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審決分類 審判 全部無効 利害関係、当事者適格、請求の利益  A61K
管理番号 1354892
審判番号 無効2017-800118  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-08-28 
確定日 2019-08-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第4659980号発明「二酸化炭素含有粘性組成物」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求を却下する。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 本件審判の概要
1 本件特許について
(1) 被請求人である株式会社メディオン・リサーチ・ラボラトリーズ(以下「被請求人」あるいは「メディオン」という。)は,発明の名称を「二酸化炭素含有粘性組成物」とする発明につき,1998年10月5日を国際出願日とする特許出願(特願2000-520135号。先の出願に基づく優先権主張1997年11月7日。以下「本件特許出願」という。乙8の1)をした。ちなみに,本件特許出願の願書に記載された特許出願人はメディオンであり,発明者は田中雅也(以下「田中」という場合がある。)及び日置正人(以下「日置」という場合がある。)であった。
(2) 本件特許出願については,特許第4659980号(請求項の数は13)として,平成23年1月7日,特許権者をメディオンとする特許権が設定登録された。
2 請求の趣旨
特許第4659980号の請求項1ないし13に係る発明についての特許(以下「本件特許」という。)を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。
3 答弁の趣旨(平成30年2月21日付け口頭審理陳述要領書により変更されたもの)
本件審判請求を却下する(主位的答弁),本件審判請求は成り立たない(予備的答弁),審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。

第2 主な手続の経緯等
1 請求人原田正一(以下「原田」という場合がある。)は,平成29年8月28日,本件特許に対し特許無効審判を請求し,これに対して,被請求人は同年11月10日に答弁書を提出した。
2(1) 審判長は,平成29年12月26日付けで両当事者に対し第1回口頭審理における審理事項を通知し(審理事項通知書),これに対して,請求人及び被請求人は平成30年2月21日にそれぞれ口頭審理陳述要領書を提出し,被請求人は同月27日に上申書を提出した。
(2) 平成30年3月7日,無効2017-800111号事件と併合した上で,請求人代理人及び被請求人代理人の出頭のもと,第1回口頭審理が行われた。
3(1) 請求人は,平成30年4月2日,証人尋問申出書(証人日置,証人吉田賢三郎(以下「吉田」という場合がある。),証人田中及び当事者本人原田に係るもの。なお,申出書中の第4項(証人の表示)における「吉田賢二郎」は「吉田賢三郎」の誤記と解される。),尋問事項書(証人日置,証人吉田,証人田中及び当事者本人原田にそれぞれ係るもの。計4通),検証申出書,検証物指示説明書,鑑定の申出書及び鑑定事項書を提出した。
(2) 上記(1)に係る証拠調べの申出について,被請求人は,平成30年5月7日,意見書を提出して意見を述べ,請求人は,同年6月6日に意見書を,同月19日に上申書を提出し,その必要性について意見を述べた。
4(1) 更に請求人は,上記3(2)の意見書において,本件に係る請求人適格の要件(特許法123条2項の解釈。以下,特許法について単に「法」という場合がある。)についての見解を示したところ,被請求人は,平成30年8月24日,意見書(2)を提出し,請求人の請求人適格の要件に係る上記主張に対して争わない旨を主張する等した。
(2) 審判長は,平成30年10月16日,両当事者に対して審尋し,本件における請求人適格の要件に関する合議体の見解に対する意見を求めたところ,被請求人は同月23日に,請求人は同年11月1日にそれぞれ回答書を提出した。
5(1) 審判長は,平成31年1月31日付けで両当事者に対し第2回口頭審理における審理事項を通知し(審理事項通知書),これに対して,被請求人は同年3月13日に,請求人は同月20日に口頭審理陳述要領書(2)をそれぞれ提出し,また被請求人は,同月13日,証人尋問申出書(証人日置正人に係るもの。)及び尋問事項書(同)を提出した。
(2) 平成31年4月3日,無効2017-800111号事件と併合した上で,請求人本人,請求人代理人及び被請求人代理人の出頭のもと,第2回口頭審理が行われた。また,同口頭審理において,請求人による証人尋問の申出のうち証人日置に係るもの(上記3(1)),並びに,検証及び鑑定の申出(上記3(1))が撤回された。更に口頭審理期日において,証人田中,証人吉田及び証人日置についての証人尋問,並びに,請求人原田についての当事者尋問が行われた。
6 請求人は,平成31年4月8日,上記3(1)の証人尋問申出書に係る補正書を提出し,被請求人は,同月9日及び令和1年5月13日に上申書を提出した。なお,本件の審理終結通知時において,第2回口頭審理調書の請求人陳述第6項に記載の鑑定申出書及び鑑定事項書は提出されていない。

第3 本件各発明の要旨
審決が判断の対象とすべき特許に係る発明の要旨は,願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下,請求項の番号に応じて各発明を「本件発明1」などといい,これらを併せて「本件発明」という場合がある。)。
「【請求項1】
