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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A23D
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A23D
審判 査定不服 特29条の2 取り消して特許、登録 A23D
管理番号 1354492
審判番号 不服2018-11632  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-29 
確定日 2019-09-03 
事件の表示 特願2014-538336「可塑性油脂組成物及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年4月3日国際公開、WO2014/050488、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2013年9月5日(優先権主張 2012年9月26日 日本国)を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。
平成29年 3月17日付け 拒絶理由通知
平成29年 5月29日 意見書提出・手続補正
平成29年 9月29日付け 拒絶理由通知
平成29年12月22日 意見書提出・手続補正
平成30年 5月23日付け 拒絶査定
平成30年 8月29日 審判請求・手続補正
平成31年 1月30日 上申書提出
なお、この出願の一部が平成30年8月31日に特願2018-162984号として分割出願されている。
なお、本願に対しては、平成28年5月23日受付け、同年8月25日受付け、平成29年6月27日受付け、同年6月28日受付け、同年6月29日受付け、同年12月27日受付け、平成30年1月22日受付け、同年10月12日受付けで刊行物提出書が提出されている。

第2 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶の理由は、平成29年9月29日付け拒絶理由通知における理由2、3であり、理由2の概要は、本願請求項5に係る発明は、その優先日前に頒布された引用文献1、2、7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものであり、理由3の概要は、本願請求項3?6に係る発明は、その優先日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた特許出願(以下「先願」という。)の日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその優先日前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)というものである。

引用文献1 特開2010-22305号公報
引用文献2 国際公開第2009/025123号
引用文献7 特開2009-232738号公報
先願(引用文献14) PCT/JP2013/055538号(国際公開第2013/133138号)

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。

1 審判請求時の請求項1の補正について
請求項1における、
(1)油脂Aについて、補正前のその含有量「5?75質量%」を「9?55質量%」とする補正、補正前のその成分「油脂A:乳由来の油脂」を「油脂A:バターオイル及び/又はバターオイルオレイン」とする補正、及び、
(2)油脂Bについて、補正前のその含有量「7?95質量%」を「9?81質量%」とする補正、補正前のその成分「全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を20?65質量%、パルミチン酸を20?65質量%、及びステアリン酸を15質量%以下含有するエステル交換油」を「全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を25?55質量%、パルミチン酸を20?55質量%、及びステアリン酸を2?10質量%含有するエステル交換油」とする補正、並びに、
(3)「可塑性油脂組成物」について、補正前の「可塑性油脂組成物」を「可塑性油脂組成物(ただし、構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物、を除く)」とする補正、のそれぞれ(以下、まとめて「請求項1の補正」という。)は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項を限定する補正であって、補正前の発明と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしている。

また、請求項1の補正の(1)及び(2)は、本願の願書に最初に添付された明細書(以下「当初明細書」という。また、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面をまとめて「当初明細書等」という。)の段落【0011】?【0013】、【0041】?【0054】等に記載された範囲のものであり、請求項1の補正の(3)は、平成30年5月23日付け拒絶査定のなお書きにおいて指摘された新規性及び進歩性を否定する発明(特開2009-34089号公報:引用文献15)を除くためのものであり、当該補正により、請求項1に記載された発明に何ら新たな技術的事項を導入するものとも認められない。

2 審判請求時の請求項3の補正について
補正前の請求項3の「上記油脂Bの含有量が5?90質量%であって」という記載を削除する補正は、平成30年5月23日付け拒絶査定のなお書きにおいて指摘された、サポート要件で指摘された油脂Bの含有量における齟齬を削除し、齟齬のない明りょうな記載としたものであり、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明に該当するから、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしている。
また、この補正は、当初明細書等に記載された範囲内であり、 新たな技術的事項を導入するものとも認められない。

3 審判請求時の請求項5及び6の補正について
補正前の請求項5を削除する補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当するから、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしている。
また、補正前の請求項6は、請求項5の削除によって、請求項番号を繰り上げ、補正後の請求項5とするものであるから、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしている。
そして、これらの補正は、当初明細書等に記載された範囲内であり、 新たな技術的事項を導入するものとも認められない。

4 小括
前記のとおり、審判請求時の請求項1、3、5の補正は、特許法第17条の2第5項の第1号、第2号及び第4号に規定する要件を満たしており、いずれも当初明細書等に記載された範囲内であり、 新たな技術的事項を導入するものとも認められない。

そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1?5に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
この出願の発明は、平成30年8月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下、請求項1?5に係る発明をそれぞれ「本願発明1」?「本願発明5」といい、まとめて「本願発明」という。)
「【請求項1】
油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物であって、
前記可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、以下の油脂Aを9?55質量%、及び以下の油脂Bを9?81質量%含有し、
前記可塑性油脂組成物を構成する油脂中の炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるトリ飽和トリグリセリド(H3)の含有量が2.5?10質量%であり、
前記H3中に占めるトリパルミチン(P3)の割合(質量比、P3/H3)が0.5以上である、可塑性油脂組成物
(ただし、
構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、
を含有するロールイン用可塑性油脂組成物、
を除く)。
油脂A:バターオイル及び/又はバターオイルオレイン
油脂B:全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を25?55質量%、パルミチン酸を20?55質量%、及びステアリン酸を2?10質量%含有するエステル交換油
【請求項2】
上記油脂Bが、炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるトリ飽和トリグリセリド(H3)を15質量%以下含有する、請求項1に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項3】
上記可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、さらに以下の油脂Cを5?75質量%含有する、請求項1又は請求項2に記載の可塑性油脂組成物。
油脂C:パーム系油脂、パーム系油脂のエステル交換油の中から選ばれた1種又は2種以上の油脂
【請求項4】
上記可塑性油脂組成物がマーガリン又はショートニングである請求項1?3の何れか一項に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項5】
請求項1?4の何れか一項に記載の可塑性油脂組成物の製造方法であって、油相に必要により調製した水相を混合乳化した後、-5℃/分以上の冷却条件で急冷却可塑化させる工程を有する可塑性油脂組成物の製造方法。」

第5 引用文献、引用発明等

引用文献1 特開2010-22305号公報(原査定の引用文献1)
引用文献2 国際公開第2009/025123号(原査定の引用文献2)
引用文献7 特開2009-232738号公報(原査定の引用文献7)
引用文献8 特開2012-105583号公報
他の出願(引用文献14) 特願2012-053077号(国際公開第2013/133138号)(原査定の他の出願)
引用文献15 特開2009-34089号公報
引用文献16 特開2006-25671号公報
引用文献17 特開2011-92061号公報
引用文献18 特開2012-52048号公報
引用文献19 特開2001-262181号公報
引用文献20 特開2010-220579号公報

1 引用文献1について

(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。

1a「【請求項1】
油脂、無脂乳固形分及び水を含む水中油型乳化物において、油脂分が25?50重量%であり、油脂が非乳脂又は非乳脂及び乳脂であって、非乳脂がパーム系油脂及びラウリン系油脂のエステル交換油を含み、且つ澱粉分解物及び/又は加工澱粉を含む起泡性水中油型乳化物。」

1b「【背景技術】
【0002】
従来、製菓店や洋菓子店において、デザートやケーキ等に使用される起泡性水中油型乳化物はホイップドクリームとも呼ばれている。・・・
・・・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、起泡性水中油型乳化物として乳化安定性が良く、ホイップした際の作業性、起泡性、外観に優れ、保形性、耐離水性が良く、ホイップ状態もしくはケーキ等にデコレーションした状態で凍結解凍しても凍結前と同様の外観、風味、食感を有する、冷凍耐性を有する起泡性水中油型乳化物を提供する事にある。」

1c「【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例を示し本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、%及び部は、いずれも重量基準を意味する。また、結果については以下の方法で評価した。
・・・・・
【0028】
実験例1(エステル交換油A-1の調製)
パーム油50部とパーム油を分別して得たパームステアリン10部とパーム核油を分別して得たパーム核オレイン40部を混合した油脂に金属触媒(ナトリウムメチラート)0.3部を加え、真空下80℃で60分ランダムエステル交換させた。得られた油脂を定法に従い精製を行いエステル交換油A-1とした。
・・・・・
【0033】
実施例4
(エステル交換油A-1)7部、硬化パーム核油(融点34℃)10部、パーム中融点部11部、バターオイル7部、レシチン0.2部を添加混合融解し油相とする。これとは別に水54.46部に脱脂粉乳5部、デキストリン(DE25)5部、ショ糖脂肪酸エステル(HLB7)0.25部、重曹0.02部、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.07部を溶解・分散して水相を調製する。上記油相と水相を70℃で30分ホモミキサーで攪拌予備乳化した後、超高温殺菌装置(岩井機械工業(株)製)によって144℃において4秒間の直接加熱方式による滅菌処理を行った後、30Kg/cm^(2)の均質化圧力で均質化して、直ちに5℃に冷却した。冷却後24時間エージングして、起泡性水中油型乳化物を得た。この起泡性水中油型乳化物1Kgに80gのグラニュー糖を加えて上記ホイップ方法にてホイップし、上記方法に従いオーバーラン、保形性、離水の測定を行った。またこのホイップクリームをスポンジケーキにデコレーションし-25℃の冷凍庫で10日保存後、15℃の定温室で解凍し1日後上記の方法に従って外観の観察、保形性、組織の荒れ、ひび割れおよび風味を評価したところ、乳化安定性が良くホイップした際の作業性、起泡性に優れており、保形性、離水耐性は良好であった。冷凍解凍後のケーキは保形性、組織の荒れは良好でだがひび割れはやや弱かった。食した際には良好な食感と乳風味を有していた。配合と評価を表1、2に纏めた。
【0034】
実施例1?実施例4の配合と一部評価を表1に纏めた。

【0035】
実施例1?実施例4の評価を表2に纏めた。



(2)引用発明1
引用文献1は、起泡性水中油型乳化物として乳化安定性が良く、ホイップした際の作業性、起泡性、外観に優れ、保形性、耐離水性が良く、ホイップ状態もしくはケーキ等にデコレーションした状態で凍結解凍しても凍結前と同様の外観、風味、食感を有する、冷凍耐性を有する起泡性水中油型乳化物に関し記載するものであり(1b)、その起泡性水中油型乳化物の具体例として、実施例4には、実験例1で、パーム油50部とパーム油を分別して得たパームステアリン10部とパーム核油を分別して得たパーム核オレイン40部を混合した油脂に金属触媒(ナトリウムメチラート)0.3部を加え、真空下80℃で60分ランダムエステル交換させ、得られた油脂を定法に従い精製を行って得られたエステル交換油A-1 7部、硬化パーム核油(融点34℃)10部、パーム中融点部11部、バターオイル7部、レシチン0.2部を添加混合融解して油相とし、これとは別に水54.46部に脱脂粉乳5部、デキストリン(DE25)5部、ショ糖脂肪酸エステル(HLB7)0.25部、重曹0.02部、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.07部を溶解・分散して水相を調製し、上記油相と水相を70℃で30分ホモミキサーで攪拌予備乳化した後、超高温殺菌装置(岩井機械工業(株)製)によって144℃において4秒間の直接加熱方式による滅菌処理を行った後、30Kg/cm^(2)の均質化圧力で均質化して、直ちに5℃に冷却し、冷却後24時間エージングして、起泡性水中油型乳化物を得たことが記載されている(1c)。ここで、「部」は、重量基準を意味する(1c【0024】)ものである。

したがって、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「パーム油50重量部とパーム油を分別して得たパームステアリン10重量部とパーム核油を分別して得たパーム核オレイン40重量部を混合した油脂に金属触媒(ナトリウムメチラート)0.3重量部を加え、真空下80℃で60分ランダムエステル交換させ、得られた油脂を定法に従い精製を行って得られたエステル交換油A-1 7重量部、硬化パーム核油(融点34℃)10重量部、パーム中融点部11重量部、バターオイル7重量部、レシチン0.2重量部を添加混合融解して油相とし、これとは別に水54.46重量部に脱脂粉乳5重量部、デキストリン(DE25)5重量部、ショ糖脂肪酸エステル(HLB7)0.25重量部、重曹0.02重量部、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.07重量部を溶解・分散して水相を調製し、上記油相と水相を70℃で30分ホモミキサーで攪拌予備乳化した後、超高温殺菌装置(岩井機械工業(株)製)によって144℃において4秒間の直接加熱方式による滅菌処理を行った後、30Kg/cm^(2)の均質化圧力で均質化して、直ちに5℃に冷却し、冷却後24時間エージングして得られた起泡性水中油型乳化物」

2 引用文献2について

(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。

2a「 特許請求の範囲
[1]パーム系油脂及びラウリン系油脂のエステル交換油である油脂A並びにラウリン系油脂を含有する起泡性クリーム用油脂組成物。
・・・・・
[4]請求項1?請求項3何れか1項に記載の起泡性クリーム用油脂組成物、無脂乳固形分及び水を使用してなる起泡性クリーム。
・・・・・
[8]更に乳脂を含有する、請求項4記載の起泡性クリーム。」

2b「起泡性クリーム用油脂組成物および起泡性クリーム
技術分野
[0001] 本発明は、パン類や洋菓子類のデコレーションなどに使用する起泡性クリーム及びその起泡性クリームの油脂成分として用いる起泡性クリーム用油脂組成物に関する。
・・・・・
発明が解決しようとする課題
[0007] 本発明の目的は、起泡性クリームとして乳化安定性が良く、ホイップした際の作業性、起泡性、外観に優れ、保形性、耐離水性が良く、植物性油脂由来でありながら食した際に乳脂に良く似た口どけ感、乳味感、食感を有する起泡性クリーム及び当該クリームを得るための起泡性クリーム用油型乳化物を提供する事にある。」
・・・・・
[0016] 本発明の起泡性クリームは、全固形分が20?54重量%であり、好ましくは30?54重量%であり、更に35?52重量%が好ましい。全固形分が低すぎると乳味感も少なくなって風味が悪くなり、高すぎると粘度が高くなり乳化安定性が悪くなる。
本発明の起泡性クリームは、乳味の強化のために当然ながら、更に乳脂を含有させることが好ましく、本発明での乳脂は、牛乳、生クリーム、バター等の乳由来の乳脂はもちろんのこと、これらの原料を加工処理して得られるバターオイルも含むものである。
植物性油脂で乳味感を付与できるのが本発明の根幹であるが、乳脂を含有させることにより乳味感を強くすることができるし、食感はより乳脂に近くなる。」

2c「実施例
[0022] 以下に本発明の実施例を示し本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、%及び部は、いずれも重量基準を意味する。
・・・・・
実験例1(エステル交換油A-1の調製)
パーム油50部とパーム油を分別して得たパームステアリン10部とパーム核油を分別して得たパーム核オレイン40部を混合した油脂に金属触媒(ナトリウムメチラート)0.3部を加え、真空下80℃で60分ランダムエステル交換させた。得られた油脂を定法に従い精製を行いエステル交換油A-1とした。
・・・・・
実施例11
(エステル交換油A-1)5部、パーム核油15部、パーム核硬化油(融点38℃)5部、バターオイル10部にレシチン0.25部、グリセリン脂肪酸エステル0.05部を添加混合融解し油相とする。これとは別に水59.79部に脱脂粉乳4.5部、ショ糖脂肪酸エステル(HLB5)0.22部、重曹0.02部、メタリン酸ナトリウム0.15部、キサンタンガム0.01部、グアガム0.01部を溶解し水相を調整する。上記油相と水相を70℃で15分間ホモミキサーで攪拌し予備乳化した後、超高温滅菌装置(岩井機械工業(株)製)によって、144℃において4秒間の直接加熱方式による滅菌処理を行った後、30Kg/cm^(2)の均質化圧力で均質化して、直ちに5℃に冷却した。冷却後約24時間エージングして、起泡性クリームを得た。この起泡性クリームを上記の方法に従って評価したところ、乳化安定性が良く、ホイップした際の作業性、起泡性、外観に優れていた。食した際には良好な口どけと、やや強い乳味感、乳脂に近い食感を有していた。
・・・・・
[0034] 実施例9?実施例12の配合と評価を表3に纏めた。
[表3]



(2)引用発明2
引用文献2は、起泡性クリームとして乳化安定性が良く、ホイップした際の作業性、起泡性、外観に優れ、保形性、耐離水性が良く、植物性油脂由来でありながら食した際に乳脂に良く似た口どけ感、乳味感、食感を有する起泡性クリーム及び当該クリームを得るための起泡性クリーム用油型乳化物に関し記載するものであり(2b)、その起泡性クリームの具体例として、実施例11には、実験例1で、パーム油50部とパーム油を分別して得たパームステアリン10部とパーム核油を分別して得たパーム核オレイン40部を混合した油脂に金属触媒(ナトリウムメチラート)0.3部を加え、真空下80℃で60分ランダムエステル交換させ、得られた油脂を定法に従い精製を行って得られたエステル交換油A-1 5部、パーム核油15部、パーム核硬化油(融点38℃)5部、バターオイル10部にレシチン0.25部、グリセリン脂肪酸エステル0.05部を添加混合融解し油相とし、これとは別に水59.79部に脱脂粉乳4.5部、ショ糖脂肪酸エステル(HLB5)0.22部、重曹0.02部、メタリン酸ナトリウム0.15部、キサンタンガム0.01部、グアガム0.01部を溶解して水相を調整し、上記油相と水相を70℃で15分間ホモミキサーで攪拌し予備乳化した後、超高温滅菌装置(岩井機械工業(株)製)によって、144℃において4秒間の直接加熱方式による滅菌処理を行った後、30Kg/cm^(2)の均質化圧力で均質化して、直ちに5℃に冷却し、冷却後約24時間エージングして、起泡性クリームを得たことが記載されている(2c)。ここで、「部」は、重量基準を意味する(1c[0022])ものである。

