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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録(定型) F25B |
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管理番号 | 1354780 |
審判番号 | 不服2018-15289 |
総通号数 | 238 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-10-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-11-19 |
確定日 | 2019-09-24 |
事件の表示 | 特願2015-161183「冷却装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月23日出願公開、特開2017- 40396、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年8月18日の出願であって、平成29年7月24日付けで拒絶の理由が通知され、平成29年9月27日に意見書が提出され、平成30年2月9日付けで拒絶の理由が通知され、平成30年4月17日に意見書が提出されたところ、平成30年8月15日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、平成30年11月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 第2 原査定の概要 平成30年8月15日付けの拒絶査定(以下「原査定」という)の概要は次のとおりである。 (1)この出願の請求項1、2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (2)この出願の請求項3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1、2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (3)この出願の請求項4、5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1?3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2008-002706号公報 2.特開2003-322421号公報 3.特開2015-129598号公報 第3 本願発明 本願請求項1-5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりである。 「【請求項1】 二酸化炭素からなる冷媒を圧縮するための圧縮機(5)と、 前記圧縮機(5)で圧縮された冷媒を冷却用流体によって冷却するためのガスクーラー(6)と、 前記ガスクーラー(6)から出力された冷媒を絞り膨張させるための膨張弁(7)と、 前記膨張弁(7)を通過して温度が低下した冷媒と冷却対象との熱交換を行い、熱交換後の冷媒を前記圧縮機(5)に戻すように配置された熱交換器(8)と、 前記圧縮機(5)、前記ガスクーラー(6)、前記膨張弁(7)および前記熱交換器(8)を環状に接続し、冷媒を循環させる循環路(3)と、 前記圧縮機(5)の入力側の冷媒の温度を検出する第1温度検出器(311)と、 前記圧縮機(5)の入力側の冷媒の圧力を検出する第1圧力検出器(321)と、 前記圧縮機(5)から出力された冷媒の圧力である高圧側圧力を検出する第2圧力検出器(322)と、 前記ガスクーラー(6)から出力された冷媒の温度を検出する第2温度検出器(312)と、 前記ガスクーラー(6)から出力された冷媒の温度が所定の目標温度となるように冷却用流体の流量を制御する冷媒温度制御部(11)と、 前記第1温度検出器(311)の検出値、前記第1圧力検出器(321)の検出値および冷媒の前記目標温度に応じて、冷却効率が最大となるような冷媒の高圧側圧力を最適圧力として求め、前記第2圧力検出器(322)の検出値が当該最適圧力となるように前記膨張弁(7)の開度を制御する冷却効率制御部(12)と、 前記冷却対象の温度が目標値となるように、前記圧縮機(5)の回転速度を制御する温度制御部(13)とを有する冷却装置。」 