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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 D21H 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 D21H 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 D21H |
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管理番号 | 1354917 |
異議申立番号 | 異議2018-700954 |
総通号数 | 238 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-10-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-11-28 |
確定日 | 2019-07-19 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6331216号発明「紙力増強剤、紙力増強剤の製造方法、紙」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6331216号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-15〕について訂正することを認める。 特許第6331216号の請求項1?6、8?14に係る特許を維持する。 特許第6331216号の請求項7、15に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6331216号(以下「本件特許」という。)の請求項1?15に係る特許についての出願は、平成26年3月6日(優先権主張平成25年3月6日)の出願であって、平成30年5月11日にその特許権の設定登録がされ(特許掲載公報発行 平成30年5月30日)、その後、その特許について、平成30年11月28日に特許異議申立人星光PMC株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成31年1月30日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成31年3月18日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、申立人より、平成31年4月23日に本件訂正請求について意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?15について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「アクリルアミド(a)及びアニオン性ビニルモノマー(c)を必須成分として含み、かつ該アニオン性ビニルモノマー(c)の比率が1?20モル%であるモノマー混合物(II)を重合する工程(B)」と記載されているのを、 「アクリルアミド(a)及びアニオン性ビニルモノマー(c)を必須成分として含み、かつαメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)の比率が0?5モル%及び該アニオン性ビニルモノマー(c)の比率が1?20モル%であるモノマー混合物(II)を重合する工程(B)」に訂正する(請求項1を引用する請求項2?6、8?14も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「該モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の一方又は双方が更に架橋性モノマー(d)を含み」と記載されているのを、 「該モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の双方が更に架橋性モノマー(d)を含み」に訂正する(請求項1を引用する請求項2?6、8?14も同様に訂正する。)。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1に「該モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の一方又は双方が更に連鎖移動性ビニルモノマー(e)を含むことを特徴とする」と記載されているのを、 「該モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の双方が更に連鎖移動性ビニルモノマー(e)を含むことを特徴とする」に訂正する(請求項1を引用する請求項2?6、8?14も同様に訂正する。)。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項1に「〔1〕その構成成分がアクリルアミド(a)、αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)、アニオン性ビニルモノマー(c)、架橋性モノマー(d)、及び連鎖移動性ビニルモノマー(e)0.2?1モル%を含む」と記載されているのを、 「〔1〕その構成成分がアクリルアミド(a)、αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)、アニオン性ビニルモノマー(c)、架橋性モノマー(d)、及び連鎖移動性ビニルモノマー(e)0.2?1モル%を含み、該アニオン性ビニルモノマー(c)がαメチル基不含有不飽和カルボン酸である」に訂正する(請求項1を引用する請求項2?6、8?14も同様に訂正する。)。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項1に「〔3〕その^(1)H-NMRスペクトルの0.9ppm?1.35ppmの範囲に該(b)成分のαメチル基に帰属する高磁場側吸収帯Aと低磁場側吸収帯Bがあり、かつ、該吸収帯Aの面積(As)と該吸収帯Bの面積(Bs)の面積比[As/(As+Bs)]が20?70%である」と記載されているのを、 「〔3〕その^(1)H-NMRスペクトルの0.9ppm?1.35ppmの範囲に該(b)成分のαメチル基に帰属する高磁場側吸収帯Aと低磁場側吸収帯Bがあり、かつ、該吸収帯Aの面積(As)と該吸収帯Bの面積(Bs)の面積比[As/(As+Bs)]が20?52.3%である」に訂正する(請求項1を引用する請求項2?6、8?14も同様に訂正する。