したがって、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「パーム油50重量部とパーム油を分別して得たパームステアリン10重量部とパーム核油を分別して得たパーム核オレイン40重量部を混合した油脂に金属触媒(ナトリウムメチラート)0.3重量部を加え、真空下80℃で60分ランダムエステル交換させ、得られた油脂を定法に従い精製を行って得られたエステル交換油A-1 5重量部、パーム核油15重量部、パーム核硬化油(融点38℃)5重量部、バターオイル10重量部にレシチン0.25重量部、グリセリン脂肪酸エステル0.05重量部を添加混合融解し油相とし、これとは別に水59.79重量部に脱脂粉乳4.5重量部、ショ糖脂肪酸エステル(HLB5)0.22重量部、重曹0.02重量部、メタリン酸ナトリウム0.15重量部、キサンタンガム0.01重量部、グアガム0.01重量部を溶解して水相を調整し、上記油相と水相を70℃で15分間ホモミキサーで攪拌し予備乳化した後、超高温滅菌装置(岩井機械工業(株)製)によって、144℃において4秒間の直接加熱方式による滅菌処理を行った後、30Kg/cm^(2)の均質化圧力で均質化して、直ちに5℃に冷却し、冷却後約24時間エージングして得られた起泡性クリーム」

3 引用文献7について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7には、次の事項が記載されている。

7a「【請求項1】
P2O含量が25?45質量%、PPOとPOPの質量比(PPO/POP)が0.20より大きく0.65未満、SSS含量が2?12質量%であり、かつ、リノール酸とリノレン酸との合計含量が12質量%未満である油脂組成物。(ただし、PPO:1,2パルミトイル-3オレイルグリセロール及び/又は1オレイル-2,3パルミトイルグリセロール、POP:1,3パルミトイル-2オレイルグリセロール、P2O:PPOとPOPとの合計、SSS:炭素数16以上の飽和脂肪酸からなるトリグリセリドを表す)
【請求項2】
請求項1に記載の油脂組成物を含んでなる、マーガリンまたはショートニング。」

7b「【0001】
本発明はマーガリン/ショートニング等の可塑性油脂製品に適した油脂組成物、特にサンドクリームに適した油脂組成物に関する。
・・・・・
【0019】
・・・・・
SSS含量は2?12質量%であり、より好ましくは3?10質量%であり、更に好ましくは4?8質量%である。SSS含量が上記範囲である場合、口溶けを損なわずに耐熱性を高めることができる。」

4 拡大先願について

(1)先願
原査定の拒絶の理由に引用された先願(原査定における引用文献14)は、2012年3月9日を出願日とする出願であり、先願を優先権主張の基礎とするPCT/JP2013/055538の国際出願日は2013年2月28日である。また、当該国際出願の国際公開(国際公開第2013/133138号)の国際公開日は2013年9月12日である。
先願の出願日(2012年3月9日)は、本件出願の優先権主張日(2012年9月26日)より前であり、また、先願を優先権主張の基礎とする国際出願の国際公開日(2013年9月12日)は、本件出願の優先権主張日よりも後である。

(2)先願明細書等の記載
特許法第41条第1項の規定による優先権の主張の基礎とされ、同法第184条の15第2項の規定により読み替えて適用される同法第41条第3項の規定により、国際公開されたものとみなされる先願の願書に最初に添付した明細書及び請求の範囲(以下「先願明細書等」という。)には、次の事項が記載されている。

14a「特許請求の範囲
【請求項1】
ロールインマーガリン全体中油脂を40?99重量%含有し、油脂中に含まれるトランス脂肪酸含量が5重量%以下のロールインマーガリンであって、油脂中のトリグリセリド組成が、SSSが2?9重量%、UUUが10?50重量%、SO2が16重量%以下、SSU/(SUS+USU)比率が1.0以上且つSSS+S2Uが29?43重量%であり、さらに油脂中の構成脂肪酸の内、P/S(重量比)が0.6以上であることを特徴とするロールインマーガリン。
SSS:C_(16)?C_(22)の飽和脂肪酸(S)3残基が結合したトリ飽和脂肪酸グリセリド
UUU:C_(16)?C_(22)の不飽和脂肪酸(U)3残基が結合したトリ不飽和脂肪酸グリセリド
SO2:C_(16)?C_(22)の飽和脂肪酸(S)1残基とC_(16)?C_(22)のオレイン酸(O)2残基が結合したグリセリドで、Sがβ位に結合したOSO、α位に結合したSOO及びそれらの混合物の何れでもよく、光学異性体を含むモノ飽和ジオレイルグリセリド
SSU:C_(16)?C_(22)の飽和脂肪酸(S)2残基とC_(16)?C_(22)の不飽和脂肪酸(U)1残基が結合したグリセリド(S2U)で、Uがα位に結合しており、光学異性体を含む1,2-飽和-3-不飽和グリセリド
SUS:C_(16)?C_(22)の飽和脂肪酸(S)2残基とC_(16)?C_(22)の不飽和脂肪酸(U)1残基が結合したグリセリド(S2U)で、Uがβ位に結合している1,3-飽和-2-不飽和グリセリド
USU:C_(16)?C_(22)の飽和脂肪酸(S)1残基とC_(16)?C_(22)の不飽和脂肪酸(U)2残基が結合したグリセリド(以下、SU2)で、Sがβ位に結合している1,3-不飽和-2-飽和グリセリ
S2U:C_(16)?C_(22)の飽和脂肪酸(S)2残基とC_(16)?C_(22)の不飽和脂肪酸(U)1残基が結合したグリセリドで、Uがα位に結合したSSU、β位に結合したSUS及びそれらの混合物の何れでもよく、光学異性体を含むジ飽和モノ不飽和グリセリド
P/S:C_(16)?C_(22)の飽和脂肪酸残基全量中のパルミチン酸残基量の重量比率
【請求項2】
油脂中の全てのトリ飽和脂肪酸グリセリドの合計量が15重量%以下である請求項1に記載のロールインマーガリン。
【請求項3】
油脂全体中パーム系油脂を30?80重量%含有する請求項1又は2に記載のロールインマーガリン。
【請求項4】
パーム系油脂がエステル交換油の分別液状部である請求項3に記載のロールインマーガリン。
【請求項5】
糖分をロールインマーガリン全体中5重量%以上含むことを特徴とする請求項1?4の何れかに記載のロールインマーガリン。
【請求項6】
請求項1?5の何れかに記載のロールインマーガリンを、層状膨化食品全体中15?30重量%含有する層状膨化食品。」

14b「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ロールイン作製時には良好な成型性が得られ、製パン作業時には良好な伸展性が得られ、焼成後には適度な浮きとソフトで口溶けの良い食感が得られる低トランス脂肪酸含量のロールインマーガリンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ロールインマーガリンの油脂中のトリグリセリド組成が、特定量であり、さらに油脂中の構成脂肪酸の内、P/S(重量比、但し、Pはパルミチン酸であり、SはC_(16)?C_(22)の飽和脂肪酸である。)が特定値であることで、低トランス脂肪酸含量でも、ロールイン作製時には良好な成型性が得られ、製パン作業時には良好な伸展性が得られ、焼成後には適度な浮きとソフトで口溶けの良い食感が得られる低トランス脂肪酸含量のロールインマーガリンが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
・・・・・
【0013】
前記油脂全体中、C_(16)?C_(22)の飽和脂肪酸(S)3残基が結合したトリ飽和脂肪酸グリセリド(以下、SSS)を2?9重量%含有することが好ましく、より好ましくは4?8重量%である。前記油脂全体中、SSSが2重量%より少ないと結晶核となる成分が少なくなるため成型性が悪化したり、融点が低くなりすぎて20℃以上で保型性が悪化したりする場合があり、9重量%より多いと口溶け、風味、食感が悪化する場合がある。また、前記油脂全体中において、全てのトリ飽和脂肪酸グリセリドの合計量、即ち鎖長に制限のない全てのトリ飽和脂肪酸グリセリドの合計量は、15重量%以下が好ましく、より好ましくは4?15重量%、さらに好ましくは5?13重量%である。前記合計量が15重量%より多いと5℃や10℃での可塑性が悪化する場合がある。」

14c「【0043】
(製造例1)
脱酸処理されたパームステアリン(ヨウ素価35):100重量部を90℃に加熱し、そこへ0.2重量部のナトリウムメチラートを加えて減圧下30分間攪拌した。その後水洗し、そこへ白土を2重量部加えて90℃で減圧下30分間攪拌して脱色し、それからろ過して白土を除き、得られた油脂を減圧下250℃で1時間脱臭して油脂1を得た。得られた油脂1のトリグリセリド組成、異性体比率、トランス酸含量、パルミチン酸含量、C_(16)?C_(22)の飽和脂肪酸含量は表1にまとめた。
【0044】

【0045】
(製造例2)パーム系油脂のエステル交換油の分別液状部
製造例1の脱色処理後の油脂を70℃に加熱して溶解し、46℃に温調しながら攪拌して結晶を析出させた。12時間晶析した後、加圧圧搾装置に導入して3MPaの圧力で圧搾し、収率70%で液状部を得た。この液状部を250℃で1時間脱臭して油脂2を得た。得られた油脂2のトリグリセリド組成、異性体比率、トランス酸含量、パルミチン酸含量、C_(16)?C_(22)の飽和脂肪酸含量は表1にまとめた。
・・・・・
【0049】
(製造例6)
パームステアリンの代わりに、パームステアリン60重量部とパーム核油40重量部を混合して用いた以外は、製造例1と同様にして油脂6を得た。得られた油脂6のトリグリセリド組成、異性体比率、トランス酸含量、パルミチン酸含量、C_(16)?C_(22)の飽和脂肪酸含量は表1にまとめた。
・・・・・
【0053】
(実施例1?8、比較例1?7) ロールインマーガリンの作製
表2の配合に従って、ロールインマーガリン1?15(RM1?15)を以下のようにして作製した。即ち、油脂1?9の内少なくとも1種と、菜種油、ラード、パームステアリン、パーム中融点部、パーム油、パーム極度硬化油、乳脂からなる群より選ばれる少なくとも1種とを混合し、油脂混合物を得た。該油脂混合物を65?70℃で溶解し、レシチン及び脂肪酸モノグリセリドを加えて溶解し、油相とした。また、水に食塩を溶解し、70℃で20分殺菌して水相とした。油相と水相をそれぞれ70℃に保持したまま、該水相を油相に加えて20分間以上乳化させ、-30?-50℃/分の冷却速度で捏和しながら急冷し、成型装置に導入して厚さ10mmのロールインマーガリン1?15(RM1?15)を得た。得られたロールインマーガリンの作製直後の成型ペネ値、冷蔵で一週間保存した後の5℃及び15℃における保存ペネ値を測定し、結果を表3にまとめた。
【0054】
【表2】





前記14aの記載は、先願を優先権主張の基礎とする日本語特許出願の国際公開第2013/133138号の請求の範囲の[請求項1]?[請求項6]に、前記14bの記載は、当該国際公開の明細書の段落[0008]?[0009]に、前記14cの記載は、当該国際公開の明細書の段落[0046]?[0047]、[0051]、[0055]?[0059]に、それぞれ記載され、国際公開されている。

(2)先願発明
先願は、ロールイン作製時には良好な成型性が得られ、製パン作業時には良好な伸展性が得られ、焼成後には適度な浮きとソフトで口溶けの良い食感が得られる低トランス脂肪酸含量のロールインマーガリンに関し記載するものであり(14b)、そのロールインマーガリンの具体例として、実施例5にはロールインマーガリン5(RM5)として、製造例2により得られる油脂2 54重量部、製造例6により得られる油脂6 5重量部、菜種油 26重量部及び乳脂 15重量部を混合して調合油とし、該調合油81.0重量部、レシチン0.3重量部及び脂肪酸モノグリセリド0.3重量部を加えて溶解して油相とし、また、水1.0重量部に食塩17.4重量部を溶解し、70℃で20分殺菌して水相とし、油相と水相をそれぞれ70℃に保持したまま、該水相を油相に加えて20分間以上乳化させ、-30?-50℃/分の冷却速度で捏和しながら急冷し、成型装置に導入して、ロールインマーガリン5(RM5)を得たこと(14c)が記載されている。

そうすると、該油脂2及び油脂6の製造例(製造例1、2及び6)(14c【0043】、【0045】、【0049】)を踏まえ書き下し、油脂2及び油脂6については【表1】(14c【0044】)に記載の「作製したエステル交換油脂の」「脂肪酸組成」のパルミチン酸含量(P)、C16-C22の飽和脂肪酸含量及びP/S重量比率を踏まえ、さらに、ロールインマーガリン5(RM5)で用いた調合油のトリグリセリド組成[SSS(C_(16)?C_(22)の飽和脂肪酸(S)3残基が結合したトリ飽和脂肪酸グリセリド)含量]を踏まえると、先願明細書等には、次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。

「油脂2[脱酸処理されたパームステアリン(ヨウ素価35):100重量部を90℃に加熱し、そこへ0.2重量部のナトリウムメチラートを加えて減圧下30分間攪拌し、その後水洗し、そこへ白土を2重量部加えて90℃で減圧下30分間攪拌して脱色し、該脱色処理後の油脂を70℃に加熱して溶解し、46℃に温調しながら攪拌して結晶を析出させ、12時間晶析した後、加圧圧搾装置に導入して3MPaの圧力で圧搾し、収率70%で液状部を得、この液状部を250℃で1時間脱臭したもの。このエステル交換油脂の、パルミチン酸含量(P)46.8重量%、C16-C22の飽和脂肪酸含量(S)52.4重量%及びP/S重量比率0.9]54重量部、
油脂6[脱酸処理されたパームステアリン60重量部とパーム核油40重量部の混合物を90℃に加熱し、そこへ0.2重量部のナトリウムメチラートを加えて減圧下30分間攪拌し、その後水洗し、そこへ白土を2重量部加えて90℃で減圧下30分間攪拌して脱色し、それからろ過して白土を除き、得られた油脂を減圧下250℃で1時間脱臭して得られたもの。このエステル交換油脂の、パルミチン酸含量(P)39.9重量%、C16-C22の飽和脂肪酸含量(S)44.2重量%及びP/S重量比率0.9]5重量部、
菜種油 26重量部、
乳脂 15重量部、
を混合し、油脂混合物を得、該油脂混合物81.0重量部を65?70℃で溶解し、レシチン0.3重量部及び脂肪酸モノグリセリド0.3重量部を加えて溶解し、油相とし、また、水1.0重量部に食塩17.4重量部を溶解し、70℃で20分殺菌して水相と、油相と水相をそれぞれ70℃に保持したまま、該水相を油相に加えて20分間以上乳化させ、-30?-50℃/分の冷却速度で捏和しながら急冷し、成型装置に導入して得られたロールインマーガリン5(RM5)であって、用いた調合油のSSS(C_(16)?C_(22)の飽和脂肪酸(S)3残基が結合したトリ飽和脂肪酸グリセリド)含量が5.2重量%のもの」

5 その他の文献について

(1)原査定のなお書き及び前置報告書において引用された引用文献8について

ア 引用文献8の記載
引用文献8には、次の事項が記載されている。

8a「【請求項1】
油脂配合物中の全トリグリセリドを構成する全脂肪酸残基のうちラウリン酸残基の占める割合が9?15質量%、パルミチン酸残基の占める割合が31?37質量%、ベヘン酸残基の占める割合が2.5?5.5質量%、飽和脂肪酸残基の占める割合が53?67質量%である油脂配合物をランダムエステル交換したことを特徴とするエステル交換油脂。
【請求項2】
請求項1記載のエステル交換油脂を油相中に40?80質量%含有するロールイン用油脂組成物。
【請求項3】
含まれる油脂の構成脂肪酸組成においてトランス酸を実質的に含有しない請求項2記載のロールイン用油脂組成物。
【請求項4】
請求項2または3に記載のロールイン用油脂組成物を用いた層状ベーカリー食品。」

8b「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、広い温度許容性を有する(広い温度範囲で、極端に硬くなったり柔らかくなったりせず、ロールイン用油脂に必要なコシ、伸展性を有する)ロールイン用油脂組成物を提供することができるエステル交換油脂を提供することを目的とする。さらに上記のエステル交換油脂を用いたロールイン用油脂組成物を層状ベーカリー食品に使用することにより、良好な歯切れやサクサク感を有する層状ベーカリー食品を提供することを目的とする。
・・・・・
【発明の効果】
【0009】
本発明のエステル交換油脂を用いたロールイン用油脂組成物は、広い温度許容性を有するため、作業性が良好である。
また本発明のエステル交換油脂を用いたロールイン用油脂組成物を使用した層状ベーカリー製品は、良好な歯切れやサクサク感を有することができる。
・・・・・
【0011】
上記油脂配合物中の全トリグリセリドを構成する全脂肪酸残基のうちラウリル酸残基の占める割合が9質量%よりも少ないと得られたエステル交換油脂を用いたロールイン用油脂組成物が硬くなり、広い温度許容性を有することができないので好ましくなく、15質量%よりも多いと得られたエステル交換油脂を用いたロールイン用油脂組成物が柔らかくなり、広い温度許容性を有することができないので好ましくない。」

8c「【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により何等制限されるものではない。
実施例1?5は本発明のエステル交換油脂の実施例であり、比較例1?7はエステル交換油脂の比較例である。
実施例6?10は本発明のロールイン用油脂組成物の実施例であり、比較例8?15はロールイン用油脂組成物の比較例である。尚、実施例6?10及び比較例8?15で使用したバターは、乳脂83質量%で、油相83質量%、水相17質量%であった。
実施例11?15は本発明のロールイン用油脂組成物を用いたデニッシュペストリーの実施例であり、比較例16?23は比較例のロールイン用油脂組成物を用いたデニッシュペストリーの比較例である。
・・・・・
【0044】
〔実施例2〕
パーム油65重量%とパーム核油29重量%とハイエルシン菜種極度硬化油6重量%とからなる油脂配合物を、ナトリウムメチラートを触媒として、ランダムエステル交換反応を行なった後、漂白(白土3%、85℃、9.3×10^(2)Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×10^(2)Pa以下の減圧下)を行ない、本発明の油脂2を得た。得られた油脂2の組成を表1に示した。
・・・・・
【0055】【表1】

