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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 発明同一  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1354950
異議申立番号 異議2018-700962  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-29 
確定日 2019-08-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6425767号発明「ロキソプロフェンを含有する医薬組成物<弐>」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6425767号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6425767号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成25年3月29日(優先権主張 平成24年3月29日、平成25年2月25日)に出願された特願2013-70954号の一部を、平成29年5月12日に新たな特許出願としたものであり、平成30年11月2日にその特許権の設定登録がされ、同年11月21日にその特許公報が発行され、その後、その特許に対し、平成30年11月29日に古川 慎二(以下「特許異議申立人」という。)により請求項1?5(全請求項)に対して特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6425767号(以下「本件特許」という。)の請求項1?5の特許に係る発明(以下「本件発明1?5」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)ロキソプロフェン又はその塩
(B)メントール
(C)1,3-ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール及びポリビニルアルコールよりなる群から選ばれる1種以上を含有する、半固形状又は液状の医薬組成物(但し、貼付剤を除く)。
【請求項2】
剤形がリニメント剤、ローション剤、外用エアゾール剤、軟膏剤、クリーム剤又はゲル剤である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
剤形がローション剤である、請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
含水組成物である、請求項1?3のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項5】
クロタミトンを含まないものである、請求項1?4のいずれか1項記載の医薬組成物。」

第3 特許異議申立の理由の概要
特許異議申立書に記載された特許異議申立理由の概要は次のとおりである。

理由1 特許法第29条第2項について
本件発明1?4は、甲第1号証に記載された発明及び本願優先日における技術常識に基いて、本件発明に係る出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

理由2 特許法第29条第2項について
本件発明1?5は、甲第3号証に記載された発明及び本願優先日における技術常識に基いて、本件発明に係る出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

理由3 特許法第36条第6項第1号について
本件発明1?5は発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、本件発明1?5に係る出願は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合せず、同法第36条第6項に規定される要件を満たしていない。したがって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

理由4 特許法第36条第4項第1号について
本件発明1?5に係る出願は、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件発明1?5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合せず、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。したがって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

理由5 特許法第29条の2について
本件発明1?5は、その出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた甲第11号証に係る日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。したがって、本件特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

そして、以下の証拠方法が挙げられている。
甲第1号証:特開平10-120560号公報
甲第2号証:医薬品インタビューフォーム、ロキソニンR(当審注○中のR)ゲル1%、第一三共株式会社製品情報センター、2010年10月改訂(第3版)
甲第3号証:特開2004-83462号公報
甲第4号証:米国特許第8097646号明細書
甲第5号証:国際公開第2010/103844号
甲第6号証:特開2001-302502号公報
甲第7号証:特開2009-227640号公報
甲第8号証:特開2010-280634号公報
甲第9号証:特開2014-172857号公報
甲第10号証:特開平4-99719号公報
甲第11号証:PCT/JP2012/068189(国際公開第2013/012000号)

ここで、甲第11号証であるPCT/JP2012/068189はその国際出願日が2012年7月18日であるところ、当該国際出願日は、本件特許に係る特許出願についての最先の優先日(2012年3月29日)より後であるから、当該国際出願を理由として、本件特許に係る特許出願について特許法第29条の2を適用することはできない(なお、本件発明1?5について当該最先の優先日にされた出願を基礎とする優先権主張の効果を享受できるものと認める。)。一方、当該国際出願の優先権主張の基礎とされた特願2011-159912号(以下「出願11」という。)は、上記最先の優先日前の出願であるため、以下では、当該出願11を引用出願として特許法第29条の2の判断を行う。

第4 引用刊行物等及びその記載事項
甲第1号証?甲第10号証(以下「甲1」等という。)及び出願11の出願当初の明細書又は特許請求の範囲(以下「出願11明細書等」という。)には、以下の記載がある。

甲1:
1a)「【0006】・・・脂肪酸エステルおよび多価アルコール類を含有するロキソプロフェンナトリウムの外用製剤を調製し、経時的に観察したところ、ロキソプロフェンの結晶が析出した。」

1b)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】上述のように、ロキソプロフェンはプロドラッグであること、強力な消炎鎮痛作用を発揮するのは代謝活性体であるトランス-OH体であること、およびその活性代謝物への変換にかかる酵素は主に肝臓および腎臓に存在することから、局所投与する場合には、ロキソプロフェンを経皮的に吸収させるよりも、トランス-OH体を吸収させた方が、その適用部位において多量のトランス-OH体を確保することができ、優れた消炎鎮痛作用が得られるであろうと想像した。しかしながら、本発明者らが、トランス-OH体の経皮吸収性について試験をおこなったところ、トランス-OH体は極めて吸収されにくいことがわかった。
【0009】そこで本発明者らは、ロキソプロフェンナトリウムを有効成分とする消炎鎮痛外用製剤について鋭意研究した結果、(i)ロキソプロフェン自体は、活性代謝物であるトランス-OH体よりも優れた皮膚透過性を有し、経皮投与により、皮膚に充分な量のロキソプロフェンが蓄えられること、そして、(ii)ロキソプロフェンが充分量、長時間、皮膚に保持されれば、驚くことに、皮膚においてもケトン還元酵素によりトランス-OH体に変換され、皮膚において有効量のトランス-OH体が確保されることを見出した。そして上述したロキソプロフェンの製剤上の問題については、溶解剤としてクロタミトンを採用すると、ロキソプロフェンが結晶として析出せず、安定性が高く、皮膚刺激性のないロキソプロフェンの外用製剤が得られることを見出した。即ち、ロキソプロフェンの外用製剤に溶解剤としてクロタミトンを配合することにより、ロキソプロフェンが結晶として析出せず、有効成分の分布性が優れた製剤が得られ、その製剤により、ロキソプロフェンの経皮吸収速度、経皮吸収量の大幅な増大およびロキソプロフェンの持続的な供給が可能となり、それにより、適用部位の皮膚において充分な濃度のロキソプロフェンが持続的に蓄えられ、次いで、そのロキソプロフェンが、本発明者らが初めて確認したように、皮膚においてトランス-OH体へと変換されて、適用部位に充分量のトランス-OH体を確保でき、その結果、この製剤を適用することにより、優れた局所的消炎鎮痛作用が得られることを見出し、かつその製剤には皮膚刺激性がないことを見出して、本発明を完成した。」

