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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
審判 査定不服 原文新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
管理番号 1354893
審判番号 不服2016-17657  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-28 
確定日 2019-09-04 
事件の表示 特願2011-248140号「高出力密度で高逆起電力の永久磁石機械及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年6月14日出願公開、特開2012-115133号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年11月14日(パリ条約による優先権主張2010年11月19日、米国)の出願であって、平成28年7月28日付けで拒絶査定がなされ、この査定に対し、平成28年11月28日に本件審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、当審において平成29年10月30日付けで拒絶理由を通知したところ、平成30年1月15日付けで意見書及び手続補正書が提出され、当審において平成30年6月29日付けで最後の拒絶理由を通知したところ、平成30年10月22日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 平成30年10月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年10月22日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由I]
1.補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1?請求項9は、
「【請求項1】
回転子(116)及び固定子(118)を持つ永久磁石機械(70)と、
前記永久磁石機械(70)に電気的に結合されていて、前記永久磁石機械(70)を駆動するためにDCリンク電圧をAC出力電圧に変換し、前記永久磁石機械(70)が駆動されることに対応して前記永久磁石機械(70)の固定子が発電したAC出力電圧を受けるように構成された電力変換器(62)であって、該電力変換器(62)は、駆動された前記永久磁石機械(70)の最高速度で前記固定子が発生するピーク線間逆起電力を超える電圧定格を持つ複数の炭化珪素(SiC)スイッチング装置(74?84)を含んでいる電力変換器(62)と、
前記電力変換器(62)を介して前記永久磁石機械(70)に結合されたDCリンク(46)と、
前記DCリンク(46)に結合されていて、電源電圧を前記DCリンク(46)に供給するように構成されている電圧電源(50)と、
前記永久磁石機械(70)が前記電力変換器(62)が変換したAC出力電圧により駆動されているときに、前記複数のSiCスイッチング装置(74?84)の各々への制御ゲート信号がターンオフされたときに生じる前記電力変換器(62)の故障の検出に応答して、前記電圧電源(50)を前記永久磁石機械(70)に接続されている前記電力変換器(62)から切断するように接触器を制御する制御器(72)と、
を有し、
前記永久磁石機械(70)が駆動されることに対応して前記永久磁石機械(70)の前記固定子が発電し、前記複数のSiCスイッチング装置(74?84)の各々への制御ゲート信号がターンオフされたときに生じる前記電力変換器(62)の故障時に前記電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力が前記電圧電源(50)のDCリンク電圧よりも大きく、前記複数のSiCスイッチング装置(74?84)の電圧定格よりも低い、
電気駆動システム。
【請求項2】
前記複数のSiCスイッチング装置(74?84)は複数のSiC金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)(86?96)を有している、請求項1記載の電気駆動システム。
【請求項3】
前記DCリンク(46)正のDC線路(66)と負のDC線路(68)とに接続する入力フィルタ・コンデンサ(64)を有する、請求項1または2に記載の電気駆動システム。
【請求項4】
前記複数のSiCスイッチング装置に含まれる複数のSiC-MOSFET(86?96)は約3kVよりも大きい電圧定格を持っている、請求項1乃至3のいずれかに記載の電気駆動システム。
【請求項5】
前記永久磁石機械(70)は、3、5、7及び9相の内の一つを持つ多相永久磁石牽引電動機で構成されている、請求項1乃至4のいずれかに記載の電気駆動システム。
【請求項6】
前記永久磁石機械(70)は単相永久磁石牽引電動機で構成されている、請求項1乃至5のいずれかに記載の電気駆動システム。
【請求項7】
前記永久磁石機械(70)は、熱機関に結合された多相永久磁石交流発電機として機能する、請求項1乃至6のいずれかに記載の電気駆動システム。
【請求項8】
前記電力変換器(62)は、複数のSiC-MOSFET(86?96)と逆並列構成で接続された複数のダイオード(100?108)を有している、請求項1乃至7のいずれかに記載の電気駆動システム。
【請求項9】
前記電力変換器(62)は三相電力変換器である、請求項1乃至8のいずれかに記載の電気駆動システム。」
に補正された。

2.補正の適否
[新規事項]
本件補正後の請求項1には、「前記複数のSiCスイッチング装置(74?84)の各々への制御ゲート信号がターンオフされたときに生じる前記電力変換器(62)の故障時に前記電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力が前記電圧電源(50)のDCリンク電圧よりも大きく、前記複数のSiCスイッチング装置(74?84)の電圧定格よりも低い」と記載されているから、電力変換器に供給されるピーク線間逆起電力は、複数のSiCスイッチング装置の各々への制御ゲート信号がターンオフされたときに生じる電力変換器の故障時に生じ、電圧電源のDCリンク電圧よりも大きく、複数のSiCスイッチング装置の電圧定格よりも低いことになる。
そこで、本件補正が、外国語書面の翻訳文(又は誤訳訂正書による補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面。)(以下、「翻訳文等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。

