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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A63B
管理番号 1354480
審判番号 無効2018-800097  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-07-27 
確定日 2019-08-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第5579138号発明「ゴルフクラブ用グリップ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件の手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成23年 8月31日 本件特許の出願(特願2011-188592号)
平成26年 7月18日 本件特許の登録(特許第5579138号)
平成30年 7月27日付け 本件無効審判請求
9月14日付け 手続補正書(請求人)
10月16日付け 審尋
11月 5日付け 審尋回答書(請求人)
平成31年 3月 5日付け 審判事件答弁書(被請求人)
4月24日付け 審理事項通知
令和 元年 5月10日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
5月11日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
5月21日 口頭審理

第2 請求人の主張及び証拠方法

1.審判請求書における請求の趣旨及び無効理由
請求人は、審判請求書(平成30年9月14日付けの手続補正書により補正されたもの。以下、単に「審判請求書」という。)において、「特許第5579138号の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、特許無効の理由の要点として以下を主張している。

「特許第5579138号(以下、「本件特許」という)の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明、本件特許出願前に日本国内において販売され公知・公用となった「ゴルフシャフト用グリップ」から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、その特許は無効とされるべきものである。」

2.請求人の証拠方法
上記無効理由を立証するために請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。

(証拠方法)
[書証]
甲第1号証:「SyncRo Grip CP TYPE」商品カタログ、株式会社ロア・ジャパン
甲第2号証:瞬報社写真印刷株式会社 代表取締役 藤田良郎の証明書、平成30年4月27日作成
甲第3号証:「売上リスト 【2010年9月16日のみ】」、(株)ロア・ジャパン、平成30年4月23日作成
甲第4号証:「ゴルフ用品界」2011年6月号、第34巻第400号、第150頁、株式会社ゴルフ用品界社、平成23年6月1日発行
(以上、無効審判請求書に添付。)
甲第5号証:GOLF FIT 代表 菊地洋一の陳述書、令和1年5月8日作成
(以上、令和1年5月11日付け口頭審理陳述要領書に添付。)

以下、「甲第1号証」ないし「甲第5号証」を、それぞれ「甲1」ないし「甲5」ということがある。

3.請求人の主張の要点
請求人の主張の要点は以下のとおりである。

(1)甲1掲載品が本件特許の出願前に販売されたことについて
ア.甲1に掲載された製品(以下「甲1掲載品」という。)が顧客に販売されたことが、公然実施にあたる(請求人口頭審理陳述要領書の「5.(1)」、第1回口頭審理調書の「(別紙)第1」)。

イ.甲5に示されるように、甲1は、平成22年8月下旬頃に株式会社ロア・ジャパンの依頼を受けてGOLF FITの店頭で展示された。GOLF FITは、甲1を見た顧客から「SyncRo Grip CP Type」3本の注文を受けて、株式会社ロア・ジャパンに注文し、同年9月16日付けで納品書(甲5の陳述書に添付されたもの)を同封して「SyncRo Grip CP Type」3本を受領し、顧客に直ちに販売した(請求人口頭審理陳述要領書の「5.(1)」)。

ウ.甲1記載の商品名と甲3及び甲5の納品書記載の商品名とが同じであるから、甲1掲載品と顧客に販売された商品とは関連性を有する(第1回口頭審理調書の「(別紙)第1」)。

エ.甲1掲載品の販売の日付は確定することができないが、納品されてから直ちに販売されたことや、納品の日付と本件特許の出願日との間に期間があることからみて、経験則上、甲1掲載品は少なくとも出願日前に販売されたと考えることが自然である(第1回口頭審理調書の「(別紙)第1」)。

(2)本件特許発明の想到容易性について
ア.甲1掲載品が高硬度と低硬度の二層構造であることは、甲1からは分からないが、甲1掲載品を購入した者であれば知ることができる(審判請求書の「7.[3](B)(10)」、請求人口頭審理陳述要領書の「5.(2)」、第1回口頭審理調書の「(別紙)第2 1.」)。

イ.「インサート成形」工法は、樹脂成形加工やエラストマー成形加工において広く採用されており、本件特許発明のように「両者を一体構造とする」にあたっては、当業者であれば当然「インサート成形」工法を採用する(審判請求書の「7.[3](B)(7)ないし(9)」、請求人口頭審理陳述要領書の「5.(3)」、第1回口頭審理調書の「(別紙)第2 2.」)。

