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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B21D
管理番号 1354560
審判番号 不服2018-12416  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-17 
確定日 2019-09-17 
事件の表示 特願2014-547060「拡管プラグ及び金属管の拡管方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年5月22日国際公開、WO2014/077382、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)11月18日(優先権主張 平成24年11月19日)を国際出願日とする出願であって、平成29年11月1日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年1月11日に意見書が提出されたが、平成30年6月13日付けで拒絶査定(以下「原査定」という)がされ、これに対し、平成30年9月17日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願請求項1-8に係る発明は、以下の引用文献1-2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.特開2008-93713号公報
2.特開2004-10923号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって、請求項1の「PI_(G)/PI_(D)」について、下限値として「1.5以上」を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、当初明細書の段落【0024】にも「かかる観点から、PI_(G)/PI_(D)は、・・・1.5以上がより好ましく、・・・」と記載されているから、新規事項を追加するものではない。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-8に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1-8に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」-「本願発明8」という)は、平成30年9月17日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
金属管内に該金属管の内径よりも大きな外径を有する拡管プラグを強制的に挿入して上記金属管の外径を拡張させるために用いられる拡管プラグであって、
該拡管プラグは、プラグ本体部と、該プラグ本体部の表面に被覆された下地層と、該下地層上に被覆されたダイヤモンドライクカーボン膜とを有し、
上記下地層は、Si、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wから選ばれる1種または2種以上からなり、
上記ダイヤモンドライクカーボン膜中の水素原子数の割合A_(H)(atm%)と炭素原子数の割合A_(C)(atm%)との比A_(H)/A_(C)が、平均で0.03以上かつ0.15以下であり、
上記ダイヤモンドライクカーボン膜のラマンスペクトルにおけるGバンドのピーク強度PI_(G)とDバンドのピーク強度PI_(D)との比PI_(G)/PI_(D)が1.5以上3未満であることを特徴とする拡管プラグ。
【請求項2】
上記ダイヤモンドライクカーボン膜中の上記水素原子数の割合及び上記炭素原子数の割合は、上記ダイヤモンドライクカーボン膜のグロー放電発光分光分析により測定された値であることを特徴とする請求項1に記載の拡管プラグ。
【請求項3】
板状の基材上に形成したダイヤモンドライクカーボン膜に、2μlのイソパラフィン又はα-オレフィンを滴下してから上記イソパラフィン又は上記α-オレフィンが直径15mmに広がるまでに要する時間が80秒以内となる膜が上記拡管プラグ用の上記ダイヤモンドライクカーボン膜として用いられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の拡管プラグ。
【請求項4】
上記金属管は、アルミニウム管又はアルミニウム合金管であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の拡管プラグ。
【請求項5】
温度40℃における動粘度が0.5?20cStである潤滑油を上記金属管の少なくとも内周面に存在させた状態で用いられることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の拡管プラグ。
【請求項6】
プレート状のフィン材に設けた貫通穴内に配置した冷媒配管用の上記金属管内に挿入するために用いられることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の拡管プラグ。
【請求項7】
金属管内に請求項1?6のいずれか1項に記載の拡管プラグを強制的に挿入して上記金属管の外径を拡張させる金属管の拡管方法であって、
上記金属管と上記拡管プラグとの間に、温度40℃における動粘度が0.5?20cStである潤滑油を存在させた状態で上記金属管の拡管を行うことを特徴とする金属管の拡管方法。
【請求項8】
上記潤滑油の主成分は、イソパラフィン又はα-オレフィンであることを特徴とする請求項7に記載の金属管の拡管方法。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は理解の便のため当審で付与)
(1)「【0001】
本発明は、金属管の拡管方法、それに用いる拡管冶具、及びそれに用いる潤滑油に関する。」
(2)「【0089】
(実施例1)
本例は、本発明にかかる実施例及び比較例について、図1を用いて説明する。
本例では、図1に示すごとく、金属管(アルミニウム管)1の内側に内径Dより大きい外径dを有する拡管冶具2を強制的に挿入して外径を拡張させるアルミニウム管1の拡管を行った。また、アルミニウム管と拡管冶具との間は、潤滑油を用いて潤滑した。
【0090】
上記アルミニウム管1としては、JIS H 4080に規定される外径8mm、内径6.8mm、長さ500mmのA1050を準備した。
また、拡管冶具2として、超硬合金で作製した外径7.2mmの拡管冶具の外周表面20に、表1に示す表面処理を施したものを準備した。拡管冶具2は、金属管1の拡管に実際に寄与する略球状の本体部21と、拡管冶具2を金属管1内に侵入させるために本体部21から延設された上記本体部21よりも小径の軸部22とを有する。
【0091】
【表1】