1c)「【0021】ロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩を溶解するための他の溶剤としてはクロタミトンと併用して他に影響を与えないものであれば特に限定はなく、例えば水;アルコール類;医学的に許容できる脂肪酸およびそのエステル;動植物油およびテルペン化合物などの油性成分;などから選ばれる。
・・・
【0023】ここにアルコール類としては他に影響を与えなければ通常用いられるものが特に限定なく用いられる。そのようなアルコール類としては例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどの脂肪族アルコール類;プロピレングリコール、オクタンジオール、1,3-ブタンジオール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、D-ソルビトールなどの脂肪族多価アルコール類;ベンジルアルコールなどの芳香脂肪族アルコール類;などをあげることができる。その配合量は製剤総重量に対して、0.5重量%(更に好適には、3重量%)ないし10重量%(更に好適には、5重量%)の範囲であるのが好ましい。但し、後述する保湿剤として使用されるプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、D-ソルビトールの配合量はこのかぎりではない。
・・・
【0025】動植物油およびテルペン化合物などの油性成分としては他に影響を与えなければ通常用いられるものが特に限定なく用いられる。そのような動植物油およびテルペン化合物などの油性成分としては例えばアーモンド油、オリーブ油、ツバキ油、パーシック油、ハッカ油、ダイズ油、ゴマ油、シンク油、綿実油、トウモロコシ油、サフラワー油、ヤシ油、ユーカリ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油、大豆レシチン、スクワレン、dlまたはl-メントール、l-メントン、リモネン、ピネン、ピペリトン、テルピネン、テルピノレン、テルピノール、カルベオール、dl-カンフル、N-メチル-2-ピロリドン、流動パラフインなどが例示され、好適にはハッカ油、ユーカリ油である。これらの油性成分は一種または二種以上組み合わせて使用しても良い。その配合量は製剤総重量に対して、0.5重量%(更に好適には、1重量%)ないし10重量%(更に好適には、5重量%)の範囲であるのが好ましい。これらの溶剤は多すぎると、水性基剤と混練して得た製剤では油性成分が遊離し、また皮膚刺激性が生ずるの場合があるので、そのような現象をおこさない範囲で配合するのが好ましい。
【0026】皮膚吸収助剤としては他に影響を与えなければ通常用いられるものが特に限定なく用いられる。そのような皮膚吸収助剤としては例えばエタノール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,2,6-ヘキサントリオールなどのアルコールおよび多価アルコール類;乳酸、オレイン酸、リノール酸、ミリスチン酸などの脂肪酸およびそのエステル;ハッカ油、l-メントール、dl-カンフル、N-メチル-2-ピロリドンなどの動植物油およびテルペン化合物などが好適である。これらの皮膚吸収助剤は溶剤または後述する保湿剤としても使用できるものである。
・・・
【0029】また、保湿剤としてアクリル酸デンプン;グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、D-ソルビトールなどの多価アルコール;を使用するのが好適であり、それらは一種または二種以上を組み合わせて使用しても良く、その配合量は製剤総重量に対して、5重量%(更に好適には、10重量%)ないし60重量%(更に好適には、45重量%)の範囲であるのが好ましい。」

1d)「【0054】[実施例10] 1%ロキソプロフェンナトリウム含有ローション剤
ロキソプロフェンナトリウム・二水和物 1.134g(ロキソプロフェンナトリウム 1gに相当する)を水 66.8mlに加え溶解した。次に、カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.2gにグリセリン 10g及びプロピレングリコール 20gを加え混合し、更にクロタミトン 1g及びハッカ油 0.25gを添加し十分に混合した。本混合液に先のロキソプロフェンナトリウム溶液を添加し、次いで撹拌しながら界面活性剤Tween80 0.5g及びSpan20 0.25gを加え混合し、1%ロキソプロフェンナトリウムを含むローション剤を調製した。」

甲2:
2a)「

」(5頁、「2.製剤の組成」の項)

2b)「

」(6頁、「5.製剤の各種条件下における安定性」の項)

甲3:
3a)「【請求項1】
支持体に膏体層を設けてなる外用貼付剤において、該膏体層を形成する膏体組成物が、下記式(I)で表される化合物、分子内にカルボン酸基を有する非ステロイド系消炎鎮痛薬、l-メントール及び非水性基剤を含有し、かつ式(I)で表される化合物を膏体組成物全体に対して2質量%以上含有することを特徴とする外用貼付剤。
【化1】

(式中、R及びR’は、水素原子、アルキル基またはアルキルカルボニル基を示し、nは1?600の数を示す)」

3b)「【0009】
一方、外用貼付剤の膏体組成物中には、溶解剤、薬効成分または清涼剤としてl-メントールが配合されることが多いのであるが、これがインドメタシンに代表されるカルボン酸型非ステロイド消炎鎮痛薬とともに使用した場合にあっては、両者のエステル化反応により、l-メントールのエステル体が生成してしまい、主薬であるカルボン酸型非ステロイド消炎鎮痛薬の含有量が減少してしまう場合があるという別の問題があった。従って、これらを併用する際には、薬物のエステル化を抑制する技術が必要であった。
【0010】
【本発明が解決しようとする課題】
本発明は、非水性基剤を用いた外用貼付剤において、薬物に起因する皮膚障害及びカルボン酸型非ステロイド消炎鎮痛薬とl-メントールとのエステル化を、外用貼付剤の粘着性や使用感等を良好に保ちつつ、しかも簡単な手段で有効に抑制する技術の提供をその課題とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、カルボン酸型非ステロイド消炎鎮痛薬とl-メントールを含む外用貼付剤の膏体組成物に対して特定の化合物を配合させることにより、非ステロイド消炎鎮痛薬に起因する皮膚障害及びカルボン酸型非ステロイド消炎鎮痛薬とl-メントールのエステル化を抑制する効果があることを見出した。
【0012】
すなわち本発明は、支持体に膏体層を設けてなる外用貼付剤において、該膏体層を形成する膏体組成物が、下記式(I)で表される化合物、分子内にカルボン酸基を有する非ステロイド系消炎鎮痛薬、l-メントール及び非水性基剤を含有し、かつ式(I)で表される化合物を膏体組成物全体に対して2質量%以上含有することを特徴とする外用貼付剤を提供するものである。
【0013】
【化3】
R-O-(C_(2)H_(4)O)n-R’ ……(I)
(式中、R及びR’は、水素原子、アルキル基またはアルキルカルボニル基を示し、nは1?600の数を示す)
【0014】
また、本発明は、分子内にカルボン酸基を有する非ステロイド系消炎鎮痛薬及びl-メントールを含有する外用貼付剤に、上記式(I)で表される化合物を含有させることを特徴とする外用貼付剤中の薬物のエステル化抑制方法を提供するものである。」

3c)「【0024】
この消炎鎮痛薬の具体的な例としては、アセメタシン、インドメタシン、エトドラク、スリンダク等のインドール酢酸系消炎鎮痛薬、サリチル酸、ジフルニサル等のサリチル酸系消炎鎮痛薬、フルフェナム酸、メフェナム酸等のフェナム酸系消炎鎮痛薬、アルクロフェナク、ジクロフェナク、フェンブフェン、フェルビナク等のフェニル酢酸系消炎鎮痛薬、イブプロフェン、オキサプロジン、ケトプロフェン、ザルトプロフェン、スプロフェン、チアプロフェン、プラノプロフェン、フルルビプロフェン、ロキソプロフェン等のプロピオン酸系消炎鎮痛薬が挙げられる。この中で、インドール酢酸系消炎鎮痛薬、特にインドメタシンを用いた場合に生ずる皮膚障害の低減において、本発明の効果は顕著であることから、インドメタシンを使用することが好ましい。」

