる。

(オ)よって、引用発明1Aは、本願発明の「前記半導体層列は、活性領域とビーム出力結合面を備え、前記ビーム出力結合面は第1の部分領域と、該第1の部分領域とは異なる第2の部分領域を有している、」との特定事項を備える。

エ 本願発明の「レーザー光源において、」との特定事項について
(ア)引用発明1Aの「半導体レーザ装置」は、本願発明の「レーザー光源」に相当する。

(イ)よって、引用発明1Aは、本願発明の「レーザー光源において、」との特定事項を備える。

オ 本願発明の「前記活性領域は、動作モード中に、第1の波長領域のコヒーレントな第1の電磁ビームと、第2の波長領域のインコヒーレントな第2の電磁ビームとを生成し、」との特定事項について
(ア)引用発明1Aは、「半導体レーザ装置」である以上、本願発明でいう「前記活性領域は、動作モード中に、第1の波長領域のコヒーレントな第1の電磁ビーム」を「生成」するものであるといえる。

(イ)引用発明1Aは、「前記活性層から放出される自然放出光」を生成するものであるから、本願発明でいう「前記活性領域は、動作モード中に、」「第2の波長領域のインコヒーレントな第2の電磁ビーム」を「生成」するものであるといえる。

(ウ)よって、引用発明1Aは、本願発明の「前記活性領域は、動作モード中に、第1の波長領域のコヒーレントな第1の電磁ビームと、第2の波長領域のインコヒーレントな第2の電磁ビームとを生成し、」との特定事項を備える。

カ 本願発明の「前記第2の波長領域は第1の波長領域を含んでおり、」との特定事項について
引用発明1Aは、「半導体レーザ装置」である以上、上記オを踏まえれば、本願発明の「前記第2の波長領域は第1の波長領域を含んでおり、」との特定事項を備えるといえる。

キ 本願発明の「前記コヒーレントな第1の電磁ビームは、前記第1の部分領域から放射方向に沿って放射され、」との特定事項について
引用発明1Aは、「半導体レーザ装置」である以上、上記オ(ア)を踏まえると、本願発明の「前記コヒーレントな第1の電磁ビームは、前記第1の部分領域から放射方向に沿って放射され」るとの特定事項を備えるといえる。

ク 本願発明の「前記インコヒーレントな第2の電磁ビームは、前記第1の部分領域と前記第2の部分領域から放射され、」との特定事項について
引用発明1Aは、「半導体レーザ装置」である以上、上記オ(イ)を踏まえると、引用発明1Aは、本願発明の「前記インコヒーレントな第2の電磁ビームは、前記第1の部分領域と前記第2の部分領域から放射され」るとの特定事項を備えるといえる。このことは、引用発明1Aが「前記レーザ素子本体における前記活性層のレーザ光出射部を除く出射端面」に「前記活性層から放出される自然放出光を反射する自然放出光防止膜が形成されている」ことからも明らかである。

ケ 本願発明の「前記フィルタ構造部は、前記活性領域から放射された前記インコヒーレントな第2の電磁ビームを放射方向に沿って少なくとも部分的に減衰するように構成されており、」との特定事項について
引用発明1Aの「フィルタ構造部」に相当する構成(上記イ(ア))は、「前記レーザ素子本体における前記活性層のレーザ光出射部を除く出射端面」に「前記活性層から放出される自然放出光を反射する自然放出光防止膜」を「形成」するものであるから、引用発明1Aは、本願発明でいう「前記フィルタ構造部は、前記活性領域から放射された前記インコヒーレントな第2の電磁ビームを放射方向に沿って少なくとも部分的に減衰するように構成されており、」との特定事項を備える。

コ 本願発明の「前記フィルタ構造部は、第1のフィルタ素子、第2のフィルタ素子、および、第3のフィルタ素子の内の少なくとも1つ、又は、その組み合わせを有しており、」との特定事項について
引用発明1Aの「フィルタ構造部」に相当する構成(上記イ(ア)は、本願発明の「第1のフィルタ素子」に相当する。

