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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1354921
異議申立番号 異議2018-700742  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-12 
確定日 2019-07-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6298908号発明「機能性セラミックス体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6298908号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第6298908号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6298908号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成29年 3月14日に特許出願され、平成30年 3月 2日に特許権の設定登録がされ、同年 3月20日に特許掲載公報が発行され、その後、同年 9月12日にその特許に対し、特許異議申立人亀崎伸宏(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成31年 2月 5日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年 4月 4日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)に対して申立人から意見書が提出されなかったものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、以下の訂正事項1?2のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため当審が付与した。)。
(1) 訂正事項1
請求項1に「前記第2層は、前記第1層と反対側に向かって突出する凸部を有し、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さに対する前記凸部の幅の比は、1以上であり、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さは、80μm以下である、」とあるのを、
「前記第2層は、本体部と、前記第1層と反対側に向かって突出する凸部とを有し、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さに対する前記凸部の幅の比は、1以上であり、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さは、5μm以上80μm以下であり、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の幅は、前記第2層の幅の20%未満であり、
前記凸部は焼成の際にセッターに当接させたものであり、
前記第1層と前記第2層は、同時に金属によって構成されない、」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3?8も同様に訂正する。)。

(2) 訂正事項2
請求項2に「前記第2層は、前記第1層と反対側に向かって突出する凸部を有し、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さは、8μm以上であり、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の幅は、前記第2層の幅の20%未満である、」とあるのを、
「前記第2層は、本体部と、前記第1層と反対側に向かって突出する凸部とを有し、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さは、8μm以上であり、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の幅は、前記第2層の幅の20%未満であり、
前記凸部は焼成の際にセッターに当接させたものであり、
前記第1層と前記第2層は、同時に金属によって構成されない、」と訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3?8も同様に訂正する。)。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項について
(1) 訂正事項1について
ア 訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1に記載されていた「第2層」について、「第1層と反対側に向かって突出する凸部」以外に「本体部」を有する点で限定し、
訂正前の請求項1に記載されていた「凸部の高さ」について、「80μm以下」との上限値に加えて「5μm以上」なる下限値を付加することによって、高さの範囲を狭い範囲に限定するとともに、
「前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の幅は、前記第2層の幅の20%未満であり、前記凸部は焼成の際にセッターに当接させたものであり、前記第1層と前記第2層は、同時に金属によって構成されない」との限定を新たに付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項1のうち、「第2層」が「凸部」以外に「本体部」を有するとの訂正事項は、本件特許明細書の段落【0028】の「第2層102は、本体部102aと凸部102bとを有する。」と記載されていることに基づいており、
「凸部の高さ」が「5μm以上」であることを限定する訂正事項は、本件特許明細書の段落【0038】の「凸部102bの高さHは特に制限されないが、例えば5μm以上100μm以下とすることができる。」との記載と、段落【0181】の表1、表2においてサンプルNo.1、2、19、20において凸部の高さHが5μmと記載されていることに基づいており、
「前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の幅は、前記第2層の幅の20%未満であ」るとの訂正事項は、本件特許明細書の段落【0039】の「凸部102bの幅Wは、第2層102の幅Aの20%未満が好ましい。これにより、本体部102aの表面102Sにおいて凸部102bが占める面積が抑えられるため、本体部102aの機能性を確保することができる。」との記載と、段落【0181】の表1、表2においてサンプルNo.2、5、12、16において「幅W/幅A」が10%と記載されていること、すなわち、20%未満の数値が載されていることに基づいており、
「前記凸部は焼成の際にセッターに当接させたものであ」るとの訂正事項は、本件特許明細書の段落【0031】の「本体部102aの表面102Sに凸部102bを形成することによって、機能性セラミックス体100の成形体を焼成する際に第2層102の成形体を下向きにして凸部102bをセッターに当接させると、本体部102aをセッターから離すことができる。」との記載や、段落【0160】の「図18に示すように、電解質の成形体を下向きにして電解質の一端部と凸部をセッターに当接させた状態で焼成(1400℃、2時間)することによって、燃料極と電解質を形成した。」との記載等に基づいており、
「第1層と前記第2層は、同時に金属によって構成されない」との訂正事項は、本件特許明細書の、例えば、段落【0158】?【0160】に記載された、燃料極をNiOとY_(2)O_(3)の混合粉末を金型プレス成形することによって形成し、凸部を含む電解質層をGDC(ガドリニウムドープセリア)とYSZ(イットリア安定化ジルコニア)を含むスラリーを燃料極の成形体上に塗布し、焼成することによって形成すること等に基づいているので、上記訂正事項は、いずれも、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のもので、新規事項の追加に該当しない。

ウ 上記アのとおり、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2) 訂正事項2について
ア 訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項2に記載されていた「第2層」について、「第1層と反対側に向かって突出する凸部」以外に「本体部」を有する点で限定するとともに、「前記凸部は焼成の際にセッターに当接させたものであり、前記第1層と前記第2層は、同時に金属によって構成されない」との限定を新たに付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ また、訂正事項2は、訂正事項1と同様に、本件特許明細書の段落【0028】、【0031】、【0160】、【0158】?【0160】の記載に基づいているので、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のもので、新規事項の追加に該当しない。

ウ そして、上記アのとおり、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3) 一群の請求項について
訂正事項1による訂正によって、訂正前の請求項1を引用する請求項3?8が連動して訂正されるとともに、訂正事項2による訂正によって、訂正前の請求項2を引用する請求項3?8が連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項1?8は一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものである。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?8〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。

(4) 独立して特許を受けることができるかについて
申立人による特許異議は、訂正前の請求項1?8の全てに対して申し立てられているので、本件訂正は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件は課されない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の請求項1?8に係る発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、請求項1?8に係る発明(以下、「本件発明1?8」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
セラミックス及び/又は金属によって構成される第1層と、
前記第1層上に形成され、セラミックス及び/又は金属によって構成される第2層と、
を備え、
前記第2層は、本体部と、前記第1層と反対側に向かって突出する凸部とを有し、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さに対する前記凸部の幅の比は、1以上であり、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さは、5μm以上80μm以下であり、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の幅は、前記第2層の幅の20%未満であり、
前記凸部は焼成の際にセッターに当接させたものであり、
前記第1層と前記第2層は、同時に金属によって構成されない、
機能性セラミックス体。
【請求項2】
セラミックス及び/又は金属によって構成される第1層と、
前記第1層上に形成され、セラミックス及び/又は金属によって構成される第2層と、
を備え、
前記第2層は、本体部と、前記第1層と反対側に向かって突出する凸部とを有し、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さは、8μm以上であり、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の幅は、前記第2層の幅の20%未満であり、
前記凸部は焼成の際にセッターに当接させたものであり、
前記第1層と前記第2層は、同時に金属によって構成されない、
機能性セラミックス体。
【請求項3】
前記第2層の平面視において、前記凸部は、所定方向に沿って延びる、
請求項1又は2に記載の機能性セラミックス体。
【請求項4】
前記第2層の平面視において、前記凸部は、連続的な環状に形成されている、
請求項1又は2に記載の機能性セラミックス体。
【請求項5】
前記第2層の平面視において、前記凸部は、断続的な環状に形成されている、
請求項1又は2に記載の機能性セラミックス体。
【請求項6】
前記第2層の平面視において、前記凸部は、矩形環状である、
請求項4又は5に記載の機能性セラミックス体。
【請求項7】
前記第2層の平面視において、前記凸部は、互いに離れている複数の凸部の集合体である、
請求項1又は2に記載の機能性セラミックス体。
【請求項8】
前記第2層の平面視において、前記凸部は、前記第2層の外縁に配置されている、
請求項3乃至7のいずれかに記載の機能性セラミックス体。」

第4 特許異議申立ての概要
特許異議申立人は、証拠として、特許異議申立書に添付して下記甲第1号証?甲第10号証を提出し、以下の申立理由1?5によって、請求項1?8に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。なお、各申立ての理由について、取消理由として採用したか否かを「()」内に示している。

1 申立理由1(不採用)
本件発明1?6、8は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

2 申立理由2(不採用)
本件発明1?8は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

3 申立理由3(不採用)
本件発明2、3、4、5、6、8は、甲第2号証に記載された発明と、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

4 申立理由4(採用)
本件発明1?8は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、その特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

5 申立理由5(採用)
本件発明1?8は、特許請求の範囲の記載が明確ではなく、その特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:国際公開第2015/037217号
甲第2号証:特開2006-24371号公報
甲第3号証:特開2015-2035号公報
甲第4号証:特開2014-107041号公報
甲第5号証:特開2015-84281号公報
甲第6号証:特開2012-9232号公報
甲第7号証:特開2015-90788号公報
甲第8号証:特開2015-153709号公報
甲第9号証:特開2009-185792号公報
甲第10号証:特開2010-267515号公報

なお、甲第1号証?甲第10号証を、それぞれ、甲1?甲10ということがある。

第5 取消理由の概要
1 平成30年12月21日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)取消理由1(サポート要件。前記申立理由4を採用。)
本件特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない発明に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(発明の明確性。前記申立理由5を採用。)
本件特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明は、明確ではないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない発明に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

第6 当審の判断
1 取消理由に採用した申立理由について
1-1 サポート要件に係る取消理由1について
ア 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点から検討する。

イ まず、本件発明が解決しようとする課題について検討する。本件特許明細書には次の記載がある(なお、下線は当審が付与したものであり、「・・・」によって記載の省略を表す。以下同様。)。
「【背景技術】
【0002】
従来、セラミックスの電気的、熱的、化学的、磁気的、及び光学的特性を利用した機能性セラミックス素子が知られている(特許文献1参照)。機能性セラミックス素子としては、例えば、燃料電池、太陽電池、圧電/電歪素子、NOxセンサ、PM(Particulate Matter)センサ、PN(Particulate Number)センサ、セラミックスフィルタ、触媒担体、発光ダイオード、及び発熱体などが挙げられる。
【0003】
このような機能性セラミックス素子は、セラミックス及び/又は金属によって構成される第1層と、セラミックス及び/又は金属によって構成される第2層とが積層された積層体を内部に備えている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、機能性セラミックス素子の製造工程において、上述した積層体の成形体を焼成する際、成形体をセッターに接触させた状態で焼成すると、セッター成分が積層体の内部に拡散して、機能性セラミックス素子の性能に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
そのため、セラミックス粉末を敷き粉としてセッターの表面に敷いたり、或いは、焼成後に積層体の表面を研削したりする必要がある。
【0007】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、セッター成分の拡散が抑制された機能性セラミックス体を提供することを目的とする。」

ウ 上記イの記載によれば、本件発明が解決しようとする課題とは、「機能性セラミックス素子の性能に悪影響を及ぼすおそれのないように、焼成による積層体の内部へのセッター成分の拡散が抑制された機能性セラミックス体を提供すること」であると認められる(以下、単に「課題」という。)。

