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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F16L
管理番号 1354922
異議申立番号 異議2018-700436  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-05-29 
確定日 2019-07-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6237949号発明「管継手」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6237949号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第6237949号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6237949号の請求項1に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成24年10月2日に出願した特願2012-219965号の一部を、平成29年6月9日に新たな特許出願としたものであって、平成29年11月10日にその特許権の設定登録がされ、平成29年11月29日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがあり、次のとおりに手続が行われた。
平成30年 5月29日 :特許異議申立人内山信一(以下「申立人」という。)による本件特許に対する特許異議の申立て
平成30年 8月27日付け:取消理由通知書
平成30年10月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成30年12月 7日 :申立人による意見書の提出
平成31年 1月25日付け:取消理由通知書(決定の予告)
平成31年 3月28日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出

第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
平成31年3月28日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求は、特許第6237949号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを求めるものであって、その訂正内容は次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
なお、本件訂正の請求により、平成30年10月26日提出の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

本件訂正前の請求項1に、
「【請求項1】
筒状をなし、外周面にねじ部が設けられた外筒部を有する継手本体と、
前記継手本体に設けられ、接続管の内周面に嵌入される内筒部と、
前記接続管に外嵌された状態で継手本体に係合される割リングと、
前記接続管に遊嵌された状態で外筒部に設けられた前記ねじ部と螺合され、前記継手本体と共働して、前記割リングを継手奥側へ押し込みつつ縮径させる締付け部材と、
前記内筒部の外周面に設けられ、割リングが縮径した際に接続管内周面に食い込む環状突起部と、
前記内筒部の外周面に設けられたシール部材嵌着溝と、
前記シール部材嵌着溝に嵌着されたシール部材と、
を有する管継手であって、
前記割リングは内周面に3本の突条が周設され、当該割リングが縮径した際には、当該3本の突条のうち、軸線方向の中央に位置する突条が、前記接続管の外周面に対して前記シール部材嵌着溝に径方向で重なる位置で食い込むとともに、残りの2本の突条が、当該食い込み位置に対して軸線方向の前方及び後方でかつ、前記シール部材嵌着溝に径方向で重ならない位置で、前記接続管の外周面に対して食い込む
ことを特徴とする管継手。」
とあるのを、
「【請求項1】
筒状をなし、外周面にねじ部が設けられた外筒部を有する継手本体と、
前記継手本体に設けられ、接続管の内周面に嵌入される内筒部と、
前記接続管に外嵌された状態で継手本体に係合される割リングと、
前記接続管に遊嵌された状態で外筒部に設けられた前記ねじ部と螺合され、前記継手本体と共働して、前記割リングを継手奥側へ押し込みつつ縮径させる締付け部材と、
前記内筒部の外周面に設けられ、割リングが縮径した際に接続管内周面に食い込み、前記継手本体奥側に向かうにつれ漸次拡径する傘状のテーパ面を有するように形成されている環状突起部と、
前記内筒部の外周面において前記環状突起部の奥側に設けられたシール部材嵌着溝と、
前記シール部材嵌着溝に嵌着されたシール部材と、
を有する管継手であって、
前記内筒部において、前記シール部嵌着溝よりも奥側の外周面は、軸方向に沿う断面が平坦に形成され、
前記割リングは内周面に3本の突条が周設され、当該割リングが縮径した際には、
当該3本の突条のうち、軸線方向の中央に位置する突条が、前記接続管の外周面に対して前記シール部材嵌着溝に径方向で重なる位置で食い込むとともに、
残りの2本の突条が、当該食い込み位置に対して軸線方向の前方及び後方でかつ、前記シール部材嵌着溝に径方向で重ならない位置で、前記接続管の外周面に対して食い込み、
前記割リングにおいて、前記残りの2本の突条のうち、手前側の突条と対応する部分が前記締付け部材によって押圧されることで、当該手前側の突条が、前記環状突起部のテーパ面に対応する前記接続管の外周面に食い込み、
前記割リングにおいて、前記残りの2本の突条のうち、奥側の突条と対応する部分が前記外筒部によって押圧されることで、当該奥側の突条が、前記奥側の外周面に対応する前記接続管の外周面に食い込む、
ことを特徴とする管継手。」
に訂正する。