サ 本願発明の「前記第1のフィルタ素子は、前記放射方向で見て前記半導体層列の後方に配置され、そして、前記第1のフィルタ素子は、電磁ビームに対して非透過性の材料を有する少なくとも1つの層を有し、前記非透過性の材料は少なくとも部分的に前記第2の部分領域上に配置され、かつ、前記第1のフィルタ素子は、前記基板の表面の全体に適用されており、」との特定事項について
(ア)引用発明1Aの「フィルタ構造部」に相当する構成(上記イ(ア))は、「自然放出光防止膜」が「出射端面」に「形成」されたものであるから、引用発明1Aは、本願発明でいう「前記第1のフィルタ素子は、前記放射方向で見て前記半導体層列の後方に配置され」ていることになる。

(イ)引用発明1Aの「フィルタ構造部」に相当する構成は、「自然放出光防止膜としての高反射膜としては、金属膜を用い」るものであるから、引用発明1Aは、本願発明でいう「前記第1のフィルタ素子は、電磁ビームに対して非透過性の材料を有する少なくとも1つの層を有し」ていることになる。

(ウ)引用発明1Aの「フィルタ構造部」に相当する構成は、「自然放出光防止膜」が「前記レーザ素子本体における前記活性層のレーザ光出射部を除く出射端面」に形成されているものであるから、上記(イ)及び上記クを踏まえれば、引用発明1Aは、本願発明でいう「前記非透過性の材料は少なくとも部分的に前記第2の部分領域上に配置され」ていることになる。

(エ)引用発明1Aの「フィルタ構造部」に相当する構成は、「自然放出光防止膜」が「基板11の側面の全体に適用されている」から、引用発明1Aは、本願発明でいう「前記第1のフィルタ素子は、前記基板の表面の全体に適用されて」いることになる。

(オ)よって、引用発明1Aは、本願発明の「前記第1のフィルタ素子は、前記放射方向で見て前記半導体層列の後方に配置され、そして、前記第1のフィルタ素子は、電磁ビームに対して非透過性の材料を有する少なくとも1つの層を有し、前記非透過性の材料は少なくとも部分的に前記第2の部分領域上に配置され、かつ、前記第1のフィルタ素子は、前記基板の表面の全体に適用されており、」との特定事項を備える。

シ 本願発明の「レーザー光源」との特定事項について
上記エのとおり、引用発明1Aは、本願発明の「レーザー光源」との特定事項を備える。

(2)一致点及び相違点の認定・判断
ア 上記(1)によれば、本願発明と引用発明1Aとは、
「半導体層列と、
フィルタ構造部とを含み、
前記半導体層列は、活性領域とビーム出力結合面を備え、前記ビーム出力結合面は第1の部分領域と、該第1の部分領域とは異なる第2の部分領域を有している、レーザー光源において、
前記活性領域は、動作モード中に、第1の波長領域のコヒーレントな第1の電磁ビームと、第2の波長領域のインコヒーレントな第2の電磁ビームとを生成し、
前記第2の波長領域は第1の波長領域を含んでおり、
前記コヒーレントな第1の電磁ビームは、前記第1の部分領域から放射方向に沿って放射され、
前記インコヒーレントな第2の電磁ビームは、前記第1の部分領域と前記第2の部分領域から放射され、
前記フィルタ構造部は、前記活性領域から放射された前記インコヒーレントな第2の電磁ビームを放射方向に沿って少なくとも部分的に減衰するように構成されており、
前記フィルタ構造部は、第1のフィルタ素子を有しており、
前記第1のフィルタ素子は、前記放射方向で見て前記半導体層列の後方に配置され、そして、前記第1のフィルタ素子は、電磁ビームに対して非透過性の材料を有する少なくとも1つの層を有し、前記非透過性の材料は少なくとも部分的に前記第2の部分領域上に配置され、かつ、前記第1のフィルタ素子は、前記基板の表面の全体に適用されている、
レーザー光源。」である点で一致し、相違点は存在しない。

よって、本願発明は、引用発明1Aである。

イ これに対し、請求人は、「第1のフィルタ素子」が形成されている箇所について、本願発明では、専ら基板表面であるのに対し、引用発明1Aでは、ファセット面によって形成される側面全体である旨主張する。
しかしながら、本願発明の「前記第1のフィルタ素子は、前記放射方向で見て前記半導体層列の後方に配置され、」「前記非透過性の材料は少なくとも部分的に前記第2の部分領域上に配置され、かつ、前記第1のフィルタ素子は、前記基板の表面の全体に適用されている」との特定事項の文言によれば、本願発明の「第1のフィルタ素子」が形成されている箇所は、専ら「基板の表面の全体」であるとは解されず、むしろ、「基板の表面の全体」を少なくとも含むが、それ以外の箇所を含むことを排除しない、と解することが自然である。このことは、本願明細書の【0125】?【0128】及び図5に、「第1のフィルタ素子」が形成されている箇所が、請求人の主張するところの「ファセット面によって形成される側面全体」である実施例が記載されていることからも裏付けられる。
したがって、請求人の主張は、請求項1の記載にも、本願明細書及び図面の記載にも基づかないものに帰する。請求人の主張は、採用できない。