(1)翻訳文等には、
a「【請求項1】回転子(116)及び固定子(118)を持つ永久磁石機械(70)と、
前記永久磁石機械(70)に電気的に結合されていて、前記永久磁石機械(70)を駆動するためにDCリンク電圧をAC出力電圧に変換するように構成された電力変換器(62)であって、前記永久磁石機械(70)の最高速度における前記永久磁石機械(70)のピーク線間逆起電力を超える電圧定格を持つ複数の炭化珪素(SiC)スイッチング装置(74?84)を含んでいる電力変換器(62)と、
を有する電気駆動システム。」(【請求項1】)
b「永久磁石機械の回転子の速度が増すにつれて、固定子に発生される電圧(これは「逆起電力」と呼ばれる)が増大する。これにより、次いで、所望のトルクを発生させるために印加すべき端子電圧を次第に高くすることが必要になる。機械の逆起電力は永久磁石機械では速度に比例する。最大速度でのピーク線間逆起電力がDCリンク電圧よりも高い場合に、電力変換器に対する制御が失われた場合、永久磁石機械は非制御発電(UCG)モードで動作し始める。UCGは、6つのインバータ・スイッチへの制御信号がターンオフされ又は切断されたときに生じる。この状態の際、その電動機はインバータ・スイッチの逆並列ダイオードを介してDC電源に接続される。それらの逆並列ダイオードは、電動機動作状態及びDC電源電圧に依存して、電流が流れる潜在的な通路を生成する。この場合、永久磁石機械は、回転力を電流へ変換する発電機として作用し、また電力変換器内の逆並列ダイオードを介してDCリンクにエネルギを放出し始めて、DCリンク電圧を増大させる。このエネルギが散逸されない場合、又はDCリンク電圧の増大が制限されない場合、DCリンク電圧は電力変換器内の能動装置の電圧定格を超えることがある。」(【0004】)
c「本発明の一面によれば、電気駆動システムが提供され、該電気駆動システムは、回転子及び固定子を持つ永久磁石機械と、前記永久磁石機械に電気的に結合されていて、前記永久磁石機械を駆動するためにDCリンク電圧をAC出力電圧に変換するように構成された電力変換器とを含む。前記電力変換器は、前記永久磁石機械の最高速度における前記永久磁石機械のピーク線間逆起電力を超える電圧定格を持つ複数のSiCスイッチング装置を含む。」(【0008】)
d「本発明の別の面によれば、電気駆動システムを製造する方法が提供され、該方法は、複数のSiCスイッチング装置を持っていて、電源に結合可能であるSiC電力変換器を設ける工程を含む。本方法はまた、最高速度において電源のDCリンク電圧よりも大きいピーク線間逆起電力を持つ永久磁石機械を設ける工程と、前記永久磁石機械を駆動するために前記永久磁石機械に前記SiC電力変換器を結合する工程とを含む。」(【0009】)
e「本発明の更に別の面によれば、自動車駆動システムが提供され、該自動車駆動システムは、永久磁石回転子及び固定子を持つ電動機を含む。該駆動システムはまた、DCリンクを含むと共に、前記永久磁石電動機を駆動するために前記DCリンクと前記永久磁石回転子との間に電気的に結合された電力変換器を含む。前記電力変換器は、前記永久磁石電動機の前記固定子に発生されることのある最大逆起電力よりも高い動作電圧定格を持つ複数のSiCスイッチング装置を有する。」(【0010】)
f「SiC-MOSFET86?96の高電圧定格により、永久磁石機械70は非制御発電モードについて心配することなく高い逆起電力を持つように設計することができ、その結果として永久磁石機械70の出力密度を有意に増大させることができる。すなわち、SiC-MOSFET86?96は、永久磁石機械70の非制御発電モード中のDCリンク電圧を超える電圧定格を持つ。市販の路上走行EV、HEV及びPHEVにおける従来のシリコンIGBT電力モジュール使用の電力変換器回路は、典型的には、約600Vの電圧定格を持ち、或いはSUV、トラック及びバスを含む幾分大形の又は高性能の車について1200Vの電圧定格を持つ。一実施形態によれば、SiC-MOSFET86?96は、約3?4kVの電圧定格を持つゼネラル・エレクトリック社製の高電圧SiC-MOSFETである。高出力密度多相永久磁石機械70と組み合わせた組合せ高電圧SiC電力変換器62は、出力密度を2?4倍以上にすることができると共に、電力変換器62に対する制御が失われた期間又は電力変換器62内の電力モジュールへのゲート駆動が失われた期間中での耐故障性がかなり改善される。SiC-MOSFET86?96は従来のシリコンMOSFETよりも物理的に小さくなるように製造することができるので、SiC-MOSFET86?96は自動車環境内にパッケージ化することができ、またより高い温度で動作させることができる。」(【0022】)
g「永久磁石機械70の過大な起電力電圧は電源50のDC電源58を損傷することがある。そのため、一実施形態では、制御器72は、電力変換器62における故障及び電力変換器62の関連ゲート駆動回路の故障を検出するように構成される。例えば、線間逆起電力がDC電源58の電圧定格の閾値百分率内にある場合に故障を検出することができる。故障が検出された場合、制御器72はDC電源58を電力変換器62から切断又は知り離すことができる。この結果、電力変換器62内の故障状態中に永久磁石機械70によって発生される過大な起電力電圧が、DC電源58に対して過電圧損傷を生じさせることはない。SiC電力変換器62及びその関連構成部品86?96の高電圧定格は、たとえ機械70が高速度で動作している間に潜在的な故障が生じても、高出力永久磁石機械70からの逆起電力に耐える。」(【0023】)
h「従って、本発明の一実施形態によれば、電気駆動システムが、回転子及び固定子を持つ永久磁石機械と、前記永久磁石機械に電気的に結合されていて、前記永久磁石機械を駆動するためにDCリンク電圧をAC出力電圧に変換するように構成された電力変換器とを含む。前記電力変換器は、永久磁石機械の最高速度における永久磁石機械のピーク線間逆起電力を超える電圧定格を持つ複数のSiCスイッチング装置を含む。」(【0024】)
i「本発明の別の実施形態によれば、電気駆動システムを製造する方法が、複数のSiCスイッチング装置を持っていて、電源に結合可能であるSiC電力変換器を設ける工程を含む。本方法はまた、最高速度において電源のDCリンク電圧よりも大きいピーク線間逆起電力を持つ永久磁石機械を設ける工程と、前記永久磁石機械を駆動するために前記永久磁石機械に前記SiC電力変換器を結合する工程とを含む。」(【0025】)
j「本発明の更に別の実施形態によれば、自動車駆動システムが、永久磁石回転子及び固定子を持つ電動機を含む。本駆動システムはまた、DCリンクを含むと共に、前記永久磁石電動機を駆動するために前記DCリンクと前記永久磁石回転子との間に電気的に結合された電力変換器を含む。前記電力変換器は、前記永久磁石電動機の前記固定子に発生され得る最大逆起電力よりも高い動作電圧定格を持つ複数のSiCスイッチング装置を有する。」(【0026】)
と記載されるにすぎず、電力変換器は、永久磁石機械の最高速度におけるピーク線間逆起電力を超える電圧定格を持つ複数のSiCスイッチング装置を含むこと(a参照)、永久磁石機械は、最高速度で電源のDCリンク電圧よりも大きいピーク線間逆起電力を持つこと(i参照)、最大速度でのピーク線間逆起電力がDCリンク電圧よりも高い場合に、電力変換器に対する制御が失われた場合、永久磁石機械は非制御発電(UCG)モードで動作し始めること(b参照)は記載はあるが、複数のSiCスイッチング装置の各々への制御ゲート信号がターンオフされたときに生じる電力変換器の故障時に、ピーク線間逆起電力が生じ、当該ピーク線間逆起電力が、電圧電源のDCリンク電圧よりも大きく、複数のSiCスイッチング装置の電圧定格よりも低いことは、翻訳文等に記載も示唆もない。