2 本件訂正の適否の判断
(1)訂正の目的の適否について
本件訂正は、本件訂正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「環状突起部」について、「継手本体奥側に向かうにつれ漸次拡径する傘状のテーパ面を有するように形成されている」ことを特定するものであり、以下同様に、「シール部材嵌着溝」について「環状突起部の奥側に」設けられることを、「内筒部」について「シール部嵌着溝よりも奥側の外周面は、軸方向に沿う断面が平坦に形成され」ることを、「割リング」について「残りの2本の突条のうち、手前側の突条と対応する部分が前記締付け部材によって押圧されることで、当該手前側の突条が、前記環状突起部のテーパ面に対応する前記接続管の外周面に食い込み」、「残りの2本の突条のうち、奥側の突条と対応する部分が前記外筒部によって押圧されることで、当該奥側の突条が、前記奥側の外周面に対応する前記接続管の外周面に食い込む」ことをそれぞれ特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)新規事項の有無について
本件訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0016】、【0017】及び図2ないし4に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
筒状をなし、外周面にねじ部が設けられた外筒部を有する継手本体と、
前記継手本体に設けられ、接続管の内周面に嵌入される内筒部と、
前記接続管に外嵌された状態で継手本体に係合される割リングと、
前記接続管に遊嵌された状態で外筒部に設けられた前記ねじ部と螺合され、前記継手本体と共働して、前記割リングを継手奥側へ押し込みつつ縮径させる締付け部材と、
前記内筒部の外周面に設けられ、割リングが縮径した際に接続管内周面に食い込み、前記継手本体奥側に向かうにつれ漸次拡径する傘状のテーパ面を有するように形成されている環状突起部と、
前記内筒部の外周面において前記環状突起部の奥側に設けられたシール部材嵌着溝と、
前記シール部材嵌着溝に嵌着されたシール部材と、
を有する管継手であって、
前記内筒部において、前記シール部嵌着溝よりも奥側の外周面は、軸方向に沿う断面が平坦に形成され、
前記割リングは内周面に3本の突条が周設され、当該割リングが縮径した際には、
当該3本の突条のうち、軸線方向の中央に位置する突条が、前記接続管の外周面に対して前記シール部材嵌着溝に径方向で重なる位置で食い込むとともに、
残りの2本の突条が、当該食い込み位置に対して軸線方向の前方及び後方でかつ、前記シール部材嵌着溝に径方向で重ならない位置で、前記接続管の外周面に対して食い込み、
前記割リングにおいて、前記残りの2本の突条のうち、手前側の突条と対応する部分が前記締付け部材によって押圧されることで、当該手前側の突条が、前記環状突起部のテーパ面に対応する前記接続管の外周面に食い込み、
前記割リングにおいて、前記残りの2本の突条のうち、奥側の突条と対応する部分が前記外筒部によって押圧されることで、当該奥側の突条が、前記奥側の外周面に対応する前記接続管の外周面に食い込む、
ことを特徴とする管継手。」

第4 取消理由についての判断
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1に係る特許に対して、当審が平成31年1月25日付け取消理由通知書(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
(1)甲第1号証を主引例とした場合
請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2号証、甲第3号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)甲第3号証を主引例とした場合
請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明並びに甲第2号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

<甲号証一覧>
甲第1号証:特開2011-106538号公報
甲第2号証:特開2008-215562号公報
甲第3号証:特開平9-310790号公報
甲第8号証:特開2001-74013号公報
甲第9号証:特開2002-22071号公報
以下それぞれ「甲1」、「甲2」、「甲3」、「甲8」及び「甲9」と略記する。

2 甲各号証の記載
(1)甲1について
甲1には、「配管用継手」について、図面とともに次の記載がある(下線は理解の一助のために当審が付与した。以下同じ。)。

(ア)「図1?図3に示すように、配管用継手10の基体12は、ナット14と芯材16との2部材に分割されており、ナット14は配管13に締結され、芯材16は配管としてのパイプ(またはホース、チューブ等)15に連結されている。」(段落0015)

(イ)「一方、芯材16における外周部の軸線方向に沿った他方の部位(図面右側の部位)は、ナット14から突出する内筒部16Cとなっている。芯材16の内筒部16Cの外径は使用されるパイプ15の内径とほぼ同じ径の外径をなす筒状とされている。また、芯材16の内筒部16Cの外周部には軸線方向に沿ってそれぞれ間隔を開けて3本の周溝18、20、22が形成されており、これらの周溝18、20、22のうち、先端側(図面右側)の周溝20、22には、それぞれ止水部材としてのOリング24、26が嵌め込まれている。また、芯材16の外周部における周溝20、22を除いた部位は、それぞれ周方向に沿った環状の山部63されている。
また、芯材16の内筒部16Cに対し、軸径方向の外側に一定の隙間をもって外筒42が配置されており、外筒42の内周における軸線方向に沿った一方の端部(図面右側端部)は、端部先端方向(図面右側方向)に向かって拡径する傾斜部42Aとなっている。また、外筒42の外周部における軸線方向に沿った一方の端部(図面右側端部)側には雄螺子部42Bが形成されおり、この雄螺子部42Bにカバーナット46が締結されるようになっている。
また、カバーナット46の内周における軸線方向に沿った一方の端部(図面右側端部)側には軸先端方向(図面右側方向)に向かって縮径する傾斜部46Aが形成されている。また、カバーナット46の内周における軸線方向に沿った他方の端部(図面左側端部)側には雌螺子部46Bが形成されており、雌螺子部46Bが外筒42の雄螺子部42Bに締結されるようになっている。」(段落0020ないし0022)

(ウ)「芯材16の内筒部16Cと外筒42との間には、図4及び図5に示すコレット44が配置されている。
図5に示すように、コレット44は円筒形とされたコレット本体50を備えている。なお、本実施形態のコレット本体50は金属で構成されている。」(段落0024ないし0025)

(エ)「また、コレット本体50における内周の周溝60を除いた部位は、それぞれコレット本体50の軸線50Aに向かって突出し、コレット本体50の内周に沿ったリング状の凸部62となっている。言い換えれば、コレット本体50の内周(パイプ15側)には、コレット本体50の周方向に沿ったリング状の凸部62がコレット本体50の長手方向(軸線方向)に沿って所定の間隔で形成されている。
図1に示すように、外筒42の雄螺子部42Bにカバーナット46を締め付けた状態で、コレット44の凸部62が、パイプ15を挟んで芯材16の周溝20、22に嵌め込まれたOリング24、26の半径方向外側と、芯材16の山部63の半径方向外側に配置されるようになっている。
従って、コレット44の複数の凸部62によって、パイプ15の経時変形(へたり)による締め代の低下を防止できると共に、芯材16の周溝20、22からOリング24、26がはみ出すのを防止できるようになっている。」(段落0031ないし0033)