2 引用発明1Bに基づく進歩性欠如について
(1)本願発明と引用発明1Bとの対比
本願発明の第2態様を念頭において、本願発明と引用発明1Bとを対比する。

ア 本願発明の「半導体層列と、」との特定事項について
(ア)引用発明1Bの「基板上に形成された第1導電型の窒化物半導体からなる第1のクラッド層と、前記第1のクラッド層の上に形成された窒化物半導体からなる活性層と、前記活性層の上に形成された第2導電型の窒化物半導体からなる第2のクラッド層」は、本願発明の「半導体層列」に相当する。

(イ)よって、引用発明1Bは、本願発明の「半導体層列と、」との特定事項を備える。

イ 本願発明の「フィルタ構造部とを含み、」との特定事項について
(ア)引用発明1Bの「前記活性層におけるストライプ状の電流注入領域の側方には、該電流注入領域に沿って溝部が形成され、前記溝部には、前記活性層から放出される自然放出光を吸収する自然放出光吸収材が充填されている」構成は、本願発明の「フィルタ構造部」に相当する。

(イ)よって、引用発明1Bは、本願発明の「フィルタ構造部とを含み、」との特定事項を備える。

ウ 本願発明の「前記半導体層列は、活性領域とビーム出力結合面を備え、前記ビーム出力結合面は第1の部分領域と、該第1の部分領域とは異なる第2の部分領域を有している、」との特定事項について
(ア)引用発明1Bの「半導体層列」に相当する構成(上記ア(ア))は、「前記第1のクラッド層の上に形成された窒化物半導体からなる活性層」を備えるから、本願発明でいう「活性領域」を備えるといえる。

(イ)引用発明1Bは、「半導体レーザ装置」である以上、引用発明1Bの「半導体層列」に相当する構成が「ビーム出力結合面」を備えることは、明らかである。

(ウ)引用発明1Bは、「半導体レーザ装置」である以上、引用発明1Bの「ビーム出力結合面」に相当する部位が「第1の部分領域」を有していることは、明らかである。

(エ)引用発明1Bは、「半導体レーザ装置」であって、「前記活性層から放出される自然放出光」が存在するものであるから、引用発明1Bの「ビーム出力結合面」に相当する部位が「該第1の部分領域とは異なる第2の部分領域」を有していることは、明らかである。

(オ)よって、引用発明1Bは、本願発明の「前記半導体層列は、活性領域とビーム出力結合面を備え、前記ビーム出力結合面は第1の部分領域と、該第1の部分領域とは異なる第2の部分領域を有している、」との特定事項を備える。

エ 本願発明の「レーザー光源において、」との特定事項について
(ア)引用発明1Bの「半導体レーザ装置」は、本願発明の「レーザー光源」に相当する。

(イ)よって、引用発明1Bは、本願発明の「レーザー光源において、」との特定事項を備える。

オ 本願発明の「前記活性領域は、動作モード中に、第1の波長領域のコヒーレントな第1の電磁ビームと、第2の波長領域のインコヒーレントな第2の電磁ビームとを生成し、」との特定事項について、
(ア)引用発明1Bは、「半導体レーザ装置」である以上、本願発明でいう「前記活性領域は、動作モード中に、第1の波長領域のコヒーレントな第1の電磁ビーム」を「生成」するものであるといえる。

(イ)引用発明1Bは、「前記活性層から放出される自然放出光」が存在するものであるから、本願発明でいう「前記活性領域は、動作モード中に、」「第2の波長領域のインコヒーレントな第2の電磁ビーム」を「生成」するものであるといえる。

(ウ)よって、引用発明1Bは、本願発明の「前記活性領域は、動作モード中に、第1の波長領域のコヒーレントな第1の電磁ビームと、第2の波長領域のインコヒーレントな第2の電磁ビームとを生成し、」との特定事項を備える。