なお、請求人は、平成30年10月22日付け意見書「補正の根拠について」において、「電力変換器(62)の故障が、電力変換器(62)の複数のSiCスイッチング装置(74?84)の各々への制御ゲート信号がターンオフされたときに生じる点は、少なくとも図2及び、本願明細書第0004段落の『最大速度でのピーク線間逆起電力がDCリンク電圧よりも高い場合に、電力変換器に対する制御が失われた場合、永久磁石機械は非制御発電(UCG)モードで動作し始める。UCGは、6つのインバータ・スイッチへの制御信号がターンオフされ又は切断されたときに生じる。この状態の際、その電動機はインバータ・スイッチの逆並列ダイオードを介してDC電源に接続される。それらの逆並列ダイオードは、電動機動作状態及びDC電源電圧に依存して、電流が流れる潜在的な通路を生成する。この場合、永久磁石機械は、回転力を電流へ変換する発電機として作用し、また電力変換器内の逆並列ダイオードを介してDCリンクにエネルギを放出し始めて、DCリンク電圧を増大させる。このエネルギが散逸されない場合、又はDCリンク電圧の増大が制限されない場合、DCリンク電圧は電力変換器内の能動装置の電圧定格を超えることがある。』との記載に基づきます。」と主張している。
しかし、明細書【0004】は、電力変換器に対する制御が失われた場合、すなわち、制御信号が正常にターンオフした場合を想定するものであって、最大速度でのピーク線間逆起電力がDCリンク電圧よりも高い場合に、電力変換器に対する制御が失われた場合にDC電源に回生することは記載があるが、電力変換器の故障時に生じるピーク線間逆起電力が、DCリンク電圧よりも大きく、複数のSiCスイッチング装置の電圧定格よりも低いことは記載も示唆もないから、請求人の上記主張は採用できない。