(オ)「・・・この結果、外筒42の凸部42Cが止め輪28に係合することで、外筒42が基体12の芯材16から抜け落ちないと共に、ナット14も基体12の芯材16から抜け落ちないようになっている。即ち、外筒42とナット14とが止め輪28によって、基体12の芯材16に保持されている。
次に、本実施形態の作用及び効果を説明する。
本実施形態の配管用継手10では、配管13に基体12のナット14を締結し、配管13に基体12の芯材16を連結する。また、芯材16の軸線方向の他方の端部がナット14から突出した内筒部16Cとされており、内筒部16Cにパイプ15を連結し、外筒42の雄螺子部42Bにカバーナット46を締結することで、コレット44がパイプ15を挟んで芯材16の内筒部16Cに締付けられ、内筒部16Cにパイプ15が連結される。
この際、図1に示すように、外筒42の雄螺子部42Bにカバーナット46を締め付けた状態で、コレット44の凸部62が、パイプ15を挟んで芯材16の周溝20、22に嵌め込まれたOリング24、26の半径方向外側に配置される。このため、パイプ15の経時変形による締め代の低下を防止できる。また、コレット44の凸部62が、パイプ15を挟んで芯材16の山部63の半径方向外側に配置される。このため、芯材16の周溝20、22からOリング24、26がはみ出すのを防止できる。」(段落0036ないし0038)

(カ)「

」(図1)

ここで、上記(ア)及び(カ)の記載から、基体12は筒状をなしていると認められる。
上記(イ)、(ウ)及び(カ)の記載から、カバーナット46は、パイプ15に遊嵌された状態で外筒42に形成された雄螺子部42Bと螺合され、基体12と共働して、コレット44を継手奥側へ押し込みつつ縮径させるものであることが認められる。
上記(イ)、(オ)及び(カ)の記載によれば、芯材16の内筒部16Cの外周部には周溝22が形成されており、その周溝22にはOリング26が嵌め込まれていることから、甲1に開示された配管用継手10は、基体12、芯材16、コレット44、カバーナット46に加えて、さらに、芯材16の外周面に設けられた周溝22と、周溝22に嵌着されたOリング26とを有するといえる。
上記(イ)及び(カ)によれば、芯材16において、周溝22よりも奥側の外周面には周溝20が設けられ、該周溝20にはOリング24が嵌着されるといえる。
上記(カ)の記載によれば、コレット44は内周面に3本の凸部62が周設されることが見て取れる。
さらに、上記(エ)ないし(カ)の記載からみて、雄螺子部42Bにカバーナット46が締結されると、コレット44が縮径し、その際に、当該コレット44の3つの凸部62のうち、軸線方向の中央に位置する凸部62が、配管であるパイプ15の外周面に対して、芯材16の周溝22に径方向で重なる位置で食い込みつつ、残りの2本の凸部62が、当該食い込み位置に対して、軸線方向の前方及び後方でかつ、前記周溝22に径方向で重ならない位置で、パイプ15の外周面に対して食い込むものと認められる。

よって、甲1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「甲1発明」という。)。

「筒状をなし、雄螺子部42Bが形成された外筒42が保持された基体12と、
基体12の一部であって、パイプ15に連結されている芯材16と、
パイプ15に外嵌された状態で基体12に係合されるコレット44と、
パイプ15に遊嵌された状態で外筒42に設けられた雄螺子部42Bと螺合され、基体12と共働して、コレット44を継手奥側へ押し込みつつ縮径させるカバーナット46と、
芯材16の外周面に設けられた周溝22と、
周溝22に嵌着されたOリング26と、
を有する配管用継手10であって、
芯材16において、周溝22よりも奥側の外周面には周溝20が設けられ、該周溝20にはOリング24が嵌着され、
コレット44は内周面に3本の凸部62が周設され、コレット44が縮径した際には、
3本の凸部62のうち、軸線方向の中央に位置する凸部62が、パイプ15の外周面に対して周溝22に径方向で重なる位置で食い込むとともに、残りの2本の凸部62が、当該食い込み位置に対して軸線方向の前方及び後方でかつ、周溝22に径方向で重ならない位置で、パイプ15の外周面に対して食い込む、
配管用継手10。」

(2)甲2について
甲2には、「管継手」について、図面とともに次の記載がある。

(ア)「図5、図6に示すように、管継手本体30のニップル部31の周面にも、周方向の三つの凹溝32a、32b、32cが、ニップル部31の軸方向に沿って等ピッチで形成されている。この三つの凹溝32a、32b、32cは、パイプ40がこの割りリング10やバンド20で締め付けられてニップル部31の周面に狭着される際、パイプ内面の樹脂が食い込んで、パイプ40の抜けを阻止するところの食い込み溝となっている。
このニップル部31の三つの食い込み溝32a、32b、32cは、前記割りリング10がニップル部31の軸方向において正確な位置に装着された際、割りリング10の内面の前記三つの突条13と対向一致するようになっている。
このことにより、パイプ外面の樹脂への前記突条13の食い込み作用、およびパイプ内面の樹脂の前記食い込み溝32a、32b、32cへの食い込み作用が互いに増幅され、パイプ40に対する抜け止め作用がより強固となる。なお、このニップル部31の周面の三つの食い込み溝32a、32b、32cの内の一つ(真ん中の溝32b)は、パッキン33(Oリング33)の装着溝となっている。」(段落0039ないし0041)

(イ)「

」(図6)

以上によれば、甲2には、次の事項が記載されていると認められる。

「管継手本体30のニップル部31に外嵌したパイプ40を、内面に三つの突条13が形成された割りリング10により、前記ニップル部31の三つの食い込み溝32a、32b、32cと前記三つの突条13とがそれぞれ対向一致するように締め付けることで、該ニップル部31にパイプ40を強固に固定する管継手と、そのような割りリングによる管継手の固定技術。」