・・・・・
【0057】
〔実施例7〕
実施例2で得られた油脂2を71質量部、菜種極度硬化油を7質量部、菜種油を22質量部配合した混合油を溶解し、この混合油60質量部に、バター27質量部と水13質量部とを加え、油相82.4質量%、水相17.6質量%の予備乳化物を製造し、85℃で殺菌した。そして50℃まで予備冷却した。
次に6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化した。その後、サイズが縦420mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形し、本発明の油中水型乳化のロールイン用油脂組成物2を得た。ロールイン用油脂組成物2に含まれる油脂の構成脂肪酸組成においてトランス酸の含有量は1.2質量%であった。」

イ 引用発明8
引用文献8は、広い温度許容性を有する(広い温度範囲で、極端に硬くなったり柔らかくなったりせず、ロールイン用油脂に必要なコシ、伸展性を有する)ロールイン用油脂組成物を提供することができるエステル交換油脂を用いたロールイン用油脂組成物に関し記載するものであり(8b)、そのロールイン用油脂組成物として、実施例7には、実施例2で、パーム油65重量%とパーム核油29重量%とハイエルシン菜種極度硬化油6重量%とからなる油脂配合物を、ナトリウムメチラートを触媒として、ランダムエステル交換反応を行なった後、漂白(白土3%、85℃、9.3×10^(2)Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×10^(2)Pa以下の減圧下)を行って得られた油脂2(全トリグリセリドの脂肪酸組成は、ラウリル酸残基14.7質量%、パルミチン酸残基32.0質量%、ベヘン酸残基2.9質量%及び飽和脂肪酸残基59.8質量%)を71質量部、菜種極度硬化油を7質量部、菜種油を22質量部配合した混合油を溶解し、この混合油60質量部に、バター27質量部と水13質量部とを加え、油相82.4質量%、水相17.6質量%の予備乳化物を製造し、85℃で殺菌し、50℃まで予備冷却し、次に6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化後、サイズが縦420mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形し、油中水型乳化のロールイン用油脂組成物2(含まれる油脂の構成脂肪酸組成においてトランス酸の含有量は1.2質量%)を得たことが記載されている(8c)。

したがって、引用文献8には、次の発明(以下「引用発明8」という。)が記載されていると認められる。
「パーム油65重量%とパーム核油29重量%とハイエルシン菜種極度硬化油6重量%とからなる油脂配合物を、ナトリウムメチラートを触媒として、ランダムエステル交換反応を行なった後、漂白(白土3%、85℃、9.3×10^(2)Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×10^(2)Pa以下の減圧下)を行って得られた油脂2(全トリグリセリドの脂肪酸組成は、ラウリル酸残基14.7質量%、パルミチン酸残基32.0質量%、ベヘン酸残基2.9質量%及び飽和脂肪酸残基59.8質量%)を71質量部、菜種極度硬化油を7質量部、菜種油を22質量部配合した混合油を溶解し、この混合油60質量部に、バター27質量部と水13質量部とを加え、油相82.4質量%、水相17.6質量%の予備乳化物を製造し、85℃で殺菌し、50℃まで予備冷却し、次に6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化後、サイズが縦420mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形して得られた、油中水型乳化のロールイン用油脂組成物2(含まれる油脂の構成脂肪酸組成においてトランス酸の含有量は1.2質量%)」

(2)原査定のなお書き及び前置報告書において引用された引用文献15について

ア 引用文献15の記載
引用文献15には、次の事項が記載されている。

15a「【請求項1】
油相中に油脂A、油脂B及び油脂Cを含有するロールイン用可塑性油脂組成物であって、
前記油脂Aは、該油脂Aを構成する全脂肪酸中に炭素数12?14の飽和脂肪酸を20?60質量%、炭素数16?18の飽和脂肪酸を40?80質量%含有したエステル交換油脂であり、
前記油脂Bは、該油脂Bを構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有し、
前記油脂Cは、液状油であることを特徴とするロールイン用可塑性油脂組成物。」
15b「【背景技術】
【0002】
ロールイン用可塑性油脂組成物は、デニッシュペストリー、クロワッサン、パイ等のサクサクとした食感を有する層状小麦粉膨化食品の製造に使用されるものである。
・・・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
・・・・・
【0005】
従って、本発明は、製造後長時間にわたってサクサクとした食感を維持でき、且つ口溶けの良好な層状小麦粉膨化食品を得ることのできるロールイン用に適した可塑性油脂組成物、及び該ロールイン用可塑性油脂組成物を使用した層状小麦粉膨化食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ロールイン用可塑性油脂組成物の油相中に、特定の脂肪酸組成を有する2種類の油脂と液状植物油とを用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
・・・・・
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、製造後長時間にわたってサクサクとした食感を維持でき、且つ口溶けの良好な層状小麦粉膨化食品を得ることのできるロールイン用可塑性油脂組成物、及び該ロールイン用可塑性油脂組成物を使用した層状小麦粉膨化食品を提供することができる。」

15c「【0049】
更に、本発明のロールイン用可塑性油脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、油相に上記油脂A、油脂B、油脂C以外のその他の油脂を含有させてもよい。その他の油脂の配合量は、油相中、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、最も好ましくは10質量%以下であり、乳脂等が例として挙げられる。」

15d「【実施例】
【0066】
・・・・・
【0067】
〔油脂A-1の調製〕
パーム油(ヨウ素価52)10kgとパーム核油(ヨウ素価18、ラウリン酸含量46質量%)10kgとを混合し、触媒としてリパーゼ(商品名:リパーゼQLM、名糖産業株式会社製)を60g添加し、50?70℃にて約12時間攪拌し、エステル交換反応を進行させた。次いで、ろ過によってリパーゼを除去し、ニッケル触媒を用いて160?200℃にて水素添加を行い、ヨウ素価を2以下に調整した。ヨウ素価が2以下になったのを確認した後、温度を100℃以下に下げ、ニッケル触媒をろ過により除去し、脱色、脱臭を行って油脂A-1を得た。
油脂A-1は、全脂肪酸中に炭素数12?14の飽和脂肪酸を31.4%、炭素数16?18の飽和脂肪酸を64.9%含有し、融点48℃、ヨウ素価は1.1であった。
【0068】
[油脂A-2の調製]
パーム核ステアリン(ヨウ素価7、ラウリン酸含量55質量%)20kgとハードステアリン(パーム油を2回分別した硬質部、ヨウ素価13)30kgを混合し、触媒としてリパーゼ(商品名:リパーゼQLM、名糖産業株式会社製)を150g添加し、50?70℃にて約12時間攪拌し、エステル交換反応を進行させた。次いで、ろ過によってリパーゼを除去し、脱色、脱臭を行って油脂A-2を得た。
油脂A-2は、全脂肪酸中に炭素数12?14の飽和脂肪酸を32.2%、炭素数16?18の飽和脂肪酸を55.3%含有し、融点44℃、ヨウ素価は10.6であった。
・・・・・
【0071】
[油脂B-1及びb-1]
油脂B-1及びb-1として、パーム油(ヨウ素価52)を分別して得られたパーム油分別軟質部を用いた。
用いたパーム油分別軟質部B-1は、全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を36.1質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を4.1質量%、炭素数18のモノ不飽和飽和脂肪酸を42.6質量%含有し、ヨウ素価61、PO2含有量29.6質量%、P2O含有量25.9質量%、P2O/PO2=0.88のものであった。
・・・・・
【0074】
[油脂C-1、C-2、C-3及びC-4]
以下の実施例及び比較例においては油脂C-1として大豆油(商品名:日清大豆サラダ油、日清オイリオグループ株式会社製)・・を用いた。
・・・・・
【0075】
〔実施例1?11及び比較例1?4〕
(ロールイン用マーガリンの調製)
以下の表1に示す配合で各成分を含有した油相及び水相を調製し、これらを混合して予備乳化を行った。得られた予備乳化物を、コンビネーターを用いて急冷可塑化し、各実施例及び比較例のロールイン用マーガリンを製造した。冷却速度は、-30℃/分であった。得られたロールイン用マーガリンを、レスティングチューブを通してシート状に成型した。シート状のロールイン用マーガリンの大きさは、幅220mm、長さ300mm、厚さ10mmであった。
得られた各実施例及び比較例のロールイン用マーガリンの油相中のトランス脂肪酸含有量を測定した。結果を以下の表1に示した。
【0076】



イ 引用発明15
引用文献15は、製造後長時間にわたってサクサクとした食感を維持でき、且つ口溶けの良好な層状小麦粉膨化食品を得ることのできるロールイン用に適した可塑性油脂組成物に関し記載するものであり(15b)、そのロールイン用可塑性油脂組成物として、請求項1には「油相中に油脂A、油脂B及び油脂Cを含有するロールイン用可塑性油脂組成物であって、前記油脂Aは、該油脂Aを構成する全脂肪酸中に炭素数12?14の飽和脂肪酸を20?60質量%、炭素数16?18の飽和脂肪酸を40?80質量%含有したエステル交換油脂であり、前記油脂Bは、該油脂Bを構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有し、前記油脂Cは、液状油であることを特徴とするロールイン用可塑性油脂組成物」(15a)が記載され、その具体例として、実施例6(15d【0075】?【0076】【表1】)には、
油相として、
油脂A-1[パーム油(ヨウ素価52)10kgとパーム核油(ヨウ素価18、ラウリン酸含量46質量%)10kgとを混合し、触媒としてリパーゼ(商品名:リパーゼQLM、名糖産業株式会社製)を60g添加し、50?70℃にて約12時間攪拌し、エステル交換反応を進行させ、次いで、ろ過によってリパーゼを除去し、ニッケル触媒を用いて160?200℃にて水素添加を行い、ヨウ素価を2以下に調整し、ヨウ素価が2以下になったのを確認した後、温度を100℃以下に下げ、ニッケル触媒をろ過により除去し、脱色、脱臭を行って得たもの。全脂肪酸中に炭素数12?14の飽和脂肪酸を31.4%、炭素数16?18の飽和脂肪酸を64.9%含有し、融点48℃、ヨウ素価は1.1(15d【0067】)]26.4質量部(油脂中における比率32%)、
油脂B-1[パーム油分別軟質部B-1:全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を36.1質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を4.1質量%、炭素数18のモノ不飽和飽和脂肪酸を42.6質量%含有し、ヨウ素価61、PO2含有量29.6質量%、P2O含有量25.9質量%、P2O/PO2=0.88のもの(15d【0071】)]29.5質量部(油脂中における比率36%)、
油脂C-1[大豆油(商品名:日清大豆サラダ油、日清オイリオグループ株式会社製)(15d【0074】)]26.3質量部(油脂中における比率32%)、
の各成分を含有した油相を調製したもの、
水相として、水11.5質量部、
その他の成分として、大豆レシチン0.1質量部、乳化剤0.5質量部、バターオイル0.2質量部、無菌ヨーグルト4.5質量部、抗酸化剤0.1未満質量部及び食塩1.0質量部、
これらを混合して予備乳化を行い、得られた予備乳化物を、コンビネーターを用いて急冷可塑化し、ロールイン用マーガリンを製造したことが記載されている。

したがって、引用文献15には、次の発明(以下「引用発明15」という。)が記載されていると認められる。
「油相として、
油脂A-1[パーム油(ヨウ素価52)10kgとパーム核油(ヨウ素価18、ラウリン酸含量46質量%)10kgとを混合し、触媒としてリパーゼ(商品名:リパーゼQLM、名糖産業株式会社製)を60g添加し、50?70℃にて約12時間攪拌し、エステル交換反応を進行させ、次いで、ろ過によってリパーゼを除去し、ニッケル触媒を用いて160?200℃にて水素添加を行い、ヨウ素価を2以下に調整し、ヨウ素価が2以下になったのを確認した後、温度を100℃以下に下げ、ニッケル触媒をろ過により除去し、脱色、脱臭を行って得たもの。全脂肪酸中に炭素数12?14の飽和脂肪酸を31.4%、炭素数16?18の飽和脂肪酸を64.9%含有し、融点48℃、ヨウ素価は1.1(15d【0067】)]26.4質量部(油脂中における比率32%)、
油脂B-1[パーム油分別軟質部B-1:全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を36.1質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を4.1質量%、炭素数18のモノ不飽和飽和脂肪酸を42.6質量%含有し、ヨウ素価61、PO2含有量29.6質量%、P2O含有量25.9質量%、P2O/PO2=0.88のもの(15d【0071】)]29.5質量部(油脂中における比率36%)、
油脂C-1[大豆油(商品名:日清大豆サラダ油、日清オイリオグループ株式会社製)(15d【0074】)]26.3質量部(油脂中における比率32%)、
の各成分を含有した油相を調製したもの、
水相として、水11.5質量部、
その他の成分として、大豆レシチン0.1質量部、乳化剤0.5質量部、バターオイル0.2質量部、無菌ヨーグルト4.5質量部、抗酸化剤0.1未満質量部及び食塩1.0質量部、
これらを混合して予備乳化を行い、得られた予備乳化物を、コンビネーターを用いて急冷可塑化し、製造したロールイン用マーガリン」

(3)原査定のなお書き及び前置報告書において引用された引用文献16とについて

ア 引用文献16の記載
引用文献16には、次の事項が記載されている。

16a「【請求項1】
油相中のトリグリセリド組成が、下記i)?v)の条件又は下記vi)?x)の条件を全て満たすことを特徴とするロールイン用油脂組成物。
i)(PMP+MPM+PPP)が10?60重量%
ii) PPPが3?15重量%
iii) PPM/(PMP+MPM)が0.85以下(重量基準)
iv)(MPM+PPP)/PMPが0.5以上(重量基準)
v) PPP/SSSが0.65以上(重量基準)
vi)(St MSt +MSt M+St St St )が10?60重量%
vii) St St St が3?15重量%
viii) St St M/(St MSt +MSt M)が0.85以下(重量基準)
ix) (MSt M+St St St )/St MSt が0.5以上(重量基準)
x) St St St /SSSが0.65以上(重量基準)
上記i)?x)中、S、M、P及びSt は、それぞれ下記の脂肪酸を示す。
S:炭素数16?18の飽和脂肪酸
M:炭素数16?18のシス型モノエンの不飽和脂肪酸
P:炭素数16の飽和脂肪酸。
St :炭素数18の飽和脂肪酸。」

16b「【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生地調製時の作業性が良好で、且つパイの浮き(パフ性)及び口溶けが非常に良好なロールイン用油脂組成物を提供することができる。
【0012】
以下、本発明のロールイン用油脂組成物について詳細に説明する。
本発明のロールイン用油脂組成物においては、油相中のトリグリセリド組成が、上記i)?v)の条件を全て又は上記vi)?x)の条件を全て満たすことが必要である。
・・・・・
【0014】
本発明のロールイン用油脂組成物は、上記ii)の条件の通り、油相中のPPPの含量が、3?15重量%であり、好ましくは4?13重量%、さらに好ましくは5?12重量%、最も好ましくは6?10重量%である。上記油相中のPPPの含量が3重量%未満では、ロールイン用油脂組成物の耐熱性がなく、ベーカリー製品に用いた場合、ロールイン時にべたつき、生地へ練り込まれ、十分な浮きが得られない。上記含量が15重量%を超えると、作業性(特に伸展性)や口溶けが悪くなる。
・・・・・
【0017】
さらに、本発明のロールイン用油脂組成物は、上記v)の条件の通り、PPP/SSSが、0.65以上であり、好ましくは0.67以上、さらに好ましくは0.69以上、最も好ましくは0.70以上である。PPP/SSSが0.65未満であると、急冷固化の条件下で油相中の結晶が完全なβ型とならず、準安定型のβプライム型を含み、経日的に結晶転移が起こり、経日的にマーガリンの硬さが硬くなる。またベーカリー製品に使用した場合、ロールイン時の伸展性が悪く、良好な層状構造が得られないため、十分な浮きが得られない。」