したがって、本件補正後の請求項1に記載された「前記複数のSiCスイッチング装置(74?84)の各々への制御ゲート信号がターンオフされたときに生じる前記電力変換器(62)の故障時に前記電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力が前記電圧電源(50)のDCリンク電圧よりも大きく、前記複数のSiCスイッチング装置(74?84)の電圧定格よりも低い」ことは、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[理由II]
上記のとおり、本件補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるが、仮に本件補正が、特許請求の範囲の限縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項1に記載されたものが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第2号について
(1)本件補正後の請求項1に「前記複数のSiCスイッチング装置(74?84)の各々への制御ゲート信号がターンオフされたときに生じる前記電力変換器(62)の故障」とあり、電力変換器の故障には様々な故障が考えられるが、通常故障はどの箇所にどの様な故障が発生するか特定されていなければ故障検出はできないにもかかわらず、どの様な構成であれば、当該様々な箇所に発生する様々な故障を検出ができるのか不明(複数のSiCスイッチング装置の各々への制御ゲート信号がターンオフされたときに生じる電力変換器の様々な故障を検出する、具体的な検出装置が示されていない。)である。
さらに、本件補正後の請求項1は「制御ゲート信号がターンオフされたときに生じる前記電力変換器(62)の故障」とあるので、制御ゲート信号がターンオンでは故障が生じないものも含まれるが、ターンオンで正常で、ターンオフされたときに生じる故障とは、どの様なものであるのか特定できず不明である。

(2)本件補正後の請求項1に「前記複数のSiCスイッチング装置(74?84)の各々への制御ゲート信号がターンオフされたときに生じる前記電力変換器(62)の故障時に前記電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力が前記電圧電源(50)のDCリンク電圧よりも大きく、前記複数のSiCスイッチング装置(74?84)の電圧定格よりも低い」とあるが、本件補正後の請求項1には、ピーク線間逆起電力は永久磁石機械の最高速度で生じることも示されている。
そうすると、電力変換器の故障時の永久磁石機械の速度は最高速度でなければならないことになるが、複数のSiCスイッチング装置の各々への制御ゲート信号がターンオフされたときに生じる電力変換器の故障時に、何故永久磁石機械が最高速度であってピーク線間逆起電力が発生するのか明細書を参照しても不明である。
また、本件補正後の請求項1には「ピーク線間逆起電力」が、電力変換器の故障時発生するものと、永久磁石機械の最高速度で発生するものがあるが、両者が同じピーク線間逆起電力であるか否か不明であり、仮に、両者が同じであるとすると、上記の様に、電力変換器の故障時に、何故永久磁石機械が最高速度であって、ピーク線間逆起電力が発生するのか不明であり、両者が異なるとすると、故障時に電力変換器に供給されるピーク線間逆起電力は、永久磁石機械が低速の場合も含むものとなり、低速の場合はピーク線間逆起電力は小さい電圧値となるが、何故、電圧電源のDCリンク電圧よりも大きくなるのか不明である。

(3)本件補正後の請求項1に「電力変換器(62)の故障時に前記電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力」とあるが、ピーク線間逆起電力が1周期内の電圧最高値を表すのか、永久磁石機械の最高速度で発生する電圧値を表すのか明細書を参照しても特定できず不明であり、仮に、1周期内の電圧最高値を表すとすると、永久磁石機械が低速の場合は小さい電圧値となり、何故、常に電圧電源のDCリンク電圧よりも大きくなるのか不明であり、永久磁石機械の最高速度で発生する電圧値を表すとすると、上記(2)記載のように、電力変換器の故障時に、何故永久磁石機械が最高速度であって、ピーク線間逆起電力が発生するのか不明である。
本件補正後の請求項1に「前記電力変換器(62)の故障時に前記電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力」とあるが、電力変換器の故障の種類によって、電力変換器に供給されるピーク線間逆起電力も変わる(SiCスイッチング装置の短絡故障であるときは、電力変換器に印加される電圧は0v)ので、何故電力変換器の故障時のピーク線間逆起電力が電圧電源のDCリンク電圧よりも大きく、複数のSiCスイッチング装置の電圧定格よりも低くなるのか、明細書を参照しても不明である。
本件補正後の請求項1には、「前記複数のSiCスイッチング装置(74?84)の各々への制御ゲート信号がターンオフされたときに生じる前記電力変換器(62)の故障時に前記電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力」とあるが、「前記電力変換器(62)の故障の検出に応答して、前記電圧電源(50)を前記永久磁石機械(70)に接続されている前記電力変換器(62)から切断するように接触器を制御する」ともあって、故障時に電圧電源を電力変換器から切断しているから回路はオープンになり、回路がオープンでは通常ピーク線間逆起電力による電流は流れないので、電力変換器には電圧は発生しない。そうすると、回路がオープンとなる切断時に、電力変換器に何故ピーク線間逆起電力が、供給されるのか不明である。

