• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1354912
異議申立番号 異議2018-700397  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-05-14 
確定日 2019-07-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6230415号発明「パーフルオロエラストマー組成物、並びにシール材及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6230415号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6230415号の請求項1及び3ないし7に係る特許を維持する。 特許第6230415号の請求項2に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6230415号(以下、単に「本件特許」という。)に係る出願(特願2013-271345号、以下「本願」という。)は、平成25年12月27日に出願人日本バルカー工業株式会社によりされた特許出願であり、平成29年10月27日に特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、平成29年11月15日に特許公報の発行がされたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成30年5月14日に特許異議申立人河井清悦(以下「申立人」という。)により「特許第6230415号の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された発明についての特許は取り消されるべきものである。」という趣旨の本件異議申立がされた。

3.以降の手続の経緯
以降の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成30年 7月23日付け 取消理由通知
平成30年 9月19日 意見書・訂正請求書
平成30年 9月25日付け 通知書(申立人あて)
平成30年10月26日 意見書(申立人)
平成31年 1月11日付け 取消理由通知(決定の予告)
平成31年 3月13日 意見書・訂正請求書
平成31年 3月25日付け 通知書(申立人あて)
平成31年 4月23日 意見書(申立人)

なお、平成31年2月14日付けで日本バルカー工業株式会社から登録名義人の表示変更申請がされ、株式会社バルカー(以下「特許権者」ということがある。)となった。
また、平成31年3月13日付けで訂正請求がされたことにより、平成30年9月19日付けの訂正請求は、取り下げられたものとみなす。

第2 申立人が主張する取消理由
申立人は、本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第5号証を提示し、概略、以下の取消理由1ないし3が存するとしているものと認められる。

取消理由1:本件発明1ないし7は、いずれも、甲第1号証ないし甲第5号証のいずれかに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由2:本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載では、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでなく、本件発明1の発明特定事項を包含する本件発明2ないし7についても同様であるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていないものであって、本件発明1ないし7についての特許は、同法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願にされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由3:本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、その解決課題を解決できるか否か推測困難な実施態様を含むものであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本件特許に係る請求項1ないし7の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないものであって、本件特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願にされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:国際公開第2012/040250号
(翻訳文として、特表2014-502284号公報添付)
甲第2号証:特表2013-525570号公報
(発行(公表)日:平成25年6月20日)
甲第3号証:特表2011-516693号公報
甲第4号証:特許4480314号公報
(発行日:平成22年6月16日)
甲第5号証:特開2002-293831号公報
(以下、上記甲第1号証ないし甲第5号証につき「甲1」ないし「甲5」と略していう。)

第3 当審が通知した取消理由の概要
当審が上記平成31年1月11日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、以下のとおりである。

「当審は、
職権により、新たに発見した下記取消理由aにより、本件訂正後の請求項1及び3ないし7に係る発明についての特許は、依然としていずれも取り消すべきもの、及び
本件訂正後の請求項2に対する特許異議の申立ては、不適法なものであり、却下すべきもの、
と判断する。
以下、取消理由aにつき詳述する。

取消理由a:本件特許の請求項1及び3ないし7に係る発明は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。
・・(中略)・・
3.取消理由aについての検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1及び3ないし7は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、本件の請求項1及び3ないし7に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。」

第4 平成31年3月13日付けの訂正請求について
上記平成31年3月13日付けの訂正請求書による訂正の適否につき検討する。

1.訂正内容
本件訂正は、本件特許に係る特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし7について一群の請求項ごとに訂正するものであって、具体的な訂正事項は以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「テトラフルオロエチレン由来の構成単位、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)又はパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)由来の構成単位、及びニトリル基含有パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位を含有するパーフルオロエラストマー」
と記載されているのを、
「テトラフルオロエチレン由来の構成単位、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)又はパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)由来の構成単位、及びニトリル基含有パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位を含有する2種以上のパーフルオロエラストマー」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3?7も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1において、
「下記一般式(1):
【化1】


で表わされるビス(アミノフェノール)化合物、下記一般式(2):
【化2】


で表わされるビス(アミノチオフェノール)化合物、及び下記一般式(3):
【化3】


で表わされるテトラアミン化合物〔式(1)?(3)においてAは、SO_(2)、O、C=O、炭素数1?6のアルキレン基、炭素数1?10のパーフルオロアルキレン基、又は2つのベンゼン環を直接結合させる炭素-炭素結合である。式(1)及び(2)において、同一のベンゼン環上にあるNH_(2)基とOH基又はSH基とは互いに隣接しており、かつNH_(2)基、及びOH基又はSH基は基Aに対してメタ位又はパラ位にある。〕からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤と」
と記載されているのを、
「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン1.55重量部以上5重量部以下と」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3?7も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3において、
「請求項1又は2に記載の」
と記載されているのを、
「請求項1に記載の」
に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4?7も同様に訂正する)。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4において、
「請求項1?3のいずれか1項に記載の」
と記載されているのを、
「請求項1又は3に記載の」
に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5?7も同様に訂正する)。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に、
「請求項1?3のいずれか1項に記載の」
と記載されているのを、
「請求項1又は3に記載の」
に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する)。

(7)一群の請求項等について
本件訂正前の旧請求項2ないし7は、いずれも旧請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1ないし7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正は、訂正前の請求項1ないし7につき一群の請求項ごとに訂正が請求されたものである。

2.検討
なお、以下の検討において、この訂正請求による訂正を「本件訂正」といい、本件訂正前の特許請求の範囲における請求項1ないし7を「旧請求項1」ないし「旧請求項7」、本件訂正後の特許請求の範囲における請求項1ないし7を「新請求項1」ないし「新請求項7」という。

(1)訂正の目的要件について

ア.訂正事項1及び2について
上記訂正事項1及び2による訂正の目的につき検討すると、旧請求項1の「パーフルオロエラストマー組成物」に係る発明につき、それぞれ、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、訂正事項1に係る訂正では、「パーフルオロエラストマー」について「2種以上」含むことに限定し、また、訂正事項2による訂正では、「架橋剤」の種別を「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン」に限定した上で、その使用量比を「1.55重量部以上5重量部以下」に限定して、新請求項1とすることにより、請求項1の範囲を減縮しているものと認められる。
してみると、旧請求項1から新請求項1に訂正することにより、請求項1の特許請求の範囲が実質的に減縮されていることが明らかであるから、訂正事項1及び2に係る訂正は、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
したがって、上記訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的要件に適合するものである。

イ.訂正事項3について
上記訂正事項3による訂正の目的につき検討すると、訂正事項3に係る訂正では、旧請求項2に記載された事項を全て削除しているものであるから、請求項2の特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
したがって、上記訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的要件に適合するものである。

ウ.訂正事項4ないし6について
上記訂正事項4ないし6による各訂正の目的につき検討すると、訂正事項4ないし6に係る各訂正では、旧請求項3、4及び6の旧請求項2を引用して記載していたものにつき、訂正事項3による訂正により旧請求項2が削除されたことに伴い、引用関係が不整合となり不明瞭となったものを単に正したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
したがって、上記訂正事項4ないし6に係る各訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる目的要件に適合するものである。

(2)新規事項の追加及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更について
上記(1)に示したとおり、訂正事項1ないし3に係る訂正により、新請求項1及び新請求項1の記載を引用する新請求項3ないし7の特許請求の範囲が、明細書の発明の詳細な説明の記載(【0026】及び【0051】【表1】)に基づいて、旧請求項1及び同項を引用する旧請求項2ないし7の特許請求の範囲に対して実質的に減縮されていることが明らかであって、また、訂正事項4ないし6に係る訂正は、いずれも引用関係の不備を単に正したものであるから、上記訂正事項1ないし7による各訂正は、いずれも新たな技術的事項を導入しないものであり、また、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではないことが明らかである。
してみると、上記訂正事項1ないし7による各訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定を満たすものである。

(3)独立特許要件について
なお、本件の特許異議の申立ては、いずれも、旧請求項1ないし7に係る全ての発明についての特許につき、申立てがされているから、訂正の適否の検討において独立特許要件につき検討すべき請求項が存するものではない。

3.訂正に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし7について訂正を認める。

第5 訂正後の本件特許に係る請求項に記載された事項
上記訂正後の本件特許に係る請求項1ないし7には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
テトラフルオロエチレン由来の構成単位、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)又はパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)由来の構成単位、及びニトリル基含有パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位を含有する2種以上のパーフルオロエラストマー100重量部と、
フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)3重量部以上20重量部以下と、
2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン1.55重量部以上5重量部以下と、
を含む、パーフルオロエラストマー組成物。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
無機充填剤を含まない、請求項1に記載のパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項4】
請求項1又は3に記載のパーフルオロエラストマー組成物の架橋物からなるシール材。
【請求項5】
半導体製造装置用である、請求項4に記載のシール材。
【請求項6】
請求項1又は3に記載のパーフルオロエラストマー組成物を架橋成形する工程を含む、シール材の製造方法。
【請求項7】
前記架橋成形する工程は、電離性放射線により架橋させる工程を含む、請求項6に記載の製造方法。」
(以下、上記請求項1に係る発明につき「本件発明」という。)

第6 当審の判断
当審は、
職権により当審が通知した上記取消理由a及び申立人が主張する上記取消理由1ないし3はいずれも理由がなく、本件訂正後の請求項1及び3ないし7に係る発明についての特許は、いずれも維持すべきもの、及び
本件訂正後の請求項2に対する特許異議の申立ては、不適法なものであり、却下すべきもの、
と判断する。
以下、まず、取消理由aにつき検討し、引き続き取消理由1ないし3につき、順次、検討・詳述する。

1.甲号証に記載された事項及び甲号証に記載された発明
以下、上記取消理由a及び取消理由1につき検討するにあたり、当該各理由は特許法第29条に係るものであるから、上記甲1ないし甲5に記載された事項を確認・摘示するとともに、各甲号証に記載された発明の認定を行う。(なお、各摘示における下線は当審が付した。)


(1)甲1

ア.甲1に記載された事項
なお、甲1については、翻訳文として提示された特表2014-502284号公報の記載及び段落番号等により記載事項を摘示して、原文の記載箇所につき付記する。
甲1には、以下の事項が記載されている。

(a-1)
「【請求項1】
硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物であって、該組成物は、
テトラフルオロエチレンと、第一のパーフルオロアルキルビニルエーテルと、少なくとも1つの硬化部位を有する少なくとも1つの第一の硬化部位単量体とを含む第一の硬化可能なパーフルオロポリマーであって、ここでテトラフルオロエチレンが、該第一の硬化可能なパーフルオロポリマー中に、少なくとも約50モルパーセントの量で存在する、第一の硬化可能なパーフルオロポリマー;
テトラフルオロエチレンと、第二のパーフルオロアルキルビニルエーテルと、少なくとも1つの硬化部位を有する少なくとも1つの第二の硬化部位単量体とを含む第二の硬化可能なパーフルオロポリマーであって、ここで該第二の硬化可能なパーフルオロポリマーが、その中にフッ素樹脂粒子を含む、第二の硬化可能なパーフルオロポリマー;および
少なくとも1つの硬化剤を含む、
硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物。
・・(中略)・・
【請求項5】
前記組成物は、前記第一の硬化可能なパーフルオロポリマーおよび前記第二の硬化可能なパーフルオロポリマーを約25モルパーセント 対 約75モルパーセント?約75モルパーセント 対 約25モルパーセントの比で含む、請求項1に記載の硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物。
・・(中略)・・
【請求項8】
前記少なくとも1つの硬化部位単量体の各々は、前記第一の硬化可能なパーフルオロポリマーおよび前記第二の硬化可能なパーフルオロポリマーの各々において、それぞれ約0.01モルパーセント?約10モルパーセントの量で存在する、請求項1に記載の硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物。
【請求項9】
前記少なくとも1つの硬化剤は、前記組成物中の、前記パーフルオロポリマーの100重量部当たり、約0.01重量部?約5重量部の量で存在する、請求項1に記載の硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物。
・・(中略)・・
【請求項11】
前記第一の硬化可能なパーフルオロポリマー中の、前記少なくとも1つの硬化部位単量体における前記少なくとも1つの硬化部位は、窒素含有の硬化部位である、請求項1に記載の硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物。
【請求項12】
前記第一の硬化可能なパーフルオロポリマー中の、前記少なくとも1つの硬化部位単量体における前記少なくとも1つの硬化部位は、シアノ、カルボキシル、カルボニル、アルコキシカルボニル、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物。
【請求項13】
前記フッ素樹脂粒子は、溶融ブレンド、またはラテックス重合中のブレンドの結果として前記第二の硬化可能なフルオロポリマーに存在する、請求項1に記載の硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物。
【請求項14】
前記第二の硬化可能なフルオロポリマーは、ラテックス重合中のブレンドの結果としてフッ素樹脂粒子を含み、該フッ素樹脂粒子は、窒素含有の硬化部位単量体を含み、ここで該第二の硬化可能なフルオロポリマーは、ハロゲン、窒素含有基、カルボキシル、アルコシキカルボニル、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される硬化部位を有する硬化部位単量体を含む、請求項13に記載の硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物。
【請求項15】
前記少なくとも1つの硬化剤は、フッ化イミドイルアミジン;ビスアミノフェノール;ビスアミジン;ビスアミドキシム;ビスアミドラゾン;モノアミジン;モノアミドキシム;モノアミドラゾン;ビスアミノチオフェノール;ビスジアミノフェニル;式(II):
【化52】


(式中、R^(1)は、同じかまたは異なり、それぞれは、-NH_(2)、-NHR_(2)、-OH、または-SHであり;R^(2)は、一価の有機基である)
によって表される少なくとも2つの架橋可能な基を有する芳香族アミン;
・・(中略)・・およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、ここで該少なくとも硬化剤は、前記組成物中の、前記少なくとも1つの第一のパーフルオロポリマーにおける前記少なくとも1つの硬化部位と、前記第二のパーフルオロポリマーにおける前記少なくとも1つの硬化部位とを反応させて、該少なくとも1つのパーフルオロポリマーと該少なくとも1つの第二のパーフルオロポリマーを架橋することが可能である、請求項1に記載の硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物。
【請求項16】
前記少なくとも1つの硬化剤は、式(II)(式中、R^(1)は、-NHR^(2);フッ化イミドイルアミジン;ビスアミノフェノール;およびそれらの組み合わせである)によって表される少なくとも2つの架橋可能な基を有する芳香族アミンからなる群から選択される、請求項15に記載の硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物。
【請求項17】
前記少なくとも1つの硬化剤は、
【化57】(式は省略)
ビスアミノフェノール、ビスアミノフェノール AF、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項16に記載の硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物。
・・(中略)・・
【請求項22】
前記第一の硬化可能なフルオロポリマーおよび/または前記第二の硬化可能なフルオロポリマーにおける前記硬化部位単量体は、CF_(2)=CFO(CF_(2))_(5)CNである、請求項1に記載の硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物。
【請求項23】
硬化可能なパーフルオロエラストマー組成物であって、該組成物は、
テトラフルオロエチレンと、第一のパーフルオロアルキルビニルエーテルと、少なくとも1つの硬化部位を有する少なくとも1つの第一の硬化部位単量体とを含む第一の硬化可能なパーフルオロポリマーであって、ここで該テトラフルオロエチレンが、該第一の硬化可能なパーフルオロポリマー中に、少なくとも約50モルパーセントの量で存在する、第一の硬化可能なパーフルオロポリマー;
テトラフルオロエチレンと、第二のパーフルオロアルキルビニルエーテルと、少なくとも1つの硬化部位を有する少なくとも1つの第二の硬化部位単量体とを含む第二の硬化可能なパーフルオロポリマーであって、ここで該第二の硬化可能なパーフルオロポリマーが、その中にフッ素樹脂粒子を含む、第二の硬化可能なパーフルオロポリマー;および
少なくとも1つの硬化剤であって、該少なくとも1つの硬化剤は、
【化61】


ビスアミノフェノール、ビスアミノフェノール AF、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、少なくとも1つの硬化剤、
を含み、
ここで該第一の硬化可能なパーフルオロポリマーにおける該硬化部位単量体および該第二の硬化可能なパーフルオロポリマーにおける該硬化部位単量体のうちの少なくとも1つは、CF_(2)=CFO(CF_(2))_(5)CNであり、ここで該第二の硬化可能なフルオロポリマーは、ラテックス重合中のブレンドの結果としてフッ素樹脂粒子を含み、該フッ素樹脂粒子は、窒素含有の硬化部位単量体を含む、硬化可能なパーフルオロエラストマー組成物。
・・(中略)・・
【請求項27】
硬化されたフッ素含有エラストマーであって、該エラストマーは、
テトラフルオロエチレンと、第一のパーフルオロアルキルビニルエーテルと、少なくとも1つの硬化部位を有する少なくとも1つの第一の硬化部位単量体とを含む第一の硬化可能なパーフルオロポリマーであって、ここでテトラフルオロエチレンが、該第一の硬化可能なパーフルオロポリマー中に、少なくとも約50モルパーセントの量で存在する、第一の硬化可能なパーフルオロポリマー;
テトラフルオロエチレンと、第二のパーフルオロアルキルビニルエーテルと、少なくとも1つの硬化部位を有する少なくとも1つの第二の硬化部位単量体とを含む第二の硬化可能なパーフルオロポリマーであって、ここで該第二の硬化可能なパーフルオロポリマーが、その中にフッ素樹脂粒子を含む、第二の硬化可能なパーフルオロポリマー;および
少なくとも1つの硬化剤
のブレンドを含む硬化可能なフッ素含有組成物を硬化させることによって形成される、硬化されたフッ素含有エラストマー。
【請求項28】
成形品であって、該成形品は、
テトラフルオロエチレンと、第一のパーフルオロアルキルビニルエーテルと、少なくとも1つの硬化部位を有する少なくとも1つの第一の硬化部位単量体とを含む第一の硬化可能なパーフルオロポリマーであって、ここでテトラフルオロエチレンが、該第一の硬化可能なパーフルオロポリマー中に、少なくとも約50モルパーセントの量で存在する、第一の硬化可能なパーフルオロポリマー;
テトラフルオロエチレンと、第二のパーフルオロアルキルビニルエーテルと、少なくとも1つの硬化部位を有する少なくとも1つの第二の硬化部位単量体とを含む第二の硬化可能なパーフルオロポリマーであって、該第二の硬化可能なパーフルオロポリマーが、その中にフッ素樹脂粒子を含む、第二の硬化可能なパーフルオロポリマー;および
少なくとも1つの硬化剤
のブレンドを含む組成物を熱硬化および成形法によって形成する、成形品。」
(甲1:第41頁第3行?第47頁第16行、「CLAIMS」の欄)

