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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  F04C
審判 一部無効 2項進歩性  F04C
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F04C
管理番号 1354457
審判番号 無効2017-800059  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-04-28 
確定日 2019-08-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第3766725号発明「油冷式スクリュ圧縮機」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3766725号の請求項1乃至2に係る発明についての出願は,平成8年10月25日の出願であって,平成18年2月3日に特許権の設定登録(請求項の数2)がされたものである。
そして,平成29年4月28日に株式会社前川製作所より請求項1に係る特許について特許無効審判が請求され,同年9月8日付けで被請求人株式会社神戸製鋼所より答弁書が提出された。
同年11月8日付けで審理事項通知書が通知され,同年12月22日付けで請求人・被請求人より口頭審理陳述要領書がそれぞれ提出され,平成30年1月9日付けで請求人・被請求人より口頭審理陳述要領書(2)がそれぞれ提出され,同年1月12日に口頭審理が行われ,同日に被請求人より口頭審理陳述要領書(3)が提出された。
そして,同年1月29日付けで請求人より上申書(1)と共に甲第23号証の写しが提出され,同年1月31日付けで請求人より上申書(2)と共に甲第24号証の写しが提出され,同年2月5日付けで請求人より上申書(3)と共に甲第23号証の原本が提出され,同年2月6日付けで請求人より上申書(4)と共に甲第24号証の原本が提出され,同年2月9日付けで被請求人より上申書が提出されたところである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1乃至2に係る発明は,特許明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至2に記載された事項より特定されるとおりのものであるところ,請求項1に係る発明は,その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである(以下「本件特許発明」という。)。
「【請求項1】
油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設ける一方,スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持して入力軸を吸込側のロータ軸とし,吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト軸受により回転可能に支持するとともに,上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け,かつ上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け,このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成したことを特徴とする油冷式スクリュ圧縮機。」

第3 当事者の主張の概要
1.請求人の主張の概要
(1)無効理由3
本件特許発明は,本件特許出願前に頒布された甲第8号証又は甲第9号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,請求項1に係る特許は無効とすべきものである
(2)無効理由4-a
本件特許発明は,甲第1号証に記載された発明のみから,又は,これに甲第2号証に開示された事項を適用することにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,請求項1に係る特許は無効とすべきものである
(3)無効理由4-b
本件特許発明は,甲第2号証に記載された発明に甲第1号証,甲第3号証?甲第5号証に開示された事項を適用することにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,請求項1に係る特許は無効とすべきものである
(4)無効理由4-c
本件特許発明は,甲第7号証に記載された発明に甲第1号証,甲第3号証?甲第5号証に開示された事項を適用することにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,請求項1に係る特許は無効とすべきものである。
(5)無効理由4-d
本件特許発明は,甲第9号証に記載された発明に甲第1号証,甲第3号証?甲第5号証に開示された事項を適用することにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,請求項1に係る特許は無効とすべきものである。
(6)無効理由5
本件請求項1の記載は,発明の詳細な説明に記載されたものでないため,特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであるから,同法123条第1項第4号に該当し,請求項1に係る特許は無効とすべきものである。

なお,無効理由1,2及び無効理由4-eについては,請求人がその主張を取下げ(平成29年12月22日付け口頭審理陳述要領書7ページ3?5行参照。),被請求人がこれに同意した(平成30年1月9日付け口頭審理陳述要領書(2)1ページ下から2行?2ページ2行参照。)。

証拠方法
甲第1号証:特開昭57-159993号公報
甲第2号証:国際公開第93/10333号
甲第3号証:国際公開第95/10708号
甲第4号証:米国特許第4,462,769号明細書
甲第5号証:実願昭62-128114号(実開昭64-34493号)のマイクロフィルム
甲第6号証:米国特許第3,932,073号明細書
甲第7号証:特開昭57-35185号公報
甲第8号証:HOWDEN AUTO VARIABLE Vi OPTIONS FOR XRV RANGE COMPRESSORS
甲第9号証:HOWDEN COMPRESSORS INTRODUCES ITS LATEST RANGE OF REFRIGERATION COMPRESSORS The XRV
甲第10号証:David H. Johnsonの宣誓供述書
甲第11号証:Andy Pearsonの宣誓供述書
甲第12号証:ホームページ出力物(Howden社ウェブサイトの「Oil Injected Screw Compressors」と題するページ)
甲第13号証:「XRV 163」のカタログ
甲第14号証:「XRV 204」のカタログ
甲第15号証:拒絶理由通知書(平成17年4月5日発送)
甲第16号証:意見書(平成17年6月3日提出)
甲第17号証:特開昭59-110889号公報
甲第18号証:特公昭56-27714号公報
甲第19号証:DAVID H. JHONSONの第2宣誓供述書
甲第20号証:LUIGI VIALBAの宣誓供述書
甲第21号証:「スクリュー圧縮機の技術とその応用」,西村喜之,ターボ機械第17巻第9号,1989年9月発行
甲第22号証:2016年12月20日付Howden Compressor社グローバル・プロダクト・リーダー兼社長FRED HEARLEの書面
甲第23号証:HOWDEN COMPRESSORS /XRV REFRIGERATION COMPRESSORS
甲第24号証:DAVID H. JHONSONの第3宣誓供述書

2.被請求人の主張の概要
(1)無効理由3について
甲第8号証及び甲第9号証は,特許法第29条第1項第3号の「頒布された刊行物」に該当しない。
また,甲第8号証,甲第9号証のいずれにも,本件特許発明の構成要件の一部が記載されておらず,甲第8号証又は甲第9号証に記載された発明はいずれも本件特許発明と同一ではない。したがって,無効理由3は成り立たない。
(2)無効理由4-aについて
本件特許発明は,甲第1号証に記載された発明のみから,又は甲第1号証に記載された発明に甲第2号証に開示された事項を適用することで,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,無効理由4-aは成り立たない。
(3)無効理由4-bについて
本件特許発明は,甲第2号証に記載された発明に甲第1号証,甲第3号証?甲第5号証に開示された事項を適用することで,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,無効理由4-bは成り立たない。
(4)無効理由4-cについて
本件特許発明は,甲第7号証に記載された発明に甲第1号証,甲第3号証?甲第5号証に開示された事項を適用することで,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,無効理由4-cは成り立たない。
(5)無効理由4-dについて
甲第9号証は,特許法第29条第1項第3号の「頒布された刊行物」に該当しない。
本件特許発明は,甲第9号証に記載された発明に甲第1号証,甲第3号証?甲第5号証に開示された事項を適用することで,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,無効理由4-dは成り立たない。
(6)無効理由5について
本件特許発明は,「発明の詳細な説明」において実施例等で記載・開示された技術的事項であり,当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるため,特許法第36条第6項第1号違反はなく,無効理由5は成り立たない。

証拠方法
乙第1号証:DAVID H JOHNSON氏のプロフィールについて
https://linkedin.com/in/david-johnson-109b432b

第4 当審の判断
甲第8号証及び甲第9号証には,文書が真正に成立したか否か,及び本件特許の出願前に頒布された刊行物であるか否かについての争いがあり,また,宣誓供述書である甲第10・11・19・20・24号証には,その信用性についての争いがあるものの,本件の事案に鑑み,これらの争点についてはひとまず措いた上で,各無効理由に対する当審の判断を示すこととする。
1.甲第1号証乃至甲第9号証の記載事項
(1)甲第1号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開昭57-159993号公報)には,「スクリュー圧縮機」に関し,図面とともに以下の事項が記載又は示されている(下線部は,当審にて付与した。以下同様。)。
a.「本発明は,互に噛み合う一対のスクリューロータをロータ室で回転せしめて気体を圧縮する噴射式スクリュー圧縮機の運転中に生じる軸方向推力を打消すバランスピストンに関するものである。」(1ページ右下欄11?15行)
b.「このような従来のスクリュー圧縮機のバランスビストンは油ポンプで加圧された潤滑・冷却・シール用の圧油を作動油として供給しているため次の欠点があった。
(1)・・・(略)・・・
(2)特に起動時圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないうちに油ポンプにより吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかかることによりロータが吐出側に推されスラスト軸受およびスラスト軸受抑え金などに過大な応力がかかりしかも起動のたびに繰返えされるため疲労変形の恐れがある。また,ロータ吐出側端面と吐出ケーシング端面が接触し,両端面が損傷したり発熱し,その発熱によりラジアル軸受メタルが溶融して流出することも起り得る。」(2ページ右上欄11行?左下欄8行)
c.「本発明はスクリュー圧縮機における従来のバランスピストンの加圧方法の問題点に鑑みなされたもので吐出圧の変動によるロータ推力に均衡し,従つて起動時,運転中に限らずロータが移動せず,油ポンプの容量を増大させないようなバランスピストンの加圧方法を得ることを目的とするものである。」(2ページ左下欄16行?右下欄2行)
d.「本発明はスクリュ圧縮機において,吐出流体と共に潤滑,冷却,密封用の油が油分離機により回収され,」(2ページ右下欄3?5行)
e.「雄ロータ4,雌ロータ5は一体となつた軸部4a,4b,5a,5bが夫々吸込ケーシング2に嵌入したジャーナル軸受6,7及び夫々吐出ケーシング3に嵌入したジャーナル軸受8,9によりラジアル方向荷重を支承され,吐出ケーシング3に嵌入したスラスト玉軸受12,13の内輪に雄ロータ4の軸部4a,雌ロータの軸部5aの軸部が嵌入して殿部との間において夫々の軸部にねじ込まれたナット14,15により軸方向移動を制止されている。
雄ロータ4の一体となった軸部4aは機外に突出して軸端部4cとなつており,軸端部4cにより雄ロータ4が駆動されるようになつている。」(3ページ左上欄5?18行)
f.「軸部4a(審決注:第3図を参照すると「軸部4b」の誤記と認める。)端には雄ロータ4と雌ロータ5の推力のバランスをとるためのバランスピストン32が係止され,ピストン32は吸込ケーシング2中に固定せられたシリンダ33に滑入していてバランスピストン室34,及びその背部に軸受6側の室45が形成されている。」(3ページ左下欄7?12行)
g.「第5図は油圧回路図を示す図面である。吐出通路25に吐き出された油を多量に含む圧縮ガスは吐出配管50を通り油分離器52に導かれ,圧縮ガスと油とに分離されたのち圧縮ガスは配管51から吐出され,油は油配管53により油冷却器55に導かれる。高温の油は油冷却器55で冷却水により冷却されたのち,フィルタ56を経由して油ポンプ57により吐出圧力より1?3kg/cm3加圧され入ロ35,47よりスクリュー圧縮機内に入り既にのべたように各軸受,軸封装置に送られ,冷却,潤滑され,また,ロータ圧縮空間に送られロータの潤滑,シールが計られる。」(4ページ左下欄14?右下欄6行)
h.「油分離器52より分離された油の一部はフィルタ59を途中に備える配管58を通じてバランスピストン室34へ送られる。バランスピストン32には従つて吐出圧縮ガス圧力に追従して変化する油圧力が加わる。バランスピストン32とシリンダ33はバランスピストン32の外周に備える複数のラビリンス群とそれらの間の少ない隙間により若干量の油がバランスピストン室34から室45に洩れる。
圧縮により発生する雄雌ロータ4,5の推力は夫々スラスト玉軸受12,13にて担持されるがその推力を減少させるためバランスピストン室34に圧力流体が供給されるが本発明によれば発生する吐き出しガス圧に従うロータ推力の増滅に従って油分離器52の圧力が増減し,分離された油もその圧力を受けているのでバランスピストン室34にはロータ推力の増減に従つて増減する圧力をもつ油が供給され,バランスピストン32はロータ推力の増減につれてその対抗推力を増減させる。バランスピストン32の背圧は吸込ガス圧よりわずかに高い圧力である。」(4ページ右下欄7行?5ページ左上欄7行)
i.「以上のとおり,本発明のスクリュー圧縮機においては圧縮機吐き出しガスを導いた油分離機より分離した吐き出しガス圧を受ける油をバランスピストン室に導いたので,吐き出し圧に従つて変化するロータ推力に対抗応動してバランスピストンに推力が生ずるので,起動時,負荷変動時に生ずるロータ推力とバランスピストンの推力差は少く,雄ロータ4,雌ロータ5が推力軸受12,13に過大負荷を与えたり,バランスピストン室のみ油の圧力が高くなつてロータを吐出側の吐出ケーシング端壁に衝接させるということがなくなり,耐久性の向上に寄与する処が大である。」(5ページ右上欄2?14行)
j.上記h.の下線部の記載事項と第5図の図示内容からみて,油分離器52により分離された油は,油分離器52内で一旦油溜まり部に溜められ,そこで溜められた油に吐出圧縮ガス圧力に追従して変化する圧力がかかること,及び,油分離器52が吐出配管50に接続されていることが理解できる。
k.上記e.の下線部の記載事項と第3図の図示内容からみて,スクリューロータ(雄ロータ4,雌ロータ5)の両側に延びる一体となった軸部4a,4b,5a,5bをジャーナル軸受6,7,8,9により回転可能に支持していること,及び,吐出側の前記軸部4a,5aをジャーナル軸受8,9よりもスクリューロータ(雄ロータ4,雌ロータ5)から離れた位置にてスラスト玉軸受12,13により回転可能に支持していることが理解できる。
l.上記e.の下線部の「雄ロータ4の一体となった軸部4aは機外に突出して軸端部4cとなつており,軸端部4cにより雄ロータ4が駆動されるようになつている。」の記載事項と第3図の図示内容からみて,入力軸を吐出側の軸端部4cとすることが理解できる。
m.上記f.の下線部の記載事項と第3図の図示内容からみて,上記吸引側のジャーナル軸受6,7よりもスクリュロータ(雄ロータ4,雌ロータ5)から離れた位置にて上記軸部4bの端にバランスピストン32を係止していることが理解できる。
n.第3図の図示内容からみて,バランスピストン32の上記吸引側のジャーナル軸受6側とは反対側の位置にカバー21を設けていることが理解できる。
o.上記h.の下線部の記載事項と第5図の図示内容からみて,油分離器52の上記油溜まり部の油を加圧することなく導く配管58を設けたことが理解でき,更に第3図からみて,バランスピストン室34へ送られる油は,バランスピストン32のカバー21側の空間に導かれることが理解できる。
p.上記g.の下線部の記載事項からみて,このスクリュー圧縮機は,油冷式スクリュー圧縮機であることが理解できる。

そうすると,上記の事項及び図示内容からみて,甲第1号証には,次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「吐出された油を多量に含む圧縮ガスから油を分離し,油を一旦油溜まり部に溜め,油と分離された圧縮ガスを吐出す油分離器52を吐出配管50に接続する一方,
スクリューロータの両側に延びる軸部4a,4b,5a,5bをジャーナル軸受6,7,8,9により回転可能に支持して入力軸を吐出側の軸端部4cとし,
吐出側の上記軸部4a,5aを上記ジャーナル軸受8,9よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト玉軸受12,13により回転可能に支持するとともに,
上記吸引側のジャーナル軸受6,7よりもスクリューロータから離れた位置にて上記軸部4bの端にバランスピストン32を係止し,
かつ,このバランスピストン32の上記吸引側のジャーナル軸受6側とは反対側の位置にカバー21を設け,
このバランスピストン32のカバー21側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く配管58を設けて形成した,
油冷式スクリュー圧縮機。」