ウ.ゴルフグリップを握った場合、指に一番力が入るのはグリップエンドの基端部から30mm程度までで、30mmより先方部は指に力を入れるという点からはさほど重要性はない。60?75mmとした本件特許発明の作用効果は甲第1号証のカタログ記載のものと同一である(審判請求書の「7.[3](B)(18)及び(19)」、請求人口頭審理陳述要領書の「5.(4)」、第1回口頭審理調書の「(別紙)第2 3.」)。

(3)甲第4号証について
甲4は、雑誌の記事であって国内に広く販売されるものであり、公開の事実が明確である。甲1と比較して甲4から新たに認定できる事項はない(請求人口頭審理陳述要領書の「5.(5)」、第1回口頭審理調書の「(別紙)第3」)。

第3 被請求人の主張及び証拠方法

1.被請求人の主張の概要及び証拠方法
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、上記請求人の主張する無効理由は理由がないと主張し、以下の証拠方法を提出している。

(証拠方法)
[書証]
乙第1号証:特許第5579138号
(以上、審判事件答弁書に添付。)

なお、乙第1号証は本件特許の特許公報である。

2.被請求人の主張の要点
被請求人の主張の要点は以下のとおりである。

(1)甲1掲載品が本件特許の出願前に販売されたことについて
甲5からは、商品が顧客に販売された日は確定できない。また、甲1掲載品と販売された商品との関連性を示す客観的証拠も示されていない(被請求人口頭審理陳述要領書の「6 第1(1)」、第1回口頭審理調書の「(別紙)第1」)。

(2)本件特許発明の想到容易性について
ア.甲1に示されたゴルフクラブ用グリップに黒色と赤色が組み合わされたものは存在しない。そうすると、甲1の断面図はイメージ図であって、甲1掲載品の断面構造を示すものではない。甲1の断面図における赤色部分が黒色部分より相対的に高硬度の樹脂からなるとの解釈は、甲1から客観的に導かれることではない(審判事件答弁書の「第2(3)B二及び三」、被請求人口頭審理陳述要領書の「6 第1(4)」)。

イ.甲1の断面図からは、インサート成形に係る甲1掲載品の構造を客観的に特定することはできない(審判事件答弁書の「第2(3)B四」)。

ウ.本件特許発明は、明細書に記載のとおり、筒状部を60?75mmとすることにより、所期のトルク性能が発揮されるという顕著な効果を有する(被請求人口頭審理陳述要領書の「6 第2(1)ないし(4)」、第1回口頭審理調書の「(別紙)第2 3.」)。

第4 本件特許発明

本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲(以下「本件特許請求の範囲」という。)の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「第1の樹脂からなる筒状のグリップ本体と、第1の樹脂よりも高硬度の第2の樹脂からなり、上記グリップ本体の後端部に設けられてグリップエンドを形成するエンドキャップとを有するゴルフクラブ用グリップであって、
上記グリップ本体は、上記エンドキャップをインサート部材としてインサート成形されており、
上記エンドキャップは、上記グリップ本体の後端部に挿入される筒状部と、上記グリップ本体の後端を塞ぐ端面板部とを備え、
上記筒状部の長さは、60mm?75mmに設定されているゴルフクラブ用グリップ。」

第5 各甲号証に記載されている事項

1.甲第1号証
甲第1号証は、請求人である株式会社ロア・ジャパンの「SyncRo Grip CP TYPE」の商品カタログであって、以下の事項が記載されている。

(1)「・素材:新配合エラストマー・天然香料
・サイズ:0.60インチ
・重量:50g(±1g)
・カラー:10色
・バックライン:有・無
・価格:¥1,890(税込)」(第1ページ左欄本文第1ないし6行)

(2)「ストロングエイドが安定した弾道を実現
グリップエンド側(約3センチ)に硬化エラストマーを配置する2ピース構造。グリップ全体のソフト感を失うことなく、シャフトとグリップの密着性をアップ。スイング時に生じるグリップのねじれやゆがみを軽減し安定した弾道をもたらします。また、先端部の緩みやめくれを防ぐ成型により、シャフトとの一体感をさらに向上させています。」(第1ページ左欄「ストロングエイドが安定した弾道を実現」の項)

(3)「【お取扱い上の注意】
・グリップをシャフトに挿入する際、グリップの口(開口部)を広げ過ぎるとグリップが切れる恐れがありますのでご注意ください。
・グリップとシャフトの密着性を高める新開発のストロングエイド(28mm)をグリップエンド部に装着しているため、グリップ挿入時に入りにくい場合がありますが、製品の性能に問題はありません。」(第2ページ左欄第1ないし6行)