なお、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1には、「1H-NMRスペクトル」と表記されているが「^(1)H-NMRスペクトル」の明らかな誤記である。)。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項7を削除する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項8の「前記αメチル基不含有不飽和カルボン酸がイタコン酸及びアクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項7の紙力増強剤の製造方法。」と記載されているのを、 「前記αメチル基不含有不飽和カルボン酸がイタコン酸及びアクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1の紙力増強剤の製造方法。」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項9の「前記構成成分における(c)成分の比率が1?20モル%である請求項1?8のいずれかの紙力増強剤の製造方法。」と記載されているのを、 「前記構成成分における(c)成分の比率が1?20モル%である請求項1?6又は8のいずれかの紙力増強剤の製造方法。」に訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項10の「前記(d)成分がN,N-ジメチルアクリルアミド及びメチレンビスアクリルアミドからなる群より選ばれる1種を含む請求項1?9のいずれかの紙力増強剤の製造方法。」と記載されているのを、 「前記(d)成分がN,N-ジメチルアクリルアミド及びメチレンビスアクリルアミドからなる群より選ばれる1種を含む請求項1?6又は8?9のいずれかの紙力増強剤の製造方法。」に訂正する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項11の「前記構成成分における(d)成分の比率が0.01?1モル%である請求項1?10のいずれかの紙力増強剤の製造方法。」と記載されているのを、 「前記構成成分における(d)成分の比率が0.01?1モル%である請求項1?6又は8?10のいずれかの紙力増強剤の製造方法。」に訂正する。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項13の「前記両性ポリアクリルアミドの重量平均分子量が500,000?10,000,000である請求項1?12のいずれかの紙力増強剤の製造方法。」と記載されているのを、 「前記両性ポリアクリルアミドの重量平均分子量が500,000?10,000,000である請求項1?6又は8?12のいずれかの紙力増強剤の製造方法。」に訂正する。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項15を削除する。 2.訂正の適否 (1)訂正事項1について ア.訂正事項1は、訂正前の請求項1では、モノマー混合物(II)を重合する工程(B)において、αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)が含まれるかは任意成分であったものを、「0?5モル%」含有するものと特定するものであるから、この訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正後の請求項2?6、8?14も、請求項1に係る訂正と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ.上記ア.で述べたように、訂正事項1は、モノマー混合物(II)を重合する工程(B)をより具体的に限定するもので、カテゴリーや対象、目的の変更を伴わないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 ウ.訂正事項1の「αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)の比率が0?5モル%」は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0049】の記載に基づくものであり、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。 (2)訂正事項2について ア.訂正事項2は、訂正前の請求項1では、架橋性モノマー(d)がモノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の「一方」又は「双方」に含まれるものであったものを、「双方」に含まれるもののみに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正後の請求項2?6、8?14も、請求項1に係る訂正と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ.上記ア.で述べたように、訂正事項2は、架橋性モノマー(d)が含まれるモノマー混合物を限定するもので、カテゴリーや対象、目的の変更を伴わないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 ウ.訂正事項2は、モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の「一方」又は「双方」のうち、「一方」の場合の選択肢を削除するものであるから、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。 (3)訂正事項3について ア.