(2)甲第2号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(国際公開第93/10333号)には,「ROTARY SCREW MACHINE WITH THRUST BALANCED BEARINGS」に関し,図面とともに以下の事項が記載又は示されている({}内は当審による仮訳である。以下同様。)。
q.「The object of the present invention is to improve the known thrust balancing device so that it is capable to function also at lower pressure levels at its high pressure side.
According to the invention this has been achieved in that there is provided clamping means acting on the main thrust bearing means in the positive direction and the main thrust bearing means are capable of transferring axial forces in both directions and the balancing thrust bearing means are capable of only transferring forces which act on the shaft in the positive direction.
Since according to the invention, there is no preloading in the positive direction on the balancing thrust bearing means , it is attained that the force from the thrust balancing means on the thrust balancing bearing means is entirely available for the balancing without the need to first compensate a preloading force- The desired effect thus can be achieved also with lower forces for the actuation of the thrust balancing means.
The solution according to the invention also has the advantage that the balancing thrust bearing means also can be of a cheaper kind. Since these bearings are exchanged at shorter intervals than the main thrust bearing means the total bearing costs will be reduced.」(2ページ13?30行)
{本発明は,高圧側における低圧力条件においても機能することができるように既知のスラストバランシング装置を改良することを目的とする。
本発明によれば,上述の目的は,以下のことによって達成される:主スラスト軸受手段に正方向に作用するクランプ手段が設けられ,主スラスト軸受手段は,軸方向力を両方向に伝達することができ,バランススラスト軸受手段は,シャフトに作用する力を正方向にのみ伝達することができる。
本発明によれば,バランススラスト軸受手段に作用する正方向の予負荷は存在しないので,スラストバランス軸受手段に作用するスラストバランシング手段からの力を,予負荷力を相殺するために使う必要がなく,もっぱらバランシングのために利用することができる。
本発明による課題解決は,さらに,バランススラスト軸受手段はより低廉な手段となり得るという利点がある。これらの軸受は,主スラスト軸受手段よりもより短い間隔で交換されるので,軸受にかかる全体的なコストが低減される。}
r.「The rotary screw compressor illustrated in fig. 1 has a pair of intermeshing screw rotors 6 operating in a casing 1 having a low pressure end section 2 and a high pressure end section 3. The working medium, e.g. refrigerant R134a enters the compressor through an inlet channel 4 and after being compressed leaves the compressor through an outlet channel 5. Each rotor is mounted in bearings in both end sections 2, 3. The pressure difference between the low and high pressure ends of the compressor during operation results in that the gas exerts an axial force on each rotor from the high pressure end towards the low pressure end. This is defined as the positive axial direction.
Fig. 2 is a section through the shaft journal 7 of one of the rotors in the high pressure end section 3, and the arrow F A represents the positively directed axial force on the rotor. The shaft journal 7 is mounted in a plurality of bearings, namely a radial roller bearing 8 and thrust ball bearings 9, 10 and 11 as seen in order from the rotor to the end of the shaft journal 7. The two inner thrust ball bearings 9, 10 constitute the main thrust bearings and each of them is of the kind capable of transferring axial forces in only one direction. One is mounted to transfer forces in the positive direction and the other one in the negative direction so that they taken together are capable of transferring forces in both directions. The thrust ball bearing 11 at the outer end of the shaft journal is a thrust balancing bearing and is separated from the main thrust bearings 9, 10 by a distance sleeve 21. The thrust balance bearing is capable of transferring axial forces acting on the shaft journal 7 in the positive direction only. All the bearings 8, 9, 10, 11 are kept in place by a key disc 25 at the end of the shaft journal 7.
」(3ページ1?22行)
{図1に示された回転スクリュ圧縮機は,互いに噛合う一対のスクリュロータ6を有し,スクリュロータ6は,低圧端部2及び高圧端部3を有するケーシング1内において動作する。例えば冷媒R134aのような作動媒体が入口流路4を介して圧縮機に流入し,圧縮された後,出口流路5から圧縮機外に流出する。各ロータは両端部2,3において軸受に取り付けられている。圧縮機の高圧端部及び低圧端部の圧力差の結果,高圧端部から低圧端部に向かう方向の軸方向力をガスが各ロータに与える。
図2は,高圧端部3における,一方のロータのシャフトジャーナル7を通る断面であり,矢印FAはロータに作用する正方向の軸方向力を示している。シャフトジャーナル7は,複数の軸受(即ち,ロータからシャフトジャーナル7の端部に向かって順に示された,ラジアルころがり軸受8及びスラスト玉軸受9,10及び11)に取り付けられている。2つの内側スラスト玉軸受9,10は主スラスト軸受を構成し,これらのうち各々が一方向にのみ軸方向力を伝達可能なものになっている。一方は正方向において力を伝達するために設けられ,他方が負の方向において力を伝達するために設けられ,これら全体として両方の方向において力を伝達できるようになっている。シャフトジャーナルの外側端におけるスラスト玉軸受11はスラストバランス軸受であり,距離スリーブ21によって主スラスト軸受9,10から離されている。スラストバランス軸受は,正方向にのみ,シャフトジャーナル7に軸方向力を伝達可能である。全ての軸受8,9,10,11は,シャフトジャーナル7の端部に位置するキーディスク25によって定位置に保持される。}
s.「Axially between the main thrust bearings 9, 10 and the balancing thrust bearing 1 1 a thrust balancing device 13 is provided, which consists of two annular members 18, 19 defining a sealed annular chamber 23 between them. The annular chamber 23 communicates with a pressure medium channel 22 establishing fluid communication with the working fluid at the discharge side of the compressor. The annular chamber accommodates a thrust spring 15 which holds the annular members 18 and 19 apart and preloads the thrust balancing bearing 11.」(3ページ24?30行)
{主スラスト軸受9,10とバランシングスラスト軸受11との間の軸方向位置にはスラストバランシング装置13が設けられており,スラストバランシング装置13は,2つの環状部材18,19からなり,環状部材18,19には密封された環状チャンバ23が形成される。環状チャンバ23は,圧縮機の吐出側における作動流体との流体連通状態を確立する圧力媒体流路22と連通している。環状チャンバは,環状部材18及び19を互いに離して保持するとともにスラストバランシング軸受11に予圧を与えるスラストスプリング15を収容している。}
t.「A cup spring 12 clamps the outer rings of the main thrust ball bearings 9, 10, the clamping force being transmitted by a sleeve 20 and the annular member 18 of the thrust balancing device 13. Alternatively the sleeve 20 and the annular member can be made as a single unit. By the clamping force it is secured that the rotor will be axially fixed at rest or when the compressor idles, and thus the rotor 1 cannot come into contact with the adjacent high pressure end wall.When loaded the discharge pressure is transmitted to the annular chamber 23 through the pressure medium channel 22, and the pressure acting on the inner surface 24 of the annular member 19 exerts a negatively directed force on the outer ring 17 of the balancing thrust bearing 11, which force thus counteracts the gas force FA therewith reducing the axial force that has to be transferred by the thrust ball bearing 9 of the main thrust bearing means.」(3ページ32行?4ページ5行)
{カップスプリング12は,主スラスト玉軸受9,10の外側リングをクランプし,そのクランプ力は,スリーブ20及びスラストバランシング装置13の環状部材18によって伝達される。あるいは,スリーブ20と環状部材とは,単一のユニットとして形成されていてもよい。クランプ力によって,圧縮機がアイドル状態のときにロータが軸方向において確実に固定され,これによりロータ1は隣接する高圧端壁に接触できないようになる。
吐出圧力が圧力媒体流路22を介して環状チャンバ23に伝達されると,環状部材19の内側面24に作用する圧力がバランススラスト軸受11の外側リング17に負の方向の力を加え,その力は気体の力FAと反対向きに作用し,主スラスト軸受手段のスラスト玉軸受9によって伝達されるべき軸方向力を減少させる。}
u.上記記載事項と図1の図示内容からみて,スクリュロータ6の両側に延びる軸を軸受により回転可能に支持していることが理解できる。
v.上記記載事項と図2の図示内容からみて,スクリュロータ6の吐出側のシャフトジャーナル7をラジアルころがり軸受8により回転可能に支持していること,及び,吐出側のシャフトジャーナル7をラジアルころがり軸受8よりもスクリュロータ6から離れた位置にて主スラスト軸受9,10により回転可能に支持していることが理解できる。
w.甲第2号証において,圧縮機の高圧端部3(図2参照)においてシャフトジャーナル7がケーシング1を貫通しておらず,且つ,図1において低圧端部2においてケーシング1を軸が貫通していることからすれば,低圧端部2側(吸入側)のロータ軸が入力軸であることが理解できる。
x.上記記載事項と図2の図示内容からみて,主スラスト軸受9,10よりもスクリュロータ6から離れた位置にてスラストバランシング装置13の一部である環状部材19をスラスト玉軸受11の外側リング17に取り付けること,かつ,主スラスト軸受9,10と環状部材19との間に環状部材18を設けることが理解できる。
また,上記記載事項と図2の図示内容からみて,カップスプリング12は,主スラスト軸受9,10の外側リングをクランプし,そのクランプ力は,スリーブ20及び環状部材18によって伝達されることが理解できる。
そして,図2の図示内容からみて,圧力媒体流路22は,環状部材19の環状部材18側の空間に導かれることが理解できる。
y.圧力媒体流路22は,「圧縮機の吐出側における作動流体」との流体連通状態を確立しているのであるから,圧力媒体流路22が圧縮機から吐出された流体を導くものといえる。

そうすると,上記の事項及び図示内容からみて,甲第2号証には,次の発明(以下,「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
「スクリュロータ6の両側に延びる軸を軸受により回転可能に支持するものであって,吐出側のシャフトジャーナル7をラジアルころがり軸受8により回転可能に支持して入力軸を吸入側のロータ軸とし,
吐出側のシャフトジャーナル7をラジアルころがり軸受8よりもスクリュロータ6から離れた位置にて主スラスト軸受9,10により回転可能に支持するとともに,
主スラスト軸受9,10よりもスクリュロータ6から離れた位置にてスラストバランシング装置13の一部である環状部材19をスラスト玉軸受11の外側リング17に取り付け,
かつ主スラスト軸受9,10と環状部材19との間に環状部材18を設け,
カップスプリング12は,主スラスト軸受9,10の外側リングをクランプし,そのクランプ力は,スリーブ20及び環状部材18によって伝達され,
環状部材19の環状部材18側の空間に,圧縮機の吐出側の作動流体を導く圧力媒体流路22を設けて形成した,スクリュ圧縮機。」

(3)甲第3号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(国際公開第95/10708号)には,図面とともに以下の事項が記載又は示されている。
z.「Through the known devices an in normal cases appropriate reduction of the thrust load is attained. A problem, however, arises when the outlet pressure varies and in particular when also the inlet pressure varies. Under such working conditions axial gas forces will vary with the result that the rotor might be under- or overbalanced, depending on how the balancing piston is dimensioned and on the various working conditions. The result will be a decrease in the running life of the thrust bearings.」(1ページ7?12行)
{公知の装置によれば,通常のケースにおいて,スラスト荷重を適切に低減することができる。しかしながら,出口圧が変化し,特に入口圧も変化するとき,問題が発生する。このような運転条件では,軸方向ガス力が変化し,結果として,バランスピストンの寸法や種々の運転条件によって,ロータがアンダーバランス又はオーバーバランスの状態になってしまうかもしれない。この結果は,スラスト軸受の寿命を減少させるであろう。}
a’.「The object of the present invention is to attain simple and reliable means for an automatic adaptation of the thrust balancing force to various working conditions in a compressor in question, in particular for operating with high inlet and outlet pressures.」(1ページ25?27行)
{本発明の目的は,問題になっている圧縮機における種々の運転条件(特に,高い入口圧及び出口圧で運転するための運転条件)へのスラストバランスの自動的な適応のための簡素且つ信頼性の高い手段を達成することである。}
b’「The compressor 1 , which is of the rotary screw type with a pair of intermeshing screw rotors, has a low pressure inlet 2 and a high pressure outlet 3. One of the rotors is provided with a shaft extension 15 connected to driving means not shown, the shaft extension having a balancing piston 1 1 in a cylinder 14. The compressor is oil injected and in the outlet pipe 8 there is an oil separator 10. From the oil separator the gas escapes through the delivery pipe 9, and the separated oil flows back to the working space through a pipe 6 and the oil injection means 4. The pipe 6 is provided with a first throttle 5 adjacent to the oil separator, and the oil injection means constitutes a second throttle 4. Between the first 5 and second 4 throttle a branch pipe is connected to the pipe 6, which branch pipe ends in the cylinder 14.」(2ページ18?26行)
{圧縮機1は,互いに噛み合う一対のスクリュロータを備えた回転スクリュータイプのものであり,低圧入口2と高圧出口3とを有する。一方のロータは不図示の駆動手段に連結されるシャフト延長部15を有し,シャフト延長部はシリンダ14内にバランスピストン11を有する。圧縮機には油が注入され,オイルセパレータ10が出口配管8に設けられている。オイルセパレータからのガスはデリバリパイプ9を介して排出され,分離された油は配管6及び油注入手段4を介して作動スペースに戻るようになっている。配管6には,オイルセパレータに隣接して第1スロットル5が設けられており,油注入手段が第2スロットル4を構成している。第1スロットル5及び第2スロットル4の間において,配管6には,シリンダ14まで分岐配管が到達している。}
c’.「At operation there will be an axial gas force F acting on each rotor in a direction from the high pressure end to the low pressure end of the compressor, i.e. leftwards in the figure, which gas force is a function of p s and pd. The balancing force Fb from the piston 11 depends on the effective pressure area 12 of the piston and is a function of pb and p a . The balancing force should be smaller than the gas force and thus leave a resultant force FR = F - FB to be taken up by the thrust bearings. It is desirable that the resultant force lies within a certain range Fmin < FR < F max ,where Fmin and Fmax are determined by the load requirements of the thrust bearings.」(3ページ7?14行)
{運転時,圧縮機の高圧端から低圧端に向かう方向(即ち,図中左側)の軸方向のガス力Fが各ロータに作用し,このガス力はps及びpdの関数である。ピストン11からのバランス力Fbは,ピストンの有効加圧面積12に依存し,ps及びpdの関数である。バランス力はガス力未満であるべきであり,合力FR=F-FBはスラスト軸受によって負担されるべきである。合力は,所定範囲(Fmin<FR<Fmax)内に収まるべきである。但し,Fmin及びFmaxは,スラスト軸受の負荷要求によって定まる。}

d’.上記記載事項と図示内容からみて,油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出すオイルセパレータ10を出口配管8に接続していることが理解できる。
e’.図を参照すると,配管6及び分岐配管7には油圧ポンプが設けられておらず,オイルセパレータ10からの油を「加圧することなく」シリンダ14のバランスピストン11の第1圧力表面12側に導くようになっていることが理解できる。
更に,油は油注入手段4を介して作動スペースに戻るようになっていると記載されているから,このスクリュー圧縮機は油冷式であるといえる。

そうすると,甲第3号証には,上記の記載事項及び図示内容からみて下記事項が記載されているといえる。
「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出すオイルセパレータ10を出口配管8に接続し,
シリンダ14のバランスピストン11の第1圧力表面12側に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く配管6及び分岐配管7を設けて形成した,
油冷式スクリュー圧縮機1。」