3d)「【0073】
実 施 例 11
外用貼付剤の調製(11):
以下の処方及び製法により、外用貼付剤(本発明品11)を得た。
【0074】
( 処 方 )
フルルビプロフェン 1.0部
ポリエチレングリコール4000 4.0部
(商品名 マクロゴール4000)
l-メントール 3.0部
スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体 40.0部
(商品名 クレイトンD-KX401)
流動パラフィン 41.5部
ロジンエステル 10.0部
(商品名 エステルガムH)
ジブチルヒドロキシトルエン 0.5部
【0075】
( 製 法 )
実施例1と同様の製法により外用貼付剤とした。
【0076】
実 施 例 12
外用貼付剤の調製(12):
以下の処方及び製法により、外用貼付剤(本発明品12)を得た。
【0077】
( 処 方 )
フルルビプロフェン 0.5部
モノステアリン酸ポリエチレングリコール 2.0部
(商品名 MYS-40)
l-メントール 3.0部
天然ゴム 40.0部
ポリブテン(日本石油製) 9.5部
テルペンレジン 44.7部
(商品名 クリアロンP-105)
ジブチルヒドロキシトルエン 0.3部
【0078】
( 製 法 )
実施例7と同様の製法により外用貼付剤とした。
【0079】
実 施 例 13
外用貼付剤の調製(13):
以下の処方及び製法により、外用貼付剤(本発明品13)を得た。
【0080】
( 処 方 )
フルルビプロフェン 2.0部
ポリエチレングリコール300 4.0部
(商品名 マクロゴール300)
l-メントール 2.0部
酢酸トコフェロール 2.0部
スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体 25.0部
(商品名 クレイトンD-1107)
流動パラフィン 44.0部
テルペンレジン 20.0部
(商品名 クリアロンP-105)
ジブチルヒドロキシトルエン 1.0部」

3e)「【0128】
試 験 例 3
安定性試験:
本発明品8?12、14、19?21及び比較品7?12の外用貼付剤を60℃で1箇月保存し、1箇月後のl-メントールエステル体生成量を測定した。結果を表5に示す。
【0129】
( 結 果 )
【表5】

【0130】
表5の結果からわかるように、ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコールまたはポリオキシエチレンステアリルエーテル等式(I)の化合物を配合した本発明品の外用貼付剤は、これら化合物を配合していない比較品よりもl-メントールエステル体の生成が抑制されており、式(I)の化合物を膏体組成物中に含有させることにより、膏体中のl-メントールとカルボン酸型非ステロイド消炎鎮痛薬とのエステル化を有効に抑制できることが確認できた。」

甲4(訳文で示す。):
4a)「

」(FIGURE 1)

4b)「調製可能な製剤には、限定しないが、エマルジョン、マイクロエマルジョン、リポソーム、水性溶液、ミセル調製物、懸濁液、及び生体接着性懸濁液が含まれる。」(第4欄33?36行)

甲5:
5a)「[0034] 本発明の外用剤において、成分(A)として、化学構造中にカルボキシ基を有する非ステロイド性鎮痛・抗炎症剤(例えば、アセメタシン、アンフェナクナトリウム、イブプロフェン、インドメタシン、インドメタシンファルネシル、エトドラク、ケトプロフェン、ザルトプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、スリンダク、チアプロフェン酸、ピロキシカム、フェルビナク、プラノプロフェン、フルルビプロフェン、フルルビプロフェンアキセチル、メフェナム酸、ロキソプロフェンナトリウム等)を含有し、かつ成分(D)としてメントール及び/又はこれを含む精油を含有する場合、非ステロイド性鎮痛・抗炎症剤中のカルボキシ基とメントールとの反応により、メントールエステル体が生成し、外用剤中の非ステロイド性鎮痛・抗炎症剤の含有量が減少するという問題が知られている。」

甲6:
6a)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】・・・また、インドメタシンの溶解剤として常温で液体であるポリエチレングリコールのみを使用した貼付剤の場合、溶解剤にクロタミトンやN-メチル-2-ピロリドンを用いた製剤のように悪臭、褐変などの現象は生じないものの、インドメタシンは常温で液体のポリエチレングリコールに溶解されている系においては、ポリエチレングリコールとエステル化反応を起こし分解するので、インドメタシンの安定性に不都合を生ずるという問題があった。」

甲7:
7a)「【0005】
また、基剤成分としてグリセリンを高濃度に配合した従来のケトプロフェン含有水性貼付剤の場合には、基剤に対するケトプロフェンの溶解性が不十分であるため経皮吸収性が低く、その上、分子中にカルボン酸基を有するケトプロフェンと水酸基を有する多価アルコール(例えばグリセリン)、低級アルコール、メントール等の溶解剤との間で、水性貼付剤の基剤成分である有機酸、ポリアクリル酸等の弱酸が触媒となり、比較的低い温度でもエステル化反応が進行し、保存安定性が低いという問題があった。」

甲8:
8a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロキソプロフェン及び/又はそのアルカリ付加塩を含む粘着基剤100質量%に、リンゴ酸を0.5?1.5質量%含有することを特徴とする消炎鎮痛貼付剤」

8b)「【0054】
<試験例3(in vitro皮膚透過試験)>
ヘアレスマウス(雌、7週齢)の背部から皮膚を摘出し、皮下脂肪を取り除いた後,直径20mmの円形に打ち抜き、皮膚を採取した。直径13mmの円形に打ち抜いた実施例1?2、比較例2、7及びロキソニンRテープ50mg(商品名、第一三共株式会社)を皮膚の角質層側に貼付し、横型拡散セルに装着した。拡散セルの外部ジャケット内に37℃の温水を循環させ、セル内部を一定の温度条件に保ち、レセプター側の拡散セルには、pH7.4に調製したリン酸塩緩衝液を充満させ、攪拌子で攪拌しながら、経時的に0.1mlずつサンプリングした。サンプリング後のレセプター溶液には、同量のpH7.4のリン酸塩緩衝液を添加した。サンプリングにより採取した溶液を高速液体クロマトグラフィ(HPLC)にて分析し、薬物濃度を測定した。その結果を表3及び図1に示す。表3および図1に示すように、実施例1?2の製剤は、市販製剤と同程度の皮膚透過性を示し、比較例2、7の製剤よりも多量の薬物を皮膚透過した。従って、実施例1?2の製剤が優れた薬剤の経皮吸収性を示すことが確認された。
【0055】
試験例2(安定性試験)及び試験例3(in vitro皮膚透過試験)の結果から、本発明の消炎鎮痛貼付剤は粘着剤中での薬剤の安定性および粘着剤からの経皮吸収性に優れたものであることが分かった。
【0056】
【表3】



甲9:
9a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジクロフェナク、フェルビナク、ロキソプロフェン及びこれらの塩から選ばれる1種以上、(B)リンゴ酸及びその塩から選ばれる1種以上、及び(C)水を含有し、pHが6?8である外用組成物。」

9b)「【0019】
pH調整剤としては、クエン酸、乳酸等の有機酸、塩酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸、クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トロメタモール等が挙げられる。経時による(A)成分の含有量低下抑制の点から、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、特に塩酸等の無機酸の含有量はより少ないほうが好ましく、含有しないほうが望ましい。」