16c「【実施例】
【0051】
以下に、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何等制限されるものではない。また、下記に示す「%」はすべて重量基準であり、P:パルミチン酸、St :ステアリン酸、O:オレイン酸、S:炭素数16?18の飽和脂肪酸、U:炭素数16?18の不飽和脂肪酸、M:炭素数16?18のシス型モノエンの不飽和脂肪酸をそれぞれ示す。
【0052】
(油脂1の調製)
ヨウ素価56のパームオレインを15℃で乾式分別を行い、ヨウ素価42のパーム中融点部を得た。これを25℃で乾式分別し、高融点画分を除去した後、油脂:アセトン=1:4の重量比で混合し、10℃で溶剤分別を行って得られた結晶部を漂白(白土3%、85℃、9.3×10^(2)Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×10^(2)Pa以下の減圧下)を行い、上記油脂(A1)に該当する油脂1を得た。
得られた油脂1は、SSSを0.8%、PPPを0.7%、POPを70.3%、PPOを2.0%を含有し、OPOは0.1%未満、モノグリセリドについては0.05%未満であった。なお、トランス酸含量は0.7%であった。
【0053】
(油脂2の調製)
ヨウ素価30のパームステアリンとアセトンを1:3の重量比で混合し、これを35℃で溶剤分別し、得られた結晶部とオレイン酸エチル(純度98%:当社調製)を重量比1:4で混合し、触媒として1,3位置選択性のリパーゼ(リパーゼEG:天野製薬(株)製)を(油脂+オレイン酸エチル)の総重量に対し5%添加し、反応温度40℃で72時間反応を行った。反応終了後、分子蒸留(150℃)で脂肪酸エチルを除去した後、シリカカラムでトリグリセリド画分のみ分画した。この分画したトリグリセリド画分とアセトンを1:3の重量比で混合し、30℃で溶剤分別した低融点画分を更に0℃で溶剤分別を行って得られた低融点画分を、漂白(白土3%、85℃、9.3×10^(2)Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込む量5%、4.0×10^(2)Pa以下の減圧下)を行い、上記油脂(A2)に該当する油脂2を得た。
得られた油脂2は、POPを0.4%、PPOを5.3%、OPOを84.1%含有し、SSS、PPPは0.1%未満、モノグリセリドについては0.05%未満であった。なお、トランス酸含量は0.6%であった。
【0054】
(油脂3の調製)
ヨウ素価30のパームステアリンとアセトンを1:3の重量比で混合し、これを35℃で溶剤分別して得られた結晶部を、漂白(白土3%、85℃、9.3×10^(2)Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込む量5%、4.0×10^(2)Pa以下の減圧下)を行い、上記油脂(A3)に該当する油脂3を得た。
得られた油脂3は、SSSを96.3%、PPPを78.1%、POPを2.7%、PPOを1.2%含有し、OPOは0.1%未満、モノグリセリドについては0.05%未満であった。なお、トランス酸含量は0.4%であった。
【0055】
(油脂4の調製)
ヨウ素価30のパームステアリンとアセトンを1:3の重量比で混合し、これを35℃で溶剤分別し、得られた結晶部とオレイン酸エチル(純度98%:当社調製)を重量比1:4で混合し、触媒として1,3位置選択性のリパーゼ(リパーゼEG:天野製薬(株)製)を(油脂+オレイン酸エチル)の総重量に対し5%添加し、反応温度40℃で72時間反応を行った。反応終了後、分子蒸留(150℃)で脂肪酸エチルを除去した後、シリカカラムでトリグリセリド画分のみ分画した。この分画したトリグリセリド画分とアセトンを1:3の重量比で混合し、30℃で溶剤分別した低融点画分を更に0℃で溶剤分別を行って得られた結晶部を、漂白(白土3%、85℃、9.3×10^(2)Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込む量5%、4.0×10^(2)Pa以下の減圧下)を行い、油脂4を得た。
得られた油脂4は、SSSを3.1%、PPPを2.4%、POPを1.0%、PPOを74.2%、OPOを7.4%含有し、モノグリセリドについては0.05%未満であった。なお、トランス酸含量は0.4%であった。
・・・・・
【0057】
〔実施例1?4及び比較例1?6〕
(ロールイン用油脂組成物の調製)
ロールイン用油脂組成物の油相として上記油脂1?油脂4、大豆液状油(トランス酸含量0%)を表1の比率で混合した混合油83.2%に、レシチン0.5%及びグリセリンモノステアリン酸エステル0.5%を溶解混合した油相と、食塩1%及び水14.8%からなる水相とを乳化した予備乳化物を、?30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物をそれぞれ作成した。
得られたロールイン用油脂組成物の油相中の(PMP+MPM+PPP)の含量、PPPの含量、PPM/(PMP+MPM)、(MPM+PPP)/PMP、PPP/SSSの各数値、トランス酸含量、油脂の結晶構造、油脂の結晶型、及び油脂の結晶サイズを測定した。その結果を表2及び表3に示した。
なお、油脂の結晶構造、油脂の結晶型、及び油脂の結晶サイズについては、ロールイン
用油脂組成物の油相を70℃で完全に溶解し、0℃で30分間保持した後、5℃で7日間保持したときの結晶構造、油脂の結晶型、及び油脂の結晶サイズである。
【0058】
実施例1?4及び比較例1?6で得られたロールイン用油脂組成物を用いて、下記配合と製法によりパイをそれぞれ製造し、ロールイン時の作業性(油脂伸展性)、焼成したパイのパフ性(浮き)及び口溶けを下記評価基準により比較評価した。その結果を表4に示した。
【0059】
<パイの配合>
強力粉 70 重量部
薄力粉 30 重量部
食塩 1.3重量部
砂糖 2 重量部
脱脂粉乳 3 重量部
練り込み油脂(マーガリン) 5 重量部
水 54 重量部
ロールイン用油脂組成物 80 重量部
【0060】
<パイの製法>
ロールイン用油脂組成物以外の原料を竪型ミキサーにて低速2分及び中速3分ミキシングした後、5℃の冷蔵庫内で生地を一晩リタードした。この生地にロールイン用油脂組成物をのせ、定法によりロールイン(4つ折4回)、成型(縦100mm×横100mm×厚さ3mm)し、ピケローラーでピケをうった後、焼成した。
【0061】
<ロールイン時の油脂伸展性の評価基準>
◎:コシがあり、非常に良好
○:良好
△:若干油脂切れが起こるか、生地に練込まれる傾向があり、やや不良である
×:油脂切れが起こるか、生地に練込まれ、不良である
【0062】
<パイの口溶けの評価基準>
◎:非常に良好
○:良好
△:若干ワキシー感あり
×:ワキシー感あり
【0063】
<パイのパフ性(浮き)の評価基準>
焼成後のパイの厚みを焼成前の生地厚で除した値について、焼成品10個の平均値を算出し、下記の4段階で評価した。
◎:12以上
○:11以上?12未満
△:10以上?11未満
×:10未満
【0064】



【0068】
上記表2、表3及び表4からわかるように、PPM/(PMP+MPM)が0.85を超える油脂組成物(比較例1、比較例2)は、製造時に安定な微細β結晶が得られず、また得られたマーガリンが経日的に硬くなり、粗大結晶が析出する傾向が認められた。また得られたパイは、口溶けは良好であったが、浮きが悪く、ロールイン時の油脂伸展性も悪かった。
また、油相中の(PMP+MPM+PPP)の含量が10重量%未満である油脂組成物(比較例3)や60重量%を超える油脂組成物(比較例4)は、製造時には安定な微細β結晶が得られるものの、得られたマーガリンはロールイン用油脂組成物としての物性がき
わめて悪かった。
さらに、油相中のPPPの含量が3重量%未満である油脂組成物(比較例5)や15重量%を超える油脂組成物(比較例6)は、製造時に安定な微細β結晶が得られるが、PPPの含量が3重量%未満である油脂組成物は耐熱性が悪く、15重量%を超える油脂組成物は口溶けが悪く、また共にパイの浮きが悪かった。
【0069】
これに対し、油相中の(PMP+MPM+PPP)の含量、PPPの含量、PPM/(PMP+MPM)、(MPM+PPP)/PMP、PPP/SSSの全てが、上記i)?v)の条件の範囲内である実施例1?実施例4の油脂組成物は、製造時に安定な微細β結晶が得られ、また得られたマーガリンも、粗大結晶の析出は見られなかった。また得られたパイは、口溶け、浮きとも良好であり、且つロールイン時の油脂伸展性も良好であった。
・・・・・
【0078】
〔実施例7?8及び比較例9〕
ロールイン用油脂組成物の油相として上記油脂1?油脂3、大豆液状油(トランス酸含量0%)を表9の比率で混合した混合油を用いた以外は実施例1?4と同様に、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物をそれぞれ作成した。
得られたロールイン用油脂組成物の油相中の(PMP+MPM+PPP)の含量、PPPの含量、PPM/(PMP+MPM)、(MPM+PPP)/PMP、PPP/SSSの各数値、トランス酸含量、油脂の結晶構造、油脂の結晶型、及び油脂の結晶サイズを測定した。その結果を表10及び表11に示した。
【0079】
実施例7?8及び比較例9で得られたロールイン用油脂組成物を用いて、実施例1?4と同様の配合と製法によりパイをそれぞれ製造し、実施例1?4と同様にして、ロールイン時の作業性(油脂伸展性)、パイのパフ性(浮き)及び口溶けを比較評価した。その結果を表12に示した。

【0084】
上記表10、表11及び表12からわかるように、(MPM+PPP)/PMPが0.5未満である油脂組成物(比較例9)は、製造時に安定な微細β結晶が得られず、また得られたマーガリンが経日的に硬くなり、粗大結晶が析出する傾向が認められた。また得られたパイは、口溶けは良好であったが、浮きが悪く、ロールイン時の油脂伸展性も悪かった。
【0085】
これに対し、油相中の(PMP+MPM+PPP)の含量、PPPの含量、PPM/(PMP+MPM)、(MPM+PPP)/PMP、PPP/SSSの全てが、上記i)?v)の条件の範囲内である実施例7及び実施例8の油脂組成物は、製造時に安定な微細β結晶が得られ、また得られたマーガリンも、粗大結晶の析出は見られなかった。また得られたパイは、口溶け、浮きとも良好であり、且つロールイン時の油脂伸展性も良好であった。」

(4)前置報告書において引用された引用文献17について

ア 引用文献17の記載
引用文献17には、次の事項が記載されている。

17a「【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳脂肪を3?50重量%、トランス酸含量が20重量%以下である高融点油脂を0.6?18重量%含有し、かつ、トランス酸含量が5.0重量%以下であることを特徴とする乳脂肪含有可塑性油脂組成物。」

17b「【0016】
乳脂肪とはウシ等の乳由来の脂質であり、バターやバターオイルを原材料として用いることができる。」

(5)前置報告書において引用された引用文献18について

ア 引用文献18の記載
引用文献18には、次の事項が記載されている。

18a「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソルビタン脂肪酸エステルを含有する油脂の結晶成長抑制剤であって、該ソルビタン脂肪酸エステルの構成脂肪酸100%中、炭素数10?14の飽和脂肪酸、炭素数16?18の飽和脂肪酸及び炭素数20?22の飽和脂肪酸の含有量がいずれも10%以上であることを特徴とする油脂の結晶成長抑制剤。」

18b「【0026】
油脂組成物の原料として用いられる食用油脂(即ち、本発明の油脂の結晶成長抑制剤が対象とする食用油脂)としては、例えばパーム油、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油、オリーブ油、キャノーラ油、米ぬか油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、大豆油、コーン油、なたね油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、綿実油、および落花生油などの植物油脂、乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物油脂、これらの動植物油脂を分別処理または水素添加処理したもの、さらにこれらの動植物油脂単独または二種類以上を任意に組み合わせてエステル交換処理したものなどが挙げられ、中でもパーム油及び乳脂を含有する混合油脂が好ましい。
・・・・・
【0028】
上記乳脂は、牛乳、生クリーム、バター等の乳由来の油脂であればよく、特に制限はない。さらに、これら乳由来の油脂を加工処理して得られるバターオイル等も本発明で言うところの乳脂に含まれる。」

(6)前置報告書において引用された引用文献19について

ア 引用文献19の記載
引用文献19には、次の事項が記載されている。

19a「【請求項1】パーム油起源の固体脂とラウリン系油脂を含んでなる油脂を非選択的エステル交換して得られた可塑性油脂において、該可塑性油脂中の構成脂肪酸組成が、C16以上の飽和脂肪酸含量35?60重量%、C14以下の飽和脂肪酸含量20?50重量%、不飽和脂肪酸含量10?30重量%であり実質的にトランス酸を含まないことを特徴とする可塑性油脂。
【請求項2】パーム油起源の固体脂とラウリン系油脂を含んでなる油脂100重量部に対して25重量部以下のモノグリセリドを含有させて、非選択的エステル交換して得られる可塑性油脂において、該可塑性油脂中の構成脂肪酸組成が、C16以上の飽和脂肪酸含量35?60重量%、C14以下の飽和脂肪酸含量20?50重量%、不飽和脂肪酸含量10?30重量%であり実質的にトランス酸を含まないことを特徴とする可塑性油脂。
【請求項3】請求項1又は2に記載の可塑性油脂中の構成脂肪酸組成が、パルミチン酸含量30?50重量%、ラウリン酸含量15?30重量%、オレイン酸含量10?25重量%である可塑性油脂。
【請求項4】請求項1?3記載の何れか1種類以上の可塑性油脂を含有してなる可塑性油脂組成物。
【請求項5】請求項4記載の可塑性油脂組成物を用いてなるシート状油脂加工食品。
【請求項6】請求項5記載のシート状油脂加工食品を用いてなる層状小麦粉膨化食品。」

19b「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は以上のような状況に鑑み、実質的にトランス酸を含まず、且つクロワッサン、デニッシュ、パイ等の層状小麦粉膨化食品製造に適した物性を有するシート状マーガリン用の可塑性油脂組成物を提供するものである。
・・・・・
【0023】更に、本発明の可塑性油脂組成物を用いて、油中水型乳化油脂組成物を製造する場合、通常用いられる乳化剤、例えばレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等を用いることが出来、呈味剤としての各種香料、乳関連物質、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、発酵乳、各種塩類、乳脂肪等を添加、併用しても良い。また、上記以外の原材料としては通常用いられる酸化防止剤、着色剤等が全て使用可能である。」

19c「【0027】
【実施例】次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。尚、以下の記載に於いて、「部」、「%」は全て「重量部」、「重量%」を意味する。
【0028】(実施例1)パーム湿式分別高融点部(沃素価17.3)50部、パーム核油軟質部(沃素価27.0)50部を、油脂に対して0.1%のナトリウムメチラートを触媒とし、80℃で30分間非選択的エステル交換反応を行い油脂組成物を得た。構成脂肪酸組成を表1に記す。
【0029】
【表1】

(実施例2)パーム乾式分別高融点部(沃素価38.9)60部、ヤシ油(沃素価12.4)40部を、実施例1記載と同様の方法で非選択的エステル交換反応を行い油脂組成物を得た。構成脂肪酸組成を表1に記す。
【0030】(実施例3)実施例1のパーム湿式分別高融点部45部、パーム核油軟質部50部、グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーMS、理研ビタミン株式会社製)5部を、実施例1記載と同様の方法で非選択的エステル交換反応を行い油脂組成物を得た。構成脂肪酸組成を表1に記す。
【0031】(実施例4)実施例1のパーム湿式分別高融点部60部、パーム核油軟質部40部を、実施例1記載と同様の方法で非選択的エステル交換反応を行い油脂組成物を得た。構成脂肪酸組成を表1に記す。
・・・・・
【0035】(実施例5?8)
<シート状マーガリンの作成>実施例1?4で得られた油脂組成物60部、精製ラード20部、菜種油20部に、グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーMS、理研ビタミン株式会社製)0.2部、レシチン0.2部を添加し、60℃に加熱溶解した。
【0036】次いで調整された油相部80%に、攪拌しながら水20%を添加し、20分間乳化を行った後、コンビネーターで冷却捏和、成型を行ってシート状マーガリン(実施例5?8)を作成した。
【0037】<評価>シート状マーガリンとしての評価を、5人の訓練されたパネラーの官能試験により、キメ、ツヤ、ノビ、コシについて評価を行った結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

・・・・・
【0046】
【発明の効果】以上の如く、本発明の可塑性油脂は実質的にトランス酸を含まず、且つシート状マーガリンとしての優れた物性を有する為、クロワッサン、デニッシュ、パイ等の小麦粉膨化食品の製造において、栄養学的見地からも全く懸念することのない製品を得ることができ非常に有用である。」

イ 引用発明19
引用文献19は、実質的にトランス酸を含まず、且つクロワッサン、デニッシュ、パイ等の層状小麦粉膨化食品製造に適した物性を有するシート状マーガリン用の可塑性油脂組成物に関し記載するものであり(19b)、そのシート状マーガリン用の可塑性油脂組成物として、実施例5には、実施例1の油脂組成物である、パーム湿式分別高融点部(沃素価17.3)50部、パーム核油軟質部(沃素価27.0)50部を、油脂に対して0.1%のナトリウムメチラートを触媒とし、80℃で30分間非選択的エステル交換反応を行って得られた油脂組成物(構成脂肪酸組成は、C 8:0 2.1%、C10:0 1.7%、C12:0 20.5%、C14:0 7.1%、C16:0 42.1%、C18:0 3.9%、t-C18:1 0.0%、c-C18:1 18.7%、C18:2 3.4%、C18:3 0.0%、C20:0 0.3%、c-C20:1 0.1%、C16以上の飽和酸 46.3%、C14以下の飽和酸 31.3%、シス不飽和酸 22.2%、トランス酸 O.O%、沃素価22.1%)60部、精製ラード20部、菜種油20部に、グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーMS、理研ビタミン株式会社製)0.2部、レシチン0.2部を添加し、60℃に加熱溶解し、次いで調整された油相部80%に、攪拌しながら水20%を添加し、20分間乳化を行った後、コンビネーターで冷却捏和、成型を行ってシート状マーガリンを作成したことが記載されている(19c)。ここで、「部」、「%」は、「重量部」、「重量%」を意味するものである(19c)

したがって、引用文献19には、次の発明(以下「引用発明19」という。)が記載されていると認められる。
「パーム湿式分別高融点部(沃素価17.3)50重量部、パーム核油軟質部(沃素価27.0)50重量部を、油脂に対して0.1%のナトリウムメチラートを触媒とし、80℃で30分間非選択的エステル交換反応を行って得られた油脂組成物(構成脂肪酸組成は、C 8:0 2.1重量%、C10:0 1.7重量%、C12:0 20.5重量%、C14:0 7.1重量%、C16:0 42.1重量%、C18:0 3.9重量%、t-C18:1 0.0重量%、c-C18:1 18.7重量%、C18:2 3.4重量%、C18:3 0.0重量%、C20:0 0.3重量%、c-C20:1 0.1重量%、C16以上の飽和酸 46.3重量%、C14以下の飽和酸 31.3重量%、シス不飽和酸 22.2重量%、トランス酸 O.O重量%、沃素価22.1重量%)60重量部、精製ラード20重量部、菜種油20重量部に、グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーMS、理研ビタミン株式会社製)0.2重量部、レシチン0.2重量部を添加し、60℃に加熱溶解し、次いで調整された油相部80重量%に、攪拌しながら水20重量%を添加し、20分間乳化を行った後、コンビネーターで冷却捏和、成型を行って作成されたシート状マーガリン」