(4)甲第4号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証(米国特許第4,462,769号明細書)には,以下の事項が記載又は示されている。
f’.「The rotor housing 11 of the screw-compressor 10 includes a compression space in the form of two rotor barrels forming two intersecting bores, with a low-pressure port 12 at one end 13 and a high-pressure port (not shown) at the other end 14. In the rotor barrels, two meshing rotors, viz. one screw or male rotor 15 and one slide or female rotor 16, are mounted rotatably.」(第1欄60?66行)
{スクリュ圧縮機10のロータハウジング11は,交差する2つのボアを形成する2つのロータバレルの形で圧縮スペースを含んでおり,一方端部13における低圧ポート12と他端部14における高圧ポート(不図示)とを有する。ロータバレルでは,2つの噛み合うロータ(一つのスクリュ又は雄ロータ15と一つのスライド又は雌ロータ16)が回転自在に設けられている。}
g’.「On the low-pressure side of the compressor, a radial bearing 17, preferably of roller bearing type, and an axial bearing 18, preferably of angular contact ball bearing type, are built-in for supporting the male rotor 15. Outside said bearing package a balancing piston 19 is located at the rotor shaft end 20 for balancing the main part of the axial forces acting on the high-pressure end of the male rotor 15. Said balancing piston 19 is located in a pressure space 21, to which oil under pressure can be supplied from the outside through an oil inlet opening 22. The oil under pressure can be supplied by any suitable means, such as by an external oil pump or from the oil separator conventionally used in the discharge pipe system of an oil injected screw compressor. At the outer diameter of the balancing piston a mechanical seal 23 is located which ensures that a constant pressure of the oil supplied is maintained. In order to effect oil circulation for cooling this sealing 23 and for cooling and lubricating the bearing package 17,18, connections 24 are drilled from the pressure space 21 outside the balancing piston 19 into the bearing space at the rotor shaft. The oil can continue to pass from here along gaps 25 between the rotor shaft and the rotor housing into the compression space for sealing these gaps 25, thereby eliminating leakage from the compression space.」(第1欄67行?第2欄23行)
{圧縮機の低圧側では,ラジアル軸受17(好ましくは,ころがり軸受タイプ)とアキシャル軸受18(好ましくは,アンギュラ接触玉軸受タイプ)とが,雄ロータ15を支持するために組み込まれている。前記軸受パッケージの外側には,雄ロータ15の高圧側端部に作用する軸方向力の主たる部分をバランスするバランスピストン19がロータ軸端部20に設けられている。前記バランスピストン19は,加圧された油が油入口孔22を介して外部から供給可能な圧力スペース21に設けられている。加圧された油は,例えば,外付けの油ポンプ又は油注入スクリュ圧縮機の吐出配管システムに従来から用いられているオイルセパレータのような任意の適切な手段によって供給可能である。バランスピストンの外径部には,供給される油の圧力を一定に保つことを保証するメカニカルシール23が設けられている。このシール23を冷却するとともに軸受パッケージ17,18を冷却及び潤滑するための油循環を達成するため,連通路24が,圧力スペース21からバランスピストン19の外側にロータシャフトの軸受スペースへと穿孔されている。油は,ここから,ロータシャフトとロータハウジングの間の隙間25に沿って,隙間25を密封するための圧縮スペースへと通過し続けることができ,圧縮スペースからの漏れを防止している。}
h’.上記記載事項と図1からみて,バランスピストン19に面する圧力スペース21にオイルセパレータからの油を導くための油入口孔22を設けることが理解できる。
i’.上記g’.の下線部の記載事項からみて,この油注入スクリュー圧縮機は油冷式であることが理解できる。

そうすると,上記の事項及び図示内容からみて,甲第4号証には,次の事項が記載されているといえる。
「オイルセパレータをスクリュー圧縮機の吐出配管システムに設け,
バランスピストン19に面する圧力スペース21に,オイルセパレータからの油を導くための油入口孔22を設けて形成した,油冷式スクリュー圧縮機。」

(5)甲第5号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証(実願昭62-128114号(実開昭64-34493号)のマイクロフィルム)には,「スクリュ圧縮機のスラスト力釣合装置」に関し,以下の事項が記載又は示されている。
j’.「(産業上の利用分野)
本考案は,スクリュ圧縮機のロータ軸に作用するスラスト力の釣合装置に関するものである。」(2ページ17?19行)
k’.「さらに,オスロータ3側のベアリング12と該ロータの端面21間には,外周面にラビリンス溝を有する大径部14と小径部15より成るスペーサ16が嵌着し,該ロータと吐出ケーシング9間の吐出端面スキマを保持している。さらに,前記大径部14と小径部15の双方は,吐出ケーシング9の端壁22に形成する大径穴と小径穴とから成る軸封穴17内に密封摺動自在に挿通すると共に,前記スペーサの大径部14と小径部15との境にある段部18と,前記軸封穴17間に形成される作用室19を,連通孔20を介してメスロータ4に嵌着する軸封カラー25の油溝26と連通している。この油溝26は,前記軸封カラーの略中央部に全周にわたって形成されているもので,吐出ケーシング9に穿設した給油孔27と連通し,さらに配管28を介してセパレータタンク29内の油溜30と接続している。」(6ページ12行?7ページ8行)
l’.「圧縮機を運転すると,吸入口45から吸入されたガスはオス・メスロータ3・4の噛み合いによって圧縮され,吐出口46より吐出され,図示せざる吐出配管を介してセパレータタンク29内に圧送される。
これにより,油溜30内の潤滑油は前記圧縮ガス圧力により押し出され,配管28,給油孔27を介してメスロータ4の軸封カラー25外周部に形成された油溝26を経て,オスロータ3に設けられたスペーサ16の作用室19内に圧送される。
したがって,オスロータ3には常時圧縮ガス圧力に比例した図中A方向のスラスト荷重が作用する。
一方,前記したオス・メスロータの噛み合い回転に伴う圧縮作用により,両ロータには圧縮ガス反力としてラジアル荷重と図中B方向へのスラスト荷重が作用するが,このオスロータ側のスラスト荷重を前記作用室19内の油圧によってスペーサ16に作用する図中A方向ののスラスト力が相殺し,ベアリング12に加わるスラスト荷重を軽減する。
即ち,前記A及びB方向のスラスト荷重は常に圧縮ガス圧に比例した力で作用するので,前記圧縮ガス圧力の変動に係わらず常に均衡のとれた釣合が成される。 」(7ページ12行?8ページ16行)
m’.上記記載事項と第1図の図示内容からみて,油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油溜30に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出すセパレータタンク29を吐出配管に接続すること,及び,スペーサ16に面する吸入側の作用室19に,油溜30の油を加圧することなく導く配管28を接続することが理解できる。

そうすると,上記の事項及び図示内容からみて,甲第5号証には,下記事項が記載されているといえる。
「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油溜30に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出すセパレータタンク29を吐出配管に接続し,
スペーサ16に面する吸入側の作用室19に,油溜30の油を加圧することなく導く配管28を接続した,油冷式スクリュ圧縮機。」

(6)甲第6号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証(米国特許第3,932,073号明細書)には,以下の事項が記載されている。
n’.「The rotors may be biassed towards the high pressure end wall by means, of gas pressure, liquid pressure or mechanical pressure, for example a spring, or any combination of such means. The screw rotor machine of the invention is preferably a so-called wet-machine, that is,oil is injected into the working space to lubricate the rotors and oil from the pressurized lubricating oil system may also be used for biassing the rotors towards the high pressure end wall.」(第2欄38?46行)
{ロータは,ガス圧,液体圧又は機械的圧力,例えば,ばねやこれらの手段の組み合わせによって,高圧側壁に向けて付勢されてもよい。本発明のスクリュロータ機械は所謂ウェットマシーンであることが好ましく,すなわち,ロータを潤滑するために作動スペースに油が注入され,加圧潤滑油システムからの油は高圧側壁に向けてロータを付勢するために用いられてもよい。}

(7)甲第7号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第7号証(特開昭57-35185号公報)には,「回転機械におけるスラストつりあわせ装置」に関し,以下の事項が記載又は示されている。
o’.「本発明は入口および出口通路を有するケーシング内に設けられたスクリユウロータにより作動流体を昇圧し圧送する回転機械,特にスクリユウ圧縮機において,スクリユウロータに作用するスラスト力をつりあわせるようにした回転機械におけるスラストつりあわせ装置に関するものである。」(2ページ左下欄1?6行)
p’.「おすスクリユウロータ2はピニオン6およびプルギヤ(図示せず)を介してモーター(図示せず)により駆動され」(2ページ右下欄2?4行)
q’.「さらに,上述した従来装置においては,おすスクリユウロータ2を支持しているスラスト玉軸受5に作用するスラスト力は全負荷運転時にD→Sの方向であつたものが,無負荷運転時には逆方向のS→D方向となり」(4ページ左上欄3?7行)
r’「第2図は本発明装置を備えた2段スクリユウ圧縮機の高圧段側を示すもので,おすスクリユウロータ2およびめすスクリユウロータ3を内部に備えるケーシング1には作動流体の入口通路(図示せず)および出口通路16が設けらている。ケーシング1内で回転するように取付けられたスクリユウロータ2,3はそれぞれラジアル荷重を支える2個の円筒ころ軸受4とスラスト荷重を支える1個のころがり玉軸受5により支持されている。作動流体はスクリユウロータ2,3の入口側Sから吐出側Dの方向(S→D方向)に昇圧されるので,その圧力差によりスクリユウロータ2,3には吐出側Dから入口側Sの方向(D→S方向)にスラスト力F1,F1′が発生し,このスラスト力F1,F1′は圧縮機の吐出し圧力にほぼ比例する。」(4ページ右上欄13行?左下欄7行)
s’.「おすスクリユウロータ2の一端部は同期調整歯車7を貫通してオーバーハング状に形成され,このオーバーハング部分にはスラスト軽減用のころがり玉軸受17およびスラストつりあわせ用のころがり玉軸受18がスペーサ19,20および軸端ナット21により取付けられている。スラスト軽減用のころがり玉軸受17にはスクリユウ圧縮機の吸込側Sから吐出側Dへ向うようなスラスト力を与えるためのバランスピストン22が同期調整歯車ケーシング1cの内面に設けられており,このバランスピストン22とケーシング1cの空間部にはケーシング1cに穿設した圧力供給口23から圧縮機の作動流体圧を供給するようにしている。したがつて,ころがり玉軸受17には作動流体圧によりS→D方向のスラスト力F5を与えることができ,このスラスト力F5は作動流体の圧力差によりスクリユウロータ2に作用するスラスト力F1とは逆方向となるので,スクリユウロータ2のスラスト力を小さくでき,またこのスラスト力F5はスラスト力F1に比例して増減する。」(4ページ右下欄11行?5ページ左上欄11行)
t’.「この図において,横軸は圧縮機の作動流体圧,縦軸はおすスクリユウロータ2に作用するスラスト力の大きさで,D→S方向のスラスト力を正(+),S→D方向を負(-)としている。スラスト力F1は作動流体圧に比例して増加するが,圧縮機の容量調整のために行なう無負荷運転時にはF1<0となるから,スラスト力F1+F2+F3は図の直線aで示すように変化する。これに対し,スラスト力F5は作動流体圧によるものであってS→D方向のスラスト力であるから,直線bで示すように変化する。さらに,スラスト力FA(=F6+F7)は常にD→S方向で,しかも作動流体圧の大きさに比例して減少するものであるから直線cで示すように変化する。したがつて,スラスト力F5+FAは直線dで示すようにでき,よっておすスクリユウロータ2に作用するスラスト力の総和ΣFは一点鎖線eで示すように,作動流体圧が変化してもその大きさおよび方向を常時一定に保つことができる。
以上述べた実施例において,バランスピストン22および25には作動流体圧が作用することから,圧縮機の容量調整のために吐出圧が大気圧になった場合であっても,前述のスラスト力F5およびF7が0とならないように,バランスピストン22とケーシング1cの空間部およびバランスピストン25とバランスシリンダ27との空間部にそれぞれ柔かい弾性ばね29および30を挿入すれば圧縮機のいかなる運転時においてもころがり玉軸受17,18の外部レースへの押付力が一定値以下とならないようにすることができる。」(5ページ左下欄10行?右下欄20行)
u’.「なお,第2図および第3図において,30?32はOリング,」(6頁1?2行)
v’.第2図において,モーターによってピニオン26を介して駆動されるのは,明らかにスクリユウロータ2の吸込み側のロータ軸部分であるから,入力軸は吸込み側のロータ軸部分であることが理解できる。
w’.上記記載事項と第2図の図示内容からみて,スクリユウロータ2,3の両側のロータ軸部分を円筒ころ軸受4により回転可能に支持するとともに,スクリユウロータ2の吐出側のロータ軸部分を上記円筒ころ軸受4よりもスクリユウロータ2,3の噛み合う部分から離れた位置にてころがり玉軸受5により回転可能に支持することが理解できる。
x’.上記記載事項と第2図,第3図の図示内容からみて,ころがり玉軸受5よりもスクリユウロータ2,3の噛み合う部分より離れた位置にて,スラスト軽減用のころがり玉軸受17の外部レースにバランスピストン22が設けられていることが理解できる。
y’.上記記載事項と第2図,第3図の図示内容からみて,ころがり玉軸受5とバランスピストン22の間には,圧縮機の作動流体圧を供給するためのバランスピストン22とケーシング1cの空間部を構成するためのケーシング1cの一部分があることが理解できる。
z’.上記記載事項と第2図,第3図の図示内容からみて,バランスピストン22のケーシング1cの一部分の側に圧縮機の吐出し圧力にほぼ比例するスラスト力F1に比例する作動流体圧(スラスト力F5)を供給する圧力供給口23を設けることが理解でき,圧力に比例する力は受圧面積の変化によって生じるという技術常識を考慮すると,バランスピストン22のケーシング1cの一部分の側に圧縮機の作動流体圧を加圧することなく導く圧力供給口23を設けたものといえる。

そうすると,上記の事項及び図示内容からみて,甲第7号証には,次の発明(以下,「甲7発明」という。)が記載されているといえる。
「スクリユウロータ2,3の両側のロータ軸部分を円筒ころ軸受4により回転可能に支持して入力軸をスクリユウロータ2の吸込み側のロータ軸部分とし,
吐出側のスクリユウロータ2のロータ軸部分を上記円筒ころ軸受4よりもスクリユウロータ2,3の噛み合う部分から離れた位置にてころがり玉軸受5により回転可能に支持するとともに,
上記ころがり玉軸受5よりもスクリユウロータ2,3の噛み合う部分から離れた位置にてスラスト軽減用のころがり玉軸受17の外部レースにバランスピストン22を設け,
かつ上記ころがり玉軸受5とバランスピストン22の間には,圧縮機の作動流体圧を供給するための上記バランスピストン22とケーシング1cの空間部を構成するケーシング1cの一部分があり,
このバランスピストン22の上記ケーシング1cの一部分の側に圧縮機の作動流体圧を加圧することなく導く圧力供給口23を設けて形成した,
スクリユウ圧縮機。」