(4)「ゆるまない
ねじれない
ブレない
飛びに直結する
シンクログリップ
SyncRo Grip
-CP TYPE-」(第2ページ右欄)

(5)第1ページ左欄の「ストロングエイドが安定した弾道を実現」という見出しの項目には、上記「(2)」の本文に隣接して右側に図(以下「甲1図」という。)が掲載されている。
被請求人は、甲1に示されたグリップには黒色と赤色が組み合わされたものは存在しないことを挙げて、甲1図はイメージ図であって甲1掲載品の断面構造を示すものではない旨主張している(上記「第3 2.(2)ア.」参照。)。
しかしながら、本文と甲1図とは「ストロングエイドが安定した弾道を実現」という見出しの項目内に隣接して配置されているところ、文献においては一般に関連する文と図表とが近接して配置されるから、本文と甲1図とは、ともに「ストロングエイドが安定した弾道を実現」との見出しに関係し、かつ、相互に関連した事項を説明するものと解するのが自然であって、本文に「グリップエンド側(約3センチ)に硬化エラストマーを配置する2ピース構造」と記載されていることを踏まえると、甲1図は当該「2ピース構造」を示すものと理解することができる。
そして、甲1図からは、赤色部分と黒色部分とから成る部材を看取することができるところ、図において性状等の異なる部材を色分けすることは一般に行われていることであって、本文及び甲1図に接した当業者であれば、甲1図の赤色部分及び黒色部分が実際の彩色を示すものではなく「2ピース構造」における各ピースを示す色分けであると理解するものと認められる。また、甲1図は「SyncRo Grip CP TYPE」の構造である「2ピース構造」を示すものであるから、甲1図は少なくとも各部材の概形や配置のような構造に関する事項については、実際の「SyncRo Grip CP TYPE」を反映したものと解するのが妥当である。
そうすると、甲1図は上記「2ピース構造」を有する「SyncRo Grip CP TYPE」の断面を示した図であって、甲1図において赤色及び黒色で表された各部分は「グリップエンド側(約3センチ)に硬化エラストマーを配置する2ピース構造」を構成する各ピースであると解される(以下、「2ピース構造」を構成する各ピースのうち、甲1図において外側の黒色で表された部分を「第1ピース」、内側の赤色で表された部分を「第2ピース」という。)。
「エンド」は「端」の語義を有しており(株式会社岩波書店『広辞苑第六版』)、「グリップエンド」は「グリップ」の端部であると解されるから、甲1記載の「グリップエンド側」は「グリップ」の端部側であり、「グリップエンド部」は「グリップ」の端部の部分であると解される。そして、甲1図が「2ピース構造」を有する「SyncRo Grip CP TYPE」の断面であることを踏まえると、甲1図の図面上側はグリップの端部側であるからグリップエンド側であるということができ、甲1図からは、第1ピースが筒状である点、及び、第2ピースが筒状でグリップエンド側の後端が塞がれている点を看取することができる。
また、これらの点は、上記「(2)」の「グリップエンド側(約3センチ)に硬化エラストマーを配置する2ピース構造」、及び、上記「(3)」の「グリップとシャフトの密着性を高める新開発のストロングエイド(28mm)をグリップエンド部に装着している」との記載と符合するから、第2ピースは「硬化エラストマー」であり、「ストロングエイド」を示すものであると認められる。

(6)甲1の第1ページ右欄の写真から見て、「SyncRo Grip CP TYPE」はゴルフクラブ用グリップの外形を有するものと認められる。また、甲1に示された「グリップ」は、上記「(1)」によればバックラインの有るものと無いものとがあり、「(2)」によればスイングするものであり、「(3)」によればシャフトに挿入するものであるところ、これらの性質はゴルフクラブ用グリップに特有のものである。
そうすると、甲1の「SyncRo Grip CP TYPE」がゴルフクラブ用グリップであることは明らかである。

(7)以上の記載事項を総合すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「新配合エラストマー・天然香料を素材としており、
筒状の第1ピースと、筒状でグリップエンド側の後端が塞がれている第2ピースと、を有し、
グリップエンド側(約3センチ)に硬化エラストマーである第2ピースを配置する2ピース構造であり、
ストロングエイド(28mm)である第2ピースをグリップエンド部に装着する、
ゴルフクラブ用グリップ「SyncRo Grip CP TYPE」。」

