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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B61F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B61F
管理番号 1354913
異議申立番号 異議2018-700169  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-23 
確定日 2019-07-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6190752号発明「鉄道車両用台車枠の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6190752号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第6190752号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6190752号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成26年4月11日に出願され、平成29年8月10日にその特許権の設定登録がされ、同年8月30日に特許掲載公報が発行された。その後、平成30年2月23日に特許異議申立人田中康植(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年5月15日付けで取消理由が通知され、同年7月19日に訂正請求書及び意見書が提出され、同年8月21日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年9月25日に異議申立人より意見書が提出され、同年10月30日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年12月4日に手続補正書及び意見書が提出され、平成31年1月17日付けで取消理由通知(決定の予告)が通知され、同年3月22日に訂正請求書及び意見書が提出され、同年4月26日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされたが、その指摘期間内に異議申立人から意見書は提出されなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成31年3月22日にされた訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は、本件特許第6190752号の願書に添付した特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)は、以下のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。
なお、特許法第120条の5第7項の規定により、平成30年7月19日にされた訂正請求は取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載された
「前記端辺を含む前記長尺部材の前記一端と前記金属パイプの前記側部とを溶接により連結する溶接ステップ」

「前記長尺部材の前記一端と前記金属パイプの前記側部とを、前記長尺部材の前記第2方向外側に溶接部を形成することなく、前記本体部の前記第1方向における端辺とこれに連続する前記各突出部の端辺とにわたって溶接により連結する溶接ステップ」
に訂正する。

本件訂正請求は、一群の請求項〔1、2〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1の「溶接ステップ」を、「前記長尺部材の前記第2方向外側に溶接部を形成することなく、前記本体部の前記第1方向における端辺とこれに連続する前記各突出部の端辺とにわたって溶接により連結する」溶接ステップであることを限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
そして、願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0026】の「上板51Xの端辺L1は、突出部511Xの端辺を含む長尺部材5Xの長手方向一端であって、本体部510の第1方向における両端辺と、これに直線状に連続する突出部511Xの端辺とにわたって延びている。」、同【0029】の「長尺部材5Xの第1方向における一端と横梁パイプ4の側部40とを溶接し、端辺L1と側部40との間にビード55を形成する。」との記載、及び、願書に添付した図面の【図6】には長尺部材の第2方向外側に溶接部を形成することなく、長尺部材51と横梁パイプ4との間に溶接部を形成することが図示されていることから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1」及び「本件発明2」という。また、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
第1方向に延びる本体部と、前記本体部の前記第1方向一端側から前記第1方向と直交する第2方向に沿って前記本体部の両側より突出した一対の突出部とを有する長尺部材を用い、前記長尺部材の前記一端側における前記各突出部の端辺を、前記第2方向に延びる長尺状の金属パイプの長手方向の側部に沿って配置する配置ステップと、
前記長尺部材の前記一端と前記金属パイプの前記側部とを、前記長尺部材の前記第2方向外側に溶接部を形成することなく、前記本体部の前記第1方向における端辺と、これに連続する前記各突出部の端辺とにわたって溶接により連結する溶接ステップと、
前記本体部の前記第1方向に沿った両側部と隣接する前記各突出部の側部を仕上げる仕上げステップとを備え、
前記仕上げステップでは、前記本体部の前記両側部から前記各突出部の突出方向に向かって前記各突出部の前記第1方向における幅を漸減させることにより、前記本体部と連続し且つ仕上げ後の前記各突出部の突出方向末端を先端とする裾部を形成する、鉄道車両用台車枠の製造方法。
【請求項2】
前記仕上げステップは、
前記各突出部の一部をガウジングで仕上げる第1ステップと、
前記第1ステップ後、前記各突出部の一部をグラインダで仕上げる第2ステップとを有する、請求項1に記載の鉄道車両用台車枠の製造方法。」

第4 平成31年1月17日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由について
(1)取消理由の概要
本件訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 平成30年12月4日付けの手続補正は、同年7月19日に提出された訂正請求書の訂正事項1の内容を変更し、審理の対象を変更するものであり、当該訂正請求書の要旨を変更するものであるから、当該手続補正は認められない。

