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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F25B
管理番号 1354928
異議申立番号 異議2018-700814  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-05 
確定日 2019-07-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6326708号発明「冷凍装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6326708号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1、3、〔2、4-6〕について訂正することを認める。 特許第6326708号の請求項2、4、5及び6に係る特許を維持する。 特許第6326708号の請求項1及び3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6326708号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成28年5月10日(優先権主張 平成27年5月14日)を国際出願日とする出願であって、平成30年4月27日にその特許権の設定登録がされ、平成30年5月23日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年10月5日に特許異議申立人菅原一郎(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、平成31年2月28日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成31年4月22日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、令和元年6月4日に意見書を提出した。

第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。なお、本件訂正請求は、一群の請求項〔1-6〕に対して請求されたものであり、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1-6〕について請求されたものである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、「第1の凝縮部及び第1の蒸発部を有する第1のサーマルサイフォンと、
前記蒸発器及び前記第1の蒸発部のそれぞれによって冷却される貯蔵室と、
をさらに備え、
前記第1の凝縮部と前記吸熱部との間で熱交換して、前記第1の凝縮部内の冷媒が冷却されて凝縮し、
前記第1の蒸発部における前記冷媒の蒸発によって前記貯蔵室が冷却される請求項1に記載の冷凍装置。」と記載されているのを、「圧縮機、凝縮器、減圧器及び蒸発器がこの順で環状に接続されてなる冷媒回路と、
容器内に充填された作動流体が圧縮されるとともに、圧縮により生じる熱が放出される放熱部、及び、前記放熱部で圧縮された作動流体が膨張する吸熱部を有する蓄冷式冷凍機と、
を備え、
前記凝縮器と前記吸熱部との間で熱交換して、前記凝縮器内の冷媒が冷却され、
第1の凝縮部及び第1の蒸発部を有する第1のサーマルサイフォンと、
前記蒸発器及び前記第1の蒸発部のそれぞれによって冷却される貯蔵室と、
をさらに備え、
前記第1の凝縮部と前記吸熱部との間で熱交換して、前記第1の凝縮部内の冷媒が冷却されて凝縮し、
前記第1の蒸発部における前記冷媒の蒸発によって前記貯蔵室が冷却されることを特徴とする冷凍装置。」に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、「請求項1乃至3のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項2」に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1乃至3のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項2」に訂正する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に、「請求項1乃至5のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項2、4及び5のいずれか1項」に訂正する。
(7) 訂正事項7
発明の詳細な説明の段落【0006】に、「冷媒が冷却される。」とあるのを、「冷媒が冷却される。また、冷凍装置は、第1の凝縮部及び第1の蒸発部を有する第1のサーマルサイフォンと、蒸発器及び第1の蒸発部のそれぞれによって冷却される貯蔵室と、をさらに備え、第1の凝縮部と吸熱部との間で熱交換して、第1の凝縮部内の冷媒が冷却されて凝縮し、第1の蒸発部における冷媒の蒸発によって貯蔵室が冷却される。」に訂正する。

2 本件訂正の適否について
(1) 訂正事項1及び3
前記訂正事項1及び3は、請求項1及び3を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
(2) 訂正事項2
前記訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用する請求項2を独立形式に改めたものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
(3) 訂正事項4
前記訂正事項4は、本件訂正前の請求項4が本件訂正前の請求項1乃至3を引用していたところ、前記訂正事項1及び3により請求項1及び3が削除されたことに伴い、請求項2を引用するものとするもので、引用する請求項を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、前記訂正事項4は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
(4) 訂正事項5