【0092】
表1の表面処理A1?表面処理A6の下地処理層は、イオン化蒸着法を用いて形成した。
具体的には、A1?A6の下地処理層は全て金属クロム層からなる。
【0093】
表1の表面処理A1?表面処理A5の表面処理層は、イオン化蒸着法を適用したDLC処理により、出発原料としてベンゼンを用いて形成した。これらにより作製された拡管冶具は、本体部と該本体部の外周表面20にDLC処理により形成された表面処理層を有し、該表面処理層は、非晶質のいわゆるダイヤモンドライクカーボン被膜である。」

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という)が記載されていると認められる。
「金属管1の内側に該金属管の内径Dより大きい外径dを有する拡管治具2を強制的に挿入して上記金属管の外径を拡張させるために用いられる拡管治具2であって、
該拡管治具2は、本体部21と、該本体部21の外周表面20にイオン化蒸着法で形成された下地処理層と、該下地処理層上にDLC処理で形成されたダイヤモンドライクカーボン被膜とを有し、
上記下地処理層は金属クロム層からなる拡管治具2。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2の段落【0013】及び【0037】の記載からみて、当該引用文献2には、「ダイヤモンドライクカーボン層のラマンスペクトル分析によるラマンスペクトルをピーク分離して得られるGバンドを表すピークの面積強度I(G)とDバンドを表すピークの面積強度I(D)との比」についての技術的事項が記載されていると認められる。
また、引用文献2の段落【0014】及び【0041】の記載からみて、当該引用文献2には、「ダイヤモンドライクカーボン層(DLC皮膜)の水素含有量が3atm%?15atm%のもの」についての技術的事項が記載されていると認められる。

3.その他の文献について
新たに引用する特開2006-209965号公報(以下「引用文献3」という)の段落【0001】、【0029】、【0053】及び【0102】-【0104】には、「HDD(ハードディスクドライブ)等の磁気ディスクにプラズマCVD法によって形成されるアモルファスカーボン(ダイヤモンドライクカーボン)の保護層から得られたラマンスペクトルから蛍光(フォトルミネッセンス)を除いたスペクトルにおける、Dピーク値とGピーク値との比D/Gが0.58?0.62のもの」が記載されている。
そして、上記の比D/Gの逆数であるG/Dが1.61?1.72となることも、当業者であれば当然理解するものである。

