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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01R
管理番号 1354851
審判番号 不服2018-11518  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-27 
確定日 2019-09-02 
事件の表示 特願2014-108087号「電子機器の防水接続器具及び電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月14日出願公開、特開2015-225712号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成26年5月26日の出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。
平成29年4月21日 :手続補正書の提出
平成30年2月19日付け:拒絶理由の通知
平成30年3月30日 :意見書及び手続補正書の提出
平成30年6月7日付け :拒絶査定(以下、「原査定」という。)
平成30年8月27日 :審判請求書及び手続補正書の提出

第2 平成30年8月27日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年8月27日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおり補正された(下線は、補正箇所であり、当審で付した。)
「金属平板が変形された状態で形成されている金属製の略筒状の外装体と、
前記外装体の奥側に壁状に内装される支持部と、
前記支持部で支持されて前記外装体内に導入されているコンタクト端子と、
前記外装体と前記支持部とが近接する位置で前記外装体と前記支持部との間に設けられ、前記外装体と前記支持部との間を封止する周状の封止部とを備え、
前記外装体の前記支持部の前面より前側の領域が継ぎ合わされた継ぎ目のない非貫通面で形成されていることを特徴とする電子機器の防水接続器具。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年3月30日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「金属平板が変形された状態で形成されている金属製の略筒状の外装体と、
前記外装体の奥側に壁状に内装される支持部と、
前記支持部で支持されて前記外装体内に導入されているコンタクト端子と、
前記外装体と前記支持部とが近接する位置で前記外装体と前記支持部との間に設けられ、前記外装体と前記支持部との間を封止する周状の封止部とを備え、
前記外装体の前記支持部の前面より前側の領域が継ぎ目のない非貫通面で形成されていることを特徴とする電子機器の防水接続器具。」

2.本件補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「外装体」の「継ぎ目」について、「継ぎ合わされた」との限定を付加するものであって補正前の請求項1に記載される発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について、以下検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1.(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献に記載の事項等
ア.引用文献1
(ア)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、引用文献1(特開2012-9358号公報)には、図面とともに次の記載がある(下線は、当審で付した。以下同様。)。
(1a)「【0001】
本発明は、コネクタ用シールドケース及び電気コネクタに係り、さらに詳しくはコネクタ用シールドケースを防水構造にしたコネクタ用シールドケース及びこのシールドケースを用いた防水型の電気コネクタに関するものである。」
(1b)「【0010】
このために、携帯電子機器がこのような環境下に置かれるとコネクタを通して機器内に水が浸入する恐れが十分ある。例えば、上記特許文献1のコネクタは、シールドケースの接合部が板材端縁を突き合わせただけの構造になっているので、この突き合わせ部分に隙間ができ、この隙間から内部へ水滴や塵埃が侵入する恐れがある。また、このようなコネクタは、通常、半田槽に浸漬して回路配線基板などへ実装されるが、接合部に隙間があると、絶縁ハウジングが熱膨張してその隙間がさらに開き、より水などの侵入がし易くなる。この対策として、接合部をより強固な機械的結合、例えば溶接することが考えられるが、その溶接がスポット溶接であると、高い防水効果が期待できない。なお、接合部を重合して、スポット溶接すると接合部が突出し、他の防水部材、例えばパッキンとの接触が緊密になり難くなり防水効果が期待できない。」