(8)甲第8号証
甲第8号証(HOWDEN AUTO VARIABLE Vi OPTIONS FOR XRV RANGE COMPRESSORS)は,XRVシリーズと称される圧縮機(以下,「XRV圧縮機」と称する。)に関する書証であり,図面と共に以下の事項が記載されている({}内は,当審における仮訳である。)。
A.「HOWDEN AUTO VARIABLE Vi OPTIONS FOR XRV RANGE COMPRESSORS」(1ページ1?3行)
{XRVレンジ圧縮機のためのHOWDEN自動可変Viオプション}
B.「Publication Date: May 1995」(1ページ下から3行)
{発行日:1995年5月}
C.「This bulletin is provided as an introduction to distributors and packagers of Howden compressors XRV range, covering the alternative variable volume ratio(Vi) control equipment available.」(2ページ2から4行)
{この会報は,利用可能である代替的な可変容積比(Vi)制御装置に対して,Howden圧縮機XRVレンジの販売者,販売代理店及びパッケージャーへの手引きとして提供される。}
ここで,「AUTO VARIABLE Vi SYSTEM ARRANGEMENT」の図面を以下「図8-A」といい,「VERTICAL SECTION THROUGH AN XRV COMPRESSOR」の図面を以下「図8-B」ということにする。
図8-Aからみて,甲第8号証のXRV圧縮機は,以下の構成を有することが理解できる。
D.黄色で示された流路は圧縮対象である冷媒ガスの流路であり,緑色で示された流路は油の流路であり,赤色で示された流路は,制御回路である。
E.圧縮機本体から吐出された冷媒ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された冷媒ガスを凝縮器(CONDENSOR)に送り出す油分離回収器(SEPARATOR VESSEL / OIL RESERVOIR)を吐出流路に備えている。
F.スクリュロータの両側に延びるロータ軸のうち吸込側のロータ軸には駆動モータ(MAIN DRIVE MOTOR)が接続されており,駆動モータからの駆動力が入力される入力軸は吸込側のロータ軸である。
G.油分離回収器と圧縮機本体との間で循環する油回路(OIL CIRCUIT)のうち油冷却器(OIL COOLER)をとおる回路(=流路)は,吸込み側と吐出側の両方に存在する「BALANCE PISTON AND BEARING SUPPLY」と記載された油路を介してバランスピストンと軸受に油を導くようになっている。
H.図8-Aにおいて,油分離回収器の油溜まり部からバランスピストンに向かう流路において,油冷却器(OIL COOLER)をとおる流路には加圧ポンプが設けられていないが,油分離回収器の油溜まり部からバランスピストンに向かう流路の途中に並列に始動用ポンプ(STARTUP POMP)が設けられていることから,油分離回収器の油溜まり部からバランスピストンに向かって,油を加圧することなく導く流路の途中に並列に始動ポンプを介して油を導く流路が存在する。
図8-Bには,甲第8号証のXRV圧縮機の内部構造の詳細が示されている。図8-Bからみて,甲第8号証のXRV圧縮機は,以下の構成を有することが理解できる。
I.XRV圧縮機は,スクリュロータの両側に延びるロータ軸を回転可能に支持するための円筒ころ軸受を備えている。
J.円筒ころ軸受に加えて,吐出側のロータ軸を回転可能に支持する2列のスラスト玉軸受が設けられており,スラスト玉軸受は,円筒ころ軸受よりもスクリュロータから離れた位置に設けられており,並びに,スラスト玉軸受よりもスクリュロータからさらに離れた位置のロ-タ軸には,バランスピストンが設けられており,スラスト玉軸受とバランスピストンとの間には,壁が設けられている。
K.油冷却器(OIL COOLER)を介して軸受等に油を供給するから,油冷式のスクリュ圧縮機である。

そうすると,甲第8号証には,以下の発明(以下,「甲8発明」という。)が開示されている。
「油とともに吐出された冷媒ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に備える一方,
スクリュロータの両側に延びるロータ軸を円筒ころ軸受により回転可能に支持して入力軸を吸込側のロータ軸とし,
吐出側のロータ軸を上記円筒ころがり軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト玉軸受により回転可能に支持するとともに,
上記スラスト玉軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを設け,
かつ上記スラスト玉軸受とこのバランスピストンとの間に壁を設け,
バランスピストンに向かって上記油溜まり部の油を加圧することなく導く流路の途中に並列に始動ポンプを介して導く流路を設けて形成した,
油冷式スクリュ圧縮機。」

(9)甲第9号証
甲第9号証(「HOWDEN COMPRESSORS INTRODUCES ITS LATEST RANGE OF REFRIGERATION COMPRESSORS The XRV」{HOWDEN COMPRESSORS社の紹介する最新レンジの冷凍圧縮機}には,図面と共に以下の事項が記載されている。
L.「It is now over 50 years since Howden Compressors manufactured the world's first ever commercially produced rotary screw compressor.」(2ページ3つの図面の下1?2行)
{Howden Compressors社が世界で最初に商業的に生産されたロータリ・スクリュ・コンプレッサを製造してから今や50年を越えました。}
M.「XRV FEATURES INCLUDE:
・・・
▲ ECONOMICAL
・・・
・Oil pump usually not required
・・・
▲ ENERGY EFFCIENT
・・・
・Minimal oil pump requirement」(1ページ6?16行 )
{XRVの特徴は以下を含む。
・・・
▲ 経済的
・・・
・油ポンプは通常不要
▲ 省エネルギー
・・・
・最小限の油ポンプ要求}

甲第9号証の2ページにおける「XRV COMPRESSOR HORIZONTAL SECTION」{XRV圧縮機横断面},「XRV COMPRESSOR VERTICAL SECTION」(XRV圧縮機縦断面}及び「XRV OPERATING PRESSURE ENVELOPE」{XRV運転圧力包絡線}の図をそれぞれ「図9-A」?「図9-C」ということにする。
N.図9-A及び図9-Bでは,XRV圧縮機の何れの端部が吸込側であるのかが文言として明記されていないが,図9-Aの噛み合ったスクリュロータの形状からして図9-Aにおける左側が吸込側で右側が吐出側であることが理解できる。
そうすると,図9-Bにおいて,円筒ころ軸受,スラスト玉軸受およびバランスピストンが図9-Aと同様にスクリュロータの右側に設けられているのであるから,図9-Bについても左側が吸込側で右側が吐出側であることが理解できる。
O.図9-Aから明らかなように,スクリュロータの両側に延びるロータ軸のうち吸込側(左側)のロータ軸のみがケーシングを貫通しているから,原動機(例えば電動モータ)の出力軸に連結されるスクリュ圧縮機の入力軸は吸込側のロータ軸であることが理解できる。
P.図9-Aによれば,甲第9号証のXRV圧縮機は,スクリュロータの両側に延びるロータ軸を回転可能に支持するための円筒ころ軸受を備えていること,吐出側のロータ軸は,円筒ころ軸受に加えて,2列のスラスト玉軸受によって回転可能に支持されていること,並びに,スラスト玉軸受は,円筒ころ軸受よりもスクリュロータから離れた位置に設けられていることが理解できる。
Q.図9-Aからみて,スラスト玉軸受よりもスクリュロータからさらに離れた位置には,ロータ軸にバランスピストンが設けられていること,及び,スラスト玉軸受とバランスピストンとの間には,壁が設けられていることが理解できる。
R.図9-Cに示すように,吸入圧(横軸;「SUCTION PRESSURE」)と吐出圧(縦軸;「DISCHARGE PRESSURE」)を参照すると,吐出圧(縦軸;「DISCHARGE PRESSURE」)があまり高くない範囲(5?9bara以下)の領域では,オイルポンプが使用されるから,吐出圧のあまり高くない起動時等において油を加圧することなくバランスピストンに導くことは開示されていない。

そうすると,甲第9号証には,以下の発明(以下,「甲9発明」という。)が開示されている。
「スクリュロータの両側に延びるロータ軸を円筒ころ軸受により回転可能に支持して入力軸を吸込側のロータ軸とし,
吐出側のロータ軸を上記円筒ころ軸受けよりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト玉軸受により回転可能に支持するとともに,
上記スラスト玉軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを設け,
かつ上記スラスト玉軸受とこのバランスピストンとの間に壁を設け,
吐出圧があまり高くない範囲(5?9bara以下)の領域では,オイルポンプが使用される,
スクリュ圧縮機。」

2.その他の証拠について
(1)甲第10号証,甲第19号証,甲第24号証
甲第10号証,甲第19号証,甲第24号証は,それぞれ1994年2月までHowden社に所属していたデービッド H.ジョンソン氏の宣誓供述書である。
(1-1)甲第10号証(デービッド H.ジョンソン氏の宣誓供述書)
・「本宣誓供述書の添付書類Aは,1991年1月,コネティカット州ブルームフィールドにいたときに,私と社員とで新しい油冷式圧縮機であるXRVレンジ(シリーズ)を販売促進するため,作成されたものです。私の記憶が正しければ,私たちはこのチラシを1991年1月にニューヨーク市のJacob Javitt センターで行われたASHRAEショー(展示会)のために準備しました。この展示会は,XRVシリーズの圧縮機を米国市場に紹介する機会として活用し,XRV204圧縮機を展示しました。その展示会の反応は,とても好評でした。いずれにしても,私がHowden社を退社した年である1994年の4月以前にこのチラシが発行されたことは間違いありません。」
・「この宣誓供述書の添付書類Bは,Howdenのグラスゴーのオフィスに於いて1995年5月に発行されたもので,サーボモータを使って自動的に体積比(Vi)を調節できる,オリジナルの「可変Vi」情報を提供したものです。この書類は,添付書類Aよりエンジニアリングデータをより多く含んでおり,展示会で配布するためのものではありませんでしたが,別会社で圧縮機ビジネスを継続していた私を含む,既存の,または潜在的な販売代理店や顧客でHowdenの製品に興味をお持ちの方には全て,守秘義務なく自由に譲渡されました。」
(1-2)甲第19号証(デービッド H.ジョンソン氏の第2宣誓供述書)
・「私の Howden 退職時期:私は1994年2月14日にHowdenに対し退職届を提出しました。これが公式の退職日でした。私は,アメリカやその他の地域においてHowden時代の様々な業務の関係上,1994年4月に至るまでHowdenの業務を引き続き手伝っていました。したがって,私の宣誓供述書および私のLinked-in頁は,どちらも私の退職時期に関して正しいと言えます。」
・「添付書類Bの頒布:私は,Howdenを辞めた後も,Howdenのアメリカやスコットランドの事務所とはコンタクトを続け,Howden 製品を私の顧客に推奨し販売することを含め,圧縮機業界で専門家として働き,ペンシルベニアにあるHowdenの事務所にもよく出かけていました。添付書類Bと同じパンフレットは,まず間違いなく,発行されてから間を置かずに,そこで私に配布されました。なぜなら,下記で説明するとおり,この文書は,我々業界の者にXRVの新しい特徴を紹介し販促するため印刷されたもので,したがって,受取る者にとって斬新なのでなければならなかったからです。」
・「添付書類Bの性質:添付書類Bの「イントロダクション」に「本パンフレットは Howden Compressors XRV 製品群の販売業者及びパッケージ業者の方々に採用可能となった代替的可変体積率制御装置をご紹介するためご提供申し上げるものです。」と記載されているように,添付書類Bは,新たに付加された可変容積制御メカニズムの特徴を売り込むための販促資料です。XRV 圧縮機は1990年代前半に既に発表されていましたが,このメカニズムはなかったことが,添付書類Aの圧縮機断面図と添付書類Bの断面図の左端との比較から見てとることができます,それは,新型XRVの潜在的顧客である販売業者およびパッケージャー向けのものであり,そうした文書の性質上,秘密情報を含むことはあり得ず,かつ,実際に含んでいませんでした。この文書は,「イントロダクション」の最後の段落に「これ以上でより詳細な情報は,XRV COMPRESSOR DATA BOOKで提供されており,全制御ロジックについては,制御製作者向け別途事項として提供されます。」とあるとおり,一般的な特徴のみが記載されたものです。それは,私が自然に理解したように,私を含めて,Howdenが当該製品に興味を持ってもらうことを望む誰に対しても,自由に頒布されたものであることは明らかです。言い換えると,この書類の記載そのものが。秘密保持義務なく一般頒布のため発行されたものであることを,疑いなく証明しています。
・「添付書類Bの一体性:添付書類Bは一体性のある一つの書類です。ページには番号が付されていませんが,インデックスの1から9の順番どおりに正確に配列され,「HOWDEN自動可変Viシステム」の項での「反対ページの2つのグラフ」,「動力低減」の項での「反対ページのグラフは…」,「自動VI制御モジュール」の項での「反対ページ及とその次のページに示されています」,「典型的な運転シーケンス」の項での「本ページと次の2ページに示されています」との記載は,別ではあるが連続したページに印刷された記載内容を指しています。」
・「添付書類A:添付書類Aが,展示会のような機会に新しい機械を宣伝するためのリーフレットであることは誰も否定しないでしょう。私の前の宣誓供述書で述べたとおり,添付書類Aは1991年1月,コネチカット州ブルームフィールドで私と社員とで作成されたものです。私の記憶が正しければ,このリーフレットはニューヨークで開催されたASHRAE(アメリカ暖房冷凍空調学会)展示会用に作られたものです。これを証明するため私はASHRAEに対し出展者リストや出展者の展示品リストを含む,1991年にニューヨーク市で行われたASHRAEショーの保存記録について問い合わせをしました。ASHRAE側は1991年にニューヨーク州ニューヨーク市内のJacob JavittセンターでASHRAEショーが開催されたことは確認してくれましたが,1991年当事の資料はないとのことでした。
しかしながら,私が確信をもって言うことができるのは,添付書類Aの裏ページにある「Howden Compressorsが世界初の商業用スクリュ回転圧縮機を製造してから今や50年以上経ちました。」という文章から,添付書類Aが1991年ごろに印刷されたということです。我々は皆,Howdenが1938年にスウェーデンのSRM社から技術の実施許諾を得た後に,世界で初めてスクリュ圧縮機を商業的に製造したことをよく知っており,誇りにしていましたので,1991年頃に,我々が「今や50年以上が経ちました」と述べることは,ごく自然で適切なことだったのです。また,このリーフレットに記載されているHowden Compressors Inc.の住所は,コネチカット州ブルームフィールドであり.1995年にはペンシルベニア州ラングホーンの事務所に移転していることから,添付書類Aが,遅くとも,1955年5月(訳者注:1995年5月の誤記)までに印刷されたということを付け加えたいです。また,添付書類Aには1995年5月に印刷された添付書類Bで紹介されている新しい制御メカニズムに言及したり説明したりしていないことも付け加えます。」
(1-3)甲第24号証(デービッド H.ジョンソン氏の第3宣誓供述書)
・「2 図1は,私の最初の宣誓供述書添付書類Aの2頁目の上左端に示された図であり,図2は添付書類Bの11枚目の図面の上部部分図です。
図1は,1991年二ユーヨークでのASHRAEショーに展示されたXRV圧縮器を示すものであり,図2は1995年に発売されたXRV圧縮機を示すものです。
3.両部材はいずれも,赤矢印で図示されたメカニカルシールに供給される潤滑油をシールすることを主たる機能とする環状シーリング部材です。潤滑油は吐出側にある油分離機から供給され,かつ,周辺のローター室の吸込圧力よりも高圧であるため,潤滑油を保持するための分離された室を形成し,油のローター室への流れをシーリング部材外周のラビリンス・シ-ルにより制御するため環状シーリング部材が雄口一タ一と外側ケーシングとの間に配置されています。
4.私は,上記のようなメカニズムのため,圧力を受けて供綸される油は,シーリング部材を吐出側,即ち,図の右方向,に押すことになり,こうして吐出側バランスピストンと同様かつ同方向の一定の反スラスト力を及ぼすことを付言しておきたいです。」