(3)甲3について
甲3には、「管継手」について、図面とともに次の記載がある。

(ア)「(作用)本発明1の管継手は、チャックリングとしてその一端部の外周面に袋ナット締付け筒の当り面に当接するテーパー状の第1の当り面が設けられ、他端部に、外周面に袋ナットの当り面に当接する第2の当り面が設けられているとともに、その内周面に複数の凸部が設けられたものを用いることにより、接続される管状体の管端をチャックリングを介して、袋ナットにて締めつけたとき、袋ナットの当り面とチャックリングの第2の当り面間を摺動させつつ、比較的小さな圧縮力にてチャックリングを縮径するように変形させることができる。
これにより、両当り面管が面シールされるとともに、一部の凸部が管状体の管端を押圧して管挿入部側に変形させ、その内周面を凹部内に装着され。パッキングの外周面に密着させて両者間を面シールさせることができる。」(段落0008ないし0009)

(イ)「図1は、本発明の管継手の一例を、管状体を接続する状態をとともに示す断面図である。本発明の管継手は継手胴部1の少なくとも一端に設けられた管挿入部11と該管挿入部11の外側に所定間隙をおいて設けられた袋ナット締付け筒12との間にて、接続される管状体5の管端をチャックリング3を介して袋ナット2にて締付ける管継手である。
上記管挿入部11には、先端部の外周面に、周方向に沿って凹部111と、断面が鋭角をなす係止部112とが設けられており、凹部内111はに、パッキング4が装着されている。袋ナット2は、一端部の内周面にねじ部21が設けられて袋ナット締付け筒12と螺合し、他端部の内周面にテーパー状の当り面22が設けられてチャックリング3の移動を規制している。
図2はチャックリング3の側面図である。チャックリング3には、一端部の外周面に袋ナット締付け筒12の当り面121に当接するテーパー状の第1の当り面31が設けられ、他端部に、外周面に袋ナットの当り面22に当接する第2の当り面32が設けられている。
チャックリング3のの端部は、軸方向に沿って複数個所切れ欠かれてお、複数の短冊状片が形成されており、各短冊状片の内周面には管挿入部11の凹部111及び係止部112に向けて複数の凸部33、33’が設けられている。尚、チャックリング3の他端部は、必ずしも切れ欠かれていなくてもよい。
袋ナット締付け筒12に袋ナット2を締めつけたとき、袋ナット締付け筒121の当り面とチャックリングの第1の当り面31間、袋ナットの当り面22とチャックリングの第2の当り面32間が摺動して面シールしつつ、チャックリング3の一部の凸部33が管状体5の端部を管挿入部11の凹部112側に変形させてその内周面を凹部112内に装着されたパッキング4の外周面に密着シールさせるとともに、他の凸部33’が管挿入部11の係止部33との間で管状体5の管端を挟持するようにして軸方向の移動を規制できるようにされている。」(段落0014ないし0018)

(ウ)「

」(図1)

ここで、上記(ア)ないし(ウ)の記載から、袋ナット2は、管状体5に遊嵌された状態で袋ナット締付け筒12に設けられたねじ部と螺合され、継手胴部1と共働して、チャックリング3を継手奥側へ押し込みつつ縮径させるものであると認められる。
上記(ウ)の記載から、管挿入部11の外周面に、継手胴部1奥側に向かうにつれ漸次拡径する傘状のテーパ面を有するように環状突起部が形成されていること及び凹部111よりも奥側の外周面において軸方向に沿う断面が平坦に形成されることが見て取れる。
また、上記(ア)ないし(ウ)の記載から、チャックリング3は内周面に2本の凸部が周設され、チャックリング3が縮径した際には、2本の凸部のうち、軸線方向の継手胴部1奥側に位置する凸部が、管状体5の外周面に対して凹部111に径方向で重なる位置で食い込むとともに、残りの1本の凸部が、当該食い込み位置に対して軸線方向の継手胴部1手前側でかつ、凹部111に径方向で重ならない位置で、管状体5の外周面に対して食い込み、前記残りの1本の凸部が、環状突起部のテーパ面に対応する管状体5の外周面に食い込むものと認められる。

以上によれば、甲3には、次の発明が記載されていると認められる(以下「甲3発明」という。)。

「筒状をなし、外周面にねじ部が設けられた袋ナット締付け筒12を有する継手胴部1と、
継手胴部1に設けられ、管状体5の内周面に嵌入される管挿入部11と、
管状体5に外嵌された状態で継手胴部1に係合されるチャックリング3と、
管状体5に遊嵌された状態で袋ナット締付け筒12に設けられたねじ部と螺合され、継手胴部1と共働して、チャックリング3を継手奥側へ押し込みつつ縮径させる袋ナット2と、
管挿入部11の外周面に設けられ、チャックリング3が縮径した際に管状体5内周面に食い込み、継手胴部1奥側に向かうにつれ漸次拡径する傘状のテーパ面を有するように形成されている環状突起部と、
管挿入部11の外周面において環状突起部の奥側に設けられた凹部111と、
凹部111に嵌着されたパッキング4と、
を有する管継手であって、
管挿入部11において、凹部111よりも奥側の外周面は、軸方向に沿う断面が平坦に形成され、
チャックリング3は内周面に2本の凸部が周設され、チャックリング3が縮径した際には、
2本の凸部のうち、軸線方向の継手胴部1奥側に位置する凸部が、管状体5の外周面に対して凹部111に径方向で重なる位置で食い込むとともに、残りの1本の凸部が、当該食い込み位置に対して軸線方向の継手胴部1手前側でかつ、凹部111に径方向で重ならない位置で、管状体5の外周面に対して食い込み、
前記残りの1本の凸部が、環状突起部のテーパ面に対応する管状体5の外周面に食い込む、
管継手。」