訂正事項3は、訂正前の請求項1では、連鎖移動性ビニルモノマー(e)がモノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の「一方」又は「双方」に含まれるものであったものを、「双方」に含まれるもののみに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正後の請求項2?15も、請求項1に係る訂正と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ.上記ア.で述べたように、訂正事項3は、連鎖移動性ビニルモノマー(e)が含まれるモノマー混合物を限定するもので、カテゴリーや対象、目的の変更を伴わないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 ウ.訂正事項3は、モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の「一方」又は「双方」のうち、「一方」の場合の選択肢を削除するものであるから、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。 (4)訂正事項4について ア.訂正事項4は、訂正前の請求項1では、アニオン性ビニルモノマー(c)が具体的に何か特定されていなかったものを、「αメチル基不含有不飽和カルボン酸」と特定するものであるから、この訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正後の請求項2?6、8?14も、請求項1に係る訂正と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ.上記ア.で述べたように、訂正事項4は、アニオン性ビニルモノマー(c)を具体的に限定するもので、カテゴリーや対象、目的の変更を伴わないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 ウ.訂正事項4の「該アニオン性ビニルモノマー(c)がαメチル基不含有不飽和カルボン酸である」は、訂正前の請求項7、本件特許明細書の段落【0027】の記載に基づくものであり、訂正事項4は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。 (5)訂正事項5について ア.訂正事項5は、面積比[As/(As+Bs)]について、訂正前の請求項1では「20?70%」であったものを、より数値範囲を限定して「20?52.3%」とするものであるから、この訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正後の請求項2?6、8?14も、請求項1に係る訂正と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ.上記ア.で述べたように、訂正事項5は、面積比[As/(As+Bs)]の数値範囲を狭めて、より限定するものであり、カテゴリーや対象、目的の変更を伴わないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 ウ.訂正事項5の「面積比[As/(As+Bs)]が20?52.3%」は、本件特許明細書の段落【0038】、段落【0084】の記載に基づくものであり、訂正事項5は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。 (6)訂正事項6、12について 訂正事項6、12は、それぞれ、請求項7、請求項15を削除する訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないこと、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであることも明らかであり、訂正事項6、12は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (7)訂正事項7?11について 訂正事項7?11は、訂正事項4により訂正前の請求項7の記載を請求項1に加入し、さらに訂正事項6により請求項7が削除されたことに伴い、請求項8?11、13が引用する請求項について、訂正前の請求項7のみを引用する請求項8については請求項1を引用するものとし、訂正前の請求項7を引用する請求項9?11及び13については、整合をとるために引用する請求項から請求項7を削除する訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないこと、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであることも明らかであり、訂正事項7?11は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (8)一群の請求項について 訂正前の請求項1?15について、訂正前の請求項2?15は、訂正前の請求項1を、直接又は間接に引用するものであって、訂正事項1?5によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。 3.訂正の適否についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-15〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.本件特許発明 上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1?6、8?14に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6、8?14に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 下記要件〔1〕?