エ 次に、上記課題を解決することのできる手段について、本件特許明細書の記載に基づいて検討する。本件特許明細書には以下の記載がある。
a「【課題を解決するための手段】
【0008】
機能性セラミックス体は、セラミックス及び/又は金属によって構成される第1層と、第1層上に形成され、セラミックス及び/又は金属によって構成されるによって構成され第2層とを備える。第2層は、第1層と反対側に向かって突出する第1凸部を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、セッター成分の拡散が抑制された機能性セラミックス体を提供することができる。」

b「【0014】
機能性セラミックス体100は、第1層101と第2層102とを備える。
【0015】
1.第1層101
本体部101は、板状又は層状に形成される。第1層101は、セラミックス及び/又は金属によって構成される。第1層101がセラミックスによって構成される場合、第1層101を構成するセラミックスとしては、構造用セラミックス及び機能性セラミックスのいずれも用いることができる。第1層101を構成するセラミックスは、第1層101に与えられる機能に応じて選択することができる。第1層101を構成するセラミックスの具体例としては、例えば、酸化物系セラミックス(アルミナ、ジルコニア、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、コージライトなど)、窒化物系セラミックス(窒化アルミニウム、窒化ケイ素など)、炭化物系(炭化ケイ素など)などが挙げられるが、これに限られるものではない。」

c「【0021】
2.第2層102
第2層102は、第1層101上に形成される。第2層102は、セラミックス及び/又は金属によって構成される。第2層102は、セラミックス材料及び/又は金属材料によって構成される成形体を焼成することによって形成される。成形体は、材料粉末をプレス成形することによって、材料粉末を含むスラリー又はペーストを塗布することによって、或いは、材料粉末を含むスラリーをテープ成形することによって作製することができるが、これに限られるものではない。
・・・
【0023】
第2層102が金属によって構成される場合、第2層102を構成する金属は、第1層101を構成する金属と同種であってもよいし、異種であってもよい。第2層102を構成する金属の具体例は、上述した第1層101を構成する金属の具体例と同様である。」

d「【0028】
第2層102は、本体部102aと凸部102bとを有する。
【0029】
本体部102aは、板状又は層状に形成される。本体部102aは、第2層102のうち第2層102の機能を主に担う部分である。例えば、第2層102が、電極層として機能する場合、電流は主に本体部102a内を流れる。
【0030】
凸部102bは、第1層101と反対側に向かって本体部102aから突出する。凸部102bは、本体部102aの表面102S上に形成されている。凸部102bは、例えば、スクリーン印刷法を用いて第2層102の成形体を形成する際に、部分的に印刷回数を増やすことによって形成することができる。
【0031】
このように、本体部102aの表面102Sに凸部102bを形成することによって、機能性セラミックス体100の成形体を焼成する際に第2層102の成形体を下向きにして凸部102bをセッターに当接させると、本体部102aをセッターから離すことができる。そのため、セッターの構成成分(以下、「セッター成分」という。)が本体部102aに拡散することを抑制できる。また、セッター成分が凸部102bに拡散したとしても、凸部102bの内部にセッター成分を集約することができる。その結果、セッター成分が、本体部102aが担う機能に悪影響を及ぼすことを抑制できる。なお、セッター成分は、セッターの構成材料によるものであるが、例えば、Al元素、Y元素、Zr元素などが挙げられる。
【0032】
さらに、凸部102bをセッターに当接させて本体部102aをセッターから離すことによって、本体部102aの構成成分(以下、「第2層成分」という。)がセッターに拡散して本体部102aに組成ズレが生じることを抑制できる。」

e「【0036】
なお、凸部102bは、第2層102の表面102Sに形成される微小な凹凸(いわゆる、テクスチャー)とは異なるものである。例えば、スクリーン印刷法を用いて第2層102を形成した場合、表面102Sには1μm?3μm程度の凹凸が形成される場合があるが、凸部102bの高さHは、それら微小な凹凸よりも大きい。
【0037】
ここで、凸部102bの高さHに対する幅Wの比(W/H)は特に制限されないが、0.5以上とすることができる。凸部102bの高さHに対する幅Wの比は、1以上が好ましい。これにより、凸部102bをセッターに当接させた状態で焼成する際に、凸部102bにクラックが生じることを抑制できる。
【0038】
凸部102bの高さHは特に制限されないが、例えば5μm以上100μm以下とすることができる。凸部の高さHは、80μm以下が好ましい。これにより、凸部102bをセッターに当接させた状態で焼成する際に、凸部102bにクラックが生じることをより抑制できる。また、凸部の高さHは、8μm以上が好ましい。これにより、凸部102bをセッターに当接させた状態で焼成する際に、セッター成分が本体部102aにまで拡散することをより抑制できる。」

f「【0039】
凸部102bの幅Hは特に制限されるものではなく、第2層102の幅Aに応じて適宜設定することができる。凸部102bの幅Wは、第2層102の幅Aの20%未満が好ましい。これにより、本体部102aの表面102Sにおいて凸部102bが占める面積が抑えられるため、本体部102aの機能性を確保することができる。例えば、後述するように、第2層102が燃料電池の電解質層に相当する場合に、電解質層の酸素イオン伝導性が確保されるため、燃料電池の初期出力を向上させることがきる。」

g「【実施例】
【0156】
以下において、本発明に係る「機能性セラミックス体」の一例として「燃料電池の発電部」の実施例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0157】
(サンプルNo.1?17の作製)
以下のようにして、サンプルNo.1?17に係る燃料電池の発電部を作製した。サンプルNo.1?17の発電部は、図16及び図17に示すように、燃料極、電解質及び空気極を備える。サンプルNo.1?17では、電解質と空気極のそれぞれに凸部が設けられているが、本実施例では、電解質の凸部による効果を確認するものとする。
【0158】
まず、NiOとY_(2)O_(3)の混合粉末を金型プレス成形することによって、燃料極の成形体を形成した。
【0159】
次に、GDC(ガドリニウムドープセリア)とYSZ(イットリア安定化ジルコニア)を含むスラリーを燃料極の成形体上に塗布することによって、電解質層の本体部の成形体を形成した。続いて、同じスラリーを本体部の成形体上に短冊状に塗布することによって、凸部の成形体を形成した。この際、スラリーの塗布幅と塗布高さを調整することによって、表1に示す通り、凸部の幅Wと高さHを調整した。これにより、本体部と凸部とを有する電解質の成形体が形成された。
【0160】
次に、図18に示すように、電解質の成形体を下向きにして電解質の一端部と凸部をセッターに当接させた状態で焼成(1400℃、2時間)することによって、燃料極と電解質を形成した。
【0161】
次に、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)を含むスラリーを電解質上に塗布することによって、空気極の成形体を形成した。この際、空気極の一部が電解質の凸部に沿って盛り上がることによって、空気極にも凸部が形成された。
【0162】
次に、図19に示すように、空気極の成形体を上向きにして空気極の一端部と凸部をセッターに当接させた(当審注:「当接させない」の誤記と認められる。)状態で焼成(1000℃、1時間)することによって、空気極を形成した。空気極の成形体を上向きにしたのは、空気極から電解質へのセッター成分の拡散を抑制することによって、電解質の凸部によるセッター成分の拡散抑制効果を正確に評価するためである。
【0163】
サンプルNo.1?17において、燃料極は長さ20mm、幅20mm、厚み1mmであり、電解質は長さ20mm、幅20mm(幅A)、厚み15μmであり、空気極は長さ18mm、幅18mm、厚み50μmであった。また、電解質の凸部の長さは18mmであり、幅Wと高さHは表1に示すとおりであった。
【0164】
(サンプルNo.18の作製)
電解質に凸部を形成しなかった以外は、サンプルNo.1?17と同じ工程にてサンプルNo.18の発電部を作製した。従って、電解質は、表面の全体がセッターに接触した状態で焼成されている。」

h「【0165】
(サンプルNo.19?35の作製)
以下のようにして、サンプルNo.19?35に係る燃料電池の発電部を作製した。サンプルNo.19?35の発電部は、図20及び図21に示すように、燃料極、電解質及び空気極を備え、空気極に凸部が設けられている。
【0166】
まず、NiOとY_(2)O_(3)の混合粉末を金型プレス成形することによって、燃料極の成形体を形成した。
【0167】
次に、GDC(ガドリニウムドープセリア)とYSZ(イットリア安定化ジルコニア)を含むスラリーを燃料極の成形体上に塗布することによって、電解質層の成形体を形成した。
【0168】
次に、図22に示すように、燃料極の成形体を下向きにしてセッターに載置した状態で焼成(1400℃、2時間)することによって、燃料極と電解質を形成した。
【0169】
次に、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)を含むスラリーを電解質上に短冊状に塗布することによって、空気極の本体部の成形体を形成した。続いて、同じスラリーを本体部の成形体上に短冊状に塗布することによって、凸部の成形体を形成した。この際、スラリーの塗布幅と塗布高さを調整することによって、表2に示す通り、凸部の幅Wと高さHを調整した。これにより、本体部と凸部とを有する空気極の成形体が形成された。
【0170】
次に、図23に示すように、空気極の成形体を下向きにして空気極の凸部と電解質の一端部とをセッターに当接させた状態で焼成(1000℃、1時間)することによって、空気極を形成した。
【0171】
サンプルNo.19?35において、燃料極は長さ100mm、幅100mm、厚み1mmであり、電解質は長さ100mm、幅100mm、厚み15μmであり、空気極は長さ90mm、幅20mm(幅A)、厚み50μmであった。また、空気極の凸部の長さは90mmであり、幅Wと高さHは表2に示すとおりであった。
【0172】
(サンプルNo.36の作製)
空気極に凸部を形成しなかった以外は、サンプルNo.19?35と同じ工程にてサンプルNo.36の発電部を作製した。従って、空気極は、表面全体がセッターに接触した状態で焼成されている。」

i「【0173】
(セッターからの元素拡散)
サンプルNo.1?18について、SEMを用いたEDS法で電解質の本体部の断面を元素分析することによって、電解質の本体部におけるセッター成分(Al元素)の平均濃度を測定した。具体的には、厚み方向中央部の3視野(各視野は、10μm×10μm)の平均濃度を測定した。
【0174】
サンプルNo.19?36について、サンプルNo.1?18と同様に、SEMを用いたEDS法で空気極の本体部の断面を元素分析することによって、空気極の本体部におけるセッター成分(Al元素)の平均濃度を測定した。
【0175】
表1,2では、電解質又は空気極の本体部におけるAl元素の平均濃度が10000ppm以上のサンプルを×と評価し、平均濃度が1000ppm以上10000ppm未満のサンプルを○と評価し、平均濃度が1000ppm未満のサンプルを◎と評価した。
【0176】
(凸部におけるクラック)
サンプルNo.1?17について、電解質の凸部の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察することによって、凸部表面におけるクラックの有無を確認した。具体的には、無作為に選出した3箇所のSEM画像を取得して、長さ3μm以上のクラックの合計数を数えた。
【0177】
サンプルNo.19?35について、空気極の凸部の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察することによって、凸部表面におけるクラックの有無を確認した。具体的には、無作為に選出した3箇所のSEM画像を取得して、3μm以上のクラックの合計数を数えた。
【0178】
表1では、クラックの合計数が3個以上のサンプルを△と評価し、クラックの合計数が1個以上3個未満のサンプルを○と評価し、クラックが確認されなかったサンプルを◎と評価した。
【0179】
(発電部の出力測定)
サンプルNo.1?17およびサンプルNo.19?35について、酸化剤ガスを空気極に供給するとともに、燃料極に窒素ガスを供給しながら750℃まで昇温し、750℃に達した時点でアノードに水素ガスを供給することによって還元処理を3時間行った。続いて、酸化剤ガスの供給と水素ガスの供給を継続させながら、750℃における燃料電池の初期出力を測定した。
【0180】
表1では、初期出力が0.2W/cm^(2)以上のサンプルを○と評価し、初期出力が0.2W/cm^(2)未満のサンプルを△と評価した。」

j「【0181】
【表1】


【表2】



オ 上記aによれば、本件発明の機能性セラミック体は、セラミックス及び/又は金属によって構成される第1層と、第1層上に形成され、セラミックス及び/又は金属によって構成される第2層とを備え、第2層は、本体部と、第1層と反対側に向かって突出する凸部を有するものである。
ただし、上記機能性セラミック体において、第1層と第2層がともに金属である場合には、下記1-2の「発明の明確性に係る取消理由2について」において検討するように、機能性セラミック体と呼ぶことは不合理であるので、本件発明はそのような場合を含まないものと認められる。

カ 上記dによれば、上記凸部は、焼成の際にセッターに当接させたものであり、このため、本体部をセッターから離すことができるので、セッター成分が本体部に拡散することを抑制でき、また、凸部の内部にセッター成分が集約するので、本体部102aが担う機能に悪影響を及ぼすことを抑制できる。さらに、本体部の構成成分がセッターに拡散して本体部に組成ズレが生じることを抑制できる。