(a-2)
「【0002】
発明の背景
発明の分野
本発明は、硬化可能および硬化されたパーフルオロエラストマー(FFKM)組成物、およびそこから作製される構成要素(例えば、密閉材料)の分野に関し、その組成物は、種々の高温の最終適用、特に化学蒸着法(CVD)および他の半導体加工技術における半導体領域での使用に適している。本発明は、硬化可能なフッ素含有エラストマーの組成物、硬化されたフッ素含有エラストマーの組成物、およびきれいな(clean)化合物で優れた熱特性を有するそのような組成物から形成された関連の成形品を提供する。」
(甲1:第1頁第9行?第18行、[0003])

(a-3)
「【0003】
関連技術の説明
テトラフルオロエチレン(TFE)および他のフッ素化単量体単位を含むフッ素含有エラストマー、特にパーフルオロエラストマー(FFKM)は、優れた化学抵抗性、溶媒抵抗性、および熱抵抗性を示し、従って、密閉(sealing)および苛酷な環境において使用されることを意図される他の材料のために広く使用される。技術が進むに従って、そのような高度に抵抗性の化合物についてさえ要求される特徴は、より厳しくなり続ける。航空学、航空宇宙学、半導体、ならびに化学的製造および薬学的製造の分野において、密閉特性は、少なくとも300℃の高温環境にも供される苛酷な化学的環境にさらされ、高温環境によく耐えるためのそのような材料の能力は、ますます重要になってきている。
【0004】
パーフルオロエラストマーの材料はまた、それらの化学抵抗性およびプラズマ抵抗性で知られる。しかし、許容可能な圧縮永久ひずみ抵抗性を必要とする組成物において使用される場合、機械的特性は、一般にフィラーまたは強化システムを含む。そのような相当な高温および環境上抵抗性の材料を使用して、変形によく耐えることができ、そのような厳しい条件において維持する成形パーツを形成することが目標である。FFKM材料は、代表的に過フッ素化単量体から調製され、少なくとも1つの過フッ素化硬化部位単量体を含む。上記単量体は、重合されて、その上に硬化部位を有する硬化可能な過フッ素化ポリマーを形成し、それは、硬化剤(curative)または硬化剤(curing agent)と反応すると架橋することが意図される。上記材料は、硬化(架橋)すると、エラストマーの材料を形成する。代表的なFFKM組成物は、上で言及したような重合したパーフルオロポリマー、上記硬化部位単量体上の反応性硬化部位の基と反応する硬化剤、および任意の所望されるフィラーを含む。得られた硬化されたパーフルオロエラストマーの材料は、エラストマーの特徴を示す。
【0005】
FFKMはまた、それらの高い度合いの純度、熱抵抗性、ならびにプラズマ、化学物質、および他の苛酷な環境に対する抵抗性に起因して、最高級の密閉適用のための、O-リングとして、および関連する密閉パーツにおいての使用について一般に知られる。FFKMおよびFFKMに基づく組成物によって満たされるべき常に増大する需要および課題に起因して、さらにより高いレベルの熱抵抗性、化学抵抗性、およびプラズマ抵抗性を提供するために、新しいパーフルオロエラストマー組成物の開発が続いている。特に半導体領域における産業の需要は、ますます強烈な環境を有する新しい最終用途への適用、ならびにますます低いコンタミネーションおよび粒子状化(particulation)の要求に応じるために、そのようなシールの高められた性能を要求し続けている。従って、「きれいな」化合物に由来する、すなわち、有害な夾雑物を最終用途の環境へほとんど導入しないか、または全く導入しないものに由来する外に、より良好な特性に対する必要性が常に存在する。
【0006】
当該分野において認識されるように、異なるFFKM組成物は、異なる硬化剤(硬化剤としても公知である)を含み得、それは、使用される硬化部位単量体(CSM)構造の型、および上記硬化部位単量体上の機能的な活性硬化部位を上記硬化剤と反応させることに適用される対応する硬化化学(curing chemistry)に依存する。そのような組成物はまた、標的の機械的特性、圧縮永久ひずみ、または改善された化学抵抗性およびプラズマ抵抗性を達成するために多様なフィラー、およびフィラーの組み合わせを含み得る。
【0007】
半導体密閉の適用について、無機フィラーおよび有機フィラーの両方は、プラズマ化学の型に依存してプラズマ抵抗性を改善するために使用されている。半導体および他の産業において公知である代表的なフィラーとしては、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、TFEベースのフッ素樹脂、硫酸バリウム、および他のポリマー、およびプラスチックが挙げられる。半導体への適用のためにいくつかのFFKM組成物において使用されるフィラーとしては、特に、マイクロ粒子またはナノマーサイズの粒子の、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)または溶融加工可能過フッ素化コポリマー(例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのコポリマー(FEP型コポリマーとも称される)、またはTFEとパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)とのコポリマー(PFA型コポリマーとして知られる))から形成されるフッ素樹脂フィラー粒子が挙げられる。
【0008】
そのようなFFKM組成物は、単一のFFKMの硬化可能なポリマーのみ、または時折、1つもしくはそれより多くのFFKMの硬化可能なポリマーのブレンドを含み得る。同様に、上記組成物中で使用される硬化可能なパーフルオロポリマー中の硬化部位単量体上に単一の硬化部位のみを有するFFKM、および同じかもしくは異なる硬化部位を有する1つより多くの硬化部位単量体を有するFFKMが存在する。よりきれいでより化学的抵抗性の化合物に対する需要が増大するに従って、ほとんどフィラーを有さないか、または全く有さないFFKMにおいて特性を達成するための必要性は、もっと差し迫った必要性となる。従って、使用され得る材料の、多くの潜在的な組み合わせが存在し、課題は、機械的特性および密閉特性を犠牲にすることなく、種々の最終適用に対する、より高い熱抵抗特性、化学抵抗特性、およびプラズマ抵抗特性の要求を達成することである。
【0009】
半結晶性フッ素樹脂粒子フィラー(例えば、PTFEまたはコポリマー(例えば、PFA型のもの)のマイクロ粒子またはナノ粒子)を含むFFKM組成物は、良好な物理的特性、プラズマ抵抗性、および優れた純度を提供する。半導体への適用について、そのようなシステムはまた、無機のフィラー(例えば、金属酸化物)を有するFFKMと比較して、改善されたレベルで金属性粒子状化および夾雑を避けることを助ける。しかし、当該分野において、フルオロポリマー充填FFKMを形成するための、より簡素化された加工方法を開発する必要性が存在する。TFEベースのフッ素樹脂をFFKMに組み込んで、きれいな化合物を達成するために開発された種々のブレンドプロセスが存在する。ラテックスブレンドは、使用されているが、大規模な商業用バッチには高価であり得る。溶融ブレンドも利用可能であり、一般に、350℃までの温度を必要とする。さらに、多くの商業用製品におけるフィラー充填(loading)は、一般に、基本のポリマー材料の重量の約30重量パーセントまでに限定される。そのような組成物におけるフルオロポリマーのフィラーの使用はまた、時折、特により高い温度(例えば、>300℃)における最終適用において、比較的高い圧縮永久ひずみの一因となり得る。成形性および接合性はまた、そのようなフルオロポリマーのフィラーの使用に起因して限定され得る。」
(甲1:第1頁第19行?第3頁第31行、[0004]?[0010])

(a-4)
「【0019】
ブレンドされたFFKMはまた、独特の特性を達成するために開発されている。FFKM(例えば、特許文献6、および特許文献7から形成されるようなもの)および他のFFKMも、特許文献8に記載されるようにブレンドされている。その刊行物は、そのようなポリマーを有する組成物、ならびに1つまたはそれより多くのさらなるFFKMを有する組成物を記載し、ここで上記組成物中のFFKM化合物のうちの2つは、それらのパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)単量体含有量に関して約5モルパーセント?約25モルパーセント分、異なる。そのようなブレンドは、フッ素樹脂フィラーの使用なしで良好に機能し得る組成物を形成する能力を提供し、そのような充填された材料に対する代替となるものであり、いくつかの場合、そのような充填された材料と比べて改善となるものである。そのようなブレンドはまた、溶融ブレンドされた組成物において必要とされるような高温混合を必要とせず、苛酷な化学物質(harsh chemical)の存在下での亀裂抵抗性、ならびに良好な熱抵抗特性およびプラズマ抵抗特性を提供する。
【0020】
従って、きれいな、もしくは充填していない(unfilled)化合物を形成することによって、および/または上で言及した特許および刊行物に記載されるようにFFKMを様々なPAVE含有物とブレンドすることによって、FFKMを改善するために、種々のブレンド、独特の硬化システムおよびフィラーが上で言及したように提供されるが、硬化の際に良好でより低い圧縮永久ひずみの値、良好なプラズマ抵抗性、および良好な物理的特性(例えば、比較的低い硬度、ならびに十分な強度および伸び)を保持し、また、特に高温環境に直面する半導体加工のもののような最高級の密閉適用における使用の増大する厳しい要求に応じ続け得るパーフルオロエラストマー組成物に対するさらなる改善が当該分野において必要であり続けている。」
(甲1:第5頁第7行?第26行、[0016]?[0017])

(a-5)
「【0027】
上記少なくとも1つの硬化剤は、フッ化イミドイルアミジン;ビスアミノフェノール;ビスアミジン;ビスアミドキシム;ビスアミドラゾン;モノアミジン;モノアミドキシム;モノアミドラゾン;ビスアミノチオフェノール(biasminothiophenol);ビスジアミノフェニル;式(II):
【0028】
【化3】


【0029】
(式中、R^(1)は、同じかまたは異なり、それぞれは、-NH_(2)、-NHR^(2)、-OH、または-SHであり;R^(2)は、一価の有機基である)
によって表される少なくとも2つの架橋可能な基を有する芳香族アミン;・・(中略)・・
【0037】
・・(中略)・・
によって表される化合物;およびそれらの組み合わせからなる群から選択され得、ここで上記少なくとも硬化剤は、上記組成物中の、上記少なくとも1つの第一のパーフルオロポリマーにおける上記少なくとも(the least)1つの硬化部位と、上記第二のパーフルオロポリマーにおける上記少なくとも1つの硬化部位とを反応させて、上記少なくとも1つのパーフルオロポリマーと上記少なくとも1つの第二のパーフルオロポリマーを架橋することが可能である。
【0038】
上記少なくとも1つの硬化剤は、より好ましくは、式(II)(式中、R^(1)は、-NHR^(2)である)によって表される少なくとも2つの架橋可能な基を有する芳香族アミン;フッ化イミドイルアミジン;ビスアミノフェノール;およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0039】
1つの実施形態において、上記硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物は、
【0040】
【化8】


【0041】
ビスアミノフェノール、ビスアミノフェノール AF、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される化合物として、上記少なくとも1つの硬化剤を含む。
【0042】
なおさらなる実施形態において、上で言及したような本明細書中の組成物において、上記エラストマー組成物は、パーフルオロエラストマー組成物であり、上記少なくとも1つの硬化剤は、
【0043】
【化9】


【0044】
を含む。
【0045】
そのような実施形態において、上記少なくとも1つの硬化剤は、ビスアミノフェノールまたはビスアミノフェノール AFをさらに含み得る。加えて、またはそれに対する代替として、上記少なくとも1つの硬化剤は、
【0046】
【化10】(式は省略)
【0047】
をさらに含み得る。」
(甲1:第7頁第3行?第9頁第5行、[0023]?[0027])

(a-6)
「【0051】
これについての1つの実施形態において、上記第一の硬化可能なフルオロポリマーおよび/または上記第二の硬化可能なフルオロポリマーにおける上記硬化部位単量体は、CF_(2)=CFO(CF_(2))_(5)CNであることがさらに好ましい。本発明はまた、テトラフルオロエチレンと、第一のパーフルオロアルキルビニルエーテルと、少なくとも1つの硬化部位を有する少なくとも1つの第一の硬化部位単量体とを含む第一の硬化可能なパーフルオロポリマーであって、ここで上記テトラフルオロエチレンが、上記第一の硬化可能なパーフルオロポリマー中に、少なくとも約50モルパーセントの量で存在する、第一の硬化可能なパーフルオロポリマー;テトラフルオロエチレンと、第二のパーフルオロアルキルビニルエーテルと、少なくとも1つの硬化部位を有する少なくとも1つの第二の硬化部位単量体とを含む第二の硬化可能なパーフルオロポリマーであって、ここで上記第二の硬化可能なパーフルオロポリマーが、その中にフッ素樹脂粒子を含む、第二の硬化可能なパーフルオロポリマー;および少なくとも1つの硬化剤であって、上記少なくとも1つの硬化剤は、
【0052】
【化12】


【0053】
ビスアミノフェノール、ビスアミノフェノール AF、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、少なくとも1つの硬化剤を含む、硬化可能なパーフルオロエラストマー組成物を含み、ここで上記第一の硬化可能なパーフルオロポリマーにおける上記硬化部位単量体および上記第二の硬化可能なパーフルオロポリマーにおける上記硬化部位単量体のうちの少なくとも1つは、CF_(2)=CFO(CF_(2))_(5)CNであり、ここで上記第二の硬化可能なフルオロポリマーは、ラテックス重合中のブレンドの結果としてフッ素樹脂粒子を含み、上記フッ素樹脂粒子は、窒素含有の硬化部位単量体を含む。
【0054】
この実施形態において、テトラフルオロエチレンは、好ましくは、上記第一の硬化可能なパーフルオロポリマー中に、少なくとも約60モルパーセントの量で、そして好ましくは少なくとも約70モルパーセントの量で存在する。上記テトラフルオロエチレンはまた、上記第一の硬化可能なパーフルオロポリマー中に、約60モルパーセント?約95モルパーセントの量で存在し得る。」
(甲1:第9頁第10行?第10頁第14行、[0029]?[0030])

(a-7)
「【0064】
本明細書中に記載されるように、本発明は、硬化可能なフッ素含有組成物、好ましくは硬化可能なパーフルオロエラストマー組成物、硬化された組成物、好ましくは硬化されたパーフルオロエラストマー組成物、および上記のものから形成された成形品を含む。
【0065】
そのようなパーフルオロエラストマー組成物は、好ましくは2つまたはそれより多くの硬化可能な(curably)パーフルオロポリマー、好ましくはパーフルオロコポリマーを含み、それらのパーフルオロポリマーのうちの少なくとも1つは、高含有量のテトラフルオロエチレン(TFE)を有する。他の適したコモノマー(co-monomer)は、他のエチレン性(ethylenically)不飽和のフルオロ単量体を含み得る。両方のポリマーは、好ましくはTFEまたは別の同様の過フッ素化オレフィン単量体を有するが、少なくとも1つは、高TFEパーフルオロポリマーである。各ポリマーはまた、好ましくは1つまたはそれより多くのパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)を有し、それは、直鎖または分枝鎖状であり得るアルキルまたはアルコキシ基を含み、かつエーテル結合も含み得、ここで本明細書中で使用される好ましいPAVEとしては、例えば、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロメトキシビニルエーテル、および他の同様の化合物が挙げられ、特に好ましいPAVEは、PMVE、PEVE、およびPPVEであり、最も好ましくは、本明細書中の硬化可能な組成物を硬化することから形成された、得られた物品に対して優れた機械的強度を提供するPMVEである。上記PAVEは、その使用法が、本明細書中に記載されるように、本発明と一致する限り、上記硬化可能なパーフルオロポリマー内および最終的な硬化可能な組成物中で、単独で、または上で言及したPAVE型の組み合わせにおいて使用され得る。
【0066】
好ましいパーフルオロポリマーは、TFEと、少なくとも1つのPAVEと、および上記硬化可能なポリマーの架橋を可能にするために硬化部位または官能基を組み込んだ、少なくとも1つの過フッ素化硬化部位単量体とのコポリマーである。上記硬化部位単量体は、本明細書中に言及される好ましい硬化部位を有する多様な型のものであり得る。好ましい硬化部位は、好ましくは、窒素含有基を有するものであるが、特に、上記第一および第二の硬化可能なパーフルオロポリマー以外にさらなる硬化可能なパーフルオロポリマーが上記組成物に提供され得るので、他の硬化部位の基(例えば、カルボキシル基、アルキルカルボニル基、または例えば、ヨウ素もしくは臭素を有するハロゲン化された基)、ならびに当該分野において公知である他の硬化部位も使用され得る。結果として、本開示は、本明細書中で多様な好ましい硬化剤(本明細書中で、架橋剤、硬化剤とも称される)を提供するが、当該分野において公知である他の硬化部位が使用される場合、そのような代替の硬化部位を硬化することができる他の硬化剤も使用され得る。例えば、有機過酸化物ベースの硬化剤および共硬化剤(co-curative)は、ハロゲン化された機能的な硬化部位の基とともに使用され得る。第一および第二のパーフルオロポリマーの両方が窒素含有の硬化部位を含むことが最も好ましい。
【0067】
例示的な硬化部位単量体は、下に列挙され、それらのうちのほとんどは、構造に関してPAVEベースであり、反応部位を有する。上記ポリマーは、様々であり得るが、好ましい構造は、以下の構造(A):
【0068】
【化13】