前記訂正事項5は、本件訂正前の請求項5が本件訂正前の請求項1乃至3を引用していたところ、前記訂正事項1及び3により請求項1及び3が削除されたことに伴い、請求項2を引用するものとするもので、引用する請求項を減ずるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、前記訂正事項5は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
(5) 訂正事項6
前記訂正事項6は、本件訂正前の請求項6が本件訂正前の請求項1乃至5を引用していたところ、前記訂正事項1及び3により請求項1及び3が削除されたことに伴い、請求項2、4及び5のいずれか一項を引用するものとするもので、引用する請求項を減ずるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、前記訂正事項6は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
(6) 訂正事項7
訂正事項7は、前記訂正事項2の特許請求の範囲の訂正に伴う明細書の訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
(7) 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書1、3及び4号に掲げる事項を目的とするものであって、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1、3、〔2、4-6〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
前記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1-6に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。以下、本件特許に係る発明を請求項の番号に従って「本件発明1」などといい、総称して「本件発明」という。「【 請求項1】
削除
【請求項2】
圧縮機、凝縮器、減圧器及び蒸発器がこの順で環状に接続されてなる冷媒回路と、
容器内に充填された作動流体が圧縮されるとともに、圧縮により生じる熱が放出される放熱部、及び、前記放熱部で圧縮された作動流体が膨張する吸熱部を有する蓄冷式冷凍機と、
を備え、
前記凝縮器と前記吸熱部との間で熱交換して、前記凝縮器内の冷媒が冷却され、
第1の凝縮部及び第1の蒸発部を有する第1のサーマルサイフォンと、
前記蒸発器及び前記第1の蒸発部のそれぞれによって冷却される貯蔵室と、
をさらに備え、
前記第1の凝縮部と前記吸熱部との間で熱交換して、前記第1の凝縮部内の冷媒が冷却されて凝縮し、
前記第1の蒸発部における前記冷媒の蒸発によって前記貯蔵室が冷却されることを特徴とする冷凍装置。
【請求項3】
削除
【請求項4】
第2の凝縮部及び第2の蒸発部を有する第2のサーマルサイフォンをさらに備え、
前記第2の凝縮部と前記吸熱部との間で熱交換して、前記第2の凝縮部内の冷媒が冷却されて凝縮し、
前記第2の蒸発部と前記凝縮器との間で熱交換して、前記凝縮器内の冷媒が冷却される請求項2に記載の冷凍装置。
【請求項5】
前記吸熱部は、前記凝縮器に直に接する請求項2に記載の冷凍装置。
【請求項6】
前記蓄冷式冷凍機は、スターリング冷凍機である請求項2、4及び5のいずれか1項に記載の冷凍装置。

第4 取消理由についての判断
1 取消理由の概要
本件訂正前の本件特許に対し通知した取消理由は、概ね、次のとおりである。
本件特許の特許請求の範囲の請求項1、3-6に記載された発明は、その優先日前日本国内において頒布された下記の甲第1号証-甲第6号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:特開2006-170487号公報(以下「甲1」という。以下同様。)
甲第2号証:特開2001-33139号公報
甲第3号証:特開2005-16740号公報
甲第4号証:特開2011-190952号公報
甲第5号証:特開2008-76011号公報
甲第6号証:特開2004-132653号公報

2 判断
本件訂正により、請求項1及び3が削除され、請求項4-6が引用する請求項から請求項1が除かれたから、上記取消理由は解消した。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、以下を主張している。
本件特許の特許請求の範囲の請求項2、4、5及び6に記載された発明は、その優先日前に日本国内において頒布された甲1に記載された発明及び甲2-6に記載された技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 甲号証の記載
(1)甲1について
甲1には、下記の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機から吐出された冷媒を凝縮した後、蒸発せしめて冷却作用を発揮する独立した冷媒閉回路を構成する高温側冷媒回路と低温側冷媒回路とからなり、前記高温側冷媒回路の蒸発器と前記低温側冷媒回路の凝縮器とで熱交換器を構成した冷凍装置において、・・・を封入したことを特徴とする冷凍装置。」
「【0016】
次に図面を参照して本発明の実施例を詳述する。図1は本発明の冷凍装置の冷媒回路1を示している。冷媒回路1はそれぞれ独立した第1の冷媒回路としての高温側冷媒回路2と第2の冷媒回路としての低温側冷媒回路3とから構成されている。
【0017】
高温側冷媒回路2は、電動圧縮機4と、補助凝縮器5と、露付き防止パイプ6と、凝縮器8と、乾燥器12と、減圧器13と、蒸発器14と、アキュームレータ15とから構成される。・・・」
「【0020】
このとき、電動圧縮機4の能力は例えば1.5HPであり、運転中の蒸発器14の最終到達温度は-27℃乃至-35℃になる。・・・
【0021】
他方、低温側冷媒回路3は、電動圧縮機10と、油分離器18と、前記蒸発器14内に挿入された高圧側配管としての凝縮パイプ23と、第1の気液分離器29と、第1の中間熱交換器32と、第2の気液分離器33と、乾燥器35と、減圧器36と、乾燥器39と、減圧器40と、第2の中間熱交換器42と、第3の中間熱交換器44と、乾燥器45と、減圧器46と、蒸発パイプ47と、膨張タンク51と減圧器52とから構成される。
【0022】
電動圧縮機10は、前記電動圧縮機4と同様に一相若しくは三相交流電源を用いる電動圧縮機であり、当該電動圧縮機10の吐出側配管10Dには油分離器18が接続される。この油分離器18は、電動圧縮機10に戻る油戻し管19が接続される。油分離器18の出口側に接続された冷媒配管は、蒸発器14内に挿入された高圧側配管としての前記凝縮パイプ23に接続される。この凝縮パイプ23は、蒸発器14と共に、カスケードコンデンサ25を構成している。」