キ 上記eによれば、凸部の高さHは、テクスチャーと呼ばれる1?3μm程度の微小な凹凸よりも大きく、5μm以上、好ましくは8μm以上とすることにより、凸部をセッターに当接させた状態で焼成する際に、セッター成分が本体部にまで拡散することを抑制できる。この点について、上記jの表1、表2を参照すると、「高さH」を5μmとすることでセッターからの元素拡散評価が○となり、8μm以上とすることで評価が◎となっていることにより、確認することができる。

ク 上記fによれば、凸部の幅Wは、第2層の幅Aの20%未満とすることにより、本体部の表面において凸部が占める面積が抑えられるため、本体部の機能性を確保することができる。この点について、上記jの表1、表2を参照すると、「幅W/幅A」を10%、1%、それ以下とすることで、発電部の初期出力の評価が○となるが、20%では評価が△となっていることにより、確認することができる。

ケ 上記オ?クの検討によれば、本件発明の課題である、「機能性セラミックス素子の性能に悪影響を及ぼすおそれのないように、焼成による積層体の内部へのセッター成分の拡散が抑制された機能性セラミックス体を提供すること」を解決することのできる発明とは、次のものであると認められる。

「セラミックス及び/又は金属によって構成される第1層と、
前記第1層上に形成され、セラミックス及び/又は金属によって構成される第2層と、を備え、
前記第2層は、本体部と、第1層と反対側に向かって突出する凸部とを有し、
前記凸部は焼成の際にセッターに当接させたものであり、
前記凸部の高さ(H)は、5μm以上であり、
前記凸部の幅(W)は、前記第2層の幅(A)の20%未満であり、
前記第1層と前記第2層は同時に金属によって構成されない、
機能性セラミック体。」(以下、「当審認定発明」という。)

コ ここで、上記当審認定発明における「凸部は焼成の際にセッターに当接させたもの」との特定事項の技術的意義について付言すると、「凸部」が「焼成の際にセッターに当接させたもの」とは、「機能性セラミック体」という物の発明において、「凸部の内部にセッター成分が集約し、本体部には組成ズレが生じていない」状態であることを意味しており(上記d参照のこと。)、換言すれば、「凸部」の組成が「本体部」の組成と相違している状態であることを意味している。
当審認定発明を上記の特定事項で特定するのは、「第2層」が「凸部」を備えていたとしても、当該「凸部」が仮に「焼成の際にセッターに当接させたもの」でなければ、当該「凸部」が本体部をセッターから離すことによって、本体部の構成成分がセッターに拡散して本体部に組成ズレが生じることを抑制したものであるとはいえず、当該「凸部」の内部にセッター成分が集約することによって、セッター成分が本体部に拡散することを抑制したものであるともいえないので、焼成の際に機能性セラミックス素子の性能に悪影響を及ぼすおそれがないものであるとはいえないからである。
また、「凸部は焼成の際にセッターに当接させたもの」であるか否か、すなわち、「凸部の内部にセッター成分が集約し、本体部には組成ズレが生じていない」状態であるか否かは、本件特許明細書の段落【0173】に記載された、SEMを用いたEDS法等によって元素分析することにより判別することが可能である。

サ なお、上記当審認定発明においては、凸部のクラックの発生の防止に係る特徴である、凸部の高さHの上限値と凸部の高さHに対する幅Wの比(W/H)が特定されていない。これは、凸部におけるクラックの発生の有無が、機能性セラミックス素子の性能に悪影響を及ぼすものであるとの根拠は認められず、また、焼成による積層体の内部へのセッター成分の拡散が抑制されないものであるとの根拠も認められないため、上記凸部のクラックの発生の防止に係る特徴が、上記課題を解決するための手段であるといえないためである。なお、この点に関して、表1と表2を参照すると、クラック評価が△であるサンプルであっても、元素拡散評価と初期出力はともに良好(◎又は○)となっている。

シ そこで、本件訂正後の本件発明1と当審認定発明を対比すると、本件発明1は、当審認定発明の全ての特定事項を備えているので、本件発明の課題を解決することのできる発明であるということができる。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、発明の詳細な説明に記載したものである。
また、引用により本件発明1の全ての特定事項を備える本件発明3?8についても同様である。

ス 次に、本件訂正後の本件発明2と当審認定発明とを対比すると、本件発明2は、当審認定発明の全ての特定事項を備えているので、本件発明の課題を解決することのできる発明であるということができる。
したがって、本件発明2は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、発明の詳細な説明に記載したものである。
また、引用により本件発明2の全ての特定事項を備える本件発明3?8についても同様である。

セ 以上のとおり、本件訂正によって、本件発明1?8は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとなったため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとの取消理由1は解消された。

1-2 発明の明確性に係る取消理由2について
ア 本件訂正前の請求項1には「機能性セラミックス体」は、「セラミックス及び/又は金属によって構成される第1層と、前記第1層上に形成され、セラミックス及び/又は金属によって構成される第2層と、を備え」たものであると記載されていたところ、第1層と第2層のいずれもが金属で構成され、セラミックスを一切備えないものが含まれると解される記載があった。

イ ここで、「機能性セラミックス体」とは、本件特許明細書の段落【0013】の記載「機能性セラミックス体100は、セラミックスの電気的、熱的、化学的、磁気的、及び光学的特性のうち少なくとも1つの特性を利用した機能性セラミックス素子に利用することができる。機能性セラミックス素子としては、例えば、燃料電池、太陽電池、圧電/電歪素子、NOxセンサ、PM(Particulate Matter)センサ、PN(Particulate Number)センサ、セラミックスフィルタ、触媒担体、発光ダイオード、及び発熱体などが挙げられる。機能性セラミックス体100は、それ自体が機能性セラミックス素子として機能してもよいし、機能性セラミックス素子の一部を構成していてもよい。」によれば、燃料電池等の機能性セラミックス素子自体か、その一部を構成するもののことである。

ウ そして、段落【0015】によれば、機能性セラミックス体の第1層は、セラミックス及び/又は金属によって構成されるものであり、段落【0021】によれば、機能性セラミックス体の第2層も、セラミックス及び/又は金属によって構成されるものであり、さらに、段落【0023】の記載によれば、第2層が金属によって構成される場合、第1層を構成する金属と同種であってもよい、との記載があるので、本件発明1の「機能性セラミックス体」は、第1層と第2層がいずれも金属である場合が含まれると解される。

エ しかしながら、第1層と第2層がいずれも金属で構成される場合は、いずれの層にもセラミックスを全く含まないにもかかわらず、「機能性セラミックス体」と呼ぶことになるので、不合理である。

オ また、本件発明が解決しようとする課題は、積層体の成形体を焼成したときに、セッター成分が積層体の内部に拡散して、機能性セラミックス素子の性能に悪影響を及ぼすことを抑制することであるから、積層体、すなわち「機能性セラミックス体」は、そもそも、成形体を焼成する際に成分にずれが生じることによって性能に悪影響を及ぼすおそれがあるもののことをいうものと認められ、例えば、空気極や固体電解質層などセラミックからなる層を含む場合は構成成分のズレがその性能に大きな影響を与えるものであるといえるが、第1層と第2層がいずれも金属である場合に、セッター成分(例えば【0173】に記載されたAl元素)が当該金属に拡散したときに、何らかの悪影響があるか不明である。

カ したがって、本件訂正前の本件発明1は「機能性セラミックス体」が備える「第1層」及び「第2層」を構成する成分について不合理な記載もしくは不明瞭な記載を含むため、特許を受けようとする発明が明確ではなかった。
しかしながら、本件訂正によって、 本件発明1は「前記第1層と前記第2層は、同時に金属によって構成されない」との特定事項を備えるものとなったため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとの取消理由2は解消された。
また、本件発明2?8についても、同様の理由で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとの取消理由2は解消された。

1-3 小括
以上のとおり、取消理由通知において通知された、上記取消理由1及び取消理由2はいずれも、本件訂正によって解消された。

2 取消理由に採用しなかった申立理由について
2-1 取消理由に採用しなかった申立理由1?3を再掲すると次のとおりである。
申立理由1:本件発明1?6、8は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。
申立理由2:本件発明1?8は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。
申立理由3:本件発明2、3、4、5、6、8は、甲第2号証に記載された発明と、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

2-2 甲号証の記載事項
(1) 甲第1号証
(1-1)甲第1号証の記載事項
本件特許に係る出願の出願日前に外国において頒布された甲第1号証(国際公開第2015/037217号)には、「燃料電池および燃料電池スタック」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。

1ア 「背景技術
[0002]電解質に固体酸化物を用いた固体酸化物形燃料電池(以下,「SOFC」とも記す場合がある)が知られている。SOFCは,例えば,板状の固体電解質層の各面に燃料極と空気極とを備えた燃料電池セルを有する。正負の電極(燃料極および空気極)それぞれに,反応ガス(燃料ガス(例えば,水素)および酸化剤ガス(例えば,空気中の酸素))を供給し,固体電解質層を介して化学反応させることで,電力を発生させる(特許文献2参照)。・・・」

1イ 「発明が解決しようとする課題
[0004]ここで,反応ガス中にCr,Si,B,S等,燃料電池セルの機能を低下させる被毒物質が含まれることがある。被毒物質が電極(空気極または燃料極)に到達すると,電極での反応ガスの反応が阻害され,燃料電池セルの出力が低下する。この場合,一般に,活性炭等のフィルタを反応ガスの上流に設け,反応ガス中の被毒物質をトラップ(吸着)し,電極への到達を防止できる。
しかしながら,SOFCの内部(例えば,封止材や配管)で被毒物質が飛散し,反応ガスに混入する場合がある。この場合,SOFCの内部で飛散する被毒物質を効果的にトラップ(除去)することは困難である。特に,燃料電池セルとセパレータとを接合する箇所は燃料電池セルの近傍であるため,この箇所から飛散する被毒物質を効果的に除去するのは困難である。
本発明は,被毒物質による性能の低下が抑制された燃料電池を提供することを目的とする。」

1ウ 「[0006] 反応ガスが,第1電極部の特性を低下する被毒物質(Cr,Si,B,S等)を含む可能性がある。第1電極部が内周部より高さが高い外周部を有することで,外周部で被毒物質がトラップされ,内周部での被毒が抑制される。この結果,第1電極部の特性の低下が抑制され,長期間に亘って,燃料電池の特性を確保可能となる。
・・・
[0008] 燃料電池セルとセパレータとを封止するために,ガラス(非晶質ガラス,結晶化ガラスなど)を含む封止部が,燃料電池セルとセパレータの接合部分の界面に配置される。このガラスが,Si,B等の被毒物質を含み,この被毒物質が第1電極部の特性を低下する可能性がある。この場合でも,第1電極部が内周部より高さが高い外周部を有することで,外周部で被毒物質がトラップされ,内周部での被毒が抑制される。」

1エ 「[0027] 図3は,燃料電池セル40の分解断面図である。図4は,燃料電池セル40の一部拡大断面図である。図5は,セパレータ付燃料電池セル50の上面図である。図3に示すように,燃料電池セル40は,金属製セパレータ53と燃料電池セル本体44を有し,インターコネクタ41,45,集電部42a,42b,枠部43を備える。
[0028] 燃料電池セル本体(狭義の燃料電池セル)44は,固体電解質層56を空気極(カソード,空気極層ともいう)55,および,燃料極(アノード,燃料極層ともいう)57で挟んで構成される。・・・
[0030]空気極55としては,ペロブスカイト系酸化物(例えば,LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物),LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)),各種貴金属及び貴金属とセラミックとのサーメットが使用できる。
[0031] 固体電解質層56としては,YSZ(イットリア安定化ジルコニア),ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア),SDC(サマリウムドープセリア),GDC(ガドリニウムドープセリア),ペロブスカイト系酸化物等の材料が使用できる。」