【0069】
(式中、mは0または1?5の整数であり、nは1?5の整数であり、X^(1)は窒素含有基(例えば、ニトリルまたはシアノ)である)
を有するものである。しかし、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、またはハロゲン化された末端基はまた、X^(1)としても使用され得る。最も好ましくは、本明細書中の組成物における上記第一および上記第二の硬化可能なパーフルオロポリマーのうちのいずれか、または両方における上記硬化部位単量体は、上で言及した(A)と一致し、ここでmは0であり、nは5である。本明細書中に言及される上記硬化部位または官能基X^(1)(例えば、窒素含有基)は、硬化剤と反応する場合に架橋するための反応部位を含む。式(A)に従う化合物は、単独で、またはその種々の任意選択の組み合わせにおいて使用され得る。架橋の観点から、架橋官能基は、窒素含有基、好ましくはニトリル基であることが好ましい。
・・(中略)・・
【0073】
(式中、X^(2)は、単量体反応部位サブユニット(例えば、ニトリル(-CN)、カルボキシル(-COOH)、アルコキシカルボニル基(-COOR^(5)、ここでR^(5)は、1個?約10個の炭素原子のアルキル基であり、それは、フッ素化または過フッ素化され得る)、ハロゲン、またはアルキル化ハロゲン基(IまたはBr、およびCH_(2)Iなど))であり得る)。上記パーフルオロポリマーを硬化することから得られる上記パーフルオロエラストマーに対して、ならびに重合反応によって上記パーフルオロエラストマーを合成する場合の連鎖移動に起因して分子量が減少しないようにすることに対して、優れた熱抵抗性が所望される場合に、上記ポリマーの骨格鎖中にある上記硬化部位単量体の骨格のその部分において水素原子を有さない過フッ素化化合物が使用されることが好ましい。さらに、CF_(2)=CFO-構造を有する化合物は、TFEとの優れた重合反応性を提供する見地から好ましい。
【0074】
適切な硬化部位単量体は、好ましい架橋反応性のために、好ましくは、窒素含有の硬化部位(例えば、ニトリルまたはシアノ硬化部位)を有するものを含む。しかし、カルボキシル、アルコキシカルボニル、COOHを有する硬化部位(上で言及したものの他に複数の骨格および様々な骨格を有する)、および当該分野において公知であり、開発されるべき他の同様の硬化部位も使用され得る。上記硬化部位単量体は、単独で、または様々な組み合わせで使用され得る。」
(甲1:第12頁第29行?第16頁第8行、[0040]?[0045])

(a-8)
「【0076】
本明細書中で使用される上記第二のパーフルオロポリマーは、上記高TFEの第一のパーフルオロポリマーとして使用するために上で言及したものと比較して、同じであっても異なっていてもよいが、高含有量のTFEを有する必要はない。好ましくは上記第二のパーフルオロポリマーは、フッ素樹脂材料が上記ポリマーにブレンドされたものであり、微粒子形態でポリマー内に存在し、その微粒子形態は、好ましくはマイクロ微粒子形態またはナノ微粒子形態であるが、粒径は、使用される製造プロセスに依存して様々であり得る。上記粒子は、多様な形態で、多様な技術を用いて提供され得る。フッ素樹脂、例えば、PTFE、およびその溶融加工可能なコポリマー(FEPおよびPFA型のポリマー)、多様なサイズのコア-シェルポリマー(マイクロ粒子、およびナノ粒子など)は、機械的手段または化学処理(chemical processing)および/もしくは重合によって上記材料に組み込まれ得る。好ましくは、上記フルオロ粒子は、マイクロ粒径またはナノ粒径のものであり、そして/または溶融ブレンドもしくはラテックス重合技術を用いて上記第二のパーフルオロポリマーに組み込まれる。溶融ブレンド技術(例えば、米国特許第4,713,418号、および同第7,476,711号(それらのそれぞれは、そのような溶融加工技術に関して本明細書中で参考として援用される)に記載されるもの)が用いられ得る。ラテックス重合技術も有用であり、フッ素樹脂を本明細書における上記第二のパーフルオロポリマーに組み込むことに対して最も好ましい。適切なプロセス、ならびにコア-シェルおよび他の粒子(上記粒子に組み込まれた硬化部位を有する)も組み込んだ、得られたパーフルオロポリマーは、米国特許第7,019,083号に記載されており、フッ素樹脂粒子を有するそのようなパーフルオロポリマーおよび上記のものを作製するための方法に関しては、また本明細書中で参考として援用され、上記得られたパーフルオロポリマーは、上記単量体含有量およびそこに記載される材料の組み合わせを有し得る。適切なそのようなポリマーは、3M Corporation(St.Paul,Minnesota)から市販されている。
【0077】
パーフルオロポリマー、および硬化部位単量体(例えば、上で言及したもの)を用いてそこから形成された、得られたエラストマーの例はまた、WO 00/29479 A1において見出され得、そのようなパーフルオロエラストマーに関する適切な部分、それらの内容および上記のものを作製する方法について、本明細書中で援用される。参照はまた、米国特許第6,518,366号、同第6,878,778号、および米国公開特許出願第2008-0287627号、ならびに米国特許第7,019,083号に対してなされる。」
(甲1:第16頁第21行?第17頁第17行、[0046]?[0047])

(a-9)
「【0084】
種々の硬化可能なフッ素含有組成物および本発明のエラストマー含有組成物とともに使用するための硬化剤(本明細書中で架橋剤または硬化剤とも称される)は、本明細書中に記載される種々の硬化部位とともに使用するためのものであり、架橋を形成するために、上記組成物中の、上記硬化部位単量体(複数可)の硬化部位もしくは官能基、または種々の硬化されていないパーフルオロポリマーにおける硬化部位と、硬化可能である(すなわち、架橋可能である)か、または他の方法で、硬化反応を経ることが可能であるべきである。好ましい架橋剤または硬化剤は、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール、またはトリアジン環を有する架橋を形成するものである。そのような化合物ならびに他の硬化剤(アミドキシム、テトラアミン、およびアミドラゾンが挙げられる)は、架橋のために本発明において使用され得る。これらの中で、イミダゾールは、優れた機械的強度、熱抵抗性、化学抵抗性、低温抵抗性を提供する架橋品、特に、熱抵抗性および低温抵抗性に関して、バランスがとれていて、かつ優れている硬化品が達成可能である点で好ましい。
【0085】
窒素含有の硬化部位について、他の硬化剤(例えば、ビスフェニルベースの硬化剤およびその誘導体)が使用され得、それには、ビスアミノフェノールおよびその塩(例えば、ビスアミノフェノール AF)、ビスアミノチオフェノール(bisaminothiphenol)、パラベンゾキノンジオキシム(PBQD)、およびテトラフェニルスズが挙げられる。適切な硬化剤の例は、例えば、米国特許第7,521,510 B2号、同第7,247,749 B2号、および同第7,514,506 B2号において見出され得、そのそれぞれは、シアノ基含有パーフルオロポリマーのための種々の硬化剤の列挙に関する適切な部分について、本明細書中で援用される。さらに、上記パーフルオロポリマーは、放射線硬化技術を用いて硬化され得る。
【0086】
最も好ましいのは、下の式(I)および(II)またはそれらの組み合わせにおけるような、少なくとも2つの架橋可能な基を有する芳香族アミンである硬化剤で硬化された、シアノ基含有の硬化部位であり、それは、硬化の際にベンゾイミダゾール架橋構造を形成する。これらの硬化剤は、当該分野において公知であり、米国特許第6,878,778号、および米国特許第6,855,774号において、適切な部分について、および特定の例に関して議論されており、上記特許は、その全体が本明細書中で援用される。
【0087】
【化29】


【0088】
式中、R^(1)は、式(II)に従う各基において、同じかまたは異なり、NH_(2)、NHR^(2)、OH、SH、または一価の有機基、もしくは他の有機基、例えば、約1個?約10個の炭素原子のアルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、アラルキル、およびアラルキルオキシであり得、ここで非アリール型の基は、分枝鎖もしくは直鎖であり得、置換されているかもしくは非置換であり得、R^(2)は、-NH_(2)、-OH、-SH、または一価の有機基もしくは他の有機基、例えば、脂肪族炭化水素基、フェニル基、およびベンジル基、またはアルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、アラルキル、およびアラルキルオキシ基であり得、ここで各基は、約1個?約10個の炭素原子であり、ここで非アリール型の基は、分枝鎖もしくは直鎖であり得、置換されているかもしくは非置換であり得る。好ましい一価の有機基または他の有機基、例えば、アルキルおよびアルコキシ(またはその過フッ素化バージョン)は、1個?6個の炭素原子であり、好ましいアリール型の基は、フェニル基、およびベンジル基である。その例としては、-CF_(3)、-C_(2)F_(5)、-CH_(2)F、-CH_(2)CF_(3)、もしくは-CH_(2)C_(2)F_(5)、フェニル基、ベンジル基;または水素原子のうちの1個?約5個が、フッ素原子によって置換されたフェニル基もしくはベンジル基(例えば、-C_(6)F_(5)、-CH_(2)C_(6)CF_(5))(ここで基は、-CF_(3)もしくは他の低級パーフルオロアルキル基を含む基でさらに置換され得る)、または1個?5個の水素原子が、CF_(3)によって置換されたフェニル基もしくはベンジル基(例えば、C_(6)H_(5-n)(CF_(3))_(n)、-CH_(2)C_(6)H_(5-n)(CF_(3))_(n)(式中、nは1?約5である)など)が挙げられる。水素原子は、フェニル基またはベンジル基でさらに置換され得る。しかし、フェニル基およびCH_(3)は、優れた熱抵抗性、良好な架橋反応性、および比較的容易な合成を提供するものとして好ましい。
【0089】
有機アミンに組み込まれた式(I)または(II)を有する構造物は、少なくとも2つの架橋反応基が提供されるように、式(I)または(II)のうちの少なくとも2つのそのような基を含むべきである。
・・(中略)・・
【0100】
式(II)におけるような少なくとも2つの基を有する化合物、およびその上に2個?3個の架橋可能な反応基、より好ましくは2個の架橋可能な基を有する化合物が、好ましい。
【0101】
上の好ましい式に基づく例示的な硬化剤は、少なくとも2つの官能基、例えば、以下の構造式(VI)、(VII)、または(VIII)を含む。
・・(中略)・・
【0106】
容易な合成の観点から、好ましい架橋剤は、式(II)によって表されるような2つの架橋可能な反応基を有する化合物であり、下の式(VIII)に示される。
【0107】
【化35】


【0108】
(式中、R^(1)は、上記の通りであり、R^(6)は、-SO_(2)-、-O-、-CO-、1個?約6個の炭素原子のアルキレン基、1個?約10個の炭素原子を有するパーフルオロアルキレン基、単結合、または式(IX):
【0109】
【化36】(式は省略)
【0110】
に示されるような基であり、ここでこの式は、より容易な合成を提供する)。
1個?約6個の炭素原子のアルキレン基の好ましい例は、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、およびヘキシレンなどである。1個?約10個の炭素原子のパーフルオロアルキレン基の例は、
【0111】
【化37】


【0112】
などである。これらの化合物は、ビスアミノフェニル化合物の例として公知である。この構造に従う好ましい化合物は、
式(X):
【0113】
【化38】


【0114】
(式中、R^(7)は、各例において、同じかまたは異なり、各R^(7)は、水素、1個?約10個の炭素原子のアルキル基;1個?10個の炭素原子の部分的にフッ素化もしくは過フッ素化されたアルキル基;フェニル基;ベンジル基;またはフェニル基もしくはベンジル基(ここで1個?約5個の水素原子がフッ素もしくは低級のアルキルもしくはパーフルオロアルキル基(例えば、CF_(3))によって置き換えられている))
のものを含む。
【0115】
硬化剤の非限定的な例としては、2,2-ビス(2,4-ジアミノフェニルヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[3-アミノ-4-(N-メチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[3-アミノ-4-(N-エチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[3-アミノ-4-(N-プロピルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[3-アミノ-4-(N-フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[3-アミノ-4-(N-パーフルオロフェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[3-アミノ-4(N-ベンジルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、および同様の化合物が挙げられる。それらの中で、好ましい優れた熱抵抗特性について、2,2-ビス[3-アミノ-4(N-メチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[3-アミノ-4-(N-エチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[3-アミノ-4-(N-プロピルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、および2,2-ビス[3-アミノ-4-(N-フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンが好ましい。熱抵抗特性について好ましいのはまた、テトラアミン(例えば、4,4’-[2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチリデン]ビス[N1-フェニル-1,2-ベンゼンジアミン])であるか、または2,2-ビス[3-アミノ-4-(N-フェニルアミノフェニル)]ヘキサフルオロプロパンが好ましい。
【0116】
他の適切な硬化剤としては、当該分野において公知であるように、または開発されるべきものとして、オキサゾール環形成硬化剤、イミダゾール環形成硬化剤、チアゾール環形成硬化剤、およびトリアジン環形成硬化剤、アミドキシムおよびアミドラゾン架橋剤、ならびに特にビスアミノフェノール、ビスアミノチオフェノール、ビスアミジン、ビスアミドキシム、ビスアミドラゾン、モノアミジン、モノアミドキシム、およびモノアミドラゾンが挙げられ、その例は、例えば、米国特許第7,247,749号、および同第7,521,510号において明記されており、適切な部分について、本明細書中で参考として援用され、硬化剤および共硬化剤、ならびにその中の促進剤が挙げられる。イミダゾールは、それが、良好な機械的強度、熱抵抗性、化学抵抗性、および低温受容力(capacity)、ならびに架橋特性と高温特性および低温特性との良好なバランスの一因となり得る点で有用である。上記ビスアミドキシム、ビスアミドラゾン、ビスアミノフェノール、ビスアミノチオフェノール、またはビスジアミノフェニル硬化剤は、上記パーフルオロポリマー中の、ニトリル基もしくはシアノ基、カルボキシル基、および/またはアルコキシカルボニル基と反応して、本明細書中のいくつかの実施形態において好ましいパーフルオロエラストマーを形成し得、それは、本明細書中の上記組成物から形成された、得られた硬化品において、架橋としてオキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、またはトリアジン環を有する。
【0117】
本明細書中での1つの実施形態において、式(I)または(II)におけるような架橋反応基を有する少なくとも2つの化学基を含む化合物は、熱抵抗性を増大させ、芳香族環系を安定にするために使用され得る。2個?3個のそのような基を有する基(例えば、(I)または(II)におけるような)について、より少ない数の基を有することは、十分な架橋を提供しない場合があるので、各基(I)または(II)において少なくとも2つを有することが好ましい。
・・(中略)・・
【0119】
上記硬化可能なパーフルオロポリマーの各々における上記少なくとも1つの硬化部位単量体の各々は、好ましくは、それぞれ約0.01モルパーセント?約10モルパーセントの量で、そして上記第一の硬化可能なパーフルオロポリマーおよび上記第二の硬化可能なパーフルオロポリマーの各々において個々に存在する。上記少なくとも1つの硬化剤は、好ましくは、上記組成物中の、上記パーフルオロポリマーの100重量部当たり、約0.01重量部?約5重量部の量、そしてより好ましくは、上記組成物中の、上記パーフルオロポリマーの100重量部当たり、約0.01重量部?約2重量部の量で存在する。」
(甲1:第18頁第31行?第25頁第24行、[0055]?[0068])

(a-10)
「【0147】
本明細書中に言及されるような硬化可能なパーフルオロエラストマー組成物から形成されたそのような硬化されたパーフルオロエラストマー組成物は、成形品(複数可)を形成するように硬化され得、形作られ得る。一般に、上記成形品は、密閉部材(例えば、O-リング、シール、ガスケット、およびインサートなど)として形成されるが、当該分野において、公知であるかまたは開発されるべき他の形および使用が、本明細書中で企図される。
【0148】
上記成形品は、例えば、ボンデッドシールを形成するために表面に接合され(bonded)得る。そのようなボンデッドシールは、例えば、半導体加工において使用するための、例えば、プレボンデッド(pre-bonded)ドア、ゲート、およびスリットバルブドアを形成するために使用され得る。そのような成形品(例えば、シール)が結合され得る表面としては、ポリマー表面、ならびに金属および金属合金表面が挙げられる。1つの実施形態において、本発明は、例えば、ステンレス鋼またはアルミニウムから形成されるゲート、またはスリットバルブドアを含み、それに対してO-リングシールが、上記シールを収容するように構成された上記ドア中の溝に適合する。接合(bonding)は、接合組成物の使用を介して、または接着剤を介して起こり得る。さらに、フルオロ溶媒(例えば、パーフルオロポリマー、少なくとも1つの硬化可能なパーフルオロポリマー、および硬化剤を溶解することが可能な3MからのいくつかのFluorinert(登録商標)溶媒のうちの1つ)から形成される接合剤が、調製され得る。
【0149】
上記接合剤は、O-リングを作製するための型(mold)において、押出しポリマーの最初の硬化後に、および表面(例えば、ドア)に上記シールを結合させる前に、O-リングもしくはドアの溝に対して適用され得るか、または上記接合剤は、上記接合剤が結合されるべき上記表面(ドア)においてインサイチュで成形され硬化され得る押出しポリマーに適用され得るかのいずれかであり、その結果、熱硬化の際に、上記パーフルオロポリマーは、O-リングにおいて、および接合剤内でも同時に硬化される。好ましくは、必ずではないが、上記接合剤において使用される上記パーフルオロポリマーは、本明細書中に記載されるパーフルオロエラストマー組成物中の上記パーフルオロポリマーのうちの少なくとも1つと同じである。上記接合剤はまた、好ましくは、本明細書中に記載される上記硬化可能なパーフルオロエラストマー組成物において使用される両方のパーフルオロポリマーを含み得、そして/または意図される表面に上記組成物を結合させるために硬化可能である任意の適切な硬化可能なパーフルオロポリマーを用いた上記接合剤は、有用であり得る。」
(甲1:第30頁第1行?第26行、[0077]?[0079])