「【0038】
このため、第3の中間熱交換器44では気相配管43中のR50及びR740の一部が凝縮器、これら液化したR14、R50及びR740の一部が減圧器46で減圧された後、蒸発パイプ47に流入し、そこで蒸発して周囲を冷却する。実験によれば、このとき、蒸発パイプ47の温度は-160.3℃?-157.3℃という超低温となった。
【0039】
係る蒸発パイプ47を例えば冷凍庫に設置して庫内の冷却に使用することにより-157.5℃の庫内温度を実現できる。」
「【図1】



上記記載より、甲1には、下記の発明が記載されていると認める(以下「甲1発明」という。)
「電動圧縮機10と、油分離器18と、蒸発器14内に挿入された高圧側配管としての凝縮パイプ23と、第1の気液分離器29と、第1の中間熱交換器32と、第2の気液分離器33と、乾燥器35と、減圧器36と、乾燥器39と、減圧器40と、第2の中間熱交換器42と、第3の中間熱交換器44と、乾燥器45と、減圧器46と、蒸発パイプ47と、膨張タンク51と減圧器52とから構成される低温側冷媒回路3と、電動圧縮機4と、補助凝縮器5と、露付き防止パイプ6と、凝縮器8と、乾燥器12と、減圧器13と、蒸発器14と、アキュームレータ15とから構成される高温側冷媒回路2と、前記蒸発パイプ47によって冷却される冷凍庫の庫内とを備え、前記高温側冷媒回路2の蒸発器14と前記低温側冷媒回路3の凝縮パイプ23とで熱交換器を構成した冷凍装置。」

(2)甲2ないし甲6に記載された周知技術
甲2ないし甲6の記載により、本件優先日前に、蓄冷式冷凍機としてスターリング冷凍機は周知技術であった(以下「周知技術」という。)。

(3)甲5に記載された技術
甲5には、以下の記載がある。
「【0009】
この冷却庫は、図示しない開閉扉が設けられた断熱部材から成る矩形箱状の冷却庫本体10と、冷却庫本体10内の背面側に固定された第1蒸発器21を有する第1冷却回路20と、冷却庫本体10内の背面側に固定された第2蒸発器31を有する第2冷却回路30と、各冷却回路20,30の温度をそれぞれ検知可能な第1温度センサ41及び第2温度センサ42とを備えている。各冷却回路20,30内には作動流体として二酸化炭素が封入されている。」
「【0013】
凝縮器22は複数の銅製パイプ22aから成り、各銅製パイプ22aはスターリング冷凍機100の円筒状の冷却部101の外周面のうち略半周に接触するように形成されるとともに、各銅製パイプ22aは冷却部101の軸方向に並設されている。各銅製パイプ22aの上端は上端側集合管22b内に連通し、各銅製パイプ22aの下端は下端側集合管22c内に連通している。凝縮器22内で液化した作動流体が自重によって第1蒸発器21側に流通するように、下端側集合管22cは第1蒸発器21の入口よりも上方に設けられている。」
「【0027】
ここで、冷却庫本体10内には2つの冷却回路20,30が設けられているので、長期の使用や破損等によって例えば第1冷却回路20内の作動流体が不足し、第1冷却回路20の第1蒸発器21によって冷却庫本体10内を冷却できなくなった場合でも、第2冷却回路30の第2蒸発器31によって冷却庫本体10内が冷却される。」
上記記載より、甲5には、下記の事項が記載されていると認める(以下「甲5記載技術」という。)
「冷却庫本体に、スターリング冷凍機の冷却部に凝縮器が接触する2つの冷却回路を設けること。」

3 判断
(1)本件発明2について
甲1発明における「電動圧縮機10」は、その機能・作用等により本件発明2における「圧縮機」に相当する。
同様に、「凝縮パイプ23」は「凝縮器」に、「減圧器46」は「減圧器」に、「蒸発パイプ47」は「蒸発器」に相当する。
甲1の図1から「電動圧縮機10」、「凝縮パイプ23」、「減圧器46」及び「蒸発パイプ47」がこの順で環状に接続されていることが看取できるから、甲1発明における「低温側冷媒回路3」は、本件発明2における「圧縮機、凝縮器、減圧器及び蒸発器がこの順で環状に接続されてなる冷媒回路」に相当する。
甲1発明における「電動圧縮機4と、補助凝縮器5と、露付き防止パイプ6と、凝縮器8と、乾燥器12と、減圧器13と、蒸発器14と、アキュームレータ15とから構成される高温側冷媒回路2」と、本件発明2における「容器内に充填された作動流体が圧縮されるとともに、圧縮により生じる熱が放出される放熱部、及び、前記放熱部で圧縮された作動流体が膨張する吸熱部を有する蓄冷式冷凍機」とは、「冷凍機」の限りで一致する。
甲1発明の「前記高温側冷媒回路2の蒸発器14と前記低温側冷媒回路3の凝縮パイプ23とで熱交換器を構成した」態様は、本件発明1の「凝縮器」と「吸熱部」との間で熱交換して、前記凝縮器内の冷媒が冷却される態様に相当する。
甲1発明における「蒸発パイプ47によって冷却される冷凍庫の庫内」と、本件発明2における「前記蒸発器及び前記第1の蒸発部のそれぞれによって冷却される貯蔵室」とは、「蒸発器によって冷却される貯蔵室」の限りにおいて一致する。
甲1発明における「冷凍装置」は、本件発明2における「冷凍装置」に相当する。
そうすると、本件発明2と甲1発明とは、
「圧縮機、凝縮器、減圧器及び蒸発器がこの順で環状に接続されてなる冷媒回路と、
冷凍機と、
を備え、
前記凝縮器と前記冷凍機の吸熱部との間で熱交換して、前記凝縮器内の冷媒が冷却され、
前記蒸発器によって冷却される貯蔵室と、
をさらに備え、
る冷凍装置。」
で一致し、次の点で相違する。
相違点1
本件発明2は、「容器内に充填された作動流体が圧縮されるとともに、圧縮により生じる熱が放出される放熱部、及び、前記放熱部で圧縮された作動流体が膨張する吸熱部を有する蓄冷式冷凍機と、を備え、
前記凝縮器と前記吸熱部との間で熱交換して、前記凝縮器内の冷媒が冷却される」のに対して、甲1発明は、蓄冷式冷凍機を備えるものではなく、低温側冷媒回路の凝縮器が高温側冷媒回路の蒸発器と熱交換する点。
相違点2
本件発明2は「第1の凝縮部及び第1の蒸発部を有する第1のサーマルサイフォンと、
前記蒸発器及び前記第1の蒸発部によって冷却される貯蔵室と、
をさらに備え、
前記第1の凝縮部と前記吸熱部との間で熱交換して、前記第1の凝縮部内の冷媒が冷却されて凝縮し、
前記第1の蒸発部における前記冷媒の蒸発によって前記貯蔵室が冷却され」ているのに対して、甲1発明はそのような構成を備えていない点。