2.甲第2号証
甲第2号証は、請求人である株式会社ロア・ジャパンの代表取締役小林賢司が瞬報社写真印刷株式会社に宛てた平成30年4月25日付けの証明願に対して、瞬報社写真印刷株式会社の代表取締役藤田良郎が株式会社ロア・ジャパンに宛てた平成30年4月27日付けの証明書であって、甲1と同じ内容のカタログが添付されたものであり、当該証明願及び証明書にはそれぞれ以下の事項が記載されている。

(1)「証明願
瞬報社写真印刷株式会社 殿
別紙添付の「ゴルフシャフト用ゴムグリップ CP TYPE」の商品カタログは、弊社の依頼により貴社がデザインを作成すると共に、印刷をして、平成22年(2010年)8月21日付け弊社に納品されたものであることをご証明下さい。
平成30年4月25日
東京都西多摩郡瑞穂町大字二本木字東樽ノ口427-1
株式会社 ロア・ジャパン
代表取締役 小林 賢司」

(2)「証明書
株式会社 ロア・ジャパン 殿
上記記載の通り納品したことを証明致します。
平成30年4月27日
東京都渋谷区千駄ヶ谷4-29-10
瞬報社写真印刷株式会社
代表取締役 藤田 良郎」

3.甲第3号証
甲第3号証は、株式会社ロア・ジャパンの「売上リスト」であって、以下の事項が記載されている(改行は適宜省略した。以下同様。)。

(1)上部に「(株)ロア・ジャパン 売上リスト 【2010年9月16日のみ】」と記載されている。

(2)表の第1行第2列の欄内上部に「売上日付 伝票No.(受注No.)」、同欄に対応する第2行第2列の欄に「2010/09/16 2536」と記載されている。

(3)表の第1行第3列が2段に区分されたうちの第1段左側に「得意先名 納品先名 仕入先名」と記載されるとともに、第2行第3列が5段に区分されたうちの第1段の上記「得意先名 納品先名 仕入先名」に対応する位置に「(03057300000)GOLF FIT」と記載されている。
また、表の第1行第3列の第2段には「倉庫名 商品名」、「区分」、「売上数量」及び「単位」と記載された欄があり、「倉庫名 商品名」と記載された欄に対応する第2行第3列の第2段の欄には「(4560319132879) SyncRo Grip CP Type PI B/L無」、同第3段の欄には「(4560319132855) SyncRo Grip CP Type PU B/L無」、同第4段の欄には、「(4560319132862) SyncRo Grip CP Type RE B/L無」と記載され、「区分」、「売上数量」、「単位」と記載された欄に対応する第2行第3列の第2段ないし第4段の欄にはそれぞれ「売上」、「1」、「本」と記載されている。

(4)上記「(1)」の記載から甲3の「売上リスト」は株式会社ロア・ジャパンの2010年9月16日の売上のリストであると認められる。このことは、上記「(2)」の記載から甲3の表における売上日付が2010年9月16日であると認められることとも符合する。

(5)上記「(3)」の第1行及び第2行の記載を対照すると、「売上リスト」には、「SyncRo Grip CP Type PI B/L無」、「SyncRo Grip CP Type PU B/L無」、「SyncRo Grip CP Type RE B/L無」について各1本の「売上」が記載されているといえる。

4.甲第4号証
甲第4号証は、本件特許の出願前の平成23年6月1日に発行された「ゴルフ用品界」2011年6月号(第34巻第400号)の記事であって、以下の事項が記載されている。

(1)「RomaRo
SyncRo Grip
ゆるまない、ねじれない、ブレない
飛びに直結するシンクログリップ」(第150ページ上部)

(2)「■商品紹介
ロマロが同社看板グリップ『SyncRo Grip(シンクログリップ)』がリニューアルし、7月に4機種を発売を予定する。ミントの香り漂うレギュラーサイズの『SyncRoGrip CP Type 50-M』(50g)、少し太めの同『Tour Type 50-X』、細めの同『Tour Type 43-S』。そして様々なカラーと香りマッチした『FP Type 47-M』がそれだ。
このシリーズは、グリップエンドから約3cmに硬化エラストマーを配置した2層構造。グリップ全体のソフト感を損なわず、かつシャフトへの密着度を向上させたもの。結果、スイング時に生じるグリップのねじれやゆがみ軽減。また、先端部の緩みや捲れ防止の成形技術もシャフトとの一体感に寄与している。
また、表面は滑らかな質感にミクロン単位の突起を施し、抜群のホールド感を実現。新配合エラストマー素材を採用しながら、防汚機能、耐久性にも優れている。もちろん、ミントの香りでメンタル面もサポート。ミスショットからのリフレッシュ、リラックス効果も高い。」(第150ページ「■商品紹介」の項)