(1c)「【0014】
また、上記特許文献1のコネクタは、防水構造のものでないが、コネクタ分野では、防水コネクタが公知であり、その防水技術は、概ね、防水パッキンを使用するものとなっている。そこで、この防水技術を上記特許文献1、2にみられるようなコネクタへ転用することが容易に考えられる。しかしながら、このような防水技術を転用しても、上記のような過酷な環境下での使用に耐え得るものとならず、特に、毛細管現象による浸水を阻止することができない。すなわち、電子・情報機器に組み込まれたコネクタは、そのコネクタの一部、特にシールドケースの先端部が電子・情報機器の筐体から露出し、この露出部分から毛細管現象により侵入する恐れがある。
【0015】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するためになされたもので、この発明の目的は、簡単な構造で確実に浸水などを阻止できるコネクタ用シールドケース及びこのシールドケースを用いた防水型の電気コネクタを提供することにある。特に、シールドケースの接合部から毛細管現象により水などが侵入するのを確実に阻止できるようにしたコネクタ用シールドケースを提供ことにある。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様のコネクタ用シールドケースでは、電気コネクタのコンタクトが装着された電気絶縁性のコネクタハウジングの外周壁に嵌装して電磁遮蔽するコネクタ用シールドケースであって、
前記コネクタ用シールドケースは、所定大きさ及び肉厚の金属板材を内部に前記コネクタハウジングが嵌装される大きさの中空孔が形成されるように管状に湾曲して金属板材の両端縁を突き合わせて、前記突き合わせた接合部をレーザー溶接されて少なくとも一方の端部が開口された管状体状に構成されていることを特徴とする。」
(1d)「【0037】
この電気コネクタ(以下、コネクタという)2は、携帯電話機などの情報端末の筐体に取付けて、図示を省略した相手方コネクタが取外し自在に接続されるコネクタであって、USB規格に適合したものとなっている。このコネクタ2は、図5、図6に示すように、複数本、例えば5本の電気良導電性のコンタクト3と、これらのコンタクトが装着される電気絶縁性のコネクタハウジング(以下、絶縁ハウジングという)4と備え、シールドケース1は、絶縁ハウジングの外周囲に嵌装して電磁遮蔽するものとなっている。このコネクタ2は、回路配線基板などに補強部材8を使用して取付けられる。」
(1e)「【0040】
本発明の実施形態に係るシールドケース1は、図1、図2に示すように、一端に絶縁ハウジング4が挿入される前方の開口1_(1)と、この開口から奥へ向かって内部に絶縁ハウジング4が収容される大きさの空間1_(2)と、後方の開口1_(3)を塞ぎ回路配線基板などの接地電極に接続される端子を設けた奥蓋1eとを有し、絶縁ハウジング4より若干長い扁平な管状体からなり、金属板材、例えばステンレス板を所定の長さに切断し、湾曲加工により形成されている。すなわち、このシールドケース1は、絶縁ハウジング4の上下、左右壁面に接触する上下板部1a、1b及び左右板部1c、1dで囲まれて内部に空間(中空孔)及び両端に開口1_(1)、1_(3)を有し、後方の開口1_(3)が奥蓋1eで塞がれて、絶縁ハウジング4より若干長い扁平管状体となっている。」
(1f)「【0043】
まず、図示を省略した所定肉厚の大判の金属板、例えばステンレス板を用いて、この金属板を所定形状に打ち抜きしてシールドケース加工前のシールドケース板を1枚ないし複数枚作成する。このシールドケース板は、図5に見られるシールドケース1を展開伸長した形状となっている。すなわち、このシールドケース板は、一対の対向する長辺及び短辺からなる帯状片と、この帯状片の一方の長辺から外方へ延設された奥蓋1eとを有し、帯状片の一対の対向する短辺を突き合わせて、この突き合わせた接合部1b'を仮止めする仮止め手段1b_(1)が設けられている。この仮止め手段1b_(1)は、任意のものでよいが、この実施形態では係止突起aとこの係止突起が嵌め込まれる係止溝bとで構成されている。このような仮止め手段1b_(1)を設けると、対向する短辺(縁)の切断部を突き合わせて溶接する際に、その溶接作業が正確に且つ容易にできる。
【0044】
次いで、このシールドケース板を折曲して絶縁ハウジング4に嵌装できる大きさの扁平管状体からなるシールドケース1に加工する。この加工で、仮止め手段1b1により帯状片の対向する短辺の切断面を突き合わせて仮止めする。このシールドケース1は、仮止めのままであると、絶縁ハウジング4に嵌装されると仮止めが簡単に外れてしまうので、外れないように固定する必要がある。ところが、この仮止めを単に外れないように固定するのであれば、任意の固定手段を採用してできるが、このシールドケースでは、(d)接合部の防水、及び(e)絶縁ハウジンと接合部などとの防水を効果的なものにする必要がある。すなわち、上記(d)では、特に毛細管現象により浸水しないようにしなければならず、また、上記(e)では、ハウジング本体部との間から浸水しないようにするために、接合部の内壁面に段差などが生じないようにしなければならない。したがって、上記(d)、(e)を考慮すると、固定手段は、制限されたものとなる。」