〔3〕を備える両性ポリアクリルアミドを含有する紙力増強剤の製造方法であり、 アクリルアミド(a)及びαメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)を必須成分として含み、かつ該(b)成分の比率が15?80モル%であるモノマー混合物(I)を重合する工程(A)と、 アクリルアミド(a)及びアニオン性ビニルモノマー(c)を必須成分として含み、かつαメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)の比率が0?5モル%及び該アニオン性ビニルモノマー(c)の比率が1?20モル%であるモノマー混合物(II)を重合する工程(B)とを有し、かつ、該モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の双方が更に架橋性モノマー(d)を含み、モノマー混合物(I)及びモノマー混合物(II)を構成する全モノマーの総モルに対するモノマー混合物(I)のモル比率〔(I)/((I)+(II))〕が22モル%以下であり、該モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の双方が更に連鎖移動性ビニルモノマー(e)を含むことを特徴とする、両性ポリアクリルアミドを含む紙力増強剤の製造方法。 〔1〕その構成成分がアクリルアミド(a)、αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)、アニオン性ビニルモノマー(c)、架橋性モノマー(d)、及び連鎖移動性ビニルモノマー(e)0.2?1モル%を含み、該アニオン性ビニルモノマー(c)がαメチル基不含有不飽和カルボン酸である 〔2〕該構成成分における(b)成分の比率が1?20モル%である両性ポリアクリルアミドである 〔3〕その^(1)H-NMRスペクトルの0.9ppm?1.35ppmの範囲に該(b)成分のαメチル基に帰属する高磁場側吸収帯Aと低磁場側吸収帯Bがあり、かつ、該吸収帯Aの面積(As)と該吸収帯Bの面積(Bs)の面積比[As/(As+Bs)]が20?52.3%である 【請求項2】 前記構成成分における(a)成分の比率が55?97.8モル%である請求項1の紙力増強剤の製造方法。 【請求項3】 前記(b)成分が第3級アミノ基含有メタクリレート化合物及び第4級塩構造含有メタクリレート化合物からなる群より選ばれる1種である請求項1又は2の紙力増強剤の製造方法。 【請求項4】 前記構成成分が更にαメチル基不含有カチオン性ビニルモノマー(b’)を含む請求項1?3のいずれかの紙力増強剤の製造方法。 【請求項5】 前記(b’)成分が第3級アミノ基含有アクリレート化合物及び第4級塩構造含有アクリレート化合物からなる群より選ばれる1種である請求項4の紙力増強剤の製造方法。 【請求項6】 前記構成成分における(b’)成分の比率が2?3モル%である請求項4又は5の紙力増強剤の製造方法。 【請求項8】 前記αメチル基不含有不飽和カルボン酸がイタコン酸及びアクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1の紙力増強剤の製造方法。 【請求項9】 前記構成成分における(c)成分の比率が1?20モル%である請求項1?6又は8のいずれかの紙力増強剤の製造方法。 【請求項10】 前記(d)成分がN,N-ジメチルアクリルアミド及びメチレンビスアクリルアミドからなる群より選ばれる1種を含む請求項1?6又は8?9のいずれかの紙力増強剤の製造方法。 【請求項11】 前記構成成分における(d)成分の比率が0.01?1モル%である請求項1?6又は8?10のいずれかの紙力増強剤の製造方法。 【請求項12】 前記(e)成分が(メタ)アリルスルホン酸塩である請求項1の紙力増強剤の製造方法。 【請求項13】 前記両性ポリアクリルアミドの重量平均分子量が500,000?10,000,000である請求項1?6又は8?12のいずれかの紙力増強剤の製造方法。 【請求項14】 前記モノマー混合物(I)が更にアニオン性ビニルモノマー(c)を必須成分として含む請求項1の製造方法。」 2.取消理由の概要 本件発明1?6、8?14に対して、特許権者に通知した平成31年1月30日付けの取消理由の概要は、以下のとおりである。 本件特許は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が、次の取消理由(1)?(5)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号並びに第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。 取消理由(1) 請求項1には、 「アクリルアミド(a)及びαメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)を必須成分として含み、かつ該(b)成分の比率が15?80モル%であるモノマー混合物(I)を重合する工程(A)」、 「アクリルアミド(a)及びアニオン性ビニルモノマー(c)を必須成分として含み、かつ該アニオン性ビニルモノマー(c)の比率が1?20モル%であるモノマー混合物(II)を重合する工程(B)」と記載されているが、「工程(B)」にも「αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)」を含み得る記載であり、その「αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)」の、「工程(A)」と「工程(B)」における含有比率については特定されていない。 しかし、本件特許明細書には、「例えば、前記両性ポリアクリルアミドに前記要件〔3〕を充足させるには、該両性ポリアクリルアミドを構成する全ビニルモノマーを複数のモノマー混合物に分割し、一部の混合物中の(b)成分の量を多くしてこれらの混合物を順次反応させたり、・・・することによって、重合反応に関与する(b)成分の濃度が高まるような操作を行うのがよい。」(【0041】)と記載されている。このことからすると、「工程(A)」に「αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)」が多く含有されるようにすることによって、要件〔3〕を充足させ、発明の課題を解決することができるものといえるが、「工程(A)」における「αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)」の比率のみ特定し、「工程(B)」における「αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)」の比率を特定しない、請求項1に係る発明によっては、「一部の混合物中の(b)成分の量を多くして」、ポリマー中の(b)成分を「局在化」させ、「パルプに定着しやすく、紙力増強効果にも優れ、かつ成紙の地合を乱さない新規な両性ポリアクリルアミドを含む紙力増強剤及びその製造方法を提供する」(本件特許明細書の【0007】)という課題を解決できるものと認識できない。 