カ 本願発明の「前記第2の波長領域は第1の波長領域を含んでおり、」との特定事項について
引用発明1Bは、「半導体レーザ装置」である以上、上記オを踏まえれば、本願発明の「前記第2の波長領域は第1の波長領域を含んでおり、」との特定事項を備えるといえる。

キ 本願発明の「前記コヒーレントな第1の電磁ビームは、前記第1の部分領域から放射方向に沿って放射され、」との特定事項について
引用発明1Bは、「半導体レーザ装置」である以上、上記オ(ア)を踏まえると、本願発明の「前記コヒーレントな第1の電磁ビームは、前記第1の部分領域から放射方向に沿って放射され、」との特定事項を備えるといえる。

ク 本願発明の「前記インコヒーレントな第2の電磁ビームは、前記第1の部分領域と前記第2の部分領域から放射され、」との特定事項について
引用発明1Bは、「半導体レーザ装置」である以上、上記オ(イ)を踏まえると、本願発明の「前記インコヒーレントな第2の電磁ビームは、前記第1の部分領域と前記第2の部分領域から放射され」るとの特定事項を備えるといえる。

ケ 本願発明の「前記フィルタ構造部は、前記活性領域から放射された前記インコヒーレントな第2の電磁ビームを放射方向に沿って少なくとも部分的に減衰するように構成されており、」との特定事項について
引用発明1Bの「フィルタ構造部」に相当する構成(上記イ(ア))は、「該電流注入領域に沿って溝部が形成され、前記溝部には、前記活性層から放出される自然放出光を吸収する自然放出光吸収材が充填されている」のであるから、引用発明1Bは、本願発明でいう「前記フィルタ構造部は、前記活性領域から放射された前記インコヒーレントな第2の電磁ビームを放射方向に沿って少なくとも部分的に減衰するように構成されており、」との特定事項を備える。

コ 本願発明の「前記フィルタ構造部は、第1のフィルタ素子、第2のフィルタ素子、および、第3のフィルタ素子の内の少なくとも1つ、又は、その組み合わせを有しており、」との特定事項について
引用発明1Bの「フィルタ構造部」に相当する構成(上記イ(ア))は、本願発明の「第2のフィルタ素子」に相当する。

サ 本願発明の「前記第2のフィルタ素子は、前記放射方向と平行な方向に延在し、かつ、基板から離間した、前記半導体層列の領域上に配置され、そして、前記第2のフィルタ素子は、少なくとも1つのトレンチとして構造化された少なくとも1つの凹部を有する表面構造を有しており、かつ、前記トレンチは、前記基板まで延在しており、」との特定事項について
(ア)引用発明1Bの「フィルタ構造部」に相当する構成(上記イ(ア))は、「ストライプ状の電流注入領域の側方に」、「該電流注入領域に沿って溝部が形成され」たものであるから、引用発明1Bは、本願発明でいう「前記第2のフィルタ素子は、前記放射方向と平行な方向に延在し、かつ、基板から離間した、前記半導体層列の領域上に配置され」ているものといえる。

(イ)引用発明1Bの「溝部」は、本願発明の「トレンチ」に相当する。
そうすると、引用発明1Bは、本願発明でいう「前記第2のフィルタ素子は、少なくとも1つのトレンチとして構造化された少なくとも1つの凹部を有する表面構造を有し」ているものといえる。

(ウ)よって、引用発明1Bは、本願発明の「前記第2のフィルタ素子は、前記放射方向と平行な方向に延在し、かつ、基板から離間した、前記半導体層列の領域上に配置され、そして、前記第2のフィルタ素子は、少なくとも1つのトレンチとして構造化された少なくとも1つの凹部を有する表面構造を有しており、」との特定事項を備える。