1オ 「[0048] 本実施形態では,空気極55が内周部551,外周部552を有する。内周部551は,略矩形形状であり,空気極55の内周側に配置され,集電部42aと接続(接触)される。外周部552は,略矩形形状であり,空気極55の外周側(内周部551の外周)に配置され,集電部42aと接触しない。
[0049] 酸化剤ガスは,貫通孔33aから酸化剤ガス流路47に流入し,空気極55上を通過して,貫通孔33bへと流出する。
このとき,外周部552自体の高さ(固体電解質層56の主面からの高さ)H2は,内周部551の高さH1より大きい(H2>H1)。このため,空気極55の外周から内周に向かう反応ガス(酸化剤ガス)に含まれる被毒物質が外周部552にトラップされ,内周部551での被毒が抑制される。この結果,空気極55の特性の低下が抑制され,長期間に亘って,燃料電池セル本体44の特性を確保可能となる。
また,封止部62に含まれる被毒物質が飛散し,反応ガス(ここでは,酸化剤ガス)に混入した場合でも,この被毒物質が外周部552にトラップされ易く,内周部551での被毒が抑制される。
[0050] このとき,内周部551に対する外周部552の高さΔH(=H2-H1)は,10μm以上,200μm以下であることが好ましい。外周部552の高さΔHを10μm以上とすることで,内周部551の被毒を抑制できる。外周部552の高さΔHを200μm以下とすることで,反応ガスの流れの劣化による燃料電池10の出力特性の低下を抑制できる。
[0051] 外周部552の幅Dは,0.5mm以上,3mm以下であることが好ましい。外周部552の幅Dを0.5mm以上とすることで,内周部551の被毒を抑制できる。外周部552の幅Dを3mm以下とすることで,発電に寄与する内周部の面積を確保できる。
[0052] ここでは,空気極55の全周に外周部552が配置されている。内周部551の全周いずれの方向からの被毒を抑制できる。これに対して,少なくとも空気極55に供給される反応ガス(酸化剤ガス)の流入側に外周部552が配置されても良いし,空気極55のうち,空気極55に供給される反応ガス(酸化剤ガス)の流入側のみに外周部552が配置されても良い。例えば,貫通孔33b側に,外周部552を空気極55の半周程度(例えば,40?70%)を配置しても良い。」

1カ 「[0055] (燃料電池セル本体44の製造方法)
内周部551,内周部551を有する空気極55(燃料電池セル本体44)は次のようにして製造できる。燃料極57のグリーンシートの一方の表面に,固体電解質層56のシートを貼り付けて,積層体を形成し,該積層体を一旦焼成する。その後,空気極55の材料を印刷し,焼成して燃料電池セル本体44を作成する。このとき,空気極55の材料として,粘性の高い液状の材料を使用する。粘性の高い材料を印刷することで,印刷された領域の外周の近傍が厚くなり,外周部552を形成できる。
[0056] 他の手法として,外周部552での印刷の回数(層数)を内周部551より多くしても良い。例えば,内周部551と外周部552の双方を含む領域に印刷し,外周部552のみを含む領域に重ねて印刷する。このようにすることで,外周部552の印刷の回数を内周部551より多くして,外周部552を内周部551より高くすることができる。」

1キ 「



1ク 「



1ケ 「



(1-2)甲第1号証に記載された発明
ア 上記1エによれば、燃料電池セル本体44は、固体電解質層56を、空気極55および燃料極57で挟んで構成されるものであり、固体電解質層56は、YSZ、ScSZ、SDC、GDC、ペロブスカイト系酸化物から構成され、空気極55は、LSCF、LSM等のペロブスカイト系酸化物、各種貴金属及び貴金属とセラミックとのサーメットから構成される。ここで、空気極55は、固体電解質層56の上に積層して形成されているといえる。

イ 上記1クの図4と1ケの図5によれば、上記1イの記載を参照すると、空気極55には、内周部551の外周に外周部552が配置されており、外周部552の高さH2は、内周部の高さH1よりもΔHだけ高くなっており、外周部552のうち当該ΔHだけ高い部分を凸部というものとすると、当該凸部は、固体電解質層(56)と反対側に向かって突出していることが見て取れる。

ウ 上記1オによれば、内周部551に対する外周部552の高さΔH=H2-H1を10μm以上とすることで、内周部551の被毒を抑制でき、同高さΔHを200μm以下とすることで、燃料電池10の出力特性の低下を抑制できるので好ましく、外周部552の幅Dを0.5mm以上とすることで、内周部551の被毒を抑制でき、同幅Dを3mm以下とすることで、発電に寄与する内周部の面積を確保できるので好ましい。

エ 上記ウの検討によれば、凸部の高さΔHに対する幅Dの比は、
(500?3000μm)/(10?200μm)=2.5?300
と算出できる。

オ 以上、上記1ア?1ケの記載と、上記ア?エの検討事項に基づいて、空気極55と固体電解質層56が積層して形成された燃料電池セル本体44に注目して、本件訂正後の請求項1の記載に則して整理すると、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる(以下、「甲1発明」という。)。

「 YSZ、ScSZ、SDC、GDC、又はペロブスカイト系酸化物から構成される固体電解質層56と、
前記固体電解質層56の上に形成され、LSCF、LSM等のペロブスカイト系酸化物、又は、各種貴金属及び貴金属とセラミックとのサーメットから構成される空気極55と、を備え、
前記空気極55は、内周部551と、前記固体電解質層56と反対側に向かって突出している凸部を有し、
上記凸部の高さΔHは、10μm以上であり、200μm以下であり、
上記凸部の幅Dは0.5mm以上であり、3mm以下であり、
上記凸部の高さΔHに対する幅Dの比は、2.5?300である、
燃料電池セル本体44。」

(2)甲第2号証
(2-1)甲第2号証の記載事項
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内において頒布された甲第2号証(特開2006-24371号公報)には、「平板型固体酸化物形燃料電池およびその作製方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
2ア 「【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:以下適宜SOFCと略称する)の単電池すなわちセルは、固体酸化物電解質を挟んで燃料極および空気極が配置され、燃料極/電解質/空気極の三層ユニットで構成される。本明細書中、固体酸化物電解質を適宜「電解質」または「電解質膜」とも言う。また、空気極は、酸化剤ガスとして酸素が用いられる場合は酸素極であるが、本明細書においては、酸化剤ガスとして酸素または酸素富化空気が用いられる場合を含めて空気極という。
・・・
【0007】
図2?3はその構成例を示す図で、セル1を二個、その間にインターコネクタ5を一個、上方セルの上面および下方セルの下面にそれぞれ枠体6(この枠体も一種のインターコネクタである)を備えてスタックを構成した場合を示している。インターコネクタ5には、セルに空気および燃料を供給するための複数個の溝状のガス流路が形成されている。これら部材は、図2に示すように荷重をかけることで積層される。」

2イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、支持膜式SOFCのセルを模式的に示せば前述図1のように平面になる。しかし、セルは、その作製に際して焼成工程を必須とし、燃料極や電解質など、熱膨張率の異なる複数のセラミックス材料を重ね合わせて焼結することから、セラミックス材料間の熱膨張率の差が原因で、完全な平面ないしスタック化するに際して許容できる範囲の平面にはなり難く、反りや歪みが生じる。図4はその状態を示す図で、図4(a)は断面図、図4(b)は空気極側すなわち表面から見た斜視図、図4(c)は燃料極側すなわち裏面から見た斜視図である。
【0009】
まず、セルの燃料極2側すなわちその裏面は、図4(a)、図4(c)に示すように、中央部が凹み(窪み)、周縁部に向けて漸次湾曲して反りないし歪みが生じる。そして、図4(b)?(c)中、Yとして示す四隅の部位が最も反りが大きい。すると、支持膜式SOFCのセルをスタック化した際に、その反りないし歪みにより、接触抵抗や分極抵抗が増大し、電気的接触にむらが生じて接触抵抗が増大し、発電性能を低下させてしまう。
【0010】
一方、セルの空気極4側すなわちその表面は、図4(a)、図4(b)に示すように、中央部が膨らみ、周縁部に向けて漸次湾曲して反りないし歪みが生じる。このセルをインターコネクタを介してスタック化する際には、その空気極4面にインターコネクタを当接させるが、その反りないし歪みにより、空気極4面とインターコネクタ間の接触が阻害され、電気的接触にむらが生じて接触抵抗を増大させ、発電性能を低下させてしまう。」

2ウ 「【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、平板型固体酸化物形燃料電池のセルにおいて、(1)最も反りが大きい部位であるセル基板の四隅に曲面Rをつけることにより、セルの全体的な反りを軽減することができる、(2)複雑な応力がかかる四隅に曲面Rをつけることにより、より均一なセルとすることができる、(3)、(1)および(2)により電極反応での接触抵抗および分極抵抗を低減できる、(4)発電に寄与しない基板の四隅をカットするので、有効電極面積は変わらないので、出力密度すなわち発電性能は向上する、(5)高い電圧を得るため複数個のセルをインターコネクタを介して荷重をかけて積層する際、セルの割れを無くし、それに起因する発電性能の低下を防ぐことができる、など各種有用な効果を達成することができる。」

2エ 「【0025】
セルにおける電解質の構成材料としては、イオン導電性を有する固体電解質であればよく、例えば下記(1)?(4)の材料が挙げられるが、これらに限定されない。
(1) イットリア安定化ジルコニア〔YSZ:(Y_(2)O_(3))_(X)(ZrO_(2))_(1-X)(式中、x=0.05?0.15〕
(2) スカンジア安定化ジルコニア〔(Sc_(2)O_(3))_(X)(ZrO_(2))_(1-X)(式中、x=0.05?0.15)〕
(3) イットリアドープセリア〔(Y_(2)O_(3))_(X)(CeO_(2))_(1-X)(式中、x=0.02?0.4)〕
(4) ガドリアドープセリア〔(Gd_(2)O_(3))_(X)(CeO_(2))_(1-X)(式中、x=0.02?0.4)〕
【0026】
セルの燃料極の構成材料としては、例えばNiを主成分とする材料、NiとYSZ〔(Y_(2)O_(3))_(X)(ZrO_(2))_(1-X)(式中、x=0.05?0.15)〕との混合物からなる材料などが用いられるが、これらに限定されない。空気極の構成材料としては、例えばSrドープのLaMnO_(3)やLa、Sr、CoおよびFeを含む複合酸化物(LSCF)などが用いられるが、これらに限定されない。SOFCスタックを構成する際のインターコネクタの構成材料としてはステンレス鋼等の耐熱性合金が用いられる。」

2オ 「【0028】
以下、実施例を基に本発明をさらに詳しく説明するが、本発明が実施例に限定されないことはもちろんである。常法に従い図4に示すようなセルを作製し、その四隅を曲面に研削して図6に示すようなセルを作製し、性能試験を実施した。
【0029】
図9はそのセルの作製工程を示す図である。図9中、燃料極(アノード)、電解質および空気極(カソード)の構成原料を併記している。図9のとおり、原料粉を混合した後、造粒し、次いでプレス成形等によりグリーン基板を作製した。グラファイト粉末は成形を容易にするとともに、焼結時に多孔質とするための補助材である。次いで、グリーン基板上に、電解質の水性スラリーをスクリーン印刷により塗布することで電解質膜を形成した後、両者を共焼結した。
【0030】
次いで、共焼結体のうち、電解質膜面上に空気極材料〔LSCF:(La_(0.6)Sr_(0.4))Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)〕をスクリーン印刷により塗布した後、焼成して、燃料極/電解質/空気極の三層ユニットからなるSOFCセルを複数個作製した。こうして得られたSOFCセルを図9中に(a)として示している。図9(a)には併せて燃料極のおおよその寸法を示している。なお、電解質の面積は約144cm^(2)(≒120mm×120mm)、空気極の面積は約100cm^(2)(≒100mm×100mm)である。
【0031】
次いで、複数個のSOFCセルのうちの一部のSOFCセルについて、本発明を適用してセル基板すなわち燃料極(アノード)の四隅を研削機で研削し、本発明を適用した平板型SOFCセルを作製した。こうして得られたSOFCセルを図9中に(b)として示している。図9(b)のとおり、セル基板すなわち燃料極(アノード)の四隅に曲面Rを形成した。」