(4)甲8について
甲8には、「樹脂パイプ用継手」について、図面とともに次の記載がある。

(ア)「【従来の技術】従来の樹脂パイプ用継手は、図10に示すように、継手本体40と、継手本体40に螺合する袋ナット41と、袋ナット41に内嵌されるCリング42と、を備え、袋ナット41を螺進させることで、袋ナット41の内周面に設けられたテーパ面41aが、Cリング42の外周面に設けられたテーパ面42aを径方向内方へ押圧し、Cリング42を縮径させて、樹脂パイプ43をCリング42にて締め付けるよう構成されたものが広く用いられている。」(段落0002)

(イ)「

」(図10)

上記(イ)の記載から、継手本体40の内筒部の外周面において、継手本体40奥側に向かうにつれ漸次拡径する傘状のテーパ面を有するように形成されている環状突起部を備えることがわかる。

以上によれば、甲8には、次の事項が記載されていると認められる。

「樹脂パイプ43と、継手本体40と、継手本体40に螺合する袋ナット41と、袋ナット41に内嵌されるCリング42とを備え、継手本体40は、その内筒部の外周面において、継手本体40奥側に向かうにつれ漸次拡径する傘状のテーパ面を有するように形成されている環状突起部を備える継手。」

(5)甲9について
甲9には、「柔軟樹脂管用メカニカル継手」について、図面とともに次の記載がある。

(ア)「次に、図7に示す継手の構造としては胴1、Oリング21、六角穴付ボルト26、押え輪27、割りリング28を有する。樹脂管接続部の接続方法は樹脂管6を胴1のスリーブ7に挿入すると、スリーブに嵌め込んでいるOリングと樹脂管の内面が密着して止水する。次に、六角穴付ボルト26を締め込んで押え輪27の当り面29と当り面30を密着させると、割りリング28の突起部が樹脂管の外面を押えると同時に直下のスリーブ7の突起部が樹脂管内面に食い込むために、管内圧力により樹脂管は胴から抜けない。」(段落0002)

(イ)「

」(図7)

上記(イ)の記載から、胴1のスリーブ7の外周面において、胴1奥側に向かうにつれ漸次拡径する傘状のテーパ面を有するように形成されている環状突起部を備え、スリーブ7の外周面において環状突起部の奥側に設けられたOリング21嵌着溝と、Oリング21嵌着溝に嵌着されたOリング21を有することがわかる。

以上によれば、甲9には、次の事項が記載されていると認められる。

「樹脂管6と、スリーブ7を備えた胴1、Oリング21、内面に複数の突起部を備えた割りリング28を有し、胴1のスリーブ7の外周面において、胴1奥側に向かうにつれ漸次拡径する傘状のテーパ面を有するように形成されている環状突起部を備え、スリーブ7の外周面において環状突起部の奥側に設けられたOリング21嵌着溝と、Oリング21嵌着溝に嵌着されたOリング21を有しており、樹脂管6を胴1のスリーブ7に挿入し、スリーブ7に嵌め込んでいるOリングと樹脂管6の内面を密着させて止水し、割りリング28の突起部が樹脂管6の外面を押えると同時に直下のスリーブ7の突起部を樹脂管6内面に食い込ませる継手。」

3 当審の判断
(1)甲1を主引例とした場合
本件特許発明と甲1発明とを、その構成、機能又は技術的意義を踏まえて対比すると、甲1発明の「配管用継手10」、「雄螺子部42B」及び「外筒42」は、それぞれ本件特許発明の「管継手」、「ねじ部」及び「外筒部」に相当し、また、甲1発明の「筒状をなし、雄螺子部42Bが形成された外筒42が保持された基体12」は、本件特許発明の「筒状をなし、外周面にねじ部が設けられた外筒部を有する継手本体」に相当する。
甲1発明の「パイプ15」は、本件特許発明の「接続管」に相当し、また、甲1発明の「基体12の一部であって、パイプ15に連結されている芯材16」は、本件特許発明の「前記継手本体に設けられ、接続管の内周面に嵌入される内筒部」に相当する。
甲1発明の「パイプ15に外嵌された状態で基体12に係合されるコレット44」は、本件特許発明の「前記接続管に外嵌された状態で継手本体に係合される割リング」と、「前記接続管に外嵌された状態で継手本体に係合される「リング状部材」」である限りにおいて一致するといえる。
甲1発明の「パイプ15に遊嵌された状態で外筒42に設けられた雄螺子部42Bと螺合され、基体12と共働して、コレット44を継手奥側へ押し込みつつ縮径させるカバーナット46」は、本件特許発明の「前記接続管に遊嵌された状態で外筒部に設けられた前記ねじ部と螺合され、前記継手本体と共働して、前記割リングを継手奥側へ押し込みつつ縮径させる締付け部材」と、「前記接続管に遊嵌された状態で外筒部に設けられた前記ねじ部と螺合され、前記継手本体と共働して、前記「リング状部材」を継手奥側へ押し込みつつ縮径させる締付け部材」である限りにおいて一致する。
甲1発明の「芯材16の外周面に設けられた周溝22」は、本件特許発明の「前記内筒部の外周面において前記環状突起部の奥側に設けられたシール部材嵌着溝」と、「前記内筒部の外周面に設けられたシール部材嵌着溝」であるという限りにおいて一致する。
甲1発明の「周溝22に嵌着されたOリング26」は、本件特許発明の「前記シール部材嵌着溝に嵌着されたシール部材」に相当する。
さらに、甲1発明の「3本の凸部62」は、本件特許発明の「3本の突条」に相当する。
そして、甲1発明の「コレット44は内周面に3本の凸部62が周設され、コレット44が縮径した際には、
3本の凸部62のうち、軸線方向の中央に位置する凸部62が、パイプ15の外周面に対して周溝22に径方向で重なる位置で食い込むとともに、残りの2本の凸部62が、当該食い込み位置に対して軸線方向の前方及び後方でかつ、周溝22に径方向で重ならない位置で、パイプ15の外周面に対して食い込む」は、本件特許発明の「前記割リングは内周面に3本の突条が周設され、当該割リングが縮径した際には、
当該3本の突条のうち、軸線方向の中央に位置する突条が、前記接続管の外周面に対して前記シール部材嵌着溝に径方向で重なる位置で食い込むとともに、残りの2本の突条が、当該食い込み位置に対して軸線方向の前方及び後方でかつ、前記シール部材嵌着溝に径方向で重ならない位置で、前記接続管の外周面に対して食い込み」と、「前記「リング状部材」は内周面に3本の突条が周設され、当該「リング状部材」が縮径した際には、
当該3本の突条のうち、軸線方向の中央に位置する突条が、前記接続管の外周面に対して前記シール部材嵌着溝に径方向で重なる位置で食い込むとともに、残りの2本の突条が、当該食い込み位置に対して軸線方向の前方及び後方でかつ、前記シール部材嵌着溝に径方向で重ならない位置で、前記接続管の外周面に対して食い込む」という限りにおいて一致する。