(エ)しかし、引用発明1Bの「フィルタ構造部」に相当する構成では、「溝部」(本願発明の「トレンチ」に相当。)が、「前記基板まで延在して」いない。

シ 本願発明の「レーザー光源」との特定事項について
上記エのとおり、引用発明1Bは、本願発明の「レーザー光源」との特定事項を備える。

(2)一致点及び相違点の認定
上記(1)によれば、本願発明と引用発明1Bとは、
「半導体層列と、
フィルタ構造部とを含み、
前記半導体層列は、活性領域とビーム出力結合面を備え、前記ビーム出力結合面は第1の部分領域と、該第1の部分領域とは異なる第2の部分領域を有している、レーザー光源において、
前記活性領域は、動作モード中に、第1の波長領域のコヒーレントな第1の電磁ビームと、第2の波長領域のインコヒーレントな第2の電磁ビームとを生成し、
前記第2の波長領域は第1の波長領域を含んでおり、
前記コヒーレントな第1の電磁ビームは、前記第1の部分領域から放射方向に沿って放射され、
前記インコヒーレントな第2の電磁ビームは、前記第1の部分領域と前記第2の部分領域から放射され、
前記フィルタ構造部は、前記活性領域から放射された前記インコヒーレントな第2の電磁ビームを放射方向に沿って少なくとも部分的に減衰するように構成されており、
前記フィルタ構造部は、第2のフィルタ素子を有しており、
前記第2のフィルタ素子は、前記放射方向と平行な方向に延在し、かつ、基板から離間した、前記半導体層列の領域上に配置され、そして、前記第2のフィルタ素子は、少なくとも1つのトレンチとして構造化された少なくとも1つの凹部を有する表面構造を有している、
レーザー光源。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
「トレンチ」について、本願発明は、「前記基板まで延在して」いるのに対し、引用発明1Bは、そうなっていない点。

(3)相違点1の判断
ア 引用発明1Bは、「前記活性層におけるストライプ状の電流注入領域の側方には、該電流注入領域に沿って溝部が形成され、前記溝部には、前記活性層から放出される自然放出光を吸収する自然放出光吸収材が充填されている」ものである。そして、引用発明1Bは、このように構成することにより、自然放出光吸収材が、活性層からレーザ素子本体の側面方向へ放出される自然放出光の外部への漏出を防止することができるものである(【0029】)。
このように、引用発明1Bでは、自然放出光の漏出を防止できる方向が「レーザ素子本体の側面方向」となっているところ、当業者からすれば、その作用原理が、溝部が形成されて自然放出光吸収材が充填されている領域が「電流注入領域の側方」に存在することにあると理解できる。そうであれば、当業者は、引用発明1Bの作用原理について、より一般的に、溝部が形成されて自然放出光吸収材が充填されている領域がどこまで及んでいるのかが、レーザ素子本体から放出される自然放出光の漏出を防止したい方向に影響するということを、たやすく理解できる。

イ 他方で、引用文献1には、基板に、サファイア、SiC又はGaNを用いる、発振波長が400nm付近のInGaAlN系レーザ装置においては、基板が自然放出光を吸収せず(【0162】)、そして、自然放出光がすべての方向にわたって放出されるものである(【0049】)ことが記載されている。また、引用文献1Bには、レーザチップのレーザ出射端面以外から放出される自然放出光が、光検出器又は電子回路と集積されてなる光電子集積素子における光検出器に対するバイアス光となって検出動作に悪影響を及ぼすこと(【0010】)が記載されている。
このように、半導体レーザ装置では、自然放出光がすべての方向にわたって放出されるとともに、光検出器の検出動作に悪影響を及ぼすのである。そうであれば、当業者は、引用発明1Bにおいて、すべての方向にわたって放出される自然放出光に関して、その漏出を防止できる方向を増加させようとの動機をもつということができる。

ウ 上記アのとおり、当業者は、引用発明1Bの作用原理につき、より一般的に、溝部が形成されて自然放出光吸収材が充填されている領域がどこまで及んでいるのかが、レーザ素子本体から放出される自然放出光の漏出を防止したい方向に影響するということを理解することができる。
そうすると、当業者であれば、引用発明1Bにおいて、すべての方向にわたって放出される自然放出光に関して、その漏出を防止できる方向を増加させようとの動機(上記イ)に従い、溝部が形成されて自然放出光吸収材が充填されている領域を、さらに広く及ばせるように構成することは、容易に推考し得たことであるというべきである。そして、その際、その領域を、活性層を超えて「前記基板まで延在して」いるように構成すれば、すべての方向にわたって放出される自然放出光のうち、相当程度に広い範囲のものの漏出を防止できることは明らかであり、そうである以上、そのように構成することは、光検出器の検出動作に悪影響を及ぼす観点からの必要性に応じて、当業者が適宜設計し得たことにすぎないといえる。

エ よって、本願発明は、引用発明1B及び引用文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 引用発明2に基づく進歩性欠如について
(1)本願発明と引用発明2との対比
本願発明の第2態様を念頭において、本願発明と引用発明2とを対比する。