相違点2について検討する。
前記甲5記載技術は、「第1の凝縮部及び第1の蒸発部を有する第1のサーマルサイフォン」と、「前記第1の蒸発部によって冷却される貯蔵室」とを備え、「前記第1の凝縮部と(蓄冷式冷凍機の)吸熱部との間で熱交換して、前記第1の凝縮部内の冷媒が冷却されて凝縮」する技術であるということができる。
しかし、上記甲5記載技術を参酌しても、甲1発明において相違点2に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。すなわち、甲1発明の蒸発器14の最終到達温度は、-27℃乃至-35℃(【0020】)であり、冷凍庫に設置して庫内を冷却する蒸発パイプ47の温度は、-160.3℃?-157.3℃であって、庫内温度を-157.5℃とすることが想定されている(【0038】、【0039】)。
そうすると、甲1発明に蓄冷式冷凍機を採用し、凝縮パイプ23を蓄冷式冷凍機の吸熱部と熱交換する構成とした場合、上記吸熱部の温度は蒸発器14と同程度とされるのであって、蒸発パイプ47によって冷却される冷蔵庫の庫内温度に比べて相当に高温である。そしてこの様な温度関係を前提に、冷蔵庫の庫内に蒸発部を有し、吸熱部と熱交換する凝縮部を有するサーマルサイフォンを設けることは、甲5記載技術によっては示唆されていないし、甲1-4、6にも示唆されていない。
よって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明2の特定事項を採用することは、甲1-甲6に記載された事項を参酌しても、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
そして、本件発明2は、前記相違点2に係る構成を備えることにより、「本実施の形態に係る冷凍装置1は、第1のサーマルサイフォン200を備える。そして、冷媒回路400の蒸発器408によってだけでなく、第1のサーマルサイフォン200の第1の蒸発部240によっても貯蔵室500を冷却できるように構成されている。従来の二元冷凍装置では、高温側冷媒回路及び低温側冷媒回路のいずれか一方のみでは冷媒回路として機能しなかった。このため、いずれか一方の冷媒回路が故障すると、貯蔵室内を冷却することができなかった。これに対し、本実施の形態の冷凍装置1によれば、冷媒回路400が故障した場合でも、第1のサーマルサイフォン200によって貯蔵室500内をある程度冷却することができる。このため、冷凍装置1の信頼性を向上させることができる。」(【0045】)との効果を奏するものである。
よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明及び甲1-甲6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 本件発明4、5及び6について
本件発明4、5及び6は、本件発明2を更に減縮したものであるから、上記本件発明2についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲1-甲6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3) 小括
本件発明2、4、5及び6は、甲1発明及び甲1-甲6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項2、4、5及び6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項2、4、5及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1及び3に係る特許は、訂正により削除されたため、請求項1及び3についての特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在せず、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により、却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
冷凍装置
【技術分野】
【0001】
本発明は冷凍装置に関し、特に、圧縮機から吐出された冷媒を凝縮した後、蒸発器にて蒸発させて冷却作用を発揮する冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、独立した二系統の冷媒回路を有し、高温側冷媒回路の蒸発器と低温側冷媒回路の凝縮器との間で熱交換する、いわゆる二次元冷凍方式の冷凍装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-170487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、上述した冷凍装置について鋭意研究を重ねた結果、従来の冷凍装置には構造を簡略化する余地があることを認識するに至った。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、冷凍装置の構造を簡略化するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は冷凍装置である。当該冷凍装置は、圧縮機、凝縮器、減圧器及び蒸発器がこの順で環状に接続されてなる冷媒回路と、容器内に充填された作動流体が圧縮されるとともに、圧縮により生じる熱が放出される放熱部、及び、放熱部で圧縮された作動流体が膨張する吸熱部を有する蓄冷式冷凍機と、を備える。当該冷凍装置では、凝縮器と吸熱部との間で熱交換して、凝縮器内の冷媒が冷却される。また、冷凍装置は、第1の凝縮部及び第1の蒸発部を有する第1のサーマルサイフォンと、蒸発器及び第1の蒸発部のそれぞれによって冷却される貯蔵室と、をさらに備え、第1の凝縮部と吸熱部との間で熱交換して、第1の凝縮部内の冷媒が冷却されて凝縮し、第1の蒸発部における冷媒の蒸発によって貯蔵室が冷却される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、冷凍装置の構造を簡略化するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】 実施の形態に係る冷凍装置の冷媒回路図である。
【図2】 一例に係る蓄冷式冷凍機の構造を模式的に示す断面図である。
【図3】 本実施の形態に係る冷凍装置の外観を模式的に示す正面図である。
