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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
管理番号 1354522
審判番号 不服2018-4023  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-22 
確定日 2019-08-14 
事件の表示 特願2016-567573「エンジンコンポーネントを製造する方法、エンジンコンポーネント、および、アルミニウム合金の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月19日国際公開、WO2015/173172、平成29年 7月13日国内公表、特表2017-519105〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年) 5月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年 5月14日、ドイツ(DE))を国際出願日とする出願であって、平成29年 1月16日に手続補正書が提出され、同年 5月12日付けで拒絶理由が通知され、それに対して、同年 8月15日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月14日付けで拒絶査定がなされた。
そして、平成30年 3月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年 8月 7日に上申書が提出された。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年 3月22日に提出された手続補正書による手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成30年 3月22日に提出された手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成29年 8月15日に提出された手続補正書により補正された本件補正前の特許請求の範囲の請求項1?27を補正して、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?16とするものであり、そのうち、本件補正前の請求項2及び、本件補正前の請求項2を補正した本件補正後の請求項1については、以下のとおりである。 なお、補正箇所に下線を付した。

(本件補正前)
「【請求項2】
アルミニウム合金が重力鋳造法で鋳造されて、エンジンコンポーネントを製造する方法であって、
前記アルミニウム合金は、添加物として
シリコン: 7重量%から14.5重量%未満
ニッケル: 1.2重量%より大きく4重量%以下
銅: 3.7重量%より大きく10重量%未満
コバルト: 1重量%まで
マグネシウム: 0.1重量%から1.5重量%
鉄: 0.1重量%から0.7重量%以下
マンガン: 0.1重量%から0.7重量%以下
ジルコニウム: 0.1重量%より大きく0.5重量%未満
バナジウム: 0.1重量%以上、0.3重量%以下
チタン: 0.05重量%から0.5重量%
リン: 0.004重量%から0.05重量%以下
ベリリウム: 0.0005重量%から0.5重量%、および
カルシウム: 0.0005重量%まで
のみが添加され、
残部がアルミニウムおよび不可避な不純物からなる、ことを特徴とする方法。」

(本件補正後)
「【請求項1】
アルミニウム合金が重力鋳造法で鋳造されて、エンジンコンポーネントを製造する方法であって、
前記アルミニウム合金は、添加物として
シリコン: 9重量%から10.5重量%未満
ニッケル: 2.0重量%より大きく3.5重量%以下
銅: 5.2重量%より大きく10重量%未満
コバルト: 1重量%まで
マグネシウム: 0.5重量%から1.5重量%
鉄: 0.1重量%から0.7重量%以下
マンガン: 0.1重量%から0.4重量%以下
ジルコニウム: 0.2重量%より大きく0.4重量%未満
バナジウム: 0.1重量%以上、0.2重量%未満
チタン: 0.05重量%から0.2重量%未満
リン: 0.004重量%から0.008重量%以下
ベリリウム: 0.01重量%から0.5重量%、および
カルシウム: 0.0005重量%まで
のみが添加され、
残部がアルミニウムおよび不可避な不純物からなる、ことを特徴とする方法。」

2 新規事項の追加の有無、シフト補正の有無及び補正の目的の適否についての検討
新規事項の追加の有無及びシフト補正の有無について
(ア)本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲(これらをまとめて「当初明細書等」という。)には、以下の記載がある。なお、下線部は、当審が付与した。「・・・」は省略を表す。以下同様。

「【0024】
上述したアルミニウム合金は、カルシウム含有量が約0.0005重量%以下に制限された状態で、さらに約0.0005から、好適には約0.006から、より好適には約0.01重量%から、約0.5まで、好適には約0.1重量%未満のベリリウム(Be)を含む。・・・」