ア 本願発明の「半導体層列と、」との特定事項について
引用発明2は、「窒化物半導体より成るレーザ素子」であるから、本願発明の「半導体層列と、」との特定事項を備えることが、明らかである。

イ 本願発明の「フィルタ構造部とを含み、」との特定事項について
(ア)引用発明2の「絶縁膜と活性層との間の層が」「有し」ている「溝」と、「活性層で生成されるレーザ光の波長を含む波長範囲の光を吸収する特性を有し、電流路の狭窄した部分から僅かに離間して活性層における光の共振方向に延びる光吸収部」であって、「絶縁膜と活性層との間の層の溝を埋めている」「光吸収部」とからなる構成が、本願発明の「フィルタ構造部」に相当する。

(イ)よって、引用発明2は、本願発明の「フィルタ構造部とを含み、」との特定事項を備える。

ウ 本願発明の「前記半導体層列は、活性領域とビーム出力結合面を備え、前記ビーム出力結合面は第1の部分領域と、該第1の部分領域とは異なる第2の部分領域を有している、」との特定事項について
(ア)引用発明2は「活性層」を備えるから、引用発明2の「半導体層列」に相当する構成(上記ア)は、本願発明でいう「活性領域」を備えるといえる。

(イ)引用発明2は、「窒化物半導体より成るレーザ素子」である以上、引用発明2の「半導体層列」に相当する構成が「ビーム出力結合面」を備えることは、明らかである。

(ウ)引用発明2は、「窒化物半導体より成るレーザ素子」である以上、引用発明2の「ビーム出力結合面」に相当する部位が「第1の部分領域」を有していることは、明らかである。

(エ)引用発明2は、「窒化物半導体より成るレーザ素子」であって、「活性層から全方位に向かう自然放出光」が存在し、「活性層で生成されるレーザ光の波長を含む波長範囲の光を吸収する」ことが予定されているものであるから、引用発明2の「ビーム出力結合面」に相当する部位が「該第1の部分領域とは異なる第2の部分領域」を有していることは、明らかである。

(オ)よって、引用発明2は、本願発明の「前記半導体層列は、活性領域とビーム出力結合面を備え、前記ビーム出力結合面は第1の部分領域と、該第1の部分領域とは異なる第2の部分領域を有している、」との特定事項を備える。

エ 本願発明の「レーザー光源において、」との特定事項について
(ア)引用発明2の「レーザ素子」は、本願発明の「レーザ光源」に相当する。

(イ)よって、引用発明2は、本願発明の「レーザー光源において、」との特定事項を備える。

オ 本願発明の「前記活性領域は、動作モード中に、第1の波長領域のコヒーレントな第1の電磁ビームと、第2の波長領域のインコヒーレントな第2の電磁ビームとを生成し、」との特定事項について
(ア)引用発明2は、「窒化物半導体より成るレーザ素子」である以上、本願発明でいう「前記活性領域は、動作モード中に、第1の波長領域のコヒーレントな第1の電磁ビーム」を「生成」するものであるといえる。

(イ)引用発明2は、「窒化物半導体より成るレーザ素子」であって、「活性層から全方位に向かう自然放出光」が存在し、「活性層で生成されるレーザ光の波長を含む波長範囲の光を吸収する」ことが予定されているものであるから、「前記活性領域は、動作モード中に、」「第2の波長領域のインコヒーレントな第2の電磁ビーム」を「生成」するものであるといえる。

(ウ)よって、引用発明2は、本願発明の「前記活性領域は、動作モード中に、第1の波長領域のコヒーレントな第1の電磁ビームと、第2の波長領域のインコヒーレントな第2の電磁ビームとを生成し、」との特定事項を備える。

カ 本願発明の「前記第2の波長領域は第1の波長領域を含んでおり、」について
引用発明2は、「窒化物半導体より成るレーザ素子」であって、「活性層から全方位に向かう自然放出光」が存在し、「活性層で生成されるレーザ光の波長を含む波長範囲の光を吸収する」ことが予定されているものであるから、本願発明の「前記第2の波長領域は第1の波長領域を含んでおり、」との特定事項を備える。