イ 上記アのとおり、当該手続補正は認められないので、訂正請求の趣旨は、平成30年7月19日に提出された訂正請求書に記載されるとおりのものである。
そして、当該訂正請求の訂正事項1による訂正は、請求項1の記載を不明確とするものである。
したがって、当該訂正請求による訂正は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすることのいずれを目的とするものにも該当せず、特許法第120条の5第2項第1号ないし第4号に掲げる事項を目的としないものである。
よって、当該訂正請求による訂正を認めない。

ウ 本件訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
〔理由1〕本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。
〔理由2〕本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件の請求項1及び2に係る特許は取り消されるべきでものある。


引用文献1:国際公開第2013/175716号
(異議申立人が提出した甲第1号証)
引用文献2:日本鉄道車輌工業会規格審査会審議,鉄道車両-作業標準
-台車部材の仕上げ方法,JRIS W 0305:2011
,平成23年3月3日制定 (同甲第2号証)

(2)引用文献の記載事項及び記載された発明
ア 引用文献1について
(ア)記載事項
本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付加した。
「[0002] 鉄道車両は、台車枠に主電動機および歯車装置が取り付けられており、主電動機の動力が歯車装置を介して軸輪に伝達され、レール上を走行する。
[0003] 図1は、従来の台車枠を示す平面図である。図2は、従来の台車枠の横ばりにおける受座の部位を拡大して示す平面図である。図1に示すように、台車枠101は、レール方向に沿って配置される左右に一対の側ばり102と、これらの側ばり102をつなぐ横ばり103とを備える。横ばり103は円筒状の鋼管で構成され、その両端のそれぞれを溶接によって側ばり102に接合されている。
[0004] 横ばり103には、その外周面に、主電動機を取り付けるための受座(以下、「主電動機用受座」ともいう)104が溶接によって接合され、さらに、歯車装置を取り付けるための受座(以下、「歯車装置用受座」ともいう)105が溶接によって接合されている(例えば、特許文献1、2参照)。
[0005] ここで、主電動機用受座104および歯車装置用受座105と横ばり103は、もともとは完全に独立した別部材である。主電動機用受座104は、鉄道車両の走行中に主電動機から動力の反力および主電動機の自重といったような高負荷を受けるので、リブ構造が多用される。歯車装置用受座105も同様である。このため、従来の台車枠101では、リブ構造の各受座104、105が円筒状の横ばり103に溶接されることから、溶接線の短い溶接部が多くなる。溶接部は溶接の始点部と終点部で溶接品質が低下する傾向にあり、短い溶接線の場合はその傾向が顕在化し易い。
[0006] また、各受座104、105と横ばり103との溶接部には、鉄道車両の走行中に、各受座104、105が受ける高負荷によって応力集中が発生し易い。とりわけ、図2に示すように、横ばり103に接合される各受座104、105の上面部および下面部の裾(図2中、太線の円で囲った部分)には、「角止端」と称される隅肉溶接の止端が存在し、この角止端に応力が集中する。このため、角止端は、グラインダーなどによって滑らかに手入れすることが不可欠である。」

(イ)記載された発明
上記(ア)の段落[0002]には鉄道車両の台車枠に係る記載があり、同[0003]、[0004]、[0006]には、横ばり、側ばり、受座を溶接によって接合することや角止端を滑らかに手入れすることの記載があることから、引用文献1には鉄道車両の台車枠の製造方法が記載されているといえる。そして、上記(ア)及び[図1]、[図2]の記載からみて、引用文献1には、特に「従来の台車枠」に対応するものとして次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「主電動機用受座104を円筒状の鋼管で構成された横ばり103の外周面に溶接によって接合され、
横ばり103に接合される主電動機用受座104の上面部および下面部の裾の角止端をグラインダーなどによって滑らかに手入れする鉄道車両の台車枠の製造方法。」