「【実施例】
【0025】
本願発明の特に好適なアルミニウム合金A、B、CおよびDが以下の表に示されている
(表中の単位は重量%)
【表1】



(イ)前記(ア)によれば、本件補正後の方法における、アルミニウム合金の各成分のうち、Si、Ni、Cu、Co、Mg、Fe、Mn、Zr、V、Ti、Pについては、その含有量の上限下限値の組み合わせがアルミニウム合金Aとして記載されており、Beについては、アルミニウム合金Dの含有量としての「0.0005?0.5」の範囲内かつ【0024】に記載された範囲内の「0.01?0.5」に減縮されており、Caについても、アルミニウム合金Dの含有量として記載されているものであるから、本件補正後の
「アルミニウム合金が重力鋳造法で鋳造されて、エンジンコンポーネントを製造する方法であって、
前記アルミニウム合金は、添加物として
シリコン: 9重量%から10.5重量%未満
ニッケル: 2.0重量%より大きく3.5重量%以下
銅: 5.2重量%より大きく10重量%未満
コバルト: 1重量%まで
マグネシウム: 0.5重量%から1.5重量%
鉄: 0.1重量%から0.7重量%以下
マンガン: 0.1重量%から0.4重量%以下
ジルコニウム: 0.2重量%より大きく0.4重量%未満
バナジウム: 0.1重量%以上、0.2重量%未満
チタン: 0.05重量%から0.2重量%未満
リン: 0.004重量%から0.008重量%以下
ベリリウム: 0.01重量%から0.5重量%、および
カルシウム: 0.0005重量%まで
のみが添加され、
残部がアルミニウムおよび不可避な不純物からなる、ことを特徴とする方法。」は、当初明細書の上記【0024】と表1に記載されており、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。
また、本件補正後の請求項1に係る発明は、本件補正前の請求項2に係る発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明であり、両者は単一性を満たし、シフト補正でないから、本件補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものであることは明らかである。

イ 補正の目的について
本件補正は、
「アルミニウム合金が重力鋳造法で鋳造されて、エンジンコンポーネントを製造する方法であって、
前記アルミニウム合金は、添加物として
シリコン: 9重量%から10.5重量%未満
ニッケル: 2.0重量%より大きく3.5重量%以下
銅: 5.2重量%より大きく10重量%未満
コバルト: 1重量%まで
マグネシウム: 0.5重量%から1.5重量%
鉄: 0.1重量%から0.7重量%以下
マンガン: 0.1重量%から0.4重量%以下
ジルコニウム: 0.2重量%より大きく0.4重量%未満
バナジウム: 0.1重量%以上、0.2重量%未満
チタン: 0.05重量%から0.2重量%未満
リン: 0.004重量%から0.008重量%以下
ベリリウム: 0.01重量%から0.5重量%、および
カルシウム: 0.0005重量%まで
のみが添加され、
残部がアルミニウムおよび不可避な不純物からなる、ことを特徴とする方法」における、「アルミニウム合金」について、コバルト、鉄、カルシウムを除き、本件補正前の請求項2の各成分の含有量をさらに限定するものであり、また、補正の前後で産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
したがって、本件補正は特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしている。

新規事項の追加の有無、シフト補正の有無及び補正の目的の適否についての検討のむすび
以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項、第4項及び第5項に規定する要件を満たしている。
そして、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件を満たすか)否かを、更に検討する。

3 独立特許要件を満たすか否かの検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明は、上記1において本件補正後の請求項1として記載された、次のとおりのものである(以下「本願補正発明1」という。)。
「【請求項1】
アルミニウム合金が重力鋳造法で鋳造されて、エンジンコンポーネントを製造する方法であって、
前記アルミニウム合金は、添加物として
シリコン: 9重量%から10.5重量%未満
ニッケル: 2.0重量%より大きく3.5重量%以下
銅: 5.2重量%より大きく10重量%未満
コバルト: 1重量%まで
マグネシウム: 0.5重量%から1.5重量%
鉄: 0.1重量%から0.7重量%以下
マンガン: 0.1重量%から0.4重量%以下
ジルコニウム: 0.2重量%より大きく0.4重量%未満
バナジウム: 0.1重量%以上、0.2重量%未満
チタン: 0.05重量%から0.2重量%未満
リン: 0.004重量%から0.008重量%以下
ベリリウム: 0.01重量%から0.5重量%、および
カルシウム: 0.0005重量%まで
のみが添加され、
残部がアルミニウムおよび不可避な不純物からなる、ことを特徴とする方法。」