(a-11)
「【0152】
所望される場合、そして不必要ではあるが、添加剤がまた、この点で上記組成物に混合され得る。添加剤は、第一および第二の硬化可能なパーフルオロポリマーの相互作用の独特の性質、およびブレンドされた組成物によって伝えられる特性に起因して、任意選択であり必要とされない。しかし、特定の特性を変更することが所望される場合、硬化促進剤、共硬化剤、共剤(co-agent)、加工助剤、可塑剤、フィラー、および改変剤、例えば、シリカ、フルオロポリマー(マイクロパウダー、ペレット、繊維、およびナノパウダー形態で、当該分野において公知であるような、TFE、およびその溶融加工可能なコポリマー、ならびにコア-シェル改変フルオロポリマー)、フルオログラファイト、シリカ、硫酸バリウム、炭素、カーボンブラック、フッ化炭素、クレー、滑石、金属性フィラー(酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化ケイ素)、金属炭化物(炭化ケイ素、炭化アルミニウム)、金属窒化物(窒化ケイ素、窒化アルミニウム)、他の無機フィラー(フッ化アルミニウム、フッ化炭素)、着色料、有機の色素および/または顔料、例えば、アゾ、イソインドリノン、キナクリドン、ジケトピロロピロール、およびアントラキノンなど、イミドフィラー(例えば、ポリイミド、ポリアミド-イミド、およびポリエーテルイミド)、ケトンプラスチック(例えば、PEEK、PEK、およびPEKKのようなポリアリーレンケトン)、ポリアリーレート(polyarylate)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、およびポリオキシベンゾエートなどは、当該分野において公知の量で使用され得、そして/またはそれは、異なる特性について様々であり得る。本明細書中のフィラーの全ては、単独で、または2つもしくはそれより多くのそのようなフィラーおよび添加剤の組み合わせで使用され得る。
【0153】
好ましくはあらゆる任意選択のフィラーは、上記組成物中の合わせた硬化可能なパーフルオロポリマーの100部当たり、約30部未満の総量を使用した。熱抵抗性、およびプラズマ抵抗性(プラズマの放出における低減した粒子の数、および低い重量減少率)を提供する有機フィラーとしては、上に記載したものの中でも、有機顔料、イミド構造(例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、およびポリエーテルイミド)を有するイミドフィラー、ならびにPEEK、およびPEKのようなケトンベースの加工プラスチックが挙げられ、有機顔料が好ましい。
【0154】
熱抵抗性および化学抵抗性について好ましく、本明細書中に記載される組成物から形成される成形品の最終特徴に、より作用を与えない着色(pigmented)フィラーとしては、キナクリドン、ジケトピロロピロール、およびアントラキノンの顔料および色素が挙げられ、キナクリドンが好ましい。
【0155】
無機フィラーの中でも、プラズマ効果を保護するための好ましいフィラーとしては、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化ケイ素、ポリイミド、およびフッ素化炭素が挙げられる。」
(甲1:第31頁第6行?第32頁第2行、[0082]?[0085])

(a-12)
「【実施例】
【0162】
比較実施例
3M Corporation,St.Paul,Minnesotaから入手可能である基本材料のポリマー、Dyneon(登録商標)PFE-133TZ(ポリマーA)フッ素樹脂含有の硬化可能なパーフルオロポリマーを用いて、以下の配合で化合物を作製した。PFE 133 TZは、以前のDyneon(登録商標)PFE 133 TBXと同じ基本構造のものであるが、PFOAなしで作製される。そのようなポリマーは、TFEを含むパーフルオロポリマー、PAVE、およびシアノ含有硬化部位単量体を含む硬化可能なパーフルオロポリマーマトリックス内に約20%の量で、シアノ機能化PFAパーフルオロ樹脂を含む。さらに、このポリマーを、GA-500PR(ポリマーB)として入手可能であるDaikin Industries,Ltd.からの硬化可能なパーフルオロポリマーである高-TFEフルオロポリマーと組み合わせ、それは、69.4 TFE、30.2 パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、および0.43 硬化部位単量体のモル量でTFE/PMVE/硬化部位単量体を含み、ここで例示のポリマーにおける硬化部位単量体は、CF_(2)=CFO(CF_(2))_(5)CNであった。ポリマーおよびポリマーBのもののような同様の材料は、米国特許第6,518,366号、および同第6,878,778号に記載され、明記され、それらに関してそのそれぞれは、本明細書中で参考として援用される。Daikin IndustriesポリマーGA500も使用した(ポリマーC)。これらの実施例において使用された硬化剤としては、上に言及された3M Corporationからのフルオロケミカルオニウム(onion)硬化剤E-18346、下に示される構造を有するFederal State Unitary Enterprise S.V.Lebedev Institute of Synthetic Rubber,Petersburg,Russiaからのイミドイルベースの硬化剤DPIA-65、
【0163】
【化49】(式は省略)
【0164】
およびビスアミノフェノール(BOAP)が挙げられる。1つの実施例において、E.I.DuPont de Nemours & Co.,Wilmington,Delawareから入手可能であるフルオロポリマーフィラー微粉末、Zonyl(登録商標)MP 1500をサンプルに提供した。組成物は、表1における例示のComp A、Comp B、およびComp Cにおいて明記される通りであり、特性(下および表3においてさらに議論されるような)を表1および2に示す。
【0165】
実施例
一連のパーフルオロポリマーを評価し、2つの好ましいパーフルオロポリマーを、以下の実施例における使用のために同定した。これらの実施例に含まれる2つの硬化可能なパーフルオロポリマーは、PFE 133 TZ(ポリマーA)と示される、3M Corporation,St.Paul,Minnesotaから入手可能なフッ素樹脂含有の硬化可能なパーフルオロポリマー、Dyneon(登録商標)PFE 133 TZ(ポリマーA)であり、それは、以前のDyneon(登録商標)PFE 133 TBXと同じ基本構造のものであるが、PFOAなしで作製される。そのようなポリマーは、TFEを含むパーフルオロポリマー、PAVE、およびシアノ含有硬化部位単量体を含む硬化可能なパーフルオロポリマーマトリックス内に約20%の量で、シアノ機能化PFAパーフルオロ樹脂を含む。
【0166】
また、高-TFEフルオロポリマーとして本明細書中に援用するのは、GA-500PR(ポリマーB)として入手可能であるDaikin Industries,Ltd.からの硬化可能なパーフルオロポリマーであり、それは、69.4 TFE、30.2 パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、および0.43 硬化部位単量体のモル量でTFE/PMVE/硬化部位単量体を含み、ここで例示のポリマーにおける硬化部位単量体は、CF_(2)=CFO(CF_(2))_(5)CNであった。ポリマーおよびポリマーBのもののような同様の材料は、米国特許第6,518,366号、および同第6,878,778号に記載され、明記され、それらに関してそのそれぞれは、本明細書中で参考として援用される。
【0167】
硬化剤として、両方において、上記化合物は、Daikin Industries,Ltd.からの4,4’-[2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチリデン]ビス[N1-フェニル-1,2-ベンゼンジアミン](「Nph-AF」)である。
【0168】
【化50】


【0169】
また、下に示される構造を有するFederal State Unitary Enterprise S.V.Lebedev Institute of Synthetic Rubber,Petersburg,Russiaからのさらなるイミドイルベースの硬化剤DPIA-65を、本明細書中で使用する。
【0170】
【化51】(式は省略)
【0171】
試験したさらなる硬化剤は、ビスアミノフェノール(BOAP)、およびヘプタフルオロブチリルアミジン(heptafluorobutylrylamidine)(HFBA)を含み、2つのフルオロケミカルオニウム化合物(E-18600(1)およびE-18346(2))を配合物のうちのいくつかに組み込んだ。上に提供された情報を別として、異なる配合において、上で言及した材料をブレンドすることから得られた組成物は、充填していなかった。
【0172】
ポリマー(A)およびポリマー(B)を、上で言及した1つまたはそれより多くの硬化剤(架橋剤)と合わせ、表1に示される量で混合した。上記組成物を、開放型ロールを用いて50℃で練って、架橋可能なフッ素含有エラストマー組成物を調製した。
【0173】
このフッ素含有エラストマー組成物を、表1に示される種々の硬化サイクルを用いて硬化することによって架橋させ、試験サンプルのO-リングを作製した。試験サンプルに関して、通常状態における硬化特徴および物理的特性を以下の方法によって測定した。試験したそれらのサンプルについての物理的特性、溶融挙動、およびスティクション試験を表1に示す。硬化特徴を表2に示す。
【0174】
架橋能力:各架橋可能な組成物に関して、加硫曲線を、JSR型Curastometer Model IIを用いることによって、180℃で得、最小トルク(M_(L))、最大トルク(M_(H))、および誘導時間(T_(S2))、および最適加硫時間(T_(90))を決定した。
【0175】
通常状態における物理的特性:表3に明記されるASTM Standardsに従って、通常状態(25℃)における、50%モジュラス(M_(50))および100%モジュラス(M_(100))、引張り強さ(T_(B))、伸び(E_(B))、ならびにShore A硬度およびShore M硬度を、比重とともに測定した。Shore A硬度を別として、サンプルのそれぞれを、9214サイズのO-リングにおいて試験した。
【0176】
試験を表3に示される以下の情報に従って行った。
【0177】
【表1-1】


【0178】
【表1-2】


【0179】
【表2】


【0180】
【表3】


【0181】
上に記載された実施形態に対して、その広い発明の概念から外れることなく変更がなされ得ることが当業者によって認識される。従って、本発明は、開示される特定の実施形態に限定されないが、添付の特許請求の範囲によって定義されるような本発明の趣旨および範囲内に改変を含むことが意図されることが理解される。」
(甲1:第33頁第17行?第40頁第9行、[0092]?[0103])

イ.甲1に記載された発明
甲1には、上記ア.の(a-1)ないし(a-12)の記載事項(特に下線部の記載)からみて、特に請求項に記載された事項からみると、
「硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物であって、該組成物は、
テトラフルオロエチレンと、第一のパーフルオロアルキルビニルエーテルと、少なくとも1つのシアノ基である硬化部位を有する少なくとも1つの第一の硬化部位単量体とを含む第一の硬化可能なパーフルオロポリマーであって、ここでテトラフルオロエチレンが、該第一の硬化可能なパーフルオロポリマー中に、少なくとも50モルパーセントの量で存在する、第一の硬化可能なパーフルオロポリマー;
テトラフルオロエチレンと、第二のパーフルオロアルキルビニルエーテルと、少なくとも1つのシアノ基である硬化部位を有する少なくとも1つの第二の硬化部位単量体とを含む第二の硬化可能なパーフルオロポリマーであって、ここで該第二の硬化可能なパーフルオロポリマーが、その中にフッ素樹脂粒子を含む、第二の硬化可能なパーフルオロポリマー;および
ビスアミノフェノール、ビスアミノチオフェノール、ビスジアミノフェニルからなる群から選ばれる芳香族アミンである少なくとも1つの硬化剤を組成物中の前記パーフルオロポリマーの100重量部当たり、0.01重量部?5重量部の量で含む、
硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物。」
に係る発明(以下「甲1発明1」という。)が記載され、
また、発明の詳細な説明の記載(特に摘示(a-12)の記載)からみると、
「TFE、PAVE、およびシアノ含有硬化部位単量体を含む硬化可能なパーフルオロポリマーマトリックス内に約20%の量でシアノ機能化PFAパーフルオロ樹脂を含む「Dyneon(登録商標)PFE-133TZ」なる商品名のフッ素樹脂含有の硬化可能なパーフルオロポリマー(ポリマーA)50重量部及びTFE、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)及びCF_(2)=CFO(CF_(2))_(5)CNである硬化部位単量体をモル量でTFE69.4/PMVE30.2/硬化部位単量体0.43の割合で含む「GA-500PR」なる商品名の硬化可能なパーフルオロポリマー(ポリマーB)50重量部を含むポリマー組成物に対して、硬化剤としての、4,4’-[2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチリデン]ビス[N1-フェニル-1,2-ベンゼンジアミン](Nph-AF)なるテトラアミン、ビスアミノフェノール(BOAP)又はそれらの混合物を合計量で1?2.1重量部含有してなる硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物。」
に係る発明(以下「甲1発明2」という。)がそれぞれ記載されている。

(2)甲2

ア.甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

(b-1)
「【請求項1】
硬化性パーフルオロエラストマー配合物を製造する方法であって、i)テトラフルオロエチレン、過フッ化ビニルエーテルおよびニトリル基含有キュアサイトモノマーの共重合単位を含むパーフルオロエラストマー、ii)前記パーフルオロエラストマー100重量部当たり1?20重量部のフィブリル化PTFEおよびiii)硬化性配合物を形成するための硬化剤を、5分間隔で採取された前記配合物の逐次サンプルで測定されたML(ASTM D5289)の差が5%未満になるまでの時間にわたり混合する工程を含む方法。
・・(中略)・・
【請求項3】
前記硬化剤が、有機錫化合物、ビス(アミノフェノール)、ビス(アミノチオフェノール)、テトラミン、窒素含有求核性化合物、硬化温度で分解してアンモニアを生成する化合物および有機過酸化物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
硬化された物品を調製する方法であって、
A.i)テトラフルオロエチレン、過フッ化ビニルエーテルおよびニトリル基含有キュアサイトモノマーの共重合単位を含むパーフルオロエラストマー、ii)前記パーフルオロエラストマー100重量部当たり1?20重量部のフィブリル化PTFEおよびiii)硬化性配合物を形成するための硬化剤を、5分間隔で採取された前記配合物の逐次サンプルで測定されたML(ASTM D5289)が5%未満だけ異なるまでの時間にわたり混合する工程と、
B.前記配合物を硬化させて、架橋された物品を形成する工程とを含む方法。
・・(中略)・・
【請求項6】
前記硬化剤が、有機錫化合物、ビス(アミノフェノール)、ビス(アミノチオフェノール)、テトラミン、窒素含有求核性化合物、硬化温度で分解してアンモニアを生成する化合物および有機過酸化物からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。」

(b-2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロエラストマー100部当たり1?20重量部のフィブリル化PTFE(fibrillating PTFE)を含有するパーフルオロエラストマー配合物およびパーフルオロエラストマー配合物から製造された硬化された物品の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロエラストマーは際だった商業的成功を達成し、過酷な環境における多様な用途、特に高温および強力な化学薬品に曝される最終用途において用いられている。例えば、これらのポリマーは、航空機エンジン用のシールにおいて、油井掘削装置において、および高温にて用いられる工業装置用のシールエレメントにおいてしばしば用いられる。
【0003】
パーフルオロエラストマーの際だった特性は、これらの組成物におけるポリマー主鎖の主要部分を構成する共重合過フッ化モノマー単位の安定性および不活性によるところが大きい。こうしたモノマーは、テトラフルオロエチレンおよび過フッ化ビニルエーテルを含む。ゴム状弾性を十分に発現するために、パーフルオロエラストマーは、典型的には、架橋、すなわち、架硫される。この目的のために、少量のキュアサイトモノマーが、過フッ化モノマー単位と共重合される。少なくとも1個のニトリル基を含むキュアサイトモノマー、例えば、パーフルオロ-8-シアノ-5-メチル-3,6-ジオキサ-1-オクテンが特に好ましい。・・(中略)・・
【0004】
パーフルオロエラストマー製物品は、最終用途における環境のために適した弾性率または硬度を実現するためにカーボンブラック、鉱物または非フィブリル化フッ素樹脂充填剤をしばしば含有する。フッ素樹脂充填剤は、幾つかの最終用途、例えば、パーフルオロエラストマー製シールが反応性プラズマに曝される半導体製造に適している。プラズマは、パーフルオロエラストマーポリマーおよびいかなる非フィブリル化フッ素樹脂充填剤も侵蝕する。しかし、無機充填剤を含有するシールは、ポリマーが侵蝕されるにつれて充填剤を放出し、この充填剤は半導体を汚染する恐れがある。
【0005】
非フィブリル化フッ素樹脂充填剤を多く充填すること(例えば、パーフルオロエラストマー100部当たり30重量部超)は、望ましい弾性率および硬度を有するパーフルオロエラストマー製物品の実現のために必要とされる。残念ながら、非フィブリル化フッ素樹脂充填剤の充填量が多ければ多いほど、パーフルオロエラストマー製物品の圧縮セット抵抗は高くなる。漏れのないシールを実現するためには、圧縮セット抵抗を低く抑える必要がある。
【0006】
米国特許第4,520,170号明細書は、パーフルオロエラストマー100部当たり1?40重量部のフィブリル化ポリ(テトラフルオロエチレン)(すなわち、「PTFE」)入りのパーフルオロエラストマーの配合物を開示している。この配合物は、パーフルオロエラストマーとフィブリル化PTFEのブレンドを低温粉砕して粉状にすることにより製造される。
【0007】
架橋された時に、半導体製造装置において用いるために良好なシール特性、十分な強度の組み合わせを提供するとともに、反応性プラズマに曝された後に粒子を殆ど放出しないパーフルオロエラストマー組成物を有することが望ましい。更には、組成物の製造において従来のゴム加工装置のみを用いる、すなわち、低温粉砕を用いないことが望ましい。」

(b-3)
「【0010】
パーフルオロエラストマーは、一般的には、少なくとも2種の主たる過フッ化モノマーの共重合単位を有する非晶質高分子組成物である。主たるモノマーの一方がパーフルオロオレフィンであるのに対して、他方はパーフルオロビニルエーテルである。代表的な過フッ化オレフィンは、テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンを含む。適している過フッ化ビニルエーテルは、
式CF_(2)=CFO(R_(f’)O)_(n)(R_(f’’)O)_(m)R_(f) (I)
(式中、R_(f’)およびR_(f’’)は、炭素原子数2?6の異なる直鎖または分枝のパーフルオロアルキレン基であり、mおよびnは独立して0?10であり、R_(f)は炭素原子数1?6のパーフルオロアルキル基である)の過フッ化ビニルエーテルを含む。
・・(中略)・・
【0015】
好ましいパーフルオロエラストマーコポリマーは、主たるモノマー単位としてテトラフルオロエチレンと少なくとも1種の過フッ化ビニルエーテルとを含む。こうしたコポリマーにおいて、共重合過フッ化エーテル単位は、ポリマー中の全モノマー単位の約15?50モル%を構成する。
【0016】
パーフルオロエラストマーは、一般に0.1?5モル%の量で少なくとも1種のニトリル基含有キュアサイトモノマーの共重合単位を更に含む。その範囲は、好ましくは、0.3モル%と1.5モル%の間である。適するキュアサイトモノマーは、ニトリル含有フッ化オレフィンおよびニトリル含有フッ化ビニルエーテルを含む。有用なニトリル含有キュアサイトモノマーは、以下に示した式のニトリル含有キュアサイトモノマーを含む。
CF_(2)=CF-O(CF_(2))_(n)-CN (VI)
(式中、n=2?12、好ましくは2?6)
CF_(2)=CF-O[CF_(2)-CF(CF_(3))-O]_(n)-CF_(2)-CFCF_(3)-CN (VII)
(式中、n=0?4、好ましくは0?2)、および
CF_(2)=CF-[(OCF_(2)CF(CF_(3))]_(x)-O-(CF_(2))_(n)-CN (VIII)
(式中、x=1?2、n=1?4)
【0017】
式(VIII)のニトリル含有キュアサイトモノマーが好ましい。特に好ましいキュアサイトモノマーは、ニトリル基およびトリフルオロビニルエーテル基を有する過フッ化ポリエーテルである。最も好ましいキュアサイトモノマーは、
CF_(2)=CFOCF_(2)CF(CF_(3))OCF_(2)CF_(2)CN(IX)
すなわち、パーフルオロ(8-シアノ-5-メチル-3,6-ジオキサ-1-オクテン)、または、8-CNVEである。
【0018】
特に好ましいパーフルオロエラストマーは、53.0?79.9モル%のテトラフルオロエチレン、20.0?46.9モル%のパーフルオロ(メチルビニルエーテル)および0.4?1.5モル%のニトリル基含有キュアサイトモノマーの共重合単位を含む。これらのモル%は、パーフルオロエラストマー中のすべての共重合モノマー単位の全モルに基づいている。」