キ 本願発明の「前記コヒーレントな第1の電磁ビームは、前記第1の部分領域から放射方向に沿って放射され、」との特定事項について
引用発明2は、「窒化物半導体より成るレーザ素子」である以上、上記オ(ア)を踏まえると、本願発明の「前記コヒーレントな第1の電磁ビームは、前記第1の部分領域から放射方向に沿って放射され、」との特定事項を備えるといえる。

ク 本願発明の「前記インコヒーレントな第2の電磁ビームは、前記第1の部分領域と前記第2の部分領域から放射され、」との特定事項について
引用発明2は、「窒化物半導体より成るレーザ素子」である以上、上記オ(イ)を踏まえると、本願発明の「前記インコヒーレントな第2の電磁ビームは、前記第1の部分領域と前記第2の部分領域から放射され」るとの特定事項を備えるといえる。

ケ 本願発明の「前記フィルタ構造部は、前記活性領域から放射された前記インコヒーレントな第2の電磁ビームを放射方向に沿って少なくとも部分的に減衰するように構成されており、」との特定事項について
引用発明2の「フィルタ構造部」に相当する構成(上記イ(ア))は、「光吸収部」が「活性層における光の共振方向に延び」ているものであるから、上記オ(イ)を踏まえると、引用発明2は、本願発明でいう「前記フィルタ構造部は、前記活性領域から放射された前記インコヒーレントな第2の電磁ビームを放射方向に沿って少なくとも部分的に減衰するように構成されており、」との特定事項を備えるといえる。

コ 本願発明の「前記フィルタ構造部は、第1のフィルタ素子、第2のフィルタ素子、および、第3のフィルタ素子の内の少なくとも1つ、又は、その組み合わせを有しており、」との特定事項について
引用発明2の「フィルタ構造部」に相当する構成(上記イ(ア))は、本願発明の「第2のフィルタ素子」に相当する。

サ 本願発明の「前記第2のフィルタ素子は、前記放射方向と平行な方向に延在し、かつ、基板から離間した、前記半導体層列の領域上に配置され、そして、前記第2のフィルタ素子は、少なくとも1つのトレンチとして構造化された少なくとも1つの凹部を有する表面構造を有しており、かつ、前記トレンチは、前記基板まで延在しており、」との特定事項について
(ア)引用発明2の「フィルタ構造部」に相当する構成(上記イ(ア))は、「光吸収部」が「活性層における光の共振方向に延び」ているとともに、「絶縁膜と活性層との間の層が溝を有し」ているのであるから、引用発明2は、本願発明でいう「前記第2のフィルタ素子は、前記放射方向と平行な方向に延在し、かつ、基板から離間した、前記半導体層列の領域上に配置され」ているものといえる。

(イ)引用発明2の「溝」は、本願発明の「トレンチ」に相当する。
そうすると、引用発明2は、本願発明でいう「前記第2のフィルタ素子は、少なくとも1つのトレンチとして構造化された少なくとも1つの凹部を有する表面構造を有し」ているものといえる。

(ウ)よって、引用発明2は、「本願発明の「前記第2のフィルタ素子は、前記放射方向と平行な方向に延在し、かつ、基板から離間した、前記半導体層列の領域上に配置され、そして、前記第2のフィルタ素子は、少なくとも1つのトレンチとして構造化された少なくとも1つの凹部を有する表面構造を有しており、」との特定事項を備える。