(7)前置報告書において引用された引用文献20について

ア 引用文献20の記載
引用文献20には、次の事項が記載されている。

20a「【請求項1】
乳化剤を含有しない可塑性油中水型乳化油脂組成物であって、可塑性油中水型乳化油脂組成物全体中、カゼイン含量0.45重量%以下で、且つ水分含量が20?70重量%であり、さらに乳由来の原料を含有する可塑性油中水型乳化油脂組成物。」

20b「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、水分含量が高く、乳化が不安定な状況においても、乳化剤を用いなくても乳化が安定で、なおかつ乳の風味の豊かな油中水型可塑性油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、乳タンパク質の一種であるカゼインが激しく水分離する原因であることを見出し、加えて乳風味を付与する呈味材として脱脂粉乳の変わりにカゼイン量の少ない乳原料すなわち、膜分離などを用いてカゼイン量を相対的に低減させた脱脂乳、バターミルク、乳清、乳脂などを用い、全体のカゼインの量を水分離に影響しない程度の量に制限すれば、作製可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
・・・・・
【発明の効果】
【0010】
本発明に従えば、水分含量が高く、乳化が不安定になりやすい状況においても、乳化剤を用いなくても乳化が安定で、なおかつ乳の風味の豊かな油中水型可塑性油脂組成物を提供することができる。
・・・・・
【0016】
本発明において、乳由来の原料の含有量に特に制限は無い・・。また、乳由来の原料として乳脂を用いる場合は、可塑性油中水型乳化組成物全体中5?30重量%が好ましい。5重量%より少ないと、良好な乳風味が得られない場合があり、また本発明の効果を享受できない場合がある。30重量%より多いと、コストが高くなり現実的でない場合がある。」

20c「【実施例】
【0027】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0028】
<乳化液の安定性評価>
油相部に水相部を徐々に添加しながら十分に攪拌混合した油中水型乳化液をスパーテルで掬い、60℃に温調した湯の中へ落としたときの液滴の分散状態を目視で評価した。そ
の際の評価基準は、以下の通りであった。○:油滴がしっかりと水滴をホールドし、分散しない、△:最初はホールドしているが攪拌すると分散する、×:落とした直後に分散する。
【0029】
<乳風味評価>
実施例および比較例で得られた可塑性油中水型乳化油脂組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日又は1ヶ月保管した後、熟練した5人のパネラーに食べてもらい、以下の評価基準で点数化し、その平均点を評価点とした。5点:乳風味を強く感じる、4点:乳風味をやや強く感じる、3点:乳風味をやや弱く感じる、2点:乳風味を弱く感じる、1点:乳風味をほとんど感じない。
【0030】
<キメ評価>
実施例および比較例で得られた可塑性油中水型乳化油脂組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日又は1ヶ月保管した後、20℃に温調し、アルミホイルの上に製菓ナイフ(パレットナイフ)で延ばし、ナッペ表面の状態を目視で評価した。その際の評価基準は、以下の通りであった。5点:滑らかでキメ細かい、4点:ほぼ滑らかでキメが細かい、3点:若干のムラがある、2点:部分的にムラが目立ちキメ粗い、1点:全体にムラがありキメ非常に粗い。
【0031】
<水分離評価>
実施例および比較例で得られた可塑性油中水型乳化油脂組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日又は1ヶ月保管した後、20℃に温調し、アルミホイルの上に製菓ナイフ(パレットナイフ)で延ばし、水分離の有無を目視で評価した。その際の評価基準は、以下の通りであった。◎:水分離なし、○:若干表面が光るが水滴は見られない、△:水滴が所々に見られる、×:水滴が前面に見られる。
【0032】
(製造例1) エステル交換油1の作製
パームステアリン:70重量%及びパーム核オレイン:30重量%を混合し、90℃、真空下で脱水を行った。ナトリウムメチラート:0.30重量%を加え、90℃、窒素気流下で30分間ランダムエステル交換反応を行い、水を加えて反応停止後、水洗した。次に、活性白土:3.0重量%を加え、減圧下で攪拌して20分後に全量濾過してエステル交換油脂1を得た。
【0033】
(製造例2) エステル交換油2の作製
パームステアリン:70重量%及びパーム核オレイン:30重量%の代わりにパーム油:75重量%及びパーム核オレイン:25重量%を用いた以外は、製造例1と同様にしてエステル交換油脂2を得た。
【0034】
(実施例1)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物1の油相部80.00重量%に対して、40℃に加温した水19.15重量%に脱脂粉乳0.85重量%(カゼイン含量0.24重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し、その後約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、急冷捏和することで可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離もなく、通常のマーガリンと同等のツヤとキメであり、やや弱い乳風味を示した。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0035】

【0037】
(実施例2)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物1の油相部60.00重量%に対して、水39.15重量%に脱脂粉乳0.85重量%(カゼイン含量0.24重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、急冷捏和することで可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離もなく、通常のマーガリンと同等のツヤとキメと共にやや弱い乳風味を示した。それらの評価結果は、表2にまとめた。」

イ 引用発明20
引用文献20は、水分含量が高く、乳化が不安定な状況においても、乳化剤を用いなくても乳化が安定で、なおかつ乳の風味の豊かな油中水型可塑性油脂組成物に関し記載するものであり(20b)、その油中水型可塑性油脂組成物として、実施例1には、表1の全配合である、パーム軟質油(融点:18.0℃)40重量部、エステル交換油1(融点:41.0℃)15重量部及びエステル交換油2(融点:35.0℃)45重量部を混合して得た油脂組成物1の油相部80.00重量%に対して、40℃に加温した水19.15重量%に脱脂粉乳0.85重量%(カゼイン含量0.24重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し、その後約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にし、その後、急冷捏和することで可塑性油中水型乳化組成物を作製したことが記載されている(20c)。
ここで、上記「エステル交換油1(融点:41.0℃)」は、「【0032】(製造例1)エステル交換油1の作製」(20c)に記載されている、パームステアリン:70重量%及びパーム核オレイン:30重量%を混合し、90℃、真空下で脱水を行い、ナトリウムメチラート:0.30重量%を加え、90℃、窒素気流下で30分間ランダムエステル交換反応を行い、水を加えて反応停止後、水洗し、活性白土:3.0重量%を加え、減圧下で攪拌して20分後に全量濾過して得られたものである。
また、上記「エステル交換油2(融点:35.0℃)」については、「【0033】(製造例2)エステル交換油2の作製」(2c)に「パームステアリン:70重量%及びパーム核オレイン:30重量%の代わりにパーム油:75重量%及びパーム核オレイン:25重量%を用いた以外は、製造例1と同様にしてエステル交換油脂2を得た」と記載されていることから、「【0032】(製造例1)エステル交換油1の作製」(20c)の記載を踏まえると、パーム油:75重量%及びパーム核オレイン:25重量%を混合し、90℃、真空下で脱水を行い、ナトリウムメチラート:0.30重量%を加え、90℃、窒素気流下で30分間ランダムエステル交換反応を行い、水を加えて反応停止後、水洗し、活性白土:3.0重量%を加え、減圧下で攪拌して20分後に全量濾過して得られたものといえる。

したがって、引用文献20には、次の発明(以下「引用発明20」という。)が記載されていると認められる。
「パーム軟質油(融点:18.0℃)40重量部、エステル交換油1(融点:41.0℃)[すなわち、パームステアリン:70重量%及びパーム核オレイン:30重量%を混合し、90℃、真空下で脱水を行い、ナトリウムメチラート:0.30重量%を加え、90℃、窒素気流下で30分間ランダムエステル交換反応を行い、水を加えて反応停止後、水洗し、活性白土:3.0重量%を加え、減圧下で攪拌して20分後に全量濾過して得られたもの]15重量部及びエステル交換油2(融点:35.0℃)[すなわち、パーム油:75重量%及びパーム核オレイン:25重量%を混合し、90℃、真空下で脱水を行い、ナトリウムメチラート:0.30重量%を加え、90℃、窒素気流下で30分間ランダムエステル交換反応を行い、水を加えて反応停止後、水洗し、活性白土:3.0重量%を加え、減圧下で攪拌して20分後に全量濾過して得られたもの]45重量部を混合して得た油脂組成物1の油相部80.00重量%に対して、40℃に加温した水19.15重量%に脱脂粉乳0.85重量%(カゼイン含量0.24重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し、その後約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にし、その後、急冷捏和して作製された可塑性油中水型乳化組成物」

第6 当審の判断

I 特許法第29条第2項について

1 引用文献1を主引用例とする場合

(1)本願発明1について

ア 引用発明1との対比

(ア)引用発明1の「気泡性水中油型乳化物」は、油相である「パーム油・・と・・パームステアリン・・と・・パーム核オレイン・・を混合した油脂に・・ランダムエステル交換させ、得られた油脂・・(エステル交換油A-1)・・、硬化パーム核油・・、パーム中融点部・・、バターオイル・・、レシチン・・を添加混合融解し」たものを含有するもので、この油相は全て油脂から構成されており、油脂を含む組成物といえる。
そうすると、本願発明1の「油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物」と、引用発明1の「気泡性水中油型乳化物」とは、油脂を含む組成物である点で共通する。

(イ)引用発明1の「パーム油50重量部とパーム油を分別して得たパームステアリン10重量部とパーム核油を分別して得たパーム核オレイン40重量部を混合した油脂に金属触媒(ナトリウムメチラート)0.3重量部を加え、真空下80℃で60分ランダムエステル交換させ、得られた油脂を定法に従い精製を行って得られたエステル交換油A-1 7重量部、硬化パーム核油(融点34℃)10重量部、パーム中融点部11重量部、バターオイル7重量部、レシチン0.2重量部を添加混合融解して油相」について、この油相は全て油脂から構成されており、合計35.2重量部(=7重量部+10重量部+11重量部+7重量部+0.2重量部)である。
引用発明1の「バターオイル7重量部」は、当該油脂中に存在するものであり、当該油脂中に19.9重量%(=7重量部/35.2重量部×100)含有しているといえる。
そうすると、本願発明1の「可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、以下の油脂Aを9?55質量%」「含有し」「油脂A:バターオイル及び/又はバターオイルオレイン」と、引用発明1の「バターオイル7重量部」とは、油脂を含む組成物を構成する油脂中に、以下の油脂Aを9?55質量%含有し、油脂A:バターオイル及び/又はバターオイルオレインである点で、共通する。

(ウ)引用発明1の「パーム油50重量部とパーム油を分別して得たパームステアリン10重量部とパーム核油を分別して得たパーム核オレイン40重量部を混合した油脂に金属触媒(ナトリウムメチラート)0.3重量部を加え、真空下80℃で60分ランダムエステル交換させ、得られた油脂を定法に従い精製を行って得られたエステル交換油A-1 7重量部」は、前記(イ)で述べた油脂中に存在するエステル交換油であり、当該油脂中に19.9重量%(=7重量部/35.2重量部×100)含有しているといえる。
この「エステル交換油A-1」について、全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸、パルミチン酸及びステアリン酸をそれぞれどのくらい含有しているのか明らかでない。
そうすると、本願発明1の「前記可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、」「以下の油脂Bを9?81質量%含有し」「油脂B:全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を25?55質量%、パルミチン酸を20?55質量%、及びステアリン酸を2?10質量%含有するエステル交換油」と、引用発明1の「パーム油50重量部とパーム油を分別して得たパームステアリン10重量部とパーム核油を分別して得たパーム核オレイン40重量部を混合した油脂に金属触媒(ナトリウムメチラート)0.3重量部を加え、真空下80℃で60分ランダムエステル交換させ、得られた油脂を定法に従い精製を行って得られたエステル交換油A-1 7重量部」とは、油脂を含む組成物を構成する油脂中に、エステル交換油を9?81質量%含有する点で、共通する。

(エ)引用発明1の起泡性水中油型乳化物が、本願発明1のただし書きで除外されている「構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物」に該当しないかどうかを検討すると、引用発明1の起泡性水中油型乳化物は、ホイップドクリーム(1b【0002】)であり、デニッシュペストリー、クロワッサン、パイ等のサクサクとした食感を有する層状小麦粉膨化食品の製造に使用されるものであるロールイン用可塑性油脂組成物(15b【0002】)とは、異なるものである。
それ故、引用発明1の起泡性水中油型乳化物は、本願発明1のただし書きで除外されている「ロールイン用可塑性油脂組成物」に該当しないものであるから、本願発明1の「(ただし、構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物、を除く)」ものに相当する。

そうすると、本願発明1と引用発明1とは、
「油脂を含む組成物であって、該油脂を含む組成物を構成する油脂中に、以下の油脂Aを9?55質量%、及びエステル交換油を9?81質量%含有する、油脂を含む組成物
(ただし、
構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、
を含有するロールイン用可塑性油脂組成物、
を除く)。
油脂A:バターオイル及び/又はバターオイルオレイン」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1:油脂を含む組成物が、本願発明1では、油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物であるのに対し、引用発明1では、気泡性水中油型乳化物である点

相違点1-2:油脂を含む組成物を構成する油脂中のエステル交換油が、本願発明1では、「以下の油脂B」「油脂B:全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を25?55質量%、パルミチン酸を20?55質量%、及びステアリン酸を2?10質量%含有する」ものであるのに対し、引用発明1では、全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸、パルミチン酸、及びステアリン酸をそれぞれ何質量%含有するものか明らかでない点

相違点1-3:油脂を含む組成物を構成する油脂について、本願発明1では、該油脂中の炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるトリ飽和トリグリセリド(H3)の含有量が2.5?10質量%であり、前記H3中に占めるトリパルミチン(P3)の割合(質量比、P3/H3)が0.5以上であるのに対し、引用発明1では、該H3の含有量及び質量比P3/H3が明らかでない点

イ 判断
相違点1-1について、引用発明1の気泡性水中油型乳化剤は、連続相が水である水中油型乳化剤であり、連続相が油脂である油中水型乳化剤又は水相を有さない油脂組成物とは、物理的状態が全く異なるものである。また、引用発明1の油相は混合融解されたものであり、可塑性でもない。
引用発明1において、気泡性水中油型乳化剤を、物理的状態が全く異なる油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物に代える動機付けはない。
また、引用文献7は、マーガリン/ショートニング糖の可塑性油脂成分に適した油脂組成物に関するものであり(7b)、可塑性油脂組成物とは物理的状態が全く異なる引用発明1の気泡性水中油型乳化剤に、引用文献7に記載の技術的事項を適用する動機付けもない。
そして、本願発明1は、相違点1-1に記載の油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物において、相違点1-2及び相違点1-3の技術的特徴を備えることにより、本願明細書の段落【0010】に記載の「結晶性が良好で口どけが良く、パン・菓子等のベーカリー食品に使用した場合、ジューシー感が得られるコンパウンドタイプの可塑性油脂組成物を提供」できるという、当業者が予測し得ない効果を奏するものである。

したがって、相違点1-2及び相違点1-3を検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献7に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本願発明2?5について
本願発明2?4は、本願発明1をさらに限定した発明であり、また、本願発明5は、本願発明1の製造方法であるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明及び引用文献7に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 引用文献2を主引用例とする場合

(1)本願発明1について

ア 引用発明2との対比

(ア)引用発明2の「起泡性クリーム」は、油相である「パーム油・・と・・パームステアリン・・と・・パーム核オレイン・・を混合した油脂に・・ランダムエステル交換させ、得られた油脂・・エステル交換油A-1 ・・、パーム核油・・、パーム核硬化油・・、バターオイル・・レシチン・・、グリセリン脂肪酸エステル・・を添加混合融解し」たものを含有するもので、この油相は全て油脂から構成されており、油脂を含む組成物といえる。
そうすると、本願発明1の「油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物」と、引用発明2の「起泡性クリーム」とは、油脂を含む組成物である点で共通する。

(イ)引用発明2の「パーム油50重量部とパーム油を分別して得たパームステアリン10重量部とパーム核油を分別して得たパーム核オレイン40重量部を混合した油脂に金属触媒(ナトリウムメチラート)0.3重量部を加え、真空下80℃で60分ランダムエステル交換させ、得られた油脂を定法に従い精製を行って得られたエステル交換油A-1 5重量部、パーム核油15重量部、パーム核硬化油(融点38℃)5重量部、バターオイル10重量部にレシチン0.25重量部、グリセリン脂肪酸エステル0.05重量部を添加混合融解し油相」としたものについて、この油相は全て油脂から構成されており、合計35.3重量部[=エステル交換油A-1 5重量部+パーム核油15重量部+パーム核硬化油(融点38℃)5重量部+バターオイル10重量部+レシチン0.25重量部+グリセリン脂肪酸エステル0.05重量部]である。
引用発明2の「バターオイル10重量部」は、当該油脂中に存在するものであり、当該油脂中に28.3重量%(=10重量部/35.3重量部×100)含有しているといえる。
そうすると、本願発明1の「可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、以下の油脂Aを9?55質量%」「含有し」「油脂A:バターオイル及び/又はバターオイルオレイン」と、引用発明2の「バターオイル10重量部」とは、油脂を含む組成物を構成する油脂中に、以下の油脂Aを9?55質量%含有し、油脂A:バターオイル及び/又はバターオイルオレインである点で、共通する。

(ウ)引用発明2の「パーム油50重量部とパーム油を分別して得たパームステアリン10重量部とパーム核油を分別して得たパーム核オレイン40重量部を混合した油脂に金属触媒(ナトリウムメチラート)0.3重量部を加え、真空下80℃で60分ランダムエステル交換させ、得られた油脂を定法に従い精製を行って得られたエステル交換油A-1 5重量部」は、前記(イ)で述べた油脂中に存在するエステル交換油であり、当該油脂中に14.2重量%(=5重量部/35.3重量部×100)含有しているといえる。
この「エステル交換油A-1」について、全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸、パルミチン酸及びステアリン酸をそれぞれどのくらい含有しているのか明らかでない。
そうすると、本願発明1の「前記可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、」「以下の油脂Bを9?81質量%含有し」「油脂B:全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を25?55質量%、パルミチン酸を20?55質量%、及びステアリン酸を2?10質量%含有するエステル交換油」と、引用発明2の「パーム油50重量部とパーム油を分別して得たパームステアリン10重量部とパーム核油を分別して得たパーム核オレイン40重量部を混合した油脂に金属触媒(ナトリウムメチラート)0.3重量部を加え、真空下80℃で60分ランダムエステル交換させ、得られた油脂を定法に従い精製を行って得られたエステル交換油A-1 5重量部」とは、油脂を含む組成物を構成する油脂中に、エステル交換油を9?81質量%含有する点で、共通する。