9c)「【0039】
[実施例1?18、比較例1?5]
表1?6に示す組成の液体組成物を、スリーワンモーターにて撹拌し、均一な溶液に調製した。得られた液体組成物について、下記方法で外観を評価し、得られた液体組成物50mLを内径35mmのプラスチック製で蓋を有するガラス製スクリュー管に充填し、60℃・2週間保存した。保存後について下記(2),(3)の評価を行った。
【0040】
(1)外観
内径35mmのプラスチック製で蓋を有するガラス製スクリュー管に充填された液体組成物を白色の背景を用い、目視判定した。結果を下記基準で示す。<基準>
◎:オリ濁りが全くなく澄明。
○:若干の濁りはあるが均一且つ3分間の遠心処理※で沈殿・浮遊物を認めない。
△:若干の濁りはあり均一且つ3分間の遠心処理※で沈殿・浮遊物を認める。
×:不均一又はオリ、濁りが認められる。
※2000rpm・3分間・常温
【0041】
(2)(A)成分の含有量低下抑制
60℃・2週間保存後の(A)成分含量を、高速液体クロマトグラフィーを使用し、内部標準法にて定量確認した。製造直後の(A)成分含量と比較し、下記式で含量低下率(%)を求め、結果を下記基準で示す。

含量低下率(%)=(製造直後の(A)成分含量-60℃・2週間保存後の(A)成分含量)/製造直後の(A)成分含量*100<基準>
◎:0.3%未満
○:0.3%以上0.5%未満
△:0.5%以上1.0%未満
×:1.0%以上
【0042】
(3)組成物の変色抑制
60℃・2週間保存後の、液体組成物の黄色度(b*値)を、分光色差計(日本電色工業(株)製、Spectro color meter SE2000型)で測定した。標準は精製水で0を合わせた。製造直後のb*値と比較し、下記基準で示す。<基準>
◎:製造直後のb*値と比較して、b*値の増加が0.5未満
○:製造直後のb*値と比較して、b*値の増加が0.5以上1未満
△:製造直後のb*値と比較して、b*値の増加が1以上2未満
×:製造直後のb*値と比較して、b*値の増加が2以上」

9d)「【0048】
【表6】



甲10:
10a)「特許請求の範囲
(1)脂肪酸及びその誘導体及び動植物性油脂からなる群から選ばれた少なくとも1種と、多価アルコールと、水とからなることを特徴とする外用貼付剤用水性基剤。」(1頁左下欄4?8行)

10b)「動植物性油脂は、アーモンド油、オリーブ油、ツバキ油、パーシック油、ハッカ油、ゴマ油、ダイズ油、ミンク油、綿実油、トウモロコシ油、サフラワー油、ヤシ油、ユーカリ油及びヒマシ油からなる群から選ばれた少なくとも1種からなるものが好ましい。オリーブ油、ハッカ油、ユーカリ油が最も好ましい。」(3頁左上欄3?9行)

出願11:
11a)「【請求項1】
水溶性高分子及び架橋剤を主成分とする水性粘着基剤中に、架橋調整剤として、常温で液体かつ、粘度が1000(mPa・s、20℃)以上である高級脂肪酸を含有することを特徴とする水性貼付剤。
・・・
【請求項4】
水溶性高分子として、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロースを含む1種または2種以上配合したものである請求項1?3記載のいずれかに記載の水性貼付剤。」

11b)「【発明が解決しようとする課題】
【0009】 したがって、本発明は、水性貼付剤の製造工程、特に展延工程、および熟成工程において、ゲル強度が適正な状態に保たれ、かつ最終製剤については、皮膚に粘着するのに最適な粘着性を示すことができる水性貼付剤を提供することを目的とする。」

11c)「 【0026】
本発明の水性貼付剤において配合される薬効成分としては、例えばロキソプロフェンナトリウム、・・・等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。薬効成分は必要に応じて単独でも、また2種以上を併用してもよい。」

11d)「 【0027】
その他、本発明の水性貼付剤においては、必要に応じてカオリン、・・・ハッカ油、・・・等を、適宜適量配合されることができる。」

11e)「実施例1:
ロキソプロフェンナトリウム水和物1.1gに精製水250gを加えて撹拌溶解し、主薬液とした。次に70%D-ソルビトール液25g、カオリン3g、酸化チタン0.5g、酒石酸0.5g、エデト酸ナトリウム水和物0.06g、20%ポリアクリル酸水溶液5.0g、33%ポリビニルアルコール水溶液2.5g、アクリル酸メチル・アクリル酸2-エチルヘキシル共重合樹脂エマルジョン1.0g、精製水として残部(適量)を順次添加し、混合した。
この液に、メチルパラベン0.1g及びプロピルパラベン0.05gを、プロピレングリコール1.0gとハッカ油0.5gの混合溶媒に溶解させた液を添加し、均一になるまで混合した。さらに、この液に、カルメロースナトリウム4.0g、ポリアクリル酸ナトリウム5.0g、ヒドロキシプロピルセルロース0.25g、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート0.09gを濃グリセリン20gに分散させた分散液を加え、均一に混合した。最後に、主薬液、およびイソステアリン酸3.0gを加え、混合して水性粘着基剤を得た。この水性粘着基剤をポリエステル不織布に展延し、粘着基剤表面をプラスチックフィルムで被覆することにより水性貼付剤を成形した。
【0035】
実施例2-4:
下記表1に示す配合処方(単位:重量%)により、実施例1と同様の方法で、各実施例の水性貼付剤を作製した。
なお、表1中には上記実施例1の処方も合わせて記載した。
【0036】
【表1】

【0037】
比較例1-3:
下記表2示す配合処方(単位:重量%)により、実施例1と同様の方法で、各比較例1-3の水性貼付剤を作製した。
【0038】
【表2】



第5 当審の判断
1 理由1について
(1)甲1に記載された発明
甲1には、消炎鎮痛外用製剤についての記載があるところ(摘示1a?1d)、ロキソプロフェンナトリウム含有ローション剤についての具体的な記載がある(摘示1d、実施例10)。
したがって、甲1には、
「ロキソプロフェンナトリウム・二水和物、水、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、クロタミトン、ハッカ油、界面活性剤Tween80及びSpan20を含有するローション剤」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ロキソプロフェンナトリウム・二水和物」は,本件発明1の「ロキソプロフェン又はその塩」に相当する。
ハッカ油がメントールを含有することは本願優先日における技術常識であり、甲1発明の「ハッカ油」に含まれるメントールは、本件発明1の「メントール」に相当する。
甲1の記載(摘示1c)からみて、甲1発明の「グリセリン」及び「プロピレングリコール」は脂肪族多価アルコール類であるといえるところ、本件発明1の「1,3-ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール及びポリビニルアルコール」は、本件明細書の記載からみて、多価アルコールであるといえるから、本件発明1と甲1発明とは「多価アルコール」を含有する点で共通する。
甲1発明のローション剤は、液状の医薬組成物であるといえるから、本件発明1の「半固形状又は液状の医薬組成物(但し、貼付剤を除く)」に相当する。
してみると、本件発明1と甲1発明とは、
「次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)ロキソプロフェン又はその塩
(B)メントール
(C)多価アルコールを含有する、半固形状又は液状の医薬組成物(但し、貼付剤を除く)。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
多価アルコールについて、本件発明1が、「1,3-ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール及びポリビニルアルコールよりなる群から選ばれる1種以上」と特定しているのに対し、甲1発明は、「グリセリン」及び「プロピレングリコール」である点