【図4】 図4(A)は、変形例1に係る冷凍装置の外観を模式的に示す正面図である。図4(B)は、変形例2に係る冷凍装置の冷媒回路における凝縮器近傍を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に用いられる「第1の」、「第2の」等の用語は、いかなる順序や重要度を表すものではなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。
【0010】
本実施の形態に係る冷凍装置は、貯蔵室内を-150℃程度の超低温まで冷却することができる装置である。本実施の形態の冷凍装置は、蓄冷式冷凍機と、冷媒回路とを組み合わせた構成を有する。言い換えれば、冷凍装置は、二元冷凍装置における高温側冷媒回路を蓄冷式冷凍機に置き換えた構成を有する。図1は、実施の形態に係る冷凍装置の冷媒回路図である。図2は、一例に係る蓄冷式冷凍機の構造を模式的に示す断面図である。
【0011】
本実施の形態に係る冷凍装置1は、蓄冷式冷凍機100と、第1のサーマルサイフォン200と、第2のサーマルサイフォン300と、冷媒回路400と、貯蔵室500とを備える。以下、各部の構成について説明する。
【0012】
蓄冷式冷凍機100は、冷媒回路400の凝縮器404を冷却するための冷凍機である。蓄冷式冷凍機100としては、例えば、ギフォード・マクマホン式(GM)冷凍機、パルスチューブ冷凍機、スターリング冷凍機、ソルベー冷凍機、クロードサイクル冷凍機等を使用することができる。好ましくは、蓄冷式冷凍機100は、スターリング冷凍機である。
【0013】
図1及び図2に示すように、蓄冷式冷凍機100は、容器110と、可動部材120と、蓄冷器130と、可動部材140とを有する。容器110は例えばシリンダであり、容器110内にはヘリウムガス等の作動流体が充填されている。作動流体は、容器110内に気密に保持される。可動部材120,140は例えばピストンであり、容器110内で往復移動することができる。蓄冷器130は、容器110内であって且つ可動部材120と可動部材140との間に配置される。蓄冷器130は、例えば金網の積層構造を備える。
【0014】
蓄冷式冷凍機100は、蓄冷器130を挟んで並ぶ放熱部150と吸熱部160とを有する。放熱部150は、言い換えれば圧縮部あるいは高温部であり、吸熱部160は、言い換えれば膨張部あるいは低温部である。蓄冷式冷凍機100の冷凍サイクルは、例えば次の通りである。
【0015】
まず、放熱部150において、可動部材120が蓄冷器130に近づく方向に移動することによって、作動流体が圧縮される(圧縮行程)。作動流体の圧縮により生じる熱は、容器110の周囲に設けられる放熱フィン(図示せず)等を介して放熱される。続いて、可動部材120と可動部材140とが両者の間の容積を保ったまま移動する。このとき、可動部材120は蓄冷器130に近づく方向に移動し、可動部材140は蓄冷器130から離れる方向に移動する。これにより、作動流体は、高圧のまま蓄冷器130を通過し、蓄冷器130によって冷却されながら吸熱部160側に移動する(予冷工程)。
【0016】
続いて、吸熱部160において、可動部材140が蓄冷器130から離れる方向に移動することによって、放熱部150で圧縮された作動流体が膨張する(膨張行程)。作動流体の膨張によって、吸熱部160の周囲の熱を奪うことができる。その後、可動部材120が蓄冷器130から離れる方向に移動し、可動部材140が蓄冷器130に近づく方向に移動する。これにより、作動流体が蓄冷器130を通過し、蓄冷器130を冷却しながら放熱部150側に移動する(昇温工程)。以上の工程により1サイクルが終了する。
【0017】
本実施の形態の蓄冷式冷凍機100は、蓄冷器130を介して一端側に高温側の圧縮部が配置され、他端側に低温側の膨張部が配置される構造を有するが、特にこの構造に限定されず、他の一般的な蓄冷式冷凍機を用いることができる。なお、蓄冷式冷凍機に代えて、ジュール・トムソン式(JM)冷凍機が用いられてもよい。
【0018】
第2のサーマルサイフォン300は、冷媒の気化熱を利用して冷却対象を冷却する装置であり、蓄冷式冷凍機100の吸熱部160と、冷媒回路400の凝縮器404との間の熱交換を仲介する。第2のサーマルサイフォン300は、第2の凝縮部310と、第2の液体ライン320と、第2の蒸発部340と、第2の気体ライン350とを有する。
【0019】
第2の凝縮部310は、蓄冷式冷凍機100の吸熱部160との間で熱交換する。これにより第2の凝縮部310内の冷媒が冷却されて凝縮し、液体になる。冷媒としては、例えばR508Aやエタン等の冷媒ガスを使用することができる。第2の凝縮部310には、第2の液体ライン320の一端が接続される。第2の液体ライン320は、第2の気体ライン350よりも小径の配管で構成される。第2の液体ライン320の他端は、第2の蒸発部340に接続される。第2の凝縮部310で液化した冷媒は、第2の液体ライン320を経て、第2の蒸発部340に流入する。第2の液体ライン320は、第2の気体ライン350に比べて細径であり、流路面積が小さい。これにより、第2の蒸発部340で気化した気体の第2の凝縮部310側への逆流を抑制することができる。第2のサーマルサイフォン300中の冷媒は、第2の凝縮部310で液化して容積が減少している。このため、第2の液体ライン320を細径にしても、冷媒の流通に支障が生じない。なお、第2のサーマルサイフォン300の全体を同一内径のパイプで構成し、パイプ内に部分的に芯を通すことで、第2の液体ライン320の流路面積を小さくしてもよい。
【0020】
第2の蒸発部340は、冷媒回路400の凝縮器404との間で熱交換可能に設けられる。本実施の形態では、第2の蒸発部340と凝縮器404とによりカスケード熱交換器が構成されている。第2の蒸発部340に流入した冷媒は、凝縮器404を流れる冷媒から吸熱して蒸発する。この冷媒の蒸発によって、凝縮器404内の冷媒が冷却される。第2の蒸発部340によって、凝縮器404内の冷媒を例えば-60℃?-40℃程度に冷却することができる。
【0021】
第2の蒸発部340には、第2の気体ライン350の一端が接続される。第2の気体ライン350の他端は、第2の凝縮部310に接続される。第2の蒸発部340で気化した冷媒は、第2の気体ライン350を経て第2の凝縮部310に流入する。そして、第2の凝縮部310において冷却され、再び液体となる。
【0022】