(1g)「【0050】
レーザー溶接Laの結果、接合部は以下の状態になった。すなわち、図3はシールドケースの接合部を示ており、レーザー溶接前は、接合部1b'には図3Cにみられるように隙間があいているが、図3Aに示すように、接合部1b'に沿ってレーザー溶接すると、図3B、図3Dにみられるように溶接され、特に、溶接前の接合部1b'の隙間(図3C参照)が、図3Dにみられるように、隙間無く接合される。この接合部1b'の溶接Laは、図3AのX?X線、Y-Y線及びZ-Z線、すなわち接合部全体で隙間無く接合するのが好ましいが、全体でなく一部、すなわちいずれか一箇所の溶接でもよい。
【0051】
このレーザー溶接により、接合部の隙間が無くなり、水などの浸入を阻止、特に、毛細管現象による浸水を阻止することが可能になる。また、この構造の接合部では、相手方コネクタとの接続時にこじられても接離されることがない。」
(1h)「【0055】
絶縁ハウジング4は、図7に示すように、内部に複数本のコンタクト3の各コンタクト固定部が取付けられると共に外壁面にシールドケース1が嵌装されるハウジング本体部5と、このハウジング本体部から前方へ所定長さ突出してコンタクトの接点部が配設される接点支持部6とを有している。ハウジング本体部5は、図7、図8に示すように、上下壁5a、5b、前後壁5c、5d及び左右側壁5e、5fで囲まれて内部が充実した略扁平直方体形状のブロックからなり、電気絶縁性の合成樹脂成型体で形成されている。上下壁5a、5b及び前後壁5c、5dは、対向する一対の長辺及び短辺を有する略矩形状の略平坦面で形成されている。左右の側壁5e、5fは、外方へ若干膨らんだ湾曲面で形成されている。このハウジング本体部5は、上下壁5a、5b及び左右側壁5e、5fの外周壁面にリング状のパッキン7が嵌入される凹み溝5_(1)が形成されている。この凹み溝5_(1)は、前壁5c側に設けられている。このパッキン7は、ゴムなどの弾性部材からなり、上記(b)の絶縁ハウジング4とシールドケース1間の隅間から水などが浸入するのを阻止する防水手段となっている。」
(1i)「【0060】
コネクタ2は、複数本(5本)のコンタクト3が装着された絶縁ハウジング4の外周壁にリング状パッキン7を装着した後に、シールドケース1を嵌装して組立てる。この組立てたコネクタ2は、図示を省略した回路配線基板などに実装する。この実装を堅固にするために、補強部材8で固定するのが好ましい。また、シールドケース1の端子は、回路配線基板などの接地電極に半田接続する。このコネクタ2は、(a)コンタクト3と絶縁ハウジング4との間、(b)絶縁ハウジング4とシールドケース1との間、及び(c)シールドケース1の板材接合部がそれぞれの防水手段によりシールされるので、コネクタ2を通して内部へ浸水などするのを防止できる。特に、シールドケースの接合部は、所定のレーザー制御によりレーザー溶接されているので、この部分から毛細管現現象により浸水するのを阻止できる。従来技術で必要としていたコネクタの差込口を密閉防水する防水カバーなどが不要になる。」
(1j)「【0062】
本発明の他の実施形態に係るコネクタ2Aは、上記コネクタ2に電子機器筐体との間を防水する防水部材9を装着したものである。すなわち、このコネクタ2Aは、防水部材9を装着した以外はコネクタ2と同じであるので、共通する構成には同じ符号を付して重複説明を省略し、異なる構成について詳述する。」

(イ)引用文献1に記載の発明
以上の記載事項及び図面の記載内容から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「電気良導電性のコンタクト3と、これらコンタクト3が装着される電気絶縁性のコネクタハウジング4と、絶縁ハウジング4の外周囲に嵌装して電磁遮蔽するシールドケース1とを備えた、コネクタ2であって、
シールドケース1は、一端に絶縁ハウジング4が挿入される前方の開口1_(1)と、この開口から奥へ向かって内部に絶縁ハウジング4が収容される大きさの空間1_(2)とを有し、金属板材を所定の長さに切断し、湾曲加工し、金属板材の両端縁を突き合わせ、その突き合わせた接合部1b'をレーザー溶接して少なくとも一方の端部が開口された管状体状に構成し、
絶縁ハウジング4は、内部に複数本のコンタクト3の各コンタクト固定部が取付けられると共に外壁面にシールドケース1が嵌装されるハウジング本体部5を有しており、
ハウジング本体部5は、上下壁5a、5b、前後壁5c、5d及び左右側壁5e、5fで囲まれて内部が充実した略扁平直方体形状のブロックからなり、