(2)明細書のサポート要件適合性について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、上記の観点に立って、本願補正発明1について検討することとする。

ア 本願補正発明1が解決しようとする課題
(ア)発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本願発明の目的は、アルミニウム合金が重力ダイキャストプロセスで鋳造されるところのエンジンコンポーネント、特に、内燃エンジン用のピストンの製造方法を与え、高耐熱エンジンコンポーネントが重力ダイキャストプロセスで製造されるようにすることである。」

(イ)上記(ア)によれば、本願補正発明1が解決しようとする課題(以下「課題」という。)は、「高耐熱エンジンコンポーネントが重力ダイキャストプロセスで製造されるようにすること」であると認められる。

イ 発明の詳細な説明の記載及び課題を解決し得ると認識できる範囲について
(ア)発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0021】
選択されたアルミニウム合金は、重力ダイキャストプロセスでエンジンコンポーネントを製造することを可能にする。それは、多くの微細分散量を有し、高い耐熱性を有し、熱安定相および良好なミクロ構造を有する。本願発明に従う合金の選択は、ピストンおよび同様のエンジンコンポーネントを製造するための周知の方法に比べ、例えば、酸化または一次相においてクラック発生およびクラック伝搬に対する感受性を減少させ、ひいては、TMF-HCF寿命を増加させる。
【0022】
本願発明に従って製造されるピストン、本願発明に従う合金において、特に比較的低いシリコン含有量は、ピストンのボウルリム領域において比較的少なくかつ微細な一次シリコンの存在を許す。それが高い熱負荷に晒され、その結果、合金は、本願発明に従って製造されるピストンの特に良好な特性を生じさせる。したがって、高い耐熱性のエンジンコンポーネントが重力ダイキャストプロセスで製造可能である。本願発明に従う、銅、ジルコニウム、バナジウムおよびチタンの含有量、特に、比較的高いジルコニウム、バナジウムおよびチタンの含有量は、強度増加沈殿物の有利な性質を生じさせるが、大きい板状の金属間相が生じることはない。本願発明に従う範囲内でCu含有量を意図的に選択することによって特定のアプリケーションに対する合金特性を最適化することが可能である。より多くのCu含有量は、特に、合金の耐熱性を改善する。一方、より少ないCu含有量は、熱伝導性を増加させることができ、合金の密度を減少させることができる。さらに、本願発明に従うコバルトおよびリンの量は、コバルトが合金の硬度および熱強度を増加させ、および、一次シリコン沈殿用の核形成剤としてリンが特に微細でかつ均一に分散する方法でこれらが沈殿することに寄与するという点で有利である。ジルコニウムおよびコバルトはさらに、上昇した温度で、特にボウルリム領域において、強度の増加に寄与する。
【0023】
有利な方法で、上述したアルミニウム合金は好適には0.6重量%から0.8重量%のマグネシウムを含む。それは、好適な濃度範囲において、過剰な酸化物が形成されることなく、強度増強二次相の効果的形成に特に寄与する。代替的または付加的に、合金は、好適に、0.4重量%から0.6重量%の鉄をさらに含み、それは、上述した濃度範囲において板状相の形成が制限された状態で、鋳造ダイに突き刺ささる合金の傾向を有利に減少させる。
【0024】
上述したアルミニウム合金は、カルシウム含有量が約0.0005重量%以下に制限された状態で、さらに約0.0005から、好適には約0.006から、より好適には約0.01重量%から、約0.5まで、好適には約0.1重量%未満のベリリウム(Be)を含む。ベリリウムの添加は、合金の特に良好な可鍛性を生じさせる。溶液にそれらを添加すると、溶液上に厚い酸化物被膜が生成され、それが拡散バリアとして機能して、溶液の酸化および水素取り込みを減少させる。また、アルミニウムおよびマグネシウムの外部への拡散を防止することも可能である。上記効果は、均熱炉が使用される際に特に関連性がある。付加的に、流動性を改善する微細/薄い酸化層は、例えばダイの内部で鋳造中に凝固先端で形成される。したがって、全体として、付加的な補助手段無しで、薄い壁および微細に成形された構造がよりよく充填され得る。付加的に、ベリリウムの添加は、全体として合金の強度特性を改善する。熟成中、より高い密度は強度増加沈殿物上で達成可能である。ベリリウムの添加は、溶液の酸化を減少させることにより存在するアルミニウム合金の有利な効果を補い、特に、重力ダイキャストプロセスにおいて改良された可鍛性に寄与し、合金の強度を改善する。同時に、カルシウムの含有量が上記低レベルに制限されることが好ましい。より多い量のカルシウムの同時存在は、ベリリウムの有利な効果を弱め、酸化を強化しうる。この点に関して、可能な最低含有量のカルシウムが有利である。
【実施例】
【0025】
本願発明の特に好適なアルミニウム合金A、B、CおよびDが以下の表に示されている
(表中の単位は重量%)
【表1】