(3)「■キューピーさんの試打インプレッション
作用点のヘッドから一番遠い上の手(グリップエンド側)をしっかり握れることで、スイング中に遠心力が働いても、クラブの操作性は失うことなくボールをコントロールできます。また、グリップエンド側を手のひら全体で密着するように握れるので、安定的にグリップできます。それでいて適度な柔らかさで、押し返してくれるので、グリッププレッシャーもかかりすぎない。右手のプレッシャーがかかりすぎる人、ハンドファーストに打てないゴルファーにはとっておきのグリップです。」(第150ページ「■キューピーさんの試打インプレッション」の項)

(4)甲4の第150ページに掲載された写真の『SyncRo Grip(シンクログリップ)』はゴルフクラブ用グリップの外形を有するものと認められる。また、上記「(3)」には甲4の「グリップ」をゴルファーが用いることが記載されている。
そうすると、甲4の『SyncRo Grip(シンクログリップ)』がゴルフクラブ用グリップであることは明らかである。

(5)以上の記載事項を総合すると、甲4には以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。

「グリップエンドから約3cmに硬化エラストマーを配置した2層構造で、
新配合エラストマー素材を採用した、
ゴルフクラブ用グリップ『SyncRo Grip(シンクログリップ)』。」

5.甲第5号証
甲第5号証は、GOLF FIT 代表の菊地洋一の令和1年5月8日付けの陳述書であって、株式会社ロア・ジャパンからGOLF FITに宛てた納品書が添付されているところ、当該陳述書本文及び添付された納品書にはそれぞれ以下の事項が記載されている。

(1)「弊店は、青梅市において、ゴルフ用品や運動具の小売り販売をしている個人商店です。弊店は、株式会社ロア・ジャパンの製造に係る「ゴルフ用品」の販売をする代理店でありますが、平成22年(2010年)8月下旬ごろ、同社の依頼を受け、同社が販売している「グリップ」の新商品として販売を開始している「SyncRo Grip CP Type」の「商品カタログ」の店頭展示を依頼されて、店頭で展示致しました。
前記「商品カタログ」を店頭に展示したところ、その「商品カタログ」を見た顧客より、色違いで3本の「SyncRo Grip CP Type」の注文を受けましたので、直ちに同社へ電話して3本の注文したところ、同社より、平成22年(2010年)9月16日付けで、別紙添付の納品書を同封して、前記3本の「SyncRo Grip CP Type」を受領しました。そして、これら3本を注文した顧客に直ちに販売致しました。
上記記載の通りであることを陳述致します。」(陳述書本文)

(2)陳述書に添付された納品書の右側中段の表には「日付」の項に「10/09/16」、「取引」の項に「売掛」と記載されている。
また、納品書下段の表には、第1行の「商品名 品番」の項に対応して、第2行に「4560319132879 sycg-cp-r-pi SyncRo Grip CP Type PI B/L無」、第3行に「4560319132855 sycg-cp-r-pu SyncRo Grip CP Type PU B/L無」、第4行に「4560319132862 sycg-cp-r-re SyncRo Grip CP Type RE B/L無」と記載されるとともに、第1行の「区分」、「数量」、「単位」の項に対応して、第2行ないし第4行にそれぞれ「売上」、「1」、「本」と記載されている。

(3)上記「(2)」の「日付」の項の「10/09/16」との記載が2010年9月16日を指すことは明らかであるから、納品書には、「SyncRo Grip CP Type PI B/L無」、「SyncRo Grip CP Type PU B/L無」、「SyncRo Grip CP Type RE B/L無」各1本が2010年9月16日に納品されたことが記載されているといえる。