(エ)引用発明2の起泡性クリームが、本願発明1のただし書きで除外されている「構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物」に該当しないかどうかを検討すると、引用発明2の起泡性クリームは、パン類や洋菓子類のデコレーションなどに使用する起泡性クリーム(2b[0001])であり、デニッシュペストリー、クロワッサン、パイ等のサクサクとした食感を有する層状小麦粉膨化食品の製造に使用されるものであるロールイン用可塑性油脂組成物(15b【0002】)とは、異なるものである。
それ故、引用発明2の起泡性クリームは、本願発明1のただし書きで除外されている「ロールイン用可塑性油脂組成物」に該当しないものであるから、本願発明1の「(ただし、構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物、を除く)」ものに相当する。

そうすると、本願発明1と引用発明2とは、
「油脂を含む組成物であって、該油脂を含む組成物を構成する油脂中に、以下の油脂Aを9?55質量%、及びエステル交換油を9?81質量%含有する、油脂を含む組成物、
(ただし、
構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、
を含有するロールイン用可塑性油脂組成物、
を除く)。
油脂A:バターオイル及び/又はバターオイルオレイン」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2-1:油脂を含む組成物が、本願発明1では、油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物であるのに対し、引用発明2では、起泡性クリームである点

相違点2-2:油脂を含む組成物を構成する油脂中のエステル交換油が、本願発明1では、「以下の油脂B」「油脂B:全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を25?55質量%、パルミチン酸を20?55質量%、及びステアリン酸を2?10質量%含有する」ものであるのに対し、引用発明2では、全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸、パルミチン酸、及びステアリン酸をそれぞれ何質量%含有するものか明らかでない点

相違点2-3:油脂を含む組成物を構成する油脂について、本願発明1では、該油脂中の炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるトリ飽和トリグリセリド(H3)の含有量が2.5?10質量%であり、前記H3中に占めるトリパルミチン(P3)の割合(質量比、P3/H3)が0.5以上であるのに対し、引用発明2では、該H3の含有量及び質量比P3/H3が明らかでない点

イ 判断
相違点2-1について、引用発明2における起泡性クリーム用油脂組成物は、油相[合計35.3重量部(=エステル交換油A-1 5重量部+パーム核油15重量部+パーム核硬化油(融点38℃)5重量部+バターオイル10重量部+レシチン0.25重量部+グリセリン脂肪酸エステル0.05重量部]と水相[合計64.7重量部(=水59.79重量部+脱脂粉乳4.5重量部+ショ糖脂肪酸エステル(HLB5)0.22重量部+重曹0.02重量部+メタリン酸ナトリウム0.15重量部+キサンタンガム0.01重量部+グアガム0.01重量部]を予備乳化し滅菌後均質化したものであり、気泡性水中油型乳化物といえ、連続相が水である水中油型乳化剤であり、連続相が油脂である油中水型乳化剤又は水相を有さない油脂組成物とは、物理的状態が全く異なるものである。
それ故、引用発明2の起泡性クリームを、物理的状態が全く異なる油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物に代える動機付けはない。
また、引用文献7は、マーガリン/ショートニング糖の可塑性油脂成分に適した油脂組成物に関するものであり(7b)、可塑性油脂組成物とは物理的状態が全く異なる引用発明2の気泡性クリームに、引用文献7に記載の技術的事項を適用する動機付けもない。
そして、本願発明1は、相違点2-1に記載の油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物において、相違点2-2及び相違点2-3の技術的特徴を備えることにより、本願明細書の段落【0010】に記載の「結晶性が良好で口どけが良く、パン・菓子等のベーカリー食品に使用した場合、ジューシー感が得られるコンパウンドタイプの可塑性油脂組成物を提供」できるという、当業者が予測し得ない効果を奏するものである。

したがって、相違点2-2及び相違点2-3を検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献2に記載された発明及び引用文献7に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本願発明2?5について
本願発明2?4は、本願発明1をさらに限定した発明であり、また、本願発明5は、本願発明1の製造方法であるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献2に記載された発明及び引用文献7に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3 引用文献8を主引用例とする場合

(1)本願発明1について

ア 引用発明8との対比

(ア)引用発明8の「油中水型乳化のロールイン用油脂組成物」は、本願発明1の「油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物」に相当する。

(イ)引用発明8の「バター27質量部」について、バターには乳脂が約80%程度含まれるとの技術常識を踏まえると、バターオイルは21.6質量%である。
そうすると、引用発明8の「バター27質量部」は、本願発明1の「前記可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、油脂Aを9?55質量%」「油脂A:バターオイル及び/又はバターオイルオレイン」に相当する。

(ウ)引用発明8の「・・油脂配合物・・ランダムエステル交換反応を行なった・・得られた油脂2(全トリグリセリドの脂肪酸組成は、ラウリル酸残基14.7質量%、パルミチン酸残基32.0質量%、ベヘン酸残基2.9質量%及び飽和脂肪酸残基59.8質量%)」は、エステル交換油で、全構成脂肪酸中に、ラウリル酸(炭素数12の脂肪酸)残基14.7質量%及びパルミチン酸残基32.0質量%含有し、ステアリン酸を含有していないものである。
そうすると、本願発明1の「油脂B:全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を25?55質量%、パルミチン酸を20?55質量%、及びステアリン酸を2?10質量%含有するエステル交換油」と、引用発明8の「油脂2(全トリグリセリドの脂肪酸組成は、ラウリル酸残基14.7質量%、パルミチン酸残基32.0質量%、ベヘン酸残基2.9質量%及び飽和脂肪酸残基59.8質量%)」とは、「油脂B:全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を特定質量%、パルミチン酸を20?55質量%含有するエステル交換油」である点で、共通する。

(エ)引用発明8の「油脂2(・・)を71質量部・・配合した混合油を溶解し、この混合油60質量部に・・加え、油相」は、油中水型乳化のロールイン用油脂組成物を構成する油脂中に、「油脂2」を42.6質量部(=71質量部×0.6)含有している。
そうすると、本願発明1の「前記可塑性油脂組成物を構成する油脂中に」「以下の油脂Bを9?81質量%含有し」と、引用発明8の「油脂2(・・)を71質量部・・配合した混合油を溶解し、この混合油60質量部に・・加え、油相」とは、前記(ウ)で述べたことを踏まえると、「前記可塑性油脂組成物を構成する油脂中に」「以下の油脂Bを9?81質量%含有」する点で、共通する。

(オ)引用発明8の油中水型乳化のロールイン用油脂組成物2が、本願発明1のただし書きで除外されている「構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物」に該当しないかどうかを検討する。
引用発明8の油中水型乳化のロールイン用油脂組成物2は、ロールイン用可塑性組成物といえ、液状油として菜種油を含有しているものであるが、引用発明8の油中水型乳化のロールイン用油脂組成物2に含有される油脂を構成する全脂肪酸中の炭素数16の飽和脂肪酸の含有質量%、炭素数18の飽和脂肪酸の含有質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸の含有質量は明らかでない。
それ故、引用発明8の油中水型乳化のロールイン用油脂組成物2が、本願発明1から除かれている可塑性油脂組成物に該当するかどうかは明らかでない。

したがって、本願発明1と引用発明8とは、
「油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物であって、
前記可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、以下の油脂Aを9?55質量%、及び以下の油脂Bを9?81質量%含有する、可塑性油脂組成物
油脂A:バターオイル及び/又はバターオイルオレイン
油脂B:全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を特定質量%、パルミチン酸を20?55質量%含有するエステル交換油」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点8-1:油脂Bの全構成脂肪酸中に、本願発明1では、炭素数14以下の脂肪酸を25?55質量%含有し、ステアリン酸を2?10質量%含有するものであるのに対し、引用発明1では、炭素数14以下の脂肪酸であるラウリル酸を14.7質量%含有し、ステアリン酸を含有していないものである点

相違点8-2:本願発明1では、可塑性油脂組成物を構成する油脂中の炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるトリ飽和トリグリセリド(H3)の含有量が2.5?10質量%であり、前記H3中に占めるトリパルミチン(P3)の割合(質量比、P3/H3)P3/H3)が0.5以上であるのに対し、引用発明8では、当該H3の含有量、及び、当該H3中に占めるP3/H3は明らかでない点

相違点8-3:可塑性油脂組成物について、本願発明1では、「(ただし、構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物、を除く)」と特定されているのに対し、引用発明8が、当該除外される可塑性油脂組成物に該当しないかどうか明らかでない点

イ 判断
相違点8-1における、油脂Bの全構成脂肪酸中の炭素数14以下の脂肪酸であるラウリル酸の含有量について、引用文献8には「【0011】上記油脂配合物中の全トリグリセリドを構成する全脂肪酸残基のうちラウリル酸残基の占める割合が・・15質量%よりも多いと得られたエステル交換油脂を用いたロールイン用油脂組成物が柔らかくなり、広い温度許容性を有することができないので好ましくない」(8b)と記載されていることから、該炭素数14以下の脂肪酸であるラウリル酸の含有量を15質量%より多く含有させることに阻害要因があるといえる。
それ故、引用発明8において、炭素数14以下の脂肪酸であるラウリル酸の含有量を、14.7質量%に代えて、15質量%より多い含有量にしようという動機付けはなく、ましてや、15質量%よりはるかに多い含有量である25?55質量%とする合理的な理由もない。

また、引用文献7には、マーガリン/ショートニング等の可塑性油脂製品に適した油脂組成物として(7b)、P2O含量が25?45質量%、PPOとPOPの質量比(PPO/POP)が0.20より大きく0.65未満、SSS含量が2?12質量%であり、かつ、リノール酸とリノレン酸との合計含量が12質量%未満である油脂組成物(ただし、PPO:1,2パルミトイル-3オレイルグリセロール及び/又は1オレイル-2,3パルミトイルグリセロール、POP:1,3パルミトイル-2オレイルグリセロール、P2O:PPOとPOPとの合計、SSS:炭素数16以上の飽和脂肪酸からなるトリグリセリドを表す)(7a 請求項1)、及び、SSS(炭素数16以上の飽和脂肪酸からなるトリグリセリド)含量は2?12質量%である場合、口溶けを損なわずに耐熱性を高めることができること(7b)が記載され、また、引用文献16には、生地調製時の作業性が良好で且つパイの浮き(パフ性)及び口溶けが良好なロールイン用油脂組成物に関し、該油脂組成物を構成する油脂中の炭素数16?18の飽和脂肪酸のみからなるトリグリセリド(SSS)中に占めるトリパルミチン(PPP)の割合(PPP/SSS)が0.65以上であることが必要である(16b)ことが文言上一応記載されているものの(16b)、これらは、相違点8-2に関連する技術的事項であって、相違点8-1に関連する技術的事項ではないから、相違点8-1については、依然として、引用発明8において、炭素数14以下の脂肪酸であるラウリル酸の含有量を、14.7質量%に代えて、15質量%より多い含有量にすること、ましてや、15質量%よりはるかに多い含有量である25?55質量%とする合理的な理由があるとはいえない。

それ故、引用発明8において、炭素数14以下の脂肪酸であるラウリル酸の含有量を、14.7質量%に代えて、15質量%より多い含有量にしようという動機付けはなく、ましてや、15質量%よりはるかに多い含有量である25?55質量%とする合理的な理由もない。

そして、本願発明1は、上記一致点の可塑性油脂組成物において、相違点8-1、相違点8-2及び相違点8-3の技術的特徴を備えることにより、本願明細書の段落【0010】に記載の「結晶性が良好で口どけが良く、パン・菓子等のベーカリー食品に使用した場合、ジューシー感が得られるコンパウンドタイプの可塑性油脂組成物を提供」できるという、当業者が予測し得ない効果を奏するものである。

したがって、相違点8-1の油脂Bの全構成脂肪酸中の、炭素数14以下の脂肪酸であるラウリル酸の含有量以外の技術的特徴である、ステアリン酸の含有量、相違点8-2及び相違点8-3を検討するまでもなく、また、引用文献7及び16の記載を踏まえるまでもなく、本願発明1は、引用文献8に記載された発明並びに引用文献7及び16に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本願発明2?5について
本願発明2?4は、本願発明1をさらに限定した発明であり、また、本願発明5は、本願発明1の製造方法であるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献8に記載された発明並びに引用文献7及び16に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

4 引用文献15を主引用例とする場合

(1)本願発明1について

ア 引用発明15との対比

(ア)引用発明15の「ロールイン用マーガリン」は、油相(全て油脂から構成されている)として合計82.2質量部(=油脂A-1:26.4質量部+油脂B-1:29.5質量部+油脂C-1:26.3質量部)、水相11.5質量部、その他の成分として合計6.3質量部(=大豆レシチン0.1質量部+乳化剤0.5質量部+バターオイル0.2質量部+無菌ヨーグルト4.5質量部+(抗酸化剤0.1未満質量部)+食塩1.0質量部)からなるものであり、これらを混合して乳化・可塑化して製造したものであり、油中水型乳化物である可塑性油脂組成物といえる。
そうすると、引用発明15の「ロールイン用マーガリン」は、本願発明1の「油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物」に相当する。

(イ)引用発明15は、その他の成分として「バターオイル0.2質量部」が含まれており、これは油脂である。
引用発明15のロールイン用マーガリンを構成する油脂としては、引用発明15の油相(全て油脂)と少なくともバターオイルは含まれるものといえる。
それ故、引用発明15のロールイン用マーガリンを構成する油脂中におけるバターオイル0.2質量部の質量%は0.24質量%[=0.2質量部/(油相の合計82.2質量+バターオイル0.2質量部)×100]といえる。
そうすると、本願発明1の「可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、以下の油脂Aを9?55質量%」「含有し、」「油脂A:バターオイル及び/又はバターオイルオレイン」と、引用発明15の「バターオイル0.2質量部」とは、可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、以下の油脂Aを特定質量%含有し、油脂A:バターオイル及び/又はバターオイルオレインである点で、共通する。

(ウ)引用発明15のロールイン用マーガリンを構成する油脂中に含有されるエステル交換油としては、油脂A-1[パーム油・・とパーム核油・・とを混合し、触媒としてリパーゼ・・を・・添加し・・エステル交換反応を進行させ・・て得たもの。全脂肪酸中に炭素数12?14の飽和脂肪酸を31.4%、炭素数16?18の飽和脂肪酸を64.9%含有・・]26.4質量部(油脂中における比率32%)]が該当するといえる。
この油脂A-1の26.4質量部(油脂中における比率32%)]は、ロールイン用マーガリンを構成する油脂中に32質量%含有しているといえ、この油脂A-1は「全脂肪酸中に炭素数12?14の飽和脂肪酸を31.4%、炭素数16?18の飽和脂肪酸を64.9%含有」するものであるから、全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を31.4質量%、パルミチン酸(炭素数16の飽和脂肪酸)及びステアリン酸(炭素数18の飽和脂肪酸)それぞれの含有質量%は不明であるが、両者が含まれる炭素数16?18の飽和脂肪酸としては64.9質量%含有しているものといえる。
そうすると、本願発明1の「可塑性油脂組成物を構成する油脂中に」「以下の油脂Bを9?81質量%含有し、」「油脂B:全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を25?55質量%、パルミチン酸を20?55質量%、及びステアリン酸を2?10質量%含有するエステル交換油」と、引用発明15の油脂A-1[パーム油・・とパーム核油・・とを混合し、触媒としてリパーゼ・・を・・添加し・・エステル交換反応を進行させ・・て得たもの。全脂肪酸中に炭素数12?14の飽和脂肪酸を31.4%、炭素数16?18の飽和脂肪酸を64.9%含有・・]26.4質量部(油脂中における比率32%)]とは、可塑性油脂組成物を構成する油脂中にエステル交換油を9?81質量%含有し、エステル交換油は全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を25?55質量%、パルミチン酸及びステアリン酸を特定質量%含有するエステル交換油である点で、共通する。

(エ)本願発明1の可塑性油脂組成物は、「(ただし、構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物、を除く)」ものである。
他方、引用発明15のロールイン用マーガリンは、油相に、油脂B-1[・・全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を36.1質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を4.1質量%、炭素数18のモノ不飽和飽和脂肪酸を42.6質量%・・]、及び、油脂C-1[大豆油・・]を含有するものである。
この油脂B-1は、全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を36.1質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を4.1質量%、炭素数18のモノ不飽和飽和脂肪酸を42.6質量%含有する油脂に該当するものであり、油脂C-1[大豆油]も液状油に該当するものである。
それ故、この油脂B-1及び油脂C-1を含有している引用発明15のロールイン用マーガリンは、本願発明1の上記除くものである「構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物」に該当する。
そうすると、本願発明1と引用発明15とは、前記(イ)及び(ウ)で述べたの共通点があるとしても、本願発明1のただし書きによって、引用発明15は除かれることから、前記(ア)で述べたことを踏まえると、本願発明1の「油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物」「(ただし、構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物、を除く)」と、引用発明15である「油相として」「油脂B-1[・・全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を36.1質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を4.1質量%、炭素数18のモノ不飽和飽和脂肪酸を42.6質量%・・]・・油脂C-1[大豆油・・]・・を含有した油相・・、水相・・、その他の成分・・を混合して・・可塑化し、製造したロールイン用マーガリン」とは、油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物である点で、共通する。

そうすると、本願発明1と引用発明15とは、
「油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点15-1:油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物が、本願発明1では、構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物、を除くものであるのに対し、引用発明15では、当該除くものである、構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物に該当するものである点