このハウジング本体部5は、上下壁5a、5b及び左右側壁5e、5fの外周壁面にリング状のパッキン7が嵌入される凹み溝5_(1)が形成されており、
このパッキン7は、ゴムなどの弾性部材からなり、絶縁ハウジング4とシールドケース1間の隅間から水などが浸入するのを阻止する防水手段となっている、
コネクタ2。」

イ.引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、引用文献3(特開平7-192813号公報)には、図面(特に【図2】及び【図9】)とともに次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は絶縁性コネクタ本体に導電性シェルを外嵌めして成るシールドコネクタ組立体に関する。」
「【0016】4は一対の対向する側面において開口する空洞を有するシールド用導電性シェルであり、このシェル4はその一方開口面の両端から側方へ張り出した取付座片5を有し、この取付座片5の対向する縁部からシェル4の長手方向の全長に亘りフランジ片6を下方へ向け折曲形成する。従ってこのフランジ片6はシェル4の一方開口縁から座片5の縁部に亘って延在する。
【0017】上記シールド用導電性シェル4を上記絶縁性コネクタ本体1の外周面を包囲するように外嵌めし、上記フランジ片6に設けた複数の係合孔7にコネクタ本体1の長手方向側面から突設した複数の突起8を夫々係合し両者1、4を一体に組付けシールドコネクタを形成する。上記導電性シェル4は金属板に絞り加工を施して一体成形する。」

ウ.引用文献4の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、引用文献4(特開2010-268562号公報)には、図面(特に【図1】及び【図3】?【図6】)とともに次の記載がある。
「【0001】
本発明は、シールド電線をシールドシェルに取り付けるためのシールド電線の固定構造、およびその固定方法に関する。」
「【0022】
シールドシェル40は、図4及び図5に示すように、中空円筒状の小径部41と、この小径部41の一端に連設する本体部42と、この本体部42に付設された支持片43と、を含んで構成される。
【0023】
小径部41は、シールド電線20に対して、シールド電線20の芯線24および絶縁被覆21がその中空部分を貫通し、編組22の折返部22Aが筒状の外側面を覆うように配置される。また、小径部41は、シールドリング30を貫通した状態で配置される。このとき、小径部41がリング状の内部に位置するシールドリング30は、編組22の折返部22Aの外側面を覆うように配置される。小径部41は、内径がシールド電線20の2芯の絶縁被覆21の外径(長径方向の外径)よりも大きく、同時に、その外径がシールドリング30の内径よりも小さい。さらに、小径部41は、後述するインナーホルダー50のスリーブによって貫通される。
【0024】
本体部42は、中空筒状であって、その内部にインナーホルダー50が収容される。本体部42は、一方側には小径部41が連設され、他方側にはインナーホルダー50を内部に挿入するための開口が形成されている。本体部42は、中空四角柱形状であって、本体部42を貫通するシールド電線20の絶縁被覆21に臨む4壁面からなるとともに、各壁面を連結する境界部分がアール状の曲面を形成しており、外周全体が継ぎ目のない形状をなしている。また、本体部42の外形は、小径部41の外径よりも大きいことによって、本体部42と小径部41の連結部分には段差が形成されている。また、本体部42には、4壁面のうちの一面に、後述するインナーホルダー50のランス53が係止するランス係止部421が形成されている。ランス係止部421は、略コ字状に穿設した溝422を臨む舌片423を本体部42の内方側へ切り起して形成されている。このような小径部41および本体部42の形状は、絞り加工プレスによって成形されることができる。絞り加工プレスによって成形することにより、本体部が継ぎ目なく形成されており、換言すれば一部に脆弱な部位が発生することのない状態で本体部を形成することができる。」

(3)本件補正発明と引用発明との対比
ア.本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「電気良導電性のコンタクト3と、これらコンタクト3が装着される電気絶縁性のコネクタハウジング4と、絶縁ハウジング4の外周囲に嵌装して電磁遮蔽するシールドケース1とを備えた、コネクタ2」は、その構造、機能からみて、電子機器の接続器具であるといえ、また、「ゴムなどの弾性部材からなり、絶縁ハウジング4とシールドケース1間の隅間から水などが浸入するのを阻止する防水手段」である「パッキン7」を備えているものでもあるから、防水機能を有するといえるので、本願補正発明の「電子機器の防水接続器具」に相当する。