なお、本願発明2?5の概要は以下のとおりである。 本願発明2は、本願発明1の冷却効率制御部12を減縮した発明である。 本願発明3は、本願発明2の冷却装置に第3温度検出器を付加して冷却効率制御部12をさらに減縮した発明である。 本願発明4は、本願発明1?3の冷却装置にバイパス路4を付加して減縮した発明である。 本願発明5は、本願発明4のバイパス路4を更に減縮した発明である。 第4 引用例 原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開2008-2706号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 「【0001】 本発明は、車両の空調システムに組み込まれる冷凍機に係わり、特に、冷媒に二酸化炭素を使用する冷凍機に関する。」 「【0014】 図1は、車両用空調システムに組み込まれる冷凍機を概略的に示し、この冷凍機は冷媒として、例えば二酸化炭素を使用する。この種の冷凍機の基本構成は公知であり、それ故、冷凍機の基本構成については以下に簡単に説明する。 冷凍機は冷媒の循環経路2を備え、この循環経路2は高圧経路部分2aと、低圧経路部分2bとに区分される。高圧経路部分2aには可変容量型のコンプレッサ4が介挿され、このコンプレッサ4は電磁クラッチ6を介してエンジン8に接続され、このエンジン8からの動力が電磁クラッチ6を経て伝達されることで駆動される。 【0015】 また、高圧経路部分2aにはガスクーラ10が介挿されており、このガスクーラ10は放熱器であって、コンプレッサ4にて圧縮され、そして、コンプレッサ4から吐出された高圧側冷媒を冷却する。 一方、低圧経路部分2bには冷媒の循環方向に蒸発器12及びアキュムレータ14が順次介挿され、そして、低圧経路部分2bの上流端と高圧経路部分2aの下流端との間には膨張手段としての電気式の膨張弁16が配置されている。この膨張弁16はその弁口(開口)の開度、つまり、その弁開度が調整可能なものである。なお、アキュムレータ14は蒸発器12から流出した冷媒に対して気液分離作用をなし、その気相部分のみをコンプレッサ4に向けて供給する。 【0016】 更に、ガスクーラ10と膨張弁16との間における高圧経路部分2a及びアキュムレータ14とコンプレッサ4との間における低圧経路部分2bにて、これら高圧経路部分2a及び低圧経路部分2bはそれらの一部が互いに隣接して配置され、内部熱交換器18を構成している。 上述したコンプレッサ4の吐出量、電磁クラッチ6の断続及び膨張弁16の弁開度はコントローラ20からの制御信号を受けて制御され、このため、コントローラ20は各種のセンサやスイッチ類が電気的に接続されている。なお、コントローラ20はマイクロプロセッサ(MPU)、ROM,RAM等の記憶装置、入出力ポート(I/O)及び種々のドライバを含む。 【0017】 具体的には、センサには、蒸発器12を通過した後の調和空気、つまり、車両の車室内に供給される調和空気の温度を検出する空気温度センサ22、コンプレッサ4の入口側(吸入側)での低圧側冷媒の圧力及び温度をそれぞれ検出する冷媒圧力センサ24及び冷媒温度センサ26、ガスクーラ10の出口での高圧側冷媒の圧力及び温度をそれぞれ検出する冷媒圧力センサ28及び冷媒温度センサ30があり、そして、スイッチ類には車室内の温度を設定する室温設定スイッチ32及び空調システムのオンオフを切り換えるA/Cスイッチ34がある。」 「【0019】 次に、コントローラ20は、電磁クラッチ6のためのクラッチ制御(ステップS3)、コンプレッサ4のための吐出量制御(ステップS4)、そして、膨張弁16のための弁開度制御(ステップS5)を順次実施する。 クラッチ制御は、前述したA/Cスイッチ34からの切換信号に基づいて実施され、A/Cスイッチ34がオン操作されたとき、コントローラ20は電磁クラッチ6に制御信号を送信して電磁クラッチ6を繋ぎ、電磁クラッチ6を経てエンジン8の動力をコンプレッサ4に伝達させる。従って、この時点から、コンプレッサ4が駆動され、循環経路2内にて冷媒が循環し、車室内の冷房が開始される。 