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
引用発明における「金属管1」、「拡管治具2」、「本体部21」、「外周表面20」、「下地処理層」、「ダイヤモンドライクカーボン被膜」は、それぞれ本願発明1における「金属管」、「拡管プラグ」、「プラグ本体部」、「表面」、「下地層」、「ダイヤモンドライクカーボン膜」に相当する。
そして、引用発明の「金属管1の内側」は本願発明1の「金属管内」に相当し、同様に、「金属管の内径Dより大きい外径dを有する」ことは「金属管の内径よりも大きな外径を有する」ことに、それぞれ相当する。
また、引用発明の「イオン化蒸着法で形成された」こと及び「DLC処理で形成された」ことは、本願発明1において層や膜が「被覆された」ことに相当する。
さらに、引用発明の「下地処理層は金属クロム層からなる」ことは、本願発明1の「下地層は、Si、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wから選ばれる1種または2種以上からな」ることに含まれるものである。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
<一致点>
「金属管内に該金属管の内径よりも大きな外径を有する拡管プラグを強制的に挿入して上記金属管の外径を拡張させるために用いられる拡管プラグであって、
該拡管プラグは、プラグ本体部と、該プラグ本体部の表面に被覆された下地層と、該下地層上に被覆されたダイヤモンドライクカーボン膜とを有し、
上記下地層は、Si、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wから選ばれる1種または2種以上からなる拡管プラグ。」
<相違点1>
本願発明1は、「上記ダイヤモンドライクカーボン膜中の水素原子数の割合A_(H)(atm%)と炭素原子数の割合A_(C)(atm%)との比A_(H)/A_(C)が、平均で0.03以上かつ0.15以下であ」るのに対し、引用発明は、表面処理層に含有される水素量が5?15%程度である点。
<相違点2>
本願発明1では、「上記ダイヤモンドライクカーボン膜のラマンスペクトルにおけるGバンドのピーク強度PI_(G)とDバンドのピーク強度PI_(D)との比PI_(G)/PI_(D)が1.5以上3未満である」のに対し、引用発明は、ラマンスペクトルにおけるGバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度については不明である点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
相違点2に係る本願発明1の「上記ダイヤモンドライクカーボン膜のラマンスペクトルにおけるGバンドのピーク強度PI_(G)とDバンドのピーク強度PI_(D)との比PI_(G)/PI_(D)が1.5以上3未満である」という事項は、上記引用文献2には記載されていない。引用文献2に記載されているのは、あくまで、ダイヤモンドライクカーボン層のGバンド及びDバンドの面積強度の比であって、Gバンド及びDバンドのピーク強度比PI_(G)/PI_(D)についてではない。
また、上記引用文献3には、アモルファスカーボン(ダイヤモンドライクカーボン)の保護層について、Gバンド及びDバンドのピーク強度比であるG/Dが1.61?1.72のものが示されている。しかし、引用文献3に記載された保護層は、HDD(ハードディスクドライブ)等の磁気ディスクに形成されるもので、当該保護層の特にLUL耐久性を向上させる効果を奏するためのものであるから、上記ピーク強度比を有する当該保護層が存在していたとしても、これを金属管を拡張するための拡管プラグである引用発明のダイヤモンドライクカーボン被膜に適用する動機はない。
さらに、相違点2に係る本願発明1の「上記ダイヤモンドライクカーボン膜のラマンスペクトルにおけるGバンドのピーク強度PI_(G)とDバンドのピーク強度PI_(D)との比PI_(G)/PI_(D)が1.5以上3未満である」という事項が、拡管プラグの技術分野で周知である、又は、設計的事項の範疇に属することの根拠も不明である。そして、当該事項によって本願発明1が、金属磨耗粉が拡管プラグに凝着し易くならない又はDLC膜が磨耗しにくいという効果を有するものである。
よって、相違点2については、引用発明、引用文献2及び3に記載された事項から、当業者が容易になし得たものとは認められない。
したがって、上記相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明、引用文献2及び3に記載された事項に基づいて、容易に発明することができたものとはいえない。

2.本願発明2-6について
本願発明2-6は、本願発明1を引用する「拡管プラグ」に係る発明であり、本願発明1の「PI_(G)/PI_(D)」の下限値が「1.5以上」であるという事項と同一の構成を有するものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2及び3に記載された事項に基づいて容易に発明することができたものとはいえない。

3.本願発明7及び8について
本願発明7及び8は、金属管内に本願発明1-6の「拡管プラグ」を強制的に挿入して上記金属管の外形を拡張させる金属管の拡管方法に係る発明であって、本願発明1の「PI_(G)/PI_(D)」の下限値が「1.5以上」であるという事項に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2及び3に記載された事項に基づいて容易に発明することができたものとはいえない。

第7 原査定について
本願発明1-8は、拒絶査定において引用された引用文献1及び2に基づいて、容易に発明することができたものとはいえないから、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明1-8は、当業者が引用発明、引用文献2及び3に記載された事項に基づいて容易に発明することができたものではない。
したがって、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-09-03 
出願番号 特願2014-547060(P2014-547060)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 奥隅 隆  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 栗田 雅弘
小川 悟史
発明の名称 拡管プラグ及び金属管の拡管方法  
代理人 特許業務法人あいち国際特許事務所  

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