<相違点2>
成分(A)、(B)及び(C)以外の成分について、本件発明1は特定がないのに対し、甲1発明は、水、カルボキシメチルセルロースナトリウム、クロタミトン、ハッカ油(但しメントールを除く)、界面活性剤Tween80及びSpan20を含有する点

上記相違点について検討する。
<相違点2>について
本件発明1では、「(A)・・・(B)・・・(C)・・・を含有する・・・医薬組成物」と特定されており、他の成分を含有することを否定するものではない。また、本件明細書の記載及び本願優先日における技術常識を考慮しても、相違点2に係る甲1発明の各成分が本件発明1の医薬組成物に配合し得ないものであるということもできない。
したがって、この点は実質的な相違点ではない。

<相違点1>について
本件明細書の記載からみて、本件発明の課題は、ロキソプロフェン又はその塩とメントールとの間の相互作用(以下「相互作用」ということがある。)が抑制された医薬組成物を提供することにあると認められるところ、本件発明1では、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコールは、相互作用を抑制するために配合される成分であるといえ(【0005】?【0014】、【0046】)、当該多価アルコールの配合により本件発明の課題を解決したものであるといえる。
一方、甲1には、ロキソプロフェンはプロドラッグであり、強力な消炎鎮痛作用を発揮するのは代謝活性体であるトランス-OH体であること、トランス-OH体は極めて経皮吸収されにくいこと、溶解剤としてクロタミトンを採用すると、ロキソプロフェンが結晶として析出せず、安定性が高く、皮膚刺激性のないロキソプロフェンの外用製剤が得られること、ロキソプロフェンの外用製剤に溶解剤としてクロタミトンを配合することにより、ロキソプロフェンが結晶として析出せず、有効成分の分布性が優れた製剤が得られ、ロキソプロフェンの経皮吸収速度、経皮吸収量の大幅な増大およびロキソプロフェンの持続的な供給が可能となり、優れた局所的消炎鎮痛作用が得られ、かつその製剤には皮膚刺激性がないこと等が記載されている(摘示1b)。そして、クロタミトンと併用できる溶剤として、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、グリセリン、D-ソルビトール等の多価アルコールが、保湿剤として、グリセリン、プロピレングリコール、D-ソルビトール等の多価アルコールが、皮膚吸収助剤として、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール等の多価アルコール類が記載されている(摘示1c)。
前記した甲1の記載からみて、甲1に記載の製剤は、クロタミトンを配合することで、ロキソプロフェンを含有する外用製剤において、ロキソプロフェンの結晶化を抑制し、優れた局所的消炎鎮痛作用を有するものとしたものであって、甲1発明のグリセリン、プロピレングリコールは、当該製剤を構成する溶剤等の任意的成分として配合された成分であると認められる。
そして、甲1には、実施例として、グリセリン及びプロピレングリコールが配合されたローション剤である甲1発明が記載されているが、それらの成分の配合目的は明記されておらず、どのような目的で配合したかは不明である。
そうすると、甲1に、多価アルコールを溶剤、保湿剤、皮膚吸収剤として製剤中に併用できるとの記載があったとしても、甲1発明の多価アルコールに含まれる上記2成分を、甲1に例示されている多価アルコールの中から「1,3-ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール及びポリビニルアルコールよりなる群から選ばれる1種以上」の多価アルコールを選択し、これらの多価アルコールに変えることが当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
また、仮に、甲1発明においてグリセリン及びプロピレングリコールが溶剤、保湿剤又は皮膚吸収助剤として配合されていたとしても、甲1には、任意成分として多数の物質が記載されており、それらの任意成分の中から、グリセリン、プロピレングリコールに着目し、それらを他の成分に変更する動機付けは認められない。したがって、グリセリン及びプロピレングリコールを「1,3-ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール及びポリビニルアルコールよりなる群から選ばれる1種以上」に変えることは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
甲2には、1,3-ブチレングリコールを添加物として含有するロキソプロフェンナトリウム水和物のゲル製剤に関する記載があるが、当該甲2の記載は、単にそのようなゲル製剤が公知であるということを示すだけであって、当該記載から、甲1発明のグリセリン及びプロピレングリコールを「1,3-ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール及びポリビニルアルコールよりなる群から選ばれる1種以上」に変えることが動機付けられるものではない。
また、甲1発明のグリセリン及びプロピレングリコールを「1,3-ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール及びポリビニルアルコールよりなる群から選ばれる1種以上」に変えることが本願優先日における技術常識であるということもできない。

効果について
そして、本件発明1は、特定の成分(C)を含有することによって、相互作用を抑制できるという当業者が予測し得えない顕著な効果を奏するものである。

したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明及び本願優先日における技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を引用し、さらに技術的限定を加えた発明である。したがって、本件発明1が、甲1に記載された発明及び本願優先日における技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない以上、本件発明2?4は、甲1に記載された発明及び本願優先日における技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2 理由2について
(1)甲3に記載された発明
甲3には、外用貼付剤についての記載があるところ(摘示3a?3e)、その特許請求の範囲の記載からみて、
「支持体に膏体層を設けてなる外用貼付剤において、該膏体層を形成する膏体組成物が、下記式(I)で表される化合物、分子内にカルボン酸基を有する非ステロイド系消炎鎮痛薬、l-メントール及び非水性基剤を含有し、かつ式(I)で表される化合物を膏体組成物全体に対して2質量%以上含有することを特徴とする外用貼付剤。
【化1】

(式中、R及びR’は、水素原子、アルキル基またはアルキルカルボニル基を示し、nは1?600の数を示す)」の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「分子内にカルボン酸基を有する非ステロイド系消炎鎮痛薬」について、甲3に、ロキソプロフェンが例示されている(摘示3c)。また、本件明細書の「ロキソプロフェンは、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAID)の一種であり」(【0002】)との記載から、本件発明1の「ロキソプロフェン又はその塩」は、非ステロイド性消炎鎮痛剤であり、また、ロキソプロフェンは、その分子内にカルボキシ基を有する化合物である。
したがって、本件発明1と甲3発明とは「分子内にカルボン酸基を有する非ステロイド系消炎鎮痛薬」を含有する点で共通する。
甲3発明の「l-メントール」は、本件発明1の「メントール」に相当する。
甲3発明の「外用貼付剤」は、非ステロイド系消炎鎮痛薬を含有するものであるから、医薬であることは明らかであり、また、当該外用貼付剤は複数の成分から成るものであって、組成物であるといえるから、本件発明1の「医薬組成物」に相当する。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、
「 次の成分(A)及び(B):
(A)分子内にカルボン酸基を有する非ステロイド系消炎鎮痛薬
(B)メントール
を含有する、医薬組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3>
成分(A)である「分子内にカルボン酸基を有する非ステロイド系消炎鎮痛薬」について、本件発明1が、「ロキソプロフェン又はその塩」と特定しているのに対し、甲3発明は、そのように特定されていない点