部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって,
1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ;又は
2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ
からなり,
含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする,
含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。
【請求項2】
得られる二酸化炭素含有粘性組成物が,二酸化炭素を5?90容量%含有するものである,請求項1に記載のキット。
【請求項3】
含水粘性組成物が,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後にメスシリンダーに入れたときの容量を100としたとき,2時間後において50以上の容量を保持できるものである,請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである,請求項1乃至3のいずれかに記載のキット。
【請求項5】
含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである,請求項1乃至4のいずれかに記載のキット。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を有効成分とする,水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物。
【請求項7】
請求項1?5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む部分肥満改善用化粧料。
【請求項8】
顔,脚,腕,腹部,脇腹,背中,首,又は顎の部分肥満改善用である,請求項7に記載の化粧料。
【請求項9】
部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を調製する方法であって,
1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤;又は
2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物;
を用いて,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素含有粘性組成物を調製する工程を含み,
含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものである,二酸化炭素含有粘性組成物の調製方法。
【請求項10】
調製される二酸化炭素含有粘性組成物が,二酸化炭素を5?90容量%含有するものである,請求項9に記載の調製方法。
【請求項11】
含水粘性組成物が,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後にメスシリンダーに入れたときの容量を100としたとき,2時間後において50以上の容量を保持できるものである,請求項9又は10に記載の調製方法。
【請求項12】
含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである,請求項9乃至11のいずれかに記載の調製方法。
【請求項13】
含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである,請求項9乃至12のいずれかに記載の調製方法。」

第4 請求人の主張
1 無効理由の要点
メディオンによる本件特許に係る出願は冒認あるいは共同出願違反であるから,本件特許は法123条1項6号あるいは同2号(法38条規定違反)に該当する。
すなわち,本件発明の発明者は田中,請求人及び坂田秀哉(以下「坂田」という場合がある。)であり,日置は発明者ではないから,本件特許に係る出願は冒認であるといえるし,仮に,日置が発明者であるとしても,被請求人は請求人及び坂田と共同して出願をしていない。
2 証拠
(1) 証拠方法として書証を申し出て,下記のとおりの文書(甲1?24)を提出する。(審決注:証拠の標記については,証拠説明書の記載を採用する場合がある。以下同じ。)
・甲1 田中作成の平成29年8月1日付け陳述書
・甲2 吉田作成の「二酸化炭素外用剤調製用組成物の発明について」と題する平成29年7月31日付け陳述書
・甲3 原田作成の「炭酸ガス外用剤の発明について」と題する平成29年7月27日付け陳述書
・甲4 無効2017-800050号事件における平成29年7月7日付け審判事件答弁書
・甲5 「Hydrogel被覆材(NG-01)の各種創傷に対する臨床効果」,小野一郎ら,基礎と臨床 Vol.27 No.15,1993年11月,283?300頁
・甲6 「新・注解 特許法【別冊】-平成23年改正特許法解説」,中山信弘ら編,株式会社青林書院,2012年8月8日初版第1刷,119?120頁
・甲7 「平成15年改正法における無効審判等の運用指針」,特許庁,平成15年11月,23?29頁
・甲8 「特許法[第3版]」,中山信弘,株式会社弘文堂,平成28年3月30日,第3版1刷,168?169頁
・甲9 判例タイムズ1339号(大阪地裁平成22年2月18日判決),2011年3月15日,193?200頁
・甲10 東京地方裁判所平成26年9月11日判決(平26(ワ)3672号)
・甲11 「条解 民事訴訟法[第2版]」,兼子一ら,株式会社弘文堂,平成23年4月15日第2版1刷,1274?1277頁
・甲12 「平成26年法律改正(平成26年法律第36号)解説書」,特許庁,125頁
・甲13 鐘紡手帳1997
・甲14 鐘紡手帳1994
・甲15 鐘紡ミニ手帳1997