そうすると、本件特許発明と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]
「筒状をなし、外周面にねじ部が設けられた外筒部を有する継手本体と、
前記継手本体に設けられ、接続管の内周面に嵌入される内筒部と、
前記接続管に外嵌された状態で継手本体に係合されるリング状部材と、
前記接続管に遊嵌された状態で外筒部に設けられた前記ねじ部と螺合され、前記継手本体と共働して、前記リング状部材を継手奥側へ押し込みつつ縮径させる締付け部材と、
前記内筒部の外周面に設けられたシール部材嵌着溝と、
前記シール部材嵌着溝に嵌着されたシール部材と、
を有する管継手であって、
前記リング状部材は内周面に3本の突条が周設され、当該リング状部材が縮径した際には、
当該3本の突条のうち、軸線方向の中央に位置する突条が、前記接続管の外周面に対して前記シール部材嵌着溝に径方向で重なる位置で食い込むとともに、
残りの2本の突条が、当該食い込み位置に対して軸線方向の前方及び後方でかつ、前記シール部材嵌着溝に径方向で重ならない位置で、前記接続管の外周面に対して食い込む、
管継手。」

[相違点1]
本件特許発明では、「リング状部材」が、「割リング」であるのに対して、甲1発明では「コレット44」である点。

[相違点2]
本件特許発明は、「前記内筒部の外周面に設けられ、割リングが縮径した際に接続管内周面に食い込み、前記継手本体奥側に向かうにつれ漸次拡径する傘状のテーパ面を有するように形成されている環状突起部」を有し、当該「環状突起部の奥側に」シール部材嵌着溝を有するのに対して、甲1発明はそのような環状突起部を有しない点。

[相違点3]
本件特許発明では、「前記内筒部において、前記シール部嵌着溝よりも奥側の外周面は、軸方向に沿う断面が平坦に形成され」るのに対して、甲1発明では、「芯材16において、周溝22よりも奥側の外周面には周溝20が設けられ、該周溝20にはOリング24が嵌着され」る点。

[相違点4]
本件特許発明では、「前記割リングにおいて、前記残りの2本の突条のうち、手前側の突条と対応する部分が前記締付け部材によって押圧されることで、当該手前側の突条が、前記環状突起部のテーパ面に対応する前記接続管の外周面に食い込み、
前記割リングにおいて、前記残りの2本の突条のうち、奥側の突条と対応する部分が前記外筒部によって押圧されることで、当該奥側の突条が、前記奥側の外周面に対応する前記接続管の外周面に食い込む」のに対して、甲1発明では、そのような構成が特定されていない点。