(b-4)
「【0019】
フィブリル化ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)は公知である。混合中に剪断に曝された時、短い(すなわち1mm)の微小繊維を形成するのは、一般的には高分子量PTFEである。本発明の目的において、「フィブリル化PTFE」という用語は、本発明の組成物に添加する前に既に微小繊維化されていたPTFEを含む。
【0020】
本発明の方法により製造された硬化性組成物および硬化された物品は、パーフルオロエラストマーと、1?20(好ましくは8?12)phrのフィブリル化PTFEと硬化剤とを含む。「phr」という用語は、ゴム(すなわち、パーフルオロエラストマー)100重量部当たりの成分原料の重量部を意味する。20phrより多いフィブリル化PTFEは組成物を実質的に非加工性にする一方で、1phr未満のフィブリル化PTFEは補強がごく僅かの組成物をもたらす。」

(b-5)
「【0021】
パーフルオロエラストマーがニトリル含有キュアサイトモノマーの共重合単位を有するので、有機錫化合物に基づく硬化系を用いることが可能である。・・(中略)・・
【0022】
好ましい他の硬化系は、式
【0023】
【化1】


【0024】
のビス(アミノフェノール)またはビス(アミノチオフェノール)もしくは式
【0025】
【化2】


【0026】
のテトラアミンを用いる。
【0027】
ここで、式中、Aは、SO_(2)、O、CO、炭素原子数1?6のアルキレン、炭素原子数1?10のパーフルオロアルキレンまたは2個の芳香族環を連結する炭素-炭素結合である。上の式XおよびXI中のアミノ基およびヒドロキシル基またはチオ基はベンゼン環上で互いに隣接しており、基Aに対して互換可能なようにメタ位およびパラ位にある。好ましくは、硬化剤は、4,4’-[2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチリデン]ビス(2-アミノフェノール)、4,4’-スルホニルビス(2-アミノフェノール)、3,3’-ジアミノベンジジンおよび3,3’,4,4’-テトラアミノベンゾフェノンからなる群から選択された化合物である。これらの内の最初のものが最も好ましく、ビス(アミノフェノール)AF(または、DABPAF)と呼ばれる。・・(中略)・・硬化剤のレベルは、加硫ゴムの所望の特性を最適化するように選択されるべきである。一般的に、パーフルオロエラストマー中に存在するすべてのキュアサイトと反応するために必要とされる量を超える僅かに過剰の硬化剤が用いられる。典型的には、エラストマー100部当たり0.5?5重量部の硬化剤が必要とされる。好ましい範囲は1?2phrである。」

(b-6)
「【0031】
本発明の硬化されたパーフルオロエラストマー製物品は、良好なシール特性、反応性プラズマに曝された時の粒子放出の抑制および半導体製造において用いるために十分な引張特性を有する。物品は、シールおよびガスケットなどの多くの用途において有用である。」

(b-7)
「【実施例】
・・(中略)・・
【0038】
実施例1?2および対照A
実施例および対照Aにおいて用いられたパーフルオロエラストマー(FFKM1)は、68.2モル%のテトラフルオロエチレン、31.0モル%のパーフルオロ(メチルビニルエーテル)および0.80モル%のパーフルオロ(8-シアノ-5-メチル-3,6-ジオキサ-1-オクテン)の共重合単位を含み、米国特許第5,789,489号明細書において記載された一般方法に従い調製した。
【0039】
用いられたフィブリル化PTFEまたは微小繊維化されたPTFEは、DuPontから入手できるテフロン(Teflon)(登録商標)60またはテフロン(登録商標)7Aであった。非フィブリル化フッ素樹脂(テフロン(登録商標)MP 1600)を対照組成物中で用いた。
【0040】
本発明の組成物(実施例1?2)および対照Aの組成物は、パーフルオロエラストマー、フルオロポリマー充填剤およびビス(アミノフェノール)AF(「DABPAF」)硬化剤を開放二本ロール機で40℃で混合することにより製造した。成分原料、比率および混合時間を表Iにおいて示している。硬化特性および引張特性を試験方法に従い測定し、これらも表Iにおいて示している。
【0041】
【表1】




イ.甲2に記載された発明
甲2には、上記ア.の記載事項(特に下線部)からみて、
「i)テトラフルオロエチレン、過フッ化ビニルエーテルおよびニトリル基含有キュアサイトモノマーの共重合単位を含むパーフルオロエラストマー、ii)前記パーフルオロエラストマー100重量部当たり1?20重量部のフィブリル化PTFEおよびiii)ビス(アミノフェノール)、ビス(アミノチオフェノール)及びテトラミンから選択される硬化性配合物を形成するための硬化剤をエラストマー100部当たり0.5?5重量部混合してなる硬化性パーフルオロエラストマー配合物。」
に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。

(3)甲3

ア.甲3に記載された事項
甲3には、以下の事項が記載されている。

(c-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも1個のシアノ基を有する少なくとも1種の硬化部位含有モノマーからなるフルオロポリマー;
(ii)官能性ビフェニル系化合物および
式(I):
HON=R^(1)=NOH
(R^(1)は、炭素数1?10のアルキル基および炭素数1?10のアリール基から選ばれる)で示されるジオキシム化合物;式(IV):
【化1】


(Yは、置換または非置換のアルキル基、アリール基またはアラルキル基もしくは非置換または置換の、全部または一部がハロゲン化された炭素数?22のアルキル基、アリール基またはアラルキル基から選ばれ;R^(4)は、水素原子または炭素数1?6の置換または非置換の低級アルキル基またはアミノ基から選ばれ;R^(5)は、独立して水素原子、炭素数1?6の置換または非置換の低級アルキル基、アミノ基またはヒドロキシル基から選ばれる)で示されるモノアミジン系化合物;および/または
パーフルオロポリエーテルの少なくとも1種を含む硬化系
を含む硬化性フルオロエラストマー組成物。
【請求項2】
フルオロポリマーが、さらにテトラフルオロエチレンおよびパーフルオロアルキルビニルエーテルを含む請求項1記載の組成物。
・・(中略)・・
【請求項4】
官能性ビフェニル系化合物が、2,2-ビス[3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル]ヘキサフルオロプロパンである請求項1記載の組成物。
【請求項5】
硬化部位含有モノマーがシアノ基を2?5個有する請求項1記載の組成物。
・・(中略)・・
【請求項7】
硬化系が、官能性ビフェニル系化合物を約0.5部?約2.0部含み、ジオキシム化合物を約0.25部?約2.0重量部含む請求項1記載の組成物。
・・(後略)」

(c-2)
「【0013】
パーフルオロエラストマー組成物は、テトラフルオロエチレン(TFE);ヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのパーフルオロオレフィン;およびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)および類似の化合物などの直鎖または分岐鎖状のアルキル基を有し、1種以上のエーテル結合を有するパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)などの少なくとも1種の含フッ素エチレン性不飽和モノマーからなる2種以上の各種パーフルオロ共重合体を含んでいてもよい。かかるPAVEの例としては、米国特許第5001278号明細書、第5696189号明細書、第4983697号明細書および国際公開第00/08076号パンフレットに記載のものがあげられ、その含有量は、本明細書にもそのまま組みいれられる。本発明の実施において、TFEおよびPAVEを含む三元重合体または四元重合体であるパーフルオロポリマーであって、三元重合体の架橋を可能にする官能基を含む少なくとも1種のパーフルオロ硬化部位含有モノマーからなるパーフルオロポリマーを用いることが望ましく、本明細書に記載の特定の硬化系を用いて硬化させてもよい。本発明の実施形態において、パーフルオロポリマーは、少なくともテトラフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)および少なくとも1種の硬化部位含有モノマー(以下に記載)などの各モノマーを含む。
【0014】
また、TFE、ビニリデンフルオライド(VF_(2))およびパーフルオロポリマーに関して上に述べたモノマーなどを含む共重合体であるフルオロポリマーを用いることが望ましい。好ましくは、フルオロポリマーは、標準の硬化剤および/または本明細書に記載の好ましい硬化剤によって硬化され得る硬化部位含有モノマーを含み、本発明における好ましい促進剤によってかかる硬化を促進し得るものである。また、用いるフルオロポリマーは、この技術の分野において公知のより高度にフッ素化されたフルオロポリマーのグループに含まれるものであることが好ましい。
【0015】
本発明の実施において用いられるフルオロポリマーおよびパーフルオロポリマーは、少なくとも1個のシアノ基を有する少なくとも1種の硬化部位含有モノマー(「シアノ硬化部位含有モノマー」)を含むものであるが、他の官能基または硬化部位が存在していてもよい。選ばれたシアノ硬化部位含有モノマーは、シアノ基をいくつ有していてもよいが、1?8個のシアノ基を有するモノマーが好適である。比較的単純なニトリルモノマー、フルオロオレフィン、フルオロビニルエーテルおよびたとえば米国特許第4281092号明細書に記載のモノマーなどのいかなるシアノ硬化部位含有モノマーを用いてもよく、その含有量は、本明細書にもそのまま組みいれられる。シアノ硬化部位含有モノマーの他の例としては、一般式:
-CF_(2)=CF-O-[CF_(2)]_(n)-CN(式中、nは2?約12または2?6の整数);・・(中略)・・などがあげられる。また、共重合体中の第1の硬化部位含有モノマーと第2の硬化部位含有モノマーのモル比は、約1:1?約10:1または9:1であってもよい。」

(c-3)
「【0019】
官能性ビフェニル系硬化剤は、この分野の技術において公知のまたは開発されるいかなるものであってもよく;官能性ビフェニル系硬化剤は、1種またはいかなる種類の組合せであってもよい。官能性ビフェニル系硬化剤は、たとえば、2,2-ビス[3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン(「BOAP」)またはその誘導体化合物であってもよい。これらの例としては、1個以上の酸素原子を有していてもよく、置換されていてもよく、少なくとも2個のアミノフェニル基、好ましくは2個のアミノフェノル基を有する、分岐状もしくは直鎖状のアルキル、ハロゲン化アルキル、パーハロゲン化アルキルおよびパーフルオロアルキルを有する化合物があげられる。さらに、選択された官能性ビフェニル系硬化剤は、約240℃以下、約230℃以下、さらには約225℃以下の融点を有することが望ましい。
・・(中略)・・
【0023】
少なくとも官能性ビフェニル系硬化剤およびジオキシム化合物を含む選択された硬化系は、ある量で組成物中に存在し、その量は、フルオロポリマーまたはパーフルオロポリマー中に存在する硬化部位および硬化部位含有モノマーの組合せおよび個数によって変わる。しかしながら、官能性ビフェニル系硬化剤が存在する場合は、その含有量は約0.001?約2部(phr)、もしくは約0.2?約1.7phr、もしくは約0.5?約1.5phrであり、選択されたジオキシム化合物の含有量は約0.001?約2部、または0.2部?約1.6部、もしくは約0.5?約1部であることが望ましい。」

(c-4)
「【0029】
発明を構成する組成物および方法は、他の添加剤、たとえば、加工助剤、フィラー、その他のポリマーまたはポリマー混合物(粉末、溶融ブレンド、粒子)、レオロジー改質剤、滑剤、可塑剤および着色剤を含んでもよい。かかる添加剤の例としては、グラファィト、カーボンブラック、クレー、シリカ、ガラス、ヘクトライト、酸化ケイ素、フルオロポリマー粒子、硫酸バリウム、着色剤、二酸化チタン、ガラスファイバーまたはその他の粒子、ポリアライド(polyarid)繊維、ヒュームドシリカ、非晶質シリカおよびオイルなどがあげられる。オイルは、ミネラルオイル、植物由来のオイルおよびパーフルオロポリエーテルなどの人工または天然オイルであってよい。
【0030】
実施の形態において、組成物は、ヒュームド酸化ケイ素、PTFE粒子または粉末および/またはカーボン粒子、ナノチューブ、繊維またはフィラメントを含む。かかる実施の形態には、フルオロエラストマー、またはパーフルオロエラストマーが含まれてもよい。」

(c-5)
「【0038】
さらに、本発明を下記の実施例にしたがって説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。・・(中略)・・
【0039】
実施例における粘着力を測定するための試験は、内径0.984±0.010インチで、断面が0.0139±0.004インチの寸法を有するO-リングサンプルを用いて行った。O-リングサンプルは、プレートの間に固定され、25%の圧縮を加える。固定具およびサンプルは、392°Fで24時間強制空気加熱オーブン中に置かれる。固定具を冷却し、プレートが引き離される力を測定する。この力が粘着力である。各サンプルの3点のデータをとり、平均して、平均粘着力を得る。
【0040】
実施例1:パーフルオロエラストマー組成物の調製および耐酸素プラズマ性と粘着力の評価
下記に示すパーフルオロエラストマー組成物A?Rを、表1に示す成分を混合して調製した。それぞれについて、耐酸素プラズマ性と粘着力のデータを示す。表に示すC1は、比較用の組成物である。
【0041】
【表1】




イ.甲3に記載された発明
甲3には、上記ア.の記載事項(特に下線部)からみて、
「(i)TFE、PAVE及び少なくとも1個のシアノ基を有する少なくとも1種の硬化部位含有モノマーからなるフルオロポリマー;(ii)2,2-ビス[3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン(BOAP)などの官能性ビフェニル系化合物および式(I):(式及びその説明は省略)で示されるジオキシム化合物;式(IV):(式及びその説明は省略)で示されるモノアミジン系化合物;および/またはパーフルオロポリエーテルの少なくとも1種を含む硬化系並びに任意にPTFE粒子又は粉末を含む硬化性フルオロエラストマー組成物」
に係る発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。

(4)甲4

ア.甲4に記載された事項
甲4には、以下の事項が記載されている。

(d-1)
「【請求項1】
含フッ素エラストマー粒子のエマルションと、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンと式:CF_(2)=CF-O-R_(f)^(1)(R_(f)^(1)は1個以上のエーテル型酸素原子を有していてもよい直鎖状または分岐鎖状のフルオロ-もしくはパーフルオロアルキル基、またはフルオロ-もしくはパーフルオロオキシアルキル基)との共重合体、およびテトラフルオロエチレンとCF_(2)=CF-R_(f)^(1)(R_(f)^(1)は前記と同じ)との共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種であって平均粒径が20?100nmのフッ素樹脂微粒子のエマルションとを混合したのち共凝析して得られ、フッ素樹脂微粒子が微細に分散している透明な含フッ素エラストマー組成物を加硫成形して得られる、含フッ素エラストマーにフッ素樹脂微粒子が微細に分散している充填剤を含まないヘイズ値が50%以下の透明な含フッ素エラストマー成形品。」

(d-2)
「【0018】
本発明で用いるマトリックス用のエラストマーは粒子の状態でエマルションを形成し得る透明なエラストマーであり、かつフッ素樹脂と親和性を有するものであればよい。この点から含フッ素エラストマーが好ましい。
【0019】
含フッ素エラストマーとしては、たとえば式(1):
【0020】
【化1】


(式中、m/n=95?50/5?50(モル%。以下同様)、R_(f)は炭素数1?8のパーフルオロアルキル基)で示される2元共重合体エラストマー(テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)系エラストマー)、・・(中略)・・などがあげられる。
【0026】
より具体的には、TFE/PAVE共重合体エラストマー、ビニリデンフルオライド(VdF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体エラストマー、VdF/HFP/TFE共重合体エラストマー、VdF/TFE/PAVE共重合体エラストマーなどがあげられ、これらのエラストマーはさらに少量の架橋性反応基を含有するモノマーが共重合されていてもよい。架橋性反応基としては、たとえばヨウ素原子、臭素原子、ニトリル基、カルボキシル基、不飽和二重結合、水酸基などがあげられる。
【0027】
これらの含フッ素エラストマーは、通常の乳化重合法で製造することができ、得られる重合反応物であるエマルションはそのまま、または適宜濃度を調整して後述する共凝析に使用することができる。または、一旦乾燥したのち再乳化分散させてもよい。」

(d-3)
「【0029】
エマルション中のエラストマー粒子の平均粒径は特に制限されず、たとえば10?800nm、好ましくは20?500nmである。しかし10nmよりも小さすぎると凝析しにくくなり、800nmよりも大きすぎるとエマルションが不安定となり共凝析を行ないにくくなる。
【0030】
エラストマーに微分散させるフッ素樹脂微粒子は特に制限されず、たとえば
(1)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE);
(2)TFE/CF_(2)=CF-O-R_(f)^(1)(FVE)共重合体(ただし、非エラストマー性を示す組成範囲。たとえばCF_(2)=CF-O-R_(f)^(1)が15モル%以下。R_(f)^(1)は1個以上のエーテル型酸素原子を有していてもよい直鎖状または分岐鎖状のフルオロ-もしくはパーフルオロアルキル基、またはフルオロ-もしくはパーフルオロオキシアルキル基である。)、たとえばTFE/PAVE共重合体(PFA);
(3)TFE/CF_(2)=CF-R_(f)^(1)共重合体(ただし、非エラストマー性を示す組成範囲、たとえば、CF_(2)=CF-R_(f)^(1)が15モル%以下。R_(f)^(1)は前記と同じ)、たとえばTFE/HFP共重合体(FEP);
(4)エチレン/TFE(30?60/70?40。モル%。以下同様)共重合体;
(5)ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE);
(6)エチレン/クロロトリフルオロエチレン(CTFE)(30?60/70?40)共重合体;
(7)ポリビニリデンフルオライド(PVdF);
(8)ビニリデンフルオライド(VdF)/TFE(70?99/30?1)共重合体;
(9)VdF/TFE/CTFE(50?99/30?0/20?1)共重合体;
(10)VdF/TFE/HFP(60?99/30?0/10?1)共重合体;
(11)エチレン/TFE/HFP(6?60/40?81/1?30)共重合体;
(12)3,3,3-トリフルオロプロピレン-1,2-トリフルオロメチル-3,3,3-トリフルオロプロピレン-1/PAVE(40?60/60?40)共重合体
などの微粒子があげられる。これらのうち、成形品への低摩擦性を付与する場合、前記(1)が好ましく、特にパーフルオロエラストマー成分の相溶性を向上させる点からは前記(2)、(3)が好ましい。
【0031】
なお、前記(1)のPTFEにはTFEの単独重合体だけでなく、溶融流動性を与えない範囲で少量の共単量体を共重合した変性PTFEも含む。共単量体としては、HFP、CTFE、パーフルオロビニルエーテル、トリフルオロエチレン、パーフルオロアルキルエチレンなどがあげられ、パーフルオロビニルエーテルを共単量体とする場合は2重量%まで、好ましくは0.001?1重量%、より好ましくは0.01?1重量%の量で共重合する。」