<相違点4>
本件発明1が、成分(A)及び(B)に加え、「(C)1,3-ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール及びポリビニルアルコールよりなる群から選ばれる1種以上」を含有するのに対し、甲3発明は、下記式(I)で表される化合物を所定量及び非水性基剤を含有する点。
【化1】

(式中、R及びR’は、水素原子、アルキル基またはアルキルカルボニル基を示し、nは1?600の数を示す)

<相違点5>
医薬組成物について、本件発明1が、「半固形状又は液状」であるとし、さらに、「(但し、貼付剤を除く)」と特定しているのに対し、甲3発明は、「支持体に膏体層を設けてなる外用貼付剤」であって、「膏体層を形成する膏体組成物が、下記式(I)で表される化合物、分子内にカルボン酸基を有する非ステロイド系消炎鎮痛薬、l-メントール及び非水性基剤を含有」する点。

上記相違点について検討する。
<相違点4>について
はじめに、事案に鑑み、相違点4について検討する。
本件発明1では、「(A)・・・(B)・・・(C)・・・を含有する・・・医薬組成物」と特定されており、他の成分を含有することを否定するものではない。また、本件明細書の記載及び本願優先日における技術常識を考慮しても、本件発明1の医薬組成物に非水性基剤を配合し得ないものであるということもできない。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、相違点4のうち、非水性基剤の点では実質的に相違しない。
一方、甲3の記載からみて、甲3において解決しようとする課題は、「非水性基剤を用いた外用貼付剤において、薬物に起因する皮膚障害及びカルボン酸型非ステロイド消炎鎮痛薬とl-メントールとのエステル化を、外用貼付剤の粘着性や使用感等を良好に保ちつつ、しかも簡単な手段で有効に抑制する技術の提供」であり、その解決手段が、甲3発明の式(I)の化合物を配合したことにあると解される(摘示3a?3e)。
そして、当該式(I)の化合物は、本件発明1の成分(C)とは異なる化合物である。
したがって、甲3発明において、その課題解決のための必須の成分であるといえる式(I)の化合物を他の化合物と変える、または、甲3に記載も示唆もない上記成分(C)を新たに配合することは、甲3に記載の事項から当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
甲4には、インドメタシンとl-メントールが反応して、インドメタシンのメントールエステルを生成する反応式が(摘示4a)、甲5には、外用剤が含有するロキソプロフェンナトリウム等の化学構造中にカルボキシ基を有する非ステロイド性鎮痛・抗炎症剤のカルボキシ基とメントールとが反応してメントールエステルを生成する旨が(摘示5a)、甲6には、インドメタシンの溶解剤としてポリエチレングリコールのみを使用した貼付剤の場合、ポリエチレングリコールとエステル化反応を起こし分解するので、インドメタシンの安定性に不都合を生ずるという問題があった旨が(摘示6a)、甲7には、基剤成分としてグリセリンを高濃度に配合した従来のケトプロフェン含有水性貼付剤の場合には、分子中にカルボン酸基を有するケトプロフェンと水酸基を有する多価アルコール(例えばグリセリン)、低級アルコール、メントール等の溶解剤との間で、エステル化反応が進行し、保存安定性が低いという問題があった旨が(摘示7a)、それぞれ記載されており、これらの記載はいずれも、カルボキシ基を有する非ステロイド性鎮痛・抗炎症剤がメントール等とエステル化反応することを示しているものの、甲3発明における式(I)の化合物を、上記成分(C)に変えること、又は甲3発明に成分(C)を新たに配合することを記載ないし示唆するものとはいえない。
また、甲3発明において、成分(C)を採用することが本願優先日における技術常識であったともいえない。
したがって、相違点4に係る技術的事項を採用することが、甲3及び本願優先日における技術常識に基いて、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

<相違点3>について
甲3には、消炎鎮痛薬の具体的な例として、ロキソプロフェンが例示されていることから(摘示3c)、甲3発明の「分子内にカルボン酸基を有する非ステロイド系消炎鎮痛薬」として、ロキソプロフェンを選択することは当業者が容易になし得た事項である。

<相違点5>について
本件発明1は、「貼付剤を除く」ものであり、当該除かれている貼付剤には、外用貼付剤も含まれているといえる。
甲3には、専ら外用貼付剤についての記載がされている(摘示3a?3e)ところ、そのような記載に基づいて、外用貼付剤以外の剤形とすることは、当業者が容易になし得た事項であるということはできない。

効果について
そして、本件発明1は、成分(C)を含有することによって、相互作用を抑制できるという当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。

以上のとおり、相違点4及び5に係る技術的事項については、当業者が容易になし得た事項であるとはいえず、また、本件発明1は当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するから、本件発明1は、甲3及び本願優先日における技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ 本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1を引用し、さらに技術的限定を加えた発明である。したがって、本件発明1が、甲3に記載された発明及び本願優先日における技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない以上、本件発明2?5は、甲3に記載された発明及び本願優先日における技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

3 理由3について
理由3について、特許異議申立人が主張するのは、以下の2点であると認められる。
(1)本件発明について、本件明細書の発明の詳細な説明において相互作用の抑制効果が具体的に示されているのは、成分(C)としてポリビニルアルコールを使用したもののみであるから、本件発明の課題を解決するには、多大な試行錯誤が必要である。また、本件明細書の発明の詳細な説明には、成分(C)がいかなる作用によって相互作用を抑制するかについての記載がない。さらに、審査過程で提出された実験データは参酌できない。したがって、本件発明の範囲にまで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化することはできない。

(2)常温で固体であるポリビニルアルコールを常温で固体であるロキソプロフェンとメントールと混合して澄明な溶液とするためには、何らかの溶媒に溶解する必要があるが、本件発明では溶解する手段について規定されておらず、発明の課題を解決するための手段が請求項に反映されていない。また、ロキソプロフェンはpH調節剤の種類等により安定性が失われることは広く知られているところ、本件発明では、pH調節剤について何ら具体的に特定されていない。

上記(1)及び(2)の点について以下に検討する。

ア 本件明細書の記載事項
本件明細書の発明の詳細な説明には以下の事項が記載されている。
a)「【0001】
本発明は、ロキソニン(登録商標)の有効成分としても知られるロキソプロフェンを含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ロキソプロフェンは、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAID)の一種であり(非特許文献1)、変形性関節症、筋肉痛、外傷後の腫脹・疼痛等の疾患並びに症状の消炎・鎮痛を効能効果とするゲル剤、パップ剤やテープ剤等の外用剤の有効成分として用いられている(非特許文献2)。
一方、メントール、ハッカ油等のテルペン類は、冷却感を与える目的で外用消炎鎮痛剤等に配合されており、ロキソプロフェンと共に配合された外用剤も知られている(特許文献1?3)。
【先行技術文献】
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ロキソプロフェン又はその塩と、l-メントールなどを包含するテルペン類との間に、保存安定性に影響を与えるような相互作用が生じるか否かについては、知られていない。
そこで、本発明者らは、まず、ロキソプロフェン又はその塩と種々の成分の保存安定性について検討したところ、ロキソプロフェン又はその塩と、l-メントールなどを包含するテルペン類とを含有する組成物を調製すると、意外にも、これらの成分の間に相互作用が生じ、安定性に問題が生じ得ることを見出した。
【0006】
従って、本発明の課題は、ロキソプロフェン又はその塩と上記テルペン類との間の相互作用が抑制された医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、この問題を解決すべくさらに検討したところ、ロキソプロフェン又はその塩及びテルペン類に、さらに下記の(C-1)、(C-2)のうちいずれか:
【0008】
(C-1)クロルフェニラミン又はその塩などを包含する、下記一般式(1)
【0009】
【化1】
・・・
【0010】
[式(1)中、Xは単結合又は酸素原子を示し、Yはメチン基又は窒素原子を示し、R^(1)は水素原子、水酸基又はアルキル基を示し、R^(2)は置換基を有してもよい環状アミノ基、又は置換基を有してもよいアミノアルキル基を示し、R^(3)は水素原子又はハロゲン原子を示す。]
で表される化合物又はその塩
(C-2)多価アルコール
(なお、本明細書において、上記(C-1)及び(C-2)から選ばれる成分の1種以上を「相互作用抑制成分」と称することがある。)
を共存せしめることにより、相互作用を抑制することができることを見出し、本発明を完成した。」