2カ 「



2キ 「



2ク 「



(2-2)甲第2号証に記載された発明
ア 上記2アによれば、固体酸化物形燃料電池(SOFC)のセルは、固体酸化物電解質を挟んで燃料極および空気極が配置され、燃料極/電解質/空気極の三層ユニットで構成される。

イ 上記2エによれば、セルの電解質は、例えば、イットリア安定化ジルコニア、スカンジア安定化ジルコニア、イットリアドープセリア、ガドリアドープセリアから構成でき、空気極は、例えば、SrドープのLaMnO_(3)やLa、Sr、CoおよびFeを含む複合酸化物(LSCF)から構成できる。

ウ 上記2オによれば、図9の実施例の製作工程で製造されるSOFCセルは、グリーン基板上に電解質のスラリーを塗布し共焼成した共焼成体に、空気極材料としてLSCFを塗布、焼成して、燃料極/電解質/空気極の三層ユニットとして製造されたものである。上記SOFCセルにおいて、上記電解質の面積は約144cm^(2)(≒120mm×120mm)、上記空気極の面積は約100cm^(2)(≒100mm×100mm)である。また、上記SOFCセルの電解質の材料は明記されていないが、上記イの検討から、イットリア安定化ジルコニア等のセラミックであると認められる。

エ 以上、上記2ア?2キの記載と、上記ア?ウの検討事項に基づいて、上記実施例のSOFCセルに注目して、本件特許の請求項1の記載に則して整理すると、甲第2号証には、次の発明が記載されているものと認められる(以下、「甲2発明」という。)。

「 イットリア安定化ジルコニア等のセラミックから構成される電解質と、
前記電解質の上に形成され、LSCFから構成される空気極とを備え、
空気極の面積は、100mm×100mm≒約100cm^(2)である、
固体酸化物形燃料電池(SOFC)セル。」

(3)甲第3号証
(3-1)甲第3号証の記載事項
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内において頒布された甲第3号証(特開2015-2035号公報)には、「固体酸化物形燃料電池セルの作製方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
3ア 「【0005】
通常、セルを焼成する際は、セルの下にセッター(棚板、敷板、焼成板とも呼ばれる)を設置することが一般的であり、セラミックス焼成用のセッターにはAl_(2)O_(3)が広く用いられている。また、空気極焼成時にも、セルの上にセッターを載せて焼成することで、セルの反りを抑制することが行われている。」

3イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したようにAl_(2)O_(3)製のセッターを空気極の上に載せて空気極を焼成した場合、Al_(2)O_(3)が空気極表面の金属酸化物と反応してしまい、空気極表面の金属酸化物とAl_(2)O_(3)とが相互拡散を起こし、電気抵抗の高い層が空気極表面に形成され、このような空気極の組成変化によってセル性能が低下してしまうという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、セルの反りの抑制と空気極表面の電気伝導度の低下の抑制とを両立させることができる固体酸化物形燃料電池セルの作製方法を提供することを目的とする。」

3ウ 「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の固体酸化物形燃料電池セルの作製方法は、燃料極と電解質とから構成されるハーフセルの燃料極とは反対側の電解質の面に空気極原料を形成する工程と、前記空気極原料を形成した面が上になるように前記ハーフセルを配置し、前記空気極原料の上に、少なくとも空気極原料と接する面がセリアを含む材料からなる板状のセッターを載せる工程と、前記ハーフセルおよび空気極原料を熱処理して空気極を焼成する工程とを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の固体酸化物形燃料電池セルの作製方法の1構成例において、前記セッターは、CeO_(2)または異元素を添加したCeO_(2)からなるものである。
また、本発明の固体酸化物形燃料電池セルの作製方法の1構成例において、前記セッターは、Al_(2)O_(3)製またはZrO_(2)製の板の表面に、CeO_(2)膜または異元素を添加したCeO_(2)膜を塗布して焼結させたものである。
また、本発明の固体酸化物形燃料電池セルの作製方法の1構成例において、前記空気極原料は、ペロブスカイト構造の金属酸化物からなるものである。
また、本発明の固体酸化物形燃料電池セルの作製方法の1構成例において、前記ペロブスカイト構造の金属酸化物は、LaNi_((1-X))Fe_(X)O_(3)、La_((1-X))Sr_(X)MnO_(3)、La_((1-X))Sr_(X)Co_(Y)Fe_((1-Y))O_(3)、La_((1-X))Sr_(X)CoO_(3)、LaNi_(0.6)Fe_(0.4)O_(3)(LNF)、LaNi_((1-X-Y))Co_(X)Fe_(Y)O_(3)(LNCF)、Sm_((1-X))Sr_(X)CoO_(3)のいずれかを含むものである。」

3エ 「【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、固体酸化物形燃料電池セルの空気極を作製する際に、少なくとも空気極原料と接する面がセリアを含む材料からなる板状のセッターを空気極の上に載せて空気極を焼成する。これにより、本発明では、固体酸化物形燃料電池セルの反りを抑制すると共に、空気極表面の金属酸化物と従来のAl_(2)O_(3)製のセッターとの相互拡散による空気極の組成変化を抑制することができるので、焼成による空気極の導電性低下を抑えることができ、集電効率の高い固体酸化物形燃料電池を作製することができる。」

3オ 「【0018】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態をより具体的に説明するものである。なお、当然のことであるが本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0019】
本実施の形態のSOFCセルの作製方法では、まずドクターブレード法を用いて、NiO-8YSZ(0.92ZrO_(2)-0.08Y_(2)O_(3))のスラリ(平均粒径が約0.6μmの10mol%、Y_(2)O_(3)添加ジルコニア粉末、平均粒径が約0.2μmのNiO粉末が60wt%)をシート状に形成する。このときスラリの厚みは、焼成後に形成される燃料極2の厚みが1.0mm程度になるようにする。こうして、燃料極シートを作製する。
【0020】
同様に、ドクターブレード法を用いて、8YSZのスラリをシート状に形成する。このときスラリの厚みは、焼成後に形成される電解質1の厚みが30μm程度になるようにする。こうして、電解質シートを作製する。続いて、燃料極シートと電解質シートとを貼り合わせ、この貼り合わせたものを3cm×3cmの大きさに加工して脱脂をした後に、1300℃の熱処理条件で焼成する。こうして、燃料極2と電解質1とから構成されるハーフセルが完成する。
【0021】
次に、平均粒径が1.0μmのLa_(0.8)Sr_(0.2)MnO_(3)、La_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)、La_(0.6)Sr_(0.4)CoO_(3)、LaNi_(0.6)Fe_(0.4)O_(3)、LaNi_(0.6)Co_(0.2)Fe_(0.2)O_(3)粉末のスラリを作製する。このスラリを上記のハーフセルの電解質1の上にスクリーン印刷法により塗布し、空気極塗布膜を形成する。このときスラリの厚みは、焼成後に形成される空気極3の厚みが100μmとなるようにする。そして、図2に示したようにSOFCセルの燃料極2が下になるようにして配置し、セリア(CeO_(2))製のセッター4を空気極塗布膜の上に載せて1100℃、2時間の熱処理条件で焼成する。こうして、燃料極支持型のSOFCセルが完成する。」

3カ 「



(4)甲第4号証
(4-1)甲第4号証の記載事項
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内において頒布された甲第4号証(特開2014-107041号公報)には、「固体酸化物形燃料電池の作製方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
4ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニア製の焼成板の表面粗さが2μm以下とされた表面上に未焼成の燃料極形成層を接した状態で形成する第1工程と、
前記第1工程の後で、前記燃料極形成層を焼成して燃料極とする第2工程と
を少なくとも備え、
前記焼成板の上に前記燃料極,電解質,および空気極が積層した固体酸化物型燃料電池の単セルを形成することを特徴とする固体酸化物形燃料電池の作製方法。」

4イ 「【0004】
この固体酸化物形燃料電池のセルは、主にセラミックスで構成されており、燃料極には金属酸化物と電解質材料が混合されたサーメットと呼ばれる材料が広く用いられている。このような燃料極および空気極などの電極部分は、一般的には、電極材料の粉末が分散したスラリーを電極形状としたグリーンシートとし、このグリーンシートを焼成することで形成しており、焼成時には、1200?1500℃の高温とされる。
【0005】
このような焼成は、通常、セッターと呼ばれる焼成板(棚板、敷板とも呼ばれる)の上に設置して行われる。例えば、燃料極支持型の固体酸化物形燃料電池の単セルを作製するときには、焼成板の上に未焼成の燃料極が接触する状態で焼成が行われる。また、このような焼成において、焼成板にはAl_(2)O_(3)の板が広く用いられている。
【0006】
しかしながら、Al_(2)O_(3)製の焼成板を用いて焼成した場合、焼成板を構成する物質が燃料極表面の金属酸化物と反応し、燃料極表面の金属酸化物がAl_(2)O_(3)と相互拡散し、燃料極の組成が変わってしまうことで、セル性能の低下を引き起こすことが考えられる(非特許文献1,特許文献1参照)。
【0007】
これに対してNiOを大量に含有する焼成板が知られている。この焼成板を用いることで、上述したような問題が解消できる。しかしながら、NiOは比較的高価な原料であり、NiO含有量が高い焼成板を使用することは、固体酸化物形燃料電池セルの製造コスト高の要因となってしまうため、好ましくない。一方、ジルコニア製の焼成板を使用することで、上述した2つの問題点が解消できる。ジルコニア製の焼成板は、比較的安価であり、また、燃料極電極表面の金属酸化物は、ジルコニアと相互拡散することがほとんどない。」

4ウ 「【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における固体酸化物形燃料電池の作製方法を説明するための断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態における固体酸化物形燃料電池の作製方法を説明するための断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態における固体酸化物形燃料電池の作製方法を説明するための断面図である。
【図4】図4は、Al_(2)O_(3)製の焼成板を用いて燃料極を作製したサンプルの燃料極表面(a)および焼成板表面(b)の状態を撮影した写真である。
【図5】図5は、ZrO_(2)製の焼成板を用いて燃料極を作製したサンプルの燃料極表面(a)および焼成板表面(b)の状態を撮影した写真である。」

4エ 「【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における固体酸化物形燃料電池の作製方法を説明するための断面図である。
・・・
【0021】
また、例えば、図3の(a)に示すように、ジルコニア製の焼成板101の表面粗さが2μm以下とされた表面101aの上に、未焼成の電解質形成層103が形成されている燃料極形成層102を形成し(第1工程)、燃料極形成層102の上に未焼成の電解質形成層103を形成する(第3工程)。次いで、図3の(b)に示すように、電解質形成層103の上に未焼成の空気極形成層104を形成する(第4工程)。この後、これらを焼成する(第2工程)ことで、図1の(b)に示すように、焼成板101の上に燃料極121,電解質131,および空気極141が積層した単セル110を形成してもよい。」

4オ 「



(5)甲第5号証
(5-1)甲第5号証の記載事項
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内において頒布された甲第5号証(特開2015-84281号公報)には、「固体酸化物形燃料電池単セル及び固体酸化物形燃料電池スタック並びに固体酸化物形燃料電池単セルの製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
5ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料極及び空気極を有する固体電解質層を備えた固体酸化物形燃料電池単セルと、その固体酸化物形燃料電池単セルを複数積層した固体酸化物形燃料電池スタックと、固体酸化物形燃料電池単セルの製造方法に関するものである。」

5イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来技術のように、固体電解質層の表面に、スクリーン印刷によって空気極を形成する場合には、いわゆるサドル現象(全面に印刷する際に周囲が厚くなる現象)によって、図12に示すように、空気極P1の外縁部P2に10?20μmの凸部P3が生じる。
【0007】
そのため、このような凸部P3を有する空気極P1を備えた燃料電池単セルP4を、インターコネクタP5等を介して厚み方向に積層して燃料電池スタックを製造すると、インターコネクタP5の集電部P6によって空気極P1の表面が押圧されるので、集電部P6と接触する空気極P1の凸部P3に過度に応力が集中する。
【0008】
つまり、インターコネクタP3の表面に凸状の集電部P6が形成されている場合には、その集電部P6が空気極P1の凸部P3を押圧することによって、凸部P3に大きな応力集中が発生する。
【0009】
その結果、燃料電池単セルP4(特に固体電解質層P7など)に割れ(セル割れ)等の破損が発生するという問題があった。
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、割れ等の破損を防止することができる固体酸化物形燃料電池単セル及び固体酸化物形燃料電池スタック並びに固体酸化物形燃料電池単セルの製造方法を提供することにある。」