・甲16 特許調査結果
・甲17 鐘紡薬品研究所組織図
・甲18 無効2017-800050号事件における平成29年7月7日付け審判事件答弁書(審決注:甲4と同じ証拠である。)
・甲19 「Hydrogel被覆材(NG-01)の各種創傷に対する臨床効果」,小野一郎ら,基礎と臨床 Vol.27 No.15,1993年11月,283?300頁(審決注:甲5と同じ証拠である。)
・甲20 日置正人の博士論文「ヒト潰瘍性大腸炎ならびにcarrageenan投与による実験的大腸炎における糞便中胆汁酸代謝物の検討」の書誌,国立国会図書館データベース
・甲21 「日本薬局方 セタノール 花王株式会社 製品安全データシート」
・甲22 田中作成の平成31年3月26日付け陳述書
・甲23 吉田作成の平成31年3月28日付け陳述書
・甲24 原田作成の平成31年3月28日付け陳述書
(2) また併せて,以下の証人尋問及び当事者尋問を申し出る。
・証人田中
・証人吉田
・本人原田

第5 被請求人の主張
1 主張の要点
請求人である原田は請求人適格を有しないから,本件審判の請求は,本案の審理を行うまでもなく直ちに却下されるべきである。
すなわち,特許法は冒認あるいは共同出願違反を理由とする無効審判を請求する場合にあっては特許を受ける権利を有する者に限り請求できると定めるから(法123条2項),原田が請求人となるためには少なくとも本件発明の発明者でなければならないところ,原田は発明者であったとはいえないし,仮に発明者の一人であるといえたとしても,鐘紡株式会社(以下「鐘紡」という。)の従業者であった原田の特許を受ける権利の持分は鐘紡に予約承継(譲渡)されるため,原田は特許を受ける権利を有していない。
2 証拠
(1) 証拠方法として書証を申し出て,下記のとおりの文書(乙1?乙23の4)を提出する。(審決注:乙10及び乙20の成立性について当事者間に争いがある。)
・乙1 メディオンに係る閉鎖事項全部証明書(平成29年11月1日,大阪法務局北出張所)
・乙2 起業家育成システム・アライアンスミーティング事業計画書(ビジネスプラン),田中雅也・日置正人,平成9年3月14日
・乙3の1 大阪地方裁判所平成27年(ワ)第4292号事件の訴状
・乙3の2 大阪地方裁判所平成27年(ワ)第4292号事件の第10回弁論準備手続調書
・乙4の1 無効2017-800055号事件における審判請求書
・乙4の2 田中作成の平成29年4月10日付け陳述書(無効2017-800055号事件において甲第1号証として提出されたもの)
・乙4の3 無効2017-800055号事件における平成29年6月1日付け回答書
・乙4の4 無効2017-800055号事件審決
・乙5 大阪地方裁判所平成27年(ワ)第8621号事件の被告準備書面(11)
・乙6の1 海岸ベルマネジメント株式会社に係る閉鎖登記簿(平成29年11月1日,インターネット登記情報)
・乙6の2 海岸ベルマネジメント株式会社に係る閉鎖登記簿(平成29年11月1日,インターネット登記情報)
・乙6の3 トリニティ・インベストメント株式会社に係る閉鎖登記簿(平成29年11月1日,インターネット登記情報)
・乙7 日置作成の平成30年2月19日付け陳述書
・乙8の1 国際公開第99/24043号
・乙8の2 国際予備審査報告
・乙8の3 条約34条補正
・乙8の4 刊行物等提出書(平成15年5月8日)
・乙8の5 拒絶理由通知書(平成16年2月23日)
・乙8の6 意見書(平成16年4月26日)
・乙8の7 手続補正書(平成16年4月26日)
・乙8の8 刊行物等提出書(平成16年9月27日)
・乙8の9 拒絶理由通知書(平成18年3月3日)
・乙8の10 意見書(平成18年5月12日)
・乙8の11 手続補正書(平成18年5月12日)
・乙8の12 拒絶査定(平成18年11月28日)
・乙8の13 審判請求書(平成19年1月11日)
・乙8の14 手続補正書(平成19年2月6日)
・乙8の15 手続補正書(方式)(平成19年3月29日)
・乙8の16 前置報告書(平成19年8月22日)
・乙8の17 回答書(平成22年3月8日)
・乙8の18 上申書(平成22年3月8日)
・乙8の19 拒絶理由通知書(平成22年6月30日)
・乙8の20 意見書(平成22年9月6日)
・乙8の21 手続補正書(平成22年9月6日)
・乙8の22 拒絶理由通知書(平成22年10月22日)
・乙8の23 意見書(平成22年11月5日)
・乙8の24 手続補正書(平成22年11月5日)
・乙8の25 不服2007-886号事件審決
・乙9 神戸市産業振興センター企業育成室における事業計画書,田中雅也,平成9年6月25日
・乙10 実験ノート(審決注:証拠説明書によれば田中及び日置が作成したとされるもの。)
・乙11 「20分で“素肌美人”になる!」,日置正人,現代書林,2003年4月16日初版第1刷,18?25頁
・乙12 「わが社の特許活動 鐘紡株式会社」,知財管理 Vol.49 No.7,1999年,965?966頁
・乙13 知的財産高等裁判所平成31年2月20日判決(平成30年(ネ)第10041号)
・乙14の1 日置に係る証人調書(知的財産高等裁判所平成30年(ネ)第10041号)
・乙14の2 田中に係る証人調書(知的財産高等裁判所平成30年(ネ)第10041号)
・乙15 日置作成の平成31年3月12日付け陳述書2
・乙16 「発明の経緯について」と題するネオケミア株式会社代理人弁護士中森亘ら作成の平成24年5月30日付け書面
・乙17 国民健康保険診療録
・乙18 「最新褥瘡治療マニュアル 創面の色に着目した治療法」,福井基成,照林社,1996年10月10日第1版第6刷,72頁
・乙19 メディオンに係る履歴事項全部証明書(平成11年12月14日,神戸地方法務局)
・乙20 実験ノート(審決注:証拠説明書には乙10の原本である旨説明がある。)