【0020】 吐出量制御は図3に具体的に示されている。 吐出量制御では、先ず、前述の室温設定スイッチ32からの設定信号に基づき、調和空気の目標温度T_(0)が読み込まれ(ステップS40)、そして、空気温度センサ22からの検出信号に基づき調和空気の実温度T_(A)が読み込まれる(ステップS41)。この後、コントローラ20は、目標温度T_(0)及び実温度T_(A)に基づき、コンプレッサ4の目標吐出量Q_(0)を演算し(ステップS42)、そして、目標吐出量Q_(0)に応じたコンプレッサ4の制御量を出力する。従って、コンプレッサ4はその実吐出量を目標吐出量Q_(0)に一致させるべく、その駆動が制御され、ステップS4が繰り返して実施されることで、車室内の温度は目標温度T_(0)に維持される。 【0021】 なお、上述の吐出量制御が実施されるにあたり、コントローラ20は膨張弁16の弁開度調整をも併せて実施する。具体的には、膨張弁16の弁開度の初期値は、室温設定スイッチ32にて設定された目標温度T_(0)により決定され、この後、弁開度はコンプレッサ4における吐出圧の上昇に伴い、予め実験により定められている吐出圧-弁開度マップに従って調整される。 【0022】 次の弁開度制御は、上述の吐出量が所定時間実施された後、一定の間隔毎に実施されるものであり、その詳細が図4に示されている。 弁開度制御にて、コントローラ20は先ず、コンプレッサ(コンプ)の駆動が開始(オン)されているか否かを判別し(ステップS50)、ここでの判別結果が真(Yes)の場合、コンプレッサの吐出量が最大吐出であるか否かを判別する(ステップS51)。そして、ここでの判別結果が偽(No)の場合、コントローラ20は更に、循環経路2の高圧経路部分2aを流れる冷媒、つまり、高圧側冷媒の圧力がその臨界圧以上であるか否かを判別する(ステップS52)。ここでの判別は、前述の冷媒圧力センサ28からの検出信号に基づいて実施され、冷媒圧力センサ28はガスクーラ10の出口での圧力を高圧側冷媒の圧力P_(H)として検出する。 【0023】 ステップS52の判別結果が真の場合、つまり、高圧側冷媒が超臨界状態にあると、コントローラ20は高圧側冷媒の目標温度TT_(G)を演算し(ステップS60)、このステップの詳細は図5に示されている。 高圧側冷媒の目標温度TT_(G)を演算するにあたり、コントローラ20は循環経路2の低圧経路部分2b内を流れる冷媒、つまり、低圧側冷媒の圧力P_(S)を読み込む(ステップS61)。具体的には、ここでは、前述の冷媒圧力センサ24からの検出信号が読み込まれ、この冷媒圧力センサ24はコンプレッサ4に吸引される低圧側冷媒の圧力を圧力P_(S)として検出する。 【0024】 次に、コントローラ20は低圧側冷媒の過熱度(SH)を検出し(ステップS62)、そして、圧力P_(S)及び過熱度(SH)に基づいて、最適なCOPを達成するための最適線を選定する(ステップS63)。ここで、最適線とは、最適なCOPを達成するためのガスクーラ10の出口での高圧側冷媒の圧力P_(H)とその温度T_(G)との関係を示し。具体的には、図6は過熱度(SH)が0であるとき、低圧側冷媒の圧力P_(S)をパラメータとした最適線の一例を表し、これに対し、図7は圧力P_(S)が一定(P_(S)=3.5MPa)であるとき、過熱度(SH)をパラメータとした最適線の一例を表す。 【0025】 従って、コントローラ20は圧力P_(S)及び過熱度(SH)から最適線の1つを選出でき、そして、選出した最適線と読み込んだ高圧側冷媒の圧力P_(H)(ステップS64)とに基づき、最適なCOPを達成する高圧側冷媒の目標温度TT_(G)を設定する(ステップS65)。 なお、図6及び図7から明らかなように、最適線で表される高圧側冷媒の圧力P_(H)及び温度T_(G)は、圧力P_(S)や過熱度(SH)の相違に対して余り変化しないリニアな関係であるから、圧力P_(S)や過熱度(SH)を無視することも可能であり、この場合、目標温度TT_(G)は圧力P_(H)に基づき、次式から演算することも可能である。 【0026】 TT_(G)=A×P_(H)+B ここで、A,Bは定数である。 上述したようにして高圧側冷媒の目標温度TT_(G)が設定されると、コントローラ20は次のステップS53(図4参照)にて、目標温度TT_(G)に基づいて目標弁開度O_(E)を演算する。