以下、事案に鑑み、まず相違点3及び4について検討する。
甲1発明では、「芯材16において、周溝22よりも奥側の外周面には周溝20が設けられ、該周溝20にはOリング24が嵌着され」ており、甲1には、当該奥側の外周面において、軸方向に沿う断面が平坦に形成されることについての記載も示唆もない。
また、甲1発明は、上記周溝20及びOリング24によって接続部のシール性を確保するものであるところ、上記周溝20及びOリング24を敢えて取り除いて上記奥側の外周面を平坦にするよう構成することの動機付けが存在しない。
さらに、「前記内筒部において、前記シール部嵌着溝よりも奥側の外周面は、軸方向に沿う断面が平坦に形成」することを前提として、「前記割リングにおいて、前記残りの2本の突条のうち、奥側の突条と対応する部分が前記外筒部によって押圧されることで、当該奥側の突条が、前記奥側の外周面に対応する前記接続管の外周面に食い込む」という構成は、甲2、甲3、甲8及び甲9のいずれにも記載されていない。
したがって、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件特許発明は、甲1発明並びに甲2、甲3、甲8及び甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)甲3を主引例とした場合
本件特許発明と甲3発明とを、その構成、機能又は技術的意義を踏まえて対比すると、甲3発明の「管継手」、「袋ナット締付け筒12」は、それぞれ、本件特許発明の「管継手」、「外筒部」に相当し、また、甲3発明の「筒状をなし、外周面にねじ部が設けられた袋ナット締付け筒12を有する継手胴部1」は、本件特許発明の「筒状をなし、外周面にねじ部が設けられた外筒部を有する継手本体」に相当する。
甲3発明の「管状体5」は、本件特許発明の「接続管」に相当し、また、甲3発明の「継手胴部1に設けられ、管状体5の内周面に嵌入される管挿入部11」は、本件特許発明の「前記継手本体に設けられ、接続管の内周面に嵌入される内筒部」に相当する。
甲3発明の「管状体5に外嵌された状態で継手胴部1に係合されるチャックリング3」は、本件特許発明の「前記接続管に外嵌された状態で継手本体に係合される割リング」と、「前記接続管に外嵌された状態で継手本体に係合される「リング状部材」」である限りにおいて一致する。
甲3発明の「管状体5に遊嵌された状態で袋ナット締付け筒12に設けられたねじ部と螺合され、継手胴部1と共働して、チャックリング3を継手奥側へ押し込みつつ縮径させる袋ナット2」は、本件特許発明の「前記接続管に遊嵌された状態で外筒部に設けられた前記ねじ部と螺合され、前記継手本体と共働して、前記割リングを継手奥側へ押し込みつつ縮径させる締付け部材」と、「前記接続管に遊嵌された状態で外筒部に設けられた前記ねじ部と螺合され、前記継手本体と共働して、前記「リング状部材」を継手奥側へ押し込みつつ縮径させる締付け部材」である限りにおいて一致する。
甲3発明の「管挿入部11の外周面に設けられ、チャックリング3が縮径した際に管状体5内周面に食い込み、継手胴部1奥側に向かうにつれ漸次拡径する傘状のテーパ面を有するように形成されている環状突起部」は、本件特許発明の「前記内筒部の外周面に設けられ、割リングが縮径した際に接続管内周面に食い込み、前記継手本体奥側に向かうにつれ漸次拡径する傘状のテーパ面を有するように形成されている環状突起部」と、「前記内筒部の外周面に設けられ、「リング状部材」が縮径した際に接続管内周面に食い込み、前記継手本体奥側に向かうにつれ漸次拡径する傘状のテーパ面を有するように形成されている環状突起部」であるという限りにおいて一致する。
甲3発明の「管挿入部11の外周面において環状突起部の奥側に設けられた凹部111」、「凹部111に嵌着されたパッキング4」は、それぞれ、本件特許発明の「前記内筒部の外周面において前記環状突起部の奥側に設けられたシール部材嵌着溝」、「前記シール部材嵌着溝に嵌着されたシール部材」に相当する。
甲3発明の「管挿入部11において、凹部111よりも奥側の外周面は、軸方向に沿う断面が平坦に形成され」る態様は、本件特許発明の「前記内筒部において、前記シール部嵌着溝よりも奥側の外周面は、軸方向に沿う断面が平坦に形成され」る態様に相当する。

よって、本件特許発明と甲3発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]
「筒状をなし、外周面にねじ部が設けられた外筒部を有する継手本体と、
前記継手本体に設けられ、接続管の内周面に嵌入される内筒部と、
前記接続管に外嵌された状態で継手本体に係合されるリング状部材と、
前記接続管に遊嵌された状態で外筒部に設けられた前記ねじ部と螺合され、前記継手本体と共働して、前記リング状部材を継手奥側へ押し込みつつ縮径させる締付け部材と、
前記内筒部の外周面に設けられ、リング状部材が縮径した際に接続管内周面に食い込み、前記継手本体奥側に向かうにつれ漸次拡径する傘状のテーパ面を有するように形成されている環状突起部と、
前記内筒部の外周面において前記環状突起部の奥側に設けられたシール部材嵌着溝と、
前記シール部材嵌着溝に嵌着されたシール部材と、
を有する管継手であって、
前記内筒部において、前記シール部嵌着溝よりも奥側の外周面は、軸方向に沿う断面が平坦に形成される、
管継手。」

[相違点5]
本件特許発明では、「リング状部材」が、「割リング」であるのに対して、甲1発明では「チャックリング3」である点。

[相違点6]
本件特許発明では、「前記割リングは内周面に3本の突条が周設され、当該割リングが縮径した際には、
当該3本の突条のうち、軸線方向の中央に位置する突条が、前記接続管の外周面に対して前記シール部材嵌着溝に径方向で重なる位置で食い込むとともに、残りの2本の突条が、当該食い込み位置に対して軸線方向の前方及び後方でかつ、前記シール部材嵌着溝に径方向で重ならない位置で、前記接続管の外周面に対して食い込み、
前記割リングにおいて、前記残りの2本の突条のうち、手前側の突条と対応する部分が前記締付け部材によって押圧されることで、当該手前側の突条が、前記環状突起部のテーパ面に対応する前記接続管の外周面に食い込み、
前記割リングにおいて、前記残りの2本の突条のうち、奥側の突条と対応する部分が前記外筒部によって押圧されることで、当該奥側の突条が、前記奥側の外周面に対応する前記接続管の外周面に食い込む」のに対して、甲3発明では、「チャックリング3は内周面に2本の凸部が周設され、チャックリング3が縮径した際には、
2本の凸部のうち、軸線方向の継手胴部1奥側に位置する凸部が、管状体5の外周面に対して凹部111に径方向で重なる位置で食い込むとともに、残りの1本の凸部が、当該食い込み位置に対して軸線方向の継手胴部1手前側でかつ、凹部111に径方向で重ならない位置で、管状体5の外周面に対して食い込み、
前記残りの1本の凸部が、環状突起部のテーパ面に対応する管状体5の外周面に食い込む」点。