イ 引用文献2
(ア)記載事項
本件特許の出願前に頒布された引用文献2には次の事項が記載されている。
a 「3.1
G仕上げ1)
ハンドグラインダ(ディスク,マメ,ペンシル,高速など)によって,溶接ビード部分及び母材の一部を指定形状に仕上げる作業。・・・」(第1ページの「3.1」の欄)

b 「7.5 図面指示による特殊な仕上げ
主メンバに溶接取り付けする各種ブラケットは,主メンバにおける応力集中箇所になるので,過度の応力集中にならないように,溶接部の形状に注意すべき箇所には,図6の細分図a)のように部分拡大図で仕上げ形状を明示する方法がある。また,同図細分図b)のように仕上げ範囲,仕上げ形状及び仕上げ方向などの施工要領が指示される場合がある。・・・」(第3ページの「7.5」の欄)

(3)当審の判断
ア 取消理由1(特許法第29条第2項)について
(ア)本件発明1
a 対比
本件発明1と引用発明を対比する。
(a)後者の「円筒状の鋼管で構成された横ばり103」は前者の「長尺状の金属パイプ」に相当し、以下同様に、「裾」は「裾部」に、「鉄道車両の台車枠の製造方法」は「鉄道車両用台車枠の製造方法」にそれぞれ相当する。

(b)後者の「主電動機用受座104」は、当審が引用文献1の[図2]に太破線、引き出し線及び部材名を追加した下記の参考図に示す形状をなすものであり、横ばり103への溶接前の状態における図視での上下の太破線で挟まれた部分に対応する部分は本体部といえるものである。また、同溶接前の状態における上の太破線より上の部分及び下の太破線より下の部分に対応する部分は、上下の太破線で挟まれた部分に比べて、上下に相対的に突出していることから突出部といえるものである。また、図視での上下方向は第2の方向、左右方向は第1方向といえるものである。そうすると、後者の「主電動機用受座104」は、前者の「第1方向に延びる本体部と、前記本体部の前記第1方向一端側から前記第1方向と直交する第2方向に沿って前記本体部の両側より突出した一対の突出部」に相当する事項を有しているといえる。
そして、後者の「主電動機用受座104」と、前者の「長尺部材」とは、「部材」の限度で一致するといえる。
そうすると、後者の「主電動機用受座104」と、前者の「第1方向に延びる本体部と、前記本体部の前記第1方向一端側から前記第1方向と直交する第2方向に沿って前記本体部の両側より突出した一対の突出部とを有する長尺部材」とは、「第1方向に延びる本体部と、前記本体部の前記第1方向一端側から前記第1方向と直交する第2方向に沿って前記本体部の両側より突出した一対の突出部とを有する部材」の限度で一致するといえる。

〔参考図〕


(c)後者の「主電動機用受座104を円筒状の鋼管で構成された横ばり103の外周面に溶接によって接合」する前には、「主電動機用受座104」をその一端側における各突出部の端辺を、第2方向に延びる横ばり103の長手方向の側部に沿って配置する配置ステップを有していることは明らかである。
そして、後者の「主電動機用受座104」の上記配置ステップと、前者の「前記長尺部材の前記一端側における前記各突出部の端辺を、前記第2方向に延びる長尺状の金属パイプの長手方向の側部に沿って配置する配置ステップ」とは、「前記部材の前記一端側における前記各突出部の端辺を、前記第2方向に延びる長尺状の金属パイプの長手方向の側部に沿って配置する配置ステップ」の限度で一致するといえる。

(d)後者の「主電動機用受座104を円筒状の鋼管で構成された横ばり103の外周面に溶接によって接合」することと、前者の「前記長尺部材の前記一端と前記金属パイプの前記側部とを、前記長尺部材の前記第2方向外側に溶接部を形成することなく、前記本体部の前記第1方向における端辺と、これに連続する前記各突出部の端辺とにわたって溶接により連結する溶接ステップ」とは、「前記部材の前記一端と前記金属パイプの前記側部とを溶接により連結する溶接ステップ」の限度で一致するといえる。