(2)甲第11号証
甲第11号証は,Star社に所属するドクター AB ピアソン氏の宣誓供述書である。
・「Starは英国において,1996年10月以前にXRV圧縮機を使ったオイルポンプ無しの様々なプロジェクトを完成しています。例えば:
a.130702- Kinlochbervie の製氷装置,1995年1月27日受注
b.130707- Ross Youngs Annan,1995年6月27日受注
c.100156- Knoll Cramlington, 1995年10月6日受注
d.100159- Bass, Burton,1995年10月26日受注
e.100160- Bass, Burton,1995年10月26日受注
f.100173- Peboc,Anglesey,1996年10月23日受注」

(3)甲第12号証
甲第12号証は,Howden社のウェブサイトにおける油冷式スクリュ圧縮機の製品紹介ページである。
(https://www.howden.com/products-and-services/compressors/oil-injected-screw-compressor)
甲第12号証に示されるように,XRVシリーズの圧縮機(XRV圧縮機)には,「XRV 163」及び「XRV 204」の二種類の製品がある。

(4)甲第13号証
甲第13号証は,甲第12号証に係る上記ウェブサイトから取得したものであり,XRVシリーズのうち「XRV 163」に関するカタログである。甲第13号証に示すように,XRVシリーズのうち「XRV 163」には,軸方向寸法Lが1070mmである「XRV163/165」と,軸方向寸法Lが1116mmである「XRV163/193」がある。

(5)甲第14号証
甲第14号証は,甲第12号証に係る上記ウェブサイトから取得したものであり,XRVシリーズのうち「XRV 204」に関するカタログである。甲第13号証及び甲第14号証に示されたXRV圧縮機の断面図及び外観写真から明らかなように,「XRV 163」と「XRV 204」とは共通の構造を有し,処理流量及びサイズのみが相違している。

(6)甲第17号証
甲第17号証(特開昭59-110889号公報)には,甲2と同様に,バランスピストン17が玉軸受を介してロータシャフト2’に間接的に取り付けられたスクリュ圧縮機に関するものであるが,「このスラスト力を軽減させるために,おすロータシャフト2’にバランスピストン17が取り付けられており…」(2頁右上欄9?12行)と記載されている。

(7)甲第18号証
甲第18号証(特公昭56-27714号公報)の第2図には,ロータ軸に直接取り付けられるバランスピストン17が記載されている。

(8)甲第20号証
甲第20号証は,甲第8号証の入手経緯,文書の性質,甲第20号証の作成者の身上経歴等に関するLUIGI VIALBAの宣誓供述書である。
LUIGI VIALBAは,イタリア国民で,職業は機械技師であること,1985年から2001年までスルツアー・イタリアSpAでセールスマネージャーとして働いていたこと。
甲第8号証のパンフレットは,1995年5月の発行後間もない時期に,郵送又はハウデンの営業担当者が私の会社に来た際に手渡しで,ハウデン社から受け取った文書であること。甲第8号証は,自分の顧客用にハウデン社製のコンプレッサを購入するかもしれない販売業者やパッケジング業者向け販売促進文書である。
文書はリング綴用の1列の長方形穴付きだが綴じられていない,ばらのルーズリーフの状態で渡されたこと,ヴォリューム・コントロールメカニズムの箇所を読み,いくつかの関連箇所にマークをした後,個人ファイルに入れ,ほとんど手つかずのままにしていたこと等が記載されている。

(9)甲第21号証
甲第21号証(「スクリュー圧縮機の技術とその応用」,西村喜之,ターボ機械第17巻第9号,1989年9月発行)には,用途に応じて無給油式および油冷式のスクリュ圧縮機の双方が使い分けられていたことが開示されている。

(10)甲第22号証
甲第22号証(2016年12月20日付Howden Compressor社グローバル・プロダクト・リーダー兼社長FRED HEARLEの書面)は,XRVレンジの作成時期に関してFRED HEARLEが記載した書面である。

(11)甲第23号証
Howdenのパンフレットである甲第23号証(甲第23号証について発行時期についての記載はない。)には,以下の記載がある。
・「In 1939 Howden Compressors became the first company in the world to commercially produce rotary compressors」(2ページ2?4行)
{1939年に,Howden Comperssors社は,ロータリスクリュ圧縮機を商業的に生産した世界初の会社となった。}
・「Over 50 years on we have the largest range of Oil Free and Oil Injected screw compressors in the world for gas processing and refrigeration applications.」(2ページ4?8行)
{50年を超える間,当社は,ガス処理及び冷凍分野での使用のための無給油式,油冷式スクリュ圧縮機の世界最大の製品群を保有している。}

3.無効理由3について
(1)本件特許発明と甲8発明との対比判断
ア 本件特許発明と甲8発明とを対比する。
(ア)甲8発明の「円筒ころ軸受」は本件特許発明の「ラジアル軸受」に相当し,以下同様に,「スラスト玉軸受」は「スラスト軸受」に,「バランスピストンを設け」は「バランスピストンを取り付け」に,それぞれ相当する。

(イ)本件特許発明の「このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」態様と,甲8発明の「バランスピストンに向かって上記油溜まり部の油を加圧することなく導く流路の途中に並列に始動ポンプを介して導く流路を設けて形成した」態様とを対比する。
本件特許発明の「上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路」との文言では,油を「加圧すること」が「な」いタイミングがいつであるのかが判然としないので,特許明細書の記載を参酌すると,本件特許発明は,起動直後,あるいはアンロード運転時等の圧縮機の負荷が小さくスラスト力が小さい場合に逆スラスト荷重の発生をなくすことを解決しようとする課題(段落【0008】,【0010】を参照。)としていることが理解される。そうすると,本件特許発明の「上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路」は,少なくとも起動直後には「油溜まり部の油を加圧することなく導く」ことを要するものと解される。
一方,甲8発明の「バランスピストンに向かって上記油溜まり部の油を加圧することなく導く流路の途中に並列に始動ポンプを介して導く流路を設けて形成した」態様は,少なくとも起動直後には,始動ポンプにより油溜まり部の油を加圧して導くものであるから,上記「油溜まり部の油を加圧することなく導く流路」は,起動直後には動作していない。よって,甲8発明の「バランスピストンに向かって上記油溜まり部の油を加圧することなく導く流路」は,本件特許発明の「油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧通路」には相当しない。

そうすると,甲8発明の「バランスピストンに向かって上記油溜まり部の油を加圧することなく導く流路の途中に並列に始動ポンプを介して導く流路を設けて形成した」態様と,本件特許発明の「このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」態様とは,「このバランスピストンに向けて上記油溜まり部の油を導く流路を設けて形成した」ことの限りで共通する。

(ウ)以上のことから,両者は,
「油とともに吐出された冷媒ガスから油を分離回収し,一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設ける一方,
スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持して入力軸を吸込側のロータ軸とし,
吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト軸受により回転可能に支持するとともに,
上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け,
かつ上記スラスト玉軸受とこのバランスピストンとの間に壁を設け,
このバランスピストンに向けて上記油溜まり部の油を導く流路を設けて形成した,
油冷式スクリュ圧縮機。」
の点で一致し,以下の点で相違すると認められる。
<相違点8-1>
本件特許発明では「上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け,このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」のに対して,甲8発明では,「壁」がスラスト軸受とバランスピストンの間を圧力遮断する「仕切り壁」か否か特定されず,少なくとも起動直後には均圧流路が形成されず,流路が導かれる空間も特定されていない点。

イ 上記相違点が実質的であるか否かについて検討する。
(ア)甲第8号証には,本件特許発明の「油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路」については記載も示唆もないし,また,これが技術常識であるともいえないから,上記相違点における本件特許発明の構成は,甲第8号証に記載されたに等しい事項とはいえない。
よって,上記相違点は実質的である。

(イ)請求人は,審判請求書の第49ページ下から4行?50ページ第4行において,
「・油分離回収器と圧縮機本体との間で循環する油回路(OIL CIRCUIT)のうち水色で示した回路(=流路)は,「BALANCE PISTON AND BEARING SUPPLY」との記載から明らかなようにバランスピストンと軸受に油を導くようになっている。
・そして,この流路には加圧ポンプが設けられていないことから,参考図8-Aにおいて水色で示した流路は,油分離回収器の油溜まり部からバランスピストンに加圧ポンプを介さずに油を供給する「均圧流路」である。」旨主張する。
しかしながら,油分離回収器と圧縮機本体との間で循環する油回路(OIL CIRCUIT)のうち水色で示した回路(=流路)の途中には並列に始動ポンプ(STARTUP PUMP)を介して導く流路が設けられており,少なくとも起動直後には,始動ポンプが作動することになって,油分離回収器の油溜まり部からバランスピストンに加圧ポンプを介さずに油を供給する流路は動作しないから,請求人がいう水色で示した回路が,本件特許発明でいう「油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設け」ることにはならないのは,前述したとおりであり,請求人の上記主張は採用できない。

(ウ)請求人は,平成29年12月22日付け口頭審理陳述要領書の第8ページ下から8行?9ページ13行において,
「(1)STARTUP PUMPの機能
甲8自体には,17枚目の図中の「STARTUP PUMP」(始動ポンプ)に関する具体的説明が存在しないが,その語義及び同図の油回路(緑色で示した部位)から,圧縮機の始動時に用いられ,バランスピストン,軸受,自動Viシリンダ及びスライド弁制御装置の各種機器に加圧油を供給するようになっていると解される。
但し,圧縮機の始動時におけるスラスト荷重が小さいことからすれば,バランスピストンに加圧油を供給する必要性はないはずであるから,「STARTUP PUMP」(始動ポンプ)の機能は,圧縮機の始動時に軸受を確実に潤滑するために,主として軸受に加圧油を供給するものであると推定される。甲8では,バランスピストンの油供給系統と,軸受の油供給系統とが共通であるため,「STARTUP PUMP」(始動ポンプ)からの加圧油を軸受に供給することの結果として,バランスピストンにも加圧油が供給されるに過ぎない。
一方,圧縮機の始動後においては,高温の吐出ガスから分離された油溜めの油の温度が高いため,「STARTUP PUMP」(始動ポンプ)に対して並列に設けられる「OIL COOLER」(油冷却器)を経由した油が軸受の冷却に用いられるはずである。即ち,圧縮機の始動後は,「STARTUP PUMP」(始動ポンプ)を経由した加圧油ではなく,「OIL COOLER」(油冷却器)を経由した非加圧油がバランスピストンに供給される。」旨主張する。
しかし,請求人は,甲8発明について,起動直後には,始動ポンプからの加圧油がバランスピストンにも供給されることを認めているから,本件特許発明でいう「油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設け」ることにはならないのは,前述したとおりであり,請求人の上記主張は採用できない。
また,その余の請求人の主張・立証は,均圧流路の存在に関するものではないから,結論に影響を与えるものではない。
(エ)以上のとおりであるから,本件特許発明は,甲第8号証に記載された発明(甲8発明)ではない。

(2)本件特許発明と甲9発明との対比判断
ア 本件特許発明と甲9発明とを対比する。
甲9発明の「円筒ころ軸受」は本件特許発明の「ラジアル軸受」に相当し,以下同様に,「スラスト玉軸受」は「スラスト軸受」に,「バランスピストンを設け」は「バランスピストンを取り付け」に,それぞれ相当する。
そうすると,両者は,
「スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持して入力軸を吸込側のロータ軸とし,
吐出側のロータ軸を上記円筒ころ軸受けよりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト軸受により回転可能に支持するとともに,
上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け,
かつ上記スラスト玉軸受とこのバランスピストンとの間に壁を設けた,
スクリュ圧縮機。」
の点で一致し,以下の各点で相違すると認められる。
<相違点9-1>
本件特許発明では,「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設ける」,「油冷式スクリュ圧縮機」であるのに対して,甲9発明では,スクリュ圧縮機であるものの,「油分離回収器」についての特定がなされていないとともに,「油冷式」であることも特定されていない点。
<相違点9-2>
本件特許発明では「上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け,このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」のに対して,甲9発明では,「上記スラスト玉軸受(スラスト軸受)とこのバランスピストンとの間に壁を設け」るものの,「壁」がスラスト軸受とバランスピストンの間を圧力遮断する「仕切り壁」か否か特定されず,吐出圧があまり高くない範囲(5?9bara以下)の領域では,オイルポンプが使用されるものであって,「油溜まり室からバランスピストンに向けて油を導く流路」及び当該流路の導かれる空間も特定されていない点。

イ 上記各相違点が実質的であるか否かについて検討する。
(ア)<相違点9-1について>
a 相違点9-1の本件特許発明の構成は,甲第9号証に記載も示唆もなく,甲9発明が「油分離回収器」を備えているのか否かや「油冷式」であるかのか否かは不明と言わざるを得ないから,甲第9号証に記載されているに等しい事項ともいえない。
したがって,相違点9-1は,実質的なものである。
b 請求人は,審判請求書の54ページ下から8行?55ページ2行において,
「また,スクリュ圧縮機には油冷式圧縮機とオイルフリー圧縮機の2種類があり,オイルフリー圧縮機にはロータ同士の接触を防止するためのタイミングギヤが必須であるところ,参考図9-A及び9-Bから明らかなように,甲第9号証のXRV圧縮機はタイミングギヤを有しない。よって,甲第9号証のXRV圧縮機が油冷式(オイルインジェクション式)圧縮機であることは明らかである。油冷式圧縮機の場合,圧縮機本体から吐出されたガスに含まれた油を分離する必要があるから,吐出流路には必ず油分離回収器が設けられ,吐出ガスから分離された油は油分離回収器の下部の油溜まり部に溜まり,油溜まり部からの油が圧縮機本体に注入されるとともにバランスピストンや軸受に給油される構造を有することは自明である。」旨主張する。
しかしながら,図9-A及び図9-Bは,一部分の断面図にすぎないから,これらの各図からタイミングギアが見て取れないことをもって,ただちに,甲第9号証のXRV圧縮機がロータ同士の接触を防止するためのタイミングギヤを有しないと認定することはできない。よって,請求人の上記主張は,採用できない。