・乙21 鐘紡手帳1997(審決注:甲13と同じ証拠である。)
・乙22 株式会社メディオン・リサーチ・ラボラトリーズ定款
・乙23の1 日置作成の平成30年11月16日付け陳述書
・乙23の2 田中作成の平成30年11月16日付け陳述書
・乙23の3 原田作成の「炭酸ガス外用剤の発明について」と題する平成29年7月27日付け陳述書(審決注:甲3と同じ内容である。)
・乙23の4 吉田作成の「二酸化炭素外用剤調製用組成物の発明について」と題する平成29年7月31日付け陳述書(審決注:甲2と同じ内容である。)
(2) また併せて,以下の証人尋問を申し出る。
・証人日置

第6 当合議体の判断(本案前について)
被請求人は請求人の請求人適格について争うので検討するに,以下述べるとおり,本件審判は請求人適格を有しない者により請求されたものと判断される。

1 本件審判の請求人適格について
(1) 特許無効審判の請求人適格を定める法123条2項は,同条1項2号(特許が法38条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項6号に該当することを理由として審判請求する場合にあっては,特許を受ける権利を有する者すなわち真の権利者に限り特許無効審判を請求することができる旨を定める。
そうすると,上記第4のとおり,本件審判は本件特許が法123条1項6号又は同2号(法38条規定違反)に該当することを無効理由として請求されたものであるから,本件審判の請求人が請求人適格を有するためには,証拠上,特許を受ける権利の承継人でないことが明らかである請求人原田は,少なくとも本件発明の発明者でなければならないといえる(法29条1項柱書)。
(2)ア 請求人は,平成30年6月6日付け意見書において,平成23年法律63号(平成24年4月1日施行。以下「平成23年改正法」という。)附則2条9項所定の経過措置規定を根拠に,本件特許の特許出願の日は1998年10月5日であって平成23年改正法の施行日より前であるので,本件における法123条2項の解釈については改正前の法律が適用されるところ,上記経過措置規定からすれば,請求人適格の要件は「特許を受ける権利を有する者」か否かではなく「利害関係人」か否かである旨主張する。
イ そこで上記アの主張について検討するに,平成23年改正法の附則2条9項は,「新特許法…第123条第1項第6号及び第2項の規定は,この法律の施行の日以後にする特許出願について適用し,この法律の施行の日前にした特許出願については,なお従前の例による。」と規定するが,他方で,平成26年法律36号(平成27年4月1日施行。以下,「平成26年改正法」という。)の附則2条17項には,「この法律の施行前に請求された特許無効審判については,新特許法第123条第2項の規定にかかわらず,なお従前の例による。」との規定がある。
そうすると,本件特許は平成23年改正法の施行前の特許出願に係るものであることから平成23年改正法の上記経過措置規定の適用対象となるものではあったが,本件は平成29年8月10日に審判が請求されたものであって,平成26年改正法の施行前に請求されたものではないから,本件における請求人適格の要件については,平成26年改正法の上記経過措置規定(「…なお従前の例による。」)は適用されず,平成26年改正法の123条2項の規定(「特許無効審判は,利害関係人(前項第2号(特許が第38条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第6号に該当することを理由として特許無効審判を請求する場合にあつては,特許を受ける権利を有する者)に限り請求することができる。」)がそのまま適用されることとなると解される。
そして,本件は法38条の規定に違反すること及び法123条1項6号に該当することを理由として審判を請求するものであるから,本件における請求人適格の要件は「利害関係人」か否かではなく,「特許を受ける権利を有する者」か否かであると解される。
請求人の上記アの主張は,採用できない。
ウ なお仮に,本件における請求人適格の要件が「利害関係人」であるといえたとしても,請求人は,請求人自身は発明者であり発明者名誉権を有するから利害関係人に該当し請求人適格を有する旨主張(平成30年6月6日付け意見書4?7頁)するところ,後述のとおり,請求人は本件発明の発明者であるとは認められないから,請求人の上記主張はその前提において理由がない。

2 原田は本件発明の発明者といえるかについて
請求人である原田が本件審判の請求人適格を有するか検討するにあたり,まず,本件発明の発明者といえるかについて検討する。
(1) 発明者の認定について
ア 発明の完成について,裁判所は以下のとおり判示する。
・『特許法(以下「法」という。)2条1項は,「この法律で『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定め,「発明」は技術的思想,すなわち技術に関する思想でなければならないとしているが,特許制度の趣旨に照らして考えれば,その技術内容は,当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていなければならないものと解するのが相当であり,技術内容が右の程度にまで構成されていないものは,発明として未完成のものであつて,法2条1項にいう「発明」とはいえないものといわなければならない』(最高裁判所第1小法廷昭和49年(行ツ)第107号審決取消請求事件昭和52年10月13日)