具体的には、ここでは、目標温度TT_(G)と高圧側冷媒の実温度TG_(A)との間の偏差が演算され、この偏差の解消に必要な膨張弁16の目標弁開度O_(E)が演算される。なお、実温度TG_(A)は前述の冷媒温度センサ30により検出される。 【0027】 この後、コントローラ20は、目標弁開度O_(E)に現在の実弁開度を一致させるべく、膨張弁16に制御信号を送信し、膨脹弁16を駆動する(ステップS54)。 より詳しくは、図8から明らかなように膨脹弁16の目標弁開度O_(E)は、目標温度TT_(G)に対して高圧側冷媒の実温度TG_(A)が高ければ、現弁開度を減少する閉方向に設定され、逆に、目標温度TT_(G)に対して高圧側冷媒の実温度TG_(A)が低ければ、現弁開度を増加する開方向に設定される。」 「【0037】 再度、図4の弁開度制御ルーチンを参照すれば、ステップS50の判別結果が偽の場合、つまり、コンプレッサ4の吐出量が最小値若しくはその近傍に維持されている状況にあるとき、膨脹弁16の弁開度は全開に設定され(ステップS56)、ステップS54経て、膨脹弁16はその弁開度を全開させるべく駆動される。 一方、ステップS51の判別結果が真となる場合、つまり、コンプレッサ4の吐出量が許容最大値若しくはその近傍に維持されている状況にあるとき、ステップS70にて、高圧側冷媒の目標圧TP_(G)が演算され、その詳細を図12に示す。 【0038】 目標圧TP_(G)の演算に際しては、前述した目標温度TT_(G)の演算ルーチンでのステップS61?S63と同様なステップS71?S73が実施され、そして、選定した最適線及び温度T_(G)(ステップS74)とに基づき、目標圧TP_(G)が設定される(ステップS75)。 なお、目標圧TP_(G)は次式から演算することができる。 (当審注:圧力T_(G)は温度T_(G)の誤記と認める。) 【0039】 TP_(G)=C×T_(G)+D なお、C,Dは定数である。 この後、次のステップS57では、目標圧TG_(P)に基づいて膨脹弁16の目標弁開度O_(E)が演算され、ステップS54の実施を経て、膨脹弁16の弁開度は目標弁開度O_(E)に一致すべく小刻みに変化される。」 上記の記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。 「冷媒に二酸化炭素を使用する冷凍機であり、 高圧経路部分2aと、低圧経路部分2bとに区分される循環経路2と、 高圧経路部分2aに介挿され、高圧側冷媒を圧縮するコンプレッサ4と、 高圧経路部分2aに介挿され、コンプレッサ4から吐出された高圧側冷媒を冷却するガスクーラ10と、 低圧経路部分2bの上流端と高圧経路部分2aの下流端との間に配置された膨張弁16と、 低圧経路部分2bに介挿され、車両の車室内に供給される調和空気が通過する蒸発器12と、 コンプレッサ4の入口側(吸入側)での低圧側冷媒の圧力及び温度をそれぞれ検出する冷媒圧力センサ24及び冷媒温度センサ26と、 ガスクーラ10の出口での高圧側冷媒の圧力及び温度をそれぞれ検出する冷媒圧力センサ28及び冷媒温度センサ30と、 室温設定スイッチ32からの設定信号に基づき、調和空気の目標温度T_(0)が読み込まれ、空気温度センサ22からの検出信号に基づき調和空気の実温度T_(A)が読み込まれ、目標温度T_(0)及び実温度T_(A)に基づき、コンプレッサ4の目標吐出量Q_(0)を演算し、目標吐出量Q_(0)に応じてコンプレッサ4を制御する吐出量制御を行い、併せて、 コンプレッサ4が最大吐出量でない場合には、冷媒圧力センサ24の圧力Psと過熱度(SH)に基づいて、最適なCOPを達成するための最適線を選定し、最適線と読み込んだ高圧側冷媒の圧力P_(H)に基づき目標温度TT_(G)を設定し、高圧側冷媒が目標温度TT_(G)となるように膨張弁16を制御し、 コンプレッサ4が最大吐出量である場合には、同様に最適線を選定し、最適線と読み込んだ高圧側冷媒の温度T_(G)に基づき目標圧力TP_(G)を設定し、高圧側冷媒が目標圧力TP_(G)となるように膨張弁16を制御する、弁開度制御を行うコントローラ20とを有する冷凍機。