「【0030】
アルミニウム合金は、特に、高負荷のボウルリム領域内において、低含有量のポアおよび含有物および/または少量の一次シリコンを有する微細なミクロ構造を有利に示す。この点に関して、低含有量のポアは、好適には気孔率が0.01未満である意味に理解されるべきであり、少量の一次シリコンは1%未満の意味に理解されるべきである。さらに、微細なミクロ構造とは、一次シリコンの平均長が約5μm未満であり、その最大長が約10μm未満であり、金属間相および/または一次沈殿物の平均長が約30μm未満から50μm以下であるとして記述可能である。微細なミクロ構造は、熱機械疲労強度を改善することに特に寄与する。一次相のサイズを制限することは、クラック発生およびクラック伝搬の感受性を減少させ、ひいては、TMF-HFC寿命を有意に増加させる。ポアまたは含有物のノッチ効果により、それらの含有量をできるだけ低く維持することは特に有利である。」

(イ)発明の詳細な説明には、前記ア(イ)の課題が解決されることに関し、具体的に、特定の成分組成のアルミニウム合金を重力ダイキャストプロセスで製造したものについて、その耐熱性を評価した記載はない。
上記【0025】の表1に実施例として記載されるアルミニウム合金A?Dは、それぞれの成分組成について、各成分の含有量の上限下限の値が記載されているにとどまり、各成分含有量の特定量ずつを組み合わせた特定の成分組成(例、シリコン9.5重量%、ニッケル2.5重量%、・・・カルシウム0.0001重量%)からなる具体的なアルミニウム合金として記載されているものではない。
すなわち、発明の詳細な説明から、前記ア(イ)の課題を解決し得ることについて、具体的にどのような成分含有量の組み合わせからなるアルミニウム合金が、実際に「重力ダイキャストプロセスで製造」可能であるのか、そして、それが定量的にどの程度の「高耐熱」であるかを、把握することができない。

(ウ)また、上記【0021】?【0024】には、アルミニウム合金を構成する各成分それぞれの特性が個別に記載されているが、これらが合金として一体化した具体的な成分組成のアルミニウム合金が、「重力ダイキャストプロセスで製造」可能で、「高耐熱」であることを合理的に理解することはできない。
さらに、上記【0030】を参酌しても、「少量の一次シリコンを有する微細なミクロ構造」、「少量の一次シリコンは1%未満の意味」、「微細なミクロ構造とは、一次シリコンの平均長が約5μm未満であり、その最大長が約10μm未満であり、金属間相および/または一次沈殿物の平均長が約30μm未満から50μm以下である」、「微細なミクロ構造は、熱機械疲労強度を改善することに特に寄与する。一次相のサイズを制限することは、クラック発生およびクラック伝搬の感受性を減少させ、ひいては、TMF-HFC寿命を有意に増加させる。」と記載されてはいるものの、「シリコン」成分について記載されているにとどまっており、当該記載からも、具体的に特定の成分組成のアルミニウム合金が、「重力ダイキャストプロセスで製造」可能で、「高耐熱」であることを、理解することができない。
よって、発明の詳細な説明から、前記ア(イ)の課題を解決し得ることについて、具体的にどのような成分組成のアルミニウム合金が、「重力ダイキャストプロセスで製造」可能で、「高耐熱」であるか、把握することができない。