・『ところで,発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作であり(特許法2条1項),一定の技術的課題(目的)の設定,その課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達成しうるという効果の確認という段階を経て完成されるものであるが,発明が完成したというためには,その技術的手段が,当該技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることを要し,またこれをもつて足りるものと解するのが相当である(最高裁昭和四九年(行ツ)第一〇七号同五二年一〇月一三日第一小法廷判決・民集三一巻六号八〇五頁参照)。したがつて,物の発明については,その物が現実に製造されあるいはその物を製造するための最終的な製作図面が作成されていることまでは必ずしも必要でなく,その物の具体的構成が設計図等によつて示され,当該技術分野における通常の知識を有する者がこれに基づいて最終的な製作図面を作成しその物を製造することが可能な状態になつていれば,発明としては完成しているというべきである。』(最高裁判所第2小法廷判決 昭和61年(オ)第454号 昭和61年10月3日)
イ そして,上記アの裁判例で判示するところを踏まえると,発明者とは,課題を解決するための技術的手段を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動に関与した者であるといえるところ,当該課題を解決するための技術的手段は発明の特徴的部分であるから,発明者とは,課題解決手段を基礎付ける発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者であるといえる。
ウ そうすると,原田が本件発明の発明者といえるためには,上記イで述べるところの本件発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者でなければならない。
(2) 本件発明の特徴的部分について
ア 本件特許出願の願書に添付された明細書(乙8の1。以下「本件明細書」という。)には,本件発明に関連するものとして,次の記載がある。(審決注:なお,下線は審決による。以下同じ。)
・「本発明は,水虫,虫さされ,アトピー性皮膚炎,貨幣状湿疹,乾皮症,脂漏性湿疹,蕁麻疹,痒疹,主婦湿疹,尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包炎,癰,せつ,蜂窩織炎,膿皮症,乾癬,魚鱗癬,掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹,創傷,熱傷,き裂,びらん,凍瘡などの皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害に伴うかゆみ;褥創,創傷,熱湯,口角炎,口内炎,皮膚潰瘍,き裂,びらん,凍瘡,壊疽などの皮膚粘膜損傷;移植皮膚片,皮弁などの生着不全;歯肉炎,歯槽膿漏,義歯性潰瘍,黒色化歯肉,口内炎などの歯科疾患;閉塞性血栓血管炎,閉塞性動脈硬化症,糖尿病性末梢循環障害,下肢静脈瘤などの末梢循環障害に基づく皮膚潰瘍や冷感,しびれ感;慢性関節リウマチ,頸肩腕症候群,筋肉痛,関節痛,腰痛症などの筋骨格系疾患;神経痛,多発性神経炎,スモン病などの神経系疾患;乾癬,鶏眼,たこ,魚鱗癬,掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹などの角化異常症;尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包炎,癰,せつ,蜂窩織炎,膿皮症,化膿性湿疹などの化膿性皮膚疾患;排便反射の減衰または喪失に基づく便秘;除毛後の再発毛抑制(むだ毛処理);そばかす,肌荒れ,肌のくすみ,肌の張りや肌の艶の衰え,髪の艶の衰えなどの皮膚や毛髪などの美容上の問題などを副作用をほとんどともなわずに治療あるいは改善でき,また所望する部位に使用すれば,その部位を痩せさせられる二酸化炭素含有粘性組成物…に関する。」(乙8の1の3頁4?20行)
・「本発明は,水虫,虫さされ,アトピー性皮膚炎,貨幣状湿疹,乾皮症,脂漏性湿疹,蕁麻疹,痒疹,主婦湿疹,尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包炎,癰,せつ,蜂窩織炎,膿皮症,乾癬,魚鱗癬,掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹,創傷,熱傷,き裂,びらん,凍瘡などの皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害に伴う痒みに有効な製剤とそれを用いる治療及び予防方法を提供することにある。
また本発明は,褥創,創傷,熱傷,口角炎,口内炎,皮膚潰瘍,き裂,びらん,凍瘡,壊疽などの皮膚粘膜損傷;移植皮膚片,皮弁などの生着不全;歯肉炎,歯槽膿漏,義歯性潰瘍,黒色化歯肉,口内炎などの歯科疾患;閉塞性血栓血管炎,閉塞性動脈硬化症,糖尿病性末梢循環障害,下肢静脈瘤などの末梢循環障害に基づく皮膚潰瘍や冷感,しびれ感;慢性関節リウマチ,頸肩腕症候群,筋肉痛,関節痛,腰痛症などの筋骨格系疾患;神経痛,多発性神経炎,スモン病などの神経系疾患;乾癬,鶏眼,たこ,魚鱗癬,掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹などの角化異常症;尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包炎,癰,せつ,蜂窩織炎,膿皮症,化膿性湿疹などの化膿性皮膚疾患;排便反射の減衰または喪失に基づく便秘;除毛後の再発毛抑制(むだ毛処理);そばかす,肌荒れ,肌のくすみ,肌の張りや肌の艶の衰え,髪の艶の衰えなどの皮膚や毛髪などの美容上の問題及び部分肥満に有効な製剤とそれを用いる予防及び治療方法を提供することを目的とする。」(同4頁2?18行)