第6 当審の判断

1.甲各号証から認定し得る発明について
(1)上記「第5」で示した甲1ないし甲5の記載事項を踏まえると、請求人が提出した証拠方法である甲1ないし甲5のうちで、本件特許発明の「ゴルフクラブ用グリップ」に関する技術事項が記載されているのは、甲1及び甲4のみであると認められる。
そして、甲1及び甲4の各記載事項から認定できる発明は、それぞれ上記「第5 1.(7)及び4.(5)」において示した甲1発明及び甲4発明であるから、本件特許発明の「ゴルフクラブ用グリップ」に関して、甲1から認定できる以外の技術事項を、甲4から認定できるとは認められない。また、請求人も、「甲第1号証と比較して甲第4号証から新たに認定できる事項はない」(第1回口頭審理調書の「(別紙)第1」)と陳述しており、この点について自認している。
そうすると、請求人が提出した証拠方法である甲1ないし甲5から認定し得る発明は、上記「第5 1.(7)」に示した甲1発明である。

(2)甲1について、請求人は、審尋回答書において、「審尋の理由1の、「甲第1号証に係る発明を特許法第29条第1項各号のいずれの発明であると主張するのかを明らかにされたい。」に関しては、審判請求人は、甲第1号証に係る発明は、特許法第29条第1項1号および同第2号についての主張であると回答致します。」(審尋回答書の「5.(1)」)と回答しているので、以下では、特許法第29条第1項第1号及び第2号の公然知られた発明及び公然実施をされた発明について検討する。

(3)甲5(上記「第5 5(1)」)における、GOLF FIT 代表 菊地洋一の「平成22年(2010年)8月下旬ごろ、同社(当審注:株式会社ロア・ジャパン)の依頼を受け」、「「SyncRo Grip CP Type」の「商品カタログ」の店頭展示を依頼されて、店頭で展示」し、「「商品カタログ」を見た顧客より、色違いで3本の「SyncRo Grip CP Type」の注文を受けましたので、直ちに同社へ電話して3本の注文をしたところ、同社より、平成22年(2010年)9月16日付けで、別紙添付の納品書を同封して、前記3本の「SyncRo Grip CP Type」を受領し」たとの陳述によれば、「SyncRo Grip CP Type」の「商品カタログ」は、平成22年8月下旬ごろであって、少なくとも同年9月16日よりも前、すなわち、本件特許の出願前にGOLF FITの店頭に展示されたものと一応認められる。
しかしながら、店頭で展示されたとされる商品カタログと甲1の商品カタログとの内容が同じであるであることは甲5には示されておらず、他の各甲号証にも甲1の商品カタログと店頭で展示されたとされる商品カタログとの関係を示すものはないから、GOLF FITの店頭で展示されたとされる「SyncRo Grip CP Type」の商品カタログと甲1の商品カタログとが同じ内容のものであったと認めるに足りる証拠はない。
そうすると、請求人が提出した証拠方法によっては、甲1が本件特許の出願前に店頭に展示されたということはできないから、請求人の主張するように、甲1の展示によって、甲1発明が本件特許の出願前に公然知られたと認めることはできない。

(4)甲3(上記「第5 3(5)」)及び甲5(上記「第5 5(1)ないし(3)」)の陳述によれば、「SyncRo Grip CP Type」の「商品カタログ」に基づいて注文した3本の「SyncRo Grip CP Type」が平成22年9月16日付けでGOLF FITに納品され、顧客に販売されたものと一応認められる。
ここで、「SyncRo Grip CP Type」が顧客に販売された正確な時期は明らかでないものの、甲5の陳述によれば、「SyncRo Grip CP Type」は顧客から注文を受けて株式会社ロア・ジャパンに注文され、平成22年9月16日付けで納品された後、顧客に直ちに販売されたものであるところ、一般の商慣行に照らせば、顧客の注文に応じて発注された商品は、納品後速やかに当該顧客に販売されるのが通常であることや、本件特許の出願日である平成23年8月29日が、本品が納品された平成22年9月16日から11ヶ月以上後であることからして、本品は本件特許の出願日前に販売されたものと一応推認できる。
また、甲1掲載品の名称である「SyncRo Grip CP TYPE」と、甲3の売上リスト及び甲5の納品書の「商品名」の欄に記載された「SyncRo Grip CP Type」とは、表記上の微差はあるものの、商品名が実質的に一致している。
しかしながら、一般に、商品の仕様や機能等はカタログの作成以降も改良等のために適宜変更されるものであって、商品名が一致していることのみをもって、顧客に販売された商品が甲1掲載品であったということはできない。そして、他に、顧客に販売された商品と甲1掲載品とが同じ内容のものであることを示す証拠も見出せない。
そうすると、請求人が提出した証拠方法によっては、甲1掲載品が本件特許の出願前に顧客に販売されたということはできないから、甲1発明が本件特許の出願前に公然知られた、又は、公然実施をされたと認めることはできない。