(d-4)
「【0034】
エラストマーとフッ素樹脂との混合比率は、成形品に与えたい特性などによって適宜選定すればよいが、エラストマー100重量部に対し、フッ素樹脂は補強効果を得る点から1重量部以上、好ましくは5重量部以上、また得られる架橋物のゴム加工が容易な点から150重量部以下、好ましくは100重量部以下、より好ましくは50重量部以下とすることが望ましい。」

(d-5)
「【0043】
本発明のエラストマー組成物に架橋剤、さらに架橋促進剤を配合することにより、架橋性のエラストマー組成物とすることができる。
【0044】
架橋系としてはエラストマーに通常採用されている架橋系が適用でき、たとえばオキサゾール架橋系、イミダゾール架橋系、チアゾール架橋系、トリアジン架橋系、パーオキサイド架橋系、ポリオール架橋系、ポリアミン架橋系などがあげられる。また、放射線や電子線、紫外線などによる架橋も可能である。
【0045】
オキサゾール架橋系、イミダゾール架橋系、チアゾール架橋系に使用する架橋剤としては、たとえば式(I):
【0046】
【化7】


(式中、R^(1)は-SO_(2)-、-O-、-CO-、炭素数1?6のアルキレン基、炭素数1?10のパーフルオロアルキレン基または結合手であり、R^(2)およびR^(3)は一方が-NH_(2)であり他方が-NH_(2)、-OHまたは-SHである)で示されるビスアミノ(チオ)フェノール系架橋剤あるいはテトラアミン系架橋剤・・(中略)・・などがあげられる。
【0050】
また、必要に応じて架橋促進剤を併用してもよい。
【0051】
配合量は、エラストマー100重量部に対して、架橋剤が0.5?10重量部、好ましくは1?5重量部であり、架橋促進剤が0.1?10重量部、好ましくは0.2?5重量部である。」

(d-6)
「【0067】
充填剤の有無に拘わらず、本発明の架橋成形物は機械的強度、後加工性、耐プラズマ性、ガスバリヤー性に優れている。また、微分散しているフッ素樹脂微粒子はマトリックスのエラストマーから脱落しにくいため、たとえば半導体製造装置の封止材として使用してもパーティクルを発生する恐れが少ない。」

(d-7)
「【実施例】
【0073】
つぎに本発明を合成例および実施例をあげて説明するが、本発明はかかる合成例および実施例のみに限定されるものではない。
・・(中略)・・
【0078】
合成例2(フッ素樹脂微粒子のエマルションの製造)
着火源をもたない内容積6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、純水3リットルおよび乳化剤としてC_(3)F_(7)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COONH_(4)を30g、pH調整剤としてリン酸水素二ナトリウム・12水塩0.27gを仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換し脱気したのち、600rpmで撹拌しながら、80℃に昇温し、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)の混合ガス(TFE/PMVE=88/12モル比)を、内圧が0.20MPaになるように仕込んだ。ついで、過硫酸アンモニウム(APS)の2.5mg/ml濃度の水溶液4mlを窒素圧で圧入して反応を開始した。
【0079】
重合の進行により内圧が、0.15MPaまで降下した時点で、TFE/PMVEの混合ガス(TFE/PMVE=95/5モル比)を内圧が0.20MPaになるように窒素ガスで圧入した。以後、反応の進行にともない同様にTFE/PMVE混合ガス(95/5モル比)を圧入し、0.15?0.20MPaの間で昇圧、降圧を繰り返した。
【0080】
重合反応の開始から4.5時間後、TFEおよびPMVEの合計仕込み量が331gになった時点で、オートクレーブを冷却し、未反応モノマーを放出して固形分濃度9.7重量%のフッ素樹脂微粒子(平均粒径:44nm)のエマルション(B-1)を得た。平均粒径はエマルション120mgをジメチルスルホキシド4.4gと混合し、大塚電子(株)製のLPA-3000、3100で測定した。
【0081】
このエマルションの一部を取り出し、硝酸を加えて凝析し、析出物を洗浄、乾燥して白色のフッ素樹脂微粉末を得た。このフッ素樹脂のメルトフローレートMFRは372℃5分間保持の条件で測定不能であり、^(19)F-NMR分析での組成比はTFE/PMVE=94.5/5.5(モル%)であり、DSCで測定した融点は290℃であった。
・・(中略)・・
【0086】
合成例4(含フッ素エラストマー粒子のエマルションの製造)
着火源をもたない内容積3リットルのステンレススチール製オートクレーブに、純水1リットルおよび乳化剤としてC_(3)F_(7)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COONH_(4)を10g、pH調整剤としてリン酸水素二ナトリウム・12水塩0.09gを仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換し脱気したのち、600rpmで撹拌しながら、53℃に昇温し、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)の混合ガス(TFE/PMVE=25/75モル比)を、内圧が0.78MPaになるように仕込んだ。ついで、過硫酸アンモニウム(APS)の264mg/ml濃度の水溶液20mlを窒素圧で圧入して反応を開始した。
【0087】
重合の進行により内圧が、0.69MPaまで降下した時点で、CF_(2)=CFOCF_(2)CF(CF_(3))OCF_(2)CF_(2)CN(CNVE)を2.2g窒素圧にて圧入した。ついで圧力が0.78MPaとなるように、TFEを4.7gおよびPMVEを5.3gそれぞれ自圧にて圧入した。以後、反応の進行にともない同様にTFEおよびPMVEを圧入し、0.69?0.78MPaの間で昇圧、降圧を繰り返すとともに、TFEとPMVEの合計量が70gになった時点でCNVEを2.2g窒素圧にて圧入した。
【0088】
重合反応の開始から6時間後、TFEおよびPMVEの合計仕込み量が130gになった時点で、オートクレーブを冷却し、未反応モノマーを放出して固形分濃度11.3重量%の含フッ素エラストマー粒子のエマルション(A-2)1160gを得た。
【0089】
このエマルションのうちの100gを水300gで希釈し、3.5重量%塩酸水溶液280g中に撹拌しながらゆっくりと添加した。添加後、さらに5分間撹拌し、得られた凝析物をろ別した。得られたエラストマー粒子をさらに200gのHCFC-141bにより洗浄し、ろ別した。HCFC-141bでの洗浄およびろ別を4回繰返したのち60℃で72時間真空乾燥して、11.2gの含フッ素エラストマーを得た。
【0090】
この含フッ素エラストマーについて^(19)F-NMR分析により組成比を求めたところ、TFE/PMVE/CNVE=60.4/38.9/0.7(モル%)であった。
・・(中略)・・
【0111】
実施例11
合成例4で得られた含フッ素エラストマー粒子(A-2)300gと合成例2で得られたフッ素樹脂微粒子(B-1)619gを含フッ素エラストマー/フッ素樹脂=85/15(重量比)で混合し、撹拌している9%硝酸水溶液981g中に20分間かけて滴下して共凝析を行なった。得られた共凝析物を水洗し、乾燥して含フッ素エラストマーにフッ素樹脂微粒子が微分散した透明なエラストマー組成物(ヘイズ値:18%)を得た。
【0112】
実施例12
実施例11で製造したエラストマー組成物100重量部に対して、架橋剤として2,2-ビス-[(3-アミノ-4-フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス、ポリマー・ケミストリー編、Vol.20、2381?2393(1982)記載の方法で合成した)1.45重量部をオープンロールにより混練して架橋性エラストマー組成物を調製した。この架橋性エラストマー組成物の加硫性を前記の方法で調べたところ、つぎのとおりであった。
【0113】
加硫性(170℃)
最低トルク:0.45kg
最大トルク:2.90kg
誘導時間:4.4分
最適加硫時間:8.7分
【0114】
さらにこの架橋性エラストマー組成物を170℃で15分間プレス架橋したのち204℃で18時間、ついで288℃で18時間のオーブン架橋を行なって架橋物を製造した。得られた架橋物についても前記と同様に常態物性を測定し、また前記と同様の条件でO-リング(P-24)を作製し、その圧縮永久歪みを測定した。結果はつぎのとおりである。
【0115】
常態物性
100%モジュラス:2.9MPa
引張強度:19.4MPa
伸び:252%
硬度(JIS A):74
【0116】
圧縮永久歪み(200℃、70時間、25%圧縮)
圧縮永久歪み:15%」

イ.甲4に記載された発明
甲4には、上記ア.の記載事項(特に下線部)からみて、
「テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル及び少量のニトリル基などの架橋性反応基を含有するモノマーの共重合体である含フッ素エラストマーと、該エラストマー100重量部に対し5重量部以上50重量部以下の、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンと式:CF_(2)=CF-O-R_(f)^(1)(R_(f)^(1)は1個以上のエーテル型酸素原子を有していてもよい直鎖状または分岐鎖状のフルオロ-もしくはパーフルオロアルキル基、またはフルオロ-もしくはパーフルオロオキシアルキル基)との共重合体、およびテトラフルオロエチレンとCF_(2)=CF-R_(f)^(1)(R_(f)^(1)は前記と同じ)との共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種であって平均粒径が20?100nmのフッ素樹脂微粒子とを混合し、さらにビスアミノ(チオ)フェノール系架橋剤あるいはテトラアミン系架橋剤をエラストマー100重量部に対して0.5?10重量部配合したフッ素樹脂微粒子が微細に分散している透明な架橋性含フッ素エラストマー組成物。」
に係る発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。

(5)甲5

ア.甲5に記載された事項
甲5には、以下の事項が記載されている。

(e-1)
「【請求項1】 融点が230?300℃でかつ溶融加工ができない平均粒径が100nm以下のフッ素樹脂粒子であって、ASTM D3307に準じて327℃、5kg荷重で測定したメルトフローレートが0.005?0.1g/10minであるフッ素樹脂粒子。
【請求項2】 フッ素樹脂粒子が、テトラフルオロエチレンとテトラフルオロエチレン以外のパーフルオロオレフィンとの含フッ素共重合体粒子である請求項1記載のフッ素樹脂粒子。
【請求項3】 含フッ素共重合体粒子がテトラフルオロエチレン単位を90モル%以上含む請求項2記載のフッ素樹脂粒子。
・・(中略)・・
【請求項5】 テトラフルオロエチレンと共重合するパーフルオロオレフィンが、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)である請求項2?4のいずれかに記載のフッ素樹脂粒子。
・・(中略)・・
【請求項7】 含フッ素エラストマーと請求項1?5のフッ素樹脂粒子からなる含フッ素エラストマー組成物。
【請求項8】 含フッ素エラストマーがパーフルオロエラストマーである請求項7記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項9】 請求項7または8記載のエラストマー組成物から成形して得られる半導体製造装置用のシール用部品。」

(e-2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体製造装置のO-リングやガスケットなどのシール用部品などに特に好適に使用されるエラストマーや樹脂成形品などに充填するフッ素樹脂粒子に関する。かかる充填剤は、得られるシール材にクリーン性、耐熱性、強度を与えるものである。
【0002】
【従来の技術】含フッ素エラストマーにフッ素樹脂粒子を充填剤として添加し、成形品の耐摩耗性を向上させたり摩擦係数を低くしたりすることは、従来から行なわれている。近年、こうした成形品のフッ素樹脂の耐薬品性や耐熱性などを利用し、半導体の製造装置のシール用部品(O-リングやガスケットなど)への使用が進められている。
・・(中略)・・
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、含フッ素エラストマーや樹脂に充填するフッ素樹脂粒子であって、フッ素樹脂粒子の融点を超えた温度であってもエラストマー加硫物などに良好な特性を付与できるフッ素樹脂粒子を提供することを目的とする。」

(e-3)
「【0007】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、融点が230?300℃でかつ溶融加工ができない平均粒径が100nm以下のフッ素樹脂粒子であって、ASTM D3307に準じて327℃、5kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が0.005?0.1g/10minであるフッ素樹脂粒子に関する。
【0008】フッ素樹脂粒子としては、テトラフルオロエチレン(TFE)とTFE以外のパーフルオロオレフィンとの含フッ素共重合体、特にTFE単位を90モル%以上含むフッ素樹脂粒子が好ましい。
【0009】TFE以外のパーフルオロエチレン単位の含有量は2?9モル%が好ましく、TFEと共重合するパーフルオロオレフィンとしてはパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、特にパーフルオロ(メチルビニルエーテル)が好ましくあげられる。」

(e-4)
「【0021】さらに本発明は、含フッ素エラストマーまたは溶融加工可能なフッ素樹脂などのマトリックスポリマーに前記特定のフッ素樹脂粒子が充填剤として含まれてなる組成物にも関する。
【0022】本発明の組成物で用いるマトリックス用のエラストマーは粒子の状態でエマルションを形成し得るエラストマーであり、かつフッ素樹脂粒子と親和性を有するものであればよい。この点から含フッ素エラストマーが好ましい。
【0023】マトリックスポリマーとして含フッ素エラストマーを使用する場合は、本発明のフッ素樹脂粒子を充填したときは、高温での混練や加硫においても充填剤としての特性が大きくは損なわれない。
【0024】含フッ素エラストマーとしては、たとえば式(1):
【0025】
【化1】


【0026】(式中、m/n=95?50/5?50(モル%。以下同様)、R_(f)は炭素数1?8のパーフルオロアルキル基)で示される2元共重合体エラストマー(テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)系エラストマー)、・・(中略)・・などがあげられる。
【0037】より具体的には、TFE/PAVE共重合体エラストマー、ビニリデンフルオライド(VdF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体エラストマー、VdF/HFP/TFE共重合体エラストマー、VdF/TFE/PAVE共重合体エラストマーなどがあげられ、これらのエラストマーはさらに少量の架橋性反応基を含有するモノマーが共重合されていてもよい。架橋性反応基としては、たとえばヨウ素原子、臭素原子、ニトリル基、カルボキシル基、不飽和二重結合、水酸基などがあげられる。」

(e-5)
「【0041】含フッ素エラストマーと特定のフッ素樹脂粒子との混合比率は、成形品に与えたい特性などによって適宜選定すればよいが、含フッ素エラストマー100重量部に対し、フッ素樹脂粒子は補強効果を得る点から1重量部以上、好ましくは5重量部以上、また得られる架橋物のゴム加工が容易な点から150重量部以下、好ましくは100重量部以下、より好ましくは50重量部以下とすることが望ましい。」

(e-6)
「【0049】本発明の含フッ素エラストマー組成物に架橋剤、さらに架橋促進剤を配合することにより、架橋性の含フッ素エラストマー組成物とすることができる。
【0050】架橋系としては含フッ素エラストマーに通常採用されている架橋系が適用でき、たとえばオキサゾール架橋系、イミダゾール架橋系、チアゾール架橋系、トリアジン架橋系、パーオキサイド架橋系、ポリオール架橋系、ポリアミン架橋系などがあげられる。また、放射線や電子線、紫外線などによる架橋も可能である。
【0051】オキサゾール架橋系、イミダゾール架橋系、チアゾール架橋系に使用する架橋剤としては、たとえば式(I):
【0052】
【化7】


【0053】(式中、R^(1)は-SO_(2)-、-O-、-CO-、炭素数1?6のアルキレン基、炭素数1?10のパーフルオロアルキレン基または結合手であり、R^(2)およびR^(3)は一方が-NH_(2)であり他方が-NH_(2)、-OHまたは-SHである)で示されるビスアミノ(チオ)フェノール系架橋剤あるいはテトラアミン系架橋剤、・・(中略)・・などがあげられる。
【0064】また、必要に応じて架橋促進剤を併用してもよい。
【0065】配合量は、含フッ素エラストマー100重量部に対して、架橋剤が0.5?10重量部、好ましくは1?5重量部であり、架橋促進剤が0.1?10重量部、好ましくは0.2?5重量部である。」

(e-7)
「【0081】本発明の成形品は耐熱性、機械的強度、後加工性、耐プラズマ性、ガスバリヤー性に優れている。また、微分散しているフッ素樹脂微粒子はマトリックスのエラストマーから脱落しにくいため、たとえば半導体製造装置のシール用部品として使用してもパーティクルを発生する恐れが少ない。」