(イ)引用発明の「シールドケース1」は、「一端に絶縁ハウジング4が挿入される前方の開口1_(1)と、この開口から奥へ向かって内部に絶縁ハウジング4が収容される大きさの空間1_(2)とを有し、金属板材を所定の長さに切断し、湾曲加工し、金属板材の両端縁を突き合わせ、その突き合わせた接合部1b'をレーザー溶接して少なくとも一方の端部が開口された管状体状に構成し」たものであるから、金属平板が変形された状態で形成されている金属製の略筒状といえ、また、「絶縁ハウジング4の外周囲に嵌装」するものであるから、外装体であるといえる。
したがって、引用発明の「シールドケース1は、一端に絶縁ハウジング4が挿入される前方の開口1_(1)と、この開口から奥へ向かって内部に絶縁ハウジング4が収容される大きさの空間1_(2)とを有し、金属板材を所定の長さに切断し、湾曲加工し、金属板材の両端縁を突き合わせ、その突き合わせた接合部1b'をレーザー溶接して少なくとも一方の端部が開口された管状体状に構成」することは、本願補正発明の「金属平板が変形された状態で形成されている金属製の略筒状の外装体と」「を備え」ていることに相当する。
(ウ)引用発明の「シールドケース1」は、「一端に絶縁ハウジング4が挿入される前方の開口1_(1)と、この開口から奥へ向かって内部に絶縁ハウジング4が収容される大きさの空間1_(2)とを有し」、「絶縁ハウジング4」の「ハウジング本体部5」は、「上下壁5a、5b、前後壁5c、5d及び左右側壁5e、5fで囲まれて内部が充実した略扁平直方体形状のブロックからな」るものであるから、【図14】の記載も参照すれば、シールドケース1の奥側に壁状に内装されているといえる。また、下記(エ)に説示のとおり、「複数本のコンタクト3」を取付け支持するものであるといえる。
したがって、引用発明の「絶縁ハウジング4」の「ハウジング本体部5」は、本願補正発明の「前記外装体の奥側に壁状に内装される支持部」に相当する。
(エ)引用発明の「複数本のコンタクト3」は、本件補正発明の「コンタクト端子」に相当する。
そして、引用発明の「複数本のコンタクト3」に関し、「絶縁ハウジング4」の「ハウジング本体部5」は、「各コンタクト固定部が取付けられる」ものであり、また、「外壁面にシールドケース1が嵌装される」ものであるから、引用発明の「複数本のコンタクト3」は、絶縁ハウジング4のハウジング本体部5で支持されてシールドケース1内に導入されているといえる。
したがって、引用発明の「絶縁ハウジング4は、内部に複数本のコンタクト3の各コンタクト固定部が取付けられると共に外壁面にシールドケース1が嵌装されるハウジング本体部5とを有して」いることは、本件補正発明の「前記支持部で支持されて前記外装体内に導入されているコンタクト端子と」「を備え」ていることに相当する。
(オ)引用発明の「このハウジング本体部5は、上下壁5a、5b及び左右側壁5e、5fの外周壁面にリング状のパッキン7が嵌入される凹み溝5_(1)が形成されており、このパッキン7は、ゴムなどの弾性部材からなり、絶縁ハウジング4とシールドケース1間の隅間から水などが浸入するのを阻止する防水手段となっている」ことに照らすと、引用発明のコネクタ2は、シールドケース1と絶縁ハウジング4のハウジング本体部5とが近接するハウジング本体部5の外周壁面の位置で、シールドケース1と絶縁ハウジング4のハウジング本体部5との間に設けられ、シールドケース1と絶縁ハウジング4のハウジング本体部5との間を封止するリング状(周状)のパッキン7を備えているといえる。
したがって、引用発明の「このハウジング本体部5は、上下壁5a、5b及び左右側壁5e、5fの外周壁面にリング状のパッキン7が嵌入される凹み溝5_(1)が形成されており、このパッキン7は、ゴムなどの弾性部材からなり、絶縁ハウジング4とシールドケース1間の隅間から水などが浸入するのを阻止する防水手段となっている」ことは、本件発明1の「前記外装体と前記支持部とが近接する位置で前記外装体と前記支持部との間に設けられ、前記外装体と前記支持部との間を封止する周状の封止部とを備え」ていることに相当する。
(カ)以上のとおりであるから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりといえる。
[一致点]
「金属平板が変形された状態で形成されている金属製の略筒状の外装体と、
前記外装体の奥側に壁状に内装される支持部と、
前記支持部で支持されて前記外装体内に導入されているコンタクト端子と、
前記外装体と前記支持部とが近接する位置で前記外装体と前記支持部との間に設けられ、前記外装体と前記支持部との間を封止する周状の封止部とを備えている電子機器の防水接続器具。」
[相違点]
外装体に関し、本件補正発明が「前記外装体の前記支持部の前面より前側の領域が継ぎ合わされた継ぎ目のない非貫通面で形成されている」ものであるのに対し、引用発明は、「シールドケース1」について「金属板材を所定の長さに切断し、湾曲加工し、金属板材の両端縁を突き合わせ、その突き合わせた接合部1b'をレーザー溶接して」いるものであり、シールドケース1の絶縁ハウジング4のハウジング本体部5の前壁5cより前側の領域には、金属板材の両端縁を突き合わせることによって継ぎ合わされた継ぎ目が、少なくともレーザー溶接前には形成されており、かかる継ぎ目がレーザー溶接後に形成されていないといえるか否かは不明である点。