2.本件特許発明の進歩性について
上記「1.」での検討のとおり、請求人が提出した証拠方法によっては、甲1発明が本件特許の出願前に公然知られ、又は、公然実施をされたとは認めることはできないが、念のため、仮に、甲1掲載品が本件特許の出願前に顧客に販売されたものであって、甲1発明が本件特許の出願前に公然知られた、又は、公然実施をされたものであるとして、本件特許発明1の進歩性についても検討しておく。

(1)対比
本件特許発明と甲1発明とを対比する。

ア.後者の「第1ピース」は「ゴルフクラブ用グリップ」の一部であって、「新配合エラストマー・天然香料を素材」とするから、後者の「筒状の第1ピース」と前者の「第1の樹脂からなる筒状のグリップ本体」とは、「樹脂からなる筒状のグリップ本体」である点で共通する。

イ.後者の「筒状でグリップエンド側の後端が塞がれている第2ピース」は、「グリップエンド側(約3センチ)に第2ピースである硬化エラストマーを配置する」ものであるところ、後者の当該「第2ピース」と、前者の「第1の樹脂よりも高硬度の第2の樹脂からなり、上記グリップ本体の後端部に設けられてグリップエンドを形成する」ものであり、「上記グリップ本体の後端部に挿入される筒状部と、上記グリップ本体の後端を塞ぐ端面板部とを備え」る「エンドキャップ」とは、「樹脂からなり、グリップ本体の後端部に設けられてグリップエンドを形成するエンドキャップ」である点で共通し、「上記グリップ本体の後端部に挿入される筒状部と、上記グリップ本体の後端を塞ぐ端面板部とを備える」点で一致する。

ウ.後者の「ゴルフクラブ用グリップ「SyncRo Grip CP TYPE」」は、前者の「ゴルフクラブ用グリップ」に相当する。

エ.そうすると、両者は、
「樹脂からなる筒状のグリップ本体と、樹脂からなり、上記グリップ本体の後端部に設けられてグリップエンドを形成するエンドキャップとを有するゴルフクラブ用グリップであって、
上記エンドキャップは、上記グリップ本体の後端部に挿入される筒状部と、上記グリップ本体の後端を塞ぐ端面板部とを備える
ゴルフクラブ用グリップ。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
前者はグリップ本体が「第1の樹脂」からなり、エンドキャップが「第1の樹脂よりも高硬度の第2の樹脂」からなるのに対して、後者は第1ピースと第2ピースとの硬度の関係が明らかでない点。

[相違点2]
前者においては「グリップ本体は、エンドキャップをインサート部材としてインサート成形されている」のに対して、後者の第1ピース及び第2ピースはそのようなものでない点。

[相違点3]
前者のエンドキャップが「筒状部の長さは、60mm?75mmに設定されている」のに対して、後者の第2ピースは約3センチである点。

(2)判断
上記相違点について検討する。

ア.相違点1について
甲1発明の「第2ピース」は「硬化エラストマー」であるところ、「硬化エラストマー」とは、加熱等の処理によって硬化する性質を有するエラストマーのことであることが技術常識であるから、ここでの「硬化」は、「硬度が高い」ことを意味するとは解することができない。そうすると、「第2ピース」が「硬化エラストマー」であることを以て、甲1発明の第2ピースが第1ピースより高硬度であると認めることはできない。
なお、請求人は、甲1掲載品が高硬度と低硬度の二層構造であることは、製品を購入した者であれば知ることができると主張している(上記「第2 3.(2)ア.」)。しかしながら、上記「1.(4)」で検討したとおり、甲1掲載品と顧客に販売された商品との関係は不明であること、及び、当該商品の硬度に関する構造を示すものが提出されていないことから、請求人が提出した証拠方法によっては、甲1掲載品が高硬度と低硬度の二層構造であるということはできない。
また、上記「1.(1)」のとおり、甲4発明も、上記相違点1に係る本件特許発明の発明特定事項を備えるものではないし、上記相違点1に係る本件特許発明の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。
そして、本件特許発明は上記相違点1に係る本件特許発明の発明特定事項を備えることにより、本件明細書に記載の「高硬度の樹脂からなるエンドキャップがグリップ本体の後端部に装着されている。具体的には、上記筒状部が上記グリップ本体に挿入され、且つ上記端面板部が上記グリップ本体の後端を塞いでいる。これにより、グリップ本体の後端部の曲げ剛性及び座屈剛性が高くなり、ゴルファーは確実にゴルフクラブ用グリップを握ることができる。」(段落【0011】)との効果を奏するものである。
そうすると、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものということはできない。