(e)後者の「横ばり103に接合される主電動機用受座104の上面部および下面部の裾の角止端をグラインダーなどによって滑らかに手入れする」ことについて、裾の角止端をグラインダーなどによって滑らかに手入れすることは、突出部の側部を仕上げることといえ、また、全体として仕上げステップといえるものである。そして、「裾」は各突出部の突出方向末端を先端としていることも明らかである。
そうすると、後者の「主電動機用受座104との上面部および下面部の裾の角止端をグラインダーなどによって滑らかに手入れする」ことと、前者の「前記本体部の前記第1方向に沿った両側部と隣接する前記各突出部の側部を仕上げる仕上げステップとを備え、前記仕上げステップでは、前記本体部の前記両側部から前記各突出部の突出方向に向かって前記各突出部の前記第1方向における幅を漸減させることにより、前記本体部と連続し且つ仕上げ後の前記各突出部の突出方向末端を先端とする裾部を形成する」こととは、「前記本体部の前記第1方向に沿った両側部と隣接する前記各突出部の側部を仕上げる仕上げステップとを備え、前記仕上げステップでは、前記本体部と連続し且つ仕上げ後の前記各突出部の突出方向末端を先端とする裾部を形成する」ことの限度で一致するといえる。

(f)したがって、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
[一致点]
「第1方向に延びる本体部と、前記本体部の前記第1方向一端側から前記第1方向と直交する第2方向に沿って前記本体部の両側より突出した一対の突出部とを有する部材を用い、前記部材の前記一端側における前記各突出部の端辺を、前記第2方向に延びる長尺状の金属パイプの長手方向の側部に沿って配置する配置ステップと、
前記部材の前記一端と前記金属パイプの前記側部とを溶接により連結する溶接ステップと、
前記本体部の前記第1方向に沿った両側部と隣接する前記各突出部の側部を仕上げる仕上げステップとを備え、
前記仕上げステップでは、前記本体部の前記第1方向に沿った両側部と隣接する前記各突出部の側部を仕上げる仕上げステップとを備え、前記仕上げステップでは、前記本体部と連続し且つ仕上げ後の前記各突出部の突出方向末端を先端とする裾部を形成する、鉄道車両用台車枠の製造方法。」

[相違点1]
「部材」について、本件発明1が「長尺部材」であるのに対し、引用発明は「主電動機用受座104」である点。

[相違点2]
「溶接ステップ」及び「仕上げステップ」の裾部の形成について、本件発明1が「前記長尺部材の前記第2方向外側に溶接部を形成することなく、前記本体部の前記第1方向における端辺と、これに連続する前記各突出部の端辺とにわたって」溶接し、「前記本体部の前記両側部から前記各突出部の突出方向に向かって前記各突出部の前記第1方向における幅を漸減させる」のに対し、引用発明は、「主電動機用受座104」と「横ばり103」の具体的な溶接の態様の特定がなく、「横ばり103に接合される主電動機用受座104の上面部および下面部の裾の角止端をグラインダーなどによって滑らかに手入れする」ものであって、各突出部に相当する部分の幅を漸減させるものではない点。

b 判断
事案に鑑み相違点2について検討する。
本件発明1は、「本体部510Yに対する裾基部511Yの突出方向端部から横梁パイプ4の長手方向に沿ってさらに溶接を行い、ビード56と連続するように新たな溶接部(追加ビード57)を形成する(図8(c))。その後、追加ビード57を仕上げ、裾基部511Yの突出方向に向かって幅が漸減する形状の裾先端部58を形成する(図8(d))。」(本件特許明細書の段落【0004】)という従来技術が有する問題点を解決するため「長尺部材と金属パイプとの溶接部分において、裾部を効率よく形成することが可能な鉄道車両用台車枠の製造方法を提供すること」(同段落【0008】)を解決しようとする課題としているものと認める。
そして、当該課題を解決するため、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を採用しているものと認める。
ここで、引用文献2を検討すると、上記「(2)イ(ア)」より、引用文献2には、鉄道車両の台車部材の仕上げ方法として、横ばりに溶接取り付けするブラケットをハンドグラインダによって、溶接ビード部分及び母材の一部を指定形状に仕上げるG仕上げを行うことにより、ブラケットを横ばりと滑らかにつなぐという技術的事項(以下「引用文献2技術」という。)が記載されているといえる。
上記引用文献2技術の、溶接前におけるブラケットを横ばりと滑らかにつなぐ箇所の近傍に対応する部分は、突出部といえるものであり、その他の部分は本体部といえるものである。そして、G仕上げを行うことから、母材であるブラケット自体をも削るものであって、本体部の両側部から各突出部の突出方向に向かって前記各突出部の突出方向と直交する方向における幅を漸減させるものであることが明らかといえる。
しかしながら、引用文献2には、G仕上げ前の溶接によって接合された部分が、横ばりの軸方向外側に溶接部を有していないことの開示はない。
したがって、引用発明に引用文献2技術を適用したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものには至らない。また、引用発明において、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するとすることは、当業者にとって容易想到であるとする理由も見当たらない。