(イ)<相違点9-2について>
a 甲第9号証において,本件特許発明の「油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路」については記載も示唆もなく,「油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路」が設けられているのかは不明と言わざるを得ないから,上記相違点9-2における本件特許発明の構成は,甲第9号証に記載されたに等しい事項とはいえない。
したがって,相違点9-2は,実質的なものである。
b 請求人は,審判請求書の55ページ18行?56ページ4行において,「甲第9号証のXRV圧縮機は,参考図9-Cに示すように,オイルポンプが使用される運転条件範囲は,吸入圧(横軸;『SUCTION PRESSURE』)と吐出圧(縦軸;『DISCHARGE PRESSURE』)との圧力差が十分でない領域に限定され,殆どの運転条件範囲においてオイルポンプが不要である。このことは,甲第9号証の『Oil pump usually not required』(オイルポンプは通常不要である。)及び『Minimal oil pump requirement』(最小限の油ポンプ要求)(1頁)との記載からも明らかである。そして,圧力差が十分であるためオイルポンプが不要なXRV圧縮機使用システムにおいてバランスピストンに油を導くためには,油分離回収器の油溜まり部からの油を加圧することなくバランスピストンに導くより他に方法がないのであるから,甲第9号証には,油分離回収器の油溜まり部からの油がオイルポンプによって加圧されることなくバランスピストンに導く『均圧流路』が記載されているに等しい。」旨主張する。
しかしながら,甲第9号証の記載事項Rで述べたように,「R.図9-Cに示すように,吸入圧(横軸;「SUCTION PRESSURE」)と吐出圧(縦軸;「DISCHARGE PRESSURE」)を参照すると,吐出圧(縦軸;「DISCHARGE PRESSURE」)があまり高くない範囲(5?9bara以下)の領域では,オイルポンプが使用される」わけであるし,しかも,甲第9号証においては流路の接続関係が不明であるから,甲9発明が,吐出圧のあまり高くない起動直後等において油を加圧することなくバランスピストンに導くものであるのかは,不明である。
そして,前述したように,本件特許発明の「上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路」は,少なくとも起動直後にも「油溜まり部の油を加圧することなく導く」ものでなければならない。
そうすると,甲第9号証には,吐出圧のあまり高くない起動直後等において油を加圧することなくバランスピストンに導くことが開示されているとはいえないから,本件特許発明でいう「上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」ものとはいえない。
また,「圧力差が十分であるためオイルポンプが不要なXRV圧縮機使用システムにおいてバランスピストンに油を導くためには,油分離回収器の油溜まり部からの油を加圧することなくバランスピストンに導くより他に方法がないから,甲第9号証には,油分離回収器の油溜まり部からの油がオイルポンプによって加圧されることなくバランスピストンに導く『均圧流路』が記載されているに等しい。」旨の請求人の上記主張は,圧力差が十分ある場合のことを述べているものであって,少なくとも起動直後の場合を述べているものではないから,前述したように,本件特許発明でいう「上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」ものとはいえず,請求人の上記主張は採用することができない。
(ウ)請求人のその余の主張・立証は,均圧流路の存在に関するものではないから,結論に影響を与えるものではない。

(エ)よって,本件特許発明は,甲第9号証に記載された発明(甲9発明)ではない。
(3)小括
以上のとおり,本件特許発明は,甲第8号証又は甲第9号証に記載された発明ではないから,特許法第29条第1項第3号の規定の発明に該当しない
よって,甲第8号証及び甲第9号証の文書の成立性や刊行物性等の争点について判断するまでもなく,無効理由3によっては,本件特許発明の特許を無効とすることはできない。

4.無効理由4-aについて
(1)本件特許発明と甲1発明との対比
ア 本件特許発明と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「油分離器52」は「吐出された油を多量に含む圧縮ガスから油を分離し,一旦油溜まり部に溜め」ることにより油を回収していることは明らかであるから,本件特許発明の「油分離回収器」に相当する。以下同様に,「吐出配管50」は「吐出流路」に,「スクリューロータ」は「スクリュロータ」に,「軸部4a,4b,5a,5b」,「軸部4a,5a」及び「軸端部4c」は「ロータ軸」に,「ジャーナル軸受6,7,8,9」及び「ジャーナル軸受8,9」は「ラジアル軸受」に,「スラスト玉軸受12,13」は「スラスト軸受」に,「油溜まり部の油を加圧することなく導く配管58」は「油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路」に,「油冷式スクリュー圧縮器」は「油冷式スクリュ圧縮機」にそれぞれ相当する。
甲1発明の「吐出された油を多量に含む圧縮ガスから油を分離し,油を一旦油溜まり部に溜め,油と分離された圧縮ガスを吐出す油分離器52を吐出配管50に接続する」ことと,本件特許発明の「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設ける」こととは,「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,一旦油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設ける」ことで共通する。
甲1発明の「上記吸引側のジャーナル軸受6,7よりもスクリューロータから離れた位置にて上記軸部4bの端にバランスピストン32を係止」することと,本件特許発明の「上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け」ることとは,「スクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け」ることで共通する。
甲1発明の「このバランスピストン32の上記吸引側のジャーナル軸受6側とは反対側の位置にカバー21を設け」ることと,本件特許発明の「上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け」ることとは,「壁を設け」ることで共通する。
甲1発明の「このバランスピストン32のカバー21側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く配管58を設けて形成した」ことと,本件特許発明の「このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」こととは,「このバランスピストンの壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」ことで共通する。

(イ)そうすると,両者は,
「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,一旦油溜まり部に溜め,油と分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設ける一方,
スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持して入力軸をロータ軸とし,
吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト軸受により回転可能に支持するとともに,
スクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け,
かつ,壁を設け,
このバランスピストンの壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した,
油冷式スクリュ圧縮機。」
の点で一致し,以下の各点で相違すると認められる。
<相違点1-1>
油分離回収器に関して,本件特許発明では,油を一旦「下部の」油溜まり部に溜めているのに対して,甲1発明では,油を一旦油溜まり部に溜めるものの,油溜まり部が「下部」にあることが特定されていない点。
<相違点1-2>
本件特許発明では,「入力軸を吸込側のロータ軸とし,」「上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記(吐出側の)ロータ軸にバランスピストンを取り付け,かつ上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け,このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」のに対して,甲1発明では,入力軸を「吐出側」の軸端部4c(ロータ軸)とし,「上記吸引側のジャーナル軸受6,7(ラジアル軸受)」よりもスクリューロータ(スクリュロータ)から離れた位置にて上記軸部4b(ロータ軸)の端にバランスピストン32を係止し(取り付け),かつ,「このバランスピストン32の上記吸引側のジャーナル軸受6側とは反対側の位置にカバー21(壁)」を設け,このバランスピストン32の「カバー21(壁)」側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く配管58(均圧配管)を設けて形成したものの,入力軸が吸込側でなく,バランスピストンの取り付け位置が異なり,壁が上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間を圧力遮断するものではなく,均圧流路を導く空間が,バランスピストンと上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁側ではない点。

(2)相違点についての判断
ア 上記各相違点が甲第1号証の記載に基づいて容易想到であるか否かについて判断する。
(ア)<相違点1-1について>
甲第1号証の第5図を参照すると油分離器52の下部から油圧の配管58,53が出ているから,油分離器52(油分離回収器)の油溜まり部を下部に設けることが自然であり,相違点1-1における本件特許発明の構成とすることは,甲1発明及び甲第1号証に記載された事項から当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
(イ)<相違点1-2について>
a(a)甲1発明は,「本発明はスクリュー圧縮機における従来のバランスピストンの加圧方法の問題点に鑑みなされたもので吐出圧の変動によるロータ推力に均衡し,従つて起動時,運転中に限らずロータが移動せず,油ポンプの容量を増大させないようなバランスピストンの加圧方法を得ることを目的」として(1.(1)c参照)「本発明のスクリュー圧縮機においては圧縮機吐き出しガスを導いた油分離機より分離した吐き出しガス圧を受ける油をバランスピストン室に導いたので,吐き出し圧に従つて変化するロータ推力に対抗応動してバランスピストンに推力が生ずるので,起動時,負荷変動時に生ずるロータ推力とバランスピストンの推力差は少く,雄ロータ4,雌ロータ5が推力軸受12,13に過大負荷を与えたり,バランスピストン室のみ油の圧力が高くなつてロータを吐出側の吐出ケーシング端壁に衝接させるということがなくなり,耐久性の向上に寄与する処が大である。」という作用効果を奏するものである(1.(1)i参照。)。
そうすると,甲1発明の課題は,起動時,運転中に限らずロータが移動せず,油ポンプの容量を増大させないために,起動時,負荷変動時に生ずるロータ推力とバランスピストンの推力差を少なくすることといえる。
してみると,甲1発明の課題と本件特許発明の課題とは,逆スラスト荷重の発生をなくす点では共通している。

(b)しかしながら,相違点1-2における本件特許発明の構成について検討すると,次のとおり,当業者が適宜選択しえる事項とまではいえない。
甲1発明における入力軸を「吐出側」のロータ軸から「吸込側」のロータ軸にすることについては,「吐出側」,「吸込側」のどちらに入力軸を設けることも知られているから,それ自体は,単なる設計変更であるといえる余地はある。しかし,入力軸を「吸込側」のロータ軸にすると,甲1発明の課題解決手段であるバランスピストン室34(吸込側に設けられている。)をそのまま維持することができないことになるし,また,バランスピストン室を吐出側に移転させようとしても,どのように構成すればよいのかは,多くの改変を要することからして,当業者であっても,困難であると言わざるを得ない。
例えば,バランスピストン室を吐出側に移転する際に,甲1発明における「上記吸引側のジャーナル軸受6,7(ラジアル軸受)」よりもスクリューロータ(スクリュロータ)から離れた位置にて上記軸部4b(ロータ軸)の端にバランスピストン32を係止し(取り付け)」たものをどこに配置するのかは,バランスピストンとしての作用効果を得ることができるものであればどこでもよいところ,あえて,相違点1-2のような「上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記(吐出側の)ロータ軸にバランスピストンを取り付け」るような箇所とする動機付けは存在しない。
また,本件特許発明の上記「スラスト軸受とこのバランスピストンの間に圧力遮断する仕切り壁」との文言からすると,「仕切り壁」は,「スラスト軸受」のすべての部分を含む空間と「バランスピストン」のすべての部分を含む空間とを圧力遮断するものと解するのが自然である。そして,このことは,特許明細書の段落【0013】の「スラスト軸受16とバランスピストン17との間に仕切り壁31を設けてある。この仕切り壁31は内周部に軸封手段32を備え,スラスト軸受16を収容している空間Aとバランスピストン17を収容している空間Bとを圧力遮断して,空間Bを,入力軸15,スラスト軸受16,ラジアル軸受13,14等の他の構成要素とは独立させてある。」という記載事項と図3を参照すると,「仕切り壁31」が,「スラスト軸受16」のすべての部分を含む空間Aと「バランスピストン17」のすべての部分を含む空間Bとを圧力遮断しており,しかも,特許明細書にはそれを満たさない例の記載がないことからも裏付けられる。
そして,甲1発明における「このバランスピストン32の上記吸引側のジャーナル軸受6側とは反対側の位置にカバー21(壁)」を設けたものを,「スラスト軸受とこのバランスピストンの間に圧力遮断する仕切り壁」とすること,いいかえると,壁を「スラスト軸受」のすべての部分を含む空間と「バランスピストン」のすべての部分を含む空間とを圧力遮断する仕切り壁とすることにも,相当の困難が伴う上に,さらに,甲1発明におけるこのバランスピストン32の「カバー21(壁)」側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く配管58(均圧配管)を設けて形成したものを,「このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」とすることにも,当業者であっても,困難が伴うといわざるを得ない。
以上のとおりであるから,これらの多くの改変を行って,甲1発明から相違点1-2における本件特許発明の構成とすることは,当業者が適宜選択しえる事項とまではいえない。

(c)そして,相違点1-2における本件特許発明の構成のうち,「入力軸を吸込側のロータ軸とし,」「スラスト軸受とこのバランスピストンの間に圧力遮断する仕切り壁」とすること,いいかえると,壁を上記「スラスト軸受」のすべての部分を含む空間と「バランスピストン」のすべての部分を含む空間とを圧力遮断する「仕切り壁」とすること,及び,「このバランスピストンの仕切り壁側の空間に」上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した構成により,甲1発明では奏することのない,負荷容量の大きなスラスト軸受を採用し,単純かつコンパクトな構造のスクリュ圧縮機とする格別な効果を奏するものである。

(d)そうすると,本件特許発明は,甲1発明のみから容易に想到し得たものではない。

b 請求人は,本件特許発明と甲1発明の相違点は,甲1発明実施例で開示された部品配列における非本質的で容易に置換可能な相違にすぎず,発明の技術思想における相違はない旨主張する。
しかしながら,相違点1-2に係る本件特許発明の構成により,上記効果を奏するから,甲1発明で開示された部品配列の非本質的で容易に置換可能なものとはいえず,先に検討したとおり,相違点1-2に係る本件特許発明の構成は,甲1発明からだけでは,当業者が容易に想到し得るものではない。

イ 次に,本件特許発明は,甲1発明に甲第2号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたか否かを検討する。
(ア)甲第2号証に記載された事項について
a 甲第2号証に記載された事項は以下のとおりである。
「スクリュロータ6の両側に延びる軸を軸受により回転可能に支持するものであって,吐出側のシャフトジャーナル7をラジアルころがり軸受8により回転可能に支持して入力軸を吸入側のロータ軸とし,
吐出側のシャフトジャーナル7をラジアルころがり軸受8よりもスクリュロータ6から離れた位置にて主スラスト軸受9,10により回転可能に支持するとともに,
主スラスト軸受9,10よりもスクリュロータ6から離れた位置にてスラストバランシング装置13の一部である環状部材19をスラスト玉軸受11の外側リング17に取り付け,
かつ主スラスト軸受9,10と環状部材19との間に環状部材18を設け,
カップスプリング12は,主スラスト軸受9,10の外側リングをクランプし,そのクランプ力は,スリーブ20及び環状部材18によって伝達され,
環状部材19の環状部材18側の空間に,圧縮機の吐出側の作動流体を導く圧力媒体流路22を設けて形成した,スクリュ圧縮機。」
b 本件特許発明と甲第2号証に記載された事項とを対比する。
(a)甲第2号証に記載された事項の「軸」及び「シャフトジャーナル7」は本件特許発明の「ロータ軸」に相当し,以下同様に,「ラジアルころがり軸受」は「ラジアル軸受」に,「主スラスト軸受」は「スラスト軸受」に,「環状部材19」は「バランスピストン」に,それぞれ相当する。

(b)甲第2号証の「環状部材18」が,本件特許発明の「スラスト軸受とこのバランスピストンの間に圧力遮断する仕切り壁」に相当するか否かについて検討する。
前述したように,本件特許発明の上記「スラスト軸受とこのバランスピストンの間に圧力遮断する仕切り壁」との文言からすると,「仕切り壁」は,「スラスト軸受」のすべての部分を含む空間と「バランスピストン」のすべての部分を含む空間とを圧力遮断するものと解するのが自然である。
それに対して,甲第2号証の「環状部材18」は,主スラスト軸受9,10と環状部材19との間に設けられるが,主スラスト軸受9,10のすべての部分を含む空間と環状部材19のすべての部分を含む空間とを圧力遮断しているものではない(環状部材19の図2の上側の部分には空間があるので,環状部材19のすべての部分を含む空間は,主スラスト軸受9,10と連通していることになる。)から,本件特許発明の「仕切り壁」とは,「壁」である限りにおいて共通する。

(c)甲第2号証に記載された事項の「環状部材19の環状部材18側の空間に,圧縮機の吐出側の作動流体を加圧することなく導く圧力媒体流路22を設けて形成した」「スクリュ圧縮機」と,本件特許発明の「このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」「油冷式スクリュ圧縮機」とは,「バランスピストンの壁側の空間に圧縮機の吐出側の作動流体を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」「スクリュ圧縮機」である点で共通する。

c そうすると,甲第2号証には,以下の事項が開示されているといえる(以下,「甲第2号証に開示された事項」という。)。
「スクリュロータの両側に延びるロータ軸を軸受又はラジアル軸受により回転可能に支持して入力軸を吸入側のロータ軸とし,
吐出側のロータ軸をラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト軸受により回転可能に支持するとともに,
上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト玉軸受11の外側リング17にバランスピストンを取り付け,
かつ上記スラスト軸受とバランスピストンとの間に壁を設け,
カップスプリング12は,上記スラスト軸受の外側リングをクランプし,そのクランプ力は,スリーブ20及び壁によって伝達され,
バランスピストンの壁側の空間に,圧縮機の吐出側の作動流体を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した,スクリュ圧縮機。」