5ウ 「 【0060】
d)次に、燃料電池単セル79の製造方法について説明する。
<シート作製工程>
図7に示すように、固体電解質層95、燃料極層97の機能層97a及び基板層97bの材料を用いて、例えばドクターブレード法などの周知の方法で、各層のシートを製造した。
【0061】
例えば、固体電解質層95の材料として、8YSZ(8モル%のY_(2)O_(3)により安定化されたZrO_(2))粉末100質量部(以下「部」という)、アルミナ粉末1部、有機バインダとしてポリビニルアルコール、及び有機溶媒としてブチルカルビトールを混合し、固体電解質層シート用スラリーを調製した。
【0062】
このスラリーを用いてドクターブレード法によりポリエステルフィルムの表面に、(長尺の)固体電解質シートの層を形成した。
その後、乾燥して巻き上げた後に、所定の寸法に切断して、縦110mm×横110mm×厚み10μmの固体電解質層シート211を得た。
【0063】
同様に、燃料極層97の機能層97aの材料として、NiOと8YSZ、有機バインダとしてポリビニルアルコール、及び有機溶媒としてブチルカルビトールを用い、燃料極機能層シート用スラリーを調製し、前記と同様にして、縦120mm×横120mm×厚み20μmの燃料極機能層シート213を作製した。
【0064】
同様に、燃料極層97の基板層97bの材料として、NiOと8YSZ、有機バインダとしてポリビニルアルコール、及び有機溶媒としてブチルカルビトールを用い、燃料極基板層シート用スラリーを調製し、前記と同様にして、縦120mm×横120mm×厚み200μmの燃料極基板層シート215を作製した。
【0065】
<積層・圧着工程>
次に、同図の上側より、1枚の固体電解質層シート211、1枚の燃料極機能層シート213、4枚の燃料極基板層シート215の順に積層し、圧着して圧着体を作製した。
【0066】
<焼成工程>
次に、この圧着体を、1330℃で3時間焼成し、焼成体217を得た。
<反応防止層印刷・焼成工程>
次に、この焼成体217の表面、即ち、固体電解質層95の表面に、反応防止層93の材料を印刷した。詳しくは、固体電解質層95の内側の中央部分に、反応防止層93を形成するために、縦110mm×横110mm×厚み5μmとなるように、スクリーン印刷によって、反応防止層用ペーストを塗布した。
【0067】
なお、反応防止層93の材料として、GDC粉末、アルミナ粉末、有機バインダとしてポリビニルアルコール、及び有機溶媒としてブチルカルビトールを混合し、粘度を調整して、反応防止層用ペーストを調製した。
【0068】
その後、1150℃で1時間焼成し、反応防止層93を形成した。
<空気極層印刷・焼成工程>
次に、反応防止層93を形成した焼成体217の表面、即ち、反応防止層93の表面に、空気極層91の材料を印刷した。
【0069】
詳しくは、まず、反応防止層93の内側の中央部分に、空気極層91の機能層91bを形成するために、縦100mm×横100mm×厚み25μmとなるように、スクリーン印刷によって、空気極機能層用ペーストを塗布し、乾燥した。
【0070】
なお、空気極層91の機能層91bの材料として、LSCF粉末、GDC粉末、アルミナ粉末、有機バインダとしてポリビニルアルコール、及び有機溶媒としてブチルカルビトールを混合し、粘度を調整して、空気極機能層用ペーストを調製した。
【0071】
次に、空気極機能層用ペーストを塗布し、乾燥した部分に重ね合わせて、空気極層91の集電層91aを形成するために、縦100mm×横100mm×厚み150μmとなるように、スクリーン印刷によって、空気極集電層用ペーストを塗布した。」

5エ 「【0074】
その後、1040℃で1時間焼成し、燃料電池単セル79を得た(図7参照)。
<レーザートリミング工程>
次に、図9に示すように、燃料電池単セル79の空気極層91の外縁部203の表面、即ち、空気極層91の(集電層91aの)外周部分の外側表面に、レーザートリミングを行って、空気極層91の表面の高さが中央部201の表面の高さと等しくなるようにした。」

5オ 「



5カ 「



5キ 「



(6)甲第6号証
(6-1)甲第6号証の記載事項
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内において頒布された甲第6号証(特開2012-9232号公報)には、「固体酸化物形燃料電池セルの製造方法、固体酸化物形燃料電池セル及び固体酸化物形燃料電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
6ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料極層と、固体電解質層と、空気極層とを備えた平板型の固体酸化物形燃料電池セルの製造方法に関するものである。」

6イ 「【0037】
次いで、図1に示すように、焼結体の固体電解質層13の表面に厚さ5μmのGDC層を積層して反応防止層14を形成した。さらに、焼結体上の反応防止層14の表面に厚さ40μmで100×100mmのサイズのLSCF層を積層して空気極層15を形成し、単セル10を得た。」

6ウ 「



(7)甲第7号証
(7-1)甲第7号証の記載事項
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内において頒布された甲第7号証(特開2015-90788号公報)には、「固体酸化物形燃料電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
7ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池に関し、さらに詳しくは、電池の作動中に、酸化剤ガスに含まれる汚染物質により空気極の触媒が被毒することを防止することによって、長時間の作動後でも電池の発電性能の低下を防止することのできる固体酸化物形燃料電池に関する。
・・・
【0003】
固体酸化物形燃料電池の空気極の材料としては、例えば、La、Sr、及びMnを含有するLSM系材料、La、Sr、及びCoを含有するLSC系材料、La、Sr、及びFeを含有するLSF系材料、並びに、La、Sr、Co、及びFeを含有するLSCF系材料などの導電性材料が古くから知られており、標準的に用いられている。
固体酸化物形燃料電池の固体電解質層の材料としては、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)などの電解質材料が古くから知られており、標準的に用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
酸化剤ガスには、不純物質が含まれている。本発明の発明者らの検討によると、これらの不純物質の中には、固体酸化物形燃料電池が作動する高温条件において、空気極の触媒を被毒させ、その触媒活性を低下させる汚染物質が存在することが見出された。汚染物質が空気極の触媒を被毒させると、空気極の触媒活性が低下する。その結果として、酸化剤ガス中の不純物質が固体酸化物形燃料電池の発電性能を低下させる。」

7イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、長時間の作動後においても、空気極における触媒が酸化剤ガス中の汚染物質によって被毒することを防止することができ、発電性能が低下しにくい固体酸化物形燃料電池を提供することである。」

7ウ 「【0036】
汚染物質とは、酸化剤ガスに含有される物質のうち、空気極44を構成する複合酸化物に吸着し、空気極44を構成する複合酸化物の触媒活性を低下させる物質である。汚染物質により生じる技術的問題点の具体例として、汚染物質が空気極44の複合酸化物と反応して生成した反応生成物が、空気極44における孔を塞ぎ、酸化剤ガスが空気極44内に充分に供給されなくなることにより、空気極44における触媒活性が充分に発揮されなくなる例が挙げられる。また、汚染物質により生じる技術的問題点の他の一例としては、汚染物質が空気極44の複合酸化物と反応し、空気極44を構成する複合酸化物が、触媒活性を有しない他の物質に変性してしまうことにより、空気極44における触媒活性が失われる例が挙げられる。空気極44の触媒活性が低下すると、固体酸化物形燃料電池の発電性能が低下するので好ましくない。酸化剤ガスに含有される汚染物質として、例えば、S、Cr、Si、B、及びClの少なくとも1種の元素を含有する物質が挙げられる。このような汚染物質として、例えば、SO_(X)が挙げられる。汚染物質には、H_(2)Oが含まれていてもよい。」

(8)甲第8号証
(8-1)甲第8号証の記載事項
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内において頒布された甲第8号証(特開2015-153709号公報)には、「燃料電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
8ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。」

8イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、封止(シール)等にガラスを用いた場合、空気極の活性が低下するおそれがある。即ち、ガラスに含まれる空気極の汚染物質(例えば、B)が、飛散して空気極に到達し、空気極での反応を阻害する可能性がある。
本発明は、封止材料に起因する空気極の被毒の防止を図った、燃料電池を提供することを目的とする。」

8ウ 「【0022】
図3に示すように、燃料電池セル40は、いわゆる燃料極支持膜形タイプの燃料電池セル40であり、単セル44、インターコネクタ41,45、集電体42、49、枠部43を備える。
【0023】
単セル44は、固体電解質層56を空気極(カソード、空気極層ともいう)55、および、燃料極(アノード、燃料極層ともいう)57で挟んで構成される。固体電解質層56の酸化剤ガス流路47側、燃料ガス流路48側それぞれに、空気極55、燃料極57が配置される。
【0024】
空気極55としては、ペロブスカイト系酸化物(例えば、LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)等が使用できる。
【0025】
固体電解質層56としては、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト系酸化物等の材料が使用できる。
【0026】
燃料極57としては、金属が好ましく、Ni及びNiとセラミックとのサーメットやNi基合金が使用できる。」

8エ 「【0052】
封止部62には、ガラスを含む封止材、具体的には、ガラス、ガラスセラミックス(結晶化ガラス)、ガラスとセラミックスの複合物を利用できる。一例として、SCHOTT社製ガラス:G018-311が使用できる。
ここで、封止部62の封止材料(ガラス等)には、Si、B、S、アルカリ金属といった汚染物質が含まれることが多く、空気極55の活性の低下を招く恐れがある。
【0053】
封止部62中の汚染物質は、酸化剤ガス中の汚染物質より対応が困難である。即ち、酸化剤ガス(例えば、大気)中にSi、B、Sといった汚染物質が含まれることがあるが、活性炭のような吸着材料(フィルタ)を酸化剤ガスの上流に設けることで汚染物質をトラップ(吸着)し、空気極55に到達することを抑制できる。一方、封止部62から飛散する汚染物質は、フィルタにより効果的にトラップすることは困難である。封止部62は、空気極55近傍であり、封止部62から飛散する汚染物質が問題となる。封止部62は、空気極55よりも酸化剤ガスの上流側で露出した状態にあり、汚染物質による空気極55の汚染が懸念される。
【0054】
被覆吸着層63を用いることで、封止部62中の汚染物質による空気極55の汚染を低減し、空気極55の活性を維持できる。被覆吸着層63は、封止部62からの汚染物質を吸着し、汚染物質の酸化剤ガス流路47中への飛散を防止する。被覆吸着層63は、封止部62と接して、封止部62から移動してきた汚染物質を吸着する。即ち、被覆吸着層63は、封止部62から酸化剤ガス流路47中に飛散した汚染物質を吸着するのではなく、酸化剤ガス流路47中への飛散の前に汚染物質を吸着する。
【0055】
ここでは、被覆吸着層63は、封止部62の酸化剤ガス流路47(第2区画)側の表面全体を被覆している。被覆吸着層63は、封止部62の表面全体を被覆することで、封止部62中の汚染物質による空気極55の汚染を確実に防止できる。但し、被覆吸着層63は、封止部62の酸化剤ガス流路47(第2区画)側表面の一部のみを被覆することでも封止部62中の汚染物質による空気極55の被毒を低減できる。」

8オ 「図3



(9)甲第9号証
(9-1)甲第9号証の記載事項
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内において頒布された甲第9号証(特開2009-185792号公報)には、「脱硫装置」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
9ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に用いられる脱硫装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対応するため、燃料電池の開発が進められている。この燃料電池は、燃料(水素)極と空気(酸素)極とを備え、燃料極に水素を、空気極に酸素を供給し、水素と酸素を反応させることで電気を発生させる。燃料電池で利用される水素は、例えばメタノールや液化天然ガスなどの炭化水素を改質器で改質することで得られる。また、酸素は外気(空気)を利用している。
【0003】
ところで、燃料電池の電極や改質器には触媒が用いられており、電池に供給される反応気体に硫黄成分が含有されていると、この触媒が被毒される。一般に、原燃料となる液化天然ガスなどには一定量の硫黄が含有されており、この原燃料を改質器に導入する前に脱硫装置で脱硫することが行われている(特許文献1参照)。」

9イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の技術では、改質器に導入される炭化水素中の硫黄量を低減することはできるが、水素と反応する酸素、つまり外気中に含まれている硫黄を除去することはできない。そのため、燃料電池に供給される反応気体には、結局硫黄が含まれることになり、十分な硫黄の除去ができているとは言い難い。特に、温泉地などでは、空気中の硫黄量が多いと考えられ、このような地域を車両が走行する際には、反応気体中の硫黄の存在が障害となる懸念がある。」

(10)甲第10号証
(10-1)甲第10号証の記載事項
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内において頒布された甲第10号証(特開2010-267515号公報)には、「固体酸化物形燃料電池用ハーフセル、固体酸化物形燃料電池および固体酸化物形燃料電池用ハーフセルの製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
10ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池、特に、固体酸化物形燃料電池用のハーフセルに関するものである。」

10イ 「【0004】
このような固体酸化物形燃料電池における単セルの作製方法としては、各構成部のセラミックスグリーンシートを積層し、これらを同時に焼結する共焼結法が用いられている。ここで、セラミックスグリーンシート(以下、「シート」という)とは、ドクターブレード法などにより、原料粉末のスラリーを板形状(シート状)に成形した未焼結状態のものである。また、共焼結法は、プラズマ溶射法やEVD法などの各層を順次形成して焼結する手法と比較して、用いる装置の構成や操作が簡便であり、プロセスの単純化も図ることができるので、適用することにより製造コストの低減を期待することができる。さらに、ドクターブレード法により作成されるシートは、その厚さを0.01?0.6mm程度の範囲内で制御可能であるので、特に電極を支持体として薄膜電解質を形成する平板型セルの作成においては、シート積層による共焼結法はよく用いられる方法である(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0005】
共焼結法では、シートの積層体を一対のセラミックス焼結板(以下、「焼結板」という)で挟んだ状態とした上で、電気炉内部に配置して、1300℃以上の高温で焼成を行う。例えば、燃料極支持型のセルを作製する場合には、図7に示すように、燃料極101と電解質102の積層体100を成形し、これらを焼成板20で挟んだものを電気炉内部の焼成台30上に載置して、1300℃で焼成する。ここで、積層体100を焼結板20で挟むのは、個々の焼結体の焼き付きを防止して個別に焼成するとともに、反りが生じるのを抑制するためである。また、1300℃以上の高温で焼成するのは、電解質102を緻密にするためである。焼成板20の材質としては、高温での安定性の観点から、アルミナ、ジルコニア、セリアなどが用いられる。特に、アルミナは、ジルコニアやセリアなどと比べて安価であるので、最も一般的に用いられる。」

10ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、アルミナ製の焼成板を用いた場合、燃料極に含まれる酸化ニッケルとアルミナとが反応して、燃料極から焼成板にニッケルが拡散してしまう。燃料極に含まれるニッケルは、電極としての導電性を担っているので、燃料極から焼成板に拡散してしまうと、燃料極の抵抗が増大してセルの出力が低下する恐れがある。特に、酸化ニッケルとアルミナの反応はセラミックスの焼成を行うような高温雰囲気で生じるため、上述したように電解質を緻密にするために1300℃以上の高温で共焼結法を実施した場合には、その反応が速やかに進行してしまう。」

10エ 「【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、燃料極にアルミニウム酸化物を添加することにより、アルミナからなる焼成板を用いて焼成を行っても、燃料極から焼成後にニッケルが拡散することを抑制できるので、燃料極の抵抗が増大するのを防ぐことができ、結果として低コストで出力の低
下を防ぐことができる。」

10オ 「



2-3 甲第1号証を主たる引用例とする新規性進歩性についての判断
(1)本件発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明の「YSZ、ScSZ、SDC、GDC、又はペロブスカイト系酸化物から構成される固体電解質層56」、「記固体電解質層56の上に形成され、LSCF、LSM等のペロブスカイト系酸化物、又は、各種貴金属及び貴金属とセラミックとのサーメットから構成される空気極55」は、それぞれ、本件発明1の「セラミックス及び/又は金属によって構成される第1層」、「前記第1層上に形成され、セラミックス及び/又は金属によって構成される第2層」に相当する。

イ 甲1発明の「空気極55」において、「内周部551」は、空気極としての機能を有する「空気極」の本体であるといえ、また、本件発明1の「本体部」については、本件特許明細書の段落【0029】に「本体部102aは、第2層102のうち第2層102の機能を主に担う部分である。例えば、第2層102が、電極層として機能する場合、電流は主に本体部102a内を流れる。」と記載されていることから、第2層としての機能を担う部分であるといえるから、甲1発明の「前記固体電解質層56と反対側に向かって突出している凸部」、「内周部551」は、それぞれ、本件発明1の「前記第1層と反対側に向かって突出する凸部」、「本体部」に相当する。

ウ 甲1発明の「上記凸部の高さΔHに対する幅Dの比は、2.5?300である」ことは、本件発明1の「前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さに対する前記凸部の幅の比は、1以上であ」ることに相当する。

エ 甲1発明の「上記凸部の高さΔHは、10μm以上であり、200μm以下であ」ることと、本件発明1の「前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さは、5μm以上80μm以下であ」ることは、「前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さ」が「10μm以上80μm以下」の範囲で重複する。

オ 甲1発明において「固体電解質層56」と「空気極55」が、いずれも、セラミック又はサーメットであることは、本件発明1の「前記第1層と前記第2層は、同時に金属によって構成されない」ことに相当する。

カ 本件特許明細書の段落【0002】?【0003】には、「機能性セラミックス素子としては、例えば、燃料電池・・・などが挙げられる。」、「このような機能性セラミックス素子は、セラミックス及び/又は金属によって構成される第1層と、セラミックス及び/又は金属によって構成される第2層とが積層された積層体を内部に備えている。」と記載されているから、本件発明1において「機能性セラミックス体」とは、燃料電池を構成するセラミックスの積層体を含むものと認められる。したがって、甲1発明の「燃料電池セル本体44」は、本件発明1の「機能性セラミックス体」に相当する。

キ そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「セラミックス及び/又は金属によって構成される第1層と、
前記第1層上に形成され、セラミックス及び/又は金属によって構成される第2層と、
を備え、
前記第2層は、本体部と、前記第1層と反対側に向かって突出する凸部とを有し、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さに対する前記凸部の幅の比は、1以上であり、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さは、5μm以上80μm以下であり、
前記第1層と前記第2層は、同時に金属によって構成されない、
機能性セラミックス体。」

<相違点1> 「第2層の厚み方向に平行な断面」における「凸部の幅」が、本件発明1では、「第2層の幅の20%未満であ」るのに対して、甲1発明では、そのような事項が特定されていない点。

<相違点2> 「凸部」が、本件発明1では「焼成の際にセッターに当接させたもの」であるのに対して、甲1発明では、そのような事項が特定されていない点。

(2)本件発明2と甲1発明との対比
本件発明2と甲1発明を対比すると、上記(1)と同様の理由により、本件発明2と甲1発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「 セラミックス及び/又は金属によって構成される第1層と、
前記第1層上に形成され、セラミックス及び/又は金属によって構成される第2層と、
を備え、
前記第2層は、本体部と、前記第1層と反対側に向かって突出する凸部とを有し、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さは、10μm以上であり、
前記第1層と前記第2層は、同時に金属によって構成されない、
機能性セラミックス体。」

<相違点3> 「第2層の厚み方向に平行な断面」における「凸部の幅」が、本件発明2では、「第2層の幅の20%未満であ」るのに対して、甲1発明では、そのような事項が特定されていない点。

<相違点4> 「凸部」が、本件発明2では「焼成の際にセッターに当接させたもの」であるのに対して、甲1発明では、そのような事項が特定されていない点。

(3)相違点についての判断
上記相違点1、2は、それぞれ、上記相違点3、4と同じであるところ、事案に鑑みて、初めに、相違点2、4についてまとめて検討する。

ア 甲1には、上記1ウで摘記したように、燃料電池セル本体44の製造方法に関して次の記載がある。
「内周部551,内周部551を有する空気極55(燃料電池セル本体44)は次のようにして製造できる。燃料極57のグリーンシートの一方の表面に,固体電解質層56のシートを貼り付けて,積層体を形成し,該積層体を一旦焼成する。その後,空気極55の材料を印刷し,焼成して燃料電池セル本体44を作成する。このとき,空気極55の材料として,粘性の高い液状の材料を使用する。粘性の高い材料を印刷することで,印刷された領域の外周の近傍が厚くなり,外周部552を形成できる。
他の手法として,外周部552での印刷の回数(層数)を内周部551より多くしても良い。例えば,内周部551と外周部552の双方を含む領域に印刷し,外周部552のみを含む領域に重ねて印刷する。このようにすることで,外周部552の印刷の回数を内周部551より多くして,外周部552を内周部551より高くすることができる。」

イ 上記アの記載によれば、甲1には、積層体を構成する固体電解質層56の上面に、空気極の材料を印刷し、焼成して燃料電池セル本体44を作成すると記載されているが、上記焼成の際にセッターを使用することは記載されておらず、また、印刷した空気極にセッターを当接することも記載されていない。

ウ 一方、燃料電池セルの焼成時にセッターを用いることが、甲3と甲4に次のように記載されている。
甲3には、上記3ア?3エによれば、通常、セルを焼成する際にセルの下にセッターを設置すること、また、空気極焼成時にセルの上にセッターを載せて焼成することで、セルの反りを抑制しているが、Al_(2)O_(3)製のセッターを空気極の上に載せて空気極を焼成した場合、空気極表面の金属酸化物とAl_(2)O_(3)とが相互拡散を起こして、電気抵抗の高い層が空気極表面に形成され、セル性能が低下してしまうという課題に対して、空気極原料の上に、少なくとも空気極原料と接する面がセリア(CeO_(2))を含む材料からなる板状のセッターを載せることによって、反りの発生とセル性能の低下という上記課題を解決することが記載されている。
甲4には、上記4ア?4イによれば、固体酸化物形燃料電池のセルの燃料極および空気極などの電極部分は、グリーンシートを焼成することで形成され、上記焼成は、セッターと呼ばれる焼成板の上に未焼成の燃料極が接触する状態で行われるものであるが、Al_(2)O_(3)製の焼成板を用いて焼成した場合、燃料極表面の金属酸化物がAl_(2)O_(3)と相互拡散し、燃料極の組成が変わってしまうことで、セル性能の低下を引き起こすという課題に対して、ジルコニア製の焼成板を使用して焼成を行うことで、セル性能の低下という上記課題を解消することが記載されている。

エ 上記ウで検討したとおり、燃料電池セルの焼成時にセッターを用いることは、周知の技術であると認められ、特に、甲3によれば、燃料電池セルの焼成時に空気極の反りを抑制するために、未焼成の空気極とセッターを接触させて焼成すること、また、Al_(2)O_(3)製のセッターを使用すると、空気極表面とAl_(2)O_(3)が相互拡散を起こしてセル性能が低下してしまうので、セッターとしては、Al_(2)O_(3)製ではないセリア製のものを使用すべきであることは、本件特許の出願時に公知であった。