取消理由(2) 請求項1において、「架橋性モノマー(d)」、「連鎖移動性ビニルモノマー(e)」は、「モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の一方又は双方」に含まれるものと記載されている。 しかし、発明の詳細な説明中の実施例には、「一方」にだけ含まれる実施例は記載されておらず、そのような場合にも、上記課題を解決できるとは直ちには認識できない。 取消理由(3) 請求項1に記載された「アニオン性ビニルモノマー(c)」について、本件特許明細書の【0027】には、「(c)成分としては、分子内にアニオン性基を有するビニルモノマーであれば各種公知のものを特に制限なく使用できる。具体的には、例えばアクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸及びフマル酸等のαメチル基不含有不飽和カルボン酸;メタクリル酸及びクロトン酸のようなαメチル基乃至βメチル基含有不飽和カルボン酸;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸及び2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸系ビニルモノマーなどが挙げられる。また、該(c)成分は塩を形成していてもよく、塩を形成する種としては、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属や、トリメチルアミン及びトリブチルアミン等のアミン類、アンモニア等があげられる。これらの中でも、特に紙力増強効果及び地合抑制の観点よりアクリル酸及び/又はイタコン酸が好ましい。」と記載されているが、発明の詳細な説明中の実施例には、αメチル基不含有不飽和カルボン酸を用いたもののみが示されており、それ以外の場合は記載されておらず、そのような場合にも、上記課題を解決できるとは直ちには認識できない。 取消理由(4) 吸収帯Aの面積(As)と吸収帯Bの面積(Bs)の面積比[As/(As+Bs)]について、請求項1には、「20?70%」であると記載されている。 しかし、発明の詳細な説明中の実施例では、22.2%?52.3%の範囲についてのみ記載されており、その範囲を70%まで拡大した場合にも、上記課題を解決できるとは直ちには認識できない。 また、どのようにすれば、70%まで範囲を拡大できるのかも、本件特許明細書には記載されていない。 取消理由(5) 単一のビニルモノマー(例えば(メタ)アクリルスルホン酸塩)が、請求項1の「アニオン性ビニルモノマー(c)」と「連鎖移動性ビニルモノマー(e)」のいずれにも該当する場合が想定されるが、そのような場合において、請求項1の「アニオン性ビニルモノマー(c)の比率が1?20モル%」及び「連鎖移動性ビニルモノマー(e)0.2?1モル%」が示すものが明確ではない。 また、上記のような単一のビニルモノマーである場合に、どのようにすれば、請求項1に記載される、「アニオン性ビニルモノマー(c)」と「連鎖移動性ビニルモノマー(e)」の比率に設定できるのか、本件特許明細書に記載されていない。 3.当審の判断 当審が特許権者に通知した平成31年1月30日付けの取消理由は、以下のとおり、本件訂正により、いずれも解消した。 (1)取消理由(1)について 本件特許明細書には、「パルプに定着しやすく、紙力増強効果にも優れ、かつ成紙の地合を乱さない新規な両性ポリアクリルアミドを含む紙力増強剤及びその製造方法を提供すること」(段落【0007】。以下「本件課題」という。)を、発明の解決しようとする課題とする旨記載され、その解決のための本件発明1?6、8?14は、「アクリルアミド、カチオン性ビニルモノマー、アニオン性ビニルモノマー及び架橋性モノマーを構成成分とする両性ポリアクリルアミドであって、該カチオン性ビニルモノマーとしてαメチル基を有するものを一定量用い、かつこのものに由来するカチオン性部位が分子鎖内で高局在化しているような両性ポリアクリルアミドが前記課題を解決し得る紙力増強剤足り得ることを見出した」(段落【0009】)ことにより成されたものである。 このカチオン性部位を分子鎖内で高局在化させる具体的な手段として、本件特許明細書には、「例えば、前記両性ポリアクリルアミドに前記要件〔3〕を充足させるには、該両性ポリアクリルアミドを構成する全ビニルモノマーを複数のモノマー混合物に分割し、一部の混合物中の(b)成分の量を多くしてこれらの混合物を順次反応させたり・・・することによって、重合反応に関与する(b)成分の濃度が高まるような操作を行うのがよい。」(段落【0041】)と記載されている。 その点、本件発明1は、「アクリルアミド(a)及びαメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)を必須成分として含み、かつ該(b)成分の比率が15?80モル%であるモノマー混合物(I)を重合する工程(A)」と、「アクリルアミド(a)及びアニオン性ビニルモノマー(c)を必須成分として含み、かつαメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)の比率が0?5モル%及び該アニオン性ビニルモノマー(c)の比率が1?20モル%であるモノマー混合物(II)を重合する工程(B)」とを有するものであり、「αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)」成分が、「工程(B)」のモノマー混合物(II)中の「0?5モル%」よりも、「工程(A)」のモノマー混合物(I)中の「15?80モル%」の方が多く含有しており、一方のモノマー混合物(I)に(b)成分を多く含有させて、分子鎖内にカチオン性部位が高局在化するように重合させるものといえるから、この発明特定事項を備える本件発明1は、本件課題を解決し得ると認識できるものである。 よって、本件発明1?6、8?14は、発明の詳細な説明に記載された発明である。 (2)取消理由(2)について 本件特許明細書には、「架橋性モノマー(d)」と「連鎖移動性ビニルモノマー(e)」について、いずれもモノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の双方に含有される実施例のみ記載されているところ、本件訂正により、本件発明1は、「モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の双方が更に架橋性モノマー(d)を含」み、「モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の双方が更に連鎖移動性ビニルモノマー(e)を含む」と特定されたから、この発明特定事項を備える本件発明1?6、8?14は、発明の詳細な説明に記載された発明である。 (3)取消理由(3)について 本件特許明細書には、「アニオン性ビニルモノマー(c)」について、αメチル基不含有不飽和カルボン酸を用いた実施例のみ記載されているところ、本件訂正により、本件発明1は、「該アニオン性ビニルモノマー(c)がαメチル基不含有不飽和カルボン酸である」と特定されたから、この発明特定事項を備える本件発明1?6、8?14は、発明の詳細な説明に記載された発明である。 (4)取消理由(4)について 本件特許明細書には、吸収帯Aの面積(As)と吸収帯Bの面積(Bs)の面積比[As/(As+Bs)]について、実施例1?11のいずれも、22.2%?52.3%の範囲内であるところ、本件発明1の面積比の上限は実施例1?11で効果が確認された面積比の上限と同じである。また、本件発明1の面積比の下限についても、本件特許明細書の表8及び表9を参照すると、面積比が「22.2%」の実施例6の場合において定着率等の効果が確認されており、その「22.2%」に近接する「20%」までの範囲については、同様に効果を奏すると予測できるものである。 そうすると、「該吸収帯Aの面積(As)と該吸収帯Bの面積(Bs)の面積比[As/(As+Bs)]が20?52.3%」との事項を備える本件発明1?6、8?14は、本件課題を解決し得ると認識できるものといえる。 よって、本件発明1?6、8?14は、発明の詳細な説明に記載された発明である。 また、本件特許明細書の記載によれば、本件発明1?6、8?14を、当業者が実施することができるものである。 (5)取消理由(5)について 本件特許明細書の段落【0027】に、(c)成分として、「例えばアクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸及びフマル酸等のαメチル基不含有不飽和カルボン酸」や「ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸及び2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸系ビニルモノマー」の、分子内にアニオン性基を有するビニルモノマーが使用できると記載されているところ、本件発明1では、「アニオン性ビニルモノマー(c)」が「αメチル基不含有不飽和カルボン酸」であると特定されていることから、本件発明1の「アニオン性ビニルモノマー(c)」には、「ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸及び2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸系ビニルモノマー」が該当しない。 そのため、「連鎖移動性ビニルモノマー(e)」に、(メタ)アクリルスルホン酸塩のような「スルホン酸系ビニルモノマー」が含まれるとしても、本件発明1の「アニオン性ビニルモノマー(c)」には含まれず、ビニルモノマーの(メタ)アクリルスルホン酸塩が、「アニオン性ビニルモノマー(c)」と「連鎖移動性ビニルモノマー(e)」の双方に含まれることはないから、本件発明1の「アニオン性ビニルモノマー(c)の比率が1?20モル%」及び「連鎖移動性ビニルモノマー(e)0.2?1モル%」との記載が明確でないとはいえない。 また、本件発明1の「アニオン性ビニルモノマー(c)」には、(メタ)アクリルスルホン酸塩のような「連鎖移動性ビニルモノマー(e)」にも含まれ得るビニルモノマーは該当しないから、本件特許明細書の記載及び技術常識に基づけば、本件発明1の「アニオン性ビニルモノマー(c)」と「連鎖移動性ビニルモノマー(e)」の比率を設定することができ、本件発明1を当業者が実施することができるものといえる。 (6)申立人の意見書における主張について 申立人は、意見書(「(2-1)」)において、本件発明1の「αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)の比率が0?5モル%」との事項は、「新規事項の追加ないしは一般ないし拡張できない範囲の訂正である」旨主張する。 しかし、「αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)の比率が0?5モル%」との事項は、本件特許明細書の段落【0049】に記載されているため新規事項ではなく、また、前記3.(1)で述べたように、本件発明1は、「両性ポリアクリルアミドを構成する全ビニルモノマーを複数のモノマー混合物に分割し、一部の混合物中の(b)成分の量を多くしてこれらの混合物を順次反応させ」ることで本件課題を解決するものであるところ、モノマー混合物(I)を重合する工程(A)では(b)成分の比率が15?80モル%であるのに対し、モノマー混合物(II)を重合する工程(B)では「αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)の比率が0?5モル%」として、モノマー混合物(II)よりもモノマー混合物(I)における(b)成分の比率を大きいものとしているから、本件課題を解決し得るものといえ、サポート要件を満たさないものではない。 また、申立人は、意見書(「(2-2)」)において、「アニオン性ビニルモノマー(c)がαメチル基不含有不飽和カルボン酸である」との事項についても同様に主張するが、「アニオン性ビニルモノマー(c)」成分の比率については、本件特許明細書の段落【0028】に「本発明に係る両性ポリアクリルアミドのパルプ定着性、その紙力増強効果及び成紙の地合乱れ抑制効果を確保する観点より、通常1?20モル%程度、好ましくは1?10モル%程度、より好ましくは1?5モル%程度である。」