(イ)容易想到性の判断
<相違点1-2について>
a 甲1発明の「入力軸を『吐出側』の軸端部4c(ロータ軸)とし,『上記吸引側のジャーナル軸受6,7(ラジアル軸受)』よりもスクリューロータ(スクリュロータ)から離れた位置にて上記軸部4b(ロータ軸)の端にバランスピストン32を係止し(取り付け),かつ,『このバランスピストン32の上記吸引側のジャーナル軸受6側とは反対側の位置にカバー21(壁)』を設け,このバランスピストン32の『カバー21(壁)』側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く配管58(均圧流路)を設けて形成した」構成の入力軸,バランスピストン32,油溜まり部の油を加圧することなく導く配管58に,甲第2号証に開示された事項を適用した場合に,上記相違点1-2に係る本件特許発明の構成のうち,入力軸を吸入側のロータ軸とし,上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてバランスピストンを取り付け,かつ上記スラスト軸受とバランスピストンとの間に壁を設け,バランスピストンの壁側の空間に上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成したものとすることができる。
しかし,バランスピストンをロータ軸ではなく,スラスト玉軸受11を介してロータ軸に取り付けるものとなる上に,壁が上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間を圧力遮断するものではなく,均圧流路を導く空間が,バランスピストンと上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁側ではない点が依然として解消しない。
よって,甲1発明に甲第2号証に開示された事項を適用しても,本件特許発明の構成とはならない。

b さらに,甲第2号証に開示された事項における部品配列について検討する。
甲第2号証は,後述するように,ガスが環状チャンバ23に導かれる構成となっているため,環状部材19はロータ軸に取り付けられず回転しない構造(以下「非回転式」という。)にせざるを得ないため,非回転式であることを捨象して,甲第2号証の「バランスピストン」(環状部材19)及び「壁」(環状部材18)の配列をそれぞれ「(吐出側の)上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置」や「上記スラスト軸受とバランスピストンの間」の位置と抽象化して認定することはできない。

c また,請求人は,上記aにおける,甲1発明に甲第2号証に開示された事項を適用しても,「バランスピストンをロータ軸ではなく,スラスト玉軸受11を介してロータ軸に取り付けるものとなる」から,本件特許発明の構成とはならないとの判断に関して,口頭審理陳述要領書の16ページ7行?最下行において,「本件特許の請求項1には,「・・・上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け」(構成要件D)るとしか記載されておらず,ロータ軸にバランスピストンを「直接」取り付けることまで限定しているわけではなく,軸受を介してロータ軸に間接的に取り付けられるバランスピストンであっても本件特許の構成要件Dを充足し得るとの解釈が合理的に成立する。
例えば,甲第17号証(特開昭59-110889号公報)には,甲第2号証と同様に,バランスピストン17が玉軸受を介してロータシャフト2’に間接的に取り付けられたスクリュ圧縮機に関するものであるが,「このスラスト力を軽減させるために,おすロータシャフト2’にバランスピストン17が取り付けられており…」(2頁右上欄9?12行)と記載されている。このことからも,本件特許の構成要件Dを上述のように解釈することが当業者にとって自然であることは明らかであり,本件特許における「…上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け」(構成要件D)との表現は,バランスピストンのロータ軸への直接的な取付構造だけでなく,軸受を介したバランスピストンのロータ軸への間接的な取付構造をも包含する意味として解釈すべきである。」旨主張する。
しかしながら,「上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け」の表現は,その文言に照らせば,バランスピストンのロータ軸への直接的な取付構造だけと解釈すべきである。
特許明細書において,段落【0013】に「圧縮機本体の吐出側のロータ軸に,・・・バランスピストン17を設ける」と記載され(図3を参照),特許明細書には,ロータ軸にバランスピストン17を直接的に取り付けたものしか開示されていないし,ロータ軸にバランスピストン17を直接的に取り付けることにより「バランスピストンの受圧面積を大きく」できるという請求項1の発明の効果も奏する(特許明細書段落【0019】)ことからも,「上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け」は文言どおりに上記ロータ軸にバランスピストンを取り付けたものと解釈すべきであり,バランスピストンを間接的にロータ軸に取り付けたものは含まれないと解釈すべきである。
甲第17号証は,バランスピストン17が玉軸受を介してロータシャフト2’に間接的に取り付けられたスクリュ圧縮機に関するものであるが,たまたま「このスラスト力を軽減させるために,おすロータシャフト2’にバランスピストン17が取り付けられており…」と記載されているにすぎず,「バランスピストンのロータ軸への直接的な取付構造だけでなく,軸受を介したバランスピストンのロータ軸への間接的な取付構造をも包含する意味として解釈すべきである。」旨の請求人の上記主張は採用できない。

d また,甲1発明の「バランスピストンを(吸込側の)ロータ軸に取り付けた」ものに甲第2号証に記載された事項の「上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト玉軸受11の外側リングにバランスピストンを取り付け」たことを適用する際に,「バランスピストンを上記(吐出側の)スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置」のロータ軸に取り付けたものとすることは,甲1発明の「バランスピストンをロータ軸に取り付けた」ままで,甲第2号証の「(吐出側の)上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置」に取り付けるという,都合の良い方を選択して適用するもの(都合の悪い例としては,例えば,バランスピストンの位置を(吸込側から吐出側の)上記スラスト軸受のスクリュロータから離れた位置に」取り付ける際にはスラスト玉軸受11の外側リングにバランス部材として取り付けられるものとなること。)であり,無条件に組み合わせられるものではないから,当業者が容易に想到し得るものではない。

e したがって,本件特許発明は,甲1発明のみから,又は,甲1発明に甲第2号証に開示された事項を適用することにより,本件特許の出願前に当業者が容易に想到し得たものではないから,無効理由4-aによっては,本件特許発明の特許を無効とすることはできない。

5.無効理由4-bについて
(1)本件特許発明と甲2発明との対比
上記4.(2)イbの本件特許発明と甲第2号証に記載された事項との対比と同様の理由により,本件特許発明と甲2発明とは,「スクリュロータの両側に延びるロータ軸を軸受(吐出側はラジアル軸受)により回転可能に支持して入力軸を吸入側のロータ軸とし,
吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト軸受により回転可能に支持するとともに,
上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてバランスピストンを取り付け,
かつ上記スラスト軸受とバランスピストンとの間に壁を設け,
バランスピストンの壁側の空間に,圧縮機の吐出側の作動流体を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した,スクリュ圧縮機。」
の点で一致し,以下の各点で相違すると認められる。
<相違点2-1>
本件特許発明では,「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設ける」「油冷式スクリュ圧縮機」であるのに対して,甲2発明では,油分離回収器についての特定のないスクリュ圧縮機である点。
<相違点2-2>
吸込側のロータ軸を支持する軸受が,本件特許発明では,「ラジアル軸受」であるのに対して,甲2発明では,そのような特定はない点。
<相違点2-3>
本件特許発明では,上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて「上記ロータ軸に」バランスピストンを取り付け,かつ上記スラスト軸受とバランスピストンとの間に「圧力遮断する仕切り壁」を設け,「バランスピストンの仕切り壁」側の空間に,「上記油溜まり部の油を」を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成したのに対して,甲2発明では,「スラスト玉軸受11の外側リング17に」環状部材19(バランスピストン)を取り付け,「環状部材18(壁)」は上記主スラスト軸受9,10(スラスト軸受)と「この環状部材19」との間を「圧力遮断するものではなく」,環状部材19(バランスピストン)の「環状部材18(壁)」側に「圧縮機の吐出側の作動流体」を加圧することなく導く圧力媒体流路22(均圧流路)を設けて形成した点。

(2)相違点の判断
<相違点2-3について>
ア 甲2発明は,非回転式であるため,ロータ軸の回転を受けるためにスラスト玉軸受11が必要となり,流路接続先の空間を封止するために各部材間にOリングが必要となり,環状部材19と環状部材18又は外側リング17との当接を防止するためにスプリング手段15が必要となり,本件特許発明の「バランスピストン」を「吐出側のロータ軸に」「取り付け」るものであって「吐出側のロータ軸」(回転体)とともに回転する構造(以下,「回転式」という。)とは構成が異なる。
また,甲2の環状部材19は,非回転式であって,ロータ軸との間に空間及び距離スリーブ21が設けられているため,回転式と比べて,部材の内径をロータ軸の軸径とすること(本件明細書の【図3】の「d」)ができず,「受圧面積を大きく」すること(本件明細書の【0010】,【0019】等)ができない。
仮に,甲2発明を回転式にする,すなわち,ロータ軸であるシャフトジャーナル7にバランスピストンである環状部材19を直接取り付けようとすると,環状部材19がシャフトジャーナル7とともに回転することになるため,環状部材19に装着されているOリング(甲2発明は,上記のとおり,ガスが環状チャンバ23に導かれる構成とされているので,Oリングなどのガス封止手段が必要である。)が焼き付くことになる。そして,焼き付きに対する対策として,Oリングに代えてラビリンスシールを採用したとすると,環状チャンバ23からのガスの漏洩を防止し得ないため,ガスの封止のためには,請求人の言う「間接的な取付構造」として,非回転式を採用せざるを得ない。
そうすると,バランスピストンをロータ軸に直接取り付けることが周知であっても,甲2発明のようなガスが環状チャンバ23に導かれる構成では,ロータ軸にバランスピストンを直接取り付ける構成とすることには,阻害事由があるといえる。


イ 次に,甲第1号証及び甲第3号証?甲第5号証に開示された事項について検討する。
甲第1号証には,「上記吸引側のジャーナル軸受6,7よりもスクリューロータから離れた位置にて上記軸部4bの端にバランスピストン32を係止し,かつ,このバランスピストン32の上記吸引側のジャーナル軸受6側とは反対側の位置にカバー21を設け,このバランスピストン32のカバー21側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く配管58を設けて形成した」ことが記載され,「上記吸引側のラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け,かつ,このバランスピストンの上記吸引側のラジアル軸受側とは反対側の位置に壁を設け,このバランスピストンの壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧配管を設けて形成した」ことが開示されている。
甲第3号証には,「シリンダ14のバランスピストン11の第1圧力表面12側に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く配管6及び分岐配管7を設けて形成した」ことが記載され,「シリンダのバランスピストンの第1圧力表面12側(図中左側)に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧配管を設けて形成した」ことが開示されている。
甲第4号証には,「バランスピストン19に面する圧力スペース21に,オイルセパレータからの油を導くための油入口孔22を設けて形成した」ことが記載され,「バランスピストンに面する圧力スペース21に,オイルセパレータからの油を導くための油入口孔22を設けて形成した」ことが開示されている。
甲第5号証には,「スペーサ16に面する吸入側の作用室19に,油溜30の油を加圧することなく導く配管28を設けて形成した」ことが記載され,「バランスピストンに面する吸入側の作用室19に,油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧配管を設けて形成した」ことが開示されている。
そうすると,甲第1号証及び甲第3号証?甲第5号証に開示された事項には,いずれにも,「(吐出側の)スラスト軸受よりも」スクリュロータから離れた位置にて「(吐出側の)」ロータ軸にバランスピストンを取り付けるという構成,「スラスト軸受とバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁」を設けるという構成,及び,バランスピストンの「仕切り壁」側の空間に油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けたという構成がない。
したがって,仮に,甲2発明に,甲第1号証及び甲第3号証?甲第5号証に開示された事項を適用できたとしても,本件特許発明の「(吐出側の)」ロータ軸にバランスピストンを取り付ける構成,スラスト軸受とバランスピストンとの間に「圧力遮断する仕切り壁」を設けるという構成,バランスピストンの「仕切り壁」側の空間に油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けたという構成にはならない。

ウ 請求人は,甲第1号証,甲第3号証?甲第5号証の開示に基づいて,甲2発明の環状チャンバ(23)に作動流体,すなわちガスに替えて油を供給する構成を採用することの動機付けとして,甲2発明における「バランスピストンによる過剰なバランス力又はバランス力不足を解消するという課題」の存在を主張し(審判請求書69ページ15?22行),そのような油を供給する構成を採用することに関し,甲第6号証に「ロータは,例えば・・・のように,ガス圧,液体圧又は機械的圧力によって,高圧側壁に向けて付勢されてもよい」との記載があることを指摘している(審判請求書42ページ5?13行,69ページ23行?70ページ2行)。
しかし,甲2発明においては,カップスプリング12が主スラスト軸受9,10の外側リングをクランプしているから,圧縮機がアイドル状態(逆スラスト荷重状態)のときにロータ1が隣接する高圧端壁に接触することを防止している。
その上で,甲2発明においては,ガス状の作動媒体(甲第2号証の請求項1)とされ,環状チャンバ(23)に吐出側における作動流体との流体連通状態を確立する圧力媒体流路22が連通しているから,環状チャンバ(23)にはガス流路(22)が導かれる構成とされており,当該構成よって「バランスピストンによる過剰なバランス力又はバランス力不足を解消する」という課題を解消するための対策も既になされている。そして,「ガス」と油では,粘性,圧縮性流体(ガス)・非圧縮性流体(油),部材の摺動抵抗に及ぼす影響等,性質を異にすることから,「ガス」に替えて油を敢えて環状チャンバ(23)に導く構成にするという動機付けは,請求人主張の甲2発明の課題と,「ロータ」の「付勢」に「ガス圧,液体圧又は機械的圧力」を用い得ることを示唆しているにすぎない甲第6号証の記載からは,見出すことはできない。
そうすると,甲2発明に甲第1号証,甲第3号証?甲第5号証の開示を適用することの動機付けについての請求人の上記主張は採用できない。

エ そうすると,<相違点2-1>,<相違点2-2>を検討するまでもなく,<相違点2-3>における本件特許発明の構成は,甲2発明に,甲第1号証,甲第3号証?甲第5号証に開示された事項を適用したとしても,当業者が容易に想到し得たものではないから,無効理由4-bによっては,本件特許発明の特許を無効にすることはできない。

6.無効理由4-cについて
(1)本件特許発明と甲7発明との対比
ア 本件特許発明と甲7発明を対比する。
甲7発明の「スクリユウロータ2,3の両側のロータ軸部分」は本件特許発明の「スクリュロータの両側に延びるロータ軸」に相当し,以下同様に,「円筒ころ軸受」は「ラジアル軸受」に,「スクリユウロータ2の吸込み側のロータ軸部分」は「吸込側のロータ軸」に,「吐出側のスクリユウロータ2のロータ軸部分」は「吐出側のロータ軸」に,「スクリユウロータ2,3の噛み合う部分」は「スクリュロータ」に,「ころがり玉軸受5」は「スラスト軸受」に,「バランスピストン22」は「バランスピストン」に,それぞれ相当する。

甲7発明の「上記ころがり玉軸受5よりもスクリユウロータ2,3の噛み合う部分から離れた位置にてスラスト軽減用のころがり玉軸受17にバランスピストン22を設け」ることと,本件特許発明の「上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け」ることとは,「上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてバランスピストンを取り付け」ることで共通する。
甲7発明の「上記ころがり玉軸受5とバランスピストン22の間には,圧縮機の作動流体圧を供給するための上記バランスピストン22とケーシング1cの空間部を構成するケーシング1cの一部分があ」ることと,本件特許発明の「上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け」ることとは,「上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に壁を設け」ることで共通する。
甲7発明の「このバランスピストン22の上記ケーシング1cの一部分の側に圧縮機の作動流体圧を加圧することなく導く圧力供給口23を設けて形成した」ことと,本件特許発明の「このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」こととは,「このバランスピストンの壁側の空間に,圧縮機の作動流体を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」ことで共通する。
甲7発明の「スクリュウ圧縮機」と本件特許発明の「油冷式スクリュ圧縮機」とは,「スクリュ圧縮機」の点で共通する。