以上のとおり、本件補正後の請求項1の記載は、明確でないので、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際に独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
平成30年10月22日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲は、平成30年1月15日付けの手続補正で補正された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
回転子(116)及び固定子(118)を持つ永久磁石機械(70)と、
前記永久磁石機械(70)に電気的に結合されていて、前記永久磁石機械(70)を駆動するためにDCリンク電圧をAC出力電圧に変換し、前記永久磁石機械(70)が駆動されることに対応して前記永久磁石機械(70)の固定子が発電したAC出力電圧を受けるように構成された電力変換器(62)であって、該電力変換器(62)は、駆動された前記永久磁石機械(70)の最高速度で前記固定子が発生するピーク線間逆起電力を超える電圧定格を持つ複数の炭化珪素(SiC)スイッチング装置(74?84)を含んでいる電力変換器(62)と、
前記電力変換器(62)を介して前記永久磁石機械(70)に結合されたDCリンク(46)と、
前記DCリンク(46)に結合されていて、電源電圧を前記DCリンク(46)に供給するように構成されている電圧電源(50)と、
前記永久磁石機械(70)が前記電力変換器(62)が変換したAC出力電圧により駆動されているときに、前記電力変換器(62)の故障の検出に応答して、前記電圧電源(50)を前記永久磁石機械(70)に接続されている前記電力変換器(62)から切断するように接触器を制御する制御器(72)と、
を有し、
前記永久磁石機械(70)が駆動されることに対応して前記永久磁石機械(70)の前記固定子が発電し、前記電力変換器(62)の故障時に前記電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力が前記電圧電源(50)のDCリンク電圧よりも大きく、前記複数のSiCスイッチング装置(74?84)の電圧定格よりも低い、
電気駆動システム。
【請求項2】
前記複数のSiCスイッチング装置(74?84)は複数のSiC金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)(86?96)を有している、請求項1記載の電気駆動システム。
【請求項3】
前記DCリンク(46)正のDC線路(66)と負のDC線路(68)とに接続する入力フィルタ・コンデンサ(64)を有する、請求項1または2に記載の電気駆動システム。
【請求項4】
前記複数のSiCスイッチング装置に含まれる複数のSiC-MOSFET(86?96)は約3kVよりも大きい電圧定格を持っている、請求項1乃至3のいずれかに記載の電気駆動システム。
【請求項5】
前記永久磁石機械(70)は、3、5、7及び9相の内の一つを持つ多相永久磁石牽引電動機で構成されている、請求項1乃至4のいずれかに記載の電気駆動システム。
【請求項6】
前記永久磁石機械(70)は単相永久磁石牽引電動機で構成されている、請求項1乃至5のいずれかに記載の電気駆動システム。
【請求項7】
前記永久磁石機械(70)は、熱機関に結合された多相永久磁石交流発電機として機能する、請求項1乃至6のいずれかに記載の電気駆動システム。
【請求項8】
前記電力変換器(62)は、複数のSiC-MOSFET(86?96)と逆並列構成で接続された複数のダイオード(100?108)を有している、請求項1乃至7のいずれかに記載の電気駆動システム。
【請求項9】
前記電力変換器(62)は三相電力変換器である、請求項1乃至8のいずれかに記載の電気駆動システム。」

第4 当審拒絶理由
1.平成30年6月29日付け当審の最後の拒絶理由の概要は、次のとおりである。
「A.(新規事項)平成30年1月15日付け手続補正書でした補正(以下「本件補正」という。)は、下記の点で外国語書面の翻訳文(又は誤訳訂正書による補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面。以下「翻訳文等」という)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

B.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

C.(実施可能要件明確性)この出願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


理由A.:
本件補正後の請求項1には、「前記電力変換器(62)の故障時に前記電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力が前記電圧電源(50)のDCリンク電圧よりも大きく」とあるから、電力変換器の故障時に電力変換器にピーク線間逆起電力は、供給されることとなる。
そこで、本件補正が、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。