・「本発明者らは鋭意研究を行った結果,二酸化炭素含有粘性組成物が,外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤,非ステロイド抗炎症剤,ステロイド剤などが無効な痒みにも有効であることを発見し,更に該組成物が抗炎症作用や創傷治癒促進作用,美肌作用,部分肥満解消作用,経皮吸収促進作用なども有することを発見して本発明を完成した。」(同4頁20?24行)
・「本発明でいう「含水粘性組成物」とは,水に溶解した,又は水で膨潤させた増粘剤の1種又は2種以上を含む組成物である。該組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させ,皮膚粘膜又は損傷皮膚組織等に適用した場合,二酸化炭素を皮下組織等に十分量供給できる程度に二酸化炭素の気泡を保持できる。該組成物は,二酸化炭素を気泡状で保持するためのものであれば特に限定されず,通常の医薬品,化粧品,食品等で使用される増粘剤を制限なく使用でき,剤形としてもジェル,クリーム,ペースト,ムースなど皮膚粘膜や損傷組織,毛髪などに一般的に適用される剤形が利用できる。
本発明には,例えば以下のキットが含まれる。
1)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸とのキット;
2)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩とのキット;
3)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の顆粒(細粒,粉末)剤とのキット;
4)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩の顆粒(細粒,粉末)剤とのキット;
5)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸含有含水粘性組成物のキット;
6)炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤と含水粘性組成物のキット;
7)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸含有シートのキット;
8)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩含有シートのキット;
9)炭酸塩と酸と含水粘性組成物のキット;
10)含水粘性組成物と,炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤含有シートのキット;及び
11)炭酸塩と酸と水と増粘剤のキット。
気泡状の二酸化炭素を含む本発明の組成物は,これらキットの各成分を使用時に混合することにより製造できる。」(同9頁下から8行?10頁15行)
・「本発明の増粘剤に用いる半合成高分子の中のアルギン酸系高分子としてはアルギン酸ナトリウム…があげられる。」(同11頁13?14行)
・「また,反応により二酸化炭素を発生する物質を含水粘性組成物中で反応させて二酸化炭素を発生させるか,又は含水粘性組成物を形成すると同時に二酸化炭素を発生させて二酸化炭素含有粘性組成物を得ることも可能である。二酸化炭素を発生する物質としては,例えば炭酸塩と酸の組み合わせがある。具体的には以下のような組み合わせにより二酸化炭素含有粘性組成物を得ることが可能であるが,本発明は二酸化炭素が気泡状で保持される二酸化炭素含有粘性組成物が形成される組み合わせであれば,これらの組み合わせに限定されるものではない。
1)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の組み合わせ;
2)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩の組み合わせ;
3)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ;
4)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩の顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ;
5)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸含有含水粘性組成物の組み合わせ;
6)炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤と含水粘性組成物の組み合わせ;
7)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸含有シートの組み合わせ;
8)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩含有シートの組み合わせ;
9)炭酸塩と酸と含水粘性組成物の組み合わせ;
10)含水粘性組成物と,炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤含有シートの組み合わせ;及び
11)炭酸塩と酸と水と増粘剤の組み合わせ。
なお,炭酸塩含有含水粘性組成物,酸含有含水粘性組成物及び含水粘性組成物は,各々炭酸塩の増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等,酸の増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等及び増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等の製剤を製造し,これらから調製してもよい。炭酸塩の増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等及び酸の増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等は各々炭酸塩及び酸の徐放性製剤とすることにより,更に持続性を増強することも可能である。」(同11頁下から2行?12頁下から7行)