(4)判断
以下、上記相違点について検討する。
ア.引用発明は、シールドケースを、金属板材を所定の長さに切断し、湾曲加工し、金属板材の両端縁を突き合わせて、少なくとも一方の端部が開口された管状体状として構成した場合、当該シールドケースの先端部が電子・情報機器の筐体から露出することにより、この露出部分から毛細管現象により水などが浸入するおそれがあったのを、シールドケースの接合部から毛細管現象により水などが浸入するのを確実に阻止することを目的として、「突き合わせた接合部をレーザー溶接して」という構成を採用したものである(上記(2)ア.(ア)の摘記(1c)の段落【0014】?【0016】を参照。)。
一方、金属製の略筒状の外装体を備えた電気機器の接続具において、絞り加工によって前記外装体を一体成形することによって、前記外装体の前側(先端側)の一定領域が継ぎ合わされた継ぎ目のない非貫通面で形成されている構成とすることは、上記(2)イ.及びウ.によって、既に当業者には周知の構成(以下、「外装体の周知の構成」という。)であるといえる。
そして、引用文献1には、シールドケース1に関し、突き合わせた接合部1b'に沿ってレーザー溶接することにより、「隙間無く接合される」ようにし、もって、「接合部の隙間が無くなり、水などの浸入を阻止・・・することが可能になる」点が記載されている(上記(2)ア.(ア)の摘記(1f)及び(1g)の段落【0043】、【0044】、【0050】、及び【0051】を参照。)ことに鑑みれば、引用発明において、シールドケースでの隙間からの浸水を一層確実に阻止すべく、シールドケースが継ぎ合わされた継ぎ目のない非貫通面を備えた構成を採用する動機付けが認められる。
さらにいえば、電気分野において、電気系統、電気設備の防水のため、電気系統、電気設備を内部に含む外装体を一体成形することによって、当該外装体の継ぎ目を無くす、あるいは、継ぎ目を少なくし、外装体の継ぎ目からの浸水を防ぐ技術は、当業者における周知の技術であり、浸水防止の手段として何らの困難性もなく広く採用されているものといえる(例えば、特開平9-308072号公報の段落【0010】及び【0020】、特開2010-173485号公報の【請求項3】及び段落【0017】、並びに実用新案登録第3172419号公報の【請求項1】及び段落【0008】を参照。)。
このように、電気分野において、継ぎ目からの浸水を防止するために、継ぎ目の無い構成を選択することが当業者にとって何ら困難性を伴うものではないということからすれば、シールドケース1の接合部から毛細管現象により水が浸入することを防ぐことを目的の一つとする引用発明に接した当業者が、上記外装体の周知の構成を選択し適用することによって当該目的を一層果たそうと試みることに何らの困難性も認められない。
したがって、引用発明において、上記相違点に係る本件補正発明の構成となすことは、外装体の周知の構成に基いて当業者が容易に想到し得たものであるというべきである。
イ.そして、上記相違点を勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び外装体の周知の構成の奏する作用効果から予測される範囲内のものであって格別なものということはできない。
ウ.よって、本件補正発明は、引用発明並びに引用文献3及び4から把握される外装体の周知の構成に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
エ.審判請求人の主張について
(ア)審判請求人は、平成30年8月27日に提出した審判請求書において、本願請求項1(本件補正発明のこと)は、審判請求書に記載された阻害要因A、B及びCがあるから、刊行物1及び4(引用文献1及び4のこと) に基き当業者が容易に発明をすることができない旨主張する(審判請求書【請求の理由】3.(d))。
(イ)上記ア.で説示のとおり、引用発明は、シールドケースを金属板材を所定の長さに切断し、湾曲加工し、金属板材の両端縁を突き合わせて少なくとも一方の端部が開口された管状体状として構成された場合、当該シールドケースの先端部が電子・情報機器の筐体から露出することにより、この露出部分から毛細管現象により水などが浸入するおそれがあったのを、シールドケースの接合部から毛細管現象により水などが浸入するのを確実に阻止することを目的として、「前記突き合わせた接合部をレーザー溶接されて」という構成を採用したものである。
一方で、引用文献3及び4から把握される周知技術は、金属製の略筒状の外装体を備えた電気機器の接続具において、絞り加工によって前記外装体を一体成形することによって、前記外装体が継ぎ合わされた継ぎ目のない非貫通面を有する構成である。