翻訳文等には、「ピーク線間逆起電力」に関して、
(ア)「【請求項1】回転子(116)及び固定子(118)を持つ永久磁石機械(70)と、
前記永久磁石機械(70)に電気的に結合されていて、前記永久磁石機械(70)を駆動するためにDCリンク電圧をAC出力電圧に変換するように構成された電力変換器(62)であって、前記永久磁石機械(70)の最高速度における前記永久磁石機械(70)のピーク線間逆起電力を超える電圧定格を持つ複数の炭化珪素(SiC)スイッチング装置(74?84)を含んでいる電力変換器(62)と、
を有する電気駆動システム。」
(イ)「【0004】永久磁石機械の回転子の速度が増すにつれて、固定子に発生される電圧(これは「逆起電力」と呼ばれる)が増大する。これにより、次いで、所望のトルクを発生させるために印加すべき端子電圧を次第に高くすることが必要になる。機械の逆起電力は永久磁石機械では速度に比例する。最大速度でのピーク線間逆起電力がDCリンク電圧よりも高い場合に、電力変換器に対する制御が失われた場合、永久磁石機械は非制御発電(UCG)モードで動作し始める。」
(ウ)「【0008】本発明の一面によれば、電気駆動システムが提供され、該電気駆動システムは、回転子及び固定子を持つ永久磁石機械と、前記永久磁石機械に電気的に結合されていて、前記永久磁石機械を駆動するためにDCリンク電圧をAC出力電圧に変換するように構成された電力変換器とを含む。前記電力変換器は、前記永久磁石機械の最高速度における前記永久磁石機械のピーク線間逆起電力を超える電圧定格を持つ複数のSiCスイッチング装置を含む。」
(エ)「【0009】本発明の別の面によれば、電気駆動システムを製造する方法が提供され、該方法は、複数のSiCスイッチング装置を持っていて、電源に結合可能であるSiC電力変換器を設ける工程を含む。本方法はまた、最高速度において電源のDCリンク電圧よりも大きいピーク線間逆起電力を持つ永久磁石機械を設ける工程と、前記永久磁石機械を駆動するために前記永久磁石機械に前記SiC電力変換器を結合する工程とを含む。」
(オ)「【0024】従って、本発明の一実施形態によれば、電気駆動システムが、回転子及び固定子を持つ永久磁石機械と、前記永久磁石機械に電気的に結合されていて、前記永久磁石機械を駆動するためにDCリンク電圧をAC出力電圧に変換するように構成された電力変換器とを含む。前記電力変換器は、永久磁石機械の最高速度における永久磁石機械のピーク線間逆起電力を超える電圧定格を持つ複数のSiCスイッチング装置を含む。」
(カ)「【0025】本発明の別の実施形態によれば、電気駆動システムを製造する方法が、複数のSiCスイッチング装置を持っていて、電源に結合可能であるSiC電力変換器を設ける工程を含む。本方法はまた、最高速度において電源のDCリンク電圧よりも大きいピーク線間逆起電力を持つ永久磁石機械を設ける工程と、前記永久磁石機械を駆動するために前記永久磁石機械に前記SiC電力変換器を結合する工程とを含む。」
と記載されるにすぎず、ピーク線間逆起電力が、回転子の速度に比例して固定子に発生される電圧(逆起電力)であって、駆動時の最大速度に対応することは記載はあるが、電源電圧を電力変換器から切断する故障時に、固定子から電力変換器に供給される、故障時のピーク線間逆起電力であることは、翻訳文等に記載も示唆もない。
さらに、電源電圧を電力変換器から切断する故障時に、固定子から電力変換器に供給される、故障時のピーク線間逆起電力は翻訳文等に記載されていないので、当該故障時のピーク線間逆起電力が電圧電源のDCリンク電圧よりも大きいことも、翻訳文等に記載も示唆もない。

請求人は、平成30年1月15日付け意見書「補正の根拠について」において、「永久磁石機械(70)が駆動されることに対応して永久磁石機械(70)の固定子が発電し、電力変換器(62)の故障時に電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力」について、「少なくとも図2及び、本願明細書第0004、0017段落・・の記載に基づきます。」と主張しているが、【0004】にはピーク線間逆起電力が、回転子の速度に比例して固定子に発生される電圧(逆起電力)であって、最大速度に対応することは記載はあるが、電源電圧を電力変換器から切断する故障時に、固定子から電力変換器に供給される、故障時のピーク線間逆起電力であることは記載も示唆もなく、また、【0017】は「ピーク線間逆起電力」について言及したものでない。
さらに、故障時のピーク線間逆起電力が電圧電源のDCリンク電圧よりも大きいことについては、特に補正の根拠の説明は行っていない。
そうすると、請求人の上記主張は採用できるものでない。

理由B.C.:
(1)請求項1に「前記電力変換器(62)の故障時に前記電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力が前記電圧電源(50)のDCリンク電圧よりも大きく、前記複数のSiCスイッチング装置(74?84)の電圧定格よりも低い」とあるが、上記理由A.で検討したのと同様に、電圧電源を永久磁石機械に接続されている電力変換器から切断する故障時に、電力変換器に供給されるピーク線間逆起電力は、発明の詳細な説明に記載されていない。