よって、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、引用発明及び引用文献2技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 取消理由2(特許法第36条第6項第1号)について
上記「第2」のとおり、本件訂正により、請求項1に対して「溶接ステップ」が「前記長尺部材の前記第2方向外側に溶接部を形成することなく、前記本体部の前記第1方向における端辺とこれに連続する前記各突出部の端辺とにわたって溶接により連結する」ものであることが特定されたため、本件請求項1及び2は、上記「ア(a)b」で述べた課題を解決するための手段が反映されたものとなった。
よって、本件発明1及び2は発明の詳細な説明に記載したものである。

第5 平成30年5月15日付けの取消理由通知の取消理由3について
上記取消理由3の要旨は、本件請求項1の記載は、「仕上げ後の前記各突出部の突出方向末端を先端とする裾部」がどのようなものであるか(ビードが含まれるのか否か)を当業者が理解することができないので、本件請求項1及びそれを引用する請求項2の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべきということである。
しかしながら、本件発明1及び2の「裾部」に「ビード」が含まれないことは明らかであるから、本件発明1及び2は明確でないとはいえない。
よって、本件請求項1及び2の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
異議申立人は、訂正前の請求項2に対し、甲第3号証(鋼製橋脚隅角部の3溶接線交差部におけるスカラップ構造,土木学会第60回年次学術講演会講演概要集,1-481,959-960,平成17年9月)を提出し、特許異議申立書の第10頁第16行?第11頁第8行において、請求項2に係る発明は、引用発明、引用文献2技術に加え、甲第3号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができた旨主張する。
しかしながら、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものであるところ、本件発明1の進歩性の判断については、上記「第4(3)ア」のとおりであるので、同様の理由により、本件発明2も、引用発明、引用文献2技術及び甲第3号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない
よって、結論の通り決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に延びる本体部と、前記本体部の前記第1方向一端側から前記第1方向と直交する第2方向に沿って前記本体部の両側より突出した一対の突出部とを有する長尺部材を用い、前記長尺部材の前記一端側における前記各突出部の端辺を、前記第2方向に延びる長尺状の金属パイプの長手方向の側部に沿って配置する配置ステップと、
前記長尺部材の前記一端と前記金属パイプの前記側部とを、前記長尺部材の前記第2方向外側に溶接部を形成することなく、前記本体部の前記第1方向における端辺とこれに連続する前記各突出部の端辺とにわたって溶接により連結する溶接ステップと、
前記本体部の前記第1方向に沿った両側部と隣接する前記各突出部の側部を仕上げる仕上げステップとを備え、
前記仕上げステップでは、前記本体部の前記両側部から前記各突出部の突出方向に向かって前記各突出部の前記第1方向における幅を漸減させることにより、前記本体部と連続し且つ仕上げ後の前記各突出部の突出方向末端を先端とする裾部を形成する、鉄道車両用台車枠の製造方法。
【請求項2】
前記仕上げステップは、
前記各突出部の一部をガウジングで仕上げる第1ステップと、
前記第1ステップ後、前記各突出部の一部をグラインダで仕上げる第2ステップとを有する、請求項1に記載の鉄道車両用台車枠の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-07-02 
出願番号 特願2014-82116(P2014-82116)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B61F)
P 1 651・ 537- YAA (B61F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 前原 義明  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
出口 昌哉
登録日 2017-08-10 
登録番号 特許第6190752号(P6190752)
権利者 川崎重工業株式会社
発明の名称 鉄道車両用台車枠の製造方法  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  
代理人 特許業務法人有古特許事務所  

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