イ そうすると,両者は,
「スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持して入力軸を吸込側のロータ軸とし,
吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト軸受により回転可能に支持するとともに,
上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてバランスピストンを取り付け,
かつ上記スラスト軸受とバランスピストンの間には,壁を設け,
このバランスピストンの壁側の空間に圧縮機の作動流体を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した,
スクリュ圧縮機。」
の点で一致し,以下の各点で相違すると認められる。
<相違点7-1>
本件特許発明では「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設ける」「油冷式スクリュ圧縮機」であるのに対して,甲7発明では,油分離回収器を備えていないスクリュ圧縮機である点。
<相違点7-2>
本件特許発明では,スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて「上記ロータ軸」にバランスピストンを取り付け,かつ上記スラスト軸受とバランスピストンの間には,「圧力遮断する仕切り壁」を設け,このバランスピストンの「仕切り壁」側の空間に「上記油溜まり部の油」を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成したのに対して,甲7発明では,「スラスト軽減用のころがり玉軸受17の外部レースに」バランスピストン22を取り付け,「ケーシング1cの一部分(壁)」はころがり玉軸受5(スラスト軸受)とこのバランスピストン22との間を「圧力遮断するものではなく」,バランスピストン22の「ケーシング1cの一部分(壁)」側に「圧縮機の吐出側の作動流体」を加圧することなく導く圧力供給口23(均圧流路)を設けて形成した点。

(2)相違点についての判断
<相違点7-2について>
ア 甲7発明では,バランスピストン22は,ロータ軸に取り付けられず回転しない構造(以下「非回転式」という。)であるため,ロータ軸の回転を受けるためにスラスト軽減用ころがり玉軸受17が必要となり,流路接続先の空間を封止するために各部材間にOリング等が必要となり,回転式とは構成が異なる。
また,甲7発明のバランスピストン22は,非回転式であって,ロータ軸との間に空間が設けられているため,回転式と比べて,バランスピストントン22の内径をロータ軸の軸径とすること(本件明細書の【図3】の「d」)ができず,「受圧面積を大きく」すること(本件明細書の【0010】,【0019】等)ができない。
仮に,甲7発明において,ロータ軸にバランスピストンを直接取り付けようとしても,甲7発明では,圧縮機の作動流体(ガス)が圧力供給口23に導かれる構成とされているので,甲7発明において,バランスピストン22がロータ軸に「直接取り付ける」構造に変更したとすると,バランスピストン22がロータ軸とともに回転するため,バランスピストン22に装着されているOリング(バランスピストン22とケーシング1cの空間部に供給されるガスの漏洩を防止するためにOリングは必須である)が焼き付くことになる。そして,焼き付きに対する対策として,Oリングに代えてラビリンスシールを採用したとすると,上記空間部からのガスの漏洩を防止し得ないため,ガスの封止のためには,請求人の言う「間接的な取付構造」として,非回転式を採用せざるを得ない。
そうすると,バランスピストンをロータ軸に直接取り付けることが周知であっても,甲7発明において,作動流体(ガス)が圧力供給口23に導かれる構成では,ロータ軸にバランスピストン22を直接取り付ける構成とすることには,阻害事由があるといえる。

イ 次に,甲第1号証,甲第3号証?甲第5号証に開示された事項については,上記「5.無効理由4-b」「(2)相違点の判断<相違点2-3について>で述べたとおりであるから,甲第1号証及び甲第3号証?甲第5号証に開示された事項には,いずれにも,「(吐出側の)スラスト軸受よりも」スクリュロータから離れた位置にて「(吐出側の)」ロータ軸にバランスピストンを取り付けるという構成,「スラスト軸受とバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁」を設けるという構成,及び,バランスピストンの「仕切り壁」側の空間に油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けたという構成がない。

したがって,仮に,甲7発明に,甲第1号証及び甲第3号証?甲第5号証に開示された事項を適用できたとしても,本件特許発明の「(吐出側の)」ロータ軸にバランスピストンを取り付ける構成,スラスト軸受とバランスピストンとの間に「圧力遮断する仕切り壁」を設けるという構成,バランスピストンの「仕切り壁」側の空間に油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けたという構成にはならない。

ウ 請求人は,甲第1号証,甲第3号証?甲第5号証の開示に基づいて,甲7発明のバランスピストン(22)に作動流体,すなわちガスに替えて油を供給する構成を採用することの動機付けとして,甲7発明における「圧縮機の起動時および無負荷時における逆スラスト力を抑制する」という課題の存在を主張し(審判請求書72ページ10?17行),そのような油を供給する構成を採用することに関し,甲第6号証に「ロータは,例えば・・・のように,ガス圧,液体圧又は機械的圧力によって,高圧側壁に向けて付勢されてもよい」との記載があることを指摘している(審判請求書42ページ5?13行,72ページ18?22行)。
しかし,甲7発明においては,バランスピストン22とケーシング1cの一部分の空間部には圧縮ガスが導かれる構成とされており,当該構成よって「圧縮機の起動時および無負荷時における逆スラスト力を抑制する」という課題を解消するための対策が既になされている。そして,「ガス」と油とでは,粘性,圧縮性流体(ガス)・非圧縮性流体(油),部材の摺動抵抗に及ぼす影響等,性質を異にするしたがって,「ガス」に替えて油を敢えてバランスピストン22とケーシング1cの一部分の空間部に導く構成にするという動機付けは,請求人主張の甲7発明の課題と,「ロータ」の「付勢」に「ガス圧,液体圧又は機械的圧力」を用い得ることを示唆しているにすぎない甲第6号証の記載からは,見出すことができない。
そうすると,甲7発明に甲第1号証,甲第3号証?甲第5号証の開示を適用することの動機付けについての請求人の上記主張は採用できない。

エ そうすると,<相違点7-2>における本件特許発明の構成は,甲7発明に,甲第1号証,甲第3号証?甲第5号証に開示された事項を適用したとしても,当業者が容易に想到し得たものではないから,<相違点7-1>を検討するまでもなく,無効理由4-cによっては,本件特許発明の特許を無効とすることはできない。

7.無効理由4-dについて
(1)本件特許発明と甲9発明との対比
本件特許発明と甲9発明との対比による一致点及び相違点は,「3.(2)」で述べたとおりである。
(2)相違点の判断
<相違点9-2について>
ア 甲9発明に,甲第1号証及び甲第3号証?甲第5号証に開示された事項を適用する動機付けについて検討する。
甲第9号証には,油ポンプは通常不要,最小限の油ポンプ要求という記載はあるが,吐出圧(縦軸;「DISCHARGE PRESSURE」)があまり高くない範囲(5?9bar a以下)の領域では,油ポンプ(オイルポンプ)を使用することは当業者からみれば不可欠である。
それに対して,甲第1号証及び甲第3号証?甲第5号証に開示された事項の課題乃至目的は,スクリュ圧縮機におけるスラスト荷重を均衡させるためのバランスピストンへの油の加圧方法といえる。
甲9発明は,油ポンプを通常不要とするものであるとしても,起動直後等の吐出圧があまり高くない領域においては,油ポンプを使用することは当業者からみれば不可欠であるから,甲第1号証及び甲第3号証?第5号証に開示された事項を適用して,起動直後に油ポンプを使用せずに加圧することなく導く均圧流路を設けることとするためには阻害事由があるといえる上に積極的な動機付けがあるともいえない。

イ 次に,「5.無効理由4-b」(2)相違点の判断<相違点2-3について>で述べたように,甲第1号証,甲第3号証?甲第5号証は,「スラスト軸受とバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁」を設けるという構成,及び,バランスピストンの当該「仕切り壁」側の空間に油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けたという構成を開示していない。

ウ 仮に,甲9発明に甲第1号証及び甲第3号証から甲第5号証に開示された事項を適用できたとしても,本件特許発明のスラスト軸受とバランスピストンとの間に「圧力遮断する仕切り壁」を設けるという構成,バランスピストンの「仕切り壁」側の空間に油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けたという構成にはならない。

エ 請求人は,甲第1号証,甲第3号証?甲第5号証に開示された事項を甲9発明に適用することで,本件発明が容易想到であると主張する。
すなわち,請求人は,審判請求書73ページ17行?74ページ12行において,
「甲第1号証には,圧縮機の状態(起動時および運転中)によらずロータ推力を均衡させるために,バランスピストン32に面するバランスピストン室34に,油分離器52の油溜まり部の油を加圧することなく導く配管58を設けることが開示されている(2ページ右上欄18行?右下欄2行,4ページ右下欄7?15行,5ページ右上欄2?14行,第5図)。」,
「甲第3号証には,バランスピストン11に面するシリンダ14にオイルセパレータ10の油溜まり部からの油を加圧することなく導く配管6及び分岐配管7を設け,配管6に設けた第1スロットル5によりバランスピストン11に作用させる圧力pbを適切な値に設定することで,圧縮機の運転状態によらず,合力FR(=F-FB)を適切な範囲内に維持することが開示されている(例えば,3ページ7?14行)。」,
「同様に,甲第4号証には,バランスピストン19に面する圧力スペース21に,オイルセパレータからの油を導くための油入口孔22を設けることが開示されている(第2欄6?12行)。」,
「さらに,甲第5号証には,スペーサ(バランスピストン)16に面する作用室19に,油溜30の油を加圧することなく導く配管28を設けることが開示されている(7頁12行?8頁4行)。」,
と主張した上で,圧縮機の起動時及び無負荷時における逆スラスト力を抑制するという課題を解決するために,甲第1号証及び甲第3号証?甲第5号証の教示に倣って,甲9発明のXRV圧縮機において,油分離回収器からの油を加圧することなくバランスピストンの仕切り壁側の空間に導く「均圧流路」を設けることで本件特許の請求項1に係る構成Fに想到することが当業者にとって容易であったとことは明らかである。」と結論付ける。
しかしながら,上述したとおり,甲9発明には,起動直後に油ポンプを使用せずに加圧することなく導く均圧流路を設けることとするためには阻害事由があり,甲第1号証及び甲第3号証?甲第5号証を適用するための積極的な動機付けはないし,甲9発明に甲第1号証,甲第3号証?甲第5号証に開示された事項を適用しても,本件特許発明の構成にはならないから,請求人の上記主張は採用できない。
また,請求人は,例えば,甲第1号証には,圧縮機の状態(起動時および運転中)によらずロータ推力を均衡させるために,バランスピストン32に面するバランスピストン室34の吸込側に,油分離器52の油溜まり部の油を加圧することなく導く配管58を設けることが開示されていると主張するが,甲第1号証に記載された技術は,吸込ケーシング2に固定したシリンダ33と吸込ケーシング2とは別部材であるカバー21とを用いて,当該シリンダ33とカバー21によって,バランスピストン室34を形成する必要があり,それを単にバランスピストン32に面するバランスピストン室34の吸込側という場所のみを抽出して甲9発明に適用することは,上記甲第1号証に開示された事項を都合が良いように抽出するいわゆるいいとこ取りであって,後知恵にすぎず,吸込ケーシング2,シリンダ33,カバー21及びバランスピストン32及び配管58の全てを抽出して,甲第9号証に適用すると余分な構成が生じるため,本件特許発明の構成にはならない。
したがって,甲9発明に甲1号証等に開示された事項を適用して,本件特許発明の構成とすることは当業者に容易に想到し得たものとはいえない。

オ そうすると,本件特許発明は,甲9発明に,甲第1号証,甲第3号証?甲第5号証に開示された事項を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,甲第9号証の文書の成立性や本件特許の出願前に頒布された刊行物であるか等の争点及び<相違点9-1>を判断するまでもなく,無効理由4-dによっては,本件特許発明の特許を無効とすることはできない。

8.無効理由5について
(1)特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。

本件特許の特許請求の範囲の記載についてこれをみると,特許明細書の「圧縮機の起動後は,ラジアル軸受13,14には給油圧力Pd+αが常に作用する一方,起動直後,或はアンロード運転時等のように圧縮機の負荷が小さくスラスト力が小さい場合がある。このような場合,吐出側から吸込側に向かう方向にスクリュロータ11,12に作用する力より大きい力がバランスピストン17に作用し,いわゆる逆スラスト荷重状態となりスクリュロータ11,12を吐出側に押すようになる。スクリュロータ11,12の吐出側端面とこれらを収容するロータ室との間の隙間は,圧縮機の性能の向上のためにできるだけ狭くしてあり,軸受摩耗が進行した状態下では,スクリュロータ11,12とロータ室の壁部とが接触し,破損事故を起こしかねないという問題がある。」との記載(段落【0008】)から,本件特許発明の課題は,起動直後或いはアンロード運転時等の圧縮機の負荷が小さくスラスト力が小さい場合に逆スラスト荷重の発生による不具合を防ぐことであると認められる。そして,特許明細書の上記の記載に加えて,例えば,「バランスピストン17には吐出圧力Pdを作用させるようにしてあり,上記力Fは吐出圧力に比例するため,上述した圧縮機の起動直後,アンロード運転時等にように,吐出側から吸込側に向かう方向にスクリュロータ11,12に作用する力が小さい場合には,力Fも小さくなり,逆スラスト荷重状態が発生せず」との記載(【0015】)などの記載からすると,本件特許発明の「バランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設け」ることによって,平常運転中の吐出側から吸込側へのスラスト力の低減ばかりでなく,運転状況により起こり得る逆スラスト荷重状態一般の解消に寄与することは,当業者にとって明らかである。
よって,当業者は,発明の詳細な説明及び技術常識に基づき,本件特許発明が「逆スラスト荷重状態の発生をなく」すという課題を解決することができると認識できるものと認められる。したがって,本件特許の特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合する。

(2)請求人は,審判請求書75ページで,「本件特許の請求項1には,『このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した』ことが特定されているものの,単に形式的に均圧流路が設けられていれば足りるかのような限定にとどまっており,逆スラスト荷重状態になり得る圧縮機の起動直後やアンロード運転時において,均圧流路の圧力がバランスピストンに実際に作用することまで限定しておらず,均圧流路が逆スラスト荷重状態の解消に寄与し得るとは限らない。」と主張して,「…本件特許の請求項1に係る発明は,本件特許の【0010】に記載された『逆スラスト荷重状態の発生をなく』すという課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると言うべきであ」ると主張する。
しかしながら,請求人の主張について検討しても,上述したように,本件特許発明が,発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

(3)以上のとおりであるから,本件特許の特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号の要件に適合するので,本件特許は,特許法第123条第1項第4号に該当しない。

よって,無効理由5によっては,本件特許発明の特許を無効とすることはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件特許発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-06-11 
結審通知日 2018-06-13 
審決日 2018-06-26 
出願番号 特願平8-283677
審決分類 P 1 123・ 121- Y (F04C)
P 1 123・ 537- Y (F04C)
P 1 123・ 113- Y (F04C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川口 真一  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 矢島 伸一
藤井 昇
登録日 2006-02-03 
登録番号 特許第3766725号(P3766725)
発明の名称 油冷式スクリュ圧縮機  
代理人 言上 惠一  
代理人 大木 利恵  
代理人 奥西 祐之  
代理人 木村 祐太  
代理人 松井 保仁  
代理人 岩崎 浩平  
代理人 山▲崎▼ 順一  
代理人 前堀 義之  
代理人 石橋 克之  
代理人 松本 好史  
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