相違点15-2:油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物を構成する油脂中に含有する油脂A:バターオイル及び/又はバターオイルオレインの質量%が、本願発明1では9?55質量%であるのに対し、引用発明15では0.24質量%である点

相違点15-3:油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物を構成する油脂中に含有されるエステル交換油の全構成脂肪酸中のパルミチン酸及びステアリン酸の各質量%が、本願発明1では、パルミチン酸が20?55質量%及びステアリン酸が2?10質量%であるのに対し、引用発明15では、パルミチン酸及びステアリン酸のそれぞれの含有質量%は明らかでない点

相違点15-4:油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物について、本願発明1では、構成する油脂中の炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるトリ飽和トリグリセリド(H3)の含有量が2.5?10質量%であり、前記H3中に占めるトリパルミチン(P3)の割合(質量比、P3/H3)が0.5以上であるのに対し、引用発明15では、それらの構成が明らかでない点

イ 判断
相違点15-1について、前記(エ)で述べたように、引用発明15のロールイン用マーガリンは、油相に、油脂B-1[・・全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を36.1質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を4.1質量%、炭素数18のモノ不飽和飽和脂肪酸を42.6質量%・・]、及び、油脂C-1[大豆油・・]を含有するもので、この油脂B-1は、全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を36.1質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を4.1質量%、炭素数18のモノ不飽和飽和脂肪酸を42.6質量%含有する油脂に該当し、油脂C-1[大豆油]も液状油に該当するものであるから、この油脂B-1及び油脂C-1を含有する引用発明15のロールイン用マーガリンは、本願発明1の除くものである「構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物」に該当するものである。

ここで、引用発明15において、含有する油脂B-1及び油脂C-1は、引用発明15がその具体例である、引用文献15に記載の請求項1に係る発明(15a)における、油脂B(油脂Bは、該油脂Bを構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有するもの)及び油脂C(液状油)であり、これら油脂B及び油脂Cは当該請求項1に係る発明における必須の技術的特徴であるため、これら油脂B及び油脂Cを含むロールイン用可塑性油脂組成物を除くことは、引用文献15に記載も示唆もされておらず、その動機付けはない。
また、引用文献17及び18には、可塑性油脂組成物に配合する油脂として、バターオイルを使用することが記載されている(17b、18b)が、これらは相違点15-2に関連する技術的事項であって、相違点15-1に関連する技術的事項ではないから、依然として、引用発明15において、上記油脂B及び油脂Cを含むロールイン用可塑性油脂組成物を除く動機付けはない。

そして、本願発明1は、相違点15-1に記載の油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物において、相違点15-2?相違点15-4の技術的特徴を備えることにより、本願明細書の段落【0010】に記載の「結晶性が良好で口どけが良く、パン・菓子等のベーカリー食品に使用した場合、ジューシー感が得られるコンパウンドタイプの可塑性油脂組成物を提供」できるという、当業者が予測し得ない効果を奏するものである。

したがって、相違点15-2?相違点15-4を検討するまでもなく、また、引用文献17及び18の記載を踏まえるまでもなく、本願発明1は、引用文献15に記載された発明並びに引用文献17及び18に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本願発明2?5について
本願発明2?4は、本願発明1をさらに限定した発明であり、また、本願発明5は、本願発明1の製造方法であるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献15に記載された発明並びに引用文献17及び18に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

5 引用文献19を主引用例とする場合

(1)本願発明1について

ア 引用発明19との対比

(ア)引用発明19の「シート状マーガリン」は、「調整された油相部80重量%に、攪拌しながら水20重量%を添加し・・乳化・・を行って作成された」ものであり、油中水型乳化物といえるから、本願発明1の「油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物」に相当する。

(イ)引用発明19の「非選択的エステル交換反応を行って得られた油脂組成物」の構成脂肪酸組成「(構成脂肪酸組成は、C 8:0 2.1重量%、C10:0 1.7重量%、C12:0 20.5重量%、C14:0 7.1重量%、C16:0 42.1重量%、C18:0 3.9重量%、t-C18:1 0.0重量%、c-C18:1 18.7重量%、C18:2 3.4重量%、C18:3 0.0重量%、C20:0 0.3重量%、c-C20:1 0.1重量%、C16以上の飽和酸 46.3重量%、C14以下の飽和酸 31.3重量%、シス不飽和酸 22.2重量%、トランス酸 O.O重量%、沃素価22.1重量%)」は、全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸31.4重量%(=C 8:0 2.1重量%+C10:0 1.7重量%+C12:0 20.5重量%+C14:0 7.1重量%)、パルミチン酸(C16:0)42.1重量%、ステアリン酸(C18:0)3.9重量%であるから、本願発明1の「油脂B:全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を25?55質量%、パルミチン酸を20?55質量%、及びステアリン酸を2?10質量%含有するエステル交換油」に相当する。

(ウ)さらに、前記(イ)で述べた引用発明19の「非選択的エステル交換反応を行って得られた油脂組成物・・60重量部」は、「シート状マーガリン」を構成する油脂(非選択的エステル交換反応を行って得られた油脂組成物・・60重量部、精製ラード20重量部、菜種油20重量部)中に、60重量%[=60重量部/(油脂組成物60重量部+精製ラード20重量部+菜種油20重量部)×100]含有しているといえる。
そうすると、前記(ア)及び(イ)で述べたことを踏まえると、引用発明19の「非選択的エステル交換反応を行って得られた油脂組成物・・60重量部」は、本願発明1の「前記可塑性油脂組成物を構成する油脂中に」「以下の油脂Bを9?81質量%含有し」に相当する。

(エ)引用発明19のシート状マーガリンが、本願発明1のただし書きで除外されている「構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物」に該当しないかどうかを検討する。
引用発明19のシート状マーガリンは、「クロワッサン、デニッシュ、パイ等の層状小麦粉膨化食品に適した物性を有するシート状マーガリンの可塑性油脂組成物」(19b)であるから、ロールイン用可塑性組成物といえ、液状油として菜種油を含有しているものであるが、引用発明19のシート状マーガリンの油脂を構成する全脂肪酸中の炭素数16の飽和脂肪酸の含有質量%、炭素数18の飽和脂肪酸の含有質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸の含有質量は明らかでない。
それ故、引用発明19のシート状マーガリンが、本願発明1から除かれている可塑性油脂組成物に該当するかどうかは明らかでない。

したがって、本願発明1と引用発明19とは、
「油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物であって、
前記可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、以下の油脂Bを9?81質量%含有する、可塑性油脂組成物
油脂B:全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を25?55質量%、パルミチン酸を20?55質量%、及びステアリン酸を2?10質量%含有するエステル交換油」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点19-1:可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、本願発明1では、可塑性油脂組成物を構成する油脂中の炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるトリ飽和トリグリセリド(H3)の含有量が2.5?10質量%であり、前記H3中に占めるトリパルミチン(P3)の割合(質量比、P3/H3)が0.5以上であるのに対し、引用発明19では、当該H3の含有量、及び、当該H3中に占めるP3/H3は明らかでない点

相違点19-2:可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、本願発明1では、バターオイル及び/又はバターオイルオレインである油脂Aを9?55質量%含有するものであるのに対し、引用発明19では、バターオイル及び/又はバターオイルオレインを含有しないものである点

相違点19-3:可塑性油脂組成物について、本願発明1では、「(ただし、構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物、を除く)」と特定されているのに対し、引用発明19が、当該除外される可塑性油脂組成物に該当しないかどうか明らかでない点

イ 判断
相違点19-1における、可塑性油脂組成物を構成する油脂中の炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるトリ飽和トリグリセリド(H3)中に占めるトリパルミチン(P3)の割合(質量比、P3/H3)が0.5以上について、引用文献16には、生地調製時の作業性が良好で且つパイの浮き(パフ性)及び口溶けが良好なロールイン用油脂組成物に関し、該油脂組成物を構成する油脂中の炭素数16?18の飽和脂肪酸のみからなるトリグリセリド(SSS)中に占めるトリパルミチン(PPP)の割合(PPP/SSS)が0.65以上であることが必要であり、0.65未満であると、急冷固化の条件下で油相中の結晶が完全なβ型とならず、準安定型のβプライム型を含み、経日的に結晶転移が起こり、経日的にマーガリンの硬さが硬くなり、またベーカリー製品に使用した場合、ロールイン時の伸展性が悪く、良好な層状構造が得られないため、十分な浮きが得られない(16b)ことが記載されている。
しかしながら、引用文献16に記載の比較例1、2、4、9(16c)をみると、いずれもPPP/SSSが0.65以上であっても、ベーカリー製品に使用した場合、油脂伸展性がやや悪く、パイの浮き(パフ性)もやや悪いことが示されている。
引用文献16に記載の、生地調製時の作業性が良好で且つパイの浮き(パフ性)及び口溶けが良好なロールイン用油脂組成物は、PPP/SSSが0.65以上であるのみならず、油相中のトリグリセリド組成が、以下i)?v)の条件
i)(PMP+MPM+PPP)が10?60重量%
ii) PPPが3?15重量%
iii) PPM/(PMP+MPM)が0.85以下(重量基準)
iv)(MPM+PPP)/PMPが0.5以上(重量基準)
v) PPP/SSSが0.65以上(重量基準)
上記i)?v)中、S、M及びP は、それぞれ下記の脂肪酸を示す。
S:炭素数16?18の飽和脂肪酸
M:炭素数16?18のシス型モノエンの不飽和脂肪酸
P:炭素数16の飽和脂肪酸
を満たすことが必要であり(16a、16b)、その条件の内の一つである「v)PPP/SSSが0.65以上(重量基準)」を、油脂組成物に適用したとしても、当該i)?v)の条件を全て満たすものでない以上、その油脂組成物は、当該効果である、生地調製時の作業性が良好で且つパイの浮き(パフ性)及び口溶けが良好なものとなるとは限らない。
それ故、引用発明19のシート状マーガリンにおいて、PPP/SSSが0.65以上(重量基準)にしようという動機付けはなく、ましてや、0.5以上とする合理的な理由もない。
また、引用文献17及び18には、可塑性油脂組成物に配合する油脂として、バターオイルを使用することが記載されている(17b、18b)が、これらは相違点19-2に関連する技術的事項であって、相違点19-1に関連する技術的事項ではないから、依然として、引用発明19のシート状マーガリンにおいて、PPP/SSSが0.65以上(重量基準)にしようという動機付けはなく、ましてや、0.5以上とする合理的な理由もない。

そして、本願発明1は、上記一致点の可塑性油脂組成物において、相違点19-1、相違点19-2及び相違点19-3の技術的特徴を備えることにより、本願明細書の段落【0010】に記載の「結晶性が良好で口どけが良く、パン・菓子等のベーカリー食品に使用した場合、ジューシー感が得られるコンパウンドタイプの可塑性油脂組成物を提供」できるという、当業者が予測し得ない効果を奏するものである。

したがって、相違点19-2及び相違点19-3を検討するまでもなく、また、引用文献16?18の記載を踏まえるまでもなく、本願発明1は、引用文献19に記載された発明並びに引用文献16?18に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本願発明2?5について
本願発明2?4は、本願発明1をさらに限定した発明であり、また、本願発明5は、本願発明1の製造方法であるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献19に記載された発明並びに引用文献16?18に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

6 引用文献20を主引用例とする場合

(1)本願発明1について

ア 引用発明20との対比

(ア)引用発明20の「可塑性油中水型乳化組成物」は、本願発明1の「油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物」に相当する。

(イ)引用発明20の「油脂組成物1」は、「パーム軟質油(・・)40重量部、エステル交換油1(・・)[・・]15重量部及びエステル交換油2(・・)[・・]45重量部を混合して得た」ものであり、油脂組成物中にエステル交換油が60重量部(=15重量部+45重量部)含有しているといえる。
ここで、引用発明20の「エステル交換油1(・・)」は、「パームステアリン:70重量%及びパーム核オレイン:30重量%を混合し・・ランダムエステル交換反応を行い・・得られたもの」であり、「エステル交換油2(・・)」は、「パーム油:75重量%及びパーム核オレイン:25重量%を混合し・・ランダムエステル交換反応を行い・・得られたもの」であるが、「パームステアリン」及び「パーム核オレイン」それぞれの脂肪酸組成が、刊行物20の記載からでは明らかでないことから、引用発明20の「エステル交換油1(・・)」及び「エステル交換油2(・・)」の全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸、パルミチン酸及びステアリン酸の各含有割合が明らかでない。

そうすると、本願発明1の「油脂B:全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を25?55質量%、パルミチン酸を20?55質量%、及びステアリン酸を2?10質量%含有するエステル交換油」と、引用発明20の「エステル交換油1(融点:41.0℃)[すなわち、パームステアリン:70重量%及びパーム核オレイン:30重量%を混合し、90℃、真空下で脱水を行い、ナトリウムメチラート:0.30重量%を加え、90℃、窒素気流下で30分間ランダムエステル交換反応を行い、水を加えて反応停止後、水洗し、活性白土:3.0重量%を加え、減圧下で攪拌して20分後に全量濾過して得られたもの]15重量部及びエステル交換油2(融点:35.0℃)[すなわち、パーム油:75重量%及びパーム核オレイン:25重量%を混合し、90℃、真空下で脱水を行い、ナトリウムメチラート:0.30重量%を加え、90℃、窒素気流下で30分間ランダムエステル交換反応を行い、水を加えて反応停止後、水洗し、活性白土:3.0重量%を加え、減圧下で攪拌して20分後に全量濾過して得られたもの]45重量部」とは、エステル交換油である点で、共通する。

(ウ)引用発明20の「油脂組成物1」は、「パーム軟質油(・・)40重量部、エステル交換油1(・・)[・・]15重量部及びエステル交換油2(・・)[・・]45重量部を混合して得た」ものであり、油脂組成物中にエステル交換油が60重量部(=15重量部+45重量部)含有しているといえる。
そうすると、本願発明1の「前記可塑性油脂組成物を構成する油脂中に」「以下の油脂Bを9?81質量%含有し」「油脂B:全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を25?55質量%、パルミチン酸を20?55質量%、及びステアリン酸を2?10質量%含有するエステル交換油」と、引用発明20の「パーム軟質油(融点:18.0℃)40重量部、エステル交換油1(融点:41.0℃)[すなわち、パームステアリン:70重量%及びパーム核オレイン:30重量%を混合し、90℃、真空下で脱水を行い、ナトリウムメチラート:0.30重量%を加え、90℃、窒素気流下で30分間ランダムエステル交換反応を行い、水を加えて反応停止後、水洗し、活性白土:3.0重量%を加え、減圧下で攪拌して20分後に全量濾過して得られたもの]15重量部及びエステル交換油2(融点:35.0℃)[すなわち、パーム油:75重量%及びパーム核オレイン:25重量%を混合し、90℃、真空下で脱水を行い、ナトリウムメチラート:0.30重量%を加え、90℃、窒素気流下で30分間ランダムエステル交換反応を行い、水を加えて反応停止後、水洗し、活性白土:3.0重量%を加え、減圧下で攪拌して20分後に全量濾過して得られたもの]45重量部を混合して得た油脂組成物1」とは、前記(ア)及び(イ)で述べたことを踏まえると、可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、エステル交換油を9?81質量%含有するものである点で、共通する。

(エ)引用発明20の可塑性油中水型乳化組成物が、本願発明1のただし書きで除外されている「構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物」に該当しないかどうかを検討する。
引用発明20の可塑性油中水型乳化組成物に含有される油脂を構成する全脂肪酸中の炭素数16の飽和脂肪酸の含有質量%、炭素数18の飽和脂肪酸の含有質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸の含有質量は明らかでない。
それ故、引用発明20の可塑性油中水型乳化組成物が、本願発明1から除かれている可塑性油脂組成物に該当するかどうかは明らかでない。

したがって、本願発明1と引用発明20とは、
「油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物であって、
前記可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、エステル交換油を9?81質量%含有する、可塑性油脂組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点20-1:可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、本願発明1では、可塑性油脂組成物を構成する油脂中の炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるトリ飽和トリグリセリド(H3)の含有量が2.5?10質量%であり、前記H3中に占めるトリパルミチン(P3)の割合(質量比、P3/H3)が0.5以上であるのに対し、引用発明20では、当該H3の含有量、及び、当該H3中に占めるP3/H3は明らかでない点

相違点20-2:可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、本願発明1では、バターオイル及び/又はバターオイルオレインである油脂Aを9?55質量%含有するものであるのに対し、引用発明20では、バターオイル及び/又はバターオイルオレインを含有しないものである点

相違点20-3:エステル交換油が、本願発明1では、全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を25?55質量%、パルミチン酸を20?55質量%、及びステアリン酸を2?10質量%含有するものであるのに対し、引用発明20では、全構成脂肪酸中の、炭素数14以下の脂肪酸、パルミチン酸及びステアリン酸の含有割合が明らかでない点

相違点20-4:可塑性油脂組成物について、本願発明1では、「(ただし、構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物、を除く)」と特定されているのに対し、引用発明20が、当該除外される可塑性油脂組成物に該当しないかどうか明らかでない点

イ 判断
相違点20-1における、可塑性油脂組成物を構成する油脂中の炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるトリ飽和トリグリセリド(H3)中に占めるトリパルミチン(P3)の割合(質量比、P3/H3)が0.5以上について、前記5(1)イで述べたとおり、引用文献16には、PPP/SSSが0.65以上であっても、ベーカリー製品に使用した場合、油脂伸展性がやや悪く、パイの浮き(パフ性)もやや悪いことが示されており、加えて、引用文献16に記載の、生地調製時の作業性が良好で且つパイの浮き(パフ性)及び口溶けが良好なロールイン用油脂組成物は、PPP/SSSが0.65以上であるのみならず、油相中のトリグリセリド組成が、他の条件を含めたi)?v)の条件(省略)を満たすことが必要であり(16a、16b)、その条件の内の一つである「v)PPP/SSSが0.65以上(重量基準)」を、油脂組成物に適用したとしても、当該i)?v)の条件を全て満たすものでない以上、その油脂組成物は、当該効果である、生地調製時の作業性が良好で且つパイの浮き(パフ性)及び口溶けが良好なものとなるとは限らない。
それ故、引用発明20の可塑性油中水型乳化組成物において、PPP/SSSが0.65以上(重量基準)にしようという動機付けはなく、ましてや、0.5以上とする合理的な理由もない。
また、引用文献17及び18には、可塑性油脂組成物に配合する油脂として、バターオイルを使用することが記載されている(17b、18b)が、これらは相違点20-2に関連する技術的事項であって、相違点20-1に関連する技術的事項ではないから、依然として、引用発明20の可塑性油中水型乳化組成物において、PPP/SSSが0.65以上(重量基準)にしようという動機付けはなく、ましてや、0.5以上とする合理的な理由もない。