(2)請求項1に「前記電力変換器(62)の故障時に前記電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力が前記電圧電源(50)のDCリンク電圧よりも大きく、前記複数のSiCスイッチング装置(74?84)の電圧定格よりも低い」とあるが、上記(1)記載の如く、電圧電源を永久磁石機械に接続されている電力変換器から切断する故障時に、電力変換器に供給されるピーク線間逆起電力は、発明の詳細な説明にも記載されていないので、故障時に、電力変換器に供給されるピーク線間逆起電力がどの様なものであるか不明(例えば、短絡故障時に発生する電位差は0v。また、請求項1は、【0004】の逆並列ダイオード、【0014】の入力フィルタコンデンサもなく、どの部分にどの様な逆起電力が発生するのかも不明。)であり、「ピーク線間逆起電力が・・複数のSiCスイッチング装置(74?84)の電圧定格よりも低い」で特定される構成が不明である。

(3)請求項1には「ピーク線間逆起電力」が、電力変換器から切断するように接触器を制御する電力変換器の故障時のものと、切断しない駆動時の永久磁石機械の最高速度のものがあるが、両者が同じものであるか否か不明である。
仮に、両「ピーク線間逆起電力」が同じものであるとすると、「駆動された前記永久磁石機械(70)の最高速度で前記固定子が発生するピーク線間逆起電力」と「電力変換器(62)の故障時に前記電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力」が異なる表現との理由が不明であり、両者が異なるものであるとすると、故障時に、電力変換器に供給されるピーク線間逆起電力がどの様なものであるか定義が不明である。

(4)請求項1に「前記電力変換器(62)の故障の検出に応答して」とあるが、電力変換器の故障にはさまざまな故障が考えられるので、どの様な故障か不明確である。また、不特定多数の故障が検出されることになるが、どの様な構成であれば、不特定多数の故障が検出できるのか不明(具体的な検出装置を示されたい)である。
請求人は、平成30年1月15日付け意見書「理由1について 5-2.」において、「電力変換器の故障の検出が行われているか否かは当業者が判別可能な事項であり、発明の範囲は明確である」旨主張しているが、不特定多数の故障を検出する構成は、発明の詳細な説明にも記載されておらず、請求人の上記主張は採用できない。

(5)電力変換器から切断するように接触器を制御する請求項1は、故障の検出に応答して、電圧電源を永久磁石機械に接続されている電力変換器から切断するものである。通常、回路がオープンでは電力は供給されない。そうすると、回路がオープンとなる切断時に、電力変換器に何故ピーク線間逆起電力が、供給されるのか不明である。」

第5 当審の最後の拒絶理由についての判断

[理由A.(新規事項)について]
平成30年1月15日付け手続補正書でした補正(以下「本願補正」という。)後の請求項1には、「前記電力変換器(62)の故障時に前記電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力が前記電圧電源(50)のDCリンク電圧よりも大きく」と記載されているから、電力変換器に供給されるピーク線間逆起電力は、電力変換器の故障時に生じ、電圧電源のDCリンク電圧よりも大きいことになる。
そこで、本願補正が、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。

翻訳文等には、ピーク線間逆起電力に関して、(ア)?(カ)(上記「第4」参照)が記載されるにすぎず、最大速度でのピーク線間逆起電力がDCリンク電圧よりも高い場合に、電力変換器に対する制御が失われた場合、永久磁石機械は非制御発電(UCG)モードで動作し始めること((イ)参照)、最高速度において電源のDCリンク電圧よりも大きいピーク線間逆起電力を持つ永久磁石機械を設けること((エ)参照)は記載はあるが、電力変換器の故障時に、ピーク線間逆起電力が生じ、当該ピーク線間逆起電力が、電圧電源のDCリンク電圧よりも大きく、複数のSiCスイッチング装置の電圧定格よりも低いことは、翻訳文等に記載も示唆もない。

請求人は、平成30年1月15日付け意見書「補正の根拠について」において、「永久磁石機械(70)が駆動されることに対応して永久磁石機械(70)の固定子が発電し、電力変換器(62)の故障時に電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力」について、「少なくとも図2及び、本願明細書第0004、0017段落・・の記載に基づきます。」と主張している。
しかし、明細書【0004】には、電力変換器に対する制御が失われた場合、すなわち、制御信号が正常にターンオフした場合を想定するものであって、最大速度でのピーク線間逆起電力がDCリンク電圧よりも高い場合に、電力変換器に対する制御が失われた場合にDC電源に回生することが記載され、明細書【0017】には、電力変換器内で生じ得る故障の検出に基づいて、接触器を開閉することが記載されているにすぎず、電力変換器の故障時に生じるピーク線間逆起電力が、DCリンク電圧よりも大きいことは記載も示唆もないから、請求人の上記主張は採用できない。