冷媒回路400は、圧縮機402(コンプレッサ)、凝縮器404(コンデンサ)、減圧器としてのキャピラリーチューブ406、及び蒸発器408を主要構成として備え、これらがこの順で環状に接続される。圧縮機402は、例えば一相若しくは三相交流電源を用いる電動圧縮機である。圧縮機402には、冷媒吐出管410が接続される。冷媒吐出管410は、補助凝縮器412に接続される。補助凝縮器412は、送風機414により冷却される。
【0023】
補助凝縮器412は、凝縮器404に接続される。凝縮器404は、第2のサーマルサイフォン300の第2の蒸発部340とともにカスケード熱交換器を構成する。冷媒回路400の冷媒は、凝縮器404において第2の蒸発部340内の冷媒との間で熱交換する。これにより、凝縮器404と蓄冷式冷凍機100の吸熱部160との間で熱交換されて、凝縮器404内の冷媒が冷却される。凝縮器404は、気液分離器416に接続される。
【0024】
気液分離器416には、気相配管418と液相配管420とが接続される。気相配管418は、気液分離器416で分離される未凝縮の気相冷媒を取り出すための配管である。液相配管420は、気液分離器416で分離される凝縮した液相冷媒を取り出すための配管である。気相配管418は、第1中間熱交換器422を経て第2中間熱交換器424に接続される。液相配管420は、キャピラリーチューブ426を経て第1中間熱交換器422に接続される。第1中間熱交換器422は、キャピラリーチューブ426で減圧された液相冷媒の蒸発により、気相配管418内を流れる気相冷媒を冷却して凝縮させる機能を有する。
【0025】
第2中間熱交換器424は、第3中間熱交換器428に接続される。第3中間熱交換器428は、減圧器としてのキャピラリーチューブ406に接続される。第2中間熱交換器424及び第3中間熱交換器428は、キャピラリーチューブ406に向かう冷媒と、蒸発器408から圧縮機402に戻る冷媒との間で熱交換を行うための熱交換器である。
【0026】
キャピラリーチューブ406は、蒸発器408に接続される。蒸発器408は、貯蔵室500内部との間で熱交換可能に設けられる。例えば、蒸発器408は、貯蔵室500の外壁面に取り付けられる。蒸発器408は、吸込配管430に接続される。吸込配管430は、第3中間熱交換器428、第2中間熱交換器424及び第1中間熱交換器422を経て、圧縮機402の吸込側に接続される。吸込配管430には、第1中間熱交換器422と圧縮機402との間において、キャピラリーチューブ432を介して膨張タンク434が接続される。膨張タンク434は、圧縮機402が停止した際に冷媒を貯留するタンクである。
【0027】
冷媒回路400には、冷媒として、例えば沸点の異なる4種類の混合冷媒が封入される。具体的には、R508Aと、R14と、R50、R740とを含む非共沸混合冷媒が封入される。R508Aは、R23(トリフルオロメタン:CHF_(3))と、R116(ヘキサフルオロエタン:CF_(3)CF_(3))とから構成され、その組成は、R23が39重量%、R116が61重量%である。R508Aの沸点は、-85.7℃である。R14は、テトラフルオロメタン(四弗化炭素:CF_(4))であり、沸点は-127.9℃である。R50は、メタン(CH_(4))であり、沸点は-161.5℃である。R740は、アルゴン(Ar)であり、沸点は-185.86℃である。なお、R508Aに代えてR508Bが用いられてもよい。また、他の冷媒として、R23、R116及びR170のいずれか1つの単独冷媒、あるいは2つ以上の混合冷媒であってもよい。
【0028】
冷媒回路400への冷媒の封入手順は、例えば以下の通りである。すなわち、まずR14とR50とを予め混合して不燃化状態とする。そして、R508Aと、R14とR50の混合冷媒と、R740とを予め混合した状態で、冷媒回路400に封入する。あるいは、沸点の高い順に封入する。
【0029】
続いて、冷媒回路400における冷媒の循環について説明する。まず、冷媒は圧縮機402において圧縮され、高温ガス状の冷媒となる。この冷媒は、冷媒吐出管410に吐出され、補助凝縮器412で冷却された後、凝縮器404に流入する。凝縮器404に流入する冷媒は、第2の蒸発部340との間の熱交換により冷却される。凝縮器404において、凝縮器404中の冷媒は-60℃?-40℃程度に冷却される。これにより、冷媒中のR508Aが凝縮する。そして、凝縮器404を通過した冷媒は、気液分離器416に流入する。この時点では、R14、R50及びR740は未だ凝縮せずにガス状である。したがって、気液分離器416において、R508Aは主に液相配管420に、R14、R50及びR740は主に気相配管418に、それぞれ吐出される。
【0030】
液相配管420に流入した冷媒は、キャピラリーチューブ426で減圧された後、第1中間熱交換器422に流入する。気相配管418に流入した冷媒は、第1中間熱交換器422において、キャピラリーチューブ426で減圧された冷媒の蒸発により冷却される。また、蒸発器408から帰還してくる冷媒と熱交換して冷却される。この結果、第1中間熱交換器422の中間温度は-95℃程度となり、気相配管418内のR14が凝縮する。R50及びR740は未だガス状態である。第1中間熱交換器422を通過した冷媒は、第2中間熱交換器424に流入する。ここで、中間熱交換器の中間温度とは、中間熱交換器の中央部の配管の温度をいう。
【0031】
第2中間熱交換器424に流入した冷媒は、蒸発器408から帰還してくる冷媒と熱交換して冷却され、第3中間熱交換器428に流入する。第3中間熱交換器428に流入した冷媒は、蒸発器408から帰還してくる冷媒と熱交換して冷却され、キャピラリーチューブ406に流入する。第2中間熱交換器424及び第3中間熱交換器428での熱交換によって冷媒は冷却され、R50及びR740が凝縮する。R50は、主に第2中間熱交換器424で凝縮し、R740は、主に第3中間熱交換器428で凝縮する。第2中間熱交換器424の中間温度は-110℃程度であり、第3中間熱交換器428の中間温度は-140℃程度である。
【0032】
冷媒は、キャピラリーチューブ406において減圧された後、蒸発器408に流入する。蒸発器408において、冷媒が周囲から熱を奪って蒸発する。これにより冷媒の冷却作用が発揮され、蒸発器408の周囲が-160℃?-157℃程度の超低温に冷却される。蒸発器408の冷却によって、貯蔵室500内の温度を-150℃程度まで冷却することができる。このように、冷媒回路400では、各冷媒の沸点の差を利用して気相状態にある冷媒を次々に凝縮させることで、最終段の蒸発器408において、極めて低い温度を達成することができる。