・「本発明の二酸化炭素含有粘性組成物は,数分程度皮膚または粘膜に適用し,すぐに拭き取ってもかゆみ,各種皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害の治療や予防,あるいは美容に有効であるが,通常5分以上皮膚粘膜もしくは損傷皮膚組織等に適用する。特に褥創治療などでは24時間以上の連続適用が可能であり,看護等の省力化にも非常に有効である。肌質改善等の美容目的に使用する場合は,1回の使用ですぐに効果が得られる。使用時間や使用回数,使用期間を増やせば,美容効果は更に高まる。部分痩せ用途に対しては,1日1回の使用を1ヶ月以上継続すれば十分な効果が得られるが,使用時間や使用回数,使用期間を増やせば効果は更に高まる。」(同17頁下から14?6行)
・「本発明の組成物は,調製直後にメスシリンダーに入れたときの容量を100としたとき,2時間後においても通常30以上,好ましくは50以上,より好ましくは70以上の容量を保持している。
本発明の二酸化炭素含有粘性組成物は,使用時に気泡状の二酸化炭素を1?99容量%程度,好ましくは5?90容量%程度,より好ましくは10?80容量%程度含む。」(同18頁下から5行?19頁1行)
・「〔二酸化炭素含有粘性組成物の評価〕

<気泡の持続性>
炭酸塩含有含水粘性組成物50gと酸1gを直径5cm,高さ10cmのカップに入れ,10秒間に20回攪拌混合し二酸化炭素含有粘性組成物を得る。攪拌混合1分後の該組成物の体積を測定し,その2時間後の体積を測定して体積の減少率をパーセントで求め,評価基準2に従い,気泡の持続性を評価する。
<評価基準2>
減少率 気泡の持続性
20%以下 +++
20%?40% ++
40%?60% +
60%以上 0
体積の測定は,各々の測定時点での二酸化炭素含有粘性組成物の高さをカップに記し,該組成物を除去した後でそれらの高さまで水を入れ,それらの水の体積をメスシリンダーで測定する。」(同20頁6行?21頁5行)
また,本件明細書には実施例が記載されているが,このうち本件発明の実施例に該当するものは実施例109?144,実施例227?249,実施例296及び実施例298であるところ,これら本件発明の実施例に係る二酸化炭素含有粘性組成物の評価のうち気泡の持続性は,いずれも++又は+++との記載がある(表10?12,20,21)。
イ 本件明細書の記載(上記ア)によれば,本件発明は,水虫やアトピー性皮膚炎などの皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害に伴うかゆみ,褥創などの皮膚粘膜損傷などを副作用をほとんどともなわずに治療あるいは改善でき,また所望する部位に使用すれば,その部位を痩せさせられる二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットに関するものであり(3頁4?20行,10頁1?15行),当該二酸化炭素含有粘性組成物が,外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤,非ステロイド抗炎症剤,ステロイド剤などが無効な痒みにも有効であり,抗炎症作用や創傷治癒促進作用,部分肥満解消作用なども有するとの知見に基づき発明された(4頁20?24行)。
そして,本件発明における二酸化炭素含有粘性組成物は,二酸化炭素を気泡状で保持し,皮膚粘膜又は損傷皮膚組織等に適用した場合,二酸化炭素を皮下組織等に十分量供給(経皮吸収)できる程度に二酸化炭素の気泡を保持できるものであることが記載され(9頁下から8行?最下行,11頁下から2行?12頁17行),本件発明の二酸化炭素含有粘性組成物が二酸化炭素について上述のような気泡状での保持を達成するための手段として,水に溶解又は水で膨潤させた増粘剤の1種又は2種以上を含む含水粘性組成物を用いることが記載され(9頁下から8行?最下行),本件発明の二酸化炭素含有粘性組成物は気泡の持続性の高いとの効果を奏することが記載されている(表10?12,20,21)。
以上のことから,本件明細書に記載された技術は,本件明細書の記載上,二酸化炭素の作用を利用するために二酸化炭素を持続的に経皮吸収させることを課題とし,当該課題を解決するためにアルギン酸ナトリウム等の増粘剤を含有する含水粘性組成物の粘性を利用して当該組成物中に二酸化炭素を保持するようにし,その状態の当該組成物から経皮的に二酸化炭素を吸収させることで経皮吸収させる時間を長くするものであると認められる。そして,この点は,部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって,炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物,アルギン酸ナトリウムのみを含有する含水粘性組成物を備えるキット並びに当該キットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を有効成分とする,水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物,当該キットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む部分肥満改善用化粧料に限定されている本件発明や,部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を調製する方法である本件発明にも当てはまるといえる。
そうすると,本件発明の特徴的部分は,部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットあるいは当該二酸化炭素含有粘性組成物を調製する方法において,得られる二酸化炭素含有粘性組成物が,含水粘性組成物の粘性を利用して,二酸化炭素を組成物中に保持し,持続的に経皮吸収させることができる点にあると認められる。