そして、かかる周知技術を引用発明に適用すると、シールドケース1が継ぎ目のないものとして構成されるから、引用発明において、シールドケース1から水などが浸入するおそれはなく、引用発明の目的、すなわち、シールドケースの接合部から毛細管現象により水などが浸入するのを確実に阻止することに反するものとなるということはできない。
また、周知技術を引用発明に適用すると、引用発明がそのコネクタとしての機能を発揮できなくなることもない。実際、上記ア.で説示のとおり、引用文献1には、シールドケース1に関し、突き合わせた接合部1b'に沿ってレーザー溶接することにより、「隙間無く接合される」ことが記載されており、この点に鑑みても、引用発明に周知技術を適用して、シールドケース1が継ぎ合わされた継ぎ目のない非貫通面を有することが、コネクタとしての機能を発揮できなくすることになるとは認められない。
さらに、引用発明において、シールドケース1に継ぎ目があることが、引用発明のコネクタとしての機能を発揮させる上で何ら必要不可欠なものとはいえず(上記した、引用文献1における「隙間無く接合される」との記載も参照。)、シールドケース1として継ぎ目のない非貫通面を有する周知技術の採用を引用発明が排斥しているとの事情も伺われない。
加えて、引用文献1中において、周知技術を適用したものが、引用発明よりも劣る例として記載されているといった事情もない。
なお、審判請求人は、引用文献1に記載された構成に関し、「シールドケース1にレーザー溶接によって金属板の両端縁に突き合わせ溶接を行って継ぎ目を形成することを主要な特徴とする」などと主張しつつ、阻害要因に係る主張を展開している(審判請求書【請求の理由】3.(d))。
しかしながら、引用文献1に記載された、シールドケース1を備えたコネクタ2は、コネクタという物として、かかる継ぎ目を利用しているということはなく、むしろ、前説示のとおり、当該引用文献1には、当該シールドケース1に関し、突き合わせた接合部1b'に沿ってレーザー溶接することにより、「隙間無く接合される」ようにし、もって「接合部の隙間が無くなり、水などの浸入を阻止・・・することが可能になる」ことが記載されているのであるから(上記(2)ア.(ア)の摘記(1f)及び(1g)の段落【0043】、【0044】、【0050】、及び【0051】を参照。)、上記の「継ぎ目を形成することを主要な特徴とする」などとした主張に基づく審判請求人の阻害要因に係る主張を採用することはできない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

(5)本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
したがって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成30年8月27日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年3月30日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された事項により特定される、前記「第2」[理由]1.(2)に記載のとおりのものである。

2.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、3及び4並びにその記載事項等は、前記「第2」[理由]2.(2)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2」[理由]2.で検討した本件補正発明から、「外装体」の「継ぎ目」について、「継ぎ合わされた」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2」[理由]2.(3)及び(4)に記載したとおり、引用発明並びに引用文献3及び4から把握される外装体の周知の構成に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明並びに引用文献3及び4から把握される外装体の周知の構成に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-07-03 
結審通知日 2019-07-08 
審決日 2019-07-19 
出願番号 特願2014-108087(P2014-108087)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01R)
P 1 8・ 575- Z (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 仁楠永 吉孝  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 尾崎 和寛
小関 峰夫
発明の名称 電子機器の防水接続器具及び電子機器  
代理人 元井 成幸  

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