【0033】
蒸発器408で蒸発した冷媒は、吸込配管430に吐出され、第3中間熱交換器428、第2中間熱交換器424及び第1中間熱交換器422に順次流入する。そして、第1中間熱交換器422を通過する際に、第1中間熱交換器422において蒸発した冷媒と合流して圧縮機402に帰還する。
【0034】
圧縮機402は、貯蔵室500の庫内温度に基づいて、図示しない制御装置によりON、OFFの切換制御がなされる。制御装置により圧縮機402の運転が停止されると、冷媒は膨張タンク434に回収される。また、制御装置により圧縮機402の運転が開始されると、膨張タンク434内の冷媒は、キャピラリーチューブ432を介して徐々に圧縮機402内に戻される。
【0035】
第1のサーマルサイフォン200は、冷媒の気化熱を利用して冷却対象を冷却する装置であり、蓄冷式冷凍機100の吸熱部160と、貯蔵室500内との間の熱交換を仲介する。第1のサーマルサイフォン200は、第1の凝縮部210と、第1の液体ライン220と、第1の蒸発部240と、第1の気体ライン250とを有する。
【0036】
第1の凝縮部210は、蓄冷式冷凍機100の吸熱部160との間で熱交換する。これにより第1の凝縮部210内の冷媒が冷却されて凝縮し、液体になる。冷媒としては、例えばR508Aやエタン等の冷媒ガスを使用することができる。第1の凝縮部210には、第1の液体ライン220の一端が接続される。第1の液体ライン220は、第1の気体ライン250よりも小径の配管で構成される。第1の液体ライン220の他端は、第1の蒸発部240に接続される。第1の凝縮部210で液化した冷媒は、第1の液体ライン220を経て、第1の蒸発部240に流入する。第1の液体ライン220は、第1の気体ライン250に比べて細径であり、流路面積が小さい。これにより、第1の蒸発部240で気化した気体の第1の凝縮部210側への逆流を抑制することができる。第1のサーマルサイフォン200中の冷媒は、第1の凝縮部210で液化して容積が減少している。このため、第1の液体ライン220を細径にしても、冷媒の流通に支障が生じない。なお、第1のサーマルサイフォン200の全体を同一内径のパイプで構成し、パイプ内に部分的に芯を通すことで、第1の液体ライン220の流路面積を小さくしてもよい。
【0037】
第1の蒸発部240は、貯蔵室500内部との間で熱交換可能に設けられる。例えば、第1の蒸発部240は、貯蔵室500の外壁面に取り付けられる。第1の蒸発部240に流入した冷媒は、貯蔵室500内から吸熱して蒸発する。この冷媒の蒸発によって、貯蔵室500内が冷却される。第1の蒸発部240によって、貯蔵室500内を-90℃?-80℃程度に冷却することができる。
【0038】
第1の蒸発部240には、第1の気体ライン250の一端が接続される。第1の気体ライン250の他端は、第1の凝縮部210に接続される。第1の蒸発部240で気化した冷媒は、第1の気体ライン250を経て第1の凝縮部210に流入する。そして、第1の凝縮部210において冷却され、再び液体となる。
【0039】
冷媒回路400が正常に動作している状態では、貯蔵室500内の温度は-150℃程度まで冷却される。このため、第1の蒸発部240で冷媒は蒸発しない。よって、第1のサーマルサイフォン200における冷媒の循環は停止している。一方、例えば冷媒回路400の圧縮機402が故障する等して冷媒回路400の動作に異常が生じ、貯蔵室500内の温度が上昇すると、第1の蒸発部240で冷媒が蒸発するようになる。これにより、第1のサーマルサイフォン200における冷媒の循環が開始される。その結果、第1のサーマルサイフォン200によって貯蔵室500内の温度が-90℃?-80℃程度に維持される。
【0040】
図3は、本実施の形態に係る冷凍装置1の外観を模式的に示す正面図である。冷凍装置1は、正面が開放された断熱箱体2と、貯蔵室500と、機械室600とを有する。貯蔵室500には、例えば冷凍食品、生体組織あるいは検体等が収容される。機械室600には、蓄冷式冷凍機100、及び圧縮機402等が設置される。
【0041】
本実施の形態では、機械室600は、貯蔵室500に対して断熱箱体2の上部に配置される。これにより、蓄冷式冷凍機100の吸熱部160に熱的に接触する第1の凝縮部210を、貯蔵室500に熱的に接する第1の蒸発部240に対して鉛直方向上方に配置することができる。このため、第1の凝縮部210内で液化した冷媒を、重力を利用して容易に第1の蒸発部240に送り出すことができる。また、第1の蒸発部240内で気化した冷媒の第1の凝縮部210への移動も容易になる。したがって、第1のサーマルサイフォン200において、円滑に冷媒を循環させることができる。
【0042】
また、機械室600において、第2のサーマルサイフォン300の第2の凝縮部310は、第2の蒸発部340よりも鉛直方向上方に配置される。例えば、蓄冷式冷凍機100は、吸熱部160が上になるように姿勢が定められて設置され、凝縮器404が吸熱部160よりも鉛直方向下方に配置される。これにより、第2の凝縮部310内で液化した冷媒を、重力を利用して容易に第2の蒸発部340に送り出すことができる。また、第2の蒸発部340内で気化した冷媒の第2の凝縮部310への移動も容易になる。したがって、第2のサーマルサイフォン300において、円滑に冷媒を循環させることができる。
【0043】
以上説明したように、本実施の形態に係る冷凍装置1は、冷媒回路400と、蓄冷式冷凍機100とを備える。そして、冷媒回路400の凝縮器404と蓄冷式冷凍機100の吸熱部160との間で熱交換することで、凝縮器404内の冷媒を凝縮させる。すなわち、冷凍装置1は、従来の二元冷凍装置における高温側冷媒回路を蓄冷式冷凍機100に置き換えた構造を有する。これにより、従来の二元冷凍装置に比べて、冷凍装置の構造を簡略化することができる。
【0044】
また、従来の二元冷凍装置では、高温側冷媒回路によって低温側冷媒回路の冷媒を-40℃?-35℃程度まで冷却していた。これに対し、本実施の形態では、蓄冷式冷凍機100によって冷媒を-60℃?-40℃程度まで冷却することができる。このため、従来の二元冷凍装置の低温側冷媒回路に相当する冷媒回路400に設ける中間熱交換器の数を、削減することができる。よって、この点でも冷凍装置の構造を簡略化することができる。また、冷媒組成の簡略化を図ることもできる。
【0045】