オ 上記イで検討したとおり、甲1には、積層体を構成する固体電解質層56の上面に、空気極の材料を印刷し、焼成して燃料電池セル本体44を作成する際に、セッターを使用することは記載されていないが、甲1発明の燃料電池セル本体は、異なる種類のセラミックを積層して焼成したものであって、焼成時の熱膨張率の違いによって反りが発生することは、当業者にとって自明の事項であるといえるし、焼成時において空気極とセッターが接触することによる空気極の組成変化を抑制する必要があることも甲3に記載されているから、甲1発明の燃料電池セル本体44を焼成によって製造するにあたり、焼成時のセルの反りや空気極の組成変化を抑制するために、空気極にセリア製のセッターを接触させて焼成するようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、甲1発明の空気極55には凸部が存在することから、上述のとおり、空気極55にセリア製のセッターを接触させて焼成する際には、セッターが板状であることを勘案すれば、当該セッターと空気極の凸部が接触した状態で焼成されることは明らかであるから、甲1発明は、その「凸部」が「焼成の際にセッターに当接させたもの」となる。

カ しかるに、本件発明1、2において「凸部は焼成の際にセッターに当接させたもの」であるとは、上記1の1-1のコで確認したように、「機能性セラミック体」という物の発明において、「凸部の内部にセッター成分が集約し、本体部には組成ズレが生じていない」状態であること、換言すれば、「凸部」の組成が「本体部」の組成と相違している状態であることを意味しており、「凸部」の内部にセッター成分が集約することによって、セッター成分が本体部に拡散することを抑制し、焼成の際に機能性セラミックス素子の性能に悪影響を及ぼすおそれがないものとするという技術的意義を有するものである。

キ してみると、甲1発明において、甲3の記載に基づいて、上記オのとおり、空気極の凸部にセリア製のセッターを接触させて焼成したものとすることが容易になし得ることであるとしても、セリア製のセッターは、焼成の際に空気極表面の金属酸化物とセッターとの相互拡散を抑制して、空気極の組成が変更しないように使用されるものであるから、凸部の組成は空気極の組成と変わらないものであると考えられるのに対して、本件発明1、2において「凸部は焼成の際にセッターに当接させたもの」であるとは、焼成時にセッター成分が空気極側に移動することを前提として、当該凸部の内部のみにセッター成分を集約するということであり、凸部の組成は空気極の組成から変更しているものであるから、凸部の組成の観点から見ると、甲1発明において、甲3の記載に基づいて構成されたものと、本件発明1、2とは、全く相違しているといえる。

ク また、甲1発明において、甲3の記載に基づいて、上記オのとおり、空気極の凸部にセリア製のセッターを接触させて焼成した場合において、仮に、凸部に微少量のセッター成分が混入することがあったとしても、空気極に凸部を設けて、当該「凸部」を「焼成の際にセッターに当接させたもの」とすることによって、焼成後の凸部の内部にセッター成分が集約し、セッター成分が本体部に拡散することを抑制して、焼成の際に機能性セラミックス素子の性能に悪影響を及ぼすことを抑制することができるという効果を奏する点については、甲1、甲3、甲4のいずれにも開示されていないし、燃料電池の技術分野における周知の事項であるともいえない。
なお、甲1発明における「凸部」は、甲1の上記1イの記載によれば、燃料電池セルの運転時に、封止部62に含まれる被毒物質が飛散し、反応ガス(酸化剤ガス)に混入した場合でも、この被毒物質が凸部を備えた外周部552にトラップされることにより、内周部551での被毒を抑制しようとするものであり、本件発明のように、燃料電池セルの焼成時に、セッター成分を凸部で集約して、空気極の本体側に拡散することを抑制しようとするものではないから、甲1発明における「凸部」と、本件発明1、2における「凸部」は、機能が全く異なるものであり、それぞれの発明が奏する効果も異質である。

ケ 以上の検討から、甲1発明において、甲3、甲4に記載の技術事項に基づいて、「凸部」を「焼成の際にセッターに当接させたもの」とすること、すなわち、相違点2、4に係る本件発明1、2の特定事項とすることは、当業者であっても容易になし得ることができたものとはいえない。

コ よって、本件発明1、2は、相違点1、3について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明と、甲第3、4号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明1、2を引用することによって、本件発明1、2の特定事項の全てを備える本件発明3?8についても、同様の理由により、甲第1号証に記載された発明と、甲第3、4号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2-4 甲第2号証を主たる引用例とする進歩性についての判断
(1)本件発明2と甲2発明との対比
ア 甲2発明の「イットリア安定化ジルコニア等のセラミックから構成される電解質」、「前記電解質の上に形成され、LSCFから構成される空気極」は、それぞれ、本件発明2の「セラミックス及び/又は金属によって構成される第1層」、「前記第1層上に形成され、セラミックス及び/又は金属によって構成される第2層」に相当する。

イ 甲2発明において、「空気極」は、空気極としての機能を有する本体部分であるといえるから、甲2発明の「空気極」と本件発明2の「第2層」は、「本体部」を有する点で共通する。

ウ 甲2発明において「電解質」と「空気極」が、いずれも、セラミックであることは、本件発明2の「前記第1層と前記第2層は、同時に金属によって構成されない」ことに相当する。

エ 本件特許明細書の段落【0002】?【0003】には、「機能性セラミックス素子としては、例えば、燃料電池・・・などが挙げられる。」、「このような機能性セラミックス素子は、セラミックス及び/又は金属によって構成される第1層と、セラミックス及び/又は金属によって構成される第2層とが積層された積層体を内部に備えている。」と記載されているから、本件発明2において「機能性セラミックス体」とは、燃料電池を構成するセラミックスの積層体を含むものと認められる。したがって、甲2発明の「固体酸化物形燃料電池(SOFC)セル」は、本件発明2の「機能性セラミックス体」に相当する。

オ そうすると、本件発明2と甲2発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「セラミックス及び/又は金属によって構成される第1層と、
前記第1層上に形成され、セラミックス及び/又は金属によって構成される第2層と、
を備え、
前記第2層は、本体部を有し、
前記第1層と前記第2層は、同時に金属によって構成されない、
機能性セラミックス体。」

<相違点5> 本件発明2では、「第2層」が「前記第1層と反対側に向かって突出する凸部」を備えるのに対して、甲2発明では、「第2層」に相当する「空気極」が、「前記第1層と反対側に向かって突出する凸部」を備えていない点。

<相違点6> 本件発明2は「前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さは、8μm以上であり、前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の幅は、前記第2層の幅の20%未満であ」るとの特定事項を備えるのに対して、甲2発明は、そもそも「空気極」が「凸部」を備えていないため、そのような特定事項を備えていない点。

<相違点7> 本件発明2は「前記凸部は焼成の際にセッターに当接させたものであ」るとの特定事項を備えるのに対して、甲2発明は、そもそも「空気極」が「凸部」を備えていないため、そのような特定事項を備えていない点。


(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、初めに、相違点5について検討する。
ア 甲1の上記1ア、1イ、1ウによれば、固体酸化物形燃料電池(SOFC)に供給される反応ガスや、封止材等のSOFCの内部から被毒物質が供給され、空気極等に達すると、燃料電池セルの出力が低下するとの課題があり、当該課題に対して、第1電極部に内周部より高い外周部を設けることによって、外周部で被毒物質がトラップされ、内周部での被毒を抑制することができる。
また、上記1オに記載の実施形態によれば、空気極55に、内周部551の高さH1よりも高い、高さH2を有する外周部552(すなわち凸部)を設けることによって、封止部62に含まれる被毒物質が飛散し、反応ガス(酸化剤ガス)に混入した場合でも、この被毒物質が外周部552(凸部)にトラップされ易く、内周部551での被毒を抑制することができる。
なお、燃料電池の空気極が被毒物質により汚染されるおそれがあることは、甲1以外に、甲7?甲9にも記載されており、当業者には周知の事項である。

イ 甲2発明のSOFCセルの使用形態は、上記2カの図2のように、セル1の上下にインターコネクタ5と枠体6を配置し、インターコネクタの溝に沿って空気と燃料を供給するものであるところ、SOFCセルが被毒するとセルの出力が低下するとの課題が内在していることは、上記アに記載のとおりであるから、甲2発明においても、反応ガスに混入した被毒物質によるセルの被毒を抑制するために、セルを構成する空気極の外周部に被毒物質をトラップするための凸部を設けること、すなわち、相違点5に係る本件発明2の特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易になし得ることであるように思える。

ウ しかしながら、甲5の上記5イによれば、固体電解質層の表面に、スクリーン印刷によって空気極を形成する場合には、サドル現象(全面に印刷する際に周囲が厚くなる現象)によって、上記5キの図12に示すように、空気極P1の外縁部P2に10?20μmの凸部P3が生じるところ、このような凸部P3を有する空気極P1とインターコネクタP5を積層すると、凸部P3に過度に応力がかかり、セルの割れ等の破損が生じると記載されているので、上記イの検討にもかかわらず、甲2発明において直ちに、セルを構成する空気極の外周部に被毒物質をトラップするための凸部を設けることが、当業者が容易になし得ることであるということができない。

エ また、上記ウの検討にもかかわらず、仮に、何らかの工夫をすることによって、甲2発明において、セルを破損することなく、空気極の外周部に被毒物質をトラップするための凸部を設けることできるとして、当該凸部に関して、上記相違点7に係る「焼成の際にセッターに当接させたもの」とすることが容易になし得ることであるかを検討するに、上記2-3の(3)において相違点2、4について検討したのと同様の理由によって、甲2発明において、空気極に設ける「凸部」を「焼成の際にセッターに当接させたもの」とすること、すなわち、相違点7に係る本件発明2の特定事項とすることは、当業者であっても容易になし得ることができたとはいえない。

オ よって、本件発明2は、相違点6について検討するまでもなく、甲第2号証に記載された発明と、甲第1号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明2を引用することによって、本件発明2の特定事項の全てを備える本件発明3、4、5、6、8についても、同様の理由により、甲第2号証に記載された発明と、甲第1号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2-5 小括
したがって、上記申立理由1?3は、いずれも理由がなく、取消理由として採用できないものである。

3 むすび
以上のとおり、本件の請求項1?8に係る特許は、平成31年 2月 5日付けで通知された取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すべき理由を発見しないし、他に本件の請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス及び/又は金属によって構成される第1層と、
前記第1層上に形成され、セラミックス及び/又は金属によって構成される第2層と、
を備え、
前記第2層は、本体部と、前記第1層と反対側に向かって突出する凸部とを有し、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さに対する前記凸部の幅の比は、1以上であり、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さは、5μm以上80μm以下であり、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の幅は、前記第2層の幅の20%未満であり、
前記凸部は焼成の際にセッターに当接させたものであり、
前記第1層と前記第2層は、同時に金属によって構成されない、
機能性セラミックス体。
【請求項2】
セラミックス及び/又は金属によって構成される第1層と、
前記第1層上に形成され、セラミックス及び/又は金属によって構成される第2層と、
を備え、
前記第2層は、本体部と、前記第1層と反対側に向かって突出する凸部とを有し、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の高さは、8μm以上であり、
前記第2層の厚み方向に平行な断面において、前記凸部の幅は、前記第2層の幅の20%未満であり、
前記凸部は焼成の際にセッターに当接させたものであり、
前記第1層と前記第2層は、同時に金属によって構成されない、
機能性セラミックス体。
【請求項3】
前記第2層の平面視において、前記凸部は、所定方向に沿って延びる、
請求項1又は2に記載の機能性セラミックス体。
【請求項4】
前記第2層の平面視において、前記凸部は、連続的な環状に形成されている、
請求項1又は2に記載の機能性セラミックス体。
【請求項5】
前記第2層の平面視において、前記凸部は、断続的な環状に形成されている、
請求項1又は2に記載の機能性セラミックス体。
【請求項6】
前記第2層の平面視において、前記凸部は、矩形環状である、
請求項4又は5に記載の機能性セラミックス体。
【請求項7】
前記第2層の平面視において、前記凸部は、互いに離れている複数の凸部の集合体である、
請求項1又は2に記載の機能性セラミックス体。
【請求項8】
前記第2層の平面視において、前記凸部は、前記第2層の外縁に配置されている、
請求項3乃至7のいずれかに記載の機能性セラミックス体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-07-11 
出願番号 特願2017-49084(P2017-49084)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡部 朋也  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 池渕 立
長谷山 健
登録日 2018-03-02 
登録番号 特許第6298908号(P6298908)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 機能性セラミックス体  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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