(e-8)
「【0098】
【実施例】つぎに本発明を合成例および実施例をあげて説明するが、本発明はかかる合成例および実施例のみに限定されるものではない。
【0099】
合成例1(フッ素樹脂微粒子のエマルションの製造)
着火源をもたない内容積6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、純水3リットルおよび乳化剤としてC_(3)F_(7)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COONH_(4)を30g、pH調整剤としてリン酸水素二ナトリウム・12水塩0.27gを仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換し脱気したのち、600rpmで撹拌しながら、80℃に昇温し、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)の混合ガス(TFE/PMVE=88/12モル比)を、内圧が0.20MPaになるように仕込んだ。ついで、過硫酸アンモニウム(APS)の2.5mg/ml濃度の水溶液4mlを窒素圧で圧入して反応を開始した。
【0100】重合の進行により内圧が、0.15MPaまで降下した時点で、TFE/PMVEの混合ガス(TFE/PMVE=95/5モル比)を内圧が0.20MPaになるように窒素ガスで圧入した。以後、反応の進行にともない同様にTFE/PMVE混合ガス(95/5モル比)を圧入し、0.15?0.20MPaの間で昇圧、降圧を繰り返した。
【0101】重合反応の開始から4.5時間後、TFEおよびPMVEの合計仕込み量が331gになった時点で、オートクレーブを冷却し、未反応モノマーを放出して固形分濃度9.7重量%のフッ素樹脂微粒子(平均粒径:44nm)のエマルションを得た。平均粒径はエマルション120mgをジメチルスルホキシド4.4gと混合し、大塚電子(株)製のLPA-3000、3100で測定した。
【0102】このエマルションの一部を取り出し、硝酸を加えて凝析し、析出物を洗浄、乾燥して白色のフッ素樹脂微粒子を得た。このものは^(19)F-NMR分析での組成比がTFE/PMVE=94.5/5.5(モル%)であった。
【0103】このフッ素樹脂粒子のメルトフローレート(MFR)は荷重5kg、372℃5分間保持の条件で0.01g/10minであり、DSCで測定した初期(1strun)溶融温度は290℃であり、融点(2ndrun)は264℃であった。
・・(中略)・・
【0108】合成例4(含フッ素エラストマー粒子のエマルションの製造)
着火源をもたない内容積3リットルのステンレススチール製オートクレーブに、純水1リットルおよび乳化剤としてC_(3)F_(7)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COONH_(4)を10g、pH調整剤としてリン酸水素二ナトリウム・12水塩0.09gを仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換し脱気したのち、600rpmで撹拌しながら、53℃に昇温し、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)の混合ガス(TFE/PMVE=25/75モル比)を、内圧が0.78MPaになるように仕込んだ。ついで、過硫酸アンモニウム(APS)の264mg/ml濃度の水溶液20mlを窒素圧で圧入して反応を開始した。
【0109】重合の進行により内圧が、0.69MPaまで降下した時点で、CF_(2)=CFOCF_(2)CF(CF_(3))OCF_(2)CF_(2)CN(CNVE)を2.2g窒素圧にて圧入した。ついで圧力が0.78MPaとなるように、TFEを4.7gおよびPMVEを5.3gそれぞれ自圧にて圧入した。以後、反応の進行にともない同様にTFEおよびPMVEを圧入し、0.69?0.78MPaの間で昇圧、降圧を繰り返すとともに、TFEとPMVEの合計量が70gになった時点でCNVEを2.2g窒素圧にて圧入した。
【0110】重合反応の開始から6時間後、TFEおよびPMVEの合計仕込み量が130gになった時点で、オートクレーブを冷却し、未反応モノマーを放出して固形分濃度11.3重量%の含フッ素エラストマー粒子のエマルション(A-2)1160gを得た。
【0111】このエマルションのうちの100gを水300gで希釈し、3.5重量%塩酸水溶液280g中に撹拌しながらゆっくりと添加した。添加後、さらに5分間撹拌し、得られた凝析物をろ別した。得られたエラストマー粒子をさらに200gのHCFC-141bにより洗浄し、ろ別した。HCFC-141bでの洗浄およびろ別を4回繰返したのち60℃で72時間真空乾燥して、11.2gの含フッ素エラストマーを得た。
【0112】この含フッ素エラストマーについて^(19)F-NMR分析により組成比を求めたところ、TFE/PMVE/CNVE=60.4/38.9/0.7(モル%)であった。
【0113】実施例1
合成例4で得られた含フッ素エラストマー粒子のエマルションと合成例1?3でそれぞれ得られたフッ素樹脂微粒子のエマルションを混合し(固形分比:含フッ素エラストマー/フッ素樹脂=85/15重量比)、攪拌している9%硝酸水溶液中に10分間かけて滴下して共凝析を行なった。得られた共凝析物を水洗し、乾燥して含フッ素エラストマーにフッ素樹脂微粒子が微分散したエラストマー組成物を得た。
【0114】ついで得られたエラストマー組成物100重量部に架橋剤として2,2-ビス-[(3-アミノ-4-フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス、ポリマー・ケミストリー編、Vol.20、2381?2393(1982)記載の方法で合成した)1.75重量部を混合し、オープンロールにより40℃にて混練りして架橋性エラストマー組成物を得た。この混練の際の後述する基準でロールへの巻付き性を観察した。結果を表4に示す。
【0115】さらに架橋性エラストマー組成物を170℃で15分間プレス架橋したのち204℃で18時間、ついで288℃で18時間オーブン架橋を行ない、架橋物を得た。この架橋物について常態物性を測定した。また、同様の架橋条件でO-リング(P-24)を製造し圧縮永久歪み(CS)を測定した。結果を表4に示す。
【0116】(ロール巻付き性)
○:ロール表面温度が室温で充分にロールに巻きつく。
△:ロール表面温度を50℃にすると巻きつく。
×:ロール表面温度を50℃にしても巻きつかない。
【0117】(常態物性)
JIS K6301に準じて常態(25℃)での100%モジュラス、引張強度、引張伸びおよび硬度(JIS A硬度)を測定する。
【0118】(圧縮永久歪み)
JIS K6301に準じて275℃、25%圧縮で70時間後の圧縮永久歪み(%)を測定する。
【0119】
【表4】


【0120】 表4に示すとおり、本発明の特定のフッ素樹脂粒子を充填剤として配合するときは、機械的物性にバランスよく優れ、しかも275℃という高温においても小さい値の圧縮永久歪みを与えることができる。」

イ.甲5に記載された発明
甲5には、上記ア.の記載事項(特に下線部)からみて、
「少量のニトリル基などの架橋性反応基を含有するモノマーが共重合されているテトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)系エラストマーである含フッ素エラストマー、含フッ素エラストマー100重量部に対し5重量部以上50重量部以下のフッ素樹脂粒子及び含フッ素エラストマー100重量部に対して0.5?10重量部のビスアミノ(チオ)フェノール系架橋剤あるいはテトラアミン系架橋剤からなる架橋性含フッ素エラストマー組成物。」
に係る発明(以下「甲5発明」という。)が記載されている。

2.取消理由aについて
以下、本件発明と上記甲1号証に係る発明(甲1発明1及び甲1発明2)とをそれぞれ対比・検討する。

(1)甲1発明1に基づく検討

ア.対比
本件発明と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「テトラフルオロエチレンと、第一のパーフルオロアルキルビニルエーテルと、少なくとも1つのシアノ基である硬化部位を有する少なくとも1つの第一の硬化部位単量体とを含む第一の硬化可能なパーフルオロポリマーであって、ここでテトラフルオロエチレンが、該第一の硬化可能なパーフルオロポリマー中に、少なくとも50モルパーセントの量で存在する、第一の硬化可能なパーフルオロポリマー」及び「テトラフルオロエチレンと、第二のパーフルオロアルキルビニルエーテルと、少なくとも1つのシアノ基である硬化部位を有する少なくとも1つの第二の硬化部位単量体とを含む第二の硬化可能なパーフルオロポリマーであって、ここで該第二の硬化可能なパーフルオロポリマー」は、いずれも「テトラフルオロエチレンと、パーフルオロアルキルビニルエーテルと、シアノ基である硬化部位を有する硬化部位単量体を含むパーフルオロポリマー」であって、その単量体構成からみて、当業者に「フッ素ゴム」の一種として周知のいわゆる「TFE-PFVE」型のものであり(必要ならば下記参考文献参照。)、実質的に「エラストマー」であるものと理解するのが自然であるから、本件発明における「テトラフルオロエチレン由来の構成単位、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)又はパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)由来の構成単位、及びニトリル基含有パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位を含有する2種・・のパーフルオロエラストマー」に相当する。
また、甲1発明1における「フッ素樹脂粒子」は、本件発明における「フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)」に相当することが明らかである。
さらに、甲1発明1における「ビスアミノフェノール・・からなる群から選ばれる芳香族アミンである少なくとも1つの硬化剤」は、本件発明における「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン」が、別名ビスアミノフェノールAFと称呼されるものであるとおり、ビスアミノフェノールである点で一致するものと認められる。
そして、甲1発明1の「硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物」が、本件発明の「パーフルオロエラストマー組成物」に相当することは明らかである。
してみると、本件発明と甲1発明1とは、
「テトラフルオロエチレン由来の構成単位、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)又はパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)由来の構成単位、及びニトリル基含有パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位を含有する2種のパーフルオロエラストマーと、
フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)と、
ビス(アミノフェノール)化合物と、
を含む、パーフルオロエラストマー組成物。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点a1:本件発明では「パーフルオロエラストマー100重量部と、フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)3重量部以上20重量部以下と」を含むのに対して、甲1発明1では「硬化可能なパーフルオロポリマー」全体に対する「フッ素樹脂粒子」の含有量につき特定されていない点
相違点a2:本件発明では「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン」であるのに対して、甲1発明1では「ビスアミノフェノール・・からなる群から選ばれる芳香族アミンである少なくとも1つの硬化剤」であり、ビスアミノフェノールに係る連結基の種別及びベンゼン環上の置換基の位置につき特定されていない点
相違点a3:本件発明では「パーフルオロエラストマー100重量部と、」「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン1.55重量部以上5重量部以下と」を含むのに対して、甲1発明1では「ビスアミノフェノール、ビスアミノチオフェノール、ビスジアミノフェニルからなる群から選ばれる芳香族アミンである少なくとも1つの硬化剤を組成物中の前記パーフルオロポリマーの100重量部当たり、0.01重量部?5重量部の量で含む」点

参考文献:宮坂啓象ら編「プラスチック事典」1997年9月20日(第2刷)、株式会社朝倉書店発行、第508?513頁(「2.14.2 フッ素ゴム」の欄)

イ.検討
事案に鑑み、まず、上記相違点a2及びa3につき併せて検討し、必要に応じて相違点a1についても引き続き検討を行う。

(ア)相違点a2及びa3について
上記相違点a2及びa3につき併せて検討すると、甲1には、硬化剤としての「ビスアミノフェノール、ビスアミノチオフェノール、ビスジアミノフェニル」化合物として、
「式(II):


(式中、R^(1)は、同じかまたは異なり、それぞれは、-NH_(2)、-NHR^(2)、-OH、または-SHであり;R^(2)は、一価の有機基である)
によって表される少なくとも2つの架橋可能な基を有する芳香族アミン」(摘示(a-5)【0027】?【0029】)及び
「上記少なくとも1つの硬化剤は、より好ましくは、式(II)(式中、R^(1)は、-NHR^(2)である)によって表される少なくとも2つの架橋可能な基を有する芳香族アミン;フッ化イミドイルアミジン;ビスアミノフェノール;およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。」(摘示(a-5)【0038】)
と具体的に例示記載されているところ、上記「R^(1)」基が、「-OH」基であって、当該「-OH」基のパラ位(4位)で2つの式(II)の部分を連結する連結基が2,2-ヘキサフルオロプロピリデン基である場合、本件発明における「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン」であることは明らかである。
しかしながら、更に甲1の記載(特に摘示(a-6)及び(a-9))を検討すると、一応、ビスアミノフェノールを単独使用する場合につき記載されているかに見えるものの、「Nph-AF」なるテトラアミン化合物又はフッ化イミドイルアミジンなどの他の硬化剤と組み合わせて使用することを主として記載されており、それら複数種の硬化剤をパーフルオロポリマー100重量部あたり合計量として0.01?5重量部使用することが記載されているのみであって、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを1.55?5重量部で使用することを具体的に開示しているものとはいえない。
また、甲1には、甲1発明1に係る実施例1において、硬化剤として「Nph-AF」なるテトラアミン化合物1重量部とともに「BOAP」なる2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを0.5重量部を併用するものがあるものの、甲1発明1に係る比較例3として「BOAP」なる2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを1.1重量部単独使用した場合が開示されていることからみても、甲1発明1において、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを1.55?5重量部の範囲で使用することを直ちに想起し得るものとはいえない。
してみると、上記相違点a2及びa3は、甲1発明1において、当業者が適宜なし得ることということはできない。

(イ)本件発明の効果について
本件発明の効果につき本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の記載(特に実施例(比較例)の記載)に基づいて検討すると、架橋剤として「BOAP」なる2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを単独使用した場合である本件発明に係る実施例1ないし4に係る結果と、本件発明に係る架橋剤種別及び使用量の事項のみを具備しない比較例2ないし4に係る結果との対比において、硬度、引張強度、破断伸び及び100%モジュラスの各点においてはほぼ維持され、圧縮永久歪の点で低減化が図られるということが看取できるから、本件発明1が、上記相違点a2及びa3に係る事項により、甲1発明1の効果に比して、格別顕著な効果を奏するものとも認められる。

ウ.小括
よって、本件発明は、上記相違点a1につき検討するまでもなく、甲1発明1、すなわち甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)甲1発明2に基づく検討

ア.対比
本件発明と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2における『「Dyneon(登録商標)PFE-133TZ」なる商品名のフッ素樹脂含有の硬化可能なパーフルオロポリマー(ポリマーA)』に含まれる「TFE、PAVE、およびシアノ含有硬化部位単量体を含む硬化可能なパーフルオロポリマー」及び「TFE、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)及びCF_(2)=CFO(CF_(2))_(5)CNである硬化部位単量体をモル量でTFE69.4/PMVE30.2/硬化部位単量体0.43の割合で含む「GA-500PR」なる商品名の硬化可能なパーフルオロポリマー(ポリマーB)」は、いずれも、テトラフルオロエチレンと、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)を含むPAVE(パーフルオロアルキルビニルエーテル)と、シアノ基(ニトリル基)含有パーフルオロアルキルビニルエーテルなどのシアノ基である硬化部位を有する硬化部位単量体を含むパーフルオロポリマー」であって、その単量体構成からみて、実質的に「エラストマー」であるものと理解するのが自然であるから、本件発明における「テトラフルオロエチレン由来の構成単位、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)・・由来の構成単位、及びニトリル基含有パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位を含有する・・パーフルオロエラストマー」に相当することが明らかであり、甲1発明2では、それら2種が併用されているのであるから、本件発明における「2種・・のパーフルオロエラストマー」に相当するとともに、甲1発明2における「シアノ機能化PFAパーフルオロ樹脂」が、本件発明における「フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)」に相当することも明らかである。
また、甲1発明2における「硬化剤としての、4,4’-[2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチリデン]ビス[N1-フェニル-1,2-ベンゼンジアミン](Nph-AF)なるテトラアミン、ビスアミノフェノール(BOAP)又はそれらの混合物」は、当該硬化剤は、上記各「パーフルオロポリマー」が有する「シアノ基」である「硬化部位」に対して反応し、各「パーフルオロポリマー」分子を架橋して硬化させる硬化剤であるとともに、本件発明における「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン」が上記「ビスアミノフェノール(BOAP)」に包含されることが当業者に自明であるから、ビスアミノフェノールである点で一致する。
さらに、甲1発明2における「硬化可能なフッ素含有エラストマー組成物」は、本件発明における「パーフルオロエラストマー組成物」に相当することも明らかである。
してみると、本件発明と甲1発明2とは、
「テトラフルオロエチレン由来の構成単位、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)又はパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)由来の構成単位、及びニトリル基含有パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位を含有する2種のパーフルオロエラストマーと、
フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)と、
ビスアミノフェノールと、
を含む、パーフルオロエラストマー組成物。」
の点で一致し、下記の点で相違する。

相違点b1:本件発明では「パーフルオロエラストマー100重量部と、フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)3重量部以上20重量部以下と」「を含む」のに対して、甲1発明2では「硬化可能なパーフルオロポリマーマトリックス内に約20%の量でシアノ機能化PFAパーフルオロ樹脂を含む・・フッ素樹脂含有の硬化可能なパーフルオロポリマー(ポリマーA)50重量部及び・・硬化可能なパーフルオロポリマー(ポリマーB)50重量部を含む」点
相違点b2:本件発明では「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン」であるのに対して、甲1発明2では「硬化剤としての、4,4’-[2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチリデン]ビス[N1-フェニル-1,2-ベンゼンジアミン](Nph-AF)なるテトラアミン、ビスアミノフェノール(BOAP)又はそれらの混合物」である点
相違点b3:本件発明では「パーフルオロエラストマー100重量部と、」「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン1.55重量部以上5重量部以下と、を含む」のに対して、甲1発明2では、「硬化剤」「を合計量で1?2.1重量部含有してなる点

イ.検討
事案に鑑み、まず、上記相違点b2及びb3につき併せて検討し、必要に応じて相違点b1についても引き続き検討を行う。

(ア)相違点b2及びb3について
上記相違点b2及びb3につき併せて検討すると、甲1には、甲1発明2に係る実施例1において、硬化剤として「Nph-AF」なるテトラアミン化合物1重量部とともに「BOAP」なる2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを0.5重量部を併用する場合及び比較例3として「BOAP」なる2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを1.1重量部単独使用した場合が記載されているのみであり、甲1発明2において、パーフルオロポリマー100重量部あたり、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを1.55?5重量部の範囲で使用することを直ちに想起し得る記載が存するものとはいえない。
また、甲1には、パーフルオロポリマー100重量部あたり、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを1.55?5重量部の範囲で使用することを当業者が想起することができる他の記載又は示唆が存するものとも認められない。
してみると、上記相違点b2及びb3は、甲1発明1において、当業者が適宜なし得ることということはできない。

(イ)本件発明の効果について
本件発明の効果につき本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の記載(特に実施例(比較例)の記載)に基づいて検討すると、架橋剤として「BOAP」なる2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを単独使用した場合である本件発明に係る実施例1ないし4に係る結果と、本件発明に係る架橋剤種別及び使用量の事項のみを具備しない比較例2ないし4に係る結果との対比において、硬度、引張強度、破断伸び及び100%モジュラスの各点においてはほぼ維持され、圧縮永久歪の点で低減化が図られるということが看取できるから、本件発明1が、上記相違点b2及びb3に係る事項により、甲1発明2の効果に比して、格別顕著な効果を奏するものとも認められる。

ウ.小括
よって、本件発明は、上記相違点b1につき検討するまでもなく、甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)本件発明に係るまとめ
以上のとおりであるから、本件発明は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)取消理由aについてのまとめ
本件訂正後の請求項3ないし7に係る発明は、いずれも、本件発明、すなわち請求項1に係る発明を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(1)ないし(3)で説示した理由と同一の理由により、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
よって、当審が通知した上記取消理由aは理由がない。

3.取消理由1について
まず、本件発明につき、甲1発明1、甲1発明2、甲2発明、甲3発明、甲4発明及び甲5発明と本件発明とをそれぞれ対比・検討し、さらに、本件訂正後の請求項3ないし7に係る発明につき検討する。