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「冷媒に二酸化炭素を使用する冷凍機」の「高圧経路部分2aに介挿され、高圧側冷媒を圧縮するコンプレッサ4」は、本願発明1の「二酸化炭素からなる冷媒を圧縮するための圧縮機(5)」に相当する。 イ 引用発明の「ガスクーラ10」は、高圧側冷媒を冷却するものであり、該冷却が冷却用流体によりなされていることは、自明な事項である。 よって、引用発明の「高圧経路部分2aに介挿され、コンプレッサ4から吐出された高圧側冷媒を冷却するガスクーラ10」は、本願発明1の「前記圧縮機(5)で圧縮された冷媒を冷却用流体によって冷却するためのガスクーラー(6)」に相当する。 ウ 引用発明の「膨張弁16」が、高圧側冷媒を冷却させる「ガスクーラ10」から出力された冷媒を絞り膨張させるためのものであることは、自明な事項である。 よって、引用発明の「低圧経路部分2bの上流端と高圧経路部分2aの下流端との間に配置された膨張弁16」は、本願発明1の「前記ガスクーラー(6)から出力された冷媒を絞り膨張させるための膨張弁(7)」に相当する。 エ 引用発明の「車両の車室内に供給される調和空気」は、本願発明1の「冷却対象」に相当し、引用発明において、調和空気が蒸発器12を通過すれば蒸発器12の冷媒と熱交換することは、自明な事項である。 また、引用発明において、蒸発器12(熱交換器)で熱交換された後に冷媒をコンプレッサー4(圧縮機)に戻すことは、自明な事項である。 そして、「膨張弁16」は低圧経路部分2bの上流端と高圧経路部分2aの下流端との間に配置されているから、「低圧経路部分2bに介挿され」た「蒸発器12」には、膨張弁16を通過して温度が低下した冷媒が流れるといえる。 よって、引用発明の「低圧経路部分2bに介挿され、車両の車室内に供給される調和空気が通過する蒸発器12」は、本願発明1の「前記膨張弁(7)を通過して温度が低下した冷媒と冷却対象との熱交換を行い、熱交換後の冷媒を前記圧縮機(5)に戻すように配置された熱交換器(8)」に相当する。 オ 引用発明の「コンプレッサ4」及び「ガスクーラ10」は、高圧経路部分2aに介挿され、「膨張弁16」は低圧経路部分2bの上流端と高圧経路部分2aの下流端との間に配置され、「蒸発器12」は、低圧経路部分2bに介挿されたものであるから、「高圧経路部分2aと、低圧経路部分2bとに区分される循環経路2」は、「コンプレッサ4」、「ガスクーラ10」、「膨張弁16」及び「蒸発器12」を環状に接続し、冷媒を循環されるものといえる。 よって、引用発明の「高圧経路部分2aと、低圧経路部分2bとに区分される循環経路2」は、本願発明1の「前記圧縮機(5)、前記ガスクーラー(6)、前記膨張弁(7)および前記熱交換器(8)を環状に接続し、冷媒を循環させる循環路(3)」に相当する。 カ 引用発明の「コンプレッサ4の入口側(吸入側)での低圧側冷媒の圧力及び温度をそれぞれ検出する冷媒圧力センサ24及び冷媒温度センサ26」は、本願発明1の「前記圧縮機(5)の入力側の冷媒の温度を検出する第1温度検出器(311)」及び「前記圧縮機(5)の入力側の冷媒の圧力を検出する第1圧力検出器(321)」に相当する。 キ 引用発明の「ガスクーラ10の出口での高圧側冷媒の圧力及び温度をそれぞれ検出する冷媒圧力センサ28及び冷媒温度センサ30」は、本願発明1の「前記圧縮機(5)から出力された冷媒の圧力である高圧側圧力を検出する第2圧力検出器(322)」及び「前記ガスクーラー(6)から出力された冷媒の温度を検出する第2温度検出器(312)」に相当する。 ク 引用発明の「コンプレッサ4が最大吐出量でない場合には、冷媒圧力センサ24の圧力Psと過熱度(SH)に基づいて、最適なCOPを達成するための最適線を選定し、最適線と冷媒圧力センサ28の圧力P_(H)に基づき目標温度TT_(G)を設定し、高圧側冷媒が目標温度TT_(G)となるように膨張弁16を制御し、 コンプレッサ4が最大吐出量である場合には、同様に最適線を選定し、最適線と温度T_(G)に基づき目標圧力TP_(G)を設定し、高圧側冷媒が目標圧力TP_(G)となるように膨張弁16を制御する、弁開度制御を行うコントローラ20」と、 本願発明1の「前記第1温度検出器(311)の検出値、前記第1圧力検出器(321)の検出値および冷媒の前記目標温度に応じて、冷却効率が最大となるような冷媒の高圧側圧力を最適圧力として求め、前記第2圧力検出器(322)の検出値が当該最適圧力となるように前記膨張弁(7)の開度を制御する冷却効率制御部(12)」とは、 「冷却効率が最大となるように膨張弁の開度を制御する制御部」である点で共通する。 