[理由B.C.(サポート要件)(実施可能要件明確性)について]
1.請求項1に「前記電力変換器(62)の故障時に前記電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力が前記電圧電源(50)のDCリンク電圧よりも大きく、前記複数のSiCスイッチング装置(74?84)の電圧定格よりも低い」とあるが、理由A.で検討したとおり、電力変換器の故障時に電力変換器に供給されるピーク線間逆起電力が、電圧電源のDCリンク電圧よりも大きいことは、発明の詳細な説明に記載されていない。
請求項1を引用する請求項2?9においても同様である。

2.請求項1に「電力変換器(62)の故障時に前記電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力」とあるが、ピーク線間逆起電力が1周期内の電圧最高値を表すのか、永久磁石機械の最高速度で発生する電圧値を表すのか明細書を参照しても特定できず不明であり、仮に、1周期内の電圧最高値を表すとすると、永久磁石機械が低速の場合は小さい電圧値となり、何故、常に電圧電源のDCリンク電圧よりも大きくなるのか不明であり、永久磁石機械の最高速度で発生する電圧値を表すとすると、電力変換器の故障時に、何故永久磁石機械が最高速度であって、ピーク線間逆起電力が発生するのか不明である。
請求項1に「前記電力変換器(62)の故障時に前記電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力が前記電圧電源(50)のDCリンク電圧よりも大きく、前記複数のSiCスイッチング装置(74?84)の電圧定格よりも低い」とあるが、電力変換器の故障の種類によって、電力変換器に供給されるピーク線間逆起電力も変わる(SiCスイッチング装置の短絡故障であるときは、電力変換器に印加される電圧は0v)ので、何故電力変換器の故障時のピーク線間逆起電力が電圧電源のDCリンク電圧よりも大きく、複数のSiCスイッチング装置の電圧定格よりも低くなるのか、明細書を参照しても不明であり、電力変換器の故障時に、電力変換器に供給されるピーク線間逆起電力がどの様な値であるか不明であるので、「前記電力変換器(62)の故障時に前記電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力が・・複数のSiCスイッチング装置(74?84)の電圧定格よりも低い」で特定される構成が不明である。
請求項1を引用する請求項2?9においても同様である。

3.請求項1には「ピーク線間逆起電力」が、電力変換器の故障時発生するものと、永久磁石機械の最高速度で発生するものがあるが、両者が同じピーク線間逆起電力であるか否か不明であり、仮に、両者が同じであるとすると、電力変換器の故障時に、何故永久磁石機械が最高速度であって、ピーク線間逆起電力が発生するのか不明であり、両者が異なるとすると、故障時に電力変換器に供給されるピーク線間逆起電力は、永久磁石機械が低速の場合も含むものとなり、低速の場合はピーク線間逆起電力は小さい電圧値となるが、何故、電圧電源のDCリンク電圧よりも大きくなるのか不明である。
請求項1を引用する請求項2?9においても同様である。

4.請求項1に「前記電力変換器(62)の故障の検出に応答して」とあり、電力変換器の故障には様々な故障が考えられるが、通常故障はどの箇所にどの様な故障が発生するか特定されていなければ故障検出はできないにもかかわらず、どの様な構成であれば、当該様々な箇所に発生する様々な故障を検出ができるのか不明(電力変換器の様々な故障を検出する、具体的な検出装置が示されていない。)である。
請求項1を引用する請求項2?9においても同様である。

5.請求項1に「前記電力変換器(62)の故障時に前記電力変換器(62)に供給されるピーク線間逆起電力」とあるが、「前記電力変換器(62)の故障の検出に応答して、前記電圧電源(50)を前記永久磁石機械(70)に接続されている前記電力変換器(62)から切断するように接触器を制御する」ともあって、故障時に電圧電源を電力変換器から切断しているから回路はオープンになり、回路がオープンでは通常ピーク線間逆起電力による電流は流れないので、電力変換器には電圧は発生しない。そうすると、回路がオープンとなる切断時に、電力変換器に何故ピーク線間逆起電力が、供給されるのか不明である。
請求項1を引用する請求項2?9においても同様である。

第6 むすび
以上のとおり、本願補正は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、また、本願の請求項1の記載、及び、請求項1を引用する請求項2?9の記載は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、明確でないので、特許法第36条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない。
また、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
そうすると、本願は拒絶すべきであるとした原査定は維持すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-03-29 
結審通知日 2019-04-02 
審決日 2019-04-16 
出願番号 特願2011-248140(P2011-248140)
審決分類 P 1 8・ 562- WZ (H02P)
P 1 8・ 537- WZ (H02P)
P 1 8・ 55- WZ (H02P)
P 1 8・ 575- WZ (H02P)
P 1 8・ 536- WZ (H02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 マキロイ 寛済  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 中川 真一
藤井 昇
発明の名称 高出力密度で高逆起電力の永久磁石機械及びその製造方法  
代理人 黒川 俊久  
代理人 田中 拓人  
代理人 小倉 博  
代理人 荒川 聡志  

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