b)「【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ロキソプロフェン又はその塩とテルペン類との相互作用を抑制できる。従って、保存安定性が優れた、ロキソプロフェン又はその塩、及びテルペン類を含有する医薬組成物を提供することができる。
また、複雑な工程を経ることなく、簡便かつ安価に、ロキソプロフェン又はその塩、及びテルペン類を含有する、相互作用が抑制された医薬組成物を提供することができる。」

c)「【0017】
<成分(B)>
本発明において、「テルペン類」は特に限定されるものでなく、環式又は鎖式の、モノテルペンやセスキテルペン等が挙げられる。
斯様なテルペン類としては、具体的には例えば、・・・メントール、・・・等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。なお、これらのテルペン類が光学異性を有する場合、本発明においてはいずれの光学異性体をも含み、単一の光学異性体でもよく、各種光学異性体の混合物でもよい。
これらの中でも、・・・メントール、・・・等が好ましく、・・・dl-メントールがより好ましく、l-メントール、dl-カンフルが特に好ましい。」

d)「【0046】
<成分(C-2)>
本発明において、「多価アルコール」とは、同一分子内に水酸基を2個以上有するアルコールを意味し、具体的には例えば、プロピレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、マクロゴール等が挙げられる。多価アルコールとしては、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール、ポリビニルアルコールが好ましい。」

e)「【0068】
・・・
【実施例】
【0069】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
[試験例1]ロキソプロフェンナトリウム水和物とl-メントールの相互作用の検討 その1
ブリトン-ロビンソン広域緩衝液(Buritton Robinson's Buffer)(pH7.0)と無水エタノールを等量混合して得た混液に、表1記載の各成分を同表記載の濃度(w/w%)となるよう溶解せしめた後、希塩酸又は10%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8.0に調整して、各サンプル溶液を調製した。得られた各サンプル溶液は、それぞれ10mlずつ、ガラス瓶(10K規格瓶)に充填した。
相互作用の有無は、得られた各サンプル溶液の調製直後(調製の1時間後)の外観を目視により評価することで判定した。なお、外観が澄明であったものを○、不溶物の生成が認められたものを×とした。
結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1記載の試験結果から明らかな通り、ロキソプロフェンナトリウム水和物、l-メントールそれぞれ単独で含有するサンプル溶液(参考例1及び2)は澄明な外観を呈したにも拘わらず、ロキソプロフェンナトリウム水和物とl-メントールを共に含有するサンプル溶液(比較例1)では不溶物の生成が認められ、両成分の間に相互作用が確認された。
一方、ロキソプロフェンナトリウム水和物、l-メントールに、さらにクロルフェニラミンマレイン酸塩を含有する実施例1のサンプル溶液においては、参考例1、2と同様、澄明な外観を呈することが明らかとなった。なお、実施例1のサンプル溶液を25℃で1週間保存した後も、澄明な外観を維持していた。
以上の試験結果から、クロルフェニラミン又はその塩を包含する上記一般式(1)で表される化合物又はその塩が、ロキソプロフェン又はその塩とテルペン類との相互作用を抑制する作用を有することが明らかとなった。
【0072】
[試験例2]ロキソプロフェンナトリウム水和物とl-メントールの相互作用の検討 その2
マレイン酸クロルフェニラミンをポリビニルアルコール(部分けん化物:商品名 ゴーセノールEG-05(日本合成化学工業製))に変更したほかは試験例1と同様の方法により、相互作用を検討した。結果を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
表2記載の試験結果から明らかな通り、ポリビニルアルコールを含有する実施例2のサンプル溶液も、上記実施例1のサンプル溶液と同様、澄明な外観を呈することが明らかとなった。なお、実施例2のサンプル溶液を25℃で1週間保存した後も、澄明な外観を維持していた。
以上の試験結果から、多価アルコールは、ロキソプロフェン又はその塩とテルペン類との相互作用を抑制する作用を有することが明らかとなった。」

イ 課題
本件明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、本件発明の課題は、「ロキソプロフェン又はその塩とメントールとの間の相互作用が抑制された医薬組成物を提供すること」であると認める(【0006】)。

ウ 判断
(ア)特許異議申立人が主張する(1)の点について
本件明細書の発明の詳細な説明には、一般的に、(C-2)多価アルコールにより相互作用を抑制することができることが記載されており(【0007】?【0010】)、(C-2)として、プロピレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、マクロゴール等が挙げられること、多価アルコールとしては、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール、ポリビニルアルコールが好ましいことが記載されている(【0046】)。また、具体的に、ポリビニルアルコール及びクロルフェニラミンマレイン酸を用いた場合の外観評価による相互作用の抑制作用についての評価がなされた試験結果が記載されており(【0069】?【0074】)、当該結果では、「ロキソプロフェンナトリウム水和物、l-メントールに、さらにクロルフェニラミンマレイン酸塩を含有する実施例1のサンプル溶液においては、参考例1、2と同様、澄明な外観を呈することが明らかとなった。なお、実施例1のサンプル溶液を25℃で1週間保存した後も、澄明な外観を維持していた。以上の試験結果から、クロルフェニラミン又はその塩を包含する上記一般式(1)で表される化合物又はその塩が、ロキソプロフェン又はその塩とテルペン類との相互作用を抑制する作用を有することが明らかとなった。」、「ポリビニルアルコールを含有する実施例2のサンプル溶液も、上記実施例1のサンプル溶液と同様、澄明な外観を呈することが明らかとなった。なお、実施例2のサンプル溶液を25℃で1週間保存した後も、澄明な外観を維持していた。以上の試験結果から、多価アルコールは、ロキソプロフェン又はその塩とテルペン類との相互作用を抑制する作用を有することが明らかとなった。」との記載がある。
これら本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、(C-2)多価アルコールにより相互作用を抑制することができること、多価アルコールの中でも、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール、ポリビニルアルコールが好ましいことを一応認識することができるといえる。そして、そのような認識の下で、ポリビニルアルコールが相互作用を抑制することができることを具体的に確認することができれば、ポリビニルアルコールは、例示された多価アルコールの中でも好ましいとされている物質の代表例であって、その他の好ましいとされている多価アルコールがポリビニルアルコールと同様に相互作用を抑制することができると当業者が認識することができると考えるのが合理的であり、自然である。
そして、化学物質がその種類によって性質が異なることを考慮すれば、そのように考えることはポリビニルアルコールと同様に好ましいとされるグリセリンが相互作用の抑制効果が十分でなかったこととは矛盾するものではなく、また、グリセリンは、本件発明の発明特定事項でもない。
さらに、本件発明において、サポート要件を満たすとするために、成分(C)がどのような作用機序によって相互作用の抑制効果を奏するかを示すことは必要な事項ではなく、審査過程で提出された実験データを参酌しなくても、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件発明で特定される成分(C)が相互作用の抑制効果を有すると当業者が認識することができることは上で述べたとおりである。
したがって、この点において、本件発明が発明の詳細な説明に記載したもではないとすることはできない。