そして、本願発明1は、上記一致点の可塑性油脂組成物において、相違点20-1、相違点20-2、相違点20-3及び相違点20-4の技術的特徴を備えることにより、本願明細書の段落【0010】に記載の「結晶性が良好で口どけが良く、パン・菓子等のベーカリー食品に使用した場合、ジューシー感が得られるコンパウンドタイプの可塑性油脂組成物を提供」できるという、当業者が予測し得ない効果を奏するものである。

したがって、相違点20-2?相違点20-4を検討するまでもなく、また、引用文献16?18の記載を踏まえるまでもなく、本願発明1は、引用文献20に記載された発明並びに引用文献16?18に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本願発明2?5について
本願発明2?4は、本願発明1をさらに限定した発明であり、また、本願発明5は、本願発明1の製造方法であるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献20に記載された発明並びに引用文献16?18に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

II 拡大先願について

1 本願発明1について

(1)先願発明との対比

ア 先願発明の「ロールインマーガリン5(RM5)」は、「該水相を油相に加えて・・乳化させ・・得られた」ものであり、油中水型乳化物といえるから、本願発明1の「油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物」に相当する。

イ 先願発明の「乳脂15重量部」について、「乳脂」中にバターオイルは約80%存在することから、乳脂15重量部にはバターオイル12重量部(=15重量部×0.8)存在するといえる。
また、先願発明の「乳脂15重量部」を含有しているロールインマーガリン5(RM5)を構成する油脂は、「油脂2[・・]54重量部、油脂6[・・]5重量部、菜種油26重量部、乳脂15重量部を混合し」て得られた「油脂混合物」であり、これらを合計すると100重量部(=54重量部+5重量部+26重量部+15重量部)である。
そうすると、この油脂中に、バターオイルは12重量部[=15重量部×0.8/(54重量部+5重量部+26重量部+15重量部)×100]含有しているといえる。
したがって、先願発明の「乳脂15重量部」は、本願発明1の「前記可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、以下の油脂Aを9?55質量%」「含有し、」「油脂A:バターオイル及び/又はバターオイルオレイン」に相当する。

ウ 先願発明の「用いた調合油のSSS(C_(16)?C_(22)の飽和脂肪酸(S)3残基が結合したトリ飽和脂肪酸グリセリド)含量が5.2重量%」は、ロールインマーガリン5(RM5)を構成する油脂中の炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるトリ飽和トリグリセリドの含有量が5.2重量%ということであるから、本願発明1の「前記可塑性油脂組成物を構成する油脂中の炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるトリ飽和トリグリセリド(H3)の含有量が2.5?10質量%」に相当する。

エ (ア)先願発明の油脂混合物中、エステル交換油は「油脂2」及び「油脂6」と認められ、エステル交換油として「油脂2」及び「油脂6」を合計61重量部「=油脂2[・・]54重量部+油脂6[・・]5重量部」を含有していると認められる。
さらに、この「油脂2」及び「油脂6」における全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸、パルミチン酸及びステアリン酸を、それぞれ何質量%ずつ含有しているのかを以下(イ)?(エ)で検討すると、
(イ)炭素数14以下の脂肪酸については、明らかでない。
(ウ)パルミチン酸について、油脂混合物には、油脂2は54重量部、油脂6は5重量部含まれており、「油脂2」中のパルミチン酸含量(P)46.8重量%及び「油脂6」中のパルミチン酸含量(P)39.9重量%であるから、「油脂2」及び「油脂6」における全構成脂肪酸中のパルミチン酸含有量は、46.2重量部[=(54重量部/(54重量部+5重量部)×46.8重量%)+(5重量部/(54重量部+5重量部)×39.9重量%)]と理解される。
(エ)ステアリン酸については、明らかでない。
仮に、C16-C22の飽和脂肪酸含量(S)から(C16の飽和脂肪酸である)パルミチン酸の含有量を差し引いたものが、最大限含まれ得るステアリン酸含有量とすると、油脂混合物には、油脂2は54重量部、油脂6は5重量部含まれており、「油脂2」中のC16-C22の飽和脂肪酸含量(S)52.4重量%及び「油脂6」中のC16-C22の飽和脂肪酸含量(S)44.2重量%であるから、「油脂2」及び「油脂6」における全構成脂肪酸中のC16-C22の飽和脂肪酸含量(S)は、51.7重量部[=54重量部/(54重量部+5重量部)×52.4重量%]+[5重量部/(54重量部+5重量部)×44.2重量%]。
それ故、全構成脂肪酸中のC16-C22の飽和脂肪酸含量(S)から前記(イ)で求めたパルミチン酸含有量を差し引くと、最大限含まれ得るステアリン酸含有量は5.5重量部(=51.7重量部-46.2重量部)と理解される。

以上(ア)?(エ)より、本願発明1の「前記可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、」「以下の油脂Bを9?81質量%含有し、」「油脂B:全構成脂肪酸中に、炭素数14以下の脂肪酸を25?55質量%、パルミチン酸を20?55質量%、及びステアリン酸を2?10質量%含有するエステル交換油」と、先願発明の油脂混合物中のエステル交換油脂である、「油脂2[脱酸処理されたパームステアリン(ヨウ素価35):100重量部を90℃に加熱し、そこへ0.2重量部のナトリウムメチラートを加えて減圧下30分間攪拌し、その後水洗し、そこへ白土を2重量部加えて90℃で減圧下30分間攪拌して脱色し、該脱色処理後の油脂を70℃に加熱して溶解し、46℃に温調しながら攪拌して結晶を析出させ、12時間晶析した後、加圧圧搾装置に導入して3MPaの圧力で圧搾し、収率70%で液状部を得、この液状部を250℃で1時間脱臭したもの。このエステル交換油脂の、パルミチン酸含量(P)46.8重量%、C16-C22の飽和脂肪酸含量(S)52.4重量%及びP/S重量比率0.9]54重量部、並びに、油脂6[脱酸処理されたパームステアリン60重量部とパーム核油40重量部の混合物を90℃に加熱し、そこへ0.2重量部のナトリウムメチラートを加えて減圧下30分間攪拌し、その後水洗し、そこへ白土を2重量部加えて90℃で減圧下30分間攪拌して脱色し、それからろ過して白土を除き、得られた油脂を減圧下250℃で1時間脱臭して得られたもの。このエステル交換油脂の、パルミチン酸含量(P)39.9重量%、C16-C22の飽和脂肪酸含量(S)44.2重量%及びP/S重量比率0.9]5重量部とは、可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、以下のエステル交換油を9?81質量%含有し、該エステル交換油は全構成脂肪酸中にパルミチン酸を20?55質量%含有するエステル交換油である点で、共通する。

オ 先願発明のロールインマーガリン5(RM5)が、本願発明1のただし書きで除外されている「構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物」に該当しないかどうかを検討する。
先願発明のロールインマーガリン5(RM5)は、ロールイン用可塑性組成物といえ、液状油として菜種油を含有しているものであるが、先願発明のロールインマーガリン5(RM5)に含有される油脂を構成する全脂肪酸中の炭素数16の飽和脂肪酸の含有質量%、炭素数18の飽和脂肪酸の含有質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸の含有質量は明らかでない。
それ故、先願発明のロールインマーガリン5(RM5)が、本願発明1から除かれている可塑性油脂組成物に該当するかどうかは明らかでない。

したがって、本願発明1と先願発明とは、
「油中水型乳化物である又は水相を有さない可塑性油脂組成物であって、
前記可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、以下の油脂Aを9?55質量%、及び以下のエステル交換油を9?81質量%含有し、
前記可塑性油脂組成物を構成する油脂中の炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるトリ飽和トリグリセリド(H3)の含有量が2.5?10質量%である、可塑性油脂組成物
油脂A:バターオイル及び/又はバターオイルオレイン
エステル交換油:全構成脂肪酸中にパルミチン酸を20?55質量%含有するエステル交換油」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点14-1:可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、本願発明1では、可塑性油脂組成物を構成する油脂中の炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるトリ飽和トリグリセリド(H3)中に占めるトリパルミチン(P3)の割合(質量比、P3/H3)が0.5以上であるのに対し、先願発明では、当該H3中に占めるP3/H3は明らかでない点

相違点14-2:可塑性油脂組成物を構成する油脂中に、本願発明1では、以下の油脂Bを含有し、該油脂Bは、全構成脂肪酸中に、パルミチン酸を20?55質量%含有するのみならず、炭素数14以下の脂肪酸を25?55質量%及びステアリン酸を2?10質量%含有するエステル交換油である点のに対し、先願発明では、エステル交換油は、全構成脂肪酸中に、パルミチン酸を20?55質量%含有するものの、炭素数14以下の脂肪酸及びステアリン酸それぞれの含有量は明らかでないもの(最大限含まれ得るステアリン酸含有量としては5.5重量部)。

相違点14-3:可塑性油脂組成物について、本願発明1では、「(ただし、構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物、を除く)」と特定されているのに対し、先願発明が、当該除外される可塑性油脂組成物に該当しないかどうか明らかでない点

イ 判断
相違点14-1について検討すると、先願明細書等には、当該油脂全体中C_(16)?C_(22)の飽和脂肪酸(S)3残基が結合したトリ飽和脂肪酸グリセリド(SSS)の含有量や、そのSSS(炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるトリ飽和トリグリセリド)や構成脂肪酸の鎖長に関係のない全てのトリ飽和脂肪酸グリセリドの合計量)についての記載はある(14b)ものの、当該炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるトリ飽和トリグリセリド(H3)中に占めるトリパルミチン(P3)の割合(質量比、P3/H3)についてまでの記載はない。

また、前記質量比P3/H3について、引用文献16には、生地調製時の作業性が良好で且つパイの浮き(パフ性)及び口溶けが良好なロールイン用油脂組成物に関し、該油脂組成物を構成する油脂中の炭素数16?18の飽和脂肪酸のみからなるトリグリセリド(SSS)中に占めるトリパルミチン(PPP)の割合(PPP/SSS)が0.65以上であることが必要であり、0.65未満であると、急冷固化の条件下で油相中の結晶が完全なβ型とならず、準安定型のβプライム型を含み、経日的に結晶転移が起こり、経日的にマーガリンの硬さが硬くなり、またベーカリー製品に使用した場合、ロールイン時の伸展性が悪く、良好な層状構造が得られないため、十分な浮きが得られない(16b)ことが記載されている。
しかしながら、引用文献16に記載の比較例1、2、4、9(16c)をみると、いずれもPPP/SSSが0.65以上であっても、ベーカリー製品に使用した場合、油脂伸展性がやや悪く、パイの浮き(パフ性)もやや悪いことが示されている。
引用文献16に記載の、生地調製時の作業性が良好で且つパイの浮き(パフ性)及び口溶けが良好なロールイン用油脂組成物は、PPP/SSS)が0.65以上であるのみならず、油相中のトリグリセリド組成が、以下i)?v)の条件
i)(PMP+MPM+PPP)が10?60重量%
ii) PPPが3?15重量%
iii) PPM/(PMP+MPM)が0.85以下(重量基準)
iv)(MPM+PPP)/PMPが0.5以上(重量基準)
v) PPP/SSSが0.65以上(重量基準)
上記i)?x)中、S、M及びP は、それぞれ下記の脂肪酸を示す。
S:炭素数16?18の飽和脂肪酸
M:炭素数16?18のシス型モノエンの不飽和脂肪酸
P:炭素数16の飽和脂肪酸
を満たすことが必要であり(16a、16b)、その条件の内の一つである「v)PPP/SSSが0.65以上(重量基準)」を、油脂組成物に適用したとしても、上記i)?v)の条件を全て満たすものでない以上、その油脂組成物は、当該課題である、結晶性が良好で且つ口溶けが良く、パン・菓子当のベーカリー製品に使用した場合、十分なジューシー感が得られるものになるとは限らない。
それ故、生地調製時の作業性が良好で口溶けが良好なロールイン用ロールイン用油脂組成物とするためには、構成する油脂中の炭素数16?18の飽和脂肪酸のみからなるトリグリセリド(SSS)中に占めるトリパルミチン(PPP)の割合(PPP/SSS)が0.65以上であることが必要であることが、ましてや、0.5以上とすることが、周知の技術的事項であることを示すものとはいえないから、前記相違点14-1が、課題解決のための具体化手段における微差程度のものであるということはできない。

したがって、相違点14-2及び相違点14-3を検討するまでもなく、本願発明1は、先願発明と同一であるとも、実質的に同一であるともいえない。

(2)本願発明2?5について
本願発明2?4は、本願発明1をさらに限定した発明であり、また、本願発明5は、本願発明1の製造方法であるから、本願発明1と同じ理由により、先願発明と同一であるとも、実質的に同一であるともいえない。

III 特許法第36条第6項第1号について
原査定のなお書きにおいて指摘されたサポート要件違反は、要するに、拒絶査定時の本願の請求項1に係る発明が、多様な可塑性油脂組成物を包含するものと解し得るところ、本願明細書の発明の詳細な説明において、実際に、本願発明が解決しようとする課題[乳脂を含有したトランス脂肪酸含量が低い可塑性油脂組成物で、結晶性が良好で口どけが良く、パン・菓子等のベーカリー製品に使用した場合、十分なジューシー感が得られる、コンパウンドタイプの可塑性油脂組成物及びその製造方法を提供すること(本願明細書【0007】)]を解決し得るものが確認されているのは、実施例(【0041】?【0054】)に記載された可塑性油脂組成物のみであり、それ以外のものを含む本願発明1の全体にわたって、前記課題を解決できると当業者が認識することができるとはいえないから、本願発明1が、発明の詳細な説明に記載した発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるとは認められないし、その記載や示唆がなくとも当業者が本願出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない、本願発明2?5についても同様である、というものである。

しかしながら、審判請求時の補正により、本願発明1は、実施例に記載された可塑性油脂組成物、本願明細書における実施の態様の記載及び技術常識を参酌して、当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲となるよう、「油脂A」の種類は「バターオイル及び/又はバターオイルオレイン」に限定され、可塑性油脂組成物を構成する油脂中の油脂A及び油脂Bの含有量は「油脂Aを9?55質量%」及び「油脂Bを9?81質量%」に限定され、並びに、油脂Bの全構成脂肪酸中に含有する各種脂肪酸の含有量は「炭素数14以下の脂肪酸を25?55質量%、パルミチン酸を20?55質量%、及びステアリン酸を2?10質量%」に限定され、当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲に限定されたということができ、発明の詳細な説明に記載された発明といえる。
また、本願発明1をさらに限定した発明である本願発明2?4、及び、本願発明1の製造方法である本願発明5についても、本願発明1と同様である。
したがって、発明の詳細な説明には、本願発明1?5が記載されているといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしている。

IV 特許法第36条第6項第2号について
前置報告において指摘された明確性要件違反は、請求項1の「(ただし、構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物、を除く)」という記載について、「・・含有する油脂と液状油と、を含有するロールイン用可塑性油脂組成物」という記載により、当該除くロールイン用可塑性油脂組成物は、該「油脂」と「液状油」以外に異なる任意の「油脂」を含有する態様を許容するものであり、該ロールイン用可塑性油脂組成物の「油脂」についてその脂肪酸組成を特定しただけでは、当該ロールイン用可塑性油脂組成物の全体に含まれる脂肪酸組成等について明確に把握できず、結果として、請求項1から何が除かれているのかが明確に把握できないから、不明確というものである。
しかしながら、請求項1のただし書きの前記記載については、当該除かれるロールイン用可塑性油脂組成物は、そこに含まれる一成分のある「油脂」が、当該油脂を構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25?38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5?6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40?60質量%含有する油脂であると解され、そのような脂肪酸組成を構成する油脂は認識することができ、そのような脂肪酸組成を構成する油脂と液状油を含有するロールイン用可塑性油脂組成物であれば除かれるものと理解され、除かれるロールイン用可塑性油脂組成物を明確に把握できるといえる。
また、本願発明1をさらに限定した発明である本願発明2?4、及び、本願発明1の製造方法である本願発明5についても、本願発明1と同様である。
したがって、本願発明1?5は明確であるといえ、特許法第36条第6項第2号に適合するものであり、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしている。

第7 原査定について

1 理由2(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により、拒絶査定の理由2の対象請求項に係る発明であった、補正前の請求項5に係る発明は削除されているから、原査定の理由2を維持することはできない。

2 理由3(特許法第29条の2)について
審判請求時の補正により、拒絶査定の理由3の対象請求項であった、補正前の請求項3において、油脂Bの含有量についての記載を削除し、油脂Bの含有量が9?81質量%である請求項1を引用するよう補正されたから、本願発明1と同様に、先願発明と同一でなく、原査定の理由3を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-08-19 
出願番号 特願2014-538336(P2014-538336)
審決分類 P 1 8・ 16- WY (A23D)
P 1 8・ 121- WY (A23D)
P 1 8・ 537- WY (A23D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長谷川 茜宮岡 真衣  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 齊藤 真由美
佐々木 秀次
発明の名称 可塑性油脂組成物及びその製造方法  
代理人 特許業務法人平田国際特許事務所  
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