ケ 引用発明の「吐出量制御」は、「調和空気の目標温度T_(0)が読み込まれ」、「目標温度T_(0)及び実温度T_(A)に基づき、コンプレッサ4の目標吐出量Q_(0)を演算し」、「目標吐出量Q_(0)に応じてコンプレッサ4を制御する」ものであるから、「調和空気」が「目標温度T_(0)」となるように「コンプレッサ4を制御する」ものといえる。 よって、引用発明の「室温設定スイッチ32からの設定信号に基づき、調和空気の目標温度T_(0)が読み込まれ、空気温度センサ22からの検出信号に基づき調和空気の実温度T_(A)が読み込まれ、目標温度T_(0)及び実温度T_(A)に基づき、コンプレッサ4の目標吐出量Q_(0)を演算し、目標吐出量Q_(0)に応じてコンプレッサ4を制御する吐出量制御を行」う「コントローラ20」は、本願発明1の「前記冷却対象の温度が目標値となるように、前記圧縮機(5)の回転速度を制御する温度制御部(13)」に相当する。 コ 引用発明の「冷凍機」は、本願発明1の「冷却装置」に相当する。 したがって、本願発明1と引用発明とは、 「二酸化炭素からなる冷媒を圧縮するための圧縮機(5)と、 前記圧縮機(5)で圧縮された冷媒を冷却用流体によって冷却するためのガスクーラー(6)と、 前記ガスクーラー(6)から出力された冷媒を絞り膨張させるための膨張弁(7)と、 前記膨張弁(7)を通過して温度が低下した冷媒と冷却対象との熱交換を行い、熱交換後の冷媒を前記圧縮機(5)に戻すように配置された熱交換器(8)と、 前記圧縮機(5)、前記ガスクーラー(6)、前記膨張弁(7)および前記熱交換器(8)を環状に接続し、冷媒を循環させる循環路(3)と、 前記圧縮機(5)の入力側の冷媒の温度を検出する第1温度検出器(311)と、 前記圧縮機(5)の入力側の冷媒の圧力を検出する第1圧力検出器(321)と、 前記圧縮機(5)から出力された冷媒の圧力である高圧側圧力を検出する第2圧力検出器(322)と、 前記ガスクーラー(6)から出力された冷媒の温度を検出する第2温度検出器(312)と、 冷却効率が最大となるように膨張弁の開度を制御する制御部と、 前記冷却対象の温度が目標値となるように、前記圧縮機(5)の回転速度を制御する温度制御部(13)とを有する冷却装置。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 本願発明1は、「前記ガスクーラー(6)から出力された冷媒の温度が所定の目標温度となるように冷却用流体の流量を制御する冷媒温度制御部(11)」を有するのに対し、引用発明は、そのような構成を有していない点。 [相違点2] 冷却効率が最大となるように膨張弁の開度を制御する制御部に関して、 本願発明1では、「前記第1温度検出器(311)の検出値、前記第1圧力検出器(321)の検出値および冷媒の前記目標温度に応じて、冷却効率が最大となるような冷媒の高圧側圧力を最適圧力として求め、前記第2圧力検出器(322)の検出値が当該最適圧力となるように前記膨張弁(7)の開度を制御する冷却効率制御部(12)」であるのに対し、 引用発明では、「コンプレッサ4が最大吐出量でない場合には、冷媒圧力センサ24の圧力Psと過熱度(SH)に基づいて、最適なCOPを達成するための最適線を選定し、最適線と読み込んだ高圧側冷媒の圧力P_(H)に基づき目標温度TT_(G)を設定し、高圧側冷媒が目標温度TT_(G)となるように膨張弁16を制御し、 コンプレッサ4が最大吐出量である場合には、同様に最適線を選定し、最適線と読み込んだ高圧側冷媒の温度T_(G)に基づき目標圧力TP_(G)を設定し、高圧側冷媒が目標圧力TP_(G)となるように膨張弁16を制御する、弁開度制御を行うコントローラ20」である点。 (2)判断 上記相違点1、2は、制御に冷媒の目標温度を用いる点で互いに関連するからまとめて検討する。 