(イ)特許異議申立人が主張する(2)の点について
上記イに示したとおり、本件発明の課題は、「ロキソプロフェン又はその塩とメントールとの間の相互作用が抑制された医薬組成物を提供すること」であるところ、特許異議申立人が主張する「澄明な溶液」とすることは、当該課題とは直接関連するものではなく、また、何らかの溶媒を使用するにしても、上記課題との関係においてその種類を特定しなければならない特段の理由もない。
また、pH調節剤についても、上記課題との直接的な関係があるものとは認められず、pH調節剤の種類を特定しなければならない特段の理由もない。
したがって、この点において、本件発明が発明の詳細な説明に記載したものではないとすることはできない。

4 理由4について
理由4について、特許異議申立人が主張するのは、以下の2点であると認められる。
(1)本件明細書の発明の詳細な説明において相互作用の抑制が確認されているのはポリビニルアルコールを使用した場合のみであり、相互作用の抑制がどのような機序によるものか何ら言及されていないから、ポリビニルアルコールとは分子量等が異なる、1,3-ブチレングリコール等を使用した場合にもポリビニルアルコールと同等の相互作用の抑制効果を得られるかは不明である。

(2)本件発明では、多価アルコール等を溶解する手段について規定されていないが、ソルビトールやマンニトールについてどのような手段を使用すれば固体であるロキソプロフェンとメントールとを混合して澄明な溶液を製造することができるのか、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から理解することはできない。

上記(1)及び(2)の点について検討する。

(1)特許異議申立人が主張する(1)の点について
上記3ウ(ア)で述べたとおり、本件発明で特定される成分(C-2)が相互作用の抑制効果を有すると当業者が認識することができるといえるから、この点において、発明の詳細な説明は、本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないということはできない。

(2)特許異議申立人が主張する(2)の点について
本件発明において、「澄明な溶液」であることは発明特定事項ではないから、この点において、発明の詳細な説明は、本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないということはできない。

5 理由5について
(1)出願11明細書等に記載された発明
出願11明細書等には、水性貼付剤についての記載があるところ、具体的な配合処方として、摘示11eに示した、実施例1?4、比較例1?3として記載された水性貼付剤についての記載がある。
したがって、出願11明細書等には、
「以下の表1及び表2に示される成分、支持体、目付量、イソステアリン酸の粘度を有する、実施例1?4、比較例1?3のうちのいずれかである水性貼付剤。
表1

表2

ただし、表1及び2中の成分についての数値は単位が重量%である。」の発明(以下「出願11発明」という。)が記載されていると認める。

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と出願11発明とを対比する。
出願11発明の水性貼付剤に含まれる「ロキソプロフェンナトリウム水和物」及び「33%ポリビニルアルコール水溶液」における「ポリビニルアルコール」はそれぞれ、本件発明1の「ロキソプロフェン又はその塩」及び「1,3-ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール及びポリビニルアルコールよりなる群から選ばれる1種以上」に相当する。
出願11発明の水性貼付剤に含まれる「ハッカ油」がメントールを含有することは本願優先日における技術常識であり、ハッカ油に含まれるメントールは、本件発明1の「メントール」に相当する。
出願11発明の「水性貼付剤」は、薬効成分であるロキソプロフェンナトリウム水和物を含有するから、医薬であるといえ、また、多成分から成るから、本件発明1の「医薬組成物」に相当する。
したがって、本件発明1と出願11発明とは、
「次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)ロキソプロフェン又はその塩
(B)メントール
(C)1,3-ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール及びポリビニルアルコールよりなる群から選ばれる1種以上を含有する、医薬組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点6>
医薬組成物について、本件発明1が、「半固形状又は液状の」と特定し、さらに、「(但し、貼付剤を除く)」と特定しているのに対し、出願11発明は、水性貼付剤であり、支持体、目付量が特定されている点

<相違点7>
成分(A)、(B)及び(C)以外の成分について、本件発明1は特定がないのに対し、出願11発明は、ハッカ油(但しメントールを除く)、プロピレングリコール等の表1及び表2に記載の成分が特定され、さらに、表1及び表2に記載のイソステアリン酸の粘度が特定されている点

上記相違点について検討する。
<相違点7>について
本件発明1では、「(A)・・・(B)・・・(C)・・・を含有する・・・医薬組成物」と特定されており、他の成分を含有することを否定するものではない。また、本件明細書の記載及び本願優先日における技術常識を考慮しても、相違点7に係る出願11発明の各成分が本件発明1の医薬組成物に配合し得ないものであるということはできず、出願11発明のイソステアリン酸の粘度が本件発明1の医薬組成物において成り立たないものであるということもできない。
したがって、この点は実質的な相違点ではない。

<相違点6>について
出願11発明における、支持体及び目付量は、出願11発明が水性貼付剤であることに関連する事項であると認められる。
一方、本件発明1は、「貼付剤を除く」ものであり、当該除かれている貼付剤には、水性貼付剤も含まれているといえる。
そして、出願11明細書等には、「本発明は、水性貼付剤の製造工程、特に展延工程、および熟成工程において、ゲル強度が適正な状態に保たれ、かつ最終製剤については、皮膚に粘着するのに最適な粘着性を示すことができる水性貼付剤を提供することを目的とする。」と記載されており、出願11明細書等に記載された発明は、特定の水性貼付剤を提供することを目的とするものであるといえるから、出願11発明の水性貼付剤を水性貼付剤ではないものとすることが、課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。
したがって、この点は実質的な相違点であり、本件発明1は、出願11明細書等に記載された発明と実質的に同一であるとはいえない。

イ 本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1を引用し、さらに技術的限定を加えた発明である。したがって、本件発明1が、出願11明細書等に記載された発明と実質的に同一であるとはいえない以上、本件発明2?5も、出願11明細書等に記載された発明と実質的に同一であるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?5に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によって取り消すことができない。
また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-08-19 
出願番号 特願2017-95262(P2017-95262)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 161- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 参鍋 祐子  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 冨永 保
関 美祝
登録日 2018-11-02 
登録番号 特許第6425767号(P6425767)
権利者 興和株式会社
発明の名称 ロキソプロフェンを含有する医薬組成物<弐>  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  

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