(3) 本件発明の特徴的部分に係る着想の主体
ア(ア) 田中に係る本件審判での証人尋問における証言,同人に係る知的財産高等裁判所平成30年(ネ)第10041号事件での証人尋問における証言(乙14の2)及び同人が作成した陳述書(甲1,甲22,乙23の2)から,田中について,おおむね次の事実が認められる。
・酸と炭酸塩の反応から炭酸ガス(二酸化炭素)を発生させる組成物を試作したが,当該試作品では混合すると反応が早すぎて発生した炭酸ガスが空気中にほとんど逃げてしまい,炭酸ガスを保持するようなものができないという問題を認識していたこと。
・カネボウフーズの「ねるねる」シリーズの知育菓子は,粉末状の材料に水を入れてゲルを形成し,そこに酸の顆粒を加えて混ぜると発泡するものであり,ゲルの全体に炭酸ガスが行き渡って持続することがわかるものであったので,カネボウフーズが鐘紡と同じグループだからということもあり,その技術情報を教えてもらうために,平成9年3月6日にカネボウフーズの食品研究所を訪ねたこと。
・食品研究所では,アルギン酸ナトリウムはしっかりとしたゲルを形成できて離水現象が起きにくい反面,水に溶けにくい性質があることなどのアドバイスを受け,アドバイスの内容を製剤研究部の原田に伝えて試作を依頼したこと。
(イ) また,日置に係る本件審判での証人尋問における証言,同人に係る知的財産高等裁判所平成30年(ネ)第10041号事件での証人尋問における証言(乙14の1)及び同人が作成した陳述書(乙15,乙23の1)から,日置について,おおむね次の事実が認められる。
・2剤式の製剤を考案したきっかけは,炭酸ガスと床擦れのキーワードで文献を調査していたときに,花王のバブを用いて床擦れの治療をしているものを見つけたことにあること。
・この治療法は,洗面器の中に水を張ってその中に花王のバブを砕いたものを入れ,その中にガーゼを入れて,ガーゼを固く絞らないで患部に当てるという方法であったが,洗面器の中に花王のバブを入れて泡立てていくと,有効成分の炭酸ガスがどんどん空気中に拡散されてしまうので,仮に洗面器の水がジェルだったらもっと濃度を高く保って炭酸ガスを封じ込めることができるのではと考えたこと。
・田中に提案した当初の2剤式の製剤は,炭酸水素ナトリウムを含むジェル剤と単独の酸の粉末剤の2剤からなるものであったこと。
・かかる研究開発を始めたのは平成9年2月頃であったこと。
・田中からカネボウフーズの食品研究所に行く話を聞いたとき,そのときはもう既に2剤式でどんどん実験を進めており,そこそこの結果が出ていたので,わざわざどうして話を聞きにいくのか,そこまでしなくていいんじゃないかということを言った記憶があること。
・原田とは面識がないこと。
イ 以上によれば,含水粘性組成物を二酸化炭素保持の目的で利用するとの着想の主体が田中か日置か明らかではないが,田中がカネボウフーズの食品研究所を訪ねた時点で既に上記着想は得られていたものと認められる。
この点,原田がかかる着想を得るのに現実に関与したことを認めるに足りる証拠は見当たらず,その後の創作活動において,原田が単なる補助者としての地位にとどまらず,共同発明者として田中や日置と一体的・連続的な協力関係の下に相応の貢献をしたといえるだけの具体的かつ客観的な事情の存在が裏付けられているとも認められない。例えば,田中の研究企画部当時の上司であった吉田は,本件審判での証人尋問において,原田の実験内容については知らなかったと証言しているし,原田自身も,本件審判の当事者尋問において,田中より,カネボウフーズの食品研究所を訪ねた後の時点で,アルギン酸ナトリウムを増粘剤として用いたジェルを使った外用剤を開発して欲しいとの依頼があった旨証言している。
ウ そうすると,原田は,本件発明の特徴的部分(含水粘性組成物の粘性を利用して,二酸化炭素を組成物中に保持し,持続的に経皮吸収させることができる点)の創作に現実に関与したということはできず,よって原田は本件発明の発明者であるとはいえない。

3 小括
以上検討のとおり,請求人である原田は本件発明の発明者ということはできないから,特許を受ける権利を有する者であると認めることができない。
そうすると,本件特許が法123条1項6号あるいは同2号(法38条規定違反)に該当することを無効理由として請求された本件審判において,請求人は請求人適格を有するとはいえず,本件審判の請求は,法123条2項の要件を欠く不適法なものであるといわざるを得ない。

第7 むすび
上記第6のとおり,本件審判の請求は不適法であって,その補正をすることができないものであるから,法135条の規定により,審決をもってこれを却下すべきである。
審判に関する費用については,法169条2項で準用する民事訴訟法61条の規定により,請求人が負担すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-06-18 
結審通知日 2019-06-21 
審決日 2019-07-02 
出願番号 特願2000-520135(P2000-520135)
審決分類 P 1 113・ 02- X (A61K)
最終処分 審決却下  
前審関与審査官 守安 智岩下 直人  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 須藤 康洋
穴吹 智子
登録日 2011-01-07 
登録番号 特許第4659980号(P4659980)
発明の名称 二酸化炭素含有粘性組成物  
代理人 山田 威一郎  
代理人 高橋 淳  
代理人 迫田 恭子  
代理人 田中 順也  
代理人 柴田 和彦  
代理人 水谷 馨也  
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