と記載され、αメチル基不含有不飽和カルボン酸の場合には、その範囲が変わることは記載されていない。さらに、本件課題を解決するために、「アニオン性ビニルモノマー(c)」が、モノマー混合物(I)において必須成分であるとは必ずしもいえないから、本件発明1のモノマー混合物(I)において、「アニオン性ビニルモノマー(c)」が必須成分とされていないからといって、サポート要件を満たさないものとすることはできない。 よって、申立人の意見書における主張は、いずれも採用することができない。 (7)取消理由通知で採用しなかった申立理由について ア.申立人は、特許異議申立書(16頁24行?19頁12行)において、甲第1号証(特開平11-228641号公報)と甲第2号証(特開2010-196192号公報)を提出して、本件発明1?15は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨申立てている。 そこで、申立人が特許異議申立書で挙げる甲第1号証の実施例15に着目して、その実施例15から把握される発明と本件発明1とを対比すると、申立人が特許異議申立書で記載する相違点1(連鎖移動性ビニルポリマー(e)の割合が異なる点)と相違点2(甲第1号証に[3]の条件について記載がない点)のほか、甲第1号証の実施例15のものは「モノマー混合物(I)及びモノマー混合物(II)を構成する全モノマーの総モルに対するモノマー混合物(I)のモル比率〔(I)/((I)+(II))〕」に相当するものは0.27(重合体A/重合体B)であり、「22モル%以下」ではない点(以下「相違点3」という。)で相違する。 申立人は、特許異議申立書の記載によれば、相違点2については参考資料1に示す甲第1号証の実施例13のトレース実験の結果から、相違点3については甲第1号証の実施例11?13の重合体A/重合体Bの比率から、それぞれ当業者が容易に想到し得たものと主張するが、同じ甲第1号証とはいえ、実施例15とは異なる実施例11?13の一部の構成を取り出して、実施例15から把握される発明の構成に置き換える動機付けがない。 よって、申立人が特許異議申立書で挙げる甲第1号証の実施例15から把握される発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基いて、本件発明1は容易に発明することができたものとはいえない。 さらに、甲第1号証の実施例13から把握される発明に基づいても、実施例13は、本件発明1の工程(B)に相当する工程で、「αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)」に該当するDM(N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート)、「アニオン性ビニルモノマー(c)」に該当するIA(イタコン酸)をそれぞれ含まないものであるから、この甲第1号証の実施例13から把握される発明から、本件発明1を容易に発明することができたものではない。甲第1号証の他の実施例の記載からも同様である。 そして、本件発明2?6、8?14も、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基いて、容易に発明をすることができたものではない。 よって、申立人の上記申立理由は、採用することができない。 イ.また、申立人は、特許異議申立書(20頁2?8行)において、「(b)成分の比率が15?80モル%であるモノマー混合物(I)」との事項、「モノマー混合物(I)及びモノマー混合物(II)を構成する全モノマーの総モルに対するモノマー混合物(I)のモル比率〔(I)/((I)+(II))〕が22モル%以下」との事項がサポート要件を満たさない旨申立てている。 しかし、本件特許明細書の段落【0051】には「前記要件〔3〕を充足する両性ポリアクリルアミドを収率良く得るためには、モノマー混合物(I)及びモノマー混合物(II)を構成する全モノマーの総モルに対するモノマー混合物(I)のモル比率〔(I)/((I)+(II))〕を通常22モル%以下(好ましくは5?22モル%程度、より好ましくは10?15モル%程度)とし、」と、同じく段落【0043】には「アクリルアミド(a)及びαメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)を必須成分として含み、かつ該(b)成分の比率が15?80モル%(好ましくは20?70モル%、より好ましくは20?60モル%)であるモノマー混合物(I)を重合する工程(A)」と記載され、実施例においても、「全モノマーの総モルに対するモノマー混合物(I)のモル比率〔(I)/((I)+(II))〕」は7.5%?15.1%(表3)、「(b)成分の比率」は20モル%?80モル%(表6)のものが記載されているから、これらの記載を参酌すれば、当業者であれば、「(b)成分の比率が15?80モル%であるモノマー混合物(I)」との事項、及び、「モノマー混合物(I)及びモノマー混合物(II)を構成する全モノマーの総モルに対するモノマー混合物(I)のモル比率〔(I)/((I)+(II))〕が22モル%以下」との事項のいずれについても、本件発明1?6、8?14により、発明の課題を解決し得ると認識できるものといえる。 よって、申立人の上記申立理由は、採用することができない。 ウ.また、申立人は、特許異議申立書(20頁下から6行?21頁3行)において、メタクリル酸などのαメチル基を有するアニオン性ビニルモノマーが含まれる両性ポリアクリルアミドを含有する紙力増強剤においては、本件発明1で規定する[As/(As+Bs)]が真に(b)成分由来のみから算出される値であるとまではいえず、不明確である旨申立てている。 しかし、本件発明1には、 「〔3〕その^(1)H-NMRスペクトルの0.9ppm?1.35ppmの範囲に該(b)成分のαメチル基に帰属する高磁場側吸収帯Aと低磁場側吸収帯Bがあり、かつ、該吸収帯Aの面積(As)と該吸収帯Bの面積(Bs)の面積比[As/(As+Bs)]が20?52.3%である」と記載され、これは、「^(1)H-NMRスペクトル」の測定結果から求められる「面積比[As/(As+Bs)]」が、「20?52.3%」の範囲内であることを特定しているのであり、この記載自体が、申立人が主張するような、不明確な記載であるとはいえない。 