本願発明1における膨張弁の制御は、要するに、ガスクーラー(6)から出力された冷媒の温度が所定の目標温度となるように冷却用流体の流量を制御するとともに、当該目標温度の設定を維持しながら、低圧側冷媒の温度、圧力の検出値に応じて、冷却効率が最大となるような高圧側冷媒の最適圧力を求め、当該最適圧力となるように膨張弁の開度を制御するものである。 そして、本願発明1は、このような膨張弁の制御を行うことにより、本願明細書の段落【0060】に記載された「制御条件や制御状態が変化しても冷却効率COPを常に最大にすることができ、従来の冷却装置よりも冷却効率を大幅に向上させることができる。」(当審注:段落【0004】の記載を踏まえると冷却効率CPは、冷却効率COPの誤記と認める。)という効果を奏するものである。 一方、引用発明の「過熱度(SH)」は、一般に冷媒の温度、圧力に基づいて算出されることが知られているから、引用発明における膨張弁の制御は、要するに、コンプレッサ4が最大吐出量でない場合には、低圧側冷媒の温度、圧力及び高圧側冷媒の圧力の検出値に応じて、最適なCOPを達成するような冷媒の目標温度TT_(G)を設定し、当該目標温度TT_(G)となるように膨張弁16を制御し、コンプレッサ4が最大吐出量である場合には、低圧側冷媒の温度、圧力及び高圧側冷媒の温度の検出値に応じて、最適なCOPを達成するような冷媒の目標圧力TP_(G)を設定し、当該目標圧力TP_(G)となるように膨張弁16を制御するものである。 すなわち、引用発明においては、コンプレッサ4が最大吐出量であるか否かに応じて、当該目標温度TT_(G)となるように膨張弁16を制御するか、目標圧力TP_(G)となるように膨張弁16を制御するかを選択するものであるが、いずれの場合でも、本願発明1の膨張弁の制御の前提となる「ガスクーラー(6)から出力された冷媒の温度が所定の目標温度となるように冷却用流体の流量を制御する」との構成を有するものではなく、さらに、当該目標温度に応じて(目標温度の設定を維持しながら)、冷媒の最適圧力を求めるとの構成を有するものでもない。 そのため、引用発明の膨張弁16の制御では、膨張弁の開度を変化させた場合には、高圧側冷媒の圧力の変化とともに高圧側冷媒の温度も変化することとなるため、最適なCOPを達成する制御が不安定となる可能性があり、本願発明のような「制御条件や制御状態が変化しても冷却効率COPを常に最大にすることができ」るという効果を奏するものとはいえない。 さらに、引用例1の全体を見ても、高圧側冷媒が目標温度TT_(G)となるように膨張弁16を制御する、同じく目標圧力TP_(G)となるように膨張弁16を制御するといった2種類の制御を同時に行うことや、一方の制御を他の制御で代替することを示唆する記載はないから、引用発明に基づいて、コンプレッサ4の吐出量とは関係なく、冷却効率が最大となるような冷媒の最適圧力を求め、当該最適圧力となるように前記膨張弁(7)の開度を制御するように構成することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 したがって、本願発明1は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。 2 本願発明2?5について 本願発明2?5は、いずれも本願発明1を引用するものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえず、さらに、引用例2、3にも上記相違点1、2に係る本願発明1の構成は記載されていないから、当業者が引用発明、及び引用例2、3に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものともいえない。 第6 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-09-10 |
出願番号 | 特願2015-161183(P2015-161183) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WYF
(F25B)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 金丸 治之、久島 弘太郎、関口 勇 |
特許庁審判長 |
山崎 勝司 |
特許庁審判官 |
大屋 静男 平城 俊雅 |
発明の名称 | 冷却装置 |
代理人 | 富崎 元成 |
代理人 | 円城寺 貞夫 |