イ.相違点2について
インサート成形は、2部材からなる樹脂製品の成形に従来慣用されている技術手段であって、インサート成形によって大きな接合強度を得られることも広く知られている技術事項である。
また、甲1発明のゴルフクラブ用グリップは第1ピース及び第2ピースの2部材からなるものであって、ゴルフクラブ用グリップはプレイヤーのスイングをゴルフクラブに伝達する器具であるから、甲1発明のゴルフクラブ用グリップにおいて接合強度を大きくすることは自明な課題であるといえる。
そうすると、甲1発明のゴルフクラブ用グリップにおいて、接合強度を確保するために慣用技術であるインサート成形を採用して、第1ピース及び第2ピースをインサート成形することは当業者が容易になし得たことであって、その際に第1ピースの内側に位置する第2ピースをインサート部材とすることも当業者が適宜なし得たことである。

ウ.相違点3について
相違点3について、請求人は、本件特許発明が筒状部の長さを60?75mmとしたことによる作用効果は、甲1発明と同一である旨主張している(上記「第2 3.(2)ウ.」)
しかしながら、本件特許明細書に「本願発明者は、上記筒状部の長さが上記寸法に設定されるだけで、ゴルフクラブ用グリップの全体のねじり変形量が抑えられるとの知見を得た。従来のようにグリップ本体のほぼ全域に筒状部が挿入されていなくても、ゴルフクラブ用グリップ全体としてのいわゆるトルク性能が向上する。その定量的原因究明は未だなされていないが、上記筒状部の長さが上記寸法に設定されることによる効果は、後述の実施例が示すとおりである。また、上記筒状部の長さが上記寸法に設定されることにより、製造工程が簡略化され、簡単且つ安価にゴルフクラブ用グリップが製造され得る。」(段落【0014】)、及び、「この試験では、エンドキャップの筒状部の長さが60mmを下回ると、測定されるトルクが極端に大きくなることが判明した。また、エンドキャップの筒状部の長さが60mm以上であれば、トルクが十分に抑えられることも判明した。一方、エンドキャップの筒状部の長さが75mm以上であれば、測定されるトルクに大きな変化はなく、しかも、当該筒状部の長さが75mmを越えてどれほど大きくなっても、測定されるトルクに変化がないことも判明した。」(段落【0100】)と記載されていることからすれば、本件特許発明は「筒状部の長さは、60mm?75mmに設定されている」という上記相違点3に係る本件特許発明の発明特定事項を備えることにより、本件特許明細書に記載の「ゴルフクラブ用グリップの全体のねじり変形量が抑えられ」、かつ、「製造工程が簡略化され、簡単且つ安価にゴルフクラブ用グリップが製造され得る」との効果を奏するものと認められるから、請求人の上記主張には理由がない。
また、上記「1.(1)」のとおり、甲4発明も、上記相違点3に係る本件特許発明の発明特定事項を備えるものではないし、上記相違点3に係る本件特許発明の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。
そして、上述のとおり、本件特許発明は上記相違点3に係る本件特許発明の発明特定事項を備えることにより、本件明細書に記載の「ゴルフクラブ用グリップの全体のねじり変形量が抑えられ」、かつ、「製造工程が簡略化され、簡単且つ安価にゴルフクラブ用グリップが製造され得る」との効果を奏するものである。
そうすると、甲1発明において、相違点3に係る本件特許発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものということはできない。

エ.進歩性についての判断のまとめ
以上のとおりであって、仮に、甲1発明が本件特許の出願前に公然知られた、又は、公然実施をされたものであるとしても、本件特許発明は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲4発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3.小括
そうすると、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明は、その出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明、又は、公然実施をされた発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第7 むすび

以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明に係る特許を無効とすることはできない。また、他に本件特許発明に係る特許を無効にすべき理由を発見しない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
 
審理終結日 2019-06-20 
結審通知日 2019-06-24 
審決日 2019-07-05 
出願番号 特願2011-188592(P2011-188592)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 達哉  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 森次 顕
吉村 尚
登録日 2014-07-18 
登録番号 特許第5579138号(P5579138)
発明の名称 ゴルフクラブ用グリップ  
代理人 松田 朋浩  
代理人 後田 春紀  
代理人 西木 信夫  
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