(エ)しかし、引用発明2の「フィルタ構造部」に相当する構成では、「溝」(本願発明の「トレンチ」に相当。)が、「前記基板まで延在して」いない。

シ 本願発明の「レーザー光源」との特定事項について
上記エのとおり、引用発明1Bは、本願発明の「レーザー光源」との特定事項を備える。

(2)一致点及び相違点の認定
上記(1)によれば、本願発明と引用発明2とは、
「半導体層列と、
フィルタ構造部とを含み、
前記半導体層列は、活性領域とビーム出力結合面を備え、前記ビーム出力結合面は第1の部分領域と、該第1の部分領域とは異なる第2の部分領域を有している、レーザー光源において、
前記活性領域は、動作モード中に、第1の波長領域のコヒーレントな第1の電磁ビームと、第2の波長領域のインコヒーレントな第2の電磁ビームとを生成し、
前記第2の波長領域は第1の波長領域を含んでおり、
前記コヒーレントな第1の電磁ビームは、前記第1の部分領域から放射方向に沿って放射され、
前記インコヒーレントな第2の電磁ビームは、前記第1の部分領域と前記第2の部分領域から放射され、
前記フィルタ構造部は、前記活性領域から放射された前記インコヒーレントな第2の電磁ビームを放射方向に沿って少なくとも部分的に減衰するように構成されており、
前記フィルタ構造部は、第2のフィルタ素子を有しており、
前記第2のフィルタ素子は、前記放射方向と平行な方向に延在し、かつ、基板から離間した、前記半導体層列の領域上に配置され、そして、前記第2のフィルタ素子は、少なくとも1つのトレンチとして構造化された少なくとも1つの凹部を有する表面構造を有している、
レーザー光源。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点2]
「トレンチ」について、本願発明は、「前記基板まで延在して」いるのに対し、引用発明2は、そうなっていない点。

(3)相違点2の判断
ア 引用発明2は、「活性層で生成されるレーザ光の波長を含む波長範囲の光を吸収する特性を有し、電流路の狭窄した部分から僅かに離間して活性層における光の共振方向に延びる光吸収部を備える」とともに、「絶縁膜と活性層との間の層が溝を有し、光吸収部が絶縁膜と活性層との間の層の溝を埋めているものであり」、「絶縁壁62の下端の位置(溝の深さ)に制限はなく、活性層56に達していてもよい」ものである。そして、この構成では、「絶縁膜と活性層との間の層の溝を深くすることにより、光吸収部を活性層に近づけて、活性層に対する角度の小さい自然放出光も吸収することが可能になる」(【0012】)とされている。
そうすると、当業者は、引用発明2の作用原理につき、絶縁壁の下端の位置(溝の深さ)をどこにするかにより、活性層に対してどの角度範囲の自然放出光までを吸収させることができるのかを設計できるということを、たやすく理解できる。

イ 他方で、引用文献2には、レーザ素子における窒化物半導体層(GaNなどで形成されている。【0003】参照。)、SiC基板及びサファイア基板は、発振波長に対してほとんど透明であって、レーザ発振時に発生する自然放出光の吸収が少なく(【0004】)、そして、自然放出光は、活性層からあらゆる方向に出る(【0020】)ことが記載されている。また、引用文献2には、ホログラムレーザにおいては、レーザ素子の側面等から出射する自然放出光が迷光となって、制御が困難となることもあること(【0005】)が記載されている。
このように、窒化物半導体レーザ素子では、自然放出光があらゆる方向に出るとともに、迷光となって、ホログラムレーザにおける制御を困難とするのである。そうすると、当業者は、引用発明2において、あらゆる方向に出る自然放出光に関して、活性層に対してできるだけ大きな角度範囲の自然放出光をも吸収させようとの動機をもつということができる。

ウ 上記アのとおり、当業者は、引用発明2の作用原理につき、絶縁壁の下端の位置(溝の深さ)をどこにするかにより、活性層に対してどの角度範囲の自然放出光までを吸収させることができるのかを設計できることを理解することができる。
そうすると、当業者であれば、引用発明2において、あらゆる方向に出る自然放出光に関して、活性層に対してできるだけ大きな角度範囲の自然放出光をも吸収させようとの動機(上記イ)に従い、絶縁壁の下端の位置(溝の深さ)を、より深くするように構成することは、容易に推考し得たことであるというべきである。そして、その際、絶縁壁の下端の位置(溝の深さ)を、活性層を超えて「前記基板まで延在して」いるように構成すれば(なお、引用文献2の図10には、絶縁壁62の下端の位置が活性層56を超えていることが記載されている。上記第4の2(1)キ参照。)、あらゆる方向に出る自然放出光のうち、活性層に対して相当程度に大きな角度範囲のものを吸収できることは明らかであり、そうである以上、そのように構成することは、迷光除去という観点からの必要性に応じて、当業者が適宜設計し得たことにすぎないといえる。

エ よって、本願発明は、引用発明2及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1Aであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、
本願発明は、引用発明1B及び引用文献1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、
本願発明は、引用発明2及び引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-03-15 
結審通知日 2019-03-18 
審決日 2019-03-29 
出願番号 特願2016-209662(P2016-209662)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01S)
P 1 8・ 121- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高椋 健司  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 星野 浩一
山村 浩
発明の名称 レーザー光源及び該レーザー光源の製造方法  
代理人 前川 純一  
代理人 上島 類  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 二宮 浩康  

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