よって、申立人の上記申立理由は、採用することができない。 エ.また、申立人は、特許異議申立書(21頁8?18行)において、「構成成分」という記載を含む本件発明1、2、4、6、9、11は、不明確である旨申立てている。 しかし、本件発明1の請求項1の記載からみて、「構成成分」は、両性ポリアクリルアミドを含む紙力増強剤を構成する成分を意味することは明らかである。 また、本件発明2?6、8?14においても同様である。 よって、申立人の上記申立理由は、採用することができない。 (8)むすび 以上のとおりであるから、本件発明1?6、8?14に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?6、8?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件訂正請求に係る訂正により、請求項7及び15に係る特許は削除されたため、請求項7及び15に対して申立人がした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 下記要件〔1〕?〔3〕を備える両性ポリアクリルアミドを含有する紙力増強剤の製造方法であり、 アクリルアミド(a)及びαメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)を必須成分として含み、かつ該(b)成分の比率が15?80モル%であるモノマー混合物(I)を重合する工程(A)と、 アクリルアミド(a)及びアニオン性ビニルモノマー(c)を必須成分として含み、かつαメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)の比率が0?5モル%及び該アニオン性ビニルモノマー(c)の比率が1?20モル%であるモノマー混合物(II)を重合する工程(B)とを有し、かつ、該モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の双方が更に架橋性モノマー(d)を含み、モノマー混合物(I)及びモノマー混合物(II)を構成する全モノマーの総モルに対するモノマー混合物(I)のモル比率〔(I)/((I)+(II))〕が22モル%以下であり、該モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の双方が更に連鎖移動性ビニルモノマー(e)を含むことを特徴とする、両性ポリアクリルアミドを含む紙力増強剤の製造方法。 〔1〕その構成成分がアクリルアミド(a)、αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)、アニオン性ビニルモノマー(c)、架橋性モノマー(d)、及び連鎖移動性ビニルモノマー(e)0.2?1モル%を含み、該アニオン性ビニルモノマー(c)がαメチル基不含有不飽和カルボン酸である 〔2〕該構成成分における(b)成分の比率が1?20モル%である両性ポリアクリルアミドである 〔3〕その^(1)H-NMRスペクトルの0.9ppm?1.35ppmの範囲に該(b)成分のαメチル基に帰属する高磁場側吸収帯Aと低磁場側吸収帯Bがあり、かつ、該吸収帯Aの面積(As)と該吸収帯Bの面積(Bs)の面積比[As/(As+Bs)]が20?52.3%である 【請求項2】 前記構成成分における(a)成分の比率が55?97.8モル%である請求項1の紙力増強剤の製造方法。 【請求項3】 前記(b)成分が第3級アミノ基含有メタクリレート化合物及び第4級塩構造含有メタクリレート化合物からなる群より選ばれる1種である請求項1又は2の紙力増強剤の製造方法。 【請求項4】 前記構成成分が更にαメチル基不含有カチオン性ビニルモノマー(b’)を含む請求項1?3のいずれかの紙力増強剤の製造方法。 【請求項5】 前記(b’)成分が第3級アミノ基含有アクリレート化合物及び第4級塩構造含有アクリレート化合物からなる群より選ばれる1種である請求項4の紙力増強剤の製造方法。 【請求項6】 前記構成成分における(b’)成分の比率が2?3モル%である請求項4又は5の紙力増強剤の製造方法。 【請求項7】 (削除) 【請求項8】 前記αメチル基不含有不飽和カルボン酸がイタコン酸及びアクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1の紙力増強剤の製造方法。 【請求項9】 前記構成成分における(c)成分の比率が1?20モル%である請求項1?6又は8のいずれかの紙力増強剤の製造方法。 【請求項10】 前記(d)成分がN,N-ジメチルアクリルアミド及びメチレンビスアクリルアミドからなる群より選ばれる1種を含む請求項1?6又は8?9のいずれかの紙力増強剤の製造方法。 【請求項11】 前記構成成分における(d)成分の比率が0.01?1モル%である請求項1?6又は8?10のいずれかの紙力増強剤の製造方法。 【請求項12】 前記(e)成分が(メタ)アリルスルホン酸塩である請求項1の紙力増強剤の製造方法。 【請求項13】 前記両性ポリアクリルアミドの重量平均分子量が500,000?10,000,000である請求項1?6又は8?12のいずれかの紙力増強剤の製造方法。 【請求項14】 前記モノマー混合物(I)が更にアニオン性ビニルモノマー(c)を必須成分として含む請求項1の製造方法。 【請求項15】 (削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-07-08 |
出願番号 | 特願2014-43939(P2014-43939) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(D21H)
P 1 651・ 537- YAA (D21H) P 1 651・ 536- YAA (D21H) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 増田 亮子、阿川 寛樹、河島 拓未 |
特許庁審判長 |
渡邊 豊英 |
特許庁審判官 |
佐々木 正章 井上 茂夫 |
登録日 | 2018-05-11 |
登録番号 | 特許第6331216号(P6331216) |
権利者 | 荒川化学工業株式会社 |
発明の名称 | 紙力増強剤、紙力増強剤の製造方法、紙 |
代理人 | 蔦 康宏 |