また、本実施の形態に係る冷凍装置1は、第1のサーマルサイフォン200を備える。そして、冷媒回路400の蒸発器408によってだけでなく、第1のサーマルサイフォン200の第1の蒸発部240によっても貯蔵室500を冷却できるように構成されている。従来の二元冷凍装置では、高温側冷媒回路及び低温側冷媒回路のいずれか一方のみでは冷媒回路として機能しなかった。このため、いずれか一方の冷媒回路が故障すると、貯蔵室内を冷却することができなかった。これに対し、本実施の形態の冷凍装置1によれば、冷媒回路400が故障した場合でも、第1のサーマルサイフォン200によって貯蔵室500内をある程度冷却することができる。このため、冷凍装置1の信頼性を向上させることができる。
【0046】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などのさらなる変形を加えることも可能であり、さらなる変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれる。上述した実施の形態への変形の追加によって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態、及び変形それぞれの効果をあわせもつ。
【0047】
(変形例1)
図4(A)は、変形例1に係る冷凍装置1の外観を模式的に示す正面図である。変形例1に係る冷凍装置1は、断熱箱体2と、第1の貯蔵室510と、第2の貯蔵室520と、機械室600とを有する。例えば、第1の貯蔵室510と第2の貯蔵室520とは、互いに断熱されている。そして、第1の貯蔵室510は、冷媒回路400の蒸発器408によって冷却される。一方、第2の貯蔵室520は、第1のサーマルサイフォン200によって冷却される。すなわち、第1のサーマルサイフォン200の第1の凝縮部210(図1参照)と蓄冷式冷凍機100の吸熱部160(図1参照)との間で熱交換して、第1の凝縮部210内の冷媒が冷却され凝縮する。そして、第1の蒸発部240における冷媒の蒸発によって第2の貯蔵室520が冷却される。
【0048】
このような構成により、室内温度の異なる2つの貯蔵室を冷凍装置1に設けることができる。よって、冷凍装置1の利便性を向上させることができる。また、冷媒回路400が故障した場合でも、第1のサーマルサイフォン200による第2の貯蔵室520の冷却を維持することができる。よって、冷凍装置1の信頼性を向上させることができる。
【0049】
(変形例2)
図4(B)は、変形例2に係る冷凍装置1の冷媒回路における凝縮器404近傍を模式的に示す図である。変形例2に係る冷凍装置1では、蓄冷式冷凍機100の吸熱部160が、冷媒回路400の凝縮器404に直に接する。すなわち、第2のサーマルサイフォン300を介さずに、吸熱部160と凝縮器404との間で熱交換がなされる。このような構成によっても、実施の形態と同様の効果を奏することができる。また、第2のサーマルサイフォン300を省略することで、冷凍装置1の構造をより簡略化することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 冷凍装置、 100 蓄冷式冷凍機、 110 容器、 120 可動部材、 140 可動部材、 150 放熱部、 160 吸熱部、 200 第1のサーマルサイフォン、 210 第1の凝縮部、 240 第1の蒸発部、 300 第2のサーマルサイフォン、 310 第2の凝縮部、 340 第2の蒸発部、 400 冷媒回路、 402 圧縮機、 404 凝縮器、 408 蒸発器、 500 貯蔵室、 510 第1の貯蔵室、 520 第2の貯蔵室。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本願は、冷凍装置に利用可能である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
圧縮機、凝縮器、減圧器及び蒸発器がこの順で環状に接続されてなる冷媒回路と、
容器内に充填された作動流体が圧縮されるとともに、圧縮により生じる熱が放出される放熱部、及び、前記放熱部で圧縮された作動流体が膨張する吸熱部を有する蓄冷式冷凍機と、
を備え、
前記凝縮器と前記吸熱部との間で熱交換して、前記凝縮器内の冷媒が冷却され、
第1の凝縮部及び第1の蒸発部を有する第1のサーマルサイフォンと、
前記蒸発器及び前記第1の蒸発部のそれぞれによって冷却される貯蔵室と、
をさらに備え、
前記第1の凝縮部と前記吸熱部との間で熱交換して、前記第1の凝縮部内の冷媒が冷却されて凝縮し、
前記第1の蒸発部における前記冷媒の蒸発によって前記貯蔵室が冷却されることを特徴とする冷凍装置。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
第2の凝縮部及び第2の蒸発部を有する第2のサーマルサイフォンをさらに備え、
前記第2の凝縮部と前記吸熱部との間で熱交換して、前記第2の凝縮部内の冷媒が冷却されて凝縮し、
前記第2の蒸発部と前記凝縮器との間で熱交換して、前記凝縮器内の冷媒が冷却される請求項2に記載の冷凍装置。
【請求項5】
前記吸熱部は、前記凝縮器に直に接する請求項2に記載の冷凍装置。
【請求項6】
前記蓄冷式冷凍機は、スターリング冷凍機である請求項2、4及び5のいずれか1項に記載の冷凍装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-07-18 
出願番号 特願2017-517946(P2017-517946)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (F25B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 充  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 莊司 英史
井上 哲男
登録日 2018-04-27 
登録番号 特許第6326708号(P6326708)
権利者 PHCホールディングス株式会社
発明の名称 冷凍装置  
代理人 森下 賢樹  
代理人 川合 誠  
代理人 村田 雄祐  
代理人 森下 賢樹  
代理人 三木 友由  
代理人 宗田 悟志  
代理人 三木 友由  
代理人 村田 雄祐  
代理人 宗田 悟志  

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