以下、事案に鑑み、まず相違点6について検討する。
甲2に記載された技術は、「管継手本体30のニップル部31に外嵌したパイプ40を、内面に三つの突条13が形成された割りリング10により、前記ニップル部31の三つの食い込み溝32a、32b、32cと前記三つの突条13とがそれぞれ対向一致するように締め付けることで、該ニップル部31にパイプ40を強固に固定する」ものであるから、甲3発明において甲2に記載された技術を適用する場合、上記「三つの突条13」だけでなく「三つの食い込み溝32a、32b、32c」も併せて適用することが自然であり、甲3発明の「管挿入部11において、凹部111よりも奥側の外周面は、軸方向に沿う断面が平坦に形成され」るという構成を維持したまま、甲2に記載された技術のうち「三つの突条13」のみを甲3発明に適用することの動機付けが存在しない。
また、「前記内筒部において、前記シール部嵌着溝よりも奥側の外周面は、軸方向に沿う断面が平坦に形成」することを前提として、「前記割リングにおいて、前記残りの2本の突条のうち、奥側の突条と対応する部分が前記外筒部によって押圧されることで、当該奥側の突条が、前記奥側の外周面に対応する前記接続管の外周面に食い込む」という構成は、甲8及び甲9のいずれにも記載されていない。
したがって、相違点5について検討するまでもなく、本件特許発明は、甲3発明並びに甲2、甲8及び甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、「本件特許発明は、甲第1号証の第2実施形態に記載の発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。」、「本件特許発明は、甲第1号証の第2実施形態に記載の発明との間に仮に相違点があったとしても、甲第1号証の第1実施形態に記載の発明との組合せにより当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」及び「本件特許発明は、甲第1号証の第2実施形態に記載の発明と甲第2号証に記載の発明との組合せであり、かつ甲第1号証記載の発明と甲第2号証記載の発明とは組合せが容易であるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」と主張する。
しかし、甲1の第2実施形態に記載の発明は、コレット44の内周面に5つの凸部62を有するものであり、少なくとも上記相違点3及び4に係る本件特許発明の発明特定事項を有するものではないから、本件特許発明は、甲1の第2実施形態に記載の発明であるとはいえない。
また、上記相違点3及び4に係る本件特許発明の発明特定事項が甲1発明並びに甲2、甲3、甲8及び甲9に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たものでないことは、上記3(1)において示したとおりであるから、本件特許発明は、上記3(1)において示したことと同様の理由により、甲1の第2実施形態に記載の発明と甲1の第1実施形態に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲1の第2実施形態に記載の発明と甲2に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。これらの判断は、申立人が平成30年12月7日に意見書とともに提出した甲第5号証ないし甲第7号証を考慮しても同様である。
したがって、申立人の主張する特許異議申立ての理由によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状をなし、外周面にねじ部が設けられた外筒部を有する継手本体と、
前記継手本体に設けられ、接続管の内周面に嵌入される内筒部と、
前記接続管に外嵌された状態で継手本体に係合される割リングと、
前記接続管に遊嵌された状態で外筒部に設けられた前記ねじ部と螺合され、前記継手本体と共働して、前記割リングを継手奥側へ押し込みつつ縮径させる締付け部材と、
前記内筒部の外周面に設けられ、割リングが縮径した際に接続管内周面に食い込み、前記継手本体奥側に向かうにつれ漸次拡径する傘状のテーパ面を有するように形成されている環状突起部と、
前記内筒部の外周面において前記環状突起部の奥側に設けられたシール部材嵌着溝と、
前記シール部材嵌着溝に嵌着されたシール部材と、
を有する管継手であって、
前記内筒部において、前記シール部嵌着溝よりも奥側の外周面は、軸方向に沿う断面が平坦に形成され、
前記割リングは内周面に3本の突条が周設され、当該割リングが縮径した際には、
当該3本の突条のうち、軸線方向の中央に位置する突条が、前記接続管の外周面に対して前記シール部材嵌着溝に径方向で重なる位置で食い込むとともに、
残りの2本の突条が、当該食い込み位置に対して軸線方向の前方及び後方でかつ、前記シール部材嵌着溝に径方向で重ならない位置で、前記接続管の外周面に対して食い込み、
前記割リングにおいて、前記残りの2本の突条のうち、手前側の突条と対応する部分が前記締付け部材によって押圧されることで、当該手前側の突条が、前記環状突起部のテーパ面に対応する前記接続管の外周面に食い込み、
前記割リングにおいて、前記残りの2本の突条のうち、奥側の突条と対応する部分が前記外筒部によって押圧されることで、当該奥側の突条が、前記奥側の外周面に対応する前記接続管の外周面に食い込む、
ことを特徴とする管継手。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-07-09 
出願番号 特願2017-113861(P2017-113861)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (F16L)
P 1 651・ 121- YAA (F16L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柳本 幸雄  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 松下 聡
大屋 静男
登録日 2017-11-10 
登録番号 特許第6237949号(P6237949)
権利者 株式会社オンダ製作所
発明の名称 管継手  
代理人 立花 顕治  
代理人 山下 未知子  
代理人 桝田 剛  
代理人 桝田 剛  
代理人 山下 未知子  
代理人 立花 顕治  

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