(1)甲1発明1及び甲1発明2に基づく検討

ア.対比・検討
本件発明と甲1発明1又は甲1発明2とをそれぞれ対比すると、上記2.(1)ア.で示した相違点a1ないしa3又は上記2.(2)ア.で示した相違点b1ないしb3の各点で相違し、その余でそれぞれ一致している。
そして、少なくとも当該相違点a2及びa3又は相違点b2及びb3は、いずれも実質的な相違点であることが明らかであるから、本件発明は、甲1発明1又は甲1発明2、すなわち、甲1に記載された発明であるということはできない。
イ.小括
したがって、本件発明は、甲1に記載された発明であるということはできないから、甲1に記載された発明に基づく取消理由1は理由がない。

(2)甲2発明に基づく検討

ア.対比
本件発明と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「i)テトラフルオロエチレン、過フッ化ビニルエーテルおよびニトリル基含有キュアサイトモノマーの共重合単位を含むパーフルオロエラストマー」は、本件発明における「テトラフルオロエチレン由来の構成単位、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)・・由来の構成単位、及びニトリル基含有パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位を含有する・・パーフルオロエラストマー」に相当し、甲2発明における「ii)・・フィブリル化PTFE」は、「PTFE」がフッ素樹脂であることが当業者に自明であるから、本件発明における「フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)」に相当すると共に、その使用量比についても、甲2発明における「前記パーフルオロエラストマー100重量部当たり1?20重量部」は、本件発明における「パーフルオロエラストマー100重量部と、フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)3重量部以上20重量部以下」なる範囲と大部分で重複する。
また、甲2発明における「iii)ビス(アミノフェノール)・・から選択される硬化性配合物を形成するための硬化剤」は、本件発明における「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン」が当該「ビス(アミノフェノール)」に包含される点で一致し、その使用量比についても、甲2発明における「エラストマー100部当たり0.5?5重量部混合してなる」は、本件発明における「パーフルオロエラストマー100重量部と、・・2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン1.55重量部以上5重量部以下と、を含む、」なる範囲と重複する。
そして、甲2発明における「硬化性パーフルオロエラストマー配合物」は、本件発明における「パーフルオロエラストマー組成物」に相当する。
してみると、本件発明と甲2発明とは、
「テトラフルオロエチレン由来の構成単位、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)由来の構成単位、及びニトリル基含有パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位を含有するパーフルオロエラストマー100重量部と、
フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)3重量部以上20重量部以下と、
ビス(アミノフェノール)1.55重量部以上5重量部以下と、
を含む、パーフルオロエラストマー組成物。」
で一致し、下記の点で相違する。

相違点c1:本件発明では「2種以上のパーフルオロエラストマー」を使用するのに対して、甲2発明では、2種以上のパーフルオロエラストマーを使用することにつき特定されていない点
相違点c2:本件発明では「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン」を使用するのに対して、甲2発明では、「iii)ビス(アミノフェノール)、ビス(アミノチオフェノール)及びテトラミンから選択される硬化性配合物を形成するための硬化剤」を使用する点

イ.検討
上記相違点c1につき検討すると、甲2には、パーフルオロエラストマーを2種以上併用することにつき開示されていないから、甲2に基づいて、パーフルオロエラストマーを2種以上併用することを当業者が想起することができるものと解することができない。
してみると、上記相違点c1は、実質的な相違点であるということができる。

ウ.小括
したがって、本件発明は、上記相違点c2につき検討するまでもなく、甲2発明、すなわち甲2に記載された発明であるということはできないから、甲2発明に基づく取消理由1は理由がない。

(3)甲3発明に基づく検討

ア.対比
本件発明と甲3発明とを対比すると、甲3発明における「(i)TFE、PAVE及び少なくとも1個のシアノ基を有する少なくとも1種の硬化部位含有モノマーからなるフルオロポリマー」は、本件発明における「テトラフルオロエチレン由来の構成単位、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)・・由来の構成単位、及びニトリル基含有パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位を含有する・・パーフルオロエラストマー」に相当し、甲3発明における「(ii)2,2-ビス[3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン(BOAP)などの官能性ビフェニル系化合物・・を含む硬化系」は、本件発明における「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン」を包含する点で一致する。
また、甲3発明における「PTFE粒子又は粉末」は、「PTFE」がフッ素樹脂であることが当業者に自明であるから、本件発明における「フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)」に相当し、甲3発明における「硬化性フルオロエラストマー組成物」は、本件発明における「パーフルオロエラストマー組成物」に相当する。
してみると、本件発明と甲3発明とは、
「テトラフルオロエチレン由来の構成単位、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)由来の構成単位、及びニトリル基含有パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位を含有するパーフルオロエラストマーと、
フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)と、
2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンと、
を含む、パーフルオロエラストマー組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点d1:本件発明では「2種以上のパーフルオロエラストマー」を使用するのに対して、甲3発明では2種以上のフルオロポリマーを使用することにつき特定されていない点
相違点d2:本件発明では「パーフルオロエラストマー100重量部と、フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)3重量部以上20重量部以下と、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン1.55重量部以上5重量部以下と、を含む」のに対して、甲3発明では、各成分の組成比につき特定されていない点
相違点d3:甲3発明では「式(I):(式及びその説明は省略)で示されるジオキシム化合物;式(IV):(式及びその説明は省略)で示されるモノアミジン系化合物;および/またはパーフルオロポリエーテルの少なくとも1種を含む」のに対して、本件発明では当該各成分を含むことが特定されていない点

イ.検討

(ア)相違点d1について
上記相違点d1につき検討すると、甲3には、「パーフルオロエラストマー組成物は、テトラフルオロエチレン(TFE);ヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのパーフルオロオレフィン;およびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)および類似の化合物などの直鎖または分岐鎖状のアルキル基を有し、1種以上のエーテル結合を有するパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)などの少なくとも1種の含フッ素エチレン性不飽和モノマーからなる2種以上の各種パーフルオロ共重合体を含んでいてもよい。」(摘示(c-2)【0013】)とは記載されているものの、具体的にいかなるパーフルオロ共重合体を2種以上含む場合が好適であるかを当業者が認識することができる記載又は示唆がなく、実施例に係る記載(摘示(c-5)を検討しても、いずれもパーフルオロ共重合体を1種使用した場合のみであって、当該記載に基づき、2種以上の各種パーフルオロ共重合体を併用することを当業者が想起し得るものとは認められない。
してみると、上記相違点d1は、実質的な相違点であるということができる。

ウ.小括
したがって、本件発明は、上記相違点d2及びd3につき検討するまでもなく、甲3発明、すなわち甲3に記載された発明であるということはできないから、甲3発明に基づく取消理由1については理由がない。

(4)甲4発明に基づく検討

ア.対比
本件発明と甲4発明とを対比すると、甲4発明における「テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル及び少量のニトリル基などの架橋性反応基を含有するモノマーの共重合体である含フッ素エラストマー」は、本件発明における「テトラフルオロエチレン由来の構成単位、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)・・由来の構成単位、及びニトリル基含有パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位を含有する・・パーフルオロエラストマー」に相当し、甲4発明における「ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンと式:CF_(2)=CF-O-R_(f)^(1)(R_(f)^(1)は1個以上のエーテル型酸素原子を有していてもよい直鎖状または分岐鎖状のフルオロ-もしくはパーフルオロアルキル基、またはフルオロ-もしくはパーフルオロオキシアルキル基)との共重合体、およびテトラフルオロエチレンとCF_(2)=CF-R_(f)^(1)(R_(f)^(1)は前記と同じ)との共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種であって平均粒径が20?100nmのフッ素樹脂微粒子」は、本件発明における「フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)」に相当すると共に、その使用量比についても、甲4発明における「前記パーフルオロエラストマー100重量部当たり1?20重量部」は、本件発明における「パーフルオロエラストマー100重量部と、フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)3重量部以上20重量部以下」なる範囲と大部分で重複する。
また、甲4発明における「ビスアミノ(チオ)フェノール系架橋剤あるいはテトラアミン系架橋剤」は、本件発明における「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン」が当該「ビスアミノ(チオ)フェノール」に包含される点で一致し、その使用量比についても、甲4発明における「エラストマー100重量部に対して0.5?10重量部配合した」は、本件発明における「パーフルオロエラストマー100重量部と、・・2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン1.55重量部以上5重量部以下と、を含む、」なる範囲と重複する。
そして、甲4発明における「架橋性含フッ素エラストマー組成物」は、本件発明における「パーフルオロエラストマー組成物」に相当する。
してみると、本件発明と甲4発明とは、
「テトラフルオロエチレン由来の構成単位、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)由来の構成単位、及びニトリル基含有パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位を含有するパーフルオロエラストマー100重量部と、
フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)3重量部以上20重量部以下と、
ビスアミノ(チオ)フェノール1.55重量部以上5重量部以下と、
を含む、パーフルオロエラストマー組成物。」
で一致し、下記の点で相違する。

相違点e1:本件発明では「2種以上のパーフルオロエラストマー」を使用するのに対して、甲4発明では、2種以上のパーフルオロエラストマーを使用することにつき特定されていない点
相違点e2:本件発明では「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン」を使用するのに対して、甲4発明では、「ビスアミノ(チオ)フェノール系架橋剤あるいはテトラアミン系架橋剤」を使用する点

イ.検討
上記相違点e1につき検討すると、甲4には、パーフルオロエラストマーを2種以上併用することにつき開示されていないから、甲4に基づいて、パーフルオロエラストマーを2種以上併用することを当業者が想起することができるものと解することができない。
してみると、上記相違点e1は、実質的な相違点であるということができる。

ウ.小括
したがって、本件発明は、上記相違点e2につき検討するまでもなく、甲4発明、すなわち甲4に記載された発明であるということはできないから、甲4発明に基づく取消理由1は理由がない。

(5)甲5発明に基づく検討

ア.対比
本件発明と甲5発明とを対比すると、甲5発明における「少量のニトリル基などの架橋性反応基を含有するモノマーが共重合されているテトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)系エラストマーである含フッ素エラストマー」は、本件発明における「テトラフルオロエチレン由来の構成単位、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)・・由来の構成単位、及びニトリル基含有パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位を含有する・・パーフルオロエラストマー」に相当し、甲5発明における「フッ素樹脂粒子」は、本件発明における「フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)」に相当すると共に、その使用量比についても、甲5発明における「含フッ素エラストマー100重量部に対し5重量部以上50重量部以下」は、本件発明における「パーフルオロエラストマー100重量部と、フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)3重量部以上20重量部以下」なる範囲と大部分で重複する。
また、甲5発明における「ビスアミノ(チオ)フェノール系架橋剤あるいはテトラアミン系架橋剤」は、本件発明における「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン」が当該「ビスアミノ(チオ)フェノール」に包含される点で一致し、その使用量比についても、甲5発明における「含フッ素エラストマー100重量部に対して0.5?10重量部」なる範囲は、本件発明における「パーフルオロエラストマー100重量部と、・・2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン1.55重量部以上5重量部以下と、を含む、」なる範囲と重複する。
そして、甲5発明における「架橋性含フッ素エラストマー組成物」は、本件発明における「パーフルオロエラストマー組成物」に相当する。
してみると、本件発明と甲5発明とは、
「テトラフルオロエチレン由来の構成単位、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)由来の構成単位、及びニトリル基含有パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位を含有するパーフルオロエラストマー100重量部と、
フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)5重量部以上20重量部以下と、
ビスアミノ(チオ)フェノール1.55重量部以上5重量部以下と、
を含む、パーフルオロエラストマー組成物。」
で一致し、下記の点で相違する。

相違点f1:本件発明では「2種以上のパーフルオロエラストマー」を使用するのに対して、甲5発明では、2種以上のパーフルオロエラストマーを使用することにつき特定されていない点
相違点f2:本件発明では「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン」を使用するのに対して、甲5発明では、「ビスアミノ(チオ)フェノール系架橋剤あるいはテトラアミン系架橋剤」を使用する点

イ.検討
上記相違点f1につき検討すると、甲5には、含フッ素エラストマーを2種以上併用することにつき開示されていないから、甲5に基づいて、含フッ素エラストマーを2種以上併用することを当業者が想起することができるものと解することができない。
してみると、上記相違点f1は、実質的な相違点であるということができる。

ウ.小括
したがって、本件発明は、上記相違点f2につき検討するまでもなく、甲5発明、すなわち甲5に記載された発明であるということはできないから、甲5発明に基づく取消理由1は理由がない。

(6)本件発明についてのまとめ
以上のとおり、本件発明については、甲1ないし甲5のいずれかに記載された発明であるということはできないから、本件発明について取消理由1は理由がない。

(7)取消理由1についてのまとめ
本件訂正後の請求項3ないし7に係る発明は、いずれも、本件発明、すなわち請求項1に係る発明を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(1)ないし(6)で説示した理由と同一の理由により、甲1ないし甲5のいずれかに記載された発明であるということはできない。
よって、申立人が主張し、当審も通知した上記取消理由1は理由がない。

4.取消理由2について
申立人が主張する取消理由2は、申立書第91頁第11行ないし第92頁第23行の記載から要約すると、本件訂正前の請求項1において、「架橋剤」につき、一般式(1)、一般式(2)及び一般式(3)のいずれかで表される化合物の群から選択される少なくとも1種であると規定されているところ、本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明における実施例で使用された架橋剤が、一般式(1)のビス(アミノフェノール)化合物である「BOAP」なる2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンのみであって、架橋剤として他の化合物を使用した場合に、同様の硬化後の組成物の耐熱性や機械的強度を示すことを当業者が推測することは困難であるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明について、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、請求項1を引用する請求項2ないし7についても同様であるというものと認められる。
しかしながら、本件訂正後の請求項1では、当該「架橋剤」につき、「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン1.55重量部以上5重量部以下」と限定されたことにより、上記主張は根拠を欠くものとなったものと認められるから、申立人が主張する取消理由2は、いずれも理由がない。

5.取消理由3について

(1)取消理由3の趣旨
申立人が主張する取消理由3は、申立書第92頁第25行ないし第94頁第10行及び同書第94頁第11行ないし第95頁第14行の各記載から要約すると、以下の(A)及び(B)のとおりの理由により、本件訂正前の請求項1及び同項を引用する請求項2ないし7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超える発明を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明を記載したものではないというものと認められる。
(A)本件訂正前の請求項1において、「架橋剤」につき、一般式(1)、一般式(2)及び一般式(3)のいずれかで表される化合物の群から選択される少なくとも1種であると規定されているところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明における実施例で使用された架橋剤が、一般式(1)のビス(アミノフェノール)化合物である「BOAP」なる2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンのみであって、架橋剤として他の化合物を使用した場合に、同様の硬化後の組成物の耐熱性や機械的強度を示すことを当業者が推測することは困難であるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明における実施例に係る記載に基づき、請求項1に係る広範な架橋剤にまで拡張ないし一般化できない。
(B)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(【0006】)からみて、本件発明の解決課題は「良好な耐熱性(圧縮永久歪特性)を維持しつつ、機械的強度(硬度やモジュラス)にも優れるシール材を形成できるパーフルオロエラストマー組成物、並びにこれを用いたシール材及びその製造方法」の提供にあるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明における実施例及び比較例の結果の対比において、耐熱性(圧縮永久歪特性)につき実施例の方が圧縮永久歪(残率)(%)が小さく、比較例の結果に比して劣るとし、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件請求項1に記載された構成事項を備えれば本件特許発明の上記課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は(発明の詳細な)説明が記載されていないから、本件の請求項1に係る発明の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明において開示された内容を一般化できない。

(2)検討
上記(A)の理由につき検討すると、本件訂正後の請求項1では、当該「架橋剤」につき、「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン1.55重量部以上5重量部以下」と限定されたことにより、上記主張は根拠を欠くものとなったものと認められるから、上記(A)の理由については理由がない。
上記(B)の理由につき検討すると、圧縮永久歪(%)は、(一定時間後の歪残量(復元できなかった厚さ))/(圧縮減量(圧縮による厚さの減少量))の比で表される数値(%)であり、歪残量が少ない方、すなわち圧縮永久歪(%)が小さい方が圧縮永久歪特性に優れることが当業者に自明であるから、高温状態の同一の測定条件下における上記実施例と比較例の結果の対比において、圧縮永久歪(%)が小さい実施例の場合の方が圧縮永久歪特性、すなわち耐熱性に優れるものと評価すべきものであって、申立人が主張する上記(B)の理由は、技術的根拠を欠くことが明らかであり、(B)の理由は、理由がない。

(3)小括
したがって、申立人が主張する上記(A)及び(B)の理由はいずれも理由がなく、よって、取消理由3は理由がない。

6.請求項2について
本件の請求項2に係る特許に対する本件異議の申立ては、上記第4に示した適法な訂正により同項に記載された内容が全て削除されたことによって、申立ての対象を欠く不適法なものとなり、その補正ができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。

7.当審の判断のまとめ
以上のとおり、本件訂正後の請求項1及び3ないし7に係る発明についての特許は、当審が通知した取消理由a、申立人が主張し当審が通知した取消理由1及び申立人が主張した取消理由2及び3によって、取り消すことはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、特許第6230415号の特許請求の範囲を平成31年3月13日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認めるべきものである。
また、上記訂正後の特許第6230415号の請求項1及び3ないし7に係る特許を維持すべきものである。
そして、上記訂正後の特許第6230415号の請求項2に係る特許に対する本件特許異議の申立ては却下すべきものである。
よって、上記結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン由来の構成単位、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)又はパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)由来の構成単位、及びニトリル基含有パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位を含有する2種以上のパーフルオロエラストマー100重量部と、
フッ素樹脂(ただし、パーフルオロエラストマーを除く。)3重量部以上20重量部以下と、
2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン1.55重量部以上5重量部以下と、
を含む、パーフルオロエラストマー組成物。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
無機充填剤を含まない、請求項1に記載のパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項4】
請求項1又は3に記載のパーフルオロエラストマー組成物の架橋物からなるシール材。
【請求項5】
半導体製造装置用である、請求項4に記載のシール材。
【請求項6】
請求項1又は3に記載のパーフルオロエラストマー組成物を架橋成形する工程を含む、シール材の製造方法。
【請求項7】
前記架橋成形する工程は、電離性放射線により架橋させる工程を含む、請求項6に記載の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-07-02 
出願番号 特願2013-271345(P2013-271345)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 536- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松浦 裕介  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 橋本 栄和
井上 猛
登録日 2017-10-27 
登録番号 特許第6230415号(P6230415)
権利者 株式会社バルカー
発明の名称 パーフルオロエラストマー組成物、並びにシール材及びその製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