(エ)ここで、合金は、その構成(成分及び組成範囲等)から、どのような特性を有するかを予測することは困難であり、それぞれの合金ごとに、その成分組成の一つでも含有量等が異なれば、全体の特性が異なることが通常であり、ある成分の含有量を増減したり、その他の成分を更に添加したりすると、その合金全体の特性が大きく変わるものであることが技術常識である。(要すれば、平成24年(行ケ)第10151号、平成23年(行ケ)第10100号を参照されたい。)

(オ)上記(エ)の技術常識に照らして、発明の詳細な説明の記載を見るに、上記(イ)の検討のとおり、具体的な成分組成のアルミニウム合金が前記ア(イ)の課題を解決し得る開示はなく、また、上記(ウ)の検討のとおり、一つ一つの成分の特性が記載されるにとどまり、具体的にどのような成分組成で一体化したアルミニウム合金が前記ア(イ)の課題を解決し得るかを把握することはできない。

(カ)以上のとおり、当技術分野における技術常識に照らしても、発明の詳細な説明の記載から、上記アの課題を解決し得る範囲を認定することができない。

ウ 本願補正発明1が課題を解決し得るかについて
前記イ(カ)のとおり、発明の詳細な説明の記載から、前記ア(イ)の課題を解決し得る範囲を認定することができないから、本願補正発明1が、前記ア(イ)の課題を解決し得ると理解することはできない。
よって、本願補正発明1は、発明の詳細な説明に記載した発明であるということはできず、特許法第36条第6項第1号に適合しないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 本願発明
以上のとおり、本件補正(平成30年 3月22日に提出された手続補正書による手続補正)は却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、平成29年 8月15日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?27に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項2に係る発明は、前記第2の1において本件補正前の請求項2として記載された、次のとおりのものである(以下、「本願発明2」という。)。
「【請求項2】
アルミニウム合金が重力鋳造法で鋳造されて、エンジンコンポーネントを製造する方法であって、
前記アルミニウム合金は、添加物として
シリコン: 7重量%から14.5重量%未満
ニッケル: 1.2重量%より大きく4重量%以下
銅: 3.7重量%より大きく10重量%未満
コバルト: 1重量%まで
マグネシウム: 0.1重量%から1.5重量%
鉄: 0.1重量%から0.7重量%以下
マンガン: 0.1重量%から0.7重量%以下
ジルコニウム: 0.1重量%より大きく0.5重量%未満
バナジウム: 0.1重量%以上、0.3重量%以下
チタン: 0.05重量%から0.5重量%
リン: 0.004重量%から0.05重量%以下
ベリリウム: 0.0005重量%から0.5重量%、および
カルシウム: 0.0005重量%まで
のみが添加され、
残部がアルミニウムおよび不可避な不純物からなる、ことを特徴とする方法。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?27に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した発明ではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさず、特許を受けることができない、というものである。

3 本願発明2のサポート要件について
前記第2のとおり、発明の詳細な説明の記載から、前記第2の3(2)ア(イ)の課題を解決し得る範囲を認定することができない以上、本願発明2が、同ア(イ)の課題を解決し得るということはできない。
よって、本願発明2は、発明の詳細な説明に記載した発明ではない。

なお、審判請求人は、上申書において「明細書中で開示した文献に記載された内容を従来技術の欄に追加する補正を行う容易があります」と述べ、補正の機会を与えて欲しい旨述べるが、本件の場合、当該内容を補正しても本願のサポート要件が治癒することのないことは、前記説示内容に照らして明らかであるから、補正の機会を与えることなく、本審決とするものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した発明ではないから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合せず、特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明に論及するまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-03-12 
結審通知日 2019-03-19 
審決日 2019-04-01 
出願番号 特願2016-567573(P2016-567573)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 毅  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 中澤 登
結城 佐織
発明の名称 エンジンコンポーネントを製造する方法、エンジンコンポーネント、および、アルミニウム合金の使用  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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